ゲスト
(ka0000)
空中を舞い漂う『蛸』たち
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/01 19:00
- 完成日
- 2018/08/09 21:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国、イスルダ島── 歪虚の黒大公ベリアルの根拠地であったこの島が王国軍の手によって解放されてから半年が経っていた。
荒れ放題であったこの島唯一の港も整備・拡張され、ここを拠点として多くの人員と物資が島の内部に送り込まれた。多くの場所が未だ負のマテリアルに汚染されたままではあるが、それでも地道な浄化作業によって極めて限定的ではあるものの、入植者による開拓も始まっている。
今回の依頼主も、そんなイスルダ島にできたばかりの開拓村の一つだった。
かつて存在していた漁村の跡地に建てられたそれは海の汚染度──即ち、この島で漁業が成立するかを調査する目的で建てられたものであったが、周辺に出没する雑魔の群れに難儀していた。
「……空中を舞い漂う蛸の群れ?」
倒すべき歪虚の詳細をそう聞かされた時、リーナ・アンベールはずり落ちてもいない眼鏡を直して、目の前の中年男──ダニー・メイソンの顔をマジマジと見返した。
「……蛸? 凧じゃなくて?」
「ああ、生き物の方の蛸で間違いない」
蛸、ねぇ……と改めて呟きながら、兵舎の椅子の背もたれに背を預け…… リーナはシガーチョコをポリポリ噛みつつ「そういうこともあるか」とあっけなく受け入れた。
リーナ・アンベール──元連合宙軍少尉、CAMパイロット。ロッソと共に転移した後、適正のあった同期2人と共にハンターとなった。以降、CAMを用いた戦闘依頼をこなして戦績を重ね、今はイスルダ島駐屯部隊に長期契約の傭兵として雇われている。
「開拓村の近場にあるビーチの磯場にデカブツが鎮座しているらしい。漁もそうだが、何より砂浜が使えないことに難儀しているようだ」
……島に存在する大規模な港湾施設は一つきり。島に届く荷物はそこで荷揚げをするのが一般的な方法ではあったが、開拓が始まった今、ちょっとした程度の荷物や人員、急を要する医薬品などは、沖合に停泊した船から運荷艇やカッターなどで直接砂浜に上陸してやり取りが行われる。それに支障を来たしているというのだ。
「ま、雇われの身としては、やるしかないわけだけどさ」
リーナらが乗る3機のドミニオンと、各種物資を積載した魔導トラック1台が件の開拓村へ向かって出発した。
夕方、到着した村では彼女らが予想していた以上の歓待を受けた。件の蛸型歪虚の存在に余程困っていたのだろう。現れた鋼の巨人を頼もし気に見上げた村人たちから歓声が湧き起った。
翌朝── 昨夜に劣らぬごちそうで送り出されたリーナたちは、蛸型歪虚が鎮座しているというビーチへとやって来た。
一面に広がる砂浜。寄せては返す波の音── HMDモニタ越しに広がる光景は平和そのものだった。即ち、『蛸』の姿なんてどこにも見えない。
「なによ。蛸なんていないじゃない。ダニー、本当にこの浜で当ってるの?」
「そうだ。この浜で間違いない」
3機のCAMの後方、エンジンをかけ放しの魔導トラックの運転席で、ダニーが無線機のマイクに答えた。……彼も元はLH044コロニー駐屯部隊の熟練した下士官だった。非覚醒者でハンターではないが、リーナ個人に雇われる形で依頼や任務に同行している。
「見える範囲に敵影なし。熱源探知も……って、これは歪虚なら当たり前、か」
ともあれ、いないならいないでまずはそれを確認しなければならない。リーナは僚機の2人に、散開しつつ慎重に前進するよう指示を出した。了解の意を返し、30mm突撃砲を構えた2機がゆっくりと砂浜を磯へと歩く。リーナもまた機体が持つ105mm狙撃砲に装弾しつつ、僚機と逆三角形を形成するように位置取り、続く……
(本当に何もいないわね…… もし、どこかに出掛けているというのであれば、帰って来るところを待ち伏せることもできるかもしれない。……最悪なのは、このまま蛸の所在が分からなくなることね。依頼内容が蛸型の討伐である以上、いませんでした、で済ませるわけにもいかないし、あちこち探し回る羽目になったら面倒だわ……)
……結論から言えば、それは『最悪』のケースではなかった。
突如、コクピット内に鳴り響く警告音──同時に、モニタにポップアップしたセンサーモニターに次々と赤い光点が現れ始め……それは瞬く間に数を増やしてあっという間にモニタを赤く染めていった。
(レーダー!? そんな、今の今まで何の反応もなかったのに……ッ!)
「リーナ!」
無線機越しの僚機の声に機体の頭部光学カメラを向けて……次の瞬間、リーナは驚愕にその目を見開いた。
いつの間にか、3機のCAMは空中をフワフワと漂う全長50cm程の『蛸』の大群に取り囲まれていた。その蛸らは水中を泳ぐが如くゆったりと空中を舞い漂い……CAMの装甲板に張り付くと、プクッと膨れて真っ赤に染まり赤く染まり……直後、爆発した。
「っ! 退避! 全機、この場から離脱して!」
けたたましく鳴り響く警告音、表示されるダメージ報告── 僚機に指示を出しつつ自らも後退しようとしたリーナ機は、しかし、グラリとバランスを崩して砂浜へと倒れ込んだ。
「何!?」
左脚部足首関節と膝関節に異常表示── 慌てて光学カメラを向けると、いつの間にか機の脚部に全長2m程の中型の『蛸』が張り付いていた。その蛸が数本の触腕をCAMの装甲の隙間に捻じ込ませ、関節にそれを噛ませることで足首や膝を曲げられなくしている。
そのまま残りの触腕を脚部に絡ませ拘束させて……その全てを切り離してそこから離れる中型蛸。それは千切れた触腕を再生させつつ、今度は腕部へと飛びついた。その間も小型蛸たちが次々と装甲に張り付いては爆発し、機体を破壊し、砕いていく……
その状況に、ダニーは舌を打つと魔導トラックのサイドブレーキを下ろしてアクセルを踏み込んだ。トラックが猛烈な勢いでタイヤを回し、戦場へ向け突進する。
次々と寄ってくる蛸たちを神業のハンドル捌きで躱して走りながら、ダニーは冷静な声音で告げる。
「回収する。機体を捨てて脱出しろ。まずはリーナ、お前からだ。いくぞ……3、2、1、今!」
指示に従い、リーナはコクピットハッチを爆破して弾き飛ばした。後、這い出すように中から抜け出し、虚空へ身を躍らせる。
そこへ後輪を滑らせながら突っ込んで来た魔導トラックが、その荷台で転がり落ちて来たリーナを受け止めた。そのまま尻を降りつつダッシュで蛸を躱すトラック──その後、同様に2人を救出して戦場を突破。離脱する……
……こうして最初の蛸討伐戦は失敗に終わった。出迎えた村人たちの落胆ぶりは凄まじかった。
「あー……その、すぐに駐屯部隊の次のCAMが来ますんで……」
そう告げるリーナたちに、ごちそうはもう出なかった。
荒れ放題であったこの島唯一の港も整備・拡張され、ここを拠点として多くの人員と物資が島の内部に送り込まれた。多くの場所が未だ負のマテリアルに汚染されたままではあるが、それでも地道な浄化作業によって極めて限定的ではあるものの、入植者による開拓も始まっている。
今回の依頼主も、そんなイスルダ島にできたばかりの開拓村の一つだった。
かつて存在していた漁村の跡地に建てられたそれは海の汚染度──即ち、この島で漁業が成立するかを調査する目的で建てられたものであったが、周辺に出没する雑魔の群れに難儀していた。
「……空中を舞い漂う蛸の群れ?」
