ゲスト
(ka0000)
【東幕】幕間には至らずにて
マスター:赤山優牙
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/12/06 07:30
- 完成日
- 2017/12/13 19:49
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●龍尾城
“元憤怒王”蓬生が長江付近で目撃されている情報は、立花院 紫草(kz0126)の耳にも伝わっていた。
最も、カカオ豆を巡る攻防の中で、出現した蓬生が“本物”かどうかを確かめる術はないし、仮に本物であって、最大の脅威であろう蓬生が長江に留まっているとすれば、その方が幾ばくか安心できるというもの。
「ハンター達が入手したメモに記されていた廃城についての情報を収集して参りました」
畏まって言ったのは大轟寺蒼人だ。
前回の依頼の中で、ハンター達が蓬生から手に入れたものらしい。
そこに秘宝がある……とは、正直、紫草は思っていなかった。
理由は様々あるのだが、蓬生と接触したハンターの話によると、秘宝の件を知らない様子だったからだ。
「秘宝の探索も進める必要はありますが、憤怒歪虚が何か企んでいるのであれば、粉砕しなければなりません」
「罠という可能性は?」
何しろ情報の出所は“元憤怒王”蓬生なのだ。
「もし、蓬生が罠を仕掛けているのであれば、もっと巧妙だと思うのです」
「幕府軍を動かしますか?」
全軍とは言えないものの幕府軍は出撃可能な状態で待機してある。
だが、この軍は即応部隊として控えている大事な戦力だ。万が一、恵土城陥落の危機に際には主力となる予定なのだ。
今、手持ちの中で使える戦力は限られているし、公家からの圧力によって兵力や兵糧の協力を出し惜しみする武家も中にはいる。
状況的には憤怒本陣に攻め込んだ時よりも悪いかもしれない……。
「廃城は天ノ都からは遠いですが、十鳥城からは比較的近い位置です」
「では、十鳥城の正秋殿に出撃命令を?」
「それもありますが、今、長江西には多数のハンターが集合しているはずです。彼らの力も借りましょう」
微笑を浮かべて言った紫草の台詞に蒼人はポンと手を叩いた。
「あぁ……それで、長江西開拓地へのハンターを派遣する費用を幕府が支援したと」
「廃城の名前に少し、覚えがあった……というのもありますけどね」
「“嘉義城”……比較的、最近まで健在だった城……という事ですが、紫草様はご存知だったのですか」
紫草は静かに頷いた。
憤怒歪虚との戦いの中で、幾つもの城や町が滅んだ。
中には見殺ししなければならない、そんな状況もきっとあったはずだ。例えば、かつての十鳥城のように……。
「私も直接、乗り込みます。蒼人は公家と御登箭家の動きを見張っていて下さい」
「元々、武家の監視役だったのが、更に公家の監視役になるとは……」
蒼人は諦めたような口調で眼鏡の位置を直しつつ、そう言った。彼の家は朝廷と深い繋がりがあり、武家の動きを監視するという裏の顔を持っていた。
それが今や、朝廷を支える公家を監視するという立場になっているのだ。
●???
「蓬生お兄さん。何故、此処にいらっしゃるのですか?」
狐耳のような髪がピクリと動きながら、美しい女性の姿の歪虚が、突如、姿を現した蓬生に向かって言った。
言葉は丁寧だが、不機嫌な様子が感じられる。
「実は、“新しい拠点と教えて貰ったメモ”を、ハンターと戦った際に落としてしまったようで」
「……そうですか。それなら、仕方がありませんね」
女性の姿形をしているが、憤怒歪虚であるその存在は、大きくため息をついた。
想定していた計画にズレが生じるが、全体の計画には支障は無いと判断したからだ。
「本当に、仕方がないですね。蓬・生・お・兄・さ・ん」
「気安く私に触らないで下さい」
絡みつくように迫った“妹”を剥ぎ取る蓬生。
「あら、それは失礼しました。人間達の中では『兄は妹に弱いもの』と聞いていたので」
「私は本陣に帰りますね」
嫌々そうな表情を隠しもせずに蓬生は言ったが、“妹”は首を横に振った。
そして、新たなメモを渡す。
「実は……そろそろ、お話しようと思っていたのですが、面白い情報を得まして。蓬生お兄さん、幕府の秘宝『エトファリカ・ボード』をご存知ですか?」
「いえ、初めて聞きましたね」
――嘘だが。
だが、余計な事に巻き込まれたくないので、蓬生はそう答えた。その反応に、“妹”がドヤ顔で説明する。
「この秘宝を使って、私達の勢力を盛り返し、同時に幕府を滅ぼします」
「例え、幕府を倒したとしても、西方からの援軍に押されるだけですよ」
「転移門さえ封じておけば、東方にまで来られる手段は微々たるもの。その間に、西方の歪虚や、蓬生お兄さんのお知り合いの……異世界の歪虚と協力すればいいのです」
両手を天に向かって広げる“妹”。
蓬生は一刻も早く、この場から立ち去りたい気分になった。
今更、憤怒勢力を取り戻した所でどうするというのだ。儚く美しい世界は、滅ぼしてしまえばそれまでというのに。
「此処に来た以上、蓬生お兄さんには見届けて貰いますからね。“元憤怒王”として」
「……分かりました。行く当てもありませんからね」
“妹”の我儘に“兄”は逃れられないものですか――と、蓬生は心の中で呟いたのだった。
●嘉義城
その城が憤怒歪虚との戦いで滅びたのは、十数年前の事。
戦と負のマテリアルによる汚染で、天守閣や楼などの構造物は崩壊している。
辛うじて残っているのは、地下施設のみだ。
「最大の目的は地下施設の把握ですか」
十鳥城代官仁々木 正秋(kz0241)の確認にタチバナは頷いた。
「事前の情報によると嘉義城の地下は籠城に備えて広く作られています。隅々まで確認し、憤怒歪虚の企みの有無を確認しましょう」
「憤怒歪虚残党の姿が、場外にチラチラとみられるようです」
正秋が指揮する十鳥城の兵士達は廃城の周囲を警戒していた。
その中には、強力な憤怒歪虚の姿も確認できたという。
「明らかに憤怒歪虚側に何か動きがあるようですね。探索中の背後を突こうという可能性もあります。迎撃と並行しながら探索を行いましょうか」
「分かりました。それでは、拙者が迎撃に向かいます」
「くれぐれも油断してはなりませんよ」
承知と応えながら出撃する正秋の背中を見届けながら、タチバナは顎に手をやった。
これが憤怒歪虚の罠だったとすれば、出現した憤怒歪虚はかなり危険な存在なはずだからだ。
(……当然、地下も“そういう”事でしょうか……)
しかし、こればっかりは地下に入ってみないと分からない。
地下の通路は狭い所や入り組んだ所も多い。長柄武器の持ち込みは難しいだろう。
その為、タチバナも愛用の大太刀ではなく、普通の長さの刀を用意してきてはいる。
(皮肉なものですね……救援に間に合わなかった城へ、今、入るというのは……)
悲しげな雰囲気を瞳に宿し、タチバナは刀を抜いた。
○解説
●目的
嘉義城地下施設の探索
●内容
歪虚を迎撃しつつ、嘉義城地下施設の探索を完了させる。
●行動先について
必ず【表層】【下層】【迎撃戦】いずれかの行動先を指定して下さい。
未指定や二つ以上指定した場合、報告官の独断と偏見で決めます。
“元憤怒王”蓬生が長江付近で目撃されている情報は、立花院 紫草(kz0126)の耳にも伝わっていた。
最も、カカオ豆を巡る攻防の中で、出現した蓬生が“本物”かどうかを確かめる術はないし、仮に本物であって、最大の脅威であろう蓬生が長江に留まっているとすれば、その方が幾ばくか安心できるというもの。
「ハンター達が入手したメモに記されていた廃城についての情報を収集して参りました」
畏まって言ったのは大轟寺蒼人だ。
前回の依頼の中で、ハンター達が蓬生から手に入れたものらしい。
そこに秘宝がある……とは、正直、紫草は思っていなかった。
理由は様々あるのだが、蓬生と接触したハンターの話によると、秘宝の件を知らない様子だったからだ。
「秘宝の探索も進める必要はありますが、憤怒歪虚が何か企んでいるのであれば、粉砕しなければなりません」
「罠という可能性は?」
何しろ情報の出所は“元憤怒王”蓬生なのだ。
「もし、蓬生が罠を仕掛けているのであれば、もっと巧妙だと思うのです」
「幕府軍を動かしますか?」
全軍とは言えないものの幕府軍は出撃可能な状態で待機してある。
だが、この軍は即応部隊として控えている大事な戦力だ。万が一、恵土城陥落の危機に際には主力となる予定なのだ。
今、手持ちの中で使える戦力は限られているし、公家からの圧力によって兵力や兵糧の協力を出し惜しみする武家も中にはいる。
状況的には憤怒本陣に攻め込んだ時よりも悪いかもしれない……。
「廃城は天ノ都からは遠いですが、十鳥城からは比較的近い位置です」
「では、十鳥城の正秋殿に出撃命令を?」
「それもありますが、今、長江西には多数のハンターが集合しているはずです。彼らの力も借りましょう」
微笑を浮かべて言った紫草の台詞に蒼人はポンと手を叩いた。
「あぁ……それで、長江西開拓地へのハンターを派遣する費用を幕府が支援したと」
「廃城の名前に少し、覚えがあった……というのもありますけどね」
「“嘉義城”……比較的、最近まで健在だった城……という事ですが、紫草様はご存知だったのですか」
紫草は静かに頷いた。
憤怒歪虚との戦いの中で、幾つもの城や町が滅んだ。
中には見殺ししなければならない、そんな状況もきっとあったはずだ。例えば、かつての十鳥城のように……。
「私も直接、乗り込みます。蒼人は公家と御登箭家の動きを見張っていて下さい」
「元々、武家の監視役だったのが、更に公家の監視役になるとは……」
蒼人は諦めたような口調で眼鏡の位置を直しつつ、そう言った。彼の家は朝廷と深い繋がりがあり、武家の動きを監視するという裏の顔を持っていた。
それが今や、朝廷を支える公家を監視するという立場になっているのだ。
●???
