集いし軌と試作兵装

マスター:火乃寺

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/11/09 19:00
完成日
2017/11/17 23:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ゾンネンシュトラール帝国首都、バルトアンデルス。
 軍事、文政、その他有らゆる帝国の、文字通り中央である都市。その一角に存在するのが、イルリヒト機関である。ワルプルギス錬魔院の下部組織であり、将来の仕官候補を養成する兵士養成機関。
 革命前の旧帝国では、養成機関とは名ばかりの『実験部隊(エクスペリメンテイル・アインハイト)』であり、死傷率が高すぎて卒業する者など殆ど居なかった『ワルプルギスの生贄』とも揶揄されがちな機関であった。
 革命後は忌まわしい過去からの脱却の為に改革を重ね、現校長アンゼルム・シュナウダーも生徒の命を尊重する方針を打ち出しており、本来の仕官候補養成機関としての在り方を取り戻している。その上で、錬魔院からの試作技術や兵装の実践実験や稼動試験についても、非人道的で無いものに限り正規に受託していた。

「雑魔の掃討、ですの?」
「そうだ。まあ、掛けたまえ」
 機関に勤める教導官の一人で四十台くらいの渋みのある男性は、執務机を回り、応接セットのソファへと腰を下ろす。彼は現在、割り振られた教官室に教え子の一人を呼び出し、対応している所だった。
 勧められるまま居住まいを但し、対面のソファに腰を下ろすのは歳若い少女。
 まず目に付くのは、艶やかな桃色の髪。緩やかな波を打つそれはセミロングで綺麗に切りそろえられ、ふわりと着席の衝撃に舞う。顔の造りも整っており十分に美少女といって良いのだが、切れ長の眸や細く整えられた眉がキツイ印象を与えてくる。女子にしては長身な肢体を包むのは、左右に黒と赤で色分かれた改造軍服。上は歳相応以上に胸部装甲が厚いようで、鈕の幾らかが止めきれずに開かれ、下はタイトなスカートの両端に深いスリットが刻み、そこから覗く白い足を包むストッキングを紅いガーターが吊り下げていた。

「……うむ。これを読みたまえ」
 一瞬、少女が放つなんとも言いがたい雰囲気――年齢にそぐわぬ色気――に気を外らされかけた教官は、一拍自身を落ち着かせてから、クリップに止められた用紙の束を互いの間にある卓子の上で、少女の方へと滑らせた。
「拝見しますわ」
 それから暫し、紙を繰る軽い音のみが室内を支配し、やがて再び教官が口を開く。
「資料にあるように、帝都へ物資を輸送する街道の一つに巨大な雑魔が出現した。本来ならば軍が対応する所なのだが」
「現在、帝国軍は総力を上げての精霊、英霊の捜索及び保護、或いは敵対的対象への対応に奔走していますものね。それで、雑用がこちらに巡ってきたと」
「オヒム候補生、今の言は聞き捨てならん。輸送路の安定と保全は帝国軍人の責務である。……まあ、今回は軍も手が足りん上の、臨時措置であると心得たまえ」
「ハッ! 失言に謝罪と訂正を申し上げます。…それにしても、ハンターを傭って対処に当たれとは、よろしいんですの?」
「ああ、それはな……これだ」
 教官の胸ポケットから、折りたたまれた一枚の用紙が取り出され、それがオヒム候補生の前に滑って来る。
「……なる程、ワルプルギス……あの腹黒どもからの試作兵器試験運用も兼ねて、ですのね」
「そうだ。試作の増設型魔導補助エンジン、本来のエンジンと連結する事で、ユニットの出力を軒並み10%上げられる――と奴らは自慢げに吹聴して居ったがな」
「稼動実験はこちらに丸投げですのね。相も変わらず、口と頭は達者です事」
 イルリヒト機関に所属する者達それぞれにワルプルギス錬魔院への評価は異なるが、少なくともこの場に居る二人にとっては、余り好ましい相手では無いらしい口ぶりであった。
「ともあれ、そう云う事だ。既にハンターズ・ソサエティには依頼を出してある。オヒム候補生は本日を準備に宛て、翌朝、帝都のソサエティ支部に置いてハンターと合流、任地に出立したまえ」
「はい、教官。クワンナイン・オヒム候補生、雑魔掃討任務、拝命いたします」

