ゲスト
(ka0000)
【虚動】門と無能と冷たさと
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/03 22:00
- 完成日
- 2014/12/12 17:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「……門が、開かない?」
第二師団都市カールスラーエ要塞の東門、帝国からノアーラ・クンタウを越え辺境に至る道へと繋がるその大扉は、ここ数年の所、開ける必要性が存在しなかった。先帝が失踪して以来、辺境との大規模な交流が行われることは少なくなっている。そのため、大扉に据えられた小さな通用口で全て事足りていたからだ。
しかしこの度、辺境のマギア砦南の沿岸部にて、西方世界各国の代表が集まる大規模な実験が行われることとなった。それに際して、帝国内からも様々な人員、物資がここ、カールスラーエ要塞を介し辺境へと送られることになっている。
そして、その人員の中には、現帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)も含まれていた。つまり、
「はっ、大扉の開閉機構が機能していないようであります!」
ガチャガチャと、大扉を開閉するために存在するはずのレバーを上下しても、うんともすんとも言わないこの現状は、非常にまずいということだ。
「……ここの管理は、貴様に一任されてたはずだな?」
都市内防衛小隊第三部隊「ティーガー」の隊長であるラディスラウスは、岩のような体躯を丸めて頭を抱える。
「はっ、一任されていたという情報を自分が知ったのは、つい先程であります!」
同じく第四部隊「ドラッヘ」の隊長である小柄な女性、タチバナは、ビシッとした陸軍式の敬礼と共に、よく通る腹式の発声で堂々とそうのたまった。
「……はぁ?」
途端に、ラディスラウスの精悍な面持ちがぽかんと間の抜けたものになる。
「いやいや待て待て、職務内容は配属されたと同時に通達があったはずだが……いや、貴様の配属は一年前だったな。あのクソ女が団長だった頃ってことは、あいつのせいか!」
「はっ、そうではありません! 着任当時、団長であったそのスザナ・エルマン殿により職務の説明を拝受したのでありますが、その時間が早朝でありまして、恥ずかしながら朝に弱い自分は何も頭に入っていなかったのであります!」
ラディスラウスは、またしても呆気にとられるよりなかった。言葉が出てこない。突っ込みどころは多々あろうが、もう何を言っていいのか分からない。
「ま、まあ過ぎたことはいい。貴様の処遇は後から決めるとして……動力は機導だろ? 管理は貴様の仕事だ、早く直してくれ」
なので、諦めて話を進めることにする。
「はっ、自分には無理であります!」
「……ええー」
そして返ってきた答えは、想像を遥か下に行くものだった。
ため息とともに漏れた情けない音は、今の彼の心境を的確に表している。しかしタチバナは、彼のその様子を見ても、自分が原因だと思っていないかのようにポーカーフェイスを一切崩さない。
「無理って、貴様が管理を任されたんだ、なら任されるだけの技術を持ってるんじゃないのか!」
「はっ、自分は猟撃士でありまして、銃器の取り扱いには自信があるのでありますが、機導のことは門外漢であります! 先程お会いしたスザナ・エルマン副団長の言によれば、『銃が使えるなら、機械はお手の物ですわよね』とのことであります!」
もう一度スザナの名前が出た瞬間に、ラディスラウスの表情が、嫌いなものを間違って口にしてしまった時のように歪む。
「あいつに会ったのか……」
「はっ、先程壁外より帰還しましたスザナ・エルマン副団長に相談した次第でありますが、そのお言葉以外は頂けませんでした!」
ラディスラウスは、あの無能がと吐き捨てて眉間を押さえる。
副団長が、こんな早朝に外へ出ていた。その点に関してはいつものことだ。おおよそいつも通り、近寄ってきた亜人の匂いでも嗅ぎとって、派手な殺し合いを演じてきたのだろう。
だが副団長は、明らかに適当な助言しかしていない。どうせ、戦闘欲を満たして気分のいい時に、扉のことになど微塵も興味を持てなかったのだ。現に、この門の前には未だに二人の影しか無い。スザナがこれを大した問題と考えていない証左だ。どう考えても、この件を誰にも伝えていない。
やはり、本能のままにしか動けない人間が上に立つべきではない。
「……機関室の様子は見たのか?」
とはいえ兎にも角にも、扉を直す方法を考えるしか無い。大事になる前に解決できるなら、それに越したことはないだろう。
「はっ、何やら、雑魔のようなものに占拠されているようであります!」
そして、本日最大の信じられない言葉が、ラディスラウスに降りかかった。
●
薄暗い通路の先、ひっそりと佇む両開きの鉄扉に急いで手を掛ける。その手に異様な冷たさを感じながらもガチャリと開いてみれば――全身に、ぶにょりと柔らかい何かがぶつかった。
「うぷぉあっ! 何だこれ!」
途端に、通路全体を凍りつくような冷気が満たしていく。
ラディスラウスは咄嗟に飛び退って、その感触の元に目をやった。
