王立学園砲兵科 自習時間の模擬戦闘

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/02 19:00
完成日
2018/02/09 17:18

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王立学園、砲兵科── それは、王国正規軍への配備が進む『Volcanius』部隊の中核を担う人材の育成を目的として、昨年、学園に新設されたばかりの新学科である。
 旧大砲科を中心に、他学科から新進気鋭の人材を寄り集めた精鋭たち……と言えば聞こえは良いが、実際には厄介払いされた落ちこぼれや、得体の知れない新兵科に騙されて転科してきたような者らが大半だった。
 元魔術科のリズ・マレシャルも御多分に漏れず、そんな生徒の一人だった。「最新の刻令術が学べるから」と魔術科教官に言われて友人2人と転科したが、実際にはそのようなカリキュラムはなく。絶望していたところをハンターの仲介により、刻令術師エレン・ブラッドリーから講義を受けられることとなり、ホッと安堵した口だ。
 それで目的は達せられたはずだが、根が真面目なリズは開講半年間の座学とゴーレム操作訓練でも優秀な成績を収めた。やがて、Volcaniusを用いた実習の為にクラス内で班を分けることになった際、彼女はその成績を認められて第三班の副班長に任じられた。この班というものは実際の部隊を模したもので、Volcanius2体とその操作手2人、捜索・偵察・斥候役の騎兵1人、輜重役の馬車とで1班を形成し、それぞれ1人1台を1部隊として仮想し、実際の指揮と運用をシミュレートする為のものだった。
「いよいよ訓練が始まるのね…… 『部隊』としてVolcaniusを実際に動かす訓練が……!」
 第一班、第二班と順調に訓練を始め、いよいよ自分たちの番と生真面目に意気込むリズ。しかし、機体を駐機場から演習場へと引き出し、待機する第三班の元へ、砲兵科教官のジョアンとエレンはいつまで経っても現れなかった。リズたちは知らなかったが、2人は昨日、王都第七街区で起こった事件の調査に向かい、人質事件やら何やらに巻き込まれて未だ帰って来れずにいた。
「教官が来ない……ってことは、今日は自習か? って言うか、休講?」
「ちょっと、何喜んでいるのよ! 訓練が中止になれば、それだけ他班に遅れを取るのよ!?」
 他の生徒たちが沸き出す中、リズだけが生真面目に仲間たちを注意した。まだ班を組んでからそれほど時間は経っていないが、既に彼女の渾名は『委員長』だ。
「そこのお嬢さんの言う通りだ。演習は予定通り行う」
 老練な声がして、生徒たちが慌てて振り返る。現れたのは、胸甲を身に着けた騎士科の教官たちだった。砲兵科の元騎士科の生徒たちが直立不動で敬礼する。
 騎士科の教官たちはハンターたちを伴っていた。彼らはジョアンとエレンに代わって実習を監督すると告げた。
「君たちにはうちの騎士科の生徒たちと模擬戦闘をしてもらう。遠慮なく普段の訓練の成果を見せてくれ」

