ゲスト
(ka0000)
【研キ】記憶
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/03/29 07:30
- 完成日
- 2019/04/12 11:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●招待状
「打ち上げみたいなものになるのかな?」
集まったハンター達に手製のカードを配るシャイネは、珍しく感傷のようなものをにじませる目をしているようにも見えた。しかし口調はいつも通りのものだから、視覚と聴覚、そして感受性の何を信用して対応すればいいのか、ハンター達はそれぞれに内心で首を傾げた。
「確かに仕事としての報酬は支払われているけれどね。それは長老であるユレイテル君からのもので、僕としては何もできていない気がしてね♪」
期間中、直接共に過ごしてはいなかったけれど。共に同じ問題に向き合っていた仲間として。今更だけれど、互いを労う時間が欲しいという話で。カードには言葉通りにホームパーティーを行う旨が記載されている。
「ツヴァイクハイム?」
しかしその場所は耳慣れない名称。エルフハイムを知る者は聞いたこと位はあるかもしれないが、他の区画に比べて随分とまた情報の無い場所なのである。
「ふふ、やっぱりそんな反応になるよね♪」
ここ最近の仕事では明確に名前も上がらなかった場所だ。なのになぜこの場所で打ち上げになるのか? ハンター達の顔には間違いなく戸惑いが含まれている。
「改めて、4区画の説明をしておこうか。勿論、理由はあるから。少しだけ付き合ってくれるかい?」
エルフハイムの中でも最も重要とされているのは最奥地、森の中心とも呼べるオプストハイム。しかしここは神霊樹があることもあり、外部の存在を受け入れるには理由がないと難しい。なにより外に出ることを選ばない恭順派を今も唱えているご長寿のエルフ達が非常に多い。シャイネの両親もまたこの区画の住人である。
「まあ、どうしても人手が足りないって最近ハンターを呼んだりもしているけれどね♪」
これも上層部が変わったからだろうね。
「現状で一番名前が売れているのがナデルハイムになるかな。帝都に近い位置にあるのも理由だけれど、ここは長老会のトップを担っているユレイテル君が以前から外部に向けて開いてきたからね。宿泊施設も、初期に比べたら随分と過ごしやすくなったはずだよ」
維新派の者達が今も精力的に活動している。なおここで売っている外部向けの土産物を、今はAPV温泉に置かせてもらっていたりと随分と流通量が増えた。長老の名前と共に、森都の中の区画として上がりやすくなった地名だと思う。
「以前、皆に行ってもらったのがブラットハイムだけど。……説明は少なくても良さそうかな?」
第三師団の駐留都市であるマーフェルスに近い区画。ナデルと比べると食料系の生産が多いのも特徴で、今は本来の生産量が判明し、人手を補充したことで(特に)林檎関連の流通は随分と軌道に乗りはじめている。
「それで……主だった4区画の中で一番知名度が低いのが、今回のツヴァイクハイムだよ」
第五師団の駐留都市であるグライシュタットに近い区画であり、一番問題が起きにくく目立ったことのない場所。ブラットと同様に恭順派と維新派が混在している区域なのだが、他に比べると特徴が少ない。
「言葉を選ばず言うとね? 維新と恭順の対立に疲れて、日和見がちになった子達が多いんだ。中立派、って自称する子が居たりしてね」
ある意味で最も平和な区画。
「……だから、もう少しエルフハイムとしての知名度をあげたいって気持ちが少なからずあるんだけど……」
間をあけるシャイネ。それが逡巡によるものなのか、勿体ぶっているのか。その表情からは読み取ることができない。
「昔から、変化なり干渉なりに寛容で……むしろ放任気味で……」
うん。一度頷いてからハンター達の顔を見回す。
「あの人がエルフハイムを出奔する前に使っていた最後の拠点、ここにあるんだよね♪」
つまり、ヴォールがかつて生活していた小屋が、今回の打ち上げ会場なのである。
●細々
エルフハイム側での調査は終わっており、目ぼしいものは既に回収が終わっている。今回の仕事に関わったメンバーくらいなら収容できる広さがあるからこそ、この一連の仕事の区切りに相応しい場所だと考えた。そう伝えてから、いくつかの情報を取り出していく。
「飲食に関してはナデルの宿泊施設で働いてくれてる子に頼んで、充分なものを出してもらうから。そのあたりは心配しないで大丈夫だよ♪」
逆に、宿泊出来る部屋の確保は出来ても寝具の問題があるとのことで。
「ナデルならベッドが揃っているけど……ハンモックになるから、そこは申し訳ないね」
部屋割りは事前に相談しておいてくれると助かると、諸注意を終える。しかし手元の情報量はそれ以外にもあるようで。
「……まあ、総評みたいなものになるのだけれどもね?」
ハンター達、そしてエルフハイム側で編成した調査隊がかき集めた情報。それらの精査した結果が纏められたもの。
「出せる情報は、ここで先に皆に話しておくね。それ以外でも知りたいとか、疑問がある場合は、今回ユレイテル君が現地で合流できるらしいから」
そこで直接訪ねてくれるかな?
