ゲスト
(ka0000)
大峡谷の空に舞う
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/07 09:00
- 完成日
- 2017/10/09 05:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
白髪白髭の老人が一人、大峡谷に立っていた。
ただの老人ではない。若い頃は、依頼の達成の為なら、手段を選ばず、敵味方に容赦ないスタイルから、“戦慄の機導師”と呼ばれていた程だ。
老人を知っている人からは、オキナと呼ばれているし、呼ばしている。
「とんだ役目じゃわい」
諦めにも似た言葉を呟きながら、オキナは大峡谷の底を見下ろす。
そこは、先日、ネル・ベル(kz0082)と紡伎 希(kz0174)がハンター達と一緒に探索したという洞窟がある。
それを見張っているのが、オキナの今の役割なのだ。
突如、大地が揺れる。
慌てる様子なく、オキナは命綱に捕まりながら、大峡谷の底を注視した。
「あれは……なんじゃ!?」
崩れた洞窟から姿を表したのは、話に聞いていた騎士甲冑姿の歪虚ではなかった。
灰色に近い青色の鱗に包まれた巨大な鳥だった。
全身から猛烈な負のマテリアルを放ち、その力は雷となって、大峡谷を貫く。
「……それが、“本性”かの……」
希から洞窟での顛末を聞いている。
レルヴォと名乗った騎士の成れの果てではないかという話だ。
稲妻を伴って羽ばたく鳥は、伝説の雷鳥を思わせるとオキナは感じる。
何かの理由があって、堕落者となったのだろう。その理由は如何なるものなのか。
「人は絶望するのじゃ……どんな、『希望』も『祈り』も『絆』も……時の流れというものは、何よりも残酷な呪いじゃ……」
若かったあの頃、共に戦った戦友も、愛した伴侶も、繋いだ子供も、オキナには、もう無い。
良い奴は皆、死んだ。残っているのは、死に損なった枯れ木のような自分だけだ。
「……レルヴォよ。貴様の“絶望”は、何だったのじゃ?」
無差別に稲妻を放つ雷鳥にオキナは呼び掛ける。
返事――は無い。もはや、人であった事すらも意識の外に行っているだろう。
オキナは暫く雷鳥の動きをみつめてから、音を立てずに、静かに、その場を離れた……。
●
「ただいま戻りました」
丁寧な物腰で部屋に入って来たのは希だった。情報を求め、大きな都市へと足を運んでいたのだ。
部屋の中には誰も居ない。あるのは、魔導剣弓の形によく似た武器だけだ。
「うむ。時期にオキナも帰還する。由々しき事態になったようだ」
言葉を発したのは、ネル・ベルだ。今は魔装状態となって、部屋に安置されているのだ。
希は機導術で場の浄化を行いながら、“成果”を話した。
「……特に情報は得られませんでした。少なくとも百年以上昔、王国北部で活躍した騎士という事ぐらいです。亜人との戦いで戦死したと」
「そんな所だろうな。」
「分からないのが、なぜ、あれだけの強さを持つという事なのかです」
洞窟内という不利な状況ではあったが、歪虚の強さは驚異的だった。
強い歪虚が、これまで表舞台に出てこなかったのも気になる。
「あくまでも推測だが……」
ネル・ベルがそう前置きしてから持論を展開した。
負のマテリアルが溜まりやすい澱んだ場所にずっと居る事で、ごくごく僅かに成長していくケースもあるという。
ただし、それは、数百年、数千年ともいえるケースであり、今回、もし、その通りなら、かなりのレアなパターンだと。
「……洞窟に留まっていたのは、個体性によるかもしれん」
「そういえば、自分の虚無を壊したお前達を許さないみたいな事を言ってましたね」
「元王国騎士という事は、堕落者の可能性は充分に有り得るな」
その言葉に希は真剣な表情を魔装へと向ける。
「私は……何度でも希望を抱きます。例え、何度でも絶望が訪れようとも」
「それは、死の最後まで分からん事だと、前に言ったはずだ」
希に自身の言葉を証明するものは無いが、自身が絶望して終えるなど、先に逝った大切な人達に合わす顔がないので、絶対に絶望で終わらないと心に決めている。
「ならば、人は、絶望しないのかどうか、確認に行くとするか」
「?」
「レルヴォという歪虚を討伐に行く。会話は成立せんだろうが、何か手掛かりが得られる可能性はあるからな」
ネル・ベルの台詞に、希はグッと拳を握った。
戦いになる……それも、相手は強敵。
「……分かりました。それに、放置しておくと、必ず、災厄を招くと思いますし」
もし、レルヴォが世界の破壊を狙っているのであれば、人々の危機だ。
王国軍の主力はイスルダ島へと出撃している。奇襲を受ければ大きな都市だとしても、ただでは済まないだろう。
●
大峡谷より南、レタニケ領に至る荒野に、その雷鳥は降り立った。
天に向かって何か叫ぶ。それだけで、大気が震え、僅かに生えていた樹木の幹が切れ倒れる。
この世の全てに対する強い想いが稲妻となって周囲へと広がった。
「想定以上だな……」
辺りを圧迫する負のマテリアルに、魔装状態のネル・ベルが呟いた。
ネル・ベル自身、かなりの強さに至っているという自負はあった。ハンター達との戦いを繰り返し、そして、マテリアルを得て、生まれた時とは比べ物にならないほどに。かつての主であったフラベルさえも越えた強さにあるはずだと。
