ゲスト
(ka0000)
【反影】蒼天のヘヴンズドア ステージ1
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/01/25 22:00
- 完成日
- 2018/02/08 00:43
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)がその異界を訪れたのは、本当に単なる偶然だった。
大規模なグラウンド・ゼロへの調査が始まり、並行して周囲に展開された異空間の調査。
その記録係として、ハンターでもあるその立場から同行する話がやってきたのである。
いつものように依頼を出して、顔合わせをして、異界へ足を踏み入れた彼女らの前に広がっていたのは――だだっ広い、建物の廊下。
クリムゾンウェストの中近代的なそれではない、リアルブルーのそれに近い現代的な、どこか大きなホールのような場所だった。
この光景、見たことがある……いや、ない?
そこはかとない既視感を覚えて、ルミはぼんやりと辺りを見渡しながら通路をハンター達と一緒に歩き進んでいた。
しばらく散策をしているうちに――不意に大勢の人々の歓声?雄たけび?叫び?、そんな声と一緒に、ビリビリと建物全体が震えるのを感じる。
突然、ルミは慌てて何かを探すように周囲を見渡した。
そして傍らの電光ボードに流れる「催し物リスト」を見つめると、さぁっと顔を蒼白にして、弾かれたように駆け出していた。
そこには、次のように書かれていた。
――「Inferno」HEAVENS DOOR LIVE TOUR in LH044
全力疾走のその背中を、ハンター達は慌てて追いかける。
彼女は緩やかに螺旋した階段を駆け上り、その建物の中で一番大きな扉のノブに飛びつくと、一思いに開け放った。
肌を焦がさんばかりの熱気を纏って、爆音が解き放たれる。
薄暗い巨大なホールの中には、もうもうと巻き上がるスモーク。
色とりどりのサイリウムがそこら中で波を作り、それらを導くように重厚なギターやドラムの音が鼓膜から全身を奮い立たせる。
ぎゅうぎゅう詰めの人々から放たれる、ちょっと酸っぱい汗の香りを鼻先に感じながら、見上げるステージの上ではスポットライトを浴びた少女達が、握りしめたマイクに向かって叫んでいた。
「――こんなトコまでよく来たな、てめぇら! 雁首揃えて今日はとことん、あの世の先の先まで付き合って貰うぜ……!」
ギターを抱える、おどろおどろしいメイクをしたゴシパンファッションの少女が、天高くピックを掲げる。
振り下ろされたそれが弦を打ち鳴らしたその瞬間、あふれ出たパッションが観ている者たちの脳髄を激しく震わせていた。
「……カナデ」
遠巻きに見上げながら呟いたルミは、突然観客の中へと飛び込んでいく。
「カナデ……みんなッ!」
迷惑など顧みず、彼女は人垣を押し分けてステージを目指す。
すると流石にパフォーマンスの際中であっても辺りの観客にどよめきが走り、同時にステージ上の少女達にもその姿が目に入った。
「えっ、ル……ルミ……ちゃん……?」
突然の闖入者に首をかしげるベースとドラムの娘とうってかわって、大きく目を見開いて立ち尽くすギターの少女。
その頬にジワリと涙の痕がにじむと、マイクスタンドをなぎ倒して客席へと飛び降りていた。
「ルミちゃん……ルミちゃん……っ!」
「カナデ……ほんとに!? みんなも……!」
ホールのど真ん中で、泣きながらがっしりと抱き合う。
「ルミちゃん、ど、どうしてここに……!?」
「それはこっちのセリフ! 何ここ……わけわかんない!」
ぐちゃぐちゃの顔で見つめ合って、夢にまで見た再会を喜び合う2人。
しかしカナデと呼ばれた少女がハッとしてメイクが崩れるのも気にせず涙をごしごしと拭うと、ルミの肩を両手で強く掴んだ。
「ルミちゃん! だ、ダメ……早く、ここから出ないと!」
「えっ……カナデ、何を言って――」
彼女の腕に触れようとして、ルミはビクリとその手を引き留める。
遠目には黒のロンググローブをしているようにも見えたカナデの両腕――それは皮膚そのものが真っ黒に高質化した、茨のような姿の異形の腕だったのだ。
「カナデ、これ……」
戸惑うルミを、彼女ははばからずに揺すりながら声を張り上げる。
「お、思い出して……! 今日、この日……ここで何があったのか!」
カナデの言葉に、ルミの頭の中が一瞬真っ白になる。
そして、その新品のキャンバスを塗りたくる真っ赤な液体が、頭上から勢いよくぶちまけられるような記憶を思い起こしていた。
会場の空気を変えたのは、大きな大きな爆発音。
そして地震のような振動と共に崩れ落ちた天井と、そこから覗く「外」の様子だった。
分厚い殻を持った異形のバケモノ達が頭上の窓を幾重にも横切って、その後を追うようにライフルの引き金を絞る機動兵器――CAMが飛び交う。
その先に映るコロニーの街並みでも、いたる所で爆炎や閃光が網膜に焼き付く。
やがて「窓」から大量の異形――VOIDがホール内へとなだれ込んでくると、それまで響いていた歓声は悲鳴へと変わっていた。
大小さまざまな歪な形の腕が、爪が振るわれて、その度に赤いサイリウムが宙に煌めく。
何の力も持たない人々の命を、彼らはいとも容易く踏みにじり、切り裂き、噛み砕き、蹂躙する。
当然ハンター達は即座に己の獲物を抜き放ち、VOID達へ刃を翻した。
確かな手応えと共に敵が負のマテリアルとなって散っていく姿を前に、少なくともこれが夢でも幻でもないことを肌で理解する。
「はやく! まだ間に合う……!」
「だ、大丈夫よカナデ。あたし、力を手に入れたんだから……!」
ルミが放った雷撃が、飛翔する小型のVOID達を纏めて貫く。
その姿を見て驚きを隠せないカナデだったが、すぐにわなわなと肩を震わせて激しく首を横に振った。
「違う、違うの……アイツは、ダメ……ッ!!」
その時――激しいハウリングのような不協和音が人々の、ハンター達の、そしてルミの耳を貫いた。
次いで響いた老若男女とも問わない数多の叫び声が、膨大な音の塊となって脳みそを激しく揺らした。
思わず顔を顰めて耳を塞ぐが、まるで聴覚神経に直接響いているかのようにその叫び声はかき消されない。
思わずよろめいて膝を折った視線の先に、ぼうっと光る1体の歪虚の姿があった。
「何……あれ……?」
巻貝のような殻の中で光る、あれは……赤ん坊?
