ゲスト
(ka0000)
【東征】泣いた赤鬼
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- 参加費
500
- 参加人数
- 現在25人 / 1~25人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2015/09/18 22:00
- リプレイ完成予定
- 2015/09/27 22:00
オープニング
●
吹き付ける風は強く、冷気をまとっていた。熱を奪う風は深々と鎮まり返るこの場によく似合っている。
「……」
それ故に、女には戸惑いを抱いていた。長い髪を風に流しながら、短く言う。
「……いいのかよ」
天ノ都からやや外れた場所に、その寺は在った。惑う女の声に、横に立つ僧服の男は薄く笑った。
「今更遠慮も何もないだろう」
武僧シンカイである。彼は、廃寺と言ってもいいほどにぼろ臭かったその寺を独りで在りし日に近しい姿へと修繕し、今ではその寺の主となっていた。孤独な寺の主は静かにを見渡す。
「ぬしらは我々と共に生きると決めたのと同じように、それを受け容れると決めた者達が矢張りおるということだ」
笑みを含んだ口調に、女の表情がゆるやかに転じる。穏やかだが、痛みを堪えるようでもあった。シンカイは口の端を釣り上げると、女の背を叩いた。シンカイは拳法家だ。故に、その掌は強く重く、響いた。
言葉よりも遥かに、雄弁に。
「甘んじて受け容れるのだな。アカシラよ」
果たして、彼女はどう受け止めたものか。微かに笑い、こう言った。
「……っとォに面倒くせェ、な……これだから人間って奴らは」
シンカイは、この寺と周囲の土地を鬼達に開放すると言った。
かつてその寺には多くの僧徒が居たのだという。土地は広く、畑も在った。慎ましくも村とも呼べる規模の集落といってもいい。しかし、戦乱の折に滅びてしまった。永い時を掛けてシンカイはそれを整えてきたのだろう。そして、独りで維持してきた。そこにどのような想念があったかは彼にしかわかるまい。ただ、並大抵のことではないのはアカシラにだってわかる。
彼女だって鬼達を率いて、彼らと里を守ってきたのだから。
シンカイが言うように、アカシラ達を――否、鬼達を受け容れると立場を表明した者は少なくない。戦後の一件以来、機が合えば飲みに誘ってくる朱夏などもその一人だ。他にも鬼に縁があるものなどが、有形無形の援助をしている。この寺もそうだ。そこに集う物資もそうだ。曰く、戦場で鬼の兵に生命を救われたのだと、共に過ごすと決めた者すらいる。
それら全てがアカシラにはむず痒くて、浮ついて仕方がない。
差別や否定は鬼の誰しもが覚悟していたことだ。ただ、それだけじゃなかった。そのことが、どうにも落ち着かない。
「アタシらは……感謝するべき、なンだろうね」
「そんな事、別に望んじゃおらんがなあ。おぬしらは十分勤勉で、誠実だ。たとえそれが、自罰によろうともな。おぬしどうだ、朱夏」
「……そう……だ……そぅ……」
「ソイツなら、寝てるんじゃないかい」
「無論、了解のうえでのことよ」
ヒヒヒ、と下卑た声で笑ったシンカイは、心底愉しげだった。その事に、アカシラは盛大に溜息をつく。
「やれやれ、だよ」
見れば、少し離れた場所では酒宴が繰り広げられていた。
どこから聞きつけたものか、鬼と、人と。それぞれが入り混じり、飲み食い歌い踊っている。
湧き上がる何かを、アカシラはなんとか呑み下した。半眼で赤ら顔のシンカイを見据える。
「……で、どうしてこうなってンだ……?」
「分からぬか」
隣で器いっぱいの酒を仰ぐようにして呑むシンカイは、まるっと飲み干したあとでゲップを一つした。
「ぬしらを送るためよ」
●
