ゲスト
(ka0000)
グランドシナリオ「【闇光】北伐」


作戦3:前線部隊支援 リプレイ
- セリス・アルマーズ
(ka1079) - メル・アイザックス
(ka0520) - 蜜鈴=カメーリア・ルージュ
(ka4009) - 近衛 惣助
(ka0510) - デスドクロ・ザ・ブラックホール
(ka0013) - ハッド
(ka5000) - イーディス・ノースハイド
(ka2106) - 黒の夢
(ka0187) - 天竜寺 詩
(ka0396) - グレイブ
(ka3719) - 時音 ざくろ
(ka1250) - メトロノーム・ソングライト
(ka1267) - 神楽
(ka2032) - ヴィルマ・ネーベル
(ka2549) - メオ・C・ウィスタリア
(ka3988) - チョココ
(ka2449) - ルキハ・ラスティネイル
(ka2633) - イェルバート
(ka1772) - ナハティガル・ハーレイ
(ka0023) - イブリス・アリア
(ka3359) - ジャック・J・グリーヴ
(ka1305)
●分かれ道
「うぅ……寒いなあ。防寒具持ってきて正解だったねえ」
相方のセリス・アルマーズ(ka1079)の襟巻きを直してやっているのは、メル・アイザックス(ka0520)。
ちらほらと雪が舞っている。
大地は切り取られたように、浄化の楔でうがたれていた。その中央におこした祭壇の炎へ辺境の術者たちが歌を捧げている。横風にあおられた炎が、彫像のようなバタルトゥ・オイマト(kz0023)の影を踊らせていた。かねてより彼と親交の深い蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、その均質で密度の高い闘気にくつりと笑った。
「我等の背は任せた。案ずるな、火の粉の欠片すら届かせはせぬ故な」
「……承知した」
毛皮の襟元がわずかに揺れる。どうやらうなずいたようだった。
凍れる雪原へあかあかと炎の照り返しが写っていた。幻想的な光景だった、大気に満ちる、ひりつくような殺気さえなければ。近衛 惣助(ka0510)の吐息が、煙のように風へさらわれていく。
(雪中行軍の上に敵の襲撃、それもどこから来るかわからん。キツい戦いだな)
チョコレートをひとかけ齧ると、彼は手袋の上から指先を揉んだ。引き金を引く感触を失うわけにはいかないのだ。
ひとまず北東へ目を向けると、大地が薄く発光し光の道ができている。ポイントBで増幅されたマテリアルの流れだ。この光を追っていけばヴィルヘルミナ女帝率いるポイントAへ到達する。同様に、光の道はポイントCのある南東へも伸びていた。今頃、巫女リムネラ(kz0018)がこちらへ向かっているはずだ。
(歪虚は総じて正のマテリアルを嫌う。雑魚が現れるとすれば西側か)
ヴォロンテACを手に惣助は祭壇をはさんで西へと動いた。黒尽くめの異様な風体の男が馬上でマントをなびかせているのに出くわす。
「おう、おまえも来たか。味方は一人でも多いほうがいい」
居丈高に声を浴びせるのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。黒い仮面の下で厚い唇がにやりと歪む。
「ま、ここは落とさせるワケにゃいかねーからな。この俺様が出張っとく必要があるだろ。大船に乗ったつもりで、任せといてくれりゃオーケーだ」
かかと大笑し、デスドクロは魔導短伝話を振って見せた。
近くではハッド(ka5000)がオイマト族の若いのを引き連れ、雪をかき集め楔の外側へ防壁を作らせている。
デスドクロと惣助は同時に振り向いた。
「来やがったぜ、十時の方角からスケルトンが六体、八時の方角からデュラハンが二体、二手に分かれてお出ましだ!」
伝話越しの割れた音声が場に響き渡る。同時にセリスが飛び出した。
「歪虚滅ぶべーし! 塵は塵に返りなさい!」
「セリスん要塞がんばって、期待してるよー!」
メルがセリスへ手を伸ばした。鎧のような幻影がメルを包み、前を走るセリスの背に幾何学模様が投射される。模様へエネルギーが充填され『Defense UP OK』の文字と共に瞬いて消えた。
鬨の声を上げながらデュラハン目指して全力疾走するセリス、青ざめた鎧の巨人に相対する。初手をとったのはデュラハンだった、錆びついた間接をきしませながら豪剣を持ち上げ、セリスめがけて振り下ろす。レンガの塔がそれを迎えうつ。渾身の一撃を盾に阻まれ、デュラハンの剣筋が反れた。その隙にセリスはもう一体の攻撃を受け流すため、つま先を踏み変え重心を移動する。二撃目、真横から胴を狙い放たれたそれからも、レンガの塔は主を守ってみせた。セリスが顔をしかめる。二連続けての衝撃は、鎧越しの彼女にも苦痛を与えるに十分だった。
セリスの体から清廉な光がほとばしる。
「スゲェイカス神のご加護はなんでもありです、思い知りなさい!」
ヒールとヒーリングスフィア、二種の癒しを修練してきた彼女は、メルの言うとおりまさに要塞。鎧の巨人を相手にしても引けをとらない。
「全包囲攻撃、セイクリッドフラッシュ! ふふ、ひゅーまのいどふぉーとれすとでも呼んじゃって!」
全身が輝いた。浄化の光によろめくデュラハンども。彼女はサーベルを抜き放ち、デュラハンへ打ってかかった。デュラハンが守りを固め、豪剣を盾代わりに彼女の攻撃を弾く。もう一体がその脇をすり抜け、楔を目指し疾駆する。デスドクロが叫んだ。
「楔の内側に入れるな! 龍脈がむき出しになってんだぞ!」
「はーい、わかってます」
メルが腰にぶら下げた瓢箪型の魔導機のスイッチを入れた。赤い光が表面を走り、ドルンと低い音を立て魔導機は振動を始める。
「いきます、溶融パイルですかさず焼却!」
魔導機からまばゆい灼熱の杭が扇状に発射され、あたりは真昼のように明るくなった。直撃を受けたデュラハンが炎の風に包まれ燃え上がる。歩みを止め、崩れていくデュラハンをながめ、惣助は目を細めた。
「交戦中の敵よりも前進を選んだ。さしあたってやつらの目的はポイントBの破壊にあるようだな。北伐か、厳しい戦いになりそう、だ?」
惣助は目を疑った。メルの炎が尽きた跡からデュラハンが立ち上がったからだ。灰をふるい落とし、鎧が朗々と吼える。
「バカな、確かに燃えて果てたはず。再生か……! 敵の足を止めてくれ、畳み掛ける! この拠点を失えば作戦が瓦解する、守り抜くぞ!」
「ブッハハハ、さっそく俺様の出番か。まあ雑魚は引っ込んで俺様の雄姿をありがたく拝んでろ! 超重ううぅ、練! 成ッ!」
デュラハンとすれ違いざま、デスドクロは高笑いしながら巨大化させたショットアンカーを戦馬から放った。しかしデュラハンはデスドクロごと強引に前へ進もうとする。引っ張られて力んだ戦馬のひずめが大地をひっかく。
「クッ、ハハハ! いいぞお、それくらいでなきゃつまらんからなあ。オラオラ、デュラハンちゃん、あんよはじょーずってかぁ!?」
デスドクロが足止めをしているあいだに、惣助たちは十字砲火を浴びせかけた。
「……凍って、砕けろ!」
惣助が足元を狙い、氷の弾丸を撃ち続ける。弾丸の威力と金属の疲労が重なったのか、デュラハンの脛あてが割れ砕けていく。ついに腹を見せてひっくりかえったデュラハンへハンターの一斉攻撃が降り注いだ。金属の破片がごみくずへ変わり消えていく。
メルが魔導短伝話めがけて声を荒げた。
「十時の方角、どうなってますか!」
ややあって少女の声が聞こえた。応援お願いします、と。
返事を返した雪加(ka4924)は、その場で和弓を引き絞った。凛々と夜空へ浮かぶ満月のごとき円を描き、スケルトンののど骨を狙い済ました一撃を放つ。スコンと頭骨ごと飛ばされたスケルトンが、楔の手前で倒れた。
「感謝する」
前方から声が飛んできた。イーディス・ノースハイド(ka2106)だ。
(下手に攻撃して隙をさらすより、防御に注力したほうが長時間耐えられるさ)
己が身を盾と割り切って前へ出た彼女には自衛能力はあっても交戦能力はない。火力は後方の雪加頼みだ。その目論見は当たっており、不退転の覚悟を持って四体ものスケルトンの注意を引くことに成功していた。
「キミが邪悪を貫いてくれるから、私は安心して自分の務めに専念できるよ」
「ありがとう、ございます」
礼を述べる雪加は気が気ではない。イーディスを支えるマテリアルヒーリングの輝き、あれは何回目だろうか。記憶が確かならば、そろそろスキルの上限が近いはずだ。なすすべもなく骨の山に埋もれていくイーディス……いやな予感が頭をかすめる。
――轟ッ!
