• 虚動
  • 戦闘

【虚動】門と無能と冷たさと

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2014/12/03 22:00
リプレイ完成予定
2014/12/12 22:00

オープニング

「……門が、開かない?」
 第二師団都市カールスラーエ要塞の東門、帝国からノアーラ・クンタウを越え辺境に至る道へと繋がるその大扉は、ここ数年の所、開ける必要性が存在しなかった。先帝が失踪して以来、辺境との大規模な交流が行われることは少なくなっている。そのため、大扉に据えられた小さな通用口で全て事足りていたからだ。
 しかしこの度、辺境のマギア砦南の沿岸部にて、西方世界各国の代表が集まる大規模な実験が行われることとなった。それに際して、帝国内からも様々な人員、物資がここ、カールスラーエ要塞を介し辺境へと送られることになっている。
 そして、その人員の中には、現帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)も含まれていた。つまり、
「はっ、大扉の開閉機構が機能していないようであります!」
 ガチャガチャと、大扉を開閉するために存在するはずのレバーを上下しても、うんともすんとも言わないこの現状は、非常にまずいということだ。
「……ここの管理は、貴様に一任されてたはずだな?」
 都市内防衛小隊第三部隊「ティーガー」の隊長であるラディスラウスは、岩のような体躯を丸めて頭を抱える。
「はっ、一任されていたという情報を自分が知ったのは、つい先程であります!」
 同じく第四部隊「ドラッヘ」の隊長である小柄な女性、タチバナは、ビシッとした陸軍式の敬礼と共に、よく通る腹式の発声で堂々とそうのたまった。
「……はぁ?」
 途端に、ラディスラウスの精悍な面持ちがぽかんと間の抜けたものになる。
「いやいや待て待て、職務内容は配属されたと同時に通達があったはずだが……いや、貴様の配属は一年前だったな。あのクソ女が団長だった頃ってことは、あいつのせいか!」
「はっ、そうではありません! 着任当時、団長であったそのスザナ・エルマン殿により職務の説明を拝受したのでありますが、その時間が早朝でありまして、恥ずかしながら朝に弱い自分は何も頭に入っていなかったのであります!」
 ラディスラウスは、またしても呆気にとられるよりなかった。言葉が出てこない。突っ込みどころは多々あろうが、もう何を言っていいのか分からない。
「ま、まあ過ぎたことはいい。貴様の処遇は後から決めるとして……動力は機導だろ? 管理は貴様の仕事だ、早く直してくれ」
 なので、諦めて話を進めることにする。
「はっ、自分には無理であります!」
「……ええー」
 そして返ってきた答えは、想像を遥か下に行くものだった。
 ため息とともに漏れた情けない音は、今の彼の心境を的確に表している。しかしタチバナは、彼のその様子を見ても、自分が原因だと思っていないかのようにポーカーフェイスを一切崩さない。
「無理って、貴様が管理を任されたんだ、なら任されるだけの技術を持ってるんじゃないのか!」
「はっ、自分は猟撃士でありまして、銃器の取り扱いには自信があるのでありますが、機導のことは門外漢であります! 先程お会いしたスザナ・エルマン副団長の言によれば、『銃が使えるなら、機械はお手の物ですわよね』とのことであります!」
 もう一度スザナの名前が出た瞬間に、ラディスラウスの表情が、嫌いなものを間違って口にしてしまった時のように歪む。
「あいつに会ったのか……」
「はっ、先程壁外より帰還しましたスザナ・エルマン副団長に相談した次第でありますが、そのお言葉以外は頂けませんでした!」
 ラディスラウスは、あの無能がと吐き捨てて眉間を押さえる。
 副団長が、こんな早朝に外へ出ていた。その点に関してはいつものことだ。おおよそいつも通り、近寄ってきた亜人の匂いでも嗅ぎとって、派手な殺し合いを演じてきたのだろう。
 だが副団長は、明らかに適当な助言しかしていない。どうせ、戦闘欲を満たして気分のいい時に、扉のことになど微塵も興味を持てなかったのだ。現に、この門の前には未だに二人の影しか無い。スザナがこれを大した問題と考えていない証左だ。どう考えても、この件を誰にも伝えていない。
 やはり、本能のままにしか動けない人間が上に立つべきではない。
「……機関室の様子は見たのか?」
 とはいえ兎にも角にも、扉を直す方法を考えるしか無い。大事になる前に解決できるなら、それに越したことはないだろう。
「はっ、何やら、雑魔のようなものに占拠されているようであります!」
 そして、本日最大の信じられない言葉が、ラディスラウスに降りかかった。