 演習は、小さな丘の存在する演習場で行われることとなった。『参加兵力』は砲兵科が第三班。騎士科はそれに合わせ、騎兵4人、歩兵8人、騎兵砲2門のみが参加。砲兵科の流儀に従い、演習上はそれぞれ1人を1部隊として扱う。
「なんだ。砲兵科の連中、部隊を組める程の数も無いのか」
 砲兵科の『みすぼらしさ』を見て嗤う騎士科の生徒たち。ムッとした砲兵科の一人が無言でVolcaniusを前身させて…… その巨大さに肝を冷やした騎士科の生徒たちが慌てて「でくの坊だぜ」と取り繕う。
「勝利条件は丘の奪取だ。演習終了時に丘を確保していた勢力の勝ちとする」
 装飾の施された金色の機械式時計を覗きながら、教官が生徒らに準備に入るよう告げる。
 やがて、丘を挟んで配置に着いた両科に合図の喇叭が鳴り届き……リズは踵を鳴らして班長を振り返った。
「ドゥヴィレ班長! 指揮をお願いします!」
「ん? マレシャル副班長、君に全て任せるよ。知っての通り、僕は荒事が苦手でね」
 リュシアン・アルチュール・レアンドル・ドゥヴィレ第三班長── 元芸術科のこの貴族の子息は、演習時はいつも歌っているか絵を描いているかでまるでやる気を見せなかった。……それでいて、座学・実技共に優秀な成績を収めて班長に収まっているのだから、天才肌という人種はリズには到底理解できない。
「~~~ッ! 班長殿より指揮権を預かりました。これより私が指揮を執ります!」
 砲兵前進! の命と共に、ずしん、ずしん、と丘へと向かうVolcanius。だが、その麓へも到達しない内に、先行してきた4騎の敵騎兵に先に丘は奪われた。
 先に有利な地形を押さえられた──しかし、リズはまるで慌てなかった。
「砲撃体勢。炸裂弾装填。砲角40!」
「40じゃねぇ。50だ。砲撃位置もあと20前進させねぇと……」
 ボソリと聞こえぬように呟く1号機操作手、元大砲手のナイジェル・グランディ。大砲は目標までの距離と高低差だけでなく、砲弾が落ちる角度も考える必要がある。今回の場合、低所から浅い仰角で撃っても砲弾は丘の稜線を越えられない。有効打を与えるにはもっと近づき、上方から砲弾が降り注ぐようにする必要がある。
 ナイジェルの呟きを聞いた2号機操作手、元歩兵のトム・リーガンは、リズの命令が聞こえぬ振りで自機を更に20前進させた。リズの怒声を背景に何食わぬ顔でついてくる1号機を見てにっこり笑い……爆風が敵を挟み込むように、2号機の砲の角度を49へと調節する。
「……1号機、砲撃準備完了」
「2号機、同じく」
 ナイジェルとトムからの報告。元騎士科のハーマン・トレイシー・シェルヴィーが苛立たし気に馬上からリズを振り返る。
「おい、アンベール! 僕に対する指示がないぞ!?」
「黙ってそこで待機。今、騎兵にするべきことなんてないわ!」
「クッ……!」
 奥歯を噛み締めるハーマンをよそに、操作手に砲撃指示を出すリズ。「たった2門の砲で何をする気だ?」と嘲笑していた丘の上の騎兵たちは、立て続けに降り注いだ模擬砲弾の雨に瞬く間に染料塗れとなった。丘越しの砲撃で歩兵もまた同様に。騎兵砲は何の役にも立たなかった。同じ旧式大砲と言えど、Volcaniusが運用することによるその速射性と正確性はまったく別物と言ってよかった。
 騎士科の生徒たちが受けた衝撃を思い、ハーマンは心の底から彼らに同情した。

「ふむ…… やはりあの砲撃は、これまでの砲とは違うと考えるべきだな」
 望遠鏡で戦場の様子を確認していた教官が、唖然とする同僚たちに聞こえるように大きくそう呟いた。彼はリアルブルーの技術力を実際にその目で目の当たりにした騎士だった。青世界の銃砲はあんなものではないと言ったら、同僚たちはさて、どんな反応を示すことやら……
「とは言え、いくら現実を知らしめる為とは言え、騎士科の教官としてこのまま生徒らに自信を喪失させたままでいるわけにもいきませぬで。ハンター殿らにはどうやってアレ(Volcanius)を攻略すべきか、うちの生徒たちにご教授いただきたい」

