ユグディ槍士(ランサー) 南海の侵略者

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/08/10 22:00
完成日
2018/08/16 18:20

みんなの思い出

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オープニング

●ユグディラの島、ある夏の日
 ここはグラズヘイム王国南方に浮かぶ、ユグディラの島。
 ある浜辺では、ユグディラ達は木陰でハンモックにぶら下がって午睡を楽しんだり、陽気に歌ったり、愛を囁いたりしていた。
 かれらは、一年で最も自然が生命力を発揮する季節――夏を満喫していた。

 だが、空気を読めない輩は何時、何処であろうと存在するもので――

 ザパァァァァァァン!
 ズゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴ
「「「「「ニャー!!!」」」」」

 浜辺を削り取るように上陸した、いくつもの巨大な影。
 異常を察知したユグディラ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。



●南海の侵略者
 複数の鯨型『憤怒』。
 それはある個体によって統率されており、本来世の中に暴力を撒き散らすしかできないこれらは、まるで艦隊のように動いていた。
 それらに鎖で繋がれ、曳かれている一隻の――艦。

 その甲板から一人の歪虚が島を眺めていた。
「この島を第二のイスルダにする」
 傲慢特有の全てを見下した声。
「いや……イスルダ以上に繁栄した共同体に。
 ベリアルはしくじったが、為政者としての手腕はこの私が上だ。
 千年王国の栄誉は、いずれグラズヘイム王国でなく、私が創る歪虚国家のものとなる」

「さっすがツェデク様! ツェデク様こそ歪虚の救世主やでぇ」
 斑模様の道化者の服を着て歪んだ笑みを浮かべた不細工な人形みたいな歪虚がはやし立てた。それと同じ姿をしたものが三体おり、それぞれラッパ、太鼓、シンバルをやかましく鳴らした。
「ピラーン、角笛を鳴らせ!」
 ツェデクと呼ばれた――おそらくは人間出身と思われる、知的階級特有の印象が伺える――は、四体いる歪虚に呼びかけた。
「アイアイサー!」
 歪虚の一体が応えた。同時に他の三体は動きを止め、床に倒れこんだ。楽器が散乱してけたたましい音をたてる。
 おもちゃの兵隊である。
 不細工な人形が角笛を鳴らすと、戦艦の中から甲板へ、次々と歪虚が上がってくる。
 それだけではない。艦は一隻ではなかった。鯨歪虚に曳かれるのとは別に、集まってくるいくつもの艦がある。いずれも船上は歪虚で埋め尽くされており、ツェデクに恭順の意を示している。
「メイド長はいるか?」
「こちらに……」
 ツェデクが呼ぶと給仕姿の歪虚が進み出た。複雑な仮面を付けており、メイド服以外は人間性を感じさせない。
「鯨どもを陸に上げる準備をしておけ。指示は追って知らせる」
「御意に、ご主人様」



 一方――

●ユグディラの勇士達
 ここは、島の自警団が使っている武術訓練場。

「ゴギャアアーーーッ!」
 雄雄しい雄叫びとともに、ユグディラが槍で突きかかる。
 ユグディラにしてはかなりの巨体だ。
 風を切る凄まじい勢いの突きを、黒い毛のユグディラが避ける。
 巨漢はさらに突きかかる。二度、三度と繰り返された突きを黒いユグディラは避け、距離をとった。
 巨体が距離を詰めようと一歩踏み込んだ瞬間、黒が一瞬消えた。
 次の瞬間、巨体の顎を黒の槍が捕らえていた。

 勝負を決した二人は、別れて一礼する。
 実戦形式の訓練である。槍も訓練用の、先を布で覆ったものだ。

 勝利を収めたのは、漆黒の毛色に琥珀色の瞳、すらりと伸びた背に逞しい体つきをした、クロヒョウのようなユグディラだった。
 クロヒョウのような彼(以下クロヒョウと記す)は島でも名うての槍の名手であり、ユグディラ達の中では古今無双の勇者と扱われている。

 敗北を喫したものの猛攻を見せた巨漢のユグディラもまた強者として名高い。それ以上に、顔の凶悪さで名高い。猫とは何だったのかと思わせる凶悪さ。キラー・ザ・フィッシャーとかヘルキャット・プレデターとかいう名前が似合いそうなユグディラだ。

 二人が互いの健闘を称え合っていると、突如慌てた様子のユグディラが駆け込んできた。
 訓練のため集まっていたユグディラが聞くと、駆け込んできたユグディラは幻術とボディランゲージで、見てきた事を伝えた。
 海岸に現れた、歪虚の一団のことを……。



 すぐにユグディラ島自警団に非常召集がかけられた。
 訓練の最中だったクロヒョウたちもすぐに準備し、召集に応じた。
 
 現場へと向かう自警団員たちは一箇所に集合し、出発の指示を待った。

「フシャアアア……」
 巨体のユグディラ(以下キラーと記す)が凶悪な表情で息巻いていた。
 戦いを前にして武者震いしているようだった。
「meow.」
 逸るような彼を、クロヒョウの流麗な鳴き声が諫めた。
 彼らはユグディラだ。いくらユグディラの中で強いといっても、戦いを重ねた覚醒者のハンターに匹敵するほどではない。歪虚の大軍を相手にするには、あまりに力の差があった。

