ゲスト
(ka0000)
【東幕】幕降りには早すぎて
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/26 22:00
- 完成日
- 2018/03/10 18:04
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
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オープニング
●天ノ都
ハンター達の奮戦により、憤怒の影は討伐できた。
世間では憤怒王の復活、そして、それを討伐したのがハンター達、救国の英雄であると噂になっていた。
「こりゃよ、タチバナの旦那。幕府に仕官するのは止めた方がいいかもしれませんぜ」
馴染みの麺屋の常連客が浪人に言った。
その浪人――タチバナ――は、ようやく冷めてきたお茶を口にする。
「……みたいですね。色々と“噂”は聞きますし」
その噂はタチバナも耳にしていた。
幕府を構成する武家は度重なる戦いで極めて疲弊している。中には夜逃げする武家もあるとかないとか。
それだけではない。東方にはまだ凶事が起こるというのだ。
「これから、どうなっちまうんですかね。この国は……」
「さぁ、どうなるのでしょうかね」
漠然とした不安感。きっと、それを感じているのは、この常連客だけではないだろう。
年明けから続く憤怒歪虚の活動に対する幕府の動きに不満を持つ者もいる。
(これ以上、困るような事にならなければいいのですが)
そう、心の中でタチバナは言った。
どうも、情報が上手く巡っていない気がするのだ。何か抜けているような、穴が開いているような、そんな気持ちになる。
「タチバナさん、お待たせしましたー!」
元気な声で麺屋の看板娘が、注文していた品を持ってきた。
その仕事ぶりを常連客はエロい目で見ながら、声を掛ける。
「そうだ、嬢ちゃん。最近、天ノ都で占いが流行っているんだって? そんなに当たるもんかね」
「昔から言うじゃないですか、当たるも八卦当たらぬも八卦って。でも、すっごく良く当たるっていう占い師もいるって話で」
楽しそうに話す看板娘だった。
●???
憤怒の歪虚である狐卯猾(こうかつ)は、憤怒本陣へと戻って来た。
灼熱の大地ではあるが、狐卯猾は汗水一つ落とさず、氷のような冷たさを感じさせる表情で仮の玉座に腰を掛ける。
「これは、どういう風の吹き回しかしら?」
狐卯猾は整然と揃って並ぶ憤怒残党歪虚を見下ろしながら言う。
本陣に戻ってきたのは、次なる策の準備の為であり、仮とはいえ、玉座に座っている場合ではない。それなのに、この状況だ。
「新たな憤怒王 狐卯猾様に我らの怒りの全てを捧げる所存!」
代表するかのように、燃え盛る全身甲冑を着込んだような憤怒歪虚が宣言すると、並んだ歪虚は一斉に頭を下げた。
先の五芒星術式の件で、どうやら“勘違い”されているようだ。
思わず眉をひそめ、狐耳のような髪がピクっと動く狐卯猾。正直、こういうのは面倒だった。
兄である蓬生から指揮権を譲って貰ったのも、五芒星術式を成す為に必要だった事なのだから。
「……結局、人間共に敗れたわ」
わざとらしくため息をついて言った。
もうこの後の展開が大体、予想ついたからだ。諦めといっても良い。
「例え、一時でも憤怒王が復活されたのは事実! それを成した狐卯猾様こそ、憤怒王に相応しい!」
「そうだ! 失礼ながら、蓬生様では、話にならぬ!」
「残った我々は、狐卯猾様を主としてお仕えします!」
と、そんな感じだ。
便利な駒が増えたからいいかと、狐卯猾は思う事にした。
次の策を弄するのに戦力は要らないが、あればあれで、それは使えるのだから。
「皆の者の気持ちはよく分かったわ。私がその怒りを導いてあげるわ」
ニヤリと微笑を浮かべながら言った狐卯猾の台詞に、憤怒残党歪虚は歓声の声を挙げた。
そのうちの1体、燃え盛る全身甲冑に身を纏う歪虚が進み出た。
「それがしの名は拷陀――ゴウダ――。狐卯猾様、何なりと、ご命令を!」
「そう……それじゃ、拷陀。早速、貴方の力量を見せて貰いたいわ」
そして、狐卯猾は人差し指を立て、それを外の方角へと向けた。
●十鳥城
憤怒の影との戦いの後、十鳥城代官の仁々木 正秋(kz0241)は菱川 瞬と共に十鳥城に戻ってきた。
なんだかんだ言って、長期の不在になってしまったが、十鳥城と城下町は無事だった。
「不在の間に歪虚の襲撃があったって?」
瞬の驚くような言葉に正秋は頷いた。
彼は不在の間の出来事の報告を、先程まで聞いていたのだ。
幸いな事に、十鳥城の守りは堅い。
攻め寄せてきた憤怒歪虚残党の群れは城壁を越える事が出来ず、逃走したらしい。
「俄然、歪虚勢力の動きは活発。ますます、街道の安全を確保しないと」
「それもそうだが、やはり、距離が離れすぎているよなー」
不満そうに瞬は言うと、外の景色に視線を向けた。
ここから天ノ都までは離れすぎている。街道を守り切るのは困難だろう。
「恵土城付近も危険という話もあるから、どうしたものか」
正秋はため息をついた。
憤怒歪虚との戦は終わったものかと思ったが、まだまだ続きそうだ。
「いっその事、転移門でもあれば、楽なんだけどなー」
「お前は相変わらずだな」
瞬の言葉に正秋は苦笑する。転移門の維持には莫大なマテリアルが必要なのだ。
そして、さすがに、それを維持できるほど、マテリアル資源がある訳ではない。
「じゃ、せめて、近くに出来る事で我慢する」
「幕府に進言するのも、ありか……」
遠く、天ノ都の方角に、正秋は視線を向けるのであった。
ハンター達の奮戦により、憤怒の影は討伐できた。
世間では憤怒王の復活、そして、それを討伐したのがハンター達、救国の英雄であると噂になっていた。
「こりゃよ、タチバナの旦那。幕府に仕官するのは止めた方がいいかもしれませんぜ」
馴染みの麺屋の常連客が浪人に言った。
その浪人――タチバナ――は、ようやく冷めてきたお茶を口にする。
「……みたいですね。色々と“噂”は聞きますし」
その噂はタチバナも耳にしていた。
幕府を構成する武家は度重なる戦いで極めて疲弊している。中には夜逃げする武家もあるとかないとか。
それだけではない。東方にはまだ凶事が起こるというのだ。
「これから、どうなっちまうんですかね。この国は……」
「さぁ、どうなるのでしょうかね」
漠然とした不安感。きっと、それを感じているのは、この常連客だけではないだろう。
年明けから続く憤怒歪虚の活動に対する幕府の動きに不満を持つ者もいる。
(これ以上、困るような事にならなければいいのですが)
そう、心の中でタチバナは言った。
どうも、情報が上手く巡っていない気がするのだ。何か抜けているような、穴が開いているような、そんな気持ちになる。
「タチバナさん、お待たせしましたー!」
元気な声で麺屋の看板娘が、注文していた品を持ってきた。
その仕事ぶりを常連客はエロい目で見ながら、声を掛ける。
「そうだ、嬢ちゃん。最近、天ノ都で占いが流行っているんだって? そんなに当たるもんかね」
「昔から言うじゃないですか、当たるも八卦当たらぬも八卦って。でも、すっごく良く当たるっていう占い師もいるって話で」
楽しそうに話す看板娘だった。
●???
