ゲスト
(ka0000)
ダブルグランドシナリオ「【闇光】決死撤退戦・怠惰」

作戦2:コーリアス対応 リプレイ
- ジャック・J・グリーヴ
(ka1305) - 十色 エニア
(ka0370) - メトロノーム・ソングライト
(ka1267) - 神楽
(ka2032) - 鹿島 雲雀
(ka3706) - マッシュ・アクラシス
(ka0771) - バルバロス
(ka2119) - 鵤
(ka3319) - 尾形 剛道
(ka4612) - 守屋 昭二
(ka5069) - 薄氷 薫
(ka2692) - クローディオ・シャール
(ka0030) - エヴァンス・カルヴィ
(ka0639) - ジャック・エルギン
(ka1522) - アシュリー・クロウ
(ka1354) - 星輝 Amhran
(ka0724) - Uisca Amhran
(ka0754) - 瀬織 怜皇
(ka0684) - ヴォルフガング・エーヴァルト
(ka0139) - 七夜・真夕
(ka3977)
●その力の正体
「すまねぇ……ちょっと調べさせてもらうぜ」
遠くから近づくコーリアスと、それを迎撃すべく向かう仲間たちを目で追い。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、目の前の、金の像と化した兵士に目線を戻す。
深く息を吸い、平常心を保ち。その口の中を、彼は調べ始める。
――叩いて見ても、音は金属。中空な感じはしない。完全に中身まで金のようだ。
――服の端を、切り落として見ても、それは元に戻ったりはしない。柔らかい……つまり不純物が混じった金ではない。純金か。
貫かれた喉を見れば、その中には何もない。兵士を貫いた『弾丸』は、跡形も無かった。例え空気中の成分を錬成したとしても、その後には水が残るはず。だがそこには文字通り、『何も無かった』のだ。
「息が詰まる――ってぇと――息――っ!?」
急にある可能性に思い至り、ジャックは唾を飲み込む。
(「まさか……空気まで『錬成』できるってのか!?」)
若しもそれが本当ならば、敵は文字通り無尽蔵の『弾薬』と、理論上無限の『射程範囲』を持つ事になる。それを報せるべく、彼は前線の仲間たちの元へと向かう。
●分断
「今よ!」
十色 エニア(ka0370)の合図と共に、彼女の雷撃、メトロノーム・ソングライト(ka1267)の火炎球が一帯を光で包み視界を封じ、神楽(ka2032)の掃射による着弾音が、聴覚を撹乱する。
誰しも彼に直撃を与えようとは思っていなかった。この一斉攻撃は飽くまでも――コーリアスの感覚を封じ、後に繋げる為。
「ほう。中々面白い手だね。どう繋げてくるのかな?」
コーリアスはその歩みを止める。丸でハンターたちの次の一手を待つかのように。
「嘗められたもんだぜ――!」
口ではそう言った物の、やはりコーリアスの物質変換を警戒してか。接近せずに、爆発の裏から剣を大きく振り下ろす鹿島 雲雀(ka3706)。
剣の軌跡から放たれた二発の衝撃波はそれぞれコーリアスの頭部、そして脚部を狙い飛来する。
ドン。
爆発音。
「ちっ……これで倒せるっちゃ思ってなかったが、まさか――」
コーリアスは、怯みすらしなかった。
頭部と脚部からそれぞれ、銀色の物体が伸び。身体に接触する前に衝撃波とぶつかり、誘爆させたのだ。
「…取り込み中でして、お引取り頂きたいですね」
「僕をもてなす必要はないよ。勝手に研究していくのでね」
「寧ろ私としては、後学の為に貴方を研究したいくらいなのですが」
――衝撃波は雲雀の一撃により、既に物質変換で防御してくる事が分かった。故に、マッシュ・アクラシス(ka0771)が次に試すのは――彼が異なる状況に同時に対処できるか否か。
「ふん……かの十三魔よりも 恐ろしい相手とな? 心躍るではないか!」
その姿が象徴する通りの狂戦士が如く、バルバロス(ka2119)が斧を振り上げる。
叩き付けられた斧の手応えは、然し山を打つが如く。だが、その程度の障害で止まる彼でもない。山が道を遮るならば、山を打ち崩そう――それが、魂朽ち果てようとも戦い続ける狂戦士一族の族長、バルバロスの生き様なのである。
(「――ここ!」)
幾度目かのバルバロスの叩きつけに合わせて、マッシュもまた動く。斧とは別の角度から、黒いサーベルが蛇のように蠢き、コーリアスの首を噛み千切らんと襲い掛かる。
キン。斧とサーベルが直撃した場所が、同時に銀色の物質に包まれる。
「うん、面白くする為に……種明かしをしてしまおう。僕は確かに、二つ以上の物に『全く同時に』錬金術を発動させる事はできない。けれど――」
その仮面の下から覗く口が、大きく笑みを浮かべて歪む。
「――貴公たちの目的――『僕に一撃を与える事』でさえ分かれば防ぐのは簡単だ。『僕自身』と言う『物』に対して錬金術を施せばいいのだから」
その手が、マッシュに向けて伸ばされる。然しそれは、飛来した風の刃によって、弾かれる事になる。
「今の内に回避を――!」
メトロノームの歌声と共に、無数の風刃が更に飛来する。それに紛れ、エニアの雷撃が、コーリアスを貫いた。
「へぇー。面白い。確かにそういった直線電撃は、金属質であるこの物質では防げないだろうね」
惜しみの無い、賞賛の台詞。然し放った当人であるエニアは、全く嬉しくはなかった。
――コーリアスが全く、傷を押えたり、苦しむ様子がなかったからだ。
けれど一撃は、確かにコーリアスに届いた。ならば後は、根競べだ。
「……純粋なマテリアルは変換できなくて、物理的に防御するしかない、か。――その能力の正体、見えてきたかも知れないねぇ」
鵤(ka3319)の放つ機導砲の光条が、コーリアスに突き刺さる。エニアのライトニングボルトと違い、貫通能力を持たないそれは、金属化したコーリアスを貫く事はできない。だがそれでも――衝撃は、中に伝わっている筈だ。
「さて、防御範囲も見てみたいもんだねぇ」
更に魔法陣が鵤の頭上に展開され、三つの光球が回転を始める。
「んー、けど、流石に毎度毎度邪魔されちゃ、『面白くない』」
飛来する光を見据えながら、ドン、と重く、コーリアスの足が大地を踏みしめる。
「ちょっと待っててね。後で相手するから」
