• 王戦

【王戦】昏く永い夜の果てに

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
多め
相談期間
7日
締切
2019/05/31 22:00
完成日
2019/06/12 20:32

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●説明不能の感情
 浮遊大陸に人間達が攻め込んできた、という報せを聞いて、レッドバック(kz0217)はただ、そうか、と言った。
「そうかって……どうするのだ?」
「迎撃に出る」
 報せをもたらしたアドナヴァにレッドバックは短く答えた。
 偵察という数ではなかった。なにせ船一隻飛ばしてきているという。
 しかし、そう簡単に突破されるとも思えない。
 この浮遊大陸が攻略できるわけがない。
 だから、すぐに終わるだろうと思っていた。

 ──その時は。

 後になって胸騒ぎがしてきた。
 それはだんだんと大きくなってくる。
 その理由は、あらゆることを理論で説明づけるレッドバックでさえ、わからなかった。



 機械化歪虚兵団『ラトロデクトゥス』。
 レッドバックの手により、イヴが所有していた古代文明の機械と融合した歪虚の兵達。
 違った装備・特性を持たせることで役割分担が可能な、集団での運用を想定している。
 レッドバックはかれらに召集をかけた。

 そしてマテリアル兵器『ハッセルティ』。
 浮遊大陸に立ち込める負のマテリアルを操作し、攻撃に転用する装着。
 法術陣にヒントを得て開発された兵器で、法術陣に比べれば極めて限定的な範囲ではあるが、それでも範囲攻撃としては破格の広さの、範囲内の歪虚以外の存在に損害を与えることができる。
 発動には手動で操作する必要があり、効果も一瞬ではあるが、負のマテリアルがある限りは何度でも作動することが可能だ。

「ドクター……そこまで準備するのか」
 アドナヴァも事態を重く見ていなかったのか、少し意外そうに言った。
「最大の戦力をもって迎撃し、敵の戦力を減らす」
 レッドバックは早口で答えた。
「…………それは研究者としてか? それとも歪虚としてか?」

 言われてから気がついた。
 自分は──試験ではなく、戦いに挑もうとしているのだと。

 こんなことは初めてだった。



●尽きぬ暗闇
 どこまで行っても暗い──。

 イヴまでの道程を確保するために、ハンターの一行は進軍していた。いくつかの集団があったが、その中の一つの集団が、暗い通路を進んでいた。
 とにかく暗かった。いくら進んでも、先は闇に閉ざされている。
 通路とはいえ、十人が横並びになれるくらいには広いものだった。とはいえ、これだけの人数がいたのでは、ユニットや乗り物に騎乗するだけの余裕はない。

 音が聞こえた。
 一行は臨戦体制に入る。
 すぐさま暗闇の向こうから、凄まじい速さで何かが、複数の何かが突っ込んでくる。
 前後からだった。
 ほぼ同時に、唐突に負のマテリアルが濃くなった。



(今日は講釈を垂れることもしないのか……?)
 戦闘が開始されたのを見て、アドナヴァは思う。今日のレッドバックは、どこか違っていた。
 意外なほどに、その行動に納得がいった。
 自分ならこうする、ということをレッドバックはしている。
(……ここにきてようやく自分の立場というものを理解できたか)
 アドナヴァはそう解釈した。

 レッドバックはそんな事は考えていない。

 ただ、敵の動きがどう動いてくるか。
 頭の中でいくつもの仮説を挙げ、それに対する対処法を考えていた。

●深き闇の中で踊れ
「敵だ!」
 真っ先に叫んだのはヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)。
 イヴ攻略作戦が発動された今、少しでも多くの戦力をイヴのもとへ送り届けるため、ここに来ていた。
 今、王都は敵の侵攻を受けているはずだ。
 そこでは仲間達が戦っている。
 ヤーグ、アハズヤ、フロッグ、閃姫、フラール、ヴルサリコ、カラグニス、ディルク、イェレ、レーニエ、イサ……愉愚泥羅のメンバー達。
 スフォルツァ子爵より援軍として送られて来てくれた、ジョセファと光貴なる盾の面々。
 アイドル・ハンター『ヒュペリ』の面々……リベル、ヴェレス、ミスラス、ケプリ、ソール、ネイト。
 何故かバイク(※ヘザーの)に乗って現れたユグディラ・トリオ。
 メッテルニヒとかいう変態だけどやたら強いおっさん。
 ヴィオラ。プラトニス様。アダム・マンスフィールド。ゲオルギウス騎士団長。セドリック大司教。アホのヘクス。
 騎士団の皆。聖堂戦士団の皆。そして大勢のハンター仲間達。
 そして何より──女王陛下。

 皆のためにも勝って帰る。
 気づいた時には叫んでいた。
「王国の民、ヘザー・スクロヴェーニ!
 推して参る!」

 ──それに応える者がある。
「我が名はアドナヴァ! イヴ様の臣なり!
 貴公らの命、ここで貰い受ける!」

 飛び出したアドナヴァ。
 繰り出される剣を、ヘザーはプロミネント・グリムの手甲で受けた。

 同時に叫んでいた。
「女王陛下のために!!!」「イヴ様のために!!!」
 両者の雄叫びが、空間を熱くする。

 決戦の時だ。



(非論理的な事だが……
 高揚しているのか、私は?
 全力で戦ってなお、勝てるかわからない相手に挑むという事で?
 そもそも、この人間たちがそうだと、なぜ思うのか?)

 レッドバックは、思考していた。
 疑問への答えはおろか、答えに辿り着く仮説すら出ない。

(不可解だ。傲慢である私には不愉快でもある。
 だが、捨て置けぬ問題だ。
 ……ならば私は、戦ってあの者共を滅ぼそう……!)

 レッドバックはハッセルティの起動スイッチを握りしめる。
 そして、極めて珍しいことに……
 発した言葉は、地の底から響いてくるような大声だった。
「人間達よ。お前達に夜明けは来ない……この夜は永遠に続く。
 尽きる事のない闇の世界で、永久に眠る……。

 それが行き着く先だ!」

リプレイ本文

●離脱するパダギエ
「へっ、お先に失礼させてもらうぜ……!」
 浮遊大陸でハンターの一団とレッドバックの戦いが起ころうとしていた頃、浮遊大陸から離れようとする者があった。
「イヴ様がやられるとは思えねえが、見つかったら殺されちまうわなぁ」
 レッドバックの助手兼護衛兼乗り物であった蝙蝠型歪虚パダギエである。
 彼はレッドバックがハンターの迎撃に出た時に、「来い」とも何とも言われなかった。
 今や物資と改造元となる歪虚に困らない立場である。自分以上にその役割を果たせるものは大勢いた。
「じゃあなドクター。生きてたらまた会おうぜ」
 彼を止める者は誰もいない。
 誰もそれどころではないのだ。
 彼にもまた逃げない理由はなかった。



●戦場のレッドバック
 闇を紡いだかのような衣を纏い、表情は歪んだ悦びを現すかのように陰気な笑みをたたえている。
 それはさながら、暗闇に潜み、人を害する毒蜘蛛の化身。
 それも道理で、この者はかつて己を『光を刈り取る蜘蛛』と表した、メフィストの手によって堕ちた歪虚である。
 彼女がハンターの一団の前に姿を現すよりも早く、彼女の研究の産物である機械化歪虚兵団『ラトロデクトゥス』は襲いかかっていた。
 前から、後ろから。
 群れをなして現れたそれらが襲いかかる。
 ヴァリオラス2。
 うなりを上げて回転するキャタピラーが、猛スピードで迫る。
 マクタンス。
 複数の敵を一度に攻撃する機能を備えた機械化歪虚。
 ジオメトリクス。
 戦闘において威力を発揮する、状態異常を治療する機能を持つ。この個体がいる限り、状態異常は永続しないと思った方がいいだろう。
 トレデシムグッタトゥス。
 一体のみ存在する巨大な個体。それに見合ったパワーと長射程、かつ複数を同時に攻撃する手段を持つ。
 それらの先頭に立ち、真正面から挑んだエリート歪虚アドナヴァ。
 主君であるイヴの為に、敵と切り結ぶ。