まるで暗い未来を断ち切るように、雷撃が視界を焼く。振り返れば深紅のローブをまとった魔術師が煙管をくわえていた。
「ちと下がりやれや、まとめて焼き払うに。通しはせぬ……友との誓いじゃてのう?」
バタルトゥへ視線を流すと、蜜鈴は煙管をくるりと回した。炎の種子が飛んでいく。スケルトンの群れの真上で芽吹き、蕾が開き大輪の華炎へ変わる。
「舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ」
絢爛たる爛熟の炎が亡者を包んだ。燃え尽きかけてなお生者を呪い、足を踏み出す骨の塊。足跡からぼこり、ぼこりと雪原が膨らみ、更なるスケルトンが姿を現す。雪加は新たな矢をつがえた。
「行かせませんよ? わたしだって、力になれる事があるって……!」
曇りのない瞳で雪加は、イーディスへかじりつく骨へ狙いをつける。
「わたしの矢、受けてみますか?」
●龍の子は東へ
十字をかたどった聖剣が金のオーラをまとい、スケルトンの頭骨をかち割った。露払いを終えたハッドは剣を鞘へ収め、スメラギを振り返る。
「スーちゃん寒くない? 準備は万端? バターちゃんのお手製コート、温そうなのなイイナー」
「触るな、めくるな、脱がすな」
「おおー裏地にびっしりお守り刺繍なのな。おこさま扱いなのなー」
「やかまっしゃあ!」
魔導バイクグリンガレットの隣で黒の夢(ka0187)がスメラギを後ろから抱えて頬ずりしていた。そこへ青い量産型が横に並んで止まった。ブレーキを引いた天竜寺 詩(ka0396)へ、黒の夢はスメラギを押し付けた。
「我輩のバイクはひとり乗り用だからスーちゃんの面倒を見てほしいのなー」
「えっ、私のもそうだよ。バイクはだいたいそう」
「んー、じゃあ我輩がスーちゃんを乗っけて運転に専念するのなー。スーちゃん行くのなー」
「……気持ちはありがてェけど、その」
「うなー? スーちゃん顔赤いのなー?」
「せめて後ろに乗せてくれ!」
「クッションにもなるんだから我侭言わないのっ」
「話を進めてもよいかのう?」
ハッドが腕を組んだまま近づいてきた。
「こたびの戦、最低でも暴食王を相手にすることになるじゃろ。歪虚の王ともなれば頭が切れる、我輩らの命綱たる龍脈を切断してくるやもしれん」
「それなら心配いらねェよ。龍脈の操作なら俺様の十八番だ。足さえ用だててくれりゃすぐに繋げてみせらぁ」
「……言うのがおぬしでなければ頼りにするのじゃがな」
「どういう意味だ」
笑いをこらえた詩が口を開いた。
「全部終わったらまたヴィシソワーズを作るよ」
スメラギはうなずいたようだった。
周囲を見張っていたグレイブ(ka3719)が自分のバイクへ乗った。
「追加もこないようだし、この辺りの雑魚は倒しきったな。そろそろ出発してくれ」
「行こうよみんな、希望を届けに! 浄化の力を待つ人たちがいる、だからざくろ達で未来を切り開くために進もう!」
皆のバイクへチェーンを巻いていた時音 ざくろ(ka1250)が剣を掲げ、エンジンを鳴らした。力強い排気音が轟き、煙の中で鉱物マテリアルの粉がきらきらと舞う。
応えてスメラギが左手を大地にかざした。ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、戦馬の上から興味深くそれを見つめる。
(祭司は権力の象徴というが。さて東方帝スメラギ、どれほどの器の持ち主かな……。我がワルワル団総帥サチコさまには及びもせんだろうが、一目見ておきたいものだ)
脳裏に狐耳の銀髪少女を思い浮かべ、ヴォーイは挑発的な笑みを浮かべた。
スメラギの半身へ施された黒龍の刺青が発光し、指先から甘露がしたたる。しずくを受けた大地の底から光る魚が浮かび上がってくる。やがて栓を抜いたように、光る魚の群れがどっと湧き出し皆の足元をせわしなく泳ぎまわった。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は、儚いような青い瞳でまばたきをくりかえした。無数の光る魚が自分の足元で泳いでいる。靴底をとんとんとつつかれる感触に彼女は、ふと気づいた。
(生きている……)
北の大地はまだ息絶えてはいない。歪虚の支配下にあってなお、踏みとどまっている。破壊の力を振るう自分のありように、彼女は違和感を感じていた。魔術師の才が必要とされている状況だと理解はしていた、それでも……。ためらいが彼女を縛っていた、しかし。
(戦おう今は、名も無き精霊たちのために。いつかわたしにも、力を振るう意味が判る。その時はきっと来る……)
流線型のバイクへメトロノームは勢いよくまたがった。どんよりした空気をライトが切り裂く。黒の夢がアクセルを入れた。
「アカシラちゃんとやらにHARAMAKIを届けに、いざー!」
スメラギを中心に隊伍を組み、魔導バイクは東の丘へ向けて走り出した。魚の群れが飛び跳ねながら後を追う。全速力で移動したい一行だったが、積雪に阻まれ思うように速度が出せない。雪原からぞろりと髑髏が立ち上がった。生を呪い亡者が両腕を突き出す。ざくろの瞳で闘志が光った。
「来たっ! みんな頑張ろうね! 雪降らす空の精霊よ、ざくろに力を……デルタレイ!」
高速で進撃しながらざくろが魔法を放つ。呼び出された三つの光弾が複雑な軌道を描き、スケルトンを大地へ返す。その背を追うように別の魔の手が伸びる。
――ガキンッ!