 それでも、退くわけには行かない。
 退けない戦いだった。

 この島を守る。
 それが、彼等の願いであったから。

「meow.」
 ――いくぜ相棒。
「オ゙ヷァァ」
 ――任せな。

 槍を強く握り、感触を確かめる。
 得物、技術、仲間との絆――
 少なくとも、戦うのには万全の状態だ。

 やがて出撃の指示が下される。

 自警団員たちは征く。
 その先頭に、クロヒョウとキラーの姿はあった。

リプレイ本文

●巨いなる者達の戦い
 鯨型歪虚の体の両横から計六本の真っ黒い棒のようなものが体表を突き破って伸びた。
 それには間接があり、まるで昆虫の脚の様に砂浜を踏みしめ、鯨の体を支える。
『メイド長』は鯨達が指示を全うするのを見届けていた。
 指示とはすなわち、上陸し、島の全てを蹂躙することである。

 だが、そんな折――

 鯨どもが歩き出すよりも前に、『メイド長』は見た。

 海の一部で、水面が不自然に盛り上がり、顕現した――
 ――黒鉄の、巨人を。

「すぐさまツェデク様に報告を」
「はッ!」
 歪虚の一人がすぐさま主人の元へと駆けた。

 黒鉄の巨人。
 正しくはドミニオンMk.V、通称ガルガリン。
 黒き巨躯。金色のライン。幾重もの装甲を纏った大胆不敵な姿。
 重厚にして勇猛。
 そして手には全長700mの得物。
 流れるテーマソング。
 その名を――
「スピニォォォォォォォォォォォォォォォンッ! オーバァァァァァァァァ……ゼェーット!!!」
 コクピットの中で仁川 リア(ka3483)が吼えた。

『鯨達! その邪魔者を掃除なさい!』
「覚悟しろ歪虚ども!
 海より現れる黒鉄の城! 新型スーパードリルロボット、Over-Zの登場だ!!」
 鯨型歪虚が動いたのとスピニオンOver-Zが動いたのは同時だった。
 スピニオンはCAM専用メイス・プリスクスを握り締めると、スラスターに点火。一気に歪虚に向かって突き進んだ。
 鯨達も六本の長い脚で砂浜を踏みしめ、砂煙を撒き散らし足音を響かせながら迫る。

●上陸作戦
「何? CAMだと?」
 歪虚の長、ツェデクは配下の報告を受けていた。
「『メイド長』にはまずCAMを排除をするよう伝えよ」
 指示を受けた歪虚はすぐさま去った。
「フッ……人間共に悟られたか? だがそうでなくてはつまらぬ!
 来るがいい人間共、我が軍隊が相手になろうぞ!」
「イーッヒッヒッヒッヒ! ツェデク様サイコー! マジ至高王! 抱いてマジェスティー!」
 後で不細工な道化人形のようなものが囃し、周りで同じ姿をしたものが煩く楽器を鳴らす。



 歪虚達の船が接岸し、上陸をはじめた。
 砂浜を踏み越え、地上での拠点を作るべく進軍を始める。

 だが、突如として五条の光が奔り、先頭を走っていた歪虚のうち五体がそれに貫かれて倒れた。
 歪虚達は驚愕し、戦闘体制に移行する。
 攻撃者はすぐに姿を現した。
「猫! ……それはモフモフ!
 こんな楽園、守らいでかー!
 私の楽園を土足で踏み荒らすんじゃなぁぁぁーーーい!」
 現れたのは夢路 まよい(ka1328)。彼女は己の怒りを魔法の矢に変えて歪虚を射抜く!
 そして、その背後で「油断しないで下さいよ」と言わんばかりに(本当に言ったわけではない)後に控えているユグディラがいる。
 紫色の毛並みの彼の名はトラオム。まよいの相方だ。
 まよいより慎重な彼は、自然とそういう立ち位置になる。

 歪虚と戦い始めたのはまよいだけではなかった。
 別の場所では光り輝く焔を振るう剣士が、歪虚の五体をバラバラにした。
 その隣では、3mに及ぶ両手斧を振るうエルフの女が歪虚の頭蓋を叩き割った。
「やれやれ、折角ソフィアとイストちゃんのおかげでユグディラ天国に来れたんだがな。
 どこにでも空気の読めないヤツはいるものだ」
 剣士、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)はそう言って歪虚に冷ややかな視線を送った。
「まさかこんなことに巻き込まれるなんてね! でもユグディラのピンチなら助けないと!」
 エルフの女、リューリ・ハルマ(ka0502)は両手斧を構えなおし、元気に言う。
 さらには、二人の横にはユグディラが控えている。
 この島のものではない。
「いくよ! ソフィア!」
「頑張ろうね、イスト!」
 アルトとリューリがユグディラの名を呼ぶ。二人の相方だ。
 アルトの相方、ソフィアは全身鎧を纏い剣を携えている。アルトの隣で――剣の腕は遠く及ばなくとも――ともに戦っている。
 リューリの相方イストは聖職服に司教冠といった聖職者風。そして三味線で曲を奏で、仲間を補佐している。
「あはっ、いつもより張り切ってるね!」
 リューリはイストを見てそう感じた。アルトもソフィアに対して同じ印象を抱いた。
「やっぱりユグディラにとってユグディラの島は特別なのかな!」
 アルトにはそう思えた。



 一方、クロヒョウ達ユグディラ自警団も海岸に到着しようとしていた。
 防砂林を抜け、かれらは見た。広がる砂浜をバックに――
 歪虚と戦うハンター達の姿を!

