ゲスト
(ka0000)
ダブルグランドシナリオ「【闇光】決死撤退戦・暴食」 リプレイ

作戦2:第四キャンプ防衛 リプレイ
- J
(ka3142) - イェルバート
(ka1772) - ラン・ヴィンダールヴ
(ka0109) - 栂牟礼 千秋
(ka0989) - アルヴィン = オールドリッチ
(ka2378) - エリス・ブーリャ
(ka3419) - 白神 霧華
(ka0915) - クラーク・バレンスタイン
(ka0111) - スーズリー・アイアンアックス
(ka1687) - ライナス・ブラッドリー
(ka0360) - グリムバルド・グリーンウッド
(ka4409) - ミリア・コーネリウス
(ka1287) - アルマ・アニムス
(ka4901) - 白金 綾瀬
(ka0774) - 蜜鈴=カメーリア・ルージ
(ka4009) - ルナ・レンフィールド
(ka1565) - 天竜寺 舞
(ka0377) - ルオ
(ka1272) - セレン・コウヅキ
(la0153) - カグラ・シュヴァルツ
(ka0105) - ロニ・カルディス
(ka0551) - 央崎 枢
(ka5153) - チョココ
(ka2449)
●
「【遊撃】隊、交戦開始!」
第四キャンプ内の物見櫓より、帝国兵が前線の状況を知らせた。
皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は剥き身の剣を握ったまま、ハンター側の作戦を伝達するJ(ka3142)の言葉にただ頷く。
「我々も前線との連絡を図っていますが――」
近くではイェルバート(ka1772)が通信機2台を並べて調整中だが、【遊撃】部隊との距離が遠く、万全な通信は確保できていない。Jが言う、
「最終的には有視界での状況判断をお願いしたく。キャンプ内の交信はそちらの機材含め確立済み、防衛線に危険個所が見受けられた場合は随時ご連絡下さい」
「いつもながら世話をかける」
皇帝の表情は硬い。Jは一礼の後、ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)に目配せすると、ふたりでその場を立ち去った。
軍の医療物資を担いだ栂牟礼 千秋(ka0989)が、覚醒者の兵士を招集する。
「敵戦力の集中等で不利が生じた地点を救援します。その場で治療も行いますが――」
「大怪我でもう戦えナイ、ってヒトは僕に回してネ!」
同じく聖導士のアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)も、重傷者の治療と介助を引き受ける。後方のトラックではエリス・ブーリャ(ka3419)が負傷に鞭打って、荷下ろしを手伝っていた。空いた荷台にはキャンプ側の物資を最低限積み込み、撤退後の助けとする。
「オイリアンテと弾薬箱、組にして持ってってもらえる!? あっ、きりりん、医療品の余りはこっち回してー!」
白神 霧華(ka0915)も手を貸しつつ、偽装工作についてエリスと話し合う。火砲を布で隠す、離れた場所で廃材を燃やして人がいるように見せかける――傍にいた帝国兵が口を挟んだ。
「たぶん効果ないぜ。連中は生き物だけ狙ってくる、生体マテリアルがどうとかでな」
話を聞いた霧華は工作を諦め、バリケードへ向かう。S型スペルランチャー、キャンプ防衛の切り札を身体を張って守る為。
(なら、望み通り私たちの生体マテリアル――命をぶつけて押し返すまで!)
キャンプ前面を囲うバリケード裏では、クラーク・バレンスタイン(ka0111)とスーズリー・アイアンアックス(ka1687)が補強作業に加わっていた。ライナス・ブラッドリー(ka0360)から塹壕を掘ってみてはどうかと提案があり、クラークも同意したのだが、人手も時間も足らず。クラークが、
「CAMが1個小隊でもあればな……」
「戦闘だけでなく、力仕事にも持ってこいだったかも知れませんね」
「とはいえ魔導アーマー、その他火砲が届いただけでも僥倖か。こういう撤退戦は嫌なもんですが……可能な限り、多くの人を連れ帰りましょう」
覚醒状態のスーズリーが次々担いでくる資材を、口にくわえていた釘を取って金槌で打ちつけた。時間の許す限りバリケードを増やし、隙間を埋めておく。帝国兵を乗せた魔導アーマーがバリケードを迂回して前衛に出ると、ハンターと、トラックから武器を運んできた兵たちが後に続く。
「オイリアンテ、担当者は集まってくれ!」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が巨馬・ゴースロンにまたがって声を張り、積み上げられた武器弾薬の前へ仲間を呼び集める。大型魔導銃オイリアンテを引き受けるのは彼とJ、ミリア・コーネリウス(ka1287)、アルマ・アニムス(ka4901)、白金 綾瀬(ka0774)の5人。抱え上げるのもひと苦労な武器を渡され、アルマとミリアが話し合う。
「本当に重いですね。でも高火力、とっても楽しみです」
「弾のほうもかさばるな。ランチャーの下にひと山置いとくか」
ランが進み出て、錬金弾をひと抱え持ち上げてみせた。Jに笑いかけ、
「やぁ、こりゃひどい。銃が壊れたら、手で投げても威力ありそうだねー」
「持ち運べない分は私が預かるわ、後方支援担当だから」
綾瀬が言った。全員、大型魔導銃をベルトで肩から吊ると、それぞれに配置へ急ぐ。暴食王との衝突から数分、そろそろ【遊撃】からこぼれたスケルトンの群れが見えてきてもおかしくなかった。
「最後の1本――」
バリケードに背を預けながら、ライナスが煙草の箱を握り潰す。隣に立つ蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も煙管で、僅かな暇での一服に付き合っていた。
「縁起でもないのぅ」
「この箱の最後の1本、だ。後の一服用にもうひと箱取ってある」
蜜鈴はふぅっ、と煙を吐くと、
「あまり呑気にしとられんようじゃの」
ルナ・レンフィールド(ka1565)とエリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087)が走って来た。物見の兵も大声で呼ばわり、キャンプ内が一層慌ただしくなる。ライナスはくわえ煙草のまま振り返り、バリケードの隙間から向こうを覗いた。荒野を疾駆する白い大群――スケルトンだ。暴食王は未だ遠く、召喚された手下だけが先行してキャンプ攻撃に送り込まれたようだが、
「キャンプ側の戦力で、どれだけ時間を稼げるか……」
「ここらへんで敵両翼を見張ってますよぉ。包囲殲滅されたら堪らないですからねぇ」
エリセルがバリケードをよじ登ると、ルナと蜜鈴もそれに倣った。バリケードの向こうでは騎馬の天竜寺 舞(ka0377)が二刀を掲げ、
「この作戦が成功するか否かが肝だからね。全力全開で行くよ!」