●道を切り開く為に
 すでに視界を埋め尽くすほどに集まった歪虚の集団だが、ハンター達の中には、それに恐れを抱くものなどなかった。

「いよーっし! イヴ戦の前の、大事の前の小事って奴だ!
 景気づけにハデにぶちかましてやらぁ!」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は自ら敵陣に斬り込んだ。
 圧倒的な力で一体を叩き潰し、その死骸が塵に還る前に踏みしだき、敵陣の真っ直中へと突っ込んでいく。
「味方は寄るな! 怪我するぜ!
 うおりゃあああああああああ!!!」
 ──それは、味方をも焼き尽くす暴虐の炎。
 大回転する刃が気持ちいい程に敵を屠っていく。
「どれだけ多かろうが斬ったら死ぬんだろ!
 なら負けるわけがねえ!」
 凄まじい気迫と共に大勢を相手どるボルディア。
 途端、紫電が走った。
 そして光の筋も。
 それらはボルディアに炸裂し、傷を負わせる。
「離れた所からか! よし、待ってろ殺しに行くぞ!」
 敵の中でも遠距離攻撃をするものを目標に定める。
 だが、それらは大抵近接戦闘型のヴァリオラス2の後ろにいる。
「そうかよ……だったら、片っ端から斬ってやるまでだ!」
 怒れる炎獣に火がついた。
 大いなる破壊が行われるだろう。

 一方──
 暗闇の戦場に漆蒼色の光が走った。
 誰もが戦いの中でさえ見とれてしまう程に、美しい。
 ユリアン(ka1664)は、光を纏って走る。
「明けない夜はない……
 いっそ自分達で照らすつもりで」
 そう言って、レッドバックの言葉を否定する。そのために自分は戦い、勝つ。
 光の軌跡には何体もの敵がいた。いずれもユリアンに斬られている。
 それも一度の斬撃ではない。ユリアンの漆蒼刃に斬られたものは、もう一度刃を受ける──アフターバーナー。
 ユリアンはここまでに味方の攻撃を受けた敵が、漆黒の霧のようなものに包まれて傷を修復するのを見た。
 修復する敵を見定め、それを優先的に倒すつもりでいた。
 だがその役割を負うジオメトリクスはやはり後方に控えている。
(敵に囲まれることになるが……漆蒼刃で戻れば)
 彼ならば敵陣をすり抜けつつ目標を、そこ至るまでの敵もろとも斬る事も可能だ。
 だがそうなれば敵陣に孤立することになる。
(すぐ戻れるとはいえ、袋叩きは覚悟か……!)
 
 だが、ユリアンの背後を守るものがある。
「……好きにはやらせないよ」
 盾を構え、攻撃に備えるルドルフ・デネボラ(ka3749)。
 ジェットブーツで敵陣を跳び越え、ユリアンに追いついた。
 戦場を同じくする幼馴染みを気にかけてはいたが、自分の役割を他に見いだした以上は、それを全うする。
 体当たり攻撃をしてくる敵に、防御障壁で対応する。そして反撃として制圧射撃。
 派手さこそないものの、守りに重点を置いた堅実な戦い方だ。こういった長期戦では、大きな意味を持つ。

 別の場所では──
 水色の霧が、闇に浮かび上がった。
 青い前髪が浮き上がり、瞳が淡く光る。
 流麗な姿。
 やがて纏っている霧の中に火花が散り始める。
 星杖を振るった。
 霧が直線に伸び、それを通り道とするように、稲妻が迸る。
 それは多くの歪虚に炸裂し、焼き、傷を負わせた。
「霧の魔女、ここに推参──」
 霧の魔女。幾多の戦いにおいて、名乗られた異名。
 ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)は華麗に、残酷に、自らの到来を示した。
 敵の数はこれまで類を見ないほどに多い。しかし、彼女の星杖ユピテルは対多数戦闘杖の装備。即ち──彼女の独壇場だ。

 ここにも稲妻を放つ者がいる。
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。
 ガトリングガンを手に、戦意を露わにする。
「この作戦は誰にも邪魔はさせんぞ。傲慢王諸共地獄に叩き込んでやる……!」
 その身に稲妻を纏い、ガトリングを乱射。弾丸は幾筋もの雷光へと変じ、敵に炸裂する。
 慈悲はない。
 容赦もない。
 ここにいるのは一人の鬼神。
 激しい雨状のオーラが彼女の周囲に降り注ぎ、さながら人の姿をした天災だった。
 敵にとっては、まさに悪夢。
 味方から見ても恐ろしい。
 いずれにせよ、その姿は、敵味方に別れ命の奪い合いをするこの場所に相応しい。

 ──稲妻が走り。
 ──流星が降る。
 アルコルは応報する時を知った。即ち、今。
 マリィア・バルデス(ka5848)によって引き金を引かれ、発射された弾丸は敵ではなく天へと昇った。
 長距離回復なんて羨ましすぎて嫌だわね、と、溜め息混じりの言葉を受けて。
 弾丸は、六つの流星に変じた。
 それは彼女が確認したジオメトリクスに降り注ぎ、打撃を与えると共にその行動を阻害する。
「応報される理由なら山ほどあるのでしょうね。好きなだけ暴れなさい……アルコル」
 愛銃は応えるように反動を返してくる。
 獲物に困ることはない、少なくともそれだけは確かだ。

 そんな中、
「敵味方ともに、熱いなあ……」
 ──いつも通りの鞍馬 真(ka5819)がいる。
 高揚する気持ちは剣士としてよくわかる──傍目からは本当にわかっているかどうか怪しいが──だけど自分は自分。
 いつも通り、自分の責務を果たすだけ。
 動く。
 最低限の動きでの刺突。同時に、剣が蒼い光を放つ。

 ──13のスクエアと、そこに存在する敵全てを貫いた。
「さて、次は──」
 おそよ人間業とは言えないことをしてのけて──錬筋協会の特別製の鞘を使った、一度きりの技とは言え──、何でもない事のように言って敵陣に踏み込む。
 目にも止まらぬ連撃。
 動くごとに、敵の傷が増える。誰にもその動きを止めることは出来なかった。
 
 敵は後方からも来ている。
 挟み撃ちになれば、乱戦は必死。
 そうなれば攻撃も連携も移動もし辛くなるだろう。

 それを阻むべく、後方に向かうアーサー・ホーガン(ka0471)。
「予想はしていたが、そのまま行かせちゃくれねぇか」
 得物を構えつつ言った。
 ここは敵の本拠地だ。迎撃があるのが当然。
 そして戦士である己はその準備ができている、これも当然だ。
 長柄武器とサーベルを手に、突進してくる敵を止める。
「いいぜ……もっと集まりな!」
 しばらく凌いでから、敵が集まったのを確認。
 必滅の理を現す一撃を──
「独りでは済まねえぜ」
 ──アンフォルタスの槍!
 空間を圧縮し、直線上に存在する敵全てを貫く。
 その最大射程は35。
 一撃を終え、構え直す。
「スクラップになりたい奴からかかって来な」
 その構えに隙はない。
 敵の進行を阻む、守りの構えだ。