「蓬生お兄さん。何故、此処にいらっしゃるのですか?」
狐耳のような髪がピクリと動きながら、美しい女性の姿の歪虚が、突如、姿を現した蓬生に向かって言った。
言葉は丁寧だが、不機嫌な様子が感じられる。
「実は、“新しい拠点と教えて貰ったメモ”を、ハンターと戦った際に落としてしまったようで」
「……そうですか。それなら、仕方がありませんね」
女性の姿形をしているが、憤怒歪虚であるその存在は、大きくため息をついた。
想定していた計画にズレが生じるが、全体の計画には支障は無いと判断したからだ。
「本当に、仕方がないですね。蓬・生・お・兄・さ・ん」
「気安く私に触らないで下さい」
絡みつくように迫った“妹”を剥ぎ取る蓬生。
「あら、それは失礼しました。人間達の中では『兄は妹に弱いもの』と聞いていたので」
「私は本陣に帰りますね」
嫌々そうな表情を隠しもせずに蓬生は言ったが、“妹”は首を横に振った。
そして、新たなメモを渡す。
「実は……そろそろ、お話しようと思っていたのですが、面白い情報を得まして。蓬生お兄さん、幕府の秘宝『エトファリカ・ボード』をご存知ですか?」
「いえ、初めて聞きましたね」
――嘘だが。
だが、余計な事に巻き込まれたくないので、蓬生はそう答えた。その反応に、“妹”がドヤ顔で説明する。
「この秘宝を使って、私達の勢力を盛り返し、同時に幕府を滅ぼします」
「例え、幕府を倒したとしても、西方からの援軍に押されるだけですよ」
「転移門さえ封じておけば、東方にまで来られる手段は微々たるもの。その間に、西方の歪虚や、蓬生お兄さんのお知り合いの……異世界の歪虚と協力すればいいのです」
両手を天に向かって広げる“妹”。
蓬生は一刻も早く、この場から立ち去りたい気分になった。
今更、憤怒勢力を取り戻した所でどうするというのだ。儚く美しい世界は、滅ぼしてしまえばそれまでというのに。
「此処に来た以上、蓬生お兄さんには見届けて貰いますからね。“元憤怒王”として」
「……分かりました。行く当てもありませんからね」
“妹”の我儘に“兄”は逃れられないものですか――と、蓬生は心の中で呟いたのだった。
●嘉義城
その城が憤怒歪虚との戦いで滅びたのは、十数年前の事。
戦と負のマテリアルによる汚染で、天守閣や楼などの構造物は崩壊している。
辛うじて残っているのは、地下施設のみだ。
「最大の目的は地下施設の把握ですか」
十鳥城代官仁々木 正秋(kz0241)の確認にタチバナは頷いた。
「事前の情報によると嘉義城の地下は籠城に備えて広く作られています。隅々まで確認し、憤怒歪虚の企みの有無を確認しましょう」
「憤怒歪虚残党の姿が、場外にチラチラとみられるようです」
正秋が指揮する十鳥城の兵士達は廃城の周囲を警戒していた。
その中には、強力な憤怒歪虚の姿も確認できたという。
「明らかに憤怒歪虚側に何か動きがあるようですね。探索中の背後を突こうという可能性もあります。迎撃と並行しながら探索を行いましょうか」
「分かりました。それでは、拙者が迎撃に向かいます」
「くれぐれも油断してはなりませんよ」
承知と応えながら出撃する正秋の背中を見届けながら、タチバナは顎に手をやった。
これが憤怒歪虚の罠だったとすれば、出現した憤怒歪虚はかなり危険な存在なはずだからだ。
(……当然、地下も“そういう”事でしょうか……)
しかし、こればっかりは地下に入ってみないと分からない。
地下の通路は狭い所や入り組んだ所も多い。長柄武器の持ち込みは難しいだろう。
その為、タチバナも愛用の大太刀ではなく、普通の長さの刀を用意してきてはいる。
(皮肉なものですね……救援に間に合わなかった城へ、今、入るというのは……)
悲しげな雰囲気を瞳に宿し、タチバナは刀を抜いた。
○解説
●目的
嘉義城地下施設の探索
●内容
歪虚を迎撃しつつ、嘉義城地下施設の探索を完了させる。
●行動先について
必ず【表層】【下層】【迎撃戦】いずれかの行動先を指定して下さい。
未指定や二つ以上指定した場合、報告官の独断と偏見で決めます。
リプレイ本文
【表層】
●地下施設
地の底から響いているのではないかと思う程、不気味な叫びに似た音を立て、かつて侍だったと思われる雑魔が襲い掛かってきた。
嘉義城は十数年前に憤怒歪虚の襲撃を受けて滅んだという。周囲は負のマテリアルに汚染され、死んだ侍が雑魔と化していても可笑しくはない。
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)は太刀を構えてそれを迎え撃つ。
「敵も侍ですか。相手にとって不足無し……いざ尋常に――勝負!」
刹那、仲間の持つ光源の中、刀先がキラリと光り、煌めいた。
素早い刀捌きのそれは、確実に雑魔を切り刻んでいく。
暗い地下施設では狭い上に視界も悪い。それでも、セツナは僅かな物音や気配を頼りに、周囲を充分警戒していた。
だから、曲がり角から突如として出現した別の雑魔の攻撃を避けきれた。
「増援ですか。でも、この程度であれば」
姿勢を崩して通路の壁に全体重を掛ける。
そうしてできたスペースを狙って、リラ(ka5679)の銃弾が光跡を宙に描きながら雑魔へと直撃した。
「特に属性は関係ないみたいですね」
リラの持つ龍銃には光属性を帯びている。
放たれた弾丸が特に有効打にはなっていないようだったが、それでも、確かな手応えを感じる。
「私も前に出ますね」
二方向からの雑魔の襲撃に、リラは銃を仕舞うとグローブを装着した。
回復手段が限られている以上、セツナだけに負担をかける訳にはいかない。
スッと前線に躍り出て、彼女は雑魔が振るった刀を避けると、拳にマテリアルを込めて叩き込んだ。
その様子に、セツナも別の雑魔へと意識を集中させた。
「では、こちらの通路側を受けもとう」
罠もそうだが、【表層】では雑魔の襲撃がメインだった。
通路が入り組んでいるので、背後からの奇襲もある。
「今の所、後ろに敵の気配は無い」
光源を掲げながら、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が淡々とした口調で言う。
「謎よりも、雑魔と斬り合うのが好きな私はこちら向き。戦闘より、謎に惹かれる私のマウジーはあちら向き。分かってはいましたが……なんでしょうね、この気持ちは」
そんな事を小さく呟いた。
雑魔は神出鬼没だった。探索が進めば進むほどに出現するそれら。
【下層】に向かったハンターを支援する意味でも、多くの雑魔が倒せれば……と思っていたが、今の彼は光源を確保し、背後に備える事しか出来ない。
「武器が大き過ぎましたね……」
通路には一定の大きさの物しか持ち込めなかったからだ。
彼の愛用の武器は、強力な威力を誇ったが、その大きさ故に、置いてくるしかなかった。
それでも、身に着けている鎧で、後方からの攻撃を身体を張って警戒する事はできる。
「……むしろ、マウジーと一緒に居なくて良かったかもしれません」
少なくとも無様な姿を見せなくて済んだだろう。
気持ちを切り替え、ハンスは光源を高く持ち上げた。
こうなった以上、自分の出来る事を最大限に務めるまでの事なのだから。
探索はお世辞にも順調とは言い難い状況であった。それは、この3人だけの話ではなく、他の【表層】の班も同様だった。
恐らく、【下層】も似ている状況だろう。原因は一つ……地下施設が広く、探索に赴いた人数が絶対的に不足していたからだった。
●探索の成果
こうなると、雑魔との戦闘を如何に切り抜けて、探索が継続できるか……という事になる。
長い通路で並んだ雑魔共を、テノール(ka5676)は格闘士の技で一掃した。すかさず、ペンとコンパスを取り出してマッピングに戻る。
「たまには、こういうのも楽しいかもしれないな」
純粋な戦いだけではない……という意味では、行う事が多いだろう。
彼は歩幅で距離を測定しながら、通路を記録していた。籠城用の地下施設という事で、ライフラインの残骸も探しながらだ。
「にしても、広すぎるよなァ」
テノールと共に居たシガレット=ウナギパイ(ka2884)が魔杖をトンと自分の肩に掛けて言う。
先程の雑魔の群れを通路に誘き出し、足を止めたのは、シガレットの魔法による所だ。使用感としては上出来だろう。
「出来る限り、探索するしかない」
「そういう事だなァ……」
探索方法は間違っていないだろう。
そこへ、同じく【表層】を探索していたユリアン(ka1664)と劉 厳靖(ka4574)の二人が姿を現した。
「そちらの成果はどんな感じかな?」
マッピングセットを広げながらユリアンは苦笑を浮かべて尋ねる。
思ったよりも近い所を探索していたようだ。
「進められるだけ、進んだ……という所だ」
応えたテノールがこれまでの成果を見せる。
紙に落とし込まれた内容とお互い照らし合わせた。
その間、シガレットが回復魔法を厳靖に掛ける。
「負傷しているなら、回復するぜェ」
「そりゃ、助かる。地獄に仏とはこの事だな」
回復手段は持ち合わせてきているが、探索が長くなるのであれば、とても助かる事。
シガレットが回復魔法で二人の傷を癒している間に、お互いの探索結果の照らし合わせも終わった。
「……ここの空白地帯が気になるが、そっちでも見てくれないか」
テノールが指さした一角には不自然な空白が広がっていた。
「もしかして、隠し部屋などあるかもしれない」
「隠し部屋か……なるほどだ」
顎に手をやりながら、厳靖は唸る。
元は籠城用に作られた地下施設だ。そういった所があっても不思議ではない。
「怪しい場所があれば、印を残しておくよ」
「それで頼むぜェ」
ユリアンの言葉にシガレットは頷いたのであった。
【下層】
●らきすけ冒険者