リプレイ本文

 帝都の一角に存在する、ハンターズ・ソサエティ支部。その建物は武を重んずる帝国に相応しい、質実剛健な佇まいであるが、中に入ってしまえば他の支部と内装はそう変わらなかった。
 そこにあるミーティングルームの一室で、イルリヒト機関から派遣された候補生と、依頼を受けたハンター達が一堂に会する。

「まずは、今回の依頼への協力に謝辞を申し上げますわ。私の名はクワンナイン・オヒム(kz0244)。イルリヒト機関、士官候補生の一人であり、クラスは機導師(アルケミスト)。今回の依頼に帯同致しますので、お見知り置きくださいませ」
 艶やかな頬笑みと声音で、そう告げる少女はまだ若々しく、されど過剰の色気を放つ存在だった。特に胸部装甲辺り、集まったハンターに男性が多ければ、目に毒であったかもしれない。一礼した時にたゆんと揺れたし。何とは言わないが、サイズを信仰する一部女性にも毒かもしれなかったが。
 ちなみに士官とは、帝国軍では兵長以上からを指す。

「オヒムさんだね、こちらこそよろしく! 私はクレール・ディンセルフ(ka0586)よ。それにしても試作補助エンジンか、錬魔院も色々やってるのね」
 茶髪を後方で纏め、蒼い眸の女性が朗らかに笑って名乗り、それから卓上に配られた『試作魔導補助エンジン』の仕様書へと真剣な目差を投げかける。鍛冶師の家系に生まれた故か、機導師だからか、こう云った物に対する造詣もあった。

「ミグは、ミグ・ロマイヤー(ka0665)じゃ、よろしくのう。ふむ、試作機のテストを外注に丸投げとは、錬魔院も質が落ちたものじゃのう」
 一同で尤も小柄な、一見幼女で実は子を数人儲け、更に孫までそれなりにいる最高齢のロリバげふん……女性はドワーフ族出身らしい。軍服のような服装を纏い、背中に金髪の巻き毛を揺らしながら右腕義手の指先で右目の眼帯を軽く指先で叩き、嘆かわしいとばかりに漏らす。
 かつては帝国技官だった過去を持つ身としては、人手が足りないのだろうという事を勘案しても、その風潮は納得しがたい物がある。尤も、本来関わる事のなかった新規の技術にこうして牴れられる事については望ましく、仕様書に向ける視線は好奇心と欲求という輝きを宿していた。割と欲望には忠実なババもとい女性である。
「質が落ちた、ねぇ……」
 ミグの言葉に、多分に含む所がありそうなオヒムの呟きにチラリと視線を飛ばすが、反応は控える。組織間のごたごたに首を突っ込む趣味は彼女には無いのだから。

「歪虚の勢力も増してるし、魔導アーマーの強化も急務だからな……まぁそんな理屈抜きに、新しいもんはいいもんだ!」
 そう言って笑顔を見せるのは、一見華やかな少女にも見える外見の人物。オヒムはチラリと手渡されていたハンター達のプロフィールへと目をやる。その性別欄は『男性』。
「あ、よろしくな、オヒムさん。オレはレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)。どっちかというとアッチ側だけど、仲好くしてもらえればうれしいな」
「仲好く出来るかは、相性次第かと思いますけれど……今回は、そう努めましょう」
 改めて正面にレオーネを見る、女性用のエプロンドレスのような物を着込んだ姿は、とてもとても良く似合っていた。彼女は、目前の現実を受け入れる。軍人とはそうあるべき故に。

「初見じゃのう。妾は蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)じゃ。オヒムはこれに」
 オヒムと同様に桃色に、しかし金燐を宿す様な髪を靡かせた和装の似合う女性が、ふっと小首を傾げ、紫煙を燻らせる愛用の煙管から唇から離し、その腰でトンと卓上の仕様書の一角を叩く。
「なにやら、気が進まぬといった風情じゃが。何事も、愉しめば良いのじゃよ。軍人とは頭が硬うてならぬな」
 そう言ってくすくすと笑みを零す蜜鈴に、オヒムは肩を竦めて返す。
「頭の緩い軍人でも信用されるのなら、それも良いのですけれど。現実は中々如何して、ですわね」
「さてさて、ままならぬ物じゃのう」