「ユメリア、必ず生きて帰りましょうね。
 守り抜くわよ!」
「はい、未悠さん!」
 高瀬 未悠(ka3199)とユメリア(ka7010)、大親友である二人は互いに言葉を交わし、暗闇から迫り来る敵に向かった。
 前に出るのは、未悠。
 黒き獅子のごとき霊闘士。
 されどこの戦場においては、背より広がる翼を持つ──かの白龍のごとくに。
 翼は虹色に輝き、龍の吐息にも似た波動を発した。
 それを受けた敵は打撃を受けるだけでは済まない。
 白龍は争いを好まない。ゆえに攻撃する時は、一方的に攻撃する──という解釈もできる効果──、即ち、意識の混乱をもたらす。
 混乱をきたした敵は敵味方の区別が正常にできないまま攻撃を行う。敵が密集したこの状況では、高い効果を発揮した。

 だが混乱を免れた、あるいは混乱しながらも未悠に仕掛けてきた敵もいる。
 未悠は、攻撃を受けても退かない。
 ここを抜かせれば不利になるからだ。
 
 ──歌が聞こえた。
 暖かな、柔らかい歌声だ。
 同時に未悠は体に活力が戻ったのを感じる。
 未悠だけではない。アーサーや、前方に向かっている何人かも同様の恩恵を受けている。

 歌い手は、ユメリア。 
(私は全員を生きて帰す。たとえ、どんな暗闇の中に堕ちたとしても……)
 誓いを心中で復唱する。
 聖導師たる自分に出来る事。
 この場において重要な意味を持つ役割を担う事。
 死神の笑うこの闇の中で、生の光を守り続ける戦いをする。
(……命の輝き、一つとして消させたりしない)

「どうやら……この部分が手薄と見ました」
 サクラ・エルフリード(ka2598)は見定めて動く。
 臨機応変に対応し、手薄な場所へと動く心づもりだ。
 背後から来る敵に対応する役割が最も少ない。
「プルガトリオ……進行を止めます」
 紡がれるのは煉獄の名を持つ呪文。
 闇の刃が発生し敵の進行を阻止する。闇に潜む毒蜘蛛を想起させる見た目の敵ではあるが、彼女の力は効果を発揮している。
 だが、彼女の本分は攻撃ではなく……
「皆が全力で戦えるようにしっかりとサポートさせて貰いますね……」
 聖導師として、仲間を支える。
 負傷にはヒーリングスフィアと浄化の祈りを、そして状態異常にはゴッドブレスを。
 彼女もまた生の輝きを守るために戦う。
 護り手にして癒し手、聖なる導師にして騎士である。

 

「ハッセルティ、起動」

「うわっ?!」
「何だ!?」
「これは……!」
 闇が蠢いて、まとわりついた──ように見えた。
 ハンターの全員がそれを感じた。悪寒に似た感触だ。体の芯から震えた。だが冷気ではない。重病にかかった感じが瞬時に襲いかかったかのような、本能的に命の危険を感じる何か、まるで『死』そのものに触れられたようだった。
 これがマテリアル兵器『ハッセルティ』、負のマテリアルを操り正のマテリアルを直接破壊する仕組みである。
「チッ、だが広範囲に効くってんなら、これでどうだ!」
 アーサーが副武器のサーベルを構える。
 そこから、皆を守るように光が発された。
「む……何をした?」
 レッドバックは次なる攻撃の機会を待ち、再びハッセルティを起動する。
 再び闇が蠢き──
 いや、蠢かない。
 先ほど発された光がそれを抑えているようだ。
「くっ、効くぜ。だが──
 効くのは俺一人だ」
 ラストテリトリー。
 この輝きがある場所こそ我が領地。守るべき場所。
 征服者としての理念の一つを体現したとも思われるこのスキルは、『範囲攻撃の対象を自分一人にする』。
「へっ、どうやら効果抜群らしいな」
 アーサーは満足げに笑う。本来ならハンター全員を範囲に収める範囲攻撃である。それが一人にしか効かないとなれば、ハッセルティの意義はほぼ無くしたも同然と言えよう。
「治療は私達が」
「万全の布陣……です」
 さらにはユメリアとサクラが、アーサーへのダメージに対応すべく近くにいる。

「一瞬厄介な攻撃だと思ったが……!」
「これならいつも通りにやれるね」
 敵陣に踏み込み暴れ回るボルディアと真。数をものともしない獅子奮迅の戦いだ。
「そうと解れば、迅速に殲滅する!」
「誰が一番多く倒すのか、勝負といった所じゃな?」
 コーネリアが宣言する。ヴィルマが余裕を見せる。
「皆、すごいけど……僕には僕の出来ることを」
「ここには足手まといなんていない……一人一人が勇者なんだ」
 ルドルフは仲間に感心しつつ戦い、ユリアンはそんな彼も励ます。
「後は、マシンガンで解決できる問題だわ」
 マリィアがそう言って引き金を引く。
 炎が荒れ狂う。光が舞う。稲妻が走る。流星が降り注ぐ。虹色の光。闇の刃。
 戦場はさながら祭典のようだ。
 歪虚も負けじと機体を走らせ、雷光を発し、光弾を発する。傷ついた者は修復する。
 まだまだ数は多い。戦いは続く──

●斬り込め、そして進め
「とは言え、大分減りましたわ!
 皆様、前進いたします!」
 金鹿(ka5959)の声に何人かが頷く。
 レッドバック本人と戦うために温存していたハンター達だ。
 金鹿は道を切り開くべく動く。
 周囲にマテリアル結晶が広がり、前面に水しぶきが上がった。
 その中から精霊ネプチューンが姿を現す。
 大いなる海を切り取って、そこに貼り付けたように……
 渦巻く水流が、敵を押し流した。
 それを確認するや否や、ハンター達はレッドバックに向けて駆け出していく。
「リク!」
 未悠がその中の一人に呼びかける。
「闇を切り開いて!」

「──ああ!」
 キヅカ・リク(ka0038)は確かな返事を返す。
 そして、前を向いた。
「……守護者キヅカ・リク。顕現した象徴は“矛盾”。
 推し通る……!」
 己の存在を知らせるよう名乗る。
 キヅカ・リクがここに居ると。
 ジェットブーツに点火し、進んだ。