その言葉と共に、巨大な壁がその場に立ち上がり、襲い掛かる三つの光を防ぐ。
次々と立ち上がる壁はドームのような物を形成し、取り囲むようにしてハンターたちの前衛を後衛から完全に分断したのであった。
●Game of Korias
「不思議な手を使ってくれる……ますます、これからどんな奇術を披露してくれるのか、興味が湧いたぜ」
呟きながら、隙を伺う尾形 剛道(ka4612)の横から、守屋 昭二(ka5069)が飛び込む。
「その手の内、見せてもらうぞい」
一瞬にして、距離が詰まる。
「ほう……面白い動きだ、ご老人」
「フンッ!」
裂帛の気合と共に放たれる、神速の一閃。
キン。金属と金属が激突する音。
刀は、コーリアスの表面装甲にめり込んだように見えた。
(「いや――これは……」)
めり込む等という生易しい物ではない。刀は完全にコーリアスの装甲と『融合』していた。 キン。刀が折れる。折ったのはコーリアスではなく、昭二自身。このまま侵食され、取り込まれるよりは、自ら脱出した方がいいとの判断だろう。即座に予備の刀を取り出し、構えなおす。
「おたくよ……そうやって鉄の殻に篭ってるしか、能がないのか? がっかりだ」
挑発の言葉と共に、昭二と入れ替わるように、薄氷 薫(ka2692)が前に出る。
突き出される剣。それが触れる箇所を、瞬時に金属に変えるコーリアスだったが――
「――!」
触れた瞬間。放たれる銃弾。衝撃にずりっと、一歩後ろに下がるコーリアス。
「至近距離での銃撃。効いたろ?」
ほそくえむ薫。
「うん、そうだ、僕が求めていたのは、そういう刺激だ」
伸ばされる手をソードで切り払う。その勢いで一回転し、コーリアスの顔面に銃口を突きつけ、引き金を引く。
ドン。暴発した銃。先ほど触れた際に、銃身を詰まらせたとでも言うのか。
爆煙の下。視界が遮られた一瞬に乗じて、尾形がコーリアスに肉薄。
「……随分と余裕だな、妬けるじゃねェか!」
大太刀の猛打と、ピンヒールの足による蹴撃が、完全に体勢を立て直していなかったコーリアスを後ろに押しやる。
「ええ。もうちょっと刺激的だといいのですが」
「刺激がほしいなら……今与えてやらァ!」
更に太刀を上段に振り上げた瞬間。地面から巨大な鋼鉄の拳が突き出し、彼を後ろの壁――遠距離班と隔離する為に作られたその壁に、押し付けて動きを封じる。
「チャンスだね」
背後から、コーリアスを狙う刀閃。彼の意識が剛道に向いた瞬間を狙った、マッシュによる一撃だ。
「来ると思っていたよ。……隙を『見せれば』ね」
コーリアスは、わざとマッシュを誘った訳ではない。ただ彼と剛道を含め、『隙狙い』を行ったハンターは、余りにも多い。それはコーリアスに、『隙を見せれば誰かしら仕掛けてくるだろう』と言うアイデアを与えたのである。
マッシュの刃は、コーリアスの肌に食い込んだ。然し皮膚一枚の下は……水銀のような色をした液体。それは直ぐに固着し、マッシュの黒剣を絡め取る。
伸ばされる手。マントを盾に、その手に直接触れないよう、マッシュが受け止める。
「ほう……考えたね。確かに僕の能力は直接触れないと効果が出ない」
それでもコーリアスは、マントに触れた。
「それなら、他の物に変えてしまえばいい」
ジュッ。
一瞬にしてマントは、液体へと変えられる。
「!!」
そしてその液体は飛び散り、マッシュの全身を焼く。
「強酸か……! 野郎……!」
無理やり武器を投擲する剛道。それを弾く為コーリアスが片腕を動かした瞬間、クローディオ・シャール(ka0030)が盾でその視界を遮り、マッシュを救出し、ヒールを施す。
一命は取り留めた物の、この場での継続戦闘は最早もう無理か。
バシャン。油が、突き出されたコーリアスの手を覆う。
(直ぐに金にならないってこたぁ、やっぱりあの能力は自動発動じゃねぇか)
掛けた雲雀が、思案する。だが、直ぐにその思考は中断される。コーリアスが腕を横に振り、油を払う。飛び散った油の雫は一瞬にして、無数の鋼鉄の短刀と化し、彼女を襲ったのである。
「ちっ……間合い掴みにくいったらありゃしないぜ」
回避し、そして弾き。何とか急所への直撃は避けたが……手足には、幾本もの短刀が突き刺さっている。
がくん。急に、体から力が抜ける。
――怠惰の感染。まさか、ビックマーが、砦に接近し始めたというのか。 「ダレてる場合じゃねぇ! テメェ等が決めた覚悟はそんなもんか!?」
雲雀の叫びに、何とか残った力をかき集め、ハンターたちは、コーリアスと相対する。
「……あの王様の力を受けて、まだこれだけ戦えるとは……僕はますます貴公らに興味が持てて来ましたよ」
さも嬉しそうに言い放ったコーリアス。
三方面から彼を止める為に武器を振るう、バルバロス、昭二、そして薫。居合いも斧の一撃も、目の前に立ち上がる土の壁を打ち砕いたのみ。直接コーリアス自身に命中した手応えはない。
「流石に同じ手ばかりでは、僕も飽きてきてしまうね……」
その言葉には、何度退けても戻ってくるハンターたちへの僅かな怒りが含まれていた。
ヒュッ。土煙の中、伸ばされた手が狙ったのは昭二。全ての力を攻撃に傾け、回避に注力しなかった彼が、この一撃を回避する術は無かった。
「Gas」
掴まれる腕。手の先から、分解されていく。血の霧になっていく。このままでは全身を分解されて死ぬ事になるだろう。
――クローディオが、間に割り込まなければ。
ドン。体当たりで強引に、コーリアスを引き離す。
「ほう……また新しい者か。さて、貴公はどう戦うのかな?」
だが、彼は盾を構えたまま、昭二に手を翳し、癒しの光を放つのみ。
「来ないのか。……興ざめだな」
専守防衛、回復重視のクローディオの戦術は、然し刺激を求めるコーリアスには酷く退屈な物に見えた。
無造作に接近し、手を伸ばす。
「Marble」
「――っ!」
覚悟は決めた。この者の能力を究明するため、犠牲になっても構わないと。
わざと腕を盾にし、一撃を受ける。
掴まれた部分から、少しずつ、体が石になっていく。奥歯を噛み締めて、キュアの魔術。効果はない。呪術的な、或いは毒物の系統ではないと言う事か。すぐさまに死に至る事はないが、少し時間が立てば、クローディオ自身も石像になるだろう。
「く――」
ならば最後の手段。クローディオは自らの腕に向けて、盾の端を振り上げた。
●防衛線突破
