• 転臨

【転臨】軍星のボーダーブレイク

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/08/25 19:00
完成日
2017/09/12 01:34

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 王城円卓の間での首脳会議を経てイスルダ奪還戦が決議されると、王国騎士団長より本作戦が正式に発令。騎士団を旗印に国中の組織が戦に向けた動きを一斉に開始している。そんな中、騎士団本部の団長室には三人の騎士長が最後の調整に集っていた。
「エリオット、お前のすべきことは解っているな」
 騎士団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトは、くわえていたパイプを離し、いつもより長めに煙を吐き出した。
 彼の言わんとすることは当然解っているとばかりに、黒の騎士長──エリオット・ヴァレンタインは表情一つ変えずに答える。
「黒の隊を率い、明確な戦果をあげる──そうだろう?」
「この場、初動で我々騎士団とお前の新隊は“測られている”。よいか、何も成さず再びこの地を踏めると思うな」
 鋭い視線が青年を射抜くが、伊達に付き合いが長い訳じゃない。
「あぁ、感謝している」
「感謝だと? お前は、一体何を聞いていた」
 僅かに口角を上げる青年騎士に嘆息し、老爺は再びパイプをくわえて眉を潜めた。
 ──これは、ゲオルギウスという男の、いうなれば親心のようなものだろうか。
 過去千年の歴史の中で最も過酷な時代。それを担う国の剣として、民の期待を一身に背負い、軍を率いていく役目など、本来的には逃れたい仕事であり重苦しいものだ。
 しかし今それを担うゲオルギウスという男は、生来の性質か途方もなく頭の切れる男だが、だからこそ「騎士など務めずとも裕福に暮らしていく人生を送れた」はずだ。
 それでもなぜ、騎士を務めるのか。
 エリオットはこの労苦を理解している。だからこそ、彼を心底から敬い、信じ、同時にその"心"を好ましく思っている。
 ここまで何度迷惑をかけ、その都度に庇われながら、漸くここまで辿り着いた。だからこその、感謝。
「……? 言葉通り、理解しているつもりだが」
「もういい。……で、そこの赤猿」
「バルカザールだっつってんだろ、爺さん」
「お前は作戦通り、先陣切って暴れてこい。小難しいことは部下にでも放り投げておけ」
「んなモン、先刻承知だ」
「それと、お前に新隊を随行させる。と言っても連中の負うべき役目は異なるが」
「あ? そりゃ、構わねえけど」
 赤髪の騎士ダンテ・バルカザールは、エリオットにちらりと視線をやった後、僅かに表情を緩める。
「なんつーか、同じ戦線で並んで戦うなんてのは久々だな。お前が新米の頃以来か?」
「騎士になって間もなく俺は近衛隊に配属されたし、挙句戻った途端に団長だったからな」
「ハッ、輝かしいご経歴だぜ。……いいか、これは完全アウェーの戦いだ。鈍ってねぇだろうな」
 試すような口ぶりに不満げなエリオットを笑うダンテ。その顔は過酷な戦に挑むには能天気に過ぎるようで、その実普段通りの安心感を周囲に伝播する。
「誰に言っている? ……先陣は頼むぞ、切り込み隊長」


 所変わって、イルダーナに聳える大聖堂。厳かな空気に満ちた執務室に、ヴィオラ・フルブライト(kz0007)は居た。
 此度迎える大規模な戦争に際し、生じた膨大な承認業務の真っ最中。無数に揺れる蝋燭の火が照らす書類の山。その一つ一つにひたすら目を通しサインを繰り返している。
「……どうぞ」
 規則正しいノック音に気付き、乙女は視線を上げ、形の良い唇で応答を綴った。ここまで入ってこられる人間は限られている。大抵はアイリーンという補佐官であることが多く、もはや誰か確認する必然性を失念していた。それは、脳が疲弊していた影響もあるかもしれないが。
「失礼する。ヴィオラ、忙しいところ悪いが少し時間を貰えるか」
 室内に侵入してきた青年の姿を認めた瞬間──ヴィオラは、驚きと同時に、全身が強張ってゆくのを感じた。
「イスルダ奪還戦発令は知っての通りだが、折り入ってお前に助力を依頼したいことが……」
 青年──エリオット・ヴァレンタインは平然と彼女の前に進み出て、机の対面から地図を広げて見せる。余りにも自然に、余りにも"何時も通り"に。
「聞いているか? どうした、具合でも悪いのか」
「~~ッ!!」
 心配そうに青年が近づいた瞬間、女は男の頬を思い切り張った。乾いた音が室内に響いたきり互いに言葉もなく、視線をぶつけ合って数瞬──ヴィオラが、先に目をそらした。瞼を伏せ、唇を噛む表情は苦悩を色濃く滲ませている。
 対する青年は、ひどく罰の悪い顔をしていたのだが、こうなっては彼女に水を向けるほかない。
「……ヴィオラ。俺が、何かしたんだろう?」
「全くご理解して頂けていないようですね」
「無様な話だが、心当たりがありすぎる。だが……これを先に言うべきだったな。昨年の一件、戦士団にも迷惑をかけた。本当に、悪かった」
 キッと睨み付けるように青年を見上げるヴィオラの瞳には僅かな揺らぎが見える。
 孤高の戦乙女が、その孤独を手放したのは昨年の戦いの事だ。騎士団との共同作戦や、それに伴う交流を通して"戦友"と思える程には彼を理解し、信頼することができていた。なのに今春、男は突然いなくなった。どれほど心配をしただろう。どれほど思い悩んだだろう。
 "黒大公討伐戦で彼が帰還した"──その情報を耳にした時から、いつかこの瞬間が来ることを覚悟していた。にもかかわらず、当人を目の前にするとこれだ。
「私は……」
 噛み締めた女の唇は既に色を失っていた。
「……そんなに、信頼に足りませんか」


