ゲスト
(ka0000)
グランドシナリオ「【闇光】北伐」
作戦2:敵司令官襲撃 リプレイ
- 白藤
(ka3768) - マッシュ・アクラシス
(ka0771) - 八島 陽
(ka1442) - エルバッハ・リオン
(ka2434) - ウィンス・デイランダール
(ka0039) - アーサー・ホーガン
(ka0471) - 葛音 水月
(ka1895) - リカルド=イージス=バルデラマ
(ka0356) - エヴァンス・カルヴィ
(ka0639) - ミオレスカ
(ka3496) - アイビス・グラス
(ka2477) - アルト・ヴァレンティーニ
(ka3109) - 七夜・真夕
(ka3977) - レイオス・アクアウォーカー
(ka1990) - 神代 誠一
(ka2086) - 柊 真司
(ka0705) - エリス・カルディコット
(ka2572) - 米本 剛
(ka0320) - 岩井崎 旭
(ka0234) - リリティア・オルベール
(ka3054) - 柏木 千春
(ka3061) - J
(ka3142) - ヴァルナ=エリゴス
(ka2651) - シェラリンデ
(ka3332)
●スケルトンの大壁
雪原が嵐の海の如く揺れた。
若い鬼が青い肌の上からでも分かるほど真っ青になる。
雪は精々3割、残りは全て骨。
乾き果て薄汚れた骸骨の連なりが、ハンター、鬼、王国騎士に向かい雪崩れ込んできた。
「惚けてんじゃねぇ!」
アカシラ(kz0146)が雪崩に近づき長大な刃を振るう。
まとめて上下に断ち割られ、スケルトン多数が薄れて消えていく。
しかし敵の数は圧倒的に多い。後続のスケルトンが開いた穴を埋めアカシラに迫る。
「敵の首は鬼の嬢ちゃん達が刈ってくれる、俺らは壁をつくって敵を防ぐぞ」
ダンテ・バルカザール(kz0153)の命に従い、重装備の騎士達が円陣を組む。
不用意に前に出た青鬼が慌てて下がり、騎士達が彼を円陣の中に匿いスケルトンを防ぎ止めた。
白藤(ka3768)の胸元から黒炎が吹き上がり、蝶の形を為し彼女の頬を艶めかしく照らす。
「さ、兄さん……一緒に踊ろや♪」
魔導拳銃の弾倉を数秒で撃ち尽くす。
横に延々と伸びる骨の津波に、1箇所だけ何もない空間がうまれた。
「さーぁマッシュ、役に立ってよ?」_
マッシュ・アクラシス(ka0771)が投げやりな雰囲気で肩をすくめた。
「いやはや……踊るのと踊らされるのは違うものでしょう」
躊躇無く前に出る。
前と横から押し寄せる骨を恐れもせず大剣を一閃させる。
頭が半ば欠けたスケルトンが両断されて消え、錆びた鉄鎧で身を固めた骸骨が腕を失い雪原に倒れる。
範囲優先の攻撃故攻撃圏全てを一撃とはいかないけれど、半分も消えれば脅威は激減する。
「私はどうでも結構ですが」
優雅なステップで骨津波を躱す。
躱された骨は、白藤の支援を受けた鬼達によって瞬く間に殲滅された。
若い鬼達が歓声をあげる。一部の王国騎士も控えめではあるが同調している。
「序盤で切り札1つ切らされるとか」
白藤の表情は決して明るくない。
意識して制圧射撃は行わず支援に徹する。敵の数は予想以上に多く、速攻を決めるならスキルと使い尽くす勢いで戦うべきかもしれない。
マッシュが骨の壁を大きく削る。
奥から大量の骨が現れ新たな壁をつくり、マッシュに浅手ではあるが無視できない程度の傷をつける。
「私に援護は無用。エスコートのつもりですのでね」
さらに剣を振るい骨の壁をこじ開ける。骨と骨の隙間から、場違いに良い布地が見えた気がした。
「見えた」
魔導バイクが大きな音を立てる。
八島 陽(ka1442)が迷わずアクセルを踏んで加速。マッシュ達がつくった敵陣の亀裂を縫う様に走り、雪原の奥へと踏み込んだ。
「無理は禁物、引き際は見極めんと……命あってなんぼやで?」
白藤はバイクを狙う骨を討ち滅ぼしつつ、小さくなっていく陽の背中に声をかけた。
エルバッハ・リオン(ka2434)は、騎士の円陣の間近で周囲を見回した。
陽に続いて敵陣奥へ向かうつもりのハンターが多数いる。歪虚汚染で身動きがとれなくなるまでにレチタティーヴォを仕留めるつもりだ。
だが何故だろう。今は圧倒的に有利なはずなのに、嫌な予感が強まるばかりだ。
「厳しい選択を迫られるのはいつものことです」
杖にマテリアルを込める。
火球が浮かび上がって発進。陽の後方十数メートルで火炎の華を咲かせた。
「ならば、自分の役割を果たすだけです」
次の火球を準備しながら馬の足を活かして前進。自身が作りあげ、既に半ば新手で埋まった空白地帯で再度火球を撃ち出した。
エルバッハより数桁重い骨の壁が複数倒れて消滅する。
鬼と騎士から歓声まで聞こえてくるが安心できない。
徐々に忍び寄る気温以外が原因の寒さに耐え、決して無限ではない火球の術を準備する。
ウィンス・デイランダール(ka0039)がゴースロン種を駆りエルバッハの脇を通り抜ける。
骨の増援が最前列への合流を諦めウィンスの前に新たな壁をつくる前に、人馬一体となり骨の密集地に飛び込んだ。
「止まるな!」
グレイブが高速旋回。範囲内のスケルトンを1つ残らずこの世から強制退場させる。
「備える時間を与えるな!」
一振りで十数体倒しているのに敵の数が減っているようには見えない。
多すぎるスケルトンにより積もった雪が巻き上げられ視界を妨害し、染みこむ寒さと歪虚の気配がウィンスの肌から骨へと染みこむ。
「分かってはいるが」
先行したはずの陽の足が止まっている。敵の戦力ではなく雪に邪魔され、レチタティーヴォらしきものを見失っていた。
『時間はいくらでもあります。じっくり堪能してください』
悪い意味で存在感のある声が響く。
風が弱まり、巻き上げられた雪が薄れ、複数の骨壁の奥に伊達男然とした歪虚が姿を見せた。
陽は慌ても焦りもしない。ファイアスローワーで少数のスケルトンをなぎ払い道をつくる。
「その演出には、付き合ってられねぇな。脚本ごと変更を要求するぜ!」
アーサー・ホーガン(ka0471)が道を駆け抜け、レチタティーヴォまで数歩の距離にたどり着いた。
鋭く細く息を吐く。
巨大な刀身を持ち上げ、移動の速度と己の力を乗せて文字通りの全力で繰り出した。
雪から現れた分厚い盾が突き出される。盾は切断出来たが速度が落ちレチタティーヴォの動きを捉えられずに終わる。
『またの挑戦をお待ちしております』
一礼する高位歪虚に、アーサーは親指を下げて見せた。
