大峡谷の騎士

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
5~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/09/21 09:00
完成日
2017/09/24 10:53

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●遥か昔の事
 最後に逃げる亜人の背中を剣で切り倒し、王国騎士であり、貴族でもある、レルヴォは刀身の血を払ってから、剣を鞘に収めた。
 今回も大きな戦果を得られた。亜人の脅威を完全に無くすのは難しいかもしれないが、一歩一歩確実に進むだけだ。
 そして、功績が認められれば、騎士団長にも、あるいは近衛騎士団長への道も開けているはずだ。そんな未来絵図を描いた直後の事だった。
「ぐぁぁ!」
 背中に立て続けの痛み。
 振り返ってみれば、背中から矢が見えた。亜人の生き残りが居たのかと思ったのも一瞬の事。
「違う……これは……」
 その矢の出来栄えは亜人如きが作れるものではない。
 美しい白羽が残酷に映った。
「だ、誰だ!」
 フラフラとなりつつ、剣を抜いた。
 力が入らないのは毒が塗ってあった可能性も高い。
 森の中から現れる数人の人影。それらにレルヴォは見覚えがあった。
 貴族の政敵だ。この国には、亜人や歪虚と同じぐらい、恐ろしい存在があるのだ。
「レルヴォは亜人との戦いで死んだ。それで良かろう」
「ふざけるな! 吾輩はこの国を、この世界を守る為に戦っているのに、お前達は!」
「それはご苦労な事。我らもその為に戦っている。レルヴォのやり方とは相容れない方法でな」
 レルヴォは国の総力をあげて亜人共の殲滅を主張していた。
 影響力のある地位へと上り詰めたら実行するつもりだった。
 そして……それが受け入れられない存在も居るという事であり、レルヴォのやり方に反対する者も居る。
 騎士団長などのポストになる前に……消すという選択を選んだのだ。
「守る為に、吾輩は全身全霊で挑んでいるのに、それを……それを! 許さん!」
「……やれっ!」
 駆け出すレルヴォよりも早く、無数の矢が飛んだ。
 それは容赦なく身体を貫いた。普段ならば捌けたかもしれないが、全身に回った毒が体の自由を奪っていた。
「お……の……れ……」
 よたよたと後退る。
 そのままレルヴォは大峡谷の底へ目掛けて落ちていったのだった――。

●フレッサ領手の館にて
 大峡谷から南下した亜人らの驚異から解放され、レタニケ領北部の再開発が開始された。
 どこに用意していたのか、潤沢な資金をバックに、人夫を多く雇い、また、道具を揃えての再開発で作業自体は急ピッチで進む。
 レタニケの街に行けば儲かる、仕事がある……となれば、人が集まるのも自然。
 人が集まれば、それを目当てに宿や食品、衣類――と金が回る。
「……素晴らしい! 素晴らしい!」
 そんな訳で、フレッサ領主は有頂天になっていた。
 見事な領地経営と評価されるかもしれない。
「この程度で浮かれるな」
 冷たく言い放ったのはネル・ベル(kz0082)だった。
 もっとも、その姿は領主の部屋には無かった。あるのは1本の魔導剣弓だ。
「は、はひぃー!」
 恐る恐る頭を下げる領主。
 ネル・ベルの傀儡となってから幾ばくか時が経ったが、領地経営という意味でいうと、この歪虚の傀儡になってからの方が上手く進んでいるのは事実だ。
「状況も落ち着いてきたようなので、私は大峡谷へ向かう」
「わ、分かりました」
「貴様は、私が帰ってくるまでに、開発を出来るだけ進めておくのだな」
 再び頭を深々と下げる領主に、それまでジッと経過を見ていた紡伎 希(kz0174)は軽く会釈すると、魔導剣弓に手を取る。
「それでは、出立致します」
 大事に魔導剣弓を背負うと、右腕に装着していた巨大なガントレットを掲げた。
 それこそ、どこから調達してきたのかという装備なのだが……大峡谷はやっぱり危険だという事で、オキナが用意したものだという。
 ガシャンと魔導機械が音を立てて作動する。機導術のうちの浄化術を行使しているのだ。
 ――もっとも、どの程度、意味があるのか分からないので、気休めなのかもしれないが。
「……失礼致します」
 フードを深く被り、希は部屋から出ていった。

