ゲスト
(ka0000)
グランドシナリオ「【闇光】北伐」


作戦4:浄化キャンプ防衛 リプレイ
- 星輝 Amhran
(ka0724) - Uisca Amhran
(ka0754) - リュカ
(ka3828) - 辰川 桜子
(ka1027) - ジャック・エルギン
(ka1522) - 龍崎・カズマ
(ka0178) - エリス・ブーリャ
(ka3419) - バルバロス
(ka2119) - ボルディア・コンフラムス
(ka0796) - ナナセ・ウルヴァナ
(ka5497) - ソフィア =リリィホルム
(ka2383) - エイル・メヌエット
(ka2807) - 天央 観智
(ka0896) - バリトン
(ka5112) - フランシスカ
(ka3590) - アメリア・フォーサイス
(ka4111) - クローディオ・シャール
(ka0030) - アルファス
(ka3312) - 久延毘 大二郎
(ka1771) - 無限 馨
(ka0544) - ミリア・コーネリウス
(ka1287) - アルマ・アニムス
(ka4901) - オキクルミ
(ka1947) - 春日 啓一
(ka1621)
●
その日の北方のキャンプは一面の積雪に覆われていた。
雪は降ってもあまり積もらないような各国の気候から見れば珍しいものであり、事が事でなければうっとりと白銀の世界を眺めていたいようにも思える情景。
そんな浄化キャンプの傍らで、十名弱ほどのハンター達がキャンプの傍らで自らの馬や単車の整備に余念が無い様子で、忙しなく出立の準備を整えていた。
「この雪じゃ、チェーンはしっかり巻かねばのう」
愛車のタイヤにチェーンを巻き込む星輝 Amhran(ka0724)。
この積雪でバイク走行を行うのは危険な行為とも思われる中であるが、簡易的に寒冷使用へと転換するために考えられた苦肉の策であった。
「お時間取らせて、すみまセン。ですが、よろしくお願いしマス」
知識もない中作業を手伝うわけにもいかず、手持無沙汰に作業を見守りながら、リムネラ(kz0018)は改めて深く頭を下げた。
「良いんですよ。私、リムネラさんを信じています。だからリムネラさんも私達の力を信じて、自分が生き残る事だけ考えて」
「そいう事だ。必ず、スメラギ達の所へきみを送り届けるよ」
ぐっと拳を握りしめて答えたUisca Amhran(ka0754)に、リュカ(ka3828)が相槌を打つ。
「分りましタ。私は私のやるべきことを……ですネ」
小さく頷いたリムネラの視線が、一瞬だけ浄化の器の姿を捉えていた。
そうして心配するように伏し目がちになるも、すぐに視線を上げて羽織る上着の襟元をキツク寄せるのであった。
「お待たせ。たぶん、これで大丈夫だと思うのよ」
辰川 桜子(ka1027)はチェーンを巻き終わった愛車を前に、冷え切った額の汗を拭う。
「なら、そろそろ行こうぜ。巨人の足音も大分近づいて来てやがる。ゆっくりしてる暇は無さそうだ」
愛馬の頬を撫でやって、ジャック・エルギン(ka1522)はひらりとその背に跨った。
唸る戦馬の息遣いに白い息が寒気に舞うと共に、断続的に地鳴りのような音が戦域に響き渡る。
近づくそれらの足音に急かされるようにして、ハンター達は雪原へと繰り出してゆくのであった。
「おうおう。雁首揃えて来なすったな、巨人どもめ」
浄化キャンプ正面。
迫りくる数多の山、山、山――巨人兵達を前に、龍崎・カズマ(ka0178)はため息交じりの悪態を吐いていた。
「で、あの奥の方に見えるのが指揮官?」
手を額に翳し、エリス・ブーリャ(ka3419)が目を細めて見やる遥か遠方の怠惰軍本陣。
左右から神輿のようにして大柄な2体の巨人が担ぐ豪奢なベッドの上に、横たわる人間大の人影らしきものが微かに見える。
「この体に纏わりつくような重圧……あやつが発しておるプレッシャーなのか?」
「重圧? そんなん、ほとんど感じないけどな」
人影――“虚霧姫”ジャンヌ・ポワソン(kz0154)を視線の先に捉えながら、まるで手足の感覚を確かめるかのように手のひらを握っては開いて見せるバルバロス(ka2119)に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)はあっけらかんとしてその斧槍を担ぎ上げる。
「ただでさえ寒いせいもあるんでしょう。もしくは、巨大な敵の群れを前にしての武者震いか……どちらにしても、動けば解消されると思いますよ」
同じく弓を番えて臨戦状態に入ったナナセ・ウルヴァナ(ka5497)も、軽い足取りで自分の配置へと足を運んで行く。
2人の話を受けてバルバロスはどこか納得行き切らない様子ではあったが、開いた拳をもう一度だけ強く握りしめると、そのまま巨大な斧の柄へと手を伸ばすのであった。
「ホリィ、大人しく浄化に集中しとけよ? 終わったら美味いものやるからさ」
迫る怠惰兵達を前に、浄化の器(kz0120)を守るようにして展開するハンター達。
そのうちの一人、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、小さく耳うつようにしてそう彼女へと語りかけていた。
「はいこれ、失くさないで持っていてね。『ともだち』が顔を出しそうだったらそれを見て」
エイル・メヌエット(ka2807)は、器の防寒着のポケットへと何か小さな包みを滑り込ませると、上からその存在を示すようにポンと叩いて言伝る。
そんな2人に彼女はコクリと小さく頷きだけ返し、どこを見ているとも分らぬ瞳で戦場を見やる。
「あの怠惰達は真面目で働き者ですね……その名の通り怠慢を貪っててくれれば、色々と助かったのですけれど」
「わっはっはっ、それは言い得て妙じゃな。だが大真面目に来てしまった以上は、護ってやらねばのう」
苦笑する天央 観智(ka0896)へ、バリトン(ka5112)は肩越しに器の姿を見やりながら大柄に笑い返した。
そんな彼らの隣で静かに2本の手斧を握りしめるフランシスカ(ka3590)。
彼女は背後の器に視線もくべずに、逆に静かに目を閉じて、自身の気を研ぎ澄ます。
