イスルダ島のクリスマス

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/11/27 15:00
完成日
2018/12/08 21:19

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●我が愛する妻ルチルダ、そして愛する子供達キャミーとエイダへ――

 今年の聖輝節には帰れそうにない。
 おそらくは、年末年始もここで過ごすことになるだろう。

 一緒に過ごせないことは残念だが、帰る頃にはたくさんの土産を持って帰るよ。
 かならずこの埋め合わせはするから。

 体に気をつけて。   トーマス


「……ふう」
 夜も更けきった頃、男は寝床で、ランタンの灯りを頼りに書いていた手紙を書き終えた。
 今日も遅くまで働き、明日も早い。わずかの文章を考えるのに睡眠時間を割かなければならなかった。
 ここでの生活は確かに辛いが、家族を養うために働けるなら異論はない。
 ここは多くの働き手を必要としているのだから――。

 ここはイスルダ島。つい最近まで、歪虚の本拠地だった場所だ。



●イスルダ島の人々
「おはよう! みんな!
 今朝も……」
 陽気な声の女が、そこまで言って空を仰いだ。
「絶好の歪虚退治日和ね!」

 一般には曇天という。
 ついでに言えば、歪虚に由来する汚染物質の塵もあるかもしれない。

「姉さん――」
 陽気な女性に、溜め息をつきながらハスキーボイスが答えた。
「もうすぐ聖輝節だってわかってる?」
 なんでそんな時期に自分達はここにいるのか、という抗議の意味が込められた言葉だ。
 これまでにも何度も、もっとストレートな言葉が姉に突きつけられてきた。
「断れなかったの……! 断れなかったのよ!」
 その度に姉は泣き笑いのような顔で答えるのだった。
「まったく。姉さん一人の責任ではないけれど」
 もう一人の妹が、美しいソプラノで言った。
「これまで白馬隊として活動していた私達に選曲の善し悪しなんてわからなくて当然。受付嬢にはいいカモだったのでしょうね。それでも――
 姉さんに指揮者(コンダクター)を任せたのは失敗だったわ」
「ブラックジャックで言うならキングと6があるのにもう一枚引くようなものだ」
「ああっ……! 二人とも!
 同時に音楽とカードで例えないで!
 反応が追いつかないわ!」

 この三人は姉妹でハンターをしている。
 最近まで王国貴族フォンヴェイユ侯爵の私兵だったが、指揮官をしていた侯爵の息子が出奔したため、私兵団は再編成された。その時に三人揃って辞めて、今はハンターとして活動している。
 音楽に関係する言い回しが多いのが三女メリケ。ウェーブのある長い髪をした、いかにも楽器を持ったら絵になりそうな女性である。クラスを聞くと、いつも真顔で機導師(ピアニスト)と答える。
 カードに例えた言い回しをしたのが次女ジェーダ。ショートカットで中性的な女性。クラスは符術師(カードマスター)だが、符と言っていいのか微妙なカードも好んで使う。今は普段の装備だが、勝負服はバニースーツだという。
 そして明るくお人好しで少しそそっかしいところがある(自称。しかも誇らしげに言う)のが長女メラハト。黒髪のロングヘアーで、ハンターで魔術師とは思えないほどマイペースで朗らか、かつトラブルメイカーである。こんなんでも長女なのでリーダーシップをとっているが、二人の妹はときどき苦労することもある。
 今回のように……。
「何もこの時期でなくても……」
 ジェーダが空を仰いで言った。
 彼女達は今、イスルダ島に常駐し歪虚を駆逐する仕事に従事している。
 私兵時代に訪れたことをメラハトがうっかり口を滑らせてしまい、受付嬢の猛烈なアピールからの泣き落としを誘発させてしまったのが引き受けた主な理由だ。
 長きに渡り黒大公ベリアルが本拠地を構え、『歪虚島』と呼ばれていたこの地は、グラズヘイム王国に奪還されたものの、再び人類のものとするには、まだ長い年月と多くの働きが必要となる。
 聖輝節や年末年始だからといって、仕事を中断できるものではない。
 ハンターオフィスでこの仕事を受けた彼女等も例外ではなく、定期的に休みはあるとはいえ、契約期間中はイスルダ島から出ることは許されない。
「葬送曲のような聖輝節ね。年頃の女性が送るものとしては三流だわ」
「良い手札が回ってくるのを祈るしかないか」
「遠回しに責められてるのはわかるけど、あなた達ときどき何言っているかわかんないわね……」