それきりレチタティーヴォを無視してエッケザックスを振り切る。
盾を無くしたデュラハンの腕から胸までが爆ぜて吹き飛び、白い雪の中に倒れて見えなくなる。
核を探し仕留める余裕はない。無数の骨がアーサー達を押し潰そうと迫る。
陽の炎が骨壁を焼き尽くす。エルバッハの火球がレチタティーヴォが直前までいた場所を焼く。
「アポ無し野郎は出直して来な」
骨壁と骨壁の間にあるわずかな隙間に、ウィンスが強引に馬で入り込む。
尖った骨にウィンスやその馬の肌が傷つきがするが、両者ともますます闘志を燃やして疾走を継続。レチタティーヴォをグレイブの射程に捉えた。
思考よりも速く動いて刃を送り込む。
重く鋭い刃がレチタティーヴォの頭上に逸れる。いつの間にか寒さが増している。ウィンスの四肢が、本来の力の数分の1しか出せなくなっていた。
「いやぁーな感じしかしない場所ですねぇ」
少し離れた場所で、葛音 水月(ka1895)が不健康な咳をした。
骨の壁から押し出されたスケルトンが拳を繰り出す。その数は左右と前方あわせて3つ。
「くぅ……っ」
右は躱して、前のはMASAMUNEで受けて、右は皮鎧の最も厚い部分で受ける。
「けどっ、僕はまだいけますよっ」
戦馬を斜め後方に走らせてスケルトンから距離をとる。呼吸を整え、気合を入れ直して体に染みこむ冷たさを振り払う。
これでスケルトン程度の攻撃は9割4分以上回避できるはずだ。
しかし敵の数は多い。味方と分担しても全く減らない。全く、減らないのだ。
水月は手裏剣1つ投げる度に1つスケルトンを崩壊させている。すると即あるいは短時間で新手がその穴を埋めてしまう。
「特殊イベントか新規ボスぅ? ずるいよそんなの」
マテリアルがつくる黒猫耳が、へたりと力無く垂れる。
汚染領域に苦しむハンターを尻目に、レチタティーヴォが戦場の奥へ後退していった。
●デュラハンの脅威
ダンテがハンターに目配せした。
部下の目があるため強気な態度に見せかけてはいるが、目には深刻な懸念が色濃く現れていた。
「いやーまた、随分と多いなコレは、ちょいと洒落にならねえなコレ」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は数秒かけて己の内から冷たさを追い出し、ダンテの意見に目だけで同意してみせた。
ハンターが目指した速攻はおそらく破綻した。
スケルトンを100単位で滅しても数が減って見えないのだから、確実に何かからくりがある。
「リカルド、アイビス、手筈通りの隊列と動きで行くぞ。指揮官の首は他のやつに譲ってやったんだ……代わりに雑魚共は全部俺らの獲物だ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が陽気な声で呼びかけた。
既に2度仕掛けている。手傷を負い体力も減り歪虚汚染への抵抗が困難になっていても、今から全軍に連絡して作戦を変更するのは困難極まる。だから、全軍の士気を落とさないために明るく振る舞い続ける。
「はじめます!」
ミオレスカ(ka3496)が両手で魔導拳銃を構え、引き金を引いた。
強大化したマテリアルを完全には制御しきれず、銀の髪から虹色の光が漏れている。
もっとも制御し切れている分だけで十分だ。歪虚汚染を受けてもなお精妙な狙いは健在で、射撃と同時に発進したエヴァンス以下バイク3台の進路の安全を確保する。
「いい腕だな」
リカルドがアクセルを踏む。
数秒前までスケルトンがいた場所を踏み越え、ミオレスカの制圧射撃を浴び身動きがとれぬデュラハン3体にMURAMASAを打ち込んだ。
左の胸甲、中央の手にある兜、右の脇が壊れるが致命傷には遠い。
「今度は3体か? ハッ、汚染領域も大したことねぇなぁ! こんな程度の場所に引き籠った演出家野郎が哀れだぜ!」
声には傲岸なほどの自信と嘲弄を込め、目には知性と闘志を湛えてテンペストを見舞う。
デュラハンの装甲が本格的に壊れ、不気味に蠢く内側が冷たい外気に晒された。
攻撃直後のリカルドの背後から、妙に新しい骨が襲いかかる。
ダメージではなく抱きついての状態異常を目指した動きだ。動きが鈍ったエヴァンスでは、3体全てを防ぐことは極めて困難。
「おぉ」
近くの鬼達が感嘆する。
スケルトン3体はミオレスカの速射により全て頭蓋を砕かれ、何も出来ずに冷たい風の中に溶けて消えた。
再装填を行うミオレスカ。その額に熱い汗が浮かんでいる。
風邪に似た症状に襲われ手足と両目の動きが鈍い。この場にいるのが彼女以外なら、エヴァンス達はとっくに歪虚に押しつぶされていただろう。
「スキルが尽きても、その鎧ごとこの拳で打ち貫く!」
アイビス・グラス(ka2477)の脛が、半壊した鎧ごとデュラハンの下腹にめり込んだ。
引き抜くタイミングに合わせてリカルドがMURAMASAを差し込み、刃を半回転させて肉を削ぐ。
「悪いね」
エヴァンスの刃が、デュラハンの存在の核を撃ち抜いた。
「ッ!」
アイビスが雪を蹴って飛ぶ。
制圧射撃から回復した1体の腕頭を一撃して、エヴァンスの急所に当たる寸前だった刃を辛うじて防ぐ。
そして、再生したばかりの4体目が、エヴァンスの真後ろから大型の鉄塊を振り落とした。
エヴァンスはとっさに厚手の剣で受けるが致命傷を避けるのがやっとだった。
「生きてるな。自分で下がれ」
リカルドがバイクごとエヴァンスの向きを変え、蹴り飛ばすようにして後退させる。
そこへ、内側だけが再生した5体目がリカルドに鯖折りを仕掛けた。
咄嗟に振るったMURAMASAで片手を切り飛ばすが勢いは消えず、背に回った巨大拳に背中を打たれ、血を吐いた。
残る3体のデュラハンもリカルドを狙う。
が、アイビスによってリカルドが引きずり出され、騎士がつくる安全地帯に向け投げ出された。
デュラハンの拳と剣がアイビスに向かう。
呼吸が乱れる。体の芯が冷えて動きが鈍くなる。
拳を拳で弾く。剣を躱す。もう1本の剣の平を打って直撃だけは避け、割れた鎧に左の拳を突き込む。
「っ」
転がるようにして追撃を回避。左胸を撃ち抜かれたデュラハンが1体、雪原に倒れて見えなくなった。
アイビスは荒い息で、必死に防戦しながら、一瞬の隙をついて後方に合図を送る。
『ほぅ』
見つけられたレチタティーヴォが、満足そうに微笑んでいた。
●骨の包囲網
スケルトンの軍勢がレチタティーヴォを追い抜き壁をつくる。一瞬遅れて矢弾と術を受け半分近くが崩壊した。