自ら腕を断ったクローディオが、昭二と共に後退するのと同時に。
バルバロスと薫の刃が――同時に、コーリアスを捉える。
「……いい加減、うざいんだけどねぇ」
幾度吹き飛ばしても、同じように戻ってきて、同じように武器を振るう。
二人は、コーリアスにとっては彼の最も嫌う『退屈な相手』であった。
――彼は、面白そうな相手は殺そうとはしなかった。相手に何が出来るのか――そんな期待感があった。だが、若しも相手がそれ以上の刺激がない、と見るのならば。それは彼にとって、新たな刺激に向かう路上の、『障害物』でしかない。
「Mudden」
コーリアスの周囲の地面が、一瞬にして泥沼と化す。
それは彼自身をも含め、接近した者全員の移動をほぼ、封じる。
両手が、それぞれ薫とバルバロスに伸ばされる。
「ウォラァ!」
斧で、その手を弾くバルバロス。然し斧はその一瞬で、水のような液体になり、地に垂れ落ちる。
すぐさま予備の斧に切り替えようとするが、その一瞬の隙をつき、コーリアスの手が彼の身体に掛かる。
「いい加減、静かにしてくれないかな――Wooden」
カン。体の一部が、木に変わってしまう。
「がぁぁぁ――!」
既に意識もほぼ無い。だがそれでも狂戦士は、斧を振るい続ける。それが彼の誇り。如何なる障害が、脅威が、目の前に立ちはだかろうと。例え腕が動かなくなろうとも、その肉体――頭部を鈍器と化し、敵に叩きつけ続ける。
ブン。力を振り絞った頭突きは、終に、コーリアスの仮面の前で停止する。
猛烈な風圧が、コーリアスの髪を、大きく靡かせる。バルバロスの全身を木化が侵食した――その証なのだ。
「おいおい、一発で倒せないのか?錬金術士ってのも大した事ないな」
挑発しながら、薫の銃剣がコーリアスに突き立てられる。表装甲を貫通はしていない物の、幾度にも渡る攻撃により、その箇所は既に、凹みが生まれている。――バルバロスの連打に晒された箇所と、同様に。
「だからしつこいって――Bronze」
「しつこいのが耐えられないなら錬金術はできないだろう?」
カン。尚も止まぬ挑発に、突き立てられた腕を掴まれ、そこから、銅に変わっていく。
だが、それでも、彼らの猛攻は止まない。繰り返される打撃の応酬に、体が動かなくなろうとも。
「最後の最後まで付き合ってもらう――!」
薫のその攻撃は、最後の一瞬まで続く事になる。腕まで銅化が届き、全身が固まる、その一瞬まで。
「感謝するぜ――!!」
そして、作り出されたその『チャンス』を、機を伺っていたハンター二名は、見事に掌握した。
仲間にさえ気づかれぬよう別行動を取ったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が放った琥珀の衝撃波が、背後からコーリアスに直撃する。その一瞬の隙を突き、ジャック・エルギン(ka1522)が突進。低姿勢からの突きが、彼に接触する。
「隙は――偽装な事もある、そう言った筈だけどね?」
笑みを浮かべるコーリアス。接触の瞬間、その装甲が、ジャックの剣を取り込み始める。
パキン。
「そう来るのは、勿論分かってたぜ」
剣が途中から折れる。いや、自分から、分解したと言うのか。その中から『短刀』を引き出し、ジャックはそれを、薫の銃剣撃によって凹んだ箇所へと、全力で突き立てる!
ブシュッ。噴出す血。
それは最強と思われていたコーリアスが、初めて傷ついた証。
「このまま真っ二つにしてやらぁ――!」
振るわれる大剣。それはバルバロスの作った、斧の痕跡に嵌るようにして直撃し。そこからも血が噴出す事になる。
「――成る程。僕にまともな一撃が入れられたのは、もう何百年ぶりかな」
その声は、有る程度の嬉しさを孕んでいたようで。
「だから僕も、特別なやり方をしよう」
流れ出した血を金属に変え、何とか傷を塞ぐ。
コーリアスの両手がそれぞれ、短刀と大剣に触れる。
「Forge――Stinger」
武器はそれぞれ形を変え、その全体から無数の棘を吹き出す。それは回避の隙すら与えずに、彼らの主に、無数の突きを与えたのであった。
「一太刀入れられたぜ……ありがとな――っ!?」
倒れる前。感謝の言葉を薫に述べようとしたジャックの目に入ってきたのは、物言わぬ銅像と化した、薫の姿であった。
●進撃
壁を貫通するであろう雷撃では、中の者たちの位置関係が外からは把握できない以上、味方を打ち貫いてしまう可能性もある。故に後衛陣は、エニアのライトニングを封印し、メトロノームの風刃と神楽の銃撃、そして鵤の機導砲による壁の破壊を待つ事になったのだが……如何せん三人では少し時間が掛かる。多くのハンターたちが、砦内部に於ける脱出路の用意に回されていたのだ。
ドン。終に、穴が穿たれる。その壁の穴からコーリアスが出てきた瞬間。その全身は――猛烈な雷撃と爆発の嵐に晒される事になる。
(彼が前に来てると言う事は、前衛の皆様は……もう……)
だからこそ、彼のこれ以上の前進を、押し留めなければならない。そう心に念じ、メトロノームは更なる魔術を練り上げる。
「うーん。確かにこれは面倒かな。普通の雷撃ではないみたいだし」
彼女の火炎球の爆発による視界遮断、そして変化した表皮による防御を貫通する、エニアの雷撃は、飽くまでも『理』を捻じ曲げる事を能力とするコーリアスには対処しにくい物であった。
――魔術は、『理』の内にないが故に。
「どーもどーもー! 清廉潔白なる小説家、アシュリー・クロウです! さて、そこの仮面の方……ちょぉーっと取材させて貰っても? 戦いながらでも構いませんので」
火球による爆発のその下を潜り抜け、アシュリー・クロウ(ka1354)が切り上げを以って、コーリアスを襲う。
「問題ないけど……何を知りたいんだい?僕の目的なら…単に刺激を求める。それだけだよ?」
「では今回、一番面白かったのは何でしょう?」
「皆が僕を傷つけようと、様々な手段を使ってきた事かな。その裏の理屈を考えると、すごい面白いんだよね」
一見、普通のインタビューにも見えるこの会話。驚くべきはアシュリーが攻撃しながら、コーリアスが硬化した腕で防御しながら行われていた、と言う事。
そして、同時に接近した神楽もまた、戦槍を振るい、コーリアスの足を狙う。
「いかせねーっす!」
「ありゃ、こりゃちょっと……」
