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【血断】オペレーション・ブラッドアウト「黙示騎士対応B」リプレイ


▼【血断】グランドシナリオ「オペレーション・ブラッドアウト」(1/24?2/14)▼
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作戦2:「黙示騎士対応B」リプレイ
- マクスウェル
- クリュティエ
- エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
- アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
- 藤堂研司(ka0569)
- パリス(魔導型デュミナス)(ka0569unit002)
- ジュード・エアハート(ka0410)
- 龍崎・カズマ(ka0178)
- ヴァイス(ka0364)
- グレン(イェジド)(ka0364unit001)
- アニス・エリダヌス(ka2491)
- シリウス(イェジド)(ka2491unit002)
- 南條 真水(ka2377)
- Uisca Amhran(ka0754)
- 八劒 颯(ka1804)
- Gustav(魔導アーマー量産型)(ka1804unit002)
- 時音 ざくろ(ka1250)
- アルラウネ(ka4841)
- Gacrux(ka2726)
- エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
- 夢路 まよい(ka1328)
- トラオム(ユグディラ)(ka1328unit001)
- ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)
- 夜桜 奏音(ka5754)
- ヴァルナ=エリゴス(ka2651)
- イツキ・ウィオラス(ka6512)
- エイル(イェジド)(ka6512unit001)
- アルマ・A・エインズワース(ka4901)
- 仙堂 紫苑(ka5953)
- ユウ(ka6891)
- サクラ・エルフリード(ka2598)
- フィロ(ka6966)
- キャリコ・ビューイ(ka5044)
- エアルドフリス(ka1856)
- スキヤン(グリフォン)(ka1856unit002)
- クリスティア・オルトワール(ka0131)
- カーミン・S・フィールズ(ka1559)
- ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
- アーベント(イェジド)(ka0145unit001)
- シェリル・マイヤーズ(ka0509)
●マクスウェルとクリュティエ
黙示騎士マクスウェルは高い移動力を駆使して、グラウンド・ゼロを駆け抜ける。
後から仇花の騎士クリュティエも付いて行くが、どうにもマクスウェルが速すぎて追いつけない。そのくらい、マクスウェルの移動力は飛び抜けているのだ。そして、クリュティエの後ろには狂気歪虚やシェオル・ノドの大群がわらわらとやってくる。
「マクスウェル、あまりひとりで先行するな。孤立したら……」
『黙れッ!』
振り向きもせず、マクスウェルはクリュティエの言葉を遮った。
『何時ぞやの指示は見事だったと褒めてやらんこともない。だが、オレが強いのはわかりきったことだ。そのオレが勝利するのは道理だろう。だからこそ、わざわざオレはオマエの指示で、ハンター共に合わせて一緒に踊ってやっただけだ』
「……」
クリュティエはそれ以上マクスウェルに何も言わなかった。ただ、静かに紫の瞳でマクスウェルの背中を見つめて、行く手に視線を戻す。
クリュティエにとって、マクスウェルは大事な仲間だ。共に戦うし、彼が窮地に陥るなら助けたいと思う。が、そんなことを言えば傲慢なマクスウェルのプライドを傷つけるのは必然なので黙っている。
そして、マクスウェルは自分の内側におこる変化をじわじわ感じていた。思い出せない自分の力の出自が、よくわからないままに何か歯車を回そうとしていた。
「……彼らハンターは、また我々と矛を交えるのだな」
前方に布陣するハンター達を見据えてクリュティエが呟く。
マクスウェルはクリュティエの声に全く反応せずに、全速力でハンターへ突き進んだ。
「最初に突撃してくるのはマクスウェル。背後にクリュティエがいます」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は軍用双眼鏡で、迫り来る脅威を計算していた。
「そして、クリュティエの背後に、狂気型歪虚やシェオル・ノドなどの大群がいますね」
エラは共に戦うハンター部隊やCAM部隊と、迎撃体制を築いている。全体を把握し、通信網【沈丁花】の運用を中心に動くつもりだ。同行させている刻令ゴーレム「Volcanius」の七竃は主に【流星】と共に狂気歪虚などの殲滅に用いる予定であり、スキルを温存するためにもまだ出番ではない。
「マクスウェルはほぼ単身で突っ込んで来ている、という感じカナ?」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が、エラに確認する。
「そうですね。少なくともマクスウェルの方はクリュティエと足並み揃えるつもりはないようですね。……もともとそういう性格でもないでしょうし」
「ナルホド! ハーティ、藤堂氏、障害物はない様だヨ?」
「ヤツのガン逃げだけは封じるぜ」
魔導型デュミナスのパリスに乗り込んだ藤堂研司(ka0569)がこたえる。[SW]星神器「蚩尤」の兵主神【B】を発動し、万が一コックピットまで届くダメージを受けた際の守りとする。
「なんだかパワーアップしてるみたいだけど、こっちも負けないもん。いくよ、ディアーナ!」
優美なR7エクスシア、ディアーナに搭乗したジュード・エアハート(ka0410)も、イニシャライズオーバーで恐慌の光対策をしてから、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」の照準をマクスウェルに合わせた。
凄まじい速度でマクスウェルがハンターに迫る。が、そのマクスウェルの腕に1本のナイフがどこからともなく突き刺さった。
『何ッ!?』
奇襲に驚きにマクスウェルは思わずスピードを緩めてしまう。
ナイトカーテンで隠密した龍崎・カズマ(ka0178)の放った影渡による攻撃だった。
『そこに潜んでいたか、ハンター!』
攻撃したことにより、ナイトカーテンの効果が切れて、カズマの姿が現れる。
マクスウェルはカズマにお返しとばかり一太刀浴びせようとしたが、咄嗟に危機を悟り、大剣を盾の様に構えた。
「藤堂号全開、行くぜパリス! 付き合え、黙示騎士!」
「その隙、いただいちゃうよ!」
ライフルの長い射程を生かし、研司とジュードがマクスウェルを狙撃したのだ。
マクスウェルは大剣で、1発は弾丸を受け流すも、もう1発は肩に命中し、金属がぶつかり合う鈍く澄んだ音をたてて、火花を散らした。
『先手はくれてやった。では──次はどうする、ハンター共ッ!』
挑発的な言葉を投げて──マクスウェルは姿を消した。
「野郎、早速ワープを使いやがった!」
研司が視界から消えたマクスウェルを探して、パリスの外部カメラを巡らす。
「一体どこへ……?」
ジュードも同じくマクスウェルのワープ先を探っている。
だが、マクスウェルを見つけるよりも先に、自陣の左翼から、苦鳴や金属の音が聞こえてきた。ハンター部隊やCAM部隊がいるあたりだ。
「もしかして、あの中に紛れ込んじゃったってこと!?」
足を破壊されくずおれるCAMや、宙を舞うハンターの姿を見れば、ジュードの言葉が的中しているのは明らかだ。
「……随分と派手に暴れているじゃないか、マクスウェル」
さらに、マクスウェルに遅れてやってきたクリュティエは、すでに仇花の騎士5体を召喚している。
このままでは乱戦になると判断したエラは冷静に【沈丁花】のハンターへ通達した。
「こちらエラ。マクスウェル対応者へ通達。マクスウェルは左翼に出現。ハンター部隊、CAM部隊を攻撃しています。直ちに駆けつけて対処してください。続いてクリュティエ対応者へ通達。そのまま対象の迎撃を。対象はすでに仇花の騎士5体を召喚済みです」
「こちらヴァイス。マクスウェルの足止めは任せろ」
ヴァイス(ka0364)が通信機でこたえる。跨ったイェジドのグレンの首を回らせて、エラから伝えられたマクスウェルに向かって駆け出す。
「行こう、アニス!」
「はい、ヴァイスさん。……シリウス、よろしくお願いしますね」
ヴァイスと共に行動するアニス・エリダヌス(ka2491)がイェジドのシリウスを軽く撫でると、シリウスは任せとけ、と言うように短く吠えた。
「とんでもない速さじゃないか、黙示騎士マクスウェル」
南條 真水(ka2377)はぐるぐる眼鏡の奥の鋭い瞳で、マクスウェルが暴れている方を見る。
「悲しい哉、あの距離では南條さんの攻撃は届きそうにないや」
マクスウェルの移動力は高い為、ハンターにも同様の高機動がなければ対応するのは困難だ。真水はジャッジメントと言う足止めの手段こそ持っているが、相手は射程外であるし、あの速さに追いつく術もなかった。
「仕方ない。ホー之丞、南條さんも君と一緒に仇花君達の相手をすることにしよう」
真水は傍のポロウ、ホー之丞に言う。
「幸い、敵は向こうから来てくれるしね。ワープする敵を探し回るより、迎え撃つ方が省エネだろ」
クリュティエは仇花の騎士5体と共に、ハンターの陣営に突っ込んで来たところだった。
「また会いましたね、クリュティエさん」
Uisca Amhran(ka0754)がポロウの銀雫と共に占有スクエアを作ってクリュティエの進路に立ち塞がった。超覚醒は発動済みだ。そして【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻をクリュティエに向かって放つ。
顕現する闇色の爪や牙がクリュティエを刺し貫こうとするが、右手に持った剣が牙に触れた途端に、澄んだ音を立ててへし折れた。剣を犠牲にすることで成し得る絶対防御の技である。クリュティエは右に飛んでUiscaたちを迂回しようとするが、八劒 颯(ka1804)の操縦する魔導アーマー量産型のGustavが立ちはだかった。
「はやてにおまかせですの!」
突き出されるGustavのドリルを、下から跳ね上げる様に剣で軌道を変えるクリュティエ。折れた剣を鞘に戻しながら、彼女は姿勢を低くした。今ドリルを跳ね上げたことで出来た隙間から走り抜けて、ハンターたちを突破するつもりなのだ。駆け出す直前に、しかし、クリュティエは後ろへと飛んだ。
「颯だけじゃない、ざくろもいるよ!」
クリュティエの先を塞いだのは時音 ざくろ(ka1250)と、オートソルジャーのX桜姫。何より、X桜姫は、エリアキープを発動し、鉄壁の守りを築いていたのだ。
ハンターたちはクリュティエをマクスウェルに合流させない様に動いている。そして、それに気付かないクリュティエでもない。
新しい剣を鞘から引き抜きながら、クリュティエは、自分を囲むハンターよりも、マクスウェルの方を気にしていた。
マクスウェルはワープと移動力を駆使して、ハンター陣営を撹乱しているようだ。見た所、ひとつの対象に固執することなく遊撃的に立ち回っている。マクスウェル自身の能力が活きる闘い方だ。
だからクリュティエは、今のマクスウェルならひとりでも問題ないと判断した。
ここで、ようやくクリュティエの意識は目の前のハンターへフィクスされる。
「マクスウェルを放っておいていいの? ひとりで闘っているみたいよ? まあ、頼まれたってどいてはあげないけど」
アルラウネ(ka4841)がクリュティエに問いかける。
「マクスウェルはひとりでも大丈夫そうだ。だから我は、お前たちを叩き潰すとしよう」
2振りの剣を構えたクリュティエは、ハンターと対決する姿勢だ。
そんなクリュティエに、エウクスにユグディラと乗ったGacrux(ka2726)は訴えた。
「……この戦い、退いてはくれませんか」
それは臆病から来る訴えではない。Gacruxには彼女への、或いは彼女のベースとなったモノへの想いがあるのだ。
「我としても、無暗な戦いはしたくはない」
「ならば……!」
「だから──これは、戦いの種を断つために必要な戦いなのだろうな」
