• 天誓

【天誓】Scars

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2017/11/14 22:00
完成日
2017/11/26 23:32

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 その者は誘惑者だった。
 その者は妖艶だった。
 その者は邪悪だった。
 
 寵姫 ローゼマリー。
 彼女の事は上記三言で紹介される。
 出自は明らかになっていないが、その美貌から『皇帝を誘惑した淫魔』『帝国を堕落させた魔女』など様々な形容のされ方がされている。
 英雄譚の中で、優秀でありながらも孤独を抱える皇帝に言葉巧みに取り入り、帝国を内部から腐敗させようとした魔性の女、悪役の1人として描かれる。
 最期は賢妻であり献身的な皇后の愛により皇帝が我を取り戻し、ネグローリの手により本性を看破され極刑に処されるというのが一般的なストーリーとなっている。
 亜人殺しで有名なネグローリが唯一手を掛けたヒトであることで有名ではあるが、それ以外としては英雄譚の中では数少ないお色気シーンがある為、様々な派生を生み、改編され語り継がれている物語の一つである。




 絶火の騎士 報仇雪恨のネグローリが「寵姫ローズマリーを討つまでは協力は出来ない」と言った事から、帝国はハンターを集い『ローズマリー討伐隊』を組んでいた。
「今回、フォッカはこないのか?」
 その道中、ハンターの1人から問われたイズン・コスロヴァ(kz0144)は少し困ったように柳眉を寄せて頷いた。
「ネグローリを赦すことが出来ないようです」
 前回、ネグローリはイズンの部下であるドワーフの兵士を出会い頭に殺した。
 それが尾を引き、フォッカはネグローリと同じ空気を吸うのもイヤだとサンデルマンの傍にべったりとしている。
 仕方が無いと言えばそうなのだろう。フォッカは元々ドワーフの鍛冶職人に代々奉られてきたことで誕生した精霊だった。
 家族も同然のドワーフを目の前で無残にも殺されたとなれば、普通の感覚なら許せないのは当然とも言える。
「あんたは平気なのか?」
「私ですか? そうですね……」
 あまりにも沢山の死を見てきた。
 革命のあの日から。闇光作戦の撤退戦も。亜人で言えば南方大陸でも。
 いつ死んでもおかしくない状況を潜り抜けてきた。
「兵士は任務に就いていればいつどこで死んでもおかしくありません。そうでなくとも人は容易く死にます。
 それで言えば彼の死はネグローリを説得することに繋がりました。決して無駄死にではありません」
 むしろイズンの中ではあの場での被害が1人で済んでよかったと思っている節さえあった。
 全員人で何も知らないまま、彼を町へ連れて行って大虐殺が起こったとしたらそれこそ悲劇だったはずだ。
 ネグローリはハンター達の説得のお陰で世界の常識が変わったこと、正義の在り方が変わったことを受け入れてくれたようだった。
 少なくともあれから傍にエルフやドワーフが近寄ってもいきなり殺しにかかったりはしていない。

「……ここだよ」
 先導していたネグローリが指差す先。
 そこにはうち捨てられた古城があった。
「あれが……ヴィルトカッツェ城」
 イズンもここに来るのは始めてだった。
 まだ帝国黎明期だった頃に最前線の拠点として設立された城で、コンパクトでありながらも要塞として現在でも通用するような頑丈な作りをしているらしい。
 しかし、国が大きくなるにつれ手狭になり、用途が無くなりある侯爵へと下賜されたが、その侯爵の子孫が没落し城も土地も手放して以来放置されたままとなっている城だった。