隠れていた鬼達は、アカシラ達だけではなかった。彼らもまた、九尾の討伐に沸き立つ東方へ――あるいは西方へとぽつぽつと姿を表すようになっていた。
アカシラ達以外の鬼の存在は、青天の霹靂と言っていい。だが、多くの場合において、彼らもまたこれまで身を隠すしかなかったことが、のちに明らかになった。
何故か。
――アカシラ達だ。
悪路王と彼女達が鬼の地位を地の底まで引き下げたからだ。
彼女たちは、東方における脅威として振る舞った。時に生命を奪い、国を滅ぼし、武門すらも滅ぼした彼女たちは、同胞達にまで影響を与えた。結果としてアカシラ達に与せず、属しておらぬ鬼たちまでも畏れられ、そのほとんど全てが人類と共に歩む事は出来なかった。
その多くを悪路王が成し、アカシラ達は極力とどめはささなかったとしても、だ。人は鬼を畏れ、鬼もまた、人を畏れた。
その彼らに、今、土地が提供された。物資が提供された。
彼らはこれまでと違う大地の恵みを受けながら、正しく生きていく事ができる。
それは、彼らにとっては『奪われた』ものだった。『失くした』ものだった。
その彼らにとって、恨むべきはなんだろうか。
それこそが、アカシラたちが此処には居られない理由だった。その溝を埋める術を、誰も持ち得なかったのだ。
東方に。鬼と人に――更なる禍を呼び込まぬ為に。
この地に残ることを希望した者達を残し、咎人であり、疫病神であるアカシラ達は明日、東方を発つ。
吹き付ける風は強く、冷気をまとっていた。熱を奪う風は深々と鎮まり返るこの場によく似合っている。
「……」
それ故に、女には戸惑いを抱いていた。長い髪を風に流しながら、短く言う。
「……いいのかよ」
天ノ都からやや外れた場所に、その寺は在った。惑う女の声に、横に立つ僧服の男は薄く笑った。
「今更遠慮も何もないだろう」
武僧シンカイである。彼は、廃寺と言ってもいいほどにぼろ臭かったその寺を独りで在りし日に近しい姿へと修繕し、今ではその寺の主となっていた。孤独な寺の主は静かにを見渡す。
「ぬしらは我々と共に生きると決めたのと同じように、それを受け容れると決めた者達が矢張りおるということだ」
笑みを含んだ口調に、女の表情がゆるやかに転じる。穏やかだが、痛みを堪えるようでもあった。シンカイは口の端を釣り上げると、女の背を叩いた。シンカイは拳法家だ。故に、その掌は強く重く、響いた。
言葉よりも遥かに、雄弁に。
「甘んじて受け容れるのだな。アカシラよ」
果たして、彼女はどう受け止めたものか。微かに笑い、こう言った。
「……っとォに面倒くせェ、な……これだから人間って奴らは」
シンカイは、この寺と周囲の土地を鬼達に開放すると言った。
かつてその寺には多くの僧徒が居たのだという。土地は広く、畑も在った。慎ましくも村とも呼べる規模の集落といってもいい。しかし、戦乱の折に滅びてしまった。永い時を掛けてシンカイはそれを整えてきたのだろう。そして、独りで維持してきた。そこにどのような想念があったかは彼にしかわかるまい。ただ、並大抵のことではないのはアカシラにだってわかる。
彼女だって鬼達を率いて、彼らと里を守ってきたのだから。
シンカイが言うように、アカシラ達を――否、鬼達を受け容れると立場を表明した者は少なくない。戦後の一件以来、機が合えば飲みに誘ってくる朱夏などもその一人だ。他にも鬼に縁があるものなどが、有形無形の援助をしている。この寺もそうだ。そこに集う物資もそうだ。曰く、戦場で鬼の兵に生命を救われたのだと、共に過ごすと決めた者すらいる。
それら全てがアカシラにはむず痒くて、浮ついて仕方がない。
差別や否定は鬼の誰しもが覚悟していたことだ。ただ、それだけじゃなかった。そのことが、どうにも落ち着かない。
「アタシらは……感謝するべき、なンだろうね」
