• 血断

【血断】超高速! 世界滅亡の危機!

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2019/07/01 19:00
完成日
2019/07/14 09:58

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング





 人類は邪神と闘うと決めた。
 そして。
 今日も。世界のどこかが、その綻びから邪神の攻撃を受ける。





●1 『討ち果て朽ち果て』

「……っ! 俺はっ……!」

 ある辺境部族の集落に姿を現した歪虚。植物を思わせる緑の髪と肌をし大輪の花を背負う女性の姿をしたシェオルは、その蔓と根、花粉により次々と人を襲っていく。
 そして『種』を植え付けられた人々は死してその蔓に全身を支配され、人々を襲う存在と化した。
 対応するハンターたち、そこにはオートマトンの想の姿もあった。生来の能力から、決して実力は低くない想だが、目覚めたばかりで、実戦経験も浅い彼は「さっきまで生きていた、まだ人の姿をしている敵」を撃つことに苦しみを覚えているようだった。

◇シナリオ1 概要
・同行NPCはオートマトンの想。クラスは猟撃士。元人だった敵を撃つことに苦しみがあるようだが、出来ないわけではない。そのくせ、自分だけ戦闘から離されて仲間が犠牲になることには二度にわたるトラウマ持ちという面倒くささ。
・目標は植物系シェオルの討伐。一体
 蔓による薙ぎ払い攻撃、前方3sq180°。
 根による奇襲攻撃。射程6。回避1/3で判定し、射線が通らなくても攻撃可。
 棘による反撃。飛ばすこともでき、遠距離攻撃にも反撃してくる。
 種による手下増殖。死体に種を撃ち込みゾンビのように操る。
 手下ゾンビは単純な近接攻撃のみ。開始段階で6体。
・生存住民はとりあえずはシェオルの周りからは退避している。
・ゾンビになっていない死体、はまだ周辺にそれなりの数倒れている。



●2 『そびえたつ双つ』

「姉上は……騙されていると思うのだが……何故またこうなる!?」

 とある集落を訪れていた舞刀士の姉妹、朝霞、夕霧。今日もまた迷子になった姉、朝霞をどうにか見つけ出してみれば、真新しい刀を二本携えていた。なんでも行商の男に、病気の妻が居るから急ぎ帰りたくすぐに路銀が必要なのだと頼み込まれたらしい。ため息を吐く夕霧。そんな二人が集落の近くで遭遇したのは二体の歪虚だった。
 光と地、それぞれの属性を持つ二体の獣は、なんと武器の一つに己の属性を付与してくるという攻撃をしてくる! しかもその属性で攻撃すると反撃や吸収など厄介な能力を備えている! 準備無しに挑むことになった二人は、一体に対する攻撃が封じられるというこの状況に危機を迎え……るかと思いきや、朝霞が刀を購入していたおかげで、それらを使い分けることで連絡を受け新たにハンターが救援に来るまでを凌ぐのだった。

◇シナリオ2 概要
・同行NPCは舞刀士の朝霞、夕霧。
・目標は歪虚、天獣、地獣の討伐。一体ずつ
 天獣
  光ブレスによる射程1~6、30°放射状光属性攻撃。命中により装備している武器の一つに
  「GS:光属性付与」を与えることがある(与えないことも有る。また付与する武器は天獣が決める)
  GSであることに注意。抵抗は可能だが、BSに対抗、回復する手段は効果を発揮しない。
  強度は3で効果も3ラウンド。
  光属性を含む攻撃を受けると、周囲3スクエアを薙ぎ払う高威力反撃攻撃を行う。これは1ラウンドに回数制限はない。
  ラストテリトリー相当の能力を持つ
 地獣
  地の弾丸による射程20、4体までを対象とする地属性攻撃。命中により装備している武器の一つに
  「GS:地属性付与」を与えることがある(与えないことも有る。また付与する武器は地獣が決める)
  地属性を含む攻撃を受けると、付与効果含め無効化した上で吸収し生命力を回復する。回数制限は天獣と同様
  ガウスジェイル相当の能力を持つ
・現場はただ中ではないが、付近に辺境部族の集落があり、逃亡されたりこの場を突破されると被害が出る。



●3 『吹き荒ぶ熱風の果て』

「ば、爆散……した!?」

 荒野に現れたのは魔女然とした女性のシルエットのシェオル、そして炎の魔人というような出で立ちの歪虚だった。魔人の攻撃を、咄嗟に『攻勢防壁』で防ぐ機導師のリッキィ。だがその瞬間、魔人の身体が爆散した!
 次の瞬間ハンターたちが見たのは多数に散らばる炎の精霊たちといった姿だった。どうやらあの魔人はこれらが集まっていたものらしい。攻撃力自体は大幅に落ちたものの手数は増え、そしてどうやら魔女の命令で動くらしいこれらは連携した動きを取ってくる。攻勢防壁による行動阻害の影響を受けている様子もなかった。
 ……果たして魔人状態と精霊状態、どちらが厄介だろうか? そして、どう対処すべきだろうか?

◇シナリオ3 概要
・同行NPCは機導師リッキィと疾影士のシュン
・目標は魔女と炎の魔人の討伐。一体ずつだが魔人は条件で最大二十体の精霊状態に変化する
 炎の魔人
  サイズ2
  周辺2スクエア360°の薙ぎ払い攻撃を持つ。回避1/2
  リアクションで魔女を庇う。身体の一部を分離させることにより、距離、単体、範囲を問わず、移動を伴わない
  BSを受けると爆散する。周囲5スクエアにダメージの後、残体力に応じで最大二十体の精霊状態に変化する
  その際、受けていたBSは消失する
 炎の精霊
  サイズ1
  攻撃手段は体当たりによる近接と火の球による射撃
  三体まで同一対象に対し完全同時攻撃を行うことがあり、参加数により回避を割り算する
  再び合体して魔人状態となるが、精霊状態になってから5ラウンド経過する必要がある
 魔女
  暴風の魔法、射程10、直径3スクエアで、魔人の元に引き寄せるとともにBS:移動不能(強度5)。
  メインアクションを用いBSが無くとも任意で魔人を「爆散」させる
・場所は荒野であり民間人その他の被害の考慮は必要ない。
・その分、敵の強さと戦術は全シナリオ中最高難易度



●4 『喪失─竜は問う』

「……」

 ハンターたちが辿り着いたときそこはもう手遅れに思えた。空から飛来した竜の群れは、瞬く間に遊牧民たちのゲルを一つ残らず破壊し、辺りは血と死の匂いで満ちていた。
 ハンターたちは空を舞い、二匹、一回り大きな竜、それが率いているのだろう竜の群れと対峙する。
 空から見ても、見える範囲に生存者はいないようだった。だが……見える範囲。潰されたゲル、その下に本当に、今すぐ手当てが必要な生存者はいないだろうか?
 だが、目の前の竜たちは、不確実なことに手数を減らしてでも対応できる相手だろうか。
 顔を見合わせる一行、そこにある想いは……──

◇シナリオ4 概要
・同行NPCは無し
・目標は竜型歪虚 リーダー×2、兵士×12の討伐。
 リーダー
  爪による二回攻撃。連続攻撃ルールに基づく回避減少
  射程1~12、30°放射状の灼熱ブレス。ダメージによりBS:行動阻害(強度5)
  空中による能力半減を受けない
 兵士
  射程1~10の直線ブレス。
  リーダーが健在ならば連携して行動してくる。
・状況は簡易OPの通り。