そうしてふっと真っ赤に染まった瞳を開けると、ただ一言、つぶやくように口にするのであった。
「……おだんご、また食べられるように頑張りましょう」
器はその言葉にピクリと反応すると、先ほどと同じようにコクリと小さく頷いて見せるのであった。
●
侵攻する怠惰軍は比較的ゆっくりとした足取りで一歩づつキャンプへと歩みを進めている。
「初めての時は驚きはしましたけれど、人間、慣れというものが一番怖いものですよ」
アメリア・フォーサイス(ka4111)は、迫る巨人達へライフルの銃口を合わせると、落ち着いた様子で引き金を絞る。
火薬の爆ぜる音と共に放たれた銃弾は、風を切って先陣を切る1体の額に突き刺さり、巨体が大きくのけ反った。
が、流石に1発で貫通には至らなかったのか意識を確かめるように軽く頭を振ると、何事もなかったかのように一歩を踏み出そうとしていた。
「そうは問屋が許さないってな……這いつくばりな!」
踏み出したその一歩を、ボルディアの渾身の一振りが捉えていた。
大きく薙ぎ払うように振るわれた斧槍が足元を掬い、巨人の身体がぐらりと揺れて直後にはドシンという地響きが戦場に響く。
先頭の付かされた尻餅に、周囲の巨人達は手にした棍棒、剣、斧、さまざまな武器を頭上高く構えて眼下のボルディアへと狙いを定める。
「はいはい、てめぇらの相手はこっちだぜ!」
掲げられた数多の武器の合間を縫うようにして、エリスの身体が飛翔。
靴先からマテリアルの輝きを棚引かせて自在に翔けるその姿はどこか美しくもあり、一方で煩わしくもあった。
「撃ち落としても良いぜ。ただし、捉えられたらな……!」
エリスはひらりと1体の肩に飛び降りると、そのまま肩や背中伝いにピョンピョンと巨人達の間を飛び回る。
はじめは捕まえようと平手を振るう巨人達であったが、次第に面倒になって来たのか仲間も構わず大きな武器を振り回し始めていた。
「あまりかき乱し過ぎるなよ、エリス。錯乱されれば、それはそれで面倒な相手だ」
めったらに振られた棍棒を盾で受け流しながら、クローディオ・シャール(ka0030)は頭上の“ピクシー”へとそう苦言を呈す。
「大丈夫大丈夫。それはてめぇらが何とかすんだろ?」
「簡単に言ってくれるな……まったく」
へらりと答えたエリスにクローディオは大きくため息をついて見せると、自身に光の守護を掛けて敵軍へと盾を構えなおす。
乱打された巨剣が、その眼前へと迫っていた。
「あまり集まりは良くありませんね……せめて左側だけでも、狭めて見せましょう」
左翼に展開したナナセは2本の矢を弓に番えると、一気に引き絞り、放つ。
唸るように寒空を穿つ矢じりは混乱する怠惰軍の横っ面へと突き刺さった。
左翼の伏兵の存在に、怠惰達はその応対に数体を割き、残りを正面と、ハンター達からの追撃が無い右翼側へと向けていた。
必然的に広がりつつある戦域に、アルファス(ka3312)はやや芳しくない様子で機杖を振るう。
「毘古さん、右側もう少し抑えられないかな?」
「なかなか厳しいものだな……少し、敵がばらけ過ぎたか」
口元をヘの字にして答える久延毘 大二郎(ka1771)に、アルファスは苦し気に頷いた。
「仕方ない。この状況でどのくらい効果が見込めるか分からないけど……正面の敵だけでも、何とかしよう」
「承知した」
それだけ言葉を交わすと、アルファスはトランシーバーで前線のハンター達へ退避勧告を示す。
「翔けよ……朱雀!」
直後、アルファスの放った巨大な火の鳥の幻影が襲っていた。
爆発的なエネルギーを持ったそれは、戦場を照らすかの如く、激しい輝きを放つ。
「さあ、岩戸から日が出ずる時間だ……諸君、覚悟は宜しいかな?」
大二郎の作り出した火球が追い打つように戦場に放たれ、一段と大きな輝きとなり、爆ぜる。
「四神招来――【朱雀】火炎陣!」
目を伏せたくなるようなマテリアルエネルギーの爆発。
強烈な光が晴れたその先、積雪の弾け飛んで大地が露わとなった雪原の中に全身を焦がし蠢く巨人達の姿がそこにはあった。
「好機! 行くぞおおおぉぉぉぉぉ!!」
文字通りの雄たけびを上げ、バルバロスら後続のハンター達が一斉に瓦解しかけた怠惰の陣へと突貫する。
ゴウと音を立てた大斧がうなだれる巨人の雁首に食い込み、一息にぶった切る。
「やる気ないなら引っ込んでてくれればいいんすけど……」
落ちてゆく頭蓋を掻い潜って無限 馨(ka0544)は群れの中へと躍り出た。
すぐに巨人が武器を振るうも、勢いに乗った彼の身体を捉えることができず、むなしく空を切る。
「ほれほれ、こっちにもおるぞ!」
馨の後を追うように飛び込んだジェニファー・ラングストン(ka4564)もまた、自慢の脚を武器に、右に左にと巨人達の又の間を行き交った。
虚を突かれたように慌てるその背後を取り、魔導拳銃を唸らせる。
「お互いしんどい思いしたくないっすし、退いちゃ貰えないっすかね?」
口ではそう語るものの、聞いているのかいないのか、聞く耳を持たない巨人達を前にして馨はため息を一つ。
覚悟を決めたように視線を上げると、手近な巨人の視線を遮るようにカードを投げつけ、一気に跳躍。
足を、腕を足場に巨体を駆け上がると、その横っ面目がけてウィップを撓らせる。
ハンター達の追い打ちに、巨人の正面部隊は大混乱、瓦解寸前に追い込まれていた。
そんな時、戦場に低く唸るような音が響き渡る。
なんの音か、気づいたハンター達は咄嗟に視線を頭上へと上げていた。
やがて、その音の正体に気づいた時、目を見開いて、身を翻すように後方へと飛びのく。
直後、ハンターたちの居た場所へと飛来する巨大な岩石。
それは1つ、2つ、3つ……と、次々に怠惰の先陣達の後方から流星群の如く飛来する。
「チッ……投石かよ。仕方ねぇ、一旦戦線を下げるぞ」
カズマは舌打ち一つ、周囲のハンター達に呼びかけると一時的に撤退を開始した。
動ける巨人達はその後を追い、戦線は深く、押し込まれて行くのであった。
●
リムネラの護衛としてポイントBへと急ぐ一団は、幾重にも連なった巨人達の壁に相対していた。
キャンプ正面に迫る兵力からすれば劣りはするものの、少数で動くハンター達にとってはそれでも多いもので、バイクや騎馬の機動力でもって振り切るのをやっととしていた。