「行くよ菊理。嘉義城の地下施設に潜り、憤怒歪虚の企みを暴くダンジョンアタックだよ!」
キリっとした表情で時音 ざくろ(ka1250)が意気揚々に宣言する。
冒険家を自認するざくろらしいといえば、彼らしい事であり、それを心の中で微笑ましく白山 菊理(ka4305)は思った。
「油断は禁物だ。ざくろ」
「勿論だよ!」
光源として持ち込んだ灯火の水晶球を起動させ……たが、水晶球が不可思議な動きを見せた。
ここで落として万が一にも割れたら大変。慌てて手を伸ばしたざくろ。スルッとざくろの手を避けた水晶球の華麗な動き。
唐突の事でざくろの手は菊理の胸を直撃した。
「……ざくろ、まだ依頼の最中だけど」
「あわわわわ」
初っ端から、らきすけ全開である。
顔を真っ赤にしながら、ざくろは今度こそ水晶球を確りとセットすると、通路を歩きだした。
油断はできない。罠が張り巡らされているからだ。
「これなら……」
霊闘士としての力を使いながら、ざくろはペットで連れてきた鼠を先行させる。
狭い場所も鼠なら入れるだろうし、探索には有効だろう……条件が揃えば……。
「……鼠の視覚ってあまりよくないみたいだ……」
夜行性である鼠ではあるが、その視覚は特段、優れている……とは言い切れない。
これが、猫であったりすれば別だったかもしれないが。それに、古い地下施設は多少の崩れもある。人であれば気にならない瓦礫も鼠にとっては巨大な障害物だ。
「ふー」
術を解除して一息ついた時だった。
戻ってきた鼠が、不可思議な事に菊理の胸元へと飛び込んだ。
「……ざくろ。取って」
たいまつ代わりのメイス。そして、マッピングセットを持った菊理が両手を挙げる。
確かに、この状況だと、誰かに取って貰うしかない。物を床に置けばいいと思われるだろうが、雑魔の襲来も考えられるなら、出来れば手放したくはない。
「あわわわわ」
菊理の胸元へと、ざくろは頑張って手を伸ばす。
サッと奥に逃げる鼠。慌てて、追いかけるざくろの手が暖かく柔らかいそれを掴んだ。
「……ざくろ、まだ依頼の最中だと」
「や、やわらか……」
呆れたような菊理の言葉と共に、ざくろは、ぶしゅーと豪快に鼻血を噴出した。
なお、彼の名誉の為に記し残しておくが、その後も二人の探索はちゃんと進み、一定の成果は得られたのであった。
●二人の探索
(ダンジョンでパンチラを求めるのは間違っていまちゅか?)
北谷王子 朝騎(ka5818)は天井を見上げながら、心の中で問いかけた。
答える者が居る訳ではない。しかし、やはり、求めてしまうのが宿命というものなのだろう。
一先ず、この地下遺跡に朝騎が求めるものは無かった。
「朝騎、ダンジョン探索なんて初めてでちゅ」
「そうなのですね」
その問いの答えは、穂積 智里(ka6819)が言った。
先行させていたロボットクリーナーを下がらせる。通路の掃除を始めたので、目的通りの使用が出来なかったからだ。
これは盲点……いや、掃除機ロボットなので、当然といえば、当然なのだが。
「ここは、朝騎にお任せでちゅ!」
幾枚もの符を散らばせ、朝騎は符術を行使した。
ややって生まれたのは巨大な式神――になるはずだった。
通路いっぱいに広がったそれは、紙吹雪のように消え去る。
「……大きすぎたでちゅ!」
符術師のスキルである御霊符はサイズ2の「式神」を出現させる。
一方、通路はそれに見合うだけの広さはない。
「……探索を続けましょうか」
「そうでちゅね……」
落ち込んでいても仕方ないので、二人は生身での探索を続ける。
他のハンター達同様、彼女らもマッピングをして、情報を共有する。
「地図だけ作るんじゃ意味が半分くらいしかないと思います」
智里が真剣に言った。
依頼の目的は地下施設内の探索だ。それは憤怒歪虚の企みの有無があるかどうか調べる為である。
「私達は、何があるのかを見つけないと。その手がかりを見つけられるように歩かないと」
「どんなお宝(パンツ)が眠ってるんでちゅかね。楽しみでちゅ」
真面目な智里と違って、朝騎の頭の中ではパンツが舞っていた。
こんな地下遺跡にパンツが転がっているはずはないのだが……。
ピタっと足を止める智里の動きに気が付かず、頭の中、パンツだらけの朝騎が進んだ時だった。
突如として罠が発動した。吹き出される強烈な消化液。
「あぁぁ! パンツが溶けてしまうでちゅ!」
危うく、朝騎の衣服が溶けてしまう所だった。
同時に通路の先から触手のようなものを幾つも持つ雑魔が姿を現した。
「消化液に触手でちゅかー!」
薄い本みたいな事に自分がなってしまう訳にはいかないので、朝騎は符を構え、智里も杖を構えた。
「罠と雑魔を突破しないと、探索は続けられませんね」
●罠とは
光源を魔法で作り、ヴァイス(ka0364)が通路を進む。
「また罠か……」
「すぐに治すね」
発動した毒の罠に侵されたヴァイスを天竜寺 詩(ka0396)が魔法で癒した。
地下施設には多くの罠が残されていた。慎重にしていても掛かってしまう。
「これほど、多いという事は、余程、念入りに作られていた城だったのか」
ヴァイスはそんな事を告げた。この地下施設は籠城を目的として作られたものだ。
「……かなりの激戦だった……らしいですね」
タチバナが少しばかり寂し気な雰囲気を発しながら言う。
その言葉に詩が呟く。
「滅びた物は美しいとかよく言うけど、滅びた側にしたら哀しいだけだよね」
「えぇ……きっと、この地下施設に籠り続けて最後まで戦ったのでしょう」
【上層】は罠よりも雑魔が多く、【下層】は罠の方が多い。それは、地下施設での戦いが主に【上層】で繰り広げられたからだろう。
最も、感傷に浸っている場合では無い。憤怒歪虚の企みがあるかどうか調べなければならない。
「わふ、わぅー……」
物寂し気なタチバナの様子にアルマ・A・エインズワース(ka4901)が心配そうな視線を向ける。
その視線に気が付き、タチバナは微笑を浮かべた。
「どうしました? アルマさん」
その言葉に彼は真顔をまま固まる。直後、全身から力が抜け、肩が崩れる。
「……こないだ、アルマって、呼んでくれた、です……」
どうやら、呼び方の問題らしい。
「アルマ、お心遣い、ありがとう」
「わふー!」
微笑を浮かべたタチバナにアルマは犬のように飛びついた。
巨大な犬を眺めているような気持ちを抱きながら、詩が言葉を発した。
「思うように探索が進みませんね」
「罠があると思うとな……」
ヴァイスも同意する。
戦いになれば、このメンツだ。負ける気がしない。だが、探索となると話は別だ。
タチバナも探索は得意ではないようにも思える。
「こうなったら、強引に突破です!」
唐突にアルマが叫ぶと、仲間達が見ている中、走り出した。
次々に発動する罠という罠。勿論、アルマとて無事では済まない。
慌てて回復に回るヴァイスと詩。
「……なんという無茶を」
苦笑を浮かべるヴァイスに対し、タチバナはポンと手を叩いた。
「なるほどです! これは良いアイデアです」
「まさか……やるのか」
「援護をよろしくお願いしますね、詩さん」
「任せて下さい!」
回復魔法の為に意識を集中させる詩の視界の中でタチバナがアルマと共に通路を走り出したのであった。
【迎撃戦】
●拠点にて
押し寄せる憤怒歪虚。雑魔に交じって、猪やら虎やら羊やらの憤怒系歪虚がハンター達へと襲い掛かってくる。
憤怒――ツォーン――の歪虚は、動物や植物が合わさった混沌とした姿形が多い。
彼らは“怒り”を力とする。圧倒的な“怒り”は戦場では恐ろしいものだ。特に憤怒歪虚は王を倒され、本陣を攻められ、人間達に押されている現状だ。尚更、その“怒り”はいつも以上なのだろう。
それを城外で迎え撃つハンター達。当然の事ながら、戦いは熾烈になる。
「時間稼ぎゆーけど、考え方変えれば、長く戦えるってことやね」
琴吹 琉那(ka6082)が赤いマフラーをなびかせながら、人差し指を口元に立てた。
一先ず、襲撃を退けた所だ。
琉那は焦らず、慎重に戦い抜いた。蹴り技と格闘士としての技を駆使し、必要であれば手裏剣も使った。
そのおかげか、まだ体内のマテリアルには余裕がある。
「怪我を抑えられて良かったよ」
満足そうな表情で言ったのは十色 乃梛(ka5902)だった。
彼女は班員のダメージコントロールを強く意識していた。セットしてきたスキルもその為だ。
その為、攻撃力という点では他のハンターに譲る事になったが、結果的には戦闘要員を支える事が継戦に繋がり、問題は無かった。
アタッカーが充分に戦える環境が続けば、それで足りるからだ。
迎撃戦自体は終わっていないが、このまま凌ぎきれそうな予感もする。
「遭遇した敵が雑魔を含んでいたしな。それほど、脅威では無かった」
前腕まで巻かれた包帯を解きながら龍崎・カズマ(ka0178)は戦いを振り返る。
特に強力と感じたのは確かに居たが、カズマは素早い動きで憤怒歪虚を翻弄。
更に、敢えて硬そうな部位へマテリアルを込めた一撃を叩き込んでいた。
手応えは充分だ。これも、格闘士としての手解きを受けたからなのだろうか。
「時間稼ぎとは言わず、全部倒しちゃってもいいんだものね?」
そんな勇ましく言っているのはミィリア(ka2689)だった。
彼女の戦い方はシンプルだった。敵を引き寄せ、薙ぎ払う。それだけだ。
カズマが速さと技で戦い、ミィリアは溢れるばかりのパワーで戦う。対照的な二人だが、良い戦いが行えたのは確かな事だ。
そして、今、一行は拠点へと向かっている。
別班に憤怒歪虚討伐を交代し、とりあえず、拠点で体を休めようという訳だ。
拠点とした場所にはテントが幾つか張ってあった。
その周囲を見張っていたのはニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)だった。城の周囲だけではなく、万が一にも地下施設から雑魔が出てこないか詰めていたのだ。