「はっ、このように、機関室及び原動機は完全に歪虚の手に、いえ、体に落ちているであります!」
扉の先にあったのは、無味乾燥とした灰色の部屋ではなかった。海水を固めたような、青色の何かだ。目を凝らせばそれは常時ぷるぷると震えていて、半透明な青の向こうには、扉の開閉を行うための原動機が鎮座している。
「何でこれを真っ先に言わないんだ!」
ラディスラウスがツバを飛ばし問いかければ、
「はっ、聞かれなかったからであります!」
極めて冷静な表情でタチバナは答える。
その頭をぶん殴ってやりたい衝動は、何とか抑えこむことに成功した。今は、そんなことをしている場合ではない。
これが何で、どこから入ったかなど今はどうでもいい。まずどうするかを考えるべきだ。門を開くべき時はすぐそこまで迫っている。時間は少ない。しかし上の人間は、迫る辺境での任務に向けて忙しく、頼るべきではないと判断する。
案件の規模によって、動員する人員を厳選する。都市内防衛小隊には、それくらいの権限は与えられていた。
「タチバナっ! ハルクス副団長とあの女以外ならどこからでもいい、機関室をぶっ壊して解決しないような、力があって頭の回るやつ連れて来い!」
「はっ、それは第二師団員以外、という解釈でよろしいのでしょうか!」
「その通りだよちくしょう!」
そうしてタチバナは、ハンターズオフィスへ走って行った。ぷよぷよした何かを取り除き、第二師団の面目を保つために。
そして彼女を待つ、減給三ヶ月と隊長の解任、上等兵から一等兵への降格という運命を、知らないままに。
第二師団都市カールスラーエ要塞の東門、帝国からノアーラ・クンタウを越え辺境に至る道へと繋がるその大扉は、ここ数年の所、開ける必要性が存在しなかった。先帝が失踪して以来、辺境との大規模な交流が行われることは少なくなっている。そのため、大扉に据えられた小さな通用口で全て事足りていたからだ。
しかしこの度、辺境のマギア砦南の沿岸部にて、西方世界各国の代表が集まる大規模な実験が行われることとなった。それに際して、帝国内からも様々な人員、物資がここ、カールスラーエ要塞を介し辺境へと送られることになっている。
そして、その人員の中には、現帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)も含まれていた。つまり、
「はっ、大扉の開閉機構が機能していないようであります!」
ガチャガチャと、大扉を開閉するために存在するはずのレバーを上下しても、うんともすんとも言わないこの現状は、非常にまずいということだ。
「……ここの管理は、貴様に一任されてたはずだな?」
都市内防衛小隊第三部隊「ティーガー」の隊長であるラディスラウスは、岩のような体躯を丸めて頭を抱える。
「はっ、一任されていたという情報を自分が知ったのは、つい先程であります!」
同じく第四部隊「ドラッヘ」の隊長である小柄な女性、タチバナは、ビシッとした陸軍式の敬礼と共に、よく通る腹式の発声で堂々とそうのたまった。
「……はぁ?」
途端に、ラディスラウスの精悍な面持ちがぽかんと間の抜けたものになる。
「いやいや待て待て、職務内容は配属されたと同時に通達があったはずだが……いや、貴様の配属は一年前だったな。あのクソ女が団長だった頃ってことは、あいつのせいか!」
「はっ、そうではありません! 着任当時、団長であったそのスザナ・エルマン殿により職務の説明を拝受したのでありますが、その時間が早朝でありまして、恥ずかしながら朝に弱い自分は何も頭に入っていなかったのであります!」
ラディスラウスは、またしても呆気にとられるよりなかった。言葉が出てこない。突っ込みどころは多々あろうが、もう何を言っていいのか分からない。
「ま、まあ過ぎたことはいい。貴様の処遇は後から決めるとして……動力は機導だろ? 管理は貴様の仕事だ、早く直してくれ」
なので、諦めて話を進めることにする。
「はっ、自分には無理であります!」
「……ええー」
そして返ってきた答えは、想像を遥か下に行くものだった。
ため息とともに漏れた情けない音は、今の彼の心境を的確に表している。しかしタチバナは、彼のその様子を見ても、自分が原因だと思っていないかのようにポーカーフェイスを一切崩さない。
「無理って、貴様が管理を任されたんだ、なら任されるだけの技術を持ってるんじゃないのか!」
「はっ、自分は猟撃士でありまして、銃器の取り扱いには自信があるのでありますが、機導のことは門外漢であります! 先程お会いしたスザナ・エルマン副団長の言によれば、『銃が使えるなら、機械はお手の物ですわよね』とのことであります!」
もう一度スザナの名前が出た瞬間に、ラディスラウスの表情が、嫌いなものを間違って口にしてしまった時のように歪む。
「あいつに会ったのか……」
「はっ、先程壁外より帰還しましたスザナ・エルマン副団長に相談した次第でありますが、そのお言葉以外は頂けませんでした!」
ラディスラウスは、あの無能がと吐き捨てて眉間を押さえる。
副団長が、こんな早朝に外へ出ていた。その点に関してはいつものことだ。おおよそいつも通り、近寄ってきた亜人の匂いでも嗅ぎとって、派手な殺し合いを演じてきたのだろう。