●調査結果
・拠点
探索に当たった地域に必ず一つは拠点と呼べる小屋がみつかった
生活に必要な最低限の機能を備えている以外、大きな情報源となるものは見つかっていない
・蝙蝠型剣機
合計で6体が発見され、全て討伐に成功
拠点から出てきた所に遭遇した個体については、討伐後拠点を調べたものの、記録媒体と思われる物体がすべて破壊されていた
蝙蝠型そのものの捕縛にも挑んだが、捕縛直後に自爆された
・湖水を引き込んで作られた、汚染されたため池
巫女の協力の元確かめた結果、内部に汚染源とみられる物体が確かに沈められていた
汚染弾頭ほどの能力はないが、時間をかけて汚染するタイプと考えられる
現在は浄化済
・楔らしきもの
実験として、この物体に挟まれた区間を通った者は皆「なぜか嫌な予感がする」と答えた
その配置を考えると、ヒト避けとして使っていたと考えられる
森都の警備面の都合で詳細は省くが、結界林に似た仕組みが利用されているところまでは解析済
・機械パーツ
歪虚として結合させる前に放棄されたものと判明
・崩壊させられた地下洞窟
剣機の製造に十分な広さがあると判明
しかし、機械的な部品は、建材に類するものさえも全く残っていなかった
傷跡は過去に見つかった剣機の試動によるものと判定
中でも最も新しいものはアラクネ型、アラヴルム型のものと考えられるため、例の群を製造した拠点の跡地と判断
・研究とは関係のない走り書きのメモ
日誌レベルの内容のみ
研究関連のデータは全てデータ化してデバイス等に保存していたと考えられる
「打ち上げみたいなものになるのかな?」
集まったハンター達に手製のカードを配るシャイネは、珍しく感傷のようなものをにじませる目をしているようにも見えた。しかし口調はいつも通りのものだから、視覚と聴覚、そして感受性の何を信用して対応すればいいのか、ハンター達はそれぞれに内心で首を傾げた。
「確かに仕事としての報酬は支払われているけれどね。それは長老であるユレイテル君からのもので、僕としては何もできていない気がしてね♪」
期間中、直接共に過ごしてはいなかったけれど。共に同じ問題に向き合っていた仲間として。今更だけれど、互いを労う時間が欲しいという話で。カードには言葉通りにホームパーティーを行う旨が記載されている。
「ツヴァイクハイム?」
しかしその場所は耳慣れない名称。エルフハイムを知る者は聞いたこと位はあるかもしれないが、他の区画に比べて随分とまた情報の無い場所なのである。
「ふふ、やっぱりそんな反応になるよね♪」
ここ最近の仕事では明確に名前も上がらなかった場所だ。なのになぜこの場所で打ち上げになるのか? ハンター達の顔には間違いなく戸惑いが含まれている。
「改めて、4区画の説明をしておこうか。勿論、理由はあるから。少しだけ付き合ってくれるかい?」
エルフハイムの中でも最も重要とされているのは最奥地、森の中心とも呼べるオプストハイム。しかしここは神霊樹があることもあり、外部の存在を受け入れるには理由がないと難しい。なにより外に出ることを選ばない恭順派を今も唱えているご長寿のエルフ達が非常に多い。シャイネの両親もまたこの区画の住人である。
「まあ、どうしても人手が足りないって最近ハンターを呼んだりもしているけれどね♪」
これも上層部が変わったからだろうね。
「現状で一番名前が売れているのがナデルハイムになるかな。帝都に近い位置にあるのも理由だけれど、ここは長老会のトップを担っているユレイテル君が以前から外部に向けて開いてきたからね。宿泊施設も、初期に比べたら随分と過ごしやすくなったはずだよ」
維新派の者達が今も精力的に活動している。なおここで売っている外部向けの土産物を、今はAPV温泉に置かせてもらっていたりと随分と流通量が増えた。長老の名前と共に、森都の中の区画として上がりやすくなった地名だと思う。
「以前、皆に行ってもらったのがブラットハイムだけど。……説明は少なくても良さそうかな?」
第三師団の駐留都市であるマーフェルスに近い区画。ナデルと比べると食料系の生産が多いのも特徴で、今は本来の生産量が判明し、人手を補充したことで(特に)林檎関連の流通は随分と軌道に乗りはじめている。
「それで……主だった4区画の中で一番知名度が低いのが、今回のツヴァイクハイムだよ」
第五師団の駐留都市であるグライシュタットに近い区画であり、一番問題が起きにくく目立ったことのない場所。ブラットと同様に恭順派と維新派が混在している区域なのだが、他に比べると特徴が少ない。
「言葉を選ばず言うとね? 維新と恭順の対立に疲れて、日和見がちになった子達が多いんだ。中立派、って自称する子が居たりしてね」
ある意味で最も平和な区画。
「……だから、もう少しエルフハイムとしての知名度をあげたいって気持ちが少なからずあるんだけど……」
間をあけるシャイネ。それが逡巡によるものなのか、勿体ぶっているのか。その表情からは読み取ることができない。
「昔から、変化なり干渉なりに寛容で……むしろ放任気味で……」
うん。一度頷いてからハンター達の顔を見回す。
「あの人がエルフハイムを出奔する前に使っていた最後の拠点、ここにあるんだよね♪」
つまり、ヴォールがかつて生活していた小屋が、今回の打ち上げ会場なのである。
●細々
エルフハイム側での調査は終わっており、目ぼしいものは既に回収が終わっている。今回の仕事に関わったメンバーくらいなら収容できる広さがあるからこそ、この一連の仕事の区切りに相応しい場所だと考えた。そう伝えてから、いくつかの情報を取り出していく。
「飲食に関してはナデルの宿泊施設で働いてくれてる子に頼んで、充分なものを出してもらうから。そのあたりは心配しないで大丈夫だよ♪」
逆に、宿泊出来る部屋の確保は出来ても寝具の問題があるとのことで。
「ナデルならベッドが揃っているけど……ハンモックになるから、そこは申し訳ないね」
部屋割りは事前に相談しておいてくれると助かると、諸注意を終える。しかし手元の情報量はそれ以外にもあるようで。
「……まあ、総評みたいなものになるのだけれどもね?」
ハンター達、そしてエルフハイム側で編成した調査隊がかき集めた情報。それらの精査した結果が纏められたもの。
「出せる情報は、ここで先に皆に話しておくね。それ以外でも知りたいとか、疑問がある場合は、今回ユレイテル君が現地で合流できるらしいから」
そこで直接訪ねてくれるかな?