「明けない夜はないと……証明して見せて!」
 夜明けを託した未悠は、敵の進行を阻むべくその場に止まる。

「『これ以上進ませるな! すぐ体勢を立て直せ!』」
 強制の力を込めた言葉が響く。
 アドナヴァによるものだ。
「させるか!」
 アドナヴァと交戦中のヘザーが、それ以上の手助けはさせまいと距離を詰める。
 アドナヴァは小盾でヘザーの拳をいなし、反撃に刺突を繰り出した。ヘザーは反応して下がる。
 血が流れるのを感じた。……反応が遅れたのだ。
「大人しくしていれば苦しまずにあの世に送ってやるものを。足掻くならば……さらに苦しむ羽目になるぞ」
 アドナヴァの言葉には、余裕が見られる。
 だが、その一瞬、盾をかざす。
 そこには刃──棒手裏剣が突き刺さっていた。
 それを確認した僅かな間に現れる、影。
 残像を残して──アクセルオーバー──襲撃者は近距離から刃を投擲する。
 瞬時に、計四撃。
 アドナヴァは全てを避けきることは出来なかった。
 対峙するのは、神代 誠一(ka2086)。
「大人しくやられる奴なんて、ここには一人もいないさ……!」
「ほざいたな、人間!」
 アドナヴァと誠一は激しく打ち合う。スピードを武器とする者同士の、高速の競い合いだ。
 誠一は接近戦では格闘暗器「旭光」を用いた。アドナヴァの剣と接近戦で打ち合っていたが、誠一は攻撃を避けると同時に前方に転がる。そして、向き直ると同時に旭光からワイヤーを射出して剣を絡め取った。
「武器を封じればスキルは使えまい!」
「甘いわ!」
 瞬時に剣を手放すアドナヴァ。腰から短剣を抜き放ち投擲する。
 その一撃を誠一は避けきれない。
 アドナヴァは跳躍する。上空から、刃の雨を降らせる。それは誠一だけでなく周りの敵も範囲に収めた。
「広角投射……! 何故だ、これは星石に選ばれた者だけが使えるスキル……」
「勘違いするな人間! 我々は貴様等と違い精霊との契約を必要としない。同じ基準では計れぬと知れ!」

「それは、こちらも同じ事でございます」
「!」
 背後。言葉と同時に振り下ろされた拳を、アドナヴァは身体を捻って避けた。
「何時の間に!」
 先程まではいなかった。瞬時に距離を詰めたというのか。
 実際、その通りだった。
 縮地瞬動によって距離を詰めた、フィロ(ka6966)。
 第一撃を避けられつつも、すぐさまフィロは第二撃を放つ体勢に入っている。
「精霊を必要としない者は、精霊の力を知り得ない……大精霊であれば、尚更の事」
「隠す気はないらしいな、『星神器』とやらか」
「星神器『角力(スマイトラム)』……その威力、その身でお確かめ下さいませ」
 繰り出される攻撃をいなし続けるアドナヴァだったが、フィロは猛攻の末に一撃を入れることに成功する。
 超重の一撃──
 アドナヴァは一瞬、朦朧とした。
 白虎神拳。敵の意識を刈り取る必殺の拳は、星神器のスキル『鹿島の剣腕』によりより重さを増していた──。

「今が好機……!」
 セレス・フュラー(ka6276)はアドナヴァの正面に歩みを進める。
 歌を口ずさみながら。
 いや、『ながら』などという程度のものではない。堂々たる歌い手として、歌い上げる。その歌はアイデアル・ソング。抵抗を高める聖なる歌だ。
 そして、彼女は歩を進める。
 アドナヴァはすぐ近くだ。
(女は度胸……!)
 じっと、顔を覗き込む。

 アドナヴァは見つめ返してきた。

(どうしてしまったのだ……!?)
 自分の意志で自分がコントロールできない。意志とは関係なく、セレスと視線を合わせようとしてしまう。

 テンプテーション……魔性の瞳。
 魅入られた者は、抗えない。

 アドナヴァは仕方なくセレスに攻撃しようとしたが、右腕を誠一のワイヤーが、左腕をヘザーの腕が捕らえる。
 そしてフィロが背後から、鎧通しの一撃を入れた。
「がはっ……!」
 衝撃で視線が外れた。
 アドナヴァは視線の拘束から逃れ、その場から離れようとする。
 だが、その足は地面に根が生えたように動かない。
「くっ、ファントムハンドか、ありふれた手を!」
「ありふれてるなら破ってみたらどうです?!」
 ミコト=S=レグルス(ka3953)は強気に言った。彼女の不可視の手は、アドナヴァの脚をしっかりと捕らえている。
「ヘザーさん! 皆さん! 力を貸して下さいっ!」
 何度も戦いを共にした姉貴分に、頼もしい戦友達に、ミコトは力一杯呼びかけた。
「勿論だ! ミコト!」
 ヘザーは力強く肯定する。他の仲間達も同様だ。
「行きますっ! 王国の明日の為に──正・義・執・行!!!」
 コール・ジャスティス……正義執行。
 アドナヴァ打倒という目標のもとに、ミコトを中心とした彼女の同胞達の力が、一致団結していく。
 大好きな、ヘザーやグラズヘイム王国の人々のために。
 王国に仇なす敵を倒すのだ!

「粋がるな! 動けなくとも周囲を纏めて貫く程度の事──」
「残念ですぅ! それも差し押さえですぅ!」
 どす黒い殺気。
 見ればそこには星野 ハナ(ka5852)がいた。
「レッドバックに与する輩は全ブッコロですぅ! この私の前に姿を現したのが運の尽きですぅ!」

 ──黒曜封印符!

 それは東方より伝わりし封印の法。アドナヴァのスキルを封じる、強力な封印だ。
「『広角投射』も『ナイトカーテン』も『懲罰』もこれで使えませんよぉ!」
 代償としてハナ本人は動けなくなる。
 ……だが、居るだけでプレッシャーが凄まじい。真の英雄は目で殺す。
「必要ないかも、しれませんが……」
 さらに、ユメリアがハナをエンジェルフェザーで守る。鬼に金棒、ならぬ守護精霊の加護である。
「くっ、この私が──」
「今ですっ! 皆さん!」
 ミコトのかけ声に合わせ、ハンター達は仕掛ける。同時に力強い歌声が、かれらを後押しするように響き渡った。
 歌い手はセレスだ。
(あたしの腕力は『微風』みたいなもの。自分でもわかってる。
 だからせめて『追い風』になる!)
 先程から歌っていた歌のアンコール。
 力強い歌声はそのまま敵への威圧となり、味方を鼓舞する。
 正義の名のもとに心を一つとした集団。歌声は追い風となって、勢いを増す。
 黒曜封印符の反動で動けないハナを除いた四人が一斉に攻めかかった。
「ミコトが見ているというのに……何もしないでは居られんな!
 我が妹よ、よく見ておけ! 私の勇姿を!!!」

 ──右ストレート天・誅・殺!!!

 ヘザーの拳がアドナヴァの鳩尾にめり込む。
 成功率が著しく低い技でありながら、当ててみせたのは味方の助けによる所が大きい。
 黒曜封印符の反動で動けないハナの分までと、誠一がワイヤーを走らせ、ミコトが大斧を叩きつける。そしてフィロの両手突きが、アドナヴァを吹き飛ばした。
 背中を床に打ちつける。

 劣勢に立たされるアドナヴァ……。

 だが、レッドバックの頭脳は、それさえも計算に入れてある。

 状態異常は解除出来る。ジオメトリクスのうち何体かは、アドナヴァが劣勢に立たされた時のためにフォローできる場所にいた。何体かはハンターに破壊されてしまったが……。

 僅かに残った個体が、アドナヴァの状態異常を解除した。

「うおおおおおおおおおおおお!」
 雄叫びをあげ、立ち上がるアドナヴァ。
 もはや先程までの余裕は見られない。
 彼は、自分自身に『強制』した──『限界を超えて戦え』と。

