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【CF】庭園の光

マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/12/23 22:00
完成日
2018/01/12 19:07

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●庭園の花
「離宮の庭園について、パラディ卿は如何思われる?」
 セドリック・マクファーソン(kz0026)が問うと、億劫そうに執務室を見回していたフリュイ・ド・パラディ(kz0036)は肩を竦めて答えた。
「さあね。僕の知るところじゃない」
「それなりに咲いているのではないかと考えるのだが、『アークエルスの領主はどう思う』」
「はぁ……そんなことを訊くためにこの僕を呼びつけたのかな、きみは」
 領主は首を振って嘆息し、躊躇なく踵を返す。その背に、セドリックはもう一度声をかけた。
「『王家派の貴卿に改めて問う。“離宮の花”について、如何思われる?』」
「…………」
 ぴたりと足を止めたパラディ家現当主が、忌々しげにこちらを睨み付ける。
 セドリックが勝ち誇るでもなくソファに目を向けると、フリュイは一つ舌を打ち、乱暴にソファへ腰を下ろした。面倒事に係う暇はないんだけど、とこれ見よがしに首を振って大仰に足を組む姿が妙に堂に入っている。
「……今さら訊くまでもないけど、ここ、大丈夫だろうね?」
「問題ない。では見解を聞かせていただけますかな。『庭園の、開花時期について』」
「焦りが見えるよ、きみともあろう者が。シャルシェレット卿の失墜が原因かな?」
 くつくつと底意地の悪そうな笑みを零してひとしきり罵倒を愉しむと、フリュイは「あぁ、それとだ」と思い出したように付け加えた。
「いくら何でもきみが僕に向かって『庭園の花』について話すのは不自然すぎるよ、マクファーソン君。有り体に言って気持ち悪い」

●大司教の暗躍
「王女殿下、新しくお召し物を仕立てては如何か?」
 聖輝節も差し迫ってきたある日、大司教が唐突にそんなことをのたまった。
 システィーナ・グラハム(kz0020)は為政者としてあるまじき失態ながら、耳に入ったはずのその言葉がこれっぽっちも理解できなかった。ぽかんと口を開いてまじまじと強面の相手を見つめること三十秒、システィーナがゆっくりと傍に佇む侍従長マルグリッド・オクレールに目を向けると彼女も同様に呆然としていた。
 聞き間違いではないらしい。
「…………、えっと、その、大司教さまがそのようなお話をされるとは思いませんでした」
「殿下が私のことをどのようにお考えか、大変よく分かりました。が、その件は後にして仕立ての件です」
「は、はぁ……」
「私としては助かりますが、近頃の殿下は城に篭りがちです。今すぐ視察にでも行けるのが最も良いのですが、警備の都合上そうもいきません。なればこそ、せめて少しでも御心を休めた方がよいのではないか、と」
「それはお気遣いありがとうございます……」
 仏頂面のまま立て板に水の如く言われ、システィーナの困惑はさらに深まる。
 どこかに罠が仕掛けられているのでは、と疑心暗鬼になるのは礼を失しているだろうか?
「けれどわたくしは大丈夫ですよ。今は……忙しいですし。色々と」
「審問の件は私からも教会に問い合わせております。聖輝節の催しやそれに伴う雑事も殿下に決裁を仰ぐほどのものは、今はありません」
「で、でも……」
「殿下が今せねばならぬことは、何一つとしてございません」
 言わんとすることは分かるけれど、はっきり言われると地味に傷つく台詞である。
 システィーナは少し思案し、はっと思い付いて言ってみた。
「しゃ、社交をがんばるというのがありますよ! 冬ですから、そろそろ賑わってくる頃じゃないですか!」
「ふむ」
 なるほどと頷いた大司教は、それではと続けた。
「社交用の新しいドレスを仕立てる、ということでよろしいですな?」
「……、えっ」
「社交をなさると。なるほどご立派なお言葉です。では冬、春、夏と三季分の普段使いから式典用まで十着ほど新調なさってください。ああ、夏用は今より大人らしい雰囲気がよいかもしれませんな。それと私が依頼してハンターも呼んでおきましょう。リアルブルーやリゼリオの流行を取り入れるのもよろしいかと存じます。無論、服飾に疎い私が申すまでもないことではあったでしょうが」
「あ、そ、そうですね、わたくしもそう思っていました」
「よろしい。では依頼書を出して参りますので、客人を迎えるに相応しい対応を期待しております」
 やるべき仕事があると主張していたはずが、何故か服の話が進んでいる。システィーナが口元を隠して微笑むと、大司教は満足げに頷いて退室していった。
 扉が小さな音を立てて閉まり、足音が充分に遠ざかったのを確認したシスティーナは深く息を吐く。
 侍従長が困ったように頬に手を当てると、
「女性のドレスの仕立てに口出しなさるとは、大司教様はシスティーナ様の父親気取りなのでしょうか。珍しく色気のあるお話を始めたかと思えば……」
 少々ご立腹のようだった。
 システィーナが苦笑を浮かべて取り成す。
「後見人のようなものですから口を出してもおかしくはないですよ。何か裏がありそうな気はしますけれど、お気遣いいただいたことは確かでしょうし。それに――」
 あの大司教さまが真面目な顔でドレス云々と言う光景はなかなか見られませんよ。
 にんまりと笑えば、侍従長は「淑女がなさるお顔ではございませんよ」と言いながら自分も同じように笑った。