それは人々を襲うでもなく、ただそこに存在だけするように宙を漂う。
あんな歪虚、ルミの記憶にはない。
少なくとも……あれ……記憶?
その時、ふと耳を塞ぐのも忘れて、ルミはふらりと立ち上がって辺りを見渡した。
ルミだけではない。
共にこの襲撃に抗っていたハンター達もまた、惚けたように周囲の景色をぐるりと見やる。
何だろうここ……どうして自分はこんな所にいるの?
あの生き物は……ナニ?
この人たちは……ダレ?
――自分はナニと、どうして戦っているノ?
そんな彼女らの姿を前にして、カナデは再び泣き出しそうな表情で、奥歯を強く噛み締めていた。
大規模なグラウンド・ゼロへの調査が始まり、並行して周囲に展開された異空間の調査。
その記録係として、ハンターでもあるその立場から同行する話がやってきたのである。
いつものように依頼を出して、顔合わせをして、異界へ足を踏み入れた彼女らの前に広がっていたのは――だだっ広い、建物の廊下。
クリムゾンウェストの中近代的なそれではない、リアルブルーのそれに近い現代的な、どこか大きなホールのような場所だった。
この光景、見たことがある……いや、ない?
そこはかとない既視感を覚えて、ルミはぼんやりと辺りを見渡しながら通路をハンター達と一緒に歩き進んでいた。
しばらく散策をしているうちに――不意に大勢の人々の歓声?雄たけび?叫び?、そんな声と一緒に、ビリビリと建物全体が震えるのを感じる。
突然、ルミは慌てて何かを探すように周囲を見渡した。
そして傍らの電光ボードに流れる「催し物リスト」を見つめると、さぁっと顔を蒼白にして、弾かれたように駆け出していた。
そこには、次のように書かれていた。
――「Inferno」HEAVENS DOOR LIVE TOUR in LH044
全力疾走のその背中を、ハンター達は慌てて追いかける。
彼女は緩やかに螺旋した階段を駆け上り、その建物の中で一番大きな扉のノブに飛びつくと、一思いに開け放った。
肌を焦がさんばかりの熱気を纏って、爆音が解き放たれる。
薄暗い巨大なホールの中には、もうもうと巻き上がるスモーク。
色とりどりのサイリウムがそこら中で波を作り、それらを導くように重厚なギターやドラムの音が鼓膜から全身を奮い立たせる。
ぎゅうぎゅう詰めの人々から放たれる、ちょっと酸っぱい汗の香りを鼻先に感じながら、見上げるステージの上ではスポットライトを浴びた少女達が、握りしめたマイクに向かって叫んでいた。
「――こんなトコまでよく来たな、てめぇら! 雁首揃えて今日はとことん、あの世の先の先まで付き合って貰うぜ……!」
ギターを抱える、おどろおどろしいメイクをしたゴシパンファッションの少女が、天高くピックを掲げる。
振り下ろされたそれが弦を打ち鳴らしたその瞬間、あふれ出たパッションが観ている者たちの脳髄を激しく震わせていた。
「……カナデ」
遠巻きに見上げながら呟いたルミは、突然観客の中へと飛び込んでいく。
「カナデ……みんなッ!」
迷惑など顧みず、彼女は人垣を押し分けてステージを目指す。
すると流石にパフォーマンスの際中であっても辺りの観客にどよめきが走り、同時にステージ上の少女達にもその姿が目に入った。
「えっ、ル……ルミ……ちゃん……?」
突然の闖入者に首をかしげるベースとドラムの娘とうってかわって、大きく目を見開いて立ち尽くすギターの少女。
その頬にジワリと涙の痕がにじむと、マイクスタンドをなぎ倒して客席へと飛び降りていた。
「ルミちゃん……ルミちゃん……っ!」
「カナデ……ほんとに!? みんなも……!」
ホールのど真ん中で、泣きながらがっしりと抱き合う。
「ルミちゃん、ど、どうしてここに……!?」
「それはこっちのセリフ! 何ここ……わけわかんない!」
ぐちゃぐちゃの顔で見つめ合って、夢にまで見た再会を喜び合う2人。
しかしカナデと呼ばれた少女がハッとしてメイクが崩れるのも気にせず涙をごしごしと拭うと、ルミの肩を両手で強く掴んだ。
「ルミちゃん! だ、ダメ……早く、ここから出ないと!」
「えっ……カナデ、何を言って――」
彼女の腕に触れようとして、ルミはビクリとその手を引き留める。
遠目には黒のロンググローブをしているようにも見えたカナデの両腕――それは皮膚そのものが真っ黒に高質化した、茨のような姿の異形の腕だったのだ。
「カナデ、これ……」
戸惑うルミを、彼女ははばからずに揺すりながら声を張り上げる。
「お、思い出して……! 今日、この日……ここで何があったのか!」
カナデの言葉に、ルミの頭の中が一瞬真っ白になる。
そして、その新品のキャンバスを塗りたくる真っ赤な液体が、頭上から勢いよくぶちまけられるような記憶を思い起こしていた。
会場の空気を変えたのは、大きな大きな爆発音。