 放置されていた割りには、綺麗な外観を保っていると誰もが思った。
「幻だよ。当時の栄華をあの女が見せているだけのハリボテの城さ」
 ネグローリが前に立てば鈍い音を立てて観音開きの扉が開いた。
 絢爛豪華な大広間が広がり、高い天井から吊られたシャンデリアが明るく城内を照らす。
「事前に伝えたとおり、あの女は他人を魅了する。意のままに他人を動かし、同士討ちを狙う。
 私にあの女の術は効かないが、残念ながら私の術もあの女には届かない。
 剣豪ナイトハルトがここに到着する前にあの女を殺せれば私達の勝ちだ。
 だが、ナイトハルトがここに到着し、あの女がその腕に抱かれたら負けだ。即時撤退するしかない」
 ネグローリが固い声でハンター達に確認し、城内へと入る。

 城の中はどこも美しい調度品に溢れ、埃1つないように手入れされている。
 飾られている全身鎧は今にも動き出しそうな輝きを放ち、幻とは思えない存在感が一同を圧倒する。
 三階へと上がると、ネグローリは「謁見の間だ」と静かに告げ、扉を開いた。

「お前だと思ったわ、ネグローリ。またわたくしを殺しに来たの?」

 穏やかな女の声が楽しげに一同を迎えた。
 謁見の間。ガランとした広い空間の奥、空の玉座にしなだれるようにしていた女はゆるりとした動作で立ち上がった。
 両サイドに設えられた灯り取りの蝋燭の火が揺れ、俯いていた女の影を揺らす。

 やわらかな桃色の髪は緩やかなウェーブを描き、一動作ごとに背中に広がった。
 大きな瞳は穢れを知らない無垢な輝きを持ち、小さな鼻は高すぎず低すぎず、代わりにぷっくりとした唇は艶やかな弧を描く。白皙の肌に夢を見るような桜色の頬。
 豊満な肉体を包むドレスは当時の職人達の粋が集められた傑作品なのだろう。細かな刺繍が彩り、輝く宝石が散りばめられ、シャンデリアと蝋燭の光を乱反射している。

「お前がいる限り私は何度でもお前を殺してやろう、ローゼマリー」
「あら、怖い。でもダメよ。もうすぐ我が君が来て下さるの。今度こそ、わたくしは我が君のためにこの身を捧げるの」
「ナイトハルトは我が君では無い。お前のその勘違いもここで終わらせてやろう」
「いいえ。あの王気は間違いなく我が君のもの。今度こそ邪魔はさせないわ」
 ローゼマリーが微笑むと同時に、一瞬室内が明るく光った。
 思わず視界を守ったハンター達の足元、床からずるりと煙が立ち上るように影が立った。
「亡霊……!?」
「愛しい我が君の為に」
 地を這うような不協和音が一同の耳朶を打つ。それはこの亡霊達の返事だと気付いた時、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。



 愛しておりますお慕いしております。
 貴方の為にわたくしは今度こそお役に立ってみせましょう。
 貴方は何も悪くない。貴方は正しい。
 だって貴方は貴方こそが貴方だけが王者なのだから。