(私のような腐敗物が地下施設を汚染させるわけにはいきません)
地下に興味がない訳ではなかったが、ここは探索に行く者達の背後を守る事に専念していた。
幸いな事に地下施設から雑魔はあふれ出てこなかった。
(もはや案山子……いえ、案山子以下です……私なぞが案山子と同等など……)
そんなネガティブに案山子の事に想いを馳せていると、視界の中にヨタヨタと動く何者かの姿が見えた。
雑魔……ではない。あれは、歩夢(ka5975)だった。
彼は別の依頼で重体となっていた。その為、積極的に地下施設に潜る事も、憤怒歪虚の迎撃に向かうのも出来ず、こうして拠点に残っていた。
「怪我をしちまって申し訳ない……」
ハンターとして活動する以上、怪我は付き物だ。
ましてや、命の危険もある。命があるだけでも儲けものという風にも思えるだろうし、彼は彼なりに拠点で活動していた。
仲間からの連絡を受けて拠点の運営のお手伝いをしていたのだ。
何か料理を作ろうもテントを設置しようも、あるいは治療のサポートも、怪我の為、満足には出来ないのがもどかしい。
「人が居るという事だけで、意味があるのですよ……」
それと違い、私なぞ、居るだけで周囲の空間を汚しているのですとニャンゴはブツブツと続ける。
そんなものなのかと歩夢は感じながら、視線を回した。
「帰ってきたか」
憤怒歪虚の迎撃に向かっていた班が戻ってきたのだ。
せめて、出来る事をと、歩夢は薪に火をつけようと思った。
●豪気
嘉義城は憤怒歪虚との戦いで滅んでいる。
鎮魂の為にも……と銀 真白(ka4128)は立てた墓標を見つめていた。
「例の秘宝に繋がる手がかりが得られればいいのだが……」
「長期戦は必至。仲間と連携して効率よく敵を倒す事を心掛けよう」
姿を現した憤怒歪虚に対して七葵(ka4740)は降魔刀を構えた。
そこに並ぶ、十鳥城代官の仁々木 正秋(kz0241)。
「分かりました。拙者も一緒に戦います」
「正秋殿、部下の指揮もあるというのに、忝い」
「いえ、真白殿や七葵殿、ハンターの皆さんと共に戦える事が嬉しいので」
元々、十鳥城の兵士達は今回は主力としては見なされていない。
あくまでもハンター達を補佐する役割なのだ。指揮権が一時的に他の者に移っていたとしても大きな問題ではないし、全く活躍の機会が無かったとすれば、それはそれで問題があるので、正秋がハンター達と一緒に戦うのは大きな意味があった。
空蝉(ka6951)が静かに刀を抜く。
“嬉しい”という感情は、彼にとってはあまり理解出来ない事だが、目の前に迫ってくる憤怒歪虚を倒すべき存在というのは分かる。
「──討伐対象ヲ確認」
微笑を浮かべながらも、その瞳は確りと敵を観察していた。
持久戦になる可能性が高い事を意識し、前に出過ぎず、味方と離れすぎないように戦う必要があるだろう。
ぐーとミュオ(ka1308)が状態を伸ばした。
暖かい太陽の日差しが気持ち良かったが、いよいよ戦闘なのだ。
「もっと日向ぼっこでほわほわしたいし」
そう言いながら、背丈を遥かに超えるサイズを手に持った。
ぶんぶんと回して準備運動を兼ねる。
気合十分な仲間達と同様にジャック・J・グリーヴ(ka1305)が不敵な笑みを浮かべていた。
「ハッ、クソッタレめ。残党風情がこの金の亡者たる俺様を目にしたんだ」
迫ってくる憤怒歪虚に対して人の背丈はある大型魔導銃の銃口を向けた。
「タダで帰れると思うんじゃねぇぞ。その命、対価に支払ってもらおうじゃねぇかゴラァ!」
その叫びと共に、ジャックは引き金を引いた。
蛇の胴体に兎の強靭な脚がついた憤怒歪虚が眼前に迫る。
それをミュオはギリギリまで引き付けてから、カウンターを叩き込んだ。
ヒゲなのか触手なのか、いまいち、よく分からないソレが切り落とされたが、大地に落ちると嫌な臭いを立てて消えた。
「この歪虚は、跳ね回りながら毒と触手を飛ばしてきますね」
冷静に対処しなければ思わぬ怪我をする所だ。
サッと側面に空蝉が回りながら刀を振るう。蛇のような長い胴体を切り裂く。
「大きさもそれなりです」
人よりも一回りも二回りも大きいのだ。
それがハンター達の攻撃に反応して、全身を大きく跳ねる。下敷きになれば大惨事だろう。
素早い動きでカオスセラミック製の刀で受け流し、空蝉は間合いを取った。追撃するように、歪虚が体を鞭のようにしならせた。
入れ替わるように、ジャックが大型魔導銃から盾に持ち替えて前線に立つ。
「そう簡単にいかせるかよ!」
不可思議なマテリアルの結界が、憤怒歪虚の攻撃のベクトルをズラした。
図太い胴体の叩き付けをジャックが盾で受け止める。
「やれ、ミュオ!」
「はい!」
「援護します」
ジャックの合図に応じるミュオ。そして、フォローにはいる空蝉。
逃れるように跳ねて逃げようとした脚に空蝉が刀を深々と差し込んだ。
体内のマテリアルを操り、星の光を軌跡を描きながら、ミュオの大鎌が振るわれ、その一撃は、胴体を真っ二つに切り裂いた。
巨大な猪の胴体に蛇の頭、脚と尻尾は犬。そんな姿の憤怒歪虚が突進を仕掛けてきた。
正面から受け止める事は至難だが、真白が体を張って、ガツンと止めた。地面に食い込む踵。
覚醒者だからこそ、そして、優れた装備と闘狩人の技があるからこそ出来た事だった。
「七葵殿! 正秋殿!」
そのまま歪虚を抑え込みながら、真白は受けたダメージを体内をマテリアルを活性化する事で癒す。
やはり女子力強い……見習わなくては関心しながら、正秋は七葵と顔を見合わせた。
七葵は力強く頷いた。
「挟み撃ちだ!」
「承知!」
二人の侍が刀を振るう。
幾つもの太刀筋を煌めかせ、七葵の斬撃が憤怒歪虚を切り裂く。
相当な手傷を負わせている感触はあるが、それでもまだ、倒れない。
歪虚を挟んで反対側でも正秋が猛攻を加えている。
直後、憤怒歪虚が自身も巻き込む覚悟で炎を吐いた。まるで蛇の長い舌のように炎が蠢き、周囲を焼く。
「押されてはいけない。優勢なのは俺達だ!」
冷静な七葵の分析通り、状況はハンター側に有利だ。
この炎に慌てふためいて間合いを取れば、突進を受けて各個撃破される可能性が高い。
「では、炎が消えるタイミングに合わせて!」
真白の提案に二人は頷く。
辺りを覆った炎が消えると共に、ハンター達の刀が一斉に振るわれ、文字通り、憤怒歪虚を切り刻んだのだった。
●パワーと言えば肉
拠点での設営作業が一段落し、今度は料理作りに取り掛かったハンター達。
「気力の元は飯と睡眠だしな。消化に良い、流し込める系の食事の方が良いのかねえ?」
食材を容赦なく切り刻みながらカズマが言った。
地下施設の探索がいつ終わるか分からない以上、長期戦に備えておくのは当然の事だ。
となると、食事は大事。
「この私のようなものにも頂けるとは……なんと、食材が勿体ない……」
変わらずネガティブな発想のニャンゴがそう言いながら、ハンター達が持ち寄った食べ物を口に運んでいた。
正秋ら、十鳥城の兵士達の兵糧も合わせて、それなりの食事が出来上がっていた。
「こっちは、そろそろ煮だってきたな」
鍋奉行として歩夢はその役割を確りと果たしていた。
極めて大事な事である。特に灰汁を取り除く事は味に直結する。
「ふわ~。えぇ、匂いやわ~」
テントの設営を手伝った後、見張りを続けていた琉那が幸せそうな表情を浮かべた。
鍋の美味しそうな香りが辺りを包む。
これは期待できそうだ。おまけに胃にも優しいだろう。
そして、乃梛は全員分の皿を準備していた。
「折角だから、別班も地下施設に向かった人達の分もあればいいね」
それだけの量を作るとなると、かなり大変だろうが。
かと言って、自分達だけ食べるというのも気が引ける。
「おかわりし放題にしようでござる!」
ミィリアがキラキラと瞳を輝かせていた。
十鳥城の兵士らの顔が一瞬、ギョッとした……ようにも見えた。
「それに、女子力はパワー。パワーといえばお肉。これで完璧でござる……」
自らも持ってきた肉を用意しておいた鉄板へと並べた。
豪快な音と共に、圧倒的なパワーを彷彿とさせる焼肉の香ばしい匂い。
「もしかしなくても、消化に悪そうですが、私が居座るよりかはいいはず……」
「これが、肉のパワー……」
ニャンゴと歩夢の二人がパワーな香りに囚われる。恐るべし肉の力。
「肉は大事なタンパク源でもあるしな」
他の食材を切りながらカズマが呟いた。
「腹が減っては戦は出来ぬというしね~」
「そうや~」
乃梛と琉那の二人は皿を持って待機状態である。
ニヤリと舌なめずりしたミィリアがトングをカチカチと鳴らす。
「ついでに、いい匂いに雑魔が寄ってきてくれれば一石二鳥でござるよ!」
どんだけ肉食系な雑魔というのか。
こうして、拠点での美味しいひと時が訪れようとしていたのだった。
●戦の末に
拠点に戻る途中、再度の襲撃を受けて、なんとか討伐したミュオは空を見上げながら激しく肩で息をしていた。
「これは……キャンプファイヤーが出来る余裕があればいいですけど」
体力が尽きかけている。一度、拠点に戻り休養が必要だろう。
テントが幾つも張ってあり、別班が準備していたのだと分かった。
「料理の香りもしますね」
空蝉が先程から変わらない表情でそう告げた。
その言葉に真白が嬉しそうに七葵に言う。
「この肉の焼ける匂い……ミィリア殿だろうか?」
「断定する訳ではないが――俺もそう思う」
二人のやり取りに正秋は思わず笑い声を挙げた。
小腹も空いてきているので、とてもありがたい事ではある。
油断している訳ではないが一行は食事を楽しみに拠点へと向かって歩んでいたのだが、その中で、ジャックだけが地面に視線を向けていた。
(……いつまで、俺ぁ、戦えば良い?)