リプレイ本文

●シナリオ1

「そちらが戦争を仕掛けてくるのなら私は喜んで受けて立つ。手を取り合う必要などない。意地と執念をかけて最後まで斬り合うのみ」
 不動 シオン(ka5395)は静かに言い放った、彼女の意志に呼応するかのように、イェジドの神威が高く吠える。威圧の声にシェオルはともかく、ゾンビたちの動きが鈍る。シオンは道を阻むゾンビたち、まだ被害者の姿を残すそれを、躊躇いなく薙ぎ払った。
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)もまた、一切の躊躇は見せなかった。掲げた魔導拳銃「ヘキサグラム」、そこから放たれる六条の光が一体ずつ、ゾンビたちを撃ち抜いていく。彼の魔力はすさまじく、着弾時に響いた音は見た目からは意表を突かれるほどに鈍重なものだった。跡形もなく……というつもりだったのだろう。だがしかし、衝撃に揺れる視界が収まった後それらはまだ立っていた。
 ゾンビというといかにも雑魚に聞こえるかもしれないが、この局面で出現するシェオルの能力に依るものである。それらは強靭な蔦に巻かれた腕でアルマの攻撃を咄嗟に受け──その右腕を肩まで吹き飛ばした状態でまだ動いて見せる。
 大ダメージには間違いなかった。見た目はよりえげつなくなったが。
「想様、これ以上亡くなられた方を歪虚の好きにさせる訳にはいきません。無事な方々の待避をお願いできますか」
 フィロ(ka6966)がそこで、想にそう伝えた。傍らには彼女が用意した魔導トラックがある。遺体を利用されるのならその前に撤去する、というのは判断として合理的ではあった……が、そこには、フィロは決して言わないが、躊躇いがあるならば区切りがつくまで時間を稼ごうという意図もある。
 ──……が。
「さっきまで生きてましたもんねー。壊したくないですよね? 別にいいですよ? 君がやらなきゃ僕がやるだけですし」
 そこで、アルマが静かに言い放つ。
「このまま歪虚さんのおもちゃにされてるのと今僕らが破壊するの、どっちが可哀想です?」
 ──ここでそれを言うのか、と。
 危うい緊張がそこに生まれる。
 前線から離れるよう他の者から指示されたところで、それを非難するようなことを言うのか。フィロの指示に従えば余計に苦しくなるし、かといって意地でその作戦を無下にするのも正しいのか。
 察知して動いたのはルナ・レンフィールド(ka1565)だった。
「私が運びますから、その護衛と援護を……いざという時は、お願いします」
 作戦としては遺体の運搬を手伝ってもらうが、あくまで戦闘要員として。ルナの提案は上手く二人の意見の仲立ちをする形になる。
「見かけ上ゾンビになって無くても、実は種が植付けられていて、突然襲ってくることも有るかもしれません。気を付けて」
 ……決して、必ず楽に終わる形で済ませるつもりでは無いのだと。
「もちろん近くで戦う人たちの事は心配だけど……信じていますから。私達は私達のすべき事を、ね?」
 前線に視線を送りながらのルナの台詞に後押しされる形で、結局想は一旦彼女の指示に従うことにした。……やはりやりきれない苦々しさは感じながら。
 その苦々しさの中でしかし、想がアルマに向ける気持ちは「何故」だった。目覚めて初めて会った時の彼の人となり。考え方。失望された、と、諦めることはできるが、しかし……──。
 悩み、止まり続けていい状況ではない。疑念を抱き、己への問いは続けながら想はルナを、フィロをカバーできる位置でライフルを構える。
 ……様子に。
 ルナが語りかけながら視線を向けた先、ユリアン(ka1664)はひとまず安堵していた。
 先ずはこれでいいだろう。
 ルナと同じく想を見守るつもりの彼ではあるが、アルマのやろうとしていることも分かる気がした。
 どちらも間違いではない二つの道を示されたらどうするのか? 『出来る』人間には単純な話だ。己の意志で決めればいい。歩き始める、変わり始めるには必要なこと。
 ユリアンが丁度そう考えたとき。
「これ以上、彼らを利用させはしないッ……!」
 声を上げたのはレオライザー(ka6937)だった。ヒーローショーのごときスーツとマスクに覆われたその姿でなお、そこには覚悟が立ち上るのが見える。
 ……守れなかった人と戦うのは初めてじゃない。そんな苦味と共にある、意志が。
(犠牲者の安寧のため、なんとしてもコイツは倒す!)
 その経験があるからこそ、彼は意志をより固めるのだ。
 つまりはそういうことだ。
 意志とは経験によって芽生えるものであり、己で決断するにはその経験からの自信がいる。だからアルマの──想う故の厳しさを理解するには多分まだもう少しかかる。
 ……それまではだから、ただ甘やかすのではなく。自分のやり方で寄り添う。それが、ユリアンの経験からのこの場での意志だった。
(情けなくても──待って、見守ってくれた人達が俺にはいたから)
 ……だから己も、同じように。
 ルナに視線を返して、そうしてユリアンもまた、今己がすべき事へと向き直った。

 ──なんてのをやってるのと平行してこの場では。
 ママチャリで爆走してきた少女が全身黄金のオーラに包まれたかと思ったらシェオルに向かってビームを放つと共に瞬間移動していた。
 ……一瞬で起きたことの情報量が多くね?
 とはいえ起きたことの見たままをそのまま書くとこうなるのだから仕方ない。ママチャリに乗ってシェオルの背後へと現れた少女、アルスレーテ・フュラー(ka6148)は、そうして。
「やー、森に生きるエルフとしては植物と戦うのは心苦しくも……ないわね、別に。私、別に森に生きてないし」
 この場に起こる悲劇も葛藤も知ったこっちゃないと言わんばかりの態度でそう呟いた。
「それはそうと、なんていうんだったかしらねこういうの。……」
 間近となったシェオル、禍々しく負のマテリアルを纏うそれに対してもどこか呑気な様子で、気にするのはこの魔物に名がつくならどうなるか、などといった類いのことのようだった。リアルブルーのゲームとかにあっただろうか。
 そんな彼女の纏う空気もまた。別段、非難するものでもあるまい。全員が悲しみにも友情にも、全員が付き合う義理もないものだ。
 この場に唯一絶対必要とされるものはつまり彼女が背後に立ったシェオル、それを倒す意志と能力だ。緩い雰囲気のようで先ほど彼女が見せたのは格闘士としての一つの頂点。今もなお所作に隙は一切見られない。
 ……色んなごちゃごちゃはあったが、戦場なのだ、ここは。