クリュティエはそうこたえ、攻撃に移った。
●追跡と逃走
クリュティエから遅れて、大量の狂気VOIDとシェオル・ノドがなだれ込んでくる。
本来なら、【流星】やエラの指示のもとハンター部隊とCAM部隊が迎撃するはずだ。だが、その迎撃陣形がまだ完成していなかった。なにより厄介なのはワープで陣を内側からかき乱すマクスウェルの存在だ。
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は【流星】の護衛【紅】として魔術師たちを守っている。同時にエヴァンスは危険な挑発で敵をおびき寄せて殲滅効率を上げる役目もあるのだが、いつマクスウェルが【流星】を攻撃するかわからない以上、迂闊に【流星】を離れるわけには行かないのだ。
「あの虫野郎、ちょこまか動きやがって……!」
しかし、このまま歪虚が跋扈すれば、黙示騎士対応のハンターの障害になるのは必然だ。
「……エヴァンス。私たちのことは大丈夫。行って」
そのエヴァンスに、夢路 まよい(ka1328)がそう言ったのだ。
「どうするつもりだ?」
エヴァンスが問う。エヴァンスとまよいの間柄だ、まよいが無策ではないことはわかっているからだ。
「覇者の剛勇でみんなを守るよ」
まよいは守護者だ。彼女にもまた超覚醒による強化が施されている。覇者の剛勇はBSの無効化、そして1回まで戦闘不能を無効にすることができるスキルだ。
「私は、私が好きになった以上この世界を護ってみせるから!」
琥珀に染まった瞳でまよいの力強い表情を見たエヴァンスは、唇を釣り上げて笑った。
「わかった。そっちは任せたぜ、まよい! お互いに思いっきり暴れようぜ!」
「もちろん。また後でね、エヴァンス」
「おうよ! んじゃ、行くぜエボルグ!」
エヴァンスの乗るワイバーンのエボルグが翼を羽撃かせて敵の渦中へ飛び込んだ。
「よろしく頼んだぞ、エヴァンス。我も特大の魔法をぶつけてやるとしよう」
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)もそう言ってエヴァンスを送り出した。
「おう、とっておきをぶつけてやりな!」
危険な挑発により琥珀のオーラを纏ったエヴァンスの背中が遠ざかる。
『フハハハハ! どうしたハンター! 貴様ら程度の速度、オレには止まってみえるぞッ!!』
マクスウェルはワープと高速移動を繰り返し、ハンターを振り回していた。
「いつまでも好き勝手できると思わないでよ!」
そのマクスウェルの背中をジュードのディアーナが長い射程で狙撃する。ディアーナの移動力と、長い射程のライフルがマクスウェルに攻撃することを可能にしていたのだ。
マクスウェルは弾丸を避けて、進路を変えた。
(弾は避けられちゃったけど、これは読み通り)
ジュードの目的は、射撃によってマクスウェルの出現・移動先を読みやすくすることだ。そうすれば、仲間も追いつくやすくなる。
事実、ジュードがうまく追い込み、出現地点を予測しやすくすることで、研司がマクスウェルを狙い撃つ。
「ジュードさん、ナイス!」
紫電の銃身から発射された弾丸を、マクスウェルは大剣で弾いた。
『鉄屑ごとき、恐るるに足らんわ!』
「鉄なのはそっちも同じだろ!?」
研司がクイックリロードで素早く弾丸を再装填しながら言った。
ジュードはディアーナを巧みに操縦して、時として飛行し、射撃、銀雨を用い攻守を切り替えて、マクスウェルを追い込んでいく。
(守ってばかりじゃ押し切られるし、空に逃げられちゃう可能性もあるよね……)
ジュードは次にマクスウェルがどう動くかを考える。人機一体、フーファイターによる空中戦の備えも万全だ。だが、ひとつ気になったのは……、
「って、リッチーが、あんなに後ろに!?」
共に行動し、回復役を担っているアルヴィンがジュードの機動についていけないことだった。離れ過ぎてしまうと、お互いのフォローが難しくなってしまう。
(どうしよう、マクスウェルを自由にできないけど、これ以上リッチーと離れるのも……)
『どうした? 動きが鈍ったな!!』
一瞬の迷いではあったが、それを見逃すマクスウェルではない。ディアーナの眼前にマクスウェルが一瞬にして迫った。
『貴様の戦いぶり、なかなか悪くなかったぞ?』
マクスウェルがオーラを纏った大剣を大上段に振りかぶった。
『しかし、オレはもっと強いのだッ!!』
咄嗟の判断でジュードはマテリアルカーテンを展開したが、マクスウェルの刃はそれを物ともせずディアーナを叩き斬った。
飛行状態にあったディアーナは、斬撃の重みに姿勢を崩し、地面に叩きつけられた。ところどころ結晶化した大地に罅が入る。
「ハーティ!」
幸い、致命傷ではなかったので、駆けつけたアルヴィンがフルリカバリーで回復する。
「いてて……。ありがとうリッチー」
ジュードはディアーナを操縦して、再び立ち上がる。
マクスウェルの姿は近くにない。ワープですでに移動した後だった。
(やはり、マクスウェルを相手取るには高い移動力は必須……)
夜桜 奏音(ka5754)もその一部始終を見ていた。
奏音の大きな目的は呪詛返しを使って、仲間をBS、主にマクスウェルの恐慌の光から守ることだった。
恐慌の光は効果範囲が広いために、巻き散らされれば、即座に戦線が壊滅しかねない。何らかの方法で恐慌の光を防ぐ必要がある。
そもそも、恐慌の光は強度の高いスキルだ。何の対策もなしに呪詛返しをしても、成功する確率は低い。だが、これを他のスキルと併用したらどうだろうか?
BS強度を下げるアイデアル・ソングと共に使用すれば成功確率は上がるし、BSを無効にする覇者の剛勇と一緒だったら確実に呪詛返しに成功するだろう。
しかし、守護者であり、覇者の剛勇を使用できるまよいは、迎撃ラインで忙しくしているし距離もある。同じく守護者のUiscaはクリュティエ対応に回っている。彼女たちの覇者の剛勇の範囲に収まりつつ、動き回るマクスウェルを対応することは不可能だ。
アイデアル・ソングを使えるアルヴィンは、マクスウェル対応者なのだが、イェジドのゼフィールに乗っている奏音とは足並みが揃わないのがネックだ。で、あるならば……、
「アルヴィンさん、ゼフィールに私と一緒に乗ってください」
「ムムム?」
「そうすればスピードはカバーできますから、ジュードさんたちをフォローすることも可能です」
「確かにその通りだネ。さらに、夜桜嬢は確実に僕のアイデアル・ソングの範囲に入るわけだカラ……ナルホド、理にかなっているネ。それデハ、お言葉に甘えるとしよう!」
ゼフィールが、アルヴィンの跨りやすい様に屈んだ。
「出発する前に、チョット」
アルヴィンは同行させていた刻令ゴーレム「Gnome」に再度指示を出す。
「僕は夜桜嬢と行くケド、やるコトはかわらないヨ。恐慌の光対策に壁を、余裕があったら法術地雷を埋めといてオクレ」
「今はヴァイスさんたちがマクスウェルを追いかけているようです、私たちも行きましょう」
「パリスの射程から逃げられるとは思わんことだ、黙示騎士め」
「よーし、再出発進行!」
ゼフィールに乗った奏音とアルヴィン、パリスを操縦する研司、ディアーナに搭乗したジュードが再びマクスウェルの追跡を開始する。
イェジドに乗ったヴァイスとアニス、リーリーのガストに乗ったヴァルナ=エリゴス(ka2651)は幻獣の移動力を駆使してマクスウェルに追い駆けるが、やはりマクスウェルの方が早い。
カズマのポロウ、ラウクは飛翔して、空からマクスウェルの位置を探ろうとするが、マクスウェルのスピードについていけない。
このままでは時間だけが経過してしまう。
「ヴァイスさん、アニスさん!」
ヴァルナが併走する2人に声をかける。
「もとより単独で追い詰められる相手ではありません。3人で包囲する様に立ち回りましょう」
「そうですね。私には戦う力はないですが、ジャッジメントで敵の移動を封じることができます」
アニスがヴァルナの言葉にこたえる。
「私がガストと共に、一気に距離を詰めます」
「わかった、俺はアニスがジャッジメントを撃ちやすい様、さらにマクスウェルを誘導する」
3人は頷き合い、行動を開始する。
「ガスト!」
ガストが数歩のステップの後、天高く飛んだ。リーリージャンプによる長距離ジャンプだ。
『ヌオオ!?』
ガストはマクスウェルの頭上を飛び越えて、彼の正面に着地する。
『ハッ、やればできるじゃないか!』
マクスウェルはこのまま正面突撃で、ヴァルナを蹴散らして行こうかと考えた。しかし、思考に決定を下す前に、左後方から声がした。
「なら、そろそろ俺たちに付き合ってくれてもいいんじゃないか?」
グレンで疾駆する、魔鎌「ヘクセクリンゲ」を構えたヴァイスだ。
正面にヴァルナ、左後方にヴァイス。そして過去に包囲されタコ殴りにされた記憶。それらが、方向転換して包囲を抜けるか、それとも力で包囲を突破するかのマクスウェルの決断と行動を鈍らせた。
「それが命取りです──!」
そして、マクスウェルの右後方にはシリウスに跨るアニスも迫っている。手には[SA]神聖剣「エクラ・ソード」が握られており、切っ先がマクスウェルを狙っていた。アニスこそ、この包囲の要だ。
「もう、自由にはさせません!」
剣の刃が輝き、光の杭がマクスウェルに向けて発射された。ジャッジメントの断罪の杭が敵の足を貫き、その場に縫い付ける。[SA]で強度が強化された移動不能のBSはマクスウェルにも十分に通じた。
「シリウス、グレンちゃん、今です!」
シリウスとグレンが、動けなくなったマクスウェルにイェジドのスキルで追跡のBSを付与する。
『ええい、小癪な!』
マクスウェルは動けないのを悟って、ワープを使って姿を消した。しかし、イェジドの嗅覚や聴覚をフル活用した追跡から逃れることは難しい。
マクスウェルの出現先は、【沈丁花】の情報網で、すぐにハンターに伝達された。
●倒さずに制する
仇花の騎士には、近接、射撃、魔法それぞれに特化した個体が存在する。彼らは個人ではなく概念の存在なので、顔は黒く塗りつぶされている。そして、それぞれが高位歪虚に匹敵する強さを持っていた。
「白縹、大丈夫ですか……!?」
ルカ(ka0962)は自分も血を流しているが、跨るペガサスの白縹を気遣う。
ルカは積極的に前へ出て味方へのダメージを肩代わりしていた。そのために、ルカと白縹の傷は深いのだ。幸い、リザクションやヒールウィンドなどの回復手段はあるので、そう簡単に倒れはしない。
「ここで、諦めるわけには……!」
斬りかかる近接タイプの仇花の騎士の攻撃を躱して、プルガトリオによる移動不能を試みる。攻撃は仇花の騎士に突き刺さったが、縫い止めるまでには至らない。
返す刀で、白縹を狙う仇花の騎士。が、その体がくずおれた。
「こっちにも守りたいものも、守りたい理由もできちまったからな」
ナイトカーテンで潜んでいたカズマが剣で敵の膝を貫いたのだ。
だが、そのカズマも、追撃することなく、バックステップで緊急回避をする。
後方に控える、魔法特化型が、マテリアルの矢のようなものを撃ち込んできたからだ。
「ったく、強いね、どうにも……!」
魔法特化型や、射撃特化型を躱しながら戦うのは簡単なことではない。
「ならば、なるべく多く巻き込み、倒すまでです!」
青みがかった銀の毛のイェジド、エイルが背に乗せたイツキ・ウィオラス(ka6512)の攻撃がより敵を巻き込める位置へと移動する。
撃ち出された青龍翔咬波が、仇花の騎士を食いちぎる。
「まだ、足りませんか……!」
「じゃあ、とどめは僕がいただくですよー!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)がデルタレイを発動する。[SA]機械剣「ドリーフック」により、全ての光線を1体に集めることが可能だ。
「じゅっ、ですよ」
アルマの高火力攻撃は仇花の騎士の胸に穴を開け、腕と足をもいだ。こうして1体の騎士が塵になって消えていく。
(この調子で、仇花の騎士を撃破し続け、クリュティエの行動を圧迫できれば……)
仙堂 紫苑(ka5953)はそう考えていた。
だが、ほとんど間をおかず、クリュティエは新しい仇花の騎士を召喚した。とても術の行使で行動を圧迫された様には見えなかった。もちろん、再召喚された仇花の騎士を倒すにはまた最初からBSなどを付与して生命力を削り切る必要がある。
「わふー!? もしかしてこれ、キリがないですー!?」
そう、このまま、この人数で仇花の騎士を倒し続けるのはどうしても無理があるのだ。
(実際のところ、これだけの術だ。全くノーコストなはずもないが……!)