彼女の気勢に合わせてアーマーが前進、間隔を空けて横並びになった。その後方に槍を抱えたルオ(ka1272)、セレン・コウヅキ(ka0153)とカグラ・シュヴァルツ(ka0105)、騎馬のイェルバートが立つ。
「さて……ルミナちゃん似の陛下のために、いっちょがんばりますか」
ルオが振り返ると、バリケード中央部に集められた大砲、その指揮を執るロニ・カルディス(ka0551)が馬上から頷いた。アーマーが取りこぼした敵をルオが誘導、味方火砲の射線へ引きずり込む作戦だ。ロニは無線を携帯の上、他の前衛が苦戦した場合も火力支援を指示する。セレンとカグラはライフル、イェルバートは拳銃と機導術でアーマーを直援、そして、
「射線に被るとマズイよな。おし、ここらで良いだろ」
央崎 枢(ka5153)が、帝国兵たちと共に柵や梯子を担いでやって来た。敵が砲、特にスペルランチャーへ取りつくのを防ぐ為、周囲に誘導路を作るつもりだったが、 「今からまともな柵は立てられねぇ。代わりに俺たちが身体で止めるぜ、ハンター」
重装鎧の兵たちが、柵や横にした梯子を手に意気を見せた。他の兵は槍や剣を携え、やはり肉弾戦をする構えだ。銃衛兵や弓兵はバリケード背後に控えて、枢たちが誘導した敵へ集中攻撃を図る。
「わたくしもお手伝いしますっ」
チョココ(ka2449)が言った。彼女が使うアースウォールの魔法なら、一時的ではあるが即座に防壁を形成できる。元気良く挙げた手を、ふと頭にやり、
(パルパルはお留守番ですの……頭の上が寂しいですけど。帰るって約束しましたから、無事に帰りますわっ)
「明日のために足掻こうぜ、皆!」
枢が振りかざした剣は、負のマテリアルに染まりつつある空の下、ぎらりと輝いた。
●
「全機、出力最大!」
殺到する骸骨の群れに、魔導アーマーが横隊を組んで突進した。低く構えたシールドで敵を押し返すと、鉄板と後続の味方の間に挟まれたスケルトンが音を立てて砕けていく。アーマーが捕まえ損ねた敵へはすかさず砲撃と銃弾、魔法の雨が降りかかった。
「まさに死者の軍勢、とでも言えば宜しいでしょうか」
アーマーによじ登る敵をセレンが狙撃する。機体上部の操縦席はほとんど剥き出しで、取りついたスケルトンに対して搭乗者を守るものがない。ハンターの支援だけが頼りだが、そのセレンが言う。 「数が多い。1体1体を狙い撃つだけでは、きりがないかも知れません」
「ですが生憎、私は大型火器よりもこちらの方が使い慣れていましてね。慣れない武器を扱うより、狙撃に徹したほうがまだしも戦力になれるかと。火力は味方に頼りたいところですが――」 カグラの射撃も、アーマーからこぼれた敵を順々に処理していく。大きな塊へはセレンと共に連射で威嚇、制圧射撃を試みるが効果は薄い。生体マテリアルに反応し襲いかかるだけの亡者、今更死への恐怖も防御の本能も持ち合わせないということか。だがアーマーを無視してバリケードへ急ぐ個体も多い。恐らく、より多くの生体が集まるほうへ引き寄せられたのだろう。イェルバートの機導術・デルタレイが止めきれなかった敵は、
「このあたしの、華麗な馬上の舞を見ながら逝くといいよ!」
舞が戦馬を駆り、二刀で斬り捨てていく。その取りこぼしをルオが槍で打っては引き、少しずつ大砲の射線へ――
「正面、80度!」
ロニの指示を受け、兵士が砲撃を実行。ロニが集めた大砲12門は、砲兵の進言で半円形に配置された。正面から左右のバリケード直下まで、満遍なく狙いをつけられるという寸法だ。低い射角で放たれた砲弾が敵を薙ぎ倒す。
『敵右翼、突出してますぅ!』
エリセルから通信が入る。大きな群れがアーマーを回避し、バリケードへ直進中のこと。ロニの合図で大砲数門が左方を向くが、先んじてオイリアンテの砲火が敵を見舞う。
(反動キツイぜ、運動強化しねーと!)
馬上でオイリアンテを発射したグリムバルドが、衝撃に落馬しかける。銃というよりは砲、強烈な反動と重量で照準も間々ならない。それでも小型特殊錬金弾の威力が、弾を食ったスケルトンを跡形もなく消し飛ばしてみせた。更にバリケード後方より、輸送コンテナを足場にした綾瀬の攻撃、
(猟撃士の能力で、どれだけ巻き込めるかしら……!)
発射時に込めたマテリアルが、敵群の頭上でいち早く錬金弾を炸裂させる。降り注ぐ破片はスケルトンの脚部や脊柱を切り裂き、瞬く間に行動不能にしてみせた。逃れた敵には大砲が撃ち込まれ、バリケードに接触する隙を与えない。だが、スケルトンの進撃は止まらず今度は敵左翼、
「押し込め!」
枢の合図に、柵や梯子を抱えた兵の一団が左右から敵を押し止め迂回を防ぐ。枢自身もヴァイパーソードを打ち振るうと、鞭状に伸びた刀身が敵の骨格を絡め取り、薙ぎ倒す。軽装の兵士は槍や剣で、あるいは後方からの銃弾や矢で敵を仕留めていく。バリケード中央に近い位置のスペルランチャー付近から、ミリアとアルマもオイリアンテを撃った。しかしここまでの相手はほぼ小型、進行の遅れた中型・大型スケルトンは今まさに魔導アーマーの壁とぶつかるところだ。上背のある個体は、アーマーの操縦席を直接攻撃できる――
「ひいっ!」
1機を操縦する若い帝国兵が、思わず機体を後進させた。足下にまとわりつく小型スケルトンは然程の障害物ではないが、接触のたび、操縦者を認識してよじ登ってくる。セレンとカグラの休みない狙撃が間一髪で帝国兵を救うが、その間に他の機体も大型個体に押しやられるか、小型に集られてしまう。イェルバートがデルタレイで小型を散らすものの、大型は一撃で仕留めきれない。魔導アーマーの動きが鈍ると、敵はいよいよ攻勢を強めてきた。がちゃがちゃと騒々しい音を立てながらスケルトンの群れが雪崩れ込み、中に混じった中型・大型個体も体格に任せて仲間を押し退けながら、歩兵やハンターに次々襲いかかる。内、バリケードを目指していた1体の足下へ舞の騎馬が滑り込んだ。
「砲を、やらせはしない!」
大型スケルトンが振り下ろした手刀を、剣を十字に重ねて受け止めれば、彼女の頭上を越えて飛んだ錬金弾が敵の胸骨を破壊する。Jが魔導バイクの車上から放った1発。再装填を急ぎつつ、ゴースロン騎乗にて彼女に随伴、護衛を務めていたランへ、
「【遊撃】の後送を待っていられない状況になりましたね」
「この数が相手じゃ、まずは僕らが潰れないようにするのが精一杯だなー」
給弾を終えたオイリアンテを、Jが再び撃つ。正確な照準は難しいが、狙わずとも撃てば当たるという敵の密度だ。味方に当てる心配だけしていれば良い。それでも、可能な限りで大型個体に注視した。大型スケルトンの圧力と、それを盾にした小型・中型の勢いに押され、味方前衛は徐々にバリケードへ後退しつつある。絶えず流れ込んでくる敵に分断され、連携も難しくなってきた。早くも混戦に持ち込まれてしまった原因――魔導アーマーとの連携不足、前衛の不足、火砲の出し惜しみ、
(今更考えてる場合か!)
