ゲスト
(ka0000)
【転臨】遥かな希望は胸に 深き絶望は手に
マスター:赤山優牙
- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,800
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 7~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/20 19:00
- 完成日
- 2017/10/25 20:06
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※このシナリオは(赤山比で)難易度が“超”高く設定されています。貴方の大事な装備アイテムの損失、重体や再起不能、死亡判定が下される可能性があります。
なお、登場するNPCも、皆様と同様、重体や再起不能、死亡判定があり、その際は、容赦なく判定されます。
●襲来
フレッサの街に警報が鳴り響いた。城門が堅く閉ざされ、市民の外出が禁止となる。
街中は兵士が巡回しつつ、万が一の事態に備えて総員避難の準備が進められていた。
「も、もうお終いだぁ~」
領主が頭を抱え込んでいた。
これまで幾つかの危機を乗り越えてきたが、もはや、手の打ちようがない。
「『死を刈る蜘蛛』メフィスト……そんな存在に襲われたら、助かる訳がない」
迫っている歪虚の脅威は知っている。
この街の戦力では到底、太刀打ちできるものでもない。
「……この私が行こう」
そう言ったのは、ネル・ベル(kz0082)だった。
魔装状態のままであるので、表情は読み取れないが、その声からは何か決意めいたものを感じる。
「ネル・ベル様……」
心配するような声を上げたのは紡伎 希(kz0174)だ。
メフィストとネル・ベルの力量差は明らかだ。それを、実際に“対峙”した事がある希は感じていた。
並みのハンターや、歪虚が勝てる相手ではない。順当に考えれば、街を放棄して逃げる事だろう……運が良ければ、何人かは助かるかもしれない。
「この街は、私の策源地だ。失う訳にはいかぬ」
「戦うという事ですか。相手は……」
希の言葉を遮るようにネル・ベルは言った。
「当たり前だ。相手が如何なる存在でも、私の行く手を邪魔する者は、敵だ」
「で、では……」
「ハンター達を呼べ。返り討ちにしてくれる」
●対峙
ハンター達よりも一足早く、ネル・ベルと希は街の外へと出た。
街道を何事もなく進むメフィストは、もう目の前だ。希は魔装状態のネル・ベルを構えたまま、道を塞ぐ。
それをメフィストは、まるで、靄を払うように負のマテリアルを放った。
ネル・ベルも同じく負のマテリアルを噴出させて、相殺させる。
「……何の真似ですか」
冷たく興味なさげなメフィストの一言。
今の相殺で、魔装武器が傲慢の歪虚であると見抜いたようだ。
「こちらの台詞だ。ここから先は、通さない」
「話になりませんね。私が誰かと知っての事ですか。今すぐ退くなら見逃してもいいのですよ」
全身から発せられる強大な負のマテリアル。
しかし、ネル・ベルは動じなかった。
「イスルダ島に攻め寄せた王国軍を、罠に嵌めた程度で自ら攻めてくるとは……人間に対する評価を誤ったな」
「この私が間違いと……どうやら、本気で消え去りたいようですね」
言葉だけで並みの人間なら屈しているような、そんな絶対的な威圧感。
「……人間が持つ力を使って人間を滅ぼす。それが最良だというのに、ベリアルも貴様も、人間を舐めている」
「私がベリアルと同じと?」
「人間を侮っているという点で、全く同じだ。過去、それで、幾体もの同胞が敗れたにも関わらず。愚かなとしか言いようがない」
ハンター達と何度も死闘を繰り広げた。
また、敵対している彼らとも共闘した事もある。だからこそ、ネル・ベルは、ハンター達の力を知っている。
「愚かだと……許しを請えば見逃したものを、後悔しなさい」
静かに言い放ったメフィストだが、その言葉には恐ろしい程の怒りが込められているような雰囲気だった。
「許し? 後悔? 笑わせてくれる。許さないのは、こっちの方だ。私の従者を傷つけた事は万死に値する。消滅するのは、貴様の方だ、メフィスト!」
魔装状態のまま、ネル・ベルは眩い光を発する。
強い負のマテリアルを感じる。手に持つ希は、一瞬、クラっとしたが、何とか持ち堪えた。
「……ネル・ベル様」
目に涙を浮かべなから、希は主の名を呼んだ。
“あの戦い”の事は、伝えていない。そして、オキナは必要のない情報は言わない――という事は、ネル・ベル自身がオキナに訊ねたのだろう。
ネル・ベルには“優しさ”や“慈悲”というものが無い……と知っていても、その言動は、希にとって嬉しかった。
歪虚と人は相容れない存在。それでも、時として共に居る事ができる。希望と絶望を同時に抱えるように。
「言っただろう。ノゾミは私の従者だと。主たるもの、従者を守るのは当然の事だ」
それが、主従関係というもの……という言い訳のようにも見えて。
希は柄を握る手にギュッと力を込めた。
魔導剣弓の形状が、アルテミスの女騎士を連想させた。そして、自分の中にある機導師と猟撃士の力。
“みんな”ここに居る――。
今日、ここでメフィストを討つ、その為に。
「その程度で歯向かうとは愚かな」
「そうでもない。よく見るんだな」
ネル・ベルの、その台詞でハンター達の姿がメフィストにも見えた。
真っすぐ、こちらに向かってくる。誇り高き傲慢――アイテルカイト――の者が人間共と共闘など、理解に苦しむ。それに、物に【変容】し、人間に使われている時点で、アイテルカイトとして許されない事。