そして地震のような振動と共に崩れ落ちた天井と、そこから覗く「外」の様子だった。
分厚い殻を持った異形のバケモノ達が頭上の窓を幾重にも横切って、その後を追うようにライフルの引き金を絞る機動兵器――CAMが飛び交う。
その先に映るコロニーの街並みでも、いたる所で爆炎や閃光が網膜に焼き付く。
やがて「窓」から大量の異形――VOIDがホール内へとなだれ込んでくると、それまで響いていた歓声は悲鳴へと変わっていた。
大小さまざまな歪な形の腕が、爪が振るわれて、その度に赤いサイリウムが宙に煌めく。
何の力も持たない人々の命を、彼らはいとも容易く踏みにじり、切り裂き、噛み砕き、蹂躙する。
当然ハンター達は即座に己の獲物を抜き放ち、VOID達へ刃を翻した。
確かな手応えと共に敵が負のマテリアルとなって散っていく姿を前に、少なくともこれが夢でも幻でもないことを肌で理解する。
「はやく! まだ間に合う……!」
「だ、大丈夫よカナデ。あたし、力を手に入れたんだから……!」
ルミが放った雷撃が、飛翔する小型のVOID達を纏めて貫く。
その姿を見て驚きを隠せないカナデだったが、すぐにわなわなと肩を震わせて激しく首を横に振った。
「違う、違うの……アイツは、ダメ……ッ!!」
その時――激しいハウリングのような不協和音が人々の、ハンター達の、そしてルミの耳を貫いた。
次いで響いた老若男女とも問わない数多の叫び声が、膨大な音の塊となって脳みそを激しく揺らした。
思わず顔を顰めて耳を塞ぐが、まるで聴覚神経に直接響いているかのようにその叫び声はかき消されない。
思わずよろめいて膝を折った視線の先に、ぼうっと光る1体の歪虚の姿があった。
「何……あれ……?」
巻貝のような殻の中で光る、あれは……赤ん坊?
それは人々を襲うでもなく、ただそこに存在だけするように宙を漂う。
あんな歪虚、ルミの記憶にはない。
少なくとも……あれ……記憶?
その時、ふと耳を塞ぐのも忘れて、ルミはふらりと立ち上がって辺りを見渡した。
ルミだけではない。
共にこの襲撃に抗っていたハンター達もまた、惚けたように周囲の景色をぐるりと見やる。
何だろうここ……どうして自分はこんな所にいるの?
あの生き物は……ナニ?
この人たちは……ダレ?
――自分はナニと、どうして戦っているノ?
そんな彼女らの姿を前にして、カナデは再び泣き出しそうな表情で、奥歯を強く噛み締めていた。
リプレイ本文
激しいノイズサウンドにハンター達は一時、辺りの状況もはばからずに表情を歪ませ、身を抱え込むほかなかった。
「これ……LH044って……なん、で?」
天井の窓から覗くコロニーの光景に、天王寺茜(ka4080)の意識の中であの日の悪夢が呼び覚まされる。
飛び散る赤。
異形の怪物。
それはシェリル・マイヤーズ(ka0509)も同様のこと。
でも、だからこそ彼女は逆に心を冷たく静めていく。
「できるだけ散らばらないで……互いに、互いを護るんだ……!」
キヅカ・リク(ka0038)の声に、咄嗟に近場の者同士で身を寄せ合った。
音と悲鳴と断末魔の響く戦場で、迫りくるVOID達から互いにかばい合うように対峙する。
「この音……ただの音……? いや、だけどアイツから……!」
ふと、ジュード・エアハート(ka0410)が戦場の中央で浮遊する1体のVOIDOを指差す。
が、混濁する意識の中でふらりと身体が揺れて、咄嗟にその肩をエアルドフリス(ka1856)が支えていた。
「大丈夫かジュード……! ジュー……ド?」
初めて口にしたような感覚に、思わず口ごもる。
何が起こっているのかも分からないまま、何か大事なものを失っていくような……その感覚だけが、虫唾が走るように身体と脳を侵食していく。
「ヤロウ……叩き潰すか!?」
「待ってください、1人じゃ危険です……!」
歯を食いしばって大斧を構えたボルディア・コンフラムス(ka0796)をルナ・レンフィールド(ka1565)が思わず止める。
何かが分かりそうで分からない。
もどかしさの中で、だけど歌だけはハッキリと聞こえて――
「歌……?」
弾かれたように視線を向けたその先で、ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)が独り悪夢の中で歌を紡いでいた。
それは歌としてでなければ言葉を発せない彼女にとっては、当たり前のこと。
戦場においては当たり前であるはずがないその行為が、頭の中のもどかしさの穴を埋めていく。
「歌……そう、歌だ……」
ふとジュードが口にして、ハッとする。
嗚咽、悲鳴、絶叫――違う、旋律だ。
このノイズにはメロディがある――
――そこで、パチンと意識が弾けた。
それは暗闇で蝋燭の火を吹き消したかのように、突然のことだった。
なんだ……どこだ、ここ?