「事前説明通りだが、改めて作戦の最終確認を行う」
 王国西方沖。海上で激しいドンパチが展開されるなか、そこを迂回して海岸線にこぎつけようとする船が幾隻か。その一つに、エリオットたち黒の隊の騎士と、本戦の為に召集したハンター、そして聖堂戦士団員らが乗船していた。
「フライング・システィーナ号が海上で敵を引きつける間、残る部隊は海岸線に接近し、上陸を目指す。しかし、海岸線は見ての通り未だ汚染された領域だ」
 島全周を覆う黒いヴェール。それは、地平から立ち上るようにゆらりと存在を主張している。
「濃密な負のマテリアルは、人を“破壊する”。触れただけで存在そのものを虚無と化すことや、場合によっては……人に限らず、様々な生命を歪虚化させることも」
 空より急襲する角や翼の生えた人型歪虚を視線に捉え、けれど青年は淀みなく宣言した。
「だが、今が好機だ。イスルダを囲む負のマテリアルは黒大公討伐以前と比べて確実に濃度が薄まっている。此度の戦、初動でまず必要になるのがこの“歪虚領域の浄化”だ。この濃度ならば、強力な術師による短時間の儀式で“直ちに影響がない”程度の状態に戻せるだろう」
 エリオットは、強力な術師──ヴィオラ・フルブライトに視線をやるが、彼女は応じぬまま真摯に島を見つめてロッドを握り締めている。
「浄化儀式の間、術師たちを守りきり、この海岸線に風穴をあけること──これが、イスルダ奪還における最初の試練だ」

リプレイ本文

●起

 王国最高峰の聖導士であるヴィオラ・フルブライトは、目的のポイントに到達するや否や、ロッドを浜辺に突き立てた。杖の先端から青光りを伴う白光が放たれ、見る間に砂の上を這い、何らかの紋様を描いていく。
「この紋様、どこかで見覚えが……。まさか、エメラルドタブレットの?」
 話は約一年半程前に遡る。王国騎士団所属の黒の騎士クローディオ・シャール(ka0030)が、当時ハンターとして請け負ったある仕事。それは、国の命で王立図書館グリフヴァルトの禁書区域に突入し、そのいずこかにあるとされる法術陣の原初の碑文“エメラルドタブレット”を入手する事だった。無事目的を達成したクローディオらが碑文を持ち帰るや否や、都市伝説の類と思われていた太古の秘宝の入手に国中の学者が沸き立ったと後日聞いたのを覚えている。あの時手に入れた碑文に描かれていた紋様に、目の前の“それ”が近しいように思えたのだ。
 光の軌跡に目を奪われながらも、生真面目なクローディオは我に返って周囲を警戒する。だが、今のところ周囲に敵の反応はない。フライングシスティーナ号の面々や、先遣隊が派手に陽動をしてくれているからこそ、敵もまだ浄化部隊が密やかに上陸していることに気付いていないのだろうと目された。ならば、後学のためにこの儀式を心に刻んでおくのも悪いことではないはずだ。
「あぁ、皆も様々な場所で似た紋様を目にするようになっただろう。
 “法術刻印”──これは、エメラルドタブレットを通じて得た古代の術を、現代の識者が応用し実用化した技術だ。この浄化儀式もその収穫の一つと言える」
 クローディオの呟きに青年の上長であるエリオットが首肯する。他方のヴィオラはと言えば、瞳を閉じ、無心に聖句を唱えるばかりだ。しかし、その様子を見つめていたルカ(ka0962)は、粛々と進められる儀式の準備に多少の安堵を覚えたようだった。
 ──船でのヴィオラさんの様子。あれは……明らかにエリオットさんを避けていた。
 それが此度の戦に支障ならねばそれでいい。だが、このままでよいはずがないことは解っていた。ルカは密やかに戦乙女が避けていた対象を盗み見る。王国騎士団黒の隊──新設された国の新たな組織。それを率いる男は、クローディオとの会話を終え、周囲の騎士に指示を出していた。だが、どうやら少し気になる人物がいるようで、エリオットは時折そちらの様子を伺っている。
「本当に“黒いヴェール”だわ。……歴史なんて“勝者の側の創作物”だと思っていたけれど、この世界では存外嘘を言ってないのね」
 独り言ちるジェーン・ノーワース(ka2004)。彼は、少女を見ていた。
 ジェーンが思い返すのは、初夏の頃に王都の図書館で読んだ歴史書の一頁だ。近代史に刻まれたホロウレイドの戦いと、その深い爪痕から現在にかけてのイスルダの状況が紙に刻まれていた。だが、知識と実体験とでは“まるで違う”。文字面を追っただけで得た経験値など、実体験には遠く及ばない。それを、今そこにある脅威に思い知らされていた。
「うえぇ、これ明らかに近づくとおかしくなるやつだよね……!?」
 ジェーンの傍で愛らしい声が響いた。ステラ=ライムライト(ka5122)が傍で負の薄壁を見上げている。
「先遣隊って、この壁の中を敢えて突っ込んで行ったんでしょ? 俄かに信じられない……」
 眉を寄せて怪訝な顔をするステラは年相応に見えて、それをジェーンは心苦しく感じていた。
 同じ年頃なのに、と。口にせぬまま赤いフードの正面を無意識的に引っ張りおろすと、少女は「そうね」と言って背を向けた。