倒すべき歪虚の詳細をそう聞かされた時、リーナ・アンベールはずり落ちてもいない眼鏡を直して、目の前の中年男──ダニー・メイソンの顔をマジマジと見返した。
「……蛸? 凧じゃなくて?」
「ああ、生き物の方の蛸で間違いない」
蛸、ねぇ……と改めて呟きながら、兵舎の椅子の背もたれに背を預け…… リーナはシガーチョコをポリポリ噛みつつ「そういうこともあるか」とあっけなく受け入れた。
リーナ・アンベール──元連合宙軍少尉、CAMパイロット。ロッソと共に転移した後、適正のあった同期2人と共にハンターとなった。以降、CAMを用いた戦闘依頼をこなして戦績を重ね、今はイスルダ島駐屯部隊に長期契約の傭兵として雇われている。
「開拓村の近場にあるビーチの磯場にデカブツが鎮座しているらしい。漁もそうだが、何より砂浜が使えないことに難儀しているようだ」
……島に存在する大規模な港湾施設は一つきり。島に届く荷物はそこで荷揚げをするのが一般的な方法ではあったが、開拓が始まった今、ちょっとした程度の荷物や人員、急を要する医薬品などは、沖合に停泊した船から運荷艇やカッターなどで直接砂浜に上陸してやり取りが行われる。それに支障を来たしているというのだ。
「ま、雇われの身としては、やるしかないわけだけどさ」
リーナらが乗る3機のドミニオンと、各種物資を積載した魔導トラック1台が件の開拓村へ向かって出発した。
夕方、到着した村では彼女らが予想していた以上の歓待を受けた。件の蛸型歪虚の存在に余程困っていたのだろう。現れた鋼の巨人を頼もし気に見上げた村人たちから歓声が湧き起った。
翌朝── 昨夜に劣らぬごちそうで送り出されたリーナたちは、蛸型歪虚が鎮座しているというビーチへとやって来た。
一面に広がる砂浜。寄せては返す波の音── HMDモニタ越しに広がる光景は平和そのものだった。即ち、『蛸』の姿なんてどこにも見えない。
「なによ。蛸なんていないじゃない。ダニー、本当にこの浜で当ってるの?」
「そうだ。この浜で間違いない」
3機のCAMの後方、エンジンをかけ放しの魔導トラックの運転席で、ダニーが無線機のマイクに答えた。……彼も元はLH044コロニー駐屯部隊の熟練した下士官だった。非覚醒者でハンターではないが、リーナ個人に雇われる形で依頼や任務に同行している。
「見える範囲に敵影なし。熱源探知も……って、これは歪虚なら当たり前、か」
ともあれ、いないならいないでまずはそれを確認しなければならない。リーナは僚機の2人に、散開しつつ慎重に前進するよう指示を出した。了解の意を返し、30mm突撃砲を構えた2機がゆっくりと砂浜を磯へと歩く。リーナもまた機体が持つ105mm狙撃砲に装弾しつつ、僚機と逆三角形を形成するように位置取り、続く……
(本当に何もいないわね…… もし、どこかに出掛けているというのであれば、帰って来るところを待ち伏せることもできるかもしれない。……最悪なのは、このまま蛸の所在が分からなくなることね。依頼内容が蛸型の討伐である以上、いませんでした、で済ませるわけにもいかないし、あちこち探し回る羽目になったら面倒だわ……)
……結論から言えば、それは『最悪』のケースではなかった。
突如、コクピット内に鳴り響く警告音──同時に、モニタにポップアップしたセンサーモニターに次々と赤い光点が現れ始め……それは瞬く間に数を増やしてあっという間にモニタを赤く染めていった。
(レーダー!? そんな、今の今まで何の反応もなかったのに……ッ!)
「リーナ!」
無線機越しの僚機の声に機体の頭部光学カメラを向けて……次の瞬間、リーナは驚愕にその目を見開いた。
いつの間にか、3機のCAMは空中をフワフワと漂う全長50cm程の『蛸』の大群に取り囲まれていた。その蛸らは水中を泳ぐが如くゆったりと空中を舞い漂い……CAMの装甲板に張り付くと、プクッと膨れて真っ赤に染まり赤く染まり……直後、爆発した。
「っ! 退避! 全機、この場から離脱して!」
けたたましく鳴り響く警告音、表示されるダメージ報告── 僚機に指示を出しつつ自らも後退しようとしたリーナ機は、しかし、グラリとバランスを崩して砂浜へと倒れ込んだ。
「何!?」
左脚部足首関節と膝関節に異常表示── 慌てて光学カメラを向けると、いつの間にか機の脚部に全長2m程の中型の『蛸』が張り付いていた。その蛸が数本の触腕をCAMの装甲の隙間に捻じ込ませ、関節にそれを噛ませることで足首や膝を曲げられなくしている。
そのまま残りの触腕を脚部に絡ませ拘束させて……その全てを切り離してそこから離れる中型蛸。それは千切れた触腕を再生させつつ、今度は腕部へと飛びついた。その間も小型蛸たちが次々と装甲に張り付いては爆発し、機体を破壊し、砕いていく……
その状況に、ダニーは舌を打つと魔導トラックのサイドブレーキを下ろしてアクセルを踏み込んだ。トラックが猛烈な勢いでタイヤを回し、戦場へ向け突進する。
次々と寄ってくる蛸たちを神業のハンドル捌きで躱して走りながら、ダニーは冷静な声音で告げる。
「回収する。機体を捨てて脱出しろ。まずはリーナ、お前からだ。いくぞ……3、2、1、今!」
指示に従い、リーナはコクピットハッチを爆破して弾き飛ばした。後、這い出すように中から抜け出し、虚空へ身を躍らせる。
そこへ後輪を滑らせながら突っ込んで来た魔導トラックが、その荷台で転がり落ちて来たリーナを受け止めた。そのまま尻を降りつつダッシュで蛸を躱すトラック──その後、同様に2人を救出して戦場を突破。離脱する……
……こうして最初の蛸討伐戦は失敗に終わった。出迎えた村人たちの落胆ぶりは凄まじかった。
「あー……その、すぐに駐屯部隊の次のCAMが来ますんで……」
そう告げるリーナたちに、ごちそうはもう出なかった。
リプレイ本文
「フフ…… タコ……蛸でやがりますか、今回の相手は……寄りにも寄って……」
ポロウ『カリブンクルス』の背に乗って、件の村へ向かいながら──シレークス(ka0752)は拳を震わせ、その怒りを滾らせた。
彼女は蛸に恨みがあった。先日、リベルタース海岸での依頼を無事に遂げた彼女は「折角の夏の海」と砂浜を走りながら衣服を脱ぎ捨て、水着姿でザンブと海へ飛び込み……蛸の雑魔に襲われたのだ。
「フフフ…… 許可なく私の身体に絡みつきやがった落とし前は同族につけさせやがるのです」
思い返してバキリと鉄の缶詰を剛力で握り潰すシレークス。そんな主の怒りに呼応したのか、カリブンクルスがバタバタと翼を暴れさせる。
そんな友人の姿を見やったサクラ・エルフリード(ka2598)は蒼空に湧き立つ暗雲の如き嫌な予感に捉われた。シレークスが戦闘前にこういう事を言い出した時は大抵、碌なことにならない事をサクラは経験的に知っていた。
「空を飛ぶ上に消える蛸…… きっとそれはタコベーダーです! 横歩きでにじり寄って来るのです。私、ニッポンの本で読んじゃいました!」
自信満々で断言しながらポーズを決めるルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。職業、ニンジャ。そう、忍ばない方の。先祖代々受け継ぐ任務はどこかにきっと咲いているという幸せを探して旅をする事。花言葉は『忍耐』です。ニンジャだけに。(やかましい
村へと到着したハンターたちはすぐにリーナたちに敵の情報を訊きに向かった。彼女たちは村はずれに停められた魔導トラックの荷台にいた。全身包帯塗れだが幸い大きな怪我は無いという。
「……なるほど。ステルス性能を持つ蛸ですか」
「あちゃー。聞けば聞くほどMk.IV(ドミニオン)とは相性の悪い敵だね。リーナちゃん、ドンマイ」