スープのようにドロドロとかき回されていた意識が、少しずつ、少しずつ形を成していく。
ようやくそれを「自我」として認められるようになったころ――大きな悲鳴がホール一帯に響き渡っていた。
「いやぁぁぁあああ!!」
肩を抱いて、咄嗟に床に崩れ落ちる茜。
見開かれたその翡翠色の瞳には、虫とも甲殻類とも似つかない、異形のバケモノの姿があった。
「うらぁぁぁ!!」
ズドンと大きな音がして、異形の身体が真っ二つに割れる。
その先に大きな斧を握り締めたボルディアの姿があって、少女は余計に怯えたように彼女の事を見上げていた。
「くそっ、なんだここは……何をしてんだ俺は」
頭を掻きながらギラついた瞳を少女へと下すと、手にした斧を軽々と肩に担ぎあげる。
「答えろ、おまえは俺の敵か!」
「いっ……いえ、戦うつもりはない……です」
「そうか。じゃあ、とりあえずは殺さねぇ」
彼女の視線が逸れると、茜はほっと胸を撫でおろす。
しかし、その背後に別の怪物の影が見えて咄嗟に声を上げた。
「危ないっ!」
その言葉に応じるようにして、怪物の横っ腹に大きな盾を構えたリクが体当たる。
彼は崩れ落ちた異形の身体に飛び乗ると、抜き放った剣を突き刺した。
「君たちは何者だ……!」
「それが分かったら苦労してねぇよ。おまえこそ、俺の敵か?」
ボルディアと裏腹に、茜はふるふると首を横に振る。
リクは銃で空中の敵を打ち落とすと、先ほど仕留めた個体に刺さったままの剣を抜き取って鞘へと納めた。
「そうでないことを祈るよ……見たところ手に負えなさそうだ。そっちの子は立てる?」
「あっ、ありがとう……って、あれ」
差し出された手を取ろうとして、伸ばしかけた茜の手がふと止まる。
リクは不思議がって、彼女の表情を伺った。
「どうかした?」
「いえ、その……リボンが同じだなって」
言われて、彼もまた腕に巻き付けた黄色いリボンの存在に気付く。
見ると、ボルディアの腕にもまた同じリボンが巻いてあって、思わず顔を見合わせた。
「他にも同じ人がいるかもしれないね……もしそうなら、少なくとも僕らは敵じゃない」
「探しましょう! 仲間は多い方が心強いですし……あなたは?」
茜の言葉に、ボルディアも完全には納得しきっていない様子ではあったが頷く。
「少なくとも、自分が何者か分かるまではな。ああくそっ、この耳障りな音はなんなんだ」
吐き捨てるように口にした彼女を連れて、3人は同じ黄色のリボンを探して戦場を駆ける。
頭が痛い……それは延々と頭の中に響いている歌のせい……?
「あれを倒せば、きっと……」
ジュードは手になじむロングボウの柄を握り締めると、手早く矢を番えて視線の先の“巻貝”へ狙いを定める。
直後、それまでふよふよと滞空しているだけだった巻貝が淡い光に包まれた。
光の中に見えるのは、身を丸くして眠る胎児の姿。
その瞳がカッと見開かれたかと思うと、光がまるで鞭のように四方八方へと細く伸び、一斉に彼へ向けて放たれる。
「うわっ……!?」
咄嗟に飛びのくが次、また次と、絶えず攻撃が彼を攻め立てて、次第に焼け付くような痛みが肌に走る。
「伏せてっ!」
叫び声にはっとしてその身を屈めると、銃声が頭上に響いて巻貝の身体が大きく揺れた。
そのまま興味を失ったようにふわりと喧騒の奥へと飛んでいくのを見送って、銃声の主――シェリルが駆け寄る。
「大丈夫……?」
「ありがとう……助けてくれたって事は、敵じゃないってことかな」
「分からない。でも、あの巻貝は敵……だと思う」
敵の敵なら味方なのか――戦場じゃ不躾な理論かもしれないが、今はそれでいい。
心を落ち着かせるように、どこで聞いたのかも分からない子守歌を口ずさむシェリル。
無意識に握り締めた胸のドッグタグは、物言わず冷たかった。
「助けて、くれ……」
嗚咽に似た低い言葉を受けて、ティアンシェはどうしたら良いか分からず、ただ手を差し伸べることしかできなかった。
腹に大きな穴が開いた彼は助かることはない。
だからせめて、最期が少しでも安らかであればと……迫る異形の爪も目にくれず、歌を歌うことだけが彼女の全てだった。
「やぁっ!」
飛び出したルナの腕が振り上げられた爪を乱暴に払う。
そして敵がよろめいたうちに、ティアンシェの肩を抱いてその場から走り去った。
「大丈夫? どうして歌を……?」
「分かりません。私には、それしか……」
その答えに、ルナは思わず目を丸くする。
「……分かる。私もなんでか歌わなきゃって、そう思ったの。でもなぜか上手くできなくて――」
握り締めたリュートを小さく爪弾く。
それは頭に響く狂音を振り払うかのように……だが、狂音はあまりにも強すぎる。
ただルナは気が狂いそうなその音にあえて耳を傾け、歌の正体へ迫ろうと必死だった。
でも分からない。
どうして、この歌はこんなにも――“旋律が一定でない”の?