風が一時的に止む。レチタティーヴォの背後に、さらに数部隊の姿が見えた。
『此度の演目は暴食王のスケルトン軍団。楽しんで頂けましたか?』
誇る様子も無く一礼する。
怒る鬼や騎士とは対照的に、ハンターはためらいなく攻撃のアクセルを踏み込んでいた。
「レチタティーヴォ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が魔導バイクに限界まで酷使する。
直前の遠距離攻撃で開いた穴を駆け抜け、飄々とたたずむ歪虚に迫る。
「先日お前の部下ラトス・ケーオの駄作に出演させられたんだが、出演料も払わず逃げやがった」
体重移動とアクセルの踏み込み調整で蛇行。レチタティーヴォ付近のスケルトンを全て躱しきる。
「上司に利子つきで払ってもらおう――その首でな」
オートMURAMASAを振る。
ただ威力があるだけでなく、軌道とタイミングがフェイントでもあり、速度を増す切っ先が限りなく2連撃に近い形で着弾した。
鋼よりも硬い装甲が中身と一緒に破壊されて消える。レチタティーヴォではない。帝国風の鎧を着込んでいたスケルトンだ。
『武人に一騎打ちを挑むほどうぬぼれてはいませんよ』
己は戦士ではなく演出家とでも言いたげだ。入れ替わりに押し寄せる骨津波が壁となり、アルトは一旦後退を余儀なくされた。
若い鬼が前に出ようとしてアカシラに怒鳴りつけられている。
スケルトンの数の増加は止まったが、これまで後方に控えていたらしいデュラハン本隊が戦場に現れた。
装備も良く歪虚としての格が高いデュラハンは目立つ。故にレチタティーヴォを皆見失いかける。
「そこ、じゃない」
七夜・真夕(ka3977)がバイクを反転させる。周辺状況からレチタティーヴォのやり口を予測、具体的には偽物と本物の配置を推測し当たりを目指す。
いかにも指揮官を守っていそうなデュラハン隊から距離をとり、風の勢いが増し視界が雪で閉ざされつつある戦場を素早く見渡す。
奥歯を噛んでアクセルを踏み込む。
人間の退路を絶つべく動くスケルトン小部隊の前に先行し、石壁を建てて速度を強制的に0にする。
「好きにはやらせない! ここでもらうわよ」
ファイアーボールを投げ入れる。骨の並みが崩れて伊達男が姿を現す。
『読みが素晴らしい。最初からこれほど読んでいれば……』
スケルトン小隊中央でわざとらしくため息をつく。
真夕は応えず再度のファイアーボール。
出来ればバイクを降りての襲撃といきたいが、いざというときの撤退手段を捨てる訳にもいかない。速攻で倒せるならともかく、レチタティーヴォはほぼ無傷なのだから。
男がスケルトンの森の中へ消えていく。
「逃がすか!」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がバイクで追いすがる。
敵の戦力が開戦前から変わらないことも、ハンター以下全覚醒者が歪虚汚染で戦力低下していることも分かっている。
だが今から守りに徹してもじり貧だ。倒すか、せめて後退に追い込まなければ他の戦場で決着がつく前に全滅しかねない。
骨の大波が立ちふさがる。
MASAMUNEを旋回させまとめてなぎ払おうとしても、汚染で鈍った剣は7割方外れてしまう。
「ちっ」
タイヤが逆転する。レイオスを飲み込もうとした骨を速度で回避、弓に持ち替えて骨の森の中へ矢を放つ。
ぎりぎりで当たりレチタティーヴォの体が揺れる。
残念ではあるが手応えはないに等しい。そしてこの状況で2の矢3の矢を当てられるとは思わない。
「参りましたね」
神代 誠一(ka2086)が眼鏡の位置を直す。
未だ健在なマテリアルが噴出し、緑の光となって飛散した。
「全くだ」
柊 真司(ka0705)と視線が一瞬交錯し、同時に獰猛な笑みが浮かんだ。
バイクと戦馬が肩を並べて前進する。
デュラハンが混じった骨壁が彼等の行く手を遮る。
「舐めてるな」
真司が口の端を吊り上げファイアスローワーを起動。
歪虚汚染は深刻であり、数時間非汚染地域で静養しなければ元に戻らない。動きの精度は通常の半分程度しかない。
「その程度で止まるかよ」
骨壁に長い炎の線が突き刺さる。
真司の圧倒的魔導制御力は半減しても並みの術師を超えている。長射程をファイアスローワーは範囲内のスケルトンの8割方討ち滅ぼし、レチタティーヴォへの道を切り開いた。
「行け!」
真司は直接攻撃を止め味方へのマテリアル付与に専念する。
敢えて退かずデュラハンの攻撃は盾で受けて耐える。今が最後の逆転のチャンスであることを知っているからだ。
彼の支援を受け、誠一を戦闘とするハンター集団が、久方ぶりにレチタティーヴォの元までたどり着いた。
「俺としては、語り部ではなく同じ舞台に上がってきていただきたいんですが?」
誠一が一見緩く微笑みかけるのはフェイントのうち。歪虚の意識の死角から鋼製ワイヤーを飛ばす。
雪に紛れて視認困難な線が、自称演出家の腕に巻き付き回避能力を引き下げる。
骨の津波を浴びながら、誠一はワイヤーを引っ張りレチタティーヴォを戦場の中央に引きずり出した。
銃声が連続する。
エリス・カルディコット(ka2572)が抱えた銀色のライフルが吼え、威力だけなら砲に匹敵する威力を高位歪虚にお見舞いする。
近くの骨の群れがエリスを目指し、殴りかかる。
汚染により動きの鈍ったエリスでは半分も躱せずダメージが積み重なるが、血は流しても狙いは絶対に狂わせない。
「貴方にも、好きに動けないという気持ちを味わって頂きましょう」
彼女の放つ弾は歪虚汚染に負けないほど冷たく重い。さらに、威力を歪虚の破壊ではなく足止めに集中している。極めて短時間で状態状から回復する歪虚に、回復するたびに重い強い負荷を与え動きを妨げ続けていた。
『惜しい。私を敵役の英雄譚には少し足りませんね』
強大な力で腕のワイヤーを外し、エリスの牽制弾幕から脱出する機会を探る。
「一息入れる時間もありませんね」
レチタティーヴォと王国騎士隊の中間地点で、米本 剛(ka0320)が荒い息を吐いていた。
スケルトンの増援は絶え数も減っている。
しかし歪虚汚染はますます酷くなり、アカシラと少数の鬼を除き深刻な状態だ。
剛も和風改造済プレートアーマーのお陰で生き延びているのが現状だ。
気合いを込め神々に祈りを捧げる。
癒しの場が拡張され、それぞれ浅くない傷を負ったハンターを生の側に引き戻す。
「助かるよ」
岩井崎 旭(ka0234)が礼を言いレチタティーヴォに向かう。
