ゲスト
(ka0000)
【研キ】崩壊
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/01/15 09:00
- 完成日
- 2019/01/24 10:41
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●足跡
エルフハイムの巫女だけが浄化術を使える、なんてそんな専売性は、今はもう存在していない。
かつては恭順派だけの浄化術と言われていたそれは、今は維新派の長老を筆頭に治められているエルフハイムの目線で言うならば、すでに「エルフハイムの浄化術」と呼んで差し支えないだろう。
勿論維新派の浄化術と言うものも存在している。しかしその技術は、現在、紆余曲折を経て。ハンター達に機導式の浄化術として伝えられている。あくまでも様々な経緯を経てそうなったのであって、全く同じものではないけれども。
これは機導師専用の技術ではあるけれど、ある程度己を磨き、鍛え、必要な手順を踏まえれたハンターならば利用できる手段であるため、汎用性が高くなり……同時に、巫女達の特別性は小さくなったと言えるだろう。
勿論、ハンター達が使う場合は機導媒体やカートリッジが必要であるため、そういった有限性を示すものが不要であり、感知能力も備えている巫女達は、特別ではなくなっても、その需要において重要なポジションを確立できているわけではあるのだった。
かつて、高位巫女フュネは言った。
「戦う行為が、浄化のうちの一つです」
それはとあるハンターから発せられた質問に対する答えだったため、その言葉を聞いたものは少なかったかもしれない。
不純なマテリアル、汚染されたマテリアル、負のマテリアル……ともかく、そんな呼び方をされている、この世界で好まれないマテリアルで満たされた存在は、ハンターに、覚醒者によって戦い倒されることで消滅する、それを説明する言葉であるとも言える。
歪虚になったばかりの生き物が倒されれば骸が残り、稀に美味しい食材として扱えることは知られていること。そこから発せられた質問への答えだったはずだ。
しかしこの返答は、戦い倒したことで浄化に類する行為がなされたとみなされた……そう言っている。
汚染が始まってから期間が短かったからこそ、負のマテリアルだけを除去できたというようにも聞こえるそれは、実際にフュネはそう認識しているという事実を示していて。
負のマテリアルが定着するまでに、猶予と呼べる期間があるだろう可能性を示唆していた。
宵闇の研機を名乗るヴォールと言う男は、少なくとも。ブラットハイムで林檎の授受をする時に時折現れていたその存在は、確かに歪虚ではなかった。
かつて生身の彼と対峙したことがあるハンター達に聞いても、同じ言葉を返すはずだ。彼は常に輸送用であったり護衛であったりと、彼自身が手掛けた剣機系の歪虚を同伴していたが、確かに彼自身からは歪虚と同じ気配を感じることはなかった。
ただ、感知能力において高い素養を示すエルフの目線からみれば、それだけ歪虚と接触するという現象は不快感が溢れるはずの行為であり、ヴォールの行いは全くもって同意できるものではなかった。
ヴォールの実年齢は、森の外における活動限界、その終りに差し掛かっていたはずだった。それでも精力的に外界で、具体的にはエルフハイムの外で活動する彼は確かに「現在の姿を保ったまま森の外で生きる」という一部のエルフの密かな憧れを体現していたから。だから、その成果を信じて、いつか見える自由な外界に憧れ、少しばかり歪虚に近づくくらいの不快感には目をつぶって。ブラットハイムの罪人達は、ヴォールに林檎を横流ししていた。それこそ過去の栄光、初期の浄化術の研究者のうちの一人であったことや、結界林の原案を提示した存在であることも土台にあったから。崇拝することを彼らは当たり前のように受け入れていた。
「……まあ、つまり彼は契約者だったわけなのだが」
大分遠回りをしながら話を進めているのは長老であるユレイテルである。
ラズビルナムの一件と、ヴォールによるエルフハイムへの襲撃。重なったために減っていた人手を回収し、彼等の休息を促し、そして並行して調査を進め……進展があったからこその今回の集まりである。
「エルフハイム、つまり我らが住まう森林区域内の調査は、シャイネ殿を筆頭に再調査を進めている」
なにしろ実弟であるシャイネは、ある時期まで、ヴォールの研究拠点を訪ね彼の様子を伺う立場にあった。なので大抵の拠点は把握できていた。
あくまでも「大抵」である。今から二十年ほど前に、ヴォールはシャイネが把握する拠点のすべてから消息を絶ったのである。そこから数年かけて、把握するすべての拠点を巡ったシャイネの前に、ヴォールが現れることはなかった。
「少なくとも、シャイネ殿が把握している間は歪虚を傍に置いていなかったらしい……しかし、その頃契約者ではなかった、と断言できるわけでもない」
むしろ契約者になっており、下準備を進め、整ったからこそ姿を消したと考える方が辻褄があう。
「ハイデマリー殿との面識は十年ほど前だそうだが」
人間である彼女と顔を合わせていた時期も、歪虚の気配はなかったらしい。単純に近くに居なかっただけの可能性もあるので、やはり断言はできないのだ。
ヴォールは建造物となり、倒された際に遺体としてエルフの身体を残すことはなかった。そもそも、斬り壊される途中で血が流れることはなかった。
「ヒトの形ではないので、堕落者と呼ぶのは不適切かもしれないが。あの変化は完全に歪虚となった事を示していたのだろう」
それが覚悟あっての堕落だったのか、元からその予定だったからか、それを知ることはできない。
「彼は契約相手は剣妃オルクスだと言っていたな。吸血鬼なら、確かに人の形は保てていたはずだ」
浄化の器だった先達と同じように。
「しかし彼は吸血鬼である前に、剣機の一員として活動していた。だからあの姿になったのかもしれないと……私は考えている」
オルクスと同じように操れると思われた血が、剣機を操る力になっていたとするなら。
オルクスと同じようにヒト型になると思われた身体は、剣機と同一化してもおかしくない。
「……森の外への調査でも、いくつか、候補地は絞っている」
勿論警備隊や、巫女達を派遣しての調査も行っているが、人手はまだ十分ではない。
「彼は、剣妃が死んでも契約者のままだった。なら彼が手掛けた剣機系歪虚が残っている可能性も否定できない」
良い意味でも、悪い意味でも。そこから何かに繋がる可能性を考えれば、調査ははやい方が良い。だからこうして報告と、新たな仕事のために集まってもらったのだ。
「探索と調査を一部、請け負っていただきたい……よろしく頼む」
●掃除屋
――……ジジ……ジ……ッ!