ミリアはオイリアンテを腰溜めに持ち上げると、
「合わせますっ」
やはりオイリアンテを構えたアルマと息を合わせ、接近中の大型を同時攻撃する。敵は上半身を粉々にされ、残った下半身もどう、と後ろへ倒れる。その残骸を跳ね除けながら、なおも小型の群れが殺到する。
間断なく続く戦闘に息急くハンターたちの前で、突然スケルトンの群れがぶわ、と膨らんだように見えた。【遊撃】側で押し止めていた敵が突破に成功、先行部隊と合流したらしい。その推測を裏付けるように、最前線から【後陣】撤退合図の花火が上がる。場違いなほど鮮やかな花火の光の下、敵群は白い大河を成し、泥混じりの雪を跳ね散らしながら一直線に第四キャンプへ――
「危ないですのっ」 チョココがアースウォールを連続で展開、枢と帝国兵たちの周囲に土の防壁を巡らせた。非覚醒者の兵は過酷な近接戦の連続に疲弊し、負傷者も少なくない。チョココが今度は魔法の火球で直近の敵を吹き飛ばすと、千秋率いる覚醒者部隊もバリケードを越えて救援に到着。千秋はトリアージ(識別救急)を設けた上、敢えて軽傷者を優先、法術を使わない通常の治療で対応する。敵の侵入が途切れない以上、こちらも現在戦力の維持を最優先に考えなければならない。やがて土壁が壊され、帝国軍の覚醒者部隊が敵にぶつかった。千秋は軽傷の手当てを終え、残るは重傷者、
「法術で、足だけでも治しますからね。後退して下さい」
「まだやれる。この北伐で、もう何人も同期の桜をやられてんだ……今更、俺ひとり生きて帰れるかよ!」
痛みと怒りに目をぎらつかせる兵士だったが、全身を深々と抉ったスケルトンの爪痕は、明らかに彼の継戦不能を示している。千秋は口をぐっと結ぶと、ロッドをかざして法術の光を浴びせた。傷口が最低限塞がるなり、引き起こして、バリケードのほうへ背中を押す。
「気持ちは……気持ちは分かりますが、今は言うことを聞いて!」
「俺の言うこと、良く聞けよ」
ルオは魔導アーマーの機体後部を駆け上がり、パニック状態の歳若い帝国兵に声をかけた。後退を始めたアーマーの中で1機だけ取り残され、孤立しかけている。当初はスペルランチャーその他火砲の打ち止めを待って操縦を代わるつもりだったが、このままでは操縦者に死者が出ると判断、一番危うい機を選んで駆けつけたのだった。兵士はうわ言のように、
「わ、我々帝国軍兵士は、最後の一兵まで粉骨砕身し歪虚撃滅に当たらねばと」
「馬鹿野郎! 俺たちの後ろには」
スケルトンが機体をぞろぞろと這い上がってきた。味方の狙撃、そしてルオ自身も槍で邪魔な敵を払い落しながら、
「皇帝陛下その人がいるだろう。戻って、陛下をお守りする仕事がまだ残ってる!」
ちらと振り返ると、アーマーを避けて走った敵群がバリケード正面に集合しつつあった。大砲指揮のロニが怒号する。
「正面6門、水平射!」
地面を転がすように放たれた砲弾が敵を薙ぎ倒し、空白地帯を作る。チャンスは今と、ルオが兵を操縦席から引きずり出した。放り出された兵士は混乱の解けないまま、それでも指示通りに逃げていく。追いすがる敵は、
「背骨か腰骨を狙いましょう、セレンさん。1発で移動不能にできる」
カグラとセレンの狙撃が次々仕留めていく。ほっとする間もなく、大型個体が乗り手を失った機体に接近中。ルオはCAMパイロット上がりの勘で自機に素早く迎撃態勢を取らせると、 「急場の代役だが……倒してしまっても良いのだろう?」
機体腕部に装着された鉄球を振り、敵の下肢をばらばらに打ち砕く。
●
ロニが指揮する大砲とオイリアンテ、とりわけ猟撃士の綾瀬が目覚ましい戦果を挙げ、バリケード前に白骨の山を築き上げた。しかし多勢に無勢、次第に押し込まれ、砲撃の合間を縫った敵右翼がバリケードへ突進。帝国兵が槍衾で応じると共に、バリケード上からエリセルがライフルを乱射、ルナと蜜鈴もこれに続く。
「穿て雷槍。我が眼前の敵を焼き貫け――」
蜜鈴の放つ雷撃が、射線上の敵をまとめて刺し貫く。ルナも同じ雷撃の魔法を使うが、
(何て音色!)
骸骨の砕ける音、砲声、悲鳴と怒号、指揮者なき音楽が戦場を満たす。ルナは耳を塞ぎたくなる衝動を殺しつつ、綾瀬のオイリアンテが敵群に空けた穴が後続で埋まるや否や、見計らったタイミングで火球を撃ち込んだ。蜜鈴、エリセル、グリムバルドも加わって、バリケードから敵を引き離そうとする。
「怪我人は無理するな、下がれ!」
グリムバルドが火炎放射と、マテリアルの防御障壁で帝国兵の撤退を援護。だが、撤退する兵を追ってきたスケルトンが遂にバリケードへ取りつき始めた。裏に控えていた射手が一斉に攻撃を集中すると、
「そろそろ動かないと、帰れなくなりますよぉ」
「蜜鈴さんも!」
バリケードを下りたエリセルを見てルナが叫ぶも、蜜鈴は攻撃を火球に切り替えつつ殿を務める構えだ。ルナは足下にすがりつこうとする敵群へ雷撃を撃ち込むと、バリケードを飛び降りた。ここからは、
「わたしたちの出番だ!」
バリケード裏からスーズリーがライフルを差し入れ、発砲した。至近距離からの射撃で少しでも突破を遅らせる。ライナスも馬を駆り、バリケード越しに拳銃を撃った。銃弾に込めたマテリアルの冷気が、一瞬ながら敵の動きを鈍らせる。
「修羅場だな。傭兵時代を思い出す……」
「バリケード左方、敵が到達しました。支援を要請します!」
クラークもライフルを連射しつつ、合間に左肩へつけた無線機に叫んだ。枢を経由してその要請に応じた千秋と覚醒者部隊が、敵群を鋒矢の陣形で切り裂きながら左方の手当てへ走る。しかし右方も健在ではなく、枢やチョココ、兵士たちがバリケードへ押し返されつつあった。枢はトンファーを棍棒のように握って、間近に群がる髑髏を片っ端から叩き割りつつ、
「チョココ、まだ壁は作れるか!?」
「逃げるときの分も考えると、そろそろ限界かもですっ」
壁役の兵たちも動きが鈍ってきた。誘導しきれなかった敵が後ろへ抜けて、わらわらと砲の前に集まり出す。
ロニが騎馬の足を進め、砲兵目がけて襲い来るスケルトンを法術の光で跳ね除ける。鎌を振るい、刈り倒す。それでも敵の行軍は止まず、バリケード左方に続いて中央部も危険な状態になった。砲撃支援が妨害を受け、反撃も間々ならない。業を煮やしたミリアがスペルランチャーへ走る。
「これ以上は待てねーぞ!」
発射準備にかかるミリアを、相棒のアルマが庇い立てた。オリアンテを構えつつ防御障壁を前面に展開、少しでも敵との接触を遅らせる。霧華の騎馬もランチャーを守るべく敵群へ切り込んだ。 「私たちの希望を、そう易々と喰い潰せるとは思わないでくださいね!」