だが副団長は、明らかに適当な助言しかしていない。どうせ、戦闘欲を満たして気分のいい時に、扉のことになど微塵も興味を持てなかったのだ。現に、この門の前には未だに二人の影しか無い。スザナがこれを大した問題と考えていない証左だ。どう考えても、この件を誰にも伝えていない。
やはり、本能のままにしか動けない人間が上に立つべきではない。
「……機関室の様子は見たのか?」
とはいえ兎にも角にも、扉を直す方法を考えるしか無い。大事になる前に解決できるなら、それに越したことはないだろう。
「はっ、何やら、雑魔のようなものに占拠されているようであります!」
そして、本日最大の信じられない言葉が、ラディスラウスに降りかかった。
●
薄暗い通路の先、ひっそりと佇む両開きの鉄扉に急いで手を掛ける。その手に異様な冷たさを感じながらもガチャリと開いてみれば――全身に、ぶにょりと柔らかい何かがぶつかった。
「うぷぉあっ! 何だこれ!」
途端に、通路全体を凍りつくような冷気が満たしていく。
ラディスラウスは咄嗟に飛び退って、その感触の元に目をやった。
「はっ、このように、機関室及び原動機は完全に歪虚の手に、いえ、体に落ちているであります!」
扉の先にあったのは、無味乾燥とした灰色の部屋ではなかった。海水を固めたような、青色の何かだ。目を凝らせばそれは常時ぷるぷると震えていて、半透明な青の向こうには、扉の開閉を行うための原動機が鎮座している。
「何でこれを真っ先に言わないんだ!」
ラディスラウスがツバを飛ばし問いかければ、
「はっ、聞かれなかったからであります!」
極めて冷静な表情でタチバナは答える。
その頭をぶん殴ってやりたい衝動は、何とか抑えこむことに成功した。今は、そんなことをしている場合ではない。
これが何で、どこから入ったかなど今はどうでもいい。まずどうするかを考えるべきだ。門を開くべき時はすぐそこまで迫っている。時間は少ない。しかし上の人間は、迫る辺境での任務に向けて忙しく、頼るべきではないと判断する。
案件の規模によって、動員する人員を厳選する。都市内防衛小隊には、それくらいの権限は与えられていた。
「タチバナっ! ハルクス副団長とあの女以外ならどこからでもいい、機関室をぶっ壊して解決しないような、力があって頭の回るやつ連れて来い!」
「はっ、それは第二師団員以外、という解釈でよろしいのでしょうか!」
「その通りだよちくしょう!」
そうしてタチバナは、ハンターズオフィスへ走って行った。ぷよぷよした何かを取り除き、第二師団の面目を保つために。
そして彼女を待つ、減給三ヶ月と隊長の解任、上等兵から一等兵への降格という運命を、知らないままに。
リプレイ本文
早急の依頼に駆け付けたハンター達を待っていたのは、異様な冷気だった。吐息すら凍ってしまいそうな寒さに、思わず身を震わす。事前に話を聞き準備をしていなければ、身動きも取れずに終わってしまったかもしれない。
「……信じがたい。帝国の先鋒、人類の衛士たるべき第二師団がこの体たらく。第九師団の衛生兵の方が、まだ気合が入っている!」
霜の降りる狭い通路と、その先に鎮座する扉。そして、みっしりと部屋に詰まりぷるぷる震える巨大なスライム。
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が憤るのも無理はなく、そして集まったハンターの多くが、その光景に呆れを抱いていた。
「全く弁解もできないな……ハンターに頼らねばならんのは情けないが、生憎、こういった手合は不得手でね」
申し訳ないと、兵長が頭を下げる。
「まあ、いま責めても仕方ない。この問題から、第二師団全体の欠点が見えてくるかもねぇ」
「ふん、欠点しか見当たらんがな」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)がやんわりと諌めるも、アウレールの溜飲は下がらない。
「とにかく、どうにかこの敵を打倒せねばなるまい」
「ああ、さっさと終わらせたいところだな」
スライムが冷気を纏うなら、こちらは炎で対抗すればいい。
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)とウィンス・デイランダール(ka0039)は、自らの扱う刀を炎で包む準備をする。ディアドラは松脂を刀身に塗りこみ、ウィンスは松明を分解して油の染み込んだ布を巻きつけていた。
「待ってくれ、この狭さで派手に燃やすと酸欠と煙が怖い。……兵長、窓や換気口を全開にしてもらえますか?」
「その前に……火の使用許可はいただけるのでしょうか。見たところ木造部分は少なそうですが、類焼の可能性は否めませんので……」
「ああ、どちらも了解だ。タチバナ、近くの窓と狭間、全部開けてこい」
「はっ、了解しました!」
ザレム・アズール(ka0878)とLuegner(ka1934)の提案に、兵長は快く頷いた。命令を受けたタチバナが走り去っていく。
「しかし、どういう理論で辺りを冷やしているのか……冷蔵庫や冷凍庫として再利用、とかできないものでしょうか……」
「冷蔵庫の中にスライム……何だかシュールだなぁ」
Luegnerの呟きに、ヒースは小さく吹き出した。