リプレイ本文

●1
「影……いや、亡霊か!?」
 床の影から起き上がってきた亡霊を見てルイトガルト・レーデル(ka6356)が忌々しそうに声を上げた。
(核を探さないと……!)
 ユリアン(ka1664)が素早く周囲を見回す。
 シャンデリア、玉座、ローゼマリー、壁の灯り取り、絨毯……あれほど豪華絢爛な城内でこの部屋だけは調度品が少ない。
「アーサーさん」
 アーサー・ホーガン(ka0471)へとユリアンが耳打ちをする。
「ネグローリ、イズン」
 高瀬 未悠(ka3199)が聖罰刀を抜いて低く構えると後衛に立つ2人に声を掛ける。
「邪魔をしないで」
 寵姫がまるで牡丹の花が花開くような微笑を浮かべた。
「行くぞ!」
 アーサーが吼え、一斉に8人が動き出した。
 初手は全員による範囲攻撃を中心とした亡霊の排除。
 イズン・コスロヴァ(kz0144)の自動小銃が寵姫へ向けて火を吹き、ネグローリは自分の傍に湧いた亡霊へと短剣を突き入れた。
(ネグローリと美女なら、僕は断然、美女の方がいいのだけれど)
 ネグローリを赦したわけでも、認めたわけでも無いが、それでもそれを理由に共闘を投げ出してしまうほど金目(ka6190)は子どもでは無かった。
 金目が指輪型端末を媒介に扇状に炎を撒くのに合わせ、羊谷 めい(ka0669)は自分を中心とした光の衝撃波を生み出す。
 この隙に寵姫へと接近を試みようとする者が2人。
 未悠が幻影の腕で寵姫を捉えた……かに見えた。
「嘘!?」
 しかし寵姫はその腕から風に揺れる柳のように身を躱していた。
 未悠の引き寄せが成功していれば疾風剣で斬り付けることも可能だったが、僅かに射程に届かない。ならばと周囲にまだ味方が誰もいないことを視認したルイトガルトは次元斬を放つが、これも寵姫は躱してみせた。
「腐っても“英霊”か」
 妖艶を謳われた英霊なれば、戦闘には疎いのでは無いか、という一同の希望は儚くも散った。
 だが、この一斉攻撃の真の目的は他にある。
(頼んだぜ、ユリアン)
 アーサーは視線を亡霊に向けたまま、胸中で呟いた。

 ユリアンは風のように軽やかな身のこなしで亡霊の脇をすり抜けるとシャンデリアへ向かって5cmほどしかない星を投げつけ、瞬時にシャンデリアの上へと身を移した。
 大きくシャンデリアが軋み、揺れる。眼下で戦う仲間達は亡霊を相手に、又は寵姫を相手に苦戦している。
 ユリアンはシャンデリアの規模に眉を撥ね上げた。
 この狭くは無い室内を照らすのだから、非常に大きく豪奢だ。蝋燭1本1本を消している余裕などは無い。
 見上げればシャンデリアは鉄の楔で高い天井に埋め込まれる形で固定されており、物理的に破壊する事は不可能では無いように見えた。
 ユリアンは再度星を投げ、そのまま天井に張り付くと、渾身の力を込めて精霊刀で斬り付けた。


●3
 金属がぶつかり合う音が響き、大きく影がたわむ。
 恐らくユリアンはシャンデリアを落とすつもりだ。
 あんな大きな物が落ちてきた時に下に誰か取り残されたりしたら命に関わる。
「金目!」
「わかってます」
 アーサーと金目はごく自然を装いなるべく壁側へと移動を開始する。
 亡霊は一度攻撃すると、その身を掻き消し、また違う場所から這い上がってくる。
 全く手応えは無い。のに、亡霊に触れられれば問答無用に体力を奪われるのは非常に厄介だ。
(唯一痛くないのが救いですかね……)
 金目は大きな息を吐いて後ろから音も無く這い寄ってきた亡霊を薪割りのように割いて消した。

 それはバラ色のオーラのように見えた。
 あたたかでやわらかでやさしくて“この人の願いを叶えてあげられたならどれほど自分も幸せになれるだろうか”と、その美しさに陶酔し、どうしようも無く惹かれる。
「ルイトガルトさん!?」
 異変に気付いた金目が驚いた様に叫ぶと同時に、その刃は未悠の腕を切り裂いた。
 その衝撃に未悠は何が起こったのかと目を見張り、ルイトガルトの動きが明らかにおかしい事に気付いた。
 平手打ち、と思ったがルイトガルトはアーメットヘルムを装備している。
「っつ! しっかり、しなさーい!!」
 未悠は咄嗟に聖罰刀を逆手に持ち変えると、その柄でヘルム越しに殴り飛ばした。
 その場にいる全員が思わず身を竦めるような鈍い音が響き、ルイトガルトが壊れた人形のように吹き飛んで倒れた。
「……ひぇ……」
 誰とも無く恐怖から息を呑むような悲鳴が上がった。
「か、回復します!!」
 めいが慌ててヒールを施すと、幸いにしてルイトガルトは我を取り戻してすぐにその身を起こした。
 もっともその間にも亡霊からの猛攻は続いており、金目とアーサー、そしてイズンとネグローリは直ぐ様意識を戦闘へと引き戻すと、目の前の亡霊を払う作業へと戻る。
 アーサーはこの戦闘が始まってすぐに炎のようなオーラを纏っていたが、亡霊達はそれに誘導されることも無く手当たり次第傍にいる者に触れてはその生命力を吸い取っている。
(そんで、あの魅了のオーラはこっちでいうソウルトーチみたいなもんか)
 厄介だな、と毒づく。
 寵姫がこの戦いにおいて最も重要な敵である以上、誰もが視界に入れない訳にはいかない。
 敵の能力である以上どれほど自分を保とうと意思を固めても、不意にするりとその淫靡なオーラがめいの頬を撫でるのを感じ、そのたびに抗っては大きく息を吐いた。
 最も抵抗力のあるめいでさえそうなのだから、他のメンバーはもっと苦しかろうとめいは仲間を慮る。