実際に戦った者から話を聞いて思考を進める夜桜 奏音(ka5754)。ウーナ(ka1439)は同じCAMパイロットとして心底同情しつつ、リーナの肩をポンと叩く。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)も頷いた。ドミニオンは良い機体ではあるが、どう見たって一世代前の機体だ。ジャミング中和能力は贔屓目に見たって下限ギリギリ…… その探知能力には限界がある。
「見えない敵と言っても色々ある。問題はそれが何かということだが……」
「反応が突然出て来た、となれば…… 何らかの手段でこちらの目や機器の反応を晦ましているか、或いは単純に隠れているか、の二択の気がするのう。瞬間移動の類はあるまい」
老練のバリトン(ka5112)が顎髭をしごきながら断言した。もし、瞬間移動の能力があったとしたら、魔導トラックでは逃げ切れまい。
「そう! リーナちゃんたちが情報を持ち帰ってくれたおかげで、タネはだいぶ割れたよね!」
偶々通りかかった──或いは、それを装って様子を窺いに来た村人たちに聞こえる様に、ウーナが声を一段高くした。……リーナたちはただやられて帰って来たわけじゃない。きちんと威力偵察を果たして帰って来た。そんな彼女たちが不当に貶められるのは同業者として我慢ならない。
「隠密中は発見困難だけど、動けば分かるということ。飛行するけど、生息は地上っぽいこと。空中は隠密が不可ってこと。そして、その機動力はトラックを追撃できる程ではないということ── 皆、リーナちゃんたちのお陰で判明した事実だよ! 初見殺しも分かってしまえば、幾らでも対抗手段は考えられるんだから!」
情報収集を終えたハンターたちは早速、件の砂浜へと移動した。大量に湧いたという蛸の姿はどこにも見えない。既にこの場を離れたか、或いはまだ潜んでいるのか……
「ともかく、まずは見つけないとどうしようもないですね」
奏音はそう呟くとワイバーンの背に跨った。相棒の耳元に声を掛け、サクラの乗った飛竜と並んで共に翼を広げ……索敵を行うべく、助走から空へと舞い上がる。
飛竜2騎に後続するのは、ポロウに乗ったバリトンとシレークス。彼らもまた『滑走路』に移動しながら方針の最終確認を行う。
「わしらポロウ組は手分けして砂浜の索敵を行う。敵が砂浜の中に埋まって隠れている可能性もあるからの。その時はポロウの『見つけるホー』の出番というわけじゃな」
「あるいは偏光能力などで姿を隠して、最初から空中に浮かんでいるパターンもあるんじゃねーかと」
「うむ。その辺も警戒しながら当たるとしよう」
パタパタ翼を羽ばたかせて空へと上がるポロウたち。それをCAMのカメラ越し──HMDのモニタを通して確認して、エルバッハ・リオン(ka2434)とウーナもフライトユニットのシステムに火を入れた。
「あたしたち、フライトユニット組の飛行可能時間は90秒── サッと行ってサッと強行偵察して帰って来るよ」
「了解。撮影はガンカメラでですね。飛行ルートの指示をください」
2機の周囲に揺らめく陽炎。高まっていくエンジン音── 背部に有翼のフライトユニットを積んで『▽』型のシルエットになったエルのR7『ウィザード』と、脚部に追加の推進装置を装着して高機動型○○っぽい『△』なシルエットになったウーナの『Re:AZ-L』が、ウーナの「Go!」という合図と共にスロットルをミリタリーへ。次の瞬間、轟音と共にスラスターから青い炎を噴き出して垂直に空へと昇っていった2機が白煙の弧を空に描いて磯場へと針路を向ける。
一方、地上── ミグのR7『サリシャガンの虎EWAC』と秋桜のコンフェッサー『CAMの飛忍『セイバーI』』の2機もまた、飛行組の突入とタイミングを同じくして砂浜への侵入を開始した。
「さあ、タコと人間様の騙し合いの始まりじゃ」
「姿を隠しての奇襲なんて、ニンジャとして負けられません!」
重量機らしくズシンズシンと砂の上を掛けながら、ミグの操作に応じて機体背面に装備されていた大型のセンサードームが、まるで天使の輪の様に機体の頭上に持ち上がった。彼女のR7はEWAC──電子戦用に改造された特別機だ。敵の歪虚的ジャミング能力──
視覚障害や認識阻害といった効果に対処出来得る能力を持つ。
機を進ませながら索敵を始めるミグ。……センサーに反応は無かった。アクティブも、パッシブも。
「リーナたちの時と同様、か──まあ想定の範囲内じゃ」
ミグは『イニシャライズオーバー』を使用した。両肩に装備した強力なイニシャライズフィールドジェネレーターに更にブーストを掛け、相手の能動的な『ジャミング』にカウンターを掛け、無効化する能力だ。だが……
(……ブーストしても反応は変わらず、か。敵の妨害手段はどうやらパッシブなものらしい)
ま、見込み違いも想定の内だ。その事こそが成果でもある。
ミグは頭上を見上げた。クルクルと鳶の様に円を描いて舞うワイバーンとポロウたち。一方、推進装置で一直線に空を切り裂く2機のCAMは磯場上空へと到達し……その『まるで小山の様に見える磯』を見下ろし、違和感をビンビン感じていた。
索敵を終え、再び地上で終結するハンターたち。その間も敵は現れない。……能動的な迎撃を行う気は無いということか。
「さあ、カリブンクルス! 『見つけるホー』で見つけた蛸共の位置を教えやがるのです!」
砂山で作ったジオラマを示してポロウらに命じるシレークス。2体は物凄い勢いの連続突きで反応があった辺りをマークする。
「結論──蛸どもはそこら中にいやがります」
労作を完膚なきまでに破壊されて涙ぐむシレークス。だが、お陰で敵の配置は一目瞭然だった。……姿の見えない蛸たちは、磯場を中心にして広い範囲に展開している。
「やっぱり。あたしの直感も磯に何かいるって告げている。多分、保護色の類」
「私も、海辺にあんな大きな磯なんてあるわけないと思いました」
ウーナの言葉にエルもまた同意を示した。恐らく未だ姿の見えない『デカブツ』は磯場にいる。
「……辺り一面にいるのは分かったるが、外からピンポイントで狙撃できる程に精密に分かっているわけでもない、か。砲兵がいれば辺り一面耕してやるのだが……虎で真似事でもしてみるか?」
ミグの提案にサクラはそっと頭を振った。ここは村人たちが色々と利用している砂浜だ。できれば被害はなるべく抑えたい。
「なるほど、爆撃などで吹き飛ばしてしまうと、ここで遊びたい者たちなどが遊べなくなってしまうしのう」
「いえ、決して泳ぎたいとかそういうわけではなく…… 依頼後に砂浜が使える程度に無事かどうか確かめる為にですね……ええ、本当に。だからビキニとかいうわけではなくてですね……」
バリトンのツッコミにしどろもどろになって言い訳を始めるサクラ。一方のシレークスは(それが何か?)と言わんばかりに動じない。
「……で、どうしましょう? 何にせよ『機雷原』を突破しなければ磯場まで辿り着けませんが……」
話が脱線し掛けたのを察して、奏音が浜風に流れる髪を押さえながら話を戻した。
「どうする? サクラちゃんたちのワイバーンに爆撃をお願いして反撃を誘ってみる?」
ウーナの案にミグが答えた。
「いや、敢えて蜂の巣を突くこともあるまい。折角、こちらが近づくまで動かないでいてくれるのじゃ。なら、対処可能な数だけ随時釣り上げてやるとしよう。……タコだけに」
………
……
…
ハンターたちは改めて砂浜へと侵攻を開始した。
率先して敵の罠へと飛び込む役割を担ったのはミグだった。彼女の機体は生残性を高める為に重装甲が施されている。後続するは3機のCAM──エル機、ウーナ機、秋桜機。そして、生身のバリトンだ。