七色にきらめく光刃が、わらわらと伸ばされた骨の腕を一閃した。グレイブによって力任せに叩き切られた腕が宙を舞い雪にまぎれる。だがスケルトンは歩みを止めない。
「チッ、どんどん増えてきやがる。雑魔はおとなしく塵へ帰れ!」
力をため、バイクを斜めに傾け再度刺尖の構え。真紅の鎧姿から火の粉と共に放たれる豪腕が、直撃したスケルトンを粉砕する。勢いで後続のスケルトンが吹き飛ばされ、骨の山が築かれる。だが半端に砕かれたスケルトンが仲間の骨を喰らい見上げるような巨体になった。自重に耐え切れないのか、四つ這いのまま顎をがちがちと鳴らしている。鋭くターンしたざくろが巨体の下へ入り込んだ。
「マテリアルと大地の女神の名においてざくろが命じる、超・重・斬……人機一体!」
転倒すれすれまでバイクを倒し、ざくろは両手剣へ勢いを乗せ、左足を割り砕いた。
「サチコさまの御為に!」
オイマト族の槍をかまえ、ヴォーイも愛馬と息を合わせ突撃する。右足のひざが砕かれ巨体は地響きを立てて転がった。割れた脚部からぼろぼろと骨のかけらがこぼれ新たなスケルトンが生まれる。地面が盛り上がり、無数の手がハンターたちの足を捕らえようとしていた。スメラギが符を取り出す。それを見て取った舞は、前を向いたままやさしく制した。
「スメラギ君には目的地での大事なお仕事があるから、力を温存しておいてほしいな」
おとなしく聞き入れた彼へ舞も意識を集中する。金色の輪と片翼から、守護の印をスメラギへ投げかけた。
「天界地界人界に響く妙なる楽にて護り給えともうす」
後ろを走るメトロノームの背に一対の透きとおった羽が現れる。その身はさらに色素を失い、水晶の精霊なるか。限界まではりつめた弦となって旋律をつむぐ。
「太陽の子よ、顕現せよ。哀しき亡者をかの地へ帰さん」
ファイアーボールが吹き荒れる骨ヶ原を根こそぎ焼き尽くした。屍骸が薪のごとく燃え上がり、辺りをこうこうと照らし出す。地獄の釜のようなそこへ黒の夢のバイクが踏み込む。
「だいじょーぶだいじょーぶ。――汝は我輩達が護るもの」
黒の夢の声が一段低くなる。愛機へ合わせて左右へ体を揺らし、巧みなコーナリングで転倒を誘う魔の手をだしぬいてみせる。半ば埋もれた亡者の悲痛な叫びに、魔女はちらりと視線だけやった。
――生も死も廻るもの、死ねない汝らに安らかな死合わせを。
バイクの一団はブレーキも踏むことなく燃え盛る骨の山を乗り越えた。丘の上にたどりつくと同時に、スメラギは飛び降り浄化の楔を大地へ突き刺した。白い炎が左腕を包む。
「スメラギ、前みたいにあんまり無茶しちゃ駄目だよ?」
這い登ってくるスケルトンを切り飛ばし、ざくろが振り向く。スメラギはかすかに顔をしかめたがそれだけだった。術の反動は微々たる物のようだ。光る魚の群れは穴へもぐるように地の底へ飲みこまれていく。龍脈越しに現地をのぞいているのか、スメラギは虚空を見つめていた。
戦馬で頭骨を踏み潰していたヴォーイが術の完成を感じ取り槍を収めた。雪のために視界はままならないが、枯れた龍脈へ流し込んだマテリアルはレチタティーヴォと戦うハンターの元へ届いているはずだ。
「ひとまず安心か」
呟いた彼はふと気づいた。スメラギが冷や汗をたらしている。
「やべえ、今からじゃ援軍もまにあわねぇ……」
●遅れてきた彼女
「ったく、しぶといっすね! めっためたに潰さなきゃなんねえっすか、めんどくせえっす……よっと!」
雪がちらつく中、神楽(ka2032)は愚痴交じりに馬上からスケルトンを乱打していた。速度計をチラ見しヴィルマ・ネーベル(ka2549)が首をかしげた。彼らは淡く光る道を通ってポイントAへ向かっていた。
「ルート上なら戦闘を避けられると考えたのじゃが、甘く見ておったかのぅ?」
「骨があるんだよ、骨だけに。ね、たかし丸」
「雷を落としてよいところかえ?」
「はうっ、わたくしも一緒に打たれてしまうですわ! ご勘弁ですの?!」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)の青毛馬に同乗したチョココ(ka2449)がわたわたと手を振る。その手がぴたりと止まり、歓迎を表すように大きく振られた。
「ぱ?るぱるぱる、ぱ?るぱる?♪ リムネラお姉さまいらっしゃいませ、お迎えにきましたの♪」
Aからの部隊が手を振り返していた。辺境に咲く一輪の巫女が神楽の背に収まる。
「ひとまずBへ急行っす」
「ハイ、よろしくお願いシマス」
「じゃ、皆さんあとよろしくっす。雪も降ってるし転倒怖いんで俺は移動に徹するっす。べつに俺ばっか楽がしたいわけじゃねっす、マジっす!」
神楽が馬の腹を蹴った。方向転換をしたリムネラ護衛部隊は一路西へ。スケルトンの群れが体を起こし、行く手を遮る。敗れた肋骨や欠けた頭骨を揺らし、スケルトンがにじり寄ってくる。神楽は舌打ちした。
「あ゛ーうっとおしい! ひき逃げしてえっす!」
「危ないですの! 転んだらリムネラお姉さまとお馬さんがかわいそうですの!」
「ほほ、出番かのう」
魔導二輪龍雲が低い唸りを上げている。ヴィルマはヤドリギの杖をかざし詠唱を始めた。いたずらめいた笑みが消え、決意を秘めた固い表情になる。
「その性は熱、その質は湿、羽を持つ者らは東より雷の扉を開け、ライトニングボルト!」
目もくらむ雷光が放出された。スケルトンの群れが衝撃でばらばらになり吹き飛んでいく。しかし直撃を避けた骨が静電気をまとわりつかせたまま前進を続ける。上半身だけの髑髏が、馬の足へ手を伸ばす。
「リムネラさん、俺につかまってるっす!」
「ハイ!」
リムネラが小さく縮こまるのを感じながら、神楽は戦馬をジャンプさせた。コースを脳裏で描きつつ前方を確認、危なげなく着地する。道の左右で骸が立ち上がるのが見えた。併走するメオがスコール族の両手斧を手に取った。
「ほれほれー、リムネラちゃんのお通りだよー。どいたどいたー」
木の棒でも振り回すような気軽さで、戦斧を持ち上げる。スケルトンへ突進する彼女の斧に炎が宿る。どこか眠たげだった瞳が赤の騎兵へ変わり、緋色の鷹が追従する。
「さーて行くよー。ホットドッグー」
騎突「C・C」、時に鈍重と称されるゴースロンの重厚な体躯、その体重を存分に乗せた一撃がスケルトンを叩き割った。両断されたスケルトンが崩れていく。穢れた大地から新手が顔を出した。ぼろぼろになった辺境風の髪飾りをつけた髑髏だ。今まで相手にしてきたスケルトンより一回りも二回りも大きい。両手に帯びた手斧が冷えた輝きを反射している。その足元からは、手下がぞろぞろと姿を現し、メオは珍しく顔を引きつらせた。
「げ、何これ。やべぇやつじゃんか」
ハンターたちがポイントBを前にして立ち往生しかけた時、新たなエンジン音が響いた。
「ハァーイ♪ 難儀してるみたいじゃないの、挟み撃ちいっとくぅ?」
ルキハ・ラスティネイル(ka2633)がマジックアローを飛ばしながらウインクした。
イェルバート(ka1772)がフードをずりあげて手を伸ばした。防性強化の印がリムネラへと届く。
「うう、この寒さ……四の五の言ってる場合じゃないよね。リムネラさんを早く楔の内側へ!」
連絡を受けた遊撃手が到着したのだった。増援に飛び上がったチョココは彼らを巻き込まないよう、急いでファイアーボールを唱えた。
「その性は熱、その質はえーと、えーと、とにかくドカーンですわ!」