行動を消費するというより、自動的に何かを割いて湧いて出るという雰囲気だ。
もし過去の歪虚がそうであるように、分体を生み出すことにクリュティエが生命力を消費しているのだとすれば、“倒す”ことを目的とする場合、価値ある行動と言える。
(だが……これでは時間は稼げない)
「なら、倒さなければいいんです!」
しかし、無限の戦いをしなくてはいけないのかと思った矢先、ユウ(ka6891)が澄んだ声でそう言った。
「倒してしまえば、相手は完全な状態で復活する……だとしたら、敢えて倒さず、時間を稼げばいいんです」
倒し続けるのが無理ならば、倒さなければいい。
「クリュティエさんが維持できる仇花の騎士の数は5体。その5体を倒さずに可能な限り無力化すれば、今回の目的は果たせます」
「……なるほど、確かにそうだな」
ユウの提案に、紫苑は納得した。
「倒さずに時間を稼ぐ、か。それならうってつけの物がある。……できれば隠しておきたかったんだがな」
「わふ? シオン、もしかして作戦変更です?」
「ああ、聞いた通りだ。仇花の騎士は倒さない。アヌビスを使う。みんなは協力して、敵を1箇所に集めてくれ。……アルマ、支援重視で頼む」
「わかったです! 僕、がんばるですー!」
アルマの刻令ゴーレム「Gnome」は【悪童】面子の周囲にCモード「bind」を、またCモード「wall」で恐慌の光兼敵の射線妨害をしていた。
ハンターは倒すことから、追い込むことに意識を変えて、仇花の騎士と対峙する。
ルカは近接型の敵を引きつけつつ、敵を誘導した。
ユウは魔法特化の騎士へアクセルオーバーによる残像を纏い、肉薄する。
騎士もユウを迎撃しようとマテリアルの矢を編み上げる。それがユウに命中する刹那、魔法は露と消えてしまった。
ユウのポロウ、ソラが発動した惑わすホーで構築された魔法を瓦解させたのだ。
「好きにはさせません!」
ユウは走る勢いもそのままに、騎士へナイフを突き出した。
騎士は杖でユウのナイフを受けた、途端に杖に違和感を覚えた。
「魔法は封じさせていただきます」
ソードブレイカーの呪いを斬撃に混ぜ込んでいたのだ。[SA]ナイフ「ペルデール」により、その強度はさらに上がっている。
イツキは近接攻撃を練気「龍鱗甲」で弾き返し、青龍翔咬波で仇花の騎士を追い立てた。
紫苑のワイバーン、フィンは騎士をサイドワインダーによる機敏な攻撃で追い込んでいく。
「南條さんも、協力しちゃうよっと」
真水が放つ、ミカズチの三叉の光線が敵を思い通りの方向へ行かせない。
射撃特化の騎士は真水へ、マテリアルの込められた矢を射った。それは弾丸に等しい速度で飛来する。
「おっと!」
真水は盾で受けるが、僅かに軌道を逸らされただけの矢は肩を引き裂く。
「痛いじゃないか。南條さんの柔肌をなんだと思っているのか」
真水は盾を下ろさない。そして、にやっと笑った。
「……それじゃ、吹き飛んでもらうよ」
矢の軌跡を辿るように、真水の盾から電撃が伸びて、仇花の騎士の体を吹き飛ばしたのだ。攻性防壁の効果である。
「なかなか良いヒットだ。……さて、仙堂君。これで準備は整ったんじゃないかな?」
他のハンターもそれぞれのスキルを使って、仇花の騎士を1箇所に追い詰めていた。
イツキのエイルはウォークライで威圧し、ルカはプルガトリオでこれ以上の移動を許さない。
射撃型の騎士が、最後のあがきで紫苑を狙い撃とうとしたが、弓を持った手が大きく弾かれた。
「シオンの邪魔はさせません。大人しくしていてくださいね?」
アルマのデルタレイだ。うっかり倒してしまわないように、[SA]の効果は使わない。
[SW]星神器「アヌビス」がここに開帳される。
死者を裁く神が用いる天秤は、紫苑の精神に呼応して色を帯びた。
「ここに示すのは死者の掟。死人が動くことはないんだ」
封印術が仇花の騎士を縛り上げた。守護を打ち破り、自由と力を奪う、敵を死者たらしめる星神器の力。
「しばらくは静かにしておいてもらおうか」
仇花の騎士といえど、これには抵抗はできなかった。
「行くよみんな、ざくろたちの絆(あい)の力を彼奴らに見せつけてやるんだ!!」
そして、こちらはクリュティエ対応者たち。
ざくろは【冒険団】の仲間とともにクリュティエに立ち向かう。
「死ぬ気で行くけど、死ぬつもりはないからね!」
アルラウネがクリュティエを次元斬で引き裂くが、クリュティエの防御が高くダメージが通らない。
「気が合うな。我としても、無用な犠牲は避けたいところだ」
クリュティエが剣を振りかざし、アルラウネに斬りかかる。
2本の剣から繰り出される連続攻撃を避けるのは困難だ。クリュティエは、マクスウェルの援護よりもハンターの撃破を目的に動き始めた。彼女は守護に特化した個体だが、戦闘力が低いわけではない。
「アルラはざくろが守る!」
しかし、ジェットブーツで盾を構えて飛び込んできたざくろがアルラウネをかばった。
ざくろは肩と腿を深々と斬り付けられたが、盾で受けることでそれ以上の刃の侵入を許さない。攻性防壁を発動しているのだが、雷撃はクリュティエに纏わりつく前に弾かれてしまう。
「絆(あい)か……。それは不変のものなのか?」
「……ざくろたちのことを疑っているの?」
「心は変わる。人は死ぬ。物語は、終わる。別れは避けられない。……ざくろ、と言ったか。お前は、幸せか?」
「当たり前だよ。嫁様たちに囲まれて、不幸せなわけがないもん!」
「だったら、それを永遠にすればいいじゃないか。別れは──悲しい」
「でも……うっ」
クリュティエはざくろを蹴飛ばした。
よろめいて後退するざくろの体をサクラ・エルフリード(ka2598)が受け止める。
「回復をします……。聖なる癒やしを……ヒーリングスフィア……!」
柔らかい光が傷を癒していく。
「びりびり電撃どりる!」
攻撃を交えつつ、颯がGustavの機体でクリュティエにプレッシャーをかける。X桜姫と共に行動することで、より多くの道を塞ぐ。
クリュティエは猛攻を仕掛け、Gustavの足をへし折った。
傾くGustavの機体。
「Gustav、動いてください! ここで倒れるわけにはいかないのです……!」
操縦桿を動かしても、深刻なダメージを受けたGustavは思うように動かない。
「癒しの光よ……再び立ち上がる力を!」
サクラがリザレクションで、Gustavのエネルギーバイパスを強制的に活性化させて、戦線に復帰させる。
「なかなかしぶといな」
クリュティエ対応者は多数の戦闘不能者を出していた。しかし、リザレクションや覇者の剛勇、ヒーリングスフィアなどの回復スキルがあったので、そう簡単に包囲網は破断しない。つまり、ハンターはボロボロであるが、包囲網は機能しているのだ。
「クリュティエ様、月でお会いした以来ですね」
口調こそ丁寧だが、叩き込まれるフィロ(ka6966)の拳は鋭い。
[SW]星神器「角力」による、鹿島の剣腕の効果で、フィロは連続攻撃を開始する。フィロの目的はソードブレイカーでクリュティエの剣を封じること。繰り出される白虎神拳と鎧徹しには無論その呪いを織り交ぜるつもりだ。
「ああ、月で会ったな。よく覚えているよ」
クリュティエも、フィロの顔を覚えていた。
「それは光栄でございます」
「──そして、その技も覚えている」
クリュティエは、片方の剣を鞘に戻し、素手でフィロの攻撃を受け止めた。
「武器封じの呪いは、厄介だからな」
ソードブレイカーの付与対象は「武器」だ。対象が武器で攻撃を受けなければ効果はない。
クリュティエは攻撃を受けたのと逆の手に握った剣でフィロを斬る。
フィロもバリィグローブをかざし、かつ同行させているユキウサギの雪水晶でダメージを軽減する。
さらにフィロへ斬りかかろうとするクリュティエに、Uiscaが【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻の爪で妨害するが、絶対防御がダメージを無効にした。ソードブレイカーには素手で、ソードブレイカーを使えない者の攻撃は剣で防ぐなど、ハンター側の戦術は見抜かれているようだ。
Uiscaは銀雫の惑わすホーで絶対防御を打ち消せないかと考えたが、あれは魔法スキルではないので、効果はなかった。
また、真水のポロウ、ホー之丞も惑わすホーで魔法スキルを妨害しようとしていたが、クリュティエはマクスウェルが近くにいないために、魔法スキルの回復・BS解除スキルを使わないので、その機会がない。そして、仇花の騎士召喚は魔法スキルではあるが、キャラクターを対象としないので、惑わすホーで打ち消すことはできない。
クリュティエは折れた剣を鞘に戻し、新しい剣を引き抜いてUiscaに突進し刃を突きつける。
Uiscaの盾と刃が擦れて火花をあげた。
高い魔法攻撃力と、超覚醒の強化でUiscaはなんとかクリュティエと渡り合う。
キャリコ・ビューイ(ka5044)はクリュティエから50スクエアほど離れたところにいた。
騎乗したポロウは隠れるホーを使用し、キャリコ自身も隠の徒を使用しているため、認識しづらい。
クリュティエは、ハンターに包囲されている。
目の前のハンターを相手にすることに集中しているらしい。
だから、こっちには気がつかない。
キャリコは、残弾1発になるよう調節した[SA]新式魔導銃「応報せよアルコル」の照準器を覗いて、十字線に獲物の姿を重ねる。
今から発動するのはトリガーエンド。ひとつの射撃武器につき、1回しか使用できない、一撃必殺の技。
引き金に指をかけるキャリコには焦りも、迷いもない。ただ、落ち着いて引き金を引けばいいだけだ。
「俺からの、取って置きだ。遠慮なく喰らっていけ」
マテリアルが弾丸に収斂する。
クリュティエが折れた剣を鞘に戻していたところへ、脇腹にキャリコのトリガーエンドの弾丸が直撃した。確実にクリティカルになるこのスキルには、絶対防御は間に合わない。
「……む」
クリュティエはぐらつく態勢を整えながら、弾丸の飛来方向を確認する。
攻撃したことで、隠の徒の効果が終了し、キャリコの姿が難なく見える。だが、クリュティエがキャリコを攻撃するには距離があるし、そのためには包囲網を突破する必要があった。なので、クリュティエはキャリコを相手にするとはせず、鎧に食い込んだ弾丸を払い落として、再び眼前のハンターに向き直る。
ダメージを受けたはずなのに、クリュティエの顔は涼しかった。
(直撃したはずなのに、これも有効打ではないというのですか……?)