●調査結果
・拠点
探索に当たった地域に必ず一つは拠点と呼べる小屋がみつかった
生活に必要な最低限の機能を備えている以外、大きな情報源となるものは見つかっていない
・蝙蝠型剣機
合計で6体が発見され、全て討伐に成功
拠点から出てきた所に遭遇した個体については、討伐後拠点を調べたものの、記録媒体と思われる物体がすべて破壊されていた
蝙蝠型そのものの捕縛にも挑んだが、捕縛直後に自爆された
・湖水を引き込んで作られた、汚染されたため池
巫女の協力の元確かめた結果、内部に汚染源とみられる物体が確かに沈められていた
汚染弾頭ほどの能力はないが、時間をかけて汚染するタイプと考えられる
現在は浄化済
・楔らしきもの
実験として、この物体に挟まれた区間を通った者は皆「なぜか嫌な予感がする」と答えた
その配置を考えると、ヒト避けとして使っていたと考えられる
森都の警備面の都合で詳細は省くが、結界林に似た仕組みが利用されているところまでは解析済
・機械パーツ
歪虚として結合させる前に放棄されたものと判明
・崩壊させられた地下洞窟
剣機の製造に十分な広さがあると判明
しかし、機械的な部品は、建材に類するものさえも全く残っていなかった
傷跡は過去に見つかった剣機の試動によるものと判定
中でも最も新しいものはアラクネ型、アラヴルム型のものと考えられるため、例の群を製造した拠点の跡地と判断
・研究とは関係のない走り書きのメモ
日誌レベルの内容のみ
研究関連のデータは全てデータ化してデバイス等に保存していたと考えられる
リプレイ本文
●家
(私はエルフじゃないから思想の異端性はわからない)
しかしあくまでもクレール・ディンセルフ(ka0586)自身の立場、鍛冶師であり機導師という視点から見れば。
(間違っていると断言はできない)
少なくとも、意思もしくは意欲と呼ぶそれに限られはするが。歪虚側に組することになる経緯、歩んだ道は、決して相容れるものではない。
(認められるわけがない。でも……ゴールは、わかる)
より高みを目指したのだということは、解ってしまった。
「……それも、今だからだよね」
相手が既に故人だからこそだということは、よくわかっていた。
(ツヴァイクハイム……なんにも無くて、なんでも有る場所……)
願望の是非が道を分けるのだと、周囲へ視線を巡らせ続けるエルティア・ホープナー(ka0727)。バランスを崩そうとも幼馴染の手が自然と支えてくれるからこそできることだ。
「さて。家を見ればその人となりがわかる、とは言うけれど」
本棚へと向かうシルヴェイラ(ka0726)の視界に入り込む家具に統一性はない。そもそも最低限を誂えたのではなく適当に並べただけとも言えるそれらからセンスや趣味嗜好を窺うような余地はなく、ただどこまでも研究馬鹿だったのだとわかるだけだ。
(案外……すっきりしているってことかな)
ユリアン(ka1664)自身、抱えていたものがなくなって軽くなったように感じていた。無自覚に枷のように思っていたのだろうか。
まだ空を駆ける事も出来なかった頃から、敵として追い続けた数年はある意味で充実していたが、今は?