 相棒であるグリフォンのラファルは遊撃のためにいったん後方に待機させ、ユリアンもまたシェオルへと向かう。
 羽根の幻影が彼の周囲を舞った。舞い散るそれは風の音を想起させ、ユリアンの心を、身体を動かしてく。疾くあれ。その声に駆け抜ける。
 そのまま斬りつける刃が、蒼い光を散らしながら残像を引く。
 背後を取ったアルスレーテと挟み込むようにユリアンが正面に着くと、レオライザーがその側面にバイクで乗り付ける形で参戦した。
「突き穿て、オレの拳ッ!」
 マテリアルを流し込んだ機甲が、瞬間、巨大に膨れ上がる。バイクの勢いも利用した一撃がシェオルを突き倒そうとするがこれは踏みとどまった。
 シオンとアルマはひとまず、残るゾンビの始末にかかる。薙ぎ払われ、撃ち抜かれていくゾンビ。流石の威力に今度こそそれらは吹き飛んでいく。
 シェオルは背後へと回るママチャリ、もといアルスレーテを五月蠅そうにしながら棘で反撃しつつ、周囲に種を放つとまた三体の死体が起き上がる。
「リトル! 種の射線を切ってくれ!」
 レオライザーが、背後に控えさせていたオートソルジャー、リトルライザーへと命じる。リトルライザーは言われた通り重心を落して身構え、移動と射線を防ぐ体勢を取った──僅かに首をかしげながら主へと向けた視線は、何故小さな主は己をリトルと呼ぶのだろうという疑問を相変わらず浮かべているようではあったが。
 フィロとルナは、その間遠巻きの死体からフィロの魔導トラックへと積み込んでいた。二人とも、死体に既に種が埋め込まれていて手出しと共に奇襲してくるのでは……と警戒を怠らなかったが、一先ずはその様子はない。
 そうして想は、二人の様子を時折視線だけ向けて伺いながら、身体はシェオルやその周囲に向けて二人の護衛をするべくライフルを構えていた。
「全部倒すとまた起こされちゃいますかね?」
 告げるアルマの声は先ほどのようにどこか酷薄な響きがある。また同じように躊躇いなくデルタレイをゾンビに放ち、同じように半身を吹き飛ばす。
「下手に損壊したまま残すと、慣れてない方にはちょっとショッキングです……」
 などと言いながらも、彼はシオンに一体はそのまま残すように伝えていた。
「ふむ、試す価値はあるな」
 無残な遺体を前に、シオンも平然とそれに応える。生死をかけた戦いの前に情や正義など二の次だという確固たる信念がそこに見えた。
 想は見ている。
 討たれていく死体と共に、シェオルと激戦を繰り広げるアルスレーテ、ユリアン、レオライザーの三人を。
 棘の反撃を各々に受けてしのぐ。アルマの連れて来たポロウが飛び立ち、シェオルに幻影の魔法をかけると乱闘の混迷は更に深まるように……見えて。
 三人の動きは絶妙にかみ合っていた。攻撃と共にアルスレーテの身体はシェオルの背後へと瞬く間に移動する。すり抜け様に斬るユリアンの剣技がそれに合わせ、挟撃の形は常に崩れない。一気に薙ぎ払われないための位置取りではあるが、それはシェオルを翻弄する動きでもあった。そこに、側面を取るように意識したレオライザーの連携!
 だがそこに、再度彼らの傍の死体が起き上がりユリアンの背後を取る!
 ……死体の回収は進められている。リトルライザーの構えも一部は防いでいるだろう。だがこれらの死体はそもそも、シェオルが作ったものなのだ。……当然、多くの死体は、そのすぐそばにも転がっている。
「……っ!」
 待ち構える想の胸に、何かが少しずつ湧き上がりつつある。
「あ、残してても無駄です?」
 そうしてアルマがまた、生まれた動く死体を無情に撃ち抜いた。
(君がやらなければ仲間が手を汚す)
 囲みを警戒したユリアンが一度ゾンビたちの間を擦り抜けるようにして距離を取りなおし、ラファルがそれを支援するように攻勢に出る。
(動かなければ仲間が前に出る)
 背後で想が揺れ動いているのを察してアルマは、声はかけない。促してなどやらない。
(今の君は今までと何か変わりましたか?)
 ……自ら問わねば。動かねば意味が無いのだ。
 動揺は即ち、変わりたいという気持ちの表れ。
 それはどんな形だ。どう変わりたいのか。
 闘いは続いている。ユリアンがシェオルに与えている斬撃は深くはない。だが彼はそれを自覚していてなお、これでいいと弁えている。己の攻撃は……あくまで牽制。
 そこからさらに、軽い牽制の一撃からのアルスレーテの強烈な一撃が、受け止めきれなかったシェオルの胴体にまともに突き刺さる!
 ……想は。
 ぐっと、戦う前に御守りだとユリアンから預かったペンダントを握りしめると、理解する。
 あの時壁の向こうから見たかったもの。望んだこと。
(独りは嫌だ……皆と、戦いたい!)
 ……だけど、自分に出来るのか。迷惑ではないのか。不安はそう簡単には消えなくて。
 だから。
「ルナさん、俺は……」
 決意に足りない分もまた。まずは仲間に頼るところから。独りでは無いと信じるところから、一歩ずつ。
「……うん。行きたいなら、こっちは大丈夫です。きっとユリアンさんが助けてくれますから、彼を頼って」
「……はい!」
 ルナの言葉に、想は踏み出して、そしてまたユリアンの背後を狙うゾンビに狙いをつける。
 苦みは、やっぱりあった。だけど……きっと皆同じだと信じて。仲間に、友人に、なりたいから。
「足を狙って時間稼いで……大丈夫」
 ユリアンが、背中越しに声をかける。部位に狙いをつけるのは……猟撃士である彼なら、可能なことだ。視線を下げて顔を見ないようにすると、想は引き金を引く──ふらついたところを、アルマの機導術がまた撃ち抜いていく。
 シオンがそれを機に、彼女もまたシェオルへと飛び込んでいく。
 流石にこれ以上手ごまを増やしても押し切られると察したシェオルが攻勢を強める。地から突如突き立てられる根による奇襲が一行を順に襲う。
「不意打ちも騙し討ちも上等だ。生死を懸けた戦いに信義などない。隙を見せた者が討たれ、執念を貫き通した者が勝ち残るのみだ」
 攻撃を受けなおひるまず突き進むシオン。突き出した槍から、纏わせたマテリアルがインパクトの瞬間、爆発の如く赤く舞い散り衝撃を生む!
 植物型とはいえ単純に火属性が効くとはいかないが、その一撃は十分な威力があった。
 取り囲まれての攻撃に、シェオルは追い込まれていく。そこにアルマの攻撃も加われば──三方向をきっちり味方が密着した状態では使える術は限られたとはいえ──命運は決したようなものだ。
 人々を襲った脅威は、こうして取り除かれた。

「……」
 闘いが終わればしかし、景色の痛ましさは一層増していく。ユリアンにありがとうございますと、ペンダントと使わなかったポーションを返しながら、しかし自分がもっと早くからしっかりしていれば……という思いは消えないようだった。
「あの……焦らなくて良いと思います」
 先ず声をかけたのは、ルナだった。
「むしろ躊躇う気持ちとかは大事というか……私もそうでした」
 そうして彼女は、何時からあまり気にしなくなっちゃったのかな、と苦笑する。
「想さんは想さんのペースで、良いと思います。歩み続ける事、奏で続ける事が大事なんだと思います」
 言われて……想は少し救われたような顔でルナに頭を下げた。
「……弔いの手伝いをしようか」
 そうして、ユリアンの提案に想は重々しく頷く。レオライザーもそれに加わる。
 戦いぶりを見ていた住人たちはやや遠巻きに距離を置いてそれを見る者も居たが、反応としてはせいぜい戸惑いで、排除や反感の姿勢を見せる者たちは居なかった。
 もとよりハンターたちへの好感度は高い。そこに……戦闘中も遺体を遠ざけることで、死者の尊厳を守ろうとしたフィロの意志は彼女の望み通り伝わっていたのだろう。
 フィロの魔導トラックから、広い場所へと遺体が降ろされ、身元確認にと人々が沈痛な顔で集まってくる。
(絶対に忘れない。……無かったことにも、させない)
 縋り、口々に発せられる名前をしっかりと耳に刻みながら、レオライザーは誓っていた。
(戦うとこの世界の人々が決めたなら、オレは彼らと共に戦い、一つでも多くを守りたい)
 ──オレは、レオライザーだから。

「にしても」
 消えゆくシェオルの死体も見つめながら、思わず呟いていたのはアルマだ。
「……タイヤ痕が凄いです……」
 まあ、戦闘中は突っ込めなかったけど、ずっとママチャリとバイクライダーに集られてましたからねこのシェオル。
 その声に、皆虚を突かれたようにそちらを見て、思わずクスリと笑ってしまって。
 ……その輪の中に、想の顔も確かにあった。