 ついに大きなきしみをあげて、シャンデリアが床へと落ちた。
 一気に周囲が暗くなり、同時に舞い上がった埃で全員が咳き込んだ。

●5
 灯りを持ち込んでいたアーサーとめい、そして金目はほぼ同時に点灯し、薄暗い室内で3人の姿だけがハッキリと視認出来るようになる。
 それでもアーサーのソウルトーチの炎を感じるように、寵姫の淫靡なオーラも影響に変わりはないようだ。
 天井から壊れた留め金に一つライトを吊し、ユリアンが床へと下りたが、その灯りは残念ながら小さなスポットライトのように壊れたシャンデリアの中心を細く浮き上がらせるだけだった。
「……っ! 亡霊、消えてません!!」
 めいが膝を付いた瞬間にイズンの銃弾が亡霊を散らす。
「シャンデリアじゃ無かったか」
 ユリアンは手元に灯りを点け、強制的に掻き立てられる欲情を握り締めた星を手のひらに食い込ませることで鎮め、その玉座へと向かう。
 それは、寵姫の真横でもあった。
「かつて誰であっても今も恋い慕うと言うなら貫けばいい。でも、今ここでじゃない。
 再び眠りについた場所でナイトハルトを何時かそちらに送るから、変わらぬ心で迎えれば良いんだ」
 ユリアンの言葉に寵姫は悲しそうな瞳を向ける。
 ぎりり、とユリアンの胸が締め付けられると次の瞬間、ふっと唐突にユリアンは全てのしがらみから解き放たれた。
 星も精霊刀も手放してその場にしゃがみ込んだユリアンへ、亡霊達が一気に近付いていく。
「ユリアン!!」
 未悠が庇うために走り寄ろうとした横で、人影が動いた。
「哀れだな」
 低い、嘲笑を含んだ声が薄暗い室内に響いた。
「で、貴様は愛しの我が君に何を残せたのだ? 子も生せず、所詮は皇后にその愛も奪われたのだろう?」
 寵姫の瞳が、薄暗い室内を自分へと歩み寄るルイトガルトへと注がれた。
「貴様は所詮、陛下の見た盧生の夢。何も、悪名以外は何も残せぬ哀れな蛾。蛾は日の光を浴びることは許されぬ」
 妖剣を構え、一気に距離を縮めると寵姫の花のかんばせへと刃を突き立てようと切っ先を向け。
「だから、死ね。ローゼマリー。夢の中に帰って逝け」
 その刃が肌に傷を付ける直前、ルイトガルトの意識は暗い闇へと落ちた。
 10の亡霊、その全てがルイトガルトに襲いかかり、その生命力を吸い上げると、再び散っていく。
「ルイトガルトさん!!」
 めいの悲鳴を背に、未悠が倒れたルイトガルトを越え、祖霊の力を込めて聖罰刀を振り抜く。
「狂おしいほど皇帝を愛しているのね。彼の為ならば全てを……自分さえも犠牲にして構わない、そう感じるわ」
 胴へ刀身を叩き付けるように鎮め、返す刃で腕を切りつける。
 足でユリアンの刀を玉座から後方へと蹴り飛ばす。
「役立てればそれでいいの? 愛されて守られたいって気持ちはなかったの?」
 ユリアンの首根っこを掴むとバックステップで一端距離を置いて、未悠は目を疑った。
 斬り付けたはずの傷が無い。
「どういうことなの!? ネグローリ!!」
 未悠の声にネグローリは叫び返す。
「言っただろう、この城は全てハリボテだと! 核を破壊しない限りローゼマリーの夢は終わらない!!」
 ネグローリの言葉に一同の背中を冷や汗が滑り落ちた。
「……みゆ、さん?」
「あらお帰り?」
「……ありがとう」
 未悠の微笑みにユリアンは自分が術にかかったことを察し、謝罪の代わりに感謝を述べた。
「ごめん、刀、あっちに飛んじゃったのよね」
「大丈夫、自分で取りに行けるから」
 頭を振って立ち上がると、再び風のように駆けだした。