――確認。
――定時連絡、ナシ。
――緊急こまんど、条件、達成。
――転居ろぐ、確認。順次、破壊、命令アリ。
――でーた残滓ハ、おーるぶれいく。
――主ノ奇跡ハ、主ダケノモノ。
――主ノ功績ハ、主アッテノモノ。
――主ノ足跡ハ、主ナクバ意味ナシ。
――主ノ意義ハ……
エルフハイムの巫女だけが浄化術を使える、なんてそんな専売性は、今はもう存在していない。
かつては恭順派だけの浄化術と言われていたそれは、今は維新派の長老を筆頭に治められているエルフハイムの目線で言うならば、すでに「エルフハイムの浄化術」と呼んで差し支えないだろう。
勿論維新派の浄化術と言うものも存在している。しかしその技術は、現在、紆余曲折を経て。ハンター達に機導式の浄化術として伝えられている。あくまでも様々な経緯を経てそうなったのであって、全く同じものではないけれども。
これは機導師専用の技術ではあるけれど、ある程度己を磨き、鍛え、必要な手順を踏まえれたハンターならば利用できる手段であるため、汎用性が高くなり……同時に、巫女達の特別性は小さくなったと言えるだろう。
勿論、ハンター達が使う場合は機導媒体やカートリッジが必要であるため、そういった有限性を示すものが不要であり、感知能力も備えている巫女達は、特別ではなくなっても、その需要において重要なポジションを確立できているわけではあるのだった。
かつて、高位巫女フュネは言った。
「戦う行為が、浄化のうちの一つです」
それはとあるハンターから発せられた質問に対する答えだったため、その言葉を聞いたものは少なかったかもしれない。
不純なマテリアル、汚染されたマテリアル、負のマテリアル……ともかく、そんな呼び方をされている、この世界で好まれないマテリアルで満たされた存在は、ハンターに、覚醒者によって戦い倒されることで消滅する、それを説明する言葉であるとも言える。
歪虚になったばかりの生き物が倒されれば骸が残り、稀に美味しい食材として扱えることは知られていること。そこから発せられた質問への答えだったはずだ。
しかしこの返答は、戦い倒したことで浄化に類する行為がなされたとみなされた……そう言っている。
汚染が始まってから期間が短かったからこそ、負のマテリアルだけを除去できたというようにも聞こえるそれは、実際にフュネはそう認識しているという事実を示していて。
負のマテリアルが定着するまでに、猶予と呼べる期間があるだろう可能性を示唆していた。
宵闇の研機を名乗るヴォールと言う男は、少なくとも。ブラットハイムで林檎の授受をする時に時折現れていたその存在は、確かに歪虚ではなかった。
かつて生身の彼と対峙したことがあるハンター達に聞いても、同じ言葉を返すはずだ。彼は常に輸送用であったり護衛であったりと、彼自身が手掛けた剣機系の歪虚を同伴していたが、確かに彼自身からは歪虚と同じ気配を感じることはなかった。
ただ、感知能力において高い素養を示すエルフの目線からみれば、それだけ歪虚と接触するという現象は不快感が溢れるはずの行為であり、ヴォールの行いは全くもって同意できるものではなかった。
ヴォールの実年齢は、森の外における活動限界、その終りに差し掛かっていたはずだった。それでも精力的に外界で、具体的にはエルフハイムの外で活動する彼は確かに「現在の姿を保ったまま森の外で生きる」という一部のエルフの密かな憧れを体現していたから。だから、その成果を信じて、いつか見える自由な外界に憧れ、少しばかり歪虚に近づくくらいの不快感には目をつぶって。ブラットハイムの罪人達は、ヴォールに林檎を横流ししていた。それこそ過去の栄光、初期の浄化術の研究者のうちの一人であったことや、結界林の原案を提示した存在であることも土台にあったから。崇拝することを彼らは当たり前のように受け入れていた。
「……まあ、つまり彼は契約者だったわけなのだが」
大分遠回りをしながら話を進めているのは長老であるユレイテルである。
ラズビルナムの一件と、ヴォールによるエルフハイムへの襲撃。重なったために減っていた人手を回収し、彼等の休息を促し、そして並行して調査を進め……進展があったからこその今回の集まりである。
「エルフハイム、つまり我らが住まう森林区域内の調査は、シャイネ殿を筆頭に再調査を進めている」
