影に争うもの/影に消え逝くもの

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/28 12:00
完成日
2018/03/07 12:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●影に争うもの
 グラズヘイム王国・リベルタース地方
 スフォルツァ子爵の邸宅にて。

 昼下がり、火急の用で子爵に報せたいことがあるといって訪ねてくるものがあった。
 若く端正な男であった。礼儀作法を弁えたこの人物は、同じくリベルタース地方に領土を持つレーヴィ・フォンヴェイユ侯爵の息子レーニエであると名乗った。

 ヒューバート・スフォルツァ子爵は応接室に彼を通し、その話を聞いた。

「……所用によりこちらの領内を通っていた所、歪虚を見かけました次第でございます。幸い、護衛の者が居りましたゆえ、その場で歪虚を退治しましたが、あれが全てではない恐れもあります。
 よって、合同で歪虚の探索と退治を提案したく参上いたしました」
「ほう、フォンヴェイユ家のレーニエ殿と言えば最近よく名前を耳にしますな!
 自ら兵を率いて歪虚を退治しているとか……」
 ここリベルタース地方では、ベリアル・メフィストが姿を消した今となっても、いまだ歪虚の姿は多く見られる。もとより影響の強かったこの地方が、そう簡単に平和になるものではない。
 レーニエは貴族の子でありながら自ら兵を率いて歪虚と戦う存在として、優れた容貌と人当たりの良さもあってそれなりの名声を得ており、彼を英雄視するものも居るという。
「レーニエ殿が協力して下さるというのなら我々も願っても無い。早速手配を……」
「お待ちなさい」
 ヒューバートの言葉は遮られた。
 遮ったのはマハ・スフォルツァ、先代子爵の妻にしてヒューバートの母親である。
「当家は王家にのみ従う。マーロウに従う貴君に協力はできません」
「は、母上……?」
 ヒューバートは虚を突かれつつも反論はしない。この女性は切れ者であり、息子が当主となってからも家の事を取り仕切っていた。ヒューバートも『自分ではこうはいかないだろう』と思っているため、結果として母に従っている。
 加えてマハは言った。
「所用により通りがかったとは言いますが……我が領内で何をしていたのです? 何であれ領内での勝手な行動は許可できません。即刻立ち去りなさい」

「これは失礼を」
 レーニエは落ち着き払って頭を垂れた。
「……しかし、歪虚の現れた場にはあなたの領民も居ました。
 危険からかれらを救ったという面があることは、知っておいてください」

 レーニエは気分を害した様子も無く、帰った。

「……母上、なぜあのような?」
 ヒューバートは聞いた。
「あのレーニエという男は点数稼ぎをしているのです。
 フォンヴェイユ家はマーロウ家に従い、マーロウ派の影響力をこの地方にも増やすべく色々な行動をしていると聞いています。
 レーニエを使って歪虚退治をするのもその一環です。
 もしあの場で承諾していれば、フォンヴェイユひいてはマーロウが歪虚の脅威から住民を救ったと讃えられるばかりではなく、当家もマーロウ派に取り入ったと周囲から見られるようになりかねない……」
「……マーロウ家の?」
 大公マーロウ家。
 現在グラズヘイム王国で最も強い勢力を持つ貴族である。

 一つの家が勢力を伸ばすことは反対だ――とマハは考える。
 王国は封建制を敷き、貴族それぞれの独立性が強いだけに纏まりがない。
 これは歪虚の脅威に晒されている現在においてマイナスの側面を持つ。
 団結して脅威に立ち向かうべき。
 そして旗印となるのは王家だ。何故ならそれが一番わかりやすいから。

「では、もしマーロウが国内で実権を握ったら、母上はどうされるのですか」
「どうもしません。ただ今は人間同士で争っている場合ではありません。
 もしマーロウと王家が争えば……王国は歪虚に滅ぼされて終わりを迎えるでしょう」



「貴族の子が戦えば英雄扱い?
 わたくしなら御免ですわ」
 ジョセファ・スフォルツァ――スフォルツァの末娘にして私兵団『光貴なる盾』の覚醒者は言った。
 レーニエの報を受けてスフォルツァ家は私兵団に出撃の準備を進めていた。歪虚の居場所を探るべく斥候も既に放たれている。
「心配しなくともお嬢を英雄とは誰も思わねえよ!」
 同じく覚醒者のギョーム・ペリエは言う。当のジョセファは上機嫌で解体した銃を掃除していた。あちこち火薬で黒くなっている。
「マーロウ派の人達とは協力できないなんて、複雑ね」
 同じく覚醒者ピエ・ドゥメールが言った。王国が一つに纏まるべきだ、互いに手を取るべきだといいつつ隣人は信用できない。一見、矛盾したものの見方である。
「要は、付き合う相手は選べということじゃよ」
 普通の老人が応えた。ビセンテという名のこの老人は、先の三人より後に覚醒者となって私兵団に所属した、年嵩の後輩である。
 最初は三人しかいなかった覚醒者も、今では増えていた。
「けど戦力の面なら大丈夫さ。だって雇うんだろ? ハンター」
 ギョームが言うと、ピエは心なしか嬉しそうに応えた。
 ――かれらはハンターに戦い方を教わったのである。