 背中を向けている。
 たった今、歪虚を斬ったところだ。
 まだ何体かの歪虚と相対している。

「待ってましたよっ! ユグディラさん達!」
 顔を半分だけ向けてハンターはユグディラ達に告げた。
 その顔に、クロヒョウとキラーは見覚えがあった。
 クロヒョウは思い出す。
 かつてこの島に現れた歪虚を倒した人間のハンター達のことを。
 その中に、彼女の顔があった。
「あの時共に戦った同志! それは今も変わりません! だから――
 ミコト=S=レグルス(ka3953)、助太刀させて貰うのですよっ!」
「グワーーーオ!」
 キラーは嬉しそうに一声吠えると、ミコトの横に並んだ。
 クロヒョウも同じく。
 そして両者は猫のような素早さで歪虚の一体に距離を詰め、槍で突き上げた。
 左右から交差する形で、一体を突く。
 歪虚がどちらに対処するか決める頃にはすでに貫かれている。
「おお、やりますね! うちも負けていられませんっ!」
 ミコトも踏み込み、歪虚の一体に打ちかかっていく。
 一瞬だけクロヒョウと目が合った。
 わずかに笑っているように見えた。

 ユグディラとハンター達は歪虚を倒していくうちに自然と合流した。
 ハンターのユグディラ達と島のユグディラ達は、互いに尊敬の眼差しを向けあっていた。
 かたや歪虚との戦いに身を投じている者達。
 かたや島のユグディラ達の守護者達。
 どちらも勇者だ。
 何より、同じ敵に向かう以上、同志だという感覚があった。

●終焉を超えし者
 ズドドドトドドドド! ガキィィィン!
 突進してくる鯨の巨体を、スピニオンはつばぜり合いの要領で受ける。
「でかいだけあってパワーはある、けどっ!」
 リアは一瞬だけスピニオンを後方に移動させると、鯨の頭にメイスを振り下ろした。
「力押しだけではOver-Zは倒せないよ!」
 メイスの先端は鯨の頭にめり込み、そのまま回転して肉をズタズタに引き裂く。
「これが新しいドリルの力だぁっ!」
 その武器、プリスクスはメイスでありながら表面の突起を回転させ、相手を磨り潰す。
 それがドリルかどうかは疑問の余地があったが――
「回転するならドリルだよね!」
 かつてガトリングガンもドリルの一種と言い張ったリアの論法、何の問題もなかった。
 背後から別の一体がスピニオンに迫る。丁度、先に攻撃した鯨と挟み撃ちになる。
 スピニオンは二頭の鯨の頭に挟まれ、そのまま鯨達は押し潰そうとする。
「負けるものか! うぉぉぉぉぉぉッ!」
 直撃の瞬間、機体を横向にしたリアは、スピニオンの両腕で鯨二頭を押し退け、スラスターに点火して脱出した。
 空中に逃れたリアが見たものは、自分に向かって大口を開ける、他の鯨三頭の姿だった。
 マテリアルライフルの照射にも似たビームが、スピニオンに照射される。
 激しく火花を散らしながらスピニオンは着地。
「やるな。しかしッ! その程度の攻撃でスピニオンOver-Zは倒せない!
 さあ……続けようか!」
 再び武器を握りしめる。
 その動きに、ダメージの影響は殆ど感じさせなかった。

●天翔ける戦士
 一方、地上を行くハンターとユグディラ一行は、歪虚の上陸部隊を次々と倒し、クロヒョウとキラー以外のユグディラ自警団を残し、船へと切り込んでいた。
 ハンター・ユグディラ合わせて9人は足場の悪い船の上で、迫り来る歪虚を次々と倒していた。
 だが――
「上だッ!」
 アルトの喚起にとっさに防御態勢をとる、まよい。頭上から飛来した何者かの攻撃を防ぐも、勢いで体制を崩す。
「――ほう、よく防いだ」
「人間……?」
 すぐさま上空へと逃れたそれは、ワイバーンに跨がった人間のように見える。
「我こそは従者レイア・アローネ(ka4082)!
 ここから先に進みたければこの私を倒してから行け!!」
「ど、どうしてあなたが!」
「今の私は奉仕のためだけに生きる! それだけだ!」
 ミコトの問いかけにレイアはそれだけ答え、再び空にワイバーンを踊らせる。
「奉仕……?」
「さっきはよくも!」
 リューリがレイアの言葉に不思議がる一方、まよいは空に向けて魔法の矢を放つ。
 だがそれは避けられ、間を縫うようにしてワイバーンは飛行。すぐには攻撃に移らない。
「気をつけて! 歪虚も来てるよ!」
 リューリは上空に注意を向けているまよいに向かってくる歪虚を攻撃し、フォローする。
 レイアは地上の歪虚と連携を取るように急降下攻撃を仕掛けてくる。
 次に狙ったのはミコト。
 受け流すが、反撃に移る間もなく飛び上がられてしまう。
 まよいのマジックアローもワイバーンを堕とすには至らない。
 旋回し、レイアは空中から衝撃波を放ってきた。
 まよいが傷を負った。後衛から倒していこうというのだろうか。
「グワァーオ! ガギャアーッ!」
 地上からキラーが挑発する。しかし、レイアは意に介さず空中を悠々と飛び回る。
 それからも急降下攻撃と空中からの衝撃波を使い分け、攻撃を続けた。
 しばし一行は、レイアによって足止めされた。歪虚達も猛攻し、いつしか乱戦になっていた。

 リューリは気づくと船の縁近くまで追いやられていた。
 レイアはそこに気づいたのか、一気に降下、甲板すれすれを飛行して突撃してくる。
 一歩下がれば海に落ちる。
 攻撃を喰らって、踏みとどまれるかどうか……。

「これこそが我が奉仕! 我等が主に栄光あれ!」

 眼前に迫るレイア。
 剣が一閃され……

 リューリは、海上に身を躍らせた。

「リューリ……!」
 アルトが叫んだ。
 リューリは申し訳なく思う。だが、これも決して、無駄ではない。
「イスト! 後は頼んだよ!」
 相棒のユグディラの名を呼び、ワイバーンに向かって手を伸ばす。
 攻撃を受けた今ならば、間に合う。
「これってすごくない? 自分よりもおっきなものを引っ張れるんだよ、アリみたいに」
 リューリはファントムハンドでワイバーンの翼の付け根を掴んだ。
「しまった! 翼が……」
 レイアは状況に気づくが、遅い。
 あとは落ちるだけだ。