延々同じメロディーを繰り返しているはずなのに、毎回毎度、音が微妙にズレている。
それに気を散らされて、上手く対抗するほどの音が奏でられないのである。
それはまるで嗚咽に塗れた歌のようで……胸がぎゅっと締め付けられる。
そうこうしている間に、さきほどの異形が奇声を発しながらこちらへ向かって来る。
その横っ面を数発の銃弾が貫いて、敵は足をもつれさせながらパイプ椅子に突っ込んだ。
「あんたら! 自分の身は守れるか!?」
エアルドフリスが銃を手に叫ぶと、ルナは曖昧に頷いて小さな杖を握り締める。
その武器を見て、彼は苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せた。
「くそっ……やるしかないか」
覚悟を決めて、そのまま動けぬ相手に2発、3発と銃弾を撃ち込む。
しかし敵はひるんだ様子もなく歪に身体を揺らしながら立ち上がると、その鎌爪を大きく振るう。
咄嗟にスタッフで受け止めるも、ズシリとした重圧に全身が悲鳴をあげるかのようだった。
「うらぁぁああ!!」
不意にズドンとけたたましい音が響いたかと思うと、異形の巨体が真っ二つになって地面を転がる。
「よかった、他にもいた!」
地面に突き刺さった斧を握り締めるボルディアの影から飛び出したリクが、エアルドフリスの腕に巻かれたリボンを指差して、自分のそれと示し合わせた。
「これは、何なんだ?」
「分かりませんけど、何かの集団の印だろうって。あっ、そっちの2人も!」
ルナとティアンシェにも同様の印を見つけて、茜が顔を綻ばせる。
「6人、これで全部か?」
ボルディアの問いにエアルドフリスは首を振った。
「どうだろう。我々も、たまたま行き会っただけだからな――」
その時、不意にザザーっと床の上に砂をぶちまけたような音が響いた。
咄嗟に辺りを見渡すと、それぞれの腰に付けた小型の通信機から少女の言葉が響く。
『……もし、これが聞こえてる人がいたら……ステージの方で、誰か襲われて……印は……リボン……』
誰とも知らぬ人物からのメッセージ。
それが意図するものを理解した彼らは、燦々とスポットライトの照らされる舞台の方へと駆けだしていた。
「はやく……こっちに!」
銃声の響く中で、シェリルが眼前の2人へと小さな手を伸ばす。
長い髪の少女――ルミの肩を支えて歩かせるショートカットの少女がその手を取ると、シェリルはザワリとその背に悪寒を感じた。
少女の手は、とても自分のそれとは似つかない異形の腕だったのだ。
「その子、手……ううん、今はまずこっち!」
ジュードの銃口は、眼前に迫る巻貝の方へと向けられる。
迫りくる触腕を打ち落としながら退避するが、それはジュードらへ向けられたものというよりは、保護した2人の少女の方を狙っているようにも見えた。
「連絡をくれたのは君たちだね……!」
トランシーバーとリボンを掲げながら合流したリク達に、シェリルはほっと表情を綻ばせる。
「とにかく引くぞ! 今の状況で、どうこうできる相手じゃない!」
牽制の銃弾を放ってエアルドフリスが叫ぶ。
銃器を持つ者は同様に敵の足を止めさせながら、一同はその場を駆け出していた。
「あたし、なんでこんな所……分かんない。でも、怖い……頭が割れそう……」
「大丈夫……無理をしないで」
ガタガタと震えるルミの背中を、ティアンシェは落ち着かせるように優しく撫でる。
その姿を見て、ショートカットの少女は辛そうに視線を落としていた。
「君はいったい誰……ううん、何者?」
「返答次第によっては……」
問いかけたジュードの言葉には、一抹の不安も交じっていた。
一方で強い敵意を込めたボルディアをリクが優しく制して、少女へ言葉を促す。
「どうしてこんな所に……? う、ううん、聞いたって無駄なことは知ってるけど……で、でも、なんで……ルミちゃんが……」
「あなたは、この状況を“理解”してるの……?」
ルナの言葉に、彼女は怯えながら小さく首を縦に振る。
「だったら教えろ、ここは何なんだ。どうして俺たちはこんな所で戦ってるんだ。お前は……何者だ?」
「わ、私は、カナデと言います。自分が何者かは……ご、ごめんなさい、分からないんです。気づいたらこんな姿で……で、でも、人間です。信じてください! お父さんとお母さんがいて、ルミちゃんとも親友で……!」
カナデと名乗った少女は1つ1つ、たどたどしい口調で答える。
「“ルミちゃん”っていうのは、あなたのことですか……?」
問いかけるティアンシェに、ルミもまた苦しそうに頭を抱えた。
「この音……止めることはできないのですか?」
これがあるからみんな苦しんでいる。
だから止めることさえできれば――だが、頼みの綱であろうカナデは身体を小さくしてそわそわと辺りを見渡すだけだった。
「追い付いてきたよ! とにかく、ここから逃げよう!」
ジュードが指す方向から、ゆったりとした速度で光る巻貝が迫って来るのが見える。
「脱出……そう、脱出しないと! でも、どうやって!?」
「そ、それなら出口まで案内できます……!」
辺りを見渡す茜に、カナデは弾かれたように顔をあげて会場の外を指差す。
「なら、他の人たちも連れて――」
未だ阿鼻叫喚の人々を振り返っていたエアルドフリスだったが、カナデは激しく首を振った。
「む、無駄です! 無駄なんです……ううん、自分達の命を優先してください!」
鬼気迫る勢いの彼女に、ハンター達は有無を言わされず頷くしかなかった。
会場を出て、廊下を一目散に駆ける。
はめ込み式の窓から見える外の世界は入り乱れる化物と巨大な機械人形、そして火の海。
「あそこから出てください! それできっと助かるはず……ですから」
やがて正面の大きなゲートの前に到着すると、カナデはゆっくりと立ち止まった。
「き、君は……!?」
驚いて振り返ったリク達だったが、彼女は静かに首を振る。
直後、壁が破壊されて大量の異形たちがと廊下へと溢れ出す。
それを見て、茜が咄嗟に手を伸ばした。
「はやく、あなたもこっちに!」
だが彼女はそれを取らずに泣きはらした目で微笑んで、小さく手を振った。