●一方その頃
 グラズヘイム王国首都イルダーナで、こんな事を言い出すものがいた。

「イスルダ島で働いている人達と一緒に聖輝節を祝おう!」

 ヘザー・クスロヴェーニ(kz0061)だった。
「お祭り気分ってあるよな。
 そういうのを、味あわせてあげたい。
 あの島は殺風景にも程があるから――」
 かつて仕事で訪れたイスルダ島のことを思い出す。
 黒羊神殿(のちに黒曜神殿と名を変える)での戦い、それを終えて奪還した後でも島に蔓延っている歪虚を延々と倒し続けたこと……なぜか現地で知り合った貴族の私兵と歪虚退治競争をすることにもなったが……
 いずれにせよあの島は、いまだ歪虚とともにある。
 弱りきったベリアルが、あの島で再び戦えるほどに復活したのも最近のことだ。
 魔の森にだっていまだにいくらでも歪虚が隠れ住んでいるだろうし、事によるとホロウレイドで堕ちた騎士の成れの果てだってさまよい続けているだろう。

 そんな所で頑張っている人達がいるのだ。

「一夜くらい、夢見たっていいじゃないか?



 ……なお、アイデアは一切ない! 任せる!」

 いつものごとく、ハンター仲間に頼るのだった。

リプレイ本文

●事前準備
『イスルダ島で聖輝節を祝う会』――

 ヘザーによってぶち上げられたこの企画に集まった面々は、今現在島に着いて、会場の準備をする所まで滞りなく進んでいた。
「島のみんなを喜ばせるぞ!」
「がんばりましょうっ!」
 馬鹿でかい荷物を背負ったヘザーとミコト=S=レグルス(ka3953)のシルエットはまるでサンタクロースだ。
 この日のために仕込まれた、色々なモノが入っている。

 ユリアン(ka1664)とキヅカ・リク(ka0038)は調理場の準備にとりかかっていた。
「大きな鍋を置けるだけの竈がいるな」
「今日は大量のお肉様がお見えだからね」
「焚き火用にも、もう一つ用意しないと……」
 野営の延長上のものではあるが、これでも美味いものは作れる。

「うさぎさん、この木をクリスマスツリーっぽくしましょう」
「いいね、雰囲気が出そうだ」
 玉兎・恵(ka3940)と玉兎 小夜(ka6009)は会場となる広場の飾りつけをしていた。
「こういう事を一緒にするのも楽しいですね!」
「きっといい思い出になるよ」
 この二人にとっては、ただ一緒に作業している以上の意味がある。
 特別な時間だった。
「あと要るのは……二人で座っても潰れない椅子だね」
「えっ? それって……」
 そう言った小夜の言葉に、恵は顔を赤らめた。


 会場の準備を進めている一行を、少し離れた所から眺めている少女がいた。
「む?」
(なんと少女が仲間にして欲しそうにこちらを見ている!)
 目が合ったヘザーにはそう見えた。

「何を――なさっているのですか」
 少女が先に沈黙を破った。

 数分後。
「サクラ・エルフリード(ka2598)です」
 一行の前で自己紹介する少女の姿があった。
「ヘザーさんまた女の子に声をかけてたんですか?」
「誤解だ!」
 ミコトにそんなことを言われるヘザー。もっともな誤解だったが、今回はサクラが自ら首を突っ込んだのである。
「料理でしたら……私の刀が役に立てるかもしれません……」
「刀?」
 ユリアンは反射的に疑問を口にする。
「それは……食材を切るのに?」
「ええ、包丁は危険ですからね。飛びますから……。
 大丈夫です……。ちゃんと綺麗にしてある調理用の刀です……」
 そういう問題だろうか、という疑問を抱かれつつもサクラは仲間として迎え入れられた。


 地道な告知活動も忘れてはいない。
 島は狭い共同体で、娯楽が少ない。瞬く間に一行の活動は知れ渡った。
 それもミコトが告知・事前準備を真面目に考えていたからこそだ。
 協力者も募り、何人かの協力を得ることもできた。
「さすがミコト、私の求める事をよくわかってる」
 ミコトの積極的な姿勢にヘザーはご満悦だった。