 ザバァッ……
 バッシャーン!
 リューリが海に落ち、続いてワイバーンとレイアが落ちた。

 周辺の歪虚を片付け、アルトが船の縁に駆け寄る。
 水面からリューリが顔を出し、アルトに手を振った。左手には両手斧も握られている。
 ……凄まじい勢いで立ち泳ぎしながら。
 そして岸へと泳いだ。
 レイアの方は何とかワイバーンを引っ張って岸まで泳ごうとしていたが、当然遅い。
「……先に進もう」
 アルトが言った。レイアが動けない今、先に進むのは容易い。だがリューリを助けに向かったのであれば、敵は態勢を立て直すだろう。
 イストはうなづく。他の者も同様だった。

●腐メイド
「お任せ下さい『メイド長』様ぁ! 不肖星野 ハナ(ka5852)、ユグディラ楽園で果てるために頑張りますぅ」
 次に一行の前に現れたのは、メイド服姿で一礼するハナだった。
 動作は恭しいが、表情はヤバい。
「……ハナさんまでっ……?!」
「こいつは相当強力な『強制』の使い手がいると見えるな……」
 ミコトとアルトは、人間のハンターであるはずのハナが立ちはだかった事に流石に驚愕を隠せない。
「あら、どうしましたかぁ皆さん? それよりユグディラは、ユグディラ様はどこですかぁ!?」
「え?」
 ハナは人間の三人には目もくれない。
「オ゛ワァ」
 ユグディラと聞いてキラーがぬっと顔を出した。
「……うーん……どうせならぁ……もっと可愛いほうがぁ……」
「ナ゛ァン」
 キラーは顎をしゃくって海岸を示した。
 そこには、歪虚の上陸を防ぐべく陣形を組んでいるユグディラ自警団の姿があった。
「お……
 ……おお……!
 …………おおおおおおお!

 見渡す限りのユグディラ様ァーッ!!!」
 ハナは喉から搾り出すような声から始めて、最後は黄色い声を上げて海岸へと突っ走っていった。
「……先に進んでいいの?」
「……うん、多分」
 まよいとアルトはハナを見送ってから、先に進むことを決めた。



 私は……
 星野 ハナは……
 楽園へと導いてくれるお方に出会いましたぁ……。

 ここはユグディラ大好き人間を取り込んだ新しい形のテーマパーク。
 驚きでしたぁ……
 まさか、心に思い描いたものが本当にあるなんて!

 なんだか見てて不安になるくらい複雑な形と色合いの仮面を被ったメイド服の方でしたが、そんな事は気にしません。
 大事なのは……いつだって心に描いた理想だけ……
 そう……
『大勢のユグディラの押し競まんじゅうに押しつぶされて昇天できる』ということ!

 それが叶うのなら……

 私は……!



 船上を突っ走る一陣の影。
 上陸しようとする歪虚たちより速い。
「邪魔ですぅ!!!」
 追いつかれた歪虚は五色光符陣を喰らって一瞬で灰になった。
「あはははははははははは………………!」
 修羅の如き笑い声をあげてハナは駆ける。
 邪魔な歪虚を消し去りながら。
 船から跳躍し、砂浜へ。
 ユグディラ達に足止めされている歪虚を一瞬で光の中に消し去る。
 ユグディラ達から見ると、突如光が歪虚達に降り注いで、それが消えると顔面崩壊したハナが立っていたという図になる。
 本能が危険を感じた。
「いやぁ~~~んそんなヤリなんて向けないで下さいぃ」
 ハナはそう言いつつ自警団員の槍をいとも簡単に弾き飛ばした。
 格が違いすぎる。
 猫は、こういう事態を迎えた時……

 逃げる。

「待ってくださいよぉ~~~ウフフフフフフフ!」
 ハナとユグディラ達の、砂浜での追っかけっこが始まった……。

●メイド長の死の教練
 一行はハナが去り、さらに奥にある船へと移った。
 不思議とその船には攻撃してくる歪虚は居なかった。居たのは……
 見る者を不快にさせるデザインの仮面を被った、メイド服の人物。
 人の形をしているのに、到底人とは思えない何か……。
 そして、その後ろにはずらりと並んだ歪虚達。あろうことかみんなメイド服を着ている。

 一行がそれを目視するや否や、高らかに声が響いた。
『整列!』
 一行は唐突に聞こえたその声に従い、その場に一列になって並んで、背筋をぴんと伸ばして立った。
『これよりあなた方を我等が主、ツェデク様に仕えるメイドに相応しくなるよう教育します』
「「「はい、メイド長様!」」」
「「「「「にゃっ!」」」」」
 人もユグディラも一斉に応えた。
『まずはご挨拶の仕方から。おはようございます、ご主人様と言いなさい。貴女からです』
「はいっ! おはようございますっ、ご主人様!」
 ミコトは一歩前に出て言われた通りにした。
『違います。それでは友達にする時の挨拶です。もっと相手を敬いへりくだらなければなりません。次、貴女!』
「おはようございます、ご主人様」
 アルトが整然とした態度で言った。
『違う、それは騎士が上官にする挨拶です。使用人はもっと柔らかく。次は貴女!』
「おはよーございます、ごしゅじんさまー」
 まよいが変なイントネーションで言った。
『違う違う違います、貴女はまともに挨拶と言うものをしたことがないのですか』
 続いて『メイド長』はユグディラ達にも同じようにした。