●承

「浄化陣の設置が完了しました。これより、最終確認を行います」
 凛とした声はヴィオラ・フルブライトのもの。彼女の足元を中心として海岸線に浮かび上がる正円の紋様。それが描く魔法陣の外周には七名の術師が一定の距離をあけて立っている。
「設置した浄化陣に正のマテリアルを蓄え、それを対価に浄化の魔術を発動させるんですね」
 ルカが納得したように首肯しつつ、ヴィオラはさらに続ける。
「私達八名の術師が、これから陣に力を込めます。発動しさえすれば、必ずや島を覆う負の力を溶かすことが出来るはず」
「つまり、術の発動がイスルダ攻略戦の起点であり“最大の要”ってことだよな?」
 それまで大人しく話を聞いていたように思われたルベーノ・バルバライン(ka6752)が、ぐっと伸びを始める。
「ってことは、だ。例え落ちても術者の所に行かせるな──そういうことだろう?」
「ええ。ですがここは敵地。敵の襲撃は生半可のものでは……」
「わかってる、わかってる。なるべく落ちんように気を付けるさ、ハッハッハ」
 豪胆に笑うルベーノだが、しかしヴィオラの表情は未だ険しい。
「のう、ヴィオラよ。美人さんが台無しじゃぞ」
 瞬時に、戦乙女の顔が厳しさを増した。相手は、長刀を肩にかけて呵々と笑うばかりだ。だが、老戦士──バリトン(ka5112)は一呼吸おいた後、からかいの色を消して切り込んだ。
「確かにここは敵の本拠地。地の利も敵にある。……が、当然それだけではないな」
「一体、何の……」
「お前さん、何をそんなに恐れておる?」
 虚を突かれたように、ヴィオラが次の句を迷った。気付いた爺は「やれやれ」と顎鬚に触れる。
「いや、止そう。幸い、ここには人間兵器の坊主も居る。……浄化は頼んだぞ」
 怪訝な顔のヴィオラをよそに、バリトンは自らの立つべき場所へと向かって行く。彼は、浮かない彼女の様子を気にしたのだろう。その心遣いを殺さぬようにと、シェラリンデ(ka3332)が努めて明るい声を上げた。
「さて、ここを持ち堪えないと何にも始まらないしね。ほら、皆で頑張ろう!」
 時間が惜しい状況であることも幸いし、シェラリンデの呼びかけに応じるように皆がは一斉に、そして事前に相談していた通りにペアを組んで適切な配置へ移動していく。その背を見送るシェラリンデが小さく息をつくと、頭上から穏やかながら低めの声が降ってきた。
「助かった。“あれ”は……恐らく、俺が悪いんだ」
 見上げた青い瞳は、恐らくなんて言葉のわりにはっきりした意思を持っていて、シェラリンデは思わず苦笑してしまう。
「こんな状態で始めちゃっていいの?」
「あぁ、互いに今すべきことは理解しているつもりだ」
「ふぅん……それって、“後で話せばいいや”ってこと? 敵地に来て、お互い生きて帰るつもりでいるんだ」
 鋭い指摘に苦笑するエリオットに、少女は「仕方がない」と嘆息した。
「ま、一応“前向きなこと”だと思っておこうかな」
「そうだな。……無論、お前も含めて"全員生きて帰す"つもりだということだ。覚悟しておいてくれ」
「はいな」
 そうして少女たちは、戦陣に加わるべく一歩を踏み出した。



