私は何という蟲を産みだしてしまったのか!

マスター:文ノ字律丸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/18 07:30
完成日
2018/02/19 12:15

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――記念すべき、一〇〇体目の魔法生物はこいつだあああああああああっ!!!

 地下。
 実験室。
 空気の出入りがなく陰気な影が惑い渦巻き、虚空にランタンの光が明かりを灯す。壁は石造り。地面は露出し、岩石がそのままの姿を現している。そんな密閉空間に一人の男の声が響き渡った。
 その男の名前は、DR.ミカゲシ。
 彼は自称『神に到達せし究極のヒューマン』。
 その実、団体行動や規則というモノに馴染めなかった魔術師で、誰も寄りつかない辺境の片隅に居を構えて日夜独自の研究に勤しんでいた。
 そんなミカゲシには唯一の助手であり、弟子とも言える少女がいる。
「博士、またっすか? その頭の悪いハイテンションやめてくれないっすか? ちょっと気分悪くなったんで百メートル離れてくれないっすか? 臭い、キモい」
 少女の名前は、ユキゼ。
 彼女がミカゲシという男の助手をしているのは、彼の研究成果を将来、自分の手柄として世に発表し、魔術教会などに取り入るためであるが、それはミカゲシの与り知らぬところである。
「ユキゼ君。良く見たまえ、この経年したドラゴンともおぼしき翼、肥えたミノタウロスのような胴体、毒々しきスライムの核のような双眸――これを傑作と言わなくて何と言う」
「蛾っすね。めっちゃでっかい蛾っすね。キモい」
「うおおおおおおおおおおん、蛾ではない。我が最高傑作の……そうだな、言うならば、神への反逆者――その名もデウスリベリア!」
「ふーん」
「臆するな、その名を呼べ!」
「デカ蛾スリしちゃった」
「デウスリベリア! スリしない!」
「はいはい。もうそれでいいっすよ」
「……ユキゼ君。前々から思っていたが、君、師匠である私のこと、あまり尊敬していないな?」
「えーしてますよ」
「なんで爪をいじりながら言うんだい?」
「すみません。聞いてませんでした。で、いつスリするんですか? その蛾」
「しないの!」
 そんな漫才をしていたところ、甲高く凶悪な音が聞こえた。
 それは巨大な蛾、デウスリベリアの羽音だった。
 ミカゲシが気づき、尊大に顔を向ける。
「デウスリベリアよ。創造主たる、このDR.ミカゲシになんの用だ」
 巨大な蛾の頭にカパッと割れる。
 その割れ目には無数の歯が覗き、涎のような粘液がボタボタと垂れ流れた。
「食事か。……ふむ」
 ミカゲシは助手に向き直った。
「……蛾ってなにを食べるんだっけ、ユキゼ君」
「やっぱ蛾なんじゃん」
「蛾ではない。デウスリベリアだ」
 不遜じみた助手の姿にため息をつき、ミカゲシはデウスリベリアに尋ねた。
「デウスリベリアよ。お前はなにを食べるのだ? アブラムシか? 花の蜜か?」
「にんげ……ん」
「へ?」
 ばさり。
 デウスリベリアが羽を羽ばたかせると鱗粉が舞った。
 それは密閉空間にことごとく広がる。
 そして――爆発が起きた。
「これは粉塵爆発! 大丈夫か、ユキゼ君」
 爆発の瞬間、ミカゲシは防御壁を張って衝撃をこらえた。
「大丈夫っすよ。バカドクターミカゲシ」
 どうやら、ユキゼも同じようにして衝撃をこらえたようだった。
 地下実験室は粉々に吹き飛び、上を見上げれば空が見える。
 デウスリベリアはそこに舞い上がっていた。西の空へと飛び去る様子が見える。
「バドミ」
「バドミ?」
「バカドクターミカゲシの略」
「なんと!」
「いいから早く行くっすよ! このままじゃ、あの蛾、村の人間を襲っちゃうっての」
「い……行くってどこに」
「ハンターオフィス」
「そうか。そうだな。私の力では、あれは倒せない!」
「知ってる!」
 かくして、二人の迷惑な研究者はハンターオフィスに出向いた。