『大変よろしい』
(((いいんだ……)))
 人間三人は釈然としないものを感じた。
 ニャーとしか言えてないのに。
『次は忠誠心を示すための儀式を行います。ここに寝転がりなさい。そして何があっても動かないように』
 一行は『メイド長』の言葉に従い、甲板に横になった。
 一人一人の横に、剣を持った歪虚が近づいた。

 そして刃先を、横たわった一行の心臓に向けた。



(ああこれでツェデク様に忠誠心を示せるんだ)

(よかった……)

(声だけでも)

(何があっても動かないようにしよう)

(声だけでも出せれば)



 無抵抗な一行の上に、歪虚達は刃を持ち上げる。
 刃は心臓めがけて振り下ろされる――

 ――その寸前に、歌は紡がれた。

 穢れし魂 もたらす災禍
 精霊の加護にて 幻のものとせん

 次の瞬間、アルトが動いた。
 光が翻り、『メイド長』の首が甲板に転がった。
 そして、黒い塵となって消えた。
 他の面々も跳ね起き、歪虚に攻撃を仕掛ける。不意を突かれた歪虚達を倒すのは難しいことではなかった。
 最後の一体がアルトに攻撃を仕掛けようとするが、間に入ったソフィアが阻止し、アルトが倒した。
「ありがとう、ソフィア」
 アルトはそう言ってソフィアの頭を撫でる。
 ソフィアは、震えていた。
「怖いことは嫌だけど、それでもボクと一緒に戦おうとしてくれてるんだね」
 ソフィアは震えながら頷いた。
「ソフィア、もしボクが一緒にいられなかったら、その時は、代わりにみんなを守るんだよ。ソフィアならできるから」

「危なかった……! ぎりぎり理性が残っててなんとか歌えたから良かった……!」
 まよいの幻葬歌は聞く者のマテリアルを活性化させ、異常を和らげる効果がある。
 その効果で抵抗に成功したアルトが『メイド長』を始末したのだ。
「奉仕ってこういう意味だったんですね」
「恐ろしい敵だった……ここまで有無を言わさない強制があるとは……」
 ミコトとアルトは『メイド長』の首が転がった辺りを見る。
 もうなにも残っていない。
「敗因はたった一つ、シンプルな理由だよ……『可愛くないメイドだった』」
 まよいがそれだけ言って、一行は先へと進んだ。

●フザケた野郎のフザケた迷路
 一行はさらに奥に控えている船へと移る。他の船より各段に大きい。これが旗艦と考えられた。
 だが全員が移った瞬間、かれらの立っていた床が抜けた。
「落とし穴……っ?!」
 一行は有無を言わさず落下する。


「いてて……」
「結構落ちたよ?」
 甲板から一番下の船倉まで落ちたという感覚だった。
 ここが何処なのかはわからない。真っ暗だ。

 突然スポットライトがついた。机の上に道化服を着た不細工な人形が乗っているのが照らし出される。
 人形は立って動いていた。
「レディース・アンド・にゃんこたち! おれのホラーシップへようこそ!」
「えい」
 人形は弾け飛んだ。まよいがマジックアローを食らわせたのだ。
「はいはい問答無用DESUKA! でも無駄無駄ァ!」
 声はまだ聞こえていた。
「ただの人形だ……」
 まよいが言った。机の上には破片が残っている。
「自己紹介させてもらうぜ! おれはピラーンだよーん! ツェデク様の道化なのさ!
 エラいんだぜ! 道化は王様の前で何でも言えるからな!
 おれのホラーシップ楽しんでいってくれよ! なんなら住んでくれていいぜ! フォーエバー!」
 これだけ言ってスポットライトは消えた。

 一行が困惑していると部屋が揺れ始めた。
 揺れは激しくなり、立っているのはおろか、中にいる一行は壁にぶつかったり床に跳ねたりさせられる。

 ……やがて揺れが止んだ。

「いたた……部屋全体がシェイカーになったみたいだったな……
 皆さん! 無事ですかっ?!」
 ミコトが呼びかけたのはまだ部屋が暗く、仲間の姿が見えなかったからだ。

 返事は無かった。
「誰もいない……?」
 方向感覚が完全に麻痺していた。知らぬ間に落とし穴か何かで別の場所に移動していてもおかしくはない。
 やがて暗闇に目が慣れてきた。意外と狭い部屋だった。扉が一つだけある。
 ミコトはふらつきながら、その扉をくぐることにした。

「な、何これ?!」
 廊下が派手な装飾に彩られていた。
 原色の光を放ち明滅するランタン……壁に飾られた不気味な仮面……壁にめり込んでピクピクしながら時々笑う歪虚……。いずれも実害はないが、イヤだ。
 扉は二つある。ミコトは一つを選んで開けた。
 それからは似たような調子で廊下とドア、時々ヘンな部屋という風に続いた。ヘンな部屋と言うのは、例の人形が血を流して倒れていたり、卑猥なオブジェが堂々と飾られていたり、バラバラになったゾンビが箱の中に詰められていたりといった悪趣味で実害が無いものから、壁が裏返って忍者のように歪虚が現れたり、床に開いた穴から一人ずつ延々と歪虚が跳び出してきたり(もれなく仮面舞踏会みたいな仮装をしている)といった物理的に疲れる仕掛けもあった。
 その上、閉じた扉が二度と開かなくなったり、部屋の位置が変わったとしか思えなくなったり、なかなか先に進めないでいた。
「あ……ある意味強敵……! メイド長もそうだったけど……
 だけどこんな所で立ち止まってたら、この島のユグディラさん達は!」
 ミコトは不屈の意思で先へと進んだ。