●イスルダ島で聖輝節を祝う会・当日
 そして聖輝節を祝う会――
 リアルブルー風に言うところの『クリスマス会』の当日は来た。

 午前中から、広場には大勢の人が集まっていた。煮込み料理の湯気がもうもうと立ち上がっており、食欲を誘う匂いも漂っている。そこには確かに、冬の寒さを吹き飛ばす暖かさがあった。

 大きな鍋にキヅカの持ち込んだ大量の肉などの食材をぶち込んだ煮込み料理が完成していた。
「これをイスルダ汁とする!」
「あれ、キヅカ汁じゃなくていいのか?」
 などとキヅカとヘザーが言葉を応酬する。果たしてどちらが浸透するのか。
 調理場として設けられたスペースでは、サクラが前言通り刀を振るって食材を次々と捌いていった。
『刀が役に立つ』『包丁は飛ぶ』などの事前情報から彼女に任せて大丈夫かと危惧する声もあったが、実際にやってみるとちゃんとしていた。
「サクラ流刀術・食材斬りと名付けようか」
 彼女の調理を見たヘザーの感想だった。

 ユリアンはホットワインを作った。
 王国の赤ワインをベースにフルーツやハーブで風味を付けたそれは、大いに好評だった。
「寒い季節に飲むコレは最高さね……わかってるじゃねぇか、若ぇの」
「うむ、こういうのはこの島じゃ飲めねえからな」
 日々の勤労をよく顔に刻んだ壮年の労働者達が、満面の笑みでユリアンに告げた。
 風味も良いし、何より体の芯から温まる。
 さらには飲めない人のためのぶどう果汁、鳥の丸焼きや焼きじゃがいも、アップルパンケーキまで用意している。
「オラこんなうめえもん初めて食ったぞ!!!」
 などと、島民からは大好評だった。

●音楽なんだ
 調理が一段落ついた頃、サクラは刀を楽器に持ち替え、ステージに上がっていた。
 同時にミコトはステージの前に立って、人々に呼びかける。
「みなさん、こんにちは! ハンター有志一行ですっ!
 ささやかな音楽の場を用意させていただきました! どうかお楽しみくださいねっ!」
 人々は拍手でサクラを迎えた。
 サクラは一礼すると、お馴染みのクリスマスソングを奏で始めた。
 目新しさはないものの、雰囲気は出る。とても重要なことだ。
 一曲終わるとサクラは一礼して、人々に語りかけた。
「拝聴、ありがとう、ございます……
 何かリクエストがあれば頑張ります……」
 何件かのリクエストがあり、サクラはそれに応えた。



●過去を喰らった兎の歌
「歌を歌います」
 イスルダに向かう船の中で、小夜は恵にこう言った。
「歌? 珍しいですね」
 小夜が歌うということは、恵にとっては首を傾げるほどのことだった。



 ……その小夜が、今はステージに立っている。
 サクラが退出し、小夜はアカペラで歌うのだ。
 ミコトに紹介されて、人々が聞く姿勢に入ると、小夜は歌い始めた。

 ――それは、
 失われた記憶の中にあったもの。



 喪った人への想いを刻みつけて
 どんなに傷を負っても
 あの星灯を目指して歩き続けるよ

 出会った貴女の想いを抱えて
 きっとあったこと全部に意味があるから
 全部を抱えて進んでいくよ



 歌い終えて一礼、舞台を降りる。
 喪失と絶望、
 そして、出会いと希望の歌だった。

 恵は、終わるまで耳を澄まして、一言一句聞き逃さないようにしていた。
 玉兎 小夜という人を、もっと良く知るために。
 そして、今日という日を、この歌を、けして忘れないように、心に刻みつけようと誓った。
 一礼し、ステージから降りた小夜に恵は寄り添う。
「うさぎさん、とっても良かったです。
 ……あの、恵はずっとおそばを離れませんから」
「ありがとう。
 唐突に歌うなんて言ったから疲れただろう?
 だから、労うよ」
 小夜は恵の腰に、そっと腕を回す。
 そして、静かにその場を離れた……。

 それは恵以外にも共感をもたらした。
「おぉぉぉぉぉ……」
 観客席で、呻きながら目頭を押さえた老人がいる。
「もし、どうされたご老人?」
 隣の男性が話しかけた。
「わしは……わしはこの島で生まれたんじゃあ……多くの者を喪った……数え切れぬ程の悲劇を見た……何度も絶望した……それを思い出したのじゃあ……」
「それは辛い記憶でしたな……」
「しかし……希望を失わず今日まで生きてきた……それで良かったと……そう気づかされた……」
「ご老人、この日を迎えられたことが、幸せなことではございませんか」
「……まこと……その通りじゃあ……」
 小夜の歌は、面識もない二人の心が通じるという奇跡をも起こした。