なにしろ実弟であるシャイネは、ある時期まで、ヴォールの研究拠点を訪ね彼の様子を伺う立場にあった。なので大抵の拠点は把握できていた。
あくまでも「大抵」である。今から二十年ほど前に、ヴォールはシャイネが把握する拠点のすべてから消息を絶ったのである。そこから数年かけて、把握するすべての拠点を巡ったシャイネの前に、ヴォールが現れることはなかった。
「少なくとも、シャイネ殿が把握している間は歪虚を傍に置いていなかったらしい……しかし、その頃契約者ではなかった、と断言できるわけでもない」
むしろ契約者になっており、下準備を進め、整ったからこそ姿を消したと考える方が辻褄があう。
「ハイデマリー殿との面識は十年ほど前だそうだが」
人間である彼女と顔を合わせていた時期も、歪虚の気配はなかったらしい。単純に近くに居なかっただけの可能性もあるので、やはり断言はできないのだ。
ヴォールは建造物となり、倒された際に遺体としてエルフの身体を残すことはなかった。そもそも、斬り壊される途中で血が流れることはなかった。
「ヒトの形ではないので、堕落者と呼ぶのは不適切かもしれないが。あの変化は完全に歪虚となった事を示していたのだろう」
それが覚悟あっての堕落だったのか、元からその予定だったからか、それを知ることはできない。
「彼は契約相手は剣妃オルクスだと言っていたな。吸血鬼なら、確かに人の形は保てていたはずだ」
浄化の器だった先達と同じように。
「しかし彼は吸血鬼である前に、剣機の一員として活動していた。だからあの姿になったのかもしれないと……私は考えている」
オルクスと同じように操れると思われた血が、剣機を操る力になっていたとするなら。
オルクスと同じようにヒト型になると思われた身体は、剣機と同一化してもおかしくない。
「……森の外への調査でも、いくつか、候補地は絞っている」
勿論警備隊や、巫女達を派遣しての調査も行っているが、人手はまだ十分ではない。
「彼は、剣妃が死んでも契約者のままだった。なら彼が手掛けた剣機系歪虚が残っている可能性も否定できない」
良い意味でも、悪い意味でも。そこから何かに繋がる可能性を考えれば、調査ははやい方が良い。だからこうして報告と、新たな仕事のために集まってもらったのだ。
「探索と調査を一部、請け負っていただきたい……よろしく頼む」
●掃除屋
――……ジジ……ジ……ッ!
――確認。
――定時連絡、ナシ。
――緊急こまんど、条件、達成。
――転居ろぐ、確認。順次、破壊、命令アリ。
――でーた残滓ハ、おーるぶれいく。
――主ノ奇跡ハ、主ダケノモノ。
――主ノ功績ハ、主アッテノモノ。
――主ノ足跡ハ、主ナクバ意味ナシ。
――主ノ意義ハ……
リプレイ本文
●
ファヴールの背で風を感じ、レミージュの翼で上空の風を読み取る。
荷の中に有る、小さな木製の細工物を思い起こす。
二十年前の品に匂いが残っているかはわからない、ほんの気休めだと、ユリアン(ka1664)は自覚している。
「頼むね」
信用と親愛を籠めた声にファヴールが嘶く。レミージュの視界を共有しているために、自身の身体はあくまでも騎乗体制を維持することのみに終始させる。
時折自身の位置を俯瞰させて進路を調整しながら、先へ進む。
(上空から見えにくい場所だけでも絞れたら)
合流後の探索に有利になるはずだ。
「……地図ってほどでもないけど、資料を頼んでおいてよかったよね」
出発前に急ぎ写したものを広げる。進んできた道順と、途中に記した目印の場所。そしてレミージュの目では見通せなかった場所を指でなぞった。
ギリッ
聞き慣れない、けれど己が発したと分かる音にシルヴェイラ(ka0726)は焦燥を強くする。バンダースナッチを駆るエルティア・ホープナー(ka0727)の背を見つめながら自責の念は少なからず胸の内に溜まっている。
それが当たり前だと、シーラのフライングスレッドを自身の魔導バイクに繋いだ幼馴染に感謝を伝えはしたが晴れることはない。
本来はソリを引くためでないから速度は想定より落ちる。そして機動性に難があるとされる車種だ。シーラは少なくない衝撃に耐えながら、今は少しでも早く森に着くことを願うしかない。
先行するユリアンに自身の思う推測を伝えているが、どれほど効果を発揮しているのだろうか?