 やがて、ひとつの部屋に辿り着いた……

「おめでとーう! ここがゴールさ!」
 最初と同じように、スポットライトに照らされた不細工な道化人形が机の上に立っていた。
 ただし今回は四体いた。
「おれのホラーシップは楽しんでくれたかな?!」
「最低最悪でした」
「何かを心に残すことが出来たのなら本望さ! よーし、ここまで来たらお互い全力で戦うしかねェーッ!
 ふふ、150万年ぶりに本気を出すとするか……オラワクワクしてきたぞ!」
 そう言って四体の人形は跳んだ。今度はスポットライトがミコトとその周りを照らす。
「かーごーめ かごめー かーごの なーかの とーりーはー」
 そして人形はミコトのまわりを回りながら跳びはねる。
 スキだらけだ。
 ミコトは怒りを込めて剣を振り下ろした。
 人形は粉々になった。
「ロケットパーンチ!」
 ミコトは背後から殴られる。
「くっ……」
「ハズレだよーん!」
 どこからか別の人形が飛んで来て、また四体になった。
「いーつー いーつー でーやーるー」
 そうしてまたミコトを囲んで跳ね回る。
(本物はこの中の一体だけ?)
 ミコトはリジェネレーションで傷を処置しつつ、どれが本物か見定めようとした。
(……みんな同じだ……)
「ねえ早く攻撃してよはぁ~や~くぅ~ロケットパーンチ!」
「きゃっ?!」
 四体が同時に腕を飛ばしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ腕が取れたのに……」
「なんのこと?」
 飛んだはずの腕はいつの間にか元に戻っている。まるで手品だ。
(もう何が起きてもおかしくないけど……)
 ミコトは執念で斬りかかり続けた。
「ああーッ!」
 人形が悲鳴を上げる。何度目か斬って、手応えが違った。
「良かった、ちゃんと本物もいる」
「じゃなきゃゲームにならないからネ!」
「うっ?!」
 本物がそう言いつつ、今度は偽物三体が腕を飛ばしてきた。
「さあさあおれはまだ元気だぞ! 先に倒れるのはどっちかな!」

(さっき斬った痕がない……?)
 ピラーンの体はおろか服にも傷跡は残っていない。
「不思議? 不思議? おれのメイク&修繕技術は歪虚一だよーん」
「隠したの……?」
「ハハハハーハ!」
 やはり見てもわからない。



 ……



「ヒャッハー! 大当たりだぜェ! お目が高い! わたくし参ってしまいます。
 っていうかもーお仕舞いッ! サヨナラBye-bye元気でいてね」
 何度目かの当たりとその三倍の外れを経て、道化のピラーンは絶命した。
「かっこよく倒されてくれない敵って……どうなんですか……」
 ストレスの溜まる戦いだった。

(みんなで戦えていれば大したことのない敵だった。おそらく目的は……戦力の分散……
 急がないと!)

 ミコトは急ぎ、外に出る道を探した。

●クレッシェンドの楽節
 ズズゥゥゥゥン!
 鯨型歪虚の巨体がスピニオンにのしかかる。
 さらに重量を加えようと、別の鯨が上に乗ろうとする。
 スピニオンは鯨を押し退け、その横へと逃れた。そして腰の回転とともにメイスを振り抜き、鯨の巨体を殴り飛ばす。
 それは海まで吹っ飛んだ上に、船の一隻に叩きつけられ、ゆっくりと消えていった。
 スピニオンは別の鯨が体当たりを仕掛けてくるのを避け、蹴りを喰らわせる。
「これで……ラストォォォォォ!!!」
 そしてバランスを崩させた所に、脳天からのメイスを叩きつける。
 鯨は砂浜に叩きつけられる。その一撃は頭蓋をも砕いていた。鯨は動かなくなり、やがて塵となって消えた。
「無敵! 最強! 限界を超えたドリルの力は最高だね!!」
 リアはコクピットの中で拳を振り上げた。

 すべての鯨が消滅し、周囲の敵がいなくなって、リアはコクピットを開いた。
 強い、暑い潮風が吹き込んでくる。

「船の敵は任せよう。
 その間、上陸しようとする歪虚の相手でもしているさ」
 再びコクピットを閉め、周囲を見渡す。

 逃げるユグディラと追うハナ、そして進路上に居合わせて光に焼かれる歪虚の姿が目に入った。

「どういう状況……?」



 少し時を遡る。
 ホラーシップに入った面々は皆バラバラだった。出口がいくつかあり、何人かは合流することなく外に出ることになった。

 一番早く出たのはクロヒョウとキラー。迷路のような船内で合流し、出口にたどり着いた。
 甲板に出た二人を待ち受けていたのは、二人を見下す、傲岸不遜な眼差しだった。
「これはこれは……! 仲間はご一緒ではないのかな」
 マントを羽織った初老の男性。そして近づくだけで傷ついてしまいそうな雰囲気。
 この男がツェデクだった。
 さらに周りには、黒い甲冑に身を包んだ歪虚が控えている。

 クロヒョウとキラーはくぐってきた扉を開いた。このまま戦うのは得策ではないと考えたのだ。
 しかし、扉の向こうは壁だった。
「私の道化がお気に召さず、早々に退出したか。あれの冗談はつまらんからな。だが安心しろ、もう会うことはない」