リリティア・オルベール(ka3054)は息を整えるのに必死で手を挙げて感謝を示す。
「レチタ……ティーヴォ」
リリティアの消耗も深刻だ。速攻の予定が長期戦になったため、体力も危険なほど減り汚染も酷い。
「なーんでまた、こうも準備万端なのか……。まぁ、迎え撃つというなら望むところですよ。蹴散らして、人の力ってものを見せてあげましょう!!」
魔導二輪の速度を最高速に。
普段の半分も動かない両腕を酷使し、頭から両断しようと斬龍刀を振りかぶる。
『!?』
歪虚の口から慌てた声が漏れる。
「失敬、武人…と言う感じではないので撃たせて頂きました。演出家を名乗る以上演出されても文句は言わないでしょう?」
剛もレチタティーヴォに近づき引き金を退いていた。頭に命中したのはただの運だが、この言動と組み合わせれば挑発には十分だ。
歪虚の顔に、この戦場で初めて苛つきが浮かんだ。
斬龍刀が雪を割って振り下ろされる。
その速度と手数は圧倒的で、レチタティーヴォは回避も出来ず両手を交差させて受け止めるしかなかった。
刃がめり込む。刃ごと細身の体を吹き飛ばそうとレチタティーヴォが力を込める。
両者が拮抗する。攻めるなら、これが文字通り最後の機会だった。
「くそっ」
旭は攻めなかった。
「シーザー、悪いが付き合ってくれ」
軍馬が獰猛な目つきでレチタティーヴォに迫る。
旭は巨大な斧に全力を込め、破壊ではなく押しのけるための動きで人型の歪虚に当てた。
リリティアとの拮抗が崩れてレチタティーヴォがよろける。
「お楽しみのところわりぃが、今回はこれで終わりだ!」
大斧が旋回する。
デュラハンはもちろんスケルトンにすらほとんど当たらない。だが、辛うじて骸骨1体を潰すことに成功し、仲間を送り出してから己の体を盾として殿を務める。
騎士隊の円陣にたどり着いたときは、旭は愛馬シーザーの背で失血状態になり気絶していた。
●撤退
攻勢が頓挫した人類に代わり、死に損ないの軍勢が攻勢を開始した。
スケルトンが数を活かしてこの方面の人類を包囲。
デュレハンが要所を固めてハンター達の反撃を防ぎ、その隙にスケルトンが包囲を狭める。
レチタティーヴォは前線にいないが破滅はすぐそこまで迫っていた。
何回目か分からない、骨の津波が押し寄せる。
騎士とハンターが円陣を必死に維持。しかし数人の鬼が連携しきれずスケルトンに連れ去られる。
「お願いっ」
円陣の内側で柏木 千春(ka3061)が祈りを捧げる。
薄い茶色の髪が内側から清らかな光を放つ。
祈りが天に通じたのか、契約した光の精霊が頑張ってくれたのか、普段の修業が身を結んだのかは分からない。
汚染への抵抗に成功。光の強さはそのままに範囲が広がっていく。
骨津波を構成するスケルトンが抵抗もできずに薄れて消えて、呆然とした若い鬼達だけがその場に残されていた。
千春が自分の両肩を押さえる。
感じる寒さは戦闘開始時の数倍であり、どれだけ気を張っても極短時間しか汚染から抜け出せない。
光の線が何本も、何もないはずの雪原に突き立つ。
ある場所では奇妙に深い陥没が生じ、別の場所では小柄で白いデュラハンに当たる。
「保護色にも注意を。敵は浸透攻撃を意図しています」
J(ka3142)が光を飛ばしながら警戒を促す。
「吹雪や視界不良も利用してこちらを崩すつもりで」
体力の限界に達した騎士が片膝をついた。
Jが騎士の前に出る。1カ所でも崩れたら円陣内側に雪崩れ込まれて重傷者が死ぬ。
スケルトンが殺到する。
回避の余裕はない。盾で骨の拳を受け、汚染により精度が甘くなってしまった炎で骨達を焼き尽くす。が、骨に紛れていたデュラハンが長剣を両手で突きだした。
盾で受ける。内部の機能が全開で動いているが衝撃を受け流しきれない。
「っ……ダンテ様?」
真横でデュラハン2体を足止めする騎士に決断を促す。
少し前から、スメラギがいるはずの方向から浄化術が届き始めているとはいえ、汚染が進んだハンターが回復するほどの効果は無い。逃げなければ分ももたずに全滅だ。
「間に合ったようだ」
包囲網の外側で大きな動きがあった。
魔導バイクを駆るヴァルナ=エリゴス(ka2651)が骨の壁に急接近。
炎のマテリアルを纏うハルバードで、1体も逃さず壁を消滅させた。
彼女の進撃は止まらない。
向きを変え足止めしようとするスケルトンに、確実に、狙いが甘くなるはずの薙ぎ払いで当てる。
デュラハン数体がヴァルナの退路を絶とうとして、ヴァルナにつけられた騎士によって足止めされる。
ヴァルナがダンテに提案した通りに、ぎりぎりまで後方にいたたった3名が、この場の人類全ての命綱だった。
「借り物の役者に悪趣味な脚本、見事な三流っぷりですね。この辺りで作家『人生』に幕を引いては?」
ヴァルナが目を向けもせず言葉の剣で刺す。
『これは手厳しい』
歪虚は実に楽しげに、矢も届かない位置から地獄の戦いを鑑賞している。
「足りないか。……おい」
2人の鬼が、無言でアカシラの左右を固めた。
ヴァルナの速度が急激に落ちている。歪虚汚染が無いとはいえ、1人で数十のスケルトンを切れば疲れもする。
なぎ払いを使い切るとさらに速度が落ち、騎士と鬼とハンターの円陣から十数メートルの場所で停止した。
「行くぞ」
アカシラが円陣から離れる。付き従うのは、鬼という種にとり貴重な、歪虚汚染耐性を持つに至った高位覚醒者が2人。
新手のデュラハンが左右から接近する。
鎧は薄手。両手に太く鋭い刃を構えた、今の騎士隊では確実に突破され重傷者を殺戮されてしまう相手だ。
アカシラの刃がヴァルナまでの道を切り開く。
2人の鬼が左右に動いてデュラハンを相手取る。守りを捨てて攻撃の速度を上げ、ハンターに教えられたやり方で核を剥き出し、代わりに多数の刃で切り刻まれ事切れた。
デュラハンは背後からアカシラを襲おうとするが、鬼の亡骸に邪魔され身動きできなかった。
「鬼の皆と共闘できるのは、心強いね……」
シェラリンデ(ka3332)の頬に涙が伝う。
思うように動かない足でアクセルを踏んで、左手だけでハンドルを切る。
シェラリンデは絡繰刀を鞘から抜いて、最小限の力を込めて思い切り振り抜いた。
刃にマテリアルを込めた瞬間、澄んだ音が聞こえた。
デュラハンの核と本体が砕けて薄れ、鬼の遺体が重々しい音と共に雪の中に消えた。
「歪虚の流れはこう……だから他の隊は」
もう1体のデュラハンが鬼の体を引きずりつつ接近。
シェラリンデはその片足の一撃入れて動きを鈍らせ、大きく息を吸って叫んだ。
「退路はあっち!」
悔しい。