火柱が立った。チョココが開けた穴を一行が強行突破する。骨の戦士が片手の斧を投げつけた。間一髪で神楽の戦馬はそれを避ける。重い音を立て大地へ深く突き刺さった斧の周りに、仲間の轍が残る。初手をかわされた戦士は、骨とは思えない俊敏さで走り出した。ずしんずしんと大地を揺らして迫る戦士、斧の切っ先がイェルバートを襲う。
「アースウォール!」
ルキハの伸びやかな声が広がった。禍々しい刃は、突然現れた土壁へざっくりと食いこんだ。イェルバートはバイクをターンさせながら、トランシーバーを取り出す。
「ルートA上、強力な個体を確認。援護をお願いします」
仲間の返事を聞き、イェルバートはトランシーバーをベルトへ戻した。徐々に後退しながら彼はマフラーを巻きなおす。
「北伐、かあ……氷の世界の向こうに何があるのか、この目で確かめたいと思っていたけれど、ちょっと北風が強すぎるよ」
「あらぁ、イイ男が其処にいるなら護り甲斐もあるってものじゃなぁい♪」
振り返ったルキハが遠目に見えるバタルトゥに投げキッスをした。
「ウフフ、困ってる困ってる。かーわいい、えーいもう一回♪」
追い討ちをかけて満足すると、ルキハは別人のように鋭い視線で骨の群れを見やった。指を鳴らし、炎の塊を呼ぶ。
「援護が来るまで踏みとどまるわよ、イェル君」
「……そうだね」
イェルバートも静かにうなずく。重ねた手のひらからデルタレイの閃光が漏れていた。
●白き巫女は北へ
その頃、楔の内側は大変なことになっていた。
リムネラが両手で大地を清めると、龍脈からまるっこいねずみが泉みたいに大量に湧き出てきた。チューダを一回り小さくしたような白いねずみが、鳴きながら走り回るものだから騒がしいことこの上ない。
「ご、ゴメンナサイ皆サン、私、龍脈の直接操作はコレがハジメテで……。シ、集中しないと、途切れてしまうカモしれマセン」
「それで後方に居たんすか。大丈夫っす、リムネラさんは俺たちが守るっす。道中は操作がんばってほしいっす」
おろおろしているリムネラへ言葉をかけると神楽は行きに続けて彼女を馬に乗せた。神楽の言葉に深くうなずくとリムネラはまぶたを強く閉じて彼の背へすがりついた。一行はエンジンを温め、北東へ続く道へ視線を走らせる。ほんのりと輝くそれはエンブリヲへと至る道だ。
神楽がいつもよりゆっくりと馬を走らせた。リムネラの集中が途切れないよう、細心の注意を払う。光るねずみの集団がぞろぞろと付き従い、大地へ光の帯を描いた。スケルトンを振り払いながら行進を続けると、雪景色の中に異様な物体が現れた。濃い瘴気が立ち込める中、天を突くほど巨大で、どこか歪んだ、眺めているうちに目がくらみそうな形の物体だった。奇妙なことに表面へは、雛につつかれたごとく亀裂が入っている。
地図の終点へたどりついたナハティガル・ハーレイ(ka0023)は、それを畳んでしまいこむと使い慣れた槍で肩をたたいた。
「まさに『血城』ってヤツだな。イイ趣味してやがるぜ。リムネラ、アンタをどこへ連れて行けばいいんだ?」
「亀裂の深いトコロデス。内側の味方とチカラを合わせて結界を壊しマス」
「ふむ……」
ナハティガルは結界を見渡し、亀裂が定期的に明滅していることに気づいた。
(閉じ込められたやつらが結界を割ろうとしているのか……。そのあがき、無駄にはさせんぜ)
槍の穂先でスケルトンを排しつつ、光の強いところを探しバイクを走らせる。ほどなくして太い亀裂が見つかった。ナハティガルは仲間へ合図を送ると速やかにハンドルを切った。鼓動のように明滅を続ける亀裂を背にする。
「アンタが術式展開中は俺達が何としても護り抜いてやる。――後は頼んだぜ? リムネラさんよ」
守りを捨てたナハティガルは仲間とリムネラへすべてを預けギアを入れた。両の瞳が金銀妖眼へときらめきを変え、首から胸元へ続く茨の刺青、あるいは『刻まれた』のか、が古傷が開いたように赤く赤く染まる。倒しても倒しても起き上がる亡者の群れへ、ナハティガルが突撃する。ナグルファルの鋭いボディラインが風と化す。
――ぞん。
力をこめた一撃で凪ぎ払われた骨が宙へ飛び散り、かけらが頬をかすめる。かすかな痛みすら心地よく、彼はひそかに微笑んだ。
ナハティガルとは反対方向から迫るスケルトンへ、イブリス・アリア(ka3359)が闘志をくすぐられた。
「いいねぇ。ちょっと暴れさせろ。リムネラの嬢ちゃん、いざとなったら俺の馬で逃げちまいな」
馬を下りた疾影士は静かに瞬脚の構えをとった。ぞろりぞろりと夢遊病のように近寄ってくる骨の群れ。試作雷撃刀へ静電気が走る。そのかすかな音が鼓膜へ届いた瞬間、イブリスは一気に踏み込んだ。最前面のスケルトンの首が落ち、返す刀で隣の胴が割れる。ぜんまい仕掛けの人形めいて動きを止めないスケルトンへ、イブリスは至近距離から蹴りを入れた。砕けたスケルトンを、刃の猛追が微塵切りにしていく。
「鋭すぎる傷跡は意に介さないってところか? まったく、たいしたことないくせに手間だけはかかる奴らだな」
亡者の動きを見切ることなど彼には造作もない。最小限のステップでつかみかかる骸をいなし、すれ違いざまに叩き切る。落とされ、暴れる骨を踏み砕く頃には次の獲物へ。
リムネラを守り、戦いを続ける一団。底冷えのする冷気と濃い瘴気が彼らの動きをじわじわと鈍らせていく。リムネラが謡をささげる傍ら、亀裂へ光るねずみが次々と飛び込み、金色の花火になって弾けた。地を覆うかのように思えたねずみたちも残り少なくなってきた頃、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)がリムネラを振り向いた。エンブリヲを覆う亀裂はさらに増え、脈動が激しくなっている。
「リムネラ、あとどのくらいだ!」
「あと、あと一歩デス。ソレが向こうからの妨害が激しくて……!」
きっかけが、きっかけさえあれば……! リムネラが悔しげに歯噛みをする。
「……俺にできることはあるか」
一瞬きょとんとしたリムネラは、意図に気づいて激しく首を振った。
「イケマセンジャックサン! 龍脈制御は修練を積んだ巫女デモ危険なのデス!」
「俺様が捨て駒になってやる。他の奴らと違って俺様は世界最強の貴族様だかんな、そんくらい余裕だぜ!」
守りの構えを解き、ジャックはコインシューターの銃口を亀裂へ向けた。全身へみなぎる闘志に、リムネラは彼の決意を知った。
「ワカリマシタ。最後の精霊が飛び込んだら、撃ってクダサイ」
リムネラがジャックへ寄り添い、片手をグリップへ重ねた。ジャックの銃がほんのりと輝きだす。リムネラが古い言葉で何事か指示すると、ねずみたちが猛スピードで亀裂へ飛び込んでいった。精霊がマテリアルへ還る瞬きが辺りを彩って、場違いなほど美しかった。終わりの花火があがったとき、ジャックは引き金を引いた。
光の柱が天地をつなぎ消えていくのを、きれいだなあなんて思いながら須磨井 礼二(ka4575)は眺めていた。そして止めていた手を動かし、鍋をかき混ぜた。衝撃の余波がさらりとした風になってポイントBへ吹きつけ、彼の髪を揺らした。
パンをあぶってホットサンドを作り、容器へ具沢山のシチューを注ぐ。鍋を空にするのは本日二度目だ。食材は乏しいが量はまだまだある。盆の上に皿を並べ、舌の焼けそうなコーヒーを添えて傷を負った仲間のもとへ運ぶと歓声が上がった。むさぼるように食べるオイマト族の勇士たちへマテリアルを注ぎ、運動能力を強化する。バタルトゥへも食事を届けると、彼は礼を言って受け取りながらもポイントAをじっと見つめている。
「……リムネラが……気絶している頃かと……思ってな……」
「みんな無事に帰ってくるよ。勘だけど」
よく当たるって言われるんだよねと、礼二は微笑んだ。