しかし、眼前の歪虚は、ネル・ベルの強さを凌駕しているだろう。
(『強さ』という点で言えば、確かに私は貴様に劣るだろう。しかし、『強さ』とは、そもそも、目的を得る為の材料の一つに過ぎんはずだ)
傲慢の歪虚らしからぬ考えが出来るのが、恐らく、ネル・ベルの本当の強みなのかもしれない。
自身よりも『強い』者は、幾らでも存在する。
少し前に廃館でハンターと戦った際にも実感できた。もはや、自身の純粋な力での成長はこれ以上、望めないだろうと。
(だからといって、強者が決まる訳ではない。目的を達した者が強者なのだ)
意識を雷鳥へと向ける。
ここで負ける訳にはいかない。自身の陰謀の為にも、従者の最後の結末の為にも。
「……前回、得られた情報を最大限に活かせ。そして、不明な力を推測しろ」
「はいっ!」
希は魔装を手に取った。
白髪白髭の老人が一人、大峡谷に立っていた。
ただの老人ではない。若い頃は、依頼の達成の為なら、手段を選ばず、敵味方に容赦ないスタイルから、“戦慄の機導師”と呼ばれていた程だ。
老人を知っている人からは、オキナと呼ばれているし、呼ばしている。
「とんだ役目じゃわい」
諦めにも似た言葉を呟きながら、オキナは大峡谷の底を見下ろす。
そこは、先日、ネル・ベル(kz0082)と紡伎 希(kz0174)がハンター達と一緒に探索したという洞窟がある。
それを見張っているのが、オキナの今の役割なのだ。
突如、大地が揺れる。
慌てる様子なく、オキナは命綱に捕まりながら、大峡谷の底を注視した。
「あれは……なんじゃ!?」
崩れた洞窟から姿を表したのは、話に聞いていた騎士甲冑姿の歪虚ではなかった。
灰色に近い青色の鱗に包まれた巨大な鳥だった。
全身から猛烈な負のマテリアルを放ち、その力は雷となって、大峡谷を貫く。
「……それが、“本性”かの……」
希から洞窟での顛末を聞いている。
レルヴォと名乗った騎士の成れの果てではないかという話だ。
稲妻を伴って羽ばたく鳥は、伝説の雷鳥を思わせるとオキナは感じる。
何かの理由があって、堕落者となったのだろう。その理由は如何なるものなのか。
「人は絶望するのじゃ……どんな、『希望』も『祈り』も『絆』も……時の流れというものは、何よりも残酷な呪いじゃ……」
若かったあの頃、共に戦った戦友も、愛した伴侶も、繋いだ子供も、オキナには、もう無い。
良い奴は皆、死んだ。残っているのは、死に損なった枯れ木のような自分だけだ。
「……レルヴォよ。貴様の“絶望”は、何だったのじゃ?」
無差別に稲妻を放つ雷鳥にオキナは呼び掛ける。
返事――は無い。もはや、人であった事すらも意識の外に行っているだろう。
オキナは暫く雷鳥の動きをみつめてから、音を立てずに、静かに、その場を離れた……。
●
「ただいま戻りました」
丁寧な物腰で部屋に入って来たのは希だった。情報を求め、大きな都市へと足を運んでいたのだ。
部屋の中には誰も居ない。あるのは、魔導剣弓の形によく似た武器だけだ。
「うむ。時期にオキナも帰還する。由々しき事態になったようだ」
言葉を発したのは、ネル・ベルだ。今は魔装状態となって、部屋に安置されているのだ。
希は機導術で場の浄化を行いながら、“成果”を話した。
「……特に情報は得られませんでした。少なくとも百年以上昔、王国北部で活躍した騎士という事ぐらいです。亜人との戦いで戦死したと」
「そんな所だろうな。」
「分からないのが、なぜ、あれだけの強さを持つという事なのかです」
洞窟内という不利な状況ではあったが、歪虚の強さは驚異的だった。
強い歪虚が、これまで表舞台に出てこなかったのも気になる。
「あくまでも推測だが……」
ネル・ベルがそう前置きしてから持論を展開した。
負のマテリアルが溜まりやすい澱んだ場所にずっと居る事で、ごくごく僅かに成長していくケースもあるという。
ただし、それは、数百年、数千年ともいえるケースであり、今回、もし、その通りなら、かなりのレアなパターンだと。
「……洞窟に留まっていたのは、個体性によるかもしれん」
「そういえば、自分の虚無を壊したお前達を許さないみたいな事を言ってましたね」
「元王国騎士という事は、堕落者の可能性は充分に有り得るな」
その言葉に希は真剣な表情を魔装へと向ける。
「私は……何度でも希望を抱きます。例え、何度でも絶望が訪れようとも」
「それは、死の最後まで分からん事だと、前に言ったはずだ」
希に自身の言葉を証明するものは無いが、自身が絶望して終えるなど、先に逝った大切な人達に合わす顔がないので、絶対に絶望で終わらないと心に決めている。
「ならば、人は、絶望しないのかどうか、確認に行くとするか」
「?」
「レルヴォという歪虚を討伐に行く。会話は成立せんだろうが、何か手掛かりが得られる可能性はあるからな」
ネル・ベルの台詞に、希はグッと拳を握った。
戦いになる……それも、相手は強敵。
「……分かりました。それに、放置しておくと、必ず、災厄を招くと思いますし」
もし、レルヴォが世界の破壊を狙っているのであれば、人々の危機だ。
王国軍の主力はイスルダ島へと出撃している。奇襲を受ければ大きな都市だとしても、ただでは済まないだろう。