「我はイヴ様の臣アドナヴァ!
 イヴ様の敵は排除する!」
 両腕の手甲から、刃が飛び出す。
 投擲する短剣よりも迅速に、敵へと突っ込む。
 その先には、ハナが居た。
 縮地瞬動でフィロが割り込む。恐るべき刃の乱舞が、フィロに襲いかかる。両腕から、影から、ありとあらゆる場所からの変幻自在の攻撃が襲いかかる。
 その様相はまさに悪鬼羅刹のごとし──ハナをしてこう思わせた。
 猛攻を受けるフィロが立って居られるのも、彼女の金剛の力、そしてコール・ジャスティスやセレスの歌に後押しされているからだ。そうでなければ既に倒れている。
 誠一が棒手裏剣「射光」を、セレスも手裏剣「飛燕十文字」を飛ばす。アドナヴァは避けようともしなかったが、突き刺さったというのにまるで意に介さない。
 ヘザーがアドナヴァの背後から襲いかかる。一瞬、目標が消えた。思いもよらない所から反撃を受け、ヘザーは地に伏せる。
 アドナヴァは再びフィロに向かう。
 フィロは覚悟を決めた。再び、追切れぬ連撃がフィロに襲いかかった。

 ──否、追い切れぬのではない。追わない。
 フィロの意識は「どう防ぐか」ではなく、「どう攻撃するか」に向いていた。
 即ち、どんな状況でも壊れることなく、一発逆転の時を待つ──

 ──金剛不壊。

 フィロが膝を折り、その場に倒れた。オートマトンの機体は所々がひしゃげている。
 だが……一撃は、逆転をもたらす一撃は、確かに入っていた。

 立ち尽くすアドナヴァ──
 右腰を中心として、そこから胸元から腰に至るまでに広がる穴が開いていた。
「…………………………………………我らが傲慢王ッッッ! 万歳ッッッッッ!!!」
 アドナヴァは仁王立ちの姿勢で、吠えた。
 そして、黒い粒子となって、散っていった……。



●待ち受ける巨躯
 レッドバックを倒すべく敵陣に切り込んだ一団を待っていたのは、やはり敵だった。
 それに加え、レッドバックの背後に控えるトレデシムグッタトゥスもこの一団に対して攻撃を加えた。これは八本の脚からそれぞれ光線を放ち、一度に八人を攻撃する。対して、切り込んだのは九人。
 ほぼ全員だ。
「うおおおお! 邪魔くせえ! マジ邪魔だわこのデカブツ!」
 その偉容にシガレット=ウナギパイ(ka2884)はキレ気味になり──
「ハッハッハッハ!」
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)は笑っていた。
「あぁ!? 何で笑ってるんだァ?!」
「あの大仰な外套はどうだ。笑えるではないか! 裸足のレッドバックもいよいよ追い詰められたと見える。フッハッハッハ」
「裸足ぃ? 何で裸足なんだァ!」
「知らん!」
 緊張感がない(様に見えるだけで単に高揚しているだけと思われる)二人はやり取りをしつつも進むべく眼前の敵に挑む。
「ハッハハハ一撃をもらってしまったわ。やはり簡単には行かせてもらえんな」
「あぁ?! 何怪我してくれてんだコラァ!」
「何故俺がキレられるのだフハハハ」
「怪我してんじゃねえ! 俺の前で怪我してる奴は許せねぇ! 俺ァ聖導師だァ!」
「うーむ、癒やし要素は微塵もないが頼りになる奴」
「怪我増やすんじゃねえぞ! 治すぞコラァ!」
 シガレットの活躍は前衛の維持に大きく貢献したのである。ルベーノもそんな彼に助けられた一人だ。

 レッドバックの周囲には未だ無傷の歪虚がいる。敵陣へと押し寄せるのを待っているか、その場で援護射撃をしている者達だ。
(妙だな、歪虚達が思ったほど火力を発揮していない……それに脆いようだ……)
 レッドバックは思っていた。それが巡礼陣の効果によるものだとは、知る由もない。
(それだけではない。私のリアクションスキルまで発動している……ここまで及ぶ効果のスキルがあるというのか?)
 巡礼陣の効果はレッドバックにも及んでいた。だが状態異常の一種であるため、対策をしているレッドバックにはその効果は正しく発揮されていない。
 ……等と考えていると、こちらに向かってくる何かを、レッドバックは察知した。
 それは、歪虚が紫色の炎に包まれて燃え上がるという現象だった。燃え上がる個体はほぼ一直線に並び、まるで炎の蛇であるかのように順番にレッドバックに向かって伸びる。
 そして、すぐ近くの個体が燃え上がった直後、レッドバックは見た。
 それは紫色の炎を纏った何者かだった。歪虚の群れを斬りながら、突っ込んできたのである。

 背後の、大蜘蛛の脚が、襲撃者の振るった剣を止める。炎が脚に燃え移り、しばらく焼いた。

「指揮官の真似事? らしくないね、研究者」
「仁川 リア(ka3483)……だったか」
 レッドバックは大蜘蛛の脚越しに、リアの顔を見る。
「今のうちに言うけど、レッドバック。君が実験に来て僕らが妨害する、そのいたちごっこは嫌いじゃなかったよ」
 力を求めると言う意味で、自分とレッドバックは似ている──リアはそう感じていた。
 一方レッドバックは、自身はあくまでも研究者であり、リアとは違うと思っていたが、自ら戦いに臨んでいる今の在り方も、不自然ではないと無意識ながら思い始めていた。
「皮肉なものだな。今の私は以前とは違い君達をひどく憎んでいる。何故なら……私は今、研究者でなく戦う者としてここにいるからだ」
「へえ……ようやく君も人並みの感情を手に入れたのか。
 なら、同じ土俵に立ってくれてるうちに終わらせる。君達を倒せって頼んできた奴もいた事だしね」
「何? 誰のことだ」
「君にはわからないさ、永遠に」
 それだけ言って、リアは『消えた』。
 そこにいるのだが、レッドバックの認識できる範囲から消えたのだ。ナイトカーテンである。
 リアを攻撃しようとしていた周囲の歪虚は、目標を見失い戸惑う。

「キリがないな……こんな所で立ち止まってなんかいられないんだ!」
 キヅカ・リクは前進し、ジェットブーツで敵陣の真っ只中に飛び込んだ。すぐさま周囲の歪虚が磁石に引きつけられるかのように体当たりしてくるのを、巨大な盾アレクサンダーを構えて防ぐ。
「おおおおおッ……!」
 体の内側から膨大なマテリアルが湧き上がる。
 守護者であるキヅカはこの戦いに超覚醒して臨んでいた。
 これから放つ技は、大精霊の力を体現したもの。
「『我が正義の侭に(サンデルム・シュトラール)』!!!」
 大精霊サンデルマンの名とともに、解き放たれる正義の光。
 それは爆発的に広がり、周囲の歪虚全てを灰燼に帰す……。



「ほう……随分と荒々しい訪問の挨拶もあったものだ」

 レッドバックはキヅカの姿を見て、言った。かれらの間にいた歪虚達は、すべて消し飛んでしまった。

 キヅカは、叫んだ。
「レッドバック……。こっちはレーニエや三姉妹の命運背負ってるんだ! お前を倒して、イヴも倒して──王都に帰るんだ!」
 レーニエも、イスルダ島で出会った三姉妹も、普通の人である。悩み、努力し、今を生きている、当たり前の人々だ。
 キヅカは、守護者の契約をする際に自分は凡人だと言った。凡人であるが、同じように普通の人々のために守護者となり戦うと言った。
 凡人であり守護者──それが矛盾なる守護者キヅカ・リクである。

 キヅカは人の可能性を信じ、人を超えた者。
 対して、レッドバックは歪虚に可能性を感じ、人を辞めた者である。ゆえに告げた。
「歪虚は人間より優れている。私やイヴ様が敗れる道理などない」