霧華は馬の勢いもそのままに、スケルトンを右に左に、鞭と盾とで打ち据える。咄嗟に鞭を放った大型個体の背後、骸骨の垣根を越えた先に暴食王ハヴァマールの威容。【遊撃】は大分押し込まれてしまったようだ。しかし同時に敵大将も【遊撃】を追って、スペルランチャーの射程圏内へ入りつつある。ミリアが歯を剥いて笑う、
「こいつで挽回だ! 手下のスケルトンごと、ぶっ飛ばしてやるよ」
「待った!」
イェルバートの馬が、スケルトンを蹴散らしながら駆け込んできた。
「スペルランチャーを暴食王に使っちゃ駄目だ!」
機導術の伝波増幅で、いち早く【遊撃】からの無線連絡をキャッチしたイェルバート。受け取った知らせは、暴食王が生体マテリアルの吸収能力を持つ可能性―― 「スペルランチャーは、砲手の生体マテリアルをエネルギーとして射出する兵器……手傷を与えるどころか、餌を与える結果になりかねない?」 アルマの問いにイェルバートが頷く。同じ知らせは無線を介して、右左方のランチャー付近にも伝達済み。最後の切り札、苦境を一変させる筈だったランチャーが最早有効でないと知り、 「絶好のチャンスだってのに……!」
止むを得ず、ミリアは暴食王から狙いを逸らして発射した。ミリアの生体マテリアルが巨大な光線へと変換され、射線上のスケルトンを瞬時に焼き払う。1発で相当数を倒しつつも、暴食王を避けざるを得なかった為に最大効力が発揮できなかった。バリケード各所からスケルトンが途切れなく這い出し、キャンプ内へと侵入を開始。殺到する大群を一時に大量撃破も、分断もできなかった時点でこの結果は見えていた。後はどう逃げるか、
「ミリア!」
アルマが叫ぶ。ランチャー使用の反動でその場に膝を着くミリア。後方からヴィルヘルミナの檄が飛び、帝国軍が撤退を開始する。
●
「陛下より【防衛】隊に撤退命令、【遊撃】側も各自撤収を開始したそうです」
ランはJの報告を聞きつつも、眼下の敵を試作光斬刀で手当たり次第に斬りつける。敵先鋒は今やバリケードを完全に占拠し、キャンプ内へ浸透しつつあった。
「まだ、バリケード付近に残っている方々が。私たちで殿をやりますよ」
「了解、っと……あはは、Jちゃんには指一本触れさせないよー?」
接近してきた敵を斬り伏せるランの後ろから、Jがオイリアンテを撃つ。綾瀬の砲撃も加わり、撤収用トラックへの敵到達を遅延させている間に、
「正面の敵、あんたの術で退かせる!?」
「任せろ!」
後ろに怪我人を乗せたグリムバルドと舞の騎馬が、機導術の炎をたなびかせつつバリケードを飛び越える。後に続いて枢、チョココ、千秋も大量の負傷兵を連れて来た。トラックに辿り着いた怪我人をアルヴィンがやけにはきはきと治療し、トラックで待つエリスへ片っ端から引き渡す。
「サァサァ、慌てず列を組んでネ! 大怪我のヒトを前に!」
「邪魔な荷物は下ろして、焚火に放り込んじゃって!」
アルヴィンは、身体が動けるだけ最低限の治療を兵たちに施す。深手を負った者へは個別に治癒を、それ以外には複数人まとめて法術をかけた。目前の仕事が終わり、エリスが言う。
「まだ奥から、逃げ遅れた人たちが来てるよ!」
「帝国兵パイロット――生存者は全て後退させました」
セレンがルオの魔導アーマーを急かす。カグラと組んで他のアーマー操縦者を逃がした後、残ったルオもスケルトンを踏みしだきながら、機体を後ろ歩きさせた。付近ではロニと蜜鈴、スーズリーが殿となって砲兵たちを逃がしている。ライナスが拳銃を振りかざし、
「負け戦にこれ以上は長居無用だ、お前らも下がれ」
「スペルランチャーさえ使えれば、こんな有象無象に……!」
斧で周囲の敵を払いつつ、歯噛みするスーズリー。だが暴食王は既にキャンプ至近、スケルトンだけをランチャーで巻き込むよう狙っている暇はない。スーズリーは弾を込めたまま放棄された大砲に火を入れ、すかさず自前のバイクへ飛び乗った。大砲の最後の1発が轟くと、
「射抜け炎。厄災の種子を焼き滅ぼせ」
蜜鈴の火球が更に追撃を遠ざける。一瞬の空白、撤退の最後のチャンス。機体を捨てたルオも加え、皆で一斉にキャンプ内へ駆け込むが、こちらも既に敵がひしめいている。
「やっと暴食王が近くで見れそうなのにぃ、残念ですぅ!」
「敵の遠距離攻撃が届く前に、早く!」
エリセルの援護射撃に呼応して、霧華の騎馬突撃が血路を拓く。
「アルヴィンさん、お願いします!」 ルナの火球が霧華の作った退路を押し広げると、駆けつけたアルヴィンのバイクが、足取りのもつれる重傷者を乗せて運び去った。
「武器を処理していく時間はない、ですよね」
ワンドを振るいながら呟くルナに、綾瀬がかぶりを振る。
「アーマーも火砲も、このまま放棄するよりないわ」
「もう少し時間と準備があれば……敵に使われないことを、祈るしかありませんね」
Jと綾瀬のオイリアンテが同時に火を噴き、最後の殿となった霧華にまとわりつく敵を一掃した。ここで弾切れ、
「ミリア、僕らも行きましょう」
アルマが言う。ミリアと共にオイリアンテを捨て、自前の武器で戦い続けていたが、
「貴方となら、生きるも死ぬも一緒だと思っています。けど、ここはまだ死にどころじゃない。必ず次があります――生きましょう」
ミリアの手を取り、トラックへ走る。
「ハンター24名の集合を確認!」
「【遊撃】隊も脱出に成功、回収要請入ってます」
クラークがトラック前に集まったハンターたちを素早くチェックし、イェルバートと共にヴィルヘルミナへ伝達する。しかし彼女は剣を手にしたまま、キャンプを埋め尽くす白い敵群を見据えて動かない。砲声が途切れると、人骨が触れ合う乾いた音ばかりが一帯に響くようになり、皇帝の隣に立っていたエリスも唇を噛み締める――負傷者の全員収容は叶ったものの、遺体まで回収するだけの余裕は誰にもなかった。混戦の最中に倒れ、置き去りにするよりなかった彼らはそのまま暴食王の糧、スケルトンの材料として次回の敵戦列に加わることだろう。今、この場で連れて帰らない限り。
「遺体を取り返してくる」
踏み出そうとするヴィルヘルミナの腕を、アルヴィンが後ろから掴んだ。負傷者の治療と運搬で全身に血を浴びていながら満面の笑顔を見せる彼を、皇帝は怒気も露わに睨み返し、
「このまま、奴らにむざむざと兵の亡骸を冒涜させて溜まるものか! この事態を引き起こしたのは、皇帝たる私の罪なのだ――」
「そして僕らの、ネ。コンナ顔しててモ、僕ダッテ悔しくナイ、悲しくナイ訳じゃないんダヨ?」
その言葉の真偽は本人にも見当がつきかねたが、あくまで笑顔のまま、
「今、トラックに乗せた怪我人だけデモ必ズ生かす。助ケテみせる。ソノ僕に免じテ、陛下は彼らを無事に国へ帰ス手立てを考えテくれないカナ?」
ヴィルヘルミナは目を閉じ、剣の柄が軋むほど強く拳を握り絞めた。最後にかっと目を見開いて、壊滅した第四キャンプを、屍兵の群れを、暴食王の姿を焼きつけると、