攻撃自体は効いている。だが、素の耐久性能がずば抜けて高いのだ。
Uiscaは敵の損傷具合と周囲のハンターを確認する。ハンターの疲労は強く、強硬な作戦を取る余裕はどこにもない。今まで戦えたのは、回復スキルがあったからで、直接的にクリュティエを抑え込む戦力は不足しているのだ。
「……クリュティエさん、和平はどうしたんです?」
Uiscaはクリュティエに話しかけて、時間を稼ぐことにする。あくまで警戒は怠らない。
「悲しいことに、リアルブルーの大精霊にはふられてしまってね」
クリュティエがこたえた。
「和平の条件とかだけでも聞きますよ?」
「そういうことが話し合えればいいのだが、クリムゾンウェストの大精霊は、もっと取り付く島もなさそうで困っているんだ。だが、そもそも……」
はぐらかす風に会話に応じていたクリュティエだが、区切った先の言葉には軽薄さはどこにもなかった。続く言葉はおそらく、彼女の真意だ。
「お前たちがこうして戦っているのは力があるからだ。つまり、人類に抵抗の余力があるうちは、我々との交渉に乗ることはないだろう。……だから一度、抗う気力すら起きないほどの絶望へ叩き落としてやる必要があるんだ」
「絶望……ですか……?」
Uiscaが眉を顰めて繰り返した。
「お願いです、もう退いてくださいクリュティエ……いや、カレンデュラ」
会話をGacruxが引き継いだ。
クリュティエの視線がGacruxに向く。
「貴女が永遠を望むのは、俺たちとの日々が幸せだった証だ。だが……悲しみに囚われた永遠の世界に、貴女が見た喜びはあるのでしょうか。その仮面は、もう無理に笑いたくないと望んだからですか?」
「カレンデュラ、か。それはあくまで我の元になった仇花の騎士の名前だ。我はクリュティエ。邪神の目的を果たすために遣わされたモノに過ぎない」
●流星が灼き尽くす
「さて、そろそろ我々も仕掛ける準備が整ったな」
グリフォンのスキヤンに跨ったエアルドフリス(ka1856)が、マクスウェルにかき回された陣が修復されたことを認めた。
「【流星】の皆様は術式の展開を。それまでの時間はハンター部隊とCAM部隊、ゴーレムの弾で埋めます」
と、エラ。
「シュナイト、我らが魔法を紡ぎ終わるまで、休まず撃てよ?」
ヴィルマの刻令ゴーレム「Volcanius」、シュナイトが砲身を敵に向ける。
「それじゃあ、行くよ!」
まよいの合図で、それぞれが体内でマテリアルを練り上げる。
魔法に先んじて、ゴーレムの砲弾が敵を撃破する。だが、それだけでは足りない。
可能な限り遠くへ届くように、可能な限り広範囲に。
「霧の魔女の名の下に、集え墜ちよ流星よ、邪悪の眷属共を残らず地に伏せ亡きにせよ」
ヴィルマの展開した火球は流星となり、エヴァンスの集めた敵を焼き尽くす。それでも、体を焦がしながら這い出た敵へ、畳み掛けるようにクリスティア・オルトワール(ka0131)もメテオスウォームを重ねる。
「数ばかり多いですが、放っておくわけにも行きませんからね」
クリスティアは再びエクステンドキャストよる集中でマテリアルを練り上げる。
「いやはや、結局は喰うか喰われるかの話になる訳か」
覚醒により、エアルドフリスの服や髪はしっとり濡れている。
「結構。要は、此方が喰ってやりゃあ良いんだろう……最大火力で迎えてやるさ」
焔の流星が負の大地を紅蓮に照らし出し空を駆け、墜落により凶悪な火の牙をむき出しにする。
「トラオム、援護お願い!」
まよいは青紫に白の混じった毛並みのユグディラ、トラオムに呼びかける。
トラオムはまよいのマテリアルの流れに合わせてリュートを爪弾く。森の宴の狂詩曲だ。
「天空に輝ける星々よ、七つの罪を焼き尽くす業火となれ……ヘプタグラム!」
魔術師たちの火球が、敵の大群を焼き尽くした。
「ハッハー、盛大なもんだなぁ! ……で、あのアツイご馳走を喰らっても動いてる贅沢者はどこだぁー!?」
それでもしぶとく焔から這い出した敵をエヴァンスが叩き斬った。
「さすが魔術師の広範囲攻撃ねー。こっちの仕事は少なくて済みそうだけど……ま、そう簡単にいかないのが仕事よね?」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は迫る歪虚軍勢と【流星】の間にいた。刻令ゴーレム「Gnome」のゲー太、友軍の一部と共に、【流星】へ敵を近づけさせない位置だ。
「撃ち漏らしの処理はこっちでもやっておくわ?」
カーミンが千日紅で残像をつくり出しつつ、ガーベラで駆け抜け、オランジュームで敵を斬り、オレアンダーで毒を盛る。
「ゲー太、bindで敵を足止めしておいて!」
ゲー太はCモード「bind」で地雷を設置する。また、カーミンに指示された友軍部隊が地雷に嵌った敵を狙って攻撃する。
「破滅に抗うのはボクらの常、と。世界の命運がかかっていようがボクらがやる事は変わらない。そうだろ、シェリー」
「うん……ヒース。私も……ずっと欲しかった、……この癒しの力で、戦うよ……」
と、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)。
シェリルは魔法の行使で動けない【流星】の近くで、回復と手裏剣による迎撃をしている。
ヒースはイェジドのアーベントと共にメテオスウォームで倒しきれなかった敵の殲滅だ。
黒の颶風となってアーベントがシェオル・ノドに襲いかかり、喰らいついた。首を振って敵を引きずり倒し、強靭な顎で敵を噛み砕く。メテオスウォームで傷ついていたシェオルはそれだけで塵になって消えた。
息つく暇もなく、アーベントはウォークライを轟かせ、周囲を威圧する。
威圧された中型狂気に、ヒースが紅蓮斬を叩きつける。
足を負傷した中型狂気は、ヒースに向かって腕を振り下ろすが、瞬影により回避行動に続いた斬撃で敵を斬り払った。
「戦い続けるのがボクらの役目、成すべきこと。ボクらがここで戦い続けているうちは負けじゃない。……シェリー、まだ持ちそうかい?」
「大丈夫だよ……ヒース……。きっと……支えるから……」
シェリルはヒールで、戦うハンターを支える。
歪虚軍勢は【流星】や、カーミン、ヒース、シェリルたちの活躍で、ほとんどがハンターに近づく前に掃討された。
「だが、どうにも数が多いな……」
エヴァンスはエボルグで空を飛び続け、敵を集め殲滅効率を上げる。
事実、敵の数は多い。加えて、メテオスウォームは強力だが使用回数の多いスキルではない。このままではスキルを打ち切るのが先か、敵が全滅するのが先かという状況だ
「おーい、おまえら!」
そこで、エヴァンスは地上の歪虚軍勢の対応に当たっている前衛に呼びかける。
「もっと効率よく敵を潰さんと、まよいたちも持たないと思うんだ。敵を誘導するの、手伝ってくれるか?」
「了解よ。密集させればいいのね。……データは頭の中に整っている。存分に暗躍させてもらうわ?」
カーミンがエヴァンスの要請にこたえた。
「こいつは長い戦いになりそうだな……」
エアルドフリスはまだまだ迫り来る歪虚の大群を見て呟いた。まだ、ここで踏ん張る必要がありそうだ。
(雑魚を蹴散らしたら、マクスウェルの方へ行こうと思っていたんだが……)
心配するのはマクスウェル対応をしているジュードやアルヴィンのことだ。
(……無事でいてくれよ)
『おのれェ! しつこい奴らだ……!』
ヴァイス、アニス、ヴァルナは、イェジドとリーリーの高い移動力でマクスウェルを追いかけ続けていた。追跡も付与してあるので、ワープしても出現場所の特定が容易い。
『わかった。その努力に免じて、相手をしてやるぞ、ハンター!!』
マクスウェルが向きを変え、ハンターに向かって、大剣を振り抜き、衝撃波を放った。
幻獣たちはそれぞれ、ジャンプして衝撃波を回避する。
「マクスウェルの奴、ようやく俺たちを相手にする気になったらしいな」
「ええ、存分に斬り結ぶとしましょう!」
ソウルエッジにより、魔法威力を加算した剣で、ヴァルナは大きく武器を振り回し強撃で打ち据える。
『この程度ォ!』
マクスウェルはそれを回避し、ヴァルナに一撃を浴びせようとする。しかし、ガストが後ろに飛んで避けた。
さらに踏み込もうとするマクスウェルの体を、再び光の杭が貫く。
「逃げなくなったとはいえ、自由にするわけにはいきませんから」
アニスの放ったジャッジメントだ。
『貴様……どうやら最初に死にたいようだな!?』
マクスウェルの姿が消えた。ワープだ。
『──沈めッ!!』
アニスのそばに現れたマクスウェルが、シリウスごと彼女を貫こうとした。
「させない」
だが、彼女をかばって、グレンに乗ったヴァイスが飛び込んだ。
獣盾がマクスウェルの大剣の軌道を逸らしたが、アニスたちの代わりに受けたダメージは重い。
『邪魔をするなッ!』
「共に歩むと決めた……、だから守る!」
ヴァイスはヘクセクリンゲを振るって反撃する。
マクスウェルは、ジャッジメントを使うアニスを倒したいが、ヴァイスが守るので手が出せない。そして、ヴァイスたちのダメージはアニスが回復する。
ワープでこそ移動したが、ジャッジメントの効果はまだ続いていた。
「動かない的なら、外さないよな?」
飛来した弾丸がマクスウェルに命中した。
パリスに搭乗した研司の射撃である。
「さっきは落とされちゃったけど、もう簡単にはいかせないよ! エアさんもいるしここで振り切られるわけにはいかないもん!」
続いて、ジュードもマクスウェルを狙撃する。
「どっちの願いが、想いが、強いか証明してあげるよ!!」
『グォオオ!?』
足止めされ、研司とジュードに集中砲火されるマクスウェル。
「足止めに、集中砲火……、マクスウェルといえども、これは辛いんじゃないカナ」
ゼフィールに奏音と共に乗ったアルヴィンが言う。
「だから、状況を打破スルために、使うだろうネ。恐慌の光を」
アルヴィンは【沈丁花】でそのことを伝達し、奏音の呪詛返しのためにアイデアル・ソングを発動する。
『おォォォォのォォれェェェェエエエ!!』
そして、アルヴィンの予想通り、マクスウェルは恐慌の光を放射した。
エアルドフリスとヴィルマ、そしてクリスティアは、この時のためにカウンターマジックをセットしていた。しかし、
「駄目だね、どうにも……!」
「奴が遠すぎるのじゃ!」
「これでは、打ち消すことはできません……!」
戦場が広いために、マクスウェルが射程外で届かないのだ。
近くにゴーレムの設置した壁がある者は、そこへ隠れる。特にアルマはどこから光が来てもいいように、いろんな向きの壁をつくっており、そのひとつに逃げ込む。
だが、マクスウェルは戦場を縦横無尽に走り回っていたので、マクスウェル対応者の周りには壁などない。
「確実に止めないと……!」
奏音は5枚の符を取り出した。自身の抵抗を高め、撒き散らされる呪いを返そうとした。
(!? 前より、強くなっている……?)