リプレイ本文

 最初の模擬戦を終えて── 当然のことではあるが、帰還してきた両科の姿はあまりに対照的だった。
 勝利の歓喜に沸き立ち凱歌を上げる砲兵科。対する騎士科はペイント塗れという屈辱的な姿のまま、教官たちの号令によってハンターたちの前に整列させられる。
(あ、僕と同い年くらいの生徒がいる…… 懐かしいな。僕もハンターになる前は、彼らみたいに色々と教わったっけ)
 その姿に自身を重ね合わせて口元を綻ばせるルーエル・ゼクシディア(ka2473)。そんなルーエルに気付いて、少年生徒はプイッと怒ったように顔を背けた。自身の姿を恥じ入るように汚れた袖で頬を拭いて余計にペイント塗れになって…… そんな少年の姿に、悪いことをしちゃったな、と反省し、ルーエルが表情を引き締める。
 整列を終えた生徒たちに、騎士科の教官がハンターたち臨時教官を紹介した。生徒たちは(女子供ばかりじゃないか)と声もなく騒めいた。
「ハンターのルーエル・ゼクシディアです。今日はよろしくお願いします。さて、つい今しがた、皆さんは砲戦ゴーレムが決して油断できない存在であることを実感したと思いますが……」
「負けたのは相手を軽んじたからです。油断したのは、つまり、未熟者の証明です」
 ノエル・ウォースパイト(ka6291)はにっこりと笑いながら、開口一番、痛烈な言葉を宣った。
 生徒たち(とルーエル)は絶句した。淑やかな佇まいで(にこにこと)毒を吐くノエルのギャップに、彼らは反駁も反発も忘れて硬直している。
 そんな生徒たちより早く、ルーエルはハッと我に返った。そして、出来うる限りのフォローを試みた。
「お、臆することはありませんよ!? 負けるのも訓練の内ですし!」
「そうですね。実戦なら皆さんの身体にはペイントではなく金属片が食い込んでいたはずでした。せっかく『命を浪費して』敵の力量を計ったのですから、次に活かさなくてはいけません」
 フォローは粉々に砕け散った。ノエルの辛辣な言葉に、生徒たち(とルーエル)は戦慄した。

「あの砲撃を何とかするには、どうにかしてあの射程を掻い潜って接近しなければなりません」
 続く第二戦に臨む為の作戦会議の冒頭で、ルーエルが生徒たちにそう告げた。
 では、具体的にはどうするか──? 問われると、騎士科の生徒たちは沈黙でそれに応えた。彼らの知る旧来の戦術は先程、粉微塵にされてしまっている。
「砲兵科最大のデメリットは駒(部隊数)の少なさですー。では、騎兵科のメリットは何ですかねー?」
 パール(ka2461)は(のんびりとした口調で)ヒントを出した。秀でた額(キランッ)、木の葉の様な太めの眉(ワシャンッ)、アーモンド形の大きな瞳(クリンッ)が特徴的な少女である。……エルフなので見た目通りの年齢とは限らないが。
「……砲兵科に比べて数が多いことですか?」
「それもありますねー」
「しかし、臨時教官殿。先の模擬戦では数の少ない敵に勝ちを得ることができませんでしたが……」
「それは数の多さを活かせない運用をしたからですよー」
 指摘するパール。そこを間違えてしまえば飽和攻撃も飽和にならない。旧来の『密集しての突撃』など大砲のよい的だ。
「班を分けて多方から攻め入る手段も効果的だろうね。その場合、誰かが囮になっちゃうけど、策を講じてなるべく犠牲を……」
「そこまでだ、ルーエル・ゼクシディア」
 それまで押し黙って聞いていた軍服姿のアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が強い言葉で遮った。彼もまた年若いが、纏っている威厳は半端ない。
「我々が砲戦ゴーレムに勝つ策を教示するのは簡単だ。だが、自分の頭で考えさせねば、それは彼らの血肉にならぬ。マニュアルに従うばかりの阿呆が量産されるだけだ」
 アウレールはそう言うと、用意したテキストを生徒たちに配布した。その内容は、生徒たちの理解力と判断力を確認する為のテストであると同時に、対応策を自分で構築していく思考法を学習する為のテキストでもあった。知彼知己、百戦不殆──その考え方はあらゆる戦場のあらゆる局面で必要とされるものだ。
 例えば、問1:『騎兵と砲ゴの短所を戦術的に述べよ』── これは第一戦の結果に基づき、彼我が避けるべき運用と突くべき弱点を正しく認識出来ているか、その理解を問うものである。騎兵であれば、最大の利点である機動力を殺してしまう森や湿地帯での運用は避けるべきだし、ゴーレムの場合は、近接火力の貧弱さや散兵戦術に対する脆弱さ、操作手の随伴が必要な点等が弱点となり得る──そういった解答を期待している。
 制限時間は隠したまま、アウレールは生徒らを試験に臨ませた。そして、その後でどう砲ゴに対応すべきか、生徒全員で議論させた。
 彼らがどうにか形にした作戦は、足の遅い騎兵砲はその場に残し、二手に分けた歩兵に南北の森の中を前進させるというものだった。騎兵は後退させ、西側の森に一旦隠す。丘を取りに来るであろう砲兵科に全周から突撃し、最小限の犠牲で敵を撃破する。
 歩兵を森に潜ませて全周から攻撃する、という案は、アウレールが導き出した答えと同じものであった。ただ、アウレールであれば機動力の高い騎兵には敵の後方を扼する役割を宛がっていたであろう。騎士科の生徒達にはまだ騎兵は決戦兵種であるとの意識が残っているのかもしれない。
「まさか騎士がこんな逃げ隠れするような真似を……」
 未だ納得していない様子の生徒が愚痴を零すと、同じ班の仲間たちが慌てて「バカッ!」と口を塞いだ。
「……二重三重に策を巡らせるのが戦争というものです。機に臨むに当たり、変に応じることが出来てこそ最良の兵── ですが、同じ愚行を繰り返し、ここで再び敗れるようなことがあれば、もはや面目も何もありません」
 にっこりと微笑みながら、生徒に『檄を飛ばす』ノエルさん。生徒たちが思わず直立不動でそれに応える。
「先の敗北を無駄にはしないでくださいね? 騎士となるべく日々研鑽を摘んでこられた皆さんならば、流水が如く変ずる戦況にも合わせられると信じています♪」