●暗転


 小さなランプを片手に廊下を行く。
 ガタガタと風が強く窓を揺らす夜だ。
 こんな夜はきっとあの方は眠れずにいる。
 ノックすれば、案の定声が返ってきた。
 私は扉を開けて中へ入る。
 灯り取りに火を入れ、室内を灯し、その苦痛に歪んだ顔ごと頭を優しく抱き寄せる。

「大丈夫です。貴方の苦しみは全て私が引き受けましょう」


●11
「イズン、金目のフォローを頼む!」
 そのユリアンと入れ違うようにアーサーがルイトガルトへと向かい、その身体を担ぎ上げると、寵姫を見た。
 寵姫は穏やかな微笑みを湛えたまま、身動き一つしない。元々、魅了し、攻撃力を奪うしか出来ない英霊だ。
 攻撃手は、あの亡霊しかいない。
 あと一歩踏み込めばあの玉座に刃は届く。
 だが、アーサーはルイトガルトの身体を引き下げることだけに注力し下がった。
「めい、頼む」
「はい」
 全力で後衛にいるめいの元まで行くと、ちょうどルイトガルトの瞼が動いた。
「ルイトガルトさん!」
 ルイトガルトは自分を覗き込むめいを見た。手も足も重たくて動かせない。だが、口だけなら。今、自分が見た夢を伝えなければ。
 必死に何かを伝えようとするルイトガルトに気付いて、めいは口元へと耳を寄せた。
「……か……の、あか……っりを」

「ユリアン! 玉座じゃ無い、壁の灯り取りだ!!」
 ルイトガルトの言葉を聞き取っためいから報告を受けたアーサーが叫んだ。
 壁の灯りは左右10個ずつの計20個。つまり半数はダミーの可能性がある。
 選んではいられない。もうリミットまで時間がない。
「全部、壊せ!!」
 その叫びに、全員が壁の灯りを見た。やわらかで暖かな光りを灯す蝋燭に向かって、6人が駆け寄る。
 亡霊を切り伏せ、炎で焼き、衝撃波で散らし、“ろうそく”ただそれだけを狙う。
「やめて……邪魔をしないで……!」
 寵姫の悲鳴に似た懇願の声に、まるでこちらが悪い事をしているような気分になって金目はきつく目を瞑る。そして、斧で砕くように灯り取りごと壊した。
 燃える薪が爆ぜるような音を立てて、亡霊の一体が、消えた。

「これで」
「終わりだ」
 アーサーとユリアンが残り2本となった蝋燭に手を伸ばし、叩き折った。
 ハンターが持つ光源以外の光りが消えると同時に、哀しみに染まった悲鳴が響いた。