進むべき場所を見失っているようにも感じられるのは……血か、それとも環境か……
(きっと憑かれてたんだ、俺も)
重ねる根拠、真星を鞘の上から一撫で。己の中の落ち着けない部分を巻き込みながらきっと、呼応していた。そう思えば、説明が付けられる気がして。
ドライフルーツと蓋つきのカップに入った香草茶をお供にハンモックに揺られる東條 奏多(ka6425)。差し込む陽射しは昼寝には丁度いい温もりをもたらしてくれるおかげで、微睡みの中に簡単に誘い込まれていく。
(……目新しいものはなかった、ってことでいいか)
傍らには借り受けた報告書の束。オフィスでは口頭だったが、正確な順番で、細部まで読み通せば何か見つかるかもしれないし、なにより関わった責任として、知っておくべきだと思ったのだ。
読み終えた上で強いて言うならば、例の地下洞窟の大きさだろうか。これまでに目撃情報があった剣機のなかでも、リンドヴルムの製造が可能な大きさは確保されていたようだ。
(以前はずっと騎乗していたんだろうに、そいつもどうしたんだか)
推測は出来るが、それだけだ。答え合わせは望めない。
(ま、数だけは多かったわけだからな……ゆっくり休養させてもらおうじゃないか。ようやく剣機の面倒事も片付いたしな)
あとは日誌でも……その思考は沈んでいく。あとで、見つけ出した仲間に借りればいいと睡魔が囁いてすぐ、穏やかな寝息が続いた。
背表紙はありきたりなものばかり、ならばとノートのようなものを捲る。部屋を見る限り研究記録はないだろうから、他愛のない日記でも何でも良いのだ。
頁一枚に一言だけの時もあるくらい簡素な内容はすぐに読み終わってしまう。うっかり押しやられた紙片でも見つからないだろうかと、エアは本棚の奥へと隙間に手を差し入れていく。
「想像することしか出来ない他人の人生……それでも、関与できたなら……」
今は勝手に受け取るだけだけれど。ほんの欠片であっても、ソレはエアの物語としてページが増えていく。
隣に立つシーラも、かろうじて残る書物へ手を伸ばす。
見覚えのあるタイトルであろうと、何かしら挟み込まれている可能性だって捨てきれない。頁を捲る前に、側面上部から束を見つめる。整えられているはずの束の中に歪みがあればそこを。なくても初めから目を通せばいいのだ。
流石に折り癖は無いが、頁に描かれたそれと同じ草が挟み込まれて居るのを見つけた時は笑ってしまった。
機械の類が置かれていた気配のない部屋を見たクレールは、以前聞いた過去を思い出す。
(ヴォールの研究には幾つかのブレイクスルーがあった)
森の恵み、伝えられ編み続けられた技術から、いつしか機械へ。着目したまでは良いと思う。新しい風を呼ぶ刺激となったのだろうから。
(だからこそ、認めたくない)
歪虚との契約、剣機にのめり込み研キと化したその道を。
(私が会ったのが精霊で、ヴォールにはそれが歪虚だった。それだけの差だけど)
あくまでも可能性として、自分にも近い道があったことに気付きながら『それだけ』を全否定してきたのだ。改めて、選んだ道を進み続けなければいけない、その責任の重みを感じる。
●これから
「面白いものは見つかったかい?」
エアの意識に淹れたての珈琲の香りと声が届く。近くに居た者達にも良かったらと勧め、シーラは自分用に確保したカップへも注いだ。
気の向くままに過ごしていた者達が食事室へと集まっていく、そろそろ夕食の頃合いだ。
(はじめから、いい印象は持ってないのですが……)
元々、深いところまでは知らないままだった。ただ切欠があり、そこに寄り添うために繋いだ縁だったとルナ・レンフィールド(ka1565)は思う。
(区切りの今だからこそ……ちょっと足跡を聞いてみたいですね)
あくまでも聞き手だからと、Suiteを爪弾く手元は穏やかに。無意識下でも奏でられるほど馴染んだ旋律を手の動きに任せながら、耳を、目を、心を。語られる言葉へと傾ける。
「隣、いいかな?」
森都の林檎と王国産のワインで作ったコンポートを見せれば、シャイネの目が細められる。
「僕らの縁みたいだね?」
意味深な言葉はわざとだと分かる程度には付き合いがある。薄く微笑んで労えば、同じ言葉を返される。
「……暫くはこのままで良い気がするよ」
このツヴァイクも、罪人が出たブラットも。
「全てが急に変化すればそれはそれで疲れるから」
既にナデルがある。区画ごとに役割が違ってもいい。
「それとも、払拭……したい?」
歪虚病について、その進退に関わるのなら。このまま変化し続けることが正しいとは言い切れない可能性もあると思うから。
(今はそれどころじゃないかもしれないけど)
言葉を待つ間に考えを整理する。
「思想はなんでも良かったんだ」
いつもの茶化すような笑みだが、目に宿る光は違っている。
「僕が自由に過ごすには、ユレイテル君の考えが一番都合が良かったんだよ。前から言っている通り、僕は、ハンターだからね♪」
「それを理解した上で、今は私の下についてもらっているわけだ」
溜息混じりに長老が割り込む。
「歪虚病は我らにとって命題過ぎてな、根治は厳しいというのが現実だ」
溢された計画は、最奥地に保養所を作る案。
持ち込まずとも揃えられていたシードルに舌包みをうちながら、さて弔い酒と呼ぶのだろうかとヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は首を傾げる。
「……あくまでも『みたいなもん』なのじゃろうな。アルコールを摂取する様子がちらとも思い浮かばん」
良くも悪くも研究にしか興味がない男だった。少しでも関連付ければ興味を惹けるという意味では単純だったとも言えるのだろう。
「どれも戦闘中の記憶じゃし、ゆっくり話をするなんて機会がある方がおかしいのじゃ」
それでも。リッターの事をふまえればまだ言葉を交わせた方なのかもしれない。
「……変な仇名で呼ばれた記憶が強烈すぎる気もするのじゃ」
名乗った筈なのだが。それも複数回。名よりも長い呼びかけはどんな意味があったのやら。
「確かにやたら格好つけた呼び方だったな」
素直に褒めるなんて知らなかったんだろうと奏多の相槌。
「効率化を唱えた研究者ではなかったのかのぅ? ……たまに思うのじゃよ。もっと知っておけばよかったかなとも」
当時は情がわいてしまうからと気にしなかったが。今はその執着が知りたくなっていた。だからこそ探索にも向かったし、今もこの場に参じている。
「ねぇユレイテル? 溜池を汚染してどうしたかったのかしら」
状況からの推測だと前置かれ勿論だと頷くエア。
「劇的な変化をもたらすかの術とは別……それ以前に考えられたものだと思う」
気付きにくい程度にゆっくりと汚染させるための手段。経過観察記録が見つかったようで、その実験のための場所だったのだろうと考えられる。
完成すれば設置するだけ。しかし途中で気付かれない為の仕掛けは必要だったのだろう、それがあのヒト避けだとするなら。
「ねぇ……それは、未完成だったのよね?」
「ああ。記録は途中で終わっていた。他の方法に切り替えたあと、あえて残しておいたのか、切り捨てたのかまではわからないが」
推測が正しいとするなら。経ていた時間を考えれば、汚染の度合いはひどく強いものではなかった。彼の言葉を借りるなら、きっと『非効率的』ゆえに……
「効率化は、いつから言い始めたのか、記録はないのかえ?」
はたと首を傾げるヴィルマ。ほんの思い付きではあるが。堕ちるより前、浄化術の研究者であったころから口癖となっていた言葉。なら、根本は?