 シナリオ個別判定結果……【大成功】



●シナリオ2

 駆けつけたハンターのうち、まずはキヅカ・リク(ka0038)が真っ先に地獣へと接近していった。
 強力な機導術が解放された。生まれた光の波は天獣、地獣を押しのけ、敵の視界と射線のみを遮る光のカーテンを形成する。
 驚愕と共に唸り声をあげてリクの結界内を睨み付け、しかしその後は周囲に目を向け始めたところで……。
「行かせねえよ、てめえはよ!」
 声は、イェジドに跨るトリプルJ(ka6653)の者だった。リクの結界から離れるそぶりを見せる地獣に幻影の手が伸び、腰を浮かせた地獣を抑えつけ、その場に縛り付けた。
「最初に言っておく、ハンターを舐めるなよ?」
 続く言葉はコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)のもの。無駄のない動きで魔導拳銃を引き抜き、構え、撃つ。放たれた弾丸には高濃度のマテリアルが纏わせてあり、地獣の表皮に着弾するとともに赤い閃光を放ちながら穿っていった。
 驚きの顔を上げたのは天獣、地獣だけではない。光の結界に包まれながら、先に戦っていた朝霞、夕霧も思わず振り向いている。そこに近づいていくのは金鹿(ka5959)だ。
 二人を見て金鹿は、特に消耗が激しいように見える夕霧に癒しと守りの祈りを捧げる。
「かたじけない」
「いえ。微々たる支援ですけど」
 そう言って、疲れているところ申し訳ないが、もうしばらく共に闘ってくれないかと申し出ると、二人とも当然と返すのだった。
 先ずは地獣に狙いを定めたらしい一行は各々に攻撃を開始する。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法三雷神の術! 今出でよ、めがね、うくれれ、おいーっす」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が高らかに言うとともに空に符を三つ放つ。舞い上がった符はそれぞれ雷を為し、天獣と地獣へと舞い落ちるが、獣らしいしなやかな動きと共に二体はこれを回避した。
 コーネリアは銃撃を今度は天獣へと向けるが、これもまた避けられる。
 金鹿に頼まれ、完全に結界内へと入り込み地獣へと攻撃する朝霞、夕霧の間を割って、槍が飛び地獣へと突き立てられる。一際強力なマテリアルを見せるそれはアーサー・ホーガン(ka0471)の持つ星神器「アンティオキア」だ。アーサーの手元へと戻っていくそれを二匹の獣は警戒するように睨み据え……そしてそれを望むところとばかりにアーサーは内心でにやりとして見せた。
 Jはイェジドの上から引き続き、地獣の動向を警戒する動きを見せながら手にした剣で攻撃する。
 そうして金鹿は、リクの結界の中天獣の方へと視線を向ける。ハンターの姿が見えなくなり戸惑いを見せる二匹だが、狙いを付けねばならない地獣と違い天獣が睨む視線はまだ鋭い。
 彼女は隠すように術符として一枚のカードを仕込みながら、意識を集中する。
(世界を救うだなんて大層な夢を語らせていただいてる以上、為すべきことを為すのみ……そう、何時でも何度だって。助け合える仲間や、心を預けた人がいる限り。挫ける暇はどこにもございませんもの)
 心を澄ませると、符が舞う。天獣の周囲を十枚の符が取り囲み陣を描き、輝く黒を生み出し包み込んでいく。抗うように天獣が高く吠え……だが、仕込まれたカードにより更に強度を高めた術の前になすすべもなくその力が封印されていく。
 流石に劣勢過ぎると感じたか、天獣はその場を駆けだしていき……しかし。逃げた先でもまた別の術に捉えられることになる。リクが控えさせていたゴーレム、それが準備していた法術地雷だった。これにより地獣のみならず天獣も動きが封じられる。
 リクと金鹿これより、術の維持に集中することになる。そうしてほぼ手出しが不可能な上に逃げることも叶わない二匹相手に対し、まずは地獣から倒すという作戦……だが。
 盤石という訳では無い。リクの術が維持できる時間はそう長くない。それまでに地獣が倒せれば、というのが理想ではあったが、獣だけあってこれらは存外しなやかに動いて見せた。姉妹との連携を意識しているアーサーの槍はともかく、ルンルンの術とJの攻撃は意外と避けられている。
 そして……Jがしっかりと動きを監視し抑えにかかろうとしてる地獣はともかく、ゴーレムの術式で天獣の足止めがそれほど長く持つのか……という点である。
 輝く法術陣の上でもがき続ける天獣の表情は──勿論獣の表情がはっきりわかる訳では無いが──楽勝では無いものの絶望的という程にも見えなかった。そうして、彼らが再び二度攻撃する間、ついにその地雷から天獣が抜け出す!
 ……と、ともに再びゴーレムがその先に設置していた同じ術にかかりはしたが。
 それでも。
「……姉上」
「……うん。流石に放置はちょっと、安心しきれないんじゃないかなー……ごめん」
 朝霞、夕霧の姉妹はそうして、金鹿にすまなそうに頭を下げると、抑えておくべき、と天獣の元へと向かっていくのだった。
 一行は顔を見合わせる……一瞬の迷いの内、結局、これまでも姉妹と共に闘っていた形のアーサーがその補助に行く。
 結果として、想定していた集中攻撃の形はとれず、地獣をJが、天獣をアーサーと姉妹たちが足止めして、ルンルンとコーネリアが遠距離攻撃でその双方に攻撃、とまんべんなく分散する形に落ち着いてしまった。

 地の弾丸を結界に阻まれる形になり、地獣の攻撃は進路を阻むために立つJに集中する。イェジドへの猛攻撃を、Jは己の生命力とリンクさせて守り抜く。……だが、同時にJは地獣を攻め立てる手段を失い、耐え凌ぎ足止めすることに集中するよりなかった。
 コーネリアが銃を天へと向けた。空へと放たれた弾丸は天空で炸裂、黒き懲罰の雷となって天獣、地獣の両方へと襲い掛かっていった。動きの鈍った二体に、ルンルンの符術が放つ白い雷が追い打ちのように落ちる。風属性の攻撃に地獣が痛みに耳障りな吠え声をあげた。
 ……そうして、三方向から天獣を挟み込みながらアーサーは苦笑する。
「情勢がシンプルでも、もう気楽とはいかねぇし、癒されるとは言えなくなっちまったな」
 思い出したのはかつて姉妹と共に闘った時か。あの時のビッグマーも大概なスケールだったが、果たして邪神と相対するときはどんな気分だろうか。
「んー……まあ、やるだけ頑張るしか、無いよね」
 共に。同じ敵に向かって刃を交えながら。その鋭さの差を実感しているのだろうか。どこか含むような声でしかし、朝霞は明るく言うのに。
 アーサーは、少し眉をひそめながら、次いで意味ありげに姉妹に目配せする。察して二人は一度天獣から大きく飛びのいた。
 天獣の能力が封じられている今、彼が抜き放つのは妖剣「メドゥラウト」。その闇の力を解き放ち刀身が黒いオーラを放つ。更に己のマテリアルを纏わせておいた刃を、気迫を込めて一気に突き出す。最適化された刺突、その衝撃が象るのは龍の姿だった。一直線に貫いていく、闘狩人としての最高峰の一撃が生み出す威力。巻き込まれぬように左右に分かれていた姉妹は横目にそれを見届けて、味方ながら乾いた笑みをこぼさずにいられなかった。
 ただでさえ速すぎて余程の難敵でも無ければ見切れようもない攻撃が、さらに威圧で動けなくなったところに放たれた天獣は流石にその威力に大きくもがいた。怒り狂って天獣はその瞳をアーサーへと向ける。それを認めてアーサーは姉妹へと苦笑を投げた。気負うなよ、と。
 それを受けて、朝霞はちょっと困ったように微笑を返す。
「んー……私たちはさ、この世界を守りたいんだよね」
「まあそりゃ、その想いは否定しねえよ」
「君たちが、大戦のためにここを離れなきゃいけない間も、の話?」
「……」
 言葉を交わしながら、刃は止めない。一度見たことのある相手同士、合わせようと思う気持ちがあれば共闘できる。姉の朝霞の刃はかなりの腕と言っていいだろう。夕霧だって決して悪くはない。シェオルにだって……出会って即死、という事にはならないだろう。
 つまり彼女たちは自覚している。だからこそ、彼らが居ない間世界を守るのは自分たちのような「二軍のもの」だと。
「だからまあ、そっちもあんまり気にしないでよ。ここで脱落しちゃうならつまり……『遅かれ早かれ』だったって、そういう話かなー」
「……死ぬ気でいんのか?」
「いやあ。勿論出来れば平和な世の中を見たいかな? せめてかわいい妹ちゃんは守りたいねー?」
「姉上っ! わ、私も! せめて足を引っ張らぬように闘えればと……!」
 その為に少しでも学ばせろというのだろうか。慌てていい、睨むように己を見つめてくる夕霧にアーサーはまた苦笑する。
「そうか。まあ、気張れよ」

