ゲスト
(ka0000)
沈黙せよ鉄人
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/12/07 19:00
- 完成日
- 2017/12/14 18:11
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●奪われしCAM
ブリキのお猿こと嫉妬の歪虚モンキチは、CAMの肩の上で跳ね回っていた。彼はうれしくてならない。欲しかったものが、とうとう手に入ったからだ。
「わーいわーい、これこれこれだよ、オレ様が欲しかったのはこういうのだよ! オートマトンとかいうのじゃなくて!」
周囲にはもと工房だった瓦礫が散乱している。立ち込める血の匂い。蠢いているのは得体が知れない雑魔の群ればかり。生きているものは一人もいない。
冷え切った月があたりを寒々と照らしている。
「よし、じゃあ行くぞ」
モンキチの声に促され鋼鉄の巨人たちが動き始めた。
●辺境・タホ郷
「ただいまー……ん?」
久しぶりにタホ郷へ里帰りしたカチャは、家の裏に魔導アーマー量産型が置いてあるのを発見した。
アーマーは見るからに傷んでいた。至る所塗装が剥げあちこち凹み、見るも哀れな有り様。
「……何これ……」
うちにはこんなもの無かったはずだが。
疑問に思ったカチャは、母に事情を聞いてみる。彼女は熊を一打ちで殺せそうな斧で薪割りをしている最中であった。
「ただいまお母さん」
「あらカチャ、帰ってきたの」
「ええ、まあ。あのアーマーは?」
「ああ、あれはね――買ったの」
「……どこで?」
「ノアーラ・クンタウの中古ユニット販売展示場。大規模戦闘に徴収されて、帰ってきたらこういう感じにボコボコになっちゃって……持ち主が売りに出したそうなのよ。どうせなら新しいのを購入するからって」
「ふうん」
「乗って試してみたんだけど、動くことはちゃんと動くわ。転覆はしなかったみたいで、軸も曲がってないし。だから、郷でお金を出し合ってね、共同購入することにしたの。農作業とかに色々役立つと思って。そういうわけでカチャ、あなたあれをフマーレの修理工房に持って行ってくれる?」
「え? なんで?」
「なんでって、いくら何でもあのままじゃいけないでしょう。私は冬の備えで忙しいのよ。薪もあとふた山ほど作っておかないと――あなたがそれを代わりにやってくれるなら、私がアーマーを届けに行ってもいいけど?」
カチャはアーマーの配達と薪割りを天秤にかけた。僅差でアーマーを届けに行く方に秤が傾いた。
「私が届けに行ってきます」
「そう。気をつけてね、最近物騒だから。ホープ近くで工房が襲われて、CAMが何台か奪われたって聞くし」
●CAM襲来
カチャは量産型アーマーを運転し、フマーレに続く街道を行く。
運転のこつはだいぶ掴めてきたが、とにかく各部分の傷みがひどい。ひっきりなし軋み音がしている。
あんまりスピードを出すと壊れるんじゃないかと気を使うあまり、馬車にもすいすい追い抜かれる始末。
(結局話しそびれちゃった……)
本当は今回の帰郷で家族に(とりわけ母親に)自分の将来のことについて相談したかったのだけど――これを届けた後でまた改めてということになりそうだ。
(あれ、待って。そういえばこれの修繕費、誰が払うことになるの?)
新たな不安が胸を過ぎったところで、はたと我に返った。ついさっき隣を通り過ぎて行ったばかりの馬車が、全速力で戻ってきたのだ。
馬車だけではない。人も馬も続々戻ってくる。津波のように。進路を塞がれ進むことが出来ない。
何が起きたのかと思った直後、前方から近づいてくるCAMの姿が見えた。
「……デュミナス?」
『ウキャキャキャキャ! かっけー!』
高笑いを上げるCAMは、明らかに逃げる人々を追いかけていた。
手当たり次第足元にあるものを蹴り飛ばす。両手に持ったガトリングガンを振り回し所かまわず撃ちまくる。どう見てもまともではない。
弾丸を受けた馬が弾けた。
カチャはCAMの動きを止めようとした。この際壊れるかどうか気を使っていられない。全速力で、力いっぱい体当たりした。アームで足を払い転倒させようとした。
『おおっ!? と、と、と! 何すんだ、このポンコツ!』
至近距離からの発砲。カチャは咄嗟にアームを持ち上げむき出しの座席の覆いとし、被弾を避けようとした。
しかし付け焼刃の防御では限度がある。いくつかの弾丸が貫通し、操縦席が血に染まった。
●追跡
CAMが暴れているとの通報を受けたハンターたちは、至急現場に向かっていた。
それが通った道筋はすぐ見当がついた。周囲にあるものが手当たり次第に壊されていたからだ。木々も建物もめちゃめちゃに破壊されている。
既に死傷者が出ていると言うことは聞いていたが、道の真ん中に平たくのされている血肉の塊を見るのは実にいやなものだった。
まずは暴走を止めることに専念しなければいけないが、それにしても――それにしても!