「それにしても、この寒さはまずい。外気が入ってくれば多少はマシになるだろうが、肌着の一枚も欲しいところだな」
「火を使うのだから、消火用の水も欲しいところだな! ボクの持ってきた油で、部屋ごと燃やし弱体化させてやろう!」
「肌着と水だな? 分かった、すぐに持ってこよう」
兵長は素直に頷く。
「バケツの水なら、塩を混ぜたほうがいいかもしれませんね……」
「ん、塩?」
「ええ……塩水は、凝固点が低いので凍りづらいのです。いざという時、凍って撒けないのでは話になりませんからね……もっとも、この寒さなら塩水でも凍ってしまいそうですが」
「……おう? ま、まあよく分からないが、塩もだな。よし、待ってろ」
「早くしろよー、あんたには火炎瓶作る仕事も待ってんだからな」
度数の高いブランデーの瓶に松明の布を差し込んで即席の火炎瓶を作ると、ウィンスはそれを傍らに壁にもたれかかった。
兵長は駆けていく。彼なりに、部下の失態を雪ごうと必死なのかもしれない。
●
「さて、火を使うというのはいいけど、本当に効くのかちゃんと試さないとねぇ」
全ての準備が整うと、ヒースは手にした槍を振り回し、前に出る。
「フムン……槍を使うのは初めてだけど、これなら問題ないかぁ」
通路の広さ的に薙ぎ払うなど大きな動作は難しいが、単純な突き程度の動きは充分に可能だ。
それを確かめ、ヒースは覚醒すると思い切り槍でスライムを貫いた。接触の瞬間、波打つ穂先が赤熱し、スライムに強烈な熱を与える。
――その刹那、ズン、と辺りに重低音が響き渡った。
部屋の入口を埋めるスライムが表面を大きく震わせ、悲鳴のような音を上げている。その震えは部屋全体を揺らし、声に聞こえる振動を大気に伝えているようだ。
同時にひゅるんと、スライムの表面から鞭のように触手が伸びる。
「おっと」
槍のリーチが幸いし、ヒースは訳もなくそれを回避する。
「うん、行けそうだねぇ」
見れば、槍の作った刺創から、ドロリと薄青色の液体が流れ出していた。しばらくすると液体は固まり傷も塞がったようだが、ほんの少し、体積を減らすことに成功したようだ。
「ならば大火力を以って、迅速に事を進めよう。皇帝陛下のために、障害は疾く取り除かねばならん」
アウレールは銃を手に、薪の束を傍らに置く。スライムを溶かし、部屋に入ることができたらそこで焚き火を作るつもりだ。
「兵長、あなた方にもお手伝い頂けませんか?」
「もちろんだ。だが、俺は邪魔にしかならんだろうな。タチバナ、貴様の銃なら援護くらいは出来るだろう」
「はっ、それは命令でありますでしょうか!」
「そうだ」
「はっ、了解であります!」
ザレムの要請はすんなりと通った。
タチバナは兵長に敬礼をすると、ハンター達に向き直る。
「貴様ら! 今から貴様らは私の指揮下に入る! 私の命令は絶対であると心得ろ!」
そして途端に、タチバナは居丈高に宣言した。
「ばっ……! 違うっ、貴様が彼らの指揮下に入るんだ!」
「はっ、自分がこの者共の下、ということでありましょうか!」
「当たり前だ! 誰のせいでこうなったと思ってる!」
兵長は慌てて、ハンター達に頭を下げる。しかし、タチバナに悪気はないようで、直立不動のままだ。
「ちっ、うるせー女だな。軟体動物も居やがるし、俺の嫌いなもんが揃ってやがる」
余った松明を壁に立てかけていたウィンスは、その態度に鋭い睨みを向け、吐き捨てた。
「歪虚の侵入をみすみす見逃す事といい、教育がなっておらんぞ。リアルブルーの軍隊はままごとなのか?」
元自衛隊員だというタチバナに向けたアウレールのど正面からの皮肉にも、聞いているのかいないのか、彼女は反応を示さない。
「まあよいではないか。戦力が増えるのだ、細かいことなど気にするものではないぞ?」
ふんすと胸を張り、ディアドラは淡く炎に包まれた刀を手に仲裁の言葉を投げかけた。
「……ディアドラさんの言う通りですよ。口論なら……終わってからでいいはずです」
「まあ、気持ちは分かるけどねぇ。機関室が心配だし、さっさとやっちゃおうよ」
全員、それに異論があるわけではない。溜息をつく者、肩をすくめる者と色々だが、彼らは揃って武器を構える。
●
作戦自体は単純明快だ。苦手であろう火を使って、溶かす。
「では行くぞ!」
ディアドラは思い切り、油の入った小さな樽をスライムに向けて投げつけた。タガをゆるめた樽は、スライムにボヨンとぶつかってバラバラになると辺りに油をまき散らした。
同時に、ウィンスとヒースが戦列を飛び出す。油を掛けられたスライムはそれに反応したのか大きく震え、無数の触手を体から伸ばし始めた。
しかし、それを見越し銃を構えていたアウレールとタチバナにより、触手は撃ち落される。特にアウレールの持つ銃から放たれる炎を纏う弾丸は有効なようで、じゅうと音を立てて触手が溶けていった。
「冷たいのは嫌いじゃないけど、この場には不要なんでねぇ」
マテリアルを込めた精緻な突きが、ヒースの槍から放たれる。
「燃えて消えろ」
今度の一撃は試しではない。回転し抉るような突きは、赤熱する穂先によって削岩機のようにスライムを大きく抉る。そして同時に、刃の熱が撒かれた油に点火した。
一瞬にして、スライムの表面が燃え上がる。
「おまけだ、そんなに人肌恋しいなら、コイツでたっぷり暖まれよ……ッ!」