「にっこり出迎え、にっこり送り出す。俺がやれるのはそれだけさ」
「うぅ……寒いなあ。防寒具持ってきて正解だったねえ」
相方のセリス・アルマーズ(ka1079)の襟巻きを直してやっているのは、メル・アイザックス(ka0520)。
ちらほらと雪が舞っている。
大地は切り取られたように、浄化の楔でうがたれていた。その中央におこした祭壇の炎へ辺境の術者たちが歌を捧げている。横風にあおられた炎が、彫像のようなバタルトゥ・オイマト(kz0023)の影を踊らせていた。かねてより彼と親交の深い蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、その均質で密度の高い闘気にくつりと笑った。
「我等の背は任せた。案ずるな、火の粉の欠片すら届かせはせぬ故な」
「……承知した」
毛皮の襟元がわずかに揺れる。どうやらうなずいたようだった。
凍れる雪原へあかあかと炎の照り返しが写っていた。幻想的な光景だった、大気に満ちる、ひりつくような殺気さえなければ。近衛 惣助(ka0510)の吐息が、煙のように風へさらわれていく。
(雪中行軍の上に敵の襲撃、それもどこから来るかわからん。キツい戦いだな)
チョコレートをひとかけ齧ると、彼は手袋の上から指先を揉んだ。引き金を引く感触を失うわけにはいかないのだ。
ひとまず北東へ目を向けると、大地が薄く発光し光の道ができている。ポイントBで増幅されたマテリアルの流れだ。この光を追っていけばヴィルヘルミナ女帝率いるポイントAへ到達する。同様に、光の道はポイントCのある南東へも伸びていた。今頃、巫女リムネラ(kz0018)がこちらへ向かっているはずだ。
(歪虚は総じて正のマテリアルを嫌う。雑魚が現れるとすれば西側か)
ヴォロンテACを手に惣助は祭壇をはさんで西へと動いた。黒尽くめの異様な風体の男が馬上でマントをなびかせているのに出くわす。
「おう、おまえも来たか。味方は一人でも多いほうがいい」
居丈高に声を浴びせるのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。黒い仮面の下で厚い唇がにやりと歪む。
「ま、ここは落とさせるワケにゃいかねーからな。この俺様が出張っとく必要があるだろ。大船に乗ったつもりで、任せといてくれりゃオーケーだ」
かかと大笑し、デスドクロは魔導短伝話を振って見せた。
近くではハッド(ka5000)がオイマト族の若いのを引き連れ、雪をかき集め楔の外側へ防壁を作らせている。
デスドクロと惣助は同時に振り向いた。
「来やがったぜ、十時の方角からスケルトンが六体、八時の方角からデュラハンが二体、二手に分かれてお出ましだ!」
伝話越しの割れた音声が場に響き渡る。同時にセリスが飛び出した。
「歪虚滅ぶべーし! 塵は塵に返りなさい!」
「セリスん要塞がんばって、期待してるよー!」
メルがセリスへ手を伸ばした。鎧のような幻影がメルを包み、前を走るセリスの背に幾何学模様が投射される。模様へエネルギーが充填され『Defense UP OK』の文字と共に瞬いて消えた。
鬨の声を上げながらデュラハン目指して全力疾走するセリス、青ざめた鎧の巨人に相対する。初手をとったのはデュラハンだった、錆びついた間接をきしませながら豪剣を持ち上げ、セリスめがけて振り下ろす。レンガの塔がそれを迎えうつ。渾身の一撃を盾に阻まれ、デュラハンの剣筋が反れた。その隙にセリスはもう一体の攻撃を受け流すため、つま先を踏み変え重心を移動する。二撃目、真横から胴を狙い放たれたそれからも、レンガの塔は主を守ってみせた。セリスが顔をしかめる。二連続けての衝撃は、鎧越しの彼女にも苦痛を与えるに十分だった。
セリスの体から清廉な光がほとばしる。
「スゲェイカス神のご加護はなんでもありです、思い知りなさい!」
ヒールとヒーリングスフィア、二種の癒しを修練してきた彼女は、メルの言うとおりまさに要塞。鎧の巨人を相手にしても引けをとらない。
「全包囲攻撃、セイクリッドフラッシュ! ふふ、ひゅーまのいどふぉーとれすとでも呼んじゃって!」
全身が輝いた。浄化の光によろめくデュラハンども。彼女はサーベルを抜き放ち、デュラハンへ打ってかかった。デュラハンが守りを固め、豪剣を盾代わりに彼女の攻撃を弾く。もう一体がその脇をすり抜け、楔を目指し疾駆する。デスドクロが叫んだ。
「楔の内側に入れるな! 龍脈がむき出しになってんだぞ!」
「はーい、わかってます」
メルが腰にぶら下げた瓢箪型の魔導機のスイッチを入れた。赤い光が表面を走り、ドルンと低い音を立て魔導機は振動を始める。
「いきます、溶融パイルですかさず焼却!」
魔導機からまばゆい灼熱の杭が扇状に発射され、あたりは真昼のように明るくなった。直撃を受けたデュラハンが炎の風に包まれ燃え上がる。歩みを止め、崩れていくデュラハンをながめ、惣助は目を細めた。
「交戦中の敵よりも前進を選んだ。さしあたってやつらの目的はポイントBの破壊にあるようだな。北伐か、厳しい戦いになりそう、だ?」
惣助は目を疑った。メルの炎が尽きた跡からデュラハンが立ち上がったからだ。灰をふるい落とし、鎧が朗々と吼える。
「バカな、確かに燃えて果てたはず。再生か……! 敵の足を止めてくれ、畳み掛ける! この拠点を失えば作戦が瓦解する、守り抜くぞ!」
「ブッハハハ、さっそく俺様の出番か。まあ雑魚は引っ込んで俺様の雄姿をありがたく拝んでろ! 超重ううぅ、練! 成ッ!」
デュラハンとすれ違いざま、デスドクロは高笑いしながら巨大化させたショットアンカーを戦馬から放った。しかしデュラハンはデスドクロごと強引に前へ進もうとする。引っ張られて力んだ戦馬のひずめが大地をひっかく。
「クッ、ハハハ! いいぞお、それくらいでなきゃつまらんからなあ。オラオラ、デュラハンちゃん、あんよはじょーずってかぁ!?」
デスドクロが足止めをしているあいだに、惣助たちは十字砲火を浴びせかけた。
「……凍って、砕けろ!」
惣助が足元を狙い、氷の弾丸を撃ち続ける。弾丸の威力と金属の疲労が重なったのか、デュラハンの脛あてが割れ砕けていく。ついに腹を見せてひっくりかえったデュラハンへハンターの一斉攻撃が降り注いだ。金属の破片がごみくずへ変わり消えていく。
メルが魔導短伝話めがけて声を荒げた。
「十時の方角、どうなってますか!」
ややあって少女の声が聞こえた。応援お願いします、と。
返事を返した雪加(ka4924)は、その場で和弓を引き絞った。凛々と夜空へ浮かぶ満月のごとき円を描き、スケルトンののど骨を狙い済ました一撃を放つ。スコンと頭骨ごと飛ばされたスケルトンが、楔の手前で倒れた。
「感謝する」
前方から声が飛んできた。イーディス・ノースハイド(ka2106)だ。
(下手に攻撃して隙をさらすより、防御に注力したほうが長時間耐えられるさ)
己が身を盾と割り切って前へ出た彼女には自衛能力はあっても交戦能力はない。火力は後方の雪加頼みだ。その目論見は当たっており、不退転の覚悟を持って四体ものスケルトンの注意を引くことに成功していた。
「キミが邪悪を貫いてくれるから、私は安心して自分の務めに専念できるよ」
「ありがとう、ございます」
礼を述べる雪加は気が気ではない。イーディスを支えるマテリアルヒーリングの輝き、あれは何回目だろうか。記憶が確かならば、そろそろスキルの上限が近いはずだ。なすすべもなく骨の山に埋もれていくイーディス……いやな予感が頭をかすめる。
――轟ッ!