●依頼
「諸君には王女殿下の新しい服の仕立てを手伝ってもらいたい」
 執務室にやって来たハンターに、セドリックは淡々と告げた。
 単純で楽そうな内容。心身を休めるついでに受ける依頼としてはなかなか良い条件なのだが、それが逆に怪しい気もする。
 などとハンターが微かな疑念を抱いていると、セドリックが無表情のまま付け加えた。
「殿下が何かを依頼してくるかもしれぬが、その場合は適当に流して私に報告しなさい。『殿下に荒唐無稽な与太話を吹き込むのは断じて許さぬ』。これに反した時は覚悟しておくように」

リプレイ本文

 どこもかしこも甘ったるくて吐きそうだ。
 フォークス(ka0570)はソファに寝そべり、居心地の悪さに身震いした。耳には王女サマやレイレリア・リナークシス(ka3872)、星野 ハナ(ka5852)の姦しい声が聞こえている。
 平和も悪くないが、大窓から突如手榴弾でも投げ込まれそうでひどく落ち着かない。フォークスはぼんやり服飾談義を聞きながら、無駄に高い天井を見上げた。
 ――大司教の忠告。
 妙に警戒しているようだったが、それも当然かとフォークスは思う。
 今の王家の状況。赤の隊は壊滅的でダンテは蒸発、『黒』も初っ端から打撃を受けた。使えた駒も審問で身動きが取りづらく、その審問は貴族サマの介入付きだ。
 そこで大司教は警戒しながら何かを進めている。何を?
 ――敵の……黒幕を探っている、か?
 しっくりこない。勢いよく体を起こすと、ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)から話を振られた。
「なんや難しそな顔せんと、これでも飲んでだらだらしよか。ついでに良い案あったら教えてな」
「……そうだネ。仕立てなんて柄じゃないンだケド、考えてみるカナ」
 勧められた果汁は、贅沢すぎて冒涜的な味がした。

