ゲスト
(ka0000)
夢の帰郷、幻の娘
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在8人 / 4~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2016/02/28 12:00
- リプレイ完成予定
- 2016/03/08 12:00
オープニング
人の心の中はまるで嵐の様。もしくは吠えたてる獣の巣。
さまざまな想いが不協和音を示す中で。それでも尚、強く美しい歌声が聞こえることがある。
その願いは強く嵐の中でも折れることなく、
その想いは高く咆哮の中とて揺るぎない。
黄昏よりも暗き寄る辺より来る私なれど
希望の樹を育てる守り人となって
水を差し上げ 大地を肥やしましょう。
日が強ければ 傘を差し
夜が深ければ 灯りをともしましょう
100の果実が実り、地に落ちるその日まで。
ああ、運命よ。
ひたすらな祈りが、貴方様の元に届きますように。
ああ、世界よ。
命をかけた願いに、私は少しでも力になれますように。
●
ブリュンヒルデが惹きつけられたのは、廃村の墓場だった。
村の家々は派手に壊された後、うち捨てられて久しい灰色の世界であったが、踏み入れた墓場だけは違っていた。
墓石の一つ一つが綺麗に手入れされ、それぞれの前には清涼な水とまだマテリアルに満ちた野花が飾られていた。そのどれもが同じ鎮魂歌を歌っているようで、これは一人の人間の願いが集まっているのだと感じた。
そして最奥にて。一番虚しく、そして最も温かな想いに溢れている墓標の前に彼女は立った。
墓標には、自分の名前。
ブリュンヒルデという名前が刻まれていた。
「ブリュンヒルデ……?」
あまりに強い想いの力に惹きつけられ、後ろにいた老人が言葉をかけるまで、ブリュンヒルデはその存在に気が付くことができなかった。
振り向けば、男がいた。顔も身体も深い皺に刻まれ、白髪は細く頭皮を透かして見せた。だが身体はがっしりとしており、水桶を持つその手には戦の傷跡がいくつも入っているのがわかる。そして強く眩しくブリュンヒルデの胸を圧すのは、まちがいなく覚醒者のマテリアルによる力だ。
そんな老人は自分の名前を正確に言い当て桶を取りこぼした後、ゆっくりとブリュンヒルデに近づいた。
覚醒者なら確実に自分を歪虚だと気づいているだろう。無に帰されるかもしれない恐れはあったが、逃げる気にはならなかった。
みじろぎしないブリュンヒルデに彼はつま先が触れ合うほどに近づいたあと、彼女をしっかと抱きしめた。
「帰ってきてくれたのか……ああ、間違いない。ブリュンヒルデ……愛娘よ!!」
●
老人の名前はハーゲンと言った。
彼は自分の家にブリュンヒルデを招き入れると、温かいお茶を出し、そして寒かっただろうと毛糸のカーディガンを羽織らせてくれた。
「私を御存知なのでしょうか? 申し訳ありません。私には記憶がありません」
「とても辛い記憶は時に心から廃絶されるものだ。気にしなくていい」
そうハーゲンは前置きして、ブリュンヒルデの眼をしっかりと見て話した。
「君は敬虔なエクラの信徒であり私の娘だ。9年前、村人と共に歪虚に連れ去られたんだ。当時歪虚と戦っていた私の元に村人が遺体で、ある時にはゾンビとして送り返されてきたよ。でも最後まで君は帰って来なかった。今やっと帰ってきてくれた」
目を見ればわかる。この人は何も嘘を言ってはいないし、歪虚であるブリュンヒルデを怖がりさえしていない。
ブリュンヒルデの記憶は歪虚として目覚めてからだ。歪虚にも大方生前があることは知っていたが、自分の生前など気にしたこともなかった。しかし、ハーゲンの言葉、瞳の強さ、自分に対するやさしさを見る限りそれは正しいことなのだろう。