憤怒の歪虚である狐卯猾(こうかつ)は、憤怒本陣へと戻って来た。
灼熱の大地ではあるが、狐卯猾は汗水一つ落とさず、氷のような冷たさを感じさせる表情で仮の玉座に腰を掛ける。
「これは、どういう風の吹き回しかしら?」
狐卯猾は整然と揃って並ぶ憤怒残党歪虚を見下ろしながら言う。
本陣に戻ってきたのは、次なる策の準備の為であり、仮とはいえ、玉座に座っている場合ではない。それなのに、この状況だ。
「新たな憤怒王 狐卯猾様に我らの怒りの全てを捧げる所存!」
代表するかのように、燃え盛る全身甲冑を着込んだような憤怒歪虚が宣言すると、並んだ歪虚は一斉に頭を下げた。
先の五芒星術式の件で、どうやら“勘違い”されているようだ。
思わず眉をひそめ、狐耳のような髪がピクっと動く狐卯猾。正直、こういうのは面倒だった。
兄である蓬生から指揮権を譲って貰ったのも、五芒星術式を成す為に必要だった事なのだから。
「……結局、人間共に敗れたわ」
わざとらしくため息をついて言った。
もうこの後の展開が大体、予想ついたからだ。諦めといっても良い。
「例え、一時でも憤怒王が復活されたのは事実! それを成した狐卯猾様こそ、憤怒王に相応しい!」
「そうだ! 失礼ながら、蓬生様では、話にならぬ!」
「残った我々は、狐卯猾様を主としてお仕えします!」
と、そんな感じだ。
便利な駒が増えたからいいかと、狐卯猾は思う事にした。
次の策を弄するのに戦力は要らないが、あればあれで、それは使えるのだから。
「皆の者の気持ちはよく分かったわ。私がその怒りを導いてあげるわ」
ニヤリと微笑を浮かべながら言った狐卯猾の台詞に、憤怒残党歪虚は歓声の声を挙げた。
そのうちの1体、燃え盛る全身甲冑に身を纏う歪虚が進み出た。
「それがしの名は拷陀――ゴウダ――。狐卯猾様、何なりと、ご命令を!」
「そう……それじゃ、拷陀。早速、貴方の力量を見せて貰いたいわ」
そして、狐卯猾は人差し指を立て、それを外の方角へと向けた。
●十鳥城
憤怒の影との戦いの後、十鳥城代官の仁々木 正秋(kz0241)は菱川 瞬と共に十鳥城に戻ってきた。
なんだかんだ言って、長期の不在になってしまったが、十鳥城と城下町は無事だった。
「不在の間に歪虚の襲撃があったって?」
瞬の驚くような言葉に正秋は頷いた。
彼は不在の間の出来事の報告を、先程まで聞いていたのだ。
幸いな事に、十鳥城の守りは堅い。
攻め寄せてきた憤怒歪虚残党の群れは城壁を越える事が出来ず、逃走したらしい。
「俄然、歪虚勢力の動きは活発。ますます、街道の安全を確保しないと」
「それもそうだが、やはり、距離が離れすぎているよなー」
不満そうに瞬は言うと、外の景色に視線を向けた。
ここから天ノ都までは離れすぎている。街道を守り切るのは困難だろう。
「恵土城付近も危険という話もあるから、どうしたものか」
正秋はため息をついた。
憤怒歪虚との戦は終わったものかと思ったが、まだまだ続きそうだ。
「いっその事、転移門でもあれば、楽なんだけどなー」
「お前は相変わらずだな」
瞬の言葉に正秋は苦笑する。転移門の維持には莫大なマテリアルが必要なのだ。
そして、さすがに、それを維持できるほど、マテリアル資源がある訳ではない。
「じゃ、せめて、近くに出来る事で我慢する」
「幕府に進言するのも、ありか……」
遠く、天ノ都の方角に、正秋は視線を向けるのであった。
リプレイ本文
●カイン・シュミート(ka6967)
天ノ都で旨いもの巡りをしていたカインは興味津々に大判焼きの様子を見ていた。
金属の型に注ぎ込まれる生地。絶妙なタイミングで職人が焼き上げる。
「珍しいですか?」
そういって尋ねてきたのは、浪人の侍だった。
薄汚れた袴にぼうぼうに伸びた髪。だが、その刀の柄だけは無駄に豪華な装飾がなされている。
「あぁ。北方もだが、東方は、西とはやっぱ文化違うよな。街並みとかも違うし」
「そうですね。文化の違いというものは面白いものです」
浪人の侍がお茶の入った湯呑を手渡してきたので、カインはそれを受け取る。
「極北と南方は……行って帰った奴の話を聞いたことねぇから分かんねぇけど、世界は広いよな」
「全くです」
東西南北のクリムゾンウェストだけではない。異世界だってあるのだ。
そこには一体、どんな文化があるのだろうか。どんな人々が暮らしているのだろうか。
「東方は1回しか来たことねぇんだよな。何か聞いてもいいか?」
「構いませんよ。焼きあがるまで何でも聞いて下さい」
カインの言葉に浪人の侍は微笑を浮かべて応えた。
そういう訳でカインは流浪の侍と東方の話で盛り上がるのであった。
●天竜寺 詩(ka0396)
天ノ都のとある麺屋にて、まずは一杯食べ、詩とタチバナはお茶を飲みながら過ごしていた。
平静を装っているが、タチバナの心中は穏やかではないだろうなと詩は感じた。
「まだ、武家と公家の諍いは収まらないみたいだね」
詩の言葉にタチバナは頷いて答える。
「今に始まった事でもありませんから」
「私の生まれた国でも昔そういうのがあったらしいけど……」
歴史を思い出しながら、詩は話を続ける。
「今は幕府も公家も無いけどね。帝はあくまで国の象徴で、国民の選挙で選ばれた代表が国を治めてるんだ」
「象徴ですか……」
「この国もそうなれば、スメラギ君も落ち着いて暮らせるのかなぁ」
もっとも、象徴となっても慌ただしそうな気もしないでもないが。
「何にせよ、まずは目の前の歪虚ですね」
タチバナが息を漏らしてから呟く。
五芒星術式を行使した歪虚の行方は不明だ。次、どんな陰謀を考えているか分からない。
「私でよければ力になるから、その時は遠慮せず頼ってね」
だから、詩はお茶を飲みながら微笑みをタチバナに向けた。
避けては通れない戦いがあるのなら、力になるだけの事なのだから。
●リラ(ka5679)&歩夢(ka5975)
歩夢の符が結界を形成した。それで雑魔の足元の地がぬかるみ、動きが鈍くなる。
「一気に叩きます!」
気を練りこんだ強烈な拳の一撃を繰り出す。
奇怪な叫び声をあげながら、雑魔が崩れ去った。
雑魔を率いていた憤怒歪虚が形勢の不利を感じたのか、その隙に逃げ出す。
「俺が行く」
戦友に告げると、歩夢が符を構えながら追いかけた。
だが、すぐに追いつくような事はしない。微妙な距離をわざと保つ。
「やはり、拠点があるようだ」
「大当たりですね」
符で連絡を取り合う、歩夢とリラ。
既にリラは全力で迂回にしているのだ。戦闘を有利に運ぶのに符術は便利な魔法が多い。
逃げ出した憤怒歪虚はリラが迂回しているのも知らず、簡素な石組みの中に入ると、反撃とばかり、歩夢に向かって炎を吐き出す。
犬に複数の鼠の頭が融合しているような憤怒歪虚は、続けて、負のマテリアルの光線を撃ち出そうとしていた。
それより先に、歩夢の符が舞った。
憤怒歪虚の周囲で結界を作り出すと、眩く光る。
「終わりだ」
東洋風の直剣を構えた。
それを迎え撃とうとする憤怒歪虚の無防備な背後に対し、迂回していたリラが必殺の一撃を放つ。
気合の掛け声と共に突き出した右拳からマテリアルが流れる。
「これで決めます!」
叩きこんだ右拳の勢いを左に流し、自身の腰を低く落とした。
直後、マテリアルの輝きを発しながら、素早い動きで左拳を憤怒歪虚の鼻っ面に突き出した。
何かが衝突したのかという程、激しい音を立てて、歪虚が地に落ちた。
人間でいえば、意識を失っている状態に近いかもしれない。
「よし、トドメだ」
「はい! 歩夢さん」
二人は頷き合った。これで憤怒残党討伐の依頼は無事に達成だろう。
しかし、これで終わった訳ではない。無計画に憤怒歪虚が居るような、そんな雰囲気は感じなかったからだ。
「組織だった動きを感じるな。だが、一つ一つ潰していけばいい」
「そうですね。そうすれば、いずれ、敵の尻尾を捕まえられると思います」
憤怒残党歪虚はまた、何か企んでいるはず。
ハンター達の東方での戦いはまだまだ続く、そんな予感めいたものを二人は感じたのであった。
●時音 ざくろ(ka1250)&白山 菊理(ka4305)
天ノ都より、やや離れた所領。その温泉街へと二人はやってきた。
魔導カメラで自分達を撮って貰ったり、観光名所を楽しんだりと東方旅行を存分に楽しむ。
白百合の着物に身を包んだ菊理がゆっくりとした足取りで石段を上がる。その白い手を引いているのは、ざくろだった。
「菊理、見て」
ざくろが指を差しながら言った言葉に従い、上がってきた階段を振り返った。
「綺麗……」
温泉街の灯りが星々のように輝いている。
和風と中華を合わせたような作りの建物ばかりであるが、灯りに照らされた街並みは美しかった。
「昔の日本もあんな感じだったのかな?」
「昔の日本か……大陸の方の文化に近いかもしれないな」
ざくろの疑問に、菊理が答える。