「くそぉ、誰だ! CAMで好き勝手してるのは!」
破壊の跡を追いかけてハンターたちは疾駆する。
――やっとその姿を捉えた。
CAMのガトリングが至近距離から、頭を守るように腕を持ち上げたアーマーに向けぶちかまされる。
アーマーが火花を上げ崩れ落ちた。乗り手が座席から地面に投げ出される。
ブリキのお猿こと嫉妬の歪虚モンキチは、CAMの肩の上で跳ね回っていた。彼はうれしくてならない。欲しかったものが、とうとう手に入ったからだ。
「わーいわーい、これこれこれだよ、オレ様が欲しかったのはこういうのだよ! オートマトンとかいうのじゃなくて!」
周囲にはもと工房だった瓦礫が散乱している。立ち込める血の匂い。蠢いているのは得体が知れない雑魔の群ればかり。生きているものは一人もいない。
冷え切った月があたりを寒々と照らしている。
「よし、じゃあ行くぞ」
モンキチの声に促され鋼鉄の巨人たちが動き始めた。
●辺境・タホ郷
「ただいまー……ん?」
久しぶりにタホ郷へ里帰りしたカチャは、家の裏に魔導アーマー量産型が置いてあるのを発見した。
アーマーは見るからに傷んでいた。至る所塗装が剥げあちこち凹み、見るも哀れな有り様。
「……何これ……」
うちにはこんなもの無かったはずだが。
疑問に思ったカチャは、母に事情を聞いてみる。彼女は熊を一打ちで殺せそうな斧で薪割りをしている最中であった。
「ただいまお母さん」
「あらカチャ、帰ってきたの」
「ええ、まあ。あのアーマーは?」
「ああ、あれはね――買ったの」
「……どこで?」
「ノアーラ・クンタウの中古ユニット販売展示場。大規模戦闘に徴収されて、帰ってきたらこういう感じにボコボコになっちゃって……持ち主が売りに出したそうなのよ。どうせなら新しいのを購入するからって」
「ふうん」
「乗って試してみたんだけど、動くことはちゃんと動くわ。転覆はしなかったみたいで、軸も曲がってないし。だから、郷でお金を出し合ってね、共同購入することにしたの。農作業とかに色々役立つと思って。そういうわけでカチャ、あなたあれをフマーレの修理工房に持って行ってくれる?」
「え? なんで?」
「なんでって、いくら何でもあのままじゃいけないでしょう。私は冬の備えで忙しいのよ。薪もあとふた山ほど作っておかないと――あなたがそれを代わりにやってくれるなら、私がアーマーを届けに行ってもいいけど?」
カチャはアーマーの配達と薪割りを天秤にかけた。僅差でアーマーを届けに行く方に秤が傾いた。
「私が届けに行ってきます」
「そう。気をつけてね、最近物騒だから。ホープ近くで工房が襲われて、CAMが何台か奪われたって聞くし」
●CAM襲来
カチャは量産型アーマーを運転し、フマーレに続く街道を行く。
運転のこつはだいぶ掴めてきたが、とにかく各部分の傷みがひどい。ひっきりなし軋み音がしている。
あんまりスピードを出すと壊れるんじゃないかと気を使うあまり、馬車にもすいすい追い抜かれる始末。
(結局話しそびれちゃった……)
本当は今回の帰郷で家族に(とりわけ母親に)自分の将来のことについて相談したかったのだけど――これを届けた後でまた改めてということになりそうだ。
(あれ、待って。そういえばこれの修繕費、誰が払うことになるの?)
新たな不安が胸を過ぎったところで、はたと我に返った。ついさっき隣を通り過ぎて行ったばかりの馬車が、全速力で戻ってきたのだ。
馬車だけではない。人も馬も続々戻ってくる。津波のように。進路を塞がれ進むことが出来ない。
何が起きたのかと思った直後、前方から近づいてくるCAMの姿が見えた。
「……デュミナス?」
『ウキャキャキャキャ! かっけー!』
高笑いを上げるCAMは、明らかに逃げる人々を追いかけていた。
手当たり次第足元にあるものを蹴り飛ばす。両手に持ったガトリングガンを振り回し所かまわず撃ちまくる。どう見てもまともではない。
弾丸を受けた馬が弾けた。
カチャはCAMの動きを止めようとした。この際壊れるかどうか気を使っていられない。全速力で、力いっぱい体当たりした。アームで足を払い転倒させようとした。
『おおっ!? と、と、と! 何すんだ、このポンコツ!』
至近距離からの発砲。カチャは咄嗟にアームを持ち上げむき出しの座席の覆いとし、被弾を避けようとした。
しかし付け焼刃の防御では限度がある。いくつかの弾丸が貫通し、操縦席が血に染まった。
●追跡
CAMが暴れているとの通報を受けたハンターたちは、至急現場に向かっていた。
それが通った道筋はすぐ見当がついた。周囲にあるものが手当たり次第に壊されていたからだ。木々も建物もめちゃめちゃに破壊されている。
既に死傷者が出ていると言うことは聞いていたが、道の真ん中に平たくのされている血肉の塊を見るのは実にいやなものだった。
まずは暴走を止めることに専念しなければいけないが、それにしても――それにしても!
「くそぉ、誰だ! CAMで好き勝手してるのは!」
破壊の跡を追いかけてハンターたちは疾駆する。
――やっとその姿を捉えた。
CAMのガトリングが至近距離から、頭を守るように腕を持ち上げたアーマーに向けぶちかまされる。
アーマーが火花を上げ崩れ落ちた。乗り手が座席から地面に投げ出される。
リプレイ本文
火を吹くガトリング。崩れ落ちるアーマー。
天竜寺 詩(ka0396))の鋭敏視覚は、40メートル離れた先の操縦席から滑り落ちて行く人物を特定した。
「あれ、カチャじゃない!?」
●
ほぼ一瞬で全壊したアーマーをモンキチがあざ笑う。
『うっわ、マジよえー。何しに出てきたのお前さあ』
直後ソニック・フォン・ブラスターを介した罵声が割り込んできたのは幸いだった。そうでなければカチャは多分、踏まれるか撃たれるかしていただろうから。
『そこのいかれた奴! 何やってんの? 手当たり次第にぶっ放すだけとか、3歳児にも出来るんですけどーw』
魔導トラック『マジックミラー』の運転席にいるリナリス・リーカノア(ka5126)はいやったらしく語尾を跳ね上げ、挑発を続けた。カチャがそこにいるという内心の動揺を押し殺して。
『バカ過ぎておもちゃもまともに扱えないのかなー? 脳みそ入ってますー? そんなんじゃあたし達と闘うなんて無理だねえw 無様晒す前に自殺したらー? つか死ねw』
最後の言葉が終わるか終わらないかのうちに反応が返って来た。30mmガトリングガン2丁による機銃掃射という形で。
『んだとコラア!』
固形化した負のマテリアルが切れ目なく襲いかかってくる。
リナリスのトラックが一番に被弾した。
ゾファル・G・初火(ka4407)はガルガリン『スパニヤード』のシールドを前面に押し出しダメージを回避する。バトルジャンキーである彼女にとって弾丸の乱打音は、最高にイカしたBGMだ。
「ふふふーん、わくわくが止まらないじゃん。相手の武装が射撃系なのがちーっと興ざめだけれど、なんとでもなるじゃーん」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)はリーリー『アザリア』の腹を踵で蹴り、活を入れた。
「ちっ、オレ達は避難者に向かう。魔導アーマーの方は任せた!」
彼とソラス(ka6581)を乗せたアザリアは勢いよく高みに跳び、弾幕を回避する。
地上に降り立つや疾風のような早さで避難者の最後部へと向かう。
全壊したアーマーの近くを横切る際ステラは、倒れている人影に目を走らせた。短いお下げ髪の少女。逆流した血が口と鼻から溢れ、破れた腹から内蔵がはみ出している。
見間違いではない。詩が言った通りカチャだ。
一瞬そちらに向かいたい衝動に駆られたが、振り切る。たとえ見ず知らずではあっても避難者の方が優先される。彼女のことは他の者に託すしかない。
イェジド『天照』が、カチャのもとへ疾走する。その背から詩は、プルガトリオを発動させた。黒色の刃がデュミナスを貫く。
――デュミナスの足が動いた。避難者たちの方に身を翻そうとしている。
(効いてないの!?)
