ゲスト
(ka0000)
【聖呪】大地の禍
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/06/11 15:00
- 完成日
- 2015/06/16 22:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●北からの報せ
「ゴブリンの動きがこれまでに無い程に活発化しているのです」
北からやって来た男はこう語った。
彼はオルフセン男爵。北部亜人地帯とも呼ばれる、グラズヘイム王国北部に領土を持つ貴族の一人だった。
「それで……なぜ私の所へ?」
王国北西部に領地を持つ――正確には息子が――マハ・スフォルツァは、神妙な顔で来訪者に問うた。
スフォルツァ家の当主は、つい最近ヒューバート・スフォルツァが家督を継いだばかりだが、実権を握っているのが母親のマハ・スフォルツァであることは、縁故のある中では周知の事であった。
「無理を承知でお願い致します。私の領民を、貴公の領地に避難させてはいただけないでしょうか?」
男爵は、そう言って頭を下げた。
無茶苦茶な話ではある。
期限はゴブリンの数が減り、安全が確保されるまで。
その間、領地にスペースを開けて、何百人かの人間の面倒を見ろと言うのである。
「なぜ私の所を選んだのです? 他にも貴族はいるでしょう」
「貴殿の領地は、近隣と比べ格段に治安が良好でありましたゆえに」
確かに、スフォルツァ領は夫人の組織した私兵団『光輝なる盾』の活動によって、歪虚・亜人による被害が近隣と比べて格段に少なかった。
「歪虚との戦いが絶えないこの時期に亜人とは……」
マハは、すぐには結論は出さずに、話を振って探りを入れて見ることにした。
「奥方様、亜人は以前から私どもの領地にはおりました。ただ、ある時期を境に急激に活発になったという情報があったのです。正確には、ゴブリンの勢力の一つが、急速に勢力を伸ばしていると……。
彼奴らは他のゴブリンの勢力を次々と滅ぼしており、このままでは我らとの戦いは避けられぬかと判断した次第です」
「……戦い?」
意外な響きだった。
亜人は所詮”亜”人、人とは同列ではない、動物の一種……そのような考えを無意識に抱いていたことに、マハは気づかされた。
しかし実際の所、ゴブリンの知能は低くはないという。
ただ、人とは社会様式が大きく違う。
だから、戦になってもおかしくはないのだが。
ゴブリンが纏まって人間を相手に戦争を仕掛けるなど……想像だにしなかったし、先例もなかった。
「それで……男爵の土地が戦場になると?」
「まず間違いはないでしょう。
北部には騎士こそ駐在してはいますが、本格的な進行が始まれば、まず耐えられますまい」
「全員をわたくしの土地に避難させるおつもりか?」
「いいえ、まさか。他の場所……例えばハルトフォートにも声をかけてはいます。また、生まれ育った土地を離れたくないと申している者もおります」
「それで……貴方はどうされるのです?」
「残ります。領民を置いて領主だけ逃げるわけには参りませんからな……」
「その言葉に偽りはありませんね?」
「無論です」
「ではここに貴方の居場所はありません……その代わり可能な限り貴方の領民を受け入れる場所をご用意致しましょう。マハ・スフォルツァの名において約束します」
「!……ありがとうございます!」
ここリベルタース地方では歪虚の活動が比較的活発であり、かつては、かの忌まわしき双子フラベルとクラベルによって大量の雑魔を放たれたこともある。
歪虚の恐ろしさを知っているからこそ、人類は結束して対抗しなくてはならないとマハは考えていた。
そして同じように人類の敵となる亜人が台頭し、それによって危機に晒されている人々が居ると知れば、こう考える。
自分の領民であるかどうかは関係無い。人間のために戦う。
それが、高貴な身分に生まれた者の務め――
ノブレス・オブリージュなのだ、と。
結局、マハ・スフォルツァ――ひいてはヒューバート・スフォルツァ子爵は何の損得も考えずに、男爵の要求を飲んだのであった。