「ヴォールの術を反転したり一部をうまく転用すれば、何かエルフに……エルフに限らずとも役立つ技術になったりはしないかのぅ」
始めこそ、その考えはヴォールにとって不本意だろうと思っていたが。
「我らが役立てたら、それはある意味で本懐なのかもしれぬ」
想像の上だけでもあの男が悔しがるならと考えていたが。実現はともかく。もし、はじまりの意思に沿う結果になった場合は……勝者は誰になるのだろうか?
「光を恐れた王様は、永久機関を望みます……♪」
請われたシャイネが朗々と紡ぎ出す。子供にやさしい童話調になっていても、それが盛大に皮肉を込めたものだと皆が理解していた。物語の根幹にあるその言葉は、もしかすれば。かつて兄が溢した言葉なのかもしれない。
「……王様、次第に過去の人、一人ぼっちの王様の、望みは永久に暗闇に……♪」
「まったく。我らが気をつかった意味はあったのかのぅ?」
終わりまで余さず皮肉がこもっていたその詩に、ヴィルマがそう零すのも仕方ないだろう。
話やすい雰囲気作りのために静かめの曲を選んでいたが、其々が落ち着く時間へと変わっている。
エアの奏でるフルートの音色が重なる。数フレーズの間は確かめて、癖を把握してから音を更に絡ませる。
互いに慣れた頃合いに視線を併せ、ルナはもう一つの楽器へと視線を向けた。
頷きあって、持ちかえる。
パラレルフォニックが支える旋律は、穏やかな眠りへと皆を誘ってくれるだろうか?
トドメという形で送り出したのはもう数か月も前の事だ。
(今更音色で鎮めようとしたところで、きっと面白くもなんともないでしょう?)
鎮魂歌という選択肢はエアの中に始めからなかった。相応しさを考えるとするなら、それは。
(夢想曲なら皮肉にはなるかしら)
きっとあの耳障りな笑い方で迎えるのだろう。純粋で愚かで、可哀想なあの男のことだから。
(来世ではちゃんと私達を待ってなさい)
当たり前のようにシーラもそこに在るはずだと決めつけて。ありえない可能性を悔いるくらいなら次へと願いを籠める。
重なり合う二つの音をベースに捉えながらも、ノーチソーンの音をより強く脳裏へと誘い込むシーラ。
いつもなら共に奏でる側。より深く音を終えるというのも、たまにだからこそ贅沢に思えて。音で寄り添うのではなく、己の中を彼女の音で満たす。
無意識に持ち込んでしまっていた竪琴に手が延びそうになるけれど。自分とは違う組み合わせで、音の寄り添い方にも違いがあることに気付いてからは落ち着けた。
ふと見上げた天井は、鍛冶工房のそれに似ているように感じた。瞼を降ろしても、意識は冴えるばかり。可能性と将来と、考えるべきことが頭の中をぐるぐるとめぐり続けて視界を塞ぐ程度では止まる気配がない。
(でも……眠ることが。休むことが。更に先に進む力をまた蓄える方法なんだ)
耳に届く音色に意識を向ける。身を委ねて、ただその音だけを楽しもうと願えば。少しずつ他の考えが静かになっていく。
(これなら、眠れるかな)
女性用としてわけた寝室へ、クレールは足を向けた。
●願わくば穏やかな夜を
時間や情勢が違えば、掛け違えられた何かは別の結果に至ったのかもしれない。そう思わされて。
(バランスをとるための何かが必要なのかもしれない)
自分にとってのそれが何か、見つけられればいいとユリアンは思う。迷い乍らであっても、いつか。
「……あの」
背に呼びかければ、それだけで足をとめてくれる。ルナはそう大きな声を出したつもりは無い。決まった言葉の用意なんてしていない。ただ少し、このタイミングで。貴方の話を、言葉を少しでもいいから聞きたかったから。
(想いがあるのを知ってるから)
今日だって、視線で煩くならない程度に。話している様子はずっと気に留めていて……少しでも、得られるものがあったのか。聞いても良いのなら。
面倒な人だって知った上で、それでも力になりたいと伝えた今。少しでも、その意思が、想いが届いたらいいと、そんな淡い欲も込めている。
「お疲れ様でした」
区切りの今、また新しい穴を抱えているのではないかなんて勝手に予想して。その隙間に届くように言葉に微笑みを添える。
「……」
どこか呆けたような表情に不意を突けたらしいと気付く。
「えっと……うん、ありがとう。ルナさんも、ね」
「はい、おやすみなさい。……また明日」
笑顔が勝手に深いものになるのは仕方ないと思う。
街とも、故郷とも違う星空はそれだけで明るい。
「……こんな星の下で何を思っていたんだろうな」
言葉にはしてみたが、別に理解したいわけではない。一見生き急いでいるようにも見えたあの男だ。身近な綺麗なものよりも研究に勤しみ、充実した毎日だったかもしれないわけで。
こうしてゆっくり過ごす機会はもうない可能性だってある。
(まあ、俺の気のせいかもしれないが)
酔い覚ましも兼ねた散歩もそろそろ終わりにしよう。予想より寝心地の良かったハンモックが、再び奏多を待っている。
ハンモックの僅かな揺れに身を任せた彼等の下に、灯とりの窓から齎された星明りが瞬いている。
(さしものヴォールでも化けて出るのは無理か)
(……急がずともみつけられそう、かな)
(さて、次はいつだろうな?)