微妙に不快の表情を浮かべるコーリアス。足を金属化させ、一撃を受けた次の瞬間、足で地面を強く踏む。
「Fist of Earth」
「!」
僅かな地響きに気づくメトロノーム。然しこれもまた――予想の範疇。即座に自らの足下にアースウォールを施し、変化を『止める』
「成る程、考えたね。……先に変化させてしまう事でこちらの物質変成を無効化させたか。けど――」
口角が、笑みに変わる。
「立てたその壁。それもまた、物質だよ」 アースウォールで形成された壁から、巨大な拳が突き出され、メトロノームを突き飛ばし、壁にたたきつける。
「仲間たちが物言わぬ像になるのを見ても、尚僕に仕掛けてくる……あの中にあるのは、相当重要な物のようだね。……ますます興味を持ったよ」
地面から無数のスパイクが、半円型に前方に噴出される。
「あっちゃー……こりゃ、やばいかも?」
自身はまだ継戦可能。然し、負傷した仲間たちの事を考えれば――ここは引くべきだ。
エヴァンスとジャックを拾い上げ、アシュリーが後退する。
「全員が助かる為に……通すわけには行かないっすからね!」
動物による、体当たり。それは先ほど、ジャックが刺した傷に当たり。僅かに眉を顰めるコーリアス。
「うん、同じ攻撃は飽きてるんだから、さっさと下がってほしいかな」
回り込もうとする彼を追う神楽。次の瞬間、その足下から、巨大な壁が二つ、立ち上がる。トラップに引きこまれたとでも言うのか。
バン。
●侵入
「ほーん、そこがねぇ?」
コーリアスの反応を見た鵤が、その傷に気づくのは難しくなかった。エニアもまた、そこに、雷撃を向ける。
「……そこからなら、届かないと思った?」
ドン、と強くコーリアスが地面を踏みつけると、巨大な壁が、それぞれエニアと鵤の前に立ち上がる。
「っ……離れて!!」
メトロノームが受けた一撃を思い出したエニアは、即座に身に風の障壁を纏い、後退する。その甲斐あって、ギリギリで、壁から突き出された鉄拳を回避する。だが――鵤はそうは行かなかった。様々な防御装備が設置されている砦の上は逃げるスペースは限られている――特に急には。
叩きつけられ、落ちそうになるのを、何とか端を掴んで回避する。
その間に、エニアの放つ雷撃の雨をかわしながら、コーリアスは砦の中へと侵入したのだった。
「イスカ、急げぃ! 予想通り――強行突破、侵入されたのじゃ!」
トランシーバーを通して、愛する妹に連絡した直後。星輝 Amhran(ka0724)は砦の入り口で、目の前まで侵入してきた彼の錬金術士と対峙していた。
戦況が悪いのは見ていて分かった。だが、それでもどうにかできる物ではない。戦況が悪いからと言って敵を退ける奇策はなく、通路を製造している者は既に最高速でそれを行っている。
ぎりっと奥歯を噛み締め、
「暫し……付き合ってもらうのじゃ」
ばら撒かれる手裏剣。それらは、まるで己の命を持つかのように、噴射による白い尾を帯び四方からコーリアスに襲い掛かる。正にそれが突き刺さる、次の瞬間。
「――Fuse」
それは、コーリアスの金属化した表面装甲に取り込まれる。
若しもこれが手足を狙った物ではなく、首筋と脇腹にあった、先のハンターたちにつけられた傷を狙った物であれば、有効打は与えられたかも知れない。
「お返しするよ。――最も僕は投げる精度が余りなくてね、こういう形になっちゃうんだが」
全身の装甲から、無数の針が覗き始める。
「Forge――Million Spike」
針が、空間を埋め尽くすが如く、四方に放たれた。
●Diggers
一方、連絡を受けたUisca Amhran(ka0754)は、砦の上から降りてきた最愛の恋人である瀬織 怜皇(ka0684)に声を掛ける。
「もう積み込みは終わりましたか?」
「大体は。後5分ほどあれば、撤退できますね」
「それまで砦が持てばいいんだけどね――」
怠惰の感染の効果で、通路製作の効率は大分落ちている。硬い岩盤等は、彼女自身が強打を以って粉砕しているが――彼女自身も影響を受けている以上、それ程早く進んではいない。
「――レオ。先に行ってください」
「ですが――」
「今は少しでも、傷ついた方をあれから遠ざけるのが先決です。人の命が――掛かっているのです」
暫く、俯いた後、こくりと頷く怜皇。
その瞬間、洞窟が大きく揺れ、掘った前方の一部が崩落する。
「……っ……早く!」
●遭遇
崩落の直接的な理由は、ビックマーの拳ではなかった。寧ろ――
「そこか――!」
外の戦いを、星輝やアシュリーを通して情報を掴んでいたヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)。
狙うはただ、肩と脇腹にある、装甲の傷跡。理由は不明だが、直接肉体を傷けられた部分は、そう簡単に変化できないらしい。
放たれた衝撃波は、しかしぐにょりと伸びてきた壁によって阻まれる。
「ここは寧ろ僕の方が有利だと思うんだけどね。ほら、材料が一杯あるし」
そのまま壁の一部が切り離されて金属に変わり、棘を生やしてヴォルフガングに向かって転がってくる。ギリギリで壁に張り付くようにして、それを回避した直後、直ぐ近くにまでコーリアスが近づいた事に気づく。
「Steel」
何とか腕などの可動部位が触れられるのは回避したが、脇腹を触れられ、鋼鉄に変わる。
「丁度いい……使わせてもらう」
「ん……?」
わざと金属になった部位を盾にするような体勢で、接近するヴォルフガング。身体を翻すように、放った突きが、コーリアスの脇腹に突き刺さる。
「っ――なかなか、考えたねぇ。けど――」
眉を顰めながらも、コーリアスの手が、直接盾にされた金属部位に掛かる。
「Forge――Blades」
「がっ――」
血を吐くヴォルフガング。
「内部に向かって刃に変えてみた。――内臓がズタズタだ。暫くは動かない方がいいと思うよ?」
ヒールを以ってしても、動けるまで回復するには時間が掛かる。彼は、コーリアスを見送るより他なかった。
「いらっしゃい」
砦の一室。じりじりと、緊張した表情で、後ずさりする七夜・真夕(ka3977)。
ちらりと、目線が傍に置かれてた巨大な箱に向けられる。
「ほう……」
それに近づいたコーリアスが、覆われていた布を引いた瞬間。四方に、小麦粉が飛び散る!