●ハンターオフィス

「ええ。さきほど、DR.ミカゲシから泣きつかれました。魔法生物……ええと、スリ? まあ、大きな肉食蛾を討伐して欲しいとのことです。これは緊急の依頼なので、すぐに出発してください」
 ハンター達は、迷惑な魔術師もいたものだと、討伐に向かう。

リプレイ本文

 
 ●平原、その蛾は鱗粉をまき散らす。

 辺境。
 風が吹き、背の低い草が揺れている。
 見渡すばかり平原に、八人のハンターが足を踏み入れた。
 魔法生物デウスリベリア――は巨大な蛾だという。
 DR.ミカゲシというお騒がせな魔術師が作った魔法生物は、このまま直進した先にある村を目指している。村に着いたデウスリベリアが欲するモノ。それは人間の肉だ。
「うちのアホのせいでどうもすみません。あのアホ魔術師は現在監禁して自分の罪を数えさせておりますので、皆さんには蛾の駆除をお願いしたく存じます」
 ユキゼ助手が、依頼内容を改めて告げた後、ハンター達を前に一礼をする。
 リュー・グランフェスト(ka2419)は、眉間にしわを寄せて、
「ったく、ろくなもんつくらねえなあ……」
 と件の魔術師DR.ミカゲシをあげつらった。
「まったくだ。『てんさい』かよ、ってな」
 龍崎・カズマ(ka0178)もその意見に同調する。
「天才ってことか?」
「いや、ジーニアスじゃなくて、アクシデントの方だ」
 リューはその言い回しに、ふっと笑う。
 それ以上に腹を抱えて笑ったのは、ユキゼ助手だった。
「て、て、天災……ぐははは……あの天災バカ魔術師……ぐふふふハハハ」
 そんなに面白かっただろうかとリューは首をかしげながら、カズマに話を振る。
「それで、目標の討伐だが。森に入られたらマズいよな」
「それはまずいな。非常にまずい。できることならここで葬りたい」
 森の中ではCAMの挙動が制限される。木々が遮蔽物になるからだ。
 なにより、その森は近隣の村で、生活の糧になっていることが予想される。
 カズマはそこをむやみに壊したくなかった。
「それよりなにより、この魔法生物が村に行ったら生活の糧どころじゃない。可及的速やかな討伐を優先はしたほうがいいだろう? だから、この平原で決着を付ける」
 リューもその意見に頷く。
「まあまあ、俺様ちゃんに任せておけって。俺様ちゃんは、かつてチューブマスターと言われたことだってあるんだぜジャン」
 などと謎の自慢をドや顔で決めるのは喧嘩上等少女ゾファル・G・初火(ka4407)。
「この依頼……ツッコミどころしかないのだが……。DR.ミカゲシの作った巨大蛾だと? 何故我々はそんなものを相手にしなければならないのだ……?」
 ゾファルの隣で、げんなりと声を発したのは、エメラルド・シルフィユ(ka4678)。
 蛾という響きだけでも少し身構えてしまうのに、それが巨大だなんて。誰だって嫌だろう。人並みに無理が苦手なエメラルドは、小さく呻く。
「人騒がせというけれど、結局の所は――至る事のできなかったモノ、ね」
 アリア・セリウス(ka6424)はDR.ミカゲシの作りし魔法生物をそう評価する。
「醜い蛾ではなく、美しい蝶であったら? 或いは、人を傷つけるのではなく、癒やす鱗粉なら」
 自分が創造したものではないし、その思惑は判らない。
 ただそういう魔法生物なら、或いは人に受け入れられたかもしれないし手助けもあったかもしれない。
 けれど、
「人に害成す以上、斬るわ」
 やはりそうするしかないのだろうと、アリアは諦観しながら呟く。
「最近ずっとCAMに乗っとったからの、なまっとらんかのー?」
 ディヤー・A・バトロス(ka5743)はそんなことを呟く。
(CAMから降りて魔法行使したほうが皆の役に立ちそうじゃからの……)
 今回の作戦では、地上からの援護も重要だろうと彼は判断する。
「鱗粉で電撃と言われて粉じん爆発を考えましたけど、あれは密閉空間でないと連鎖しなくて爆発しなかったはずです。歪虚なら魔法で何でもありだと思いますけど、魔法生物がそういう魔法を使えるのかどうか……。本能に忠実な生き物なら、そんなに気にしなくても大丈夫そうな気がします」
 穂積 智里(ka6819)は自分の考えを、順序立てて説明する。
 その理路整然とした説明に、仲間達も思わず頷く。
 しかし、そうであっても警戒するべきだろうということは全員の一致した意見だった。
「魔法生物ねぇ…………。一体何から生まれたんだか。それにしてもミカゲシって男、実に面白そうだねぇ」
 元軍医、現在はフリーの歪虚研究家である龍宮 アキノ(ka6831)にしてみれば、ミカゲシが作っている魔法生物とは何なのか気になって仕方がない。
 彼女は、その正体を突き止めるためだけに今回の作戦に参加した。
(とりあえずはデウスリベリアを取っ捕まえて手術、もとい生体解剖して、化けの皮を剥いでやるかねぇ)
 彼女はそんな野望を密かに燃やしていた。
「ご迷惑かけてすみません。では、お願いしまーす」
 ユキゼ助手の言葉でハンター八人は散開する。
 それぞれパートナーを連れ、デウスリベリアの捜索に向かった。
                                         