「俺はケンジ・ヴィルター(ka4938)だぜ、よろしくなー。あんたは、あー、お嬢でいいか?」
 飄々とした物言いの青髪に小麦色をした肌の青年が、ひらひらと手を振って寄越すのにオヒムはにっこりと笑みを返す。
「ずいぶん馴れ馴れしいとは思いますけれど、構いませんわよ」
「ははっ、なんかおっかねー性格してそうだけれど、言質は取ったぜ」
 笑みと苦笑が向かい合うが、別に険悪な雰囲気になったわけでもない。ハンター同士の軽い戯れあいとして、互いに慣れた物である。ちなみに如何でもいい事ではあるが、一同で唯一同等の上背を持つのがケンジだけだったりする。オヒムは女性としてはかなり背が高い。

「ワシはディヤー・A・バトロス(ka5743)じゃ! クワンナイン殿? それともオヒム殿じゃろうか?」
 たたっと軽い歩調で近寄ってくる少年は、愛嬌のある笑顔の中で赤い眸に一見無邪気な好奇心を宿して、そう問いかける。
「オヒムの方で構いませんわよ。私もバトロス殿と。その独特の衣装は、辺境の出身ですのね?」
「うむ! 似合うておるじゃろ?」
「ええ、可愛らしくて、お似合いですわ」
「じゃろっ、じゃろ!」
 初対面でありながら物怖じしない少年に頬笑みかけ、身を屈めて彼の銀髪の一房をオヒムは指で抓み弄る。
「その愛らしさが素のままであったのなら、もっとよろしかったのですけれど」
「ん? 何を言って居るんじゃ?」
 目を細めて笑いかけるオヒムに、訳が分からないとばかりにこてんと首を傾げるディヤー。とはいえ外面は平常心を維持したが、内面では若干引いていた。
 この者に油断してはならぬ、したらきっと喰われると。色んな意味で。肉食獣の気配を感じ取った故に。


「――では、試験運用に協力してくださる機体は三機、ディンセルフ殿の『ヤタガラス』、インヴェトーレ殿の『渡り鳥の騎士』、ヴィルター殿の『ファルコンアイ』、これで間違いありませんわね?」
 オヒムの最終確認に、集った一同は首肯で返す。
「これに私の『ディアブロ』を加えて四機。検証データの数としては十分ですわね」
「うむ、ミグも正直に言えば載せたかったがのう、試作機にトラブルは付き物じゃ、ここはフォローに回るとするのじゃ」
「ワシも料理ならともかく、兵装ではデータは取れぬ! アホじゃしの!」
「何事も楽しまねば損と言うものよ。援護はしようて、好きに遊んでおいで」
 ミグとディヤーと蜜鈴、それぞれの言葉に頷きつつ、オヒムはディヤーに首を傾げる。
「そこでどうして料理が出てきますの?」
「姉弟子のせいじゃな!」
「……なるほど?」
 取敢えず、気にしない方向で彼女は納得する。
「データ取りはバッチリ任せてね! レポートもしっかり纏めるから!」
「オレの方も任せとけ、こう云うのは得意だぜ!」
「俺はそっちの二人ほど詳しくはないが、機体のログデータを提出すればいいんだろー? 纏めんのはお嬢に任せるぜ」
クレール、レオーネ、ケンジにもオヒムは首肯してみせる。
「お二人のレポートには期待させて頂きますわ。ヴィルター殿も、それで構いませんわよ。元々は一人で全てを纏める算段でしたし、そちらのお二人の分が楽になりそうですもの」
 そこから幾つか戦術の要点をすり合わせ、ミーティングは終了する。
「現在、ソサエティの整備ガレージで試作補助エンジンの搭載と連結のテストを行っていますわ。それに半日ほどの時間を予定しておりますので、出発は昼から。機体や幻獣の足を揃えた計算で、当地までは一日半。野営を一度挟む事になりますわ」
 資料を片付け、立ち上がるハンター達に向かって必要事項をオヒムが伝達する。
「必要な資材、食糧は軍の支給品で賄いますので、皆さんは特に準備も必要ありません。再集合はガレージに1200(ヒトフタマルマル)、昼食等はその前に済ませて置いてくださいませ」
 そうして予定時刻まで、それぞれに時間をすごした後、一向は現地に向けて出立したのだった。
 道中、特にイベントは起きなかったので割愛する。