「私は大丈夫……そしてできれば二度と――」
――ここには、来ちゃダメです。
頑なに動かない彼女に、ハンター達は後ろ髪を引かれながらもゲートの外へと走り出す。
「もう持たない……行こう……!」
銃で敵の足を止めるシェリルに腕を取られて、引きずられるようにして外へと脱する茜。
最後に見えたのは、スカートの裾を握り締めるカナデ。
そして、彼女に飛び掛かる数多の牙と爪の鈍い輝きだった。
その瞬間、まばゆい閃光が彼らの視界を包み込む。
何も見えない、何も聞こえない。
あの音も、聞こえない。
……そうだ、自分達は異空間調査のためにこの世界に入って来て、それで――
――進んだ先でパッと視界が開けて、一面の荒野が目の前に広がっていた。
後ろには負のマテリアルでできたドーム状の塊が渦巻いていて、ここから出て来たのだという事実だけを告げる。
記憶が戻っている。
記憶がなかった事も覚えている。
その間、自分達がどこで何をしていたのかも。
「なんなんだ、あの歪虚は……ジュードのことまで忘れるとは」
「仕方がないよ……でも、考えられることはいくつかありそうだ」
ジュードに寄り添われながら頭を抱えるエアルドフリスの傍で、リクの視線が呆然とするルミの横顔を捉える。
「あの歌……どうして……?」
ポツリと呟いた彼女の声が、ただ荒野に虚しく響いていた。
「これ……LH044って……なん、で?」
天井の窓から覗くコロニーの光景に、天王寺茜(ka4080)の意識の中であの日の悪夢が呼び覚まされる。
飛び散る赤。
異形の怪物。
それはシェリル・マイヤーズ(ka0509)も同様のこと。
でも、だからこそ彼女は逆に心を冷たく静めていく。
「できるだけ散らばらないで……互いに、互いを護るんだ……!」
キヅカ・リク(ka0038)の声に、咄嗟に近場の者同士で身を寄せ合った。
音と悲鳴と断末魔の響く戦場で、迫りくるVOID達から互いにかばい合うように対峙する。
「この音……ただの音……? いや、だけどアイツから……!」
ふと、ジュード・エアハート(ka0410)が戦場の中央で浮遊する1体のVOIDOを指差す。
が、混濁する意識の中でふらりと身体が揺れて、咄嗟にその肩をエアルドフリス(ka1856)が支えていた。
「大丈夫かジュード……! ジュー……ド?」
初めて口にしたような感覚に、思わず口ごもる。
何が起こっているのかも分からないまま、何か大事なものを失っていくような……その感覚だけが、虫唾が走るように身体と脳を侵食していく。
「ヤロウ……叩き潰すか!?」
「待ってください、1人じゃ危険です……!」
歯を食いしばって大斧を構えたボルディア・コンフラムス(ka0796)をルナ・レンフィールド(ka1565)が思わず止める。
何かが分かりそうで分からない。
もどかしさの中で、だけど歌だけはハッキリと聞こえて――
「歌……?」
弾かれたように視線を向けたその先で、ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)が独り悪夢の中で歌を紡いでいた。
それは歌としてでなければ言葉を発せない彼女にとっては、当たり前のこと。
戦場においては当たり前であるはずがないその行為が、頭の中のもどかしさの穴を埋めていく。
「歌……そう、歌だ……」
ふとジュードが口にして、ハッとする。
嗚咽、悲鳴、絶叫――違う、旋律だ。
このノイズにはメロディがある――
――そこで、パチンと意識が弾けた。
それは暗闇で蝋燭の火を吹き消したかのように、突然のことだった。
なんだ……どこだ、ここ?
スープのようにドロドロとかき回されていた意識が、少しずつ、少しずつ形を成していく。
ようやくそれを「自我」として認められるようになったころ――大きな悲鳴がホール一帯に響き渡っていた。
「いやぁぁぁあああ!!」
肩を抱いて、咄嗟に床に崩れ落ちる茜。
見開かれたその翡翠色の瞳には、虫とも甲殻類とも似つかない、異形のバケモノの姿があった。
「うらぁぁぁ!!」
ズドンと大きな音がして、異形の身体が真っ二つに割れる。
その先に大きな斧を握り締めたボルディアの姿があって、少女は余計に怯えたように彼女の事を見上げていた。
「くそっ、なんだここは……何をしてんだ俺は」
頭を掻きながらギラついた瞳を少女へと下すと、手にした斧を軽々と肩に担ぎあげる。
「答えろ、おまえは俺の敵か!」
「いっ……いえ、戦うつもりはない……です」
「そうか。じゃあ、とりあえずは殺さねぇ」
彼女の視線が逸れると、茜はほっと胸を撫でおろす。
しかし、その背後に別の怪物の影が見えて咄嗟に声を上げた。
「危ないっ!」
その言葉に応じるようにして、怪物の横っ腹に大きな盾を構えたリクが体当たる。
彼は崩れ落ちた異形の身体に飛び乗ると、抜き放った剣を突き刺した。
「君たちは何者だ……!」
「それが分かったら苦労してねぇよ。おまえこそ、俺の敵か?」
ボルディアと裏腹に、茜はふるふると首を横に振る。
リクは銃で空中の敵を打ち落とすと、先ほど仕留めた個体に刺さったままの剣を抜き取って鞘へと納めた。
「そうでないことを祈るよ……見たところ手に負えなさそうだ。そっちの子は立てる?」
「あっ、ありがとう……って、あれ」
差し出された手を取ろうとして、伸ばしかけた茜の手がふと止まる。
リクは不思議がって、彼女の表情を伺った。
「どうかした?」
「いえ、その……リボンが同じだなって」
言われて、彼もまた腕に巻き付けた黄色いリボンの存在に気付く。
見ると、ボルディアの腕にもまた同じリボンが巻いてあって、思わず顔を見合わせた。
「他にも同じ人がいるかもしれないね……もしそうなら、少なくとも僕らは敵じゃない」
「探しましょう! 仲間は多い方が心強いですし……あなたは?」
茜の言葉に、ボルディアも完全には納得しきっていない様子ではあったが頷く。
「少なくとも、自分が何者か分かるまではな。ああくそっ、この耳障りな音はなんなんだ」
吐き捨てるように口にした彼女を連れて、3人は同じ黄色のリボンを探して戦場を駆ける。
頭が痛い……それは延々と頭の中に響いている歌のせい……?