●影に消え逝くもの
 リベルタース地方の一地点。
 森林地帯の狭間にある平原に、砦が築かれている。
 周囲は壁で覆われ、一つある門の周辺では下級歪虚や雑魔が警戒に当たっていた。
 主に木を使って建てられたこの砦は人の手によるものではなかった。



「大将、悪い報せだ」
 最奥の部屋に入ってきた低級の歪虚が入るなり告げた。
「この砦が人間に見つかった。攻撃されるのは時間の問題だ」
「そうか。良い。いずれこのような時が来ることは解っておったわ」
 そう応えて立ち上がったのは、巨躯であった。
 この歪虚は熊が原型であったが、歪虚として年を経たこの個体はもはや熊からは遠く、人間の敵対者となりながら――皮肉にも人間に似ていた。
「人間相手に背中は見せられぬ!
 たとえ僅かでも抵抗し、人間の士気を挫いてやるまでよ」



 翌日、ハンターオフィスに討伐依頼が出された。
 概要はこうだ。

 王国西部にて、歪虚が築いたと目される砦を発見。
 内部の歪虚を殲滅せよ。

 依頼人 ヒューバート・スフォルツァ子爵。

リプレイ本文

●合流
「みんな久しぶりっす! はじめましての人もいるっすね」
 神楽(ka2032)は私兵団『光貴なる盾』の面々に親しげに声をかける。彼は私兵団の覚醒者達を教育した一人で、私兵団の名付け親でもあった。
「猿! 猿ではありませんか! お久しぶりです」
 ジョセファは久しぶりすぎて呼び方を忘れていた。名前を忘れたというわけではない。呼び方が変わっただけだ。
 ハンターの一行は珍しげな、そして頼もしげな目で見られていた。
 リアルブルー人の神楽や神代 誠一(ka2086)、マリィア・バルデス(ka5848)、ドラグーンのウルミラ(ka6896)やクレア・マクミラン(ka7132)は王国の地方では珍しい。
 かといって王国貴族ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が目立たないかというと、そんなことはない。貴族には特有のオーラがある。
 そのせいか、合流する前に『通りがかった領民にジャックがレーニエと間違われる』という事件があり(顔は全く似ていない上レーニエは黒髪)、一行はフォンヴェイユ家のことを知ることになった。

「皆さん、今日はよろしくお願いします」
「放っておけば民間に被害も出るでしょう、逃さず片付けなければなりませんね」
(この辺りの人々はこんな感じか……)
 誠一とクレアが私兵団に挨拶をし、ウルミラが興味深く『王国西部の人間』を観察する中、ジャックは一人機嫌が悪かった。
(貴族が平民を守るなぁ常識だ。それを王家だマーロウの爺だ煩ぇ煩ぇ……)
 フォンヴェイユの『点数稼ぎ』のことを思うと、気分が悪くなるのだった。
「それで……砦というのは?」
 マリィアは質問する。砦を建設する歪虚に興味があった。
「これから案内します。説明は道中で」
 ピエが表情を引き締め、応えた。

●攻略戦開始
 人里離れた土地、森林に狭まれ隠されるように、その砦はあった。
 歪虚の多いこの地方では決して極端な事例ではない。しかしハンターによる助力が必要な規模ではある。
「軍事拠点ね」
 端的にマリィアが述べた。それ以外の用途とは思えない。
 人と戦うのに人と同じやり方をする。今回の敵はそういう手合いのようだ。

