• 黒祀
  • 戦闘

【黒祀】少女と眠れる獅子

マスター:ユキ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2014/10/30 19:00
リプレイ完成予定
2014/11/08 19:00

オープニング

 その封書は、けして豪奢ではない、けれど丁寧な造りで仕上げられた封蝋で閉じられていた。その封蝋をフリュイ・ド・パラディ(kz0036)が以前に見たのは、いつのことだったろうか。

 貴族間の書状。本来ならば、貴族同士が自身の自慢話や保身、牽制、そんなくだらない戯言か、あるいは低俗な目論見をもって交わす形式的な堅苦しい書面など、フリュイにとっては読む気も湧かぬ代物。だがその書状は、そこいらの下級貴族のご機嫌取りでも、身の程をわきまえない檄文でも、くだらない悪巧みの誘いでもなかった。

「大公様からの直接の書状とは……何か急を要する事態でも……」

 使いの者から書状を受け取った従者は、額の汗を拭きながら己が心配を口にする。自室に籠ってなにやら調べものをしていたはずの主の姿が見えず、急ぎ報せねばと屋敷中を駆け回った後、この巨大図書館の一角でその任を果たすに至ったのだった。そんな従者の様子など気にも留めず、フリュイはペーパーナイフで封を切ると、丁寧に折られた上質紙に記されたインクの文字列に目を通す。黒の軌跡は、書いた人物の人柄を表すかのようにまっすぐと力強くしたたまれていた。

「危篤の報せでもあれば面白かったんだけどね。残念だけど、大公殿は変わらず健在なようだよ」

 冗談めかして話すその言葉は、どこまでが本意かはわからない。ただ、珍しい人物からの書状に彼が興味を持ったことだけはたしかだった。

 大公ウェルズ・クリストフ・マーロウ。
 大公マーロウ家の現当主は齢60を越える老君だが、彼の治める王国南部の肥沃な平原地帯は戦火とは無縁、領民もけして絢爛豪華とは言えないが慎ましくも平穏な暮らしを営むことができ、安定した統治が行われている。書状は、そんな老君が王国内の脅威を取り払うために重い腰をあげたことを告げていた。そして、願わくば多くの同志が立ち上がることを、と。

「ただでさえ王国内で不穏な動きが見え隠れしていて、その調査も思うように進まない中で、西では歪虚の報せが絶えないからね。南側の領主としても、手をこまねいてはいられないといったところだろう」
「それにしても、いかに王国きっての大都市とはいえ、このような北東の都にまで書状を送るとは……事はそれほどに逼迫を……?」

 従者の言葉も然り。大公を慕う貴族は少なくない。彼が一声かければ、相応の周辺貴族が立ち上がり、自らの私兵を大公の下へ差し出すことだろう。なにより、貴族にはそれぞれに領地がある。他者の介入は自身の領土への足掛かりを生む可能性もあり、可能な限り避けることが安定した統治には望ましいのだから、疑問を抱くのも無理はない。だが、今の王国にはそれを必要とする理由があった。

「狂気の歪虚の一件で私兵を出した貴族もいたのさ。騎士団も聖堂戦士団も余力がなく、さらに諸侯が疲弊しているとなれば、これも不思議ではないさ。アークエルスは狂気に対して兵を出していなかったからね」

 もちろん、「余力があるから」だけで書状が届いたわけではないことを、フリュイも察している。大公と古都の領主が出兵するとなれば、それに自らの兵を参加させることは大義となる。弱小貴族にとっては恩を売る絶好の機会であり、多少の無理をしてでも兵を出そうと考え、結果より多くの貴族を扇動することができるのだ。

「いかがいたしましょう? 大公からの直接の書状とあっては、無碍にもできませぬが」
「いやぁ。しかし残念だな。この古都は北の蛮族の脅威にさらされていて、とてもじゃないけど大公殿の力にはなれそうにないね」

 笑いながら建前を論じるフリュイ。とはいえ、もちろんこれもただの意地悪ではない。蛮族――亜人の脅威があるのは事実であり、また自分が公に兵を動かすことによる周囲への影響力も加味しての判断だ。それに、これまで座していた大公が立ち上がったとあれば自分が兵を出さずともかなりの兵を集められることは間違いない。

「とはいえ、王国の危機とあっては古都としても何もしないわけにもいかないよね。物資と……」

 そこまで言うと、突然フリュイの口角が一段と吊り上がる。それは、何か面白いことを思いついたに相違ない証。

「ねぇ、先日の娘は元気にしているかな?」
「は? あぁ、あの保護した娘のことでしたら、狂気との接触がありました故屋敷の一角から出ることは禁じておりますが、食事も与え、健康状態は問題ないかと」
「いつまでも閉じ込めていては可哀想じゃないか。もっと人道的にいこうよ。最初は西の農村地帯で保護されたそうじゃないか。ここじゃ蛮族たちの脅威もあるし、物資と一緒に大公に預けてはどうかな。南の農村地帯なら、心の治療にもなるだろう? 書状は僕が書いておくよ。人一人預けるんだ、物資は多めに用意していいよ」
「かしこまりました。では、すぐに……」