(反面……教師……ッ)
(バカな人よね……寂しいと言えないまま……大人、に……)
(眠って起きたら、また、すぐに)
(殴り足りぬ、なんて今更じゃな……)
男女別の部屋それぞれから、想いが漏れる。夜の帳が少しずつ、夢へと旅立たせていった。
(私はエルフじゃないから思想の異端性はわからない)
しかしあくまでもクレール・ディンセルフ(ka0586)自身の立場、鍛冶師であり機導師という視点から見れば。
(間違っていると断言はできない)
少なくとも、意思もしくは意欲と呼ぶそれに限られはするが。歪虚側に組することになる経緯、歩んだ道は、決して相容れるものではない。
(認められるわけがない。でも……ゴールは、わかる)
より高みを目指したのだということは、解ってしまった。
「……それも、今だからだよね」
相手が既に故人だからこそだということは、よくわかっていた。
(ツヴァイクハイム……なんにも無くて、なんでも有る場所……)
願望の是非が道を分けるのだと、周囲へ視線を巡らせ続けるエルティア・ホープナー(ka0727)。バランスを崩そうとも幼馴染の手が自然と支えてくれるからこそできることだ。
「さて。家を見ればその人となりがわかる、とは言うけれど」
本棚へと向かうシルヴェイラ(ka0726)の視界に入り込む家具に統一性はない。そもそも最低限を誂えたのではなく適当に並べただけとも言えるそれらからセンスや趣味嗜好を窺うような余地はなく、ただどこまでも研究馬鹿だったのだとわかるだけだ。
(案外……すっきりしているってことかな)
ユリアン(ka1664)自身、抱えていたものがなくなって軽くなったように感じていた。無自覚に枷のように思っていたのだろうか。
まだ空を駆ける事も出来なかった頃から、敵として追い続けた数年はある意味で充実していたが、今は?
進むべき場所を見失っているようにも感じられるのは……血か、それとも環境か……
(きっと憑かれてたんだ、俺も)
重ねる根拠、真星を鞘の上から一撫で。己の中の落ち着けない部分を巻き込みながらきっと、呼応していた。そう思えば、説明が付けられる気がして。
ドライフルーツと蓋つきのカップに入った香草茶をお供にハンモックに揺られる東條 奏多(ka6425)。差し込む陽射しは昼寝には丁度いい温もりをもたらしてくれるおかげで、微睡みの中に簡単に誘い込まれていく。
(……目新しいものはなかった、ってことでいいか)
傍らには借り受けた報告書の束。オフィスでは口頭だったが、正確な順番で、細部まで読み通せば何か見つかるかもしれないし、なにより関わった責任として、知っておくべきだと思ったのだ。
読み終えた上で強いて言うならば、例の地下洞窟の大きさだろうか。これまでに目撃情報があった剣機のなかでも、リンドヴルムの製造が可能な大きさは確保されていたようだ。
(以前はずっと騎乗していたんだろうに、そいつもどうしたんだか)
推測は出来るが、それだけだ。答え合わせは望めない。
(ま、数だけは多かったわけだからな……ゆっくり休養させてもらおうじゃないか。ようやく剣機の面倒事も片付いたしな)
あとは日誌でも……その思考は沈んでいく。あとで、見つけ出した仲間に借りればいいと睡魔が囁いてすぐ、穏やかな寝息が続いた。
背表紙はありきたりなものばかり、ならばとノートのようなものを捲る。部屋を見る限り研究記録はないだろうから、他愛のない日記でも何でも良いのだ。
頁一枚に一言だけの時もあるくらい簡素な内容はすぐに読み終わってしまう。うっかり押しやられた紙片でも見つからないだろうかと、エアは本棚の奥へと隙間に手を差し入れていく。
「想像することしか出来ない他人の人生……それでも、関与できたなら……」
今は勝手に受け取るだけだけれど。ほんの欠片であっても、ソレはエアの物語としてページが増えていく。
隣に立つシーラも、かろうじて残る書物へ手を伸ばす。
見覚えのあるタイトルであろうと、何かしら挟み込まれている可能性だって捨てきれない。頁を捲る前に、側面上部から束を見つめる。整えられているはずの束の中に歪みがあればそこを。なくても初めから目を通せばいいのだ。
流石に折り癖は無いが、頁に描かれたそれと同じ草が挟み込まれて居るのを見つけた時は笑ってしまった。
機械の類が置かれていた気配のない部屋を見たクレールは、以前聞いた過去を思い出す。
(ヴォールの研究には幾つかのブレイクスルーがあった)
森の恵み、伝えられ編み続けられた技術から、いつしか機械へ。着目したまでは良いと思う。新しい風を呼ぶ刺激となったのだろうから。
(だからこそ、認めたくない)
歪虚との契約、剣機にのめり込み研キと化したその道を。
(私が会ったのが精霊で、ヴォールにはそれが歪虚だった。それだけの差だけど)
あくまでも可能性として、自分にも近い道があったことに気付きながら『それだけ』を全否定してきたのだ。改めて、選んだ道を進み続けなければいけない、その責任の重みを感じる。