●
大峡谷より南、レタニケ領に至る荒野に、その雷鳥は降り立った。
天に向かって何か叫ぶ。それだけで、大気が震え、僅かに生えていた樹木の幹が切れ倒れる。
この世の全てに対する強い想いが稲妻となって周囲へと広がった。
「想定以上だな……」
辺りを圧迫する負のマテリアルに、魔装状態のネル・ベルが呟いた。
ネル・ベル自身、かなりの強さに至っているという自負はあった。ハンター達との戦いを繰り返し、そして、マテリアルを得て、生まれた時とは比べ物にならないほどに。かつての主であったフラベルさえも越えた強さにあるはずだと。
しかし、眼前の歪虚は、ネル・ベルの強さを凌駕しているだろう。
(『強さ』という点で言えば、確かに私は貴様に劣るだろう。しかし、『強さ』とは、そもそも、目的を得る為の材料の一つに過ぎんはずだ)
傲慢の歪虚らしからぬ考えが出来るのが、恐らく、ネル・ベルの本当の強みなのかもしれない。
自身よりも『強い』者は、幾らでも存在する。
少し前に廃館でハンターと戦った際にも実感できた。もはや、自身の純粋な力での成長はこれ以上、望めないだろうと。
(だからといって、強者が決まる訳ではない。目的を達した者が強者なのだ)
意識を雷鳥へと向ける。
ここで負ける訳にはいかない。自身の陰謀の為にも、従者の最後の結末の為にも。
「……前回、得られた情報を最大限に活かせ。そして、不明な力を推測しろ」
「はいっ!」
希は魔装を手に取った。
リプレイ本文
●強欲
翼を広げて大きく羽ばたく。それだけで、雷鳥は“浮かんだ”。
魔法的な力で飛んでいるのは明らかだが、それよりも、雷鳥周囲から発せられる幾本もの稲妻が、強大な力を感じさせる。
絶大な負のマテリアル……ふと、その感覚を、瀬崎・統夜(ka5046)が意識したのは、隣に並んでいる紡伎 希(kz0174)が居たからだろう。
“あの戦い”の再現だけはさせないと。
「……絶望なんてとっくにしてる。あのLH04にいた者なら……」
抗うのを止めて全てを投げ出し絶望した方が楽だったあの時。
「それでも……諦めたくないから、ここにいる」
統夜は静かに決意めいたものを呟きながら、大地の精霊の力が宿った弾丸を握り締めた。
希を挟んで反対側で星輝 Amhran(ka0724)が首を傾げていた。
「なぜ、鎧から雷鳥に……? 余りに突飛過ぎる。まさか、第三形態とか二個一型とかあるまいな」
洞窟の中で出会った存在は、全身甲冑の歪虚だった。
それが、どういう事か雷鳥となっているのだ。不思議に思うのも無理はない。
「あの姿は、強欲に強さを求めた結果なのでしょうか……」
Uisca Amhran(ka0754)が悲しそうな表情で雷鳥を見つめた。
強欲――ドラッケン――は、世界を滅ぼすのが至上命題だという。前回でのやり取りから、レルヴォが強欲に属する歪虚という推測もできそうだった。
(リアルブルーでは、鳥は竜から進化したという話があるみたいですけど……)
どこかで聞いた、そんな話をUiscaは思い出す。
その話が本当ならば、レルヴォが雷鳥の姿になったのは強欲だからだと説明はつくのではないだろうか。
「心象を具現したか意味があるか……」
「でも、人の本当の強さは相手によって対応を変える柔軟さと仲間との連携にあるんですよ。そのことを証明しますっ」
「そうじゃな」
Uiscaの気合が入った台詞に、星輝は微笑を浮かびながら頷いた。
その時、一際大きく雷鳥が啼いた。
大気すら切り裂いてしまうのではないかというほどの叫び。
「あれが、レルヴォの真の姿ですか……。もとは人だったのが、あそこまで……」
キュっと胸元で手を握り、アニス・エリダヌス(ka2491)は祈るように一瞬、瞳を閉じた。
一方、アルラウネ(ka4841)は、確りと雷鳥の動きを見つめる。
「具現化した感情の大暴走って感じね」
「激情とは、あれほどまでに激しい姿を顕すものなのでしょうか」
「そうかもね……きっと、いろんな理由が……」
だとしたら、レルヴォの怒りとは何か、絶望とは何か……。
「心が一人一人違うように。希望も、絶望も、その人間だけのものだ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が愛刀の柄に触れながら、二人の会話に応える。
レルヴォの心情を知る手立てはない。
あるのは、歪虚を滅ぼすという事だけ。
「……自身の心を決めれるのは、自分だけだろう」
直後、アルトは疾影士としての能力を出現させ、駆け出した。
仲間の背中をアルマ・A・エインズワース(ka4901)は眺めながら、魔装状態のネル・ベル(kz0082)に呟くように尋ねる。
「ネルさん。一つ聞いておきます。貴方は、お友達になれる歪虚さんです?」
「この偉大なる私の友になろうというのであれば、相応の存在になるのだな」
相変わらず尊大な態度のネル・ベルの答えにアルマは口元を緩めた。ただ、目は笑っていないが。
「……ちょっと、色々あったので。先に、ハッキリさせておこうかと思いまして」
「では、行くぞ」
魔装を持つ希に、ネル・ベルは告げた。戦闘の開始を――。
●苦戦
雷鳴が止まる事なく響き、豪雨が容赦なくハンター達を叩きつける。