以前も恐慌の光を呪詛返しした奏音だからだろう、わかってしまった。
そう、マクスウェルの能力向上に伴い、恐慌の光の強度も上がっていたのだ。
「これは……返せません……!」
『さあ、思うままに振舞うがよい、ハンター共!』
光が伸びる。このままでは恐慌の光が戦場を染め──、
『フハ、フハハハハハハハハ、ハハ、ハ……、……ん?』
──なかった。光は消えて、誰ひとりとして、精神を汚染された者はない。
『何ッ!? オレの光が消えただと!?』
「なんとか、なりましたね……」
そう言うのはUiscaだった。
Uiscaはポロウの銀雫を同行している。銀雫は惑わすホーを展開していた。彼女の目的はクリュティエの妨害であるが、マクスウェルの恐慌の光のことも忘れていなかったのだ。マクスウェルの恐慌の光は射程が長過ぎるために、遠く離れたUiscaたちすら効果範囲にしてしまった。故に、惑わすホーで魔法術式を瓦解させたのだ。
奏音は、恐慌の光が防がれたことに、胸をなでおろした。
「皆様が無事で良かった……。けど、」
ある事実を確信せざるを得なかった。
(生半可な抵抗じゃ、きっと意味はありません。覇者の剛勇のような力がなければ、呪詛返しは使えないでしょう……)
『ええい、毎度毎度小癪な手をォ……!』
「戦術、と言って欲しいですね」
ヴァルナが、マクスウェルに強撃で斬りかかる。
恐慌の光が止められたマクスウェルはすぐに思考を切り替えて、ヴァルナの攻撃を避けようとしたが、エンタングルに足を取られ、かろうじて大剣で防御する。
『戦術だと? 弱さの言い訳だろう?』
「その傲慢が、あなたを追い詰めるのです」
『ヌゥ!?』
マクスウェルは、大剣に鎖が絡まるような感覚を覚えた。
「その大剣、恐慌の光の発動体だとお見受けします。ですので、封じさせていただきました」
ヴァルナの攻撃にはソードブレイカーが込められていたのだ。これで、マクスウェルの大剣は弱体化し、大剣を発動体とするアクティブスキルを使用できない。
『フン、いい気になるなよ、ハンター共……!』
マクスウェルは大剣を振りかざし、ガストを斬り付けた。
「ガスト……!」
ガストはリーリーヒーリングで傷を癒す。
『この程度でオレを止めた気になるなよッ!!』
スキルなしに繰り出される攻撃は、能力が向上しつつあるためだろう、それでも強烈だった。
「こんなに……強く、なったのですか……!」
『なんだ? オレを見くびっていたのか? 第一、貴様ごときがオレの力を計るとは、不遜にもほどがあるぞッ!』
繰り出されるマクスウェルの斬撃が、生命力を確実に削っていく。
「いま回復します!」
アニスがアンチボディで傷を癒す。
そして、ヴァイスが徹刺でマクスウェルを串刺しにし、敵の正面へ躍り出る。
魔鎌と大剣が打ち合わされた。
ソードブレイカーの呪いもあるのに、マクスウェルの攻撃は以前にもまして力強い。
「その強さには敬意を表するよ、マクスウェル」
グレンはブロッキングを使いながら、マクスウェルの移動を許さない。
そして、動けないマクスウェルへ、研司とジュードの狙撃がダメージを与える。
『……』
元々、マクスウェルの戦闘能力は非常に高い。だが、能力の向上があるとはいえ、この状況では逃げ切ることは難しかった。
そんなマクスウェルは、視界の隅に流星群を見た気がした。いや、星ではない、歪虚軍勢を殲滅しているハンターのメテオスウォームやゴーレムの砲撃だった。
『…………フム』
そして戦場を見渡して、肝心のベルゼブル対応のハンターたちが戦域を突破したことを知った。
『阻止はできなかったか……』
マクスウェルが低い声で呟く。が、すぐにその赤い眼をハンターに戻す。
その眼には、撤退の意思なんて微塵も感じられなかった。むしろ闘志が燃え盛っているのだ。
『だが、逃げ回るのはここまでだ。ここからは──このオレの本気を見せてやろう!!』
面構えにふさわしい言葉を口にして、マクスウェルは大剣を構える。
黙示騎士マクスウェルは高い移動力を駆使して、グラウンド・ゼロを駆け抜ける。
後から仇花の騎士クリュティエも付いて行くが、どうにもマクスウェルが速すぎて追いつけない。そのくらい、マクスウェルの移動力は飛び抜けているのだ。そして、クリュティエの後ろには狂気歪虚やシェオル・ノドの大群がわらわらとやってくる。
「マクスウェル、あまりひとりで先行するな。孤立したら……」
『黙れッ!』
振り向きもせず、マクスウェルはクリュティエの言葉を遮った。
『何時ぞやの指示は見事だったと褒めてやらんこともない。だが、オレが強いのはわかりきったことだ。そのオレが勝利するのは道理だろう。だからこそ、わざわざオレはオマエの指示で、ハンター共に合わせて一緒に踊ってやっただけだ』
「……」
クリュティエはそれ以上マクスウェルに何も言わなかった。ただ、静かに紫の瞳でマクスウェルの背中を見つめて、行く手に視線を戻す。
クリュティエにとって、マクスウェルは大事な仲間だ。共に戦うし、彼が窮地に陥るなら助けたいと思う。が、そんなことを言えば傲慢なマクスウェルのプライドを傷つけるのは必然なので黙っている。
そして、マクスウェルは自分の内側におこる変化をじわじわ感じていた。思い出せない自分の力の出自が、よくわからないままに何か歯車を回そうとしていた。
「……彼らハンターは、また我々と矛を交えるのだな」
前方に布陣するハンター達を見据えてクリュティエが呟く。
マクスウェルはクリュティエの声に全く反応せずに、全速力でハンターへ突き進んだ。
「最初に突撃してくるのはマクスウェル。背後にクリュティエがいます」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は軍用双眼鏡で、迫り来る脅威を計算していた。
「そして、クリュティエの背後に、狂気型歪虚やシェオル・ノドなどの大群がいますね」
エラは共に戦うハンター部隊やCAM部隊と、迎撃体制を築いている。全体を把握し、通信網【沈丁花】の運用を中心に動くつもりだ。同行させている刻令ゴーレム「Volcanius」の七竃は主に【流星】と共に狂気歪虚などの殲滅に用いる予定であり、スキルを温存するためにもまだ出番ではない。
「マクスウェルはほぼ単身で突っ込んで来ている、という感じカナ?」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が、エラに確認する。
「そうですね。少なくともマクスウェルの方はクリュティエと足並み揃えるつもりはないようですね。……もともとそういう性格でもないでしょうし」
「ナルホド! ハーティ、藤堂氏、障害物はない様だヨ?」
「ヤツのガン逃げだけは封じるぜ」
魔導型デュミナスのパリスに乗り込んだ藤堂研司(ka0569)がこたえる。[SW]星神器「蚩尤」の兵主神【B】を発動し、万が一コックピットまで届くダメージを受けた際の守りとする。
「なんだかパワーアップしてるみたいだけど、こっちも負けないもん。いくよ、ディアーナ!」
優美なR7エクスシア、ディアーナに搭乗したジュード・エアハート(ka0410)も、イニシャライズオーバーで恐慌の光対策をしてから、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」の照準をマクスウェルに合わせた。
凄まじい速度でマクスウェルがハンターに迫る。が、そのマクスウェルの腕に1本のナイフがどこからともなく突き刺さった。
『何ッ!?』
奇襲に驚きにマクスウェルは思わずスピードを緩めてしまう。
ナイトカーテンで隠密した龍崎・カズマ(ka0178)の放った影渡による攻撃だった。
『そこに潜んでいたか、ハンター!』
攻撃したことにより、ナイトカーテンの効果が切れて、カズマの姿が現れる。
マクスウェルはカズマにお返しとばかり一太刀浴びせようとしたが、咄嗟に危機を悟り、大剣を盾の様に構えた。
「藤堂号全開、行くぜパリス! 付き合え、黙示騎士!」
「その隙、いただいちゃうよ!」
ライフルの長い射程を生かし、研司とジュードがマクスウェルを狙撃したのだ。
マクスウェルは大剣で、1発は弾丸を受け流すも、もう1発は肩に命中し、金属がぶつかり合う鈍く澄んだ音をたてて、火花を散らした。
『先手はくれてやった。では──次はどうする、ハンター共ッ!』
挑発的な言葉を投げて──マクスウェルは姿を消した。
「野郎、早速ワープを使いやがった!」
研司が視界から消えたマクスウェルを探して、パリスの外部カメラを巡らす。
「一体どこへ……?」
ジュードも同じくマクスウェルのワープ先を探っている。
だが、マクスウェルを見つけるよりも先に、自陣の左翼から、苦鳴や金属の音が聞こえてきた。ハンター部隊やCAM部隊がいるあたりだ。
「もしかして、あの中に紛れ込んじゃったってこと!?」
足を破壊されくずおれるCAMや、宙を舞うハンターの姿を見れば、ジュードの言葉が的中しているのは明らかだ。
「……随分と派手に暴れているじゃないか、マクスウェル」
さらに、マクスウェルに遅れてやってきたクリュティエは、すでに仇花の騎士5体を召喚している。
このままでは乱戦になると判断したエラは冷静に【沈丁花】のハンターへ通達した。
「こちらエラ。マクスウェル対応者へ通達。マクスウェルは左翼に出現。ハンター部隊、CAM部隊を攻撃しています。直ちに駆けつけて対処してください。続いてクリュティエ対応者へ通達。そのまま対象の迎撃を。対象はすでに仇花の騎士5体を召喚済みです」
「こちらヴァイス。マクスウェルの足止めは任せろ」
ヴァイス(ka0364)が通信機でこたえる。跨ったイェジドのグレンの首を回らせて、エラから伝えられたマクスウェルに向かって駆け出す。
「行こう、アニス!」
「はい、ヴァイスさん。……シリウス、よろしくお願いしますね」
ヴァイスと共に行動するアニス・エリダヌス(ka2491)がイェジドのシリウスを軽く撫でると、シリウスは任せとけ、と言うように短く吠えた。
「とんでもない速さじゃないか、黙示騎士マクスウェル」
南條 真水(ka2377)はぐるぐる眼鏡の奥の鋭い瞳で、マクスウェルが暴れている方を見る。
「悲しい哉、あの距離では南條さんの攻撃は届きそうにないや」
マクスウェルの移動力は高い為、ハンターにも同様の高機動がなければ対応するのは困難だ。真水はジャッジメントと言う足止めの手段こそ持っているが、相手は射程外であるし、あの速さに追いつく術もなかった。
「仕方ない。ホー之丞、南條さんも君と一緒に仇花君達の相手をすることにしよう」
真水は傍のポロウ、ホー之丞に言う。
「幸い、敵は向こうから来てくれるしね。ワープする敵を探し回るより、迎え撃つ方が省エネだろ」
クリュティエは仇花の騎士5体と共に、ハンターの陣営に突っ込んで来たところだった。
「また会いましたね、クリュティエさん」
Uisca Amhran(ka0754)がポロウの銀雫と共に占有スクエアを作ってクリュティエの進路に立ち塞がった。超覚醒は発動済みだ。そして【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻をクリュティエに向かって放つ。
顕現する闇色の爪や牙がクリュティエを刺し貫こうとするが、右手に持った剣が牙に触れた途端に、澄んだ音を立ててへし折れた。剣を犠牲にすることで成し得る絶対防御の技である。クリュティエは右に飛んでUiscaたちを迂回しようとするが、八劒 颯(ka1804)の操縦する魔導アーマー量産型のGustavが立ちはだかった。
「はやてにおまかせですの!」
突き出されるGustavのドリルを、下から跳ね上げる様に剣で軌道を変えるクリュティエ。折れた剣を鞘に戻しながら、彼女は姿勢を低くした。今ドリルを跳ね上げたことで出来た隙間から走り抜けて、ハンターたちを突破するつもりなのだ。駆け出す直前に、しかし、クリュティエは後ろへと飛んだ。
「颯だけじゃない、ざくろもいるよ!」
クリュティエの先を塞いだのは時音 ざくろ(ka1250)と、オートソルジャーのX桜姫。何より、X桜姫は、エリアキープを発動し、鉄壁の守りを築いていたのだ。
ハンターたちはクリュティエをマクスウェルに合流させない様に動いている。そして、それに気付かないクリュティエでもない。
新しい剣を鞘から引き抜きながら、クリュティエは、自分を囲むハンターよりも、マクスウェルの方を気にしていた。
マクスウェルはワープと移動力を駆使して、ハンター陣営を撹乱しているようだ。見た所、ひとつの対象に固執することなく遊撃的に立ち回っている。マクスウェル自身の能力が活きる闘い方だ。
だからクリュティエは、今のマクスウェルならひとりでも問題ないと判断した。
ここで、ようやくクリュティエの意識は目の前のハンターへフィクスされる。
「マクスウェルを放っておいていいの? ひとりで闘っているみたいよ? まあ、頼まれたってどいてはあげないけど」
アルラウネ(ka4841)がクリュティエに問いかける。
「マクスウェルはひとりでも大丈夫そうだ。だから我は、お前たちを叩き潰すとしよう」
2振りの剣を構えたクリュティエは、ハンターと対決する姿勢だ。
そんなクリュティエに、エウクスにユグディラと乗ったGacrux(ka2726)は訴えた。
「……この戦い、退いてはくれませんか」
それは臆病から来る訴えではない。Gacruxには彼女への、或いは彼女のベースとなったモノへの想いがあるのだ。
「我としても、無暗な戦いはしたくはない」
「ならば……!」
「だから──これは、戦いの種を断つために必要な戦いなのだろうな」
クリュティエはそうこたえ、攻撃に移った。
●追跡と逃走
クリュティエから遅れて、大量の狂気VOIDとシェオル・ノドがなだれ込んでくる。
本来なら、【流星】やエラの指示のもとハンター部隊とCAM部隊が迎撃するはずだ。だが、その迎撃陣形がまだ完成していなかった。なにより厄介なのはワープで陣を内側からかき乱すマクスウェルの存在だ。
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は【流星】の護衛【紅】として魔術師たちを守っている。同時にエヴァンスは危険な挑発で敵をおびき寄せて殲滅効率を上げる役目もあるのだが、いつマクスウェルが【流星】を攻撃するかわからない以上、迂闊に【流星】を離れるわけには行かないのだ。
「あの虫野郎、ちょこまか動きやがって……!」
しかし、このまま歪虚が跋扈すれば、黙示騎士対応のハンターの障害になるのは必然だ。
「……エヴァンス。私たちのことは大丈夫。行って」
そのエヴァンスに、夢路 まよい(ka1328)がそう言ったのだ。
「どうするつもりだ?」
エヴァンスが問う。エヴァンスとまよいの間柄だ、まよいが無策ではないことはわかっているからだ。
「覇者の剛勇でみんなを守るよ」
まよいは守護者だ。彼女にもまた超覚醒による強化が施されている。覇者の剛勇はBSの無効化、そして1回まで戦闘不能を無効にすることができるスキルだ。
「私は、私が好きになった以上この世界を護ってみせるから!」
琥珀に染まった瞳でまよいの力強い表情を見たエヴァンスは、唇を釣り上げて笑った。
「わかった。そっちは任せたぜ、まよい! お互いに思いっきり暴れようぜ!」
「もちろん。また後でね、エヴァンス」
「おうよ! んじゃ、行くぜエボルグ!」
エヴァンスの乗るワイバーンのエボルグが翼を羽撃かせて敵の渦中へ飛び込んだ。
「よろしく頼んだぞ、エヴァンス。我も特大の魔法をぶつけてやるとしよう」
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)もそう言ってエヴァンスを送り出した。
「おう、とっておきをぶつけてやりな!」
危険な挑発により琥珀のオーラを纏ったエヴァンスの背中が遠ざかる。
『フハハハハ! どうしたハンター! 貴様ら程度の速度、オレには止まってみえるぞッ!!』
マクスウェルはワープと高速移動を繰り返し、ハンターを振り回していた。
「いつまでも好き勝手できると思わないでよ!」
そのマクスウェルの背中をジュードのディアーナが長い射程で狙撃する。ディアーナの移動力と、長い射程のライフルがマクスウェルに攻撃することを可能にしていたのだ。
マクスウェルは弾丸を避けて、進路を変えた。
(弾は避けられちゃったけど、これは読み通り)
ジュードの目的は、射撃によってマクスウェルの出現・移動先を読みやすくすることだ。そうすれば、仲間も追いつくやすくなる。
事実、ジュードがうまく追い込み、出現地点を予測しやすくすることで、研司がマクスウェルを狙い撃つ。
「ジュードさん、ナイス!」
紫電の銃身から発射された弾丸を、マクスウェルは大剣で弾いた。
『鉄屑ごとき、恐るるに足らんわ!』
「鉄なのはそっちも同じだろ!?」
研司がクイックリロードで素早く弾丸を再装填しながら言った。
ジュードはディアーナを巧みに操縦して、時として飛行し、射撃、銀雨を用い攻守を切り替えて、マクスウェルを追い込んでいく。
(守ってばかりじゃ押し切られるし、空に逃げられちゃう可能性もあるよね……)
ジュードは次にマクスウェルがどう動くかを考える。人機一体、フーファイターによる空中戦の備えも万全だ。だが、ひとつ気になったのは……、
「って、リッチーが、あんなに後ろに!?」
共に行動し、回復役を担っているアルヴィンがジュードの機動についていけないことだった。離れ過ぎてしまうと、お互いのフォローが難しくなってしまう。
(どうしよう、マクスウェルを自由にできないけど、これ以上リッチーと離れるのも……)
『どうした? 動きが鈍ったな!!』
一瞬の迷いではあったが、それを見逃すマクスウェルではない。ディアーナの眼前にマクスウェルが一瞬にして迫った。
『貴様の戦いぶり、なかなか悪くなかったぞ?』
マクスウェルがオーラを纏った大剣を大上段に振りかぶった。
『しかし、オレはもっと強いのだッ!!』
咄嗟の判断でジュードはマテリアルカーテンを展開したが、マクスウェルの刃はそれを物ともせずディアーナを叩き斬った。
飛行状態にあったディアーナは、斬撃の重みに姿勢を崩し、地面に叩きつけられた。ところどころ結晶化した大地に罅が入る。
「ハーティ!」
幸い、致命傷ではなかったので、駆けつけたアルヴィンがフルリカバリーで回復する。
「いてて……。ありがとうリッチー」
ジュードはディアーナを操縦して、再び立ち上がる。
マクスウェルの姿は近くにない。ワープですでに移動した後だった。
(やはり、マクスウェルを相手取るには高い移動力は必須……)
夜桜 奏音(ka5754)もその一部始終を見ていた。
奏音の大きな目的は呪詛返しを使って、仲間をBS、主にマクスウェルの恐慌の光から守ることだった。
恐慌の光は効果範囲が広いために、巻き散らされれば、即座に戦線が壊滅しかねない。何らかの方法で恐慌の光を防ぐ必要がある。
そもそも、恐慌の光は強度の高いスキルだ。何の対策もなしに呪詛返しをしても、成功する確率は低い。だが、これを他のスキルと併用したらどうだろうか?