風に乗って流れる髪を耳に掛けた時に見えた、うなじが妙に色っぽい。
胸の高鳴りを抑えながら、ざくろが気を取り直し、別の方向へと差す。
「あそこが、宿だよ」
なんでも優所正しき温泉宿らしい。
広大な敷地の離れ。い草の心地良い香りの和室。
温泉で、らきすけの神が降臨されたが、一先ず、一汗流してこれから夕食だ。
机に次々と運ばれてくるのは料理の数々。目立つのは中央の大きめの鍋だった。
「菊理が蓋を開けて」
「構わないが……鍋奉行はざくろの役目だと――」
ざくろに言われ、そんな事を言いながら鍋蓋を開ける菊理。
言葉が途中で止まったのは、鍋の中に『結婚おめでとう』との文字を模った食材が入っていたからだ。
「ちゃんと新婚旅行って、してなかったなって思って……喜んで貰えると良いな」
照れながら、ざくろが告げる。
ハンターとしての活動が慌ただしく、こうした旅行は出来なかった。
菊理は思わず目元を抑える。こんなサプライズがあるとは思いもしなかったから。
「すごく、嬉しいよ……」
いつもはハーレムの帝王だとか、らきすけ魔人で、どうしようもないが、こんな時は真面目だ。いや、彼は常に真面目なのだが。
「ありがとう、ざくろ」
「こちらこそ。これからもよろしくね、菊理」
嬉し泣きする菊理の肩を抱き寄せようとするざくろだが、支えていた片方の手が滑り、そのまま押し倒す形となった。
「あわわわ……」
「料理が冷めてしまうな」
慌てるいつものざくろに微笑を浮かべる菊理。
二人はそのまま見つめ合うと、唇を合わせて一つに重なったのだった。
●ミィリア(ka2689)
「武具は侍の大事な命! 確りと磨くのでござる!」
「だからって、数多すぎだろ!」
十鳥城の一室にてミィリアと菱川瞬は武具の手入れに追われていた。
カカオ特需により、貧困から脱したとはいえ、それでも、苦しい台所事情。
人手も不足している事もあり、留守番がてら、二人で武具の手入れを行っているのだ。
「この程度で音を上げるなど、瞬は鍛錬が足らないでござる」
溢れるほどの女子力(パワー)を持つミィリアと比べられるのも可哀想ではあるが。
「く……簡単に認める訳にはいかねぇ」
「ミィリアも負けていらない!」
そういう事で、うぉぉぉ! とか、どりゃぁぁぁ! という二人の雄叫びが十鳥城に響いたのであった。
次から次にピカピカに磨かれる数多くの武具。この調子なら日が暮れる頃には終わるかもしれない。
「よっしゃ! 早く終わったら飲みにいこうぜ!」
「……酔わせてどうするつもりでござる!」
「安心しな! 俺はな、飾りの無い金属鎧みたいな胸の女に、興味はないぜ!」
無駄にドヤ顔で宣言する瞬の頭に、和装甲冑が投げ込まれたのは言うまでもなかった。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
「繋がりがヒトの強さというのは否定しない。だからと言って個が努力をしないのならば、それはただ馴れ合いで怠慢だ」
アルトの言葉に立花院 紫草(kz0126)は頷きつつ、刀を無防備に下げる。
それは模擬戦の終わりを意味するものではない。紫草の刀なのだ。
「傲慢だとは思うが、私がもっと強ければ怪我や人が死ぬのも減らせるはず」
「より強さを求める理由は分かりましたが、残念ながら、私から紹介できる人は居ませんね」
様々な強者の紹介を求めたアルトに紫草は自身の刀を持って応えたのだ。
どことなく楽しそうな雰囲気の将軍に対し、アルトは愛刀を構える。
「何か?」
「これは失礼。嬉しくて、ついですね……人は一人ひとりが、変わらなければ意味がないと、私は考えていますから」
「将軍直々に稽古をつけてもらうならんてね」
ニヤリと口元を緩めるアルト。東方最強とも噂される侍だ。学ぶ事は幾らでもあるはず。
「正確に言うと違いますよ。私の稽古相手です」
「なら、十分に務まるように全力で、いくよ!」
マテリアルの輝きを地に残しながら、アルトが斬りかかった。
●ヘルヴェル(ka4784)
「天ノ都ですっごく良く当たるっていう占い師に会いに行ってみたいですね」
そんな事を占い紹介の仲介人にヘルヴェルは言った。
占いも色々あるだろう。恋愛に強いだとか、失くし物を見つけるだとか。
しかし、凶事も当てる事ができるというのは、警戒や保護が必要ではないかと思う。
案内されたのは、そこそこ腕の良いとされる符術の占い師だった。
「恋愛占いなら、某半裸王のお嫁様が誰になるとか、知人の黒髪お兄さんの婚期とか聞きたいのだけど」
「色々、聞きたいみたいですね……ですが、占いは絶対ではありませんから」
「貴方では無いのですか? すっごく良く当たる占い師とは」
その質問に占い師は僅かばかりに首を横に振る。
では一体、誰が『よく当たる占い師』なのか。
「私も噂で聞いた程度なのですが……貴女の言う、よく当たるという占い師は、国の偉い人と繋がりがある人と関わりがあると……」
「その人を見つけ出せれば、たどり着ける?」
ヘルヴェルの台詞に対し、占い師は1枚の符を束から引いてみせた。
「私の占いによると、貴方が探し続ければ」
如何にも占い師らしい言葉を告げたのであった。
●シェルミア・クリスティア(ka5955)
龍尾城にある紫草の私邸。その縁側にシェルミアと紫草は座っていた。
「最近の騒動では、あまり力になれなくて……」
「気にする事はありませんよ。ここに来たのも、東方の事を思っての事だと思いますから」
紫草の言葉にシェルミアは小さく頷いた。
静かに符を取り出すと、それを五芒星に並べる。
「わたしとしては、憤怒王 獄炎の復活は、偶然の産物だと思って」
術式そのものの目的は別にあったのではないかと。
例えば、人の負の感情を煽って、人同士で争わせる事など……あり得たのかもしれない。
「偶然の産物というのは私も思うところです。あまりにも不自然としか思えませんでしたから」
「獄炎の復活以上の可能性を狙っていた?」
「そうですね。ですが、それが何かという所までは、秘宝を調べても分かりませんでした」
一先ずの危機は去った。だが、術式を展開したと思われる歪虚にまでは届いていない。
これから先、獄炎の影以上の凶事が起こる可能性があるとすれば……。
「正しく、煩慮……ですね」
シェルミアは重く垂れこめる曇り空を見上げた。
そんな凶事が起こったのなら、力になると思いながら。
●ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)
十鳥城付近の街道をニャンゴが馬に乗って移動していた。
手には幾枚にも重なった紙。書かれているのは、街道の様子だ。
「想像以上に状況が悪い街道ですね……私ほどではありませんが」
いつものネガティブな台詞を発しながら、ニャンゴはそう分析する。
魔導カメラで街道の様子も撮影。街道を往く人々の確認。
途中、偶然にも出没した雑魔の退治もした。
「私ごときが集めた情報など粗末なものかもしれませんが……」
だが、街道の情報は大切なはずだ。
街道整備や警備、雑魔討伐など、行う事は多い。やはり、実際に歩いて確かめた意味は大きいだろう。
「それにしても、長いですね」
フードを外して手をかざした。
街道と呼ぶには適当過ぎる裸地の先には……何も見えない。一応、天ノ都には通じているらしいが。
「これでは……街道の維持は無理っぽいですね」
そう結論がついた。あるいは、天ノ都から南のどこかに転移門があれば別かもしれないが、ニャンゴは調査結果をそのように締めくくったのだった。
ちなみに、ニャンゴが調査した結果は彼女の名を関するレポートとして正秋の元に届けられたという。
●龍崎・カズマ(ka0178)
凶術“五芒星術式”の頂点となった一つを調査してから、彼は天ノ都郊外へとやってきた。
獄炎の影を打倒した地だ。
「五芒星の頂点でなければならない理由はなかった。むしろ、中心地に意味があった……」
だとすれば、敵は何時でも五芒星術式を使えるという事もいえる。
防衛の在り方を考える必要があるだろう。
「この凶術を逆に使って正のマテリアルを集められないのか」
ぼんやりと大地に座り込み、カズマは思案に暮れる。
正のマテリアルを多く集められれば、枯れた龍脈に注げるかもしれないし、天ノ都にしかない転移門を別の所に作れるかもしれない。
(……というか、幕府はそんな術式があると最初から分かっていなかったか)
そう考えれば、五芒星術式を応用するというのは難しいだろう。
敵が集めた負のマテリアルで憤怒王の復活を狙ったのしたのであれば、歪虚の陰謀は達成されただろう。
(術は発動させる意味がある。もし、憤怒王の復活が狙いじゃなかったら……)
その場合、どんな事が起こっていたのだろうか。
胸に重くのしかかってくる妙な違和感をカズマは生唾を飲み込み、抑えたのであった。