「所詮は人間。幾ら集まろうが意味がない」
直後、突き出した腕先から、負のマテリアルの極太い光線を射出する。
向かってくるハンターに向かって、一直線に伸びてくるが、それを魔装状態のネル・ベルは正面から受け止め、払い飛ばした。
「その身で思い知ると良い。人間達の持つ、力の意味を」
なお、登場するNPCも、皆様と同様、重体や再起不能、死亡判定があり、その際は、容赦なく判定されます。
●襲来
フレッサの街に警報が鳴り響いた。城門が堅く閉ざされ、市民の外出が禁止となる。
街中は兵士が巡回しつつ、万が一の事態に備えて総員避難の準備が進められていた。
「も、もうお終いだぁ~」
領主が頭を抱え込んでいた。
これまで幾つかの危機を乗り越えてきたが、もはや、手の打ちようがない。
「『死を刈る蜘蛛』メフィスト……そんな存在に襲われたら、助かる訳がない」
迫っている歪虚の脅威は知っている。
この街の戦力では到底、太刀打ちできるものでもない。
「……この私が行こう」
そう言ったのは、ネル・ベル(kz0082)だった。
魔装状態のままであるので、表情は読み取れないが、その声からは何か決意めいたものを感じる。
「ネル・ベル様……」
心配するような声を上げたのは紡伎 希(kz0174)だ。
メフィストとネル・ベルの力量差は明らかだ。それを、実際に“対峙”した事がある希は感じていた。
並みのハンターや、歪虚が勝てる相手ではない。順当に考えれば、街を放棄して逃げる事だろう……運が良ければ、何人かは助かるかもしれない。
「この街は、私の策源地だ。失う訳にはいかぬ」
「戦うという事ですか。相手は……」
希の言葉を遮るようにネル・ベルは言った。
「当たり前だ。相手が如何なる存在でも、私の行く手を邪魔する者は、敵だ」
「で、では……」
「ハンター達を呼べ。返り討ちにしてくれる」
●対峙
ハンター達よりも一足早く、ネル・ベルと希は街の外へと出た。
街道を何事もなく進むメフィストは、もう目の前だ。希は魔装状態のネル・ベルを構えたまま、道を塞ぐ。
それをメフィストは、まるで、靄を払うように負のマテリアルを放った。
ネル・ベルも同じく負のマテリアルを噴出させて、相殺させる。
「……何の真似ですか」
冷たく興味なさげなメフィストの一言。
今の相殺で、魔装武器が傲慢の歪虚であると見抜いたようだ。
「こちらの台詞だ。ここから先は、通さない」
「話になりませんね。私が誰かと知っての事ですか。今すぐ退くなら見逃してもいいのですよ」
全身から発せられる強大な負のマテリアル。
しかし、ネル・ベルは動じなかった。
「イスルダ島に攻め寄せた王国軍を、罠に嵌めた程度で自ら攻めてくるとは……人間に対する評価を誤ったな」
「この私が間違いと……どうやら、本気で消え去りたいようですね」
言葉だけで並みの人間なら屈しているような、そんな絶対的な威圧感。
「……人間が持つ力を使って人間を滅ぼす。それが最良だというのに、ベリアルも貴様も、人間を舐めている」
「私がベリアルと同じと?」
「人間を侮っているという点で、全く同じだ。過去、それで、幾体もの同胞が敗れたにも関わらず。愚かなとしか言いようがない」
ハンター達と何度も死闘を繰り広げた。
また、敵対している彼らとも共闘した事もある。だからこそ、ネル・ベルは、ハンター達の力を知っている。
「愚かだと……許しを請えば見逃したものを、後悔しなさい」
静かに言い放ったメフィストだが、その言葉には恐ろしい程の怒りが込められているような雰囲気だった。
「許し? 後悔? 笑わせてくれる。許さないのは、こっちの方だ。私の従者を傷つけた事は万死に値する。消滅するのは、貴様の方だ、メフィスト!」
魔装状態のまま、ネル・ベルは眩い光を発する。
強い負のマテリアルを感じる。手に持つ希は、一瞬、クラっとしたが、何とか持ち堪えた。
「……ネル・ベル様」
目に涙を浮かべなから、希は主の名を呼んだ。
“あの戦い”の事は、伝えていない。そして、オキナは必要のない情報は言わない――という事は、ネル・ベル自身がオキナに訊ねたのだろう。
ネル・ベルには“優しさ”や“慈悲”というものが無い……と知っていても、その言動は、希にとって嬉しかった。
歪虚と人は相容れない存在。それでも、時として共に居る事ができる。希望と絶望を同時に抱えるように。
「言っただろう。ノゾミは私の従者だと。主たるもの、従者を守るのは当然の事だ」
それが、主従関係というもの……という言い訳のようにも見えて。
希は柄を握る手にギュッと力を込めた。
魔導剣弓の形状が、アルテミスの女騎士を連想させた。そして、自分の中にある機導師と猟撃士の力。
“みんな”ここに居る――。
今日、ここでメフィストを討つ、その為に。
「その程度で歯向かうとは愚かな」
「そうでもない。よく見るんだな」
ネル・ベルの、その台詞でハンター達の姿がメフィストにも見えた。
真っすぐ、こちらに向かってくる。誇り高き傲慢――アイテルカイト――の者が人間共と共闘など、理解に苦しむ。それに、物に【変容】し、人間に使われている時点で、アイテルカイトとして許されない事。
「所詮は人間。幾ら集まろうが意味がない」
直後、突き出した腕先から、負のマテリアルの極太い光線を射出する。
向かってくるハンターに向かって、一直線に伸びてくるが、それを魔装状態のネル・ベルは正面から受け止め、払い飛ばした。
「その身で思い知ると良い。人間達の持つ、力の意味を」
リプレイ本文
「アルトさんは自由で良いと思うのです」