 第一発見者はカズマだった。
 相棒グリフの背にまたがり、上空から索敵をしていた彼は、その巨躯を見つけたのだ。
 それは、のっそりとだが確実に村に向かって直進している。
「なんだぁ……ありゃあ」
 カズマは、巨大蛾の想像以上の異様さに呻き声を上げた。
 気を取り直した彼は、相棒グリフの背を撫でる。
「――よし行くぞ、グリフ、初陣になるだろうけどな!」
 勇猛に嘶いたグリフ。
 カズマは臆しもしない相棒を心強く思った。
 相棒とならこの先もやっていける。そんな気がするのだ。
 そして、その一歩目を華々しく飾ろう。
「あんな奴、行かせるわけにはいかねえよな、な、相棒!」
 カズマの声に合わせて、猛々しくグリフも吠える。
 ――よし、開戦だ!
「みんな、見付けたぞ!」
 カズマは、エピキノニアの機能を使い『発見』の第一報を送った。 
 そして、ハンター達はデウスリベリアのもとに集結する。                  

 一方を受けて、それまで静謐の空気を纏っていたアリアは、目を開く。
「出るわよ、イェシド」
 風に乗るかのように颯爽と飛び乗った。
 その白き狼は歌うようなアリアの声を聞き、陶酔に浸るように低く唸る。
 それから、風のように疾走――。
 のんびりとしていた彼は、その時だけ獣の本領を発揮する。
 主を運ぶ白銀の風になった。
 アリアはその魔法生物を目に宿す。
「イェシド、そのまま走って」
 アリアとイェシドは、デウスリベリアの眼前に出た。
 デウスリベリアは至近距離にいるアリアに反応したようだったが、人の集合である村へ執着していた。目先の肉よりも人間の匂いの塊に反応しているのかもしれない。
(もしかしたら、この魔法生物は歪虚の影響を受けている?)
 思考するのは後回しだと考えて、アリアは騎乗したまま幻獣砲を構えた。
 翅を狙って撃つ。命中した。
 相次いで、イェシドが巨大蛾の鼻先で咆哮を発する。
 巨大蛾は一瞬すくむが、すぐに行動を再開した。