迸る稲妻。放たれる電撃。雷鳥と化したレルヴォの攻撃は強力無比であった。
「また、風向きが変わったか」
豪雨で視界が悪い中、拳銃で射撃を繰り返していた瀬崎は、再装填する手間を惜しみ、ホルダーに拳銃を戻すと、岩陰に隠れながらライフルを構えた。
射撃の効果は高い。しかし、それだけで倒せるほど、甘くはない。
「……確実にダメージは与えている。後は、どれだけ叩き込めるかだ」
低空でホバリングを続けながら、雷鳥が扇状に広がる漆黒のオーラに包まれた赤き雷撃を放つ。
最初の幾つかは避けていたアルトもいつまでも避けられるものではない。
「通じていないという訳じゃない」
雷の痛みに耐えながら、アルトは確信に満ちた台詞を口にした。
愛刀で斬りかかって分かる。刃が雷鳥の身体に触れる直前、負のマテリアルが纏わりついて、威力を弱めているのだ。
そして、負のマテリアルで身体を包みこむ事で、更に威力が低下する。だから、直接攻撃が効いていないように見えた。
「タイミング次第なら、突破も……」
地属性の刀を振るうアルラウネが言う。
元々、雷鳥が保有している能力であれば近接武器で大ダメージを与えるのは難しい。
しかし、能動的に使っているのであれば……同時攻撃で突破できるかもしれない。あるいは、相手を消耗させて、能力を使わなくさせるか。
「翼が弱ってるなら、付け根とかに刀ぶっ刺してみる?」
「やってみたいが、僅かに高い位置だ」
もっとも、魔法的な何かで飛んでいる可能性も高いのだが……。
「やってみましょう! 援護します」
盾を構えて雷撃を受けながらアニスが言った。
先程から、絶え間なく続く雷鳥の攻撃から、戦線を維持しているのは、彼女の回復魔法による所が大きい。
このままだとジリ貧になる可能性もあるのであれば、突破口を狙うべきだ。
「頭上から広範囲にいつまでも狙われる訳にもいかんからのう」
「キララ姉さま……何か、妙案が?」
弓で攻撃を続けていたUiscaが、ジッと雷鳥の動きを観察していた星輝に訊ねる。
確かに、頭の上を抑えられていると、効率よく範囲攻撃で狙われてしまう。
やはり、地面に引きずり降ろす必要があるようだ。
「うむ……その為には、相手の注意を引かなければいかんのじゃが……」
星輝はチラリとアルマに視線を向けた。
その視線に気が付いてアルマが大きく頷く。
魔法攻撃も通じていない訳ではない。近接攻撃と同様に、威力が弱まっているだけだ。
という事は、範囲攻撃で当てれば、威力が弱まったとしても、大きいダメージを狙えるのではないか……そう、アルマは直感的に感じた。
「いいタイミングです。希さん! せっかくなので、お約束、ここで果たしますっ」
満面の笑みで希に振り返るアルマ。
希とは大事な“約束”があるのだ。同じ機導師としての。
「アルマ様……」
「僕、“あの戦い”から、また強くなったんですよ?」
そして、アルマは無数の雷が降る中、自身のマテリアルを練る。
左胸から発した蒼い炎の幻影が、眩い光を放ちながら強まっていく。
「相手が悪いですけどね。これが今の僕の、最大火力ですッ!」
複雑な模様の機導術式陣が広がった瞬間、無数の氷柱が宙を貫くように生えた。
直撃した鋭い氷が雷鳥の身体を蝕む。
「こんな破天荒な策を、上手く出来る可能性があるのはワシだけじゃろう……?」
「負のマテリアルに当てられ過ぎて死んでもしらんぞ」
希から魔装状態のネル・ベルを借り受けた星輝。
「諸々、上手ぅ頼むぞや? 2度は使えんじゃろ? ワシも御主も。乾坤一擲! いざ参る!」
魔装から放たれた負のマテリアルが宙を駆け、それに乗る形で、星輝が雷鳥の頭上に瞬間移動した。
気合の掛け声と共に、魔装の刃を翼の付け根に突き刺した。
●激戦
暴れる雷鳥の動きについていけず、魔装の柄を離してしまった星輝が地面に落下する。
「星輝様!」
悲鳴にも似た希の叫び。
マテリアルの壁を出現させたが、それで勢いが弱まる訳がない。落下の衝撃でぐたりとする星輝に、希は駆け寄った。
ポーションを掴む手が震える。緑髪の少女の肩に、Uiscaが優しく手を置いた。
「慌てないで、ノゾミちゃん」
星輝は大怪我だが、生死に関わるような状態ではない。
「イスカさん……」
「人は、何度でも立ち上がれる。レルヴォさんに、私達の希望を見せようっ……ねっ、ノゾミちゃん」
「……は、はいっ!」
頼もしい返事にUiscaは頷くと、杖を構えた。
大地に墜ちた雷鳥が暴れている為、仲間の回復支援に向かうからだ。
頭上から範囲攻撃で狙われる事は無くなったが、今度は強力な攻撃をあたりかまわず放ってくるのだ。
攻撃の隙を作ろうと飛び込むオキナをアルラウネとアルマが割って入って止めた。
「時に臆病でいい。悪戯に勇猛である必要はないわ」
「……人は、こんな風に自分で絶望を作り出してしまうこともありますね」
意外そうな顔でオキナは二人を見つめた。
「この老いぼれでも何かの足しにはなるじゃろうに……」
同情するような視線を雷鳥へと向けていたが、それをアルマが塞ぐ。
「僕、希望が絶望の種になるなら、絶望だって希望の種になることもあるって思うです。だって、大好きで大事な人達がいますから。素敵なことですー!」
「私達はまだ死にたくない。歪虚を倒す理由は、それで十分よ」