危機感を抱く所、イェジド・エイルに跨がったイツキ・ウィオラス(ka6512)が滑り込んでくる。
(手の届くもの全てを、護る。其の誓いを、果たす為に)
我欲の為に破壊を繰り返す。そんな身勝手は許さない。その思いを胸に彼女は、力強く言った。
「行こう、エイル!」
エイルの速力を乗せ突き出された蛇節槍ネレイデスが、鋼の踵に命中した。
デュミナスは彼女らを蹴飛ばそうとした。避けられた。苛立たしげなきいきい声が発される。
『なんだこのクソ犬!』
それを聞いた詩はすぐさま相手の正体に気づく。脳裏に蘇るのは壊れた工場、負傷者の姿、打ち砕かれ炎の中で溶け落ちて行くアーマー。
「絶対許さないんだから!」
怒りを乗せてもう一度プルガトリオをかける。
デュミナスが一瞬、ぎくんと足の動きを止める。ディーナ・フェルミ(ka5843)がR7エクスシアで急接近した。彼女もまた、デュミナスを操る者の正体に気づいている。
「そこのサル! 猿料理にして茹でて脳みそ食べてやるから覚悟するといいの!」
荷台が一部へしゃげた状態だが、リナリスも再び煽りに参戦した。とにかく注意をこちらに集中させなければならない。
『バ-カバーカ! サルならゴミ捨て場で腐ったバナナの皮でも食ってろ!』
『んだとテメエ!』
エクスシアとトラックに向け浴びせられるガトリング。
モンキチの煽られ耐性は明らかに低い。ゾファルは内心それを喜ばしく思った。であれば、思う存分自分との戦いに集中させられそうだと。
「あらよっとぉぉぉ」
スパニヤードが背の主翼を広げた。デュミナスの頭上を飛び越え、その前に立ち塞がる。
「よーよーよー、面白そうなことしてんじゃねーかよー。俺様ちゃんも交ぜてくれよ、な!」
オラツキモード全開で、一気に前へ踏み込んだ。弾丸の雨はシールド、及びマテリアルカーテンによって威力を殺がれた。
右手のガトリング目がけスペルブレードによる一撃が振り下ろされる。
デュミナスは――避けた。イツキによる足元からの攻撃も避けた。膝を曲げ肩を丸め中腰になった姿勢で跳ね回るその動き。明らかに人間ではなく、猿のものだ。
ディーナはフルリカバリーでエクスシアの機体損傷を回復させデュミナスに向かう。
作戦というものはない。捕まえ切れないならば、殴りつけるのみ。魔刃凶骨とCAMシールドで。
「これはカチャさんの分! これは痛かったR7の分! これはお猿に脅かされた一般市民の分なのー!」
叫びながら獲物を振り回す。避難民から、カチャから、1歩でも2歩でも遠ざけさせようと。
●
アザリーと乗り手2人は、最後尾に追いついた。
ソラスは急いで鞍から跳び降り、アースウォールを立ち上げる。ステラは騎乗したまま避難者たちに呼びかける。
「もう大丈夫だ。姿勢を低くして広がらず落ち着いて避難してくれ――ばらばらになるな。壁を背にして一列に避難するんだ」
アースウォールに目隠しとしての意味はない。何しろ相手の目線は8メートルの高さにあるのである。2メートルの高さの壁では、視界を遮り切れない。しかし弾除けとしてはある程度有効だ。
モンキチが交戦相手とのやり取りに気をとられ、避難民の動きを把握していないとしても弾は飛んで来る。移動阻害は行動阻害ではない。両手にしたガトリングは、縦横無尽に振り回せるのだ。
早速それが来た。
『ムキー! 何だお前ら邪魔すんな!』
ステラは妨害射撃を行い、弾で弾を撃ち抜くという離れ業を披露する。しかし全ては防ぎ切れなかった。
被弾したアースウォールがたちまち砕けた。ソラスは急いで詠唱し壁を作り直す。それから遅れがちな者の介添えをし、一緒に歩かせる。本当は壁の後ろで休ませようと思っていたのだが――この状況から見るに危険過ぎる。とにかく1分1秒でも早く、一歩でも遠くへ行かなければ。
詩は天照に周囲の警戒を任せ、カチャの治療に当たっていた。腹部に背中側まで貫通するほどの大穴が空いている。
「しっかりして!」
術の効きが悪い。回復をかけた直後はきれいに塞がるのだが、またすぐ傷が開いて行く。負のマテリアルを撃ち込まれたことによる作用らしい。フルリカバリーを3回かけ直して、ようやく状態が安定した。
カチャの目に光が戻ってきた。耳に口を当てて、聞く。
「大丈夫?」
力のない、だけど確かな返事があった。
「……だい、じょう、ぶ……」
ちょうどいい所でリナリスがやってきた。
彼女はカチャを抱き上げトラックの荷台にあるベッドへ連れていった。それから、避難者たちの方へ向けて走りだした。
たちまちソラスたちに追いつくや、窓から顔を出して言う。
「何か出来る事ある? 手伝うよ!」
ソラスは負傷者を指して言った。
「では、この人たちを先に運んであげてください! もう限界なんです! 休ませようにも休ませられませんので!」
「分かった!」
●
ガトリングの射程外まで避難者全員連れ出した。怪我人はいるが死者はいない。
ソラスたちからその報告を受けたイツキは、行動を撹乱主体から攻撃主体に切り替えた。
「悪意を断つ、無為の一撃を!」
人獣心を一にして攻撃を行う。竜爪ルタ・ラ・ギルとネレイデスが阿吽の呼吸でデュミナスを狙う。
幾度かの試みの末、脚部に一撃が当たった。
避難活動を終えたリナリスとステラが支援に戻ってきた。前者はアイスボルトで、後者はターゲッティングで、執拗にガトリングを狙う――攻撃は功を奏した。右ガトリングの弾の出が極端に落ちた。
デュミナスの動きが鈍ったところを見計らい、ゾファルが攻める。
上段から振り下ろす渾身の一撃。スペルブレードから一直線に伸びたマテリアルの光線が、右のガトリングを真っ二つにした。
『あー! オレ様のガトリングがー! 何してくれてんだコノヤロー!』
左のガトリングで応戦しようとするデュミナス。そこにディーナがジャッジメントを仕掛ける。動きが止まった一瞬間にシールドを、所構わず叩きつける。
「これは壊れた家の分! これは死んじゃったお馬さんの分!」
『てめえいい加減にしろ!』
モンキチも段々我を忘れてきたのか、壊れたガトリングの残骸で彼女を殴り返した。
もちろんエクスシアはダメージを受ける。回復に務めざるを得ない。
その時間の空白を補うよう、詩が突っ込んで行く。
「あいつをやっつけて!」
天照の体が燃え上がるようなオーラに包まれた。フェンリルライズだ。
鋭い牙がデュミナスの肩に齧り付き、装甲をかじり取る。その顎下にガトリングの銃口が押し当てられた。
詩はホーリーヴェールを発動させた。
続けざまに撃ち込まれる黒い弾丸が光の防御壁を破壊する。
天照は一旦地上に降りた。喉元に血が滲んでいた。うめき声を上げる相棒に詩は、泣きながら懇願する。
「ごめんね、痛いよね。けど沢山の人がもっと痛みと苦しみをあいつに与えられたんだ。もうそんな事をさせないようにしたい。だからお願い、戦って!」