「そんな事、別に望んじゃおらんがなあ。おぬしらは十分勤勉で、誠実だ。たとえそれが、自罰によろうともな。おぬしどうだ、朱夏」
「……そう……だ……そぅ……」
「ソイツなら、寝てるんじゃないかい」
「無論、了解のうえでのことよ」
ヒヒヒ、と下卑た声で笑ったシンカイは、心底愉しげだった。その事に、アカシラは盛大に溜息をつく。
「やれやれ、だよ」
見れば、少し離れた場所では酒宴が繰り広げられていた。
どこから聞きつけたものか、鬼と、人と。それぞれが入り混じり、飲み食い歌い踊っている。
湧き上がる何かを、アカシラはなんとか呑み下した。半眼で赤ら顔のシンカイを見据える。
「……で、どうしてこうなってンだ……?」
「分からぬか」
隣で器いっぱいの酒を仰ぐようにして呑むシンカイは、まるっと飲み干したあとでゲップを一つした。
「ぬしらを送るためよ」
●
隠れていた鬼達は、アカシラ達だけではなかった。彼らもまた、九尾の討伐に沸き立つ東方へ――あるいは西方へとぽつぽつと姿を表すようになっていた。
アカシラ達以外の鬼の存在は、青天の霹靂と言っていい。だが、多くの場合において、彼らもまたこれまで身を隠すしかなかったことが、のちに明らかになった。
何故か。
――アカシラ達だ。
悪路王と彼女達が鬼の地位を地の底まで引き下げたからだ。
彼女たちは、東方における脅威として振る舞った。時に生命を奪い、国を滅ぼし、武門すらも滅ぼした彼女たちは、同胞達にまで影響を与えた。結果としてアカシラ達に与せず、属しておらぬ鬼たちまでも畏れられ、そのほとんど全てが人類と共に歩む事は出来なかった。
その多くを悪路王が成し、アカシラ達は極力とどめはささなかったとしても、だ。人は鬼を畏れ、鬼もまた、人を畏れた。
その彼らに、今、土地が提供された。物資が提供された。
彼らはこれまでと違う大地の恵みを受けながら、正しく生きていく事ができる。
それは、彼らにとっては『奪われた』ものだった。『失くした』ものだった。
その彼らにとって、恨むべきはなんだろうか。
それこそが、アカシラたちが此処には居られない理由だった。その溝を埋める術を、誰も持ち得なかったのだ。
東方に。鬼と人に――更なる禍を呼び込まぬ為に。
この地に残ることを希望した者達を残し、咎人であり、疫病神であるアカシラ達は明日、東方を発つ。
解説
●目的
鬼達や、人間たちと飲み食い騒げ。
●解説
どこで聞きつけたのか、シンカイ達が今宵、アカシラ達を送るために宴会をすると聞いて参加したハンター達が皆様です。
鬼達を見送るためでもよいですし、親しいだれかと縁を深める為でもよいです。
黄昏も過ぎた宵の口。月が辺りを照らす中、広い寺の境内で宴会をしています。
存分に飲み食い歌い騒いで遊んで下さい。
宴自体は集まったものから順次、自然発生的に生じ、あれよあれよという間に宴会が始まってしまいました。
リプレイの描写自体は宴会の途中、OPの直後から始まります。内容の多くは決まっておらず、プレイング依拠で組み上げる形です。
場所はシンカイが管理している寺。これまでの戦死者を鬼・人間問わず埋葬している墓地が近しい。
寺内には真新しい木製の像が並ぶ。厨房は広いが簡素なものはあり、境内の周囲に畑が広がっています。
●NPC達
1.アカシラ:赤髪の鬼。かつて悪路王の元に在り、悪路王を裏切って人間についた。人類にとって、アカシラ一行以外の鬼達にとって不和と不信の種となり得ると判断し、西方へと移動する。
2.シンカイ:武僧。滅びた寺院の一員であったという筋骨隆々の男。格闘士。敵に間違えられたという噂を聞き、密かに傷ついている。
3.朱夏:武人。酒に弱いが腕は立つ。熟睡中。ちょっとやそっとのことでは目は覚めることはないだろう。