 薄暗い通路の先、ひっそりと佇む両開きの鉄扉に急いで手を掛ける。その手に異様な冷たさを感じながらもガチャリと開いてみれば――全身に、ぶにょりと柔らかい何かがぶつかった。
「うぷぉあっ! 何だこれ!」
 途端に、通路全体を凍りつくような冷気が満たしていく。
 ラディスラウスは咄嗟に飛び退って、その感触の元に目をやった。
「はっ、このように、機関室及び原動機は完全に歪虚の手に、いえ、体に落ちているであります!」
 扉の先にあったのは、無味乾燥とした灰色の部屋ではなかった。海水を固めたような、青色の何かだ。目を凝らせばそれは常時ぷるぷると震えていて、半透明な青の向こうには、扉の開閉を行うための原動機が鎮座している。
「何でこれを真っ先に言わないんだ!」
 ラディスラウスがツバを飛ばし問いかければ、
「はっ、聞かれなかったからであります!」
 極めて冷静な表情でタチバナは答える。
 その頭をぶん殴ってやりたい衝動は、何とか抑えこむことに成功した。今は、そんなことをしている場合ではない。
 これが何で、どこから入ったかなど今はどうでもいい。まずどうするかを考えるべきだ。門を開くべき時はすぐそこまで迫っている。時間は少ない。しかし上の人間は、迫る辺境での任務に向けて忙しく、頼るべきではないと判断する。
 案件の規模によって、動員する人員を厳選する。都市内防衛小隊には、それくらいの権限は与えられていた。
「タチバナっ! ハルクス副団長とあの女以外ならどこからでもいい、機関室をぶっ壊して解決しないような、力があって頭の回るやつ連れて来い!」
「はっ、それは第二師団員以外、という解釈でよろしいのでしょうか!」
「その通りだよちくしょう!」

 そうしてタチバナは、ハンターズオフィスへ走って行った。ぷよぷよした何かを取り除き、第二師団の面目を保つために。
 そして彼女を待つ、減給三ヶ月と隊長の解任、上等兵から一等兵への降格という運命を、知らないままに。

解説

●概要
 スライム状の歪虚から、機関室を取り戻せ!

●敵
 一部屋まるごと埋め尽くすほどの、スライム状の歪虚です。表面はかなり冷たく、また、攻撃を仕掛ければ、触手を伸ばし対象を体内に取り込もうとする、氷柱を飛ばす、体を切り離して小さなスライムを作り出すなどの反応を返します。
 スライムはナタデココのような弾力を持っています。しかし、素手で千切れるほど柔らかい訳でもありません。斬撃は普通に通りますが、ただの切創ならば直ちに回復してしまうでしょう。
 ちなみにスライムは、部屋の壁を構成する石の小さな隙間から一年掛けて入り込んできた頑張り屋さんです。

●場所
 第二師団都市カールスラーエ要塞を取り囲む、石造りで分厚い外壁の内部に張り巡らされた、細い通路の一角です。通路、機関室の扉共に、縦横2~3メートル程の広さです。機関室の内部は、通路よりも大きく作られています。
 スライムの影響で通路の気温はかなり下がっており、薄着のままでいれば行動の阻害を受ける可能性があります。

●NPC
 ラディスラウス・ブラウンシュバイク兵長
 ガッチリとした体格の闘狩人。第二師団において数少ない良識派。戦闘力においては団内トップクラスだが、脳筋なのは否めない。
 現団長が来るまでは、団内で一番身長が高かった。追い抜かれたことをひっそり気にしているらしい。

 ハナ・タチバナ上等兵
 リアルブルー出身者で、元自衛隊三等陸尉。小柄な猟撃士。一見真面目で有能だが、命令以上のことを一切せず、そもそも話を聞いていないことも多々ある駄目人間。しかしその高い戦闘能力を買われて、人員不足の波に乗り今の地位にのし上がった。
 上官以外には尊大な態度を取るので、取り扱いには注意が必要。

●補足
 NPCの二人は、人手が必要なら好きに使ってくれて構いません。邪魔だからどいといて!でも大丈夫です。彼らに声を掛ければ、道具の調達も可能です。

マスターより

今回の大規模連動にも、頑張って参加していきますT谷です。

第二師団は、下っ端ばかりが大量に存在する現状です。なので、能力のある人間をとりあえず高い地位に据える傾向にあります。お試し感覚で役職がコロコロ変わる面倒な職場です。復興中だから仕方ないのです、たぶん。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2014/12/12 17:46

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 私の話を聞きなさい
    Luegner(ka1934
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/01 07:34:35
アイコン 作戦相談
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/12/03 09:25:32