「これだけ邪魔が入るなんてね……流石にこっちの動きも読まれているんだろうか」
騎馬の上で周囲に目を配りながら、ミリア・コーネリウス(ka1287)は吐き捨てるように言い放った。
「あのジャンヌという指揮官がそれほど機転が利くようにも思えませんし、別のキレる指揮官の入れ知恵でしょうねぇ」
「そうか。まあ、ボクらには関係無いけどね……!」
ベッドに横たわる指揮官の顔を思い出しながら飄々と答えるアルマ・アニムス(ka4901)に、ミリアは話半分に返事を返すと、迫り来る巨人の腕をその大剣で切り凌ぐ。
そうして怯んだ所で、身を屈めて腕の間を潜り抜ける。
振り向きざま、行きがけの駄賃にとアルマが巨人の眉間に銃弾を叩き込みながら。
「姉さま、ポイントへはあとどのくらいでしょう?」
「半分は来てると思うがのう……少し遅れは出ておるようじゃ。急ぎたいが、この雪ではのう」
ウィスカの問いかけに答えた星輝は、恨めしそうに単車のタイヤが巻上げる積雪を見やっていた。
北方の積雪は先を急ぎたいハンター達の前に、大きくのしかかっていたのである。
「はいはいどいたどいた! 通るわよ!」
前方へと立ちふさがろうとした巨人の脚に矢を撃ち放った桜子。
そうして僅かにできた傷へとリュカの槍が叩き込まれる。
「だが、だいぶ巨人の数も減って来た気がするね」
巨人の横を一気に駆け抜けた後に、鼻息を荒げる愛馬の頬を撫でながら、リュカは一度遥か後方のキャンプの方角を見やった。
巨人達はいまだこちらを捉えようと追いかけては来るが、逆に立ちはだかる巨人の数は目に見えて減って来ていた。
「そろそろ、戦域を抜けてきているって事かしらね」
バイクのエンジンを吹かし、桜子は一つ、額の汗を拭う。
「――いいや、どうやらそういうわけでも無いみたいだぜ」
不敵な笑みを浮かべるジャックの眼前。
一見何もないだだっ広い雪原であったが、不意にぼこりと雪が盛り上がったかと思うと、雪の下から剣を持った骸骨の戦士――スケルトンがその姿を現した。
最初の一体を皮切りにぼこりぼこりと、沸騰で沸き立つ水蒸気のように現れいずる彼らに、戦場は一変して埋め尽くされていった。
「少数で動いてるこっちの身にもなれってもんだね」
口では弱音を吐くミリアであるが、その姿勢は一転して大剣を握りしめる拳に力を込める。
「いいか? ボクらが絶対送り届ける。だから、信じて進め」
「わ……分りましタ!」
彼女の言葉にリムネラは力強く頷くと、ハンター達は騎馬やバイクの速度を一気に上げた。
「これ以上の遅れは許されません! 勢いで、突破しましょう!」
「おうよ! 後門の巨人どもに比べれば、かわいい相手だぜ!」
ウィスカの光の波動で吹き飛ばされた先陣のスケルトンへと、ジャック、そしてミリアが切り込んでゆく。
「面倒だからまとめて掛かってきな! いくらでも相手になってやるぜ……ハッ、行っくぜえぇぇ!」
騎馬の速度から放たれるバスタードソードの一閃が、スケルトンの壁を吹き飛ばす。
そうしてうち漏らした数体を、ミリアの大剣が薙ぎ払って道を切り開いてゆく。
「行くぞ、目的地まであと少しじゃ!」
リムネラ達の行く手を阻むスケルトンへ容赦の無い手裏剣の投擲を浴びせ、安全を確保。
用心に用心を重ねるようにして、一行は着々と目的地へと歩みを進めているのであった。
●
投石からやや勢いを取り戻した怠惰兵軍は、一気に戦線を押し込むが如く勢いを増していた。
ハンター達も易々とい攻め込ませはしていないが、こと防衛戦となれば体格による歩幅の違いは如実に出るもので。
一歩の差に、侵攻と迎撃の速度に差が出始めていた。
「状況確認忘れずにね! 右から来てるのはこっちで対応する!」
混乱は声でカバーせんと声を張り上げるオキクルミ(ka1947)に、春日 啓一(ka1621)が左方向へと飛び出す。
けたたましい唸りを上げる騎馬で勢いに乗り、戦鎚を巨人の膝へと打ち付けた。
「こんな所でやられてたまるかよ。俺も……あんたも!」
乱戦になりつつある中、背後で巨人に奮戦する器を見やり、意識を新たに持つ啓一。
幾重にも張られたハンターの壁を前に、器の存在は危なげないものとはなっていた。
「しかし、なんじゃこの重圧は……本当に寒さのせいなのか? 身体が重く、まるで手足に枷でもつけたかのようじゃ」
巨人の拳を大剣の腹で受け、押し返しながら、バリトンは己の身体の異変に気付いていた。
「バリトンさんもですか……やっぱり……気のせいではないのですね。まるでこう……病にでも掛かったかのような『気だるさ』が身体を襲っているように思えて」
バリトンが押し返した巨人を雷の魔術で貫きながら、観智もまた、己の身体に起きている不可解な異変にその意識を削がれていた。
ずっしりと身体に覆いかかるような『重圧感』。
まるで鉛になったかのような手足の重さ。
この戦場に来て、わずかながら感じていた者もいたその違和感は今や戦域全体を包み込むように、蔓延する病のごとく広がっていたのだ。
「寝ぼけた事言ってんじゃねぇ――じゃなかった。そんな事言ってないで、戦闘に集中してくださいねっ!」
彼らを叱咤するように激を飛ばしながらも、わき目に器へ迫る巨人へと雷撃打ち込むソフィア。
「そうですよ……例え、分けもわからぬ敵の術であったとしても、今こうして動けているのなら意に介する事ではありません」
全身を痙攣させのぼせ上がった巨人へと、フランシスカの2刀斧が叩き込まれる。
追撃に顔面目がけて漆黒の魔力弾を撃ち込むと、巨体は音を立てて大地へと崩れ落ちた。
「不気味ね……一体なんなのかしら、この感覚は」
器の手をぎゅっと握りしめるエイル。
それは彼女の暴走を感じ取ったからではなかったが、それでも、そうしたかったのだ。
この、得体の知れぬ不安を前にして。
「今更、巨人の群れに気おされるなんて言わないよ。こういうのは気の持ちよう」
オキクルミはそう言いながら槍をグルリと振り回して、怠惰達の前へと威嚇するように足を踏み出す。
「さぁ、ボクがこの子の盾だ! 越えずに触れられると思わない事だね!」
そう見栄と啖呵を切って振るう戦槍。
そのリーチで絶妙に間合いを支配し、巨人達の進路をけん制するのであった。