 遠目に見える、村落の廃墟。
(うっへえ……廃村に浮かぶ巨大集合亡霊ってまんま、完璧にホラーじゃんか)
 そこから幾らか離れた、荒れた廃墓地の低空に漂う巨大な影を貸し出された双眼鏡越しに、その鋭敏な視覚に捉えたケンジが内心で呻く。今が未だ昼間だからマシだが、これ夜中であればよりインパクトが増しただろう事は、疑惑うべくも無い。
「それで、どうですの?」
 彼の機体、『ファルコンアイ』の後方に位置したヘイムダルの面影を残す赤い魔導アーマー。その外部スピーカーから聞こえるお嬢の声に、見えないだろうがコックピット内で肩を竦めて通信機で答える。
「少なくとも外見から核の数は把握できそーにないぜ。てか、霊体って色がつくのかよ」
「属性持ちなら、よくある事ですわ。アレは色々集まりすぎて、どす黒くなっているんじゃなくて?」
「ご明察。ヘドロみてーな気持ちわりー事になってるぜ」
「報告に在りましたもの。実際に確認も出来た事ですし、後は動くのみですわ。試験運用各機は補助エンジンのメインへのリンク開放、マテリアル励起確認後、戦闘稼動に移行を」
「あんなのが輸送経路に陣取られちゃ困るモンな。きっちり雑魔退治と行きますかね、相棒!」
 『ファルコンアイ』のコンソールに軽く拳を当て、ケンジの機体が飛び出す。
 併せて各人からの応答に、雑魔討伐戦が開始された。それぞれに事前打ち合わせの配置で散開、魔導アーマー、魔導CAM、天翔ける幻獣が目標へと距離を詰める――。

 距離五十、反応なし――。
「まずは喰らうがいいのじゃ!」
 ミグの機体、『ハリケーン・バウ・C』に搭載されたミサイルポッドから八連装弾頭が次々と尾を引いて飛び出し、遥か前方の雑魔霊体部に着弾。しかし衝突により爆裂する事無く、内部へと飲み込まれていく。
「霊体に物理攻撃は効果が望めませんわ。魔法でも一時的に散らす事が可能なだけですもの」
 レオーネのスキルによって強化された各々の通信機器に、オヒムの声が明瞭に響く。
「おいおい、それじゃどうやって倒すんだ?」
 ケンジがそう疑問を呈した瞬間、霊体の内部から衝撃が伝播し、一部が押し退けられて黒煙が立ち昇る。
「亡霊型の核は、必ず何らかの実体を持った物質でなければ成り立ちませんの。要はそれに当てれば」
「物理兵器でも通用するって訳ね!」
 クレールの『ヤタガラス』搭載の対空砲が放たれ、目標に突き刺さる。だが効果のほどは外部からはいまいち判然としない。
「そう云う事ですわね。ただ、霊体部が接触感知式のセンサーみたいな物ですし、あの巨大さなら内部で避けられる可能性も高くてよ?」
「了解っと!」

 距離四十に踏み込み、対象の敵対反応を確認。
 色とりどりの属性魔法弾が、この時尤も突出していた『ファルコンアイ』に突き刺さる。
「ちぃっ!」
 ガントレットシールドのマテリアルの輝きが、着弾の度に薄れ、機体内部にも衝撃となって伝わってくる。
「……思っていたよりも、軽いじゃねーの?」
 数は力とはいえ、所詮は雑魔の火力。十全に装備を整えられたハンター達の機体にとって、それは脅威となり難いようだったが……補助エンジンによる出力強化が合わさって、『ファルコンアイ』へのダメージは軽微に済んでいた。
「禄……おんし等の墓も……いや、言うまい。それに……今はその名はおんしのものであったな」
 遠目に見える墓地の情景に何かを套ねる蜜鈴。それをかき消すように頭を振ると、彼女の騎士たる幻獣の背をそっと撫でた。