 リクの結界術が限界を迎えた。地獣はまだ健在である。リクは意識を切り替えて自身も地獣へと向かう。Jと挟むような形になり、ルンルンにも支持して包囲の形を取り直す。
 その形になると地獣へ向かう面々の攻撃も目に見えて命中するようになってきた。リクの剣から放たれる、強力な機導砲が地獣を打つ。
 同時に、視界が晴れた地獣の弾丸がハンターたちを襲い始めた。無理矢理地属性を与えてくるその効果を、リクは意志の力で弾き飛ばすと機導砲での攻撃を継続する。
 黒曜封印符を継続する金鹿もその脅威にさらされることとなるが、これは彼女の連れるオートソルジャー、翠蘭がしっかりとガードしていた。
 ルンルンの術は元々影響しない。コーネリアも、弾丸に纏わせるマテリアルの性質を冷気のそれに変えて対応した。凍れる弾丸は動きを鈍らせて、包囲攻撃を更に苛烈なものにさせる。
 それでも地獣の攻撃は威力自体も高いものだ。リクは積極的にその正面へと回った。盾を掲げ、その攻撃を受け止める。
 やがて一行の苛烈な攻撃を受けた地獣はとうとう倒れ伏す。
 消えゆくそれはさておいてとりもなおさず一行が天獣の方へと向き直ると、槍で姉妹を庇うように立ちはだかるアーサーの姿が見えた。
 Jがイェジドと共に急ぎ駆けつける。マテリアルを身体中に巡らせ力を高めながら、その手に砂が集まり武器の形を形成してく。
 ルンルンはひとまず姉妹の元へと向かっていった。
「ルンルン忍法ニンジャバリアー」
 符術を発動させると、防御の力が周囲を覆う。
 一体多数になってしまえばあとは時間の問題ではあった。金鹿の封印はやがては解除されるが、抵抗力の高いリクがラストテリトリーでブレスを一身に引き受けたことにより影響は限定された。
 その、リクが攻撃に参加できなくなってしまう事は痛手ではあるが、そもそもアーサーがここまでに結構な深手を与えている。
 予定通りにいかなかった部分もあったが、ゴーレムのbindのお陰で先にある集落に被害を出すことはなく、ハンターたちは二体の魔物を仕留めることに成功するのだった。
 ……集落に、被害は。
「……お前ら、根性見せたぜ」
 倒れる朝霞と夕霧に、アーサーは声をかける。
 戦闘不能……重体にはなるだろうが、復帰は可能だろう。
 疲労を抱えて、それでも勝利を手にしたハンターたちは帰還する。


 シナリオ個別判定結果……【普通】


●シナリオ3

 状況を聞きつつ駆けつけたハンターたちは、手はず通りまずルカ(ka0962)に視線を送った。
 祈りと共に大魔術が発動する、味方を強力な障壁が覆い始める。
 これまでに超覚醒を済ませていた高瀬 未悠(ka3199)は、勇気の力を引きだし、戦い続ける力を周囲に与える。
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)がそうして、魔人へと距離を詰めていった。突き出した腕が熱を帯びて赤く染まっていく。炎がそこから吹き上がった。細く鎖の如く伸びて檻のように魔人を囲み、閉じ込める……と同時に、魔人の身体が爆発した。
 分かっているとばかりに巨大な斧を両手でしっかりと胸の前に寄せ受け止める。
「あぁ? テメェ、この程度の炎で俺を殺そうとしてたのか…? 火の粉から出直してきやがれぇ!」
 叫ぶボルディアの言葉に。
 精霊たちは元より変化のよく分からない姿で漂い続けるだけで、魔女はと言えば無事なボルディアに対し静かに何か思案するような様子を見せるだけだった。
「張り合いなしかよ……ならこいつはどうだぁっ!」
 そのまま、構えなおした斧が唸る。爆発して散り、精霊状態になった一体一体を、振り回される斧が薙ぎ払っていく。
 待ち構える仲間たちも同時に動いていた。
 乾いた荒野に、炎が。魔人の炎。ボルディアの炎。そこに、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が全身から散らすそれが加わる。乾いた空気を切り裂きながら、加速したアルトの身体が駆け、通り抜け様に精霊を切り裂いていく。
 爆散に巻き込まれぬよう遠巻きに見ていたイツキ・ウィオラス(ka6512)もここで動く。
 風の結界を纏い彼女を守るグリフォンのリゲルに跨りながら、手にした槍に気を練っていく。
「難しい事は、私にはわかりません」
 この戦い。この決断。その先に何があるのか──まだ、見えない。それでも。
「阻むものが在るのなら、全身全霊で討ち滅ぼすだけの事!」
 想いと共に、力が放たれる。一直線に、蒼の衝撃が進んで精霊たちを打ち払わんとする。
 夢路 まよい(ka1328)もまた、グリフォン、イケロスの上に居た。マテリアルが交じり合い、意識が完全にシンクロしたのが、感覚で分かる。二重の意識で近くする世界から彼女は術を紡ぐ。術はマジックアロー。それがフォースリングの力で増幅され五本。高い集中により二つ同時に発動させ、十本。その、彼女が練り上げる魔力の流れは、同調したイケロスにも同じように組み上げられていた。計二十本。まよいの、イケロスの身体から放たれた矢が、それぞれに精霊へと向かい……そして。
 ──全ての精霊が、それを避けた。
 単純な攻撃では捉えきれない。ボルディア、イツキの攻撃は避けにくい性質をもつものだが、それでも半数近くが避けていた。命中と避けにくさと、特に意識されたアルトの攻撃はかなりの敵を斬っていたが……一撃で消えてくれるとはいかないようだ。
 反撃が来る。多くが狙うのはやはり中心に一人立つボルディアだ。先ほどと同じように、受け止めようと斧を構える──が。
 高度に連携する相手に取り囲まれる。イツキはそれを警戒して外周に立ち、視界と射線を防ぐ風の結界に己を護らせた。アルトもまた、連れる幻獣の影を利用するなどして身を守ろうとしている。
 それに対してボルディアは。避けきれぬなら先ほどのように斧で受け止めて……と考えていたようだが。開けた荒野で全方位を囲まれた状態で独り立てば当然、死角というものは生まれる。敵はそれに対して、タイミングをきっちりと合わせて、或いは絶妙にずらして襲い掛かってくるのだ──受けきれない攻撃すら、そこには生まれる。
 ……だが。それも。
 ルカの生んだ衝撃により、ほとんど弾かれていた。
 状況に安堵し、再度攻撃にかかる一行。精霊形態は思ったより回避が高いという状況を動かしたのはアルトだった。彼女のイェジドが吠え立てる。威圧の咆哮に敵が怯むところに──無我の境地に達した彼女の身体がさらに加速する。
「ついて、来れるか?」
 走り抜け多くの敵を切り裂き……更に追撃。一つの身体から放てる最高速度と言える攻撃に多くの精霊が弱まっていく。
 追うように、ウォークライで怯む敵に、皆の攻撃が続き先ほどより突き刺さっていく。