「これ以上押し込まれるのはちょっとまずいな……」
乱れる戦場に、エリスは一人、誰に言うでもなく苦言を呈していた。
全体的に押し気味であるものの、怠惰の勢いは大きく削がれる事も無く、変わらぬ剣戟が戦場に響いていた。
「毘古さん。火炎陣、もう一度行けるかな?」
「キミが望むのなら、何度でも付き合うよ」
頷き合うアルファスと大二郎の間で、再び強烈な爆閃が戦場を包み込む。
「一か八かだ……行くぜ!」
マテリアルの輝きが晴れた瞬間エリスはジェットブーツを最大出力で吹かすと、単騎、怠惰の群れの中を駆け抜けた。
その瞳に映るのは奥に構える敵将――ベッドに横たわる、ジャンヌその人である。
空中でぐるりと仰向けに体制を直し、怠惰兵の担ぐベッドの真下へと潜り込む。
そうして頭上目がけて機杖を掲げ上げた。
「これでも喰ら――」
その時起きたことを、彼女は今でも理解しきれていない。
攻撃を行おうとした瞬間……否、その前からずっとだったのか。
それすらも定かではないほどに、不意に自らの身体にとてつもない『重さ』を感じたかと思えば、強烈な『虚無感』がその意識を包み込んでいた。
それはまるで世界のすべての興味を失うかのように――
そしてすべてが取るに足らない存在となるかのように――
彼女はその時確かに――『怠惰』であった。
ジェットブーツを維持することも忘れて雪原に墜落しても、それでもなお、彼女は動く事すら億劫であった。
墜落した彼女を追って、数多の巨人が群がる。
振り降ろされた数多の武器の衝撃で雪が弾けとんだのは、その直後の事であった。
「おいおいおい、あれはまずいんじゃないっすかね……!?」
一部始終を目にしていた馨は弾かれた様に地面を蹴っていた。
「妾も援護する、彼女を頼んだ……!」
彼の背後を護るように追従し、拳銃で近寄る巨人へとけん制を掛けるジェニファー。
エリスの突貫に危機感を覚えた怠惰の壁は若干分厚くなっていたものの、それでも彼女の安否のため、2人は駆ける。
立ちはだかる大型の巨人にも屈せず、ただただ一目、エリスの下へ。
追いついたカズマが大型巨人の前へと立ちはだかった。
手にしたロングソードで巨人の脚を切り付け、反撃に迫る斧の一撃はひらりと身を翻して回避する。
「怠いんだろ? 眠らせてやるよ……!」
降りた腕へと着地してそのまま一気に肩へと上り詰め、大きく見開いた一つ目の中心へとその剣を突き立てる。
巨人は声にならない悲鳴を上げながら、その場で地団太を踏んでいた。
そんな巨体の脚をボルディアの斧槍が横なぐと、重心を崩して周りの巨人を巻き込んで地面へと倒れ伏すのであった。
「行けっ! ここは引き受けた!」
「間に合わなくなる前に彼女を!」
顔を抑えてじたばたと蠢く巨人に相対し、背中越しに叫ぶボルディアとカズマ。
「さて……ワシらはこいつを何とかするかね」
彼らと大型巨人を挟み込むかのように対峙するバルバロス。
その大きい斧を両手で握りしめ、一息にバンプアップさせると、全霊の一撃を巨体へと放つ。
そんな彼らの援護を受け、馨達はエリスの回収を何とか成し得ていた。
「何だったんだ……あれは」
回収された、傷だらけで気を失っているエリスに応急処置を施しながら、静かにつぶやいたクローディオ。
天蓋付きのベッドに横たわる怠惰の姫は、いつの間にやら安らかな寝息を立てていた。
●
「くそっ……いつになったらこいつ等は沸かなくなるんだ?」
無尽蔵に沸き続けるスケルトン達を前に、ミリアは切らし始めた息で大剣を振るう。
「あまり無理はしないで下さいよ。護衛が崩れたら元も子もありませんからねぇ」
「わかてるよ、ボクを信用しな!」
アルマの言葉にやや苛立った様子で答えるミリア。 巨人の追撃は既に振り切っていたが、ここまで息もつかせず迫り来るスケルトンの相手にハンター達の疲労は限界を迎えようとしていた。 武器を振るい、時に騎馬やバイクの進路上で轢き飛ばし、ただひたすらに目的地を目指す。 彼女も彼に当たるつもりなど無いのだが、状況がそうさせてしまうのだ。 「流石に限界も近いか……」 芳しくない表情で唇を噛みしめるリュカ。
が、その時。
遥かスケルトンの海の向こうから、こちらへ向かってくる何かを目にしていた。
「あれ……目的地のハンター達じゃない?」
上ずった声で口にした桜子達の視線の先に、スケルトンの海を割っているようにしてこちらへと向かってくるハンター達の一団の姿が見える。
「おーい! こっちじゃ!」
星輝がこちらの存在を示すように手を振ると、あちらも手を振り返した。
お互いの存在を確認したハンター達は、その合間を詰め寄るように、敵を薙ぎ払ってゆく。
「何とか……間に合ったみてぇだな」
張りつめていた緊張を吐き出すように、鼻から大きく息を吐くジャック。
とは言え、まだポイントに到着したわけではない。
完全に気を抜いてはいけないのだ。
「本当に、ありがとうございマシタ!」
騎馬上で、リムネラはぺこりと頭を下げる。
そうして、強い意志を持った瞳で、言葉を続けるのであった。
「ここからはワタシの仕事デス……ワタシにしかできない事を、皆さんのためニ、頑張りマス!」
「――ふぁ……ここはどこ?」
怠惰の陣の奥、ベッドの上でジャンヌは寝起きの身体でうんと身体を伸ばしていた。
「ああそう、まだ厄日は終わってないのね……てっきり、夢の中の出来事かと思っていたわ」
ジャンヌはあくび一つに再びコテンと横になると、ぼーっと戦いの様子を眺める。
「それで……どういう状況なの?」
彼女の問いに、巨人は戦況はやや劣勢であることを告げる。
ハンターの抵抗が存外に激しく、うまくキャンプまで押し込み切れていない、と。
「そう……ならもう帰りましょ。そろそろお昼寝の時間だもの」
その言葉を聞いて、巨人は腰に下げた大きな貝を力いっばい吹き鳴らしていた。
同時に今まで戦闘を行っていた巨人達の手はぴたりと止まり、巨体を翻して帰還の途へとつく。
「怠惰軍が、退いてく……?」
唐突の事態に、アメリアは驚いたように目を見開いていた。
実際のところ、ハンター側の被害はそう大きくなく、怠惰側は前線が大きく瓦解。
しかし、まだ完全に勝負が決するような段階ではなく、戦況によってはいかようにも結果が推移しかねない、予断の許されない状況であった。