 中空を飛んで、戦場に馳せ参じたエメラルドは巨大蛾を目にして、一瞬怯む。
「あんなに巨大で禍々しいとは。……これは……ちょっと気分のいいものじゃないな」
 だが、村が危険に晒されているのを見過ごすわけにはいかなかった。
 なにより、今は頼れる相棒がついている。
 エメラルドは、自らが乗るグリフィン――フォルティスに声をかける。
「行くぞフォルティス、ヤツを止めるわ!」
 その掛け声に応じるように、フォルティスは嘴をカンカンと鳴らす。
 勇ましいその所作にエメラルドも勇気づけられる。
「一気に行く!」
 エメラルドはフォルティスに、ホーリーセイバーをかけ、そして一気に突っ込んだ。
 光を纏ったフォルティスは、その爪でもって巨大蛾を切り裂いた。
 デウスリベリアに深い傷を負わせた。

「蛾だからこんごこいつは「蛾っちゃん」で決まりだ。きーんとか言うといいんじゃないか?」
 とにもかくにも村にいかせないために、とゾファルはガルガリン(愛称ガルちゃん)を操縦しデウスリベリアの目前を横切る。
「早く戦いたくてじれったくてうずうずしていたんだ。満足させてくれよ! 行くぜ、スーパーオラオラモード!」
 突如、ゾファル操るガルガリンの全身が、赤く燃え上がるように見えた。
 それは機体の色と相まって一級の芸術品のようであった。
 デウスリベリアは、その光に目が眩んだようだった。

「相棒、今回は君の力が頼りだ」
 ワイバーンはきゅるると鳴いて、自分に任せろとでも言うようだった。
 アキノはその背をパンパンと鼓舞するように叩き、騎乗する。二人は空を駆けた。
「見えたぞ。デカいな。さすがに、緊急依頼を出すだけはある。よし、行くぞ!」
 デウスリベリアの尻が見えたところで、アキノはファイヤーブレスの指示を飛ばした。
 ワイバーンから放たれた火球はデウスリベリアに激突した。
 しかし、巨大蛾は進路を変えようとはしなかった。
「さすがの胆力と言ったところか」

 空を駆ける者がいれば、地を駆ける者がいる。
 ゴースロン種の馬で地を駆けていたディヤーは、丘を越えた先にデウスリベリアを発見した。それを目にして、生唾を飲む。
「想像以上じゃな」
 デウスリベリアを発見したディヤーは、さらに近づいていった。
 接近すると、小手調べというように、ディヤーはカウンターマジックを仕掛けた。
 しかし、ここはデウスリベリアの攻撃範囲内。
「ちと、近づきすぎたか。離れるぞ!」
 ディヤーは吹き飛ばしに警戒し、手綱を引き締め、重心を傾ける。
 頭の良いゴースロン種はその指示に従って、距離を取った。
「おぬし達も近づきすぎるでないぞ」
 近くにいた仲間に警告を発する。

 グリフォンがもう一体、デウスリベリアに近づく。
 その騎手は智里。彼女はその巨体を目にして、冷静さを保っていた。
「空中生物に騎乗すると命中も威力も半減すると聞きました。ただでさえ上手くない射撃が半減するくらいなら、最初から射撃は諦めて魔法の方がまだましだと思いますね」
 智里はメガネをかちゃりと掛け直し、漆黒の杖を握る。
 しかし、と安定した飛行をするデウスリベリアを見て、疑問が湧いてくる。
「……肉食で人肉が主食なんですよね? なら周囲を飛び回るグリフォンに人間が乗っていたら、ダブルでお肉に見えて気が惹けるんじゃないでしょうか? お腹が減っているなら、遠くのお肉より近くのお肉が優先な気がするんですが……どうして?」
 理屈ではそうだ。
 しかし、『彼』は村を目指して一直線だった。
 まるでそれが生存理由であるかのように。 

「平原で食い止めるしかないな。村も森も壊させねえ」
 カズマからの連絡を受けたリューは、強欲王の名を冠した『紅龍』に搭乗し、全速力で戦場に辿り着く。
 見えたのは巨大な蛾。蛾の飛行する高度まで飛翔。イニシャライズオーバーで周囲を結界で包みこんだ。
 準備を万端にして、その巨大蛾――デウスリベリアの進行方向へと立ち塞がる。
「いかせやしねえよ!」
 いくらデウスリベリアといえども、紅龍の大きさは無視できない障害。
 迂回するはず、とリューは半ば確信していた。
 だが、巨大蛾は人間の肉を欲し、あくまで直線距離を進むようだった。
「こいつ、まっすぐ進む気か……面白れぇ!」
 リューは紅龍を操作し、守りの構えを固め、デウスリベリアの動きを封じにかかるがその巨体を完全に封じることはできず、押し切られる。
「このデカぶつがッ――」