●不吉を奏でる洞窟
 前回よりも更に奥に進む。
 そこには洞窟があるというのが、得られた情報だった。
 慎重に大峡谷の底へと降りた先に、真下に向かって伸びる縦穴のような洞窟を見つけた。
「まだ……下に降りるようですね」
 希がライトを片手に照らすが、底は見えない。
 冷たいヒンヤリとした空気を洞窟からは感じられた。
「中を確認するぞ。驚異となる存在であれば排除する」
 魔装状態のネル・ベルが言った。
 亜人を大峡谷から追い出す存在だ。少なくとも、まともな存在ではないだろう。
「竜が出てくる可能性はあるでしょうか?」
「だとしたら、その存在はもっと早く認識されているだろう」
「……そうでした」
 縦穴を降りると横穴が続いている。
 動植物の存在は確認できない。周囲は大自然に囲まれているというのにだ。
 太陽の光も届かず、ライトの灯りだけが洞窟を照らしていた。
「……誰か……居……ますね?」
 灯りの先、騎士甲冑のようなものが見えた。
「待て、私の従者よ。歪虚のようだ」
 ネル・ベルの忠告は覚醒者にとっては不要だったかもしれない。
 騎士甲冑のようなものから強い負のマテリアルが感じられたのだ。
 ガチャガチャと音を立てて騎士甲冑が不気味に動き出した。
「……世界、壊す。吾輩の虚無を、壊した、お前達の世界を、壊す」
 刀身が無い剣の柄を構える騎士甲冑。
 次の瞬間、負のマテリアルで形成された刀身が現れた。ドス黒い血のような色が輝いている。
「何か……戦闘モードのようですね」
「洞窟の中では不利だ。表まで出るのだ、私の従者よ」
 騎士甲冑が剣を上段に構えると、負のマテリアルを放つ。
 一気に洞窟内を駆け抜けた負のマテリアルに反応したのか、洞窟や地中に隠れていた雑魔が、ゆっくりと動き出そうとしていた。

リプレイ本文


 金属音が擦り合うような不快な響きと共に、ハンター達の視界に現れた騎士甲冑の歪虚。
 一目でその存在が、“異様”と感じられ、隊列の後ろの方にいた瀬崎・統夜(ka5046)は目を細める。
(希に、ようやく会えたってのに慌しいみたいだな)
 洞窟内の探索依頼を請け負ったら、希との再会……と思ったら、今度はこの状況だ。
 片手に拳銃を、もう片方の手に魔導スマホを構えながら一瞬、退路を確認した。
「どうやら騎士っぽいが、あちらさん、随分と不機嫌そうだが……何したんだ?」
「何も……していないはずなんですけど……」
 遠慮がちにそう答えたのはアニス・エリダヌス(ka2491)だった。
 紡伎 希(kz0174)を連れ去った傲慢の歪虚ネル・ベル(kz0082)の存在。思った以上に友好的に感じられたネル・ベルだが、油断は出来ない。
 しかし、不用意に刺激するのも良くないとも分かっている。ネル・ベルが何を目論んでいるのか……それを聞き出せればと思った矢先の出来事で、アニスが困惑するのも無理はない。
 ハンター達も、希もネル・ベルも、誰一人として、相手を刺激するような言動はしていなかったのだから。
「貴方は、何者ですか!?」
「吾輩……は、わが……はい……の世界を……許、さんっ!」
 騎士甲冑歪虚が剣を振るう。
 それだけで、洞窟の壁がパッカリと割れた。
 アルラウネ(ka4841)は全身に巻き付くような緊張を感じる。どう見ても、まともではないし、その力も計り知れない。
(どこぞの死にゲーじゃないんだから、こんな所に現れないでよ!)
 あまりのクソゲーぶりに思わずゲーム機器を投げた事を思い出しながら、アルラウネは心の中で叫んだ。
 一瞬で抜刀すると、刀を構える。退路を塞ぐように雑魔が現れたからだ。
 何かの骨格が寄り集まった姿だが……薄暗い事もあって、ドス黒く変色している骨が不気味に映える。
 星輝 Amhran(ka0724)がマテリアルを込めた視線を騎士甲冑歪虚に向けた。
 奏唱士としての能力であり、並大抵な存在なら効果を発揮できるのだが……効いている様子には見えない。
「只の虚が、こんな所に篭って、うわ言を吐くとは思えぬ……コヤツ、元が人か、その残留思念かなんぞか?」
 揺らめきながらジリジリと迫ってくる騎士甲冑歪虚。
 甲冑の作りからは王国の古い時期のものではないかと推測できた。
(……王国の匂いがするのぅ……ココは王国領内じゃったか?)
 色々と想像を掻き立てるが、どれも確定できる事ではなかった。
 何より、大峡谷の奥深くにある洞窟だ。この洞窟自体が、何の洞窟なのか……。
 なるべく情報を集めて、後で調べる必要があるかと思う。注意深く警戒する星輝とは対照的にアルマ・A・エインズワース(ka4901)が、場の雰囲気なぞ気にした様子なく、話し掛ける。
「わぅ? ちょっとお強そうなヒトです。初めましてですー! 僕、アルマっていいm……きゃいんっ!?」
 唐突に騎士甲冑歪虚から、負のマテリアルの刃が振るわれた。
 それは衝撃刃となってハンター達に襲いかかったのだ。
「び、びっくりしたです……ぼ、僕知ってます。こういうの『問答無用』っていうですー!?」
 幸いというべきか、庇った機導籠手で跳ね除けたので傷を受ける事は無かったものの、驚かない訳がない。
 Uisca Amhran(ka0754)が丁寧に失礼の無いように振舞おうとした。
「私の名はUisca Amhran……その剣さば……通じなそうですね」
 立て続けに刃を放ってきたのだ。
 もはや、会話による何かができるような状態ではない様子だ。
「イケメンさん、力を貸してもらえますか?」
 振り返って、魔装状態のネル・ベルにそう言った。
 騎士甲冑歪虚の実力が分からない以上、少しでも頼りに出来るのであれば……。
「仕方あるまい」
 ネル・ベルの声が響き、Uiscaは魔導剣弓のような武器を手に取る。
 強い負のマテリアルが感じられる。これは、長時間持っていたら危険だろう。だが、同時に圧倒的な力を感じる。
「名乗りは上げねえのかい? 騎士様よ」
 こちらからの言葉の意味は通じなくとも、単語だけでも覚えている可能性があると思った瀬崎の質問。
 騎士甲冑歪虚は、たどたどしく応えた。
「……吾輩の……名は、名は……レルヴォ」