●瀬織 怜皇(ka0684)&Uisca Amhran(ka0754)
「流行している占いって、どんなものなのかな?」
ワクワク感いっぱいの笑顔でUiscaが手を繋ぐ怜皇に尋ねる。
こういう所は年相応の女の子なんだなと心の中で思いながら、怜皇が観光案内所で貰ったパンフレットを広げた。
正直言うと、あまり占いには興味はないのだが、Uiscaが楽しければ、それでいいかとも思う。
「符を使ったり、易経だったり、相を見たり、色々あるようだ」
さすがに流行りという事だけあって、占い師の数も多い。
すべてを回っていたら、それだけであっという間に1日が過ぎてしまうかもしれない。
「怪しい占い師を探すのは大変か……」
「怪しくないなら普通に楽しめばいいかと」
真面目に考える怜皇に対してUiscaはニッコリと笑った。
兎に角、色々な噂の聞き込みをしながら、実際に回ってみないと分からない事なのだから。
そんな訳で、二人は飽きもせず何軒か巡り、ある占い師にたどり着いた。
「占い師さん。私達2人のことを占ってください♪」
「どうぞ、お掛け下さい。見たところ、西方からの旅行ですか?」
奇妙な水晶球を磨きながら占い師が尋ねてきた。
「そんな所です。宜しくお願いします、ね」
言葉を濁しながら怜皇は席に座る。
特に負のマテリアルは感じない。
「……おぉ! これは素晴らしい。雌雄一つの美しい鳥が見えます。正しく、比翼連理ですな」
「ヒヨクレンリ……?」
首を傾げるUiscaに占い師が答えた。
「相思相愛の仲という意味ですね」
「占いの結果、いい感じだよっ!」
ハグっと隣に座った怜皇に抱きついたのだった。
占い結果に満足そうなUiscaの様子を微笑ましく感じながら怜皇は占い師に訊く。
「よく当たる占いの話って知っていますか?」
占い師は水晶球を磨きながら記憶の糸を辿っているようだった。
「確か、正月前後位からだったかな……」
「貴方では無いのですね?」
「昔からやっていますけど、そんな噂話になった事はないですから」
苦笑を浮かべる占い師は言葉を続けた。
「でも、不思議な事にその占い師に逢ったという人は、私の知り合いにも居ないのですよ」
その台詞に怜皇とUiscaはお互いの顔を見合わせて首を傾げた。
それでは、噂の出処は一体、どこだというのだろうか……。
●ユリアン(ka1664)&蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)
幕府が派遣している浄化班に付き添う形で二人はヨモツヘグリ跡に到着した。
ここは、凶術“五芒星術式”の頂点の一つだった場所でもある。
今は辺り一面、負のマテリアル汚染により、荒野となっていた。
「絶望を識るには十分に過ぎる程の状況……なれど、今再び浄化に向かうか……」
蜜鈴がいつでも戦える準備をしながら呟く。
「皆、天ノ都を……誰ぞを、想うて居るのじゃな……」
浄化班の面々は落ち着いていた。
いつ、憤怒残党に襲われるか分からない状況なのにだ。それだけ、何か想いがあるのかもしれない。
「五芒星術式。あの術は、影を倒してそれで終わるのだろうか?」
目を細めながら周囲を見渡すユリアンがそんな疑問を口にした。
「憤怒祭壇のあった場所じゃが、特別な場所……という訳じゃなさそうじゃな」
大地に手を触れながら蜜鈴はそう分析する。
かつては城があったといわれるが、特段、何かあったという訳ではないのは、浄化班のメンバーから教えて貰った。
「五芒星の各頂点、調べる限りでは共通点が無かった……」
「となると、頂点の存在は術式の起点でも維持するものでもないという事も考えられるかのう」
二人の会話に浄化班を率いる人物が、ある資料を見えるように広げる。
それは、嘉義城の地下で発見された秘宝『エトファリカ・ボード』に書かれた内容を模写したものだった。
「五芒星術式とは、本来、高位の憤怒歪虚が自身に負のマテリアルを集めるもの。当然、その中心は術者なはずですが……」
その説明に、二人の視線は五芒星の中央へと向いた。
「天ノ都が中心だけど、そこには……」
「そうじゃ、そんな高位の歪虚なぞ、おらんしのう」
秘宝の縮尺がいくつか分からないが、獄炎の影が出現した場所は、正確な意味では五芒星の中央では無いかもしれない。
それに、獄炎は既に消滅しているのだ。消滅した存在が術式を使えるとは考えにくい。
「……つまり、負のマテリアルを集めたのは、自身に使うつもりでも獄炎を蘇らせるものでもないという事かの?」
「だとしたら、一体何の為に……」
「集まるのは負のマテリアルじゃ、きっと、災いを呼ぶものじゃな」
獄炎の影が復活したと事でも十分に凶事なのだが……。
「だからこそ……凶術なのですね」
秘宝の紛失という事から始まった事件はまだ終わっていない。
そう、ユリアンと蜜鈴は思ったのだった。
●カイ(ka3770)
「水・食料・暖を取る道具は最低限必須だろ!」
役人相手にカイが叫んでいた。天ノ都は東方の都なだけあって広い。それ故に、細かい所まで手が届かない事もある。
だから、ちょいちょい、声を掛けて復旧を手伝っているのだ。
(被害箇所を線で結ぶと魔方陣に成ったりはしなかったか……)
子供達に諸々と注意しながらお菓子を配りつつ、街の便利屋さんとして次から次に要件をメモしていく。
同時に、変わった情報も無いかと聞き込みも行う。
「ん? どうした? 空ばかり見上げてよ」
一人の子供が不安そうにしていたのをカイは見逃さなかった。
「この前、大きい化け物が出る直前に、都の空から、どんよりしだしたから、それから怖くて」
「そんな事があったのか、でも、もう大丈夫だ。化け物は退治したからな」
子供を安心させるように胸を張るカイ。
しかし、その心の中では別の事がよぎっていた。
(都の直上に負のマテリアルでも集まったのか?)
今となっては確かめる術はない。だが、きっと、恐ろしい事の前触れだったかもしれない――そう、カイは感じ、空を見上げたのだった。
●銀 真白(ka4128)&鞍馬 真(ka5819)&アレイダ・リイン(ka6437)
十鳥城から離れ、ハンター達は長江にやってきた。
長江西にはカカオの農場があるのもあり、歪虚や雑魔の動向に特に気を配っているからだ。
「憤怒の脅威が去ったとはいえ、しばらくこの近辺は物騒な事件が続くんじゃないかね?」
巨大な斧を肩に掛け、アレイダが周囲を見渡しながら言った。
視界の中に歪虚はいなそうではあるが、用心に越した事はないだろう。
「憤怒王を倒しても、歪虚がいる限り私のやることは変わらないな」
答えたのは真だった。いつでも刀が抜けるような、鋭いオーラを放っている。
先の獄炎の影の討伐戦の際、結界を維持する為に戦い続けた彼は大きな怪我を負っていた。
その傷がようやく癒えて、すぐに依頼だ。
「もうじき、目撃情報が多い所だな」
「大物を倒したとしても、問題がある限りはやる事は変わらない」
アレイダの言葉に真は頷いた。
依頼がある限り、ハンターとして全力を尽くすだけだ。逆に依頼が無くなったらどうなるのだろうかと一瞬、思った。
「先日の大戦は皆、無事に戦い抜けて何より。そうであろう、正秋殿」
真白が最後尾を歩く仁々木 正秋(kz0241)に振り返りながら声を掛けた。
「はい。皆さんのおかげで歪虚の陰謀を打ち砕く事ができました」
「しかし、獄炎の影は討ち果たせたものの、有力な歪虚にまでは手が届いていない」
蓬生や狐卯猾という名の歪虚は健在だ。
しばらく、天ノ都周辺は警備体制が強化されるだろう。相手が絡め手を使うなら、都から遠い地を狙う事も考えられる。
「長江で憤怒歪虚の活動が増えてきているという噂もありますから、今日はハンターの皆さんと確認できればと思います」
いわば、威力偵察も兼ねているという事だ。
真白が考えるように人差し指を何気なしに口元へと当てた。
「転移門とまではいかずとも火急の際に駆けつけたり、連絡を取る体制や仕組みが出来れば良いのだが……」
この辺り、治安維持にどう対応するかが、これからの課題だろう。
その時だった。先頭を歩くアレイダが斧を一度、豪快に振り回してから構えた。
「どうやら、出たようだ」
ハンター達の視界の中に、憤怒歪虚らしい集団が見えたのだった。
戦い自体は問題無かった。
ハンター達の実力がものを言った形だったからだ。
「……あの歪虚は何故、戦わない」
最後に残った雑魔を斧で両断し、アレイダは丘の上に立つ甲冑歪虚を睨む。
「掛かって来ないのか!」
斧先を向けて叫んだが、相手は微動だにしなかった。
燃え盛る全身甲冑。相当な負のマテリアルを感じる。
静かに刀を鞘に戻し、乱れた着物の衿を直しながら真は歪虚に向かって言葉を発した。
「名のある歪虚と見た。何者だ」