「そいつはどうかな!」

 別の方角より声がした。同時にレッドバックは自身の脚に何かを感じたが、それはすぐに消えた。
「私にはそれは効かん」
「へえ、それなりの準備はしてきてるみたいじゃないか! それで今日はアンタの蝙蝠はいないのか? 覚悟を決めてるって事か」
 ファントムハンドを無効化されたことなど意にも介さず、トリプルJ(ka6653)は続けた。
 軽い口調ではあるが今のレッドバックに移動不能にならない、ひいては状態異常にならない可能性があることはしっかりと確認した。
「パダギエか。事ここに至ってはもはや不要」
「ならここがアンタの墓場だ」
 声のトーンを下げて、トリプルJは告げた。そしてその場を踏みしめ息を吐き出す。
 全身にマテリアルを漲らせ、一気に両掌を前に突き出す。
 マテリアルの奔流が走る──青龍翔咬波。
 レッドバックと、その後ろにいるトレデシムグッタトゥスに打撃を与えた手応えをトリプルJは感じる。
「さあ、やってやろうぜ!」
 俺に続けとばかりに、トリプルJは仲間に呼びかけた。

「どうしようもなく真夜中~♪ 恐怖と絶望のどん底~」
 さながら朗読劇のごとくに朗々たる語り口調でメイム(ka2290)が後に続いた。
(それにしてもなんて濃い負のマテリアル! これじゃ祓いようがないね)
 この場に充満した負のマテリアル自体が敵の武器と考えたメイム──実際に一度食らって確信した──だったが、霊闘士のスキルでも祓えないほどに濃い。
 何しろ傲慢王の本拠なのだから。
 代わりに歌声を響かせる。
「されど、されど、勇者は進む~
 黄金の夜明けを伴って~♪」
 堂々とした、明るい歌曲を暗闇の道に響かせる。
 そして場面転換を現す短い詩を朗唱し終わると、ボウガンから矢を放った。
 その矢は貫徹の矢。空を切り裂いて飛ぶ矢は、トレデシムグッタトゥスの装甲に突き刺さり、その装甲にひびを入れた。

 メイムの朗唱と歌曲は仲間達に力を与える。
 だが、敵も次々と一行の進行を阻むべく集まってくる。一時的にレッドバックの姿が拝めるほどに減りはしたものの、その穴を迅速に埋めるべく動いている。
 統率のとれた動きだった。

「なるほど、これは骨が折れそうだ」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は呟いた。
 骨が折れそうだ、だが、それだけだ。
 出来ないとは微塵も思わない。
 彼女は守護者の一人であり、超覚醒を行って戦いに臨んでいた。
「さて、仕事を始めようか」
 にも関わらず、何の気負いもない。
 今の彼女にとって世界を守ることは、彼女自身の望みであり、そのために行動することは当たり前のことなのだから。

 一閃。腕を振るうごとに、機械化された歪虚が弾け飛ぶ。高速で駆け抜けながら、腕を振るい続ける。通った後で歪虚が弾け飛び、無に帰る──散華。散華。散華。
 瞬く間にトレデシムグッタトゥスの巨体の前に現れる。迎撃は間に合わない。跳躍。華麗なる飛翔。美しき舞いは、敵に死をもたらすもの。
 サイズ差の不利を覆す立体攻撃で一撃を加え、着地。
(これは……メフィストを模したのか?)
 近くでトレデシムグッタトゥスを見たアルトはそう感じた。
 古の塔の決戦を思い出す。
 大蜘蛛のメフィストに似ていなくもない。ならば、他の蜘蛛達は子蜘蛛だろうか。
 ……そんなことは、どうでもいいことだ。 
「どうやら……集まってくる敵を減らすのを優先した方がいいようだ」
 冷静に、何の感情もなく判断を下す。
 一分の隙も無駄もない。

 アルトを始めとしたハンター達の活躍により、前線は前へと移動していった。
 また一人、レッドバックのもとへ到達したハンターがいる。
「ハーッハッハッハ! ようやくここまで来れたぞ裸足のレッドバック! とうとう年貢の納め時だな!」
 相変わらず大声で笑いながら、ルベーノがレッドバックに迫る。
「さあな。案外それは君の方かも知れんぞ」
「ハハハハ! 似合わない冗談は止せ!」
 レッドバックの受け答えを一笑に付する。
 接近戦の間合い。ルベーノの射程だ。
 トレデシムグッタトゥスはレッドバックを守るように脚を動かす。
「おっと、まずはその外套からだ!」
 レッドバックの眼前から消えるように移動。──縮地瞬動。
 巨体の蜘蛛の側面に移動している。
「ぬぅんッ……!」
 鎧通しの一撃。
 真摯に己の強さを高めてきたルベーノの拳が、大蜘蛛の装甲に覆われた腹部にめり込む。
 大蜘蛛は反撃とばかりに、光線を発した。ルベーノ以外も射程に収めた八方向への狙いだ。
「クハハハハハ! そうでなくてはつまらん!」
 ルベーノは焼かれつつも当たる面積を最小限にして被害を抑え、反撃に移った。
 ──白虎神拳!
 必殺の拳で、ルベーノは攻める。
「……ほう、でかいだけあってタフだな。これは倒し甲斐がありそうだ!」

 一方で、レッドバックには彼女の元へ至るために最初に道を切り開いた金鹿が対峙していた。
 この時すでにレッドバックの近くまでハンターの一団は集まっていた。
 金鹿が使うのは修祓陣。結界を張り、守りを固める。レッドバックと戦うための準備だった。
「お初にお目にかかります。私は金鹿……金色の鹿と書きますの」
「金色はあまり好きではない。鹿はまあ羊よりは好きだろうか」
「覚えておきますわ……お覚悟を!」
 金鹿は符を飛ばす。
 その色は……
「貴女のお好きそうな黒い色──」
 ──黒曜封印符!

 金鹿は考えていた。先程トリプルJのファントムハンドが無効化されたのは何故か。問題なく術はかかったようだった。発動は問題なくしているのだ。であれば、発動阻害ではなく効果を無効化する、何か。
 例えばリアクションスキルではないかと。
(──であれば、そもそものスキル自体を封じれば発動はしないはず)

 金鹿の読みは正しかった。
 状態異常を継続ダメージで上書きするスキルがその正体。継続ダメージ状態だと戦闘能力が上昇するスキルと合わせて使用していたのである。
 しかし、スキルである以上は封印されれば発動できない。

 レッドバック討伐──
 その準備が整ったことを、ハンターは知る。

 攻撃態勢に入れる配置についたハンター達、その中心に立つのは、リュー・グランフェスト(ka2419)。
 彼もまた守護者の一人であり、超覚醒してこの戦場に立っている。
 彼は正面からレッドバックを見据え、こう言った。
「レッドバック。おまえは確かこう言ったな。この夜は永遠に続くと……」
「いかにも。永遠の夜、歪虚の世が来る。生あるもの全てが潰える時だ」
「戯論だ。レッドバック。
 陽は必ず登る。陽が登れば明日が来る」
 リューは高らかにレッドバックの言葉を否定し、自らの姿勢を示した。
 そして、剣を掲げる──
「俺達がそれを為す!」
 その名は、エクスカリバー。
 大魔法が発動する──