まるで暗い未来を断ち切るように、雷撃が視界を焼く。振り返れば深紅のローブをまとった魔術師が煙管をくわえていた。
「ちと下がりやれや、まとめて焼き払うに。通しはせぬ……友との誓いじゃてのう?」
バタルトゥへ視線を流すと、蜜鈴は煙管をくるりと回した。炎の種子が飛んでいく。スケルトンの群れの真上で芽吹き、蕾が開き大輪の華炎へ変わる。
「舞うは炎舞、散るは徒花、さぁ、華麗に舞い散れ」
絢爛たる爛熟の炎が亡者を包んだ。燃え尽きかけてなお生者を呪い、足を踏み出す骨の塊。足跡からぼこり、ぼこりと雪原が膨らみ、更なるスケルトンが姿を現す。雪加は新たな矢をつがえた。
「行かせませんよ? わたしだって、力になれる事があるって……!」
曇りのない瞳で雪加は、イーディスへかじりつく骨へ狙いをつける。
「わたしの矢、受けてみますか?」
●龍の子は東へ
十字をかたどった聖剣が金のオーラをまとい、スケルトンの頭骨をかち割った。露払いを終えたハッドは剣を鞘へ収め、スメラギを振り返る。
「スーちゃん寒くない? 準備は万端? バターちゃんのお手製コート、温そうなのなイイナー」
「触るな、めくるな、脱がすな」
「おおー裏地にびっしりお守り刺繍なのな。おこさま扱いなのなー」
「やかまっしゃあ!」
魔導バイクグリンガレットの隣で黒の夢(ka0187)がスメラギを後ろから抱えて頬ずりしていた。そこへ青い量産型が横に並んで止まった。ブレーキを引いた天竜寺 詩(ka0396)へ、黒の夢はスメラギを押し付けた。
「我輩のバイクはひとり乗り用だからスーちゃんの面倒を見てほしいのなー」
「えっ、私のもそうだよ。バイクはだいたいそう」
「んー、じゃあ我輩がスーちゃんを乗っけて運転に専念するのなー。スーちゃん行くのなー」
「……気持ちはありがてェけど、その」
「うなー? スーちゃん顔赤いのなー?」
「せめて後ろに乗せてくれ!」
「クッションにもなるんだから我侭言わないのっ」
「話を進めてもよいかのう?」
ハッドが腕を組んだまま近づいてきた。
「こたびの戦、最低でも暴食王を相手にすることになるじゃろ。歪虚の王ともなれば頭が切れる、我輩らの命綱たる龍脈を切断してくるやもしれん」
「それなら心配いらねェよ。龍脈の操作なら俺様の十八番だ。足さえ用だててくれりゃすぐに繋げてみせらぁ」
「……言うのがおぬしでなければ頼りにするのじゃがな」
「どういう意味だ」
笑いをこらえた詩が口を開いた。
「全部終わったらまたヴィシソワーズを作るよ」
スメラギはうなずいたようだった。
周囲を見張っていたグレイブ(ka3719)が自分のバイクへ乗った。
「追加もこないようだし、この辺りの雑魚は倒しきったな。そろそろ出発してくれ」
「行こうよみんな、希望を届けに! 浄化の力を待つ人たちがいる、だからざくろ達で未来を切り開くために進もう!」
皆のバイクへチェーンを巻いていた時音 ざくろ(ka1250)が剣を掲げ、エンジンを鳴らした。力強い排気音が轟き、煙の中で鉱物マテリアルの粉がきらきらと舞う。
応えてスメラギが左手を大地にかざした。ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は、戦馬の上から興味深くそれを見つめる。
(祭司は権力の象徴というが。さて東方帝スメラギ、どれほどの器の持ち主かな……。我がワルワル団総帥サチコさまには及びもせんだろうが、一目見ておきたいものだ)
脳裏に狐耳の銀髪少女を思い浮かべ、ヴォーイは挑発的な笑みを浮かべた。
スメラギの半身へ施された黒龍の刺青が発光し、指先から甘露がしたたる。しずくを受けた大地の底から光る魚が浮かび上がってくる。やがて栓を抜いたように、光る魚の群れがどっと湧き出し皆の足元をせわしなく泳ぎまわった。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は、儚いような青い瞳でまばたきをくりかえした。無数の光る魚が自分の足元で泳いでいる。靴底をとんとんとつつかれる感触に彼女は、ふと気づいた。
(生きている……)
北の大地はまだ息絶えてはいない。歪虚の支配下にあってなお、踏みとどまっている。破壊の力を振るう自分のありように、彼女は違和感を感じていた。魔術師の才が必要とされている状況だと理解はしていた、それでも……。ためらいが彼女を縛っていた、しかし。
(戦おう今は、名も無き精霊たちのために。いつかわたしにも、力を振るう意味が判る。その時はきっと来る……)
流線型のバイクへメトロノームは勢いよくまたがった。どんよりした空気をライトが切り裂く。黒の夢がアクセルを入れた。
「アカシラちゃんとやらにHARAMAKIを届けに、いざー!」
スメラギを中心に隊伍を組み、魔導バイクは東の丘へ向けて走り出した。魚の群れが飛び跳ねながら後を追う。全速力で移動したい一行だったが、積雪に阻まれ思うように速度が出せない。雪原からぞろりと髑髏が立ち上がった。生を呪い亡者が両腕を突き出す。ざくろの瞳で闘志が光った。
「来たっ! みんな頑張ろうね! 雪降らす空の精霊よ、ざくろに力を……デルタレイ!」
高速で進撃しながらざくろが魔法を放つ。呼び出された三つの光弾が複雑な軌道を描き、スケルトンを大地へ返す。その背を追うように別の魔の手が伸びる。
――ガキンッ!