●好きな色
「いやぁん、本物の王宮ですぅ、きらきらのお姫様ですぅ~、素敵すぎますぅ、はぅーんっ」
 両手を胸の前で組んでしなを作るハナに胡乱な目を向けるのはシン(ka4968)である。しかしその計算され尽したポーズにはある種の美学が、あるような、気も……?
「『そこ』を愛でるようなるんはまだ早いで」
「う、うん……?」
「埴輪の美とは違うがな、と」
 生身の女性と埴輪を比べる暴挙で話に加わるアルト・ハーニー(ka0113)。微妙にズレている男性陣だが、針子等を含めれば女性の方が多いこの室内、仲間意識はそれなりに高い。
 男性陣がシスティーナの対面のソファに腰を下すと、ハナは王女の隣に位置取る。卓の短辺側の椅子に座るのはレイレリアで、一人離れてソファに寝そべるのがフォークス。
 軽く雑談を交えつつレイレリアが話を切り出した。
「システィーナ様、お久しぶりです。本日は新しい衣装を決めるのだとか……」
「そのようになりました」
「衣装は大切ですから、良き事と存じます。まずはお好きなモチーフから考えては如何でしょう」
「好きな色とかあるといいよね」
 システィーナをまっすぐ見つめ、シン。
「僕は青いドレスが映えると思う。王女様の瞳の色と同じだしね。それで季節ごとに色合いを変えてみるのはどうだろう。夏なら淡い青とか、星空のような意匠とかさ」
「瞳の色と言えばぁ、私聞いた事あるんですけどぉ」
 ハナは王女の肩にしな垂れかかる素振りで無意識に侍従長の精神を削りにかかる。
「将来のお相手が決まってる場合はぁ、その方の髪や瞳の色を差し色に使ったりするらしいですねぇ~。お相手は決まってるんですぅ?」
「いいえ、まだいませんよ」
 話の流れとはいえ、将来の王配がいるかと直接訊くハナは間違いなく剛の者である。が、仮にいたとすれば気の利いた配慮でもあった。
 レイレリアは王女の返答に安堵し、ラィルに色の話を振ってみる。
 フォークスと話していたラィルは向き直り、首を捻る。
「色なぁ。清純な白、水色、緑、薄紫、桃色。パステル系は何でも似合いそうやけど……」
 顔を顰めて唸るラィルと、その姿を油断なく睨む侍従長。
 何度かオイタしたせいですっかり要注意人物扱いされている事に苦笑しつつ、
「大人っぽいいうリクエストあったんやろ? なら赤や黒なんかも見てみたいかもなぁ」
「ふふっ、自分でもイメージできませんねぇ」
「笑ってる場合じゃないヨ」
 たおやかに微笑むシスティーナに遠慮なくツッこむフォークスである。
 そこに大音声で割り込んだのは、アルトだ。
「イメージできない!? つまり、あれか……イメージできないんだな、と!?」
「え、あ、はい」
「成程ねぃ……」にやりと笑うや、やにわに立って拳を握る!「俺は天才かもしれん」
「な、何がでしょう……?」
 身構えながら促すと、アルトは大層純粋な瞳を煌めかせてのたまった。

 想像できないなら着てみればいいじゃない。

 後世に残る――かは不明だが名言を生み出した彼は、満足したようにソファに沈み込んだ。
 その光景はどんな名画にも劣らぬ尊さに満ち満ちて――
「さて、刺繍のモチーフやシルエットを決めましょうか」
 レイレリアが綺麗な作り笑顔で斬り捨てた。

●衣装の方向性
 薪の爆ぜる音が耳を、菓子の甘い香りが鼻をくすぐる。
 シンはカップに口をつけて気を取り直し、話に乗った。
「折角公認で新調できるんだし好きな服を用意してもらえばいいよね。僕は可愛いのが良いと思うんだけど何かあるかな」
「モチーフならぁ、タロットも良いと思いますよぉ?」
「む、なら俺は埴輪を勧めるぞ、と」
 一部でタロット神と崇められるハナが布教に勤しめば、負けじとアルトが手乗り像を取り出す。直後レイレリアの視線に射抜かれ、流れるように埴輪を仕舞った。
 けらけらと笑い声を響かせ、フォークス。
「装飾とは違うケド、素材には拘った方が良いヨ。オススメはケブラー繊維だネ。コイツは刃を防ぐ。濡れると強度が下がるがネ」
「それはリアルブルーの素材でしょうか?」
「そうだネ。それなりに高いヨ」
「魅力的ですけれど『船』との交渉になりますね」
 考えてみますと王女が微笑すると、レイレリアが話を戻した。
「タロットも興味深いですが、意味を考えれば使えるものが限られるのが難点ですね」
「じゃあペットとかですかねぇ」
 可愛さアピに余念のないハナだが、そのペット愛は本物である。
 侍従長がメモしているのを確認し、レイレリアはざっくりと図案を描いてみた。
「モチーフは問題なさそうですから、ドレスを考えていきましょうか」
 骨組みを用いてスカートのボリュームを出す、斜めに多段フリルを付ける、オフショルダーでボレロと合せる、普段着にAラインのワンピを作っておく等。
 ドレスは貴族令嬢として馴染み深い。すらすらと何種か描いているとラィルが感嘆の声を上げ、レイレリアは目を逸らした。
 描き散らした絵でそう感心されると、こう、困る。
「衣装に合せて御髪も変えられますとよろしいかと」
「髪はあまり弄った事がありませんね」
 盲点でした、とシスティーナは一束手に持つ。柔らかく、緩く波打つ髪は手入れされているものの細工はしていない。
「それでは今ある衣装や仮縫いした布を試着してイメージを掴むのに合せ、編み込み等を試しては如何でしょう?」
 レイレリアが提案すると、埴輪の権化が両の拳を突き上げた。

