ゲスト
(ka0000)
ダブルグランドシナリオ「【闇光】決死撤退戦・暴食」 リプレイ

作戦1:遊撃遅滞戦闘 リプレイ
- ソフィア =リリィホルム
(ka2383) - 春日 啓一
(ka1621) - 米本 剛
(ka0320) - ディアドラ・ド・デイソルクス
(ka0271) - 岩井崎 旭
(ka0234) - セリス・アルマーズ
(ka1079) - ミィリア
(ka2689) - シルフェ・アルタイル
(ka0143) - ティス・フュラー
(ka3006) - アニス・エリダヌス
(ka2491) - 紅薔薇
(ka4766) - リリティア・オルベール
(ka3054) - 黒の夢
(ka0187) - ミオレスカ
(ka3496) - 摩耶
(ka0362) - カナタ・ハテナ
(ka2130) - フラン・レンナルツ
(ka0170) - レイオス・アクアウォーカー
(ka1990) - シュメルツ
(ka4367) - リンカ・エルネージュ
(ka1840) - 白藤
(ka3768) - 鹿東 悠
(ka0725) - 春陰
(ka4989)
●正陣
身体をそのまま押しつぶしてしまいそうな骨の掌が視界を遮る。
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は脇腹をえぐるスケルトンの攻撃もものともせず、怒号と共に小筒を構えた。いつものお洒落な衣装は両手両足から昇り立つ焔によってほとんど見えもしない。その焔を小筒に込めると、足元の稜堤の残骸がまとわりつき、巨大な携行大砲へと変貌した。
「っせやがれぇぇ!」
半分、掌に押しつぶされながらもソフィアの大砲が火を吹くと同時に、暗雲立ち込める空間に骨片をばらまき、そして大型スケルトンはそのまま真後ろにどう、と倒れ伏した。だが、同時にソフィアも幾体もの並のスケルトンに押し倒され、ギチギチと肉の抉れる音が響く。
「離しやがれ!」
春日 啓一(ka1621)は煌剣を振り回して鮮血を貪るスケルトンを吹き飛ばし、血まみれのソフイアを救い出す。
「堤が完全崩壊するギリギリまで持たせるぞ」
春日は荒い息を吐きながら、新たに堤を乗り越えて飛び込んでくるスケルトンを思い切り殴りつけた。剣を振るわなかったのではない。全力で振り回し続けてもう腕の力がなくなりかけていたからだ。
対ハヴァマール軍の侵攻を少しでも遅らせる為と作った簡易堤はもうやすやすと乗り越えられていく。できるだけの立地を作っておきたかったがいかんせん時間がなさすぎた。
「まだ諦めてはいけませんよ。戦いは始まったばかり」
米本 剛(ka0320)がソフィアにヒールをかけて、笑顔を一つ作って見せた。そんな米本も余裕があるわけではない。暴食、死を救いとするハヴァマール直々の軍において回復役は特に集中狙いを受けている。
背中はとっくに血だらけ。だが、その大きな体躯は目の前の彼らには決して見せない。
そんな米本の笑顔が陰った。いや、違う。ソフィアが吹き飛ばした大型スケルトンの虚ろな口が眼前にせまる。
「クソがぁっ」
春日の煌剣と米本のセイクリッドフラッシュがサレコウベの鼻に叩きつけられるが勢いは収まらない。そのまま兵士の残骸がこびりついた歯が迫って来る。
「はははは、怖れるでないぞ。なんと言っても大王たるボクがついているのだからな!」
ガシャア、という鈍い音と共にディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)の明るい声が響いた。食われそうだった仲間の前に率先して立ち、このシールドを掲げて、つっかえ棒にしていた。
「ぐ……ぬ」
自分の身体を丸ごと覆い隠すサレコウベの力でディアドラの小さな身体でへし折れそうになる。下の歯がくの字に曲がる膝を捕らえねじ込まれ、血が滲み始める。
「てめぇらの食いもんじゃねぇんだッ!!」
ディアドラの真上を大きく覚醒の翼を開いた岩井崎 旭(ka0234)が跳躍し、眉間に向けて吼え猛る爆突風を繰り出す。剣に巻き付く暴風は鉄の様な頭蓋骨を叩き下いて一気に頭半分を吹き飛ばした。その勢いで巨大なスケルトンは真下に崩れ落ち、岩井崎はその向こう側へと降り立つ。
それを待ち受けていたかのようにスケルトンが一斉に飛びかかった。堤の外に降り立った彼はソフィアよりももっと残酷な嗜虐の対象となり肉という肉が抉られる不快な音が響き渡った。
「光あれ!!」
戦馬に跨ったセリス・アルマーズ(ka1079)は側面の攻撃を放棄すると岩井崎の元に駆け付け、そのまま剣を天に掲げたかと思うと聖なる光が剣先より迸った。岩井崎を襲ったスケルトン達は光を浴びたかと思うと、そのまま粉みじんになって光の奔流に呑まれて消えていく。
「す、ま……な」
血まみれで原形すらおぼつかない岩井崎は微かに口を動かしてセリスに礼を述べると、彼女も疲れた顔をほんの少しだけ覗かせて微笑み返した。
「お礼なら帰った後に教会によろしく! 今なら素敵なロザリオが……」
そんな勧誘の言葉で気休めを得た瞬間、巨大な骨の切っ先が頭の上から降り注いだ。セリスはすぐさま岩井崎を庇い、杭のような骨が胸や腹を貫通する。
「とっつげきぃぃぃぃぃ!!!」
岩井崎の言葉を遮るように、可愛い声が響き渡ったかと思うと、ミィリア(ka2689)の花びらの幻影を伴った風が真横から吹きつけ、再度立ち上がった巨体の骨盤が一瞬で粉々に砕け散り、巨大なスケルトンはそのまま地響きと共に崩れ落ちた。
「みんな! 他のところに合流しなきゃ!!」
先鋒を打って出ていたミィリアはぐるんと薙刀を大きく振り回し、周りのスケルトンを雪まじりの花吹雪と共に蹴散らすと岩井崎に骨で埋まっていた景色の向こう側を指さした。
「!!」