追い打ちを掛けるべくウィンスはお手製の火炎瓶を、ヒースの穿った穴に投げ入れていた。気化したアルコールに火が燃え移り、発火する内側からの圧力に負け瓶は儚く砕け散る。
獣の唸り声に似た音を発し、スライムはまた地鳴りを伴い震えだす。
「……効いている、のでしょうか」
少なくとも、Luegnerの目には、スライムが苦悶しているように見える。
しかし次の瞬間、溶け出したスライムが炎を覆い、水が沸騰するような音と共に火が消えていってしまった。
「ちっ、そうなるのか。思った通り面倒だな、おい」
だが、がっかりしている暇はなかった。火が消えたことで余裕が生まれたのか、スライムの攻勢が俄に始まる。
狙われたのは、手近に居たヒースとウィンスだ。無数の触手、そして目に見えるほどの冷気が渦を巻き、大きな氷柱が空中に生み出されていく。
「やれやれ、本当に面倒そうだねぇ」
「ハン――上等だ。やれるもんならやってみな」
二人は次々と攻撃を躱し、返す刀で触手を切り落としてスライムの体積を減らしていく。
炎で熱した刀も、赤熱する槍も、触手や氷柱を斬り払うに長けている。
そして幸いにも、スライムの狙いはそれほど精密なものではなかった。本能的に、反射で行動しているような動きだ。避けるのはさほど難しくない。
「流石に、触手を弓で射るのは難しいかな」
二人の援護をするべく、腰元で頭蓋骨型のランタンを揺らすザレムが飛び出す。その手に煌めく機導の剣が翻り、纏めて触手を切り飛ばす。
「ふむ、落ちた触手も、まだ動くのか。素晴らしい生命力だな!」
「全く、どういう原理で動いているのやら……」
ディアドラとLuegnerは、小型のスライムへと形を変える千切れた触手を、一本ずつ燃やしていく。
小さなスライムとはいえ、侮れるものではない。飛び跳ねる動きは捉えづらく、燃やさなければ消滅しないというのだから始末が悪い。
「ふん、瑣末な歪虚が。帝国を害しようとは恐れ多いぞ!」
しかし、一匹一匹の炎に対する耐久性は、驚くほどに低いらしい。
アウレールは、過たず小型のスライムを撃ち抜いていく。撃たれたスライムは燃え、容易く溶け消えていった。
「……っ!」
タチバナの単発式のライフル銃は、百発百中の勢いで氷柱を破壊していく。スライムには何の効果も示さない普通の銃だが、氷柱を破壊する役には立つようだ。
「まあまあやるではないか」
アウレールが苦々しく声を掛ければ、
「舐めてもらっては困るぞ、ハンター」
タチバナは、目を向けることもなく短く返す。
炎すらも凍りそうな冷気の中、地道な戦いは続いていく。
●
アウレールの作った焚き火は、スライムを寄せ付けない砦として機能した。それにより、部屋の半分近くを取り戻すことに成功する。
「よし、後は原動機を確保できれば……!」
アウレールは武器を篭手に切り替え、要である原動機の周りを埋めるスライムを殴り飛ばしていく。
「やっとか……」
ウィンスは刀を振るいながらため息をつく。
「もう少しだ、頑張ろう」
広い場所に出て、槍を存分に扱えるようになったヒースもまた、疲労の色を隠せない。
永遠とも思える時間、ハンター達はスライムを削り続けていた。火炎瓶や松明を使い切る程の長丁場で、武器を振るう腕が重い。
「機構が無事ならいいんだが……」
火属性のランタンを振り回してスライムを遠ざけながら、ザレムは呟く。
結果的に、スライムは炎全般を怖がり逃げることが判明した。それは実際に燃えていなくも問題なく、火属性そのものに対して脆弱性を持つようだ。冷気は強力でも、所詮は低級の歪虚といったところだろうか。
「無事でなかったら、その時だ。まずは取り戻すことに専念しようぞ!」
「……最悪、団員さん達の力を借りて、無理矢理を門を開けるという手も……」
息を切らしながらも、ディアドラは前向きに笑う。松脂は既に切れ、伸びる触手や氷柱を払いのけるくらいのことしか出来ないが、Luegnerと共に火属性を持つ仲間の援護を必死に続けていく。
Luegnerもまた、松明を切らしてフレイルを振り回している。彼女はそんな自分に向けて、自分もたいがい脳筋だと小さく呟いていた。
そしてまたそれなりの時間をかけて、ハンター達はようやく原動機の元へと辿り着いた。ここまでくれば、もう勝ちが決まったようなものだろう。
精神的な満身創痍。嫌がらせのような傷を心に受けながらも、ハンター達はようやく胸を撫で下ろすのだった。
●
結論から言えば、原動機は多少の部品交換を行うだけで再起動が可能な状態だった。機導師であるザレムの機械知識を筆頭に、ヒースとLuegnerが手伝えば、専門家でなくとも直せる範疇の軽いものだ。
「何とかなったなぁ。ボクの手先の器用さのおかげかなぁ?」
「……機導というのも、あちらの機械と同じで複雑ですね……難しいです」
「いや、助かったよ。俺一人じゃ、面倒な修理だった」
未だに石壁が冷えて冷気の残滓が残る部屋の中、ザレムが起動のスイッチを押せば、原動機はようやく重低音な復活の声を上げた。これで、門横のレバーを引けば、原動機の起動と共に門が自動で開閉するはずだ。
「おい、あったぞ隙間」
「お、見つけたか。済まないな、最後まで」