 負のマテリアルで形成された刃が魔装の刃と激しく衝突し、火花を散らす。
 姉や仲間達の戦い方を参考にUiscaは魔装を手に、剣を打ち合っていた。
「……圧されているようだな」
 ネル・ベルがそんな声をあげた。
 剣の力量では圧倒的にUiscaが負けているのだ。レルヴォと名乗った騎士甲冑歪虚の剣の動きは達人を彷彿とさせていた。
 対して、Uiscaの魔法力による攻撃は強力なはずなのに……有効打にはなっていない様子である。
「イケメンさん、この騎士さんはどの眷属かわかります?」
 直接、剣を交えれば相手の正体が把握できるのではないかと思ったからだ。
「少なくとも傲慢ではないだろうな。私のように理知的ではない」
「……そうですね」
 雰囲気的には憤怒か、あるいは暴食か……いや、もっと違うかもしれない。
「足止めも効かないみたいですし……アルマさんにお任せします」
 光の杭を打ち込んでレルヴォの足を止めようとしたのが、通じる気配が感じられない。
 Uiscaは無理せずに、アルマに殿を託す。自身が回復支援に回った方が適切と感じたからだ。
 ついでに、魔装しているネル・ベルも渡す。
「わふ! ネルさん、イケメンなんですか!?」
 アルマはネル・ベルが魔装状態しか知らないので、Uiscaの言葉にそんな反応をみせた。
「当然だ」
「今度、見てみ……ひゃう!」
 言葉を遮ったのは、レルヴォの強烈な一撃があったからだ。
 辛うじて剣で受け止める。魔装でなければ、ダメージを受けていただろう。
「わふ、わふーっ。お話するですっ。おにーさんのお話、もっと聞くですー!」
「話が出来る様子では無さそうだな」
「お顔見えないですけど、きっと、おにーさんですっ!」
 自信満々に言い張るアルマ。
「……お前も、あまり、話を聞かないか」
 ボソっと呟くネル・ベル。
 そんな歪虚とアルマのやり取りを、全く気にする事なく、レルヴォの攻撃が続く。
 腕先が真っ直ぐに、ハンター達へと向けられた。
 放たれたのは電撃だ。それは、洞窟内で列をなしていたハンター達全員を巻き込んだ。
「く……厄介じゃな……」
「私も背中に撃たれた……」
 星輝とアルラウネの二人が恨めしそうに言った。
 何人かは先ほどの電撃で身体が思うように動かないのだ。
 支障はあるものの、退路を塞いでいるのが雑魔程度なのが幸いな事だ。
「恐るべき力……ですね」
 アニスが広範囲の回復魔法を行使しながら呟く。
 見た目は極太のライトニングボルトだが、電撃による痺れはエレクトリックショックにも似ている。
「ですが、それなら……彼の者に、正しき安息を――」
 静かに彼女は歌いだした。
 生ならざるものに影響を与える鎮魂歌だ。途端に雑魔の動きが鈍くなる。
 その隙を突いてアルラウネは空間そのものを斬りつける技を放つ。
「あの歪虚の探りは味方に任せて、ノゾミちゃんの安全の為に、私は掃除に専念するわ」
 簡単に避けられない状況でなければ、圧倒的な火力を発揮できる。
 雑魔が雨後の筍にように出現するが、それらを文字通り、刈り取りながら進む。
 洞窟内では音が反響しやすいが、特に響いていたのは瀬崎が放つ銃撃だった。
「どうやら、射撃は通るようだな」
 例えば、Uiscaによる魔法力での打撃、又は、アルマの魔法攻撃そのものは当たってもダメージが、ちゃんと通っていないように見える。
 勿論、全く効いていないという訳ではないだろう。しかし、瀬崎が放った射撃攻撃に関しては通じている。威力そのものは二人の魔法攻撃よりも低いにも関わらず同等以上に。
「それに、土属性が効く、か」
 いくつか属性を持つ拳銃を持ち込んだ意味があったというものだ。
 瀬崎は持ち替えて、有効な属性があるか確認していたのだ。
 土属性の射撃が通じやすい……これが分かったのは極めて大きい情報だ。
 チラリと希の様子を確認する――緑髪の少女は険しい表情を騎士甲冑歪虚を見つめていた。
 レルヴォと名乗った騎士甲冑歪虚の攻勢は緩まる事がない。アルマが高防御力を活かして今は事なきを得てはいるが……。
「こっちですよ! って、ひょん! 痛いですー!」
 殿の役目はしっかりと果たしているようだが、敵の攻撃が熾烈過ぎて、まともに回避が取れない。
 アルマですらも時々、負のマテリアルによる電撃を受けて行動も鈍るので、尚更だ。辛うじて受けられればいい方だ。
「ほれ、今のお主の姿じゃ」
 星輝が雑魔との戦闘の合間をみて、後ろから鏡を掲げてみた――が反応は無い。
「全くもって意思疎通ができん奴じゃの」
「『お前達の世界を、壊す』って、さっきから、繰り返しているみたいですね」
 鏡が通じながったので、仕方なく雑魔との戦闘に戻った星輝の言葉にアニスが言った。
 騎士甲冑歪虚の言動は支離滅裂だが、ようやく、耳が慣れて来た。
「出口が見えて来ました!」
 Uiscaの言葉通り、洞窟の先が明るくなっている。
 段差をいくつか越えれば、後は縦穴を登るだけだ。