「自爆する小型相手に剣では分が悪い。わしは一番でかいのを目指させてもらおうかの」
わしから離れるな、とポロウに声を掛けつつ、バリトンが剛刀を肩へと担いで走る。
「レーダーに感!」
全周、空中に一斉に浮かび上がって姿を現す自律式浮遊機雷、小型蛸──それらはふわふわ空中を漂いながら一斉にハンターたちへ襲い掛かって来た。
「フン。来おったな。こちらが何の対抗策も持たずに足を踏み入れたと思うてか」
ミグは手早く手元のスティックを操作した。応じて、機体頭上の『天使の輪』が敵を圧するように輝き出し──放たれた柔らかな『光』が暖かく味方を包み込む。
一方、威光に眩しく照らされた小型蛸たちはピタリとその足を止め……まるで見えざる網に捉われたかのように次々と全周に溜まっていく。
「今です! 忍び大筒発射なのです☆ ビームで纏めてドーンです!」
機の右手にクルクル回したウッドペッカー──使い捨てのビーム兵器をピタリと敵へと指し構え、迸った光条で前方一直線を薙ぎ払う秋桜機。ウーナ機もまたハンドガン「トリニティ」を振り構えてその銃身を展開させると、敵の只中へ向けてプラズマ光弾を立て続けに発射。炸裂した放電と膨張した熱量が周囲の蛸たちを纏めて吹き飛ばす。
「針路を切り開きます。後ろは振り返らなくて構いませんよ」
エルは機体に己のマテリアルを循環させると魔砲「天雷」を武器ではなく魔道具として敵へと掲げ──直後、磯場方向を指向して放たれた雷撃で蛸たちを撃ち貫いた。
そうして開かれた突入口を更に押し開くべく突入していくバリトンとニンジャ走りの秋桜機。それを左右から押し潰さんと迫る小型蛸らに対し、前進する秋桜機に後続して歩きながら両手にハンドガンを構えたウーナ機が、両脇を開いてそれぞれ左右より迫る敵に弾幕射撃を浴びせ掛けた。迫る敵に対してステップを踏んで半回転──宙を舞う蛸らを相手にまるで舞踏を舞う様に、躱し、撃ち落としていくRe:AZ-L。そこへ『ブラストハイロゥ』を展開したミグ機が続き、その効果範囲に捉われた蛸たちがピタリと動きを止めて…… 後方の蛸たちには最後衛に立ったエル機が『ファイアーボール』をぶち込み、敵を減らして追撃を阻む。
「敵を撹乱しながら大蛸に正面から忍びよっちゃいます☆ これがホントのニンジャの隠密なんだからっ♪(←忍んでない)」
味方の支援を受け、ニンジャ走りで先頭を往く秋桜機は前方の敵のみに集中する。クルクルと回した大鎌をピタリと構え、針路上の蛸たちを切り飛ばしながら磯場へ向けてひた走る。
瞬間、その斜め前方の地面が突然、跳ね上がった。それは地面に張り付いて待ち伏せていた中型蛸だった。擬態効果を残したまま砂浜の上を滑るように肉薄して来たその蛸に脚部へ絡みつかれ、「あたーっ!?」と倒れかける秋桜機。そこへ……
「フンッ……!」
飛び込んで来たバリトンがダンッと踏み込みつつ剛刀「大輪一文字」を大上段から降り下ろし。その轟雷の如き斬撃で以って秋桜機の脚に絡みついた蛸の触腕を数本纏めて斬り飛ばす。
脚の拘束を解かれ、受け身を取って一回転して体勢を立て直す秋桜。未だ離れぬ中型を鎌の刃でこそぎ落として、再び磯場へ向かって駆ける……
一方、地上を進行する彼らとは別に、磯場へ向かって進む一班もあった。相棒の背に乗り飛行するサクラ、シレークス、奏音の3騎である。
「大きいのを倒さないとですね…… 小蛸が少ない今の内に突撃します」
サクラは仲間たちと頷き合ってまだ何者もいない空中を一直線に突進した。ようやく上がって来た小型蛸らもその密度は随分薄い。
「上等だ蛸共っ! 一匹残らず、エクラの威光にひれ伏しやがれ!」
先陣を切ったのはポロウに乗ったシレークスだった。彼女は3騎の先頭に立つとそのまま空中を先行し、ポロウの背で振り被った魔導円匙(ショベル)を振るって『衝撃波』を巻き起こし、前方、針路上の小型蛸たちを薙ぎ払う。
その間に、サクラと奏音の飛竜2機は空中の機雷原を突破し、眼下の磯場に向かって逆落としに急降下を開始した。
グングンと視界一杯に迫る磯場にはまだ変化は見られない。──本当にここに大型蛸がいるのか? 一瞬、脳裏に浮かんだ疑念を振り払って降下を続け……最初の一撃を投下する。
「ビーチの環境を破壊し過ぎないように…… まずは一撃を喰らいなさい」
「たこ焼き……焼きダコ? にしてあげますよ…… ワイバーンが」
奏音は飛竜に指示を出し、視界真正面の磯場に向かって『レイン・オブ・ライト』──光条の豪雨による爆撃を敢行した。サクラもまたワイバーンの首筋を軽く叩いて爆裂する火炎の息を浴びせ掛けさせる。
降り落つ無数の光の槍と火球の息が次々とに着弾し、岩場に無数の閃光と爆発が明滅する。
手綱を引いて下降から上昇へと転ずる2体の飛竜…… 激しい爆撃にも関わらずまるで動きを見せなかった岩塊が『グラリと揺らいだ』のはその時だった。磯場の表面が色を変え、蠢く巨大な蛸の姿が露になる。
「ハッ! いつまでも潜んでいられると思ったら大間違いでやがります! 一匹残らず叩き潰してやがります!」
その光景を見下ろして、纏わりつく小型蛸らを円匙を振り回して叩いて(時々爆発しながら)叫ぶシレークス。主の怒りに呼応したのか、カリブンクルスが飛びながら激しく頭を上下に振る。
「いましたね。再攻撃を仕掛けます」
突如、眼前に聳え立った巨大な触腕の間をすり抜ける様に大蛸上空を通過しながら、上昇へと転じた奏音が僚機のサクラに手信号で再突入の意向を伝える。
サクラも頷き、2騎は捻り込む様に旋回しながら再び大蛸目指して降下していく。それは巨大な化け物に挑む騎士のように。巨艦へ突っ込む艦爆のように──
大型種がその身をフルフル震わせ、その巨体の各所から小型蛸の群れを放出した。
その様はまるで風に綿毛を飛ばすタンポポの様な風情で──しかし、実際にハンターたちの目に映る光景は醜悪な蛸であるわけだが。
「やはり大蛸が小蛸の発生源か。さしずめ小ファンネルはマザーファンネルにありと言ったところか」
「あの太くてでっかいのを止めないと終わりません。集中的に攻撃を仕掛けましょう!」
地上の機雷原を突破してようやく磯場付近へ辿り着いた地上班── 不可侵の結界を失いガンポッドを浮遊させるミグ機に答えつつ、砂浜から磯場へ跳び渡った秋桜機がマテリアルで形成した符をニンニンと投擲し、その射程を倍化させた『風雷陣』を大蛸の脚、胴、頭(?)の三か所へ向けて発動させる。
「ニンジャコレダァァァ!」
秋桜機が印を結んで叫ぶと同時に宙を走った稲妻が、それぞれ目標となった部位を打ち据える。振るわれる触腕。躱す秋桜機。そこへ攻撃を入れ替わるように上空を通過しながら奏音が風雷陣の雷を落としていき……苛立った大蛸が怒りの咆哮を上げ、更なる守り手を周囲へばら撒く。
「供給源を排除する。『火星人』どもの『母船』を潰すぞ」
機体のマテリアルライフルを起動して、腰部と両肩部の三か所の砲口を展開。両拳を握り腰を落として大蛸へと向き直ったミグ機は、しかし、次の瞬間、自身を含む周囲の地面に落ちた影にその砲撃を中断させられた。
「ッ! 皆、逃げて!」
上空より大蛸の動きを警戒していた奏音の無線機越しの警報の叫び──
その大蛸の様を目の当たりにしたハンターたちは目を瞠った。
小山が、動いた。……巨大な大蛸が磯場を『蹴って』、地上班のCAMらに対し、まるで投網を投げかけるようにボディプレスを掛けて来たのだ。日を遮って影を落とすCAMの胴程もあるぶっとい触腕──腹の底に隠れていた巨大な口がビッチリ生えた牙をウネウネと蠢かせる……!