三方から攻める自軍において、歪虚王が接敵すれば、左右どちらかの陣に攻撃が向かうことを岩井崎は読んでいた。そしてそれはミィリアの切り開いてくれた視界によって証明された。自分たち正面からの攻撃陣に対して割かれた軍はほんの僅か。残りは滝を割ったかのように左右へ、そして背後にある第四キャンプへと行進していく。
「後陣に合流!」
ソフィアはすぐさま状況を把握すると、後陣に待機する組へとの合流を指示した。このままでは手遅れになる。
「まだ、たくさんいますよ! もう少し引きつけなければ」
米本の言う通り、堤を次々とスケルトンたちは乗り越えてくる。
「はやてにお任せですの!」
と、その時、堤が派手に煙を上げて一気に崩れ落ちた。
落とし穴だ。しかもご丁寧に崩れ落ちた堤がフタになって這い上がる骨を埋めてくれる。接敵前に作成された堤にこんな仕掛けがあるとはソフィアも思いもよらなかった。
「ミィリアがもう少しだけ……食い止める。未来を切り開くのはいちだって諦めない心!」
瞳の光が失われつつある自隊の隊長である岩井崎やセリスを八劒 颯(ka1804)にゆだねると、押し寄せる白骨をさらうように横薙ぎに走り、仲間の後退を支援した。
無数の白刃を前にしてもミィリアは決して引かなかった。そして。
桜が散る。
●後陣
後陣は怒涛の攻撃に完全に呑まれていた。
シルフェ・アルタイル(ka0143)の作ったスネアートラップで幾体もの骨が地面に伏せたが。それを乗り越えてくる方が断然多い。準備の時間が足りなかったのが克明に結果に表れている。
もう撤退ラインだ。シルフェは目印がもう視認できる位置まで来ていることを確認して、前方に火炎瓶を投げつけた。
「!」
甲高い音がして火炎瓶が撥ね退けられる。そしてそのまま一気に跳躍したスケルトンがシルフェの顔面に食らいついた。
「仲間が欲しいの? うん、でもね……まだみんな頑張ってるの」
死の象徴たる髑髏を見ても恐怖せずシルフエはぽそりとそう言うと食らいつかれているのも構わず、一気に胸骨を蹴り飛ばして地面で燃え盛る炎の中にスケルトンを押し込んだ。 炎の壁の中で力尽きるスケルトン。それは小さな山のようになっていた。だが、それをも乗り越えて新たなスケルトンが姿を現す。正面を陣取るメンバーの奮迅は遠目から見ても分かる。だが、それでも無尽蔵と言えるほどに押し寄せて来るのだ。
尽くす手も失い、シルフェはチョコを原料にした食毒薬を手にしたまま軍勢を見守る中、ティス・フュラー(ka3006)が彼女の目の前に立った。
「最後まで諦めてはいけません。絶対に。敵軍が第四キャンプに到達するまでもう少し時間があります。本隊の撤退完了の合図が出るまで……!」
気だるげな長女の瞳をちらと思い出し、絶対にあきらめてなるものかと奮起する。すぐさまファイアボールの詠唱を終えると、迫りくる骨の一群に向かってそれを叩きつけた。腹の底から響き渡る振動とともに、銀の髪が熱のこもった爆風にたなびく。
続いて2発、3発。
あたりは雪の白と、炎の赤、そして暗雲の黒の3色が交互に煌めいた。
「防ぎきれない……」
魔力が尽きた後は、ティスはそのまま拳銃を抜き放ち、後退しながら撃ちつづけるも、徐々にその差が縮まり眼前が髑髏に埋まり、その手だけが骨の波より突き出る。
敵本陣はまだ撤退ラインまで踏み込んでは来ていないが、かなりの数の不死者が第四キャンプへと流れていく。
「大いなる力よ、道を開け!」
スケルトンからの逆襲に血まみれになるティスの手を取って自らが盾になるようにして庇い、アニス・エリダヌス(ka2491)がスタッフを空に掲げた。
瞬間杖の先から光が咲き乱れ、周囲が烈光で包まれた。迸る光は骨を貫き、群がる敵を一掃する。
「アニスさん……」
「今は一人でも多く生存すること。ティスちゃんも死なせたりしない」
アニスは光の中で微笑んだ。
「みんなごめんね。防ぎきれなかった……この願い、届いて」
撤退ラインの目印が足元にして、ティスが置いておいた花火に着火した。
花火は火柱を伴って雪まじりの空へと走り、とりわけ明るい光を放って、皆の顔を照らした。
悲しいの情報。
大した喰いとめもできなかったことをそれは意味していた。
だが、それは同時に生きろ。という合図でもあったが、それと同時に歪虚王ハヴァマールから烈光が迸ったのをアニスはすぐ見つけ、トランシーバーを手に取った。
「撤退の合図を出しました。……今の光は?」
それに帰ってきたのは雑音まじりの男性の声。
「少しだけ希望ができました。これより一気に削りますよ」
後陣からは何が起こっているかは理解できないが、戦況に少し変化があったのかもしれない。
「シル、もう少しだけ頑張る」
チョコレートに念を込めて、シルフェは遠くにそれを投げつけると、骨の何体かはそれに気を取られ見上げたのをシルフェは足蹴にして、これまで下がって来た分を取り返すように前に進んだ。
同時に、第四キャンプから防衛戦が本格化した音が聞こえ始める。大砲の爆撃音で一層世界が混迷していくのを耳で感じながら、後陣を形成する皆は進みゆく。
「仲間を一人も残しちゃいけない。行きましょう。これからは支援の為に」
まだ仲間達が希望を捨てていないのなら。
アニスはもう一度綻ぶ花の光を迸らせると、血まみれになったティスに肩を貸しながら、一気に前へと進み始めた。
●右陣
「生きるとハ、辛いことじゃノウ。恐怖におびエ、悲しミのクレ。苦しむことばかリ」
歪虚王ハヴァマールの声は同情に満ちていた。しかし攻撃の手は全く揺るがぬ。大地の闇から生まれ出る軍勢はまるで一つの意志でつながったかのようにハンターの左右の陣の撤退路を確実に防いでくる。撤退などさせるつもりはないらしい。
「生が苦とは笑止。人に届かぬものはないと証明できる絶好の機会じゃ」
ハヴァマールの下ろした手を遡るようにして紅薔薇(ka4766)が肩口を蹴って飛ぶと、光の筋となった刀でその肘に煌剣を叩きこんだ。
「剣魔等いくつもの身体を使い分け他者から奪い外部のコアに溜めた力の続く限り無限に召喚再生が可能。それがお主の不死の理由なのじゃろう?」