 海岸線では薄黒い負のヴェールを前に、多少の距離を確保した地点にハンターと黒の騎士の一部が布陣。彼らの後背では、ヴィオラたち術師団が懸命に儀式を執り行っている。ここまでは、先遣隊がまず派手に目を引いてくれたおかげで大事なく至れていた。
「先遣隊は、ダンテ隊長率いる部隊か。赤の隊は遠征中心の実力派揃いと聞いたが、流石だな」
 遠く響く交戦音に耳を立てながらクローディオが彼方を見やる。
「黒の隊も……我々も、彼らの奮戦に見合う戦いを、そして実績を残さねば」
「そうだな。だが、気負わなくていい。やるべきことを堅実に、お前らしくやれればいい。お前はそういうのが得意そうに見えたが、違うか?」
 はっとクローディオが背筋を伸ばした。誰にともなく呟いた言葉だったが、まさかそれを拾った相手が自分の上長だと気付いた時には遅かった。
「いえ、私は……」
 ──直後、クローディオの言葉は喉奥に消える。青年だけでなく、周囲の仲間も一斉に身構えていた。
「聞こえるか? 複数の何かがこっちに向かってくる」
 ルベーノの警鐘に誰もが耳を澄ます。複数の力強い足音。馬の蹄による特有のものに近しい気がする。それがただの馬なら良いだろうが、歪虚に侵された絶海の孤島でただの馬が生き延びている訳がない。
「幾つかの方角からバラバラに来るようだ。地上の連中は纏まった集団じゃないな。問題なのは……」
 キャリコ・ビューイ(ka5044)が淡々視線を上げた。
「空からの敵群……王国騎士の装備を纏う歪虚、です」
 ルカの双眼鏡が大空に捉えた姿は、この場の多く者にとって見覚えがあった。
「判別できるものだけですが、武器は斧、弓、槍、杖……黒大公討伐戦の時に現れた部隊と同等でしょうか。恐らく、あの群一つで一個小隊相当でしょう。クラスはバランスよく配されている可能性が高いです」
 ルカの情報に耳を傾けながら、ステラが方角を確かめるように周囲を見渡す。その仕草に連なって、潮風のなか少女の美しい髪が光を纏ってなびいた。
「あの方角、先遣隊の皆が戦ってる地点と違う方角だね。ってことは、流石に私達のことがバレちゃったか」
「途方もない量の正のマテリアルが集約し始めたんだ。これほどの力、隠し遂せはしないだろう」
 キャリコがちらりとヴィオラたちに視線を流す。傍にいるからこそより強く正のマテリアルの奔流を感じる。
「上等だ。こっちはもとよりそのつもりで来てんだぜ?」
 口角を上げるルベーノの好戦的な表情につられ、バリトンは声を上げて笑う。
「そりゃそうじゃな。返したい借りがある者も居ろう」
 バリトンの言う通り、空の敵集団は先の黒大公討伐戦で横槍をいれてきた連中と同等だろう。その手強さは苦々しい経験として心身に刻まれている者も少なくない。
 それに加えて、もう一つ。先程より存在を認識していた地を駆ける存在──その正体が目視で認識できるようになった途端、ジェーンは憚らずに強い嫌悪を示した。
「……馬鹿にするんじゃないわよ」
 そこに在ったのは、王国騎士であるはずのものの下半身が、見覚えのある馬と溶けて一つになってしまったおぞましい化け物だった。
 神話に出てくるケンタウロスを連想出来たのなら、まだ“美化”できただろう。だが、“アレ”の“素”は、そんなものじゃない。
「納得できない。あんなモノが。“こんな”、世界が……」
 ただただ人を、動植物を、世界すべてを侵し、貶める悪辣な力。
 あんなモノが実在する事実自体、世界がそれを許したことの示唆かもしれない。
 “そんな世界の審判なんて、もう信用できるはずがない”。
 ──だから。世界ごと、切り刻んであげる。
 少女は拳を握りしめた。
 桜貝の色をした爪の先が自らの掌を食い破りそうになるほどに強く、抗うように。
 それ以外の答えを、知らないとでも言うかのように。