だが、それよりも彼の心から聞こえる澄んだ音色がただひたすらに気になった。
この人の力になりたいという想いが胸の奥で沸き立つ。
「そうですか……ところでハーゲン様には夢があるようでいらっしゃいますね。もしよろしければお手伝いさせてくださいませんか?」
「では私を父と呼んでくれ。そして娘として、もう一度一緒に暮らしてくれないか。記憶がなくても構わない。思い出はまた一から作ろう。ブリュンヒルデ。君が傍にいてくれるだけでいいんだ」
嘘じゃない。
ずっと一人で、この人は待ち続けていたのだろう。失った日々を埋める相手を。
それが分かると、ブリュンヒルデは屈託のない笑みで答えた。
「はい、かしこまりました。……お父様」
●
幸せは誰にでも手に入れる権利はある。
だが、永遠などどこにもない。必ず崩れ去るものだ。
夢が高ければ高いほど。その落差は激しくなる。
果実はやがて地に落ちては腐り、新たな芽の養分となる。
町はずれで始まった親子水入らずの幸せな暮らしは一週間ともたなかった。
ブリュンヒルデの負のマテリアルを隠し通すことは不可能であり、それに気づいた町人から別の町人へ。口伝いにその事実は誇張を含んで広がっていく。
「なぁ、ハーゲンさん。悪いことは言わない。あれは絶対歪虚だよ」
「感じることができる人はみんなあの子が普通じゃないって言ってるんだ。あんた騙されているんだよ」
何人もの町人がハーゲンに言葉をかける。だが、彼は今までに見せたことの無い豊かな微笑みで首を振るだけだった。
「あの子は間違いなく私の娘だ。神様がこの老いぼれにくださった蜘蛛の糸だよ。私は兵士として歪虚と戦い続けるしかできず、結局妻にも娘にも何もしてやれないまま今日まで来たんだ。どうかご迷惑はかけない。私に償いと幸せの時間を過ごさせてはもらえないだろうか」
町人はかける言葉も見つからず、色とりどりの花を籠に詰めて歩み去るハーゲンを見送るしかなかった。
だが、その追及が決して止んだわけではない。
それはハンターの到来という形で現されることになった。
ブリュンヒルデの帰郷を亡き妻に報告をするために訪れた、二人が再会した花に満ちた墓場にて。
さまざまな想いが不協和音を示す中で。それでも尚、強く美しい歌声が聞こえることがある。
その願いは強く嵐の中でも折れることなく、
その想いは高く咆哮の中とて揺るぎない。
黄昏よりも暗き寄る辺より来る私なれど
希望の樹を育てる守り人となって
水を差し上げ 大地を肥やしましょう。
日が強ければ 傘を差し
夜が深ければ 灯りをともしましょう
100の果実が実り、地に落ちるその日まで。
ああ、運命よ。
ひたすらな祈りが、貴方様の元に届きますように。
ああ、世界よ。
命をかけた願いに、私は少しでも力になれますように。
●
ブリュンヒルデが惹きつけられたのは、廃村の墓場だった。
村の家々は派手に壊された後、うち捨てられて久しい灰色の世界であったが、踏み入れた墓場だけは違っていた。
墓石の一つ一つが綺麗に手入れされ、それぞれの前には清涼な水とまだマテリアルに満ちた野花が飾られていた。そのどれもが同じ鎮魂歌を歌っているようで、これは一人の人間の願いが集まっているのだと感じた。
そして最奥にて。一番虚しく、そして最も温かな想いに溢れている墓標の前に彼女は立った。
墓標には、自分の名前。
ブリュンヒルデという名前が刻まれていた。
「ブリュンヒルデ……?」
あまりに強い想いの力に惹きつけられ、後ろにいた老人が言葉をかけるまで、ブリュンヒルデはその存在に気が付くことができなかった。
振り向けば、男がいた。顔も身体も深い皺に刻まれ、白髪は細く頭皮を透かして見せた。だが身体はがっしりとしており、水桶を持つその手には戦の傷跡がいくつも入っているのがわかる。そして強く眩しくブリュンヒルデの胸を圧すのは、まちがいなく覚醒者のマテリアルによる力だ。