そう言いながら、自身の手を女性騎士は笑顔で握っていた――。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の脳裏に浮かんだのは、そんな、いつかの光景。
彼女の視線の先には、『死を刈る蜘蛛』メフィスト。大切な友人の命を奪った歪虚だ。
「私もまだ未熟だな。友人を殺した相手を前にすると……」
愛刀を持つ手に自然と力が入ってくる。
恨みや怒りが充分に込められた瞳を歪虚へと向けた。
「殺意を抑えれそうにない……貴様に、人の怒りを刻み込んでやろう」
歪虚として存在する事すら後悔するまで、斬り尽くし、人の持つ怒りの苛烈さを刻みつけると決意した。
その雰囲気はアルトの全身から発せられており、まるで、周囲の空気を切り裂くような勢いだ。
そして、ヴァイス(ka0364)もまた、その心情は同様だった。
女性騎士の顔が過った。どこか抜けている所もあるが真っすぐで素直な騎士を。あるいは、すぐに顔を赤くして恥ずかしがる女性を。
他にも多くの仲間を大勢の人の命を奪っている。怒りの感情が湧かない訳がない。
「ヴァイスさん、お気持ちはお察ししますが……まずは、落ち着いてください」
優しく……それでいて、確りと咎めるように言ったのはアニス・エリダヌス(ka2491)だった。
「激情に駆られるのも解ります。過去の自分がそうであったように……ですが、だからこそ……」
アニスは祈るように瞳を閉じた。
怒りは否定しない。必要な原動力かもしれないから。だけど、今は、他にも大切な事があるはずだ。
「……二の舞は、一番いけません。故人の遺志を継げるのは、生者だけなのです」
力強い意思を感じる眼を開き、アニスは宣言する。
敵討ちが目的ではなく、想いを継ぐ事が、私達のあるべき姿と。
ヴァイスは愛する恋人の姿と蒼い石を交互に見つめ……自身を落ち着かせるように、大きく息を吐いた。
蒼い石に込められた想いを、再び思い出し、大きく頷く。
「ありがとう、アニス。行こう、共に」
「はい!」
そんなイチャラブな二人を視界の中に収めながら、アルラウネ(ka4841)が呟いた。
「デレたわね……」
ヴァイスの事ではない。強いて言うならば、彼はツンデレにも該当しないと思う。
紡伎 希(kz0174)が持つ【魔装】――ネル・ベル(kz0082)――の事だ。
ネル・ベルは傲慢の歪虚だ。そして、これから戦うメフィストもまた、傲慢に属する歪虚だ。
本来は敵同士という事にならないはずなのに、ノゾミという従者の為にネル・ベルは戦う事を選んだ。それまで、ノゾミの事などあまり気にしていない様子にも見えたのにだ。
「つまり……ネルさんは、ツンデレですね!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)がハッと気がついて、そう言った。
イケメンでツンデレという意外と濃い人……歪虚のようだ。もっとも、アルマは人間体を見た事はないのだが。
「なんだかんだ言って、ノゾミちゃんには甘そうだし」
「僕もお友達になりたいです!」
率直なアルマの言葉にアルラウネは苦笑を浮かべた。
正直、あの歪虚のお友達というのが、なかなか、想像できないのだ。
「……まぁ、その為にも、メフィストは倒さないとね」
アルラウネは射殺すような視線を歪虚へと向けた。
強敵であるのは間違いないが、ここに集まったハンター達は、彼女が知る限り、歴戦の強者達である。十分、勝機はあるはずだ。
「そうでしたね……」
アルマの目つきがみるみる変わる。
怒りに満ちた瞳は紅く染まっていた。彼にとっては因縁ある相手とも言えるだろう。
因縁があるといえば、瀬崎・統夜(ka5046)も同じである。
「メフィスト……悲劇は繰り返さないっ!」
“あの戦い”で彼はメフィストと対峙して……敗れた。
ただの負けではない。身も心もズタボロにされた――それは、彼だけではなく、同行したハンターも。そして、逝った騎士を知る者も。
「今度こそ、『勝利を我が手に!』この地で、行き止まりとしてやるよっ!」
瀬崎は特別な白銀の魔導銃を構え、走り出した。
まずは、メフィストと対峙している希と合流する為だ。さすがに、【魔装】武器を持っているとはいえ、危険過ぎる。
それはハンター達全員が認識している事であった。
Uisca Amhran(ka0754)と星輝 Amhran(ka0724)は二人揃って希へと向かう。
「イケメンさんは、『ノゾミちゃんを守る』って約束、守ってくれましたね。私達もそれに報いましょう」
「そうじゃな。角折の期待以上は見せつけたいしの」
妹の言葉に、星輝は真剣な眼差しのまま、そう言った。
ネル・ベルとは、とても長い付き合いになる。幾度か武器を交えた事もあれば、共に戦った事もある。
「奴は、人の強さを認めておる……メフィスト相手に戦うという選択も、わしらの強さを認めるが故にだろうからの」
胸の傷が僅かばかり疼いた気がしたが、星輝は顔に出さなかった。
「イケメンさんが誇った人間の強さ、お見せしますっ!」
「手筈通りいくかの、イスカ」
“あの戦い”の再戦が始まった。
●戦闘開始
マテリアルの糸が伸び、それに引っ張られるようにアルトはかなりの距離を一瞬で詰めた。
「アルト様!?」
だから、希が驚くのも無理はない。
「希君は戦いやすい位置に下がって」
「はい!」
魔導剣弓を形取っている魔装武器が射撃モードへと変わる。
後方に下がって射撃での戦闘を行うつもりなのだろう。
希が下がりだしたのを見て一安心する星輝。注意をメフィストへと向ける。
(ロノウェを出さぬ……わふーの魔法攻撃を物ともせぬ……ダメージがない体……コヤツ、核型か?)