 その力は、独りの英雄のためではなく、分け隔てなく与えるもの。
 ナイツ・オブ・ラウンド。
 共に立つ同朋すべてを、最強の騎士にする。

「皆! 行くぞ!!!」
 リューを先頭にハンター達は一斉攻撃に入る。
 目標はトレデシムグッタトゥス。
 リューの剣がその脚を切り払い──

 シガレットの杖が、同じ事をした。
「直接怒りをぶつけられるたァ、またとない機会だぜェ!!」

 トリプルJの青龍翔咬波は普段を遥かに上回る威力で炸裂し……
「今の俺は一味違うぜ!」

 メイムの矢は大蜘蛛の身体を貫通し……
「テンション上がるね~っ」

 リアも姿を現し、必殺の一撃を繰り出し……
「この機会をふいにするほど、無粋じゃないさ」

 ルベーノが脚に組み付いて、これをへし折り……
「これが王の力か! 悪くない!」

 キヅカのマグダレーネが、頭部を切り裂いた。
「この闇を斬り払う!」

 そして、炎に似たオーラを纏いながら、周りの敵を斬り払いながら突き進んできたアルトが、その勢いのまま胴体を貫いた。
「終わりだな、模造品」

●暗闇より這い出る蜘蛛の軍団
 歪虚と機械によって造られたメフィストの模造品──機械化歪虚兵トレデシムグッタトゥスは無へと帰った。
「ハッハッハッハ! 外套を失ったなレッドバック!」
 ルベーノの勝ち誇った笑い。しかし、レッドバックは表情一つ変えずにこう言った。
「符の使い手に集中せよ!」
 トレデシムグッタトゥスがいた空間の向こうから、おびただしい数の歪虚が迫ってくるのを、ハンターの一団は見た。
 それらはレッドバックの言葉通り、符の使い手──金鹿へと攻撃を加える。
 勢いをつけた体当たりが、電光が、光弾が金鹿を襲う。
「この俺がやらせはしねェ!」
 ファーストエイドによる割り込み回復魔法。シガレットの救助だ。
 その甲斐あって金鹿は倒れずに済んだ。
「ご助力、ありがとうございま……」
 一際大きい銃声が響いた。

 金鹿は静かにその場に倒れる。

「時として、スキルを用いない通常攻撃も脅威となりうることがある。たった今君たちがしてみせたようにな」
 レッドバックが冷徹に言った。その手には銃が握られ、硝煙が上がっている。
「この俺の前で……! くっ、死ぬんじゃねェぞ!」
 シガレットは怒りに震えた。彼はよくやっていたが、それでも敵の数に対して癒し手の数が少ないことも事実だった。
「まだ切り札を?!」
「なに、ただの武器だ。まさか戦場にスイッチしか持ち込んでいないと思っていたのかね」
 キヅカの問いにレッドバックは淡々と答えた。
「それ以上やらせるものか!」
 飛び込んだのはリュー。
 エクスカリバーを利き手に、もう片方の手に鞘リミットオーバーを手にする。連撃の構え。
 ──紋章剣、散華! 星竜!
 流れるような動作で行われる、三連撃。三撃目は余波を残し、レッドバックの背後の敵をも貫いた。
「くっ、やはり守護者と殴り合うのは得策ではないか……」
 レッドバックは傷を受けながらも、後方へと下がった。
「逃がすものか!」
 キヅカは眼鏡型機械を装着し、レッドバックを視界に納める。
 赤い光が迸る。機導砲。通常のものよりも貫通力を増している。敵の影に隠れたレッドバックをも、貫通して焼いた。
 レッドバックは身を翻して範囲から逃れ、後方へと下がっていく。
 行く手を阻むように、歪虚が集まった。



(ハッセルティは封じられ、トレデシムグッタトゥスも敗れた。しかし私にはまだラトロデクトゥスがある。強制が使えないが止むを得まい……)
 レッドバックは大声でこう言った。
「イヴ様の臣よ! 我が叡智に力づけられし者共よ! 聞け!
 ここが正念場だ! イヴ様のために全力で戦って死ね!」

「イヴ様万歳!」「傲慢王に栄光あれ!」「人間に死を!」
 それまで黙って戦っていた歪虚達が、突如として声をあげだした。
 強制が使えずとも、イヴの名は効果があった。
 レッドバックに鼓舞された歪虚達は、さらに勢いを増してハンター達に襲いかかる。

 歴戦のハンターとはいえ、これには恐れを抱いても仕方がない。
 だが……
「そっちにも意地があるだろう。でも譲れない! 絶対に!」
 キヅカが吠えた。
「ここまで来たんだ、今更尻尾巻いて帰れるかよ!」
「あたしたちは、ここで死なない!」
 呼応するようにトリプルJとメイムが叫んだ。
 ハンター達はお互い鼓舞し合い、圧倒的な数の敵に向かった……。



 レッドバックは静かに戦況を見守る。
(色々と想定外のことはあったが、戦いは数……これを覆せる敵はそういまい)
 ラトロデクトゥスは元々下級の歪虚達である。それにイヴの所有する古代文明の機械と彼女の技術の粋を尽くして強化し、今のハンターと戦えるようにしたものだ。
 素材は多く、多くの戦力が獲得できた。
 対して浮遊大陸にまで攻めてこれる人間は数が限られている。
 ゆえに負けはない。レッドバックはそう信じていた。

 眼前では熾烈な戦いが続いていた。
 不意に、レッドバックの体から、

 刃が突き出した──。

「そ……うか……君は……気配を……消せるのだったな……。
 だが……私もまた……捨て駒だったとしたら……どうする……?」

「関係ない。約束を果たしに来ただけだ」
 仁川 リアは言った。

 レッドバックは倒れた。
 そして、周囲の闇に溶け込むように、消えていった……。



●寡兵にて退かず
 指揮官を失ったにも関わらず歪虚は戦いを続けていた。
「大漁大漁! こいつは景気がいいねえ!」
 ボルディアは次々と沸いてくる敵をことごとく潰していく。
 その姿は荒れ狂う炎そのもの。
 不浄なるものを焼き尽くす清めの炎だ。
 長柄の斧を軽々と振り回し、歪虚の身を砕いていく。
 傷口から流れ出る血すらも、燃えているように見える。事実、再生する能力を彼女は持っている。
「とはいえ、限度というものがあるのじゃがなあ。皆わかっておるのかのう」
 ヴィルマは呪文を紡ぐ合間に、味方の様子を見てやや思案する。
 全員、少なくない傷を受けているのだ。
 それでもなお雷撃の魔法の他、魔法の矢を一度に五本放っての複数攻撃で確実に敵を減らしていけた。
 あと、ネプチューンを召喚して水流でボルディアの方に流すと、いとも簡単に殲滅してくれる。
 霧の魔女、未だ健在。
「無限に湧き続ける軍隊など存在しない。殺し尽くせ!」
 コーネリアは冷徹に言い放つ。
 敵を凍らせる魔弾、敵を削り取る魔弾、技術の限りを尽くして撃つ。簡単に倒せそうにないヴァリオラス2に対しては、キャタピラを穴だらけにして機動力を削いだ。
「結局どちらかが全滅するまで殴り合うのか。だが、戦いとは本来、そういうものか」
 ユリアンは諦め、悟った表情で剣を振る。
 回数が尽きる迄、敵陣を縦横無尽に駆け回り、敵を斬り続ける。
 近接攻撃を仕掛けてくる敵には、積極的に反撃を狙った。
「けど、さすがにこのままっていうのはまずいね。皆! 私の所に集まって!」
 真が珍しく大声で呼びかけた。
「何をするつもり?」
 マリィアが足早に真の横に来て、問う。
 真は答える代わりに長い杖を掲げた。