4.鬼達:この場にいるのはアカシラ一派の鬼達の中で、西方に付いていく者達だけ。男女合わせて五十人程。その多くが実戦部隊として活動していた者達。
5.人間:鬼達に対して寛容な人間たち。男が多く、五十人程。大体が戦場で絆を感じた系の者達。
●あるもの
・大量の日本酒
・酒のツマミ
・大量の握り飯
・焚き火
その他のものはプレイングで準備いただけると有難いです。
鬼達や、人間たちと飲み食い騒げ。
●解説
どこで聞きつけたのか、シンカイ達が今宵、アカシラ達を送るために宴会をすると聞いて参加したハンター達が皆様です。
鬼達を見送るためでもよいですし、親しいだれかと縁を深める為でもよいです。
黄昏も過ぎた宵の口。月が辺りを照らす中、広い寺の境内で宴会をしています。
存分に飲み食い歌い騒いで遊んで下さい。
宴自体は集まったものから順次、自然発生的に生じ、あれよあれよという間に宴会が始まってしまいました。
リプレイの描写自体は宴会の途中、OPの直後から始まります。内容の多くは決まっておらず、プレイング依拠で組み上げる形です。
場所はシンカイが管理している寺。これまでの戦死者を鬼・人間問わず埋葬している墓地が近しい。
寺内には真新しい木製の像が並ぶ。厨房は広いが簡素なものはあり、境内の周囲に畑が広がっています。
●NPC達
1.アカシラ:赤髪の鬼。かつて悪路王の元に在り、悪路王を裏切って人間についた。人類にとって、アカシラ一行以外の鬼達にとって不和と不信の種となり得ると判断し、西方へと移動する。
2.シンカイ:武僧。滅びた寺院の一員であったという筋骨隆々の男。格闘士。敵に間違えられたという噂を聞き、密かに傷ついている。
3.朱夏:武人。酒に弱いが腕は立つ。熟睡中。ちょっとやそっとのことでは目は覚めることはないだろう。
4.鬼達:この場にいるのはアカシラ一派の鬼達の中で、西方に付いていく者達だけ。男女合わせて五十人程。その多くが実戦部隊として活動していた者達。
5.人間:鬼達に対して寛容な人間たち。男が多く、五十人程。大体が戦場で絆を感じた系の者達。
●あるもの
・大量の日本酒
・酒のツマミ
・大量の握り飯
・焚き火
その他のものはプレイングで準備いただけると有難いです。
マスターより
お世話になっております。ムジカ・トラスです。ROCKな飲み会へようこそ。
ムジカは名前の通りイタリア人という設定なのですが、その実家は大層田舎なのでメモリアルな宴会と言ったらありものだけで騒ぎ、狭いコミュニティの過密な文脈の延長線を、濃厚に味わう場でした。
この場はそれに凄く似ていて、どこか違う、特殊な宴だなと思っています。
【東征】において、悪路王は討たれ、アカシラ達は生き延びる事ができました。そして、罪業と共に生きていくことになります。
それは、【東征】のノベルにおいてヴィルヘルミナ・ウランゲルやシスティーナ・グラハムが語った未来。
その第一歩が、この場です。お楽しみいただけたら幸いです。
ムジカは名前の通りイタリア人という設定なのですが、その実家は大層田舎なのでメモリアルな宴会と言ったらありものだけで騒ぎ、狭いコミュニティの過密な文脈の延長線を、濃厚に味わう場でした。
この場はそれに凄く似ていて、どこか違う、特殊な宴だなと思っています。
【東征】において、悪路王は討たれ、アカシラ達は生き延びる事ができました。そして、罪業と共に生きていくことになります。
それは、【東征】のノベルにおいてヴィルヘルミナ・ウランゲルやシスティーナ・グラハムが語った未来。
その第一歩が、この場です。お楽しみいただけたら幸いです。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2015/09/26 19:32