アルラウネはオキナの腕に抱きつき、アルマが首元に飛び掛かる。
「僕は人が好きです。希さんもオキナ先輩も、歪虚さんですけど、ネルさんもすきですー」
「……やれやれ、最近の若いもんには敵わんの」
苦笑を浮かべるオキナ。
その3人を雷鳥の稲妻が襲う。
だが、淡い光を伴った暖かさが包むと、傷が回復した。
「私達は、負ける訳にはいきません」
全員を守るようにアニスが盾を構えて前線へと進む。強い決意と共に。
強烈な一撃が彼女を襲ったが、祈りの力か、耐えきった。
「絶望が立ち塞がるならば、希望を以て貫くのみです!」
「そういう事です。オキナさん、私は貴方との絆も感じていますよ」
Uiscaが杖の先に白い光を輝かせながら合流する。
兎も角、このままだと手が付けられる状況ではない。
強引に飛び上がろうとする雷鳥をアルトが何とか抑え込んでいるが……。
このままでは……ふと、そう思った時だった。統夜が距離を詰める。
「死なせたくない奴がいる。絶望する暇なんて無いんだよっ!」
アルトを大地に残し浮かび上がった雷鳥に統夜は銃撃を放った。マテリアルの強い力を帯びた一弾が雷鳥を貫く。
直後、統夜はライフルを放り投げると、素早く拳銃を抜き出した。
「ここが、お前の終着点……デッドエンドだ!!」
2発の銃弾の直撃を叩き込まれ雷鳥の動きが急激に弱まった。
今が絶好の機会だ。ハンター達、其々が持てる攻撃を繰り出す。必死とみたか、雷鳥も全力で稲妻を降らせる。
壮絶な殴り合いの中、オキナがアルトに呼び掛けた。
「ヴァレンティーニの嬢ちゃん! 捕まるのじゃ!」
咄嗟に愛刀を手放し、オキナの腕を取った直後、オキナが踵からマテリアルの光を発して跳躍する。
高く上がった時点で、マテリアルの糸を引きつつ手裏剣を投げるアルト。狙い違わず、雷鳥に突き刺さると糸を辿るように雷鳥へ飛び乗った。
すぐに体制を整え――眼前に突き刺さったままの魔装に手を伸ばす。
「アルトか!」
刀身から猛烈な負のマテリアルを放っていたネル・ベル。
どうやら、突き刺さったままのネル・ベルも彼なりに戦っていたようだ。
「レルヴォのマテリアルは、私が相殺させる。偉大なる私の力を存分に使え!」
「力とは目的を成すための手段。なら、使わせて貰うよ!」
雷鳥から魔装を引き抜くと、アルトは高々と掲げた。雷が集中するが、アルトは意識を集中させる。
直後、振り下ろした魔装の剣先が雷鳥の首を切り落としたのだった。
雷鳥と化したレルヴォとの戦闘は熾烈を極めたが、相手の弱点を突く装備状況と、地の強さでハンター達は粘り強く戦った。
ハンター達は大きなダメージを負ったが、大峡谷に現れた雷鳥の歪虚を討伐したのであった。
●戦い終えて
レルヴォが残したものは何も無かった。洞窟も、この状況では探索できないが、レルヴォに関する物があるのは望み薄なはずだ。
分かったのは、ハンター達やノゾミが絶望に至る戦いでは無かったという事。
今を生きる者には、ある意味、それで十分なのかもしれない。例え、どんなに強大な敵であっても、人は、力を集わせ、戦う事が、勝つ事ができる存在なのだと。
「無茶するでないぞと……言おうと思ったのじゃが」
痛む傷を堪えながら、これでは立場が逆だと星輝は続けた。
オキナはニヤリと笑う。
「簡単には死なせてくれんようじゃの」
「というかオキナよ、希の祖父代わりなんじゃから、悲しませるな?」
「それは……お互い様じゃ」
二人の視線の先には、希と仲間達の姿。
あんなに笑った顔の希を見るのは久しぶり……なのかもしれない。
「アルマ様! 凄かったですよ!」
「実はもっともっと強くなれるんですよー」
人差し指を口に当ててアルマが楽しそうに言った。
「私も……もっと、強くならないと」
「慌てないでね。まだまだ、伸びしろがあるんだから」
気張る希にアルラウネが背後から抱き着く。
背中に感じる圧倒的なまでの差。
「そうですよ、ノゾミさん。一歩一歩確かに、歩んでいければいいんです」
「アニス様って、凄く……大人な女性ですよね。あまり、私と変わらないように見えるのに……」
そうですか? と微笑みをアニスは返して応えた。
変わらないのは胸の大きさ位だろうか。
「全員が無事で良かった、な……」
「はい! 統夜様、ありがとうござます!」
射撃に弱い、地属性に弱いと前回、見抜いていなければ、もっと苦戦していただろう。
全員、ボロボロではあるが、誰一人欠ける事なく勝利した。この意味は大きいはずだ。
アルトが愛刀の具合を確かめ終わり、大事に納めると、オキナに話しかけた。
「最後のあれは、助かったよ。おかげで手裏剣が狙った所に届いた」
とても、一人では成しえなかった事だろう。
これが仲間と共に戦う強さというものかもしれない。
「昔は、あれで戦士を飛ばしたもんじゃ。久々じゃったか、上手くいったじゃろ」
「“戦慄の機導師”とは恐れ入ったね」
アルトの台詞にオキナが笑って応えた。
魔装状態のネル・ベルをUiscaは抱えていた。全員、それなりにダメージを受けている中、Uiscaは比較的無事の方だったからだ。
「イケメンさんも、ノゾミちゃんに“絶望”を勧めるわりに……“希望”を持っている様に見えますね」
「真の従者になる機会を待つ事ができるのは、偉大なる私が寛容だからだ」