「凄い、機体の各性能が軒並み上がってる! これが完成すれば、かなり強力な兵装になるわね!」
 元々がかなり鈍重な機体であるヘイムダルを基にする『ヤタガラス』コックピットで、補助エンジンの効果にクレールが驚きの声を上げる。
「確かに凄いぜ、こいつは! だけど、仕様書を見てから何か引っかかってるんだよな?」
「そなたもかえ? ミグも、はっきりとせんかったが同意見じゃの。出力を高めたはいいが、その分どこかに負荷が掛かっておるやものぅ。用心するに越した事は無いのじゃ」
「確かにね」
 レオーネの危惧に、ミグが警戒を促し、クレールもまた同意する。現状は未だ異常は見受けられないが……。

 距離三十――。
 『渡り鳥の騎士』のマテリアルレーダー圏内に集合亡霊を捉える。
「起動っと!……って、多すぎだぜ!?」
「幾つあったんじゃ?」
「データは送ったぜ! ざっと百以上!」
 レオーネの返答と同時、『騎士』から放たれる六連装弾頭が目標へと吸い込まれて、内部で爆裂を開く。
「多いのじゃ?!」
 驚くディヤーの声を聞きながら、照準に調整、修正を掛けるクレール。固定脚としてのテールが展開、マテリアル充填が臨界に達する。
「烏合の衆……とは良う言うたものじゃ……」
 紫煙を吐き出しながら呆れた声を漏らす蜜鈴。『ヤタガラス』を抜き去り、彼女の騎士たる天禄とディヤーの駆るきらびやかな機体、『ジャウハラ』が先行する。
 その二体の頭上、青白い光線が空を割き、霊体に命中後、貫通して背後へと抜ける。
「よし、幾つか潰したわ!」
 成果にクレールが声を上げた瞬間、それは訪れた。

「ひっ!?」
 誰かが、短く悲鳴を上げる。一瞬にして上空を覆いつくす、亡霊の群れ。その展開は生理的嫌悪を齎すような光景を伴っていた。例えるなら、親蜘蛛の腹の中から湧き出す子蜘蛛の群れ、或いは孵化した蟷螂の子が卵を覆っていた殻から一斉に吐き出される様子に似て。
「来よるぞ」
 直後に空間を圧して乱舞する、色とりどりの光線。
『舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ』
 直前に蜜鈴が放った魔術が対抗して虚空に大輪の華炎を開き、属性弱化に位置する核を幾つか焼き払う。
「やらせんのじゃ!」
 盾となって『ジャウハラ』が展開する『マテリアルカーテン』が自身と『ヤタガラス』を覆い、光線の殆どを弾く。一部が減衰しながらも貫通してきたが、負ったダメージは微々たる物だった。
「むー、ワシもそうじゃが、数が揃って居るから強気かの? 減らせば逃げ出したりしての」
「一応気にしておこうか」
 この規模になるまで発見の報告が齎されなかった雑魔だ。可能性が無いとは言えない。ディヤーとクレールの会話に、他の者達も想定される状況を追加しておく。

 空を天禄が翔け、或いは蜜鈴自らが魔力による障壁で光線を防ぎながら、天を覆う亡霊の姿に目を細める。
「これだけの数が雑魔と化すほどに、想い残した墓があったとはのう……」
 ただ想いを、恨みを残しただけでは雑魔は発生しない。マテリアルのバランスを崩壊させるほどの魔法公害こそが、尤も深刻な問題だった。とはいえ、今この場でハンター達が取りうる対処は決まっている。
「恨みは無へ、御霊は空へ、返してやろう……想いは妾が、受け止めようて」