「うわ、まっず……!」
「散開! 回避……!」
ウーナとエルがスロットルを全開にし、全てのスラスターから推進剤を噴射させて全力でその場を離脱する。主の後ろ襟を咥えて走り飛ぶバリトンのポロウ。攻撃態勢を説いて後ろへ跳び退いたミグ機を、落下し地面を叩いた触腕が舞い上げた砂埃が呑み込む。
まるでビリヤードのブレイクショットの如く、地上のハンターたちは散開を強いられた。互いの支援を失ったハンターたちへ周囲の小型蛸たちが各個に襲い掛かる。
ウーナは機を停止させることなく素早く二丁拳銃を構えると、速射で片面の敵を牽制しつつ、反対側から包囲の突破を試みた。フェイントを掛けて敵を抜きつつ、右の銃に弾を装填。左の銃で敵を撃ちつつ、その間に右から突っ込んで来た蛸へ右の銃剣を突き立て、左で斬り裂きつつ発砲。吹き飛ばして砂上を滑るように、踊るように剣舞を舞う。
一方、エル機は『マテリアルカーテン』をマントの様に振るって左側の敵の爆発を防ぎつつ風の刃を振るって敵を切り払っていたが、すぐに敵に押し包まれた。その足を大きく広げてモニタ一杯に迫る小蛸の群れ── エルは舌を打って目を細めると『自分の足下へ』爆裂火球を打ち込んだ。その爆風で自機ごと蛸らを吹き飛ばし、小蛸の必殺『連鎖爆発』の危機をどうにかやり過ごす。
上空では、何か胸部や身体のラインを強調する形で蛸に纏わりつかれたシレークスを、サクラが投擲剣で切り払って助けていた。
「毎回、ここまで雑魔にエロい感じで絡まれる人っていないですよね、普通…… もしかして誘っているのですか?」
「んなわけあるかっつーんです! 私だって難儀してやがります」
「……(←心の底からの疑問の眼差し)」
とりあえず、サクラは『セイクリッドフラッシュ』で周囲の蛸を吹き飛ばすと、シレークスを連れて一旦、その場を離脱した。追い掛けて来る小蛸らを闇の刃で空中に固着しつつ、その掃除はシレークスに任せて自身は再び大蛸へと針路を向ける。
「む……!」
一方、地上── 一体を切り捨てている間に、別の一体に剣の下掻い潜られたバリトンがその小蛸にその上半身を包み込まれるように張り付かれた。直後、真っ赤にプクッと膨れて自爆する敵── CAMの装甲を破壊する程の威力を持つ爆発だ。それを生身で喰らってしまったバリトンは…… だが、砂煙が晴れた時。「剛刀とアダマス鉱石の鎧が無ければ即死だった(←嘘」とか平然と呟きながら、キーンと鳴る鼓膜に頭を振りつつ、その場に変わらず佇立する。
「出でよ分身、ヒゲダンサーズ!」
小蛸に囲まれた秋桜は小蛸に抱きつかれる瞬間、『マテリアルバルーン』を放出して左右より迫る敵へと残置。それらを囮に小蛸らの魔の手から抜け出した。
「残念! それは私のおいなりさ……もとい、機忍分身の術で出したヒゲ分身(?)です」
二つの爆発を背にルルルン、ルン、ルン♪ と印を結んでポーズを決める秋桜機。
「今度こそ……吹き飛ばす!」
大型触腕の魔の手から逃れたミグ機が砲撃体勢を取り、機体正面の大蛸に向けて三条のマテリアルビームを発射した。宙を迸った紫色の怪光線は大蛸の触腕の1を貫き、半ば以上を斬り飛ばしつつ本体を直撃。大蛸に強かにダメージを与え、咆哮を上げさせる。
瞬間、ウーナ機とミグ機は切り札として取っておいたフライトユニットを起動。屯する小蛸を地上に残置し、再び空へと舞い上がった。スラスターを噴かして蠢く触腕を器用に躱しながら、眼下の大蛸へ立て続けに双銃を撃ち下ろすウーナ機。エル機はそのまま機体を捻って小蛸の包囲外へ着地すると大蛸へと向き直り、機体前面に魔法陣を展開して弾も尽きよとばかりに爆裂火球を連打する。
そこへ上空から侵入し、空中に屹立する触腕を切り払って飛び抜けて行くサクラ。地上では大蛸の間際にまで肉薄した恐れ知らずのバリトンが手にした巨大な剛剣を目にも見えぬ速さで斬撃を繰り出し、大蛸の触腕や本体、頭(腹)部、その表皮に無数の断ち傷を次々刻み…… 奏音は大蛸頭上を通過しながら十五枚の呪符を風に舞わせつつ投下。それぞれ5色5枚の組となって分かれ、ある種の照明弾の如くヒラヒラと大蛸へと舞い降りたそれは、直後、大蛸の眼前で五芒星の閃光を発し、大蛸の顔面と視界を灼く。
その猛攻に怯み、悲鳴を上げる巨大蛸。危機を察した敵は周囲へ多量の『墨』を──墨汁の如き真っ黒な煙幕を吐き出し、其れに紛れて海へ逃げ込もうと図った。
だが……
「捕捉しておるぞ」
その行動はハンターたちに読まれていた。ポロウに『見つけるホー』の継続探知を行わせていたバリトンが相棒を空へと舞わせ、その動きを見て無線で皆に大蛸の逃走方向を報せ…… 海上方向、煙幕の中から飛び出た大蛸は、しかし、フライトシールド「プリドゥエン」──翼の生えた盾に両手でぶら下がって空を舞った秋桜機に待ち伏せされていた。
「タコはタコでもこっちはニンジャ伝統の大技、機忍大凧の術なんだから!(盾だけど)」
秋桜は機を体操選手の如くクルリと盾の上へと上がらせると、逆手に構えたマテリアルソードから光刃を形成させつつ、印を組んで大量の『火炎府』を宙へと舞わせた。
「ニンジャファイヤー!」
爆炎が大蛸へと降り注ぎ、その身を地上へ追い落とす。更にサクラと奏音の火球も加わり、大蛸が悲鳴と共に波打ち際に墜落する。
「逃がさない」
そのまま海へ逃れようとする大蛸へ追撃を掛ける地上班。最後にミグのマテリアルビームの光条が海と大地と空を切り裂き……巨大蛸型歪虚を黒き光の粒子へ返した。
●
戦闘が終わったのはそれから1時間後のこと。全ての小型蛸と砂浜に潜んだ中型蛸を虱潰しにしてようやく終わった。
「さて。それではのんびり泳ぎやがるとしますか!」
「いえ、これは本当に敵が残っていないか確かめる為にですね……」
その後、ビキニ姿で砂浜に立つシレークスとサクラ。それもいいかもしれんのう、とバリトンも上着を脱ぎ捨て、下着姿でその『お題目』に付き合うことにした。年齢を感じさせない隆々とした全身の筋肉── ちなみに彼には下心などまるでない。バリトンからしてみれば皆、孫たちみたいな歳の小娘たちだ。
「それではいざ夏の海に!」
勢い勇んで海へと走っていった嬢ちゃんたちは、だが、すぐに悲鳴を上げて尻餅をつく。
「うわっ、海底にビッシリとナマコとアメフラシが……!」
「気を付けてください、シレークス。こいつら……雑魔です!」
バリトンはやれやれと嘆息すると、砂浜に突き立てていた剛剣を手に助けに向かった。上空、飛竜に乗って生真面目に残敵の警戒に当たっていた奏音が気付いて上空へ侵入し、波打ち際を火炎と光の槍で綺麗に爆撃していった。
その日の夜── 依頼を達成したハンターたちに、村人たちから歓迎の晩餐会が開かれた。その席にはリーナらの姿もあった。ウーナが彼女たちを呼ばなければ自分たちも参加しないと強硬に主張したのだ。
「リーナちゃんたちの情報が無ければヤバい相手だったし。実際、殊勲賞だよ、ホント!」
出されたつまみはタコだった。サクラとシレークスは互いに顔を見合わせた。
「……。当分、蛸はいいかな、という気分なのですけど……」
「ナマコやアメフラシよりはマシと思うべきでやがりますかね……」
ポロウ『カリブンクルス』の背に乗って、件の村へ向かいながら──シレークス(ka0752)は拳を震わせ、その怒りを滾らせた。
彼女は蛸に恨みがあった。先日、リベルタース海岸での依頼を無事に遂げた彼女は「折角の夏の海」と砂浜を走りながら衣服を脱ぎ捨て、水着姿でザンブと海へ飛び込み……蛸の雑魔に襲われたのだ。
「フフフ…… 許可なく私の身体に絡みつきやがった落とし前は同族につけさせやがるのです」
思い返してバキリと鉄の缶詰を剛力で握り潰すシレークス。そんな主の怒りに呼応したのか、カリブンクルスがバタバタと翼を暴れさせる。
そんな友人の姿を見やったサクラ・エルフリード(ka2598)は蒼空に湧き立つ暗雲の如き嫌な予感に捉われた。シレークスが戦闘前にこういう事を言い出した時は大抵、碌なことにならない事をサクラは経験的に知っていた。