“あの時”の戦いを思い出していた。
今回はメフィスト以外に敵は居ない。
(ロノウェは魔力で生み出す分体の様な物、与えられた一能力しか使えないとするなれば……)
複数のそれを【変容】で覆わせているのではないかと星輝は推測していた。
その推測が正しいかどうかは、これから戦いの中で分かるだろう。
Uiscaも同様に注意深く観察していた。
(……違和感なのでしょうか?)
核のようなものがあるのか、あるいは弱点はあるのか。
強烈な負のマテリアルを放っているのは前回と変わりはないが……。
「メフィストの【強制】には注意だ。冷静に強い意思を持って抗うぞ」
ヴァイスが周囲のハンターに呼び掛けながらバイクを走らせる。
これまでの傲慢歪虚との戦いで【強制】には単体に掛けるものと広範囲に掛かるものと二種類あると分かっている。
それらはハンター達が多くの犠牲の上で知り得た教訓だ。
「気を付けないとね……」
唇を固く閉じて、気を引き締めるアルラウネ。
彼女もまた【強制】に掛かった事があったからだ。幸いにも仲間に抱き着くだけで惨事には至らなかったが。
対峙するメフィストは甘くはないだろう。
「……フィスト……メフィスト……」
ブツブツと何か言いながらアルマも前線へと向かう。
ただ移動しているだけではない。マテリアルを練りながらだ。
さすがに【懲罰】がある為、最大火力……という訳にはいかないが、それでも、人なら吹き飛んでしまう威力をアルマは誇っている。
「ベリト……いえ、メフィスト。最早、人前で着飾る気もないのですね……醜悪な姿です」
アニスが王都での防衛戦の事を振り返っていた。
メフィストが【変容】していた姿と比べれば、今の姿は彼女には醜悪に映るのだろう。
蜘蛛のような顔に嫌悪感を覚える。
一行の最後尾を行くのは瀬崎だった。
彼は猟撃士である。急いで前衛に向かう必要もない。むしろ、戦況を見極め、必要な攻撃や援護が求められる。
「瞬間移動には気を付けなければな」
仲間の話だと傲慢歪虚であるネル・ベルは瞬間移動を使ってくるという。
それが、ネル・ベル固有の能力なのか、それとも傲慢歪虚が使える能力なのかは分からないが、警戒する必要はあるだろう。
ハンター達が其々、前線に向かってくる間、既にメフィストに対峙したアルトはメフィストに対して斬りかかっていた。
その初撃、メフィストは避ける様子すらも無かった。
手応えを感じた直後の事、アルトの周囲に負のマテリアルの刃が幾つも出現。【懲罰】なのだろう。圧迫してくる負のマテリアルをアルトは強い意思で吹き飛ばした。
「人間如きの攻撃でダメージを食らったと宣伝したいのか」
「その程度で、この私を挑発しているつもりですか」
【懲罰】を使わせないように誘導しようとしたが、通じてはいないようだった。
負のマテリアルに対抗できれば影響を受けない【懲罰】のようだ。これなら、精神力を高める事ができれば……。
「イスカ、準備は良いじゃろうか?」
「はい、キララ姉さま!」
二人の巫女が胸いっぱいに空気を吸い込む。
最初は歩くような足取りから、徐々にその動きは水面を流れるようなステップへと移る。
そして、穏やかに静かな歌が重なった。ただの歌ではない。奏唱士としての力だ。
前衛と後衛に分かれ、全員が【強制】【懲罰】に対抗する。
そして、同時にメフィストの弱体化を図る――それが、二人の巫女の狙いだった。
「これが龍の巫女、神楽歌の多重奏の力なのですっ!」
歌の援護が響き渡る中、アルマの魔法も完成しようとしていた。
「……お久しぶりです、メフィストさん。次はこのヒトたちですー?」
しかし、アルマの声が聞こえていないのか、あるいは返事をするつもりが無いのか、メフィストからの反応はない。
もっとも、アルマとしても反応を求めている訳ではない。
「――殺ス」
身の毛もよだつ雰囲気を発して彼の台詞にはありったけの殺意が込められていた。
紡ぎだされた光の三角形から伸びる筋。それが真っすぐに憎き歪虚へと放たれる。
メフィストはまたもや、避けようとしなかった。ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
光の筋が直撃した直後、アルマの周囲に出現する負のマテリアルの刃。だが、それらは二人の巫女の唄の力により、か細く、弱まっていく。
「【懲罰】に抵抗できるみたいね」
アルラウネは刀を構えた。
位置を調整して次元斬を放つ。それをメフィストは“避けた”。
「どうやら、【懲罰】の為にワザと当たっていたようだな」
銃撃を放ちつつ、瀬崎がそう分析した。
身体能力の高さは分からない。前回の戦いでも、微動だにしなかったからだ。
しかし、【懲罰】が怖くなければ、後は攻撃をひたすら叩き込むだけだ。
矢を番えたまま様子を見ている希にアニスは声を掛けた。
「こんな形ですが……ようやく、会わせることができました」