●
お世辞にも足場が良いとは言えない道を、馬で進んでいる。しかし凸凹がひどい場合は降りて手綱を引くしかない。
歩きながら、ルナ・レンフィールド(ka1565)は木の枝を見つける度拾い上げ集めている。
「薪……なわけないよな、何に使うんだ?」
休憩時に尋ねる東條 奏多(ka6425)の視線の先、ルナの手元では、束ねた枝に糸が巻かれていた。頑丈な一本になるようまとめていく。
「鳴子にするんです」
洞窟の左右に立て掛け、糸で繋ぐだけの簡易版ですがと言いながら、2本目を作るために新たな枝を拾っていく。
「本当は棒があればいいんですけど、都合よく拾うのは難しそうですから」
糸を多めに用意していてよかった。
崖の下、滝の裏側、小高い丘の地下。
(いや、滝はないな)
動物が生きていけるだけの水場はあるようだが、この森は大きな水源はないと聞いている。
馬上から視線を巡らせれば、木々の隙間の向こうに岩場が見える。視界を占める色は緑より茶が多い。
「見通しが悪いってほどじゃないのが救いか」
中でも広さのある洞窟を見つけられれば良いのだが。
「どちらから回りますか?」
周囲に目印となるようなものがないか、確認していたルナが尋ねる。
「獣の足跡はありましたけど。剣機とは言い切れませんね」
部品の様な物が落ちていれば別だが。
これで何度目だろうか。
洞窟は見つけ次第、奏多が先行し気配を探る。出入り口の大きさだけで内部の広さを判断できない以上、その都度中に入るしかない。
(どいつも自然に出来たものばかりにみえるな)
岩肌に視線を走らせ、時に触れながら確かめる奏多。他の気配が感じとれないことを確認してから、後方で待つルナを振り返る。
鳴子の設置を終えた彼女は洞窟の外の警戒を続けていた。奏多が戻ってきた気配に振り返る。
「こちらは異常なしです」
「広くは見えないな」
定型句と化した言葉だ。
ルナが月笛に唇を添え、息を吹き込む。
高く、けれど落ち着いた音が広がる。比較するのはルナの記憶にある音。そして同じく何度も聞いた奏多もまた、その音に変化がないか、耳に意識を向ける。
「……変化なし、と」
メモを取りながら、明かりを頼りに奥へと向かう。例えば岩肌の擦れ跡、杖で叩く際の音の違和感。ほんの少しの違和感も見逃さないように。
あまり深くないその洞窟は拠点ではないだろうと2人揃って頷いて、それでも念のためにスマートフォンで写真を撮って。
「それじゃ、次にいくか」
「はい」
常に全方位の警戒を続ける状態は、時間が延びる程に疲労を強く感じることになる。
しかし拠点を見つけるまで休む気に慣れないことは事実で。互いに疲労を表に出さないようにしながら、再び馬たちの手綱を引いた。
「っ! その手があったかよ」
崖の下に瓦礫があったとして。それは崖の上から落下した岩石が崩れただけかもしれない。
しかし今奏多の目の前にある瓦礫は大量で、そして崖の傍ではなかった。
(妙に木々のまばらな、ひらけた場所があるなと思って寄ってみれば)
瓦礫の小山という違和感を見つけたのは偶然……いや、必然だったのだろう。
「だいぶ……深いところまで、空間があったんだと思います」
崩れさせないように慎重に近づいて、笛の音を吹いたルナが瓦礫から離れる。指向性を持たせることは難しく、確実なことは言えない。しかし明らかに自分達が建っている地面と同じ高さよりも低い位置にまで瓦礫が続いていることは明白で。瓦礫の隙間に少しでも音を響かせて、小山の周囲から何度もそれを繰り返して。そうして出した結論である。
その間奏多は不意打ちがないように周囲の警戒をしながらも、周囲の探索を行っていた。
樹の張り巡らせる根が原因とは思えない、不自然な段差。地表に走る罅のような跡もあったが、雨で別の泥が入り込んだらしくぼやけている。
それらを辿っていけば、アラヴルム一体では済まない大きさの広さが浮かび上がってくる。
地下にそれだけの広さの空間があり、力をもって破壊し、崩れた土砂で空間を埋めた……そう思わせる場所だ。
シャッター音に振り向けば、ルナが近くの木々へとスマートフォンを向けていた。
●
森の規模はけして小さくはない。だから確実に通話できるわけではない。しかし互いの魔導スマートフォンを見つけ出させるために起動させたままにして、ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)はエルフハイムに近い位置から順に森の中を進んでいく。
幸い川はそう遠くない。しばらくは通話も可能な状況を維持したままで居られそうだ。
探索範囲を広くとる為、そして効率を重視して。二人は互いに距離を開けて別行動をしているのだ。
現状、ゴースロンの歩みが阻まれるほどではないのが幸いだろうか。
「襲撃にしたって、大移動は短い方が良いに決まっているのじゃ」
だからこそ、あの群はこの森から出発したのではないかと予想して。
(大峡谷に態々移動するとか……想像すると間抜けにも思えるがの)
その様を目の前で思いきり笑ってやればよかったと思いながら歩を進めた。
川沿いを進みながら、クレール・ディンセルフ(ka0586)はヴォールが使っていたであろうデバイスを思い出そうと努めている。最期のあの時は、アーマー型に搭乗していたから参考にならない。それ以前となると……三年前。リンドヴルムに乗る前、そして乗った後。操作していたはずのソレがどんな形状だった?
(どちらも持ち運びやすい小型、その駆動音は?)
歪虚が多く、デバイスの音を聞きとれるほどではなかった。それだけ、静かなものだったのだ。
(あれは情報収集用だから小さかったのだと思う)
けれど何かが引っ掛かる。違和感を探すように、自身の持つデバイスや魔導スマートフォンに触れた。
(情報の解析用はもっと大きいはず、それだけ放熱もあるはず……?)
首を傾げる。自身の持つこれらが、熱を持ったことがあっただろうか?
答えは否だ。例えばファイアスローワーのスキル媒体として使用しても、デバイスそのものは熱くなったことはない。
(でも、大掛かりな演算用なら……!)