 アキノは機導砲で翅を狙った。
 それは見事に命中したが、その巨躯の動きを封じるまでに至らない。
「聞いていたとおり、体力も化け物だ」

 ――導たれ、光と歌よ。
 デウスリベリアの眼前を走っていたイェシドの上のアリアが唱える。
 その詠唱に、二振りの剣が呼応し、『光』が付与された。
「来るべきその時に、この剣にて――」

 グリフに乗ったカズマは旋回し、その鼻先を横切るように飛ぶ。
 しかし、デウスリベリアの侵攻は止まらない。
「くそ、それならこれでどうだ!」
 カズマの耳に取り付けられたセニャーレのリングが信号のように瞬く。
 蛾の集光性があるのならば気を引けるはずだが……。
 それは蛾とはいえ『魔法生物』。
 しかも、怪しげな魔術師DR.ミカゲシの謹製だ。
 蛾の習性など克服していたのだ。
「さすがに、これじゃダメか」

「静電気の充填などさせるものか! ……って即着火じゃから怖いのう」
 カウンターマジックを仕掛け、ディヤー自身はそこから距離を取った。

 ソウルトーチ。
 紅龍は第六感にも近い感覚を駆使しながら、縦横無尽に動き、全身を輝かせる。
 しかし、デウスリベリアはただまっすぐ進むのみだ。欠片も気にしていない。
「俺を無視すんならしてみろよ。後悔することになると思うけどなあっ!」
 リューは、紅龍の剛腕で渾身撃を叩きつけ、こちらの存在を誇示した。
 さすがのデウスリベリアもその一撃は重かった。
 速度を緩めて、リューの存在を気にした。

「行きますよ!」
 グリフォンに乗った智里は、エグリゴリを構える。
 現れたのは△だった。その頂点から光線が発射される。
 その全てが巨大蛾の翅に命中する。デウスリベリアはまた失速した。

 その時、デウスリベリアが大きく膨れあがる。
 蛾の翅から銀色の鱗粉がぶわっと舞い上がった。
「鱗粉か! 来るぞ、みんな!」
 接触すれば爆発する鱗粉だ。
 リューはそれを回避すべく、紅龍のアクティブスラスターを全開にすることで、その粉を回避していく。
「グリフ!」
 カズマの乗るグリフは小型の竜巻を起こし、鱗粉を吹き飛ばした。鱗粉は広範囲に広がり、接地した場所に火炎を起こしたが、爆発を伴うものにはならなかった。
 ディヤーの装備はローブに皮鎧、その姿はリアルブルーで見れば中東軽騎兵というところ。鱗粉が降りかかってきたが、火属性のジャケットで火鱗粉の対策はばっちりだった。
「辺境山岳騎兵の血を舐めるでないわ」
 ゴースロンに騎乗しながら、ディヤーは気炎を上げる。
 そして、空中の仲間達を見上げながら、それらと足並みを揃えて移動する。
(しかし、あの粉塵爆発に耐える個体。体力に優れるか、またその羽や本体も火属性なのだろう。水属性の攻撃を当てれば鱗粉の「激しい」飛散は防げるかも知れぬ)
 ディヤーはそう考え、実行するための準備をする。

「頼むぜ、相棒!」
 一馬の声に応えるように、グリフが逞しい爪で風を掴み、その翼をはためかせ一気に速度を上げた。ある程度近づくと、カズマはスローイングトランプを投擲して牽制する。
 デウスリベリアは、体を震わせる。