「剣魔……? 誰じャ? 洞察はよいガ、剣筋と同ジ」
渾身の一撃だったはずだ。マテリアルを込めた一撃。破壊の感触もあった。だが。
岩の様な歪虚王の肘は光の収束した後は微かに傷がついているだけだった。剣は埋まりすらしていない。唖然とする紅薔薇の真上でハヴァマールの口から闇が収束する不快な音が聞こえた。
「詭道なリ」
「!」
剣を構えて受け流す体勢を取った次の瞬間にはもう、紅薔薇は吹き飛び闇の炎に包まれたまま、地面に墜落した。同時に打ち払ったはずのスケルトンがまた大地の闇から姿を現し、悶絶する紅薔薇を食らおうと襲い掛かる。
「紅薔薇さん!!!」
すぐさまバイクに乗ったリリティア・オルベール(ka3054)が紅薔薇を回収すると同時に歪虚王の追撃をユノ(ka0806)がアースウォールで遮断する。
「うにゃぁぁぁ! また骸骨ばっかでるぅぅぅ」
アースウォールがすぐさま破壊されるのは読み通りであったが、リリティアが薙ぎ払った後からも湧き出てくる様子にユノは慌てて逃げ出し、黒の夢(ka0187)の元に逃げ出す。
「幾ら寝ても微睡みもせぬ。揺り籠の詩になればよいがの」
眼窩に目蓋はなく。いついかなる時も闇を見続けなければならぬ。黒の夢はぽつりとそう漏らすと謳うように炎を呼び出した。同時に黒の夢をぐるりと走ったユノもそのまま詠唱を合わせて大きな詩に変えていく。
「天地の初めに闇はあり。闇世に原初の炎が生まれ出ず、光を持って終わりのない闇に眠りをもたらす」
「闇と光に分かたれ、世界に法を生みたり。世は命に満たされ、最も幸せな七日間を過ごした」
炎球は二人の力により、小型の太陽と思わせんばかりの光と力を持ち、そして歌の終わりと同時に、大地を奔った。群がる死者を焼き溶かし、白塵に変え、剣王の上半身ず生まれる闇の渦で炸裂した。
「世を分かつハ、摂理ではなく人の業」
「根本も効果なしか……!」
ハヴァマールの厳かな声が響き渡り、ユノは歯噛みした。炎はまるで宇宙の中に浮かぶ小さな星のように明滅し、そしてふっと途切れた。同時に無数に生まれる人影が黒の夢、ユノを取り囲み一斉に襲い食らいつかれる。喉を押さえられては悲鳴も上げられぬ。
「させません!!」
ミオレスカ(ka3496)はロングボウから矢を天空に向かって放ち、雨のようなエネルギーの雨を一斉に降らして骨の群れを砕いた。その隙を狙ってリリティアがスケルトンの中に飛び込み、回転して青い髪をなびかせると同時に手裏剣を放った。マテリアルによって羽の幻影をまき散らしながら、手裏剣はスケルトンを次々と砕いていく。
「剣王!」
リリティアは着地と同時に斬龍刀を引き抜くとさらに跳躍し、ハヴァマールの巨大な頭部へと一気に飛翔した。狙いは眼窩。硬い骨格の向こう、深淵の闇とぼんやりと燃える瞳の赤がちらつく場所。 ガシャァァァァァっ
リリティアの強烈な一撃が眼窩の骨を砕いた。
が。
振り落とされるようにリリティアが着地した場所を狙ってハヴァマールの剣が走った。
モノクルを付けた瞳に映る刃は狙いすましたかのように地面を走り、多少の隆起も吹き飛ばしていく。右も左も避けきれぬ。それどころか、真後ろに待機させた紅薔薇も、魔法で援護してくれた黒の夢もユノも、ミオレスカも。全員巻き添えにされる。
全滅する……っ。
リリティアが口惜しさに目を見開いた瞬間。
「狙いはそちらですか?」
その視線にわざと入るように、神々しいまでの金髪が横切り、ハヴァマールはピタリと動きを止めた。
「オオオ、厄介なる人の子よ。そこにおったカ」
それと同時に剣迅はそちらに向かって走り始める。そう。この北伐の指揮を執る帝国皇帝ヴィルヘルミナに。いや、その衣装を借りた摩耶(ka0362)に。
「うたわれるものよ……」
摩耶は剣王の意識がこちらに向いたことを確認すると戦馬の腹を蹴って走り出した。身の丈全てを刈り取るような横薙ぎの一撃も跳躍して回避すると同時に、葉巻を潰して作った煙幕で身を隠した。
「今の間にっ」
目くらましをしている間に死角に移動すれば、少しだけでも引きつけられるはずだ。仲間が、助かるために。
だが、煙を中を負の空気が渦巻いた瞬間、摩耶の平衡感覚は狂い地面に埋もれた。灼熱のような痛みが下半身から届くが、脳からの命令は何一ついう事を聞いてくれない。ハヴァマールの指先がそれを捕らえていたからだ。
「オオォ。捕まえた、ゾ。反逆の時もこれデ、仕舞いじャ」
マテリアルが、命の炎が、急速に枯渇していく。灼熱の痛みもあっという間に冷たいものに変わっていく。
「それでも尚、諦めるわけには、いきま、せん。人の刻は、続ける、のだから」
王越しに連合軍の動きを見やった。もう少し、もう少し時間があれば。退却できる。
ならば。
「私の光を食らいつくして、ごらんなさい」
摩耶の身体が煌めいた。光のように。命を尽くしてマテリアルを迸らせる。
心の光を全て光にして。
●左陣
リアルブルーの時計には水晶がよく使われると聞く。
正確な時間を刻むために。
闇の中で、死によって狂った時の流れの中で。
その光は時を正確に教えてくれる。一分一秒を。命があるということを。まだ終わりの時は来ていないことを。
「一瞬も無駄にしてはならぬ! 今の間に全力で向かうのじゃ!!」
カナタ・ハテナ(ka2130)の号令の元、左陣からの攻撃がより一層苛烈を極める。
常世の闇からよじ登て現るスケルトンにフラン・レンナルツ(ka0170)の制圧射撃が容赦なく降り注ぎ、全身が浮かび出る頃にはスケルトンはそのまま闇の中にまた朽ちて落ちるが、幾重にもフランを潰しにかかり、徐々に弾幕が押し込まれる。
「3(トゥリィ) 2(ドゥヴァ) 1(アジン)……」
フランが骨の襲撃されるギリギリのところで、射撃を止めたところでレイオス・アクアウォーカー(ka1990)がフランの横を駆け抜け、雷撃刀を振りかぶった。
「止めてみせる!!!」
自らの真っ赤な髪が視界を流れていく向こう側で、電撃が骨を砕いていく。