「それがしの名は拷陀(ゴウダ)。新たなる憤怒王 狐卯猾様に仕える者だ」
どうやら、ハンター達の戦いぶりを観察していたのだろう。
「新たな憤怒王……何を企む」
油断なく警戒しながら真白は言った。
狐卯猾は確実に陰謀を仕掛けてくるタイプだ。
「貴様らが知る必要もないだろう。いや……確実にいえる事は一つあるな。それは、これから、貴様らとの死闘になるという事だ」
その言葉に臨戦態勢に入るハンター達。
甲冑歪虚は軽く鼻を鳴らすと踵を返した。
「今日は様子見。次を楽しみにしているぞ」
そんな言葉を残して、甲冑歪虚は炎に包まれて消えたのだった。
●アルマ・A・エインズワース(ka4901)&仙堂 紫苑(ka5953)
龍尾城のある一室に通されたアルマが部屋に入るなり、紫草へと飛びつく。
「わふーっ!」
いつもの突撃に対し、紫草は微笑を浮かべて受け止めた。
今回はちゃんとアポを取った上での面会だ。学習は大事である。
尻尾ではないが、外套を激しく揺らしながら、顔を上げたアルマに紫草は頷くと視線を変えた。
「こちら僕の参謀のシオンです……紫草さん、わふーしたら、やです……?」
「いえ、構いませんが、むしろ、ご友人が引いているようにも見えたので」
仙堂がこめかみの辺りをひくひくとさせていた。
アルマが無礼にも飛びついているのは、エトファリカ征夷大将軍その人である。
下手をすれば、打首獄門だ。しかし、気にした様子なくアルマはグリグリと紫草の胸に頭を当てつけた。
「だから! そういうことするなって言ってんだろうが!」
こうなったら、東方に受け継がれるという謝罪の奥義――土下座――にて許しを請うしかあるまい。
「アルマも紫苑さんも仲が良さそうでいいですね」
ニッコリと爽やかな笑顔を向ける紫草。仙堂の心配は杞憂であったようだ。
すると唐突にアルマがビシっとお手……ではなく、右手を挙げて宣言する。
「紫草さん! 僕、魔王を目指します」
「行き成り、本題!?」
目を丸くする仙堂。雲行きが怪しくなったら、軌道修正しようと心に誓った。
もっとも、この友人を止めようと思ったら、命懸けになるだろうが。
「今は皆、仲良しですけど、歪虚さんがいなくなった後も、共通の敵がいれば、争わなくて済むのです」
「敢えて茨の道を進むのですか……その道のりは険しいですよ。まず、私より強くならなければなりませんから」
優し気な表情を称えながら紫草は言った。
「それは本当に茨の道だ」
思わず、唾を飲み込む仙堂。
東方最強とも噂される程の実力者である紫草。それに勝る力がなければ魔王になれないと将軍は告げているのだ。
「僕、ヒトが好きですー。お友達が一番ですけど! だから、魔王になります!」
元気なアルマの言葉に頭を抱える仙堂。
「アルマはアルマで勝つつもりか」
「紫草さんの事も大好きですー! 応援してくれます?」
目を輝かせる彼に、紫草はいつもの微笑を浮かべて答えたのであった。
「その時が来たら、手加減せずに、全力で向かわせてもらいますよ」
――と。
●志鷹 都(ka1140)
獄炎の影が討伐されたが、全くの損害なしという訳にはいかなかった。
警備の為に残っていた者や避難の最中で怪我をした者と、城下町にある救護所は怪我人でごった返していた。
「……これで、大丈夫ですね」
疲労を顔に出さず、都は重傷人に告げた。
次から次に運ばれる怪我人。救護所の環境にも気を配りつつ、持ち込んだ物資を配り終えた時だった。
突然、怒号が響き渡る。
「命懸けで戦ったのは幕府軍だぞ!」
「公家が居たからこそだろ!」
どうやら、幕府と公家で分かれての喧嘩らしい。先の戦いでは幕府も公家も双方に大きな損害が出たという。
それにしても、この期に及んで、何という情けない話か。
このままにしておく訳にもいかず、止めに入ろうとした都よりも先に別の者が仲裁に入ったが、今度は、その怒号で孤児が泣き出した。
「怖かったでしょう。もう、大丈夫ですよ」
優しく子供の背を包み込むように摩った。
戦いには勝ったが、これでは、人類の勝利とはほど遠いのかもしれない。
「大丈夫、ですよ……」
色々な悔しさを胸に秘め、都は泣きじゃくる孤児を抱き締めたのだった。
●澪(ka6002)&濡羽 香墨(ka6760)
天ノ都の宿、その一室で二人は外の景色を眺めていた。
先の戦い――獄炎の影との激闘で、約束の為とはいえ無茶をして香墨は大きな怪我を負った。
今は傷もだいぶと癒えたが、だからこそ、病み上がりなのでゆっくりしたい所だ。皮肉なもので、重体になったからこそ、ようやくの休みらしい休みを満喫しているともいえる。
「……ごめん。心配かけた」
平和を取り戻した街をみつめながら香墨が口を開いた。
結界を維持している間に、獄炎の影は討伐できた。後で聞いた話によるとギリギリの状態で危なかったらしい。
下手をすれば、結界維持が困難になり、被害は増えていただろう。
「大丈夫だよ。謝らなくて」
療養食を作って食べさせ、包帯の交換や傷口の消毒など、一生懸命に看病を続けていた澪が優しく答える。
ふーふーと息を吹きかけて食事を冷ましたり、着替えを洗濯したりしていると、大切な人が無事だったという事を認識できて、澪は安堵していた。
少し元気になってきたから、もうそろそろ、出歩く事も必要だろう。
いつまでも横になって寝ていると身体が鈍ってしまうかもしれないし。
「……もうちょっとだけ。こうしてたい」
恋人であり、拠り所でもある、澪に世話を随分と掛けているが、今は、まずは甘えたいと香墨は思った。
それに、澪と二人っきりでいる事が、とても嬉しい。
更に言うと、街に出て、他人に逢いたくないというのもある。
「……うん。香墨が望むだけ、私は一緒にいるよ」
澪は、香墨の身体を力を入れすぎない様に気をつけながら、優しく抱きしめて、耳元で囁き返した。
大切な人のぬくもりを感じる。
そのぬくもりは生きている証。抱き合う事で生きているという実感を感じる。
「澪……」
無意識に、ギュッと力を入れて抱き締める。
お互いの体温はあまり変わらないはずなのに、温かさを感じるのは、きっと、『温度』だけではないはずだ。相手を想う気持ちの温かさなのだろう。
(心配だけど香墨はまた戦いに赴くだろうから……今度は私も一緒にって刻む)
“あんな風”にならない様に。2人が一緒なら何でもできるからと澪は、そのぬくもりの中で呟いたのだった。
天ノ都で旨いもの巡りをしていたカインは興味津々に大判焼きの様子を見ていた。
金属の型に注ぎ込まれる生地。絶妙なタイミングで職人が焼き上げる。
「珍しいですか?」
そういって尋ねてきたのは、浪人の侍だった。
薄汚れた袴にぼうぼうに伸びた髪。だが、その刀の柄だけは無駄に豪華な装飾がなされている。
「あぁ。北方もだが、東方は、西とはやっぱ文化違うよな。街並みとかも違うし」
「そうですね。文化の違いというものは面白いものです」
浪人の侍がお茶の入った湯呑を手渡してきたので、カインはそれを受け取る。
「極北と南方は……行って帰った奴の話を聞いたことねぇから分かんねぇけど、世界は広いよな」
「全くです」
東西南北のクリムゾンウェストだけではない。異世界だってあるのだ。
そこには一体、どんな文化があるのだろうか。どんな人々が暮らしているのだろうか。
「東方は1回しか来たことねぇんだよな。何か聞いてもいいか?」
「構いませんよ。焼きあがるまで何でも聞いて下さい」
カインの言葉に浪人の侍は微笑を浮かべて応えた。
そういう訳でカインは流浪の侍と東方の話で盛り上がるのであった。
●天竜寺 詩(ka0396)
天ノ都のとある麺屋にて、まずは一杯食べ、詩とタチバナはお茶を飲みながら過ごしていた。
平静を装っているが、タチバナの心中は穏やかではないだろうなと詩は感じた。
「まだ、武家と公家の諍いは収まらないみたいだね」
詩の言葉にタチバナは頷いて答える。
「今に始まった事でもありませんから」
「私の生まれた国でも昔そういうのがあったらしいけど……」
歴史を思い出しながら、詩は話を続ける。
「今は幕府も公家も無いけどね。帝はあくまで国の象徴で、国民の選挙で選ばれた代表が国を治めてるんだ」
「象徴ですか……」
「この国もそうなれば、スメラギ君も落ち着いて暮らせるのかなぁ」
もっとも、象徴となっても慌ただしそうな気もしないでもないが。
「何にせよ、まずは目の前の歪虚ですね」
タチバナが息を漏らしてから呟く。
五芒星術式を行使した歪虚の行方は不明だ。次、どんな陰謀を考えているか分からない。
「私でよければ力になるから、その時は遠慮せず頼ってね」
だから、詩はお茶を飲みながら微笑みをタチバナに向けた。
避けては通れない戦いがあるのなら、力になるだけの事なのだから。
●リラ(ka5679)&歩夢(ka5975)
