ゲスト
(ka0000)
人の軌跡、ミュゲの奇跡
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加人数
- 現在25人 / 1~25人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 2日
- プレイング締切
- 2017/05/15 19:00
- リプレイ完成予定
- 2017/05/24 19:00
オープニング
※このシナリオは原則として戦闘が発生しない日常的なシナリオとして設定されています。
大量に売れ残ったスズランを水を入れた大きなバケツに放り込み『ご自由にどうぞ』という殴り書きの紙を貼り付けた。これを街角に置けばそれでおしまい。
女性は自分の店だった建物を振り返った。
小さなテナントスペースだった。ムクの梁に白い漆喰の壁。面しているのは狭い路地だったけれど、陽光が差し込んでくると眩しいくらい光に満ち溢れていて、お洒落だと思ったものだった。テナント料はちょっと目を見張ったものだけど、小さいころからの夢だった花屋をするならこんな場所にしたいと思っていたのだ。
店を始めるときは、ちっとも苦しいなんて思いもしなかった。
店を閉めるときは、こんなに苦しむなんて思いもしなかった。
「ありがとう。さようなら」
女性はぽつりとそう零して、そして最後まで残った商品スズランを入れたバケツを両手で持ち上げたところで大きな胸板が視界を防いだ。
「なんだ、店じまいか」
「そうよ。ダメね。こんな路地裏の小さな店じゃ。お客なんてちっとも来ない」
唯一の常連客である彼にどんな顔をしていいのかわからなかった。
彼だって花が好きで買いに来ていたわけでもあるまい。仕事柄遺された人間と出会うことが多いから、育ちが彼女とずっと同じだった腐れ縁というものだから、立ち寄ってくれていただけ。
「そりゃあな、店員も花も揃って下向いてるような店目当てに買いに来るような物好きはそういないだろうよ」
彼はそう言うと、バケツを持ち上げ、そのまま彼女の手から離してしまった。
「……うるさいわね。買いに来てくれなきゃ、新しい花は買えないの。腐っていくだけ」
連なるスズランの花の重みで垂れ下がるツルを見ながら、彼はにべにもない口調で言った。
「この花だってな、切られてここまで運ばれてさ、幸せでもなかろうよ。それでも人が幸せになってくれるなら、喜んでくれるならって思えば楽しそうに咲くもんだ」
噛みしめた唇が痛くなる。
もう少し元気であったなら、その頬をひっぱたいてやったに違いない。
「誰かにあげるのか、この花」
「ミュゲの日にと思って仕入れ過ぎたのよ。ミュゲも終わって、必要な人にはみんな行きわたっている。どうせ誰も必要とされないわ。でもちょっとばかりの街の賑わいにはなるでしょ。枯れるまでならさ。だから大通りに置いていくの」
私と一緒。
街の賑わいくらいにはなるでしょ。
そして私はもう枯れてしまった。居場所なんてどこにもない。枯れたらそいつは捨てられてひっそりと街を去る。
この街は元気のないものが生きられる余地なんてない。
笑顔で、幸せな顔で、生き続けられない。
「じゃあ俺が貰ってやるよ。お前が見込んだ花だろ」
「ご勝手に」
憎悪を瞳の中で燃やして彼女は吐き捨てるように言ったが、彼に応えているような様子は見られなかった。
彼はそのまま彼女に背中を向けて光射す大通りへと消えていくのを見送って、彼女はそちらに背を向け、より闇の深い方へと歩み去っていった。
●
花束、というには少々度が過ぎた量のスズランを持った男は、使い込まれた古いバケツを捨てて、風合いの良い樽を見つけてくると、彼女の計画通りに街角に置いた。それだけでほんの少し、花は居場所を見つけたように綺麗に彩られた。
男はしゃがみこんで『ご自由にどうぞ』というメモ書きに筆を付けた。
「ご自由にどうぞ
奇跡を起こしてください。
きっとお応えいたします」
もう彼女はピースホライズンにはいないかもしれない。
だけど、花はまだいる、生きている。
みんなを幸せにしたいと待っている。
このスズランが多くの人を喜ばせ、つかの間でも幸せに浸れる時間をもたらせたのなら。
いつか夢破れて笑う事すらできなくなった花屋の彼女に、その幸せが再び訪れるだろう。
風伝いに、自らの仕事が確かに人を幸せにしたのだと、気づけますように。
大量に売れ残ったスズランを水を入れた大きなバケツに放り込み『ご自由にどうぞ』という殴り書きの紙を貼り付けた。これを街角に置けばそれでおしまい。
女性は自分の店だった建物を振り返った。
小さなテナントスペースだった。ムクの梁に白い漆喰の壁。面しているのは狭い路地だったけれど、陽光が差し込んでくると眩しいくらい光に満ち溢れていて、お洒落だと思ったものだった。テナント料はちょっと目を見張ったものだけど、小さいころからの夢だった花屋をするならこんな場所にしたいと思っていたのだ。
店を始めるときは、ちっとも苦しいなんて思いもしなかった。
店を閉めるときは、こんなに苦しむなんて思いもしなかった。