「――全車、撤収!」
自らもトラックの荷台へ上がり、すぐさま発進させた。ハンター含め負傷者で満載のトラック部隊は、騎馬・バイク隊と共にスケルトンの追跡を振り切ると【遊撃】隊の回収へ向かう。
車内でも怪我人の手当てが続き、寒さに関わらず、千秋の額には汗が浮いて止まらない。彼女が前線で行った治療と、アルヴィンとロニの法術も功を奏し、積み込んだ兵士から新たな死者を出すことは辛うじて免れた。それでもなお、歪虚王の南進が帝国軍のみならず、人類連合に甚大な被害を与えつつある事実は揺るがない。トラックに併走しつつ、暴食王の剣風と瘴気吹き荒れる第四キャンプ『跡地』を馬上から見送って、
「予め負け戦と分かっていても、悔しさは変わらぬものだ」
ロニが呟いた。同じ思いに沈むハンターと帝国兵たち、その中に、アーマーを降りてからも震えが止まらない若い兵士がいた。ルオはなだめるように、彼の肩へそっと手を置いた。
「【遊撃】隊、交戦開始!」
第四キャンプ内の物見櫓より、帝国兵が前線の状況を知らせた。
皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は剥き身の剣を握ったまま、ハンター側の作戦を伝達するJ(ka3142)の言葉にただ頷く。
「我々も前線との連絡を図っていますが――」
近くではイェルバート(ka1772)が通信機2台を並べて調整中だが、【遊撃】部隊との距離が遠く、万全な通信は確保できていない。Jが言う、
「最終的には有視界での状況判断をお願いしたく。キャンプ内の交信はそちらの機材含め確立済み、防衛線に危険個所が見受けられた場合は随時ご連絡下さい」
「いつもながら世話をかける」
皇帝の表情は硬い。Jは一礼の後、ラン・ヴィンダールヴ(ka0109)に目配せすると、ふたりでその場を立ち去った。
軍の医療物資を担いだ栂牟礼 千秋(ka0989)が、覚醒者の兵士を招集する。
「敵戦力の集中等で不利が生じた地点を救援します。その場で治療も行いますが――」
「大怪我でもう戦えナイ、ってヒトは僕に回してネ!」
同じく聖導士のアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)も、重傷者の治療と介助を引き受ける。後方のトラックではエリス・ブーリャ(ka3419)が負傷に鞭打って、荷下ろしを手伝っていた。空いた荷台にはキャンプ側の物資を最低限積み込み、撤退後の助けとする。
「オイリアンテと弾薬箱、組にして持ってってもらえる!? あっ、きりりん、医療品の余りはこっち回してー!」
白神 霧華(ka0915)も手を貸しつつ、偽装工作についてエリスと話し合う。火砲を布で隠す、離れた場所で廃材を燃やして人がいるように見せかける――傍にいた帝国兵が口を挟んだ。
「たぶん効果ないぜ。連中は生き物だけ狙ってくる、生体マテリアルがどうとかでな」
話を聞いた霧華は工作を諦め、バリケードへ向かう。S型スペルランチャー、キャンプ防衛の切り札を身体を張って守る為。
(なら、望み通り私たちの生体マテリアル――命をぶつけて押し返すまで!)
キャンプ前面を囲うバリケード裏では、クラーク・バレンスタイン(ka0111)とスーズリー・アイアンアックス(ka1687)が補強作業に加わっていた。ライナス・ブラッドリー(ka0360)から塹壕を掘ってみてはどうかと提案があり、クラークも同意したのだが、人手も時間も足らず。クラークが、
「CAMが1個小隊でもあればな……」
「戦闘だけでなく、力仕事にも持ってこいだったかも知れませんね」
「とはいえ魔導アーマー、その他火砲が届いただけでも僥倖か。こういう撤退戦は嫌なもんですが……可能な限り、多くの人を連れ帰りましょう」
覚醒状態のスーズリーが次々担いでくる資材を、口にくわえていた釘を取って金槌で打ちつけた。時間の許す限りバリケードを増やし、隙間を埋めておく。帝国兵を乗せた魔導アーマーがバリケードを迂回して前衛に出ると、ハンターと、トラックから武器を運んできた兵たちが後に続く。
「オイリアンテ、担当者は集まってくれ!」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が巨馬・ゴースロンにまたがって声を張り、積み上げられた武器弾薬の前へ仲間を呼び集める。大型魔導銃オイリアンテを引き受けるのは彼とJ、ミリア・コーネリウス(ka1287)、アルマ・アニムス(ka4901)、白金 綾瀬(ka0774)の5人。抱え上げるのもひと苦労な武器を渡され、アルマとミリアが話し合う。
「本当に重いですね。でも高火力、とっても楽しみです」
「弾のほうもかさばるな。ランチャーの下にひと山置いとくか」
ランが進み出て、錬金弾をひと抱え持ち上げてみせた。Jに笑いかけ、
「やぁ、こりゃひどい。銃が壊れたら、手で投げても威力ありそうだねー」
「持ち運べない分は私が預かるわ、後方支援担当だから」
綾瀬が言った。全員、大型魔導銃をベルトで肩から吊ると、それぞれに配置へ急ぐ。暴食王との衝突から数分、そろそろ【遊撃】からこぼれたスケルトンの群れが見えてきてもおかしくなかった。
「最後の1本――」
バリケードに背を預けながら、ライナスが煙草の箱を握り潰す。隣に立つ蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も煙管で、僅かな暇での一服に付き合っていた。
「縁起でもないのぅ」
「この箱の最後の1本、だ。後の一服用にもうひと箱取ってある」
蜜鈴はふぅっ、と煙を吐くと、
「あまり呑気にしとられんようじゃの」
ルナ・レンフィールド(ka1565)とエリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087)が走って来た。物見の兵も大声で呼ばわり、キャンプ内が一層慌ただしくなる。ライナスはくわえ煙草のまま振り返り、バリケードの隙間から向こうを覗いた。荒野を疾駆する白い大群――スケルトンだ。暴食王は未だ遠く、召喚された手下だけが先行してキャンプ攻撃に送り込まれたようだが、
「キャンプ側の戦力で、どれだけ時間を稼げるか……」
「ここらへんで敵両翼を見張ってますよぉ。包囲殲滅されたら堪らないですからねぇ」
エリセルがバリケードをよじ登ると、ルナと蜜鈴もそれに倣った。バリケードの向こうでは騎馬の天竜寺 舞(ka0377)が二刀を掲げ、
「この作戦が成功するか否かが肝だからね。全力全開で行くよ!」
彼女の気勢に合わせてアーマーが前進、間隔を空けて横並びになった。その後方に槍を抱えたルオ(ka1272)、セレン・コウヅキ(ka0153)とカグラ・シュヴァルツ(ka0105)、騎馬のイェルバートが立つ。