●暗転


 美しい顔を歪めて后が泣き叫んでいる。
 生まれたばかりの子が死んでいたのだと泣いている。
「お前が、殺したのね……!」
 違う……私は殺していない。
「陛下と私の赤ちゃんを、この女が殺したのよ……!」
 違うと否定しても、后は信じてくれなかった。
 捕らえられ、後手に縛られ、髪を掴まれ顔を仰け反らされた。
「捕らえるだけなど生温いですぞ、皇后陛下」
 聞こえた声に聞き覚えがあった、痛みに視界が歪む中、その男は私の喉に刃を突き立てた。
「怨讐による亜人狩りだけでは飽き足らず、ついに嫉妬に狂い陛下の子を手にかけるなど……狂気の沙汰としか思えませんな……」
 低く芝居がかった“嫌悪感たっぷり”の声。耳元にぬるい息がかかった。
「安心してお眠り下さい……これからの陛下は私どもがお支えしますゆえ……」
「貴様……!」
 喉元を灼熱が襲い、視界が真っ赤に染まり……そして、闇へと落ちた。


●19
「……あぁ、思い出した」
 夢から醒めた暗闇の中、ネグローリからぽとりと落ちた呟きは虚空に溶けた。
 埃と黴の臭いが漂い、温かかったはずの室内は外気と変わらないほどに冷え込み、壁の隙間から光りの帯が幾筋か伸びている。
 二つの光る球体に照らされためいは、顔を覆うローゼマリーへと近付いた。
「わたしも大好きで大切なひとがいるから、あなたのことは否定できません。大好きなひとの力になりたい、役に立ちたい……隣にいたいって想う気持ちはわかるから。一途に想うことは、悪いことじゃないのです。
 でも、盲目であって良いということではありません。あなたが想い、待っているのは、歪虚であるナイトハルトなのですか? ここに来るナイトハルトは、初代皇帝とは異なる存在です。あなたはそれでよいのですか?」
 彼女の事を知りたいと、めいが手を伸ばそうとするのをアーサーが止めた。
「こいつは悪でなく『悪役』何だろう? これもまた、人の願いの形って訳だな。大元の為人なんて気にしても仕方ねぇんだ、俺達に出来るのは目の前の精霊が悪になる前に“悪役らしい最期”をくれてやることだ」
「自分の手で終わりにしてあげたいんでしょう?」
 未悠の声にネグローリは頷くと、ローゼマリーの元へと歩いて行く。
「“ナイトハルト”が我が君の集合体だというのなら、私たちは魂を割かれた双子」
 仮面の下の素顔は知らず。マントとローブに包まれた体型は分からず、相変わらず男性なのか女性なのか分からない。
 ネグローリの言葉に金目は目を剥いて“彼女”を見る。
「『真実は深淵の褥の中に』。さようなら。全てを捏造され嘘偽りでしかない愚かでか弱い“ローゼマリー”」
 誰もが言葉を失った中、ネグローリの振り上げた短刀がローゼマリーの喉に突き立てられた。


「さて、我が君が来る前に去ろうか」
 ネグローリの言葉に誰もが動けずにいた。
「何、問題ない。先ほど彼が言っただろう? あれは英雄譚の中で『寵姫』という悪役を担った影だ。消さねば理が歪む」
「でも……」
 他に方法があったのでは無いかと思う一方、確かに他に方法は無いようにも思えてめいは唇を噛んだ。
「有り難う、お陰で私は“私”を取り戻せた。さぁ、決戦に向けて準備をしようじゃないか」
 歩き始めたネグローリから、ユリアンは視線を玉座へと移した。
 しかしそこにあるのはただの朽ちた椅子で、振り返れば落ちたはずのシャンデリアも無くなっていたのだった。

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664

重体一覧

  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデルka6356

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師
  • 戦場に疾る銀黒
    ルイトガルト・レーデル(ka6356
    人間(紅)|21才|女性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/11/10 09:14:34
アイコン 相談卓
羊谷 めい(ka0669
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/11/14 09:12:35
アイコン 質問卓
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/11/14 09:50:58