●束の間の休息
「あらあら、何だか楽しそうね!」
「今日はクリスマス会だったね」
「休符も必要だわ。……休憩のことよ?」
 メラハト、ジェーダ、メリケが警戒活動から帰ってきた。
 彼女等は一旦帰って着替え、集まりの中に混ざった。

 その時、会場ではサクラの奏でる音楽をBGMに歓談中、という所だった。
 他のハンター一行は、島民に積極的に話しかけていた。

「おっ、何だか疲れた顔してるね~これでも飲んで元気出して!」
 キヅカは何人かと話した後、ユリアンのホットワインを持って三姉妹に話しかけた。
「うふふ、ありがとう!」
 メラハトはにこやかな笑顔で受け取る。
「お仕事は何を?」
「ハンターなの! 今日も歪虚を駆除してきたのよ」
「へえ! お姉さん達お年頃なのにこんな所で歪虚とクリスマス過ごすの?」
「「それはね!」」
 次女と三女が口を挟んだ。
 そして訴えた。姉に任せたらいつの間にかこうなっていた、という事を……。
「ワーホリなのその歳で?」
「断れなかったの……! 断れなかったのよぉ!」
 キヅカの問いに、泣き笑いのような表情になるメラハト。
「カードを選べないんじゃ、ワーホリと一緒だね」
「そうはいかなくてよ。これが終わったらバカンスに行くのよ」
 ジェーダは呆れつつ、メリケは怒りを孕んだ声で言った。
「しかも三人で? 前衛いなくない?」
 キヅカはさらに問う。
「危ないときは」
「姉を盾にする」
「ひどいわ!」
 ジェーダとメリケが絶妙な連携でメラハトを前に押し出す。
 姉の威厳などなかった。
「そっかぁ~……。
 確かに年頃の女の子が送るにしては三流かもしれないし、手札としても事故ってるよね、解る解る」
 キヅカは頷きつつ言った。
「そうだろ?」「わかってくださる?」
 ジェーダとメリケが理解を求めた。

「けど、さ」

「結局、投げずにこうしてやって誰かのためにやってくれてるその姿は人として三流なんかじゃないし、後の王国内でハンター活動するにあたってはこの時間はいいカードになるんじゃないかな」

 キヅカの言葉に、三人はしばし驚いた顔で固まった。

「ハンターは実績積んでなんぼだからね。
 僕もそうなの」
「……これは……驚きのカードが回ってきた」
 さらにキヅカが言葉を繋いだ所で、ジェーダが驚いた顔でキヅカをまじまじと見る。

 彼女らは知っていた……キヅカ・リクの名声と業績を。
「っていうか直接助けられてたわ!
 あの時はどうもありがとう! 話す時間なかったけど!」
 メラハトが目を輝かせた。王都での戦いのことだ。

「あなたの言葉は、とても心地よい楽の音ね」
 メリケはうっとりしたような目でそう言った。

「ところで今日の仕事はもう終わり?
 この会が終わってからでよければだけどさ。もしあるなら僕達が替わるよ」
「そんな、悪いわ……」
「いいって。今日くらいはさ。
 多くの人に眠れる夜を過ごしてもらいたいんだ」

 結局、キヅカは夜の見回りを行うことになった。

「ありがとう……」
「キミのおかげで良い聖輝節になったよ」
「今日は本当に、あなたと出会えて良かった」
 三人はそれぞれ、心からの感謝を口にした。



●プレゼント交換会
 やがて夜になった。
 たくさんの蝋燭が灯され、木々の飾りがその温かみのある光で照らされた。
 ランプシェードで覆われ、幻想的な雰囲気を醸し出しているものもある。

「さて、プレゼント交換会というものを企画して参りましたっ!」
 ステージ前ではミコトが進行している。
「プレゼントしていただくものは、今から皆さんで手作りしていただきますっ」
 これから皆で手編みのミサンガを作り、交換し合うという試みだ。
「形に残る記念品か……」
「場所も取らないし、おしゃれでいいね」
 それはささやかなものであるが、だからこそ、今日という日の、思い出の品となるだろう。
 ハンター一行はもちろん参加。
 皆、和気藹々として取り組んだ。
 編み上げられたミサンガは箱に入れられ、輪になった人々が回す。どれが自分の物かわからなくなるところで停止。