七色にきらめく光刃が、わらわらと伸ばされた骨の腕を一閃した。グレイブによって力任せに叩き切られた腕が宙を舞い雪にまぎれる。だがスケルトンは歩みを止めない。
「チッ、どんどん増えてきやがる。雑魔はおとなしく塵へ帰れ!」
力をため、バイクを斜めに傾け再度刺尖の構え。真紅の鎧姿から火の粉と共に放たれる豪腕が、直撃したスケルトンを粉砕する。勢いで後続のスケルトンが吹き飛ばされ、骨の山が築かれる。だが半端に砕かれたスケルトンが仲間の骨を喰らい見上げるような巨体になった。自重に耐え切れないのか、四つ這いのまま顎をがちがちと鳴らしている。鋭くターンしたざくろが巨体の下へ入り込んだ。
「マテリアルと大地の女神の名においてざくろが命じる、超・重・斬……人機一体!」
転倒すれすれまでバイクを倒し、ざくろは両手剣へ勢いを乗せ、左足を割り砕いた。
「サチコさまの御為に!」
オイマト族の槍をかまえ、ヴォーイも愛馬と息を合わせ突撃する。右足のひざが砕かれ巨体は地響きを立てて転がった。割れた脚部からぼろぼろと骨のかけらがこぼれ新たなスケルトンが生まれる。地面が盛り上がり、無数の手がハンターたちの足を捕らえようとしていた。スメラギが符を取り出す。それを見て取った舞は、前を向いたままやさしく制した。
「スメラギ君には目的地での大事なお仕事があるから、力を温存しておいてほしいな」
おとなしく聞き入れた彼へ舞も意識を集中する。金色の輪と片翼から、守護の印をスメラギへ投げかけた。
「天界地界人界に響く妙なる楽にて護り給えともうす」
後ろを走るメトロノームの背に一対の透きとおった羽が現れる。その身はさらに色素を失い、水晶の精霊なるか。限界まではりつめた弦となって旋律をつむぐ。
「太陽の子よ、顕現せよ。哀しき亡者をかの地へ帰さん」
ファイアーボールが吹き荒れる骨ヶ原を根こそぎ焼き尽くした。屍骸が薪のごとく燃え上がり、辺りをこうこうと照らし出す。地獄の釜のようなそこへ黒の夢のバイクが踏み込む。
「だいじょーぶだいじょーぶ。――汝は我輩達が護るもの」
黒の夢の声が一段低くなる。愛機へ合わせて左右へ体を揺らし、巧みなコーナリングで転倒を誘う魔の手をだしぬいてみせる。半ば埋もれた亡者の悲痛な叫びに、魔女はちらりと視線だけやった。
――生も死も廻るもの、死ねない汝らに安らかな死合わせを。
バイクの一団はブレーキも踏むことなく燃え盛る骨の山を乗り越えた。丘の上にたどりつくと同時に、スメラギは飛び降り浄化の楔を大地へ突き刺した。白い炎が左腕を包む。
「スメラギ、前みたいにあんまり無茶しちゃ駄目だよ?」
這い登ってくるスケルトンを切り飛ばし、ざくろが振り向く。スメラギはかすかに顔をしかめたがそれだけだった。術の反動は微々たる物のようだ。光る魚の群れは穴へもぐるように地の底へ飲みこまれていく。龍脈越しに現地をのぞいているのか、スメラギは虚空を見つめていた。
戦馬で頭骨を踏み潰していたヴォーイが術の完成を感じ取り槍を収めた。雪のために視界はままならないが、枯れた龍脈へ流し込んだマテリアルはレチタティーヴォと戦うハンターの元へ届いているはずだ。
「ひとまず安心か」
呟いた彼はふと気づいた。スメラギが冷や汗をたらしている。
「やべえ、今からじゃ援軍もまにあわねぇ……」
●遅れてきた彼女
「ったく、しぶといっすね! めっためたに潰さなきゃなんねえっすか、めんどくせえっす……よっと!」
雪がちらつく中、神楽(ka2032)は愚痴交じりに馬上からスケルトンを乱打していた。速度計をチラ見しヴィルマ・ネーベル(ka2549)が首をかしげた。彼らは淡く光る道を通ってポイントAへ向かっていた。
「ルート上なら戦闘を避けられると考えたのじゃが、甘く見ておったかのぅ?」
「骨があるんだよ、骨だけに。ね、たかし丸」
「雷を落としてよいところかえ?」
「はうっ、わたくしも一緒に打たれてしまうですわ! ご勘弁ですの?!」
メオ・C・ウィスタリア(ka3988)の青毛馬に同乗したチョココ(ka2449)がわたわたと手を振る。その手がぴたりと止まり、歓迎を表すように大きく振られた。
「ぱ?るぱるぱる、ぱ?るぱる?♪ リムネラお姉さまいらっしゃいませ、お迎えにきましたの♪」
Aからの部隊が手を振り返していた。辺境に咲く一輪の巫女が神楽の背に収まる。
「ひとまずBへ急行っす」
「ハイ、よろしくお願いシマス」
「じゃ、皆さんあとよろしくっす。雪も降ってるし転倒怖いんで俺は移動に徹するっす。べつに俺ばっか楽がしたいわけじゃねっす、マジっす!」
神楽が馬の腹を蹴った。方向転換をしたリムネラ護衛部隊は一路西へ。スケルトンの群れが体を起こし、行く手を遮る。敗れた肋骨や欠けた頭骨を揺らし、スケルトンがにじり寄ってくる。神楽は舌打ちした。
「あ゛ーうっとおしい! ひき逃げしてえっす!」
「危ないですの! 転んだらリムネラお姉さまとお馬さんがかわいそうですの!」
「ほほ、出番かのう」
魔導二輪龍雲が低い唸りを上げている。ヴィルマはヤドリギの杖をかざし詠唱を始めた。いたずらめいた笑みが消え、決意を秘めた固い表情になる。
「その性は熱、その質は湿、羽を持つ者らは東より雷の扉を開け、ライトニングボルト!」
目もくらむ雷光が放出された。スケルトンの群れが衝撃でばらばらになり吹き飛んでいく。しかし直撃を避けた骨が静電気をまとわりつかせたまま前進を続ける。上半身だけの髑髏が、馬の足へ手を伸ばす。
「リムネラさん、俺につかまってるっす!」
「ハイ!」
リムネラが小さく縮こまるのを感じながら、神楽は戦馬をジャンプさせた。コースを脳裏で描きつつ前方を確認、危なげなく着地する。道の左右で骸が立ち上がるのが見えた。併走するメオがスコール族の両手斧を手に取った。
「ほれほれー、リムネラちゃんのお通りだよー。どいたどいたー」
木の棒でも振り回すような気軽さで、戦斧を持ち上げる。スケルトンへ突進する彼女の斧に炎が宿る。どこか眠たげだった瞳が赤の騎兵へ変わり、緋色の鷹が追従する。
「さーて行くよー。ホットドッグー」
騎突「C・C」、時に鈍重と称されるゴースロンの重厚な体躯、その体重を存分に乗せた一撃がスケルトンを叩き割った。両断されたスケルトンが崩れていく。穢れた大地から新手が顔を出した。ぼろぼろになった辺境風の髪飾りをつけた髑髏だ。今まで相手にしてきたスケルトンより一回りも二回りも大きい。両手に帯びた手斧が冷えた輝きを反射している。その足元からは、手下がぞろぞろと姿を現し、メオは珍しく顔を引きつらせた。
「げ、何これ。やべぇやつじゃんか」
ハンターたちがポイントBを前にして立ち往生しかけた時、新たなエンジン音が響いた。
「ハァーイ♪ 難儀してるみたいじゃないの、挟み撃ちいっとくぅ?」
ルキハ・ラスティネイル(ka2633)がマジックアローを飛ばしながらウインクした。
イェルバート(ka1772)がフードをずりあげて手を伸ばした。防性強化の印がリムネラへと届く。
「うう、この寒さ……四の五の言ってる場合じゃないよね。リムネラさんを早く楔の内側へ!」
連絡を受けた遊撃手が到着したのだった。増援に飛び上がったチョココは彼らを巻き込まないよう、急いでファイアーボールを唱えた。
「その性は熱、その質はえーと、えーと、とにかくドカーンですわ!」
火柱が立った。チョココが開けた穴を一行が強行突破する。骨の戦士が片手の斧を投げつけた。間一髪で神楽の戦馬はそれを避ける。重い音を立て大地へ深く突き刺さった斧の周りに、仲間の轍が残る。初手をかわされた戦士は、骨とは思えない俊敏さで走り出した。ずしんずしんと大地を揺らして迫る戦士、斧の切っ先がイェルバートを襲う。
「アースウォール!」