「ありがとう。さようなら」
女性はぽつりとそう零して、そして最後まで残った商品スズランを入れたバケツを両手で持ち上げたところで大きな胸板が視界を防いだ。
「なんだ、店じまいか」
「そうよ。ダメね。こんな路地裏の小さな店じゃ。お客なんてちっとも来ない」
唯一の常連客である彼にどんな顔をしていいのかわからなかった。
彼だって花が好きで買いに来ていたわけでもあるまい。仕事柄遺された人間と出会うことが多いから、育ちが彼女とずっと同じだった腐れ縁というものだから、立ち寄ってくれていただけ。
「そりゃあな、店員も花も揃って下向いてるような店目当てに買いに来るような物好きはそういないだろうよ」
彼はそう言うと、バケツを持ち上げ、そのまま彼女の手から離してしまった。
「……うるさいわね。買いに来てくれなきゃ、新しい花は買えないの。腐っていくだけ」
連なるスズランの花の重みで垂れ下がるツルを見ながら、彼はにべにもない口調で言った。
「この花だってな、切られてここまで運ばれてさ、幸せでもなかろうよ。それでも人が幸せになってくれるなら、喜んでくれるならって思えば楽しそうに咲くもんだ」
噛みしめた唇が痛くなる。
もう少し元気であったなら、その頬をひっぱたいてやったに違いない。
「誰かにあげるのか、この花」
「ミュゲの日にと思って仕入れ過ぎたのよ。ミュゲも終わって、必要な人にはみんな行きわたっている。どうせ誰も必要とされないわ。でもちょっとばかりの街の賑わいにはなるでしょ。枯れるまでならさ。だから大通りに置いていくの」
私と一緒。
街の賑わいくらいにはなるでしょ。
そして私はもう枯れてしまった。居場所なんてどこにもない。枯れたらそいつは捨てられてひっそりと街を去る。
この街は元気のないものが生きられる余地なんてない。
笑顔で、幸せな顔で、生き続けられない。
「じゃあ俺が貰ってやるよ。お前が見込んだ花だろ」
「ご勝手に」
憎悪を瞳の中で燃やして彼女は吐き捨てるように言ったが、彼に応えているような様子は見られなかった。
彼はそのまま彼女に背中を向けて光射す大通りへと消えていくのを見送って、彼女はそちらに背を向け、より闇の深い方へと歩み去っていった。
●
花束、というには少々度が過ぎた量のスズランを持った男は、使い込まれた古いバケツを捨てて、風合いの良い樽を見つけてくると、彼女の計画通りに街角に置いた。それだけでほんの少し、花は居場所を見つけたように綺麗に彩られた。
男はしゃがみこんで『ご自由にどうぞ』というメモ書きに筆を付けた。
「ご自由にどうぞ
奇跡を起こしてください。
きっとお応えいたします」
もう彼女はピースホライズンにはいないかもしれない。
だけど、花はまだいる、生きている。
みんなを幸せにしたいと待っている。
このスズランが多くの人を喜ばせ、つかの間でも幸せに浸れる時間をもたらせたのなら。
いつか夢破れて笑う事すらできなくなった花屋の彼女に、その幸せが再び訪れるだろう。
風伝いに、自らの仕事が確かに人を幸せにしたのだと、気づけますように。
解説
街角にスズランの束が置いてあります。
この花を捧げる皆様の物語は、いつしか語り部の口を借りて花屋であった女の元に届くでしょう。
女が遠く離れた場所と時間において救われることができたのなら、それは成功です。
舞台はピースホライズンなので、遠く離れた場所へ行くことはできませんので、その点だけご注意ください。
依頼ではありますが、これは誰かが口コミでハンターオフィスにもちかけたものでしょう。
よってオフィスによる金銭的報酬はありません。
また生命力の減少などが発生することも(意図的な負傷行為がなければ)ありません。
この花を捧げる皆様の物語は、いつしか語り部の口を借りて花屋であった女の元に届くでしょう。
女が遠く離れた場所と時間において救われることができたのなら、それは成功です。
舞台はピースホライズンなので、遠く離れた場所へ行くことはできませんので、その点だけご注意ください。
依頼ではありますが、これは誰かが口コミでハンターオフィスにもちかけたものでしょう。
よってオフィスによる金銭的報酬はありません。
また生命力の減少などが発生することも(意図的な負傷行為がなければ)ありません。
マスターより
人が花を愛でるように、
花も人を愛している。
それがこのシナリオの発端となるワードでした。
人の幸せを願う、ミュゲの日に想いを寄せて、素敵な一日をお過ごしくださいませ。
オープニングに出てきた男女は基本登場しませんが
街角にスズランを置いてきた男性はホリン、花屋をしていた女性はエリンといたします。
花も人を愛している。
それがこのシナリオの発端となるワードでした。
人の幸せを願う、ミュゲの日に想いを寄せて、素敵な一日をお過ごしくださいませ。
オープニングに出てきた男女は基本登場しませんが
街角にスズランを置いてきた男性はホリン、花屋をしていた女性はエリンといたします。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2017/05/23 22:53