 そして、試作兵装の欠陥もついにハンター達へと牙を向く。
 最初に発生したのは、ケンジが駆る相棒、『ファルコンアイ』。
「うおっ!? 何だ、急に動かなく――!」
 目前に集合状態の亡霊を捉え、マシンガンを構えた直後だっただけに、その隙は大きい。幾ら威力が低いとは言っても、防御も何も出来ない状態で喰らうというのは、思わず肝が冷えても仕方が無いだろう。
 降り注ぐ属性弾に、辛うじて稼動する脚部で後退を計るも間に合いそうもなく。
 しかし直撃の寸前、緑の機影がケンジの眼前に滑り込み、その大盾を展開する。
「今の内に下がるのじゃ! 後方に防御陣地を構築しておる!」
「助かった、お言葉に甘えるぜ!」

 更に『ヤタガラス』も。
「うぇ!? 止まった!? 各部のマテリアル供給率が軒並みダウン!? 何やったらこんな事になるの! このっ、機爆破――っ!!」
 コックピット内に表示される機体状況に思わず愚痴から続けてスキルを叩きつけ叫ぶクレール。しかし機体に対するマテリアルそのものの流れに異常が発生している為、スキルを介するマテリアルも阻害され、対処が通用しない事が確認出来ただけだった。
「効果なし! という訳で助けてー!」
 運悪く降り注ぐ散開時の光線の雨が機体の装甲を浅く削り取っていく。尤も、警戒していた蜜鈴とディヤーがその殆どを華炎を用いて相殺し、或いはマテリアルシールドで受けたので被弾は極小にて済んで居たが。
「やっかいよな、不調直後にはヒールもアンチボディも通らぬとはのう」
「でも少し時間を置けば効果はあるようじゃ!」
 無駄射ちになった一度目のヒールの後の確認で、それも実証され、後のクレールが提出したレポートにも記載される事になる。

 オヒムが駆る『ディアブロ』もまた、欠陥の発生に見舞われる。以前試験運用を済ませたまま搭載していたマテリアルカノン(スペルランチャーの旧式試作型)へ充填していたマテリアルが突如霧散し、各部の稼働率が最低限まで低下する。
「あの口先ばかりの頭でっかち理論倒れ共ですわ! とんだ試作品を寄越してくださいましたわね!!」
 元々良い感情を抱いていない相手に対する為、衆々がこもった罵声が外部スピーカーから大音量で漏れ出す。
「うわっ、怒る前に下がってくれよなオヒムさん! 気持ちは分かるけど!」
 降り注ぐ光線の中を、『渡り鳥の騎士』に押される様に後退していく『ディアブロ』。

「……荒れておるようじゃな」
「だなぁ」
 肩を並べて機関砲とマシンガンの弾をばら撒く『ハリケーン・バウ・C』と『ファルコンアイ』のコックピットの中で、ミグとケンジが互いに苦笑した気配を感じ取る。
「帝国つっても、内部で色々あるみてーだな、ありゃ」
「ワルプルギスとイルリヒトかえ? ミグが技官として居った頃も、良い噂はなかったからのう……今も痼りは残ったままなのじゃろうな」
 それから再びの『ファルコンアイ』の不調。
「マジか、確率の女神サマがご機嫌ナナメだー!?」
「取敢えず落ち着いて下がると良いのじゃ」
「あいよ。まだ自力移動できるだけ、完全停止よりマシなんかな……」
 頭を掻きつつ、ミグによって再建されていた防御陣地へと機体を潜ませる。

 『渡り鳥の騎士』もまた補助エンジンの被害から逃れる事は出来なかった。
「ホントに厄介な欠陥だな!?」
「私の怒りが納得できまして?」
「いや、オヒムさんほどじゃきっと無いから……」
 『ディアブロ』が搭載する試作型障壁幕発生器(マテリアルカーテンより旧式の技術)で寄せてくる触手を弾きながら、共に後退する二機。
「……触手に巻きつかれるとか、ぞっとしないぜ」
「昔はよくエルフが、被害にあっていたそうですわよ?」
「え?」
 思わず、蜜鈴の居る方を見るレオーネ。