避難民の元から徒歩で戻ってきたソラスは射程範囲に入るや手持ちの本をかざし、アイスボルトを放った。
氷の矢は詩たちの頭上を飛び越え、デュミナスの脚に当たる。
機体の動きが再び鈍ったところ、スパニヤードが挑みかかる。
「オラオラ、よそ見してると危ないじゃーん!!」
言いながら相手の背後に回り、まだガトリングを持っている左手にハンマーロックをかけようとした。
刹那デュミナスの右手からプラズマカッターが飛び出した。
スパニヤードはとっさに体を捻り頭部への直撃を避ける。胴に当たったカッターはマテリアルカーテンと装甲によって弾かれる。
コクピットの中でゾファルは、「へへっ」と笑った。
「こういう時は小細工なしでいこうじゃん!」
機体そのものの重みとテルブリンカーの重みを加えたクリムゾンウェスタンラリアットが炸裂した――そして、きれいに入った。腹に。
白兵戦に特化されたガルガリンのパワーはすさまじいものだった。コクピットの真下が剣の形そのままに大きくへしゃげる。
「うっしゃぁぁぁ、だぁぁぁ」
間髪入れずスパニヤードはデュミナスの片膝を踏み上り、顔面への膝蹴りを食らわした――プロレス用語で言うシャイニングウィザードである。
機体の制御系統機関に支障が出ただろうか、デュミナスは酔っ払いのようにふらふらし始める。ガトリングを持つ左手は先程の関節技でねじくれ、まともに動きそうにない。
引き続きソラスが、リナリスが、ステラが、遠方からの支援を行う中、ここぞとばかりディーナが躍りかかる。
「そういえば忘れてたの! これは道々踏み潰されてたお花さんの分なのー!!」
狂骨で、ふらついていたデュミナスの顔面を助走をつけて殴る。
デュミナスが転倒した。
しかしディーナは容赦しない。そのままマウントを取りタコ殴りにしようとする。
そこに爆雷のような衝撃が来た。ねじくれた腕から放たれたガトリングが、機体の頭部に命中したのである。弾の反動で腕が跳ね回っているところからするに、意図して狙ったわけでは無さそうだ。偶然に偶然が重なった全くもって奇跡の一撃。
頭部の破損によってエクスシアコクピット内のモニタがブラックアウトする。
フルリカバリーを使って彼女がそれを回復させたとき、モンキチはもうデュミナスから抜け出していた。
操縦者を失ってもガトリングの無軌道な連射は止まらない。デュミナスの至近距離にいたエイルも弾丸を受ける。一つは胴、一つは急所。前者は盾で防いだが、後者は防ぎ切れなかった。腹部の柔毛がじわりと赤く染まる。
しかし足は止めない。一直線に対象へと向かって行く。
イツキは口を引き結び、ガトリングをもつ腕目がけネレイデスをふるった。
火花が上がる。引き金を引いたまま固定されていた指が開き、連射が止んだ。
詩が駆け寄り、エイルにヒーリングスフィアを施す。
イツキは相棒の毛を撫で、悔しそうに言った。
「痛かったですね」
気にするなと言いたげにエイルは、鼻をフンと鳴らした。
●
ディーナはコクピットをロックし、機体から降りた。自力でのモンキチ追跡を始めた。
「倒すだけで満足するから倒せないの! その先を想像するからこそクリアできるの! 逃がさないの食材!」
ただの煽りではない。彼女はその口にするところについてかなり本気である。
「お前を倒しておせちの具材に入れてあげるの目出度いの、だから覚悟するのー!」
プルガトリオで相手の動きを止めようとする。しかしボール状に体を丸め高速で移動するモンキチには、なかなか当たらない。
『いい気になんなよお前ら、オレ様まだ本気出してねえからな、全然出してねえからな!』
などと放言しつつちょこまか逃げる相手にソラスが、アイスボルトを放つ。捕らえるというよりむしろ、避難民のいる側に近づかせないために。
素早い上に的が小さくて、非常に当たりづらい。
『みんな、ちょっと離れて!』
警告の後リナリスは、トラックに積んだアサトライフルをぶっ放した。
狙った範囲の地面が一瞬にして穴だらけになる。モンキチはそれを避けることに集中せざるを得なかった。
そこで詩は残っていたプルガトリオを撃ち込む。
一瞬動きが止まった。
再びアサトライフルが撃ち込まれる。
『ウキィ!!』
ブリキのお猿はたちまち穴だらけになった。しかし動き回ることには変わりない。空いた穴もすぐさま塞がり修復されてしまう。
イツキも追いすがるが、縦に横に跳躍を加えた逃げ足に追いつくことが出来ない。
あれだけの大型火器で掃射を受けたにもかかわらず、すぐさま消える気配もないとは、この歪虚確実にただのネズミではない。
アザリアの俊足でモンキチに追いすがるステラも、同じことを思った。
脳裏をよぎるのは依頼報告書の内容だ。
(確かあのデュミナスだけじゃなくて、ほかのCAMも盗まれたとあったな……)
だとしたら可能な限りここで潰しておくべきだ。捕まえるなり破壊するなりしなければ、また同じことが繰り返される危険性がある。
「待ちな! お帰りには早すぎるぜ!」
ライフルの銃口が天に向けられた。放たれた銃弾は光の雨に変じ、モンキチの上に降り注ぐ。移動だけでなく行動までもが、数秒間阻害された。それは相手との距離を縮めるのに十分な時間だった。
「よいしょお!」
スパニヤードの剛腕でデュアルは、地面に落ちていたガトリングを粉砕した。またぞろ動き出されてはかなわないと思われたので。
彼女はモンキチを追いかけるハンターたちの方に視線をやったが、そちらに行くことはしなかった。
「ま、なかなか楽しかったじゃん」
と言って、その場に座り込んでしまう。対CAM戦が終わってしまった今、やるべきことは何もないような気がしたのだ。
彼女が対モンキチ戦に参加していれば、もしかして次の展開は、少し違ったものになっていたかもしれない。
ステラのターゲッティングが再び動きだそうとしたモンキチを貫いた。
転がり出そうとした勢いのまま弾かれるモンキチ。
そこへ怒涛の勢いで駆け寄ってくるディーナ。
「もぉらったのおお!!」
駆け寄ったディーナがメイスを振り下ろし、モンキチを乱打する――モンキチの頭部が割れた。いや、割れたのではない、開いた。そこから黒光りする銃口が複数飛び出してくる。
「!?」
ディーナはとっさにパリィグローブを盾にした。
銃口から発射された負のマテリアルの塊が彼女の足を貫いた。しつこく焼けるような痛みに、メイスを思わず取り落とす。
弾丸を受けたのはディーナだけではない。詩もまた腹部に一発食らう。リナリスのトラックはフロントガラスを破られ、急停止を余儀なくされる。
その隙にモンキチは再び逃げた。
『てめーら、覚えてろよ! 今度はな、今度はなあ、もっともっとすげーの作ってきてやるからなー!!』
という、負け惜しみのような捨て台詞を残して。
イツキはエイルにモンキチの後を追わせた。ステラは負傷した仲間に駆け寄りリーリーヒーリングをかけさせた上で、イツキの後を追うようにして追跡に向かった。