急ぎ山野を開墾し、人を受け入れられるスペースを作る作業が開始された。
そして、オルフセン男爵領からここまでの道のりの安全を確認すべく、私兵団『光輝なる盾』の中核を担う覚醒者三名を偵察に送り出したのだった。
●道中での襲撃
「こ……こいつは! 地中からッ!」
『光輝なる盾』が一人、ギョーム・ペリエが驚嘆の声をあげた。
ギョームと他二人……ピエ・ドゥメールとジョセファ・スフォルツァは使命によりスフォルツァ子爵領から男爵領までの偵察を行っていた。確かに亜人の数が増えていた。何度か交戦もした。そして、現在は見た事もない技を使う亜人に襲われていた。
地中から、全身に土砂を纏ったゴブリンが現れ、攻撃を仕掛けてきたのだ。
そいつが腕を一振りすると、地面が爆ぜ、石礫が襲った。
「くっ……蜂の巣にしてさしあげますわ!」
一撃をしのいだジョセファが二丁拳銃を構え、引き金を引いた。
弾丸は火花を散らせ、ゴブリンの体を穿った。否――弾丸は体表を覆う鉱物に弾かれ、その体には至らなかった。
「こいつッ!」
ギョームがクレイモアを振りかぶり、斬りかかった。
脚を狙った一撃をゴブリンは跳躍して避け、ギョームの左側に着地する。
「あっ?!」
ギョームが驚嘆の声をあげた。なんとゴブリンの体が、地面に飲み込まれるように沈んで行ったのだ。
やがてそれは完全に地面に飲み込まれ消えうせた。
「気をつけて! 殺気は消えていない!」
ピエが周囲に注意を走らせる。
「グゲガガガガ……ニンゲンの戦士はこの程度の力しか持ち合わせてはおらんのか」
地響きのような声が周囲に響き渡った。
地面の下から聞こえてくる……声の主は見えない。
「俺こそは『大地の禍』ソルデリ。
俺に殺される事を誇りに思え!」
突如、地面から槍が突き出した。
「うっ!」
それはギョームの死角だった。脛を刺され、膝をつく。
狙われぬように転がって離れる。
「癒しを!」
ピエが離れた所からヒールをかける。ギョームは効果を確認すると、立ち上がった。
ジョセファは、槍が飛び出た所に向かって射撃する。
しかし槍は跡形も無く地面の中に消えてしまっていた。弾丸が土煙をあげるが、当たったのかどうか解らない。
しばし静寂。
三者は、このときアイコンタクトを送り合ったが、敵はそれを知る由もない。
「うおおッ!」
ギョームは跳躍から勢いをつけ、地面に剣を深々と突き刺した。
しかし、手応えはない。
「馬鹿め」
全く別の場所から、石礫が飛んだ。
「そこ!」「光よ!」
ジョセファがマテリアルを込めた銃弾を撃ち、同時にピエがホーリーライトを放つ。
確かな手応え。
石礫を喰らい体勢を崩したギョームの手を引き、ピエは走った。ジョセファは違う方向へと逃げ、ギョームとピエもまた別れる。
「グゲガガガガ……逃げる時の連携だけは上手いな」
ソルデリは地面から顔だけ出し、そう言って、また地面へと消えて行った。
逃走後、合流を果たした三人は、帰還してから報告すべき事を増やさなくてはならなかった。
未知の力を持つゴブリンの事を。
「ゴブリンの動きがこれまでに無い程に活発化しているのです」
北からやって来た男はこう語った。
彼はオルフセン男爵。北部亜人地帯とも呼ばれる、グラズヘイム王国北部に領土を持つ貴族の一人だった。
「それで……なぜ私の所へ?」
王国北西部に領地を持つ――正確には息子が――マハ・スフォルツァは、神妙な顔で来訪者に問うた。
スフォルツァ家の当主は、つい最近ヒューバート・スフォルツァが家督を継いだばかりだが、実権を握っているのが母親のマハ・スフォルツァであることは、縁故のある中では周知の事であった。
「無理を承知でお願い致します。私の領民を、貴公の領地に避難させてはいただけないでしょうか?」
男爵は、そう言って頭を下げた。
無茶苦茶な話ではある。
期限はゴブリンの数が減り、安全が確保されるまで。
その間、領地にスペースを開けて、何百人かの人間の面倒を見ろと言うのである。
「なぜ私の所を選んだのです? 他にも貴族はいるでしょう」
「貴殿の領地は、近隣と比べ格段に治安が良好でありましたゆえに」
確かに、スフォルツァ領は夫人の組織した私兵団『光輝なる盾』の活動によって、歪虚・亜人による被害が近隣と比べて格段に少なかった。