「お前達はここで死ぬのだから!」

 ツェデクは剣を抜いた。両手で細身の剣を使うスタイルだ。一気に距離を詰め、斬りかかっていく。
 クロヒョウとキラーは左右に別れ、激しく打ち合った。
 だが力の差は圧倒的だ。到底正面から打ち合える相手ではない。そう踏んだ二人は左右に別れ、距離を取る。
 だが周囲を歪虚に固められ思うように移動できない。
「ぬぅん!」
 ツェデクは左拳をキラーに向ける。氷柱が形成され、キラーの身体に突き刺さった。
「止めだ、猫ッ!」
 ツェデクの配下が剣を振り上げ、キラーに振り下ろそうとする。
 回避が間に合わない……

 だが、その剣がキラーに届くことはなかった。
 ソフィアが、割って入っていたからだ。
「……!」
 キラー、クロヒョウ共に声をあげる。
 だがソフィアはそのまま剣を抜き、歪虚の首を斬り落とした。
 鎧で受けたため、ソフィアは傷を負っていない。
「ふん、猫が一匹増えたところで……」
 ツェデクはソフィアに目標を定める。
 ソフィアは……

 逃げたかった。

 ユグディラの本能がそうさせた。特に隣にアルトがいない時は臆病なのだ。

 だが――

(友達や仲間を守れるようになりたかったんだろう?)

(剣を持って、鎧を着て、一生懸命鍛錬してボクを真似たりしているのを見てるとわかったよ)

(悪者を退治するのも騎士のニャイトの仕事だよ)

 思い出される、アルトの言葉。
 認めてくれた。騎士だと言ってくれた。

 だから。

 ソフィアはツェデクに向き直り、
 ――睨みつける。

 なぜなら、アルトなら絶対こうするからだ。

「気に食わぬな……
 猫ごときがそのような目でこのツェデクを見るかッ!」

(猫ごとき、だって?)

 突如優しげなメロディが流れ、場を支配した。
 いつの間にか敵の後方に現れたイストによるものだ。

『猫達の挽歌』

 ツェデクとその周りにいた歪虚達は、攻撃に移ることができなくなった。

(だったらその猫ごときの力、見せてやろう)

 いつの間にかトラオムがクロヒョウの隣に現れ、視線を送った。
 手にはリュートが収まっている。

『森の宴の狂詩曲』

 トラオムの曲はクロヒョウに力を与える。クロヒョウは飛び出し、軽やかかつ不規則な足捌きで翻弄しつつ、槍を繰り出した。

「ぐがあぁぁッ……!」
 槍は、ツェデクの左肩を貫いた。

 続きざまにキラーが槍を繰り出し、ソフィアも斬りかかった。
 ツェデクは右腕の剣でこれを捌くが、反撃には移れないでいる。
「殺せ!」
 ツェデクは挽歌の効果を受けていない配下に向けて命じる。
 配下は武器を構え、クロヒョウ達に襲いかかろうとした――

 だが、その時突如として発生した衝撃波が、歪虚達を襲った。

「ここから先に進みたければこの私を倒してから行け!!」
 ワイバーンが、歪虚達からユグディラ達を守るように降下してくる。
 騎乗しているのは勿論レイアだ。
「貴様は……」
「ふっ……このまま帰ったのでは、格好悪いまま記録に残ってしまうからな!」

 さらには反対側では、荒ぶる両手斧が歪虚の血を求めていた。
「ユグディラの敵にはぐーぱんち!
 リューリ・ハルマでっす!」
 両手斧の刃先をゴスンと床に落とし、片手だけで敬礼のポーズをとる。
「雑魚は私たちに任せてね!」

「くっくく……ハァッハッハッハ!
 こんな猫どもがこの私の相手だと?!
 思い上がるな人間ども!」
 攻撃的に呵々大笑するツェデク。
 しかし、挽歌の効果は未だ続いている今、攻撃に移ることはできない。
 クロヒョウとキラー、そしてソフィアは今が好機とばかりに攻めあげた。
 しかし格上相手だけに、決定打には及ばないでいた。

 やがて挽歌が止んだ。それほど長く続けられる曲ではない。
 歪虚達は攻撃を再開し、クロヒョウ達はやや押され気味となった。
「さっきまでの勢いはどうした?」
 ツェデクが嗜虐的な笑みを浮かべる。
 それに呼応するように、配下の歪虚達も攻撃を続けてくる。
 だが、突如飛来した五条の光が歪虚を射抜いた。
「あー疲れた。あの迷路、趣味悪過ぎ!」
 どこへ出たのか、船室の二階、ベランダにまよいがいた。
「なんで私だけこんな所に出るの!
 いいわ、ここから撃ちまくるから!」
 容赦なくマジックアローを連発し、次々に歪虚を倒していく。
 数を頼みにしていた歪虚達は、優勢ではなくなった。
 やがてレイアとリューリはまよいの援護射撃を受け、ツェデクの周りの歪虚をすべて倒していた。
「これでお仕舞いだよ!」
「残るはお前だけだ」
 リューリが、レイアがその事実を突きつける。
 対し、ツェデクは吠えた。
「ふ……勘違いするな!
 こやつら如きただの雑用。貴様ら全員私一人で葬り去るなど造作もないわ!」

「いいや、おまえの相手はユグディラ達だけだ」
 凛々しい声が響いた。
 アルトがその姿を現していた。
「ほう、何故だ?」
「何故ならこのユグディラ達は、おまえより遥かに強いからだ」

「……ほざいたな人間!
 ならば見るがいい、こいつらが惨たらしく死に絶える様を!」
 その時ツェデクの肉体が変異した。腕がさらに四本生え、顔の両側に二つ顔が現れ、三面六臂の姿になった。
 さらに、剣を持っていない腕からはマテリアルの刃が形成されている。
「死ねぇぇぇい!」
 ツェデクは刃を広げるように構え、襲いかかった。