首を振って、信じて進むのみだ。
川の流れの違和感を見つけたのは幸運だった。辿った先はどんなに言葉を繕っても粗末な小屋だ。川の水は生活用水として引きこまれていた。
携帯用のデバイスを置けるだけの広さの机と、寝るためだけの寝台。生活する為の最低限の設えを眺め、クレールは今目の当たりにさせられた「ヒトらしさ溢れる空間」に少なからず戸惑った。
「って、今はそれどころじゃない!」
勢いよく首を振って、本来の目的を念頭に置きなおす。ここがヴォールの拠点と決まったわけではない。猟師を生業とするものの一時的な仮宿という可能性だってある。鍵はかけてあったが、それほど厳重なものではなかったと思う。鍵開け道具を持っていなかったので、強引だと自覚しながらも破壊して中に入ったわけなので。
「ヴィルマさん? ……範囲外かあ」
伝話が繋がるか試してみたが、連絡がとれる距離には居ないらしい。まずはひとりで出来る探索を。白黒はっきりつけるために、唯一の収納へと手を伸ばした。
本当に微かなノイズが聴こえる。
(折角の手がかりじゃというに!)
クレールと伝話が繋がらない。
これが互いに会話可能な距離にいて、そこにノイズが混じったというのなら。互いを結ぶ距離のどこか近くに敵がいるのだと考えることができたかもしれない。あくまでも可能性として考えられる、その程度ではあるけれど。
今ある情報は「この森にヴォールの拠点がある可能性が非常に高い。しかもまだ何かしらの情報が残っている可能性も残っている」ということだけ。
(どうするのが一番じゃろうか)
1人闇雲に探して運に任せるか、2人がかりで少しでも範囲を狭めるか。選択肢を挙げたところで迷う必要はなくなった。川のある方角も、クレールの向かう方角も分かっている……なら、後者しかないだろう。
●
意識はどこまでも前へ。エアはメーチに匂いを辿らせ、ティトを時折空へ放ちながらユリアンの残した目印を辿る。
エアが最も欲しいと、求めているのはヴォールの心だ。
(堕ちた彼はどれ程の心を残してくれたかしら)
最期に満足できるほどの話は出来なかった。不要だと言われても、飽きるまで理解を深めたかった……飽きる未来は予想出来なかったけれど。
せめて紐解く欠片だけでもと思う。かの男は負のマテリアルを受け入れる研究だったと思うが、研究したからこそそれを払う術を、森の外で長く過ごせる術に変えることができないだろうか。
森に着いてからは樹上も、樹洞も確認しながら進んでいる。
目印はこの後に進む方角も示していた。シーラの考える湖に直行するのではなく、少し離れた位置から回り込む形で進んでいるようだ。
「私達は、湖から周囲を見渡すような形で進めばいいみたいね」
恐らく互いに合流しやすくなるような配慮だろう。
湖のほとりとは言えず、けれど離れすぎても居ないその場所。
内部に何かしらの存在がないことを確認してから懐のツールへと手を伸ばすユリアン。
(無駄にならなくてよかった……でも)
解錠を試みるつもりだったが、急ぎ真星を構え振り返る。微かな羽ばたきに気付いたから。
「レミージュ!」
2体の蝙蝠型と対峙しながらも連絡をと叫ぶ。
見覚えのある敵がここに来たというなら、この小屋は目的の場所だ。
クレールに近い推測を立てていたシーラだが、別の推測も立てていた。
上空から探した結果見つけた小さな湖は、湖水を引きこんで作られたはずの人工的なため池。その水は湖とは違い、明らかにマテリアルの汚染が起きている。
周囲の木々も同様だ。しかし表面的な変化ではなく、エルフとして感じとれる違和感のようなものなので、このため池の水を利用しているからこその現象だろう。
(浄化前に探さねば、原因そのものも消滅させてしまうか?)
そう考えたところで、エアの声が思考を遮った。
「シーラ、拠点と……敵も居るようよ」
視線の先にはティト。そしてユリアンのレミージュだ。
研究成果につながる何かが見つかれば、それに越したことはない。
(ただ、さ……)
それ以外の何かを持ち帰れたら。ユリアンはそうも考えている。
捨て置かれた走り書きを手に取り字を追う。
(奴にとってはどうでも良い記録でも、俺達にとっては……)
苛立ちを示す荒い筆跡の中に見つかる、愚弟の文字。
(遺品でもあるわけだから)
調査に不要でも、家族の絆が感じられなくても。持って帰ろう。
「エア」
破壊される前の拠点に辿り着けたこと、そして敵の排除も済んだことでやっと安堵に包まれる。
「君はこの研究の中身を知りたいと思うかい?」
どんな答えでも己の選ぶ道は幼馴染の傍であることは変わらないけれど、あえて言葉にすべきだと思ったから。
「そうね……知りたいわ」
拠点に近づくほど感じていた違和感。その原因らしき気配を探りながらも。エアの答えには迷いがない。
「ヴォールは道を間違えた。けれど彼の研究は……少なくともその始まりは、間違ってはいなかったと証明する為に」
可能なら、このまま悪しき形で終わらせたくない。少しでも善い物語に続けたい。
それは他の者から見れば正道に見えないかもしれないけれど。
「君が間違えそうになったら私が止める」
そう言ってくれる幼馴染が居るから安心して進んでいける。
元の通りに鍵をかけ直してから、今一度小屋を眺める。
他の誰の痕跡もない、1人で過ごしていたとよくわかる場所だった。
(伝え継ぐ気はなかったってことなのかも知れない)
最後に交わした会話を思い返す。壊す際、それこそ最期は言葉を発しなかったから。ユリアンにとってはあれが最後のヴォールの言葉。
(森のために研究していたその時に、一人でなかったら)
違う道を辿っていただろうか?