心の中で自問する。
最近、王国で因縁ある歪虚を打倒したばかりだ。しかし、その胸に去来する想いは複雑だった。
(俺が死んだ後も、人は歪虚と戦い続けんのか? どうすりゃ、この戦いは終わんだよ……)
終わりに続く道筋は、今はどこにも見えない。まるで、当ての無い宝探しのようなものだ。
その時、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
しかめながら顔を挙げると、そこには拠点で帰りを待つ別班のハンター達の姿が見える。
「肉、無くなっちゃうでござるよー!」
そんな元気な叫び声が聞こえてきた。
ジャックは溜め込んだ息を小さく吐くと、気を取り直して片手を高く突き上げたのであった。
【地下施設】
●幕ハ降リズ
テノールが言った空白地帯を調べている中、厳靖からの助言でユリアンは天井からの抜け道を見つけた。
「印を残しておくよ」
「そのうち、追いつくだろうな」
這うように抜け道を進む二人。
やがて、人が通れる広さの通路に出たが、物凄い勢いで罠が発動する音が響いていた。
「そうか、ユリアン。どうやら、ここは“罠の裏側”だな」
地下施設そのものが防御施設のように、二重になっていたのだ。
場所によっては、壁の一部をはがし、銃眼あるいは狭間のようにも出来るようだった。
そして、罠が連続で発動しているのは、空間の外側であり、そこではアルマとタチバナが強引に罠を突破していたのだ。
「こっちだ!」
その呼び掛けにアルマの動きがピタっと止まる。
突破した罠の僅かな隙間からユリアンとアルマの視線が合った。
「わふー!」
犬かよというツッコミがどこからか飛んできそうな喜びの声。
「壁を壊してこっちに来られますか?」
「当然ですー!」
アルマが強力無比な魔法を使って、壁を破壊した。
頭上の岩盤が崩れなかったのは幸運だっただろう。
壊した壁を抜けて合流を果たす一行。
「ここにも空間が広がってるとはな」
ヴァイスが興味津々といったようすで周囲を見渡す。
どこかに正規の出入り口があるだろうが、思わぬ偶然だ。
地下施設を隈なく調べなければ分からなかった事かもしれない。幸運だったともいえるかもしれない。
「奥に何があるのかな?」
首を傾げる詩に全員が頷いた。
恐らく、本来は地下施設の一番『深部』という可能性が高い。
そこへ印を追ってテノールとシガレットが合流した。
「【下層】と繋がっていたのか」
「これだけ揃えば、強力な歪虚が出てきてもなんとかなりそうだなァ」
それこそ、蓬生が出てきても引けを取る事はないかもしれない。
合流した一行は、引き続き、新しい空間を進む。
「罠が無いという事は居住空間か、あるいは、拠点という事か」
テノールの推測にヴァイスは同意する。
「元々、籠城用という事だしな。十分にあり得るだろう」
「この扉、開くぜェ」
比較的大きい扉を開くシガレット。
そこはこれまでの狭い通路ではなく、かなりの広さを持つ部屋となっていた。
「あれは……何だ?」
「東方の地図……いえ、絵のようですね」
ユリアンの疑問とアルマが答え。それが何か、誰もが不思議に思った。
部屋の中央に見た事がない絵のような物が鎮座してあったのだ。
慎重に近づき、それを確認する厳靖。額縁に刻印された文字があり、それを一呼吸してから読み上げた。
「『エトファリカ・ボード』……これが、そうなのか……」
なぜ龍尾城の宝物庫から紛失した秘宝がこんな場所にあるのか、という言葉は続かなかった。
唐突に、あっけなく見つかった秘宝。
それは『東方の地図を描いたような絵』だった。特徴的な五芒星が見る角度によっては輝いている様にも見える。
一行は呆然としながら、しばらく、秘宝を見つめる。これに一体、どんな価値があるというのか……。
「……おかしいですね」
誰にも聞こえないように呟いたタチバナの言葉を、詩は、確かに聞いたのであった――。
憤怒歪虚の襲撃に対し、地上で迎撃に向かったハンター達は探索が終了するまで凌ぎきった。
また、地下施設を全て探索できなかったものの、何名かの探索結果、奥深くまで調べる事が出来、見つかった秘宝はハンター達の手によって、龍尾城へと運ばれるのであった。
おしまい
●地下施設
地の底から響いているのではないかと思う程、不気味な叫びに似た音を立て、かつて侍だったと思われる雑魔が襲い掛かってきた。
嘉義城は十数年前に憤怒歪虚の襲撃を受けて滅んだという。周囲は負のマテリアルに汚染され、死んだ侍が雑魔と化していても可笑しくはない。
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)は太刀を構えてそれを迎え撃つ。
「敵も侍ですか。相手にとって不足無し……いざ尋常に――勝負!」
刹那、仲間の持つ光源の中、刀先がキラリと光り、煌めいた。
素早い刀捌きのそれは、確実に雑魔を切り刻んでいく。
暗い地下施設では狭い上に視界も悪い。それでも、セツナは僅かな物音や気配を頼りに、周囲を充分警戒していた。
だから、曲がり角から突如として出現した別の雑魔の攻撃を避けきれた。
「増援ですか。でも、この程度であれば」
姿勢を崩して通路の壁に全体重を掛ける。
そうしてできたスペースを狙って、リラ(ka5679)の銃弾が光跡を宙に描きながら雑魔へと直撃した。
「特に属性は関係ないみたいですね」
リラの持つ龍銃には光属性を帯びている。
放たれた弾丸が特に有効打にはなっていないようだったが、それでも、確かな手応えを感じる。
「私も前に出ますね」
二方向からの雑魔の襲撃に、リラは銃を仕舞うとグローブを装着した。
回復手段が限られている以上、セツナだけに負担をかける訳にはいかない。
スッと前線に躍り出て、彼女は雑魔が振るった刀を避けると、拳にマテリアルを込めて叩き込んだ。
その様子に、セツナも別の雑魔へと意識を集中させた。
「では、こちらの通路側を受けもとう」
罠もそうだが、【表層】では雑魔の襲撃がメインだった。
通路が入り組んでいるので、背後からの奇襲もある。
「今の所、後ろに敵の気配は無い」
光源を掲げながら、ハンス・ラインフェルト(ka6750)が淡々とした口調で言う。
「謎よりも、雑魔と斬り合うのが好きな私はこちら向き。戦闘より、謎に惹かれる私のマウジーはあちら向き。分かってはいましたが……なんでしょうね、この気持ちは」
そんな事を小さく呟いた。
雑魔は神出鬼没だった。探索が進めば進むほどに出現するそれら。
【下層】に向かったハンターを支援する意味でも、多くの雑魔が倒せれば……と思っていたが、今の彼は光源を確保し、背後に備える事しか出来ない。
「武器が大き過ぎましたね……」
通路には一定の大きさの物しか持ち込めなかったからだ。
彼の愛用の武器は、強力な威力を誇ったが、その大きさ故に、置いてくるしかなかった。
それでも、身に着けている鎧で、後方からの攻撃を身体を張って警戒する事はできる。
「……むしろ、マウジーと一緒に居なくて良かったかもしれません」
少なくとも無様な姿を見せなくて済んだだろう。
気持ちを切り替え、ハンスは光源を高く持ち上げた。
こうなった以上、自分の出来る事を最大限に務めるまでの事なのだから。
探索はお世辞にも順調とは言い難い状況であった。それは、この3人だけの話ではなく、他の【表層】の班も同様だった。
恐らく、【下層】も似ている状況だろう。原因は一つ……地下施設が広く、探索に赴いた人数が絶対的に不足していたからだった。
●探索の成果
こうなると、雑魔との戦闘を如何に切り抜けて、探索が継続できるか……という事になる。
長い通路で並んだ雑魔共を、テノール(ka5676)は格闘士の技で一掃した。すかさず、ペンとコンパスを取り出してマッピングに戻る。
「たまには、こういうのも楽しいかもしれないな」
純粋な戦いだけではない……という意味では、行う事が多いだろう。
彼は歩幅で距離を測定しながら、通路を記録していた。籠城用の地下施設という事で、ライフラインの残骸も探しながらだ。
「にしても、広すぎるよなァ」
テノールと共に居たシガレット=ウナギパイ(ka2884)が魔杖をトンと自分の肩に掛けて言う。
先程の雑魔の群れを通路に誘き出し、足を止めたのは、シガレットの魔法による所だ。使用感としては上出来だろう。
「出来る限り、探索するしかない」
「そういう事だなァ……」
探索方法は間違っていないだろう。
そこへ、同じく【表層】を探索していたユリアン(ka1664)と劉 厳靖(ka4574)の二人が姿を現した。
「そちらの成果はどんな感じかな?」
マッピングセットを広げながらユリアンは苦笑を浮かべて尋ねる。
思ったよりも近い所を探索していたようだ。
「進められるだけ、進んだ……という所だ」
応えたテノールがこれまでの成果を見せる。
