ゲスト
(ka0000)
【空蒼】リアルブルー火消し紀行
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2018/08/19 22:00
- 完成日
- 2018/08/23 19:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
CAM、宇宙戦艦、強化人間、そして異世界からの救援。
絶滅すら覚悟していた人類はVOIDに対抗する術を手に入れたのだ!
●無茶振り
「だからといって有利になった訳ではないんですよねぇ」
リアルブルーの崑崙基地経由で、大量の救援要請が届いている。
無視しても戦線が崩壊したりはしないが小隊や中隊規模で被害が増える。
今日だけでいくつも届いていた。
「ここからここまで映して下さい」
職員の要請に司書パルムが応える。
半透明だった浮遊ディスプレイで動画が再生される。
眼球を持った虫とクラゲを混ぜて人の形に固めたような、地球連合宇宙軍では擬人型第三種と呼称されている中型歪虚だ。
2本の足に2本の腕が巧みに振るわれる。
最新の戦車を潰せる威力のある砲撃が躱される。腕から伸びたビームソードによりトーチカごと火砲が破壊される。
「CAMっぽい歪虚がリアルブルーの各地で暴れています」
古強者のCAM中隊が、意識を強く保った強化人間CAM小隊が、それぞれ別の戦域で擬人型第三種を押さえ込んでいた。
異形でありながら均整がとれた巨体が唐突に消える。
ほんの10メートルの瞬間移動だ。
ここにいるハンターは認識できているし、現場にいたら勘か経験で反応できるだろう。しかし連合宇宙軍でそこまでできる者はほとんどいない。
中隊や小隊が崩れていく。
CAMサイズの敵を中破に追い込むこともできず、リアルブルーの人類は戦線を下げて守りを固めるしかなかった。
「今回の依頼はこれの対処です」
8対1なら死を覚悟せずに倒せる。
依頼の難易度は通常かなと思ったハンターの前で、新たなディスプレイが現れ別の擬人型第三種を映し出した。
1つ2つではない。
大量だ。
「可能なら1人3体くらい倒して下さい」
オフィス職員は正気のままとんでもないことを言い出した。
「1人を連続転移させるのは手続きとかが大変なんですけど、1人ずつ送りだすのは難しくないんです」
ハンターを不必要な危険に晒すのを避けるために普通はしないだけだ。
明らかで普通の精神状態でない職員が、にっこり笑ってリストを示す。
重装擬人型第三種3体。
軽装擬人型第三種3体。
練度の極めて高い通常型擬人型第三種2体。
どれも、歪虚側の火消し役として活動中の難敵だ。
「この3つは特に強いので2人以上で向かうのをお勧めします」
リアルブルーの最新兵器と砲戦可能な両手のビーム。
ハンターのように銃弾を避ける脚。
ハンターのように装甲を切り裂くビームソード。
どう考えても8人以上推奨の化物だ。
「堅実に行きたい方は普通の擬人型第三種をお勧めします。接敵までは現地の軍が御膳立てしてくれますので」
擬人型第三種と1体ずつ戦えるらしい。
撤退を希望すれば現地軍が援護してくれるとはいえ、簡単な戦いにはなりそうにない。
「そういうわけですので、腕に自信がある方は是非参加して下さい!」
微笑む職員は、血色がよいのに死に神じみていた。
絶滅すら覚悟していた人類はVOIDに対抗する術を手に入れたのだ!
●無茶振り
「だからといって有利になった訳ではないんですよねぇ」
リアルブルーの崑崙基地経由で、大量の救援要請が届いている。
無視しても戦線が崩壊したりはしないが小隊や中隊規模で被害が増える。
今日だけでいくつも届いていた。
「ここからここまで映して下さい」
職員の要請に司書パルムが応える。
半透明だった浮遊ディスプレイで動画が再生される。
眼球を持った虫とクラゲを混ぜて人の形に固めたような、地球連合宇宙軍では擬人型第三種と呼称されている中型歪虚だ。
2本の足に2本の腕が巧みに振るわれる。
最新の戦車を潰せる威力のある砲撃が躱される。腕から伸びたビームソードによりトーチカごと火砲が破壊される。
「CAMっぽい歪虚がリアルブルーの各地で暴れています」
古強者のCAM中隊が、意識を強く保った強化人間CAM小隊が、それぞれ別の戦域で擬人型第三種を押さえ込んでいた。
異形でありながら均整がとれた巨体が唐突に消える。
ほんの10メートルの瞬間移動だ。
ここにいるハンターは認識できているし、現場にいたら勘か経験で反応できるだろう。しかし連合宇宙軍でそこまでできる者はほとんどいない。
中隊や小隊が崩れていく。
CAMサイズの敵を中破に追い込むこともできず、リアルブルーの人類は戦線を下げて守りを固めるしかなかった。
「今回の依頼はこれの対処です」
8対1なら死を覚悟せずに倒せる。
依頼の難易度は通常かなと思ったハンターの前で、新たなディスプレイが現れ別の擬人型第三種を映し出した。
1つ2つではない。
大量だ。
「可能なら1人3体くらい倒して下さい」
オフィス職員は正気のままとんでもないことを言い出した。
「1人を連続転移させるのは手続きとかが大変なんですけど、1人ずつ送りだすのは難しくないんです」
ハンターを不必要な危険に晒すのを避けるために普通はしないだけだ。
明らかで普通の精神状態でない職員が、にっこり笑ってリストを示す。
重装擬人型第三種3体。
軽装擬人型第三種3体。
練度の極めて高い通常型擬人型第三種2体。
どれも、歪虚側の火消し役として活動中の難敵だ。
「この3つは特に強いので2人以上で向かうのをお勧めします」
リアルブルーの最新兵器と砲戦可能な両手のビーム。
ハンターのように銃弾を避ける脚。
ハンターのように装甲を切り裂くビームソード。
どう考えても8人以上推奨の化物だ。
「堅実に行きたい方は普通の擬人型第三種をお勧めします。接敵までは現地の軍が御膳立てしてくれますので」
擬人型第三種と1体ずつ戦えるらしい。
撤退を希望すれば現地軍が援護してくれるとはいえ、簡単な戦いにはなりそうにない。
「そういうわけですので、腕に自信がある方は是非参加して下さい!」
微笑む職員は、血色がよいのに死に神じみていた。
リプレイ本文
●イギリス某所
将官から一兵卒に至るまでアーサー・ホーガン(ka0471)から目が離せなかった。
巨大な剣がアーサーと彼を乗せた幻獣を襲う。
刃は負マテリアル製。振るわれる速度は銃弾並だ。
当たれば装甲ごと切り裂かれる。
軍人達では躱すことも反応することもできない。
「落ち着いていけ」
アーサーの声に、ゴルラゴンと名付けられたイェジドが尻尾を振って不満を示す。
刃の先端を視認した上で加速を開始。
異形の装甲を掠めるように跳び、擬人型第三種……CAM型狂気VOIDの真後ろへぴたりと着地した。
どうだ、という感情が鞍越しに感じられる。
アーサーは口の端を微かに釣り上げ、相棒の献身に報いるためにも攻撃に集中した。
最初から手綱を使ってはいない。
強靱な足腰でバランスを保ち、ロングソード級の魔剣とグレートソード級の魔剣を精妙に操りCAMもどきのふくらはぎに切りつける。
VOIDの反応も恐ろしく早い。
太い腕が脚部と魔剣の間に差し込まれ、見た目以上に強靱な装甲によりロングソード級が受け流された。
戦場は静かだ。
神話じみた巨人と人との戦いに皆魅入られている。
アーサーは剣を引き抜く。
ふくらはぎに深い穴を1つ開けたが手応えは薄い。
1体でも戦線の火消し役をこなせるだけのことはあり、このVOIDは装甲も耐久力も非常に高い。
アーサーの口から自然と笑い声が零れる。
凄腕のボクサー以上の動きから切り込んでくるVOIDもそれが巻き起こす強風も、今は心地よく感じられる。
「こういう純粋に個人としての力を試せる機会ってのはほとんどねぇからな」
VOIDの全てを見切る。
ゴルラゴンにタイミングを伝える。
4つ脚が再加速をした瞬間、再度魔剣2本による同時攻撃を仕掛けた。
魔剣「ストームレイン」が弾かれ、魔剣「バルムンク」が縄跳びに似た跳躍で回避される。
銀の瞳が微かに細められ、アーサーの気迫が爆発的に膨れあがった。