「アニス様……ヴァイス様……」
希は視線を赤毛の戦士へと向けた。
あの時、王都近くの林の中で出会った時から続く、縁だ。ヴァイスはポンポンと希の頭に手を乗せた。
「希……無茶をするな。俺達には繋いでいく“想い”があるはずだ」
「はいっ!」
魔導剣弓を握る手に力を入れた。
その様子に微笑を浮かべてアニスは頷く。
「皆で、一緒に帰りましょうね」
「希を頼む、アニス」
それだけ言い残し、ヴァイスは槍を構えながら前へと出た。
頼もしい背中だと思いながら希はマテリアルを高めたのであった。
●接戦
「高貴なる私の命に従い、殺し合え」
そう言いながら、メフィストは周囲に負のマテリアルを発した。
傲慢歪虚の特殊能力【強制】だ。抵抗できない者は、強制的に命令を実行することとなる。
「そんなもの通じないわ」
わざとらしく不敵な笑みを浮かべてアルラウネが挑発する。
二人の巫女による唄の力は絶大だった。【強制】も【懲罰】もハンター達には通じてない。
星輝が唄の間、踊りを続けながら、ネル・ベルに呼び掛けた。
「ネルや、魔力の濃い部分は解るかや? どこかじゃと思うが……」
「そんなもの、単体という認識しか分かる訳がなかろう」
魔装武器から返ってくる返事。
同種であれば何かわかるかと思ったが、そうではない様子だ。
(……ロノウェが寄り集まっているという可能性は無いのじゃな)
核のようなものがあればと思ったが、そうではないらしい。
「後衛に瞬間移動して飛んでくる可能性もあります。十分に注意を」
Uiscaが大きな声で注意を促した。
隊列が崩れると面倒な事にもなるのもあるが、警戒しているとメフィストにも伝われば牽制にもなるだろう。
万が一、後衛に瞬間移動してきたとしても、その時は魔法で攻撃するつもりではあるのだが。
「……我らの願いを、我らに救いを、彼の者に光を、彼の者に聖なる輝きを!」
光り輝く弾がアニスの詠唱と共に出現。
高速で飛んだそれはメフィストへと向かった。同時に、瀬崎が放った光の弾丸が不可思議な軌道を描いて、立て続けに歪虚を襲う。
それらを避けようとした歪虚の動きが一瞬、揺らめいた。希が放った牽制射撃だった。
「それでいい、避ける先に置く様に頼む」
「はい、統夜様」
見事な連携の攻撃……だが、ことごとく、メフィストは避けきった。
「前回は避ける風には見えなかったのに! ずるいです!」
そんな叫び声をあげたのはアルマだった。
いかに強力な魔法であっても、当たらなければ意味がない。
「ありがたく思いなさい。この私の本気を見せているのですからね」
余裕めいた言葉をメフィストを発した。
傲慢歪虚はその特殊能力に大きな脅威があるのは周知の事だ。だが、その対策を取ったとしても、それは、“傲慢歪虚の前に対峙する”という最低限の事に過ぎない。
相手は『死を刈る蜘蛛』メフィストである。少なくともベリアルと同格以上の力を持つ存在。素の能力が低い訳がない。
「なるべく、攻撃を重ねるしかないな」
アルトの素早い連撃すらも避けられてしまう。運がよければ当たるか……という程度だろうか。
同時攻撃を重ねて誰かの攻撃が当たれば……という事だが……。
「接近戦では明らかに、アルトの攻撃を優先して避けているな」
槍先を繰り出しながらヴァイスは言った。
ハンター達の攻撃力の中で、アルトが最も脅威だと分かっているのだろ。
【懲罰】を使う為に、攻撃を受けたのは、『一番警戒しなければいけない者』を見定める為でもあったようだ。
「思った以上に狡猾ね……」
悔しそうに呟くアルラウネ。彼女の攻撃力は低い訳ではない。しかし、メフィストにとっては直撃しても気にならないようだ。
これでは、幾ら同時攻撃を繰り出しても、相手に“優先して避ける意図”があれば意味が低い。
そういう意味では、がむしゃらに襲い掛かってくる歪虚の方が、まだ組み易い。
「ハンターを倒す方法を的確に突いてくるという事じゃろう」
星輝がそう言った時、メフィストが両手を広げた。
何か仕掛けてくる――そう思った直後、負のマテリアルが雲のように一帯に広がった。
「チッ……だが、意味は無いようだな」
一瞬、身体が重くなって視界が狭くなり、驚きはしたが、あっという間に雲が晴れていく。
身体に圧し掛かる重さも外れた。二人の巫女が唄う歌によって、流されていったイメージだ。
恐らく、行動阻害系の魔法であったはずだ。【懲罰】【強制】に続いて、厄介な攻め方をしてくるが、今の所、ハンター達に影響はない。
「……仕方ありませんね」
メフィストが不気味に笑うと、天に向けた両手に負のマテリアルを集めた。
片方は燃え盛る炎を。もう片方には漆黒の闇を。そして、ハンター達は知った。特殊な能力を使わなくとも、メフィストは素だけで、自分達を圧倒できるのだと。
●死闘を越えて
放たれたのは広範囲に広がる炎の魔法と直線上を薙ぎ払う闇のレーザー。