歩夢の符が結界を形成した。それで雑魔の足元の地がぬかるみ、動きが鈍くなる。
「一気に叩きます!」
気を練りこんだ強烈な拳の一撃を繰り出す。
奇怪な叫び声をあげながら、雑魔が崩れ去った。
雑魔を率いていた憤怒歪虚が形勢の不利を感じたのか、その隙に逃げ出す。
「俺が行く」
戦友に告げると、歩夢が符を構えながら追いかけた。
だが、すぐに追いつくような事はしない。微妙な距離をわざと保つ。
「やはり、拠点があるようだ」
「大当たりですね」
符で連絡を取り合う、歩夢とリラ。
既にリラは全力で迂回にしているのだ。戦闘を有利に運ぶのに符術は便利な魔法が多い。
逃げ出した憤怒歪虚はリラが迂回しているのも知らず、簡素な石組みの中に入ると、反撃とばかり、歩夢に向かって炎を吐き出す。
犬に複数の鼠の頭が融合しているような憤怒歪虚は、続けて、負のマテリアルの光線を撃ち出そうとしていた。
それより先に、歩夢の符が舞った。
憤怒歪虚の周囲で結界を作り出すと、眩く光る。
「終わりだ」
東洋風の直剣を構えた。
それを迎え撃とうとする憤怒歪虚の無防備な背後に対し、迂回していたリラが必殺の一撃を放つ。
気合の掛け声と共に突き出した右拳からマテリアルが流れる。
「これで決めます!」
叩きこんだ右拳の勢いを左に流し、自身の腰を低く落とした。
直後、マテリアルの輝きを発しながら、素早い動きで左拳を憤怒歪虚の鼻っ面に突き出した。
何かが衝突したのかという程、激しい音を立てて、歪虚が地に落ちた。
人間でいえば、意識を失っている状態に近いかもしれない。
「よし、トドメだ」
「はい! 歩夢さん」
二人は頷き合った。これで憤怒残党討伐の依頼は無事に達成だろう。
しかし、これで終わった訳ではない。無計画に憤怒歪虚が居るような、そんな雰囲気は感じなかったからだ。
「組織だった動きを感じるな。だが、一つ一つ潰していけばいい」
「そうですね。そうすれば、いずれ、敵の尻尾を捕まえられると思います」
憤怒残党歪虚はまた、何か企んでいるはず。
ハンター達の東方での戦いはまだまだ続く、そんな予感めいたものを二人は感じたのであった。
●時音 ざくろ(ka1250)&白山 菊理(ka4305)
天ノ都より、やや離れた所領。その温泉街へと二人はやってきた。
魔導カメラで自分達を撮って貰ったり、観光名所を楽しんだりと東方旅行を存分に楽しむ。
白百合の着物に身を包んだ菊理がゆっくりとした足取りで石段を上がる。その白い手を引いているのは、ざくろだった。
「菊理、見て」
ざくろが指を差しながら言った言葉に従い、上がってきた階段を振り返った。
「綺麗……」
温泉街の灯りが星々のように輝いている。
和風と中華を合わせたような作りの建物ばかりであるが、灯りに照らされた街並みは美しかった。
「昔の日本もあんな感じだったのかな?」
「昔の日本か……大陸の方の文化に近いかもしれないな」
ざくろの疑問に、菊理が答える。
風に乗って流れる髪を耳に掛けた時に見えた、うなじが妙に色っぽい。
胸の高鳴りを抑えながら、ざくろが気を取り直し、別の方向へと差す。
「あそこが、宿だよ」
なんでも優所正しき温泉宿らしい。
広大な敷地の離れ。い草の心地良い香りの和室。
温泉で、らきすけの神が降臨されたが、一先ず、一汗流してこれから夕食だ。
机に次々と運ばれてくるのは料理の数々。目立つのは中央の大きめの鍋だった。
「菊理が蓋を開けて」
「構わないが……鍋奉行はざくろの役目だと――」
ざくろに言われ、そんな事を言いながら鍋蓋を開ける菊理。
言葉が途中で止まったのは、鍋の中に『結婚おめでとう』との文字を模った食材が入っていたからだ。
「ちゃんと新婚旅行って、してなかったなって思って……喜んで貰えると良いな」
照れながら、ざくろが告げる。
ハンターとしての活動が慌ただしく、こうした旅行は出来なかった。
菊理は思わず目元を抑える。こんなサプライズがあるとは思いもしなかったから。
「すごく、嬉しいよ……」
いつもはハーレムの帝王だとか、らきすけ魔人で、どうしようもないが、こんな時は真面目だ。いや、彼は常に真面目なのだが。
「ありがとう、ざくろ」
「こちらこそ。これからもよろしくね、菊理」
嬉し泣きする菊理の肩を抱き寄せようとするざくろだが、支えていた片方の手が滑り、そのまま押し倒す形となった。
「あわわわ……」
「料理が冷めてしまうな」
慌てるいつものざくろに微笑を浮かべる菊理。
二人はそのまま見つめ合うと、唇を合わせて一つに重なったのだった。
●ミィリア(ka2689)
「武具は侍の大事な命! 確りと磨くのでござる!」
「だからって、数多すぎだろ!」
十鳥城の一室にてミィリアと菱川瞬は武具の手入れに追われていた。
カカオ特需により、貧困から脱したとはいえ、それでも、苦しい台所事情。
人手も不足している事もあり、留守番がてら、二人で武具の手入れを行っているのだ。
「この程度で音を上げるなど、瞬は鍛錬が足らないでござる」
溢れるほどの女子力(パワー)を持つミィリアと比べられるのも可哀想ではあるが。
「く……簡単に認める訳にはいかねぇ」
「ミィリアも負けていらない!」
そういう事で、うぉぉぉ! とか、どりゃぁぁぁ! という二人の雄叫びが十鳥城に響いたのであった。
次から次にピカピカに磨かれる数多くの武具。この調子なら日が暮れる頃には終わるかもしれない。
「よっしゃ! 早く終わったら飲みにいこうぜ!」
「……酔わせてどうするつもりでござる!」
「安心しな! 俺はな、飾りの無い金属鎧みたいな胸の女に、興味はないぜ!」
無駄にドヤ顔で宣言する瞬の頭に、和装甲冑が投げ込まれたのは言うまでもなかった。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
「繋がりがヒトの強さというのは否定しない。だからと言って個が努力をしないのならば、それはただ馴れ合いで怠慢だ」
アルトの言葉に立花院 紫草(kz0126)は頷きつつ、刀を無防備に下げる。
それは模擬戦の終わりを意味するものではない。紫草の刀なのだ。
「傲慢だとは思うが、私がもっと強ければ怪我や人が死ぬのも減らせるはず」
「より強さを求める理由は分かりましたが、残念ながら、私から紹介できる人は居ませんね」
様々な強者の紹介を求めたアルトに紫草は自身の刀を持って応えたのだ。
どことなく楽しそうな雰囲気の将軍に対し、アルトは愛刀を構える。
「何か?」
「これは失礼。嬉しくて、ついですね……人は一人ひとりが、変わらなければ意味がないと、私は考えていますから」
「将軍直々に稽古をつけてもらうならんてね」
ニヤリと口元を緩めるアルト。東方最強とも噂される侍だ。学ぶ事は幾らでもあるはず。
「正確に言うと違いますよ。私の稽古相手です」
「なら、十分に務まるように全力で、いくよ!」
マテリアルの輝きを地に残しながら、アルトが斬りかかった。
●ヘルヴェル(ka4784)
「天ノ都ですっごく良く当たるっていう占い師に会いに行ってみたいですね」
そんな事を占い紹介の仲介人にヘルヴェルは言った。
占いも色々あるだろう。恋愛に強いだとか、失くし物を見つけるだとか。
しかし、凶事も当てる事ができるというのは、警戒や保護が必要ではないかと思う。
案内されたのは、そこそこ腕の良いとされる符術の占い師だった。
「恋愛占いなら、某半裸王のお嫁様が誰になるとか、知人の黒髪お兄さんの婚期とか聞きたいのだけど」
「色々、聞きたいみたいですね……ですが、占いは絶対ではありませんから」
「貴方では無いのですか? すっごく良く当たる占い師とは」
その質問に占い師は僅かばかりに首を横に振る。
では一体、誰が『よく当たる占い師』なのか。
「私も噂で聞いた程度なのですが……貴女の言う、よく当たるという占い師は、国の偉い人と繋がりがある人と関わりがあると……」
「その人を見つけ出せれば、たどり着ける?」
ヘルヴェルの台詞に対し、占い師は1枚の符を束から引いてみせた。
「私の占いによると、貴方が探し続ければ」
如何にも占い師らしい言葉を告げたのであった。
●シェルミア・クリスティア(ka5955)
龍尾城にある紫草の私邸。その縁側にシェルミアと紫草は座っていた。
「最近の騒動では、あまり力になれなくて……」
「気にする事はありませんよ。ここに来たのも、東方の事を思っての事だと思いますから」
紫草の言葉にシェルミアは小さく頷いた。
静かに符を取り出すと、それを五芒星に並べる。
「わたしとしては、憤怒王 獄炎の復活は、偶然の産物だと思って」
術式そのものの目的は別にあったのではないかと。
例えば、人の負の感情を煽って、人同士で争わせる事など……あり得たのかもしれない。
「偶然の産物というのは私も思うところです。あまりにも不自然としか思えませんでしたから」