3つめの斬撃が生じる。
オーラの刀身が真っ直ぐに上へ伸びる。
宙に浮き回避の術を持たないVOIDに、無色の刃が腰から胸へ貫通した。
完全にバランスを崩したVOIDが地面に激突。
戦場全体に音が戻る。激突と喜びの音が重なり合った。
「挨拶が後れてすまないな。アーサー・ホーガン。連れはゴルラゴンだ」
次の目標の誘導を依頼してから、各部隊と挨拶を交わしていく。
強化人間だろうが非強化人間だろうが関係なく、上げも下げもせず適切かつ妥当な会話をこなす。
ごく短い時間ではあるが、軍と市民に対する強力なメッセージになっている。
「後1体は倒したいがな」
敵は強く硬く、1戦終わった時点でスキルは半分を切っていた。
●ハンター的正攻法
強力な火器と兵器と軍人が、高度な情報網で結びつけられ1つの意思のもとVOIDに対抗する。
それでも届かない。
クリムゾンウェストで生き抜いてきたハンターと比べると、対VOIDの経験が薄すぎた。
「あちこちで戦っていれば、不利な戦線の一つや二つ抱え込むのは分かる」
オファニムに近いCAMの中、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が重い息を吐いていた。
友軍の数が多い。
リアルブルーの人口と工業力を示す巨大な軍だ。
「あちこちで戦っていれば、不利な戦線の一つや二つ抱え込むのは分かる」
主力戦車級の装甲とCAMの機敏さを兼ね備えたVOIDが突入。
塹壕も装甲車も為す術無く破壊され、重傷者を抱えた軍人達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
その逃げっぷりは堂に入っていて人的な被害は意外なほど少なかった。
「その対応をハンターにやらせる、それも分かる。だが」
「これ戦力の逐次投入ってやつじゃねぇのか。やっちゃいけないって教わったんだが」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)があっさりと結論を口にした。
「いやー今度の担当はすごい事考えるなぁ」
グリフォンの背でグリムバルドがうなずく。
「この面子見てると別に間違っていないような気がするから不思議だぜ。それともハンターが常識外れなのかね……アストラはどっちだと思う?」
俺に聞くなという雰囲気でグリフォンが息を吐き、アウレールとグリムバルドが同時に通信機へ手を伸ばした。
「VOIDが動く」
「小型浮遊VOIDの足止めをよろしく」
軍への依頼はそれで終わりだ。
逃げる軍人を追い抜き力士じみた体格のVOIDが急接近。
友軍も迎撃するが、銃弾は効かず砲弾は狙いの修正が追いつかない。
「私達は魔法の杖と違うぞ。まぁいい、報酬上乗せだ」
尊大にすら聞こえる口調でつぶやき意識を切り替える。
PzI-3B ルー・ルツキンとの距離が限りなく0へ近づき、操作を意識しなくても思い通りに動くようになる。
機体が差し出した計算結果をもとに姿勢を修正。
肩部大型砲を狙撃銃のように扱い、ハンター並に躱せる筈の力士体型に見事当てて見せる。
「効きはしたが」
力士体型が右に避けても左に避けても関係無い。
予想進路上に砲弾を置くつもりで引き金を引き、触手が密集した異形の装甲を削る。
巨大な眼球合計10以上がアウレールを凝視する。
1軍を翻弄した3体のVOIDが、ただ1人アウレールだけに殺意を向ける。
「良い設計だ。理に敵っている」
敵は3体。
アウレールは1体にのみ攻撃を集中しているのに、残りの2体も薄汚れ傷ついている。
友軍の援護の結果ではない。
滅多に当てられないし、同行のハンターは強いが射程はそこまで長くない。
「自壊しながら戦う短期戦専用機か。小回りの利かない直線番長にしなかったのは褒めてやる」
機体の優先度設定を変更。
悲鳴をあげる計算機部分への負荷を減らして、今度は砲関連を酷使する。
「相手が私でなければ通用したかもしれんな」
50メートルの距離にまで忍び寄っていた浮遊VOIDを、連合宇宙軍では非実用的と評されることすらあるマルチロックオンで2体同時に潰した。
「お待ちかねの初仕事だ、てばさき」
大きなフクロウ型幻獣が決めポーズをとる。
素晴らしく高度な魔法結界が東條 奏多(ka6425)を中心に展開されても、3体の極太CAM型VOIDは気付きはしても気にもしない。
この距離ならアウレールにも他の2人のハンターにも打ち勝てると思い込んでいた。
分厚い手の平が3対6個広げられ、恐るべき威力の籠もったビームが連続で放たれる。
「火消し係とは、大層な奴らが出てきたもんだ」
奏多は動かない。
ビームが見当違いの方向へ逸れ、何もない地面へ高濃度負マテリアルをまき散らす。
魔法結界が効いていた。
「大規模な作戦も終わって、形勢もこっちに傾いてる状況でこういう奴らは出てきてほしくないもんだ。それ以前に、他人様の故郷で暴れるような奴に、手心加える道理はないよな?」
絶火刀「シャイターン」を鞘か引き抜く。
その存在感は強烈で秘められた威力も容易に想像でき、3体のVOIDは当たる気のしない砲戦を行うか絶望的な接近戦を挑むか大いに悩む。
「よし、じゃあそろそろ仕事を始めるか。戦いはちょいと厳しそうだが、頼りになる仲間はベテラン揃いだから何とかなるだろう。逆に足を引っ張らないようにしないとな」
そんなつぶやきを残してグリムバルドが本格参戦した。
やることは単純だ。
機導師の基本スキルともいえるデルタレイで、3つで1セットの光を1体の力士体型に集中して浴びせ続けるだけ。
複数の強化済みデルタレイを活性化しているが威力の差はほとんどない。
成長したグリムバルドの魔法力は、多少の強化など誤差になってしまうほどに強力なのだ。
「おっと」
使用スキルを切り替え距離をとる。
60メートル近い距離をとった上で、じりじりと後退しながら延々光の線を撃ち込む。
分厚いだけでなく強靱な装甲に無数の穴が開く。
血と見紛う濃さの負マテリアルが噴出。
分厚い装甲を汚すが一瞬で消え去り、力を失った本体が膝から崩れ落ちた。
「おおっと」
残る2体が跳んだ。
当たればどんな装甲も切り裂けそうなビームソードが、大重量と高速を兼ね備えた巨体から繰り出される。
奏多の結界は少しだけ遠い。
グリフォンは1撃は躱すが続く見事な一撃を回避しきれない。そのまま頭を破壊されてしまうかと思われた。
「戦場ではこれがあるから怖いんだ」
グリムバルドが胸をなで下ろす。
グリフォンは微かに顔を強ばらせている。
事前にアンチボディを使っていなければ、確実に頭蓋が割れ中身が零れていた。
絶火刀「シャイターン」が音も残さず大気を切り裂く。
不用意に前に出てしまったCAM型VOIDが胸を切り裂かれ負マテリアルを流す。
VOIDは恐怖した。
奏多の剣には耐えられない。
逃げようとしても、徒歩なのに異様に速度があって逃げ切れない。
パニックに陥りはしないが意識の大部分を奏多に向けるようになり、軍と他のハンターに対する警戒が薄くなる。
複数の弾がVOIDを襲う。
自損以外のダメージのない個体は易々と躱し、しかし奏多からダメージを受けた巨体は回避を試みることもできずに前につんのめる。
「隙が無いな」
アウレールが感情を込めずに情報を伝える。
「敵の急所は我々並に小さい。狙い撃ち可能スキルがないなら急所狙いは非推奨だ」
連合宇宙軍へ突撃を繰り返しても生き残ってきた個体だ。
背部にも十分な装甲があり生半可な攻撃では倒せない。
つまり、有効な攻撃を当てればよいだけだ。
敵機が退却に移ろうとするタイミングでアウレールが攻撃を行い、奏多とVOIDとの距離を一定以上には決してさせない。
アクセルオーバーを使い尽くした奏多は、オファニムより2まわりは大柄なVOIDの前後を手際よく往復している。
「文句垂れるなよ?デカい図体でちんたらしてる方が悪い」
全力で駆けながらの攻撃である。
相手が人間サイズなら通常攻撃とあまり変わらないが、相手がCAMサイズなら3連撃をたたき込める。
3連撃すなわち回避が3分の1。
ご自慢の重装甲も、アクセルオーバー無しでも強力な奏多の斬撃には有効ではない。