(……感傷だね)
●報告
・湖の在る森
蝙蝠型剣機2体
湖の水を生活用水として引き込んだ小屋
小屋から少し離れた地点にて、汚染されたため池と周囲の木々
小屋の周囲にて、負のマテリアルに染まってはいないが、地面につきたてられた楔らしきもの
見覚えのある機械パーツ数点(未汚染)
研究とは関係のない走り書きのメモ
・洞窟の多い森
崩壊させられたとみられる地下洞窟
地盤沈下した形跡
木々に走った不自然な傷跡
・川の走っている森
蝙蝠型剣機1体
川の水を生活用水として引き込んだ小屋
旧式の魔導機械の残骸(浄化を試みた結果破損)
分散させたことにより情報収集は速やかに行えたと考えられる。これはヴォールの配下である剣機型歪虚が現れたことからも明白である。
地下洞窟のような広大な範囲での瓦礫除去が行えないこと、ため池の浄化を行うと汚染源もそのまま消失する危険があることから、あえて現状維持を選んでいる点もある。
これに関しては、後日エルフハイムから人員派遣と調査、そして対処を望む。
ハンター達が探索した三ヶ所の森、それぞれにヴォールの足跡を見つけることが出来た。
これは彼等以外、エルフハイムの者達が捜索している別の地点でも同様に拠点が見つかる可能性を秘めている。
ファヴールの背で風を感じ、レミージュの翼で上空の風を読み取る。
荷の中に有る、小さな木製の細工物を思い起こす。
二十年前の品に匂いが残っているかはわからない、ほんの気休めだと、ユリアン(ka1664)は自覚している。
「頼むね」
信用と親愛を籠めた声にファヴールが嘶く。レミージュの視界を共有しているために、自身の身体はあくまでも騎乗体制を維持することのみに終始させる。
時折自身の位置を俯瞰させて進路を調整しながら、先へ進む。
(上空から見えにくい場所だけでも絞れたら)
合流後の探索に有利になるはずだ。
「……地図ってほどでもないけど、資料を頼んでおいてよかったよね」
出発前に急ぎ写したものを広げる。進んできた道順と、途中に記した目印の場所。そしてレミージュの目では見通せなかった場所を指でなぞった。
ギリッ
聞き慣れない、けれど己が発したと分かる音にシルヴェイラ(ka0726)は焦燥を強くする。バンダースナッチを駆るエルティア・ホープナー(ka0727)の背を見つめながら自責の念は少なからず胸の内に溜まっている。
それが当たり前だと、シーラのフライングスレッドを自身の魔導バイクに繋いだ幼馴染に感謝を伝えはしたが晴れることはない。
本来はソリを引くためでないから速度は想定より落ちる。そして機動性に難があるとされる車種だ。シーラは少なくない衝撃に耐えながら、今は少しでも早く森に着くことを願うしかない。
先行するユリアンに自身の思う推測を伝えているが、どれほど効果を発揮しているのだろうか?
●
お世辞にも足場が良いとは言えない道を、馬で進んでいる。しかし凸凹がひどい場合は降りて手綱を引くしかない。
歩きながら、ルナ・レンフィールド(ka1565)は木の枝を見つける度拾い上げ集めている。
「薪……なわけないよな、何に使うんだ?」
休憩時に尋ねる東條 奏多(ka6425)の視線の先、ルナの手元では、束ねた枝に糸が巻かれていた。頑丈な一本になるようまとめていく。
「鳴子にするんです」
洞窟の左右に立て掛け、糸で繋ぐだけの簡易版ですがと言いながら、2本目を作るために新たな枝を拾っていく。
「本当は棒があればいいんですけど、都合よく拾うのは難しそうですから」
糸を多めに用意していてよかった。
崖の下、滝の裏側、小高い丘の地下。
(いや、滝はないな)
動物が生きていけるだけの水場はあるようだが、この森は大きな水源はないと聞いている。
馬上から視線を巡らせれば、木々の隙間の向こうに岩場が見える。視界を占める色は緑より茶が多い。
「見通しが悪いってほどじゃないのが救いか」
中でも広さのある洞窟を見つけられれば良いのだが。
「どちらから回りますか?」
周囲に目印となるようなものがないか、確認していたルナが尋ねる。
「獣の足跡はありましたけど。剣機とは言い切れませんね」
部品の様な物が落ちていれば別だが。
これで何度目だろうか。
洞窟は見つけ次第、奏多が先行し気配を探る。出入り口の大きさだけで内部の広さを判断できない以上、その都度中に入るしかない。
(どいつも自然に出来たものばかりにみえるな)
岩肌に視線を走らせ、時に触れながら確かめる奏多。他の気配が感じとれないことを確認してから、後方で待つルナを振り返る。
鳴子の設置を終えた彼女は洞窟の外の警戒を続けていた。奏多が戻ってきた気配に振り返る。
「こちらは異常なしです」
「広くは見えないな」
定型句と化した言葉だ。
ルナが月笛に唇を添え、息を吹き込む。
高く、けれど落ち着いた音が広がる。比較するのはルナの記憶にある音。そして同じく何度も聞いた奏多もまた、その音に変化がないか、耳に意識を向ける。
「……変化なし、と」