●お茶会と陰謀
 試着の準備が整うまでの間、ラィルは「下町の菓子を仕入れてくる」と外出した。
 システィーナはそれを見送り、逡巡の後で一つの依頼を切り出す。
「追加で依頼があるのですけれど、聞いていただけますか?」
「まぁ、話によるかな」「面倒ゴトは勘弁してほしいネ」
 同時にシンとフォークス。アルトは腕を組む。
「聞いてみない事には何とも言えないねぇ」
「聞いただけで深みに嵌る話もあります、が」
 室内を一瞥したレイレリアが言うと、それ程の危険はない筈だと王女は微笑した。
 これ見よがしに嘆息したフォークスが、
「どんなタダ働きをお望みカナ?」
「今回の件、大司教さまの真意を探ってほしいのです」
 服を仕立てろなどと言うのはおかしい、と王女。一つ間を置きシンが首を傾げる。
「最近忙しかったみたいだし、気分転換してほしかったんじゃない?」
「それならいいのですけれど……」
「ふうむ、おっさんの腹を探るのは勘弁したいねぇ、王女様の腹なら歓迎だが」
 しれっとアレな発言をしつつもアルトは「まぁ探ってもいいが」と消極的賛成。システィーナが目を伏せると、レイレリアは前傾になってカップを置く。
「残念ながら今は解りかねます。これから調査しても構いませんが、現状であの方が口を割る可能性は低いでしょう。無為に終る事を予めご了承下さいませ」
 垂れる前髪の間からじっと王女を見つめる。時にして五秒程か、レイレリアは確かに視線が交錯したのを認めるや、菓子に手を伸ばして視線を外した。
「そうですか。ではこの話はなかっ……」
「話は変るンだケド、リアルブルーに興味はあるカナ、王女サマ」
 王女が言いかけた時、人を食ったような声がそれを遮った。室内全ての人間がぐるりと声の主――フォークスに顔を向ける。
 王女は警戒しつつ首肯した。
「個人的な興味は、あります」
「なに、マフィアの話だヨ。ああ、地元を大層愛する自警団とでも言うカナ? あっちにはそういう一家がゴマンといる。薬を使う屑。掃溜めの中じゃあ上等な屑。千差万別さ。そして一家と言うからには親がいて子がいる。聞いた話だがある時お上品な親のやり方が気に食わないガキがシマを荒した事があった。ところが親はガキを甘やかす。調子に乗ったガキは一層荒した。
 ――さて。
 この一家の結末はどうする? 希望に沿って話してあげるヨ」
 フォークスは露悪的な笑みを浮かべて言った。
 渋面を作った侍従長の様子をいち早く見て取ったレイレリアが一礼して立つや、アルトとフォークスを伴い早速調査に行く旨を告げる。
 有無を言わさぬまま通路に出たレイレリアが盛大に息を吐くと、戦争屋は肩を竦めた。

「審問会の件では大公さんに出し抜かれたようやね」
 開口一番ラィルが言うと、大司教は眉を顰めて書類から顔を上げた。
 執務室には二人しかいない。必然的に重苦しい空気が流れるが、それは大司教のため息で破られた。
「つまり、君は私の邪魔をしに来た敵という事かね?」
「ややなぁ、僕は王女さんの味方や。そんで? なんぞ対策でも考えてはるん?」
「問い合せている」
「そんだけ?」
「……」
「僕思うんやけど、王女さんも前と比べたら成長しはってるやろ。大司教さんから見たらまだまだかもしれへんけど……人間は変る。いずれ王になるお方や」
 ラィルは簡素すぎる大司教の執務室を見回す。
 卓は一つ。書棚は一人の好みに従い整理されている。補佐も側仕えも立ち入るなと言わんばかりの執務室だ。
「王女さんに余計な事吹き込むな言うたやろ? あーいうのな、もうやめてもええんちゃうかな。大司教さんはどう思う?」
 大司教を見る。王女の後ろ盾たる男は、口をへの字に曲げていた。返答はないらしいと悟ったラィルは、差し出口を謝罪して退室する。
 応接室への戻り道でアルトらと出くわしたが、ラィルは何食わぬ顔で城の厨房――下町ではない――で仕入れた菓子を掲げて見せた。