「っ」
ビームソードが奏多を掠める。
回避だけでなく受けも防御も優れた彼でも無視できない威力がある。万一てばさきに当たれば一瞬で焼き鳥だ。
「てばさきよくやった。下がれ」
既に幻影魔法による結界は効果を無くしている。
慌てて飛び去るポロウの撤退を援護するため、友軍の陣地から砲撃が開始される。。
「お前らにやりたいことは一切できると思うなよ?」
アサルトディスタンスが消える直前、最後の三連撃が擬人型第三種を三枚に下ろした。
2分後。
グリムバルドは困惑していた。
最初3体いたVOIDは1体しか生き残っていない。
なのに攻めきれない。
アウレールの超射程射撃も、奏多の強烈な斬撃も、10中1前後しか当たらない。
唯一まともに効いているのがデルタレイだ。
回避を無力にする3連同時攻撃は未だ途切れず、力士体型のVOIDをグロ画像にしか見えない穴だらけへ変える。
三種用意したデルタレイの1つが底をつく。
残りデルタレイは合計6発。
倒しきれるかどうか不安になる数だ。
アウレール機のガンポッドが弾幕を張る。
人間サイズのVOIDが浮力を失い地面に落ちる。
「残り2発かぁ」
強烈な手応え。
線よりも細い装甲の隙間へ光が消えて、装甲による衰えのないデルタレイがVOIDの中を貫き砕く。
噴き出す負マテリアルも残っていないVOIDが、立ったまま事切れ足先から消えていった。
●あるゴーレムの死と再生
はるばる世界を渡ってきた刻令ゴーレムに、大剣状ビームソードが深々と突き刺さった。
その3分前。
八原 篝(ka3104)が将官級の参謀と膝をつき合わせていた。
「よろしく。頼りにさせてもらうわね」
「こちらこそ」
未成年と超エリートの初老という組み合わせであり、覚醒者と非覚醒者という組み合わせでもある。
両者はあらゆる面で異なり、しかしVOIDに対する危機感だけは共有できていた。
「仕掛けるのはこちらの判断でよろしいか」
「もちろん。地球の職業軍人の力、期待しているわ」
戦場で殺気だった軍人達に見られているのに揺れすらしない。
たった1人しかいない援軍に失望していた参謀が、これならいけるかもしれないと感じた。
その後、砲戦で負けたVOIDが走って近づき殴り倒して最初の状況になる。
強靱な装甲に6本の矢が突き刺さってはいるが、この程度で倒れるほど擬人型第三種は弱くない。
「あのデカブツが戦術を解しているのか反射的に動いているだけなのか、判断し辛いわね」
引き絞られた矢が火属性のマテリアルを纏い、それを支える機械弓が篝の呼吸にあわせて静かに光る。
光刃でゴーレムを引き裂く寸前だったVOIDが慌てて振り返る。
ゴーレムは力なく地面に転がり、CAM型のVOIDは己の死を目にすることになる。
「敵はデカブツ1体ずつ。味方を巻き込む心配も、周りを気にする必要もない。これで負けるようならわたしはとっくに死んでいるわ」
大量のマテリアルがたった1本の矢に集まる。
それは一瞬にも満たない時間で音速を突破。
分厚い空気の層も強固なはずのVOID装甲も軽々抜いて反対側に抜けた。
負マテリアルで出来たビームソードが消える。
CAM型VOIDの腕から、脚から、全身から力が抜け壊れた人形を思わせる動きで崩れ落ちる。
「いけけるわね」
ゴーレムの瞳に光が灯り、不屈の闘志で起き上がった。
2体目。
「わたしの弓と、あなたの砲の連携を見せるときよ。最大火力で片っ端からブッ潰すわよ!」
友軍作のバリケードの陰からゴーレムが連射する。
簡易自己修復では直りきっていないので、かなり危険だが今回はVOIDが篝に向かった。
生身の人間対CAMサイズのVOIDの戦闘は非常に危険だ。
とはいえ速度に倍以上の差があり、しかも早い側が戦慣れしていると無残なほどに一方的な展開になるのだ。
「今回は私が囮ね」
サジタリウスという切り札を使うまでもなく、ゴーレムの砲撃に2体目が砕かれた。
3体目。
「無理はせずに」
今度もゴーレムが狙われた。
危険をおかす価値はあっても勝利のため死ぬ意味はないので素直に後退。
ゴーレム援護は友軍に任せ、篝は手札を惜しまず気ってCAMもどきを削り切る。
4体目の途中でスキルが切れ、1つの金星を友軍に進呈することになった。
●ハンター的正攻法その2
「マジかよ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)は軽く口笛を吹く。
現地軍は誠実で嘘を言っていない。
CAMサイズのVOIDが2つに小型浮遊VOIDが100と70。
ただ、CAMもどきが100と70を完全に指揮下に置いていることに気付けなかっただけだ。
「おっさん聞こえるか。アレはやべぇ。砲身が裂けるまで撃って雑魚減らししてくれ」
「了解。頑丈だから裂けないぞ?」
刻令ゴーレムよりも大火力長射程の砲撃が始まった。
「当たらねぇな」
「君達を基準に考えないでくれ。これでもすごく当ててるんだぞ!」
VOIDのせいで通信が乱れ場合によって土地ごと汚染されている状況ではかなりの命中率だ。
「そうは言うがな」
風の音とワイバーンの羽の音が大きい。
自然と声も大きく、怒鳴り合うような音量になる。
「砲弾にも限りがあるんだろ?」
ワイバーンが光の雨を降らす。
CAMもどきへの進路を塞ぐ位置に展開していた小型8体のうち7体が穴だらけになり消滅。
砲兵の1個中隊でようやく可能な戦果をあげたドラゴンは、特に誇る様子もなく飛行を続けている。
「在庫が無くなる前に仕留めてくれたまえ。本当に頼むぞ」
「応、仕留めたら美味い煙草でも奢ってくれ」
抜く手もみせず魔杖を振るう。
負マテリアルのビームと数十の闇刃が交錯。
ビームはワイバーンに躱され、数十の刃がCAMもどきと直衛を襲う。
目玉が弾けて浮遊VOIDが消える。
刃が2本CAMもどきに突き刺さったが、手応えは予想以上に薄い。
「効かねェか」
装甲も分厚いがそれ以上に抵抗力が強い。
移動を封じるBSが完全に弾かれていた。
この戦いが始まる直前。
岩井崎 メル(ka0520)は普段とは異なる緊張感の中にいた。
彼女が見上げていたのはよくぞここまでと言いたくなるほどに改造を施されたオファニムだ。
回避能力を維持したまま強大な出力を得るため、拡張性をほぼ使い切った尖った機体である。
「理論上は既存機体より大幅な火力が出せるはずだけど……。私自身、パイロット適性があるかどうかは分からないし実戦でどこまで出来るか」
整備兵は太鼓判を押していたが彼等にはVOIDとの戦闘経験はない。
「私も、このアカツキも強くならないといけないんだっ」
機体に乗り込み、ある種胸を借りるつもりで擬人型第三種に攻撃を仕掛けたのだった。
「うー」
思ったように当たらない。
いや確実に殺せてはいるのだ。
小型マテリアルライフルからビームを放つたびに小型浮遊VOIDが大破する。
そう。大破でしかない。
たまに一撃で落ちることもあるがだいた紙一重で生き延びる。
しかも、最初に十数の小型を落とされたことに気付いたCAMもどきが小型VOIDを散開させ、メルの攻撃の効率を極端に下げてしまった。
腹いせに混じりにCAMもどきを狙ってみてもかすりすらしない。
「手も足もでないと腹が立つよ!」
手も足も出ていないのはCAMもどきも同じだ。
高位歪虚なら当たり前に持っている広範囲攻撃術も複数回連続攻撃手段がないので、アカツキと名付けられたオファニムにかすりもしない。
もちろんたまにが紛れ当たりが発生する。
そして、単発の紛れ当たりで倒れるほどアカツキは弱くない。
「それが予定通りの展開でもね」
最後のセリフは、意図して音にはしなかった。
ガントレッドで覆われた細い指が、龍鉱石製の弾丸を星神器に納める。
形は大型の魔導銃。
だがそれを単なる魔導銃と勘違いする者はいない。
大精霊の力が残滓でも断片でもなく明確に込められていて凄まじい存在感を放っている。
「紅鳴、アクティブ」
大精霊の助力と比べても見劣りしない力が弾丸に集中。
純白から炎の色に変わった重心は亀裂も生じさせずに持ちこたえる。
「アルケミックパワー、充填」
澄んだ音が遠くまで響く。