 紅龍のマテリアルエンジンが輝きを放ち。
 そこから、マテリアルエネルギーがマントのように広がった。
 それによって、範囲にいる仲間達の防御が著しく高まった。

「皆さん、直線上に入らないでくださいね」
 智里がエグリオリを構えると、術式陣が発生した。
 それは見る間に輝き放ち、空に巨大な氷柱を作る。
 翅を狙ったはずが、腹にぶち当たった。それはデウスリベリアの急所だったらしく、呻き声のような重低音がこだまする。

 デウスリベリアに腹側に潜り込もうとしたグリフとカズマだったが。
 度重なる攻撃を受けて気が立っていたデウスリベリアは、体を震わせ電撃を放出した。
 その予兆を感じ取ったカズマは、グリフに風を纏わせる。
「グリフ、避けろ!」
 鱗粉だったならば、風で流れただろうが、デウスリベリアが仕掛けてきたのは電撃。
 ウィンドガストの風の加護もそこまでの成果は上がらず。
 その攻撃をもろに食らう。
「くそ……大丈夫か、グリフ」
 グリフの目は痛みすら訴えておらず、敵を見据えていた。
「まだ行けるな、行くぞ!」

「これでも喰らえ! 神の反逆者よ!」
 ディヤーはデウスリベリア近くの丘陵で立ち止まり、ブリザードを唱える。
 凍えた空気が吹き荒れ、それがデウスリベリアを襲った。
 巨大蛾は、痛みに呻くように、不規則に翅をはためかせる。
「動いてこその騎兵なんじゃが、これはちと準備に時間がかかってのう」
 ディヤーはブリザードで攻撃後にすぐ、アースウォールを展開した。

 デウスリベリアが突如、その巨大な翅を大きくはばたかせた。
 空気が割れるように鳴り、突風が吹き荒れた。
「うわぁぁぁ! ――っと」
 グリフォンから投げ出された智里は冷静になってジェットブーツで姿勢を制御し、またグリフォンに騎乗し直す。
「……危なかったぁ」
 地上への落下を免れる。

 紅龍は青空を背に負い、一気に降下――。 
 デウスリベリアを撃ち落とすため、その背に一撃を与える。
 しかし、その一撃を浴びても、巨大蛾はまだ飛行を続けた。

 デウスリベリアが、鱗粉を再び飛散させた。
 ディヤーは騎乗しながら聖機剣を構える。
 ピキピキと空気が凍てつく。凍てついた空気が、鱗粉をも凍り付かせた。
 爆発は起こらない。
「ふんっ、やはりな! この程度、ワシにとっては造作もないことじゃ!」
 反撃とばかりに、デウスリベリアが身を震わせて、電撃の兆しを見せた。
 さすがに電撃までは凍てつかせられない。
 その範囲から離脱するように、ディヤーは俊敏に移動した。
「騎兵は逃げ足に優れるのが利点じゃからのー」

 デウスリベリアは平原を抜ける。
 ここで仕留めたかったハンター達は唇を噛んだ。
 森に入ってしまえば、村まではあとわずか……。

 ●森にて、その蛾は……

 森の中は木々が遮蔽になる。
 ディヤーはそれを利用し、ブリザードを敵目がけて撃ちこんだ。
 土手っ腹にぶち込まれた冷気の嵐に、それまで蓄積されたダメージもあって、デウスリベリアは翅をばたつかせてよろけた。
「よし、行けるのじゃ!」

(やっぱり男の子って虫平気なんだろうか……)
 エメラルドは、何の躊躇いもなく攻撃を繰り出す仲間達に、そんな感想をいだしてしまったが、思い直す。
(見た目はアレなんだが……なんだか哀れでもあるな。生まれたばかりで即討伐って……いや、だからこそ眠らせてやるべきなのだ!)
 エメラルドはそうやって自分を鼓舞させる。
 ――というか、
「おのれDr某! 何故我々がこんな気分になっているのだ! 後でたっぷり責任をとってもらうぞ!」
 ディヴァインウィル。
 その強固な意志は、神の反逆者である蛾の視界をも、奪った。
「リュー。今だ、行けるか?」
「俺様ちゃんに任せな。落としてやる」
「よし、手を休めず攻めるぞ、リュー!」
「ふははー、踏みつけて、踏みにじってやるじゃーん!」
(……しかし、容赦ないなあこいつ……)
 ゾファルの頼もしくも、猛然とした口調に、エメラルドは苦笑する。