紙に落とし込まれた内容とお互い照らし合わせた。
その間、シガレットが回復魔法を厳靖に掛ける。
「負傷しているなら、回復するぜェ」
「そりゃ、助かる。地獄に仏とはこの事だな」
回復手段は持ち合わせてきているが、探索が長くなるのであれば、とても助かる事。
シガレットが回復魔法で二人の傷を癒している間に、お互いの探索結果の照らし合わせも終わった。
「……ここの空白地帯が気になるが、そっちでも見てくれないか」
テノールが指さした一角には不自然な空白が広がっていた。
「もしかして、隠し部屋などあるかもしれない」
「隠し部屋か……なるほどだ」
顎に手をやりながら、厳靖は唸る。
元は籠城用に作られた地下施設だ。そういった所があっても不思議ではない。
「怪しい場所があれば、印を残しておくよ」
「それで頼むぜェ」
ユリアンの言葉にシガレットは頷いたのであった。
【下層】
●らきすけ冒険者
「行くよ菊理。嘉義城の地下施設に潜り、憤怒歪虚の企みを暴くダンジョンアタックだよ!」
キリっとした表情で時音 ざくろ(ka1250)が意気揚々に宣言する。
冒険家を自認するざくろらしいといえば、彼らしい事であり、それを心の中で微笑ましく白山 菊理(ka4305)は思った。
「油断は禁物だ。ざくろ」
「勿論だよ!」
光源として持ち込んだ灯火の水晶球を起動させ……たが、水晶球が不可思議な動きを見せた。
ここで落として万が一にも割れたら大変。慌てて手を伸ばしたざくろ。スルッとざくろの手を避けた水晶球の華麗な動き。
唐突の事でざくろの手は菊理の胸を直撃した。
「……ざくろ、まだ依頼の最中だけど」
「あわわわわ」
初っ端から、らきすけ全開である。
顔を真っ赤にしながら、ざくろは今度こそ水晶球を確りとセットすると、通路を歩きだした。
油断はできない。罠が張り巡らされているからだ。
「これなら……」
霊闘士としての力を使いながら、ざくろはペットで連れてきた鼠を先行させる。
狭い場所も鼠なら入れるだろうし、探索には有効だろう……条件が揃えば……。
「……鼠の視覚ってあまりよくないみたいだ……」
夜行性である鼠ではあるが、その視覚は特段、優れている……とは言い切れない。
これが、猫であったりすれば別だったかもしれないが。それに、古い地下施設は多少の崩れもある。人であれば気にならない瓦礫も鼠にとっては巨大な障害物だ。
「ふー」
術を解除して一息ついた時だった。
戻ってきた鼠が、不可思議な事に菊理の胸元へと飛び込んだ。
「……ざくろ。取って」
たいまつ代わりのメイス。そして、マッピングセットを持った菊理が両手を挙げる。
確かに、この状況だと、誰かに取って貰うしかない。物を床に置けばいいと思われるだろうが、雑魔の襲来も考えられるなら、出来れば手放したくはない。
「あわわわわ」
菊理の胸元へと、ざくろは頑張って手を伸ばす。
サッと奥に逃げる鼠。慌てて、追いかけるざくろの手が暖かく柔らかいそれを掴んだ。
「……ざくろ、まだ依頼の最中だと」
「や、やわらか……」
呆れたような菊理の言葉と共に、ざくろは、ぶしゅーと豪快に鼻血を噴出した。
なお、彼の名誉の為に記し残しておくが、その後も二人の探索はちゃんと進み、一定の成果は得られたのであった。
●二人の探索
(ダンジョンでパンチラを求めるのは間違っていまちゅか?)
北谷王子 朝騎(ka5818)は天井を見上げながら、心の中で問いかけた。
答える者が居る訳ではない。しかし、やはり、求めてしまうのが宿命というものなのだろう。
一先ず、この地下遺跡に朝騎が求めるものは無かった。
「朝騎、ダンジョン探索なんて初めてでちゅ」
「そうなのですね」
その問いの答えは、穂積 智里(ka6819)が言った。
先行させていたロボットクリーナーを下がらせる。通路の掃除を始めたので、目的通りの使用が出来なかったからだ。
これは盲点……いや、掃除機ロボットなので、当然といえば、当然なのだが。
「ここは、朝騎にお任せでちゅ!」
幾枚もの符を散らばせ、朝騎は符術を行使した。
ややって生まれたのは巨大な式神――になるはずだった。
通路いっぱいに広がったそれは、紙吹雪のように消え去る。
「……大きすぎたでちゅ!」
符術師のスキルである御霊符はサイズ2の「式神」を出現させる。
一方、通路はそれに見合うだけの広さはない。
「……探索を続けましょうか」
「そうでちゅね……」
落ち込んでいても仕方ないので、二人は生身での探索を続ける。
他のハンター達同様、彼女らもマッピングをして、情報を共有する。
「地図だけ作るんじゃ意味が半分くらいしかないと思います」
智里が真剣に言った。
依頼の目的は地下施設内の探索だ。それは憤怒歪虚の企みの有無があるかどうか調べる為である。
「私達は、何があるのかを見つけないと。その手がかりを見つけられるように歩かないと」
「どんなお宝(パンツ)が眠ってるんでちゅかね。楽しみでちゅ」
真面目な智里と違って、朝騎の頭の中ではパンツが舞っていた。
こんな地下遺跡にパンツが転がっているはずはないのだが……。
ピタっと足を止める智里の動きに気が付かず、頭の中、パンツだらけの朝騎が進んだ時だった。
突如として罠が発動した。吹き出される強烈な消化液。
「あぁぁ! パンツが溶けてしまうでちゅ!」
危うく、朝騎の衣服が溶けてしまう所だった。
同時に通路の先から触手のようなものを幾つも持つ雑魔が姿を現した。
「消化液に触手でちゅかー!」
薄い本みたいな事に自分がなってしまう訳にはいかないので、朝騎は符を構え、智里も杖を構えた。
「罠と雑魔を突破しないと、探索は続けられませんね」
●罠とは
光源を魔法で作り、ヴァイス(ka0364)が通路を進む。
「また罠か……」
「すぐに治すね」
発動した毒の罠に侵されたヴァイスを天竜寺 詩(ka0396)が魔法で癒した。
地下施設には多くの罠が残されていた。慎重にしていても掛かってしまう。
「これほど、多いという事は、余程、念入りに作られていた城だったのか」
ヴァイスはそんな事を告げた。この地下施設は籠城を目的として作られたものだ。
「……かなりの激戦だった……らしいですね」
タチバナが少しばかり寂し気な雰囲気を発しながら言う。
その言葉に詩が呟く。
「滅びた物は美しいとかよく言うけど、滅びた側にしたら哀しいだけだよね」
「えぇ……きっと、この地下施設に籠り続けて最後まで戦ったのでしょう」
【上層】は罠よりも雑魔が多く、【下層】は罠の方が多い。それは、地下施設での戦いが主に【上層】で繰り広げられたからだろう。
最も、感傷に浸っている場合では無い。憤怒歪虚の企みがあるかどうか調べなければならない。
「わふ、わぅー……」
物寂し気なタチバナの様子にアルマ・A・エインズワース(ka4901)が心配そうな視線を向ける。
その視線に気が付き、タチバナは微笑を浮かべた。
「どうしました? アルマさん」
その言葉に彼は真顔をまま固まる。直後、全身から力が抜け、肩が崩れる。
「……こないだ、アルマって、呼んでくれた、です……」
どうやら、呼び方の問題らしい。
「アルマ、お心遣い、ありがとう」
「わふー!」
微笑を浮かべたタチバナにアルマは犬のように飛びついた。
巨大な犬を眺めているような気持ちを抱きながら、詩が言葉を発した。
「思うように探索が進みませんね」
「罠があると思うとな……」
ヴァイスも同意する。
戦いになれば、このメンツだ。負ける気がしない。だが、探索となると話は別だ。
タチバナも探索は得意ではないようにも思える。
「こうなったら、強引に突破です!」
唐突にアルマが叫ぶと、仲間達が見ている中、走り出した。
次々に発動する罠という罠。勿論、アルマとて無事では済まない。
慌てて回復に回るヴァイスと詩。
「……なんという無茶を」
苦笑を浮かべるヴァイスに対し、タチバナはポンと手を叩いた。
「なるほどです! これは良いアイデアです」
「まさか……やるのか」
「援護をよろしくお願いしますね、詩さん」
「任せて下さい!」
回復魔法の為に意識を集中させる詩の視界の中でタチバナがアルマと共に通路を走り出したのであった。
【迎撃戦】
●拠点にて
押し寄せる憤怒歪虚。雑魔に交じって、猪やら虎やら羊やらの憤怒系歪虚がハンター達へと襲い掛かってくる。
憤怒――ツォーン――の歪虚は、動物や植物が合わさった混沌とした姿形が多い。
彼らは“怒り”を力とする。圧倒的な“怒り”は戦場では恐ろしいものだ。特に憤怒歪虚は王を倒され、本陣を攻められ、人間達に押されている現状だ。尚更、その“怒り”はいつも以上なのだろう。
それを城外で迎え撃つハンター達。当然の事ながら、戦いは熾烈になる。
「時間稼ぎゆーけど、考え方変えれば、長く戦えるってことやね」
琴吹 琉那(ka6082)が赤いマフラーをなびかせながら、人差し指を口元に立てた。