スケルトンの数が減ってる。
相打ちを覚悟すればレチタティーヴォもデュラハンだってきっと倒せる。
「急いで!」
でもそんな真似はしてはいけない。彼等は鬼とその同胞の生存のため命を使ったのだから。
円陣が突撃用の陣に切り替わる。
咳ひとつ漏らさず、1人の同胞も置き去りにせず、友軍との合流を目指し進み続ける。
レチタティーヴォの制御を離れた死に損ないが追いかけはしたが、人類は決して崩れず移動を続けた。
雪原が嵐の海の如く揺れた。
若い鬼が青い肌の上からでも分かるほど真っ青になる。
雪は精々3割、残りは全て骨。
乾き果て薄汚れた骸骨の連なりが、ハンター、鬼、王国騎士に向かい雪崩れ込んできた。
「惚けてんじゃねぇ!」
アカシラ(kz0146)が雪崩に近づき長大な刃を振るう。
まとめて上下に断ち割られ、スケルトン多数が薄れて消えていく。
しかし敵の数は圧倒的に多い。後続のスケルトンが開いた穴を埋めアカシラに迫る。
「敵の首は鬼の嬢ちゃん達が刈ってくれる、俺らは壁をつくって敵を防ぐぞ」
ダンテ・バルカザール(kz0153)の命に従い、重装備の騎士達が円陣を組む。
不用意に前に出た青鬼が慌てて下がり、騎士達が彼を円陣の中に匿いスケルトンを防ぎ止めた。
白藤(ka3768)の胸元から黒炎が吹き上がり、蝶の形を為し彼女の頬を艶めかしく照らす。
「さ、兄さん……一緒に踊ろや♪」
魔導拳銃の弾倉を数秒で撃ち尽くす。
横に延々と伸びる骨の津波に、1箇所だけ何もない空間がうまれた。
「さーぁマッシュ、役に立ってよ?」_
マッシュ・アクラシス(ka0771)が投げやりな雰囲気で肩をすくめた。
「いやはや……踊るのと踊らされるのは違うものでしょう」
躊躇無く前に出る。
前と横から押し寄せる骨を恐れもせず大剣を一閃させる。
頭が半ば欠けたスケルトンが両断されて消え、錆びた鉄鎧で身を固めた骸骨が腕を失い雪原に倒れる。
範囲優先の攻撃故攻撃圏全てを一撃とはいかないけれど、半分も消えれば脅威は激減する。
「私はどうでも結構ですが」
優雅なステップで骨津波を躱す。
躱された骨は、白藤の支援を受けた鬼達によって瞬く間に殲滅された。
若い鬼達が歓声をあげる。一部の王国騎士も控えめではあるが同調している。
「序盤で切り札1つ切らされるとか」
白藤の表情は決して明るくない。
意識して制圧射撃は行わず支援に徹する。敵の数は予想以上に多く、速攻を決めるならスキルと使い尽くす勢いで戦うべきかもしれない。
マッシュが骨の壁を大きく削る。
奥から大量の骨が現れ新たな壁をつくり、マッシュに浅手ではあるが無視できない程度の傷をつける。
「私に援護は無用。エスコートのつもりですのでね」
さらに剣を振るい骨の壁をこじ開ける。骨と骨の隙間から、場違いに良い布地が見えた気がした。
「見えた」
魔導バイクが大きな音を立てる。
八島 陽(ka1442)が迷わずアクセルを踏んで加速。マッシュ達がつくった敵陣の亀裂を縫う様に走り、雪原の奥へと踏み込んだ。
「無理は禁物、引き際は見極めんと……命あってなんぼやで?」
白藤はバイクを狙う骨を討ち滅ぼしつつ、小さくなっていく陽の背中に声をかけた。
エルバッハ・リオン(ka2434)は、騎士の円陣の間近で周囲を見回した。
陽に続いて敵陣奥へ向かうつもりのハンターが多数いる。歪虚汚染で身動きがとれなくなるまでにレチタティーヴォを仕留めるつもりだ。
だが何故だろう。今は圧倒的に有利なはずなのに、嫌な予感が強まるばかりだ。
「厳しい選択を迫られるのはいつものことです」
杖にマテリアルを込める。
火球が浮かび上がって発進。陽の後方十数メートルで火炎の華を咲かせた。
「ならば、自分の役割を果たすだけです」
次の火球を準備しながら馬の足を活かして前進。自身が作りあげ、既に半ば新手で埋まった空白地帯で再度火球を撃ち出した。
エルバッハより数桁重い骨の壁が複数倒れて消滅する。
鬼と騎士から歓声まで聞こえてくるが安心できない。
徐々に忍び寄る気温以外が原因の寒さに耐え、決して無限ではない火球の術を準備する。
ウィンス・デイランダール(ka0039)がゴースロン種を駆りエルバッハの脇を通り抜ける。
骨の増援が最前列への合流を諦めウィンスの前に新たな壁をつくる前に、人馬一体となり骨の密集地に飛び込んだ。
「止まるな!」
グレイブが高速旋回。範囲内のスケルトンを1つ残らずこの世から強制退場させる。
「備える時間を与えるな!」
一振りで十数体倒しているのに敵の数が減っているようには見えない。
多すぎるスケルトンにより積もった雪が巻き上げられ視界を妨害し、染みこむ寒さと歪虚の気配がウィンスの肌から骨へと染みこむ。
「分かってはいるが」
先行したはずの陽の足が止まっている。敵の戦力ではなく雪に邪魔され、レチタティーヴォらしきものを見失っていた。
『時間はいくらでもあります。じっくり堪能してください』
悪い意味で存在感のある声が響く。
風が弱まり、巻き上げられた雪が薄れ、複数の骨壁の奥に伊達男然とした歪虚が姿を見せた。
陽は慌ても焦りもしない。ファイアスローワーで少数のスケルトンをなぎ払い道をつくる。
「その演出には、付き合ってられねぇな。脚本ごと変更を要求するぜ!」
アーサー・ホーガン(ka0471)が道を駆け抜け、レチタティーヴォまで数歩の距離にたどり着いた。
鋭く細く息を吐く。
巨大な刀身を持ち上げ、移動の速度と己の力を乗せて文字通りの全力で繰り出した。
雪から現れた分厚い盾が突き出される。盾は切断出来たが速度が落ちレチタティーヴォの動きを捉えられずに終わる。
『またの挑戦をお待ちしております』
一礼する高位歪虚に、アーサーは親指を下げて見せた。
それきりレチタティーヴォを無視してエッケザックスを振り切る。
盾を無くしたデュラハンの腕から胸までが爆ぜて吹き飛び、白い雪の中に倒れて見えなくなる。
核を探し仕留める余裕はない。無数の骨がアーサー達を押し潰そうと迫る。
陽の炎が骨壁を焼き尽くす。エルバッハの火球がレチタティーヴォが直前までいた場所を焼く。
「アポ無し野郎は出直して来な」
骨壁と骨壁の間にあるわずかな隙間に、ウィンスが強引に馬で入り込む。
尖った骨にウィンスやその馬の肌が傷つきがするが、両者ともますます闘志を燃やして疾走を継続。レチタティーヴォをグレイブの射程に捉えた。
思考よりも速く動いて刃を送り込む。
重く鋭い刃がレチタティーヴォの頭上に逸れる。いつの間にか寒さが増している。ウィンスの四肢が、本来の力の数分の1しか出せなくなっていた。