その一撃は極めて強力であった。また、双方ともに範囲が広く、避けるのも困難だった。多くのハンターが傷つく中、アルトは平然としていた。
「ボクには通じないよ」
「さすがじゃのう……」
星輝が苦しそうな表情を浮かべながら、それでも歌舞を続けていた。
回避する能力を大幅に減少させる範囲魔法は、強力無比である。
「意地でも負けないわ!」
膝を地についたアルラウネが気合の声と共に立ち上がると、刀を構えた。
こちらの攻撃は届いているのだ。僅かにしかダメージが与えられないとしても、積み重ねればいい事だ。
直線上を薙ぎ払った闇のレーザーは後衛まで届いていた。
すぐさま回復魔法で仲間を癒すアニス。
「でも……これは……」
明らかに回復量が追い付かないと判断した。
ファーストエイドと併用しても追いつかないのだ。立て続けに撃ち込まれ続ければ、耐えられる保証はない。
「痛いですよ! 倍返しです!」
「全員で合わせるぞ」
アルマと瀬崎、そして、希の3人が同時に攻撃を放った。
魔法と銃弾と矢。さすがにそれだけあれば避け損ねたのか、直撃した。
「当たったです!」
もっとも、メフィストの回避行動をアルトが牽制していたのだが。
しかし、それでも確実に当てられるという保証は無い。
「……動きが俊敏過ぎるなら鈍らせるしかない。アルト、行けるか?」
ヴァイスの台詞にアルトは頷いた。
「当然だよ」
その返事と共にヴァイスは全身から炎のようなオーラを発した。
威圧によって相手の行動を阻害する、闘狩人の能力だ。
「うおぉぉぉ!」
雄叫びと共に黒い炎に包まれた槍を突き出す。
同時にアルトの目にも止まらない連撃。
「たかが、人間が!」
二人の攻撃を受けたメフィストが怒りの声を挙げた。
今まで余裕めいていたのにも関わらず。
「有効打という訳じゃな!」
「忌々しい唄だ!」
ギロリと星輝を睨んだメフィストは立て続けに魔法を行使する。
歪虚の頭上にいくつもの炎の塊や闇の塊が出現した。あれ全てが先程の魔法と同様だとすれば……恐ろしい事だ。
「ヴぁっくん!」
アルラウネが大技で隙が出来たヴァイスを庇った瞬間、放たれるメフィストの魔法。
その連続魔法で星輝とアルラウネが吹き飛び、立ち上がる事は無かった。
「Uiscaさん! 前に行って下さい!」
回復魔法を続けながらアニスが叫んだ。
前衛で歌っていた星輝が脱落したからだ。歌による援護がなければ、前衛が保つのは難しいはずだ。
その間にもメフィストに対してアルマや瀬崎からの攻撃が放たれる。
Uiscaが歌いながら前に出た直後の事だった。今度は後衛が狙われた。その中心は……。
「まだ、まだ、撃つ……の、です……」
アルマだった。強力な魔法を撃っていた事が狙われる要因となったのだろう。
堅い防御と、彼の無事を祈った者達のマテリアルリンクが無ければ、命すら危なかったに違いない。
「希……」
大地に横たわりながら、瀬崎は緑髪の少女の名を呼んだ。
少女もまた、無事を祈る多くのハンター達の想いにより、命には別条はないようだ。
「ここで、終わるかよ……」
周囲を見渡すと回復魔法で戦線を支えていたアニスも倒れていた。希を庇ったようだった。
自身もそうだが、マテリアルの祈りによって、助かられている。このまま終われるはずがない。無事を祈った仲間達の為にも、必ず勝って帰るのだ。
後衛が壊滅している間、ヴァイスとアルトの二人の猛攻は止まる事は無かった。
かなりのダメージを与えている実感はある。正しく死闘。満足に立っているハンターは3人しかいない。
惜しい事があるとすれば、回復手段がもっとあれば別だったかもしれない。もはや、後は力の限り攻撃するのみだ。
「今一度、全員の攻撃を合わせるぞ!」
ヴァイスが叫び、全身の力を振り絞る。
炎気を放つマテリアルは枯渇しつつある。これが最後のチャンスだし、生命力を攻撃力に転化もしているので、次の攻撃を耐えきる事は難しい。
「つまり、それを凌げば、私の勝ちですね」
メフィストがニヤリと不気味に笑った。
耐えきれる自信があるというのか。
ヴァイスの一撃が入る直前、Uiscaが魔法を放った。光の波動による強力な魔法だ。
「これが繋いできたソルラさんや騎士の皆さんの想いっ。貴方を倒し、この王国を守ります! 我らに、勝利を!」
その波動をメフィストは無視した。あくまでもアルトの攻撃を避けるつもりのようだ。
ヴァイスの繰り出した穂先をワザと腕に当てて受け止めながら、余裕の表情でアルトの連撃を避けようとしたその時だった。
「くらえ、蜘蛛野郎!!」
瀬崎が地に伏せながら放った最後の弾丸は、光跡を残しつつ、メフィストの脚を貫いた。
予期もしない一撃がメフィストの表情に影を落としたように見えた。
その一瞬をアルトが見逃すはずがない。
「最後だ! メフィスト!」
残された全ての力を出し切って、連撃で歪虚を切り刻む。
ゴトリと、メフィストの身体が大地に落ちた……そして、徐々に身体が消え去っていく。