「引っかかったね……!」
即座に後退する真夕。密かに魔力を練り、追ってきたのならば火球を放つ用意をする。
「いい手だ。けれど――自分が、自分の策略の領域の中に入るべきではなかったね」
ぱちんと、指の鳴る音。
「ちょっとダイナミックな空気清浄法をお見せしよう。Dust Craft――Tristinger」
「ぁ……!」
その場に倒れこむ真夕。息が、出来ない。
それどころか、口の中、喉、肺、その全てに突き刺すような痛み。
周りを見渡せば、直ぐに何が起こったのかが理解できた。空気中に浮いていた小麦粉の粒子が、全てまきびし状の金属に変化し、地に落ちていた。それはつまり、脱出する際に彼女が僅かに吸い込んだ物も――
「さて、本物はどこかな」
壁を『分解』しながら、コーリアスは進む。
元々エネルギー反応は掴んでいた。この部屋に来たのは、途上にあったから、なのだ。
そして彼は、そこに到達した。
「――成る程」
触れるだけで、彼はその構造を理解する。
「中々貴重な材料も採用されているし――もったいない。回収していくかな」
もう一度触れる。
「Disintegrate」
直後、まるで砂になるように、ブロートは分解されていき、それは彼のポケットに納まっていく。
「中々に――面白い」
コーリアスはあえて、直ぐその場から立ち去らなかった。
『作り手』に挨拶する為に。
「すまねぇ……ちょっと調べさせてもらうぜ」
遠くから近づくコーリアスと、それを迎撃すべく向かう仲間たちを目で追い。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、目の前の、金の像と化した兵士に目線を戻す。
深く息を吸い、平常心を保ち。その口の中を、彼は調べ始める。
――叩いて見ても、音は金属。中空な感じはしない。完全に中身まで金のようだ。
――服の端を、切り落として見ても、それは元に戻ったりはしない。柔らかい……つまり不純物が混じった金ではない。純金か。
貫かれた喉を見れば、その中には何もない。兵士を貫いた『弾丸』は、跡形も無かった。例え空気中の成分を錬成したとしても、その後には水が残るはず。だがそこには文字通り、『何も無かった』のだ。
「息が詰まる――ってぇと――息――っ!?」
急にある可能性に思い至り、ジャックは唾を飲み込む。
(「まさか……空気まで『錬成』できるってのか!?」)
若しもそれが本当ならば、敵は文字通り無尽蔵の『弾薬』と、理論上無限の『射程範囲』を持つ事になる。それを報せるべく、彼は前線の仲間たちの元へと向かう。
●分断
「今よ!」
十色 エニア(ka0370)の合図と共に、彼女の雷撃、メトロノーム・ソングライト(ka1267)の火炎球が一帯を光で包み視界を封じ、神楽(ka2032)の掃射による着弾音が、聴覚を撹乱する。
誰しも彼に直撃を与えようとは思っていなかった。この一斉攻撃は飽くまでも――コーリアスの感覚を封じ、後に繋げる為。
「ほう。中々面白い手だね。どう繋げてくるのかな?」
コーリアスはその歩みを止める。丸でハンターたちの次の一手を待つかのように。
「嘗められたもんだぜ――!」
口ではそう言った物の、やはりコーリアスの物質変換を警戒してか。接近せずに、爆発の裏から剣を大きく振り下ろす鹿島 雲雀(ka3706)。
剣の軌跡から放たれた二発の衝撃波はそれぞれコーリアスの頭部、そして脚部を狙い飛来する。
ドン。
爆発音。
「ちっ……これで倒せるっちゃ思ってなかったが、まさか――」
コーリアスは、怯みすらしなかった。
頭部と脚部からそれぞれ、銀色の物体が伸び。身体に接触する前に衝撃波とぶつかり、誘爆させたのだ。
「…取り込み中でして、お引取り頂きたいですね」
「僕をもてなす必要はないよ。勝手に研究していくのでね」
「寧ろ私としては、後学の為に貴方を研究したいくらいなのですが」
――衝撃波は雲雀の一撃により、既に物質変換で防御してくる事が分かった。故に、マッシュ・アクラシス(ka0771)が次に試すのは――彼が異なる状況に同時に対処できるか否か。
「ふん……かの十三魔よりも 恐ろしい相手とな? 心躍るではないか!」
その姿が象徴する通りの狂戦士が如く、バルバロス(ka2119)が斧を振り上げる。
叩き付けられた斧の手応えは、然し山を打つが如く。だが、その程度の障害で止まる彼でもない。山が道を遮るならば、山を打ち崩そう――それが、魂朽ち果てようとも戦い続ける狂戦士一族の族長、バルバロスの生き様なのである。
(「――ここ!」)
幾度目かのバルバロスの叩きつけに合わせて、マッシュもまた動く。斧とは別の角度から、黒いサーベルが蛇のように蠢き、コーリアスの首を噛み千切らんと襲い掛かる。
キン。斧とサーベルが直撃した場所が、同時に銀色の物質に包まれる。
「うん、面白くする為に……種明かしをしてしまおう。僕は確かに、二つ以上の物に『全く同時に』錬金術を発動させる事はできない。けれど――」
その仮面の下から覗く口が、大きく笑みを浮かべて歪む。
「――貴公たちの目的――『僕に一撃を与える事』でさえ分かれば防ぐのは簡単だ。『僕自身』と言う『物』に対して錬金術を施せばいいのだから」
その手が、マッシュに向けて伸ばされる。然しそれは、飛来した風の刃によって、弾かれる事になる。
「今の内に回避を――!」
メトロノームの歌声と共に、無数の風刃が更に飛来する。それに紛れ、エニアの雷撃が、コーリアスを貫いた。
「へぇー。面白い。確かにそういった直線電撃は、金属質であるこの物質では防げないだろうね」
惜しみの無い、賞賛の台詞。然し放った当人であるエニアは、全く嬉しくはなかった。
――コーリアスが全く、傷を押えたり、苦しむ様子がなかったからだ。
けれど一撃は、確かにコーリアスに届いた。ならば後は、根競べだ。
「……純粋なマテリアルは変換できなくて、物理的に防御するしかない、か。――その能力の正体、見えてきたかも知れないねぇ」
鵤(ka3319)の放つ機導砲の光条が、コーリアスに突き刺さる。エニアのライトニングボルトと違い、貫通能力を持たないそれは、金属化したコーリアスを貫く事はできない。だがそれでも――衝撃は、中に伝わっている筈だ。
「さて、防御範囲も見てみたいもんだねぇ」
更に魔法陣が鵤の頭上に展開され、三つの光球が回転を始める。
「んー、けど、流石に毎度毎度邪魔されちゃ、『面白くない』」
飛来する光を見据えながら、ドン、と重く、コーリアスの足が大地を踏みしめる。
「ちょっと待っててね。後で相手するから」
その言葉と共に、巨大な壁がその場に立ち上がり、襲い掛かる三つの光を防ぐ。
次々と立ち上がる壁はドームのような物を形成し、取り囲むようにしてハンターたちの前衛を後衛から完全に分断したのであった。