 そういって足早に立ち去る従者を見送るでもなく、フリュイは手にした書状へと再び視線を落とす。書状を改めて読み返すと、そこには幾度となく現れる言葉があった。それは、かの大公の純粋かつ強い思想。

――すべてはこの国のために。

 面倒事を片付けたい? 良心? どちらも正解で、どちらも不正解。
 フリュイは大公からの書状の意図をいくつか考えている。1つは、純粋にフリュイの兵力を求めて。1つは、フリュイの出兵をプロパガンダにより多くの兵を集めること。そしてもう1つは、フリュイの姿勢を確認すること。
 フリュイは自分がプロパガンダになるつもりはない。大公のように純粋にこの国を憂い身を削る愛もない。なにより、まだ“その時”ではないと思っている。今はただ、目覚めた眠れる獅子が何を為そうとするのか、それを傍観させてもらうとするよ。それがフリュイの考えであり、目下の楽しみ。娘は、ちょっとしたスパイス。危険因子として処分するか。悲劇の少女としてプロパガンダとして祀り上げられるか。はたまた……


 …………


 少し冷たく澄んだ空気の中。王国の北側を往く荷馬車の列の中心で、馬車に揺られながら、少女は空を見ていた。まだ言葉は少なく、心の傷が癒えたとは言えないだろう。けれどその頬には薄く朱が染まり、割れた唇もすっかり少女らしい柔らかなソレとなっている。整えられた髪やあてがわれた衣類からは、とても農村で保護された戦災孤児とは思えない可憐さが感じられた。そんな少女が、ぽつりと呟いた。

「……どこかで嗅いだにおい……」

 その言葉の直後、遠くから馬が駈けてくる音ともに馬上の人物から放たれた言葉に、同行していた君たちはすぐさま武器を手に取ったのだった。

「た、助けてくれ!!赤い羊が……!!」

 目を凝らせば土煙があがり、耳障りなこの世ならざる声とともに人々の叫びが風に乗って聞こえてくる。少女はその様子に恐怖する様子もなく、ただただ土煙のあがる方角を眺めていた。

解説

●依頼概要
主目的:
 物資と少女の護衛
副目的:
 現れた歪虚の対処
 歪虚に襲われる人々の保護・誘導

●場所
王国の北側、古都から王都へ向かう街道の道中、北西からの街道との合流地点からほど近い地点。マテリアルが乱れており元々雑魔の発生に注意が必要とされていた地域。高い木や茂る草もなく身を隠すのは難しい。

●状況
西側から同じく王都へ向かっていたと思われる貴族が歪虚に遭遇し助けを求めてきた。弱小貴族らしく、訓練を受けているのは助けを求めに来た一人と他4名のみ。他50名程度の農民兵は歪虚の出現に混乱しており、統率を失っている。現在は訓練兵4名がなんとか主を守っているはずだがいずれも覚醒者ではなく、長く持つかは不明。

●出現した歪虚について
赤い羊の歪虚 1匹
 筋肉質な人の体を持つ赤い体毛の羊。これまでにも何度か発見されており討伐報告もあるが、白い羊と比べても力や耐久力は高く、逃走を図るといった思考も持つ様子。逃走時のトップスピードは能力者でも条件がそろわなければ追いつくことが難しい。

●少女について
狂気の歪虚が自由都市同盟だけでなく王国の海岸線にも出現した際、前線の農村で襲われた所を兵士に助けられ、兵士の集落に保護されていた。先日その兵士が雑魔化し集落は全滅。調査に訪れた冒険者たちによって再び保護されたが、その際に白い羊の歪虚の群れと、群れの中に人影を見ている。
狂気の歪虚の影響か戦災のショックか、口数は少なく喜怒哀楽も見えず、常にどこかぼーっとした様子を見せる。冒険者に助けられた際も歪虚に怯える様子がなく、精神的にはどこか欠落しているような印象。

マスターより

こんにちは、ユキです。

【黒祀】連動依頼となります。事態は王国の重鎮、大公マーロウに重い腰をあげさせるほどのものとなっています。それでもなお全容を見せない国内の不穏な動向。はたして王国の中に安全な場所はあるのか。

様々な人の思惑も見え隠れしているかもしれませんが、なにが善でなにが悪かはわかりません。ただ一つ言えることは、貴方は理由はどうあれこの少女と物資の護送依頼を受けたということです。

どうぞよろしくお願いいたします。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2014/12/09 19:33

参加者一覧

  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワール(ka0252
    エルフ|20才|男性|霊闘士
  • 奏でるは銃狂いの輪舞曲
    アリサ・ケンプファー(ka0399
    人間(紅)|18才|女性|猟撃士
  • 大食らいの巨剣
    ルリ・エンフィールド(ka1680
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • ケンプファー
    ユルゲンス・クリューガー(ka2335
    人間(紅)|40才|男性|闘狩人
  • ミストラル
    ウォルター・ヨー(ka2967
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ルスティロ・イストワール(ka0252
エルフ|20才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/10/30 18:42:52
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/24 23:29:07