一先ず、襲撃を退けた所だ。
琉那は焦らず、慎重に戦い抜いた。蹴り技と格闘士としての技を駆使し、必要であれば手裏剣も使った。
そのおかげか、まだ体内のマテリアルには余裕がある。
「怪我を抑えられて良かったよ」
満足そうな表情で言ったのは十色 乃梛(ka5902)だった。
彼女は班員のダメージコントロールを強く意識していた。セットしてきたスキルもその為だ。
その為、攻撃力という点では他のハンターに譲る事になったが、結果的には戦闘要員を支える事が継戦に繋がり、問題は無かった。
アタッカーが充分に戦える環境が続けば、それで足りるからだ。
迎撃戦自体は終わっていないが、このまま凌ぎきれそうな予感もする。
「遭遇した敵が雑魔を含んでいたしな。それほど、脅威では無かった」
前腕まで巻かれた包帯を解きながら龍崎・カズマ(ka0178)は戦いを振り返る。
特に強力と感じたのは確かに居たが、カズマは素早い動きで憤怒歪虚を翻弄。
更に、敢えて硬そうな部位へマテリアルを込めた一撃を叩き込んでいた。
手応えは充分だ。これも、格闘士としての手解きを受けたからなのだろうか。
「時間稼ぎとは言わず、全部倒しちゃってもいいんだものね?」
そんな勇ましく言っているのはミィリア(ka2689)だった。
彼女の戦い方はシンプルだった。敵を引き寄せ、薙ぎ払う。それだけだ。
カズマが速さと技で戦い、ミィリアは溢れるばかりのパワーで戦う。対照的な二人だが、良い戦いが行えたのは確かな事だ。
そして、今、一行は拠点へと向かっている。
別班に憤怒歪虚討伐を交代し、とりあえず、拠点で体を休めようという訳だ。
拠点とした場所にはテントが幾つか張ってあった。
その周囲を見張っていたのはニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)だった。城の周囲だけではなく、万が一にも地下施設から雑魔が出てこないか詰めていたのだ。
(私のような腐敗物が地下施設を汚染させるわけにはいきません)
地下に興味がない訳ではなかったが、ここは探索に行く者達の背後を守る事に専念していた。
幸いな事に地下施設から雑魔はあふれ出てこなかった。
(もはや案山子……いえ、案山子以下です……私なぞが案山子と同等など……)
そんなネガティブに案山子の事に想いを馳せていると、視界の中にヨタヨタと動く何者かの姿が見えた。
雑魔……ではない。あれは、歩夢(ka5975)だった。
彼は別の依頼で重体となっていた。その為、積極的に地下施設に潜る事も、憤怒歪虚の迎撃に向かうのも出来ず、こうして拠点に残っていた。
「怪我をしちまって申し訳ない……」
ハンターとして活動する以上、怪我は付き物だ。
ましてや、命の危険もある。命があるだけでも儲けものという風にも思えるだろうし、彼は彼なりに拠点で活動していた。
仲間からの連絡を受けて拠点の運営のお手伝いをしていたのだ。
何か料理を作ろうもテントを設置しようも、あるいは治療のサポートも、怪我の為、満足には出来ないのがもどかしい。
「人が居るという事だけで、意味があるのですよ……」
それと違い、私なぞ、居るだけで周囲の空間を汚しているのですとニャンゴはブツブツと続ける。
そんなものなのかと歩夢は感じながら、視線を回した。
「帰ってきたか」
憤怒歪虚の迎撃に向かっていた班が戻ってきたのだ。
せめて、出来る事をと、歩夢は薪に火をつけようと思った。
●豪気
嘉義城は憤怒歪虚との戦いで滅んでいる。
鎮魂の為にも……と銀 真白(ka4128)は立てた墓標を見つめていた。
「例の秘宝に繋がる手がかりが得られればいいのだが……」
「長期戦は必至。仲間と連携して効率よく敵を倒す事を心掛けよう」
姿を現した憤怒歪虚に対して七葵(ka4740)は降魔刀を構えた。
そこに並ぶ、十鳥城代官の仁々木 正秋(kz0241)。
「分かりました。拙者も一緒に戦います」
「正秋殿、部下の指揮もあるというのに、忝い」
「いえ、真白殿や七葵殿、ハンターの皆さんと共に戦える事が嬉しいので」
元々、十鳥城の兵士達は今回は主力としては見なされていない。
あくまでもハンター達を補佐する役割なのだ。指揮権が一時的に他の者に移っていたとしても大きな問題ではないし、全く活躍の機会が無かったとすれば、それはそれで問題があるので、正秋がハンター達と一緒に戦うのは大きな意味があった。
空蝉(ka6951)が静かに刀を抜く。
“嬉しい”という感情は、彼にとってはあまり理解出来ない事だが、目の前に迫ってくる憤怒歪虚を倒すべき存在というのは分かる。
「──討伐対象ヲ確認」
微笑を浮かべながらも、その瞳は確りと敵を観察していた。
持久戦になる可能性が高い事を意識し、前に出過ぎず、味方と離れすぎないように戦う必要があるだろう。
ぐーとミュオ(ka1308)が状態を伸ばした。
暖かい太陽の日差しが気持ち良かったが、いよいよ戦闘なのだ。
「もっと日向ぼっこでほわほわしたいし」
そう言いながら、背丈を遥かに超えるサイズを手に持った。
ぶんぶんと回して準備運動を兼ねる。
気合十分な仲間達と同様にジャック・J・グリーヴ(ka1305)が不敵な笑みを浮かべていた。
「ハッ、クソッタレめ。残党風情がこの金の亡者たる俺様を目にしたんだ」
迫ってくる憤怒歪虚に対して人の背丈はある大型魔導銃の銃口を向けた。
「タダで帰れると思うんじゃねぇぞ。その命、対価に支払ってもらおうじゃねぇかゴラァ!」
その叫びと共に、ジャックは引き金を引いた。
蛇の胴体に兎の強靭な脚がついた憤怒歪虚が眼前に迫る。
それをミュオはギリギリまで引き付けてから、カウンターを叩き込んだ。
ヒゲなのか触手なのか、いまいち、よく分からないソレが切り落とされたが、大地に落ちると嫌な臭いを立てて消えた。
「この歪虚は、跳ね回りながら毒と触手を飛ばしてきますね」
冷静に対処しなければ思わぬ怪我をする所だ。
サッと側面に空蝉が回りながら刀を振るう。蛇のような長い胴体を切り裂く。
「大きさもそれなりです」
人よりも一回りも二回りも大きいのだ。
それがハンター達の攻撃に反応して、全身を大きく跳ねる。下敷きになれば大惨事だろう。
素早い動きでカオスセラミック製の刀で受け流し、空蝉は間合いを取った。追撃するように、歪虚が体を鞭のようにしならせた。
入れ替わるように、ジャックが大型魔導銃から盾に持ち替えて前線に立つ。
「そう簡単にいかせるかよ!」
不可思議なマテリアルの結界が、憤怒歪虚の攻撃のベクトルをズラした。
図太い胴体の叩き付けをジャックが盾で受け止める。
「やれ、ミュオ!」
「はい!」
「援護します」
ジャックの合図に応じるミュオ。そして、フォローにはいる空蝉。
逃れるように跳ねて逃げようとした脚に空蝉が刀を深々と差し込んだ。
体内のマテリアルを操り、星の光を軌跡を描きながら、ミュオの大鎌が振るわれ、その一撃は、胴体を真っ二つに切り裂いた。
巨大な猪の胴体に蛇の頭、脚と尻尾は犬。そんな姿の憤怒歪虚が突進を仕掛けてきた。
正面から受け止める事は至難だが、真白が体を張って、ガツンと止めた。地面に食い込む踵。
覚醒者だからこそ、そして、優れた装備と闘狩人の技があるからこそ出来た事だった。
「七葵殿! 正秋殿!」
そのまま歪虚を抑え込みながら、真白は受けたダメージを体内をマテリアルを活性化する事で癒す。
やはり女子力強い……見習わなくては関心しながら、正秋は七葵と顔を見合わせた。
七葵は力強く頷いた。
「挟み撃ちだ!」
「承知!」
二人の侍が刀を振るう。
幾つもの太刀筋を煌めかせ、七葵の斬撃が憤怒歪虚を切り裂く。
相当な手傷を負わせている感触はあるが、それでもまだ、倒れない。
歪虚を挟んで反対側でも正秋が猛攻を加えている。
直後、憤怒歪虚が自身も巻き込む覚悟で炎を吐いた。まるで蛇の長い舌のように炎が蠢き、周囲を焼く。
「押されてはいけない。優勢なのは俺達だ!」
冷静な七葵の分析通り、状況はハンター側に有利だ。
この炎に慌てふためいて間合いを取れば、突進を受けて各個撃破される可能性が高い。
「では、炎が消えるタイミングに合わせて!」
真白の提案に二人は頷く。
辺りを覆った炎が消えると共に、ハンター達の刀が一斉に振るわれ、文字通り、憤怒歪虚を切り刻んだのだった。
●パワーと言えば肉
拠点での設営作業が一段落し、今度は料理作りに取り掛かったハンター達。
「気力の元は飯と睡眠だしな。消化に良い、流し込める系の食事の方が良いのかねえ?」
食材を容赦なく切り刻みながらカズマが言った。
地下施設の探索がいつ終わるか分からない以上、長期戦に備えておくのは当然の事だ。
となると、食事は大事。
「この私のようなものにも頂けるとは……なんと、食材が勿体ない……」