BS強度を下げるアイデアル・ソングと共に使用すれば成功確率は上がるし、BSを無効にする覇者の剛勇と一緒だったら確実に呪詛返しに成功するだろう。
しかし、守護者であり、覇者の剛勇を使用できるまよいは、迎撃ラインで忙しくしているし距離もある。同じく守護者のUiscaはクリュティエ対応に回っている。彼女たちの覇者の剛勇の範囲に収まりつつ、動き回るマクスウェルを対応することは不可能だ。
アイデアル・ソングを使えるアルヴィンは、マクスウェル対応者なのだが、イェジドのゼフィールに乗っている奏音とは足並みが揃わないのがネックだ。で、あるならば……、
「アルヴィンさん、ゼフィールに私と一緒に乗ってください」
「ムムム?」
「そうすればスピードはカバーできますから、ジュードさんたちをフォローすることも可能です」
「確かにその通りだネ。さらに、夜桜嬢は確実に僕のアイデアル・ソングの範囲に入るわけだカラ……ナルホド、理にかなっているネ。それデハ、お言葉に甘えるとしよう!」
ゼフィールが、アルヴィンの跨りやすい様に屈んだ。
「出発する前に、チョット」
アルヴィンは同行させていた刻令ゴーレム「Gnome」に再度指示を出す。
「僕は夜桜嬢と行くケド、やるコトはかわらないヨ。恐慌の光対策に壁を、余裕があったら法術地雷を埋めといてオクレ」
「今はヴァイスさんたちがマクスウェルを追いかけているようです、私たちも行きましょう」
「パリスの射程から逃げられるとは思わんことだ、黙示騎士め」
「よーし、再出発進行!」
ゼフィールに乗った奏音とアルヴィン、パリスを操縦する研司、ディアーナに搭乗したジュードが再びマクスウェルの追跡を開始する。
イェジドに乗ったヴァイスとアニス、リーリーのガストに乗ったヴァルナ=エリゴス(ka2651)は幻獣の移動力を駆使してマクスウェルに追い駆けるが、やはりマクスウェルの方が早い。
カズマのポロウ、ラウクは飛翔して、空からマクスウェルの位置を探ろうとするが、マクスウェルのスピードについていけない。
このままでは時間だけが経過してしまう。
「ヴァイスさん、アニスさん!」
ヴァルナが併走する2人に声をかける。
「もとより単独で追い詰められる相手ではありません。3人で包囲する様に立ち回りましょう」
「そうですね。私には戦う力はないですが、ジャッジメントで敵の移動を封じることができます」
アニスがヴァルナの言葉にこたえる。
「私がガストと共に、一気に距離を詰めます」
「わかった、俺はアニスがジャッジメントを撃ちやすい様、さらにマクスウェルを誘導する」
3人は頷き合い、行動を開始する。
「ガスト!」
ガストが数歩のステップの後、天高く飛んだ。リーリージャンプによる長距離ジャンプだ。
『ヌオオ!?』
ガストはマクスウェルの頭上を飛び越えて、彼の正面に着地する。
『ハッ、やればできるじゃないか!』
マクスウェルはこのまま正面突撃で、ヴァルナを蹴散らして行こうかと考えた。しかし、思考に決定を下す前に、左後方から声がした。
「なら、そろそろ俺たちに付き合ってくれてもいいんじゃないか?」
グレンで疾駆する、魔鎌「ヘクセクリンゲ」を構えたヴァイスだ。
正面にヴァルナ、左後方にヴァイス。そして過去に包囲されタコ殴りにされた記憶。それらが、方向転換して包囲を抜けるか、それとも力で包囲を突破するかのマクスウェルの決断と行動を鈍らせた。
「それが命取りです──!」
そして、マクスウェルの右後方にはシリウスに跨るアニスも迫っている。手には[SA]神聖剣「エクラ・ソード」が握られており、切っ先がマクスウェルを狙っていた。アニスこそ、この包囲の要だ。
「もう、自由にはさせません!」
剣の刃が輝き、光の杭がマクスウェルに向けて発射された。ジャッジメントの断罪の杭が敵の足を貫き、その場に縫い付ける。[SA]で強度が強化された移動不能のBSはマクスウェルにも十分に通じた。
「シリウス、グレンちゃん、今です!」
シリウスとグレンが、動けなくなったマクスウェルにイェジドのスキルで追跡のBSを付与する。
『ええい、小癪な!』
マクスウェルは動けないのを悟って、ワープを使って姿を消した。しかし、イェジドの嗅覚や聴覚をフル活用した追跡から逃れることは難しい。
マクスウェルの出現先は、【沈丁花】の情報網で、すぐにハンターに伝達された。
●倒さずに制する
仇花の騎士には、近接、射撃、魔法それぞれに特化した個体が存在する。彼らは個人ではなく概念の存在なので、顔は黒く塗りつぶされている。そして、それぞれが高位歪虚に匹敵する強さを持っていた。
「白縹、大丈夫ですか……!?」
ルカ(ka0962)は自分も血を流しているが、跨るペガサスの白縹を気遣う。
ルカは積極的に前へ出て味方へのダメージを肩代わりしていた。そのために、ルカと白縹の傷は深いのだ。幸い、リザクションやヒールウィンドなどの回復手段はあるので、そう簡単に倒れはしない。
「ここで、諦めるわけには……!」
斬りかかる近接タイプの仇花の騎士の攻撃を躱して、プルガトリオによる移動不能を試みる。攻撃は仇花の騎士に突き刺さったが、縫い止めるまでには至らない。
返す刀で、白縹を狙う仇花の騎士。が、その体がくずおれた。
「こっちにも守りたいものも、守りたい理由もできちまったからな」
ナイトカーテンで潜んでいたカズマが剣で敵の膝を貫いたのだ。
だが、そのカズマも、追撃することなく、バックステップで緊急回避をする。
後方に控える、魔法特化型が、マテリアルの矢のようなものを撃ち込んできたからだ。
「ったく、強いね、どうにも……!」
魔法特化型や、射撃特化型を躱しながら戦うのは簡単なことではない。
「ならば、なるべく多く巻き込み、倒すまでです!」
青みがかった銀の毛のイェジド、エイルが背に乗せたイツキ・ウィオラス(ka6512)の攻撃がより敵を巻き込める位置へと移動する。
撃ち出された青龍翔咬波が、仇花の騎士を食いちぎる。
「まだ、足りませんか……!」
「じゃあ、とどめは僕がいただくですよー!」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)がデルタレイを発動する。[SA]機械剣「ドリーフック」により、全ての光線を1体に集めることが可能だ。
「じゅっ、ですよ」
アルマの高火力攻撃は仇花の騎士の胸に穴を開け、腕と足をもいだ。こうして1体の騎士が塵になって消えていく。
(この調子で、仇花の騎士を撃破し続け、クリュティエの行動を圧迫できれば……)
仙堂 紫苑(ka5953)はそう考えていた。
だが、ほとんど間をおかず、クリュティエは新しい仇花の騎士を召喚した。とても術の行使で行動を圧迫された様には見えなかった。もちろん、再召喚された仇花の騎士を倒すにはまた最初からBSなどを付与して生命力を削り切る必要がある。
「わふー!? もしかしてこれ、キリがないですー!?」
そう、このまま、この人数で仇花の騎士を倒し続けるのはどうしても無理があるのだ。
(実際のところ、これだけの術だ。全くノーコストなはずもないが……!)