「さて……ルミナちゃん似の陛下のために、いっちょがんばりますか」
ルオが振り返ると、バリケード中央部に集められた大砲、その指揮を執るロニ・カルディス(ka0551)が馬上から頷いた。アーマーが取りこぼした敵をルオが誘導、味方火砲の射線へ引きずり込む作戦だ。ロニは無線を携帯の上、他の前衛が苦戦した場合も火力支援を指示する。セレンとカグラはライフル、イェルバートは拳銃と機導術でアーマーを直援、そして、
「射線に被るとマズイよな。おし、ここらで良いだろ」
央崎 枢(ka5153)が、帝国兵たちと共に柵や梯子を担いでやって来た。敵が砲、特にスペルランチャーへ取りつくのを防ぐ為、周囲に誘導路を作るつもりだったが、 「今からまともな柵は立てられねぇ。代わりに俺たちが身体で止めるぜ、ハンター」
重装鎧の兵たちが、柵や横にした梯子を手に意気を見せた。他の兵は槍や剣を携え、やはり肉弾戦をする構えだ。銃衛兵や弓兵はバリケード背後に控えて、枢たちが誘導した敵へ集中攻撃を図る。
「わたくしもお手伝いしますっ」
チョココ(ka2449)が言った。彼女が使うアースウォールの魔法なら、一時的ではあるが即座に防壁を形成できる。元気良く挙げた手を、ふと頭にやり、
(パルパルはお留守番ですの……頭の上が寂しいですけど。帰るって約束しましたから、無事に帰りますわっ)
「明日のために足掻こうぜ、皆!」
枢が振りかざした剣は、負のマテリアルに染まりつつある空の下、ぎらりと輝いた。
●
「全機、出力最大!」
殺到する骸骨の群れに、魔導アーマーが横隊を組んで突進した。低く構えたシールドで敵を押し返すと、鉄板と後続の味方の間に挟まれたスケルトンが音を立てて砕けていく。アーマーが捕まえ損ねた敵へはすかさず砲撃と銃弾、魔法の雨が降りかかった。
「まさに死者の軍勢、とでも言えば宜しいでしょうか」
アーマーによじ登る敵をセレンが狙撃する。機体上部の操縦席はほとんど剥き出しで、取りついたスケルトンに対して搭乗者を守るものがない。ハンターの支援だけが頼りだが、そのセレンが言う。 「数が多い。1体1体を狙い撃つだけでは、きりがないかも知れません」
「ですが生憎、私は大型火器よりもこちらの方が使い慣れていましてね。慣れない武器を扱うより、狙撃に徹したほうがまだしも戦力になれるかと。火力は味方に頼りたいところですが――」 カグラの射撃も、アーマーからこぼれた敵を順々に処理していく。大きな塊へはセレンと共に連射で威嚇、制圧射撃を試みるが効果は薄い。生体マテリアルに反応し襲いかかるだけの亡者、今更死への恐怖も防御の本能も持ち合わせないということか。だがアーマーを無視してバリケードへ急ぐ個体も多い。恐らく、より多くの生体が集まるほうへ引き寄せられたのだろう。イェルバートの機導術・デルタレイが止めきれなかった敵は、
「このあたしの、華麗な馬上の舞を見ながら逝くといいよ!」
舞が戦馬を駆り、二刀で斬り捨てていく。その取りこぼしをルオが槍で打っては引き、少しずつ大砲の射線へ――
「正面、80度!」
ロニの指示を受け、兵士が砲撃を実行。ロニが集めた大砲12門は、砲兵の進言で半円形に配置された。正面から左右のバリケード直下まで、満遍なく狙いをつけられるという寸法だ。低い射角で放たれた砲弾が敵を薙ぎ倒す。
『敵右翼、突出してますぅ!』
エリセルから通信が入る。大きな群れがアーマーを回避し、バリケードへ直進中のこと。ロニの合図で大砲数門が左方を向くが、先んじてオイリアンテの砲火が敵を見舞う。
(反動キツイぜ、運動強化しねーと!)
馬上でオイリアンテを発射したグリムバルドが、衝撃に落馬しかける。銃というよりは砲、強烈な反動と重量で照準も間々ならない。それでも小型特殊錬金弾の威力が、弾を食ったスケルトンを跡形もなく消し飛ばしてみせた。更にバリケード後方より、輸送コンテナを足場にした綾瀬の攻撃、
(猟撃士の能力で、どれだけ巻き込めるかしら……!)
発射時に込めたマテリアルが、敵群の頭上でいち早く錬金弾を炸裂させる。降り注ぐ破片はスケルトンの脚部や脊柱を切り裂き、瞬く間に行動不能にしてみせた。逃れた敵には大砲が撃ち込まれ、バリケードに接触する隙を与えない。だが、スケルトンの進撃は止まらず今度は敵左翼、
「押し込め!」
枢の合図に、柵や梯子を抱えた兵の一団が左右から敵を押し止め迂回を防ぐ。枢自身もヴァイパーソードを打ち振るうと、鞭状に伸びた刀身が敵の骨格を絡め取り、薙ぎ倒す。軽装の兵士は槍や剣で、あるいは後方からの銃弾や矢で敵を仕留めていく。バリケード中央に近い位置のスペルランチャー付近から、ミリアとアルマもオイリアンテを撃った。しかしここまでの相手はほぼ小型、進行の遅れた中型・大型スケルトンは今まさに魔導アーマーの壁とぶつかるところだ。上背のある個体は、アーマーの操縦席を直接攻撃できる――
「ひいっ!」
1機を操縦する若い帝国兵が、思わず機体を後進させた。足下にまとわりつく小型スケルトンは然程の障害物ではないが、接触のたび、操縦者を認識してよじ登ってくる。セレンとカグラの休みない狙撃が間一髪で帝国兵を救うが、その間に他の機体も大型個体に押しやられるか、小型に集られてしまう。イェルバートがデルタレイで小型を散らすものの、大型は一撃で仕留めきれない。魔導アーマーの動きが鈍ると、敵はいよいよ攻勢を強めてきた。がちゃがちゃと騒々しい音を立てながらスケルトンの群れが雪崩れ込み、中に混じった中型・大型個体も体格に任せて仲間を押し退けながら、歩兵やハンターに次々襲いかかる。内、バリケードを目指していた1体の足下へ舞の騎馬が滑り込んだ。
「砲を、やらせはしない!」
大型スケルトンが振り下ろした手刀を、剣を十字に重ねて受け止めれば、彼女の頭上を越えて飛んだ錬金弾が敵の胸骨を破壊する。Jが魔導バイクの車上から放った1発。再装填を急ぎつつ、ゴースロン騎乗にて彼女に随伴、護衛を務めていたランへ、
「【遊撃】の後送を待っていられない状況になりましたね」
「この数が相手じゃ、まずは僕らが潰れないようにするのが精一杯だなー」
給弾を終えたオイリアンテを、Jが再び撃つ。正確な照準は難しいが、狙わずとも撃てば当たるという敵の密度だ。味方に当てる心配だけしていれば良い。それでも、可能な限りで大型個体に注視した。大型スケルトンの圧力と、それを盾にした小型・中型の勢いに押され、味方前衛は徐々にバリケードへ後退しつつある。絶えず流れ込んでくる敵に分断され、連携も難しくなってきた。早くも混戦に持ち込まれてしまった原因――魔導アーマーとの連携不足、前衛の不足、火砲の出し惜しみ、
(今更考えてる場合か!)