「いやぁーな感じしかしない場所ですねぇ」
少し離れた場所で、葛音 水月(ka1895)が不健康な咳をした。
骨の壁から押し出されたスケルトンが拳を繰り出す。その数は左右と前方あわせて3つ。
「くぅ……っ」
右は躱して、前のはMASAMUNEで受けて、右は皮鎧の最も厚い部分で受ける。
「けどっ、僕はまだいけますよっ」
戦馬を斜め後方に走らせてスケルトンから距離をとる。呼吸を整え、気合を入れ直して体に染みこむ冷たさを振り払う。
これでスケルトン程度の攻撃は9割4分以上回避できるはずだ。
しかし敵の数は多い。味方と分担しても全く減らない。全く、減らないのだ。
水月は手裏剣1つ投げる度に1つスケルトンを崩壊させている。すると即あるいは短時間で新手がその穴を埋めてしまう。
「特殊イベントか新規ボスぅ? ずるいよそんなの」
マテリアルがつくる黒猫耳が、へたりと力無く垂れる。
汚染領域に苦しむハンターを尻目に、レチタティーヴォが戦場の奥へ後退していった。
●デュラハンの脅威
ダンテがハンターに目配せした。
部下の目があるため強気な態度に見せかけてはいるが、目には深刻な懸念が色濃く現れていた。
「いやーまた、随分と多いなコレは、ちょいと洒落にならねえなコレ」
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は数秒かけて己の内から冷たさを追い出し、ダンテの意見に目だけで同意してみせた。
ハンターが目指した速攻はおそらく破綻した。
スケルトンを100単位で滅しても数が減って見えないのだから、確実に何かからくりがある。
「リカルド、アイビス、手筈通りの隊列と動きで行くぞ。指揮官の首は他のやつに譲ってやったんだ……代わりに雑魚共は全部俺らの獲物だ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が陽気な声で呼びかけた。
既に2度仕掛けている。手傷を負い体力も減り歪虚汚染への抵抗が困難になっていても、今から全軍に連絡して作戦を変更するのは困難極まる。だから、全軍の士気を落とさないために明るく振る舞い続ける。
「はじめます!」
ミオレスカ(ka3496)が両手で魔導拳銃を構え、引き金を引いた。
強大化したマテリアルを完全には制御しきれず、銀の髪から虹色の光が漏れている。
もっとも制御し切れている分だけで十分だ。歪虚汚染を受けてもなお精妙な狙いは健在で、射撃と同時に発進したエヴァンス以下バイク3台の進路の安全を確保する。
「いい腕だな」
リカルドがアクセルを踏む。
数秒前までスケルトンがいた場所を踏み越え、ミオレスカの制圧射撃を浴び身動きがとれぬデュラハン3体にMURAMASAを打ち込んだ。
左の胸甲、中央の手にある兜、右の脇が壊れるが致命傷には遠い。
「今度は3体か? ハッ、汚染領域も大したことねぇなぁ! こんな程度の場所に引き籠った演出家野郎が哀れだぜ!」
声には傲岸なほどの自信と嘲弄を込め、目には知性と闘志を湛えてテンペストを見舞う。
デュラハンの装甲が本格的に壊れ、不気味に蠢く内側が冷たい外気に晒された。
攻撃直後のリカルドの背後から、妙に新しい骨が襲いかかる。
ダメージではなく抱きついての状態異常を目指した動きだ。動きが鈍ったエヴァンスでは、3体全てを防ぐことは極めて困難。
「おぉ」
近くの鬼達が感嘆する。
スケルトン3体はミオレスカの速射により全て頭蓋を砕かれ、何も出来ずに冷たい風の中に溶けて消えた。
再装填を行うミオレスカ。その額に熱い汗が浮かんでいる。
風邪に似た症状に襲われ手足と両目の動きが鈍い。この場にいるのが彼女以外なら、エヴァンス達はとっくに歪虚に押しつぶされていただろう。
「スキルが尽きても、その鎧ごとこの拳で打ち貫く!」
アイビス・グラス(ka2477)の脛が、半壊した鎧ごとデュラハンの下腹にめり込んだ。
引き抜くタイミングに合わせてリカルドがMURAMASAを差し込み、刃を半回転させて肉を削ぐ。
「悪いね」
エヴァンスの刃が、デュラハンの存在の核を撃ち抜いた。
「ッ!」
アイビスが雪を蹴って飛ぶ。
制圧射撃から回復した1体の腕頭を一撃して、エヴァンスの急所に当たる寸前だった刃を辛うじて防ぐ。
そして、再生したばかりの4体目が、エヴァンスの真後ろから大型の鉄塊を振り落とした。
エヴァンスはとっさに厚手の剣で受けるが致命傷を避けるのがやっとだった。
「生きてるな。自分で下がれ」
リカルドがバイクごとエヴァンスの向きを変え、蹴り飛ばすようにして後退させる。
そこへ、内側だけが再生した5体目がリカルドに鯖折りを仕掛けた。
咄嗟に振るったMURAMASAで片手を切り飛ばすが勢いは消えず、背に回った巨大拳に背中を打たれ、血を吐いた。
残る3体のデュラハンもリカルドを狙う。
が、アイビスによってリカルドが引きずり出され、騎士がつくる安全地帯に向け投げ出された。
デュラハンの拳と剣がアイビスに向かう。
呼吸が乱れる。体の芯が冷えて動きが鈍くなる。
拳を拳で弾く。剣を躱す。もう1本の剣の平を打って直撃だけは避け、割れた鎧に左の拳を突き込む。
「っ」
転がるようにして追撃を回避。左胸を撃ち抜かれたデュラハンが1体、雪原に倒れて見えなくなった。
アイビスは荒い息で、必死に防戦しながら、一瞬の隙をついて後方に合図を送る。
『ほぅ』
見つけられたレチタティーヴォが、満足そうに微笑んでいた。
●骨の包囲網
スケルトンの軍勢がレチタティーヴォを追い抜き壁をつくる。一瞬遅れて矢弾と術を受け半分近くが崩壊した。
風が一時的に止む。レチタティーヴォの背後に、さらに数部隊の姿が見えた。
『此度の演目は暴食王のスケルトン軍団。楽しんで頂けましたか?』
誇る様子も無く一礼する。
怒る鬼や騎士とは対照的に、ハンターはためらいなく攻撃のアクセルを踏み込んでいた。
「レチタティーヴォ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が魔導バイクに限界まで酷使する。
直前の遠距離攻撃で開いた穴を駆け抜け、飄々とたたずむ歪虚に迫る。
「先日お前の部下ラトス・ケーオの駄作に出演させられたんだが、出演料も払わず逃げやがった」
体重移動とアクセルの踏み込み調整で蛇行。レチタティーヴォ付近のスケルトンを全て躱しきる。
「上司に利子つきで払ってもらおう――その首でな」