メモを取りながら、明かりを頼りに奥へと向かう。例えば岩肌の擦れ跡、杖で叩く際の音の違和感。ほんの少しの違和感も見逃さないように。
あまり深くないその洞窟は拠点ではないだろうと2人揃って頷いて、それでも念のためにスマートフォンで写真を撮って。
「それじゃ、次にいくか」
「はい」
常に全方位の警戒を続ける状態は、時間が延びる程に疲労を強く感じることになる。
しかし拠点を見つけるまで休む気に慣れないことは事実で。互いに疲労を表に出さないようにしながら、再び馬たちの手綱を引いた。
「っ! その手があったかよ」
崖の下に瓦礫があったとして。それは崖の上から落下した岩石が崩れただけかもしれない。
しかし今奏多の目の前にある瓦礫は大量で、そして崖の傍ではなかった。
(妙に木々のまばらな、ひらけた場所があるなと思って寄ってみれば)
瓦礫の小山という違和感を見つけたのは偶然……いや、必然だったのだろう。
「だいぶ……深いところまで、空間があったんだと思います」
崩れさせないように慎重に近づいて、笛の音を吹いたルナが瓦礫から離れる。指向性を持たせることは難しく、確実なことは言えない。しかし明らかに自分達が建っている地面と同じ高さよりも低い位置にまで瓦礫が続いていることは明白で。瓦礫の隙間に少しでも音を響かせて、小山の周囲から何度もそれを繰り返して。そうして出した結論である。
その間奏多は不意打ちがないように周囲の警戒をしながらも、周囲の探索を行っていた。
樹の張り巡らせる根が原因とは思えない、不自然な段差。地表に走る罅のような跡もあったが、雨で別の泥が入り込んだらしくぼやけている。
それらを辿っていけば、アラヴルム一体では済まない大きさの広さが浮かび上がってくる。
地下にそれだけの広さの空間があり、力をもって破壊し、崩れた土砂で空間を埋めた……そう思わせる場所だ。
シャッター音に振り向けば、ルナが近くの木々へとスマートフォンを向けていた。
●
森の規模はけして小さくはない。だから確実に通話できるわけではない。しかし互いの魔導スマートフォンを見つけ出させるために起動させたままにして、ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)はエルフハイムに近い位置から順に森の中を進んでいく。
幸い川はそう遠くない。しばらくは通話も可能な状況を維持したままで居られそうだ。
探索範囲を広くとる為、そして効率を重視して。二人は互いに距離を開けて別行動をしているのだ。
現状、ゴースロンの歩みが阻まれるほどではないのが幸いだろうか。
「襲撃にしたって、大移動は短い方が良いに決まっているのじゃ」
だからこそ、あの群はこの森から出発したのではないかと予想して。
(大峡谷に態々移動するとか……想像すると間抜けにも思えるがの)
その様を目の前で思いきり笑ってやればよかったと思いながら歩を進めた。
川沿いを進みながら、クレール・ディンセルフ(ka0586)はヴォールが使っていたであろうデバイスを思い出そうと努めている。最期のあの時は、アーマー型に搭乗していたから参考にならない。それ以前となると……三年前。リンドヴルムに乗る前、そして乗った後。操作していたはずのソレがどんな形状だった?
(どちらも持ち運びやすい小型、その駆動音は?)
歪虚が多く、デバイスの音を聞きとれるほどではなかった。それだけ、静かなものだったのだ。
(あれは情報収集用だから小さかったのだと思う)
けれど何かが引っ掛かる。違和感を探すように、自身の持つデバイスや魔導スマートフォンに触れた。
(情報の解析用はもっと大きいはず、それだけ放熱もあるはず……?)
首を傾げる。自身の持つこれらが、熱を持ったことがあっただろうか?
答えは否だ。例えばファイアスローワーのスキル媒体として使用しても、デバイスそのものは熱くなったことはない。
(でも、大掛かりな演算用なら……!)
首を振って、信じて進むのみだ。
川の流れの違和感を見つけたのは幸運だった。辿った先はどんなに言葉を繕っても粗末な小屋だ。川の水は生活用水として引きこまれていた。
携帯用のデバイスを置けるだけの広さの机と、寝るためだけの寝台。生活する為の最低限の設えを眺め、クレールは今目の当たりにさせられた「ヒトらしさ溢れる空間」に少なからず戸惑った。
「って、今はそれどころじゃない!」
勢いよく首を振って、本来の目的を念頭に置きなおす。ここがヴォールの拠点と決まったわけではない。猟師を生業とするものの一時的な仮宿という可能性だってある。鍵はかけてあったが、それほど厳重なものではなかったと思う。鍵開け道具を持っていなかったので、強引だと自覚しながらも破壊して中に入ったわけなので。
「ヴィルマさん? ……範囲外かあ」
伝話が繋がるか試してみたが、連絡がとれる距離には居ないらしい。まずはひとりで出来る探索を。白黒はっきりつけるために、唯一の収納へと手を伸ばした。
本当に微かなノイズが聴こえる。
(折角の手がかりじゃというに!)