 ゾファルの乗るガルガリンは、空中をサーフィンでもするかのように飛翔しデウス・リベリアを追い越すと、森の中に着地した。
 全長800cmのCAM用大太刀戦艦刀「雲山」を構える。
 真っ正面――。
 進行方向を違わずデウスリベリアは直進してくる。
 ガルガリンは太刀を佩くようにして、挙動を終え、そこから微塵も動かない。危険を感じたデウスリベリアは電撃で排斥しようと試みるが、ゾファルは一歩も退かなかった。
 スキルトレース――渾身撃。
 上段に構えた太刀はまっすぐに突っ込んできたデウスリベリアの右翅、目がけて振り下ろされる。
 瞬間、緑色の血がしゅばっ……と辺り一面に降り注いだ。
「はは、決まったじゃーん」
 ぼとり、と一枚の翅が落ちる。

 デウスリベリアは遂に落ちた。
 その巨体で木々を薙ぎ倒して、地面を抉る。
 接地した瞬間、その体に帯電していた静電気がバチバチと辺り一面に飛び、雷が落ちたように火災が巻き起こる。
 翅を一枚斬り落とされた巨大蛾はもう飛べない。
 だが――デウスリベリアは、まだ死んでいなかった。
 大勢の人間を喰らう、それを諦めていない。

「グリフ、今だ、一気に行くぞ!」
 カズマは叫ぶ。グリフも吠えた。
 急浮上からの急降下。
 巨大蛾の真上を取ったグリフは、落下の速度を加算させた小型の竜巻を巻き起こす。
 激突した竜巻――。
 それは急激な空気の膨張を伴った爆発と、真空状態からの斬撃を付随させる。
 デウスリベリアは甲高い悲鳴のようなものを上げた。
 グリフは、そんな巨大蛾に追い打ちをかけるように、地に堕ちた巨大蛾を踏みつけた。

「みんな、どいてろ!」
 リューの操る紅龍は大量のマテリアルを放出しながら、その長大な超々重斧を構えた。
 竜貫――紋章剣『天槍』。それをR7エクシリアで再現する。
 まるで空間でも縮むような素早く、長い一突き。
 それは得物が剣であろうが、斧であろうが変わりはしない。
 その切っ先は地に伏すデウスリベリアを砕く。

 ワイバーンから飛び降りたアキノは、地に堕ちたデウスリベリアに機導剣を浴びせる。
 さらに、研究材料になりそうなものも剥ぎ取った。
「ふむ、これはいい素材だな」

 智里の乗ったグリフォンは、墜落したデウスリベリアを追い越して。
 後ろから攻撃する仲間達と挟撃の格好を取って、機導砲を撃ち込んだ。
 もはや、巨大蛾に逃げる場所はなかった。

 最後の足掻きとばかりに、鱗粉が辺りに舞う。
 アリアはその中を突っ切った。
 爆発が彼女と、彼女の乗る狼の体力を削っていく。
 負傷は覚悟と剣で斬り祓う――。
「先には行かせないッ」 
 暴れ狂う巨大蛾に、双龍剣の軽い一撃を当て。
 得物を月魄に持ちかえる。
 そして、祓月――。
 それは光を纏う二剣の三撃。
 鋭く、迅い二振りの剣戟の後、さらに繰り出される衝撃波の一閃。
「ひとつの身とふたつの刃を廻しましょう。幾重もの幻月を描くように、双刃を閃かせながら」
 脅威であり敵であり『何か』を喪わせる魔物ならば、変わらない。
 アリアは、そう謳う。
「蝶の翅のように、旋風のよう踊らせて。月光の如き導の刃を!」