部屋の隅、石壁に大き目の隙間がぽっかりと開いている。何故気づかなかったかとウィンスが文句を言うも、兵長はもう謝ることしか出来ない。
そしてタチバナが持ってきたセメントのようなものを穴に流し込めば、ようやく今回の騒動は収束を迎える。
「兵長も上等兵も、協力ありがとうございました」
ザレムの言葉に、兵長は大きく首を振った。
「いやいや、君らが来てくれなかったら、俺もタチバナも首が飛んでたかもしれん。感謝するのはこちらの方だ」
もっとも、タチバナの責任はでかいがと、兵長は小さく呟きを残す。
そのタチバナは、素知らぬ顔で部屋の隅に突っ立っている。彼女が減給と解任、降格を言い渡されるのは、今から三日後の事だ。
●
門は開く。重々しい音を立て、ゆっくりと。
ハンター達は、それを感慨深げに見守っていた。
「くれぐれも、皇帝陛下の御前で粗相の無いように! 特に貴公!」
アウレールは、タチバナを力強く指差す。当の本人は無表情で彼を見てもいなかったが、皇帝に絶対の忠誠を誓う者として、言っておかねばならなかったのだ。
元第二師団長だった先帝が最後に通った門は、ようやくその重い口を開けた。異世界の兵器を扱う大規模な実験、その先に平和が待っているのか、まだ誰も知らない。
「……信じがたい。帝国の先鋒、人類の衛士たるべき第二師団がこの体たらく。第九師団の衛生兵の方が、まだ気合が入っている!」
霜の降りる狭い通路と、その先に鎮座する扉。そして、みっしりと部屋に詰まりぷるぷる震える巨大なスライム。
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が憤るのも無理はなく、そして集まったハンターの多くが、その光景に呆れを抱いていた。
「全く弁解もできないな……ハンターに頼らねばならんのは情けないが、生憎、こういった手合は不得手でね」
申し訳ないと、兵長が頭を下げる。
「まあ、いま責めても仕方ない。この問題から、第二師団全体の欠点が見えてくるかもねぇ」
「ふん、欠点しか見当たらんがな」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)がやんわりと諌めるも、アウレールの溜飲は下がらない。
「とにかく、どうにかこの敵を打倒せねばなるまい」
「ああ、さっさと終わらせたいところだな」
スライムが冷気を纏うなら、こちらは炎で対抗すればいい。
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)とウィンス・デイランダール(ka0039)は、自らの扱う刀を炎で包む準備をする。ディアドラは松脂を刀身に塗りこみ、ウィンスは松明を分解して油の染み込んだ布を巻きつけていた。
「待ってくれ、この狭さで派手に燃やすと酸欠と煙が怖い。……兵長、窓や換気口を全開にしてもらえますか?」
「その前に……火の使用許可はいただけるのでしょうか。見たところ木造部分は少なそうですが、類焼の可能性は否めませんので……」
「ああ、どちらも了解だ。タチバナ、近くの窓と狭間、全部開けてこい」
「はっ、了解しました!」
ザレム・アズール(ka0878)とLuegner(ka1934)の提案に、兵長は快く頷いた。命令を受けたタチバナが走り去っていく。
「しかし、どういう理論で辺りを冷やしているのか……冷蔵庫や冷凍庫として再利用、とかできないものでしょうか……」
「冷蔵庫の中にスライム……何だかシュールだなぁ」
Luegnerの呟きに、ヒースは小さく吹き出した。
「それにしても、この寒さはまずい。外気が入ってくれば多少はマシになるだろうが、肌着の一枚も欲しいところだな」
「火を使うのだから、消火用の水も欲しいところだな! ボクの持ってきた油で、部屋ごと燃やし弱体化させてやろう!」
「肌着と水だな? 分かった、すぐに持ってこよう」
兵長は素直に頷く。
「バケツの水なら、塩を混ぜたほうがいいかもしれませんね……」
「ん、塩?」
「ええ……塩水は、凝固点が低いので凍りづらいのです。いざという時、凍って撒けないのでは話になりませんからね……もっとも、この寒さなら塩水でも凍ってしまいそうですが」
「……おう? ま、まあよく分からないが、塩もだな。よし、待ってろ」
「早くしろよー、あんたには火炎瓶作る仕事も待ってんだからな」
度数の高いブランデーの瓶に松明の布を差し込んで即席の火炎瓶を作ると、ウィンスはそれを傍らに壁にもたれかかった。
兵長は駆けていく。彼なりに、部下の失態を雪ごうと必死なのかもしれない。
●
「さて、火を使うというのはいいけど、本当に効くのかちゃんと試さないとねぇ」
全ての準備が整うと、ヒースは手にした槍を振り回し、前に出る。
「フムン……槍を使うのは初めてだけど、これなら問題ないかぁ」
通路の広さ的に薙ぎ払うなど大きな動作は難しいが、単純な突き程度の動きは充分に可能だ。
それを確かめ、ヒースは覚醒すると思い切り槍でスライムを貫いた。接触の瞬間、波打つ穂先が赤熱し、スライムに強烈な熱を与える。
――その刹那、ズン、と辺りに重低音が響き渡った。
部屋の入口を埋めるスライムが表面を大きく震わせ、悲鳴のような音を上げている。その震えは部屋全体を揺らし、声に聞こえる振動を大気に伝えているようだ。