●転

 地上を駆けてくる歪虚の足は速かった。下半身が馬であるという時点で移動力が高いことは解っていたのだが、さらに“王国騎士たちが、乗っていた馬と一体化してしまった歪虚だ”と理解した瞬間、具体的な見当がついてしまった。
「……あの歪虚の“馬”、やっぱりゴースロンなんだろうね」
 王国で育ったシェラリンデにとって、あのしなやかな筋肉とそれを覆う毛並みには十分に見覚えがあった。訓練を経て恐怖に打ち勝ち、人と共に異形との戦に臨む、愛すべき相棒である馬だ。
「なら、話は早いわ。接近は一瞬ね。一撃程度なら行けるかしら」
 射程が二、三十メートル程度の射程では迎撃射撃も難しいだろう。だが、ジェーンとシェラリンデは特に射程の長い武器を持ち込んでいたため、接近までに一射ならば仕掛けることができそうだ。
「うん、やるしかない。何も出来ないよりはずっといいはずだよ……!」
 思考をクリアに、遠く点のように見える黒影に向けて、シェラリンデは矢を番えた。
 これが自らの“仕事”だから? それは勿論そうに違いない。だが……
「撃て──ッ!」
 ──“この国は、ボクの育った国だから”だ。
 必ず当てる。その為に、ジェーンと呼吸を合わせようとシェラリンデが声を張った。
 敵との距離は約八十メートル。クローディオ、バリトン、ステラは射程の都合この迎撃に加わることは出来なかったが、少女の合図に応じ、他に前衛を務めるエリオットともう一人の黒の騎士が共に矢を放った。この一斉射撃により、瞬く間に二体の騎馬歪虚が黒の粒子と化して消失。
「残り四体。バラバラに来るよ。みんな、気を付けて!」
 シェラリンデの声が消えるより早く、正面から二体、左方・右方より一体ずつ、合計四体の騎兵が瞬く間に飛び込んできた。
「丁度いい。もとより俺はこの拳しかねえ。来てくれて助かったぜ……ッ!」
 待ち望んでいたとばかりに、ルベーノが騎兵の正面で深く腰を落とす。
「おおおおおおおおおッ」
 青年の全身を覆ってゆくマテリアル。必殺の領域にまで高めた力を拳に込め、ルベーノは砂地を蹴り上がった。
「食らい、やがれえッ!!」
 飛びあがった青年はそのまま敵兵の頭部を捉えると、渾身の打撃を思うさま叩きこんだ。
『ッ──!!!』
 その一撃で、騎兵は一瞬にして意識を失い海岸線に倒れ伏す。しかし正面にはまだもう一騎。そちらに応じるのは、ステラだった。
「ようやく出番! 悪いけど、ここで止めるからね」
 こうして一体が眼前まで“来てくれた”のだから、初手は普通に切り伏せようと少女は慣れた仕草でオートMURAMASAを抜刀する。
「はぁ──ッ!」
 白い掌に握られた機械刀。その刃が高い振動音をまき散らして唸りをあげる。自分よりずっと大きな体躯をめがけ、全身のばねを使って横一文字に切り裂いた。閃く剣筋に合わせて血飛沫が舞い、少女の頬にぱたぱたと跳ねる。その生温かさを感じながら、ステラは眉を潜めた。
「……しぶとい」
 そこへ、ステラのすぐ脇を五芒星が飛び去り、馬身に突き立つと同時、目の前に桃色の髪の少女が飛び込んできた。
「ここから先、一歩たりとも通すつもりはないよ」
 シェラリンデだ。少女が星と共に舞いこみ、そして……
「落ちろ──ッ!」
 渾身の一閃。菖蒲の花のような美しい紫の刀身がまるで花弁を伴うように華麗に舞う。その刃が敵の体に埋まる端から騎兵の組織は黒い燐光となり、紫の輝きに溶け合うように消失していった。

 左方では、バリトンがクローディオと共に一騎を待ち構えていた。しかし、老戦士の表情は浮かない。
「歪虚騎士か。空の騎士も、眼前の騎兵も、元は王国の騎士たちだと思うとな」
「だが、歪虚と成り果てた今、彼らは紛れもない敵だ」
 応じるクローディオも、日頃に輪をかけて硬い面持ちだ。
 ひとの身体をいじり倒し、こんな姿で歪虚として利用し、彼らが守らんと最後まで戦ったものに刃を向けさせているこの惨状は。
「“尊厳の踏みにじり”などとは生ぬるい。これを醜悪と言わずして何と言おう」
 険しい顔のまま、バリトンはあの大戦の頃に自身が過ごしていた日々を思い返して首を振る。
「あの時わしが居たところで何が変わったということもなかろうが、それでも」
 がしゃりと、天墜を構えなおし、そしてその切っ先を騎兵へと突きつける。
「わしよりも早く逝かせてしまった贖罪じゃ。疾く眠らせてやろう」
 猛烈な勢いで駆けてくる騎兵の接近までの距離を目算。自らの射程まであと僅か──刀を振り抜くタイミング、その最適解を経験則から割り出すと、老戦士は雄叫びをあげる。海岸線を震わす叫びが、歪虚の芯に届いたかはわからない。けれど彼の一撃は、深く騎士の甲冑を抉り、その肉に突き立つ。
 そこへ追い打ちをかけるようにクローディオが接近。
「……せめて、安らかに」
 祈るような呟きは青年の呪文として昇華し、法術盾に集約するマテリアルと混ざり合う。ありったけの願いを込めて叩きつける長大な盾。そこから強烈な魔力が放たれると、騎兵の存在は強い光に導かれるように輪郭を蕩かして消え去った。