変わらずネガティブな発想のニャンゴがそう言いながら、ハンター達が持ち寄った食べ物を口に運んでいた。
正秋ら、十鳥城の兵士達の兵糧も合わせて、それなりの食事が出来上がっていた。
「こっちは、そろそろ煮だってきたな」
鍋奉行として歩夢はその役割を確りと果たしていた。
極めて大事な事である。特に灰汁を取り除く事は味に直結する。
「ふわ~。えぇ、匂いやわ~」
テントの設営を手伝った後、見張りを続けていた琉那が幸せそうな表情を浮かべた。
鍋の美味しそうな香りが辺りを包む。
これは期待できそうだ。おまけに胃にも優しいだろう。
そして、乃梛は全員分の皿を準備していた。
「折角だから、別班も地下施設に向かった人達の分もあればいいね」
それだけの量を作るとなると、かなり大変だろうが。
かと言って、自分達だけ食べるというのも気が引ける。
「おかわりし放題にしようでござる!」
ミィリアがキラキラと瞳を輝かせていた。
十鳥城の兵士らの顔が一瞬、ギョッとした……ようにも見えた。
「それに、女子力はパワー。パワーといえばお肉。これで完璧でござる……」
自らも持ってきた肉を用意しておいた鉄板へと並べた。
豪快な音と共に、圧倒的なパワーを彷彿とさせる焼肉の香ばしい匂い。
「もしかしなくても、消化に悪そうですが、私が居座るよりかはいいはず……」
「これが、肉のパワー……」
ニャンゴと歩夢の二人がパワーな香りに囚われる。恐るべし肉の力。
「肉は大事なタンパク源でもあるしな」
他の食材を切りながらカズマが呟いた。
「腹が減っては戦は出来ぬというしね~」
「そうや~」
乃梛と琉那の二人は皿を持って待機状態である。
ニヤリと舌なめずりしたミィリアがトングをカチカチと鳴らす。
「ついでに、いい匂いに雑魔が寄ってきてくれれば一石二鳥でござるよ!」
どんだけ肉食系な雑魔というのか。
こうして、拠点での美味しいひと時が訪れようとしていたのだった。
●戦の末に
拠点に戻る途中、再度の襲撃を受けて、なんとか討伐したミュオは空を見上げながら激しく肩で息をしていた。
「これは……キャンプファイヤーが出来る余裕があればいいですけど」
体力が尽きかけている。一度、拠点に戻り休養が必要だろう。
テントが幾つも張ってあり、別班が準備していたのだと分かった。
「料理の香りもしますね」
空蝉が先程から変わらない表情でそう告げた。
その言葉に真白が嬉しそうに七葵に言う。
「この肉の焼ける匂い……ミィリア殿だろうか?」
「断定する訳ではないが――俺もそう思う」
二人のやり取りに正秋は思わず笑い声を挙げた。
小腹も空いてきているので、とてもありがたい事ではある。
油断している訳ではないが一行は食事を楽しみに拠点へと向かって歩んでいたのだが、その中で、ジャックだけが地面に視線を向けていた。
(……いつまで、俺ぁ、戦えば良い?)
心の中で自問する。
最近、王国で因縁ある歪虚を打倒したばかりだ。しかし、その胸に去来する想いは複雑だった。
(俺が死んだ後も、人は歪虚と戦い続けんのか? どうすりゃ、この戦いは終わんだよ……)
終わりに続く道筋は、今はどこにも見えない。まるで、当ての無い宝探しのようなものだ。
その時、彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
しかめながら顔を挙げると、そこには拠点で帰りを待つ別班のハンター達の姿が見える。
「肉、無くなっちゃうでござるよー!」
そんな元気な叫び声が聞こえてきた。
ジャックは溜め込んだ息を小さく吐くと、気を取り直して片手を高く突き上げたのであった。
【地下施設】
●幕ハ降リズ
テノールが言った空白地帯を調べている中、厳靖からの助言でユリアンは天井からの抜け道を見つけた。
「印を残しておくよ」
「そのうち、追いつくだろうな」
這うように抜け道を進む二人。
やがて、人が通れる広さの通路に出たが、物凄い勢いで罠が発動する音が響いていた。
「そうか、ユリアン。どうやら、ここは“罠の裏側”だな」
地下施設そのものが防御施設のように、二重になっていたのだ。
場所によっては、壁の一部をはがし、銃眼あるいは狭間のようにも出来るようだった。
そして、罠が連続で発動しているのは、空間の外側であり、そこではアルマとタチバナが強引に罠を突破していたのだ。
「こっちだ!」
その呼び掛けにアルマの動きがピタっと止まる。
突破した罠の僅かな隙間からユリアンとアルマの視線が合った。
「わふー!」
犬かよというツッコミがどこからか飛んできそうな喜びの声。
「壁を壊してこっちに来られますか?」
「当然ですー!」
アルマが強力無比な魔法を使って、壁を破壊した。
頭上の岩盤が崩れなかったのは幸運だっただろう。
壊した壁を抜けて合流を果たす一行。
「ここにも空間が広がってるとはな」
ヴァイスが興味津々といったようすで周囲を見渡す。
どこかに正規の出入り口があるだろうが、思わぬ偶然だ。
地下施設を隈なく調べなければ分からなかった事かもしれない。幸運だったともいえるかもしれない。
「奥に何があるのかな?」
首を傾げる詩に全員が頷いた。
恐らく、本来は地下施設の一番『深部』という可能性が高い。
そこへ印を追ってテノールとシガレットが合流した。
「【下層】と繋がっていたのか」
「これだけ揃えば、強力な歪虚が出てきてもなんとかなりそうだなァ」
それこそ、蓬生が出てきても引けを取る事はないかもしれない。
合流した一行は、引き続き、新しい空間を進む。
「罠が無いという事は居住空間か、あるいは、拠点という事か」
テノールの推測にヴァイスは同意する。
「元々、籠城用という事だしな。十分にあり得るだろう」
「この扉、開くぜェ」
比較的大きい扉を開くシガレット。
そこはこれまでの狭い通路ではなく、かなりの広さを持つ部屋となっていた。
「あれは……何だ?」
「東方の地図……いえ、絵のようですね」
ユリアンの疑問とアルマが答え。それが何か、誰もが不思議に思った。
部屋の中央に見た事がない絵のような物が鎮座してあったのだ。
慎重に近づき、それを確認する厳靖。額縁に刻印された文字があり、それを一呼吸してから読み上げた。
「『エトファリカ・ボード』……これが、そうなのか……」
なぜ龍尾城の宝物庫から紛失した秘宝がこんな場所にあるのか、という言葉は続かなかった。
唐突に、あっけなく見つかった秘宝。
それは『東方の地図を描いたような絵』だった。特徴的な五芒星が見る角度によっては輝いている様にも見える。
一行は呆然としながら、しばらく、秘宝を見つめる。これに一体、どんな価値があるというのか……。
「……おかしいですね」
誰にも聞こえないように呟いたタチバナの言葉を、詩は、確かに聞いたのであった――。
憤怒歪虚の襲撃に対し、地上で迎撃に向かったハンター達は探索が終了するまで凌ぎきった。
また、地下施設を全て探索できなかったものの、何名かの探索結果、奥深くまで調べる事が出来、見つかった秘宝はハンター達の手によって、龍尾城へと運ばれるのであった。
おしまい
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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『憤怒歪虚出現表卓』 仁々木 正秋(kz0241) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/12/05 19:35:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/12/05 12:41:49 |
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【下層】探索 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/05 21:17:48 |
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【表層】探索 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/04 23:37:34 |
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【迎撃戦】相談 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/06 07:22:49 |
||
【行き先宣言】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/12/05 12:46:04 |