「……ネルさんっ! ドッカンします、お力貸してくださいですよ!」
 なんとか縦穴まで到達したが、騎士甲冑歪虚の追撃は止まる事ない。
 洞窟ごと崩落させれば、少しは時間が稼げるか……?
「確かに、アルマの攻撃であれば可能だろう。だが、忠告する。今はやめておけ」
「え? なんでですかー?」
「無駄に振り回すな。端的に言うと、アルマのマテリアルが低下している状態で、強大なる私の力を使うと、アルマの身体が保たん。それだけだ」
 その言葉で、アルマはピタっと魔装を振り回すのを止めた。
 確かに、アルマは殿として騎士甲冑歪虚の猛攻に耐えてきた。回復支援があるとはいえ、思った以上に消耗しているのかもしれない。
「あれ……膝に、力が……」
 膝を床につけるアルマ。どうやら、負のマテリアルの塊ともいえる魔装を持って戦闘を続けた影響かもしれない。
 ただ、魔装を手にしていたおかげで猛攻にも耐えられた所があったので、悪いばっかりではないのだが。
 アルマから魔装を受け取るアルラウネが希へと声を掛けた。
「ノゾミちゃんは、コレを使っても、代償が私達より軽く見えるんだけど、どうして?」
「……私にも分かりませんが……ネル・ベル様のお力をなるべく借りないようにしています」
「コレ呼ばわりとは失礼な奴め」
 魔装からネル・ベルのそんな声が響いた。
「はいはい。とりあえず、差し迫っている危機なんだから」
 よろしくねと軽く刀身に口付けして魔装を構える。
 一瞬、希が「あっ!……」と声を挙げたが、確認している暇は無さそうだ。
「壊されたとか、壊すって、そんなの八つ当たりじゃない! 反省してなさい」
 マテリアルを魔装に流し込んだ次の瞬間、空間を切り裂く刃が騎士甲冑歪虚へと襲いかかった。
 相当な威力があったはずなのだが……堪えている様子には見えない。
 だが――
「洞窟が崩落するぞ」
 瀬崎の警告通り、横穴が崩落しそうだった。
 慌ててロープを上がる者、踵からマテリアルを発して飛び上がる者、壁を駆ける者、様々だが、なんとかハンター達は崖上へと登る。
 全員が上がった事を確認すると、ロープを回収。縦穴から距離を取る。
「今度は地響き!?」
 アルラウネの驚く声。
 大地が揺れている。それも、半端なものではない。
「まさか……強引で外へ出るつもりかのう」
「距離を取った方がいいな。今すぐは出てこないだろうがな」
 一行は頷くと、振り返りつつも一帯から離れるのであった。