そうであるにも関わらず退いてゆく怠惰兵を前に、ハンター達もただただポカンとした表情で眺める他なかった。
「なんだか釈然としねぇが……護り切った、のか?」
「そういうことになるの……かな?」
首を傾げる様子で問う啓一であったが、とりあえず返事を返したオキクルミを含めて、その言葉に自信を持って頷き返す事が出来る者はそう居なかった。
敵も余力を残している事を考えれば深追いも得策ではない。
不気味な余韻が支配する浄化キャンプに、ハンター達のやや戸惑うような勝鬨が、空高く響き渡っていた。
その日の北方のキャンプは一面の積雪に覆われていた。
雪は降ってもあまり積もらないような各国の気候から見れば珍しいものであり、事が事でなければうっとりと白銀の世界を眺めていたいようにも思える情景。
そんな浄化キャンプの傍らで、十名弱ほどのハンター達がキャンプの傍らで自らの馬や単車の整備に余念が無い様子で、忙しなく出立の準備を整えていた。
「この雪じゃ、チェーンはしっかり巻かねばのう」
愛車のタイヤにチェーンを巻き込む星輝 Amhran(ka0724)。
この積雪でバイク走行を行うのは危険な行為とも思われる中であるが、簡易的に寒冷使用へと転換するために考えられた苦肉の策であった。
「お時間取らせて、すみまセン。ですが、よろしくお願いしマス」
知識もない中作業を手伝うわけにもいかず、手持無沙汰に作業を見守りながら、リムネラ(kz0018)は改めて深く頭を下げた。
「良いんですよ。私、リムネラさんを信じています。だからリムネラさんも私達の力を信じて、自分が生き残る事だけ考えて」
「そいう事だ。必ず、スメラギ達の所へきみを送り届けるよ」
ぐっと拳を握りしめて答えたUisca Amhran(ka0754)に、リュカ(ka3828)が相槌を打つ。
「分りましタ。私は私のやるべきことを……ですネ」
小さく頷いたリムネラの視線が、一瞬だけ浄化の器の姿を捉えていた。
そうして心配するように伏し目がちになるも、すぐに視線を上げて羽織る上着の襟元をキツク寄せるのであった。
「お待たせ。たぶん、これで大丈夫だと思うのよ」
辰川 桜子(ka1027)はチェーンを巻き終わった愛車を前に、冷え切った額の汗を拭う。
「なら、そろそろ行こうぜ。巨人の足音も大分近づいて来てやがる。ゆっくりしてる暇は無さそうだ」
愛馬の頬を撫でやって、ジャック・エルギン(ka1522)はひらりとその背に跨った。
唸る戦馬の息遣いに白い息が寒気に舞うと共に、断続的に地鳴りのような音が戦域に響き渡る。
近づくそれらの足音に急かされるようにして、ハンター達は雪原へと繰り出してゆくのであった。
「おうおう。雁首揃えて来なすったな、巨人どもめ」
浄化キャンプ正面。
迫りくる数多の山、山、山――巨人兵達を前に、龍崎・カズマ(ka0178)はため息交じりの悪態を吐いていた。
「で、あの奥の方に見えるのが指揮官?」
手を額に翳し、エリス・ブーリャ(ka3419)が目を細めて見やる遥か遠方の怠惰軍本陣。
左右から神輿のようにして大柄な2体の巨人が担ぐ豪奢なベッドの上に、横たわる人間大の人影らしきものが微かに見える。
「この体に纏わりつくような重圧……あやつが発しておるプレッシャーなのか?」
「重圧? そんなん、ほとんど感じないけどな」
人影――“虚霧姫”ジャンヌ・ポワソン(kz0154)を視線の先に捉えながら、まるで手足の感覚を確かめるかのように手のひらを握っては開いて見せるバルバロス(ka2119)に、ボルディア・コンフラムス(ka0796)はあっけらかんとしてその斧槍を担ぎ上げる。
「ただでさえ寒いせいもあるんでしょう。もしくは、巨大な敵の群れを前にしての武者震いか……どちらにしても、動けば解消されると思いますよ」
同じく弓を番えて臨戦状態に入ったナナセ・ウルヴァナ(ka5497)も、軽い足取りで自分の配置へと足を運んで行く。
2人の話を受けてバルバロスはどこか納得行き切らない様子ではあったが、開いた拳をもう一度だけ強く握りしめると、そのまま巨大な斧の柄へと手を伸ばすのであった。
「ホリィ、大人しく浄化に集中しとけよ? 終わったら美味いものやるからさ」
迫る怠惰兵達を前に、浄化の器(kz0120)を守るようにして展開するハンター達。
そのうちの一人、ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、小さく耳うつようにしてそう彼女へと語りかけていた。
「はいこれ、失くさないで持っていてね。『ともだち』が顔を出しそうだったらそれを見て」
エイル・メヌエット(ka2807)は、器の防寒着のポケットへと何か小さな包みを滑り込ませると、上からその存在を示すようにポンと叩いて言伝る。
そんな2人に彼女はコクリと小さく頷きだけ返し、どこを見ているとも分らぬ瞳で戦場を見やる。
「あの怠惰達は真面目で働き者ですね……その名の通り怠慢を貪っててくれれば、色々と助かったのですけれど」
「わっはっはっ、それは言い得て妙じゃな。だが大真面目に来てしまった以上は、護ってやらねばのう」
苦笑する天央 観智(ka0896)へ、バリトン(ka5112)は肩越しに器の姿を見やりながら大柄に笑い返した。
そんな彼らの隣で静かに2本の手斧を握りしめるフランシスカ(ka3590)。
彼女は背後の器に視線もくべずに、逆に静かに目を閉じて、自身の気を研ぎ澄ます。
そうしてふっと真っ赤に染まった瞳を開けると、ただ一言、つぶやくように口にするのであった。
「……おだんご、また食べられるように頑張りましょう」
器はその言葉にピクリと反応すると、先ほどと同じようにコクリと小さく頷いて見せるのであった。
●
侵攻する怠惰軍は比較的ゆっくりとした足取りで一歩づつキャンプへと歩みを進めている。
「初めての時は驚きはしましたけれど、人間、慣れというものが一番怖いものですよ」
アメリア・フォーサイス(ka4111)は、迫る巨人達へライフルの銃口を合わせると、落ち着いた様子で引き金を絞る。
火薬の爆ぜる音と共に放たれた銃弾は、風を切って先陣を切る1体の額に突き刺さり、巨体が大きくのけ反った。