 外壁の上と外側で警戒している歪虚がいる。オークやスケルトン、または獣から変じたものなどだ。
 戦闘の準備はできている。一行は速やかに攻略戦を開始した。
「まずは俺達に任せな!」
 ギョームが宣言し私兵団が先行した。
 まず非覚醒者兵士が木々の間に身を隠したまま矢を射た。突然の奇襲に驚く歪虚。迎撃体勢に移るが、ギョームとピエがすでに飛び出している。外の敵を衝撃波とセイクリッドフラッシュで一気に蹴散らす。壁上の敵はジョセファが制圧射撃で対応。
 そして門の正面に立ったビセンテが、青龍翔咬波で門とその周辺の敵を穿った。
「さあ。今です」
 落ち着いた、しかし力強い声でビセンテが言った。
 ハンター達はウルミラを先頭にして門に突進する。何人かがかりで門を押し開け、内部へと踏み込む。
 充満した負のマテリアルの臭いがした。歪虚の集団が待ち構えている。
 入れ替わるようにジャックが前に出た。
「てめぇら! 俺様のストレス解消の相手してもらおうかァ!」
 そして、獅子のごとく吼えた。
 歪虚達は、ジャックに集中せずにはいられなくなる。
 襲いかかる武器、爪、そして弓矢。ジャックは盾でそれらを防ぐ。
「左を!」
「解った」
 群がる敵を、誠一とウルミラが左右から捌いていく。
 遠くの敵はマリィアとクレアが銃で応戦する。
「単純だな、雑魔。そう簡単にはやらせん」
 クレアが敵を撃ち抜いて一言。
 敵の狙いを集中させることで、対応が容易になっていた。
 ジャックを狙えない歪虚の中には後衛に回ろうとするものもいた。
「おおっと、サボってはないっすよ!」
 そういったものは神楽の盾に阻まれた。身体より大きい鉄塊である。それを最小限の動きで操り、敵を討つ。
 地の利は敵にあったが、それぞれが役割に徹し、連携をとることで安定して敵を倒していくことができた。
 対する歪虚は高台や天井、曲がり角での待ち伏せ、伏兵による背後からの奇襲、包囲攻撃など様々な方法で迎撃したが、全員それらの行動は予測しており、中でも比較的自由に動く神楽の警戒、マリィアの直感視、ウルミラのファミリアズアイによる偵察と発煙手榴弾の目くらましなどで察知・対応した。
 数を頼みにする敵には誠一がアサルトディスタンスで蹴散らし、長い通路の向こうからの射撃にはマリィアが妨害射撃で対応するなど、ハンター側も多種多様な戦法をとる。
 いくら群れようと低級の歪虚など相手ではなかった。

 ハンター達は砦の大半を制圧し、頭目が待ち受けていると思しき部屋を見いだしていた。
「猿の知恵に期待していますわ」
「貴方達に光の加護を!」
 ジョセファとピエが一行を見送る。ハンター一行は踏み込んだ。


●傲慢の歪虚オグ
 その薄暗い部屋では一体の歪虚を中心に小集団が形成されていた。水際で迎え撃たんとここまで退却してきた歪虚達だ。そして中央に一際大きく、存在感を放つ存在がいる。
 山が動くかのように――それは立ち上がった。

「来たか、人間ども!
 かくなるうえは、最後の塵一つとなるまで……傲慢の歪虚ここにありと叫ぼうぞ!」

 踏み込んだ一行が一瞬立ち止まるほどに、その声には力があった。
 そして一呼吸置いて、上機嫌な笑い声が響いた。
 ジャックだった。
「面白え――
 世の中ムカつく奴ばっかだがよ、てめぇは違ぇ!」

 それは賞賛だった。

 歪虚は応えて言った。
「人の分際で言うではないか!
 だがその姿勢、嫌いではないぞ」
 意外にも、明るい響きだった。

「まるで負けるのが前提であるような言い方ですね」
 挑発するように、誠一が言った。
「おう負けるというならすでに負けておる。この戦力差はどうしようもないわい。
 だがそこは傲慢の歪虚、戦力で負けても気持ちでは負けぬわ!」
 グワッハッハッハッハ……
 歪虚は笑った。笑ったのである。

「理屈で動くタイプではないようね。
 もとは雑魔?」
 マリィアが聞いた。こちらは冷静だ。
「雑魔は七眷属になれぬ。我こそはアイテルカイト。
 誰と契約をしたかは貴様の知るところではないがな」
 語ることに抵抗がないようだった。

「強者に屈するのが賢い生き方っすよ?」
 神楽は三下らしく忠告する。
「グワハハハハ! 智恵よりも慢心こそが我等の美徳よ」
 歪虚は神楽の主張を笑い飛ばした。まるでベクトルが違っている。

「あくまでも己の生き方を貫くというのか?」
 クレアが聞いた。返答はこうだ。
「あいにくこれしか生き方を知らぬのでな!」
 クレアが尊ぶのは『懸命に生きようとする意志』。そう違わないと言えなくもないかもしれない。
 だが、その命は否定する。今は。
 皮肉だった。
 だからこそ。
「ならば傲慢の眷属よ。指し示して見せろ、その矜持を!」
 ウルミラが槍を構えて告げた。
 そのすべてを、見届けるために。