「獄炎の復活以上の可能性を狙っていた?」
「そうですね。ですが、それが何かという所までは、秘宝を調べても分かりませんでした」
一先ずの危機は去った。だが、術式を展開したと思われる歪虚にまでは届いていない。
これから先、獄炎の影以上の凶事が起こる可能性があるとすれば……。
「正しく、煩慮……ですね」
シェルミアは重く垂れこめる曇り空を見上げた。
そんな凶事が起こったのなら、力になると思いながら。
●ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)
十鳥城付近の街道をニャンゴが馬に乗って移動していた。
手には幾枚にも重なった紙。書かれているのは、街道の様子だ。
「想像以上に状況が悪い街道ですね……私ほどではありませんが」
いつものネガティブな台詞を発しながら、ニャンゴはそう分析する。
魔導カメラで街道の様子も撮影。街道を往く人々の確認。
途中、偶然にも出没した雑魔の退治もした。
「私ごときが集めた情報など粗末なものかもしれませんが……」
だが、街道の情報は大切なはずだ。
街道整備や警備、雑魔討伐など、行う事は多い。やはり、実際に歩いて確かめた意味は大きいだろう。
「それにしても、長いですね」
フードを外して手をかざした。
街道と呼ぶには適当過ぎる裸地の先には……何も見えない。一応、天ノ都には通じているらしいが。
「これでは……街道の維持は無理っぽいですね」
そう結論がついた。あるいは、天ノ都から南のどこかに転移門があれば別かもしれないが、ニャンゴは調査結果をそのように締めくくったのだった。
ちなみに、ニャンゴが調査した結果は彼女の名を関するレポートとして正秋の元に届けられたという。
●龍崎・カズマ(ka0178)
凶術“五芒星術式”の頂点となった一つを調査してから、彼は天ノ都郊外へとやってきた。
獄炎の影を打倒した地だ。
「五芒星の頂点でなければならない理由はなかった。むしろ、中心地に意味があった……」
だとすれば、敵は何時でも五芒星術式を使えるという事もいえる。
防衛の在り方を考える必要があるだろう。
「この凶術を逆に使って正のマテリアルを集められないのか」
ぼんやりと大地に座り込み、カズマは思案に暮れる。
正のマテリアルを多く集められれば、枯れた龍脈に注げるかもしれないし、天ノ都にしかない転移門を別の所に作れるかもしれない。
(……というか、幕府はそんな術式があると最初から分かっていなかったか)
そう考えれば、五芒星術式を応用するというのは難しいだろう。
敵が集めた負のマテリアルで憤怒王の復活を狙ったのしたのであれば、歪虚の陰謀は達成されただろう。
(術は発動させる意味がある。もし、憤怒王の復活が狙いじゃなかったら……)
その場合、どんな事が起こっていたのだろうか。
胸に重くのしかかってくる妙な違和感をカズマは生唾を飲み込み、抑えたのであった。
●瀬織 怜皇(ka0684)&Uisca Amhran(ka0754)
「流行している占いって、どんなものなのかな?」
ワクワク感いっぱいの笑顔でUiscaが手を繋ぐ怜皇に尋ねる。
こういう所は年相応の女の子なんだなと心の中で思いながら、怜皇が観光案内所で貰ったパンフレットを広げた。
正直言うと、あまり占いには興味はないのだが、Uiscaが楽しければ、それでいいかとも思う。
「符を使ったり、易経だったり、相を見たり、色々あるようだ」
さすがに流行りという事だけあって、占い師の数も多い。
すべてを回っていたら、それだけであっという間に1日が過ぎてしまうかもしれない。
「怪しい占い師を探すのは大変か……」
「怪しくないなら普通に楽しめばいいかと」
真面目に考える怜皇に対してUiscaはニッコリと笑った。
兎に角、色々な噂の聞き込みをしながら、実際に回ってみないと分からない事なのだから。
そんな訳で、二人は飽きもせず何軒か巡り、ある占い師にたどり着いた。
「占い師さん。私達2人のことを占ってください♪」
「どうぞ、お掛け下さい。見たところ、西方からの旅行ですか?」
奇妙な水晶球を磨きながら占い師が尋ねてきた。
「そんな所です。宜しくお願いします、ね」
言葉を濁しながら怜皇は席に座る。
特に負のマテリアルは感じない。
「……おぉ! これは素晴らしい。雌雄一つの美しい鳥が見えます。正しく、比翼連理ですな」
「ヒヨクレンリ……?」
首を傾げるUiscaに占い師が答えた。
「相思相愛の仲という意味ですね」
「占いの結果、いい感じだよっ!」
ハグっと隣に座った怜皇に抱きついたのだった。
占い結果に満足そうなUiscaの様子を微笑ましく感じながら怜皇は占い師に訊く。
「よく当たる占いの話って知っていますか?」
占い師は水晶球を磨きながら記憶の糸を辿っているようだった。
「確か、正月前後位からだったかな……」
「貴方では無いのですね?」
「昔からやっていますけど、そんな噂話になった事はないですから」
苦笑を浮かべる占い師は言葉を続けた。
「でも、不思議な事にその占い師に逢ったという人は、私の知り合いにも居ないのですよ」
その台詞に怜皇とUiscaはお互いの顔を見合わせて首を傾げた。
それでは、噂の出処は一体、どこだというのだろうか……。
●ユリアン(ka1664)&蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)
幕府が派遣している浄化班に付き添う形で二人はヨモツヘグリ跡に到着した。
ここは、凶術“五芒星術式”の頂点の一つだった場所でもある。
今は辺り一面、負のマテリアル汚染により、荒野となっていた。
「絶望を識るには十分に過ぎる程の状況……なれど、今再び浄化に向かうか……」
蜜鈴がいつでも戦える準備をしながら呟く。
「皆、天ノ都を……誰ぞを、想うて居るのじゃな……」
浄化班の面々は落ち着いていた。
いつ、憤怒残党に襲われるか分からない状況なのにだ。それだけ、何か想いがあるのかもしれない。
「五芒星術式。あの術は、影を倒してそれで終わるのだろうか?」
目を細めながら周囲を見渡すユリアンがそんな疑問を口にした。
「憤怒祭壇のあった場所じゃが、特別な場所……という訳じゃなさそうじゃな」
大地に手を触れながら蜜鈴はそう分析する。
かつては城があったといわれるが、特段、何かあったという訳ではないのは、浄化班のメンバーから教えて貰った。
「五芒星の各頂点、調べる限りでは共通点が無かった……」
「となると、頂点の存在は術式の起点でも維持するものでもないという事も考えられるかのう」
二人の会話に浄化班を率いる人物が、ある資料を見えるように広げる。
それは、嘉義城の地下で発見された秘宝『エトファリカ・ボード』に書かれた内容を模写したものだった。
「五芒星術式とは、本来、高位の憤怒歪虚が自身に負のマテリアルを集めるもの。当然、その中心は術者なはずですが……」
その説明に、二人の視線は五芒星の中央へと向いた。
「天ノ都が中心だけど、そこには……」
「そうじゃ、そんな高位の歪虚なぞ、おらんしのう」
秘宝の縮尺がいくつか分からないが、獄炎の影が出現した場所は、正確な意味では五芒星の中央では無いかもしれない。
それに、獄炎は既に消滅しているのだ。消滅した存在が術式を使えるとは考えにくい。
「……つまり、負のマテリアルを集めたのは、自身に使うつもりでも獄炎を蘇らせるものでもないという事かの?」
「だとしたら、一体何の為に……」
「集まるのは負のマテリアルじゃ、きっと、災いを呼ぶものじゃな」
獄炎の影が復活したと事でも十分に凶事なのだが……。
「だからこそ……凶術なのですね」
秘宝の紛失という事から始まった事件はまだ終わっていない。
そう、ユリアンと蜜鈴は思ったのだった。
●カイ(ka3770)
「水・食料・暖を取る道具は最低限必須だろ!」
役人相手にカイが叫んでいた。天ノ都は東方の都なだけあって広い。それ故に、細かい所まで手が届かない事もある。
だから、ちょいちょい、声を掛けて復旧を手伝っているのだ。
(被害箇所を線で結ぶと魔方陣に成ったりはしなかったか……)
子供達に諸々と注意しながらお菓子を配りつつ、街の便利屋さんとして次から次に要件をメモしていく。
同時に、変わった情報も無いかと聞き込みも行う。
「ん? どうした? 空ばかり見上げてよ」
一人の子供が不安そうにしていたのをカイは見逃さなかった。
「この前、大きい化け物が出る直前に、都の空から、どんよりしだしたから、それから怖くて」
「そんな事があったのか、でも、もう大丈夫だ。化け物は退治したからな」
子供を安心させるように胸を張るカイ。
しかし、その心の中では別の事がよぎっていた。
(都の直上に負のマテリアルでも集まったのか?)