 デウスリベリア――神の反逆者は胴体が真っ二つに分かれ、そのまま目を黒くした。
 その沈黙で勝利を確信したハンター達は、安堵の息をつく。

 ハンター達は辛くも勝利を収めたが。
 デウスリベリアが沈黙した場所からは、村の入り口が見えていた。


 ●祝宴、そして断罪


 村の広場では、祝宴が行われていた。
 村人達が、村を救ってくれたハンター達に酒を振る舞ってくれたのだ。
 それこそ、勇者に報いるような盛大な祝いだった。
「すまなかったな。森を荒らしちまって」
 カズマの言葉に、村人は、村を救ってくれてありがとうと言った。
「いやぁー、村人に死人を出したら、今度こそ、監獄行きだったよ」
 その酒宴になぜかDR.ミカゲシまで参加している。
 ハンター達は、ぴきりと額に青筋を立てた。
「まあ、あんな魔法生物を作れるんだ。あとは運用法だろ。離れていても人間を探せるんだ。救護とかに使えるんじゃないか?」
 とは、カズマの言葉だ。
「……もっとかわいい愛玩動物系とか、食料需給率が上がる作物とか作られるんじゃだめですか……?」
 智里がもっともな提案をするが、
「ふはははは、そんな誰もが思いつきそうなものをこのDR.ミカゲシが作るとお思いか! 我はDR.ミカゲシ! 人とは違うモノを作りたい!」
 と、とりつく島がない。
 そこに現れたのは、ゾファルだった。
「俺様ちゃん達ゴミ掃除係じゃないんだから、わかってんだろ?」
「ん?」
「こうするジャーン!」
 ゾファルはDR.ミカゲシを裸に剥くと、逆さ吊りにしてしまった。
「ちょ、やめてくれ! 助手助けて!」
「いいぞーもっとやれーころせー」
 助手も乗り気だった。
「ひぃぃぃぃ……こ、殺さないでぇぇぇ」
 DR.ミカゲシは命乞いをする。
「よし、わかった。おしりぺんぺんしてやろう」
 ドS心をくすぐられながら、ゾファルはにひひひと不敵に笑んだ。

 ここはアキノの研究所。
 まるで、尋問室のような小部屋に、その男は通された。
「さて、DR.ミカゲシ」
「なんなのだ? 人をいきなりふん縛ってこんなところに連行して! 甚だ遺憾です!」
「あの巨大蛾、どんな素材を使って作っている?」
「え……いや……それはその……企業秘密」
「ふぅん。今まで成功したことが無いのに、今回になって突然こんな代物が生まれたのか不思議でならないねぇ。素材の中に負のマテリアルを含んだ鉱物があったか、実験中に歪虚が干渉した可能性も捨てきれないねぇ」
「うっ……」
「なにか知っているみたいだね」
 歪虚の影響か……とアキノは呟いて、にやりと目を細めた。
「しかしミカゲシ、君は研究者としては三流以下だねぇ」
「このDR.ミカゲシが三流……? バカな!」
「そうさ。危険な研究に身を窶すなら、自分自身に危険が降りかかる覚悟がなきゃ意味がないねぇ。少なくともあたしはそうしてるさ」
 そして、アキノはこう言い放つ。

「――じゃなきゃ面白くないからねぇ」

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
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MVP一覧

  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火ka4407
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウスka6424
  • 好奇心の化物
    龍宮 アキノka6831

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    グリフ
    グリフ(ka0178unit004
    ユニット|幻獣
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ロート
    紅龍(ka2419unit003
    ユニット|CAM
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アサルトガルチャン
    ガルちゃん・改(ka4407unit004
    ユニット|CAM
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    フォルティス
    フォルティス(ka4678unit001
    ユニット|幻獣
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コーディ
    コーディ(ka6424unit001
    ユニット|幻獣
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka6819unit003
    ユニット|幻獣
  • 好奇心の化物
    龍宮 アキノ(ka6831
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka6831unit003
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン お騒がせ博士
龍宮 アキノ(ka6831
人間(リアルブルー)|26才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/02/17 23:07:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/17 11:29:28