が、流石に1発で貫通には至らなかったのか意識を確かめるように軽く頭を振ると、何事もなかったかのように一歩を踏み出そうとしていた。
「そうは問屋が許さないってな……這いつくばりな!」
踏み出したその一歩を、ボルディアの渾身の一振りが捉えていた。
大きく薙ぎ払うように振るわれた斧槍が足元を掬い、巨人の身体がぐらりと揺れて直後にはドシンという地響きが戦場に響く。
先頭の付かされた尻餅に、周囲の巨人達は手にした棍棒、剣、斧、さまざまな武器を頭上高く構えて眼下のボルディアへと狙いを定める。
「はいはい、てめぇらの相手はこっちだぜ!」
掲げられた数多の武器の合間を縫うようにして、エリスの身体が飛翔。
靴先からマテリアルの輝きを棚引かせて自在に翔けるその姿はどこか美しくもあり、一方で煩わしくもあった。
「撃ち落としても良いぜ。ただし、捉えられたらな……!」
エリスはひらりと1体の肩に飛び降りると、そのまま肩や背中伝いにピョンピョンと巨人達の間を飛び回る。
はじめは捕まえようと平手を振るう巨人達であったが、次第に面倒になって来たのか仲間も構わず大きな武器を振り回し始めていた。
「あまりかき乱し過ぎるなよ、エリス。錯乱されれば、それはそれで面倒な相手だ」
めったらに振られた棍棒を盾で受け流しながら、クローディオ・シャール(ka0030)は頭上の“ピクシー”へとそう苦言を呈す。
「大丈夫大丈夫。それはてめぇらが何とかすんだろ?」
「簡単に言ってくれるな……まったく」
へらりと答えたエリスにクローディオは大きくため息をついて見せると、自身に光の守護を掛けて敵軍へと盾を構えなおす。
乱打された巨剣が、その眼前へと迫っていた。
「あまり集まりは良くありませんね……せめて左側だけでも、狭めて見せましょう」
左翼に展開したナナセは2本の矢を弓に番えると、一気に引き絞り、放つ。
唸るように寒空を穿つ矢じりは混乱する怠惰軍の横っ面へと突き刺さった。
左翼の伏兵の存在に、怠惰達はその応対に数体を割き、残りを正面と、ハンター達からの追撃が無い右翼側へと向けていた。
必然的に広がりつつある戦域に、アルファス(ka3312)はやや芳しくない様子で機杖を振るう。
「毘古さん、右側もう少し抑えられないかな?」
「なかなか厳しいものだな……少し、敵がばらけ過ぎたか」
口元をヘの字にして答える久延毘 大二郎(ka1771)に、アルファスは苦し気に頷いた。
「仕方ない。この状況でどのくらい効果が見込めるか分からないけど……正面の敵だけでも、何とかしよう」
「承知した」
それだけ言葉を交わすと、アルファスはトランシーバーで前線のハンター達へ退避勧告を示す。
「翔けよ……朱雀!」
直後、アルファスの放った巨大な火の鳥の幻影が襲っていた。
爆発的なエネルギーを持ったそれは、戦場を照らすかの如く、激しい輝きを放つ。
「さあ、岩戸から日が出ずる時間だ……諸君、覚悟は宜しいかな?」
大二郎の作り出した火球が追い打つように戦場に放たれ、一段と大きな輝きとなり、爆ぜる。
「四神招来――【朱雀】火炎陣!」
目を伏せたくなるようなマテリアルエネルギーの爆発。
強烈な光が晴れたその先、積雪の弾け飛んで大地が露わとなった雪原の中に全身を焦がし蠢く巨人達の姿がそこにはあった。
「好機! 行くぞおおおぉぉぉぉぉ!!」
文字通りの雄たけびを上げ、バルバロスら後続のハンター達が一斉に瓦解しかけた怠惰の陣へと突貫する。
ゴウと音を立てた大斧がうなだれる巨人の雁首に食い込み、一息にぶった切る。
「やる気ないなら引っ込んでてくれればいいんすけど……」
落ちてゆく頭蓋を掻い潜って無限 馨(ka0544)は群れの中へと躍り出た。
すぐに巨人が武器を振るうも、勢いに乗った彼の身体を捉えることができず、むなしく空を切る。
「ほれほれ、こっちにもおるぞ!」
馨の後を追うように飛び込んだジェニファー・ラングストン(ka4564)もまた、自慢の脚を武器に、右に左にと巨人達の又の間を行き交った。
虚を突かれたように慌てるその背後を取り、魔導拳銃を唸らせる。
「お互いしんどい思いしたくないっすし、退いちゃ貰えないっすかね?」
口ではそう語るものの、聞いているのかいないのか、聞く耳を持たない巨人達を前にして馨はため息を一つ。
覚悟を決めたように視線を上げると、手近な巨人の視線を遮るようにカードを投げつけ、一気に跳躍。
足を、腕を足場に巨体を駆け上がると、その横っ面目がけてウィップを撓らせる。
ハンター達の追い打ちに、巨人の正面部隊は大混乱、瓦解寸前に追い込まれていた。
そんな時、戦場に低く唸るような音が響き渡る。
なんの音か、気づいたハンター達は咄嗟に視線を頭上へと上げていた。
やがて、その音の正体に気づいた時、目を見開いて、身を翻すように後方へと飛びのく。
直後、ハンターたちの居た場所へと飛来する巨大な岩石。
それは1つ、2つ、3つ……と、次々に怠惰の先陣達の後方から流星群の如く飛来する。
「チッ……投石かよ。仕方ねぇ、一旦戦線を下げるぞ」
カズマは舌打ち一つ、周囲のハンター達に呼びかけると一時的に撤退を開始した。
動ける巨人達はその後を追い、戦線は深く、押し込まれて行くのであった。
●
リムネラの護衛としてポイントBへと急ぐ一団は、幾重にも連なった巨人達の壁に相対していた。
キャンプ正面に迫る兵力からすれば劣りはするものの、少数で動くハンター達にとってはそれでも多いもので、バイクや騎馬の機動力でもって振り切るのをやっととしていた。
「これだけ邪魔が入るなんてね……流石にこっちの動きも読まれているんだろうか」
騎馬の上で周囲に目を配りながら、ミリア・コーネリウス(ka1287)は吐き捨てるように言い放った。
「あのジャンヌという指揮官がそれほど機転が利くようにも思えませんし、別のキレる指揮官の入れ知恵でしょうねぇ」
「そうか。まあ、ボクらには関係無いけどね……!」
ベッドに横たわる指揮官の顔を思い出しながら飄々と答えるアルマ・アニムス(ka4901)に、ミリアは話半分に返事を返すと、迫り来る巨人の腕をその大剣で切り凌ぐ。
そうして怯んだ所で、身を屈めて腕の間を潜り抜ける。
振り向きざま、行きがけの駄賃にとアルマが巨人の眉間に銃弾を叩き込みながら。