クレールと伝話が繋がらない。
これが互いに会話可能な距離にいて、そこにノイズが混じったというのなら。互いを結ぶ距離のどこか近くに敵がいるのだと考えることができたかもしれない。あくまでも可能性として考えられる、その程度ではあるけれど。
今ある情報は「この森にヴォールの拠点がある可能性が非常に高い。しかもまだ何かしらの情報が残っている可能性も残っている」ということだけ。
(どうするのが一番じゃろうか)
1人闇雲に探して運に任せるか、2人がかりで少しでも範囲を狭めるか。選択肢を挙げたところで迷う必要はなくなった。川のある方角も、クレールの向かう方角も分かっている……なら、後者しかないだろう。
●
意識はどこまでも前へ。エアはメーチに匂いを辿らせ、ティトを時折空へ放ちながらユリアンの残した目印を辿る。
エアが最も欲しいと、求めているのはヴォールの心だ。
(堕ちた彼はどれ程の心を残してくれたかしら)
最期に満足できるほどの話は出来なかった。不要だと言われても、飽きるまで理解を深めたかった……飽きる未来は予想出来なかったけれど。
せめて紐解く欠片だけでもと思う。かの男は負のマテリアルを受け入れる研究だったと思うが、研究したからこそそれを払う術を、森の外で長く過ごせる術に変えることができないだろうか。
森に着いてからは樹上も、樹洞も確認しながら進んでいる。
目印はこの後に進む方角も示していた。シーラの考える湖に直行するのではなく、少し離れた位置から回り込む形で進んでいるようだ。
「私達は、湖から周囲を見渡すような形で進めばいいみたいね」
恐らく互いに合流しやすくなるような配慮だろう。
湖のほとりとは言えず、けれど離れすぎても居ないその場所。
内部に何かしらの存在がないことを確認してから懐のツールへと手を伸ばすユリアン。
(無駄にならなくてよかった……でも)
解錠を試みるつもりだったが、急ぎ真星を構え振り返る。微かな羽ばたきに気付いたから。
「レミージュ!」
2体の蝙蝠型と対峙しながらも連絡をと叫ぶ。
見覚えのある敵がここに来たというなら、この小屋は目的の場所だ。
クレールに近い推測を立てていたシーラだが、別の推測も立てていた。
上空から探した結果見つけた小さな湖は、湖水を引きこんで作られたはずの人工的なため池。その水は湖とは違い、明らかにマテリアルの汚染が起きている。
周囲の木々も同様だ。しかし表面的な変化ではなく、エルフとして感じとれる違和感のようなものなので、このため池の水を利用しているからこその現象だろう。
(浄化前に探さねば、原因そのものも消滅させてしまうか?)
そう考えたところで、エアの声が思考を遮った。
「シーラ、拠点と……敵も居るようよ」
視線の先にはティト。そしてユリアンのレミージュだ。
研究成果につながる何かが見つかれば、それに越したことはない。
(ただ、さ……)
それ以外の何かを持ち帰れたら。ユリアンはそうも考えている。
捨て置かれた走り書きを手に取り字を追う。
(奴にとってはどうでも良い記録でも、俺達にとっては……)
苛立ちを示す荒い筆跡の中に見つかる、愚弟の文字。
(遺品でもあるわけだから)
調査に不要でも、家族の絆が感じられなくても。持って帰ろう。
「エア」
破壊される前の拠点に辿り着けたこと、そして敵の排除も済んだことでやっと安堵に包まれる。
「君はこの研究の中身を知りたいと思うかい?」
どんな答えでも己の選ぶ道は幼馴染の傍であることは変わらないけれど、あえて言葉にすべきだと思ったから。
「そうね……知りたいわ」
拠点に近づくほど感じていた違和感。その原因らしき気配を探りながらも。エアの答えには迷いがない。
「ヴォールは道を間違えた。けれど彼の研究は……少なくともその始まりは、間違ってはいなかったと証明する為に」
可能なら、このまま悪しき形で終わらせたくない。少しでも善い物語に続けたい。
それは他の者から見れば正道に見えないかもしれないけれど。
「君が間違えそうになったら私が止める」
そう言ってくれる幼馴染が居るから安心して進んでいける。
元の通りに鍵をかけ直してから、今一度小屋を眺める。
他の誰の痕跡もない、1人で過ごしていたとよくわかる場所だった。
(伝え継ぐ気はなかったってことなのかも知れない)
最後に交わした会話を思い返す。壊す際、それこそ最期は言葉を発しなかったから。ユリアンにとってはあれが最後のヴォールの言葉。
(森のために研究していたその時に、一人でなかったら)
違う道を辿っていただろうか?
(……感傷だね)
●報告
・湖の在る森
蝙蝠型剣機2体
湖の水を生活用水として引き込んだ小屋
小屋から少し離れた地点にて、汚染されたため池と周囲の木々
小屋の周囲にて、負のマテリアルに染まってはいないが、地面につきたてられた楔らしきもの
見覚えのある機械パーツ数点(未汚染)
研究とは関係のない走り書きのメモ
・洞窟の多い森
崩壊させられたとみられる地下洞窟
地盤沈下した形跡
木々に走った不自然な傷跡
・川の走っている森
蝙蝠型剣機1体
川の水を生活用水として引き込んだ小屋
旧式の魔導機械の残骸(浄化を試みた結果破損)
分散させたことにより情報収集は速やかに行えたと考えられる。これはヴォールの配下である剣機型歪虚が現れたことからも明白である。
地下洞窟のような広大な範囲での瓦礫除去が行えないこと、ため池の浄化を行うと汚染源もそのまま消失する危険があることから、あえて現状維持を選んでいる点もある。
これに関しては、後日エルフハイムから人員派遣と調査、そして対処を望む。
ハンター達が探索した三ヶ所の森、それぞれにヴォールの足跡を見つけることが出来た。
これは彼等以外、エルフハイムの者達が捜索している別の地点でも同様に拠点が見つかる可能性を秘めている。
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【相談卓】はじまりのおわり エルティア・ホープナー(ka0727) エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/01/15 00:24:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/01/11 21:18:19 |
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質問卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/01/14 03:11:55 |