今となっては確かめる術はない。だが、きっと、恐ろしい事の前触れだったかもしれない――そう、カイは感じ、空を見上げたのだった。
●銀 真白(ka4128)&鞍馬 真(ka5819)&アレイダ・リイン(ka6437)
十鳥城から離れ、ハンター達は長江にやってきた。
長江西にはカカオの農場があるのもあり、歪虚や雑魔の動向に特に気を配っているからだ。
「憤怒の脅威が去ったとはいえ、しばらくこの近辺は物騒な事件が続くんじゃないかね?」
巨大な斧を肩に掛け、アレイダが周囲を見渡しながら言った。
視界の中に歪虚はいなそうではあるが、用心に越した事はないだろう。
「憤怒王を倒しても、歪虚がいる限り私のやることは変わらないな」
答えたのは真だった。いつでも刀が抜けるような、鋭いオーラを放っている。
先の獄炎の影の討伐戦の際、結界を維持する為に戦い続けた彼は大きな怪我を負っていた。
その傷がようやく癒えて、すぐに依頼だ。
「もうじき、目撃情報が多い所だな」
「大物を倒したとしても、問題がある限りはやる事は変わらない」
アレイダの言葉に真は頷いた。
依頼がある限り、ハンターとして全力を尽くすだけだ。逆に依頼が無くなったらどうなるのだろうかと一瞬、思った。
「先日の大戦は皆、無事に戦い抜けて何より。そうであろう、正秋殿」
真白が最後尾を歩く仁々木 正秋(kz0241)に振り返りながら声を掛けた。
「はい。皆さんのおかげで歪虚の陰謀を打ち砕く事ができました」
「しかし、獄炎の影は討ち果たせたものの、有力な歪虚にまでは手が届いていない」
蓬生や狐卯猾という名の歪虚は健在だ。
しばらく、天ノ都周辺は警備体制が強化されるだろう。相手が絡め手を使うなら、都から遠い地を狙う事も考えられる。
「長江で憤怒歪虚の活動が増えてきているという噂もありますから、今日はハンターの皆さんと確認できればと思います」
いわば、威力偵察も兼ねているという事だ。
真白が考えるように人差し指を何気なしに口元へと当てた。
「転移門とまではいかずとも火急の際に駆けつけたり、連絡を取る体制や仕組みが出来れば良いのだが……」
この辺り、治安維持にどう対応するかが、これからの課題だろう。
その時だった。先頭を歩くアレイダが斧を一度、豪快に振り回してから構えた。
「どうやら、出たようだ」
ハンター達の視界の中に、憤怒歪虚らしい集団が見えたのだった。
戦い自体は問題無かった。
ハンター達の実力がものを言った形だったからだ。
「……あの歪虚は何故、戦わない」
最後に残った雑魔を斧で両断し、アレイダは丘の上に立つ甲冑歪虚を睨む。
「掛かって来ないのか!」
斧先を向けて叫んだが、相手は微動だにしなかった。
燃え盛る全身甲冑。相当な負のマテリアルを感じる。
静かに刀を鞘に戻し、乱れた着物の衿を直しながら真は歪虚に向かって言葉を発した。
「名のある歪虚と見た。何者だ」
「それがしの名は拷陀(ゴウダ)。新たなる憤怒王 狐卯猾様に仕える者だ」
どうやら、ハンター達の戦いぶりを観察していたのだろう。
「新たな憤怒王……何を企む」
油断なく警戒しながら真白は言った。
狐卯猾は確実に陰謀を仕掛けてくるタイプだ。
「貴様らが知る必要もないだろう。いや……確実にいえる事は一つあるな。それは、これから、貴様らとの死闘になるという事だ」
その言葉に臨戦態勢に入るハンター達。
甲冑歪虚は軽く鼻を鳴らすと踵を返した。
「今日は様子見。次を楽しみにしているぞ」
そんな言葉を残して、甲冑歪虚は炎に包まれて消えたのだった。
●アルマ・A・エインズワース(ka4901)&仙堂 紫苑(ka5953)
龍尾城のある一室に通されたアルマが部屋に入るなり、紫草へと飛びつく。
「わふーっ!」
いつもの突撃に対し、紫草は微笑を浮かべて受け止めた。
今回はちゃんとアポを取った上での面会だ。学習は大事である。
尻尾ではないが、外套を激しく揺らしながら、顔を上げたアルマに紫草は頷くと視線を変えた。
「こちら僕の参謀のシオンです……紫草さん、わふーしたら、やです……?」
「いえ、構いませんが、むしろ、ご友人が引いているようにも見えたので」
仙堂がこめかみの辺りをひくひくとさせていた。
アルマが無礼にも飛びついているのは、エトファリカ征夷大将軍その人である。
下手をすれば、打首獄門だ。しかし、気にした様子なくアルマはグリグリと紫草の胸に頭を当てつけた。
「だから! そういうことするなって言ってんだろうが!」
こうなったら、東方に受け継がれるという謝罪の奥義――土下座――にて許しを請うしかあるまい。
「アルマも紫苑さんも仲が良さそうでいいですね」
ニッコリと爽やかな笑顔を向ける紫草。仙堂の心配は杞憂であったようだ。
すると唐突にアルマがビシっとお手……ではなく、右手を挙げて宣言する。
「紫草さん! 僕、魔王を目指します」
「行き成り、本題!?」
目を丸くする仙堂。雲行きが怪しくなったら、軌道修正しようと心に誓った。
もっとも、この友人を止めようと思ったら、命懸けになるだろうが。
「今は皆、仲良しですけど、歪虚さんがいなくなった後も、共通の敵がいれば、争わなくて済むのです」
「敢えて茨の道を進むのですか……その道のりは険しいですよ。まず、私より強くならなければなりませんから」
優し気な表情を称えながら紫草は言った。
「それは本当に茨の道だ」
思わず、唾を飲み込む仙堂。
東方最強とも噂される程の実力者である紫草。それに勝る力がなければ魔王になれないと将軍は告げているのだ。
「僕、ヒトが好きですー。お友達が一番ですけど! だから、魔王になります!」
元気なアルマの言葉に頭を抱える仙堂。
「アルマはアルマで勝つつもりか」
「紫草さんの事も大好きですー! 応援してくれます?」
目を輝かせる彼に、紫草はいつもの微笑を浮かべて答えたのであった。
「その時が来たら、手加減せずに、全力で向かわせてもらいますよ」
――と。
●志鷹 都(ka1140)
獄炎の影が討伐されたが、全くの損害なしという訳にはいかなかった。
警備の為に残っていた者や避難の最中で怪我をした者と、城下町にある救護所は怪我人でごった返していた。
「……これで、大丈夫ですね」
疲労を顔に出さず、都は重傷人に告げた。
次から次に運ばれる怪我人。救護所の環境にも気を配りつつ、持ち込んだ物資を配り終えた時だった。
突然、怒号が響き渡る。
「命懸けで戦ったのは幕府軍だぞ!」
「公家が居たからこそだろ!」
どうやら、幕府と公家で分かれての喧嘩らしい。先の戦いでは幕府も公家も双方に大きな損害が出たという。
それにしても、この期に及んで、何という情けない話か。
このままにしておく訳にもいかず、止めに入ろうとした都よりも先に別の者が仲裁に入ったが、今度は、その怒号で孤児が泣き出した。
「怖かったでしょう。もう、大丈夫ですよ」
優しく子供の背を包み込むように摩った。
戦いには勝ったが、これでは、人類の勝利とはほど遠いのかもしれない。
「大丈夫、ですよ……」
色々な悔しさを胸に秘め、都は泣きじゃくる孤児を抱き締めたのだった。
●澪(ka6002)&濡羽 香墨(ka6760)
天ノ都の宿、その一室で二人は外の景色を眺めていた。
先の戦い――獄炎の影との激闘で、約束の為とはいえ無茶をして香墨は大きな怪我を負った。
今は傷もだいぶと癒えたが、だからこそ、病み上がりなのでゆっくりしたい所だ。皮肉なもので、重体になったからこそ、ようやくの休みらしい休みを満喫しているともいえる。
「……ごめん。心配かけた」
平和を取り戻した街をみつめながら香墨が口を開いた。
結界を維持している間に、獄炎の影は討伐できた。後で聞いた話によるとギリギリの状態で危なかったらしい。
下手をすれば、結界維持が困難になり、被害は増えていただろう。
「大丈夫だよ。謝らなくて」
療養食を作って食べさせ、包帯の交換や傷口の消毒など、一生懸命に看病を続けていた澪が優しく答える。
ふーふーと息を吹きかけて食事を冷ましたり、着替えを洗濯したりしていると、大切な人が無事だったという事を認識できて、澪は安堵していた。
少し元気になってきたから、もうそろそろ、出歩く事も必要だろう。
いつまでも横になって寝ていると身体が鈍ってしまうかもしれないし。
「……もうちょっとだけ。こうしてたい」
恋人であり、拠り所でもある、澪に世話を随分と掛けているが、今は、まずは甘えたいと香墨は思った。
それに、澪と二人っきりでいる事が、とても嬉しい。
更に言うと、街に出て、他人に逢いたくないというのもある。
「……うん。香墨が望むだけ、私は一緒にいるよ」
澪は、香墨の身体を力を入れすぎない様に気をつけながら、優しく抱きしめて、耳元で囁き返した。
大切な人のぬくもりを感じる。
そのぬくもりは生きている証。抱き合う事で生きているという実感を感じる。
「澪……」
無意識に、ギュッと力を入れて抱き締める。
お互いの体温はあまり変わらないはずなのに、温かさを感じるのは、きっと、『温度』だけではないはずだ。相手を想う気持ちの温かさなのだろう。
(心配だけど香墨はまた戦いに赴くだろうから……今度は私も一緒にって刻む)
“あんな風”にならない様に。2人が一緒なら何でもできるからと澪は、そのぬくもりの中で呟いたのだった。
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最終発言 2018/02/25 19:19:09 |
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