ミリアはオイリアンテを腰溜めに持ち上げると、
「合わせますっ」
やはりオイリアンテを構えたアルマと息を合わせ、接近中の大型を同時攻撃する。敵は上半身を粉々にされ、残った下半身もどう、と後ろへ倒れる。その残骸を跳ね除けながら、なおも小型の群れが殺到する。
間断なく続く戦闘に息急くハンターたちの前で、突然スケルトンの群れがぶわ、と膨らんだように見えた。【遊撃】側で押し止めていた敵が突破に成功、先行部隊と合流したらしい。その推測を裏付けるように、最前線から【後陣】撤退合図の花火が上がる。場違いなほど鮮やかな花火の光の下、敵群は白い大河を成し、泥混じりの雪を跳ね散らしながら一直線に第四キャンプへ――
「危ないですのっ」 チョココがアースウォールを連続で展開、枢と帝国兵たちの周囲に土の防壁を巡らせた。非覚醒者の兵は過酷な近接戦の連続に疲弊し、負傷者も少なくない。チョココが今度は魔法の火球で直近の敵を吹き飛ばすと、千秋率いる覚醒者部隊もバリケードを越えて救援に到着。千秋はトリアージ(識別救急)を設けた上、敢えて軽傷者を優先、法術を使わない通常の治療で対応する。敵の侵入が途切れない以上、こちらも現在戦力の維持を最優先に考えなければならない。やがて土壁が壊され、帝国軍の覚醒者部隊が敵にぶつかった。千秋は軽傷の手当てを終え、残るは重傷者、
「法術で、足だけでも治しますからね。後退して下さい」
「まだやれる。この北伐で、もう何人も同期の桜をやられてんだ……今更、俺ひとり生きて帰れるかよ!」
痛みと怒りに目をぎらつかせる兵士だったが、全身を深々と抉ったスケルトンの爪痕は、明らかに彼の継戦不能を示している。千秋は口をぐっと結ぶと、ロッドをかざして法術の光を浴びせた。傷口が最低限塞がるなり、引き起こして、バリケードのほうへ背中を押す。
「気持ちは……気持ちは分かりますが、今は言うことを聞いて!」
「俺の言うこと、良く聞けよ」
ルオは魔導アーマーの機体後部を駆け上がり、パニック状態の歳若い帝国兵に声をかけた。後退を始めたアーマーの中で1機だけ取り残され、孤立しかけている。当初はスペルランチャーその他火砲の打ち止めを待って操縦を代わるつもりだったが、このままでは操縦者に死者が出ると判断、一番危うい機を選んで駆けつけたのだった。兵士はうわ言のように、
「わ、我々帝国軍兵士は、最後の一兵まで粉骨砕身し歪虚撃滅に当たらねばと」
「馬鹿野郎! 俺たちの後ろには」
スケルトンが機体をぞろぞろと這い上がってきた。味方の狙撃、そしてルオ自身も槍で邪魔な敵を払い落しながら、
「皇帝陛下その人がいるだろう。戻って、陛下をお守りする仕事がまだ残ってる!」
ちらと振り返ると、アーマーを避けて走った敵群がバリケード正面に集合しつつあった。大砲指揮のロニが怒号する。
「正面6門、水平射!」
地面を転がすように放たれた砲弾が敵を薙ぎ倒し、空白地帯を作る。チャンスは今と、ルオが兵を操縦席から引きずり出した。放り出された兵士は混乱の解けないまま、それでも指示通りに逃げていく。追いすがる敵は、
「背骨か腰骨を狙いましょう、セレンさん。1発で移動不能にできる」
カグラとセレンの狙撃が次々仕留めていく。ほっとする間もなく、大型個体が乗り手を失った機体に接近中。ルオはCAMパイロット上がりの勘で自機に素早く迎撃態勢を取らせると、 「急場の代役だが……倒してしまっても良いのだろう?」
機体腕部に装着された鉄球を振り、敵の下肢をばらばらに打ち砕く。
●
ロニが指揮する大砲とオイリアンテ、とりわけ猟撃士の綾瀬が目覚ましい戦果を挙げ、バリケード前に白骨の山を築き上げた。しかし多勢に無勢、次第に押し込まれ、砲撃の合間を縫った敵右翼がバリケードへ突進。帝国兵が槍衾で応じると共に、バリケード上からエリセルがライフルを乱射、ルナと蜜鈴もこれに続く。
「穿て雷槍。我が眼前の敵を焼き貫け――」
蜜鈴の放つ雷撃が、射線上の敵をまとめて刺し貫く。ルナも同じ雷撃の魔法を使うが、
(何て音色!)
骸骨の砕ける音、砲声、悲鳴と怒号、指揮者なき音楽が戦場を満たす。ルナは耳を塞ぎたくなる衝動を殺しつつ、綾瀬のオイリアンテが敵群に空けた穴が後続で埋まるや否や、見計らったタイミングで火球を撃ち込んだ。蜜鈴、エリセル、グリムバルドも加わって、バリケードから敵を引き離そうとする。
「怪我人は無理するな、下がれ!」
グリムバルドが火炎放射と、マテリアルの防御障壁で帝国兵の撤退を援護。だが、撤退する兵を追ってきたスケルトンが遂にバリケードへ取りつき始めた。裏に控えていた射手が一斉に攻撃を集中すると、
「そろそろ動かないと、帰れなくなりますよぉ」
「蜜鈴さんも!」
バリケードを下りたエリセルを見てルナが叫ぶも、蜜鈴は攻撃を火球に切り替えつつ殿を務める構えだ。ルナは足下にすがりつこうとする敵群へ雷撃を撃ち込むと、バリケードを飛び降りた。ここからは、
「わたしたちの出番だ!」
バリケード裏からスーズリーがライフルを差し入れ、発砲した。至近距離からの射撃で少しでも突破を遅らせる。ライナスも馬を駆り、バリケード越しに拳銃を撃った。銃弾に込めたマテリアルの冷気が、一瞬ながら敵の動きを鈍らせる。
「修羅場だな。傭兵時代を思い出す……」
「バリケード左方、敵が到達しました。支援を要請します!」
クラークもライフルを連射しつつ、合間に左肩へつけた無線機に叫んだ。枢を経由してその要請に応じた千秋と覚醒者部隊が、敵群を鋒矢の陣形で切り裂きながら左方の手当てへ走る。しかし右方も健在ではなく、枢やチョココ、兵士たちがバリケードへ押し返されつつあった。枢はトンファーを棍棒のように握って、間近に群がる髑髏を片っ端から叩き割りつつ、
「チョココ、まだ壁は作れるか!?」
「逃げるときの分も考えると、そろそろ限界かもですっ」
壁役の兵たちも動きが鈍ってきた。誘導しきれなかった敵が後ろへ抜けて、わらわらと砲の前に集まり出す。
ロニが騎馬の足を進め、砲兵目がけて襲い来るスケルトンを法術の光で跳ね除ける。鎌を振るい、刈り倒す。それでも敵の行軍は止まず、バリケード左方に続いて中央部も危険な状態になった。砲撃支援が妨害を受け、反撃も間々ならない。業を煮やしたミリアがスペルランチャーへ走る。
「これ以上は待てねーぞ!」
発射準備にかかるミリアを、相棒のアルマが庇い立てた。オリアンテを構えつつ防御障壁を前面に展開、少しでも敵との接触を遅らせる。霧華の騎馬もランチャーを守るべく敵群へ切り込んだ。 「私たちの希望を、そう易々と喰い潰せるとは思わないでくださいね!」
霧華は馬の勢いもそのままに、スケルトンを右に左に、鞭と盾とで打ち据える。咄嗟に鞭を放った大型個体の背後、骸骨の垣根を越えた先に暴食王ハヴァマールの威容。【遊撃】は大分押し込まれてしまったようだ。しかし同時に敵大将も【遊撃】を追って、スペルランチャーの射程圏内へ入りつつある。ミリアが歯を剥いて笑う、
「こいつで挽回だ! 手下のスケルトンごと、ぶっ飛ばしてやるよ」
「待った!」
イェルバートの馬が、スケルトンを蹴散らしながら駆け込んできた。
「スペルランチャーを暴食王に使っちゃ駄目だ!」