「空を飛ぶ上に消える蛸…… きっとそれはタコベーダーです! 横歩きでにじり寄って来るのです。私、ニッポンの本で読んじゃいました!」
自信満々で断言しながらポーズを決めるルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。職業、ニンジャ。そう、忍ばない方の。先祖代々受け継ぐ任務はどこかにきっと咲いているという幸せを探して旅をする事。花言葉は『忍耐』です。ニンジャだけに。(やかましい
村へと到着したハンターたちはすぐにリーナたちに敵の情報を訊きに向かった。彼女たちは村はずれに停められた魔導トラックの荷台にいた。全身包帯塗れだが幸い大きな怪我は無いという。
「……なるほど。ステルス性能を持つ蛸ですか」
「あちゃー。聞けば聞くほどMk.IV(ドミニオン)とは相性の悪い敵だね。リーナちゃん、ドンマイ」
実際に戦った者から話を聞いて思考を進める夜桜 奏音(ka5754)。ウーナ(ka1439)は同じCAMパイロットとして心底同情しつつ、リーナの肩をポンと叩く。
ミグ・ロマイヤー(ka0665)も頷いた。ドミニオンは良い機体ではあるが、どう見たって一世代前の機体だ。ジャミング中和能力は贔屓目に見たって下限ギリギリ…… その探知能力には限界がある。
「見えない敵と言っても色々ある。問題はそれが何かということだが……」
「反応が突然出て来た、となれば…… 何らかの手段でこちらの目や機器の反応を晦ましているか、或いは単純に隠れているか、の二択の気がするのう。瞬間移動の類はあるまい」
老練のバリトン(ka5112)が顎髭をしごきながら断言した。もし、瞬間移動の能力があったとしたら、魔導トラックでは逃げ切れまい。
「そう! リーナちゃんたちが情報を持ち帰ってくれたおかげで、タネはだいぶ割れたよね!」
偶々通りかかった──或いは、それを装って様子を窺いに来た村人たちに聞こえる様に、ウーナが声を一段高くした。……リーナたちはただやられて帰って来たわけじゃない。きちんと威力偵察を果たして帰って来た。そんな彼女たちが不当に貶められるのは同業者として我慢ならない。
「隠密中は発見困難だけど、動けば分かるということ。飛行するけど、生息は地上っぽいこと。空中は隠密が不可ってこと。そして、その機動力はトラックを追撃できる程ではないということ── 皆、リーナちゃんたちのお陰で判明した事実だよ! 初見殺しも分かってしまえば、幾らでも対抗手段は考えられるんだから!」
情報収集を終えたハンターたちは早速、件の砂浜へと移動した。大量に湧いたという蛸の姿はどこにも見えない。既にこの場を離れたか、或いはまだ潜んでいるのか……
「ともかく、まずは見つけないとどうしようもないですね」
奏音はそう呟くとワイバーンの背に跨った。相棒の耳元に声を掛け、サクラの乗った飛竜と並んで共に翼を広げ……索敵を行うべく、助走から空へと舞い上がる。
飛竜2騎に後続するのは、ポロウに乗ったバリトンとシレークス。彼らもまた『滑走路』に移動しながら方針の最終確認を行う。
「わしらポロウ組は手分けして砂浜の索敵を行う。敵が砂浜の中に埋まって隠れている可能性もあるからの。その時はポロウの『見つけるホー』の出番というわけじゃな」
「あるいは偏光能力などで姿を隠して、最初から空中に浮かんでいるパターンもあるんじゃねーかと」
「うむ。その辺も警戒しながら当たるとしよう」
パタパタ翼を羽ばたかせて空へと上がるポロウたち。それをCAMのカメラ越し──HMDのモニタを通して確認して、エルバッハ・リオン(ka2434)とウーナもフライトユニットのシステムに火を入れた。
「あたしたち、フライトユニット組の飛行可能時間は90秒── サッと行ってサッと強行偵察して帰って来るよ」
「了解。撮影はガンカメラでですね。飛行ルートの指示をください」
2機の周囲に揺らめく陽炎。高まっていくエンジン音── 背部に有翼のフライトユニットを積んで『▽』型のシルエットになったエルのR7『ウィザード』と、脚部に追加の推進装置を装着して高機動型○○っぽい『△』なシルエットになったウーナの『Re:AZ-L』が、ウーナの「Go!」という合図と共にスロットルをミリタリーへ。次の瞬間、轟音と共にスラスターから青い炎を噴き出して垂直に空へと昇っていった2機が白煙の弧を空に描いて磯場へと針路を向ける。
一方、地上── ミグのR7『サリシャガンの虎EWAC』と秋桜のコンフェッサー『CAMの飛忍『セイバーI』』の2機もまた、飛行組の突入とタイミングを同じくして砂浜への侵入を開始した。
「さあ、タコと人間様の騙し合いの始まりじゃ」
「姿を隠しての奇襲なんて、ニンジャとして負けられません!」
重量機らしくズシンズシンと砂の上を掛けながら、ミグの操作に応じて機体背面に装備されていた大型のセンサードームが、まるで天使の輪の様に機体の頭上に持ち上がった。彼女のR7はEWAC──電子戦用に改造された特別機だ。敵の歪虚的ジャミング能力──
視覚障害や認識阻害といった効果に対処出来得る能力を持つ。
機を進ませながら索敵を始めるミグ。……センサーに反応は無かった。アクティブも、パッシブも。
「リーナたちの時と同様、か──まあ想定の範囲内じゃ」
ミグは『イニシャライズオーバー』を使用した。両肩に装備した強力なイニシャライズフィールドジェネレーターに更にブーストを掛け、相手の能動的な『ジャミング』にカウンターを掛け、無効化する能力だ。だが……
(……ブーストしても反応は変わらず、か。敵の妨害手段はどうやらパッシブなものらしい)
ま、見込み違いも想定の内だ。その事こそが成果でもある。
ミグは頭上を見上げた。クルクルと鳶の様に円を描いて舞うワイバーンとポロウたち。一方、推進装置で一直線に空を切り裂く2機のCAMは磯場上空へと到達し……その『まるで小山の様に見える磯』を見下ろし、違和感をビンビン感じていた。
索敵を終え、再び地上で終結するハンターたち。その間も敵は現れない。……能動的な迎撃を行う気は無いということか。
「さあ、カリブンクルス! 『見つけるホー』で見つけた蛸共の位置を教えやがるのです!」
砂山で作ったジオラマを示してポロウらに命じるシレークス。2体は物凄い勢いの連続突きで反応があった辺りをマークする。
「結論──蛸どもはそこら中にいやがります」
労作を完膚なきまでに破壊されて涙ぐむシレークス。だが、お陰で敵の配置は一目瞭然だった。……姿の見えない蛸たちは、磯場を中心にして広い範囲に展開している。
「やっぱり。あたしの直感も磯に何かいるって告げている。多分、保護色の類」
「私も、海辺にあんな大きな磯なんてあるわけないと思いました」
ウーナの言葉にエルもまた同意を示した。恐らく未だ姿の見えない『デカブツ』は磯場にいる。
「……辺り一面にいるのは分かったるが、外からピンポイントで狙撃できる程に精密に分かっているわけでもない、か。砲兵がいれば辺り一面耕してやるのだが……虎で真似事でもしてみるか?」
ミグの提案にサクラはそっと頭を振った。ここは村人たちが色々と利用している砂浜だ。できれば被害はなるべく抑えたい。
「なるほど、爆撃などで吹き飛ばしてしまうと、ここで遊びたい者たちなどが遊べなくなってしまうしのう」
「いえ、決して泳ぎたいとかそういうわけではなく…… 依頼後に砂浜が使える程度に無事かどうか確かめる為にですね……ええ、本当に。だからビキニとかいうわけではなくてですね……」
バリトンのツッコミにしどろもどろになって言い訳を始めるサクラ。一方のシレークスは(それが何か?)と言わんばかりに動じない。
「……で、どうしましょう? 何にせよ『機雷原』を突破しなければ磯場まで辿り着けませんが……」
話が脱線し掛けたのを察して、奏音が浜風に流れる髪を押さえながら話を戻した。
「どうする? サクラちゃんたちのワイバーンに爆撃をお願いして反撃を誘ってみる?」
ウーナの案にミグが答えた。