 一方その頃、海岸の東側でジェーンが溜息をついていた。
「なんで隣に来るわけ」
「お前が隅の方で戦うからだろう」
 浄化部隊は“並んで術師団の前に敵を通さない壁を作る”作戦のもと布陣していた。そのうえでジェーンは戦線の中心から外れた所に位置どる──ならば、その間を埋める人員が必要だったのだ。
 少女は内心で唇を尖らせていたのだが、ややあってこう呟いた。
「……逃げるな、って。そう言ったわね、私に」
 まるで独り言のように、されど当てつけがましい台詞。
 とはいえ青年に視線を送ることもなく、接近してきた騎兵に備えて兵装を持ちかえる少女の手には、巨大な鎌。
「見てなさいよ。“こんな世界”、切り刻んであげる」
 瞬後、騎兵の脇に滑り込んだ少女は、果物ナイフでも扱うかのように軽やかな仕草で敵の足を切断。有様は、前触れもなく訪れる"死"を体現するかのようで。
「そうか」
 答えを受け止めると同時、エリオットは極限まで引き絞っていた矢を放つ。
「……ならば、俺と来るか?」
 既にジェーンの一撃で体力を失っていた騎兵は、そのまま消失していった。



 他方、キャリコたち後衛も、迫りくる空中部隊に一斉射撃を放った所だった。だが、その感触に青年は眉を顰める。
 ここまでに落ちたのは一体。一体を落とした後、別の個体にも矢を浴びせた状況ではあるため、次の掃射では二体同時に落とせるかもしれない。が、それでもだ。
「……堅いな」
「もとより騎士の鎧を着てますし、近接武器を持ってる歪虚は前衛で体力も高いはずですよね」
 射程の都合、ルカはまだ射撃に加わることは出来なかったが、それでも残る黒の騎士たちと共に合計7名による集中砲火を叩きこむことに成功したにもかかわらず、だ。決して、騎士らの火力が足りないのではない。彼らは少なくともキャリコと同程度の火力を持っているうえで、この有様だった。
 真夏の日差しのなか、ルカの額にうっすらと汗が滲む。長期戦の予測は最初から立っていた。敵を後ろに通さない為の、後ろを狙わせないための準備もある程度持ち込んできた。だが、“嫌な予感ほど当たる”ものだ。
 直後、後衛の騎士から叫び声が上がった。
「後方、海側から騎士歪虚の小隊がもう一団──来ます!」
「やはり……敵が攻めてくるのは、陸上からのみではなかったようですね」
 この事態は、ルカが“完全に読みあてていた”。
 だからこそ、予め後衛の騎士に対しエリオットを通じて“海側からの奇襲”の可能性を示唆し、後方警戒を依頼していたことが功を奏した。
「後方からの奇襲は防げましたね。ですが……」
 此処へ来て、とうとうルカが苦笑した。更なる問題が降りかかっていたことに気付いてしまったのだ。

 対地の敵を一掃したステラが、残っている空中部隊に次元斬を飛ばす。前衛と思しき騎士はそれを受け切ったが、範囲内に捉えた後衛の術師歪虚が耐え切れずに撃墜。「よしっ」と小さく呟き、落下していく騎士歪虚の消失を確認しようとしたその時、ステラは視界の端に“不穏な影”を見つけてしまった。
「嘘でしょ……!?」
 悲鳴のような少女の声に反応し、ルベーノが視線を上げる。
「おいおい、後方だけじゃねえ! 別方向からまた新手の空中部隊が来てんぞ……ッ!」
 意識を飛ばした騎馬兵を着実に仕留めると、青年はがりがりと髪を掻きながら乱暴に言い捨てる。
「あれって先遣隊の居る方角からだよね? なんでこっち来てるの!?」
 ステラの疑問こそ、今回浄化部隊が更なる苦戦を強いられることになった最大の理由だ。
 それは"別地点で戦う先遣隊が危険度の高い空中部隊を無傷で丸ごと一個小隊分通してしまったこと"に端を発している。
 ルカの機転により部隊を術師団の前後へと半数に分けたことで、後方から現れた新たな空中部隊との挟撃に際し「一端受けきること」は出来たのだが、その後が問題だった。前方対応において圧倒的な戦力差が生じたことで負荷が増大し、歯車が狂ってしまったのだ。
「先遣隊にも事情があったのだろう。どの道、やるべき事は変わらん。……ここで抑えるだけだ」
 内心焦りがない訳でもないが、クローディオは叩き伏せた騎兵の消失を確認すると立ちあがって盾を構え直した。
 現状目視出来得る限りに騎兵の掃討は出来ている。それでも、このままでは三つの歪虚騎士小隊に囲まれ、三正面作戦を強いられることになる。
 けれど、悲観してばかりの状況でもない。
「後方の対処はお預けします!」
 ルカの指示にエリオットらが応じ、合計8名の黒の騎士が術師団の向こう側へ駆けて行く。任せておけば後方の守りは彼らの命にかけて万全にしてくれるだろう。課題は、一つ一つ潰していけばいい。
 残るハンターと黒の騎士連合チーム八名で、前方二面より襲来する敵空中部隊の対処が喫緊の課題だ。無論、戦闘の最中に騎兵の増援が来るとも限らないため、陸地の警戒も必須事項だろう。
 最初にやってきた部隊は残すところ六体。別方向からやってくる歪虚小隊は目視の限りにおいて十体。彼らが術師団を射程に捉えるまで、概ね30秒程度と言ったところだ。
「残り30秒でどれくらい倒せるかな」
「そうね、陸から邪魔が来なければ……」
 シェラリンデの問いに、口数の少ないジェーンが珍しく応じる。
「……全員、落としてみせるわ」
「もちろん! 次元斬の射程に入ればこっちのもんだからね。行っくよー!」
「限りはあるが、瞬間火力は出せるじゃろ」
 そして彼らは、これまで通り果敢に、冷静に、空に陣取る騎士歪虚に向け一斉攻撃を再開したのだった。