機導術の伝波増幅で、いち早く【遊撃】からの無線連絡をキャッチしたイェルバート。受け取った知らせは、暴食王が生体マテリアルの吸収能力を持つ可能性―― 「スペルランチャーは、砲手の生体マテリアルをエネルギーとして射出する兵器……手傷を与えるどころか、餌を与える結果になりかねない?」 アルマの問いにイェルバートが頷く。同じ知らせは無線を介して、右左方のランチャー付近にも伝達済み。最後の切り札、苦境を一変させる筈だったランチャーが最早有効でないと知り、 「絶好のチャンスだってのに……!」
止むを得ず、ミリアは暴食王から狙いを逸らして発射した。ミリアの生体マテリアルが巨大な光線へと変換され、射線上のスケルトンを瞬時に焼き払う。1発で相当数を倒しつつも、暴食王を避けざるを得なかった為に最大効力が発揮できなかった。バリケード各所からスケルトンが途切れなく這い出し、キャンプ内へと侵入を開始。殺到する大群を一時に大量撃破も、分断もできなかった時点でこの結果は見えていた。後はどう逃げるか、
「ミリア!」
アルマが叫ぶ。ランチャー使用の反動でその場に膝を着くミリア。後方からヴィルヘルミナの檄が飛び、帝国軍が撤退を開始する。
●
「陛下より【防衛】隊に撤退命令、【遊撃】側も各自撤収を開始したそうです」
ランはJの報告を聞きつつも、眼下の敵を試作光斬刀で手当たり次第に斬りつける。敵先鋒は今やバリケードを完全に占拠し、キャンプ内へ浸透しつつあった。
「まだ、バリケード付近に残っている方々が。私たちで殿をやりますよ」
「了解、っと……あはは、Jちゃんには指一本触れさせないよー?」
接近してきた敵を斬り伏せるランの後ろから、Jがオイリアンテを撃つ。綾瀬の砲撃も加わり、撤収用トラックへの敵到達を遅延させている間に、
「正面の敵、あんたの術で退かせる!?」
「任せろ!」
後ろに怪我人を乗せたグリムバルドと舞の騎馬が、機導術の炎をたなびかせつつバリケードを飛び越える。後に続いて枢、チョココ、千秋も大量の負傷兵を連れて来た。トラックに辿り着いた怪我人をアルヴィンがやけにはきはきと治療し、トラックで待つエリスへ片っ端から引き渡す。
「サァサァ、慌てず列を組んでネ! 大怪我のヒトを前に!」
「邪魔な荷物は下ろして、焚火に放り込んじゃって!」
アルヴィンは、身体が動けるだけ最低限の治療を兵たちに施す。深手を負った者へは個別に治癒を、それ以外には複数人まとめて法術をかけた。目前の仕事が終わり、エリスが言う。
「まだ奥から、逃げ遅れた人たちが来てるよ!」
「帝国兵パイロット――生存者は全て後退させました」
セレンがルオの魔導アーマーを急かす。カグラと組んで他のアーマー操縦者を逃がした後、残ったルオもスケルトンを踏みしだきながら、機体を後ろ歩きさせた。付近ではロニと蜜鈴、スーズリーが殿となって砲兵たちを逃がしている。ライナスが拳銃を振りかざし、
「負け戦にこれ以上は長居無用だ、お前らも下がれ」
「スペルランチャーさえ使えれば、こんな有象無象に……!」
斧で周囲の敵を払いつつ、歯噛みするスーズリー。だが暴食王は既にキャンプ至近、スケルトンだけをランチャーで巻き込むよう狙っている暇はない。スーズリーは弾を込めたまま放棄された大砲に火を入れ、すかさず自前のバイクへ飛び乗った。大砲の最後の1発が轟くと、
「射抜け炎。厄災の種子を焼き滅ぼせ」
蜜鈴の火球が更に追撃を遠ざける。一瞬の空白、撤退の最後のチャンス。機体を捨てたルオも加え、皆で一斉にキャンプ内へ駆け込むが、こちらも既に敵がひしめいている。
「やっと暴食王が近くで見れそうなのにぃ、残念ですぅ!」
「敵の遠距離攻撃が届く前に、早く!」
エリセルの援護射撃に呼応して、霧華の騎馬突撃が血路を拓く。
「アルヴィンさん、お願いします!」 ルナの火球が霧華の作った退路を押し広げると、駆けつけたアルヴィンのバイクが、足取りのもつれる重傷者を乗せて運び去った。
「武器を処理していく時間はない、ですよね」
ワンドを振るいながら呟くルナに、綾瀬がかぶりを振る。
「アーマーも火砲も、このまま放棄するよりないわ」
「もう少し時間と準備があれば……敵に使われないことを、祈るしかありませんね」
Jと綾瀬のオイリアンテが同時に火を噴き、最後の殿となった霧華にまとわりつく敵を一掃した。ここで弾切れ、
「ミリア、僕らも行きましょう」
アルマが言う。ミリアと共にオイリアンテを捨て、自前の武器で戦い続けていたが、
「貴方となら、生きるも死ぬも一緒だと思っています。けど、ここはまだ死にどころじゃない。必ず次があります――生きましょう」
ミリアの手を取り、トラックへ走る。
「ハンター24名の集合を確認!」
「【遊撃】隊も脱出に成功、回収要請入ってます」
クラークがトラック前に集まったハンターたちを素早くチェックし、イェルバートと共にヴィルヘルミナへ伝達する。しかし彼女は剣を手にしたまま、キャンプを埋め尽くす白い敵群を見据えて動かない。砲声が途切れると、人骨が触れ合う乾いた音ばかりが一帯に響くようになり、皇帝の隣に立っていたエリスも唇を噛み締める――負傷者の全員収容は叶ったものの、遺体まで回収するだけの余裕は誰にもなかった。混戦の最中に倒れ、置き去りにするよりなかった彼らはそのまま暴食王の糧、スケルトンの材料として次回の敵戦列に加わることだろう。今、この場で連れて帰らない限り。
「遺体を取り返してくる」
踏み出そうとするヴィルヘルミナの腕を、アルヴィンが後ろから掴んだ。負傷者の治療と運搬で全身に血を浴びていながら満面の笑顔を見せる彼を、皇帝は怒気も露わに睨み返し、
「このまま、奴らにむざむざと兵の亡骸を冒涜させて溜まるものか! この事態を引き起こしたのは、皇帝たる私の罪なのだ――」
「そして僕らの、ネ。コンナ顔しててモ、僕ダッテ悔しくナイ、悲しくナイ訳じゃないんダヨ?」
その言葉の真偽は本人にも見当がつきかねたが、あくまで笑顔のまま、
「今、トラックに乗せた怪我人だけデモ必ズ生かす。助ケテみせる。ソノ僕に免じテ、陛下は彼らを無事に国へ帰ス手立てを考えテくれないカナ?」
ヴィルヘルミナは目を閉じ、剣の柄が軋むほど強く拳を握り絞めた。最後にかっと目を見開いて、壊滅した第四キャンプを、屍兵の群れを、暴食王の姿を焼きつけると、
「――全車、撤収!」
自らもトラックの荷台へ上がり、すぐさま発進させた。ハンター含め負傷者で満載のトラック部隊は、騎馬・バイク隊と共にスケルトンの追跡を振り切ると【遊撃】隊の回収へ向かう。
車内でも怪我人の手当てが続き、寒さに関わらず、千秋の額には汗が浮いて止まらない。彼女が前線で行った治療と、アルヴィンとロニの法術も功を奏し、積み込んだ兵士から新たな死者を出すことは辛うじて免れた。それでもなお、歪虚王の南進が帝国軍のみならず、人類連合に甚大な被害を与えつつある事実は揺るがない。トラックに併走しつつ、暴食王の剣風と瘴気吹き荒れる第四キャンプ『跡地』を馬上から見送って、
「予め負け戦と分かっていても、悔しさは変わらぬものだ」
ロニが呟いた。同じ思いに沈むハンターと帝国兵たち、その中に、アーマーを降りてからも震えが止まらない若い兵士がいた。ルオはなだめるように、彼の肩へそっと手を置いた。
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