勝負は決したとアルトは確信した。友人の仇を取った瞬間だった。
「……勝ったよ」
そう呟いた時だった、もはや、顔だけになったメフィストが嘲るように笑い声を挙げた。
「この私を倒した程度で、実に滑稽だ」
「何がおかしい!」
「フハハハハハ! フハハハハハ!」
高らかな笑い声を挙げながら、メフィストは――消滅した。
●『約束』
「良かったわね。私が居て」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)が体内のマテリアルを分け与え、ハンター達の傷を癒していた。
フレッサの街で市民の避難誘導していたのだが、様子を見に来たのだ。おかげで領主の館にはコッソリ入りそびれたが。
「ネル・ベルはどうなの?」
そう言ったのは十色 エニア(ka0370)だった。
彼もまた、アルスレーテと共に市民の誘導を行っていた。
「力を出し尽くしたのだろう?」
瀬崎が厳しい視線を魔装武器に向けていた。
「救われた命もある一方で、こいつの存在に命を奪われた者がいるのも事実だ」
歪虚と人は相容れない存在。今は一緒でも何れは分かれる時が来る。
今のネル・ベルは動ける様子ではないので、トドメを刺すのは容易なはずだ。
「成長し続けてきたこいつは、確実に滅ぼしておきたいのが本音だよ。歪虚である以上、世界を滅ぼす、その本能を、その意思を、捨て去ることはできないだろう」
そう言いながらアルトは魔装を見つめる。
見れば刃こぼれが激しい。メフィストの攻撃から希を守ったのだろうか。
「故に本人に問おう、ネオーラ・ルクフェリ・フラベル。貴様は何者だ?」
「答えるまでも……ないだろう……」
絶え絶えに言葉を発するネル・ベル。その返答にアルトは希に視線を向ける。
「殺るなら、希君自身の手で行うべきかな」
「希。辛い事を言う様だが、お前がその手で決着をつけるのが良いと思う」
瀬崎も続けた。
それでも悩む希にアルマがグッと顔を近づけた。
「希さん、ネルさん好きです? なら、一緒にいて良いと思うです」
「アルマ様……でも……」
「立場が何です? お互いが何者でも、好きなものは好き、で良いじゃないですか」
何かを言いかけてそれを閉ざす希。周囲を見渡し、星輝と目が合った。
「儂は……嫌いでは、無いぞ! 諸々、妙に人間臭さがあるし、生き延びたその先にどんな姿を見せるのか興味が無いわけでもない」
「今度はキララさんがデレた」
アルラウネが笑いながら横槍を入れる。
そして、ギュッと希の身体を抱きしめた。今ここには居ないけど、きっと、希にとって大切な人だったら、こうすると思ったから。
「ノゾミちゃんが望むようにやればいいわ。私は、貴女の味方だから」
「星輝様、アルラウネ様……」
何度か頷き、希は顔をあげる。『約束』の時が来たのだ。
その後押しをするようにヴァイスが視線を魔装へと向けて静かに言った。
「あの日あの時、『ノゾミ』を助け救ったのは、誰でもない……お前だ、ネル・ベル」
王都郊外の林の中で、絶望の中にいた緑髪の少女を野党の手から守ったのはネル・ベルだった。
救おうとは思っても居なかったかもしれない。結果をして救っただけかもしれない。それでも、その後、ネル・ベルはノゾミと共に在り続けた。
「これまでの道が今、お前と希と俺達を紡いでいる。だからこそ、生きろネル・ベル。最後の瞬間まで希と共に歩み続けろ」
「……後悔するぞ。私の従者が……真に絶望する時が、来た時にな……」
「その時は、私が浄化しますよ」
Uiscaが真剣な顔つきで告げる。
そして、そっと魔装武器に手を触れた。
「貴方は、ノゾミちゃんが“希望”か“絶望”を掴むまで、ノゾミちゃんを守る必要があり、見届けるまで死ねないはずなのです」
「戦いは終わっていないという事か」
希が絶望するなら、ネル・ベルの勝ち。
希が最後瞬間まで希望を抱き続けるのであれば、ネル・ベルの負け。
戦いの旅路はまだ終わらないのだろう。
もはや、歪虚らしからぬネル・ベルの様子にアルトは興味を抱けなかった。それに、終わらない戦いの旅路はアルトもまた、同じだから。
(決着がついたよ、ソルラ)
アルトは天を見上げながら、そう呟いた。
希は魔装武器を大事に抱えた。負のマテリアルが弱弱しく感じる。
「ネル・ベル様、私は絶望しません。それを見届けて貰えませんか?」
「従者の願いを、叶えるのも……また、主としての務め。見届けてやろう」
『約束』は成った。
ずっと見守っていたアニスの肩をヴァイスは抱き寄せる。
一つの旅路が終わった。そして、ここから、新しい旅路が始まるのだ。それは希とネル・ベルだけじゃない。ここに居る全員もだ。
「あいつの物じゃないけど、あいつを模した物だから返そうと思ったけど、それじゃ受け取れないわね」
アルスレーテが苦笑を浮かべて虚纏拳甲を仕舞った。
「私の従者の為になるのであれば、偉大なる私の力、頼るといい」