●これから
「面白いものは見つかったかい?」
エアの意識に淹れたての珈琲の香りと声が届く。近くに居た者達にも良かったらと勧め、シーラは自分用に確保したカップへも注いだ。
気の向くままに過ごしていた者達が食事室へと集まっていく、そろそろ夕食の頃合いだ。
(はじめから、いい印象は持ってないのですが……)
元々、深いところまでは知らないままだった。ただ切欠があり、そこに寄り添うために繋いだ縁だったとルナ・レンフィールド(ka1565)は思う。
(区切りの今だからこそ……ちょっと足跡を聞いてみたいですね)
あくまでも聞き手だからと、Suiteを爪弾く手元は穏やかに。無意識下でも奏でられるほど馴染んだ旋律を手の動きに任せながら、耳を、目を、心を。語られる言葉へと傾ける。
「隣、いいかな?」
森都の林檎と王国産のワインで作ったコンポートを見せれば、シャイネの目が細められる。
「僕らの縁みたいだね?」
意味深な言葉はわざとだと分かる程度には付き合いがある。薄く微笑んで労えば、同じ言葉を返される。
「……暫くはこのままで良い気がするよ」
このツヴァイクも、罪人が出たブラットも。
「全てが急に変化すればそれはそれで疲れるから」
既にナデルがある。区画ごとに役割が違ってもいい。
「それとも、払拭……したい?」
歪虚病について、その進退に関わるのなら。このまま変化し続けることが正しいとは言い切れない可能性もあると思うから。
(今はそれどころじゃないかもしれないけど)
言葉を待つ間に考えを整理する。
「思想はなんでも良かったんだ」
いつもの茶化すような笑みだが、目に宿る光は違っている。
「僕が自由に過ごすには、ユレイテル君の考えが一番都合が良かったんだよ。前から言っている通り、僕は、ハンターだからね♪」
「それを理解した上で、今は私の下についてもらっているわけだ」
溜息混じりに長老が割り込む。
「歪虚病は我らにとって命題過ぎてな、根治は厳しいというのが現実だ」
溢された計画は、最奥地に保養所を作る案。
持ち込まずとも揃えられていたシードルに舌包みをうちながら、さて弔い酒と呼ぶのだろうかとヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は首を傾げる。
「……あくまでも『みたいなもん』なのじゃろうな。アルコールを摂取する様子がちらとも思い浮かばん」
良くも悪くも研究にしか興味がない男だった。少しでも関連付ければ興味を惹けるという意味では単純だったとも言えるのだろう。
「どれも戦闘中の記憶じゃし、ゆっくり話をするなんて機会がある方がおかしいのじゃ」
それでも。リッターの事をふまえればまだ言葉を交わせた方なのかもしれない。
「……変な仇名で呼ばれた記憶が強烈すぎる気もするのじゃ」
名乗った筈なのだが。それも複数回。名よりも長い呼びかけはどんな意味があったのやら。
「確かにやたら格好つけた呼び方だったな」
素直に褒めるなんて知らなかったんだろうと奏多の相槌。
「効率化を唱えた研究者ではなかったのかのぅ? ……たまに思うのじゃよ。もっと知っておけばよかったかなとも」
当時は情がわいてしまうからと気にしなかったが。今はその執着が知りたくなっていた。だからこそ探索にも向かったし、今もこの場に参じている。
「ねぇユレイテル? 溜池を汚染してどうしたかったのかしら」
状況からの推測だと前置かれ勿論だと頷くエア。
「劇的な変化をもたらすかの術とは別……それ以前に考えられたものだと思う」
気付きにくい程度にゆっくりと汚染させるための手段。経過観察記録が見つかったようで、その実験のための場所だったのだろうと考えられる。
完成すれば設置するだけ。しかし途中で気付かれない為の仕掛けは必要だったのだろう、それがあのヒト避けだとするなら。
「ねぇ……それは、未完成だったのよね?」
「ああ。記録は途中で終わっていた。他の方法に切り替えたあと、あえて残しておいたのか、切り捨てたのかまではわからないが」
推測が正しいとするなら。経ていた時間を考えれば、汚染の度合いはひどく強いものではなかった。彼の言葉を借りるなら、きっと『非効率的』ゆえに……
「効率化は、いつから言い始めたのか、記録はないのかえ?」
はたと首を傾げるヴィルマ。ほんの思い付きではあるが。堕ちるより前、浄化術の研究者であったころから口癖となっていた言葉。なら、根本は?
「ヴォールの術を反転したり一部をうまく転用すれば、何かエルフに……エルフに限らずとも役立つ技術になったりはしないかのぅ」
始めこそ、その考えはヴォールにとって不本意だろうと思っていたが。
「我らが役立てたら、それはある意味で本懐なのかもしれぬ」
想像の上だけでもあの男が悔しがるならと考えていたが。実現はともかく。もし、はじまりの意思に沿う結果になった場合は……勝者は誰になるのだろうか?