「あの攻撃だけは、なぜだか寒気がするのう……絶対に近寄らんぞ」
「これまで通り、纏めてふっ飛ばせばいいのじゃ! 大分数も減ってきとるし!」
「もう一息って感じだね!」
 時間経過と共に数を減らしていく集合亡霊は、その度に纏っていた霊体も減少させ、内部の核が視認出来るまでに薄くなっていく。
「そろそろ逃げ始める輩は居らんか?」
「そうですわね、大分小さくなりましたし、無理をしない程度に包囲を考えるべきですわ」
 逃亡の可能性を考慮した一行は、多少の不調には目を瞑って包囲戦に移行。夕刻前には、その全てを殲滅する事に成功したのだった。


 暫らくして、ハンター達は雑魔の発生源とされる廃村の廃墓地に足を下ろしていた。
 満遍なく荒れ果て、折れ、倒れ、或いは砕けた墓標。
 その近くの地面に開いた穴は、恐らく雑魔の核となっていた遺骨や遺品が出て来た穴なのだろう。
 オヒムは暫らく現場を眺めた後、無言で機体に搭乗する。帝国の公害の実情は、イルリヒトに所属する彼女には既知の事であった。そして対する無力さも。
 それを横目に、ケンジはそっと墓地に向かって手を合わせる。
(もう迷ってこの世に出てきたりしないで、ちゃんと永眠(ねむ)ってくれよ)

 蜜鈴は廃墓地を歩き回りながら、残った魔力で可能な範囲のマテリアルを浄化していく。それが砂漠に水をまくが如くと心得ながらも、何もしないで居るという事は彼女には出来なかった。
 同時に水を撒き、自らが持ち込んでいた花を添える。


「オヒムさん、ヤタガラスの出力したログが、このメモリアに入ってます」
 帝都に帰還後、更に一日を置いて試験運用に協力した機体からのデータ収集が続けられていた。今もクレールから、オヒムはそれらを受け取っていた。
「それと、こっちが機爆破が通用しなかった時の記録と、機導の徒で分かった情報のレポート。実験データの参考までに、どうぞメモリアは後日郵送返品してくれれば構いません!」
「確かに。ご協力に感謝を、ディンセルフ殿。こちらもデータを移した後は速やかに返送させて頂きますわ」
「ミグの方も纏めて置いたのじゃ。どうも励起循環の際に問題が発生するようじゃな」
 ガレージに帰還したそれぞれの機体をソサエティに控えていた技師達と共に検証していたミグからのレポートも手渡される。
「こっちは出発前のエンジンの記録と、帰還後の記録。写真で見ても分かるけど、一部パーツに異常な損耗が見て取れるぜ。短い起動実験じゃ分からなかったんだろうけど、戦闘起動レベルまで稼動させて初めて分かる欠陥だな、多分」
 レオーネからもレポートを受け取り、これで全てが完了した。ケンジの分は既に帰還直後に機体からログをコピーさせて貰ってある。彼と蜜鈴とディヤーはそれぞれの予定で動き、この場には来ていなかった。
「ロマイヤー殿、インヴェトーレ殿、そして他の三者にも感謝を。後は私の分と併せて共通部を纏めた後、教官に提出するだけですわ。ご苦労様でした……本当にあの腹黒共のせいで」
 疲労と嫌悪を綯い交ぜにした最後の呟きに、三人は揃って苦笑を浮かべる。両組織の確執は、ハンター達にとっては気安く関われる物ではない故に、言葉では返さない。
 オヒムも当然、それを期待はしていない。三者に一礼すると、背筋を伸ばし颯爽とガレージを後にしていった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュka4009

重体一覧

参加者一覧

  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤタガラス
    ヤタガラス(ka0586unit001
    ユニット|魔導アーマー
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ハリケーンバウユーエスエフシー
    ハリケーン・バウ・USFC(ka0665unit002
    ユニット|CAM
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    トゥルー・プラヴァー
    渡り鳥の騎士(ka1441unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    テンロク
    天禄(ka4009unit003
    ユニット|幻獣
  • 頼れるアニキ
    ケンジ・ヴィルター(ka4938
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • ユニットアイコン
    ファルコンアイ
    ファルコンアイ(ka4938unit002
    ユニット|CAM
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ジャウハラ
    ジャウハラ(ka5743unit001
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 亡霊除霊大作戦!
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/11/09 12:29:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/04 21:29:16