 その名は星神器「カ・ディンギル」。

 ヤルダバオート、発動。
 真の要求に応え、断絶の理を解き放つ。

「何がどうなっているの……?」
 マリィアは疑問を発した。
 敵が見当違いの所に突っ込んだり、電撃が逸れたりしだしたのである。
「ちょっと敵の認識を阻害したんだよ」
 真は何でもないことのように応える。
「真さんって何の気負いもなくとんでもないことをしでかしますよね……」
 ルドルフは呆れと驚きが入り混じった声で言った。
「けど、これなら防御を考えずに撃ちまくれるわね」
 マリィアが放つ銃弾は変則的な動きで飛び、複数の目標を射抜く。猟犬のごとき弾丸はこの戦場でも威力を発揮した。
「これで最後まで一緒に戦えそうです」
 ルドルフは拳銃の届く距離にいる敵を狙う。制圧射撃と通常の射撃を場合によって使い分け、特に攻撃の狙いを外した敵の隙は逃さなかった。 

「あのモヤモヤしたやつが来なくなったじゃねえか! 攻めに転じるぜ!」
 後方の敵を食い止めていたアーサーは、槍とサーベルの二刀流から、アスラトゥーリの三連撃で敵を倒す。ハッセルティを一人で受け続けていた彼だが、ユメリアの支援のお陰でまだ戦えている。
「リク、やってくれたの……? なら、私達は持ちこたえるだけ!」
 未悠は疲労にもめげず、眼前の敵を見据えた。
 ヴァリオラス2が突っ込んでくる。だが、それは突如光に貫かれ、足を止めた。
 遅れて聞こえてくる、歌の残響。そして言葉。
「未悠さん、今です!」
「任せて、ユメリア!」
 魔力を帯びた杖で打ち据える。霊魔撃。
 敵を倒すと、二人はアイコンタクトでお互いを讃え合った。

 ハンターたちが円形に集まって敵が近づくのを防いでいるエリアがある。
 敵のいない安全地帯を作ったのだった。
 その中央ではサクラが一身に傷を負った味方の治療をしている。ここに至るまで、彼女の行動は多くの仲間を救い、勇気を与えた。
「重体一名です!」
 誠一が連れてきたのは、金鹿だった。まだ息がある。
「戦いが終わるまで、ここで避難を」
 横たわっているフィロがそう言った。金鹿は隣に寝かされる。
「申し訳……ありません……」
「気にしないで、寝ててね」
 セレスが言う。その目はぬかりなく周囲をうかがいながら。
「一人も死なせず帰る。それが第一目標だ! 敵を倒すのはその次だ!」
「がんばってここを守りましょう! ……勝つまでっ!」
 ヘザーとミコトは、気合を入れなおした。

「レッドバックの手がけたものは全ぶっ壊しですぅぅぅ!」
「一人だけ守るって雰囲気じゃない奴がいる!」
「ハナさんだから仕方ないですねっ」
 今日もとっておきの五色光符陣が飛んでいる。



 その後もハンター達は、力を合わせて戦い続けた……。
 どれほど、戦いは続いたのだろう……。

「どうやら最後の片付けだな」
 アルトが、迫り来る敵を見やって言った。
 あれだけ多かった敵が、勢いを減らしている。
「ここでこれだけ減らしたんだ、傲慢王との戦いにはそれだけ有利になったはずだ」
 アルトは現状をそう評した。
 自分の成せることを成した。誇ることも無く、悔やむことも無く。
 傍から見れば実に英雄的な戦果ではあったが、アルトからすれば自分の仕事をしただけにすぎない。
「もうスキルがほぼカラッポだぜェ」
「俺様もうただの歪虚殴るマシーンになっちまってたぜ!」
 シガレット、トリプルJ。もう二人ともボロボロだ。だが片方は多くを守り、片方は多くを倒した。
「いわゆる『指揮官を失って突撃』っていうやつだったのかな~?」
 メイムは敵の行動を分析しようと試みる。
「確かにレッドバックの姿が見えんな。これは追悼のために裸足になるべきか?」
 そう言って笑うルベーノ。終始上機嫌だった。

 赤い燐光が踊る。赤い閃光が奔る。
 リューとキヅカが歪虚を倒す。周りに敵の姿は見あたらなかった。
「終わったぞ……レッドバックは?」

「レッドバックは死んだよ」
 リューが周囲を見回すと、そう言って闇の中から姿を現した者がある。
 リアだった。彼は別の場所で戦っていた。
「無事だったか……」
 姿を認め、リューは安堵する。
「レッドバックは僕が殺した」
「そうか……じゃあ……
 …………勝ったのか!」

 キヅカが天に向けて放った言葉が、ここでの戦いの終わりを告げた。



●束の間
 ハンター一行は勝利の喜びを分かち合う。
 ミコトとルドルフは幼馴染の無事を互いに喜び、美悠とユメリアは互いの健闘を称え合う。
 束の間の勝利で、ここが敵の本拠地であることには変わりは無かったが、それくらいは許されるだろう。

(レーニエ、メラハト、ジェーダ、メリケ……
 僕は必ず帰る。どうか皆も無事で!)
 キヅカは内心で離れた場所に居る友の事を思う。
 きっとかれらも戦っている。
 心は、同じ方を向いている。

「遊んでる暇はねぇ。さっさと進むぜ」
 アーサーは次なる戦いへと気持ちが移っていた。
 これはいわばイヴの前の前哨戦。
 そうでなければ、浮遊大陸で多くある戦場の内の一つに過ぎないのだから。

(俺達は、一人一人は小さな星の輝きかも知れない……
 それでも集まれば、闇を照らす事だってできる。
 それだけの力がある)
 ユリアンは集った仲間達を見て、思う。
 どれだけ現状が厳しくとも、一人で挑むのではない。その心強さを噛み締める。

(たとえ、どんなに強大な敵が相手であろうと……
 人が人として生きるために、抗うことを止めない)
 リューは誓いを新たにする。
 それは単純なことでありながら、人としての本質だ。
 人が人として生きることを脅かされている今、抗うことが必要とされている。

「さあ、次は傲慢王だ。奴を地獄に叩き込むまでは死ぬわけにはいかん」
 コーネリアはヘビーガトリングの重みを確かめ、気合を入れた。
 重みが心地よい。
 暴力によってしか事を成せないというなら、それに頼るのみだ。
 打倒歪虚の志を実現するまでは、進み続ける。

(美悠さん。貴女が教えてくれた。運命は待つものではない。切り開くものだと。
 私はこの命ある限り、救える命をすべて救う。
 それが、私が目指す運命)
 ユメリアは己の誓いを復唱する。
 運命が切り開くものであるなら、自分が決めた道を行く。

「……『創意工夫が足りなかったな』」
 リアは今や闇に散ったレッドバックに向けて言った。
 それは、かつて誰かが言った言葉。
 その言葉を言った者がもしここにいれば、そう言っただろう。
 リアがそう言ったのは、その者の想いも背負ってここにいるからだ。



 これからどうするのか。進む者、戻って守りに徹する者、様々だ。

 どちらにせよ、戦いはまだ終わらない。

 王国の民が明日の朝日を拝めるのかどうか……
 イヴとの決戦の行方にかかっている。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリードka2598
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルスka3953

  • 鞍馬 真ka5819
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬ka5959
  • ルル大学防諜部門長
    フィロka6966

重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬ka5959
  • ルル大学防諜部門長
    フィロka6966

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 大地の救済者
    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • カウダ・レオニス
    ルドルフ・デネボラ(ka3749
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 風と踊る娘
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    エルフ|18才|女性|疾影士
  • Mr.Die-Hard
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