●Game of Korias
「不思議な手を使ってくれる……ますます、これからどんな奇術を披露してくれるのか、興味が湧いたぜ」
呟きながら、隙を伺う尾形 剛道(ka4612)の横から、守屋 昭二(ka5069)が飛び込む。
「その手の内、見せてもらうぞい」
一瞬にして、距離が詰まる。
「ほう……面白い動きだ、ご老人」
「フンッ!」
裂帛の気合と共に放たれる、神速の一閃。
キン。金属と金属が激突する音。
刀は、コーリアスの表面装甲にめり込んだように見えた。
(「いや――これは……」)
めり込む等という生易しい物ではない。刀は完全にコーリアスの装甲と『融合』していた。 キン。刀が折れる。折ったのはコーリアスではなく、昭二自身。このまま侵食され、取り込まれるよりは、自ら脱出した方がいいとの判断だろう。即座に予備の刀を取り出し、構えなおす。
「おたくよ……そうやって鉄の殻に篭ってるしか、能がないのか? がっかりだ」
挑発の言葉と共に、昭二と入れ替わるように、薄氷 薫(ka2692)が前に出る。
突き出される剣。それが触れる箇所を、瞬時に金属に変えるコーリアスだったが――
「――!」
触れた瞬間。放たれる銃弾。衝撃にずりっと、一歩後ろに下がるコーリアス。
「至近距離での銃撃。効いたろ?」
ほそくえむ薫。
「うん、そうだ、僕が求めていたのは、そういう刺激だ」
伸ばされる手をソードで切り払う。その勢いで一回転し、コーリアスの顔面に銃口を突きつけ、引き金を引く。
ドン。暴発した銃。先ほど触れた際に、銃身を詰まらせたとでも言うのか。
爆煙の下。視界が遮られた一瞬に乗じて、尾形がコーリアスに肉薄。
「……随分と余裕だな、妬けるじゃねェか!」
大太刀の猛打と、ピンヒールの足による蹴撃が、完全に体勢を立て直していなかったコーリアスを後ろに押しやる。
「ええ。もうちょっと刺激的だといいのですが」
「刺激がほしいなら……今与えてやらァ!」
更に太刀を上段に振り上げた瞬間。地面から巨大な鋼鉄の拳が突き出し、彼を後ろの壁――遠距離班と隔離する為に作られたその壁に、押し付けて動きを封じる。
「チャンスだね」
背後から、コーリアスを狙う刀閃。彼の意識が剛道に向いた瞬間を狙った、マッシュによる一撃だ。
「来ると思っていたよ。……隙を『見せれば』ね」
コーリアスは、わざとマッシュを誘った訳ではない。ただ彼と剛道を含め、『隙狙い』を行ったハンターは、余りにも多い。それはコーリアスに、『隙を見せれば誰かしら仕掛けてくるだろう』と言うアイデアを与えたのである。
マッシュの刃は、コーリアスの肌に食い込んだ。然し皮膚一枚の下は……水銀のような色をした液体。それは直ぐに固着し、マッシュの黒剣を絡め取る。
伸ばされる手。マントを盾に、その手に直接触れないよう、マッシュが受け止める。
「ほう……考えたね。確かに僕の能力は直接触れないと効果が出ない」
それでもコーリアスは、マントに触れた。
「それなら、他の物に変えてしまえばいい」
ジュッ。
一瞬にしてマントは、液体へと変えられる。
「!!」
そしてその液体は飛び散り、マッシュの全身を焼く。
「強酸か……! 野郎……!」
無理やり武器を投擲する剛道。それを弾く為コーリアスが片腕を動かした瞬間、クローディオ・シャール(ka0030)が盾でその視界を遮り、マッシュを救出し、ヒールを施す。
一命は取り留めた物の、この場での継続戦闘は最早もう無理か。
バシャン。油が、突き出されたコーリアスの手を覆う。
(直ぐに金にならないってこたぁ、やっぱりあの能力は自動発動じゃねぇか)
掛けた雲雀が、思案する。だが、直ぐにその思考は中断される。コーリアスが腕を横に振り、油を払う。飛び散った油の雫は一瞬にして、無数の鋼鉄の短刀と化し、彼女を襲ったのである。
「ちっ……間合い掴みにくいったらありゃしないぜ」
回避し、そして弾き。何とか急所への直撃は避けたが……手足には、幾本もの短刀が突き刺さっている。
がくん。急に、体から力が抜ける。
――怠惰の感染。まさか、ビックマーが、砦に接近し始めたというのか。 「ダレてる場合じゃねぇ! テメェ等が決めた覚悟はそんなもんか!?」
雲雀の叫びに、何とか残った力をかき集め、ハンターたちは、コーリアスと相対する。
「……あの王様の力を受けて、まだこれだけ戦えるとは……僕はますます貴公らに興味が持てて来ましたよ」
さも嬉しそうに言い放ったコーリアス。
三方面から彼を止める為に武器を振るう、バルバロス、昭二、そして薫。居合いも斧の一撃も、目の前に立ち上がる土の壁を打ち砕いたのみ。直接コーリアス自身に命中した手応えはない。
「流石に同じ手ばかりでは、僕も飽きてきてしまうね……」
その言葉には、何度退けても戻ってくるハンターたちへの僅かな怒りが含まれていた。
ヒュッ。土煙の中、伸ばされた手が狙ったのは昭二。全ての力を攻撃に傾け、回避に注力しなかった彼が、この一撃を回避する術は無かった。
「Gas」
掴まれる腕。手の先から、分解されていく。血の霧になっていく。このままでは全身を分解されて死ぬ事になるだろう。
――クローディオが、間に割り込まなければ。
ドン。体当たりで強引に、コーリアスを引き離す。
「ほう……また新しい者か。さて、貴公はどう戦うのかな?」
だが、彼は盾を構えたまま、昭二に手を翳し、癒しの光を放つのみ。
「来ないのか。……興ざめだな」
専守防衛、回復重視のクローディオの戦術は、然し刺激を求めるコーリアスには酷く退屈な物に見えた。
無造作に接近し、手を伸ばす。
「Marble」
「――っ!」
覚悟は決めた。この者の能力を究明するため、犠牲になっても構わないと。
わざと腕を盾にし、一撃を受ける。
掴まれた部分から、少しずつ、体が石になっていく。奥歯を噛み締めて、キュアの魔術。効果はない。呪術的な、或いは毒物の系統ではないと言う事か。すぐさまに死に至る事はないが、少し時間が立てば、クローディオ自身も石像になるだろう。
「く――」
ならば最後の手段。クローディオは自らの腕に向けて、盾の端を振り上げた。
●防衛線突破
自ら腕を断ったクローディオが、昭二と共に後退するのと同時に。
バルバロスと薫の刃が――同時に、コーリアスを捉える。
「……いい加減、うざいんだけどねぇ」
幾度吹き飛ばしても、同じように戻ってきて、同じように武器を振るう。
二人は、コーリアスにとっては彼の最も嫌う『退屈な相手』であった。
――彼は、面白そうな相手は殺そうとはしなかった。相手に何が出来るのか――そんな期待感があった。だが、若しも相手がそれ以上の刺激がない、と見るのならば。それは彼にとって、新たな刺激に向かう路上の、『障害物』でしかない。
「Mudden」