しかし、両者とも結局は取り逃がしてしまった。
●
傷は塞がったのに、じくじくした疼きがまだ残っている。負のマテリアルが作用しているのだろう。天照も同じだろうかと思いつつ詩は、ふかふかした頭を撫でる。
「ありがとうね」
避難者たちの救援へ赴く前にカチャの様子を見に行く。
カチャは、荷台のベッドで横になっていた。
リナリスがその手を握っている。目から大粒の涙をこぼし、話しかけている。
「元気になるまでつきっきりで看病するからね! ご飯も食べさせるし、体も……」
言葉が咽びによって続かなくなった。
「だから……って、カチャ……」
カチャは浅い息を繰り返し、夢うつつな口調で繰り返した。
「……だいじょうぶ……だいじょうぶですから……」
詩は荷台に上がりリナリスの背を叩いた。
そこにステラが入ってくる。救急セットを手にした彼はカチャのジャージをまくり上げ腹の患部を確認した。癒されたはずのそこに、うっすら血が滲みだしている。
手早く血止めのガーゼをかぶせ包帯を巻き付け、使った残りをリナリスに渡した。
「こうしたら、多少は楽になるだろ? 後はお前が適度に替えてやってくれよ」
なるべく軽い調子で言ってまた外に出た彼を、ディーナが呼び止める。モンキチを一杯食わされるような形で取り逃がしたことに、彼女は、かなり憤懣やる方なさそうだった。
「カチャさん、どうだったの?」
「大丈夫だ。生きてる。傷の治りがちっと悪いが、問題ねえよ」
「そうですの……」
ほっとしたような、しかしまだ心配そうな面持ちでディーナはエクスシアに乗り直した。避難民たちの元へと向かうために。
イツキもまたエイルに跨がり、同じ方向へ向かう。治療を必要としている人間がいるはずなので。
ステラは休憩しているゾファルの所へ行き、話しかけた。
「よー、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいか?」
「んー、何だ?」
「カチャが乗ってたアーマー。修理工場にでも運んでやっといてくれねえか。ちょうどフマーレも近いことだしよ」
「えー、俺様ちゃん面倒くせーなー」
と言いつつもゾファルは、スパニヤードの肩にアーマーを担ぎ上げる。
澄んだ歌声が聞こえてきた。詩が鎮魂歌を歌っているのだ。理不尽に傷つけられ亡くなった人々のために。
それにしばし耳をすませた後ステラは、自分も避難者たちの元へ向かう。徒歩でそちらに向かっていたソラスを呼び止め、アザリーに乗せて。
●
数日後。施療院の一室。
「……そんなに被害が出てたんですか。私、あまり役に立てませんでしたね」
ベッドに腰掛けため息をつくカチャにリナリスは、ううんと首を振る。
「十分役に立ってたよ。カチャがあそこで足止めしなかったら、もっとたくさんの人が死んでたはずだから。まだ痛んだりする?」
「いいえ。もう全然。明日には退院出来ますって、お医者さんが……」
そこまで言ってカチャは照れ臭そうに、膝の上で組んだ手の親指を回した。
「……あのね、錫杖のローン、後何回かで終わりそうなんです。だから、将来のことについて具体的に考えられるかなって……」
「本当! うれしー!」
カチャに抱き着くリナリス。
そこへ、ひょいとゾファルが顔を出す。
「おー、すっかり良くなったみたいじゃん」
冷やかしながら近づいてきて、はい、とカチャに紙切れを渡す。
「……なんですかこれ……」
「何って、アーマーの修理費請求書」
「……なんで私当てに請求されてるんです」
「だってあれの持ち主カチャじゃん?」
「……あれ郷の共有物なんですけど」
「え、そう? でも引き渡すときカチャの名前使っちまったからしゃーねーじゃん♪」
見舞いに来た詩、ソラス、イツキ、ディーナ、ステラは、入院室前で顔を見合わせた。
「……入りづらくなったね」
「ですね」
「アーマーの修理費って、どれくらいかかるものなんです?」
「……相当なんじゃないかと思うの」
「鉄くずに近い状態だったからな……」
とにかくカチャの前に、新たな借金返済への道が開かれた。
天竜寺 詩(ka0396))の鋭敏視覚は、40メートル離れた先の操縦席から滑り落ちて行く人物を特定した。
「あれ、カチャじゃない!?」
●
ほぼ一瞬で全壊したアーマーをモンキチがあざ笑う。
『うっわ、マジよえー。何しに出てきたのお前さあ』
直後ソニック・フォン・ブラスターを介した罵声が割り込んできたのは幸いだった。そうでなければカチャは多分、踏まれるか撃たれるかしていただろうから。
『そこのいかれた奴! 何やってんの? 手当たり次第にぶっ放すだけとか、3歳児にも出来るんですけどーw』
魔導トラック『マジックミラー』の運転席にいるリナリス・リーカノア(ka5126)はいやったらしく語尾を跳ね上げ、挑発を続けた。カチャがそこにいるという内心の動揺を押し殺して。
『バカ過ぎておもちゃもまともに扱えないのかなー? 脳みそ入ってますー? そんなんじゃあたし達と闘うなんて無理だねえw 無様晒す前に自殺したらー? つか死ねw』
最後の言葉が終わるか終わらないかのうちに反応が返って来た。30mmガトリングガン2丁による機銃掃射という形で。
『んだとコラア!』
固形化した負のマテリアルが切れ目なく襲いかかってくる。
リナリスのトラックが一番に被弾した。
ゾファル・G・初火(ka4407)はガルガリン『スパニヤード』のシールドを前面に押し出しダメージを回避する。バトルジャンキーである彼女にとって弾丸の乱打音は、最高にイカしたBGMだ。
「ふふふーん、わくわくが止まらないじゃん。相手の武装が射撃系なのがちーっと興ざめだけれど、なんとでもなるじゃーん」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)はリーリー『アザリア』の腹を踵で蹴り、活を入れた。
「ちっ、オレ達は避難者に向かう。魔導アーマーの方は任せた!」
彼とソラス(ka6581)を乗せたアザリアは勢いよく高みに跳び、弾幕を回避する。
地上に降り立つや疾風のような早さで避難者の最後部へと向かう。
全壊したアーマーの近くを横切る際ステラは、倒れている人影に目を走らせた。短いお下げ髪の少女。逆流した血が口と鼻から溢れ、破れた腹から内蔵がはみ出している。
見間違いではない。詩が言った通りカチャだ。
一瞬そちらに向かいたい衝動に駆られたが、振り切る。たとえ見ず知らずではあっても避難者の方が優先される。彼女のことは他の者に託すしかない。
イェジド『天照』が、カチャのもとへ疾走する。その背から詩は、プルガトリオを発動させた。黒色の刃がデュミナスを貫く。
――デュミナスの足が動いた。避難者たちの方に身を翻そうとしている。
(効いてないの!?)