人型の姿だったら無駄に胸を張っていそうな様子が容易に想像できるネル・ベルの台詞。
「それじゃ……ノゾミちゃんが危ない時は?」
その質問にネル・ベルは一瞬の間を開けてから答える。
「決まっている。私の従者だ。主が守らないでどうするというのだ」
――と。
『遥かな希望は胸に 深き絶望は手に』へ続く――。
翼を広げて大きく羽ばたく。それだけで、雷鳥は“浮かんだ”。
魔法的な力で飛んでいるのは明らかだが、それよりも、雷鳥周囲から発せられる幾本もの稲妻が、強大な力を感じさせる。
絶大な負のマテリアル……ふと、その感覚を、瀬崎・統夜(ka5046)が意識したのは、隣に並んでいる紡伎 希(kz0174)が居たからだろう。
“あの戦い”の再現だけはさせないと。
「……絶望なんてとっくにしてる。あのLH04にいた者なら……」
抗うのを止めて全てを投げ出し絶望した方が楽だったあの時。
「それでも……諦めたくないから、ここにいる」
統夜は静かに決意めいたものを呟きながら、大地の精霊の力が宿った弾丸を握り締めた。
希を挟んで反対側で星輝 Amhran(ka0724)が首を傾げていた。
「なぜ、鎧から雷鳥に……? 余りに突飛過ぎる。まさか、第三形態とか二個一型とかあるまいな」
洞窟の中で出会った存在は、全身甲冑の歪虚だった。
それが、どういう事か雷鳥となっているのだ。不思議に思うのも無理はない。
「あの姿は、強欲に強さを求めた結果なのでしょうか……」
Uisca Amhran(ka0754)が悲しそうな表情で雷鳥を見つめた。
強欲――ドラッケン――は、世界を滅ぼすのが至上命題だという。前回でのやり取りから、レルヴォが強欲に属する歪虚という推測もできそうだった。
(リアルブルーでは、鳥は竜から進化したという話があるみたいですけど……)
どこかで聞いた、そんな話をUiscaは思い出す。
その話が本当ならば、レルヴォが雷鳥の姿になったのは強欲だからだと説明はつくのではないだろうか。
「心象を具現したか意味があるか……」
「でも、人の本当の強さは相手によって対応を変える柔軟さと仲間との連携にあるんですよ。そのことを証明しますっ」
「そうじゃな」
Uiscaの気合が入った台詞に、星輝は微笑を浮かびながら頷いた。
その時、一際大きく雷鳥が啼いた。
大気すら切り裂いてしまうのではないかというほどの叫び。
「あれが、レルヴォの真の姿ですか……。もとは人だったのが、あそこまで……」
キュっと胸元で手を握り、アニス・エリダヌス(ka2491)は祈るように一瞬、瞳を閉じた。
一方、アルラウネ(ka4841)は、確りと雷鳥の動きを見つめる。
「具現化した感情の大暴走って感じね」
「激情とは、あれほどまでに激しい姿を顕すものなのでしょうか」
「そうかもね……きっと、いろんな理由が……」
だとしたら、レルヴォの怒りとは何か、絶望とは何か……。
「心が一人一人違うように。希望も、絶望も、その人間だけのものだ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が愛刀の柄に触れながら、二人の会話に応える。
レルヴォの心情を知る手立てはない。
あるのは、歪虚を滅ぼすという事だけ。
「……自身の心を決めれるのは、自分だけだろう」
直後、アルトは疾影士としての能力を出現させ、駆け出した。
仲間の背中をアルマ・A・エインズワース(ka4901)は眺めながら、魔装状態のネル・ベル(kz0082)に呟くように尋ねる。
「ネルさん。一つ聞いておきます。貴方は、お友達になれる歪虚さんです?」
「この偉大なる私の友になろうというのであれば、相応の存在になるのだな」
相変わらず尊大な態度のネル・ベルの答えにアルマは口元を緩めた。ただ、目は笑っていないが。
「……ちょっと、色々あったので。先に、ハッキリさせておこうかと思いまして」
「では、行くぞ」
魔装を持つ希に、ネル・ベルは告げた。戦闘の開始を――。
●苦戦
雷鳴が止まる事なく響き、豪雨が容赦なくハンター達を叩きつける。
迸る稲妻。放たれる電撃。雷鳥と化したレルヴォの攻撃は強力無比であった。
「また、風向きが変わったか」
豪雨で視界が悪い中、拳銃で射撃を繰り返していた瀬崎は、再装填する手間を惜しみ、ホルダーに拳銃を戻すと、岩陰に隠れながらライフルを構えた。
射撃の効果は高い。しかし、それだけで倒せるほど、甘くはない。
「……確実にダメージは与えている。後は、どれだけ叩き込めるかだ」
低空でホバリングを続けながら、雷鳥が扇状に広がる漆黒のオーラに包まれた赤き雷撃を放つ。
最初の幾つかは避けていたアルトもいつまでも避けられるものではない。
「通じていないという訳じゃない」
雷の痛みに耐えながら、アルトは確信に満ちた台詞を口にした。
愛刀で斬りかかって分かる。刃が雷鳥の身体に触れる直前、負のマテリアルが纏わりついて、威力を弱めているのだ。
そして、負のマテリアルで身体を包みこむ事で、更に威力が低下する。だから、直接攻撃が効いていないように見えた。
「タイミング次第なら、突破も……」
地属性の刀を振るうアルラウネが言う。
元々、雷鳥が保有している能力であれば近接武器で大ダメージを与えるのは難しい。