星神器が眩く輝く。目が痛くないのは、物理的な光ではなく霊的なものだからだ。
「滞留マテリアルの分析」
魔導ガントレッドが微かに動き、星神器の輝きが急速に薄れて銃身の存在感が増す。
「……星神器の全マテリアル」
膨大なマテリアルが流れ、頭頂から指先までの全神経がきしむ。
星神器「ブリューナク」は武器なほど静かだ。
銃口を向けられた2体の高位VOIDが最大限に警戒を強める。
小型VOIDを散らされ、シガレットとメルに狭い場所へ追い込まれた2体は、どうやっても射程の外へ逃れることができない。
「全力ッ、解放ッ!」
引き金に愛撫するかのように接触。
物質としての比率が低くなった銃弾が銃口へ。
「顕現せよ、紅き太陽!」
地面と水平に伸びる光の柱はただの余波。
砕けた銃弾が極小の太陽に変わり、ソフィア =リリィホルム(ka2383)が意識した5点に転移。直後にエネルギーを解き放った。
厚みも堅さも意味がない。
巧みな回避運動も空間全体を焼かれては意味がない。
雑魔級の雑魚からこつこつ成り上がってきた2体のVOIDは、全ての抵抗も空しく装甲の中まで焼き尽くされた。
絶技の直後でもソフィアの集中は途切れない。
未だ2体とも立っているのを認識するより早く指示を飛ばす。
「今!」
「短期決戦だ。しかしあれで生き延びるのかよ」
シガレットのライトニングボルトが発動。
稲光が一直線にCAMもどきに迫る。
効果範囲はソフィアの絶技ほど広くはないので、的になったVOIDは1体。
軍の爆撃もシガレットの術も大半無効化してきた装甲が、常温のバターの如く切り裂かれる。
まだ、ソフィアの術の影響が残っているのだ。
「やべェな」
手応えが違う。
全ての攻撃が急所を貫いた感触など、シガレットほどの戦闘経験の持ち主でも数えるほどしか味わえない。
「癖になりそうだ」
正と負の違いはあっても、自身に匹敵する存在を握り潰した感触が手に残った。
「全力でいきます」
二十歳以上には絶対見えないメルの顔に凜々しい表情が浮かぶ。
極限の集中の中、残った装甲だけが低速で落ちていくのを横目で見ながら照準調整を完了。
長大なマテリアルライフルを、9割焼き尽くされたもまだ戦闘能力を保つCAMもどきへと解き放つ。
3人に向けられていたカメラもセンサも、その紫色のエネルギーを認識しきれなかった。
比喩でなく桁が違う。
極一部の超高位前衛覚醒者並の攻撃力が、一切の減衰なしで直線に伸びる。
掠めただけでもただではすまない。
触手の端に当たっただけの小型VOIDが余波の余波だけで何も残せず消し飛ばされる。
擬人型第三種は勝利を諦めない。
半死半生の体を捻り、腰から胸部を撃ち抜くはずの予定進路に腰の4分の1だけを残す。
「最初から全力ではあるんですけど……ね」
命中箇所が消える。
砕けるとか千切れ飛ぶとかそういう意味ではなく、当たった時点で綺麗さっぱり消えたのだ。
CAMもどきがさらに体を捻ろうとする。
ビームを連打すれば、ハンターを道連れにできる可能性は極小とはいえある。
しかし動きの中心であり上半身を支える腰が完全に壊れた今、身動きどころか体を支えることもできない。
メルの集中が通常に戻る。
腰を中心に全体が砕けたCAMもどきが地面に叩き付けられ動かなくなる。
膨大な戦歴を持つVOIDは、こうして終わった。
「マテリアルキャノンの弾込みで残り4発。今のままでは一発屋かな」
それでも十分強くて有用ではある。
しかしできれば、もう少し活躍しやすい設定にしたかった。
「まっずーい」
ソフィアの頬に冷や汗が一筋流れた。
カメラ越しに100万越えの視線を感じる。
微かな恐怖と巨大な賞賛、大精霊に向けるのに相応しい畏怖と崇拝の念が届いている。
一挙手一投足で膨大な感情が変化するのは正直楽しい。
が、これ以上VOIDに対して打つ手がない。
「一撃で仕留めるつもりだったからなー」
敵生命力の8割以上を一度に消し飛ばした。
素晴らしい戦果ではあるのだが、ラヴァダの光条を前提にしたスキル構成なので絶技を使い終わった後に高回避の敵と戦うのには向いていない。
もちろんこのままでも勝てる。
けれど、ごく僅かに混じってきた落胆の感情がどうにも気になった。
「人気者は大変だな?」
シガレットが笑みを押し殺している。
清らかな光の防御壁を得たソフィアが、カメラ写りは完璧なままにこりと微笑んだ。
「ハハ、悪ィ悪ィ。援護すっからしっかり決めてくれよヒーローさんよォ」
グレーの鱗のワイバーンが着陸する。
シガレットは安定した足場で、極めて高度な技術が必要とされるプルガトリオを使った。
無数の剣やら鎌が影から溢れてCAMもどきに迫る。
CAMもどきの装甲は機能を回復している。
装甲の厚い箇所で巧みに受けて被害を軽減。
極限まで生命力を削られながら持ちこたえる。
だがその分、BSへの抵抗力が減った。
脚が全く動かなくなり、ソフィアの射程から逃れる術を失う。
「アルケミックパワー! アルケミックパワー! そしてこれがアルケミックパワーだぁ!!」
ほんの少しやけくそ気味の銃撃が繰り返され、最後の1発がCAMでいうコクピット部分を貫通して止めを刺したのだった。
●ハンター的正攻法その2
連合宇宙軍には打つ手がなかった。
ロッソ級を呼んで戦場ごと吹き飛ばせば勝てはする。
もちろん、強力とはいえ大物VOIDでもない敵にロッソ級を使うのは牛刀割鶏で実質敗北である。
「ふむ」
不動 シオン(ka5395)が破顔する。
顔のつくりはよくても、闘争への渇望が強烈すぎて武人あるいは魔人として認識されている。
「地球で堂々と喧嘩を売ってくるとはいい度胸だな。売られた喧嘩は喜んで買ってやる」
一歩足を前に進める度にオーラが濃く重くなる。
背中から伸びるマテリアルに至っては、シオンの体より大きな2対4枚の翼に見える。
「くれぐれも私を失望させるなよ?」
連合宇宙軍が頑張りに頑張って誘き寄せたCAMもどきに、シオンがイェジドだけを供に攻撃を開始した。
大気を焼いてビームソードが迫る。
万一防御のない場所に当たれば即死もありえる超威力攻撃だ。
恐怖もある。
脅威も感じる。
けれど、心の空虚を埋めるように沸く充足感と比べると無いも同然だ。
「軽いなぁ!」
気合いを込めてただ薙ぎ払う。
武術初心者にすら可能な技ではあるが、全長4メートル越えの槍と高位覚醒者の能力が組み合わされば次元の異なる攻撃となる。
無傷の装甲を穂先が引き裂く。
反撃のビームソードはイェジド神威が危なげ無く躱してみせる。
「この私が相手をしてやると言っているのだ。どんな手を使おうと構わん、最大限の殺意を込めて来るがいい!」
神威のウォークライ。
見上げるほどに大きな高練度擬人型第三種が無音で吼えてBSをはね除ける。
右腕のビームソードをフェイントに、本命の左が来る。
攻撃が最高速に達する前に神威が体当たり。
バランスを崩したVOIDは前にも後にも進めなくなる。
「いいぞ!」
ビームソードによる切り返し。
避けきれないと判断して神威が盾で防ごうとするが間に合わない。
鮮血が弾けシオンと神威の両方を汚す。
シオンの口角が吊り上がる。
心身がぴたりとかみ合い一段階加速する。
思い切りのよい突きが回避の技を上回る。
豪腕による横薙ぎがVOIDの超高速を上回る。
血の臭いが薄まり、鉄の焼ける臭いが濃くなり装甲の断片が転がり落ちた。
「そのしぶとさだけは褒めてやる。だがその図体で避け切るのは身が重すぎたようだな?」
シオンの攻撃は止まらない。
躱されても防がれても、技を磨き抜き十分な重さを得た刃は確実にVOIDの命を削る。
自身の体に刻まれた傷も調味料にしかならない。
強者をねじ伏せ断末魔を味わうまでの、ちょっとしたスパイスだ。
「ふ。悪くは、なかったぞ」
転けたCAMもどきを大地に串刺しにする。
必死に暴れても槍は抜けず、VOIDは一度だけ痙攣して息絶えた。
「まだ遊びがあるな」
戦闘の興奮が消える。
結局使わなかった、正確には使ってもまず当たらなかったスキルが残っている。
まだまだ強くなれそうだった。
1キロほどの離れた場所で、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)別のVOIDを待ち構えていた。