「あれを倒せば、きっと……」
ジュードは手になじむロングボウの柄を握り締めると、手早く矢を番えて視線の先の“巻貝”へ狙いを定める。
直後、それまでふよふよと滞空しているだけだった巻貝が淡い光に包まれた。
光の中に見えるのは、身を丸くして眠る胎児の姿。
その瞳がカッと見開かれたかと思うと、光がまるで鞭のように四方八方へと細く伸び、一斉に彼へ向けて放たれる。
「うわっ……!?」
咄嗟に飛びのくが次、また次と、絶えず攻撃が彼を攻め立てて、次第に焼け付くような痛みが肌に走る。
「伏せてっ!」
叫び声にはっとしてその身を屈めると、銃声が頭上に響いて巻貝の身体が大きく揺れた。
そのまま興味を失ったようにふわりと喧騒の奥へと飛んでいくのを見送って、銃声の主――シェリルが駆け寄る。
「大丈夫……?」
「ありがとう……助けてくれたって事は、敵じゃないってことかな」
「分からない。でも、あの巻貝は敵……だと思う」
敵の敵なら味方なのか――戦場じゃ不躾な理論かもしれないが、今はそれでいい。
心を落ち着かせるように、どこで聞いたのかも分からない子守歌を口ずさむシェリル。
無意識に握り締めた胸のドッグタグは、物言わず冷たかった。
「助けて、くれ……」
嗚咽に似た低い言葉を受けて、ティアンシェはどうしたら良いか分からず、ただ手を差し伸べることしかできなかった。
腹に大きな穴が開いた彼は助かることはない。
だからせめて、最期が少しでも安らかであればと……迫る異形の爪も目にくれず、歌を歌うことだけが彼女の全てだった。
「やぁっ!」
飛び出したルナの腕が振り上げられた爪を乱暴に払う。
そして敵がよろめいたうちに、ティアンシェの肩を抱いてその場から走り去った。
「大丈夫? どうして歌を……?」
「分かりません。私には、それしか……」
その答えに、ルナは思わず目を丸くする。
「……分かる。私もなんでか歌わなきゃって、そう思ったの。でもなぜか上手くできなくて――」
握り締めたリュートを小さく爪弾く。
それは頭に響く狂音を振り払うかのように……だが、狂音はあまりにも強すぎる。
ただルナは気が狂いそうなその音にあえて耳を傾け、歌の正体へ迫ろうと必死だった。
でも分からない。
どうして、この歌はこんなにも――“旋律が一定でない”の?
延々同じメロディーを繰り返しているはずなのに、毎回毎度、音が微妙にズレている。
それに気を散らされて、上手く対抗するほどの音が奏でられないのである。
それはまるで嗚咽に塗れた歌のようで……胸がぎゅっと締め付けられる。
そうこうしている間に、さきほどの異形が奇声を発しながらこちらへ向かって来る。
その横っ面を数発の銃弾が貫いて、敵は足をもつれさせながらパイプ椅子に突っ込んだ。
「あんたら! 自分の身は守れるか!?」
エアルドフリスが銃を手に叫ぶと、ルナは曖昧に頷いて小さな杖を握り締める。
その武器を見て、彼は苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せた。
「くそっ……やるしかないか」
覚悟を決めて、そのまま動けぬ相手に2発、3発と銃弾を撃ち込む。
しかし敵はひるんだ様子もなく歪に身体を揺らしながら立ち上がると、その鎌爪を大きく振るう。
咄嗟にスタッフで受け止めるも、ズシリとした重圧に全身が悲鳴をあげるかのようだった。
「うらぁぁああ!!」
不意にズドンとけたたましい音が響いたかと思うと、異形の巨体が真っ二つになって地面を転がる。
「よかった、他にもいた!」
地面に突き刺さった斧を握り締めるボルディアの影から飛び出したリクが、エアルドフリスの腕に巻かれたリボンを指差して、自分のそれと示し合わせた。
「これは、何なんだ?」
「分かりませんけど、何かの集団の印だろうって。あっ、そっちの2人も!」
ルナとティアンシェにも同様の印を見つけて、茜が顔を綻ばせる。
「6人、これで全部か?」
ボルディアの問いにエアルドフリスは首を振った。
「どうだろう。我々も、たまたま行き会っただけだからな――」
その時、不意にザザーっと床の上に砂をぶちまけたような音が響いた。
咄嗟に辺りを見渡すと、それぞれの腰に付けた小型の通信機から少女の言葉が響く。
『……もし、これが聞こえてる人がいたら……ステージの方で、誰か襲われて……印は……リボン……』
誰とも知らぬ人物からのメッセージ。
それが意図するものを理解した彼らは、燦々とスポットライトの照らされる舞台の方へと駆けだしていた。
「はやく……こっちに!」
銃声の響く中で、シェリルが眼前の2人へと小さな手を伸ばす。
長い髪の少女――ルミの肩を支えて歩かせるショートカットの少女がその手を取ると、シェリルはザワリとその背に悪寒を感じた。
少女の手は、とても自分のそれとは似つかない異形の腕だったのだ。
「その子、手……ううん、今はまずこっち!」
ジュードの銃口は、眼前に迫る巻貝の方へと向けられる。
迫りくる触腕を打ち落としながら退避するが、それはジュードらへ向けられたものというよりは、保護した2人の少女の方を狙っているようにも見えた。
「連絡をくれたのは君たちだね……!」
トランシーバーとリボンを掲げながら合流したリク達に、シェリルはほっと表情を綻ばせる。
「とにかく引くぞ! 今の状況で、どうこうできる相手じゃない!」
牽制の銃弾を放ってエアルドフリスが叫ぶ。
銃器を持つ者は同様に敵の足を止めさせながら、一同はその場を駆け出していた。