「光を恐れた王様は、永久機関を望みます……♪」
請われたシャイネが朗々と紡ぎ出す。子供にやさしい童話調になっていても、それが盛大に皮肉を込めたものだと皆が理解していた。物語の根幹にあるその言葉は、もしかすれば。かつて兄が溢した言葉なのかもしれない。
「……王様、次第に過去の人、一人ぼっちの王様の、望みは永久に暗闇に……♪」
「まったく。我らが気をつかった意味はあったのかのぅ?」
終わりまで余さず皮肉がこもっていたその詩に、ヴィルマがそう零すのも仕方ないだろう。
話やすい雰囲気作りのために静かめの曲を選んでいたが、其々が落ち着く時間へと変わっている。
エアの奏でるフルートの音色が重なる。数フレーズの間は確かめて、癖を把握してから音を更に絡ませる。
互いに慣れた頃合いに視線を併せ、ルナはもう一つの楽器へと視線を向けた。
頷きあって、持ちかえる。
パラレルフォニックが支える旋律は、穏やかな眠りへと皆を誘ってくれるだろうか?
トドメという形で送り出したのはもう数か月も前の事だ。
(今更音色で鎮めようとしたところで、きっと面白くもなんともないでしょう?)
鎮魂歌という選択肢はエアの中に始めからなかった。相応しさを考えるとするなら、それは。
(夢想曲なら皮肉にはなるかしら)
きっとあの耳障りな笑い方で迎えるのだろう。純粋で愚かで、可哀想なあの男のことだから。
(来世ではちゃんと私達を待ってなさい)
当たり前のようにシーラもそこに在るはずだと決めつけて。ありえない可能性を悔いるくらいなら次へと願いを籠める。
重なり合う二つの音をベースに捉えながらも、ノーチソーンの音をより強く脳裏へと誘い込むシーラ。
いつもなら共に奏でる側。より深く音を終えるというのも、たまにだからこそ贅沢に思えて。音で寄り添うのではなく、己の中を彼女の音で満たす。
無意識に持ち込んでしまっていた竪琴に手が延びそうになるけれど。自分とは違う組み合わせで、音の寄り添い方にも違いがあることに気付いてからは落ち着けた。
ふと見上げた天井は、鍛冶工房のそれに似ているように感じた。瞼を降ろしても、意識は冴えるばかり。可能性と将来と、考えるべきことが頭の中をぐるぐるとめぐり続けて視界を塞ぐ程度では止まる気配がない。
(でも……眠ることが。休むことが。更に先に進む力をまた蓄える方法なんだ)
耳に届く音色に意識を向ける。身を委ねて、ただその音だけを楽しもうと願えば。少しずつ他の考えが静かになっていく。
(これなら、眠れるかな)
女性用としてわけた寝室へ、クレールは足を向けた。
●願わくば穏やかな夜を
時間や情勢が違えば、掛け違えられた何かは別の結果に至ったのかもしれない。そう思わされて。
(バランスをとるための何かが必要なのかもしれない)
自分にとってのそれが何か、見つけられればいいとユリアンは思う。迷い乍らであっても、いつか。
「……あの」
背に呼びかければ、それだけで足をとめてくれる。ルナはそう大きな声を出したつもりは無い。決まった言葉の用意なんてしていない。ただ少し、このタイミングで。貴方の話を、言葉を少しでもいいから聞きたかったから。
(想いがあるのを知ってるから)
今日だって、視線で煩くならない程度に。話している様子はずっと気に留めていて……少しでも、得られるものがあったのか。聞いても良いのなら。
面倒な人だって知った上で、それでも力になりたいと伝えた今。少しでも、その意思が、想いが届いたらいいと、そんな淡い欲も込めている。
「お疲れ様でした」
区切りの今、また新しい穴を抱えているのではないかなんて勝手に予想して。その隙間に届くように言葉に微笑みを添える。
「……」
どこか呆けたような表情に不意を突けたらしいと気付く。
「えっと……うん、ありがとう。ルナさんも、ね」
「はい、おやすみなさい。……また明日」
笑顔が勝手に深いものになるのは仕方ないと思う。
街とも、故郷とも違う星空はそれだけで明るい。
「……こんな星の下で何を思っていたんだろうな」
言葉にはしてみたが、別に理解したいわけではない。一見生き急いでいるようにも見えたあの男だ。身近な綺麗なものよりも研究に勤しみ、充実した毎日だったかもしれないわけで。
こうしてゆっくり過ごす機会はもうない可能性だってある。
(まあ、俺の気のせいかもしれないが)
酔い覚ましも兼ねた散歩もそろそろ終わりにしよう。予想より寝心地の良かったハンモックが、再び奏多を待っている。
ハンモックの僅かな揺れに身を任せた彼等の下に、灯とりの窓から齎された星明りが瞬いている。
(さしものヴォールでも化けて出るのは無理か)
(……急がずともみつけられそう、かな)
(さて、次はいつだろうな?)
(反面……教師……ッ)
(バカな人よね……寂しいと言えないまま……大人、に……)
(眠って起きたら、また、すぐに)
(殴り足りぬ、なんて今更じゃな……)
男女別の部屋それぞれから、想いが漏れる。夜の帳が少しずつ、夢へと旅立たせていった。
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【相談卓】振り返る想い エルティア・ホープナー(ka0727) エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/03/29 06:13:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/03/24 22:47:27 |
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ちょっと聞いてみたい卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2019/03/28 01:19:11 |