「先の模擬戦で敗北した敵はもう先に丘を取りには来れない。その間隙を突き、今度は自分たちが先に有利な高所を押さえる!」
 始まった模擬戦第二回戦── 斜面と不整地で遅れがちな馬車を後方に残し、騎兵とゴーレム、歩兵だけで丘の上へと駆け上ったリズは、しかし、霞の如く敵の消え去った丘向こうの光景を見て言葉を失くして立ち尽くした。
(どういうこと……?)
 混乱しつつ思考するリズ。目に見える敵は2門の騎兵砲のみ。騎兵と歩兵は森の中に隠れたか。問題はそれがどこにいるかだけど…… えぇい、これがちゃんとした部隊だったら四方に捜索騎兵を放つのに……!
「なんで『騎兵部隊』なのにあんた一人しかいないのよ」
「俺に言うな」
 筋違いの文句をぶつけるリズにハーマンが苦虫を噛み潰し。そんな副班長たちを見やりながら、他の班員たちが指示を待っている……
「……ガキ共を監督して金が稼げるなんざボロい仕事だと思っちゃいたが……笑えねぇ状況だなオイ」
 彼らに続いてゆっくりと森を上って来たジャック・J・グリーヴ(ka1305)とエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は、丘の上からグルリと周囲を見渡し、瞬時に状況を把握した。
「先の敗北で早速対策を立ててきたようですね、騎士科の生徒たちは」
 それに対し、砲兵科の生徒たちは状況に対応し切れていない。エラは眼鏡をクイと指で上げると、リズの傍へと歩いて行って『独り言』を呟いた。
「騎兵砲だけが姿を晒していますね」
「はい。何の意図があって…… 足が遅くなるから置いていっただけ……? 本当に……?」
 自分から思考の迷宮に入り込んでいくリズを見て(減点だな)と嘆息すると、エラはそんな彼女を現実に引き戻すべく、無線機を手渡した。
「これは……?」
「リアルブルーの無線機というものです。離れた場所にいる人間と話すことが出来ます。ホーソンと歩兵たちを呼んでください」
 エラはそう答えると、彼らに操作方法をレクチャーした。なぜこれを、と戸惑うリズたちに、エラは人差し指を口元に当てて微笑むだけで何も答えない。