ルキハの伸びやかな声が広がった。禍々しい刃は、突然現れた土壁へざっくりと食いこんだ。イェルバートはバイクをターンさせながら、トランシーバーを取り出す。
「ルートA上、強力な個体を確認。援護をお願いします」
仲間の返事を聞き、イェルバートはトランシーバーをベルトへ戻した。徐々に後退しながら彼はマフラーを巻きなおす。
「北伐、かあ……氷の世界の向こうに何があるのか、この目で確かめたいと思っていたけれど、ちょっと北風が強すぎるよ」
「あらぁ、イイ男が其処にいるなら護り甲斐もあるってものじゃなぁい♪」
振り返ったルキハが遠目に見えるバタルトゥに投げキッスをした。
「ウフフ、困ってる困ってる。かーわいい、えーいもう一回♪」
追い討ちをかけて満足すると、ルキハは別人のように鋭い視線で骨の群れを見やった。指を鳴らし、炎の塊を呼ぶ。
「援護が来るまで踏みとどまるわよ、イェル君」
「……そうだね」
イェルバートも静かにうなずく。重ねた手のひらからデルタレイの閃光が漏れていた。
●白き巫女は北へ
その頃、楔の内側は大変なことになっていた。
リムネラが両手で大地を清めると、龍脈からまるっこいねずみが泉みたいに大量に湧き出てきた。チューダを一回り小さくしたような白いねずみが、鳴きながら走り回るものだから騒がしいことこの上ない。
「ご、ゴメンナサイ皆サン、私、龍脈の直接操作はコレがハジメテで……。シ、集中しないと、途切れてしまうカモしれマセン」
「それで後方に居たんすか。大丈夫っす、リムネラさんは俺たちが守るっす。道中は操作がんばってほしいっす」
おろおろしているリムネラへ言葉をかけると神楽は行きに続けて彼女を馬に乗せた。神楽の言葉に深くうなずくとリムネラはまぶたを強く閉じて彼の背へすがりついた。一行はエンジンを温め、北東へ続く道へ視線を走らせる。ほんのりと輝くそれはエンブリヲへと至る道だ。
神楽がいつもよりゆっくりと馬を走らせた。リムネラの集中が途切れないよう、細心の注意を払う。光るねずみの集団がぞろぞろと付き従い、大地へ光の帯を描いた。スケルトンを振り払いながら行進を続けると、雪景色の中に異様な物体が現れた。濃い瘴気が立ち込める中、天を突くほど巨大で、どこか歪んだ、眺めているうちに目がくらみそうな形の物体だった。奇妙なことに表面へは、雛につつかれたごとく亀裂が入っている。
地図の終点へたどりついたナハティガル・ハーレイ(ka0023)は、それを畳んでしまいこむと使い慣れた槍で肩をたたいた。
「まさに『血城』ってヤツだな。イイ趣味してやがるぜ。リムネラ、アンタをどこへ連れて行けばいいんだ?」
「亀裂の深いトコロデス。内側の味方とチカラを合わせて結界を壊しマス」
「ふむ……」
ナハティガルは結界を見渡し、亀裂が定期的に明滅していることに気づいた。
(閉じ込められたやつらが結界を割ろうとしているのか……。そのあがき、無駄にはさせんぜ)
槍の穂先でスケルトンを排しつつ、光の強いところを探しバイクを走らせる。ほどなくして太い亀裂が見つかった。ナハティガルは仲間へ合図を送ると速やかにハンドルを切った。鼓動のように明滅を続ける亀裂を背にする。
「アンタが術式展開中は俺達が何としても護り抜いてやる。――後は頼んだぜ? リムネラさんよ」
守りを捨てたナハティガルは仲間とリムネラへすべてを預けギアを入れた。両の瞳が金銀妖眼へときらめきを変え、首から胸元へ続く茨の刺青、あるいは『刻まれた』のか、が古傷が開いたように赤く赤く染まる。倒しても倒しても起き上がる亡者の群れへ、ナハティガルが突撃する。ナグルファルの鋭いボディラインが風と化す。
――ぞん。
力をこめた一撃で凪ぎ払われた骨が宙へ飛び散り、かけらが頬をかすめる。かすかな痛みすら心地よく、彼はひそかに微笑んだ。
ナハティガルとは反対方向から迫るスケルトンへ、イブリス・アリア(ka3359)が闘志をくすぐられた。
「いいねぇ。ちょっと暴れさせろ。リムネラの嬢ちゃん、いざとなったら俺の馬で逃げちまいな」
馬を下りた疾影士は静かに瞬脚の構えをとった。ぞろりぞろりと夢遊病のように近寄ってくる骨の群れ。試作雷撃刀へ静電気が走る。そのかすかな音が鼓膜へ届いた瞬間、イブリスは一気に踏み込んだ。最前面のスケルトンの首が落ち、返す刀で隣の胴が割れる。ぜんまい仕掛けの人形めいて動きを止めないスケルトンへ、イブリスは至近距離から蹴りを入れた。砕けたスケルトンを、刃の猛追が微塵切りにしていく。
「鋭すぎる傷跡は意に介さないってところか? まったく、たいしたことないくせに手間だけはかかる奴らだな」
亡者の動きを見切ることなど彼には造作もない。最小限のステップでつかみかかる骸をいなし、すれ違いざまに叩き切る。落とされ、暴れる骨を踏み砕く頃には次の獲物へ。
リムネラを守り、戦いを続ける一団。底冷えのする冷気と濃い瘴気が彼らの動きをじわじわと鈍らせていく。リムネラが謡をささげる傍ら、亀裂へ光るねずみが次々と飛び込み、金色の花火になって弾けた。地を覆うかのように思えたねずみたちも残り少なくなってきた頃、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)がリムネラを振り向いた。エンブリヲを覆う亀裂はさらに増え、脈動が激しくなっている。
「リムネラ、あとどのくらいだ!」
「あと、あと一歩デス。ソレが向こうからの妨害が激しくて……!」
きっかけが、きっかけさえあれば……! リムネラが悔しげに歯噛みをする。
「……俺にできることはあるか」
一瞬きょとんとしたリムネラは、意図に気づいて激しく首を振った。
「イケマセンジャックサン! 龍脈制御は修練を積んだ巫女デモ危険なのデス!」
「俺様が捨て駒になってやる。他の奴らと違って俺様は世界最強の貴族様だかんな、そんくらい余裕だぜ!」
守りの構えを解き、ジャックはコインシューターの銃口を亀裂へ向けた。全身へみなぎる闘志に、リムネラは彼の決意を知った。
「ワカリマシタ。最後の精霊が飛び込んだら、撃ってクダサイ」
リムネラがジャックへ寄り添い、片手をグリップへ重ねた。ジャックの銃がほんのりと輝きだす。リムネラが古い言葉で何事か指示すると、ねずみたちが猛スピードで亀裂へ飛び込んでいった。精霊がマテリアルへ還る瞬きが辺りを彩って、場違いなほど美しかった。終わりの花火があがったとき、ジャックは引き金を引いた。
光の柱が天地をつなぎ消えていくのを、きれいだなあなんて思いながら須磨井 礼二(ka4575)は眺めていた。そして止めていた手を動かし、鍋をかき混ぜた。衝撃の余波がさらりとした風になってポイントBへ吹きつけ、彼の髪を揺らした。
パンをあぶってホットサンドを作り、容器へ具沢山のシチューを注ぐ。鍋を空にするのは本日二度目だ。食材は乏しいが量はまだまだある。盆の上に皿を並べ、舌の焼けそうなコーヒーを添えて傷を負った仲間のもとへ運ぶと歓声が上がった。むさぼるように食べるオイマト族の勇士たちへマテリアルを注ぎ、運動能力を強化する。バタルトゥへも食事を届けると、彼は礼を言って受け取りながらもポイントAをじっと見つめている。
「……リムネラが……気絶している頃かと……思ってな……」
「みんな無事に帰ってくるよ。勘だけど」
よく当たるって言われるんだよねと、礼二は微笑んだ。
「にっこり出迎え、にっこり送り出す。俺がやれるのはそれだけさ」
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鳥間あかよし | 1人 |
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- 【1.】エンブリヲ脱出
- 【2.】敵司令官襲撃
- 【3.】前線部隊支援
- 【4.】浄化キャンプ防衛