 そうして──再び敵が動く。
 まずルカの元に、三体の精霊が炎を同時に吐きかける。避けきれぬ同時攻撃、しかしその大半をやはり障壁が防ぐ……のを、しっかりと魔女が確認して。それから。
 ──残る精霊と魔女が、一斉に全力でその場を離れていった。
 ……まず、ここはただの荒野である。敵の拠点でも攻め込んできているわけでもない。敵に『この位置を死守する』理由は別にない。
 とはいえ、やはり全力で追いかければ全員、置いて行かれる速度ではない。本来、逃げ切れる速度無しに逃げ回るのはただの不毛であり、ゆえにハンターたちが逃亡を想定していないのは無理からぬことではある。
 だからこれは……逃亡が目的では無いのである。
 敵は『魔女』である。ミレニアムの存在自体は正しく知らずとも、ルカが何がしかの術を使ったことは判断できる。……そして、これほどの障壁をこの人数に与える程の大魔法なら効果時間は限られるのではないか、とも。
 ミレニアムの効果は高い。そもそも全員の防御力も高いところにこれで、精霊の攻撃は殆ど通じなくなっていた。そうなれば──高い知性の持ち主なら、この状態にまともに相手などしていられないとあっさり決断するしか無くなる。
 効果切れまでの時間稼ぎ。それがこの鬼ごっこの、魔女の意図である。そして……ルカの術には、維持のためには動かないでいる必要があった。
 どうすべきか……いや、実際選択の余地はあるまい。ミレニアムが効いている限り魔女たちは逃げ続けるだろう。ルカ独りがどこまでも置いて行かれることになる。その上ボルディアやアルト、まよいが使った強力な強化スキルが、鬼ごっこの間に費やされてしまう事になる。
 強力な加護、それを維持するのに術者本人が集中を続けるだけ、というのはいかにも軽い代償に思えるかもしれないが。敵が戦略的に動きうる存在の場合、状況によっては切り札を早々に見せてしまうとこう言う事も起こりうるのだ。
 一行はひとまず逃げた魔女たちを追いかける。まよいとアルトなどはそこからさらに攻撃を加えて見せるが……まよいのマジックアローはやはり当たらない。そうして魔女はやはり一部の精霊たちに試しの攻撃をさせると、障壁が発生しないのを確認したら今度はその場に留まり攻撃を再開した。
 乱戦の再開だ。再び猛威を振るい始めるハンターたちの攻撃。魔女と精霊たちも、包囲からの多方面攻撃により反撃する。削り合いの我慢比べ……だが。
 ……範囲攻撃の効果は、正直、ハンターたちが見込んでいるほど上がってはいなかった。
 荒野という無制限のフィールド、その中で相手に位置取りや逃げ場をフリーに与えすぎている。強力な範囲攻撃を見せつければ、遠距離攻撃手段を持つ敵がとる行動は当然『なるべく拡散する』だった。お陰でまよいが射線を遮られることなく好きに狙えるという点はあったが……彼らの中で最も効果を上げていたアルトの散華は、こうなると極端に効果対象が減る技でもあるのだ。
 その上。位置取りに、視線や射線、そう言ったものを一切邪魔されることなく。何より、倒すことを後回しにすること自体は間違いとは言わないが明らかに司令塔たる魔女を一切、動向すら気に掛けず放置では、向こうの連携を完全な形で機能させ続ける。精霊たちの支援を受け自在に駆ける魔女の遊撃に、ハンターたちは翻弄されることになった。
 ここでルカはペガサスの白縹に命じて結界に精霊たちを何体かを閉じ込める。だが、この状況でフォローなしに敵にとって厄介なことをすれば、待っているのは集中攻撃だ。ルカ自身と、未悠が危機を察して庇いに入るが、多方面からくる射撃攻撃に対し、二人とも明確に打つ手がある訳では無い。手数に負ける現状から、行動を捨てて庇いに行くのはどう見てもじり貧の図だった。ルカは諦めて白縹に退却させることにした。

 狙える敵が極端に減りつつも、アルトの連れるイェジドのウォークライが、ボルディアのトールハンマーによる攻撃が少しずつ動きの鈍る敵を生み出していて、まよいがそれらを狙って撃ち抜いていく。イツキの放つ青龍翔咬波もやはり避けられつつもある程度の敵は捉えている。そして、それらの攻撃に合わせた未悠のレセプションアークもまた、絶妙なタイミングで敵を捉えている。
 そう。未悠は、攻防に味方との連携を意識していた。……彼女一人が。
 それは。
 彼女が狙われれば、それをフォローするものが居ない、ということを意味していた。
 思ったより時間のかかる殲滅戦の中。精霊たちは急速に、未悠の背後に集まり一つの形を成していく。
 振り返ろうと──したところで。
 精霊たちが一つになることで晴れていく視界。その向こうに。魔女が居た。ぴったり、魔人と魔女で未悠を挟み込む形で。
「──……っ!」
 声を上げる間もなく。
 魔人の一撃と魔女の魔法、完全同時の挟撃が未悠に襲い掛かる。初見のその一撃は、片方は防御すら叶わない。覚醒者であっても生半可な者であれば命を落としかねないほどの威力を、しかし彼女は守護者の勇気で耐えた。
 繰り返しになるが。ハンターたちは意識していなかった。敵の位置取りを抑えることを。互いの立ち位置を。範囲攻撃を見せつけたおかげで戦域は拡大し、各々の距離を開かされた。その状態で、魔人状態に戻ればどうなるか。
 ──強力な敵二体を前に、どうぞ各個撃破してください、という状況の出来上がり、である。
「……っ」
 やはり、この形態はこの形態でヤバい。
 ボルディアとルカの間で咄嗟に視線による意思疎通が行われる。ルカがここで再びのミレニアムを使用し、ボルディアがまた魔人を爆散させた。そうしてルカは、分かってますよとばかりにまたすぐ解除した。
 削り合いは、しかし。ハンターたちにゆっくりと勝利の天秤は傾きつつある。なんだかんだでこの場に居る全員の攻撃力が、防御力が、回避力が、並のハンターたちとは文字通りの桁違いであるがゆえに。

 しかし。そう……ただ、強いから。間延びした戦況に彼らがなお無事である理由が、そうであるならば。

 リッキィとシュン。精霊状態にして各々範囲攻撃。それ以外に明確な指針を見出せなかった彼らは、同じように邪魔にならない位置で攻撃をするしか出来ず。後衛であることは安全を決定付けないこの戦況に於いて、ただそのまま経過した時間の分だけ命を削られていた。
『リッキィ、シュン、夫婦岩に触れた時の気持ちを思い出して。……必ず一緒に生き抜くのよ。私も絶対に生きて彼の元へ帰るわ』
 勇気と共に未悠から与えられた言葉を。
「ははっ」
 思い出してシュンは今、思わず嗤っていた。
 夫婦岩に触れた時の気持ちを思い出して、だと?
 シュンにとってリッキィは特別な存在だが、それはシュンが歪虚への、邪神への憎しみを捨てきれずになお、そんな彼ごと愛してくれてみせたからだ。
 己の心を一番に支配し続けるのは昏い復讐の炎で、それでもいいと言ってくれたからリッキィは傍に居られた。
 ──筈だったのに。
 あと少しで邪神と闘えるその時に、自分がとっさに選ぶのはこっちなのかと。
 リッキィを庇い、魔女の暴風に引き裂かれながら、シュンはそんな自分を嗤って……微笑った。
 もう、覇者の剛勇の効果はない。その身体はただ崩れ落ちていく。
 その身体を抱きとめてへたり込むリッキィ。二人の前に未悠が立ちはだかる。
「待って……お願い諦めないで。……必ず護るから!」
 叫ぶように未悠が言って。
「……すまない。ついていけない」
 リッキィの声は、虚ろだった。

 イツキは、眼前の光景に。滲み出る想いが止められなかった。
 護る為に、闘うと。
 導く為に、歩くと。
 そう決めて挑んだこの戦いは、果たしてその言葉で表すべきものだっただろうか。
 一心不乱に、己が道のみを脇目も振らず邁進し──ふと振り向いてみれば、多くの者たちを置き去りにしていた。
 そんな錯覚を感じて……振りほどく。それでも今は、止まるわけにはいかないのだ。
 そうする間にもじわじわと。精霊の数は減ってはいた。
 未悠のユグディラ、ミラは足りない回復力を補うために途中からは癒しの歌を奏で続けている。そうやって、覇者の剛勇で。リザレクションで。無理矢理立ち上がっては向かってくる一行に。
 追い詰められながらも魔女は。冷ややかな笑みを浮かべて、それを受け止めるばかりだった。
 ──……反動存在、たる役割は十分に見せてやれたと、言いたげに。
 最後は取り囲まれ、魔女は消えていく。
 ……消えゆく魔女を見て。勝利に喜ぶ顔を浮かべている者は、誰もいなかった。