●ユグディラ達の戦い
(こいつは確かに強い。
 まともに戦えば勝てないだろう)

(だが、俺達を信じてくれる人間の友のために、負けるわけにはいかない)

(そして――俺達はユグディラだ)

(負けない戦いは得意とする所だ)

 矢面に立つのはクロヒョウ。無理に攻撃にはいかず、回避に徹する。
 すべて回避しきることはできない。だが、ユグディラはもとより『逃げ』を得意とする種族。集中すればかなり避けられる。
 負った傷は、イスト、トラオム、ソフィアが祈りと森の午睡の前奏曲で癒やす。
 そして足運びもまたユグディラの得意分野だ。死角からキラーが攻撃を加えていく。
 キラーが狙われた時はクロヒョウが役割を交代する。
 狂詩曲は使わない。ツェデクは『懲罰』持ちだ。
 それ故にダメージは敢えて抑え目に。傷を負えば回避と回復に専念する。
 やがてツェデクは懲罰を使わなくなる。
 だが罠の可能性もある。まだ狂詩曲は使わない。

 やがてユグディラ達の回復スキルも尽きた。
 ツェデクはまだ立っている。

「ここで纏めて終わりにしてくれるわ!」
 ツェデクは全ての手を突き出した。
 吹雪が発生し、ユグディラ達全員を覆った。

(本当にいいのか……?)
 レイアはなおも動かないアルトを見る。彼女の意志を尊重したからだ。
 アルトは険しい表情で、戦いの行方を見守っている。

「イスト、信じてるから……」
「トラオム、負けないよね?」
 リューリとまよいも、それぞれの相方を信じた。

 吹雪が止んだ。
 じっと耐えていたクロヒョウが動く。
 続いてキラー、他の全員も無事だ。

 トラオムが、リュートを爪弾く。
 最後の狂詩曲だ。

 飛び出したのはキラー。
「グワオオォォーッ!」
 一気に相手の懐に飛び込んでの突き。
 それは過たずにツェデクの身を貫いた。

 ツェデクが血を吹く。
 だが、その瞬間、キラーが苦悶の表情を浮かべ、倒れた。

 懲罰を残していたのだ。

 まずは一人。
 あとは容易い。

 だが、そこに、

 リュートの音――

 続けて、風が鳴った。
 僅かに遅れ、胸を貫く音。
 クロヒョウの槍だ。

 その槍には狂詩曲の力が乗っている。
 ソフィアが奏でたものだ。

「ばか……な……
 猫……ごときに……」

 ツェデクは、槍に貫かれたまま黒い塵となって消え失せた。



●ユグディラ達の楽園
「終わっていましたか……」
 ミコトが甲板に出たのは、ユグディラ達が勝利した瞬間だった。
 倒れたキラーを皆、気遣っていたが、命に別状はなかった。
 見た目通りのタフさだ。

 そして一行は帰還する。勝利を得て――



 柔らかな毛並みと愛らしい眼差し。
 曲線を描いた美しいライン。
 耳に心地いい鳴き声。
 気まぐれと温もり。

 猫は僕達を魅了して離さない……。

「来て良かった!」
 リューリはご満悦だった。
 島を救った恩人としてたくさんのユグディラに囲まれ、感謝されて過ごすことができるからだ。
「皆も無事だったし、言うこと無しだね」
 アルトも同じくユグディラ天国を満喫していた。邪魔は入ったものの、ユグディラとの絆も深まったに違いない。

 二人の相方、ソフィアとイストの仲も深まった。二人は今島のユグディラ達と一緒に楽しく騒いでいる。
 共にユグディラの島をユグディラ達で守ったという事実が、かれらの自信になり、絆となった。

「ハナはいけない子なんですぅ~! みんなでてちてちさわさわぎゅむぎゅむのユグディラの刑に処して下さいぃ~!」
 ハナは何か扱いが違った。一応、恩人として数えられてはいるのだが……
 それでも彼女の望みはなんやかんやあってこの島で叶えられたのだった。おおむね。
「この人、最初から強制かかってなかったんですね……」
「思い込みが強制に勝った珍しいパターン、なんだろう」
 ミコトとレイアはそんなハナを眺める。
 色んな人がいるものだ。

「どうだ、僕のスピニオンOver-Zは?」
 リアはユグディラ達に自分の機体を見せていた。好奇心旺盛なユグディラ達は揃って見上げたり、色んな角度から眺めたりしている。
「存分に見てくれていいよ!」
 得意満面のリアだったが、心配なこともあった。
(後で整備担当に怒られるな……依頼での運用じゃないのにこんなに傷ついてたら……)

「どう? トラオムは役に立ったでしょ。これからも一緒に戦うのよ。この私の相方としてね!」
 まよいはクロヒョウとキラーにトラオムを自慢気に紹介していた。
 トラオムはというと、その前にいつもまよいに振り回されて戸惑わされるとクロヒョウとキラーに愚痴をこぼしていたのだが……

(だが、お前は誇りをもっていい)

 クロヒョウのトラオムへの気持ちを言葉にすると、こんな感じだった。
 そして、今日共に戦った全ての仲間に対して、こう思った。

(ユグディラと人の戦友達に――乾杯)

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    エルフ|20才|女性|霊闘士
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    イスト
    イスト(ka0502unit002
    ユニット|幻獣
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    トラオム
    トラオム(ka1328unit001
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ソフィア
    ソフィア(ka3109unit002
    ユニット|幻獣
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    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    スピニオンオーバーゼータ
    スピニオンOver-Z(ka3483unit007
    ユニット|CAM
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 乙女の護り
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    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/08/10 19:07:02
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仁川 リア(ka3483
人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/08/10 19:11:54