しかし、能動的に使っているのであれば……同時攻撃で突破できるかもしれない。あるいは、相手を消耗させて、能力を使わなくさせるか。
「翼が弱ってるなら、付け根とかに刀ぶっ刺してみる?」
「やってみたいが、僅かに高い位置だ」
もっとも、魔法的な何かで飛んでいる可能性も高いのだが……。
「やってみましょう! 援護します」
盾を構えて雷撃を受けながらアニスが言った。
先程から、絶え間なく続く雷鳥の攻撃から、戦線を維持しているのは、彼女の回復魔法による所が大きい。
このままだとジリ貧になる可能性もあるのであれば、突破口を狙うべきだ。
「頭上から広範囲にいつまでも狙われる訳にもいかんからのう」
「キララ姉さま……何か、妙案が?」
弓で攻撃を続けていたUiscaが、ジッと雷鳥の動きを観察していた星輝に訊ねる。
確かに、頭の上を抑えられていると、効率よく範囲攻撃で狙われてしまう。
やはり、地面に引きずり降ろす必要があるようだ。
「うむ……その為には、相手の注意を引かなければいかんのじゃが……」
星輝はチラリとアルマに視線を向けた。
その視線に気が付いてアルマが大きく頷く。
魔法攻撃も通じていない訳ではない。近接攻撃と同様に、威力が弱まっているだけだ。
という事は、範囲攻撃で当てれば、威力が弱まったとしても、大きいダメージを狙えるのではないか……そう、アルマは直感的に感じた。
「いいタイミングです。希さん! せっかくなので、お約束、ここで果たしますっ」
満面の笑みで希に振り返るアルマ。
希とは大事な“約束”があるのだ。同じ機導師としての。
「アルマ様……」
「僕、“あの戦い”から、また強くなったんですよ?」
そして、アルマは無数の雷が降る中、自身のマテリアルを練る。
左胸から発した蒼い炎の幻影が、眩い光を放ちながら強まっていく。
「相手が悪いですけどね。これが今の僕の、最大火力ですッ!」
複雑な模様の機導術式陣が広がった瞬間、無数の氷柱が宙を貫くように生えた。
直撃した鋭い氷が雷鳥の身体を蝕む。
「こんな破天荒な策を、上手く出来る可能性があるのはワシだけじゃろう……?」
「負のマテリアルに当てられ過ぎて死んでもしらんぞ」
希から魔装状態のネル・ベルを借り受けた星輝。
「諸々、上手ぅ頼むぞや? 2度は使えんじゃろ? ワシも御主も。乾坤一擲! いざ参る!」
魔装から放たれた負のマテリアルが宙を駆け、それに乗る形で、星輝が雷鳥の頭上に瞬間移動した。
気合の掛け声と共に、魔装の刃を翼の付け根に突き刺した。
●激戦
暴れる雷鳥の動きについていけず、魔装の柄を離してしまった星輝が地面に落下する。
「星輝様!」
悲鳴にも似た希の叫び。
マテリアルの壁を出現させたが、それで勢いが弱まる訳がない。落下の衝撃でぐたりとする星輝に、希は駆け寄った。
ポーションを掴む手が震える。緑髪の少女の肩に、Uiscaが優しく手を置いた。
「慌てないで、ノゾミちゃん」
星輝は大怪我だが、生死に関わるような状態ではない。
「イスカさん……」
「人は、何度でも立ち上がれる。レルヴォさんに、私達の希望を見せようっ……ねっ、ノゾミちゃん」
「……は、はいっ!」
頼もしい返事にUiscaは頷くと、杖を構えた。
大地に墜ちた雷鳥が暴れている為、仲間の回復支援に向かうからだ。
頭上から範囲攻撃で狙われる事は無くなったが、今度は強力な攻撃をあたりかまわず放ってくるのだ。
攻撃の隙を作ろうと飛び込むオキナをアルラウネとアルマが割って入って止めた。
「時に臆病でいい。悪戯に勇猛である必要はないわ」
「……人は、こんな風に自分で絶望を作り出してしまうこともありますね」
意外そうな顔でオキナは二人を見つめた。
「この老いぼれでも何かの足しにはなるじゃろうに……」
同情するような視線を雷鳥へと向けていたが、それをアルマが塞ぐ。
「僕、希望が絶望の種になるなら、絶望だって希望の種になることもあるって思うです。だって、大好きで大事な人達がいますから。素敵なことですー!」
「私達はまだ死にたくない。歪虚を倒す理由は、それで十分よ」
アルラウネはオキナの腕に抱きつき、アルマが首元に飛び掛かる。
「僕は人が好きです。希さんもオキナ先輩も、歪虚さんですけど、ネルさんもすきですー」
「……やれやれ、最近の若いもんには敵わんの」
苦笑を浮かべるオキナ。
その3人を雷鳥の稲妻が襲う。
だが、淡い光を伴った暖かさが包むと、傷が回復した。
「私達は、負ける訳にはいきません」
全員を守るようにアニスが盾を構えて前線へと進む。強い決意と共に。
強烈な一撃が彼女を襲ったが、祈りの力か、耐えきった。
「絶望が立ち塞がるならば、希望を以て貫くのみです!」
「そういう事です。オキナさん、私は貴方との絆も感じていますよ」
Uiscaが杖の先に白い光を輝かせながら合流する。
兎も角、このままだと手が付けられる状況ではない。
強引に飛び上がろうとする雷鳥をアルトが何とか抑え込んでいるが……。
このままでは……ふと、そう思った時だった。統夜が距離を詰める。
「死なせたくない奴がいる。絶望する暇なんて無いんだよっ!」
アルトを大地に残し浮かび上がった雷鳥に統夜は銃撃を放った。マテリアルの強い力を帯びた一弾が雷鳥を貫く。