「あたし、なんでこんな所……分かんない。でも、怖い……頭が割れそう……」
「大丈夫……無理をしないで」
ガタガタと震えるルミの背中を、ティアンシェは落ち着かせるように優しく撫でる。
その姿を見て、ショートカットの少女は辛そうに視線を落としていた。
「君はいったい誰……ううん、何者?」
「返答次第によっては……」
問いかけたジュードの言葉には、一抹の不安も交じっていた。
一方で強い敵意を込めたボルディアをリクが優しく制して、少女へ言葉を促す。
「どうしてこんな所に……? う、ううん、聞いたって無駄なことは知ってるけど……で、でも、なんで……ルミちゃんが……」
「あなたは、この状況を“理解”してるの……?」
ルナの言葉に、彼女は怯えながら小さく首を縦に振る。
「だったら教えろ、ここは何なんだ。どうして俺たちはこんな所で戦ってるんだ。お前は……何者だ?」
「わ、私は、カナデと言います。自分が何者かは……ご、ごめんなさい、分からないんです。気づいたらこんな姿で……で、でも、人間です。信じてください! お父さんとお母さんがいて、ルミちゃんとも親友で……!」
カナデと名乗った少女は1つ1つ、たどたどしい口調で答える。
「“ルミちゃん”っていうのは、あなたのことですか……?」
問いかけるティアンシェに、ルミもまた苦しそうに頭を抱えた。
「この音……止めることはできないのですか?」
これがあるからみんな苦しんでいる。
だから止めることさえできれば――だが、頼みの綱であろうカナデは身体を小さくしてそわそわと辺りを見渡すだけだった。
「追い付いてきたよ! とにかく、ここから逃げよう!」
ジュードが指す方向から、ゆったりとした速度で光る巻貝が迫って来るのが見える。
「脱出……そう、脱出しないと! でも、どうやって!?」
「そ、それなら出口まで案内できます……!」
辺りを見渡す茜に、カナデは弾かれたように顔をあげて会場の外を指差す。
「なら、他の人たちも連れて――」
未だ阿鼻叫喚の人々を振り返っていたエアルドフリスだったが、カナデは激しく首を振った。
「む、無駄です! 無駄なんです……ううん、自分達の命を優先してください!」
鬼気迫る勢いの彼女に、ハンター達は有無を言わされず頷くしかなかった。
会場を出て、廊下を一目散に駆ける。
はめ込み式の窓から見える外の世界は入り乱れる化物と巨大な機械人形、そして火の海。
「あそこから出てください! それできっと助かるはず……ですから」
やがて正面の大きなゲートの前に到着すると、カナデはゆっくりと立ち止まった。
「き、君は……!?」
驚いて振り返ったリク達だったが、彼女は静かに首を振る。
直後、壁が破壊されて大量の異形たちがと廊下へと溢れ出す。
それを見て、茜が咄嗟に手を伸ばした。
「はやく、あなたもこっちに!」
だが彼女はそれを取らずに泣きはらした目で微笑んで、小さく手を振った。
「私は大丈夫……そしてできれば二度と――」
――ここには、来ちゃダメです。
頑なに動かない彼女に、ハンター達は後ろ髪を引かれながらもゲートの外へと走り出す。
「もう持たない……行こう……!」
銃で敵の足を止めるシェリルに腕を取られて、引きずられるようにして外へと脱する茜。
最後に見えたのは、スカートの裾を握り締めるカナデ。
そして、彼女に飛び掛かる数多の牙と爪の鈍い輝きだった。
その瞬間、まばゆい閃光が彼らの視界を包み込む。
何も見えない、何も聞こえない。
あの音も、聞こえない。
……そうだ、自分達は異空間調査のためにこの世界に入って来て、それで――
――進んだ先でパッと視界が開けて、一面の荒野が目の前に広がっていた。
後ろには負のマテリアルでできたドーム状の塊が渦巻いていて、ここから出て来たのだという事実だけを告げる。
記憶が戻っている。
記憶がなかった事も覚えている。
その間、自分達がどこで何をしていたのかも。
「なんなんだ、あの歪虚は……ジュードのことまで忘れるとは」
「仕方がないよ……でも、考えられることはいくつかありそうだ」
ジュードに寄り添われながら頭を抱えるエアルドフリスの傍で、リクの視線が呆然とするルミの横顔を捉える。
「あの歌……どうして……?」
ポツリと呟いた彼女の声が、ただ荒野に虚しく響いていた。
依頼結果
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ルナ・レンフィールド(ka1565)
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依頼相談掲示板 | |||
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相談するとこです。 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/01/24 22:18:58 |
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質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/01/23 18:03:23 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/01/21 11:30:49 |