 彼らは健闘した。しかし、どうしても手数が足りなくなる瞬間が訪れてしまった。直後、再び六体のケンタウロスが、戦場に姿を現してしまったのだ。
 空を飛ぶ敵に対しルベーノは対抗手段を持たなかったのだが、彼以外の面々は在る程度射程のある攻撃手段を備えていたため積極的に攻勢を保つことが出来ていた。
 問題は、地を来る騎兵の対処の方だった。騎馬歪虚は移動力の高さから接敵前に攻撃できるのはジェーンとシェラリンデのみ。だからこそ、数体同時に現れてしまうと“数体の接敵を許してしまう”事態に陥ってしまう。
 まず、高加速射撃で殺傷力を増したジェーンの銃撃と、シェラリンデの精密な一射が、遠距離から騎兵を穿ち抜く。二人の攻撃が一体の馬を集中的に射抜き、これで一体が落ちた。
 開幕直後の時は、ここにエリオットともう一人の騎士の射撃が加わっていたからこそあと一体落とすことが出来たのだが、彼らは今後方の対応に向かっているため、残り五体が接敵。
 新たに襲来した空中部隊をルカの制圧射撃で、初期から居た歪虚騎士の残りをキャリコのフォールシュートでそれぞれ一時的に牽制。
 その間に、再びジェーンとシェラリンデが迫った直後の騎兵めがけて射撃を仕掛けてもう一体を確実に葬ると、その傍でルベーノの白虎神拳が炸裂。彼の技の冴えが騎兵の一体を昏倒させると、鼓舞されるようにバリトンの次元斬が閃く。強度の都合、範囲に一体しか捉えることが出来なかったが、老戦士の熟達した技は確実に騎兵を切り裂き、新たな一体を消滅に追い込む。かたやステラも強度に特化させた次元斬を炸裂させなんとか二体を巻き込むが、しかし一撃では討伐に至れない。けれどそのまま逃すこともなく、一体をクローディオの射撃が削りきって討伐。……しかし、結局一体が防衛ラインを突破してしまった。
 ステラの斬撃により恐らく体力はほとんど残っていないだろうが、抜かれた以上は“脅威”に変化してしまう。突破した騎兵は、最も手近な術師をめがけ、巨大な戦斧を振りかぶった。「この場で何が行われているのか」「自分達がすべきことが何か」を理解しているのだろう。
「ぐあッ……く、そ……ッ!」
 強烈な一撃を浴びても、術師は叫び声を上げて必死に持ちこたえた。きっと、すぐ仲間が助けてくれると信じていたからだ。
 だからこそ、ルベーノが身を翻してこちらに駆けだした時、術師は安堵したことだろう。
「させるかよッ!!」
 驚異的な身体能力で砂を蹴ると、飛沫を上げてルベーノがケンタウロスの背に飛び乗った。砂地で馬にとって非常に足場が悪かったこともあり、敵の機動力がそがれていたことも幸運だっただろう。
 ルベーノはその腕力で強引にしがみつき、そしてそのまま騎兵の首をへし折ろうと拘束する……が、しかし。
「────ッ!!」
 ドン、という低く唸るような爆音と共に海岸の砂が柱を上げた。
 ルベーノの真下で、騎兵が爆弾のように猛烈な火力を伴いながら、半径数メートルの全てを巻き込んで弾けたのだ。
 合成獣のような姿をした歪虚と言えば、憤怒。傲慢が強制などの力を有しているように、憤怒にも幾つかその手の力がある。特に下級の憤怒にありがちな能力の一つが“自爆”だ。これまでの歴史の中で、そう言った死に方を選んだ憤怒は決して少なくない。
「ルベーノッ!!」
 瞬時に、クローディオが身を翻し、青年を助け出そうと砂地を蹴る。黒い炎のなかで倒れる青年を抱え、離脱を図ろうとした時、クローディオは視界に“それ”を捉えてしまった。
「……まさか、術師の」
 そこには斧による切傷が目立つ焼死体が、横たわっていた。
 先程まで何が起こっていたのか。そして“どこで歪虚が弾けたか”は言うまでもない。
 クローディオは自身が死に近い経験をしたように、そして幾度もの戦線を越えてきたように、手の施しようがない状態の判別など一目でついてしまう。
 ルベーノ自体も随分手ひどい状態だったが、フルリカバリーを施し、なんとか一命を取り止めさせることができた。
「すまない。必ず、目的は達してみせる。だから……」
 悔やむように呟き、クローディオは再び戦線へと舞い戻っていった。