と、同時にシュメルツ(ka4367)がその真上をバイクで飛んだと思うと、骨の群れを押し潰した。同時にアクセルを吹かせてそのまま骨の群れに突破していく。
「シュテルプリヒ、の最強、証明する……」
「出すぎるな!! 数を減らすことに注力……」
そのまま背を向ける歪虚王に向かって突撃していシュメルツにくレイオスが叫ぶが派手なエンジン音にそれは届かない。
「ああいうのは、思い切りさせて上げた方がかえってうまく行くわよ」
リンカ・エルネージュ(ka1840)がレイオスの後ろに立って微笑むと、そのままファイアボールをシュメルツの前方、剣王を巻き込むような行く手をこじ開けるように放った。だが、ファイアボールはまた切れ切れになったかと思うと、闇に消え、そして代わりに打ち倒されたスケルトンが新たに呼び出される。
「ああ、もうキリあらへんな。悠。ちゃん壁になってや」
白藤(ka3768)は新たに生まれたスケルトン達の眉間を軒並み撃ちぬいていく。
「相変わらず派手好きなようで。派手であればあるほどノっていく」
態度の大きさだけは歪虚王並ですね。と、鹿東 悠(ka0725)はクスリと笑って槍で彼女の死角となる敵を突き潰した。
「うん……?」
シュメルツと剣王との殺りあいを望遠鏡で覗いていたカナタは、そんな二人のじゃれ合う会話に耳をビクン、と動かした。
「派手なほどに、ノって……?」
シュメルツのワイヤーウィップの一撃は派手に剣王の腕を打つが、ちょっとしか傷がつかない。紅薔薇の一撃も似たような感じだった。
何故同じ?
「レイオス! 渾身の一撃を頼むぞ」
カナタは猫波によって猫の幻影を呼び出し、不死者達を薙ぎ払いレイオスに道を開いた。
「マジかよ、むしろカナタが守るやつがいなくなるぞ」
「心配なら連れて行け!!」
無茶苦茶言いやがる。レイオスは思わず口元をひきつらせたが、何やら確信を得たようなカナタに賭けてみることにした。
「リンカ! 道をしっかり開けてくれ!」
「まかせて!」
リンカのファイアボールがもう一度同じ場所に放たれた。相変わらず骨は焼け崩れ、ハヴァマールには傷一つつけられず、新たな骨が二人の行く手を阻む。
「どこ行っても行き止まり。まあ帰れりゃいいわ。こっちは任せとき」
魔導バイクで白藤は追走すると、新たなスケルトンを制圧射撃で封じ込め、レイオスとカナタがハヴァマールの元にたどり着いた。
「仲間を、はなしやがれェェェ!!!!」
光が弱まり、消えさろうとしている。
レイオスは激怒して、その腕に飛び込むと渾身の剣を叩きこんだ。
だが、やはり。傷はちらりとしかつかぬ。そして新たに現れる骨の群れ。
「やはりの。剣王どん。そなた……生体マテリアルを吸収しておるな」
強力無比のレイオス、紅薔薇の攻撃と、エンタングル目的のシュメルツの一撃が同じような傷になるはずがない。リンカのファイアボールを受けた分だけスケルトンが再来するという流れもそれを裏付けた。
派手になればなるほどノッていく。
「……勘のヨイのガおるのゥ。人間は本当ニ、思わヌ智慧を持ツ。危険なコトじゃ。だが、帝国の主よりマテリアルは存分にもらいうけタゾ」
カナタの一言にハヴァマールが明確に反応し、ゆっくりと身体を起こすハヴァマール。摩耶の光はすっかり失せ、そこには枯れ果てた細腕と銀髪だけしか見えない。
「剣王どんへの攻撃にはマテリアルを伴った攻撃は厳禁じゃ。麾下の骨を……!!」
トランシーバーに指示を出した瞬間、カナタの姿が文字通り吹き飛んだ。残るのは爆風と闇の炎ばかり。
「カナタァっっっ!!!!」
「少しだけ希望ができました。これより一気に削りますよ」
誰の物かもうわかりもしない転げ落ちたトランシーバーを拾い上げた鹿東は、槍を大きく回してバイクをふかし、ニヤリと笑った。
●最終撤退 「行きつく先であろうが、今はまだその時ではないのな」
黒の夢は祈るようにそう言うと、ファイアボールで骸骨達を薙ぎ払った。
「オオオオオ、オオオオオ」
ハヴァマールは咆哮して、闇から眷属を再召喚するも生体マテリアル吸収の能力を見破られた今、その数は明らかに減じていた。骨の総量は押し返すほどではないが、明らかに減少しているのを誰もが感じていた。
「人間の知恵がこれホドトハ……」
その感嘆の言葉の一瞬をついてハヴアマールの懐に飛び込んだ春陰(ka4989)が地面に半分埋もれた摩耶を救い出した。
彼女の精根は尽き果て、疾影士のもっとも力を発揮する下半身はもはや人間のそれとは思えないほどに断裂していた。
「一人でも多く帰還させる……決して誰も見捨てたりしません」
「ナゼ、生カス。ナゼ生キル。苦しみヲ長引かせるナ」
「苦しみ? 生が苦であるかどうかは、人が決めることです」
真上から落ちてくる巨大な剣撃を春陰は仕込杖を掲げて受け流し、その勢いを利用してわざと跳ね飛ばされた。腕の骨が悲鳴を上げるが、マテリアルヒーリングで修復して、再び走った。見る限り視界はスケルトンだらけ。
だが、そこにバイクのエンジン音と共に、斬龍刀が一閃し、その壁を薙ぎ払った。
「血路は開きました。乗ってください」
リリティアだ。
春陰はすぐさまリリティアに摩耶を乗せ、自らは全力で走った。
「撤退、血路は開いた!」
春陰は叫びながら走り続けた。
予想よりも早い撤退の合図に、犠牲は数限りないと思わせたが、それでも遅滞戦闘組は命を張って攻撃を受け止め、さらにはハヴァマールの特性まで見破り、ギリギリまでスケルトンの軍勢を削り続けた成果は計り知れない。
多大な犠牲を払ったが、光の水晶はまだ……時を刻み続けている。
身体をそのまま押しつぶしてしまいそうな骨の掌が視界を遮る。
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は脇腹をえぐるスケルトンの攻撃もものともせず、怒号と共に小筒を構えた。いつものお洒落な衣装は両手両足から昇り立つ焔によってほとんど見えもしない。その焔を小筒に込めると、足元の稜堤の残骸がまとわりつき、巨大な携行大砲へと変貌した。