同時にひゅるんと、スライムの表面から鞭のように触手が伸びる。
「おっと」
槍のリーチが幸いし、ヒースは訳もなくそれを回避する。
「うん、行けそうだねぇ」
見れば、槍の作った刺創から、ドロリと薄青色の液体が流れ出していた。しばらくすると液体は固まり傷も塞がったようだが、ほんの少し、体積を減らすことに成功したようだ。
「ならば大火力を以って、迅速に事を進めよう。皇帝陛下のために、障害は疾く取り除かねばならん」
アウレールは銃を手に、薪の束を傍らに置く。スライムを溶かし、部屋に入ることができたらそこで焚き火を作るつもりだ。
「兵長、あなた方にもお手伝い頂けませんか?」
「もちろんだ。だが、俺は邪魔にしかならんだろうな。タチバナ、貴様の銃なら援護くらいは出来るだろう」
「はっ、それは命令でありますでしょうか!」
「そうだ」
「はっ、了解であります!」
ザレムの要請はすんなりと通った。
タチバナは兵長に敬礼をすると、ハンター達に向き直る。
「貴様ら! 今から貴様らは私の指揮下に入る! 私の命令は絶対であると心得ろ!」
そして途端に、タチバナは居丈高に宣言した。
「ばっ……! 違うっ、貴様が彼らの指揮下に入るんだ!」
「はっ、自分がこの者共の下、ということでありましょうか!」
「当たり前だ! 誰のせいでこうなったと思ってる!」
兵長は慌てて、ハンター達に頭を下げる。しかし、タチバナに悪気はないようで、直立不動のままだ。
「ちっ、うるせー女だな。軟体動物も居やがるし、俺の嫌いなもんが揃ってやがる」
余った松明を壁に立てかけていたウィンスは、その態度に鋭い睨みを向け、吐き捨てた。
「歪虚の侵入をみすみす見逃す事といい、教育がなっておらんぞ。リアルブルーの軍隊はままごとなのか?」
元自衛隊員だというタチバナに向けたアウレールのど正面からの皮肉にも、聞いているのかいないのか、彼女は反応を示さない。
「まあよいではないか。戦力が増えるのだ、細かいことなど気にするものではないぞ?」
ふんすと胸を張り、ディアドラは淡く炎に包まれた刀を手に仲裁の言葉を投げかけた。
「……ディアドラさんの言う通りですよ。口論なら……終わってからでいいはずです」
「まあ、気持ちは分かるけどねぇ。機関室が心配だし、さっさとやっちゃおうよ」
全員、それに異論があるわけではない。溜息をつく者、肩をすくめる者と色々だが、彼らは揃って武器を構える。
●
作戦自体は単純明快だ。苦手であろう火を使って、溶かす。
「では行くぞ!」
ディアドラは思い切り、油の入った小さな樽をスライムに向けて投げつけた。タガをゆるめた樽は、スライムにボヨンとぶつかってバラバラになると辺りに油をまき散らした。
同時に、ウィンスとヒースが戦列を飛び出す。油を掛けられたスライムはそれに反応したのか大きく震え、無数の触手を体から伸ばし始めた。
しかし、それを見越し銃を構えていたアウレールとタチバナにより、触手は撃ち落される。特にアウレールの持つ銃から放たれる炎を纏う弾丸は有効なようで、じゅうと音を立てて触手が溶けていった。
「冷たいのは嫌いじゃないけど、この場には不要なんでねぇ」
マテリアルを込めた精緻な突きが、ヒースの槍から放たれる。
「燃えて消えろ」
今度の一撃は試しではない。回転し抉るような突きは、赤熱する穂先によって削岩機のようにスライムを大きく抉る。そして同時に、刃の熱が撒かれた油に点火した。
一瞬にして、スライムの表面が燃え上がる。
「おまけだ、そんなに人肌恋しいなら、コイツでたっぷり暖まれよ……ッ!」
追い打ちを掛けるべくウィンスはお手製の火炎瓶を、ヒースの穿った穴に投げ入れていた。気化したアルコールに火が燃え移り、発火する内側からの圧力に負け瓶は儚く砕け散る。
獣の唸り声に似た音を発し、スライムはまた地鳴りを伴い震えだす。
「……効いている、のでしょうか」
少なくとも、Luegnerの目には、スライムが苦悶しているように見える。
しかし次の瞬間、溶け出したスライムが炎を覆い、水が沸騰するような音と共に火が消えていってしまった。
「ちっ、そうなるのか。思った通り面倒だな、おい」
だが、がっかりしている暇はなかった。火が消えたことで余裕が生まれたのか、スライムの攻勢が俄に始まる。
狙われたのは、手近に居たヒースとウィンスだ。無数の触手、そして目に見えるほどの冷気が渦を巻き、大きな氷柱が空中に生み出されていく。
「やれやれ、本当に面倒そうだねぇ」
「ハン――上等だ。やれるもんならやってみな」
二人は次々と攻撃を躱し、返す刀で触手を切り落としてスライムの体積を減らしていく。
炎で熱した刀も、赤熱する槍も、触手や氷柱を斬り払うに長けている。
そして幸いにも、スライムの狙いはそれほど精密なものではなかった。本能的に、反射で行動しているような動きだ。避けるのはさほど難しくない。
「流石に、触手を弓で射るのは難しいかな」
二人の援護をするべく、腰元で頭蓋骨型のランタンを揺らすザレムが飛び出す。その手に煌めく機導の剣が翻り、纏めて触手を切り飛ばす。
「ふむ、落ちた触手も、まだ動くのか。素晴らしい生命力だな!」
「全く、どういう原理で動いているのやら……」
ディアドラとLuegnerは、小型のスライムへと形を変える千切れた触手を、一本ずつ燃やしていく。