 ──疾影士シュン。本戦闘により再起不能。
 未悠の懸命の護衛により命だけはとりとめたが、二人の物語がこの世界で紡がれることは、もう無い。


 シナリオ個別判定結果……【普通】。


●シナリオ4

 到着と共に。
 惨状は、否応なしに駆け付けたハンターたちの目に映る。
「くそっ、遅かったか!?」
 岩井崎 旭(ka0234)が思わずだろう、声を上げる。が。
「……っ! 救助に向かう為にも早く倒してしまうのです!」
 エステル・ソル(ka3983)がやはり、一瞬息を呑んだのちにそう声を張り上げると、旭もはっと沈みかけた表情を引き締めた。
「……だよな! まだ生きてるヤツがいるかもしれないよな!」
 旭はエステルの声に同意を示すと、視線を眼前に陣取る竜の群れへと向けた。
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)はただ、静かな様子で眼前の光景を俯瞰している。竜の群れも。惨劇の様子も同時に。
 ──「誰も泣かない世界」の為に。
 そんな、幼い頃の「夢みたいな」祈りを大真面目に携えたまま、とうとうこんな所まで来てしまった。
 ……今はもう知っている。誰もを救うことは出来ない、この手はいつも多くを取り溢す……けれど。
(全員を救おうと願いもしなければ、きっと半分だって救えない)
 だから今日も彼は戦うのだ。決して諦めはしないと。
 そして、そんなアウレールの横。
「……」
 鞍馬 真(ka5819)の湛える静かさは、アウレールとは真逆と言っていいような性質のものだった。
 人々を救うどころか、守りたい人すら守れない。そんな己の弱さを先の戦いで痛感したばかりの所だった。
 心が動かないのは、落ち着いているのではなく重たいだけ。絶望と苛立ちが募りながらも、それでもハンターとしての責任感が、私情は持ち込むまいと表面は普段通りに彼のように身体を動かしていた。
「対邪神を覚悟しようがしまいが歪虚の襲撃はやまぬ」
 やがてミグ・ロマイヤー(ka0665)が、分かり切ったことという風に言った。
「なればミグらは歪虚どもを狩るのみよ」
 そしてそれもまた、当然の理というように。
 竜たちに視線を向け続ける一行に、それに異論があろうはずも無かった。
「貴様らが自らの欲望のために我らを虐げるならミグらは貴様らを討つ剣となろう。そして我らは邪神を討つ覚悟を決めた。この戦こそが初戦となり、ミグらの逆襲の狼煙となるのだ」
 ミグのその宣言が。
 戦闘開始の、合図となった。

 真のワイバーン、カートゥルが高くなく鳴くと、急加速して竜の一群に近づいていく。真の剣が彼のマテリアルを纏い、蒼い炎を吹き上げた。
 直後、繰り出された刺突に真と彼が狙ったリーダーと思しき一体、その直線状に居る竜全てが穿たれ血飛沫を上げた。超密度のマテリアルを練り上げ刺突と共に放つ闘狩人の奥義。その途方もない威力と射程。
 旭もワイバーン、ロジャックと共に竜たちの位置するやや上空から接近していく。旭はロジャックに呼びかけると、それに応じて飛竜から火球が吐き出された。爆発するそれは前方に位置していた数匹に火傷を負わせる。
 予め超覚醒していたアウレールもグリフォン、グラオーグラマーンと共に敵に向かう。搭載していた幻獣ミサイルで一群を狙うが……この一撃は外してしまう。
 声と共に細胞の一つ一つが更なる力に目覚めていく……星の守護者としての力に。
 エステルはペガサスのパールの背でその力を感じながら、自身もすべきことのために意識を集中した。
 真昼の空に星が生まれた。
 エステルの周囲に歌うように瞬くそれは彼女の魔力の集中によって生まれたものだ。
 高めた魔力に彼女は詠唱を重ねる。
『蒼の戦女神は紅き衣を纏い 情熱の唇に清澄の旋律を以て命じる 花開け ≪紅燐華≫』
 大輪の薔薇の華の如く咲き誇る火球が竜たちに向かって降り注ぐ。逃げ場の無いようなそれをリーダーたちは掻い潜るのが見えたが、多くの竜が一度に巻き込まれ苦悶の咆哮が唱和する。
 ミグの搭乗するルクシュヴァリエ、ゴッド・バウが浮遊する。このゴーレムの開発に彼女は、コンセプトの段階から関わっている。愛着もひとしおのこの機体を彼女は「マイサン」と呼んでいた。
 マテリアルを纏ったゴッド・バウが蒼い輝きを放ちながら竜の群れへと突進し、雑魚の群れを弾き散らす。
 リーダーの一体が吠えた。一行を警戒するように順に睨み据えるその瞳は冷たい。そうして、その一吠えで竜たちはミグに散らされた陣形を立て直すと三匹の竜が一人突撃して来た彼女を包囲するように反撃する。ミグは敵の陣形を引っ掻き回すつもりのようだったが、簡単に浮足立ってくれる相手ではないらしい。
 反撃のブレスが各々に襲い掛かる。リーダーのブレスは一体は真とエステル、もう一体は旭を狙って放たれる。部下のブレスを布石としての攻撃に回避は困難を強いられるが、旭の駆るロジャックは巧みな曲芸飛行でそれを避けて見せる。
 もう一体のブレスはエステルが放つ光の壁に吸い込まれるようにして彼女一人へと襲い掛かった。焼け付く感触に、動きが鈍るのをエステルは実感する。
 やはりリーダーを抑えないと厄介だろう。真はカートゥルに命じ敵陣を突破しながらリーダーに肉薄する。
 敵の陣形にリーダーのところまで踏み込めない旭は、先ほどのロジャックの攻撃で牽制した一体に槍を振るう。不規則な軌道を描く二連撃を、速さと鋭さをもって放つと大気が乱れ狂う。
 エステルはパールに命じて自らが一身に受けた不調を癒した。
 そのアウレールの全身から、ふいに強い力が発せられる!
 四方に伸びていく力の圧に、その場の全員がそこに十字架を見た。背負うもの。星の守護者としての彼の力。彼の誓い。
 多くの竜たちがそちらを見るとともに、ミグはまたマテリアルを纏う突撃で竜たちの囲いから脱出、アウレールの方へと引くように移動する。
 真がリーダーを抑えていたのもあって、ミグの周囲に居た竜が引きづられるようにアウレールの方へと移動した。
 誘引に……二匹のリーダーは、気付いていないわけではなかったようだ。しかし真とエステルが見せていた攻撃の威力はすさまじく、無視して距離を開けられるのも面白くはないともわかっている。
 結果として竜たちは警戒しながら一部突出した竜たちに合わせるように、ハンターたちに向けて前進する。だが、強力な力を見せつけたがゆえにその統率は益々強固なものになったようだった。
 ……が、それでいい。別にこの誘引に、罠などを用意しているわけではない。
 ただ『そこ』から動いてくれればいいのだ。彼らとしては。

 そのころ木綿花(ka6927)は。
 予め打ち合わせてあったのだろう、戦闘には参加せず、集落の捜索に回っていた。
 事前の連絡で、救助できるものが居れば付近にある砦が受け入れてくれることは根回し済み。ただ、そちらから救助の手を回すのは、付近の安全を確保してからではないと難しいとのことで……それは仕方が無いだろう。徒に二次災害を増やしかねない。そちらについては……彼らに任せるしかない。
 上空を見ると、竜たちがゆっくりとだが遠ざかっていくのが見えた。一つ、ゆっくりと頷きあとは脇目も振らずに捜索を開始する。
 ポロウのニャーナと共に、戦域と被らない低空を行き、そしてニャーナに捜索の魔法をお願いしてはその結果を確認して回る。
「……倒れている人の中にまだ無事な人は居ない?」
 探査の魔法は主にゲルの下に向けて行われるが、その範囲は広い。縋るように聞いてみると、しかしニャーナは寂しげな鳴き声を返すのみだった。
「……そう」
 見渡しやすいように空を行けば、凄惨な光景もまた広く眼に入る。心がじくじくと痛むのを感じながら、それでも助けられる命があると信じて彼女は行く。