「姉さま、ポイントへはあとどのくらいでしょう?」
「半分は来てると思うがのう……少し遅れは出ておるようじゃ。急ぎたいが、この雪ではのう」
ウィスカの問いかけに答えた星輝は、恨めしそうに単車のタイヤが巻上げる積雪を見やっていた。
北方の積雪は先を急ぎたいハンター達の前に、大きくのしかかっていたのである。
「はいはいどいたどいた! 通るわよ!」
前方へと立ちふさがろうとした巨人の脚に矢を撃ち放った桜子。
そうして僅かにできた傷へとリュカの槍が叩き込まれる。
「だが、だいぶ巨人の数も減って来た気がするね」
巨人の横を一気に駆け抜けた後に、鼻息を荒げる愛馬の頬を撫でながら、リュカは一度遥か後方のキャンプの方角を見やった。
巨人達はいまだこちらを捉えようと追いかけては来るが、逆に立ちはだかる巨人の数は目に見えて減って来ていた。
「そろそろ、戦域を抜けてきているって事かしらね」
バイクのエンジンを吹かし、桜子は一つ、額の汗を拭う。
「――いいや、どうやらそういうわけでも無いみたいだぜ」
不敵な笑みを浮かべるジャックの眼前。
一見何もないだだっ広い雪原であったが、不意にぼこりと雪が盛り上がったかと思うと、雪の下から剣を持った骸骨の戦士――スケルトンがその姿を現した。
最初の一体を皮切りにぼこりぼこりと、沸騰で沸き立つ水蒸気のように現れいずる彼らに、戦場は一変して埋め尽くされていった。
「少数で動いてるこっちの身にもなれってもんだね」
口では弱音を吐くミリアであるが、その姿勢は一転して大剣を握りしめる拳に力を込める。
「いいか? ボクらが絶対送り届ける。だから、信じて進め」
「わ……分りましタ!」
彼女の言葉にリムネラは力強く頷くと、ハンター達は騎馬やバイクの速度を一気に上げた。
「これ以上の遅れは許されません! 勢いで、突破しましょう!」
「おうよ! 後門の巨人どもに比べれば、かわいい相手だぜ!」
ウィスカの光の波動で吹き飛ばされた先陣のスケルトンへと、ジャック、そしてミリアが切り込んでゆく。
「面倒だからまとめて掛かってきな! いくらでも相手になってやるぜ……ハッ、行っくぜえぇぇ!」
騎馬の速度から放たれるバスタードソードの一閃が、スケルトンの壁を吹き飛ばす。
そうしてうち漏らした数体を、ミリアの大剣が薙ぎ払って道を切り開いてゆく。
「行くぞ、目的地まであと少しじゃ!」
リムネラ達の行く手を阻むスケルトンへ容赦の無い手裏剣の投擲を浴びせ、安全を確保。
用心に用心を重ねるようにして、一行は着々と目的地へと歩みを進めているのであった。
●
投石からやや勢いを取り戻した怠惰兵軍は、一気に戦線を押し込むが如く勢いを増していた。
ハンター達も易々とい攻め込ませはしていないが、こと防衛戦となれば体格による歩幅の違いは如実に出るもので。
一歩の差に、侵攻と迎撃の速度に差が出始めていた。
「状況確認忘れずにね! 右から来てるのはこっちで対応する!」
混乱は声でカバーせんと声を張り上げるオキクルミ(ka1947)に、春日 啓一(ka1621)が左方向へと飛び出す。
けたたましい唸りを上げる騎馬で勢いに乗り、戦鎚を巨人の膝へと打ち付けた。
「こんな所でやられてたまるかよ。俺も……あんたも!」
乱戦になりつつある中、背後で巨人に奮戦する器を見やり、意識を新たに持つ啓一。
幾重にも張られたハンターの壁を前に、器の存在は危なげないものとはなっていた。
「しかし、なんじゃこの重圧は……本当に寒さのせいなのか? 身体が重く、まるで手足に枷でもつけたかのようじゃ」
巨人の拳を大剣の腹で受け、押し返しながら、バリトンは己の身体の異変に気付いていた。
「バリトンさんもですか……やっぱり……気のせいではないのですね。まるでこう……病にでも掛かったかのような『気だるさ』が身体を襲っているように思えて」
バリトンが押し返した巨人を雷の魔術で貫きながら、観智もまた、己の身体に起きている不可解な異変にその意識を削がれていた。
ずっしりと身体に覆いかかるような『重圧感』。
まるで鉛になったかのような手足の重さ。
この戦場に来て、わずかながら感じていた者もいたその違和感は今や戦域全体を包み込むように、蔓延する病のごとく広がっていたのだ。
「寝ぼけた事言ってんじゃねぇ――じゃなかった。そんな事言ってないで、戦闘に集中してくださいねっ!」
彼らを叱咤するように激を飛ばしながらも、わき目に器へ迫る巨人へと雷撃打ち込むソフィア。
「そうですよ……例え、分けもわからぬ敵の術であったとしても、今こうして動けているのなら意に介する事ではありません」
全身を痙攣させのぼせ上がった巨人へと、フランシスカの2刀斧が叩き込まれる。
追撃に顔面目がけて漆黒の魔力弾を撃ち込むと、巨体は音を立てて大地へと崩れ落ちた。
「不気味ね……一体なんなのかしら、この感覚は」
器の手をぎゅっと握りしめるエイル。
それは彼女の暴走を感じ取ったからではなかったが、それでも、そうしたかったのだ。
この、得体の知れぬ不安を前にして。
「今更、巨人の群れに気おされるなんて言わないよ。こういうのは気の持ちよう」
オキクルミはそう言いながら槍をグルリと振り回して、怠惰達の前へと威嚇するように足を踏み出す。
「さぁ、ボクがこの子の盾だ! 越えずに触れられると思わない事だね!」
そう見栄と啖呵を切って振るう戦槍。
そのリーチで絶妙に間合いを支配し、巨人達の進路をけん制するのであった。
「これ以上押し込まれるのはちょっとまずいな……」
乱れる戦場に、エリスは一人、誰に言うでもなく苦言を呈していた。
全体的に押し気味であるものの、怠惰の勢いは大きく削がれる事も無く、変わらぬ剣戟が戦場に響いていた。
「毘古さん。火炎陣、もう一度行けるかな?」
「キミが望むのなら、何度でも付き合うよ」
頷き合うアルファスと大二郎の間で、再び強烈な爆閃が戦場を包み込む。
「一か八かだ……行くぜ!」
マテリアルの輝きが晴れた瞬間エリスはジェットブーツを最大出力で吹かすと、単騎、怠惰の群れの中を駆け抜けた。
その瞳に映るのは奥に構える敵将――ベッドに横たわる、ジャンヌその人である。
空中でぐるりと仰向けに体制を直し、怠惰兵の担ぐベッドの真下へと潜り込む。