「望む所よ! 我こそは傲慢の歪虚オグ!
 雌雄を決するぞ、人間共! そして……
 お前達、今こそ運命の最高潮だ。我と共に死を賭して戦え!」
 最後は部下に向けてだ。その声には『強制』の力が込められている。
 部下達はそれに応え、声をあげた。
 そして、強制の範囲は、驚くべき事に自身にまで及んでいる――
 全力を出す屈辱に、『我こそは人間に痛手を与える存在である』という自負が勝ったのである。
 オグが真っ先に突っ込んでくる。それに配下の歪虚達が続いた。
「かかって来やがれェェェ!!!」
 ジャックが先頭に立ち獅子のごとく吼える。歪虚はそれに呼応し集中した。オグの豪腕はジャックの防御態勢すら崩し、配下の分も合わせて少なくない傷を負う。
「そうは行きません!」
 誠一が両手指に複数挟んだ棒手裏剣を一気に放つ。それは「射光」の名の通り幾筋もの光の線となって歪虚達を貫いた。
「我等を歓迎する宴であれば、乗ってやらねばな!」
 ウルミラは敵に接近して槍で薙ぎ払う。
 ジャックの周辺に集中していた歪虚は、その槍の一閃を受けて何体かが吹き飛んだ。
「ケケケ、馬鹿正直に突っ込んで来やがったっす!」
 神楽は呪文を紡ぎ杖を振りかざす。紫電が迸り歪虚を焼いた。サブクラスによるライトニングボルトの行使である。
 敵が目標を絞って接近攻撃するならば一カ所に固まる。一行は効果的な攻撃手段を有していた。
 だがその場に留まった歪虚後衛が矢を放ってくる。
「――そこか」
 マリィアが咄嗟に妨害射撃を行う。その一撃は完全に狙いが逸れたが、攻撃は一度ではなく、ジャックは全てを避けきれずその身に矢が突き刺さった。
「っぐ……効くかよ!」
 だが、吼えるのをやめない。なおも注意を惹き続け、拳銃での反撃も試みる。
「ならば数を減らすまで」
 マリィアは敵歪虚後衛に狙いを定め、アルコルの引き金を引く。一射で前衛の敵も貫き、それぞれを二度傷つける……弾丸を操るハウンドバレットが牙を剥いた。
(こちらは敵首魁の妨害を――!)
 クレアはオグに狙いを定めた。最大の被害をもたらす対象は明らかだ。
 引き金を引く。オグの太腿を貫いた弾丸は、同時に周囲を凍てつかせた。
「中身は違えど、その体は人に近い。ならば、こうすれば少しは動きづらいだろう、歪虚」
「なるほど違いない! だが、その程度で大人しくなってはやれぬなあ!」
 オグは呪文を紡いだ。広げた両掌に炎が渦巻く。そして両掌を前へと向ける。
「食らえィ!」
 炎が爆発的に広がった。ジャック、ウルミラ、誠一、クレアを飲み込み、猛るように燃えた。
「フハハハハハハ……見たか我が力!」

「ん? どこ狙ってるんです?」
「……!」
 オグの脇腹を剣が貫いている。
 驚愕する。なぜなら相手はたった今灼かれていたはずの誠一だからだ。
「どうです!」
 誠一が一瞬視界から消え、もう一度オグに斬りつける。その軌跡に残像を残して。そこで先程の攻撃が外れた理由を悟った。
 まさか残像と本体を見紛うとは。
「待ちやがれ! てめぇの相手はこの、俺様だ!」
 誠一に向き直ろうとするオグの前で、ジャックが吼えた。
 こちらはまともに攻撃を食らったにもかかわらず、傷だらけの身で仲間達の盾となろうとしている。何のためらいもなく!
 理由を問えば、こう答えるだろう。
 ――ソレが貴族。
 ――ソレがノブレスオブリージュって奴だ。
「なんと人の身に過ぎたものを背負う男よ!
 ……まずはその矜持から打ち砕かねばなるまい!」
 オグは一気に距離を詰める。
 腕を振るい爪を振り下ろす。ジャックは応じようとするが、避けきれず鮮血が舞った。

 誰も代わることはできない。それが戦術だからだ。
 ジャックが立っている限り攻撃を続ける。それが最適解だ。

 だからといって、同朋が倒れていいなどと、誰が思うだろうか。
 一行は電光石火で歪虚を攻めた。
 誠一が幾度も「射光」を閃かせる。ウルミラが槍の技を駆使する。神楽の杖から紫電が迸る。マリィアが放った弾丸が荒れ狂う。
 そして――