そんな老人は自分の名前を正確に言い当て桶を取りこぼした後、ゆっくりとブリュンヒルデに近づいた。
覚醒者なら確実に自分を歪虚だと気づいているだろう。無に帰されるかもしれない恐れはあったが、逃げる気にはならなかった。
みじろぎしないブリュンヒルデに彼はつま先が触れ合うほどに近づいたあと、彼女をしっかと抱きしめた。
「帰ってきてくれたのか……ああ、間違いない。ブリュンヒルデ……愛娘よ!!」
●
老人の名前はハーゲンと言った。
彼は自分の家にブリュンヒルデを招き入れると、温かいお茶を出し、そして寒かっただろうと毛糸のカーディガンを羽織らせてくれた。
「私を御存知なのでしょうか? 申し訳ありません。私には記憶がありません」
「とても辛い記憶は時に心から廃絶されるものだ。気にしなくていい」
そうハーゲンは前置きして、ブリュンヒルデの眼をしっかりと見て話した。
「君は敬虔なエクラの信徒であり私の娘だ。9年前、村人と共に歪虚に連れ去られたんだ。当時歪虚と戦っていた私の元に村人が遺体で、ある時にはゾンビとして送り返されてきたよ。でも最後まで君は帰って来なかった。今やっと帰ってきてくれた」
目を見ればわかる。この人は何も嘘を言ってはいないし、歪虚であるブリュンヒルデを怖がりさえしていない。
ブリュンヒルデの記憶は歪虚として目覚めてからだ。歪虚にも大方生前があることは知っていたが、自分の生前など気にしたこともなかった。しかし、ハーゲンの言葉、瞳の強さ、自分に対するやさしさを見る限りそれは正しいことなのだろう。
だが、それよりも彼の心から聞こえる澄んだ音色がただひたすらに気になった。
この人の力になりたいという想いが胸の奥で沸き立つ。
「そうですか……ところでハーゲン様には夢があるようでいらっしゃいますね。もしよろしければお手伝いさせてくださいませんか?」
「では私を父と呼んでくれ。そして娘として、もう一度一緒に暮らしてくれないか。記憶がなくても構わない。思い出はまた一から作ろう。ブリュンヒルデ。君が傍にいてくれるだけでいいんだ」
嘘じゃない。
ずっと一人で、この人は待ち続けていたのだろう。失った日々を埋める相手を。
それが分かると、ブリュンヒルデは屈託のない笑みで答えた。
「はい、かしこまりました。……お父様」
●
幸せは誰にでも手に入れる権利はある。
だが、永遠などどこにもない。必ず崩れ去るものだ。
夢が高ければ高いほど。その落差は激しくなる。
果実はやがて地に落ちては腐り、新たな芽の養分となる。
町はずれで始まった親子水入らずの幸せな暮らしは一週間ともたなかった。
ブリュンヒルデの負のマテリアルを隠し通すことは不可能であり、それに気づいた町人から別の町人へ。口伝いにその事実は誇張を含んで広がっていく。
「なぁ、ハーゲンさん。悪いことは言わない。あれは絶対歪虚だよ」
「感じることができる人はみんなあの子が普通じゃないって言ってるんだ。あんた騙されているんだよ」
何人もの町人がハーゲンに言葉をかける。だが、彼は今までに見せたことの無い豊かな微笑みで首を振るだけだった。
「あの子は間違いなく私の娘だ。神様がこの老いぼれにくださった蜘蛛の糸だよ。私は兵士として歪虚と戦い続けるしかできず、結局妻にも娘にも何もしてやれないまま今日まで来たんだ。どうかご迷惑はかけない。私に償いと幸せの時間を過ごさせてはもらえないだろうか」
町人はかける言葉も見つからず、色とりどりの花を籠に詰めて歩み去るハーゲンを見送るしかなかった。
だが、その追及が決して止んだわけではない。
それはハンターの到来という形で現されることになった。
ブリュンヒルデの帰郷を亡き妻に報告をするために訪れた、二人が再会した花に満ちた墓場にて。
解説