 闘いはリーダーをそれぞれ狙う真、アウレールを中心として展開していた。
 徒党を組んでくる敵に対して頭を抑えるというのはやはりはっきりと効果がある……ただし、敵の首領と対峙するのはそれ相応の実力を求められもするが。しかしその点でこの二人に不足はない。
 初めにエステルがみせた広範囲高威力の魔法により、二体のリーダーはそれぞれの群れに距離を取り合っていたが……これは速攻を狙う真にとっては都合がいい。無体な射程距離を誇り直線状全てを巻き込んでしまうバーストエンドは、敵味方がそこまで入り乱れない状況では狙いやすかった。
 アウレールは注目を受けブレスが己に集まるのを敢えて利用する。リーダーの放つブレスを、剣で受ける。その剣術は逸話を承け刀身を霊剣へと変えるもの。その輝きをもって受け止めた衝撃をいなし、纏わせ、爆裂させて同じ範囲で敵の群れへと叩き返す。
 ……ただ勿論、敵もその状態を放置はしない。露骨に自分を狙う、周囲を固めても狙えると判断された真とアウレールは当然積極的に狙われ妨害を受ける。
 だがしかし、真の立ち回りは見事にそれを心得たものだった。包囲を警戒し、ワイバーンの突破力で離脱を図る。巧みな曲芸飛行でブレスを掻い潜ると、リーダーの側面や背面に回ることでそもそも兵士たちのブレスに狙われることを避ける。集中攻撃にきちんと意識した対処が出来ていれば、彼と、彼の愛龍は敵の猛攻を掻い潜れるだけの実力があった。
 アウレールも同様に敵の包囲の脅威を理解してはいた。彼はグラオーグラマーンに風の結界を貼らせることでこれに対処しようとするが……一つ、忘れてはいけない。高度な魔力操作を要求するこの術は別のオブジェクトや存在が居る場所には展開できない。包囲されてから使うのでは、遅い。一部欠けることになった結界から、ブレス攻撃に曝されることになる。
 だが、二人が巧みにリーダーの気を引く間、他の者たちも兵士たちに向かい奮戦している。アウレールの危機に、旭がロジャックの背を蹴って飛んだ。その背に翼の幻影が現れ、彼はそのまま天を駆ける。ロジャックと別行動にしての乱戦、隙にアウレールは距離を取って仕切り直すと、エステルがパールと共に近づき癒しの風を施す。
 ミグもその間、順調に雑魚を狩り落としていった。
「鞍馬さん、合わせてください!」
 ミグの攻撃によりリーダーへの射線がこじ開けられるとエステルが声を上げた。真は頷くとタイミングを合わせて刺突を繰り出す。これまで多数の兵士を貫いてきた星鳥の術がリーダーを叩く。
 旭も敵が減っていくにつれアウレールと合わせてリーダーと立ち回る。
 リーダーを引き付ける役目を負ったものが的確な能力で確実に狙い続け、意識を奪いながら、それぞれが冷静にすべきことを果たした。竜は少しずつ力を失い、墜ちていき……歪虚のその肉体は、地へと落下する前にほどけて消えていく。

 ……見つけた反応に。
 無責任に助けることが果たして正しいのだろうか、という思いは木綿花いは確かにあった。
 もはや入り口など分からないゲルの布を短剣で切り裂き、ニャーナと共に邪魔な木片を撤去して。
 念入りな準備と心構えで作業を進めるうち……意識は研ぎ澄まされていく。より早く! 正確に!
 やがて戦闘を終えた一行が降りてくる。
「ニャーナ案内して! 反応はまだ! あちらと……!」
 半ば叫ぶような木綿花の言葉に、ただの焦りと義務感以上のものを感じてアウレールと旭は駆ける。ニャーナが次々と止まっていくゲル、その下から各々の幻獣と協力して捜索、救助活動をして。
 ……迷ってなど、居られようか。
 ほとんどの生存者は、死してなおその身体を崩さずに子供を庇い続けた大人の死体の下から発見されたのだから。
 まさにここに……希望は託されていたのだ。最期の最期まで、僅かな奇跡を信じて彼らは運命に抗い続けたのだ。
 ……助け出された子たちは心身ともにショックを受けたせいだろう、皆気絶している。
 各々に治療を施し、緊急度の高い者からアウレールが運び込み、その間旭が遺体も集めて弔いの準備を進めていく。

 果たして救助された彼らは幸せだろうか。
 家族も友人も仲間も大半を失い、やがて目を覚ました彼らは、悪夢が現実であったことを認め絶望を浮かべる。
 これからどうしろというのだ……と。
 しかし。
「それでも……皆、生きるんだ!」
 一人の少年が、立ち上がる。
「いいか皆聞け。これからは……僕が。最年長の僕が族長だ! 迷ったら指示は僕が出す、ついてこい!」
 そういう少年もまた……虚勢は明らかだった。握る拳は青ざめている。自身の悲しみも深いだろうそこに、十四というその若輩で、今にも恐慌をきたし明日にも自殺しそうな者たちを背負って生きるのだという重責の宣言に、崩れて、倒れそうだった。
 手を差し伸べて、抱きしめてやりたい。そう願うものは多かっただろう。だがアウレールはそれを視線で制し、少年の背を見守り続けた。
 ハンターたちの視線に、砦の管理者は頷いた。
「暫くは彼らの事はお任せください。その後については……部族会議で話し合われると思います。……その場に彼もいるように、私もサポートしたく思います」
 管理者の言葉に、ハンターたちは頷いた。力になってやりたいが、今のこの世界、彼らはまだやらねばいけないことがある。

 絶望に、ふいに、あまりに無残に断ち切られる命運がある中で。
 それでも託され、繋がっていくものが在ると信じて。
 彼らは、戦い続けなければならない。


 シナリオ個別判定結果……【大成功】

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 30
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • シグルドと共に
    未悠ka3199

  • 鞍馬 真ka5819

重体一覧

  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラントka2531
  • シグルドと共に
    未悠ka3199

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ノーム」
    刻令ゴーレム「Gnome」(ka0038unit009
    ユニット|ゴーレム
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ロジャック
    ロジャック(ka0234unit002
    ユニット|幻獣
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    マイサン
    ゴッド・バウ(ka0665unit011
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    シロハナダ
    白縹(ka0962unit004
    ユニット|幻獣
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    イケロス
    イケロス(ka1328unit002
    ユニット|幻獣
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ミューズ
    ミューズ(ka1565unit001
    ユニット|幻獣
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ラファル
    ラファル(ka1664unit003
    ユニット|幻獣
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    グラオーグラマーン
    グラオーグラマーン(ka2531unit005
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イレーネ(ka3109unit001
    ユニット|幻獣
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ユグディラ
    ミラ(ka3199unit002
    ユニット|幻獣
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    パール
    パール(ka3983unit004
    ユニット|幻獣
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ポロウ
    ポロウ(ka4901unit010
    ユニット|幻獣
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カムイ
    神威(ka5395unit001
    ユニット|幻獣
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    カートゥル
    カートゥル(ka5819unit005
    ユニット|幻獣
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    スイラン
    翠蘭(ka5959unit003
    ユニット|自動兵器
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 闇を貫く
    イツキ・ウィオラス(ka6512
    エルフ|16才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    リゼル
    リゼル(ka6512unit002
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    イェジド(ka6653unit002
    ユニット|幻獣
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ニャーナ
    ニャーナ(ka6927unit002
    ユニット|幻獣
  • 獅子吼のヒーロー
    レオライザー(ka6937
    オートマトン|19才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    リトルライザー
    リトルライザー(ka6937unit002
    ユニット|自動兵器
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    魔導トラック
    魔導トラック(ka6966unit007
    ユニット|車両

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/06/28 23:06:30
アイコン ◇シナリオ2 天獣、地獣の相談
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/06/28 21:26:40
アイコン ◇シナリオ4 竜型歪虚の相談
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/06/30 11:03:04
アイコン 行き先宣言
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/07/01 12:21:34
アイコン ◇シナリオ3魔女と炎魔人の相談
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/07/01 15:27:23
アイコン ◇シナリオ1植物系シェオル相談
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/06/29 18:20:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/01 12:16:40