コーリアスの周囲の地面が、一瞬にして泥沼と化す。
それは彼自身をも含め、接近した者全員の移動をほぼ、封じる。
両手が、それぞれ薫とバルバロスに伸ばされる。
「ウォラァ!」
斧で、その手を弾くバルバロス。然し斧はその一瞬で、水のような液体になり、地に垂れ落ちる。
すぐさま予備の斧に切り替えようとするが、その一瞬の隙をつき、コーリアスの手が彼の身体に掛かる。
「いい加減、静かにしてくれないかな――Wooden」
カン。体の一部が、木に変わってしまう。
「がぁぁぁ――!」
既に意識もほぼ無い。だがそれでも狂戦士は、斧を振るい続ける。それが彼の誇り。如何なる障害が、脅威が、目の前に立ちはだかろうと。例え腕が動かなくなろうとも、その肉体――頭部を鈍器と化し、敵に叩きつけ続ける。
ブン。力を振り絞った頭突きは、終に、コーリアスの仮面の前で停止する。
猛烈な風圧が、コーリアスの髪を、大きく靡かせる。バルバロスの全身を木化が侵食した――その証なのだ。
「おいおい、一発で倒せないのか?錬金術士ってのも大した事ないな」
挑発しながら、薫の銃剣がコーリアスに突き立てられる。表装甲を貫通はしていない物の、幾度にも渡る攻撃により、その箇所は既に、凹みが生まれている。――バルバロスの連打に晒された箇所と、同様に。
「だからしつこいって――Bronze」
「しつこいのが耐えられないなら錬金術はできないだろう?」
カン。尚も止まぬ挑発に、突き立てられた腕を掴まれ、そこから、銅に変わっていく。
だが、それでも、彼らの猛攻は止まない。繰り返される打撃の応酬に、体が動かなくなろうとも。
「最後の最後まで付き合ってもらう――!」
薫のその攻撃は、最後の一瞬まで続く事になる。腕まで銅化が届き、全身が固まる、その一瞬まで。
「感謝するぜ――!!」
そして、作り出されたその『チャンス』を、機を伺っていたハンター二名は、見事に掌握した。
仲間にさえ気づかれぬよう別行動を取ったエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が放った琥珀の衝撃波が、背後からコーリアスに直撃する。その一瞬の隙を突き、ジャック・エルギン(ka1522)が突進。低姿勢からの突きが、彼に接触する。
「隙は――偽装な事もある、そう言った筈だけどね?」
笑みを浮かべるコーリアス。接触の瞬間、その装甲が、ジャックの剣を取り込み始める。
パキン。
「そう来るのは、勿論分かってたぜ」
剣が途中から折れる。いや、自分から、分解したと言うのか。その中から『短刀』を引き出し、ジャックはそれを、薫の銃剣撃によって凹んだ箇所へと、全力で突き立てる!
ブシュッ。噴出す血。
それは最強と思われていたコーリアスが、初めて傷ついた証。
「このまま真っ二つにしてやらぁ――!」
振るわれる大剣。それはバルバロスの作った、斧の痕跡に嵌るようにして直撃し。そこからも血が噴出す事になる。
「――成る程。僕にまともな一撃が入れられたのは、もう何百年ぶりかな」
その声は、有る程度の嬉しさを孕んでいたようで。
「だから僕も、特別なやり方をしよう」
流れ出した血を金属に変え、何とか傷を塞ぐ。
コーリアスの両手がそれぞれ、短刀と大剣に触れる。
「Forge――Stinger」
武器はそれぞれ形を変え、その全体から無数の棘を吹き出す。それは回避の隙すら与えずに、彼らの主に、無数の突きを与えたのであった。
「一太刀入れられたぜ……ありがとな――っ!?」
倒れる前。感謝の言葉を薫に述べようとしたジャックの目に入ってきたのは、物言わぬ銅像と化した、薫の姿であった。
●進撃
壁を貫通するであろう雷撃では、中の者たちの位置関係が外からは把握できない以上、味方を打ち貫いてしまう可能性もある。故に後衛陣は、エニアのライトニングを封印し、メトロノームの風刃と神楽の銃撃、そして鵤の機導砲による壁の破壊を待つ事になったのだが……如何せん三人では少し時間が掛かる。多くのハンターたちが、砦内部に於ける脱出路の用意に回されていたのだ。
ドン。終に、穴が穿たれる。その壁の穴からコーリアスが出てきた瞬間。その全身は――猛烈な雷撃と爆発の嵐に晒される事になる。
(彼が前に来てると言う事は、前衛の皆様は……もう……)
だからこそ、彼のこれ以上の前進を、押し留めなければならない。そう心に念じ、メトロノームは更なる魔術を練り上げる。
「うーん。確かにこれは面倒かな。普通の雷撃ではないみたいだし」
彼女の火炎球の爆発による視界遮断、そして変化した表皮による防御を貫通する、エニアの雷撃は、飽くまでも『理』を捻じ曲げる事を能力とするコーリアスには対処しにくい物であった。
――魔術は、『理』の内にないが故に。
「どーもどーもー! 清廉潔白なる小説家、アシュリー・クロウです! さて、そこの仮面の方……ちょぉーっと取材させて貰っても? 戦いながらでも構いませんので」
火球による爆発のその下を潜り抜け、アシュリー・クロウ(ka1354)が切り上げを以って、コーリアスを襲う。
「問題ないけど……何を知りたいんだい?僕の目的なら…単に刺激を求める。それだけだよ?」
「では今回、一番面白かったのは何でしょう?」
「皆が僕を傷つけようと、様々な手段を使ってきた事かな。その裏の理屈を考えると、すごい面白いんだよね」
一見、普通のインタビューにも見えるこの会話。驚くべきはアシュリーが攻撃しながら、コーリアスが硬化した腕で防御しながら行われていた、と言う事。
そして、同時に接近した神楽もまた、戦槍を振るい、コーリアスの足を狙う。
「いかせねーっす!」
「ありゃ、こりゃちょっと……」
微妙に不快の表情を浮かべるコーリアス。足を金属化させ、一撃を受けた次の瞬間、足で地面を強く踏む。
「Fist of Earth」
「!」
僅かな地響きに気づくメトロノーム。然しこれもまた――予想の範疇。即座に自らの足下にアースウォールを施し、変化を『止める』
「成る程、考えたね。……先に変化させてしまう事でこちらの物質変成を無効化させたか。けど――」
口角が、笑みに変わる。
「立てたその壁。それもまた、物質だよ」 アースウォールで形成された壁から、巨大な拳が突き出され、メトロノームを突き飛ばし、壁にたたきつける。
「仲間たちが物言わぬ像になるのを見ても、尚僕に仕掛けてくる……あの中にあるのは、相当重要な物のようだね。……ますます興味を持ったよ」
地面から無数のスパイクが、半円型に前方に噴出される。
「あっちゃー……こりゃ、やばいかも?」
自身はまだ継戦可能。然し、負傷した仲間たちの事を考えれば――ここは引くべきだ。
エヴァンスとジャックを拾い上げ、アシュリーが後退する。
「全員が助かる為に……通すわけには行かないっすからね!」