ネル・ベルの返事に血相を変えたアルスレーテが希の両肩を掴んだ。
偽物だとダイエット効果が無かったが本物なら……効果があるかも……しれない。
「ノゾミ、たまに借りるわね」
「あ、は、はい……」
グッとガッツポーズを取るアルスレーテを横目にアルラウネが魔装状態のネル・ベルに告げる。
「……ノゾミちゃん泣かせたら、その時は消しに行くわね?」
「従者を、泣かせる訳が……なかろう」
ネル・ベルはそう言い返したが、苦しそうな言葉を発している。
思ったよりもダメージを受けているようだ。アルマが慌てて真横に付いた。
「僕のマテリアル使ってくださいっ。死なない程度ならあげるです。みんなには内緒ですけどー」
内緒とはどういう事だろうという声の大きさ。
唐突な発言に一行の視線が魔装へと注目する。それで助かったりするのだろうかと。
「貴様らのマテリアルを転化する……余裕は、ない」
「それって、もう、完全に回復する事は無いって事?」
エニアの質問にネル・ベルは唸って答えた。
負のマテリアルの煙と共に、人型へと姿を戻した。だが、その姿は――。
「「「えぇぇぇ!」」」
ハンター達は驚いた。
そこには子供の姿をしたネル・ベルが居たからだ。よく見ればその面影は、端正な顔だった頃とよく似ている。
側頭部から伸びている幾何学模様の角も小さい。相変わらず、片方の先端は欠けているが。
「力を失うと子供になるのか?」
「形を維持する為に必要なマテリアルを合わせているのだ」
瀬崎の疑問にネル・ベルが尊大に答えた。。
姿形は子供みたいだが、態度は変わっていないようだ。
「角折、わしよりもちっこいのう」
星輝がニヤニヤしながらからかう。
「教えてやろう。それを貴様らの言葉で、どんぐりの背比べというのだぞ」
「だとしても、わしの方が背が高いのじゃ!」
そんな二人のやり取りを見ていたアニスがギュッとヴァイスの服の袖を掴む。
「……ちょっと可愛いかもと思ってしまいました」
「それは、俺も同じだ」
そう思ったのは、きっと、ヴァイスだけでは無いだろう。
子供状態のネル・ベルをUiscaが抱え上げた。
「力を振るわずに魔装の姿でいるなら、消滅せずに済むのではないですか」
「私のマテリアルは徐々に失われている。もっとも、従者の一生を見届けるぐらいには余裕はあるがな」
それが本当かどうか分からないが、今更、嘘を言う所でもないだろう。
ネル・ベルは掴まれているのが嫌だったのか、魔装状態に戻った。
絵的に気に食わなかったのだろう。誇り高き傲慢の者が、小娘に抱きかかえられるなど。
悲しげな表情を浮かべていたアルマは、魔装武器に優しく触れた。
「ネルさん、お友達になるなら相応の存在になれって言いましたけど……魔王の卵、なんていかがです?」
「貴様らは十分、私に相応しい存在だろう」
ネル・ベルは即答した。
きっと、人の姿をしていたのならば、全員を見渡していたのに違いない。そんな間の後にネル・ベルは続けた。
「この私に相応しい人間共よ、見届けてやる。貴様らが全ての困難を乗り越える事が出来るかをな」
「望むところだ」
ヴァイスの言葉にハンター達は頷いた。
フレッサの街に至る街道に姿を現したメフィストをハンター達はネル・ベル、希と共に迎撃。
壮絶な打ち合いとなったが、ハンター達は競り勝ったのであった。
おしまい
●領主の館
フレッサ領主が頭を抱えていた。
手元の資料には、歪虚との繋がりが書かれていた内容。
これが表沙汰になれば、今の立場は無い。資料を抹消しようにも、ネル・ベルの後ろ盾無き今、不可能だろう。
「ど、ど、どうしろと?」
領主の視線の先には、オキナが居た。
資料もオキナが用意したものだ。
「もはや、ネル・ベルは再起不能じゃ。家督を息子に譲り、隠居するのじゃな」
「……ぐ……ぐぬぅ……」
何か案は無いかと思うが、領主はすぐに考えるのを諦めた。
「次の世代に託す。それでいいのじゃ。領主も、儂も、な……」
オキナは部屋の窓から外を眺めた。
どこまでの続く、澄み渡った、清々しい青空だった。
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最終発言 2017/10/17 01:17:01 |
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【相談卓】死を刈る蜘蛛を…… アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/20 07:20:46 |
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【質問卓】勝利をつかむために アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/18 21:40:43 |