「歪虚との戦いが絶えないこの時期に亜人とは……」
マハは、すぐには結論は出さずに、話を振って探りを入れて見ることにした。
「奥方様、亜人は以前から私どもの領地にはおりました。ただ、ある時期を境に急激に活発になったという情報があったのです。正確には、ゴブリンの勢力の一つが、急速に勢力を伸ばしていると……。
彼奴らは他のゴブリンの勢力を次々と滅ぼしており、このままでは我らとの戦いは避けられぬかと判断した次第です」
「……戦い?」
意外な響きだった。
亜人は所詮”亜”人、人とは同列ではない、動物の一種……そのような考えを無意識に抱いていたことに、マハは気づかされた。
しかし実際の所、ゴブリンの知能は低くはないという。
ただ、人とは社会様式が大きく違う。
だから、戦になってもおかしくはないのだが。
ゴブリンが纏まって人間を相手に戦争を仕掛けるなど……想像だにしなかったし、先例もなかった。
「それで……男爵の土地が戦場になると?」
「まず間違いはないでしょう。
北部には騎士こそ駐在してはいますが、本格的な進行が始まれば、まず耐えられますまい」
「全員をわたくしの土地に避難させるおつもりか?」
「いいえ、まさか。他の場所……例えばハルトフォートにも声をかけてはいます。また、生まれ育った土地を離れたくないと申している者もおります」
「それで……貴方はどうされるのです?」
「残ります。領民を置いて領主だけ逃げるわけには参りませんからな……」
「その言葉に偽りはありませんね?」
「無論です」
「ではここに貴方の居場所はありません……その代わり可能な限り貴方の領民を受け入れる場所をご用意致しましょう。マハ・スフォルツァの名において約束します」
「!……ありがとうございます!」
ここリベルタース地方では歪虚の活動が比較的活発であり、かつては、かの忌まわしき双子フラベルとクラベルによって大量の雑魔を放たれたこともある。
歪虚の恐ろしさを知っているからこそ、人類は結束して対抗しなくてはならないとマハは考えていた。
そして同じように人類の敵となる亜人が台頭し、それによって危機に晒されている人々が居ると知れば、こう考える。
自分の領民であるかどうかは関係無い。人間のために戦う。
それが、高貴な身分に生まれた者の務め――
ノブレス・オブリージュなのだ、と。
結局、マハ・スフォルツァ――ひいてはヒューバート・スフォルツァ子爵は何の損得も考えずに、男爵の要求を飲んだのであった。
急ぎ山野を開墾し、人を受け入れられるスペースを作る作業が開始された。
そして、オルフセン男爵領からここまでの道のりの安全を確認すべく、私兵団『光輝なる盾』の中核を担う覚醒者三名を偵察に送り出したのだった。
●道中での襲撃
「こ……こいつは! 地中からッ!」
『光輝なる盾』が一人、ギョーム・ペリエが驚嘆の声をあげた。
ギョームと他二人……ピエ・ドゥメールとジョセファ・スフォルツァは使命によりスフォルツァ子爵領から男爵領までの偵察を行っていた。確かに亜人の数が増えていた。何度か交戦もした。そして、現在は見た事もない技を使う亜人に襲われていた。
地中から、全身に土砂を纏ったゴブリンが現れ、攻撃を仕掛けてきたのだ。
そいつが腕を一振りすると、地面が爆ぜ、石礫が襲った。
「くっ……蜂の巣にしてさしあげますわ!」
一撃をしのいだジョセファが二丁拳銃を構え、引き金を引いた。
弾丸は火花を散らせ、ゴブリンの体を穿った。否――弾丸は体表を覆う鉱物に弾かれ、その体には至らなかった。
「こいつッ!」
ギョームがクレイモアを振りかぶり、斬りかかった。
脚を狙った一撃をゴブリンは跳躍して避け、ギョームの左側に着地する。
「あっ?!」
ギョームが驚嘆の声をあげた。なんとゴブリンの体が、地面に飲み込まれるように沈んで行ったのだ。
やがてそれは完全に地面に飲み込まれ消えうせた。
「気をつけて! 殺気は消えていない!」
ピエが周囲に注意を走らせる。
「グゲガガガガ……ニンゲンの戦士はこの程度の力しか持ち合わせてはおらんのか」
地響きのような声が周囲に響き渡った。