行動を消費するというより、自動的に何かを割いて湧いて出るという雰囲気だ。
もし過去の歪虚がそうであるように、分体を生み出すことにクリュティエが生命力を消費しているのだとすれば、“倒す”ことを目的とする場合、価値ある行動と言える。
(だが……これでは時間は稼げない)
「なら、倒さなければいいんです!」
しかし、無限の戦いをしなくてはいけないのかと思った矢先、ユウ(ka6891)が澄んだ声でそう言った。
「倒してしまえば、相手は完全な状態で復活する……だとしたら、敢えて倒さず、時間を稼げばいいんです」
倒し続けるのが無理ならば、倒さなければいい。
「クリュティエさんが維持できる仇花の騎士の数は5体。その5体を倒さずに可能な限り無力化すれば、今回の目的は果たせます」
「……なるほど、確かにそうだな」
ユウの提案に、紫苑は納得した。
「倒さずに時間を稼ぐ、か。それならうってつけの物がある。……できれば隠しておきたかったんだがな」
「わふ? シオン、もしかして作戦変更です?」
「ああ、聞いた通りだ。仇花の騎士は倒さない。アヌビスを使う。みんなは協力して、敵を1箇所に集めてくれ。……アルマ、支援重視で頼む」
「わかったです! 僕、がんばるですー!」
アルマの刻令ゴーレム「Gnome」は【悪童】面子の周囲にCモード「bind」を、またCモード「wall」で恐慌の光兼敵の射線妨害をしていた。
ハンターは倒すことから、追い込むことに意識を変えて、仇花の騎士と対峙する。
ルカは近接型の敵を引きつけつつ、敵を誘導した。
ユウは魔法特化の騎士へアクセルオーバーによる残像を纏い、肉薄する。
騎士もユウを迎撃しようとマテリアルの矢を編み上げる。それがユウに命中する刹那、魔法は露と消えてしまった。
ユウのポロウ、ソラが発動した惑わすホーで構築された魔法を瓦解させたのだ。
「好きにはさせません!」
ユウは走る勢いもそのままに、騎士へナイフを突き出した。
騎士は杖でユウのナイフを受けた、途端に杖に違和感を覚えた。
「魔法は封じさせていただきます」
ソードブレイカーの呪いを斬撃に混ぜ込んでいたのだ。[SA]ナイフ「ペルデール」により、その強度はさらに上がっている。
イツキは近接攻撃を練気「龍鱗甲」で弾き返し、青龍翔咬波で仇花の騎士を追い立てた。
紫苑のワイバーン、フィンは騎士をサイドワインダーによる機敏な攻撃で追い込んでいく。
「南條さんも、協力しちゃうよっと」
真水が放つ、ミカズチの三叉の光線が敵を思い通りの方向へ行かせない。
射撃特化の騎士は真水へ、マテリアルの込められた矢を射った。それは弾丸に等しい速度で飛来する。
「おっと!」
真水は盾で受けるが、僅かに軌道を逸らされただけの矢は肩を引き裂く。
「痛いじゃないか。南條さんの柔肌をなんだと思っているのか」
真水は盾を下ろさない。そして、にやっと笑った。
「……それじゃ、吹き飛んでもらうよ」
矢の軌跡を辿るように、真水の盾から電撃が伸びて、仇花の騎士の体を吹き飛ばしたのだ。攻性防壁の効果である。
「なかなか良いヒットだ。……さて、仙堂君。これで準備は整ったんじゃないかな?」
他のハンターもそれぞれのスキルを使って、仇花の騎士を1箇所に追い詰めていた。
イツキのエイルはウォークライで威圧し、ルカはプルガトリオでこれ以上の移動を許さない。
射撃型の騎士が、最後のあがきで紫苑を狙い撃とうとしたが、弓を持った手が大きく弾かれた。
「シオンの邪魔はさせません。大人しくしていてくださいね?」
アルマのデルタレイだ。うっかり倒してしまわないように、[SA]の効果は使わない。
[SW]星神器「アヌビス」がここに開帳される。
死者を裁く神が用いる天秤は、紫苑の精神に呼応して色を帯びた。
「ここに示すのは死者の掟。死人が動くことはないんだ」
封印術が仇花の騎士を縛り上げた。守護を打ち破り、自由と力を奪う、敵を死者たらしめる星神器の力。
「しばらくは静かにしておいてもらおうか」
仇花の騎士といえど、これには抵抗はできなかった。
「行くよみんな、ざくろたちの絆(あい)の力を彼奴らに見せつけてやるんだ!!」
そして、こちらはクリュティエ対応者たち。
ざくろは【冒険団】の仲間とともにクリュティエに立ち向かう。
「死ぬ気で行くけど、死ぬつもりはないからね!」
アルラウネがクリュティエを次元斬で引き裂くが、クリュティエの防御が高くダメージが通らない。
「気が合うな。我としても、無用な犠牲は避けたいところだ」
クリュティエが剣を振りかざし、アルラウネに斬りかかる。
2本の剣から繰り出される連続攻撃を避けるのは困難だ。クリュティエは、マクスウェルの援護よりもハンターの撃破を目的に動き始めた。彼女は守護に特化した個体だが、戦闘力が低いわけではない。
「アルラはざくろが守る!」
しかし、ジェットブーツで盾を構えて飛び込んできたざくろがアルラウネをかばった。
ざくろは肩と腿を深々と斬り付けられたが、盾で受けることでそれ以上の刃の侵入を許さない。攻性防壁を発動しているのだが、雷撃はクリュティエに纏わりつく前に弾かれてしまう。
「絆(あい)か……。それは不変のものなのか?」
「……ざくろたちのことを疑っているの?」
「心は変わる。人は死ぬ。物語は、終わる。別れは避けられない。……ざくろ、と言ったか。お前は、幸せか?」
「当たり前だよ。嫁様たちに囲まれて、不幸せなわけがないもん!」
「だったら、それを永遠にすればいいじゃないか。別れは──悲しい」
「でも……うっ」
クリュティエはざくろを蹴飛ばした。
よろめいて後退するざくろの体をサクラ・エルフリード(ka2598)が受け止める。
「回復をします……。聖なる癒やしを……ヒーリングスフィア……!」
柔らかい光が傷を癒していく。
「びりびり電撃どりる!」
攻撃を交えつつ、颯がGustavの機体でクリュティエにプレッシャーをかける。X桜姫と共に行動することで、より多くの道を塞ぐ。
クリュティエは猛攻を仕掛け、Gustavの足をへし折った。
傾くGustavの機体。
「Gustav、動いてください! ここで倒れるわけにはいかないのです……!」
操縦桿を動かしても、深刻なダメージを受けたGustavは思うように動かない。
「癒しの光よ……再び立ち上がる力を!」
サクラがリザレクションで、Gustavのエネルギーバイパスを強制的に活性化させて、戦線に復帰させる。
「なかなかしぶといな」
クリュティエ対応者は多数の戦闘不能者を出していた。しかし、リザレクションや覇者の剛勇、ヒーリングスフィアなどの回復スキルがあったので、そう簡単に包囲網は破断しない。つまり、ハンターはボロボロであるが、包囲網は機能しているのだ。
「クリュティエ様、月でお会いした以来ですね」
口調こそ丁寧だが、叩き込まれるフィロ(ka6966)の拳は鋭い。
[SW]星神器「角力」による、鹿島の剣腕の効果で、フィロは連続攻撃を開始する。フィロの目的はソードブレイカーでクリュティエの剣を封じること。繰り出される白虎神拳と鎧徹しには無論その呪いを織り交ぜるつもりだ。
「ああ、月で会ったな。よく覚えているよ」
クリュティエも、フィロの顔を覚えていた。
「それは光栄でございます」
「──そして、その技も覚えている」
クリュティエは、片方の剣を鞘に戻し、素手でフィロの攻撃を受け止めた。
「武器封じの呪いは、厄介だからな」
ソードブレイカーの付与対象は「武器」だ。対象が武器で攻撃を受けなければ効果はない。
クリュティエは攻撃を受けたのと逆の手に握った剣でフィロを斬る。
フィロもバリィグローブをかざし、かつ同行させているユキウサギの雪水晶でダメージを軽減する。
さらにフィロへ斬りかかろうとするクリュティエに、Uiscaが【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻の爪で妨害するが、絶対防御がダメージを無効にした。ソードブレイカーには素手で、ソードブレイカーを使えない者の攻撃は剣で防ぐなど、ハンター側の戦術は見抜かれているようだ。
Uiscaは銀雫の惑わすホーで絶対防御を打ち消せないかと考えたが、あれは魔法スキルではないので、効果はなかった。
また、真水のポロウ、ホー之丞も惑わすホーで魔法スキルを妨害しようとしていたが、クリュティエはマクスウェルが近くにいないために、魔法スキルの回復・BS解除スキルを使わないので、その機会がない。そして、仇花の騎士召喚は魔法スキルではあるが、キャラクターを対象としないので、惑わすホーで打ち消すことはできない。
クリュティエは折れた剣を鞘に戻し、新しい剣を引き抜いてUiscaに突進し刃を突きつける。
Uiscaの盾と刃が擦れて火花をあげた。
高い魔法攻撃力と、超覚醒の強化でUiscaはなんとかクリュティエと渡り合う。
キャリコ・ビューイ(ka5044)はクリュティエから50スクエアほど離れたところにいた。
騎乗したポロウは隠れるホーを使用し、キャリコ自身も隠の徒を使用しているため、認識しづらい。
クリュティエは、ハンターに包囲されている。
目の前のハンターを相手にすることに集中しているらしい。
だから、こっちには気がつかない。
キャリコは、残弾1発になるよう調節した[SA]新式魔導銃「応報せよアルコル」の照準器を覗いて、十字線に獲物の姿を重ねる。
今から発動するのはトリガーエンド。ひとつの射撃武器につき、1回しか使用できない、一撃必殺の技。
引き金に指をかけるキャリコには焦りも、迷いもない。ただ、落ち着いて引き金を引けばいいだけだ。
「俺からの、取って置きだ。遠慮なく喰らっていけ」
マテリアルが弾丸に収斂する。
クリュティエが折れた剣を鞘に戻していたところへ、脇腹にキャリコのトリガーエンドの弾丸が直撃した。確実にクリティカルになるこのスキルには、絶対防御は間に合わない。
「……む」
クリュティエはぐらつく態勢を整えながら、弾丸の飛来方向を確認する。
攻撃したことで、隠の徒の効果が終了し、キャリコの姿が難なく見える。だが、クリュティエがキャリコを攻撃するには距離があるし、そのためには包囲網を突破する必要があった。なので、クリュティエはキャリコを相手にするとはせず、鎧に食い込んだ弾丸を払い落として、再び眼前のハンターに向き直る。
ダメージを受けたはずなのに、クリュティエの顔は涼しかった。
(直撃したはずなのに、これも有効打ではないというのですか……?)