「っせやがれぇぇ!」
半分、掌に押しつぶされながらもソフィアの大砲が火を吹くと同時に、暗雲立ち込める空間に骨片をばらまき、そして大型スケルトンはそのまま真後ろにどう、と倒れ伏した。だが、同時にソフィアも幾体もの並のスケルトンに押し倒され、ギチギチと肉の抉れる音が響く。
「離しやがれ!」
春日 啓一(ka1621)は煌剣を振り回して鮮血を貪るスケルトンを吹き飛ばし、血まみれのソフイアを救い出す。
「堤が完全崩壊するギリギリまで持たせるぞ」
春日は荒い息を吐きながら、新たに堤を乗り越えて飛び込んでくるスケルトンを思い切り殴りつけた。剣を振るわなかったのではない。全力で振り回し続けてもう腕の力がなくなりかけていたからだ。
対ハヴァマール軍の侵攻を少しでも遅らせる為と作った簡易堤はもうやすやすと乗り越えられていく。できるだけの立地を作っておきたかったがいかんせん時間がなさすぎた。
「まだ諦めてはいけませんよ。戦いは始まったばかり」
米本 剛(ka0320)がソフィアにヒールをかけて、笑顔を一つ作って見せた。そんな米本も余裕があるわけではない。暴食、死を救いとするハヴァマール直々の軍において回復役は特に集中狙いを受けている。
背中はとっくに血だらけ。だが、その大きな体躯は目の前の彼らには決して見せない。
そんな米本の笑顔が陰った。いや、違う。ソフィアが吹き飛ばした大型スケルトンの虚ろな口が眼前にせまる。
「クソがぁっ」
春日の煌剣と米本のセイクリッドフラッシュがサレコウベの鼻に叩きつけられるが勢いは収まらない。そのまま兵士の残骸がこびりついた歯が迫って来る。
「はははは、怖れるでないぞ。なんと言っても大王たるボクがついているのだからな!」
ガシャア、という鈍い音と共にディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)の明るい声が響いた。食われそうだった仲間の前に率先して立ち、このシールドを掲げて、つっかえ棒にしていた。
「ぐ……ぬ」
自分の身体を丸ごと覆い隠すサレコウベの力でディアドラの小さな身体でへし折れそうになる。下の歯がくの字に曲がる膝を捕らえねじ込まれ、血が滲み始める。
「てめぇらの食いもんじゃねぇんだッ!!」
ディアドラの真上を大きく覚醒の翼を開いた岩井崎 旭(ka0234)が跳躍し、眉間に向けて吼え猛る爆突風を繰り出す。剣に巻き付く暴風は鉄の様な頭蓋骨を叩き下いて一気に頭半分を吹き飛ばした。その勢いで巨大なスケルトンは真下に崩れ落ち、岩井崎はその向こう側へと降り立つ。
それを待ち受けていたかのようにスケルトンが一斉に飛びかかった。堤の外に降り立った彼はソフィアよりももっと残酷な嗜虐の対象となり肉という肉が抉られる不快な音が響き渡った。
「光あれ!!」
戦馬に跨ったセリス・アルマーズ(ka1079)は側面の攻撃を放棄すると岩井崎の元に駆け付け、そのまま剣を天に掲げたかと思うと聖なる光が剣先より迸った。岩井崎を襲ったスケルトン達は光を浴びたかと思うと、そのまま粉みじんになって光の奔流に呑まれて消えていく。
「す、ま……な」
血まみれで原形すらおぼつかない岩井崎は微かに口を動かしてセリスに礼を述べると、彼女も疲れた顔をほんの少しだけ覗かせて微笑み返した。
「お礼なら帰った後に教会によろしく! 今なら素敵なロザリオが……」
そんな勧誘の言葉で気休めを得た瞬間、巨大な骨の切っ先が頭の上から降り注いだ。セリスはすぐさま岩井崎を庇い、杭のような骨が胸や腹を貫通する。
「とっつげきぃぃぃぃぃ!!!」
岩井崎の言葉を遮るように、可愛い声が響き渡ったかと思うと、ミィリア(ka2689)の花びらの幻影を伴った風が真横から吹きつけ、再度立ち上がった巨体の骨盤が一瞬で粉々に砕け散り、巨大なスケルトンはそのまま地響きと共に崩れ落ちた。
「みんな! 他のところに合流しなきゃ!!」
先鋒を打って出ていたミィリアはぐるんと薙刀を大きく振り回し、周りのスケルトンを雪まじりの花吹雪と共に蹴散らすと岩井崎に骨で埋まっていた景色の向こう側を指さした。
「!!」
三方から攻める自軍において、歪虚王が接敵すれば、左右どちらかの陣に攻撃が向かうことを岩井崎は読んでいた。そしてそれはミィリアの切り開いてくれた視界によって証明された。自分たち正面からの攻撃陣に対して割かれた軍はほんの僅か。残りは滝を割ったかのように左右へ、そして背後にある第四キャンプへと行進していく。
「後陣に合流!」
ソフィアはすぐさま状況を把握すると、後陣に待機する組へとの合流を指示した。このままでは手遅れになる。
「まだ、たくさんいますよ! もう少し引きつけなければ」
米本の言う通り、堤を次々とスケルトンたちは乗り越えてくる。
「はやてにお任せですの!」
と、その時、堤が派手に煙を上げて一気に崩れ落ちた。
落とし穴だ。しかもご丁寧に崩れ落ちた堤がフタになって這い上がる骨を埋めてくれる。接敵前に作成された堤にこんな仕掛けがあるとはソフィアも思いもよらなかった。
「ミィリアがもう少しだけ……食い止める。未来を切り開くのはいちだって諦めない心!」
瞳の光が失われつつある自隊の隊長である岩井崎やセリスを八劒 颯(ka1804)にゆだねると、押し寄せる白骨をさらうように横薙ぎに走り、仲間の後退を支援した。
無数の白刃を前にしてもミィリアは決して引かなかった。そして。
桜が散る。
●後陣
後陣は怒涛の攻撃に完全に呑まれていた。
シルフェ・アルタイル(ka0143)の作ったスネアートラップで幾体もの骨が地面に伏せたが。それを乗り越えてくる方が断然多い。準備の時間が足りなかったのが克明に結果に表れている。
もう撤退ラインだ。シルフェは目印がもう視認できる位置まで来ていることを確認して、前方に火炎瓶を投げつけた。
「!」