 最寄りの街まで荒野を歩く一行。
「……結局、あの歪虚は何者だったのでしょうか」
 アニスが不安そうに来た道を振り返る。
「鎧から分析するに昔の王国の騎士かもしれんの」
「紋章は見えなかった。身分を証明するような物も無かったが……レルヴォと言ったか」
 答えたのは星輝と瀬崎だった。
 続くようにアルラウネが空を見上げながら呟く。
「世界を壊すって言ってたけど……世界を滅ぼすことを至上としているのは……確か、強欲――ドラッケン――だったかしら」
 うろ覚えなので確証はない。
 かつての王国騎士の成れの果てっぽい雰囲気はある。王都まで戻れば何か手掛かりが得られる可能性はあるが……。
「今、壊されると迷惑な事は確かだ」
 希が背負っている魔装状態のネル・ベルが言葉を発した。
 大峡谷にあんな危険な存在が居たら、レタニケ領北部の森林開発どころではない。
「……むずかしい事はよくわからないですけど。僕がたくさん殺せば、お友達はたくさん殺さなくていいですー」
 ポンと手を叩く笑顔のアルマ。
「その通りだ。準備を整え、排除するしかあるまい」
 憮然とした声のネル・ベル。
 歪虚同士、仲が悪い訳……ではない。もっとも、仲が言い訳でもない。
 少なくとも、ネル・ベルは己の野望の邪魔になる存在は、人間も歪虚も変わらないようだ。
「イケメンさん、魔装姿に何の意味があるんです?」
 魔装をみつめながらUiscaは言う。
 誇り高い傲慢の歪虚が何故、人に使われるのだと。
「正体を現すと貴様らが、やりにくかろう」
「僕、見たいです!」
「えぇい、アルマ! 引っ張るな!」
 不満そうに、がるるるーと唸り声を挙げるアルマを、負のマテリアルを発して拒絶するネル・ベル。
「あの……ネル・ベル様、背負っている所では……」
 足を止めて、希は魔導ガントレットを掲げた。
 次の瞬間、機導術による浄化を展開する。
「瀬崎様?」
 希は首を傾げた。瀬崎が何か言いたそうな表情を向けていたからだ。
「いや、なに……元気そうだなと思っただけだ。考えてみれば久しぶりだしな」
「そう……ですね……あの戦いから……」
 暗い表情になった希に瀬崎がポンと肩を叩く。
「表情が硬いな。もっと笑った方がいいだろう」
「でも……」
「笑ってた方が綺麗だぜ……それに大事な人の記憶ってのは笑っているだろう」
 絶望に抗うつもりなら、必要な事だ。
 あの騎士甲冑歪虚の表情は見えなかったが、少なくとも笑顔では無いだろう。大きな苦しみか何かを抱えたあの歪虚も、もしかしたら、深い絶望の先にたどり着いた存在かもしれない。
「……あまり、笑うのは得意じゃないのですが」
 希は言い訳するように言ってから微笑を浮かべる。
「そうじゃそうじゃ。ノゾミは笑っているのが可愛いのじゃ」
 ウンウンと何度も頷く星輝だった。


 ハンター達は洞窟の奥で遭遇した騎士甲冑歪虚の追撃を振り切り、無事に洞窟を脱出した。
 また、いくつかの情報も得られたのも大きい成果となった。


 ――次回へ続く。

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MVP一覧

  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜ka5046

重体一覧

参加者一覧

  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/18 13:38:37
アイコン 【相談卓】
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/09/20 11:36:50
アイコン 【質問卓】
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/09/20 21:48:39