危機感を抱く所、イェジド・エイルに跨がったイツキ・ウィオラス(ka6512)が滑り込んでくる。
(手の届くもの全てを、護る。其の誓いを、果たす為に)
我欲の為に破壊を繰り返す。そんな身勝手は許さない。その思いを胸に彼女は、力強く言った。
「行こう、エイル!」
エイルの速力を乗せ突き出された蛇節槍ネレイデスが、鋼の踵に命中した。
デュミナスは彼女らを蹴飛ばそうとした。避けられた。苛立たしげなきいきい声が発される。
『なんだこのクソ犬!』
それを聞いた詩はすぐさま相手の正体に気づく。脳裏に蘇るのは壊れた工場、負傷者の姿、打ち砕かれ炎の中で溶け落ちて行くアーマー。
「絶対許さないんだから!」
怒りを乗せてもう一度プルガトリオをかける。
デュミナスが一瞬、ぎくんと足の動きを止める。ディーナ・フェルミ(ka5843)がR7エクスシアで急接近した。彼女もまた、デュミナスを操る者の正体に気づいている。
「そこのサル! 猿料理にして茹でて脳みそ食べてやるから覚悟するといいの!」
荷台が一部へしゃげた状態だが、リナリスも再び煽りに参戦した。とにかく注意をこちらに集中させなければならない。
『バ-カバーカ! サルならゴミ捨て場で腐ったバナナの皮でも食ってろ!』
『んだとテメエ!』
エクスシアとトラックに向け浴びせられるガトリング。
モンキチの煽られ耐性は明らかに低い。ゾファルは内心それを喜ばしく思った。であれば、思う存分自分との戦いに集中させられそうだと。
「あらよっとぉぉぉ」
スパニヤードが背の主翼を広げた。デュミナスの頭上を飛び越え、その前に立ち塞がる。
「よーよーよー、面白そうなことしてんじゃねーかよー。俺様ちゃんも交ぜてくれよ、な!」
オラツキモード全開で、一気に前へ踏み込んだ。弾丸の雨はシールド、及びマテリアルカーテンによって威力を殺がれた。
右手のガトリング目がけスペルブレードによる一撃が振り下ろされる。
デュミナスは――避けた。イツキによる足元からの攻撃も避けた。膝を曲げ肩を丸め中腰になった姿勢で跳ね回るその動き。明らかに人間ではなく、猿のものだ。
ディーナはフルリカバリーでエクスシアの機体損傷を回復させデュミナスに向かう。
作戦というものはない。捕まえ切れないならば、殴りつけるのみ。魔刃凶骨とCAMシールドで。
「これはカチャさんの分! これは痛かったR7の分! これはお猿に脅かされた一般市民の分なのー!」
叫びながら獲物を振り回す。避難民から、カチャから、1歩でも2歩でも遠ざけさせようと。
●
アザリーと乗り手2人は、最後尾に追いついた。
ソラスは急いで鞍から跳び降り、アースウォールを立ち上げる。ステラは騎乗したまま避難者たちに呼びかける。
「もう大丈夫だ。姿勢を低くして広がらず落ち着いて避難してくれ――ばらばらになるな。壁を背にして一列に避難するんだ」
アースウォールに目隠しとしての意味はない。何しろ相手の目線は8メートルの高さにあるのである。2メートルの高さの壁では、視界を遮り切れない。しかし弾除けとしてはある程度有効だ。
モンキチが交戦相手とのやり取りに気をとられ、避難民の動きを把握していないとしても弾は飛んで来る。移動阻害は行動阻害ではない。両手にしたガトリングは、縦横無尽に振り回せるのだ。
早速それが来た。
『ムキー! 何だお前ら邪魔すんな!』
ステラは妨害射撃を行い、弾で弾を撃ち抜くという離れ業を披露する。しかし全ては防ぎ切れなかった。
被弾したアースウォールがたちまち砕けた。ソラスは急いで詠唱し壁を作り直す。それから遅れがちな者の介添えをし、一緒に歩かせる。本当は壁の後ろで休ませようと思っていたのだが――この状況から見るに危険過ぎる。とにかく1分1秒でも早く、一歩でも遠くへ行かなければ。
詩は天照に周囲の警戒を任せ、カチャの治療に当たっていた。腹部に背中側まで貫通するほどの大穴が空いている。
「しっかりして!」
術の効きが悪い。回復をかけた直後はきれいに塞がるのだが、またすぐ傷が開いて行く。負のマテリアルを撃ち込まれたことによる作用らしい。フルリカバリーを3回かけ直して、ようやく状態が安定した。
カチャの目に光が戻ってきた。耳に口を当てて、聞く。
「大丈夫?」
力のない、だけど確かな返事があった。
「……だい、じょう、ぶ……」
ちょうどいい所でリナリスがやってきた。
彼女はカチャを抱き上げトラックの荷台にあるベッドへ連れていった。それから、避難者たちの方へ向けて走りだした。
たちまちソラスたちに追いつくや、窓から顔を出して言う。
「何か出来る事ある? 手伝うよ!」
ソラスは負傷者を指して言った。
「では、この人たちを先に運んであげてください! もう限界なんです! 休ませようにも休ませられませんので!」
「分かった!」
●
ガトリングの射程外まで避難者全員連れ出した。怪我人はいるが死者はいない。
ソラスたちからその報告を受けたイツキは、行動を撹乱主体から攻撃主体に切り替えた。
「悪意を断つ、無為の一撃を!」
人獣心を一にして攻撃を行う。竜爪ルタ・ラ・ギルとネレイデスが阿吽の呼吸でデュミナスを狙う。
幾度かの試みの末、脚部に一撃が当たった。
避難活動を終えたリナリスとステラが支援に戻ってきた。前者はアイスボルトで、後者はターゲッティングで、執拗にガトリングを狙う――攻撃は功を奏した。右ガトリングの弾の出が極端に落ちた。
デュミナスの動きが鈍ったところを見計らい、ゾファルが攻める。
上段から振り下ろす渾身の一撃。スペルブレードから一直線に伸びたマテリアルの光線が、右のガトリングを真っ二つにした。
『あー! オレ様のガトリングがー! 何してくれてんだコノヤロー!』
左のガトリングで応戦しようとするデュミナス。そこにディーナがジャッジメントを仕掛ける。動きが止まった一瞬間にシールドを、所構わず叩きつける。
「これは壊れた家の分! これは死んじゃったお馬さんの分!」
『てめえいい加減にしろ!』
モンキチも段々我を忘れてきたのか、壊れたガトリングの残骸で彼女を殴り返した。