甲高い音がして火炎瓶が撥ね退けられる。そしてそのまま一気に跳躍したスケルトンがシルフェの顔面に食らいついた。
「仲間が欲しいの? うん、でもね……まだみんな頑張ってるの」
死の象徴たる髑髏を見ても恐怖せずシルフエはぽそりとそう言うと食らいつかれているのも構わず、一気に胸骨を蹴り飛ばして地面で燃え盛る炎の中にスケルトンを押し込んだ。 炎の壁の中で力尽きるスケルトン。それは小さな山のようになっていた。だが、それをも乗り越えて新たなスケルトンが姿を現す。正面を陣取るメンバーの奮迅は遠目から見ても分かる。だが、それでも無尽蔵と言えるほどに押し寄せて来るのだ。
尽くす手も失い、シルフェはチョコを原料にした食毒薬を手にしたまま軍勢を見守る中、ティス・フュラー(ka3006)が彼女の目の前に立った。
「最後まで諦めてはいけません。絶対に。敵軍が第四キャンプに到達するまでもう少し時間があります。本隊の撤退完了の合図が出るまで……!」
気だるげな長女の瞳をちらと思い出し、絶対にあきらめてなるものかと奮起する。すぐさまファイアボールの詠唱を終えると、迫りくる骨の一群に向かってそれを叩きつけた。腹の底から響き渡る振動とともに、銀の髪が熱のこもった爆風にたなびく。
続いて2発、3発。
あたりは雪の白と、炎の赤、そして暗雲の黒の3色が交互に煌めいた。
「防ぎきれない……」
魔力が尽きた後は、ティスはそのまま拳銃を抜き放ち、後退しながら撃ちつづけるも、徐々にその差が縮まり眼前が髑髏に埋まり、その手だけが骨の波より突き出る。
敵本陣はまだ撤退ラインまで踏み込んでは来ていないが、かなりの数の不死者が第四キャンプへと流れていく。
「大いなる力よ、道を開け!」
スケルトンからの逆襲に血まみれになるティスの手を取って自らが盾になるようにして庇い、アニス・エリダヌス(ka2491)がスタッフを空に掲げた。
瞬間杖の先から光が咲き乱れ、周囲が烈光で包まれた。迸る光は骨を貫き、群がる敵を一掃する。
「アニスさん……」
「今は一人でも多く生存すること。ティスちゃんも死なせたりしない」
アニスは光の中で微笑んだ。
「みんなごめんね。防ぎきれなかった……この願い、届いて」
撤退ラインの目印が足元にして、ティスが置いておいた花火に着火した。
花火は火柱を伴って雪まじりの空へと走り、とりわけ明るい光を放って、皆の顔を照らした。
悲しいの情報。
大した喰いとめもできなかったことをそれは意味していた。
だが、それは同時に生きろ。という合図でもあったが、それと同時に歪虚王ハヴァマールから烈光が迸ったのをアニスはすぐ見つけ、トランシーバーを手に取った。
「撤退の合図を出しました。……今の光は?」
それに帰ってきたのは雑音まじりの男性の声。
「少しだけ希望ができました。これより一気に削りますよ」
後陣からは何が起こっているかは理解できないが、戦況に少し変化があったのかもしれない。
「シル、もう少しだけ頑張る」
チョコレートに念を込めて、シルフェは遠くにそれを投げつけると、骨の何体かはそれに気を取られ見上げたのをシルフェは足蹴にして、これまで下がって来た分を取り返すように前に進んだ。
同時に、第四キャンプから防衛戦が本格化した音が聞こえ始める。大砲の爆撃音で一層世界が混迷していくのを耳で感じながら、後陣を形成する皆は進みゆく。
「仲間を一人も残しちゃいけない。行きましょう。これからは支援の為に」
まだ仲間達が希望を捨てていないのなら。
アニスはもう一度綻ぶ花の光を迸らせると、血まみれになったティスに肩を貸しながら、一気に前へと進み始めた。
●右陣
「生きるとハ、辛いことじゃノウ。恐怖におびエ、悲しミのクレ。苦しむことばかリ」
歪虚王ハヴァマールの声は同情に満ちていた。しかし攻撃の手は全く揺るがぬ。大地の闇から生まれ出る軍勢はまるで一つの意志でつながったかのようにハンターの左右の陣の撤退路を確実に防いでくる。撤退などさせるつもりはないらしい。
「生が苦とは笑止。人に届かぬものはないと証明できる絶好の機会じゃ」
ハヴァマールの下ろした手を遡るようにして紅薔薇(ka4766)が肩口を蹴って飛ぶと、光の筋となった刀でその肘に煌剣を叩きこんだ。
「剣魔等いくつもの身体を使い分け他者から奪い外部のコアに溜めた力の続く限り無限に召喚再生が可能。それがお主の不死の理由なのじゃろう?」
「剣魔……? 誰じャ? 洞察はよいガ、剣筋と同ジ」
渾身の一撃だったはずだ。マテリアルを込めた一撃。破壊の感触もあった。だが。
岩の様な歪虚王の肘は光の収束した後は微かに傷がついているだけだった。剣は埋まりすらしていない。唖然とする紅薔薇の真上でハヴァマールの口から闇が収束する不快な音が聞こえた。
「詭道なリ」
「!」
剣を構えて受け流す体勢を取った次の瞬間にはもう、紅薔薇は吹き飛び闇の炎に包まれたまま、地面に墜落した。同時に打ち払ったはずのスケルトンがまた大地の闇から姿を現し、悶絶する紅薔薇を食らおうと襲い掛かる。
「紅薔薇さん!!!」
すぐさまバイクに乗ったリリティア・オルベール(ka3054)が紅薔薇を回収すると同時に歪虚王の追撃をユノ(ka0806)がアースウォールで遮断する。
「うにゃぁぁぁ! また骸骨ばっかでるぅぅぅ」
アースウォールがすぐさま破壊されるのは読み通りであったが、リリティアが薙ぎ払った後からも湧き出てくる様子にユノは慌てて逃げ出し、黒の夢(ka0187)の元に逃げ出す。
「幾ら寝ても微睡みもせぬ。揺り籠の詩になればよいがの」
眼窩に目蓋はなく。いついかなる時も闇を見続けなければならぬ。黒の夢はぽつりとそう漏らすと謳うように炎を呼び出した。同時に黒の夢をぐるりと走ったユノもそのまま詠唱を合わせて大きな詩に変えていく。
「天地の初めに闇はあり。闇世に原初の炎が生まれ出ず、光を持って終わりのない闇に眠りをもたらす」
「闇と光に分かたれ、世界に法を生みたり。世は命に満たされ、最も幸せな七日間を過ごした」