「まあ、綺麗!」
 メラハトが自分に回ってきたミサンガを目の所まで持ち上げた。水晶のようなビーズがついている。
「それ、俺の作ったのだね」
 ユリアンが気づいて、言った。
「ユリアンさんのなのね! 嬉しい!
 あなたのはどんなの?」
 こんな感じで、話も盛り上がった。

「自分の作った物が誰かの思い出になる、か……。
 少し照れくさいが、いいものだな」
 ヘザーは自分に回ってきたミサンガを見つつ、発案者であるミコトに言った。

●写真に思いを込めて
 キヅカとユリアンは魔導カメラで人々の写真を撮り、本土に家族がいる人ならそれを送るという提案をしていた。

 写真を通して、元気な姿を見せられる。
 ここでの生活は大変だけど、いいこともある。
 ハンターと一緒に写った写真を見れば、一目でそれがわかるだろう。
「これを……妻と子供達に、見せてほしい」
 労働者トーマスは、そう語った。
 本当なら自分がそばにいてあげたいが。
 叶わないなら、写真だけでも。
「きっと、いい贈り物になります。
 それと……もしよければ、働いている所も。明日に撮りにいきますので」
 ユリアンは言った。
 イスルダで働く人々の写真――
 それは家族に無事を知らせるだけでなく、イスルダを再び人の住める土地にした――そういう人々の生きた証ともなるだろう。

●締め
 その後再び音楽が再開され、サクラの演奏でミコトとヘザーが『ロイヤルハーツ・デュオ』を結成しクリスマスソングや『闘祭』で歌った歌を披露したりしていたが。
「皆さんっ、お空に注目っ!」
 やおらミコトが天を指差した。

 ――花火だ。
 漆黒の空に舞い踊る、光の演舞。
 視界いっぱいに、色とりどりの、いくつもの輪が広がっては消える。
 誰もが、我を忘れて見入っていた。

「――綺麗」
「ああ、綺麗だね」
 人々から少し離れた場所で、恵を膝に乗せて愛でながら、優雅に食事中だった小夜。
 しばし二人で花火に見入った。
 分かち合う美しい光景、そして感じる互いの体温。
 少しでも長く、この時間を感じていたい――
 娘と一緒に過ごす本クリスマスがこの後に控えている。それは、それでとても幸せな事だけど。
(恵がお姫様でいられるのは今だけだから――)
(だんな様だけを見ていられるのは今だけだから――)



「――へえ、今夜はお祭りかあ」
 見張り台の上から、男は花火を見ていた。
「だけど、おいらは動けねえ、っと」
 いつ歪虚が襲ってくるかわからないこの場所で、危険を事前に知らせる重要な仕事である。
 つまり、働いているのである。
「よっ……と、失礼」
「ん?」
「これ、差し入れ。良かったら」
 そう言って見張り台に登ってきたユリアンが、籠を置いた。
「おいらを労ってくれるのかい?」
「当たり前だよ。だって――」
 自分の事を差し置いて働いてくれる人にこそ、今日は楽しんでほしいのだから。
 ユリアンは、そう言って去った。

 男は籠の中身を見る。
 美味しそうな料理に、聖輝節を祝うカードが添えられていた。

 他にも今日に働いている人々がいる。
 ユリアンは、そんな人達のもとへ向かう。



「大成功!」
 キヅカは少し離れた場所で、自らの仕事に確かな手応えを感じていた。
 花火を打ち上げたのは彼だ。
「今日の、いい締めになったかな!」
 それは間違いなかった。
 広場は人々が拍手喝采している。

 これが、大切なのだ。

 正のマテリアルは、人々の喜びから生まれる。

 だから、人生に彩りを。

 戦う以外にも、その両手には、出来ることがあるのだから。

 人々が支え合って生きるこの地で。
 メリークリスマス。喜びを与え合おう。

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  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルスka3953

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  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 白兎と重ねる時間
    玉兎・恵(ka3940
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/26 12:31:13
アイコン 聖輝節に向けて(相談卓)
ユリアン・クレティエ(ka1664
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/11/27 08:33:23