●念願
 シンとハナから王女の依頼を聞いたラィルは、手に持ったスコーンを断罪剣の如く突き付けて言い放った。
「直接尋ねればええやん!」
 ……。
 …………。
「た、確かにっ!!」
「えぇー」
 思わず漏らすシンである。
 頬を染めてシスティーナは言い返す。
「で、でも隠そうとしているんですから直接はだめなんですよ、きっと。試験です」
「試験か……それは否定できんな」
「でしょう?」
「でも試験言うならつまり先生や。信頼できる人やな。そんな人に対して油断ならん相手扱いして外部の人使って探るんは……寂しないかな?」
「う……」
 ちくりと良心を刺激したラィルは、次の瞬間に一転して破顔し、手を叩いた。
「ま、道は裏側だけやないいう事や! それより今は服考えよか!」
「試着は三人が戻ってからの方が良いんじゃないかな」
 シンがお茶のおかわりを頼むと、侍従長が笑顔で承った。

 応接室は異様な熱気に包まれていた。
 いやそんな空気を醸し出しているのは一人だ。
「つ、次はどうする!? サンタ……いや赤白コートはドレスと変らん! はにわ……はに、和!? 和だ! 振袖だぞ、と!」
 何着ものドレスを着ては脱ぎ、脱いでは着てご登場あそばされる王女に、アルトは熱いリクを送る。その際は右側を少しでも見ないのが心を保つコツだ。右にはレイレリアがいる。今あの目を見てはいけない。
「だ、だが待ってほしい! 振袖もいいがどうせならはに……そう、着ぐるみ路線もどうだ……?」
「まるごとゆぐでぃらですね、解りました」
「解らないで下さいませ、殿下」
 侍従長に諫められながら退室する王女と、興奮冷めやらぬアルト。この空気に何とかついていけているのはシンとハナくらいのもので、三人は感想を言い合い次の試着を待つ。
「和服なら桜色がいいかもね」
「裾を短く可愛くするのがぁ、今風ですよぉ」
 ちなみにラィルはフォークスとレイレリアを宥めすかして紙に案をまとめている。
「殿下のおなりです。そのままで結構ですが、敬意を以て迎えられますよう」
 やって来た王女は、和服――的な雰囲気で仮縫いされた布を帯で留めていた。静々と歩く姿が異国情緒感を際立たせる。
 ガタリと立って拳を握るアルト。「いいね」と控えめに褒めるシン。ハナは「かーわーいーいー」と女子高生的歓声だ。
 王女はさらに何度か試着を繰り返し、気付けば大窓の外は茜色に染まっていた。
 戻ってきたシスティーナに断りを入れ、レイレリアは王女の後ろ髪を編み込みながら代表的な案をまとめる。
「一年を通じて色に統一性を持たせるのが一案。赤や黒を試すのが一案。ボリュームを出すタイプとすっきりさせるタイプを試すのが一案。それぞれ刺繍等にお好きなモチーフを加える事で雰囲気の釣り合いは調整できるかと」
「ありがとうございます。皆さまのおかげで素敵な衣装になりそうです。……ところで、今しているこれは何でしょう?」
 先の試着会の時点で侍従長が髪も弄っていた。なのに何故、今再び編み込んでいるのか?
 少女の純粋な疑問に、レイレリアは貴族特有の微笑で返した。
「提案したからには私も責任を持って試さなければなりませんから」

<了>

 退室するハンターを見送りながら、大司教は数時間前の会話を思い返していた。

『今回の依頼、殿下が不審にお思いのようですよ』
『“そのようだな”』
『……針子ですか、侍女ですか?』
 レイレリアはたった一言で察してくる。
 大司教が状況報告を命じたのは侍女の一人だ。鼻を鳴らして質問を封殺する。
『諸君は適当に言い繕っておけ。……機を見て、私が告げる』
『適当にネ。テキトーに』
『君は興味深い話をしたようだがな、フォークス』
『王女サマに? まさか! なぁんにも“与太話は”してないヨ』
 いけしゃあしゃあとのたまう彼女は、大司教にはタチの悪い道化か傭兵にしか見えなかった。

 ――あの傭兵も面倒だが……彼女はどこまで察している?
 扉が閉まり独りとなった部屋で自問した大司教は、いやと首を振る。
 ――どこまで察しようと仄めかしもせぬ賢明さは使える。
 ハンターの信頼性に上方修正を入れ、しかし同時にラィルの諫言まで脳裏に蘇る。
 大司教は眉間に皺を寄せ、――――への筋道を思い描いた。

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MVP一覧

  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥka1929
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシスka3872

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 王女の私室に入った
    シン(ka4968
    人間(蒼)|16才|男性|舞刀士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レイレリア・リナークシス(ka3872
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/12/23 20:30:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/23 20:29:17