炎球は二人の力により、小型の太陽と思わせんばかりの光と力を持ち、そして歌の終わりと同時に、大地を奔った。群がる死者を焼き溶かし、白塵に変え、剣王の上半身ず生まれる闇の渦で炸裂した。
「世を分かつハ、摂理ではなく人の業」
「根本も効果なしか……!」
ハヴァマールの厳かな声が響き渡り、ユノは歯噛みした。炎はまるで宇宙の中に浮かぶ小さな星のように明滅し、そしてふっと途切れた。同時に無数に生まれる人影が黒の夢、ユノを取り囲み一斉に襲い食らいつかれる。喉を押さえられては悲鳴も上げられぬ。
「させません!!」
ミオレスカ(ka3496)はロングボウから矢を天空に向かって放ち、雨のようなエネルギーの雨を一斉に降らして骨の群れを砕いた。その隙を狙ってリリティアがスケルトンの中に飛び込み、回転して青い髪をなびかせると同時に手裏剣を放った。マテリアルによって羽の幻影をまき散らしながら、手裏剣はスケルトンを次々と砕いていく。
「剣王!」
リリティアは着地と同時に斬龍刀を引き抜くとさらに跳躍し、ハヴァマールの巨大な頭部へと一気に飛翔した。狙いは眼窩。硬い骨格の向こう、深淵の闇とぼんやりと燃える瞳の赤がちらつく場所。 ガシャァァァァァっ
リリティアの強烈な一撃が眼窩の骨を砕いた。
が。
振り落とされるようにリリティアが着地した場所を狙ってハヴァマールの剣が走った。
モノクルを付けた瞳に映る刃は狙いすましたかのように地面を走り、多少の隆起も吹き飛ばしていく。右も左も避けきれぬ。それどころか、真後ろに待機させた紅薔薇も、魔法で援護してくれた黒の夢もユノも、ミオレスカも。全員巻き添えにされる。
全滅する……っ。
リリティアが口惜しさに目を見開いた瞬間。
「狙いはそちらですか?」
その視線にわざと入るように、神々しいまでの金髪が横切り、ハヴァマールはピタリと動きを止めた。
「オオオ、厄介なる人の子よ。そこにおったカ」
それと同時に剣迅はそちらに向かって走り始める。そう。この北伐の指揮を執る帝国皇帝ヴィルヘルミナに。いや、その衣装を借りた摩耶(ka0362)に。
「うたわれるものよ……」
摩耶は剣王の意識がこちらに向いたことを確認すると戦馬の腹を蹴って走り出した。身の丈全てを刈り取るような横薙ぎの一撃も跳躍して回避すると同時に、葉巻を潰して作った煙幕で身を隠した。
「今の間にっ」
目くらましをしている間に死角に移動すれば、少しだけでも引きつけられるはずだ。仲間が、助かるために。
だが、煙を中を負の空気が渦巻いた瞬間、摩耶の平衡感覚は狂い地面に埋もれた。灼熱のような痛みが下半身から届くが、脳からの命令は何一ついう事を聞いてくれない。ハヴァマールの指先がそれを捕らえていたからだ。
「オオォ。捕まえた、ゾ。反逆の時もこれデ、仕舞いじャ」
マテリアルが、命の炎が、急速に枯渇していく。灼熱の痛みもあっという間に冷たいものに変わっていく。
「それでも尚、諦めるわけには、いきま、せん。人の刻は、続ける、のだから」
王越しに連合軍の動きを見やった。もう少し、もう少し時間があれば。退却できる。
ならば。
「私の光を食らいつくして、ごらんなさい」
摩耶の身体が煌めいた。光のように。命を尽くしてマテリアルを迸らせる。
心の光を全て光にして。
●左陣
リアルブルーの時計には水晶がよく使われると聞く。
正確な時間を刻むために。
闇の中で、死によって狂った時の流れの中で。
その光は時を正確に教えてくれる。一分一秒を。命があるということを。まだ終わりの時は来ていないことを。
「一瞬も無駄にしてはならぬ! 今の間に全力で向かうのじゃ!!」
カナタ・ハテナ(ka2130)の号令の元、左陣からの攻撃がより一層苛烈を極める。
常世の闇からよじ登て現るスケルトンにフラン・レンナルツ(ka0170)の制圧射撃が容赦なく降り注ぎ、全身が浮かび出る頃にはスケルトンはそのまま闇の中にまた朽ちて落ちるが、幾重にもフランを潰しにかかり、徐々に弾幕が押し込まれる。
「3(トゥリィ) 2(ドゥヴァ) 1(アジン)……」
フランが骨の襲撃されるギリギリのところで、射撃を止めたところでレイオス・アクアウォーカー(ka1990)がフランの横を駆け抜け、雷撃刀を振りかぶった。
「止めてみせる!!!」
自らの真っ赤な髪が視界を流れていく向こう側で、電撃が骨を砕いていく。
と、同時にシュメルツ(ka4367)がその真上をバイクで飛んだと思うと、骨の群れを押し潰した。同時にアクセルを吹かせてそのまま骨の群れに突破していく。
「シュテルプリヒ、の最強、証明する……」
「出すぎるな!! 数を減らすことに注力……」
そのまま背を向ける歪虚王に向かって突撃していシュメルツにくレイオスが叫ぶが派手なエンジン音にそれは届かない。
「ああいうのは、思い切りさせて上げた方がかえってうまく行くわよ」
リンカ・エルネージュ(ka1840)がレイオスの後ろに立って微笑むと、そのままファイアボールをシュメルツの前方、剣王を巻き込むような行く手をこじ開けるように放った。だが、ファイアボールはまた切れ切れになったかと思うと、闇に消え、そして代わりに打ち倒されたスケルトンが新たに呼び出される。
「ああ、もうキリあらへんな。悠。ちゃん壁になってや」
白藤(ka3768)は新たに生まれたスケルトン達の眉間を軒並み撃ちぬいていく。
「相変わらず派手好きなようで。派手であればあるほどノっていく」
態度の大きさだけは歪虚王並ですね。と、鹿東 悠(ka0725)はクスリと笑って槍で彼女の死角となる敵を突き潰した。
「うん……?」
シュメルツと剣王との殺りあいを望遠鏡で覗いていたカナタは、そんな二人のじゃれ合う会話に耳をビクン、と動かした。
「派手なほどに、ノって……?」
シュメルツのワイヤーウィップの一撃は派手に剣王の腕を打つが、ちょっとしか傷がつかない。紅薔薇の一撃も似たような感じだった。
何故同じ?