動物による、体当たり。それは先ほど、ジャックが刺した傷に当たり。僅かに眉を顰めるコーリアス。
「うん、同じ攻撃は飽きてるんだから、さっさと下がってほしいかな」
回り込もうとする彼を追う神楽。次の瞬間、その足下から、巨大な壁が二つ、立ち上がる。トラップに引きこまれたとでも言うのか。
バン。
●侵入
「ほーん、そこがねぇ?」
コーリアスの反応を見た鵤が、その傷に気づくのは難しくなかった。エニアもまた、そこに、雷撃を向ける。
「……そこからなら、届かないと思った?」
ドン、と強くコーリアスが地面を踏みつけると、巨大な壁が、それぞれエニアと鵤の前に立ち上がる。
「っ……離れて!!」
メトロノームが受けた一撃を思い出したエニアは、即座に身に風の障壁を纏い、後退する。その甲斐あって、ギリギリで、壁から突き出された鉄拳を回避する。だが――鵤はそうは行かなかった。様々な防御装備が設置されている砦の上は逃げるスペースは限られている――特に急には。
叩きつけられ、落ちそうになるのを、何とか端を掴んで回避する。
その間に、エニアの放つ雷撃の雨をかわしながら、コーリアスは砦の中へと侵入したのだった。
「イスカ、急げぃ! 予想通り――強行突破、侵入されたのじゃ!」
トランシーバーを通して、愛する妹に連絡した直後。星輝 Amhran(ka0724)は砦の入り口で、目の前まで侵入してきた彼の錬金術士と対峙していた。
戦況が悪いのは見ていて分かった。だが、それでもどうにかできる物ではない。戦況が悪いからと言って敵を退ける奇策はなく、通路を製造している者は既に最高速でそれを行っている。
ぎりっと奥歯を噛み締め、
「暫し……付き合ってもらうのじゃ」
ばら撒かれる手裏剣。それらは、まるで己の命を持つかのように、噴射による白い尾を帯び四方からコーリアスに襲い掛かる。正にそれが突き刺さる、次の瞬間。
「――Fuse」
それは、コーリアスの金属化した表面装甲に取り込まれる。
若しもこれが手足を狙った物ではなく、首筋と脇腹にあった、先のハンターたちにつけられた傷を狙った物であれば、有効打は与えられたかも知れない。
「お返しするよ。――最も僕は投げる精度が余りなくてね、こういう形になっちゃうんだが」
全身の装甲から、無数の針が覗き始める。
「Forge――Million Spike」
針が、空間を埋め尽くすが如く、四方に放たれた。
●Diggers
一方、連絡を受けたUisca Amhran(ka0754)は、砦の上から降りてきた最愛の恋人である瀬織 怜皇(ka0684)に声を掛ける。
「もう積み込みは終わりましたか?」
「大体は。後5分ほどあれば、撤退できますね」
「それまで砦が持てばいいんだけどね――」
怠惰の感染の効果で、通路製作の効率は大分落ちている。硬い岩盤等は、彼女自身が強打を以って粉砕しているが――彼女自身も影響を受けている以上、それ程早く進んではいない。
「――レオ。先に行ってください」
「ですが――」
「今は少しでも、傷ついた方をあれから遠ざけるのが先決です。人の命が――掛かっているのです」
暫く、俯いた後、こくりと頷く怜皇。
その瞬間、洞窟が大きく揺れ、掘った前方の一部が崩落する。
「……っ……早く!」
●遭遇
崩落の直接的な理由は、ビックマーの拳ではなかった。寧ろ――
「そこか――!」
外の戦いを、星輝やアシュリーを通して情報を掴んでいたヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)。
狙うはただ、肩と脇腹にある、装甲の傷跡。理由は不明だが、直接肉体を傷けられた部分は、そう簡単に変化できないらしい。
放たれた衝撃波は、しかしぐにょりと伸びてきた壁によって阻まれる。
「ここは寧ろ僕の方が有利だと思うんだけどね。ほら、材料が一杯あるし」
そのまま壁の一部が切り離されて金属に変わり、棘を生やしてヴォルフガングに向かって転がってくる。ギリギリで壁に張り付くようにして、それを回避した直後、直ぐ近くにまでコーリアスが近づいた事に気づく。
「Steel」
何とか腕などの可動部位が触れられるのは回避したが、脇腹を触れられ、鋼鉄に変わる。
「丁度いい……使わせてもらう」
「ん……?」
わざと金属になった部位を盾にするような体勢で、接近するヴォルフガング。身体を翻すように、放った突きが、コーリアスの脇腹に突き刺さる。
「っ――なかなか、考えたねぇ。けど――」
眉を顰めながらも、コーリアスの手が、直接盾にされた金属部位に掛かる。
「Forge――Blades」
「がっ――」
血を吐くヴォルフガング。
「内部に向かって刃に変えてみた。――内臓がズタズタだ。暫くは動かない方がいいと思うよ?」
ヒールを以ってしても、動けるまで回復するには時間が掛かる。彼は、コーリアスを見送るより他なかった。
「いらっしゃい」
砦の一室。じりじりと、緊張した表情で、後ずさりする七夜・真夕(ka3977)。
ちらりと、目線が傍に置かれてた巨大な箱に向けられる。
「ほう……」
それに近づいたコーリアスが、覆われていた布を引いた瞬間。四方に、小麦粉が飛び散る!
「引っかかったね……!」
即座に後退する真夕。密かに魔力を練り、追ってきたのならば火球を放つ用意をする。
「いい手だ。けれど――自分が、自分の策略の領域の中に入るべきではなかったね」
ぱちんと、指の鳴る音。
「ちょっとダイナミックな空気清浄法をお見せしよう。Dust Craft――Tristinger」
「ぁ……!」
その場に倒れこむ真夕。息が、出来ない。
それどころか、口の中、喉、肺、その全てに突き刺すような痛み。
周りを見渡せば、直ぐに何が起こったのかが理解できた。空気中に浮いていた小麦粉の粒子が、全てまきびし状の金属に変化し、地に落ちていた。それはつまり、脱出する際に彼女が僅かに吸い込んだ物も――
「さて、本物はどこかな」
壁を『分解』しながら、コーリアスは進む。
元々エネルギー反応は掴んでいた。この部屋に来たのは、途上にあったから、なのだ。
そして彼は、そこに到達した。
「――成る程」
触れるだけで、彼はその構造を理解する。
「中々貴重な材料も採用されているし――もったいない。回収していくかな」
もう一度触れる。
「Disintegrate」
直後、まるで砂になるように、ブロートは分解されていき、それは彼のポケットに納まっていく。
「中々に――面白い」
コーリアスはあえて、直ぐその場から立ち去らなかった。
『作り手』に挨拶する為に。
リプレイ拍手
剣崎宗二 | 1人 |
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