攻撃自体は効いている。だが、素の耐久性能がずば抜けて高いのだ。
Uiscaは敵の損傷具合と周囲のハンターを確認する。ハンターの疲労は強く、強硬な作戦を取る余裕はどこにもない。今まで戦えたのは、回復スキルがあったからで、直接的にクリュティエを抑え込む戦力は不足しているのだ。
「……クリュティエさん、和平はどうしたんです?」
Uiscaはクリュティエに話しかけて、時間を稼ぐことにする。あくまで警戒は怠らない。
「悲しいことに、リアルブルーの大精霊にはふられてしまってね」
クリュティエがこたえた。
「和平の条件とかだけでも聞きますよ?」
「そういうことが話し合えればいいのだが、クリムゾンウェストの大精霊は、もっと取り付く島もなさそうで困っているんだ。だが、そもそも……」
はぐらかす風に会話に応じていたクリュティエだが、区切った先の言葉には軽薄さはどこにもなかった。続く言葉はおそらく、彼女の真意だ。
「お前たちがこうして戦っているのは力があるからだ。つまり、人類に抵抗の余力があるうちは、我々との交渉に乗ることはないだろう。……だから一度、抗う気力すら起きないほどの絶望へ叩き落としてやる必要があるんだ」
「絶望……ですか……?」
Uiscaが眉を顰めて繰り返した。
「お願いです、もう退いてくださいクリュティエ……いや、カレンデュラ」
会話をGacruxが引き継いだ。
クリュティエの視線がGacruxに向く。
「貴女が永遠を望むのは、俺たちとの日々が幸せだった証だ。だが……悲しみに囚われた永遠の世界に、貴女が見た喜びはあるのでしょうか。その仮面は、もう無理に笑いたくないと望んだからですか?」
「カレンデュラ、か。それはあくまで我の元になった仇花の騎士の名前だ。我はクリュティエ。邪神の目的を果たすために遣わされたモノに過ぎない」
●流星が灼き尽くす
「さて、そろそろ我々も仕掛ける準備が整ったな」
グリフォンのスキヤンに跨ったエアルドフリス(ka1856)が、マクスウェルにかき回された陣が修復されたことを認めた。
「【流星】の皆様は術式の展開を。それまでの時間はハンター部隊とCAM部隊、ゴーレムの弾で埋めます」
と、エラ。
「シュナイト、我らが魔法を紡ぎ終わるまで、休まず撃てよ?」
ヴィルマの刻令ゴーレム「Volcanius」、シュナイトが砲身を敵に向ける。
「それじゃあ、行くよ!」
まよいの合図で、それぞれが体内でマテリアルを練り上げる。
魔法に先んじて、ゴーレムの砲弾が敵を撃破する。だが、それだけでは足りない。
可能な限り遠くへ届くように、可能な限り広範囲に。
「霧の魔女の名の下に、集え墜ちよ流星よ、邪悪の眷属共を残らず地に伏せ亡きにせよ」
ヴィルマの展開した火球は流星となり、エヴァンスの集めた敵を焼き尽くす。それでも、体を焦がしながら這い出た敵へ、畳み掛けるようにクリスティア・オルトワール(ka0131)もメテオスウォームを重ねる。
「数ばかり多いですが、放っておくわけにも行きませんからね」
クリスティアは再びエクステンドキャストよる集中でマテリアルを練り上げる。
「いやはや、結局は喰うか喰われるかの話になる訳か」
覚醒により、エアルドフリスの服や髪はしっとり濡れている。
「結構。要は、此方が喰ってやりゃあ良いんだろう……最大火力で迎えてやるさ」
焔の流星が負の大地を紅蓮に照らし出し空を駆け、墜落により凶悪な火の牙をむき出しにする。
「トラオム、援護お願い!」
まよいは青紫に白の混じった毛並みのユグディラ、トラオムに呼びかける。
トラオムはまよいのマテリアルの流れに合わせてリュートを爪弾く。森の宴の狂詩曲だ。
「天空に輝ける星々よ、七つの罪を焼き尽くす業火となれ……ヘプタグラム!」
魔術師たちの火球が、敵の大群を焼き尽くした。
「ハッハー、盛大なもんだなぁ! ……で、あのアツイご馳走を喰らっても動いてる贅沢者はどこだぁー!?」
それでもしぶとく焔から這い出した敵をエヴァンスが叩き斬った。
「さすが魔術師の広範囲攻撃ねー。こっちの仕事は少なくて済みそうだけど……ま、そう簡単にいかないのが仕事よね?」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)は迫る歪虚軍勢と【流星】の間にいた。刻令ゴーレム「Gnome」のゲー太、友軍の一部と共に、【流星】へ敵を近づけさせない位置だ。
「撃ち漏らしの処理はこっちでもやっておくわ?」
カーミンが千日紅で残像をつくり出しつつ、ガーベラで駆け抜け、オランジュームで敵を斬り、オレアンダーで毒を盛る。
「ゲー太、bindで敵を足止めしておいて!」
ゲー太はCモード「bind」で地雷を設置する。また、カーミンに指示された友軍部隊が地雷に嵌った敵を狙って攻撃する。
「破滅に抗うのはボクらの常、と。世界の命運がかかっていようがボクらがやる事は変わらない。そうだろ、シェリー」
「うん……ヒース。私も……ずっと欲しかった、……この癒しの力で、戦うよ……」
と、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)。
シェリルは魔法の行使で動けない【流星】の近くで、回復と手裏剣による迎撃をしている。
ヒースはイェジドのアーベントと共にメテオスウォームで倒しきれなかった敵の殲滅だ。
黒の颶風となってアーベントがシェオル・ノドに襲いかかり、喰らいついた。首を振って敵を引きずり倒し、強靭な顎で敵を噛み砕く。メテオスウォームで傷ついていたシェオルはそれだけで塵になって消えた。
息つく暇もなく、アーベントはウォークライを轟かせ、周囲を威圧する。
威圧された中型狂気に、ヒースが紅蓮斬を叩きつける。
足を負傷した中型狂気は、ヒースに向かって腕を振り下ろすが、瞬影により回避行動に続いた斬撃で敵を斬り払った。
「戦い続けるのがボクらの役目、成すべきこと。ボクらがここで戦い続けているうちは負けじゃない。……シェリー、まだ持ちそうかい?」
「大丈夫だよ……ヒース……。きっと……支えるから……」
シェリルはヒールで、戦うハンターを支える。
歪虚軍勢は【流星】や、カーミン、ヒース、シェリルたちの活躍で、ほとんどがハンターに近づく前に掃討された。
「だが、どうにも数が多いな……」
エヴァンスはエボルグで空を飛び続け、敵を集め殲滅効率を上げる。
事実、敵の数は多い。加えて、メテオスウォームは強力だが使用回数の多いスキルではない。このままではスキルを打ち切るのが先か、敵が全滅するのが先かという状況だ
「おーい、おまえら!」
そこで、エヴァンスは地上の歪虚軍勢の対応に当たっている前衛に呼びかける。
「もっと効率よく敵を潰さんと、まよいたちも持たないと思うんだ。敵を誘導するの、手伝ってくれるか?」
「了解よ。密集させればいいのね。……データは頭の中に整っている。存分に暗躍させてもらうわ?」
カーミンがエヴァンスの要請にこたえた。
「こいつは長い戦いになりそうだな……」
エアルドフリスはまだまだ迫り来る歪虚の大群を見て呟いた。まだ、ここで踏ん張る必要がありそうだ。
(雑魚を蹴散らしたら、マクスウェルの方へ行こうと思っていたんだが……)
心配するのはマクスウェル対応をしているジュードやアルヴィンのことだ。
(……無事でいてくれよ)
『おのれェ! しつこい奴らだ……!』
ヴァイス、アニス、ヴァルナは、イェジドとリーリーの高い移動力でマクスウェルを追いかけ続けていた。追跡も付与してあるので、ワープしても出現場所の特定が容易い。
『わかった。その努力に免じて、相手をしてやるぞ、ハンター!!』
マクスウェルが向きを変え、ハンターに向かって、大剣を振り抜き、衝撃波を放った。
幻獣たちはそれぞれ、ジャンプして衝撃波を回避する。
「マクスウェルの奴、ようやく俺たちを相手にする気になったらしいな」
「ええ、存分に斬り結ぶとしましょう!」
ソウルエッジにより、魔法威力を加算した剣で、ヴァルナは大きく武器を振り回し強撃で打ち据える。
『この程度ォ!』
マクスウェルはそれを回避し、ヴァルナに一撃を浴びせようとする。しかし、ガストが後ろに飛んで避けた。
さらに踏み込もうとするマクスウェルの体を、再び光の杭が貫く。
「逃げなくなったとはいえ、自由にするわけにはいきませんから」
アニスの放ったジャッジメントだ。
『貴様……どうやら最初に死にたいようだな!?』
マクスウェルの姿が消えた。ワープだ。
『──沈めッ!!』
アニスのそばに現れたマクスウェルが、シリウスごと彼女を貫こうとした。
「させない」
だが、彼女をかばって、グレンに乗ったヴァイスが飛び込んだ。
獣盾がマクスウェルの大剣の軌道を逸らしたが、アニスたちの代わりに受けたダメージは重い。
『邪魔をするなッ!』
「共に歩むと決めた……、だから守る!」
ヴァイスはヘクセクリンゲを振るって反撃する。
マクスウェルは、ジャッジメントを使うアニスを倒したいが、ヴァイスが守るので手が出せない。そして、ヴァイスたちのダメージはアニスが回復する。
ワープでこそ移動したが、ジャッジメントの効果はまだ続いていた。
「動かない的なら、外さないよな?」
飛来した弾丸がマクスウェルに命中した。
パリスに搭乗した研司の射撃である。
「さっきは落とされちゃったけど、もう簡単にはいかせないよ! エアさんもいるしここで振り切られるわけにはいかないもん!」
続いて、ジュードもマクスウェルを狙撃する。
「どっちの願いが、想いが、強いか証明してあげるよ!!」
『グォオオ!?』
足止めされ、研司とジュードに集中砲火されるマクスウェル。
「足止めに、集中砲火……、マクスウェルといえども、これは辛いんじゃないカナ」
ゼフィールに奏音と共に乗ったアルヴィンが言う。
「だから、状況を打破スルために、使うだろうネ。恐慌の光を」
アルヴィンは【沈丁花】でそのことを伝達し、奏音の呪詛返しのためにアイデアル・ソングを発動する。
『おォォォォのォォれェェェェエエエ!!』
そして、アルヴィンの予想通り、マクスウェルは恐慌の光を放射した。
エアルドフリスとヴィルマ、そしてクリスティアは、この時のためにカウンターマジックをセットしていた。しかし、
「駄目だね、どうにも……!」
「奴が遠すぎるのじゃ!」
「これでは、打ち消すことはできません……!」
戦場が広いために、マクスウェルが射程外で届かないのだ。
近くにゴーレムの設置した壁がある者は、そこへ隠れる。特にアルマはどこから光が来てもいいように、いろんな向きの壁をつくっており、そのひとつに逃げ込む。
だが、マクスウェルは戦場を縦横無尽に走り回っていたので、マクスウェル対応者の周りには壁などない。
「確実に止めないと……!」
奏音は5枚の符を取り出した。自身の抵抗を高め、撒き散らされる呪いを返そうとした。
(!? 前より、強くなっている……?)
以前も恐慌の光を呪詛返しした奏音だからだろう、わかってしまった。
そう、マクスウェルの能力向上に伴い、恐慌の光の強度も上がっていたのだ。
「これは……返せません……!」
『さあ、思うままに振舞うがよい、ハンター共!』
光が伸びる。このままでは恐慌の光が戦場を染め──、
『フハ、フハハハハハハハハ、ハハ、ハ……、……ん?』
──なかった。光は消えて、誰ひとりとして、精神を汚染された者はない。
『何ッ!? オレの光が消えただと!?』
「なんとか、なりましたね……」
そう言うのはUiscaだった。
Uiscaはポロウの銀雫を同行している。銀雫は惑わすホーを展開していた。彼女の目的はクリュティエの妨害であるが、マクスウェルの恐慌の光のことも忘れていなかったのだ。マクスウェルの恐慌の光は射程が長過ぎるために、遠く離れたUiscaたちすら効果範囲にしてしまった。故に、惑わすホーで魔法術式を瓦解させたのだ。
奏音は、恐慌の光が防がれたことに、胸をなでおろした。
「皆様が無事で良かった……。けど、」
ある事実を確信せざるを得なかった。
(生半可な抵抗じゃ、きっと意味はありません。覇者の剛勇のような力がなければ、呪詛返しは使えないでしょう……)
『ええい、毎度毎度小癪な手をォ……!』
「戦術、と言って欲しいですね」
ヴァルナが、マクスウェルに強撃で斬りかかる。
恐慌の光が止められたマクスウェルはすぐに思考を切り替えて、ヴァルナの攻撃を避けようとしたが、エンタングルに足を取られ、かろうじて大剣で防御する。
『戦術だと? 弱さの言い訳だろう?』
「その傲慢が、あなたを追い詰めるのです」
『ヌゥ!?』
マクスウェルは、大剣に鎖が絡まるような感覚を覚えた。
「その大剣、恐慌の光の発動体だとお見受けします。ですので、封じさせていただきました」
ヴァルナの攻撃にはソードブレイカーが込められていたのだ。これで、マクスウェルの大剣は弱体化し、大剣を発動体とするアクティブスキルを使用できない。
『フン、いい気になるなよ、ハンター共……!』
マクスウェルは大剣を振りかざし、ガストを斬り付けた。
「ガスト……!」
ガストはリーリーヒーリングで傷を癒す。
『この程度でオレを止めた気になるなよッ!!』
スキルなしに繰り出される攻撃は、能力が向上しつつあるためだろう、それでも強烈だった。
「こんなに……強く、なったのですか……!」
『なんだ? オレを見くびっていたのか? 第一、貴様ごときがオレの力を計るとは、不遜にもほどがあるぞッ!』
繰り出されるマクスウェルの斬撃が、生命力を確実に削っていく。
「いま回復します!」
アニスがアンチボディで傷を癒す。
そして、ヴァイスが徹刺でマクスウェルを串刺しにし、敵の正面へ躍り出る。
魔鎌と大剣が打ち合わされた。
ソードブレイカーの呪いもあるのに、マクスウェルの攻撃は以前にもまして力強い。
「その強さには敬意を表するよ、マクスウェル」
グレンはブロッキングを使いながら、マクスウェルの移動を許さない。
そして、動けないマクスウェルへ、研司とジュードの狙撃がダメージを与える。
『……』
元々、マクスウェルの戦闘能力は非常に高い。だが、能力の向上があるとはいえ、この状況では逃げ切ることは難しかった。
そんなマクスウェルは、視界の隅に流星群を見た気がした。いや、星ではない、歪虚軍勢を殲滅しているハンターのメテオスウォームやゴーレムの砲撃だった。
『…………フム』
そして戦場を見渡して、肝心のベルゼブル対応のハンターたちが戦域を突破したことを知った。
『阻止はできなかったか……』
マクスウェルが低い声で呟く。が、すぐにその赤い眼をハンターに戻す。
その眼には、撤退の意思なんて微塵も感じられなかった。むしろ闘志が燃え盛っているのだ。
『だが、逃げ回るのはここまでだ。ここからは──このオレの本気を見せてやろう!!』
面構えにふさわしい言葉を口にして、マクスウェルは大剣を構える。
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ゆくなが | 21人 |
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