「構わない」
1体引きつけるつもりで2体のCAMもどきを誘導してしまった部隊が、謝罪をしようとしてアルトに止められた。
「時間をかけると剣にマテリアルを食われすぎてしまうというのもあるしな」
鞘から刀を抜く。
訓練の跡は見えても女性らしい手のひらから、罠あるいは処刑具じみた勢いでマテリアルが奪われていく。
常人なら即死しかねず、半端な鍛え方の覚醒者なら少なくともしばらく戦闘できなくなるほどに強烈だ。
「試作品とはいえとんだじゃじゃ馬だ」
刃を掲げると、焔色の刃が陽光を吸い込み妖しく輝きを増した。
他の戦場の個体と比べると別種に思われるほど細身のVOIDが速度を緩める。
絶望的に足りない頭でも分かるほど、最上位の魔剣にしか見えない試作法術刀が怖い。
それ以上にアルトが怖い。
正のマテリアルが強すぎ、人の形をした戦闘精霊と誤認していた。
「時間稼ぎか。良い策ではあるがつきあってやる義理はない。イレーネ」
純白のイェジドが滑るように加速する。
アルトも完全に動きをあわせているので上体が全く揺れない。
すらりと構えた焔色の刃も、切っ先の高度が髪の毛1本分ほども動かない。
「高回避で装甲が薄い、か」
乗り降りする時間が惜しい。
マテリアル活性化による活動速度向上。
刃を介して生じさせた幻の展開。
最高速を保っての高速斬撃。
以上の3つを当たり前の攻撃として実行する。
「薄すぎるな。切れ味が活かせていない」
巨大な脚に巻き付いていた鎖が解けてアルトの手元へ戻る。
装甲の切れ目でないはずの箇所が綺麗に3箇所切り分けられ、当然のように内部のパーツも切断されまとめて落ちた。
VOIDが恐怖に負けた。
距離があった側が誤射する勢いでビームの連射。
右肘から上と左太股の半ばから下を失ったVOIDが、無音で叫びながら無茶苦茶にビームソードを振り回す。
結果的に複数同時攻撃を受けることになったが全く問題ない。
高速で動く体を素で速い意識で操作し、アルトはCAMもどきのビーム全てを空振りさせる。
「ん。罠、か?」
困惑する。
イレーネが殺気を感じて4メートル飛び退く。
唐突にVOIDの1体が消え、イレーネが進路を変えねばアルトの頭があったはずの場所をビームソードが貫いた。
「単に粗雑な攻撃可。情報を共有する性質があれば、多少は苦労したかもしれんな」
アルトにとっての通常攻撃をもう1回。
CAMもどきは奇跡的に1回躱して1回防ぎ、しかし1度の直撃と防いでも本体が壊れる斬撃を受け、内側から砂のように崩れて消えていく。
「これで部位狙いができれば一段上へ行けるのだが」
命中率を大きく落としてまで脚の切断を狙う必要はない。
最後のVOIDは最も短い時間で半分半分に両断され、連合宇宙軍を悩ませていた有力VOIDが全滅したのだった。
将官から一兵卒に至るまでアーサー・ホーガン(ka0471)から目が離せなかった。
巨大な剣がアーサーと彼を乗せた幻獣を襲う。
刃は負マテリアル製。振るわれる速度は銃弾並だ。
当たれば装甲ごと切り裂かれる。
軍人達では躱すことも反応することもできない。
「落ち着いていけ」
アーサーの声に、ゴルラゴンと名付けられたイェジドが尻尾を振って不満を示す。
刃の先端を視認した上で加速を開始。
異形の装甲を掠めるように跳び、擬人型第三種……CAM型狂気VOIDの真後ろへぴたりと着地した。
どうだ、という感情が鞍越しに感じられる。
アーサーは口の端を微かに釣り上げ、相棒の献身に報いるためにも攻撃に集中した。
最初から手綱を使ってはいない。
強靱な足腰でバランスを保ち、ロングソード級の魔剣とグレートソード級の魔剣を精妙に操りCAMもどきのふくらはぎに切りつける。
VOIDの反応も恐ろしく早い。
太い腕が脚部と魔剣の間に差し込まれ、見た目以上に強靱な装甲によりロングソード級が受け流された。
戦場は静かだ。
神話じみた巨人と人との戦いに皆魅入られている。
アーサーは剣を引き抜く。
ふくらはぎに深い穴を1つ開けたが手応えは薄い。
1体でも戦線の火消し役をこなせるだけのことはあり、このVOIDは装甲も耐久力も非常に高い。
アーサーの口から自然と笑い声が零れる。
凄腕のボクサー以上の動きから切り込んでくるVOIDもそれが巻き起こす強風も、今は心地よく感じられる。
「こういう純粋に個人としての力を試せる機会ってのはほとんどねぇからな」
VOIDの全てを見切る。
ゴルラゴンにタイミングを伝える。
4つ脚が再加速をした瞬間、再度魔剣2本による同時攻撃を仕掛けた。
魔剣「ストームレイン」が弾かれ、魔剣「バルムンク」が縄跳びに似た跳躍で回避される。
銀の瞳が微かに細められ、アーサーの気迫が爆発的に膨れあがった。
3つめの斬撃が生じる。
オーラの刀身が真っ直ぐに上へ伸びる。
宙に浮き回避の術を持たないVOIDに、無色の刃が腰から胸へ貫通した。
完全にバランスを崩したVOIDが地面に激突。
戦場全体に音が戻る。激突と喜びの音が重なり合った。
「挨拶が後れてすまないな。アーサー・ホーガン。連れはゴルラゴンだ」
次の目標の誘導を依頼してから、各部隊と挨拶を交わしていく。
強化人間だろうが非強化人間だろうが関係なく、上げも下げもせず適切かつ妥当な会話をこなす。
ごく短い時間ではあるが、軍と市民に対する強力なメッセージになっている。
「後1体は倒したいがな」
敵は強く硬く、1戦終わった時点でスキルは半分を切っていた。
●ハンター的正攻法
強力な火器と兵器と軍人が、高度な情報網で結びつけられ1つの意思のもとVOIDに対抗する。
それでも届かない。
クリムゾンウェストで生き抜いてきたハンターと比べると、対VOIDの経験が薄すぎた。
「あちこちで戦っていれば、不利な戦線の一つや二つ抱え込むのは分かる」
オファニムに近いCAMの中、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が重い息を吐いていた。
友軍の数が多い。
リアルブルーの人口と工業力を示す巨大な軍だ。
「あちこちで戦っていれば、不利な戦線の一つや二つ抱え込むのは分かる」
主力戦車級の装甲とCAMの機敏さを兼ね備えたVOIDが突入。
塹壕も装甲車も為す術無く破壊され、重傷者を抱えた軍人達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
その逃げっぷりは堂に入っていて人的な被害は意外なほど少なかった。
「その対応をハンターにやらせる、それも分かる。だが」
「これ戦力の逐次投入ってやつじゃねぇのか。やっちゃいけないって教わったんだが」
グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)があっさりと結論を口にした。
「いやー今度の担当はすごい事考えるなぁ」
グリフォンの背でグリムバルドがうなずく。
「この面子見てると別に間違っていないような気がするから不思議だぜ。それともハンターが常識外れなのかね……アストラはどっちだと思う?」
俺に聞くなという雰囲気でグリフォンが息を吐き、アウレールとグリムバルドが同時に通信機へ手を伸ばした。
「VOIDが動く」
「小型浮遊VOIDの足止めをよろしく」
軍への依頼はそれで終わりだ。
逃げる軍人を追い抜き力士じみた体格のVOIDが急接近。
友軍も迎撃するが、銃弾は効かず砲弾は狙いの修正が追いつかない。
「私達は魔法の杖と違うぞ。まぁいい、報酬上乗せだ」
尊大にすら聞こえる口調でつぶやき意識を切り替える。
PzI-3B ルー・ルツキンとの距離が限りなく0へ近づき、操作を意識しなくても思い通りに動くようになる。
機体が差し出した計算結果をもとに姿勢を修正。
肩部大型砲を狙撃銃のように扱い、ハンター並に躱せる筈の力士体型に見事当てて見せる。
「効きはしたが」
力士体型が右に避けても左に避けても関係無い。
予想進路上に砲弾を置くつもりで引き金を引き、触手が密集した異形の装甲を削る。
巨大な眼球合計10以上がアウレールを凝視する。