 一方、南北の森の中、東進を続けていた先頭の騎士科歩兵は、丘の東側まで進んだ所で、随伴する歩兵2人と共に孤立する砲兵科の馬車を発見した。
 先頭の騎兵科歩兵2人は示し合わすこともなく、ほぼ同時に馬車へ突撃を開始した。自分たちが身を晒せば囮になるし、馬車に取りついてしまえば砲撃を受けることもなくなる。
 馬車の大荷物の上に座って絵を描いていたリュシアンが、真っ先にそれに気づいて「……だよねぇ」と呟いた。
「落ち着いて。相手は2人だ。こちらの方が数で勝る。馬車を盾に応戦を」
 不意打ちに慌てる随伴歩兵2人に安心させるように声を掛けつつ、リュシアンはチラと丘を見た。
(マレシャル君がすぐに応援をこちらに寄越したら…… 多分、拙いことになるんだろうなぁ)

「演習中でも芸術活動が出来るくらいだ。リュシアンの野郎、肝っ玉の太ぇ奴だとは思っていたが……」
 奇襲を受けてからの落ち着いた対応ぶり。ホントに大物かもしれん、とジャックは口の端に笑みを零した。
 それに比べて、こいつらは……
「味方の危機だ……! すぐに救援に向かう!」
「ちょ、待ちなさい!」
 リズの指示も待たず、愛馬に拍車をかけて東の斜面を駆け下っていくハーマン。2台のVolcaniusuも旋回してその砲口を東へ向け直し始めており…… 騎兵砲に随伴していたパールがその様子を望遠鏡で確認し、「慌ててる、慌ててる」と笑みを零した。
「敵が東に喰いつきました。騎兵を突撃させてください。ただし、砲口がこちらに向いたら、直ちに射程外へ退避するように」
 パールは背後の森に隠れていた騎兵4人に前進の指示を出した。2門の騎兵砲もまた左右に分かれて前進する。
(砲兵の弱点は近接戦闘──特に機動力のある騎兵への警戒は殊更厳重。相手の照準はそちらに向く。その隙に付け入れられれば、こちらの砲弾が届く可能性も見えて来る)
 相手がそれに気づくようなら、今度は砲兵が囮となって騎兵が突撃すればいい── 騎士科の生徒たちの動きをノエルはそう評価した。実際、リズは東に向きかけていた砲を西に向き直させ、騎兵に向けて発砲させる。
 砲声が鳴り響き、西の丘の斜面に砲弾が着弾した。が、既に進路を変えていた騎兵たちには届かない。
「射程内に入って来ない!?」
 囮か! そうリズが看破した時、大きく左右に展開していた騎兵砲が発砲した。
 目標は丘の上の自分たちではなかった。丘の麓の北側、南側──森の淵から丘の斜面に掛けて着弾した砲弾が周囲に煙の蟠りを噴き出し始め…… パールの指示で森から出てきた歩兵たちが丘の頂目指して突撃を開始する。
「煙幕弾!? まずい……!」
「北と南に伏兵! 西からも騎兵が接近……全周です!」
 次々と湧き立つ煙幕── 馬車に纏わりついていた歩兵2人を排除したハーマンが、慌てて丘の上へと戻り始めるが間に合わない。
 リズは接近戦に備えてナイジェルとトムにキャニスター弾の装填を命じたが、帰って来たのはトムの「ありませんよ!」との悲鳴だった。優先度の低いキャニスター弾は馬車に乗せたままだった。エラが心中で「おやおや」と呟く。
「しゃあねぇ。この俺様が戦いってやつを教えてやるか」
 それまで黙って見ていたジャックが進み出た。そして、戦場の喧噪すら圧する大声で砲兵科の生徒たちに向けて叫んだ。
「ナイジェル! てめぇ、元大砲手なんだろ?! だったらVolcaniusを一番上手く扱えるのはお前だ。班長副班長の肩書なんざしゃらくせぇ。てめぇが違うと思ったら声を大にして意見出せ! トム! お前もだ! どっちが正しいか分かってんなら空気読んでんじゃねえ、回りくどい! 八方美人は部隊を殺すぞ!」
 呆気に取られる砲兵科の生徒たち。構わずジャックは指摘を続ける。
「ハーマン! 接近戦はお前が一番得意なはず。そのお前がいざって時にこの場にいねぇってのはどういうことだ?! じれったく思う時もあるだろうがそこはグッと我慢しとけ! ……そして、リズ」
 ジャックはすぐ傍らの副班長に向き直った。
「……てめぇは気負い過ぎだ。『部隊』運用の訓練なのに、てめぇは敵しか見ていねぇ。もっと部隊を、仲間を見ろ」
 沈黙── 丘の上に、突撃する敵歩兵の喊声だけが響き渡る。
「……副班長」
 ジャックの言葉を受けて、ナイジェルが躊躇いつつもリズに意見具申の許可を求めた。
「……何?」
「煙幕の奥に対して砲撃をするべきだ」
「弾の無駄よ。命中は期待できない」
「それでもだ。砲撃で威嚇しなければ一気に突っ込まれる」
 リズは奥歯を噛み締めて……ふと、手に握り締めた無線機に気が付き、ハッとした。
「ナイジェル! トム! それぞれ南北に砲撃を始めて! ハーマンと歩兵二人は煙幕の向こう側へ。弾着修正をお願い!」
 気付いたリズに、エラは小さく頷く。
(まぁ、この戦いは負けですけど)
 残念、と微笑と共に目を瞑るエラ。煙幕の向こうから飛び出してきた歩兵たちが、リズたちに襲い掛かった。