オートMURAMASAを振る。
ただ威力があるだけでなく、軌道とタイミングがフェイントでもあり、速度を増す切っ先が限りなく2連撃に近い形で着弾した。
鋼よりも硬い装甲が中身と一緒に破壊されて消える。レチタティーヴォではない。帝国風の鎧を着込んでいたスケルトンだ。
『武人に一騎打ちを挑むほどうぬぼれてはいませんよ』
己は戦士ではなく演出家とでも言いたげだ。入れ替わりに押し寄せる骨津波が壁となり、アルトは一旦後退を余儀なくされた。
若い鬼が前に出ようとしてアカシラに怒鳴りつけられている。
スケルトンの数の増加は止まったが、これまで後方に控えていたらしいデュラハン本隊が戦場に現れた。
装備も良く歪虚としての格が高いデュラハンは目立つ。故にレチタティーヴォを皆見失いかける。
「そこ、じゃない」
七夜・真夕(ka3977)がバイクを反転させる。周辺状況からレチタティーヴォのやり口を予測、具体的には偽物と本物の配置を推測し当たりを目指す。
いかにも指揮官を守っていそうなデュラハン隊から距離をとり、風の勢いが増し視界が雪で閉ざされつつある戦場を素早く見渡す。
奥歯を噛んでアクセルを踏み込む。
人間の退路を絶つべく動くスケルトン小部隊の前に先行し、石壁を建てて速度を強制的に0にする。
「好きにはやらせない! ここでもらうわよ」
ファイアーボールを投げ入れる。骨の並みが崩れて伊達男が姿を現す。
『読みが素晴らしい。最初からこれほど読んでいれば……』
スケルトン小隊中央でわざとらしくため息をつく。
真夕は応えず再度のファイアーボール。
出来ればバイクを降りての襲撃といきたいが、いざというときの撤退手段を捨てる訳にもいかない。速攻で倒せるならともかく、レチタティーヴォはほぼ無傷なのだから。
男がスケルトンの森の中へ消えていく。
「逃がすか!」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がバイクで追いすがる。
敵の戦力が開戦前から変わらないことも、ハンター以下全覚醒者が歪虚汚染で戦力低下していることも分かっている。
だが今から守りに徹してもじり貧だ。倒すか、せめて後退に追い込まなければ他の戦場で決着がつく前に全滅しかねない。
骨の大波が立ちふさがる。
MASAMUNEを旋回させまとめてなぎ払おうとしても、汚染で鈍った剣は7割方外れてしまう。
「ちっ」
タイヤが逆転する。レイオスを飲み込もうとした骨を速度で回避、弓に持ち替えて骨の森の中へ矢を放つ。
ぎりぎりで当たりレチタティーヴォの体が揺れる。
残念ではあるが手応えはないに等しい。そしてこの状況で2の矢3の矢を当てられるとは思わない。
「参りましたね」
神代 誠一(ka2086)が眼鏡の位置を直す。
未だ健在なマテリアルが噴出し、緑の光となって飛散した。
「全くだ」
柊 真司(ka0705)と視線が一瞬交錯し、同時に獰猛な笑みが浮かんだ。
バイクと戦馬が肩を並べて前進する。
デュラハンが混じった骨壁が彼等の行く手を遮る。
「舐めてるな」
真司が口の端を吊り上げファイアスローワーを起動。
歪虚汚染は深刻であり、数時間非汚染地域で静養しなければ元に戻らない。動きの精度は通常の半分程度しかない。
「その程度で止まるかよ」
骨壁に長い炎の線が突き刺さる。
真司の圧倒的魔導制御力は半減しても並みの術師を超えている。長射程をファイアスローワーは範囲内のスケルトンの8割方討ち滅ぼし、レチタティーヴォへの道を切り開いた。
「行け!」
真司は直接攻撃を止め味方へのマテリアル付与に専念する。
敢えて退かずデュラハンの攻撃は盾で受けて耐える。今が最後の逆転のチャンスであることを知っているからだ。
彼の支援を受け、誠一を戦闘とするハンター集団が、久方ぶりにレチタティーヴォの元までたどり着いた。
「俺としては、語り部ではなく同じ舞台に上がってきていただきたいんですが?」
誠一が一見緩く微笑みかけるのはフェイントのうち。歪虚の意識の死角から鋼製ワイヤーを飛ばす。
雪に紛れて視認困難な線が、自称演出家の腕に巻き付き回避能力を引き下げる。
骨の津波を浴びながら、誠一はワイヤーを引っ張りレチタティーヴォを戦場の中央に引きずり出した。
銃声が連続する。
エリス・カルディコット(ka2572)が抱えた銀色のライフルが吼え、威力だけなら砲に匹敵する威力を高位歪虚にお見舞いする。
近くの骨の群れがエリスを目指し、殴りかかる。
汚染により動きの鈍ったエリスでは半分も躱せずダメージが積み重なるが、血は流しても狙いは絶対に狂わせない。
「貴方にも、好きに動けないという気持ちを味わって頂きましょう」
彼女の放つ弾は歪虚汚染に負けないほど冷たく重い。さらに、威力を歪虚の破壊ではなく足止めに集中している。極めて短時間で状態状から回復する歪虚に、回復するたびに重い強い負荷を与え動きを妨げ続けていた。
『惜しい。私を敵役の英雄譚には少し足りませんね』
強大な力で腕のワイヤーを外し、エリスの牽制弾幕から脱出する機会を探る。
「一息入れる時間もありませんね」
レチタティーヴォと王国騎士隊の中間地点で、米本 剛(ka0320)が荒い息を吐いていた。
スケルトンの増援は絶え数も減っている。
しかし歪虚汚染はますます酷くなり、アカシラと少数の鬼を除き深刻な状態だ。
剛も和風改造済プレートアーマーのお陰で生き延びているのが現状だ。
気合いを込め神々に祈りを捧げる。
癒しの場が拡張され、それぞれ浅くない傷を負ったハンターを生の側に引き戻す。
「助かるよ」
岩井崎 旭(ka0234)が礼を言いレチタティーヴォに向かう。
リリティア・オルベール(ka3054)は息を整えるのに必死で手を挙げて感謝を示す。
「レチタ……ティーヴォ」
リリティアの消耗も深刻だ。速攻の予定が長期戦になったため、体力も危険なほど減り汚染も酷い。
「なーんでまた、こうも準備万端なのか……。まぁ、迎え撃つというなら望むところですよ。蹴散らして、人の力ってものを見せてあげましょう!!」
魔導二輪の速度を最高速に。
普段の半分も動かない両腕を酷使し、頭から両断しようと斬龍刀を振りかぶる。
『!?』
歪虚の口から慌てた声が漏れる。
「失敬、武人…と言う感じではないので撃たせて頂きました。演出家を名乗る以上演出されても文句は言わないでしょう?」
剛もレチタティーヴォに近づき引き金を退いていた。頭に命中したのはただの運だが、この言動と組み合わせれば挑発には十分だ。