1軍を翻弄した3体のVOIDが、ただ1人アウレールだけに殺意を向ける。
「良い設計だ。理に敵っている」
敵は3体。
アウレールは1体にのみ攻撃を集中しているのに、残りの2体も薄汚れ傷ついている。
友軍の援護の結果ではない。
滅多に当てられないし、同行のハンターは強いが射程はそこまで長くない。
「自壊しながら戦う短期戦専用機か。小回りの利かない直線番長にしなかったのは褒めてやる」
機体の優先度設定を変更。
悲鳴をあげる計算機部分への負荷を減らして、今度は砲関連を酷使する。
「相手が私でなければ通用したかもしれんな」
50メートルの距離にまで忍び寄っていた浮遊VOIDを、連合宇宙軍では非実用的と評されることすらあるマルチロックオンで2体同時に潰した。
「お待ちかねの初仕事だ、てばさき」
大きなフクロウ型幻獣が決めポーズをとる。
素晴らしく高度な魔法結界が東條 奏多(ka6425)を中心に展開されても、3体の極太CAM型VOIDは気付きはしても気にもしない。
この距離ならアウレールにも他の2人のハンターにも打ち勝てると思い込んでいた。
分厚い手の平が3対6個広げられ、恐るべき威力の籠もったビームが連続で放たれる。
「火消し係とは、大層な奴らが出てきたもんだ」
奏多は動かない。
ビームが見当違いの方向へ逸れ、何もない地面へ高濃度負マテリアルをまき散らす。
魔法結界が効いていた。
「大規模な作戦も終わって、形勢もこっちに傾いてる状況でこういう奴らは出てきてほしくないもんだ。それ以前に、他人様の故郷で暴れるような奴に、手心加える道理はないよな?」
絶火刀「シャイターン」を鞘か引き抜く。
その存在感は強烈で秘められた威力も容易に想像でき、3体のVOIDは当たる気のしない砲戦を行うか絶望的な接近戦を挑むか大いに悩む。
「よし、じゃあそろそろ仕事を始めるか。戦いはちょいと厳しそうだが、頼りになる仲間はベテラン揃いだから何とかなるだろう。逆に足を引っ張らないようにしないとな」
そんなつぶやきを残してグリムバルドが本格参戦した。
やることは単純だ。
機導師の基本スキルともいえるデルタレイで、3つで1セットの光を1体の力士体型に集中して浴びせ続けるだけ。
複数の強化済みデルタレイを活性化しているが威力の差はほとんどない。
成長したグリムバルドの魔法力は、多少の強化など誤差になってしまうほどに強力なのだ。
「おっと」
使用スキルを切り替え距離をとる。
60メートル近い距離をとった上で、じりじりと後退しながら延々光の線を撃ち込む。
分厚いだけでなく強靱な装甲に無数の穴が開く。
血と見紛う濃さの負マテリアルが噴出。
分厚い装甲を汚すが一瞬で消え去り、力を失った本体が膝から崩れ落ちた。
「おおっと」
残る2体が跳んだ。
当たればどんな装甲も切り裂けそうなビームソードが、大重量と高速を兼ね備えた巨体から繰り出される。
奏多の結界は少しだけ遠い。
グリフォンは1撃は躱すが続く見事な一撃を回避しきれない。そのまま頭を破壊されてしまうかと思われた。
「戦場ではこれがあるから怖いんだ」
グリムバルドが胸をなで下ろす。
グリフォンは微かに顔を強ばらせている。
事前にアンチボディを使っていなければ、確実に頭蓋が割れ中身が零れていた。
絶火刀「シャイターン」が音も残さず大気を切り裂く。
不用意に前に出てしまったCAM型VOIDが胸を切り裂かれ負マテリアルを流す。
VOIDは恐怖した。
奏多の剣には耐えられない。
逃げようとしても、徒歩なのに異様に速度があって逃げ切れない。
パニックに陥りはしないが意識の大部分を奏多に向けるようになり、軍と他のハンターに対する警戒が薄くなる。
複数の弾がVOIDを襲う。
自損以外のダメージのない個体は易々と躱し、しかし奏多からダメージを受けた巨体は回避を試みることもできずに前につんのめる。
「隙が無いな」
アウレールが感情を込めずに情報を伝える。
「敵の急所は我々並に小さい。狙い撃ち可能スキルがないなら急所狙いは非推奨だ」
連合宇宙軍へ突撃を繰り返しても生き残ってきた個体だ。
背部にも十分な装甲があり生半可な攻撃では倒せない。
つまり、有効な攻撃を当てればよいだけだ。
敵機が退却に移ろうとするタイミングでアウレールが攻撃を行い、奏多とVOIDとの距離を一定以上には決してさせない。
アクセルオーバーを使い尽くした奏多は、オファニムより2まわりは大柄なVOIDの前後を手際よく往復している。
「文句垂れるなよ?デカい図体でちんたらしてる方が悪い」
全力で駆けながらの攻撃である。
相手が人間サイズなら通常攻撃とあまり変わらないが、相手がCAMサイズなら3連撃をたたき込める。
3連撃すなわち回避が3分の1。
ご自慢の重装甲も、アクセルオーバー無しでも強力な奏多の斬撃には有効ではない。
「っ」
ビームソードが奏多を掠める。
回避だけでなく受けも防御も優れた彼でも無視できない威力がある。万一てばさきに当たれば一瞬で焼き鳥だ。
「てばさきよくやった。下がれ」
既に幻影魔法による結界は効果を無くしている。
慌てて飛び去るポロウの撤退を援護するため、友軍の陣地から砲撃が開始される。。
「お前らにやりたいことは一切できると思うなよ?」
アサルトディスタンスが消える直前、最後の三連撃が擬人型第三種を三枚に下ろした。
2分後。
グリムバルドは困惑していた。
最初3体いたVOIDは1体しか生き残っていない。
なのに攻めきれない。
アウレールの超射程射撃も、奏多の強烈な斬撃も、10中1前後しか当たらない。
唯一まともに効いているのがデルタレイだ。
回避を無力にする3連同時攻撃は未だ途切れず、力士体型のVOIDをグロ画像にしか見えない穴だらけへ変える。
三種用意したデルタレイの1つが底をつく。
残りデルタレイは合計6発。
倒しきれるかどうか不安になる数だ。
アウレール機のガンポッドが弾幕を張る。
人間サイズのVOIDが浮力を失い地面に落ちる。
「残り2発かぁ」
強烈な手応え。
線よりも細い装甲の隙間へ光が消えて、装甲による衰えのないデルタレイがVOIDの中を貫き砕く。
噴き出す負マテリアルも残っていないVOIDが、立ったまま事切れ足先から消えていった。
●あるゴーレムの死と再生
はるばる世界を渡ってきた刻令ゴーレムに、大剣状ビームソードが深々と突き刺さった。
その3分前。
八原 篝(ka3104)が将官級の参謀と膝をつき合わせていた。
「よろしく。頼りにさせてもらうわね」
「こちらこそ」
未成年と超エリートの初老という組み合わせであり、覚醒者と非覚醒者という組み合わせでもある。
両者はあらゆる面で異なり、しかしVOIDに対する危機感だけは共有できていた。
「仕掛けるのはこちらの判断でよろしいか」
「もちろん。地球の職業軍人の力、期待しているわ」
戦場で殺気だった軍人達に見られているのに揺れすらしない。
たった1人しかいない援軍に失望していた参謀が、これならいけるかもしれないと感じた。
その後、砲戦で負けたVOIDが走って近づき殴り倒して最初の状況になる。
強靱な装甲に6本の矢が突き刺さってはいるが、この程度で倒れるほど擬人型第三種は弱くない。
「あのデカブツが戦術を解しているのか反射的に動いているだけなのか、判断し辛いわね」
引き絞られた矢が火属性のマテリアルを纏い、それを支える機械弓が篝の呼吸にあわせて静かに光る。
光刃でゴーレムを引き裂く寸前だったVOIDが慌てて振り返る。
ゴーレムは力なく地面に転がり、CAM型のVOIDは己の死を目にすることになる。
「敵はデカブツ1体ずつ。味方を巻き込む心配も、周りを気にする必要もない。これで負けるようならわたしはとっくに死んでいるわ」
大量のマテリアルがたった1本の矢に集まる。
それは一瞬にも満たない時間で音速を突破。
分厚い空気の層も強固なはずのVOID装甲も軽々抜いて反対側に抜けた。
負マテリアルで出来たビームソードが消える。
CAM型VOIDの腕から、脚から、全身から力が抜け壊れた人形を思わせる動きで崩れ落ちる。
「いけけるわね」
ゴーレムの瞳に光が灯り、不屈の闘志で起き上がった。
2体目。