小さなスライムとはいえ、侮れるものではない。飛び跳ねる動きは捉えづらく、燃やさなければ消滅しないというのだから始末が悪い。
「ふん、瑣末な歪虚が。帝国を害しようとは恐れ多いぞ!」
しかし、一匹一匹の炎に対する耐久性は、驚くほどに低いらしい。
アウレールは、過たず小型のスライムを撃ち抜いていく。撃たれたスライムは燃え、容易く溶け消えていった。
「……っ!」
タチバナの単発式のライフル銃は、百発百中の勢いで氷柱を破壊していく。スライムには何の効果も示さない普通の銃だが、氷柱を破壊する役には立つようだ。
「まあまあやるではないか」
アウレールが苦々しく声を掛ければ、
「舐めてもらっては困るぞ、ハンター」
タチバナは、目を向けることもなく短く返す。
炎すらも凍りそうな冷気の中、地道な戦いは続いていく。
●
アウレールの作った焚き火は、スライムを寄せ付けない砦として機能した。それにより、部屋の半分近くを取り戻すことに成功する。
「よし、後は原動機を確保できれば……!」
アウレールは武器を篭手に切り替え、要である原動機の周りを埋めるスライムを殴り飛ばしていく。
「やっとか……」
ウィンスは刀を振るいながらため息をつく。
「もう少しだ、頑張ろう」
広い場所に出て、槍を存分に扱えるようになったヒースもまた、疲労の色を隠せない。
永遠とも思える時間、ハンター達はスライムを削り続けていた。火炎瓶や松明を使い切る程の長丁場で、武器を振るう腕が重い。
「機構が無事ならいいんだが……」
火属性のランタンを振り回してスライムを遠ざけながら、ザレムは呟く。
結果的に、スライムは炎全般を怖がり逃げることが判明した。それは実際に燃えていなくも問題なく、火属性そのものに対して脆弱性を持つようだ。冷気は強力でも、所詮は低級の歪虚といったところだろうか。
「無事でなかったら、その時だ。まずは取り戻すことに専念しようぞ!」
「……最悪、団員さん達の力を借りて、無理矢理を門を開けるという手も……」
息を切らしながらも、ディアドラは前向きに笑う。松脂は既に切れ、伸びる触手や氷柱を払いのけるくらいのことしか出来ないが、Luegnerと共に火属性を持つ仲間の援護を必死に続けていく。
Luegnerもまた、松明を切らしてフレイルを振り回している。彼女はそんな自分に向けて、自分もたいがい脳筋だと小さく呟いていた。
そしてまたそれなりの時間をかけて、ハンター達はようやく原動機の元へと辿り着いた。ここまでくれば、もう勝ちが決まったようなものだろう。
精神的な満身創痍。嫌がらせのような傷を心に受けながらも、ハンター達はようやく胸を撫で下ろすのだった。
●
結論から言えば、原動機は多少の部品交換を行うだけで再起動が可能な状態だった。機導師であるザレムの機械知識を筆頭に、ヒースとLuegnerが手伝えば、専門家でなくとも直せる範疇の軽いものだ。
「何とかなったなぁ。ボクの手先の器用さのおかげかなぁ?」
「……機導というのも、あちらの機械と同じで複雑ですね……難しいです」
「いや、助かったよ。俺一人じゃ、面倒な修理だった」
未だに石壁が冷えて冷気の残滓が残る部屋の中、ザレムが起動のスイッチを押せば、原動機はようやく重低音な復活の声を上げた。これで、門横のレバーを引けば、原動機の起動と共に門が自動で開閉するはずだ。
「おい、あったぞ隙間」
「お、見つけたか。済まないな、最後まで」
部屋の隅、石壁に大き目の隙間がぽっかりと開いている。何故気づかなかったかとウィンスが文句を言うも、兵長はもう謝ることしか出来ない。
そしてタチバナが持ってきたセメントのようなものを穴に流し込めば、ようやく今回の騒動は収束を迎える。
「兵長も上等兵も、協力ありがとうございました」
ザレムの言葉に、兵長は大きく首を振った。
「いやいや、君らが来てくれなかったら、俺もタチバナも首が飛んでたかもしれん。感謝するのはこちらの方だ」
もっとも、タチバナの責任はでかいがと、兵長は小さく呟きを残す。
そのタチバナは、素知らぬ顔で部屋の隅に突っ立っている。彼女が減給と解任、降格を言い渡されるのは、今から三日後の事だ。
●
門は開く。重々しい音を立て、ゆっくりと。
ハンター達は、それを感慨深げに見守っていた。
「くれぐれも、皇帝陛下の御前で粗相の無いように! 特に貴公!」
アウレールは、タチバナを力強く指差す。当の本人は無表情で彼を見てもいなかったが、皇帝に絶対の忠誠を誓う者として、言っておかねばならなかったのだ。
元第二師団長だった先帝が最後に通った門は、ようやくその重い口を開けた。異世界の兵器を扱う大規模な実験、その先に平和が待っているのか、まだ誰も知らない。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/01 07:34:35 |
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作戦相談 ヒース・R・ウォーカー(ka0145) 人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/12/03 09:25:32 |