 パールやノエルらと共に勝利に沸く騎士科の生徒たち── その中で一人、悔しい表情を浮かべる少年に気付いて、ルーエルはそちらに歩み寄った。
「チームが勝っても、自分だけ退場して悔しいですか?」
 回復魔法で怪我を癒しつつ、ルーエルが訊く。返事はなかったが、自身にもその想いには覚えがあった。
「……それでいいんですよ。今は研鑽を積む時です。……いつかこんなこともあったと笑い話になれば上出来だって、僕はそう教わったよ」

「もっと部隊を、味方を見ろ。そんで信頼してやれ。そうしねぇと信頼される事もねぇ」
 悔し涙を流すリズにジャックが告げる。
 これは説教じゃねぇ。忠告だ。他人に注意された時、指摘を説教と感じて不貞腐れるか、忠告と思って襟を正すか──学ぶ者との自覚があれば、言われずとも分かるはずだ。
「確かに、天運はともかく地利と人和は自分次第で改善出来るファクターですね」
「俺様はお前なら出来るって信頼したから言っているんだぜ、委員長?」
 エラとジャックの言葉にリズは涙を啜りながら精一杯頷いた。

 その後、第二戦の結果を受けて、負けた砲兵科に対してもアウレールの『教育』が始まった。
 いったいどうすべきだったか──問われて、リズは断固としてこう答えた。
「次はゴーレムを岩みたいに坂を転がして、包囲網の一角を吹っ飛ばして脱出します」
「……そりゃ確かに敵もビックリだ。が、演習ではやるなよ。人死にが出るから」
 顔を見合わせるジャックとエラ。
(人に教えるって難しいんだなぁ)
 ルーエルは心中で独り言ちた。

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  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531

重体一覧

参加者一覧

  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

  • パール(ka2461
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/02/02 14:42:32
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/31 22:45:33