「レイオス! 渾身の一撃を頼むぞ」
カナタは猫波によって猫の幻影を呼び出し、不死者達を薙ぎ払いレイオスに道を開いた。
「マジかよ、むしろカナタが守るやつがいなくなるぞ」
「心配なら連れて行け!!」
無茶苦茶言いやがる。レイオスは思わず口元をひきつらせたが、何やら確信を得たようなカナタに賭けてみることにした。
「リンカ! 道をしっかり開けてくれ!」
「まかせて!」
リンカのファイアボールがもう一度同じ場所に放たれた。相変わらず骨は焼け崩れ、ハヴァマールには傷一つつけられず、新たな骨が二人の行く手を阻む。
「どこ行っても行き止まり。まあ帰れりゃいいわ。こっちは任せとき」
魔導バイクで白藤は追走すると、新たなスケルトンを制圧射撃で封じ込め、レイオスとカナタがハヴァマールの元にたどり着いた。
「仲間を、はなしやがれェェェ!!!!」
光が弱まり、消えさろうとしている。
レイオスは激怒して、その腕に飛び込むと渾身の剣を叩きこんだ。
だが、やはり。傷はちらりとしかつかぬ。そして新たに現れる骨の群れ。
「やはりの。剣王どん。そなた……生体マテリアルを吸収しておるな」
強力無比のレイオス、紅薔薇の攻撃と、エンタングル目的のシュメルツの一撃が同じような傷になるはずがない。リンカのファイアボールを受けた分だけスケルトンが再来するという流れもそれを裏付けた。
派手になればなるほどノッていく。
「……勘のヨイのガおるのゥ。人間は本当ニ、思わヌ智慧を持ツ。危険なコトじゃ。だが、帝国の主よりマテリアルは存分にもらいうけタゾ」
カナタの一言にハヴァマールが明確に反応し、ゆっくりと身体を起こすハヴァマール。摩耶の光はすっかり失せ、そこには枯れ果てた細腕と銀髪だけしか見えない。
「剣王どんへの攻撃にはマテリアルを伴った攻撃は厳禁じゃ。麾下の骨を……!!」
トランシーバーに指示を出した瞬間、カナタの姿が文字通り吹き飛んだ。残るのは爆風と闇の炎ばかり。
「カナタァっっっ!!!!」
「少しだけ希望ができました。これより一気に削りますよ」
誰の物かもうわかりもしない転げ落ちたトランシーバーを拾い上げた鹿東は、槍を大きく回してバイクをふかし、ニヤリと笑った。
●最終撤退 「行きつく先であろうが、今はまだその時ではないのな」
黒の夢は祈るようにそう言うと、ファイアボールで骸骨達を薙ぎ払った。
「オオオオオ、オオオオオ」
ハヴァマールは咆哮して、闇から眷属を再召喚するも生体マテリアル吸収の能力を見破られた今、その数は明らかに減じていた。骨の総量は押し返すほどではないが、明らかに減少しているのを誰もが感じていた。
「人間の知恵がこれホドトハ……」
その感嘆の言葉の一瞬をついてハヴアマールの懐に飛び込んだ春陰(ka4989)が地面に半分埋もれた摩耶を救い出した。
彼女の精根は尽き果て、疾影士のもっとも力を発揮する下半身はもはや人間のそれとは思えないほどに断裂していた。
「一人でも多く帰還させる……決して誰も見捨てたりしません」
「ナゼ、生カス。ナゼ生キル。苦しみヲ長引かせるナ」
「苦しみ? 生が苦であるかどうかは、人が決めることです」
真上から落ちてくる巨大な剣撃を春陰は仕込杖を掲げて受け流し、その勢いを利用してわざと跳ね飛ばされた。腕の骨が悲鳴を上げるが、マテリアルヒーリングで修復して、再び走った。見る限り視界はスケルトンだらけ。
だが、そこにバイクのエンジン音と共に、斬龍刀が一閃し、その壁を薙ぎ払った。
「血路は開きました。乗ってください」
リリティアだ。
春陰はすぐさまリリティアに摩耶を乗せ、自らは全力で走った。
「撤退、血路は開いた!」
春陰は叫びながら走り続けた。
予想よりも早い撤退の合図に、犠牲は数限りないと思わせたが、それでも遅滞戦闘組は命を張って攻撃を受け止め、さらにはハヴァマールの特性まで見破り、ギリギリまでスケルトンの軍勢を削り続けた成果は計り知れない。
多大な犠牲を払ったが、光の水晶はまだ……時を刻み続けている。
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