もちろんエクスシアはダメージを受ける。回復に務めざるを得ない。
その時間の空白を補うよう、詩が突っ込んで行く。
「あいつをやっつけて!」
天照の体が燃え上がるようなオーラに包まれた。フェンリルライズだ。
鋭い牙がデュミナスの肩に齧り付き、装甲をかじり取る。その顎下にガトリングの銃口が押し当てられた。
詩はホーリーヴェールを発動させた。
続けざまに撃ち込まれる黒い弾丸が光の防御壁を破壊する。
天照は一旦地上に降りた。喉元に血が滲んでいた。うめき声を上げる相棒に詩は、泣きながら懇願する。
「ごめんね、痛いよね。けど沢山の人がもっと痛みと苦しみをあいつに与えられたんだ。もうそんな事をさせないようにしたい。だからお願い、戦って!」
避難民の元から徒歩で戻ってきたソラスは射程範囲に入るや手持ちの本をかざし、アイスボルトを放った。
氷の矢は詩たちの頭上を飛び越え、デュミナスの脚に当たる。
機体の動きが再び鈍ったところ、スパニヤードが挑みかかる。
「オラオラ、よそ見してると危ないじゃーん!!」
言いながら相手の背後に回り、まだガトリングを持っている左手にハンマーロックをかけようとした。
刹那デュミナスの右手からプラズマカッターが飛び出した。
スパニヤードはとっさに体を捻り頭部への直撃を避ける。胴に当たったカッターはマテリアルカーテンと装甲によって弾かれる。
コクピットの中でゾファルは、「へへっ」と笑った。
「こういう時は小細工なしでいこうじゃん!」
機体そのものの重みとテルブリンカーの重みを加えたクリムゾンウェスタンラリアットが炸裂した――そして、きれいに入った。腹に。
白兵戦に特化されたガルガリンのパワーはすさまじいものだった。コクピットの真下が剣の形そのままに大きくへしゃげる。
「うっしゃぁぁぁ、だぁぁぁ」
間髪入れずスパニヤードはデュミナスの片膝を踏み上り、顔面への膝蹴りを食らわした――プロレス用語で言うシャイニングウィザードである。
機体の制御系統機関に支障が出ただろうか、デュミナスは酔っ払いのようにふらふらし始める。ガトリングを持つ左手は先程の関節技でねじくれ、まともに動きそうにない。
引き続きソラスが、リナリスが、ステラが、遠方からの支援を行う中、ここぞとばかりディーナが躍りかかる。
「そういえば忘れてたの! これは道々踏み潰されてたお花さんの分なのー!!」
狂骨で、ふらついていたデュミナスの顔面を助走をつけて殴る。
デュミナスが転倒した。
しかしディーナは容赦しない。そのままマウントを取りタコ殴りにしようとする。
そこに爆雷のような衝撃が来た。ねじくれた腕から放たれたガトリングが、機体の頭部に命中したのである。弾の反動で腕が跳ね回っているところからするに、意図して狙ったわけでは無さそうだ。偶然に偶然が重なった全くもって奇跡の一撃。
頭部の破損によってエクスシアコクピット内のモニタがブラックアウトする。
フルリカバリーを使って彼女がそれを回復させたとき、モンキチはもうデュミナスから抜け出していた。
操縦者を失ってもガトリングの無軌道な連射は止まらない。デュミナスの至近距離にいたエイルも弾丸を受ける。一つは胴、一つは急所。前者は盾で防いだが、後者は防ぎ切れなかった。腹部の柔毛がじわりと赤く染まる。
しかし足は止めない。一直線に対象へと向かって行く。
イツキは口を引き結び、ガトリングをもつ腕目がけネレイデスをふるった。
火花が上がる。引き金を引いたまま固定されていた指が開き、連射が止んだ。
詩が駆け寄り、エイルにヒーリングスフィアを施す。
イツキは相棒の毛を撫で、悔しそうに言った。
「痛かったですね」
気にするなと言いたげにエイルは、鼻をフンと鳴らした。
●
ディーナはコクピットをロックし、機体から降りた。自力でのモンキチ追跡を始めた。
「倒すだけで満足するから倒せないの! その先を想像するからこそクリアできるの! 逃がさないの食材!」
ただの煽りではない。彼女はその口にするところについてかなり本気である。
「お前を倒しておせちの具材に入れてあげるの目出度いの、だから覚悟するのー!」
プルガトリオで相手の動きを止めようとする。しかしボール状に体を丸め高速で移動するモンキチには、なかなか当たらない。
『いい気になんなよお前ら、オレ様まだ本気出してねえからな、全然出してねえからな!』
などと放言しつつちょこまか逃げる相手にソラスが、アイスボルトを放つ。捕らえるというよりむしろ、避難民のいる側に近づかせないために。
素早い上に的が小さくて、非常に当たりづらい。
『みんな、ちょっと離れて!』
警告の後リナリスは、トラックに積んだアサトライフルをぶっ放した。
狙った範囲の地面が一瞬にして穴だらけになる。モンキチはそれを避けることに集中せざるを得なかった。
そこで詩は残っていたプルガトリオを撃ち込む。
一瞬動きが止まった。
再びアサトライフルが撃ち込まれる。
『ウキィ!!』
ブリキのお猿はたちまち穴だらけになった。しかし動き回ることには変わりない。空いた穴もすぐさま塞がり修復されてしまう。
イツキも追いすがるが、縦に横に跳躍を加えた逃げ足に追いつくことが出来ない。
あれだけの大型火器で掃射を受けたにもかかわらず、すぐさま消える気配もないとは、この歪虚確実にただのネズミではない。
アザリアの俊足でモンキチに追いすがるステラも、同じことを思った。
脳裏をよぎるのは依頼報告書の内容だ。
(確かあのデュミナスだけじゃなくて、ほかのCAMも盗まれたとあったな……)
だとしたら可能な限りここで潰しておくべきだ。捕まえるなり破壊するなりしなければ、また同じことが繰り返される危険性がある。
「待ちな! お帰りには早すぎるぜ!」
ライフルの銃口が天に向けられた。放たれた銃弾は光の雨に変じ、モンキチの上に降り注ぐ。移動だけでなく行動までもが、数秒間阻害された。それは相手との距離を縮めるのに十分な時間だった。
「よいしょお!」