「いや、敢えて蜂の巣を突くこともあるまい。折角、こちらが近づくまで動かないでいてくれるのじゃ。なら、対処可能な数だけ随時釣り上げてやるとしよう。……タコだけに」
………
……
…
ハンターたちは改めて砂浜へと侵攻を開始した。
率先して敵の罠へと飛び込む役割を担ったのはミグだった。彼女の機体は生残性を高める為に重装甲が施されている。後続するは3機のCAM──エル機、ウーナ機、秋桜機。そして、生身のバリトンだ。
「自爆する小型相手に剣では分が悪い。わしは一番でかいのを目指させてもらおうかの」
わしから離れるな、とポロウに声を掛けつつ、バリトンが剛刀を肩へと担いで走る。
「レーダーに感!」
全周、空中に一斉に浮かび上がって姿を現す自律式浮遊機雷、小型蛸──それらはふわふわ空中を漂いながら一斉にハンターたちへ襲い掛かって来た。
「フン。来おったな。こちらが何の対抗策も持たずに足を踏み入れたと思うてか」
ミグは手早く手元のスティックを操作した。応じて、機体頭上の『天使の輪』が敵を圧するように輝き出し──放たれた柔らかな『光』が暖かく味方を包み込む。
一方、威光に眩しく照らされた小型蛸たちはピタリとその足を止め……まるで見えざる網に捉われたかのように次々と全周に溜まっていく。
「今です! 忍び大筒発射なのです☆ ビームで纏めてドーンです!」
機の右手にクルクル回したウッドペッカー──使い捨てのビーム兵器をピタリと敵へと指し構え、迸った光条で前方一直線を薙ぎ払う秋桜機。ウーナ機もまたハンドガン「トリニティ」を振り構えてその銃身を展開させると、敵の只中へ向けてプラズマ光弾を立て続けに発射。炸裂した放電と膨張した熱量が周囲の蛸たちを纏めて吹き飛ばす。
「針路を切り開きます。後ろは振り返らなくて構いませんよ」
エルは機体に己のマテリアルを循環させると魔砲「天雷」を武器ではなく魔道具として敵へと掲げ──直後、磯場方向を指向して放たれた雷撃で蛸たちを撃ち貫いた。
そうして開かれた突入口を更に押し開くべく突入していくバリトンとニンジャ走りの秋桜機。それを左右から押し潰さんと迫る小型蛸らに対し、前進する秋桜機に後続して歩きながら両手にハンドガンを構えたウーナ機が、両脇を開いてそれぞれ左右より迫る敵に弾幕射撃を浴びせ掛けた。迫る敵に対してステップを踏んで半回転──宙を舞う蛸らを相手にまるで舞踏を舞う様に、躱し、撃ち落としていくRe:AZ-L。そこへ『ブラストハイロゥ』を展開したミグ機が続き、その効果範囲に捉われた蛸たちがピタリと動きを止めて…… 後方の蛸たちには最後衛に立ったエル機が『ファイアーボール』をぶち込み、敵を減らして追撃を阻む。
「敵を撹乱しながら大蛸に正面から忍びよっちゃいます☆ これがホントのニンジャの隠密なんだからっ♪(←忍んでない)」
味方の支援を受け、ニンジャ走りで先頭を往く秋桜機は前方の敵のみに集中する。クルクルと回した大鎌をピタリと構え、針路上の蛸たちを切り飛ばしながら磯場へ向けてひた走る。
瞬間、その斜め前方の地面が突然、跳ね上がった。それは地面に張り付いて待ち伏せていた中型蛸だった。擬態効果を残したまま砂浜の上を滑るように肉薄して来たその蛸に脚部へ絡みつかれ、「あたーっ!?」と倒れかける秋桜機。そこへ……
「フンッ……!」
飛び込んで来たバリトンがダンッと踏み込みつつ剛刀「大輪一文字」を大上段から降り下ろし。その轟雷の如き斬撃で以って秋桜機の脚に絡みついた蛸の触腕を数本纏めて斬り飛ばす。
脚の拘束を解かれ、受け身を取って一回転して体勢を立て直す秋桜。未だ離れぬ中型を鎌の刃でこそぎ落として、再び磯場へ向かって駆ける……
一方、地上を進行する彼らとは別に、磯場へ向かって進む一班もあった。相棒の背に乗り飛行するサクラ、シレークス、奏音の3騎である。
「大きいのを倒さないとですね…… 小蛸が少ない今の内に突撃します」
サクラは仲間たちと頷き合ってまだ何者もいない空中を一直線に突進した。ようやく上がって来た小型蛸らもその密度は随分薄い。
「上等だ蛸共っ! 一匹残らず、エクラの威光にひれ伏しやがれ!」
先陣を切ったのはポロウに乗ったシレークスだった。彼女は3騎の先頭に立つとそのまま空中を先行し、ポロウの背で振り被った魔導円匙(ショベル)を振るって『衝撃波』を巻き起こし、前方、針路上の小型蛸たちを薙ぎ払う。
その間に、サクラと奏音の飛竜2機は空中の機雷原を突破し、眼下の磯場に向かって逆落としに急降下を開始した。
グングンと視界一杯に迫る磯場にはまだ変化は見られない。──本当にここに大型蛸がいるのか? 一瞬、脳裏に浮かんだ疑念を振り払って降下を続け……最初の一撃を投下する。
「ビーチの環境を破壊し過ぎないように…… まずは一撃を喰らいなさい」
「たこ焼き……焼きダコ? にしてあげますよ…… ワイバーンが」
奏音は飛竜に指示を出し、視界真正面の磯場に向かって『レイン・オブ・ライト』──光条の豪雨による爆撃を敢行した。サクラもまたワイバーンの首筋を軽く叩いて爆裂する火炎の息を浴びせ掛けさせる。
降り落つ無数の光の槍と火球の息が次々とに着弾し、岩場に無数の閃光と爆発が明滅する。
手綱を引いて下降から上昇へと転ずる2体の飛竜…… 激しい爆撃にも関わらずまるで動きを見せなかった岩塊が『グラリと揺らいだ』のはその時だった。磯場の表面が色を変え、蠢く巨大な蛸の姿が露になる。
「ハッ! いつまでも潜んでいられると思ったら大間違いでやがります! 一匹残らず叩き潰してやがります!」
その光景を見下ろして、纏わりつく小型蛸らを円匙を振り回して叩いて(時々爆発しながら)叫ぶシレークス。主の怒りに呼応したのか、カリブンクルスが飛びながら激しく頭を上下に振る。
「いましたね。再攻撃を仕掛けます」
突如、眼前に聳え立った巨大な触腕の間をすり抜ける様に大蛸上空を通過しながら、上昇へと転じた奏音が僚機のサクラに手信号で再突入の意向を伝える。
サクラも頷き、2騎は捻り込む様に旋回しながら再び大蛸目指して降下していく。それは巨大な化け物に挑む騎士のように。巨艦へ突っ込む艦爆のように──
大型種がその身をフルフル震わせ、その巨体の各所から小型蛸の群れを放出した。
その様はまるで風に綿毛を飛ばすタンポポの様な風情で──しかし、実際にハンターたちの目に映る光景は醜悪な蛸であるわけだが。
「やはり大蛸が小蛸の発生源か。さしずめ小ファンネルはマザーファンネルにありと言ったところか」
「あの太くてでっかいのを止めないと終わりません。集中的に攻撃を仕掛けましょう!」
地上の機雷原を突破してようやく磯場付近へ辿り着いた地上班── 不可侵の結界を失いガンポッドを浮遊させるミグ機に答えつつ、砂浜から磯場へ跳び渡った秋桜機がマテリアルで形成した符をニンニンと投擲し、その射程を倍化させた『風雷陣』を大蛸の脚、胴、頭(?)の三か所へ向けて発動させる。
「ニンジャコレダァァァ!」
秋桜機が印を結んで叫ぶと同時に宙を走った稲妻が、それぞれ目標となった部位を打ち据える。振るわれる触腕。躱す秋桜機。そこへ攻撃を入れ替わるように上空を通過しながら奏音が風雷陣の雷を落としていき……苛立った大蛸が怒りの咆哮を上げ、更なる守り手を周囲へばら撒く。
「供給源を排除する。『火星人』どもの『母船』を潰すぞ」
機体のマテリアルライフルを起動して、腰部と両肩部の三か所の砲口を展開。両拳を握り腰を落として大蛸へと向き直ったミグ機は、しかし、次の瞬間、自身を含む周囲の地面に落ちた影にその砲撃を中断させられた。
「ッ! 皆、逃げて!」
上空より大蛸の動きを警戒していた奏音の無線機越しの警報の叫び──
その大蛸の様を目の当たりにしたハンターたちは目を瞠った。
小山が、動いた。……巨大な大蛸が磯場を『蹴って』、地上班のCAMらに対し、まるで投網を投げかけるようにボディプレスを掛けて来たのだ。日を遮って影を落とすCAMの胴程もあるぶっとい触腕──腹の底に隠れていた巨大な口がビッチリ生えた牙をウネウネと蠢かせる……!