歪虚の顔に、この戦場で初めて苛つきが浮かんだ。
斬龍刀が雪を割って振り下ろされる。
その速度と手数は圧倒的で、レチタティーヴォは回避も出来ず両手を交差させて受け止めるしかなかった。
刃がめり込む。刃ごと細身の体を吹き飛ばそうとレチタティーヴォが力を込める。
両者が拮抗する。攻めるなら、これが文字通り最後の機会だった。
「くそっ」
旭は攻めなかった。
「シーザー、悪いが付き合ってくれ」
軍馬が獰猛な目つきでレチタティーヴォに迫る。
旭は巨大な斧に全力を込め、破壊ではなく押しのけるための動きで人型の歪虚に当てた。
リリティアとの拮抗が崩れてレチタティーヴォがよろける。
「お楽しみのところわりぃが、今回はこれで終わりだ!」
大斧が旋回する。
デュラハンはもちろんスケルトンにすらほとんど当たらない。だが、辛うじて骸骨1体を潰すことに成功し、仲間を送り出してから己の体を盾として殿を務める。
騎士隊の円陣にたどり着いたときは、旭は愛馬シーザーの背で失血状態になり気絶していた。
●撤退
攻勢が頓挫した人類に代わり、死に損ないの軍勢が攻勢を開始した。
スケルトンが数を活かしてこの方面の人類を包囲。
デュレハンが要所を固めてハンター達の反撃を防ぎ、その隙にスケルトンが包囲を狭める。
レチタティーヴォは前線にいないが破滅はすぐそこまで迫っていた。
何回目か分からない、骨の津波が押し寄せる。
騎士とハンターが円陣を必死に維持。しかし数人の鬼が連携しきれずスケルトンに連れ去られる。
「お願いっ」
円陣の内側で柏木 千春(ka3061)が祈りを捧げる。
薄い茶色の髪が内側から清らかな光を放つ。
祈りが天に通じたのか、契約した光の精霊が頑張ってくれたのか、普段の修業が身を結んだのかは分からない。
汚染への抵抗に成功。光の強さはそのままに範囲が広がっていく。
骨津波を構成するスケルトンが抵抗もできずに薄れて消えて、呆然とした若い鬼達だけがその場に残されていた。
千春が自分の両肩を押さえる。
感じる寒さは戦闘開始時の数倍であり、どれだけ気を張っても極短時間しか汚染から抜け出せない。
光の線が何本も、何もないはずの雪原に突き立つ。
ある場所では奇妙に深い陥没が生じ、別の場所では小柄で白いデュラハンに当たる。
「保護色にも注意を。敵は浸透攻撃を意図しています」
J(ka3142)が光を飛ばしながら警戒を促す。
「吹雪や視界不良も利用してこちらを崩すつもりで」
体力の限界に達した騎士が片膝をついた。
Jが騎士の前に出る。1カ所でも崩れたら円陣内側に雪崩れ込まれて重傷者が死ぬ。
スケルトンが殺到する。
回避の余裕はない。盾で骨の拳を受け、汚染により精度が甘くなってしまった炎で骨達を焼き尽くす。が、骨に紛れていたデュラハンが長剣を両手で突きだした。
盾で受ける。内部の機能が全開で動いているが衝撃を受け流しきれない。
「っ……ダンテ様?」
真横でデュラハン2体を足止めする騎士に決断を促す。
少し前から、スメラギがいるはずの方向から浄化術が届き始めているとはいえ、汚染が進んだハンターが回復するほどの効果は無い。逃げなければ分ももたずに全滅だ。
「間に合ったようだ」
包囲網の外側で大きな動きがあった。
魔導バイクを駆るヴァルナ=エリゴス(ka2651)が骨の壁に急接近。
炎のマテリアルを纏うハルバードで、1体も逃さず壁を消滅させた。
彼女の進撃は止まらない。
向きを変え足止めしようとするスケルトンに、確実に、狙いが甘くなるはずの薙ぎ払いで当てる。
デュラハン数体がヴァルナの退路を絶とうとして、ヴァルナにつけられた騎士によって足止めされる。
ヴァルナがダンテに提案した通りに、ぎりぎりまで後方にいたたった3名が、この場の人類全ての命綱だった。
「借り物の役者に悪趣味な脚本、見事な三流っぷりですね。この辺りで作家『人生』に幕を引いては?」
ヴァルナが目を向けもせず言葉の剣で刺す。
『これは手厳しい』
歪虚は実に楽しげに、矢も届かない位置から地獄の戦いを鑑賞している。
「足りないか。……おい」
2人の鬼が、無言でアカシラの左右を固めた。
ヴァルナの速度が急激に落ちている。歪虚汚染が無いとはいえ、1人で数十のスケルトンを切れば疲れもする。
なぎ払いを使い切るとさらに速度が落ち、騎士と鬼とハンターの円陣から十数メートルの場所で停止した。
「行くぞ」
アカシラが円陣から離れる。付き従うのは、鬼という種にとり貴重な、歪虚汚染耐性を持つに至った高位覚醒者が2人。
新手のデュラハンが左右から接近する。
鎧は薄手。両手に太く鋭い刃を構えた、今の騎士隊では確実に突破され重傷者を殺戮されてしまう相手だ。
アカシラの刃がヴァルナまでの道を切り開く。
2人の鬼が左右に動いてデュラハンを相手取る。守りを捨てて攻撃の速度を上げ、ハンターに教えられたやり方で核を剥き出し、代わりに多数の刃で切り刻まれ事切れた。
デュラハンは背後からアカシラを襲おうとするが、鬼の亡骸に邪魔され身動きできなかった。
「鬼の皆と共闘できるのは、心強いね……」
シェラリンデ(ka3332)の頬に涙が伝う。
思うように動かない足でアクセルを踏んで、左手だけでハンドルを切る。
シェラリンデは絡繰刀を鞘から抜いて、最小限の力を込めて思い切り振り抜いた。
刃にマテリアルを込めた瞬間、澄んだ音が聞こえた。
デュラハンの核と本体が砕けて薄れ、鬼の遺体が重々しい音と共に雪の中に消えた。
「歪虚の流れはこう……だから他の隊は」
もう1体のデュラハンが鬼の体を引きずりつつ接近。
シェラリンデはその片足の一撃入れて動きを鈍らせ、大きく息を吸って叫んだ。
「退路はあっち!」
悔しい。
スケルトンの数が減ってる。
相打ちを覚悟すればレチタティーヴォもデュラハンだってきっと倒せる。
「急いで!」
でもそんな真似はしてはいけない。彼等は鬼とその同胞の生存のため命を使ったのだから。
円陣が突撃用の陣に切り替わる。
咳ひとつ漏らさず、1人の同胞も置き去りにせず、友軍との合流を目指し進み続ける。
レチタティーヴォの制御を離れた死に損ないが追いかけはしたが、人類は決して崩れず移動を続けた。
リプレイ拍手
馬車猪 | 1人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
- 【1.】エンブリヲ脱出
- 【2.】敵司令官襲撃
- 【3.】前線部隊支援
- 【4.】浄化キャンプ防衛