「わたしの弓と、あなたの砲の連携を見せるときよ。最大火力で片っ端からブッ潰すわよ!」
友軍作のバリケードの陰からゴーレムが連射する。
簡易自己修復では直りきっていないので、かなり危険だが今回はVOIDが篝に向かった。
生身の人間対CAMサイズのVOIDの戦闘は非常に危険だ。
とはいえ速度に倍以上の差があり、しかも早い側が戦慣れしていると無残なほどに一方的な展開になるのだ。
「今回は私が囮ね」
サジタリウスという切り札を使うまでもなく、ゴーレムの砲撃に2体目が砕かれた。
3体目。
「無理はせずに」
今度もゴーレムが狙われた。
危険をおかす価値はあっても勝利のため死ぬ意味はないので素直に後退。
ゴーレム援護は友軍に任せ、篝は手札を惜しまず気ってCAMもどきを削り切る。
4体目の途中でスキルが切れ、1つの金星を友軍に進呈することになった。
●ハンター的正攻法その2
「マジかよ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)は軽く口笛を吹く。
現地軍は誠実で嘘を言っていない。
CAMサイズのVOIDが2つに小型浮遊VOIDが100と70。
ただ、CAMもどきが100と70を完全に指揮下に置いていることに気付けなかっただけだ。
「おっさん聞こえるか。アレはやべぇ。砲身が裂けるまで撃って雑魚減らししてくれ」
「了解。頑丈だから裂けないぞ?」
刻令ゴーレムよりも大火力長射程の砲撃が始まった。
「当たらねぇな」
「君達を基準に考えないでくれ。これでもすごく当ててるんだぞ!」
VOIDのせいで通信が乱れ場合によって土地ごと汚染されている状況ではかなりの命中率だ。
「そうは言うがな」
風の音とワイバーンの羽の音が大きい。
自然と声も大きく、怒鳴り合うような音量になる。
「砲弾にも限りがあるんだろ?」
ワイバーンが光の雨を降らす。
CAMもどきへの進路を塞ぐ位置に展開していた小型8体のうち7体が穴だらけになり消滅。
砲兵の1個中隊でようやく可能な戦果をあげたドラゴンは、特に誇る様子もなく飛行を続けている。
「在庫が無くなる前に仕留めてくれたまえ。本当に頼むぞ」
「応、仕留めたら美味い煙草でも奢ってくれ」
抜く手もみせず魔杖を振るう。
負マテリアルのビームと数十の闇刃が交錯。
ビームはワイバーンに躱され、数十の刃がCAMもどきと直衛を襲う。
目玉が弾けて浮遊VOIDが消える。
刃が2本CAMもどきに突き刺さったが、手応えは予想以上に薄い。
「効かねェか」
装甲も分厚いがそれ以上に抵抗力が強い。
移動を封じるBSが完全に弾かれていた。
この戦いが始まる直前。
岩井崎 メル(ka0520)は普段とは異なる緊張感の中にいた。
彼女が見上げていたのはよくぞここまでと言いたくなるほどに改造を施されたオファニムだ。
回避能力を維持したまま強大な出力を得るため、拡張性をほぼ使い切った尖った機体である。
「理論上は既存機体より大幅な火力が出せるはずだけど……。私自身、パイロット適性があるかどうかは分からないし実戦でどこまで出来るか」
整備兵は太鼓判を押していたが彼等にはVOIDとの戦闘経験はない。
「私も、このアカツキも強くならないといけないんだっ」
機体に乗り込み、ある種胸を借りるつもりで擬人型第三種に攻撃を仕掛けたのだった。
「うー」
思ったように当たらない。
いや確実に殺せてはいるのだ。
小型マテリアルライフルからビームを放つたびに小型浮遊VOIDが大破する。
そう。大破でしかない。
たまに一撃で落ちることもあるがだいた紙一重で生き延びる。
しかも、最初に十数の小型を落とされたことに気付いたCAMもどきが小型VOIDを散開させ、メルの攻撃の効率を極端に下げてしまった。
腹いせに混じりにCAMもどきを狙ってみてもかすりすらしない。
「手も足もでないと腹が立つよ!」
手も足も出ていないのはCAMもどきも同じだ。
高位歪虚なら当たり前に持っている広範囲攻撃術も複数回連続攻撃手段がないので、アカツキと名付けられたオファニムにかすりもしない。
もちろんたまにが紛れ当たりが発生する。
そして、単発の紛れ当たりで倒れるほどアカツキは弱くない。
「それが予定通りの展開でもね」
最後のセリフは、意図して音にはしなかった。
ガントレッドで覆われた細い指が、龍鉱石製の弾丸を星神器に納める。
形は大型の魔導銃。
だがそれを単なる魔導銃と勘違いする者はいない。
大精霊の力が残滓でも断片でもなく明確に込められていて凄まじい存在感を放っている。
「紅鳴、アクティブ」
大精霊の助力と比べても見劣りしない力が弾丸に集中。
純白から炎の色に変わった重心は亀裂も生じさせずに持ちこたえる。
「アルケミックパワー、充填」
澄んだ音が遠くまで響く。
星神器が眩く輝く。目が痛くないのは、物理的な光ではなく霊的なものだからだ。
「滞留マテリアルの分析」
魔導ガントレッドが微かに動き、星神器の輝きが急速に薄れて銃身の存在感が増す。
「……星神器の全マテリアル」
膨大なマテリアルが流れ、頭頂から指先までの全神経がきしむ。
星神器「ブリューナク」は武器なほど静かだ。
銃口を向けられた2体の高位VOIDが最大限に警戒を強める。
小型VOIDを散らされ、シガレットとメルに狭い場所へ追い込まれた2体は、どうやっても射程の外へ逃れることができない。
「全力ッ、解放ッ!」
引き金に愛撫するかのように接触。
物質としての比率が低くなった銃弾が銃口へ。
「顕現せよ、紅き太陽!」
地面と水平に伸びる光の柱はただの余波。
砕けた銃弾が極小の太陽に変わり、ソフィア =リリィホルム(ka2383)が意識した5点に転移。直後にエネルギーを解き放った。
厚みも堅さも意味がない。
巧みな回避運動も空間全体を焼かれては意味がない。
雑魔級の雑魚からこつこつ成り上がってきた2体のVOIDは、全ての抵抗も空しく装甲の中まで焼き尽くされた。
絶技の直後でもソフィアの集中は途切れない。
未だ2体とも立っているのを認識するより早く指示を飛ばす。
「今!」
「短期決戦だ。しかしあれで生き延びるのかよ」
シガレットのライトニングボルトが発動。
稲光が一直線にCAMもどきに迫る。
効果範囲はソフィアの絶技ほど広くはないので、的になったVOIDは1体。
軍の爆撃もシガレットの術も大半無効化してきた装甲が、常温のバターの如く切り裂かれる。
まだ、ソフィアの術の影響が残っているのだ。
「やべェな」
手応えが違う。
全ての攻撃が急所を貫いた感触など、シガレットほどの戦闘経験の持ち主でも数えるほどしか味わえない。
「癖になりそうだ」
正と負の違いはあっても、自身に匹敵する存在を握り潰した感触が手に残った。
「全力でいきます」
二十歳以上には絶対見えないメルの顔に凜々しい表情が浮かぶ。
極限の集中の中、残った装甲だけが低速で落ちていくのを横目で見ながら照準調整を完了。
長大なマテリアルライフルを、9割焼き尽くされたもまだ戦闘能力を保つCAMもどきへと解き放つ。
3人に向けられていたカメラもセンサも、その紫色のエネルギーを認識しきれなかった。
比喩でなく桁が違う。
極一部の超高位前衛覚醒者並の攻撃力が、一切の減衰なしで直線に伸びる。
掠めただけでもただではすまない。
触手の端に当たっただけの小型VOIDが余波の余波だけで何も残せず消し飛ばされる。
擬人型第三種は勝利を諦めない。
半死半生の体を捻り、腰から胸部を撃ち抜くはずの予定進路に腰の4分の1だけを残す。
「最初から全力ではあるんですけど……ね」
命中箇所が消える。
砕けるとか千切れ飛ぶとかそういう意味ではなく、当たった時点で綺麗さっぱり消えたのだ。
CAMもどきがさらに体を捻ろうとする。
ビームを連打すれば、ハンターを道連れにできる可能性は極小とはいえある。
しかし動きの中心であり上半身を支える腰が完全に壊れた今、身動きどころか体を支えることもできない。
メルの集中が通常に戻る。
腰を中心に全体が砕けたCAMもどきが地面に叩き付けられ動かなくなる。
膨大な戦歴を持つVOIDは、こうして終わった。
「マテリアルキャノンの弾込みで残り4発。今のままでは一発屋かな」