 術師一名の死亡。それを受け周囲に動揺が広がるが、しかしそこで手を止めることなど、決してできはしない。
「狼狽えないで! この島に来るということ自体、死の覚悟を伴っていたはず。私達は、必ずこの術を発動させる。それが、国が私達に課した命題です! よいですか、最後の一人が死ぬまでに術を完成させたなら“私たちの勝ち”なのですッ!」
 最も力の強い術師ヴィオラがマテリアルの出力を上げた。死んだ術師が負担するはずだったマテリアルを、二倍の出力を上げて彼女がカバーするというのだろう。恐ろしいまでの負担であることは想像に容易い。
 未だ瘴気が濃いこの場において、身を護るためにすらある程度の力が必要だ。しかし彼女は、その為の最低限の抵抗力以外を全て術に注ぎ込んでいる。
 歪虚の攻撃を食らえばひとたまりもない状態だ。それでも、その手段をとる必要があると判断を下すほかなかった。
 一秒でも十秒でも早くこの術を完成させなければ、それだけこの場の全てを危機に晒すことになるからだ。
「大丈夫です。“彼ら”が……必ず、何とかしてくれるはずですから」


●結

 こうして地上の歪虚騎兵の姿が消えた直後、手の空いた戦力を総動員して漸く歪虚騎士部隊の一隊を掃討することに成功した。
 此処から先は、ハンターらの優勢が続く。彼らは先のルベーノの行動によって、ある気付きを得ることができていたのだ。
 この海岸線襲撃は、空の部隊が囮で、地の部隊が本命の“自爆型ミサイル”なのだとしたら?
 あとの話は早い。連中に半端な体力を残してしまうと、その“残りコストで得られる最大の攻撃手段”として自爆を選択してくるようだ。行動不能手段も持ち込んでいたハンター達にとって、敵数の減少と合わせて取り得る手段が劇的に増大したのだから“攻略法は発見した”も同然だろう。術が発動するまでは、もはや時間の問題だった。
「マテリアル量、飽和! 浄化陣、発動──ッ!」
 凛とした女声が海岸線に響き渡る。それが示す事態に気付いたようで、歪虚たちが一斉に退避を開始した。
「大精霊エクラよ! 穢れを祓い、我らに勝利の栄光を!!」
 刹那、辺りを覆っていた黒いヴェールを突き破り、眩い光の柱が天へと向かって解き放たれた。
 その光を中心に、島を囲んでいた負のマテリアルは白光に呑みこまれるように薄らぎながら霧散してゆく。
「浄化成功じゃな。……全く、手を焼かされたわ」
 息を荒げながら、安堵の息を零すバリトン。浄化地点以外の場所からも歓声が湧きたっているようで、遠くから微かな雄叫びが聞こえ、満足げに口角を上げる。
 しかしクローディオは、先ほどより一層鋭い視線のまま敵の背中を睨みすえていた。
「お知り合いの方だったのですね。確か、先程“副長”と……」
 ルカの機転により奇襲にこそ失敗したが、後方から来た歪虚部隊を率いていたのは一際強力な歪虚だった。その存在にはキャリコも気付いており、相対するエリオットの話声から聞こえた単語を拾って、彼は敢えてそう問うたのだ。
「あぁ。あれは……国王直下、俺がいた近衛隊の副長だった」
「近衛騎士さんですか。どうやら魔法を使っていたようですけれど」
 ルカが傷口に触れぬよう、そっと尋ねると、同様の温度感で青年が応える。
「副長は、優秀な魔術師だった。後少し戦が長引けば、俺も深手を負っていたかもしれん」
「……そう、ですか」
 ──次に見える時が来たのなら、その首を討ち取ることが出来るのだろうか?
 遠き空を見上げ、クローディオはただただ行き場のない思いに胸を浸していた。

 ハンター一名の重体に加え、高位術師一名が死亡する事態を招いてしまった今回の戦。
 最上の結果と言えないまでも、彼らは見事に戦い抜き、目的を達し、イスルダ攻略を前進させたことは明白な事実だ。
 だが勿論、事態を喜んでばかりもいられない。イスルダ島奪還作戦はまだ始まったばかりだ。
 浄化部隊の作戦完遂により島周囲の障壁が解けた今、“王国の総攻撃”の狼煙が上がろうとしていた──。

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    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
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    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
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2017/08/25 00:14:37