「うわ、まっず……!」
「散開! 回避……!」
ウーナとエルがスロットルを全開にし、全てのスラスターから推進剤を噴射させて全力でその場を離脱する。主の後ろ襟を咥えて走り飛ぶバリトンのポロウ。攻撃態勢を説いて後ろへ跳び退いたミグ機を、落下し地面を叩いた触腕が舞い上げた砂埃が呑み込む。
まるでビリヤードのブレイクショットの如く、地上のハンターたちは散開を強いられた。互いの支援を失ったハンターたちへ周囲の小型蛸たちが各個に襲い掛かる。
ウーナは機を停止させることなく素早く二丁拳銃を構えると、速射で片面の敵を牽制しつつ、反対側から包囲の突破を試みた。フェイントを掛けて敵を抜きつつ、右の銃に弾を装填。左の銃で敵を撃ちつつ、その間に右から突っ込んで来た蛸へ右の銃剣を突き立て、左で斬り裂きつつ発砲。吹き飛ばして砂上を滑るように、踊るように剣舞を舞う。
一方、エル機は『マテリアルカーテン』をマントの様に振るって左側の敵の爆発を防ぎつつ風の刃を振るって敵を切り払っていたが、すぐに敵に押し包まれた。その足を大きく広げてモニタ一杯に迫る小蛸の群れ── エルは舌を打って目を細めると『自分の足下へ』爆裂火球を打ち込んだ。その爆風で自機ごと蛸らを吹き飛ばし、小蛸の必殺『連鎖爆発』の危機をどうにかやり過ごす。
上空では、何か胸部や身体のラインを強調する形で蛸に纏わりつかれたシレークスを、サクラが投擲剣で切り払って助けていた。
「毎回、ここまで雑魔にエロい感じで絡まれる人っていないですよね、普通…… もしかして誘っているのですか?」
「んなわけあるかっつーんです! 私だって難儀してやがります」
「……(←心の底からの疑問の眼差し)」
とりあえず、サクラは『セイクリッドフラッシュ』で周囲の蛸を吹き飛ばすと、シレークスを連れて一旦、その場を離脱した。追い掛けて来る小蛸らを闇の刃で空中に固着しつつ、その掃除はシレークスに任せて自身は再び大蛸へと針路を向ける。
「む……!」
一方、地上── 一体を切り捨てている間に、別の一体に剣の下掻い潜られたバリトンがその小蛸にその上半身を包み込まれるように張り付かれた。直後、真っ赤にプクッと膨れて自爆する敵── CAMの装甲を破壊する程の威力を持つ爆発だ。それを生身で喰らってしまったバリトンは…… だが、砂煙が晴れた時。「剛刀とアダマス鉱石の鎧が無ければ即死だった(←嘘」とか平然と呟きながら、キーンと鳴る鼓膜に頭を振りつつ、その場に変わらず佇立する。
「出でよ分身、ヒゲダンサーズ!」
小蛸に囲まれた秋桜は小蛸に抱きつかれる瞬間、『マテリアルバルーン』を放出して左右より迫る敵へと残置。それらを囮に小蛸らの魔の手から抜け出した。
「残念! それは私のおいなりさ……もとい、機忍分身の術で出したヒゲ分身(?)です」
二つの爆発を背にルルルン、ルン、ルン♪ と印を結んでポーズを決める秋桜機。
「今度こそ……吹き飛ばす!」
大型触腕の魔の手から逃れたミグ機が砲撃体勢を取り、機体正面の大蛸に向けて三条のマテリアルビームを発射した。宙を迸った紫色の怪光線は大蛸の触腕の1を貫き、半ば以上を斬り飛ばしつつ本体を直撃。大蛸に強かにダメージを与え、咆哮を上げさせる。
瞬間、ウーナ機とミグ機は切り札として取っておいたフライトユニットを起動。屯する小蛸を地上に残置し、再び空へと舞い上がった。スラスターを噴かして蠢く触腕を器用に躱しながら、眼下の大蛸へ立て続けに双銃を撃ち下ろすウーナ機。エル機はそのまま機体を捻って小蛸の包囲外へ着地すると大蛸へと向き直り、機体前面に魔法陣を展開して弾も尽きよとばかりに爆裂火球を連打する。
そこへ上空から侵入し、空中に屹立する触腕を切り払って飛び抜けて行くサクラ。地上では大蛸の間際にまで肉薄した恐れ知らずのバリトンが手にした巨大な剛剣を目にも見えぬ速さで斬撃を繰り出し、大蛸の触腕や本体、頭(腹)部、その表皮に無数の断ち傷を次々刻み…… 奏音は大蛸頭上を通過しながら十五枚の呪符を風に舞わせつつ投下。それぞれ5色5枚の組となって分かれ、ある種の照明弾の如くヒラヒラと大蛸へと舞い降りたそれは、直後、大蛸の眼前で五芒星の閃光を発し、大蛸の顔面と視界を灼く。
その猛攻に怯み、悲鳴を上げる巨大蛸。危機を察した敵は周囲へ多量の『墨』を──墨汁の如き真っ黒な煙幕を吐き出し、其れに紛れて海へ逃げ込もうと図った。
だが……
「捕捉しておるぞ」
その行動はハンターたちに読まれていた。ポロウに『見つけるホー』の継続探知を行わせていたバリトンが相棒を空へと舞わせ、その動きを見て無線で皆に大蛸の逃走方向を報せ…… 海上方向、煙幕の中から飛び出た大蛸は、しかし、フライトシールド「プリドゥエン」──翼の生えた盾に両手でぶら下がって空を舞った秋桜機に待ち伏せされていた。
「タコはタコでもこっちはニンジャ伝統の大技、機忍大凧の術なんだから!(盾だけど)」
秋桜は機を体操選手の如くクルリと盾の上へと上がらせると、逆手に構えたマテリアルソードから光刃を形成させつつ、印を組んで大量の『火炎府』を宙へと舞わせた。
「ニンジャファイヤー!」
爆炎が大蛸へと降り注ぎ、その身を地上へ追い落とす。更にサクラと奏音の火球も加わり、大蛸が悲鳴と共に波打ち際に墜落する。
「逃がさない」
そのまま海へ逃れようとする大蛸へ追撃を掛ける地上班。最後にミグのマテリアルビームの光条が海と大地と空を切り裂き……巨大蛸型歪虚を黒き光の粒子へ返した。
●
戦闘が終わったのはそれから1時間後のこと。全ての小型蛸と砂浜に潜んだ中型蛸を虱潰しにしてようやく終わった。
「さて。それではのんびり泳ぎやがるとしますか!」
「いえ、これは本当に敵が残っていないか確かめる為にですね……」
その後、ビキニ姿で砂浜に立つシレークスとサクラ。それもいいかもしれんのう、とバリトンも上着を脱ぎ捨て、下着姿でその『お題目』に付き合うことにした。年齢を感じさせない隆々とした全身の筋肉── ちなみに彼には下心などまるでない。バリトンからしてみれば皆、孫たちみたいな歳の小娘たちだ。
「それではいざ夏の海に!」
勢い勇んで海へと走っていった嬢ちゃんたちは、だが、すぐに悲鳴を上げて尻餅をつく。
「うわっ、海底にビッシリとナマコとアメフラシが……!」
「気を付けてください、シレークス。こいつら……雑魔です!」
バリトンはやれやれと嘆息すると、砂浜に突き立てていた剛剣を手に助けに向かった。上空、飛竜に乗って生真面目に残敵の警戒に当たっていた奏音が気付いて上空へ侵入し、波打ち際を火炎と光の槍で綺麗に爆撃していった。
その日の夜── 依頼を達成したハンターたちに、村人たちから歓迎の晩餐会が開かれた。その席にはリーナらの姿もあった。ウーナが彼女たちを呼ばなければ自分たちも参加しないと強硬に主張したのだ。
「リーナちゃんたちの情報が無ければヤバい相手だったし。実際、殊勲賞だよ、ホント!」
出されたつまみはタコだった。サクラとシレークスは互いに顔を見合わせた。
「……。当分、蛸はいいかな、という気分なのですけど……」
「ナマコやアメフラシよりはマシと思うべきでやがりますかね……」
依頼結果
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面白かった! | 9人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/28 09:20:37 |
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相談です・・・ サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/08/01 12:50:48 |