それでも十分強くて有用ではある。
しかしできれば、もう少し活躍しやすい設定にしたかった。
「まっずーい」
ソフィアの頬に冷や汗が一筋流れた。
カメラ越しに100万越えの視線を感じる。
微かな恐怖と巨大な賞賛、大精霊に向けるのに相応しい畏怖と崇拝の念が届いている。
一挙手一投足で膨大な感情が変化するのは正直楽しい。
が、これ以上VOIDに対して打つ手がない。
「一撃で仕留めるつもりだったからなー」
敵生命力の8割以上を一度に消し飛ばした。
素晴らしい戦果ではあるのだが、ラヴァダの光条を前提にしたスキル構成なので絶技を使い終わった後に高回避の敵と戦うのには向いていない。
もちろんこのままでも勝てる。
けれど、ごく僅かに混じってきた落胆の感情がどうにも気になった。
「人気者は大変だな?」
シガレットが笑みを押し殺している。
清らかな光の防御壁を得たソフィアが、カメラ写りは完璧なままにこりと微笑んだ。
「ハハ、悪ィ悪ィ。援護すっからしっかり決めてくれよヒーローさんよォ」
グレーの鱗のワイバーンが着陸する。
シガレットは安定した足場で、極めて高度な技術が必要とされるプルガトリオを使った。
無数の剣やら鎌が影から溢れてCAMもどきに迫る。
CAMもどきの装甲は機能を回復している。
装甲の厚い箇所で巧みに受けて被害を軽減。
極限まで生命力を削られながら持ちこたえる。
だがその分、BSへの抵抗力が減った。
脚が全く動かなくなり、ソフィアの射程から逃れる術を失う。
「アルケミックパワー! アルケミックパワー! そしてこれがアルケミックパワーだぁ!!」
ほんの少しやけくそ気味の銃撃が繰り返され、最後の1発がCAMでいうコクピット部分を貫通して止めを刺したのだった。
●ハンター的正攻法その2
連合宇宙軍には打つ手がなかった。
ロッソ級を呼んで戦場ごと吹き飛ばせば勝てはする。
もちろん、強力とはいえ大物VOIDでもない敵にロッソ級を使うのは牛刀割鶏で実質敗北である。
「ふむ」
不動 シオン(ka5395)が破顔する。
顔のつくりはよくても、闘争への渇望が強烈すぎて武人あるいは魔人として認識されている。
「地球で堂々と喧嘩を売ってくるとはいい度胸だな。売られた喧嘩は喜んで買ってやる」
一歩足を前に進める度にオーラが濃く重くなる。
背中から伸びるマテリアルに至っては、シオンの体より大きな2対4枚の翼に見える。
「くれぐれも私を失望させるなよ?」
連合宇宙軍が頑張りに頑張って誘き寄せたCAMもどきに、シオンがイェジドだけを供に攻撃を開始した。
大気を焼いてビームソードが迫る。
万一防御のない場所に当たれば即死もありえる超威力攻撃だ。
恐怖もある。
脅威も感じる。
けれど、心の空虚を埋めるように沸く充足感と比べると無いも同然だ。
「軽いなぁ!」
気合いを込めてただ薙ぎ払う。
武術初心者にすら可能な技ではあるが、全長4メートル越えの槍と高位覚醒者の能力が組み合わされば次元の異なる攻撃となる。
無傷の装甲を穂先が引き裂く。
反撃のビームソードはイェジド神威が危なげ無く躱してみせる。
「この私が相手をしてやると言っているのだ。どんな手を使おうと構わん、最大限の殺意を込めて来るがいい!」
神威のウォークライ。
見上げるほどに大きな高練度擬人型第三種が無音で吼えてBSをはね除ける。
右腕のビームソードをフェイントに、本命の左が来る。
攻撃が最高速に達する前に神威が体当たり。
バランスを崩したVOIDは前にも後にも進めなくなる。
「いいぞ!」
ビームソードによる切り返し。
避けきれないと判断して神威が盾で防ごうとするが間に合わない。
鮮血が弾けシオンと神威の両方を汚す。
シオンの口角が吊り上がる。
心身がぴたりとかみ合い一段階加速する。
思い切りのよい突きが回避の技を上回る。
豪腕による横薙ぎがVOIDの超高速を上回る。
血の臭いが薄まり、鉄の焼ける臭いが濃くなり装甲の断片が転がり落ちた。
「そのしぶとさだけは褒めてやる。だがその図体で避け切るのは身が重すぎたようだな?」
シオンの攻撃は止まらない。
躱されても防がれても、技を磨き抜き十分な重さを得た刃は確実にVOIDの命を削る。
自身の体に刻まれた傷も調味料にしかならない。
強者をねじ伏せ断末魔を味わうまでの、ちょっとしたスパイスだ。
「ふ。悪くは、なかったぞ」
転けたCAMもどきを大地に串刺しにする。
必死に暴れても槍は抜けず、VOIDは一度だけ痙攣して息絶えた。
「まだ遊びがあるな」
戦闘の興奮が消える。
結局使わなかった、正確には使ってもまず当たらなかったスキルが残っている。
まだまだ強くなれそうだった。
1キロほどの離れた場所で、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)別のVOIDを待ち構えていた。
「構わない」
1体引きつけるつもりで2体のCAMもどきを誘導してしまった部隊が、謝罪をしようとしてアルトに止められた。
「時間をかけると剣にマテリアルを食われすぎてしまうというのもあるしな」
鞘から刀を抜く。
訓練の跡は見えても女性らしい手のひらから、罠あるいは処刑具じみた勢いでマテリアルが奪われていく。
常人なら即死しかねず、半端な鍛え方の覚醒者なら少なくともしばらく戦闘できなくなるほどに強烈だ。
「試作品とはいえとんだじゃじゃ馬だ」
刃を掲げると、焔色の刃が陽光を吸い込み妖しく輝きを増した。
他の戦場の個体と比べると別種に思われるほど細身のVOIDが速度を緩める。
絶望的に足りない頭でも分かるほど、最上位の魔剣にしか見えない試作法術刀が怖い。
それ以上にアルトが怖い。
正のマテリアルが強すぎ、人の形をした戦闘精霊と誤認していた。
「時間稼ぎか。良い策ではあるがつきあってやる義理はない。イレーネ」
純白のイェジドが滑るように加速する。
アルトも完全に動きをあわせているので上体が全く揺れない。
すらりと構えた焔色の刃も、切っ先の高度が髪の毛1本分ほども動かない。
「高回避で装甲が薄い、か」
乗り降りする時間が惜しい。
マテリアル活性化による活動速度向上。
刃を介して生じさせた幻の展開。
最高速を保っての高速斬撃。
以上の3つを当たり前の攻撃として実行する。
「薄すぎるな。切れ味が活かせていない」
巨大な脚に巻き付いていた鎖が解けてアルトの手元へ戻る。
装甲の切れ目でないはずの箇所が綺麗に3箇所切り分けられ、当然のように内部のパーツも切断されまとめて落ちた。
VOIDが恐怖に負けた。
距離があった側が誤射する勢いでビームの連射。
右肘から上と左太股の半ばから下を失ったVOIDが、無音で叫びながら無茶苦茶にビームソードを振り回す。
結果的に複数同時攻撃を受けることになったが全く問題ない。
高速で動く体を素で速い意識で操作し、アルトはCAMもどきのビーム全てを空振りさせる。
「ん。罠、か?」
困惑する。
イレーネが殺気を感じて4メートル飛び退く。
唐突にVOIDの1体が消え、イレーネが進路を変えねばアルトの頭があったはずの場所をビームソードが貫いた。
「単に粗雑な攻撃可。情報を共有する性質があれば、多少は苦労したかもしれんな」
アルトにとっての通常攻撃をもう1回。
CAMもどきは奇跡的に1回躱して1回防ぎ、しかし1度の直撃と防いでも本体が壊れる斬撃を受け、内側から砂のように崩れて消えていく。
「これで部位狙いができれば一段上へ行けるのだが」
命中率を大きく落としてまで脚の切断を狙う必要はない。
最後のVOIDは最も短い時間で半分半分に両断され、連合宇宙軍を悩ませていた有力VOIDが全滅したのだった。
依頼結果
参加者一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/17 00:57:51 |
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相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/08/19 00:02:24 |