とある町にブリュンヒルデという歪虚が現れ、覚醒者のハーゲンと共に生活しているとのことです。
依頼人は町人から。
●目的
ハーゲンを説得し、ブリュンヒルデと離れさせること。
●NPC
ハーゲン 闘狩人
元帝国軍の兵士です。歪虚による陰湿な報復に精神的ショックを受けて退役しました。
60代程度。
寡黙ながら礼儀正しい人柄で町の人からの印象は良いものです。
どこかで調べるか聞き込みをすれば、確かにブリュンヒルデという娘がおり、それが一緒に暮らすブリュンヒルデと瓜二つであることはわかります。
ブリュンヒルデ 吸血鬼型歪虚
人の願いを叶えるという噂の歪虚です。
また同時に人を破滅させて、その破滅の巻き添えをくった命を奪う歪虚とも言われています。
一般人並の戦闘能力しかありません。
ブリュンヒルデに従属する亡霊などが彼女の命の危機に対して実体化し攻撃してきます。
視線によって魅了することもあります。
どちらも危害を加えない限りは攻撃してきません。
●場所
廃村の墓地です。
依頼者たちの町から数キロ離れた位置にあります。
帝国にしては珍しくエクラの教えが定着していたようで、教会がありその裏手が墓地となっています。
依頼人は町人から。
●目的
ハーゲンを説得し、ブリュンヒルデと離れさせること。
●NPC
ハーゲン 闘狩人
元帝国軍の兵士です。歪虚による陰湿な報復に精神的ショックを受けて退役しました。
60代程度。
寡黙ながら礼儀正しい人柄で町の人からの印象は良いものです。
どこかで調べるか聞き込みをすれば、確かにブリュンヒルデという娘がおり、それが一緒に暮らすブリュンヒルデと瓜二つであることはわかります。
ブリュンヒルデ 吸血鬼型歪虚
人の願いを叶えるという噂の歪虚です。
また同時に人を破滅させて、その破滅の巻き添えをくった命を奪う歪虚とも言われています。
一般人並の戦闘能力しかありません。
ブリュンヒルデに従属する亡霊などが彼女の命の危機に対して実体化し攻撃してきます。
視線によって魅了することもあります。
どちらも危害を加えない限りは攻撃してきません。
●場所
廃村の墓地です。
依頼者たちの町から数キロ離れた位置にあります。
帝国にしては珍しくエクラの教えが定着していたようで、教会がありその裏手が墓地となっています。
マスターより
人間と歪虚は同一空間で長時間生活できません。どちらか、もしくは両方が破滅します。
依頼は捉えようによって方向性を違えることもあるでしょう。
ですが、いずれにしても「いずれ破滅する」ということは避けねばならないという結論にいたると思います。
町人にしても、ハーゲンにしても、ブリュンヒルデにしても。参加をご検討される皆様も。
その点をご理解いただき、よりよい結末を模索くださいますように。
依頼は捉えようによって方向性を違えることもあるでしょう。
ですが、いずれにしても「いずれ破滅する」ということは避けねばならないという結論にいたると思います。
町人にしても、ハーゲンにしても、ブリュンヒルデにしても。参加をご検討される皆様も。
その点をご理解いただき、よりよい結末を模索くださいますように。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2016/03/04 04:24
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/24 10:44:22 |
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廃村の墓地(相談所) 無限 馨(ka0544) 人間(リアルブルー)|22才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/02/28 01:11:17 |