スパニヤードの剛腕でデュアルは、地面に落ちていたガトリングを粉砕した。またぞろ動き出されてはかなわないと思われたので。
彼女はモンキチを追いかけるハンターたちの方に視線をやったが、そちらに行くことはしなかった。
「ま、なかなか楽しかったじゃん」
と言って、その場に座り込んでしまう。対CAM戦が終わってしまった今、やるべきことは何もないような気がしたのだ。
彼女が対モンキチ戦に参加していれば、もしかして次の展開は、少し違ったものになっていたかもしれない。
ステラのターゲッティングが再び動きだそうとしたモンキチを貫いた。
転がり出そうとした勢いのまま弾かれるモンキチ。
そこへ怒涛の勢いで駆け寄ってくるディーナ。
「もぉらったのおお!!」
駆け寄ったディーナがメイスを振り下ろし、モンキチを乱打する――モンキチの頭部が割れた。いや、割れたのではない、開いた。そこから黒光りする銃口が複数飛び出してくる。
「!?」
ディーナはとっさにパリィグローブを盾にした。
銃口から発射された負のマテリアルの塊が彼女の足を貫いた。しつこく焼けるような痛みに、メイスを思わず取り落とす。
弾丸を受けたのはディーナだけではない。詩もまた腹部に一発食らう。リナリスのトラックはフロントガラスを破られ、急停止を余儀なくされる。
その隙にモンキチは再び逃げた。
『てめーら、覚えてろよ! 今度はな、今度はなあ、もっともっとすげーの作ってきてやるからなー!!』
という、負け惜しみのような捨て台詞を残して。
イツキはエイルにモンキチの後を追わせた。ステラは負傷した仲間に駆け寄りリーリーヒーリングをかけさせた上で、イツキの後を追うようにして追跡に向かった。
しかし、両者とも結局は取り逃がしてしまった。
●
傷は塞がったのに、じくじくした疼きがまだ残っている。負のマテリアルが作用しているのだろう。天照も同じだろうかと思いつつ詩は、ふかふかした頭を撫でる。
「ありがとうね」
避難者たちの救援へ赴く前にカチャの様子を見に行く。
カチャは、荷台のベッドで横になっていた。
リナリスがその手を握っている。目から大粒の涙をこぼし、話しかけている。
「元気になるまでつきっきりで看病するからね! ご飯も食べさせるし、体も……」
言葉が咽びによって続かなくなった。
「だから……って、カチャ……」
カチャは浅い息を繰り返し、夢うつつな口調で繰り返した。
「……だいじょうぶ……だいじょうぶですから……」
詩は荷台に上がりリナリスの背を叩いた。
そこにステラが入ってくる。救急セットを手にした彼はカチャのジャージをまくり上げ腹の患部を確認した。癒されたはずのそこに、うっすら血が滲みだしている。
手早く血止めのガーゼをかぶせ包帯を巻き付け、使った残りをリナリスに渡した。
「こうしたら、多少は楽になるだろ? 後はお前が適度に替えてやってくれよ」
なるべく軽い調子で言ってまた外に出た彼を、ディーナが呼び止める。モンキチを一杯食わされるような形で取り逃がしたことに、彼女は、かなり憤懣やる方なさそうだった。
「カチャさん、どうだったの?」
「大丈夫だ。生きてる。傷の治りがちっと悪いが、問題ねえよ」
「そうですの……」
ほっとしたような、しかしまだ心配そうな面持ちでディーナはエクスシアに乗り直した。避難民たちの元へと向かうために。
イツキもまたエイルに跨がり、同じ方向へ向かう。治療を必要としている人間がいるはずなので。
ステラは休憩しているゾファルの所へ行き、話しかけた。
「よー、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいか?」
「んー、何だ?」
「カチャが乗ってたアーマー。修理工場にでも運んでやっといてくれねえか。ちょうどフマーレも近いことだしよ」
「えー、俺様ちゃん面倒くせーなー」
と言いつつもゾファルは、スパニヤードの肩にアーマーを担ぎ上げる。
澄んだ歌声が聞こえてきた。詩が鎮魂歌を歌っているのだ。理不尽に傷つけられ亡くなった人々のために。
それにしばし耳をすませた後ステラは、自分も避難者たちの元へ向かう。徒歩でそちらに向かっていたソラスを呼び止め、アザリーに乗せて。
●
数日後。施療院の一室。
「……そんなに被害が出てたんですか。私、あまり役に立てませんでしたね」
ベッドに腰掛けため息をつくカチャにリナリスは、ううんと首を振る。
「十分役に立ってたよ。カチャがあそこで足止めしなかったら、もっとたくさんの人が死んでたはずだから。まだ痛んだりする?」
「いいえ。もう全然。明日には退院出来ますって、お医者さんが……」
そこまで言ってカチャは照れ臭そうに、膝の上で組んだ手の親指を回した。
「……あのね、錫杖のローン、後何回かで終わりそうなんです。だから、将来のことについて具体的に考えられるかなって……」
「本当! うれしー!」
カチャに抱き着くリナリス。
そこへ、ひょいとゾファルが顔を出す。
「おー、すっかり良くなったみたいじゃん」
冷やかしながら近づいてきて、はい、とカチャに紙切れを渡す。
「……なんですかこれ……」
「何って、アーマーの修理費請求書」
「……なんで私当てに請求されてるんです」
「だってあれの持ち主カチャじゃん?」
「……あれ郷の共有物なんですけど」
「え、そう? でも引き渡すときカチャの名前使っちまったからしゃーねーじゃん♪」
見舞いに来た詩、ソラス、イツキ、ディーナ、ステラは、入院室前で顔を見合わせた。
「……入りづらくなったね」
「ですね」
「アーマーの修理費って、どれくらいかかるものなんです?」
「……相当なんじゃないかと思うの」
「鉄くずに近い状態だったからな……」
とにかくカチャの前に、新たな借金返済への道が開かれた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/05 22:02:09 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/12/07 01:11:28 |