直後、統夜はライフルを放り投げると、素早く拳銃を抜き出した。
「ここが、お前の終着点……デッドエンドだ!!」
2発の銃弾の直撃を叩き込まれ雷鳥の動きが急激に弱まった。
今が絶好の機会だ。ハンター達、其々が持てる攻撃を繰り出す。必死とみたか、雷鳥も全力で稲妻を降らせる。
壮絶な殴り合いの中、オキナがアルトに呼び掛けた。
「ヴァレンティーニの嬢ちゃん! 捕まるのじゃ!」
咄嗟に愛刀を手放し、オキナの腕を取った直後、オキナが踵からマテリアルの光を発して跳躍する。
高く上がった時点で、マテリアルの糸を引きつつ手裏剣を投げるアルト。狙い違わず、雷鳥に突き刺さると糸を辿るように雷鳥へ飛び乗った。
すぐに体制を整え――眼前に突き刺さったままの魔装に手を伸ばす。
「アルトか!」
刀身から猛烈な負のマテリアルを放っていたネル・ベル。
どうやら、突き刺さったままのネル・ベルも彼なりに戦っていたようだ。
「レルヴォのマテリアルは、私が相殺させる。偉大なる私の力を存分に使え!」
「力とは目的を成すための手段。なら、使わせて貰うよ!」
雷鳥から魔装を引き抜くと、アルトは高々と掲げた。雷が集中するが、アルトは意識を集中させる。
直後、振り下ろした魔装の剣先が雷鳥の首を切り落としたのだった。
雷鳥と化したレルヴォとの戦闘は熾烈を極めたが、相手の弱点を突く装備状況と、地の強さでハンター達は粘り強く戦った。
ハンター達は大きなダメージを負ったが、大峡谷に現れた雷鳥の歪虚を討伐したのであった。
●戦い終えて
レルヴォが残したものは何も無かった。洞窟も、この状況では探索できないが、レルヴォに関する物があるのは望み薄なはずだ。
分かったのは、ハンター達やノゾミが絶望に至る戦いでは無かったという事。
今を生きる者には、ある意味、それで十分なのかもしれない。例え、どんなに強大な敵であっても、人は、力を集わせ、戦う事が、勝つ事ができる存在なのだと。
「無茶するでないぞと……言おうと思ったのじゃが」
痛む傷を堪えながら、これでは立場が逆だと星輝は続けた。
オキナはニヤリと笑う。
「簡単には死なせてくれんようじゃの」
「というかオキナよ、希の祖父代わりなんじゃから、悲しませるな?」
「それは……お互い様じゃ」
二人の視線の先には、希と仲間達の姿。
あんなに笑った顔の希を見るのは久しぶり……なのかもしれない。
「アルマ様! 凄かったですよ!」
「実はもっともっと強くなれるんですよー」
人差し指を口に当ててアルマが楽しそうに言った。
「私も……もっと、強くならないと」
「慌てないでね。まだまだ、伸びしろがあるんだから」
気張る希にアルラウネが背後から抱き着く。
背中に感じる圧倒的なまでの差。
「そうですよ、ノゾミさん。一歩一歩確かに、歩んでいければいいんです」
「アニス様って、凄く……大人な女性ですよね。あまり、私と変わらないように見えるのに……」
そうですか? と微笑みをアニスは返して応えた。
変わらないのは胸の大きさ位だろうか。
「全員が無事で良かった、な……」
「はい! 統夜様、ありがとうござます!」
射撃に弱い、地属性に弱いと前回、見抜いていなければ、もっと苦戦していただろう。
全員、ボロボロではあるが、誰一人欠ける事なく勝利した。この意味は大きいはずだ。
アルトが愛刀の具合を確かめ終わり、大事に納めると、オキナに話しかけた。
「最後のあれは、助かったよ。おかげで手裏剣が狙った所に届いた」
とても、一人では成しえなかった事だろう。
これが仲間と共に戦う強さというものかもしれない。
「昔は、あれで戦士を飛ばしたもんじゃ。久々じゃったか、上手くいったじゃろ」
「“戦慄の機導師”とは恐れ入ったね」
アルトの台詞にオキナが笑って応えた。
魔装状態のネル・ベルをUiscaは抱えていた。全員、それなりにダメージを受けている中、Uiscaは比較的無事の方だったからだ。
「イケメンさんも、ノゾミちゃんに“絶望”を勧めるわりに……“希望”を持っている様に見えますね」
「真の従者になる機会を待つ事ができるのは、偉大なる私が寛容だからだ」
人型の姿だったら無駄に胸を張っていそうな様子が容易に想像できるネル・ベルの台詞。
「それじゃ……ノゾミちゃんが危ない時は?」
その質問にネル・ベルは一瞬の間を開けてから答える。
「決まっている。私の従者だ。主が守らないでどうするというのだ」
――と。
『遥かな希望は胸に 深き絶望は手に』へ続く――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/03 13:25:04 |
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【質問卓】 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/10/04 22:54:52 |
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【相談卓】雷鳥狩り アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/06 21:30:24 |