そうして頭上目がけて機杖を掲げ上げた。
「これでも喰ら――」
その時起きたことを、彼女は今でも理解しきれていない。
攻撃を行おうとした瞬間……否、その前からずっとだったのか。
それすらも定かではないほどに、不意に自らの身体にとてつもない『重さ』を感じたかと思えば、強烈な『虚無感』がその意識を包み込んでいた。
それはまるで世界のすべての興味を失うかのように――
そしてすべてが取るに足らない存在となるかのように――
彼女はその時確かに――『怠惰』であった。
ジェットブーツを維持することも忘れて雪原に墜落しても、それでもなお、彼女は動く事すら億劫であった。
墜落した彼女を追って、数多の巨人が群がる。
振り降ろされた数多の武器の衝撃で雪が弾けとんだのは、その直後の事であった。
「おいおいおい、あれはまずいんじゃないっすかね……!?」
一部始終を目にしていた馨は弾かれた様に地面を蹴っていた。
「妾も援護する、彼女を頼んだ……!」
彼の背後を護るように追従し、拳銃で近寄る巨人へとけん制を掛けるジェニファー。
エリスの突貫に危機感を覚えた怠惰の壁は若干分厚くなっていたものの、それでも彼女の安否のため、2人は駆ける。
立ちはだかる大型の巨人にも屈せず、ただただ一目、エリスの下へ。
追いついたカズマが大型巨人の前へと立ちはだかった。
手にしたロングソードで巨人の脚を切り付け、反撃に迫る斧の一撃はひらりと身を翻して回避する。
「怠いんだろ? 眠らせてやるよ……!」
降りた腕へと着地してそのまま一気に肩へと上り詰め、大きく見開いた一つ目の中心へとその剣を突き立てる。
巨人は声にならない悲鳴を上げながら、その場で地団太を踏んでいた。
そんな巨体の脚をボルディアの斧槍が横なぐと、重心を崩して周りの巨人を巻き込んで地面へと倒れ伏すのであった。
「行けっ! ここは引き受けた!」
「間に合わなくなる前に彼女を!」
顔を抑えてじたばたと蠢く巨人に相対し、背中越しに叫ぶボルディアとカズマ。
「さて……ワシらはこいつを何とかするかね」
彼らと大型巨人を挟み込むかのように対峙するバルバロス。
その大きい斧を両手で握りしめ、一息にバンプアップさせると、全霊の一撃を巨体へと放つ。
そんな彼らの援護を受け、馨達はエリスの回収を何とか成し得ていた。
「何だったんだ……あれは」
回収された、傷だらけで気を失っているエリスに応急処置を施しながら、静かにつぶやいたクローディオ。
天蓋付きのベッドに横たわる怠惰の姫は、いつの間にやら安らかな寝息を立てていた。
●
「くそっ……いつになったらこいつ等は沸かなくなるんだ?」
無尽蔵に沸き続けるスケルトン達を前に、ミリアは切らし始めた息で大剣を振るう。
「あまり無理はしないで下さいよ。護衛が崩れたら元も子もありませんからねぇ」
「わかてるよ、ボクを信用しな!」
アルマの言葉にやや苛立った様子で答えるミリア。 巨人の追撃は既に振り切っていたが、ここまで息もつかせず迫り来るスケルトンの相手にハンター達の疲労は限界を迎えようとしていた。 武器を振るい、時に騎馬やバイクの進路上で轢き飛ばし、ただひたすらに目的地を目指す。 彼女も彼に当たるつもりなど無いのだが、状況がそうさせてしまうのだ。 「流石に限界も近いか……」 芳しくない表情で唇を噛みしめるリュカ。
が、その時。
遥かスケルトンの海の向こうから、こちらへ向かってくる何かを目にしていた。
「あれ……目的地のハンター達じゃない?」
上ずった声で口にした桜子達の視線の先に、スケルトンの海を割っているようにしてこちらへと向かってくるハンター達の一団の姿が見える。
「おーい! こっちじゃ!」
星輝がこちらの存在を示すように手を振ると、あちらも手を振り返した。
お互いの存在を確認したハンター達は、その合間を詰め寄るように、敵を薙ぎ払ってゆく。
「何とか……間に合ったみてぇだな」
張りつめていた緊張を吐き出すように、鼻から大きく息を吐くジャック。
とは言え、まだポイントに到着したわけではない。
完全に気を抜いてはいけないのだ。
「本当に、ありがとうございマシタ!」
騎馬上で、リムネラはぺこりと頭を下げる。
そうして、強い意志を持った瞳で、言葉を続けるのであった。
「ここからはワタシの仕事デス……ワタシにしかできない事を、皆さんのためニ、頑張りマス!」
「――ふぁ……ここはどこ?」
怠惰の陣の奥、ベッドの上でジャンヌは寝起きの身体でうんと身体を伸ばしていた。
「ああそう、まだ厄日は終わってないのね……てっきり、夢の中の出来事かと思っていたわ」
ジャンヌはあくび一つに再びコテンと横になると、ぼーっと戦いの様子を眺める。
「それで……どういう状況なの?」
彼女の問いに、巨人は戦況はやや劣勢であることを告げる。
ハンターの抵抗が存外に激しく、うまくキャンプまで押し込み切れていない、と。
「そう……ならもう帰りましょ。そろそろお昼寝の時間だもの」
その言葉を聞いて、巨人は腰に下げた大きな貝を力いっばい吹き鳴らしていた。
同時に今まで戦闘を行っていた巨人達の手はぴたりと止まり、巨体を翻して帰還の途へとつく。
「怠惰軍が、退いてく……?」
唐突の事態に、アメリアは驚いたように目を見開いていた。
実際のところ、ハンター側の被害はそう大きくなく、怠惰側は前線が大きく瓦解。
しかし、まだ完全に勝負が決するような段階ではなく、戦況によってはいかようにも結果が推移しかねない、予断の許されない状況であった。
そうであるにも関わらず退いてゆく怠惰兵を前に、ハンター達もただただポカンとした表情で眺める他なかった。
「なんだか釈然としねぇが……護り切った、のか?」
「そういうことになるの……かな?」
首を傾げる様子で問う啓一であったが、とりあえず返事を返したオキクルミを含めて、その言葉に自信を持って頷き返す事が出来る者はそう居なかった。
敵も余力を残している事を考えれば深追いも得策ではない。
不気味な余韻が支配する浄化キャンプに、ハンター達のやや戸惑うような勝鬨が、空高く響き渡っていた。
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