「残るは一人だけだ、傲慢の歪虚」
 クレアが告げる。彼女だけは、オグの攻撃を妨害することに徹し続けた。
 それはジャックへの被害を抑えることにも繋がっていた。
「そうか。やるではないか!」
 しかしこの歪虚は、少なくとも表面上は動じてはいない。
「ではこちらも、この男の矜持くらいは砕かなくてはなあ!」
 さらに勢いを増してジャックに肉薄する歪虚。
 一瞬の内に距離を詰める。
 それは確かな『死』の存在感を感じさせる。
 床を踏み抜く程の踏み込みから、全身の力を込めた横薙の一撃がジャックの脇腹を抉った。



 ……



「………………ほう」

「………………それで………………
 お終いかコラァ!!!」

 だが、倒れない。
 ジャックは倒れない。

 未だ攻撃姿勢のままの歪虚にクレアが何度目かのレイターコールドショットを放った。
 同時に数条の光の線が突き刺さる。誠一の「射光」だ。
 さらにマリィアが獣の弾丸を解き放つ。それは両脚を貫いた。そして神楽が跳躍して振り下ろした鉄塊が、傲慢の歪虚を地に叩き伏せた。
 それでもなお、反射的に起き上がる歪虚。
 その首元を、槍が貫いた。

「その矜持、確かに見届けた」

 告げたのはウルミラ。
 それは歪虚にとっての最期を意味していた。

 傲慢の歪虚オグは最後まで自分を省みずに消えた。
 傲慢さが、あった。



●影に消えて
「てめぇは最後まで人の敵だったぜ、クソ歪虚」
 ジャックは虚空に向かって言い捨てる。
 ――肯定的な響きだった。

「死にたいと思うのは本人の勝手よ」
 マリィアが述べる。それは普段からの彼女の考えだ。
 死ぬとわかって戦った歪虚がいた、それだけの事。

 だが、そこから何かを感じることもできる。それも本人の勝手だろう。
「本当に、負けるのが前提で……」
 誠一はひとりごつ。
 例えば勝ち負けに拘らず、生き方を示す。
 そういう戦いだったのだと。

 何人かは砦内を探索し、今回の敵が『過去ベリアルの進行に乗じて勢力を伸ばした傲慢の一派』であったことを知った。
 背後に強大な存在がいるということはないようだ。



 制圧は完了した。
 しばし休憩してから帰還することになった。

 その最中、神楽は私兵団の覚醒者達と雑談した。
「……だから集団にはわかりやすい顔が必要なんっすよ、お嬢」
『ジョセファは私兵団・光貴なる盾の顔だ』みたいなことを言ったのである。
「えぇ……」
「……なんでギョームがしかめっ面なんですの?
 わたくしもイヤなのだけれど……猿の言葉は大体正しいのですわよね」
「なんだ、珍しく素直じゃねえか!」
「ところがどっこい従うとは言ってませんわ。
 お嬢様は大抵ワガママでしてよ!
 ごめんあそばせ!」

 猿の知恵も、聞く耳がなければ無意味であった。

「フォンヴェイユとマーロウというのはスフォルツァとどういう関係なんだ?」
 ウルミラはこの地方での貴族の関係について、私兵団のピエと話す機会を得た。見識を広める機会と考えたのである。
「マーロウは王家のやり方を快く思っていないみたいなんです。フォンヴェイユはそれに同調しています。でもスフォルツァは王家を支持しているから、仲よくはできないということです」
「なぜフォンヴェイユはスフォルツァに接触してきたんだ?」
「大奥様が言うにはマーロウの影響力を増やすためらしいです。具体的に何をさせたいのかまではわかりませんけど……」
 マーロウの影響力。
 それが王国に何をもたらすのか……。
 まだ誰にも解らない。

「一杯いかがかな?」
 一方でクレアは私兵団のビセンテからワインを勧められていた。
 クレアが好きなのはウイスキーであったが、断る理由はない。
 聞けば自家製なのだという。

 それは彼女の知るどんなワインとも違う格別な味がした――何せ、勝利の美酒であったから。



 今は、味わっておこう――

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参加者一覧

  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 焔は絶えず
    ウルミラ(ka6896
    ドラグーン|22才|女性|霊闘士
  • エージェント
    クレア・マクミラン(ka7132
    ドラグーン|27才|女性|猟撃士

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依頼相談掲示板
アイコン 歪虚砦攻略作戦卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/02/27 15:04:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/27 11:04:07