地面の下から聞こえてくる……声の主は見えない。
「俺こそは『大地の禍』ソルデリ。
俺に殺される事を誇りに思え!」
突如、地面から槍が突き出した。
「うっ!」
それはギョームの死角だった。脛を刺され、膝をつく。
狙われぬように転がって離れる。
「癒しを!」
ピエが離れた所からヒールをかける。ギョームは効果を確認すると、立ち上がった。
ジョセファは、槍が飛び出た所に向かって射撃する。
しかし槍は跡形も無く地面の中に消えてしまっていた。弾丸が土煙をあげるが、当たったのかどうか解らない。
しばし静寂。
三者は、このときアイコンタクトを送り合ったが、敵はそれを知る由もない。
「うおおッ!」
ギョームは跳躍から勢いをつけ、地面に剣を深々と突き刺した。
しかし、手応えはない。
「馬鹿め」
全く別の場所から、石礫が飛んだ。
「そこ!」「光よ!」
ジョセファがマテリアルを込めた銃弾を撃ち、同時にピエがホーリーライトを放つ。
確かな手応え。
石礫を喰らい体勢を崩したギョームの手を引き、ピエは走った。ジョセファは違う方向へと逃げ、ギョームとピエもまた別れる。
「グゲガガガガ……逃げる時の連携だけは上手いな」
ソルデリは地面から顔だけ出し、そう言って、また地面へと消えて行った。
逃走後、合流を果たした三人は、帰還してから報告すべき事を増やさなくてはならなかった。
未知の力を持つゴブリンの事を。
リプレイ本文
●行末を覆う霧
「北で亜人の大移動もあったと言うし、何が起きてるのやら……」
エアルドフリス(ka1856)は、遥か北を眺めて言った。
連なる山脈の天辺を、雲が覆っていた。
出発前。『光輝なる盾』も交え、打ち合わせが行われた。
エアルドフリスらハンターの面々はペース配分や護衛の人員の割り振り、休息場所の確認に余念が無い。
しかし、この件の背景で起こっている事については不透明で、対処の目処が立たなかった。
そして準備を終え、出発した。
ハンターは先遣隊・斥候・後方警戒を分担し、光輝なる盾は避難民の護衛をすることが決まった。
街道を往く。
亜人の数は、平時と比べずっと多かった。
出くわしたゴブリンは積極的に駆除した。
「何か元気……だな」
ナハティガル・ハーレイ(ka0023)は葉巻の煙を吐きながら言った。
先日戦った、クラベルに操られたゴブリンと比較しての言葉だった。
あの時のゴブリンは酷く疲弊していたが、今日見たものは万全でずっと凶暴だ。
「どういうことだ……?」
やがてオルフセン男爵領に入り、避難民と合流した。
ハンターの発案で避難民全てに敷物が配られた。地面からの襲撃を警戒しての事だったが、「どこでも寝られる」と好評だった。
避難民にとって、危険な街道を旅するのは不安な事だった。
そこで道中、光輝なる盾の団員で聖職者のピエは、説いた。
「恐れることはありません。皆様は光に導かれ旅立つのだから、必ず護られます。……」
かつてピエを指導したこともあるロニ・カルディス(ka0551)が、群集の最前列で見守っていた。
「あの子にそんな事を……」
「お嬢は子爵家にかけて安全を約束してやるっす!」
少し後の事、神楽(ka2032)が光輝なる盾のジョセファに言った。
実はピエに説教するよう促したのは神楽である。
その神楽は今、子供に纏わりつかれていた。
「兄ちゃん、アメくれよー」
「おくれー」
「次の休憩まで頑張ったらやるっす!」
「今くれよー」
ピエの説教も飴も避難民の士気を気にしてのことだった。特に子供は足手纏いになりうる。
「小さくて小回りが利いて知恵が回って、まるでおサルさんですわね」
リアルブルーでそう呼ばれた偉人が居た事を知ってか知らずか、ジョセファは言った。
「基本は密集形態ですな。戦力を一点に集中することにより……」
「逆に敵が集中してきたら?」
「そういう場合はですな……」
岩井崎 旭(ka0234)は光輝なる盾の熟練兵に、集団戦闘での動き方について教えを請うていた。
考え方の根底はハンターとそう変わらない。それもその筈で、彼らはハンターから教授されたのだ。それが、今も生きていた。
斥候は、特に帰路で何度もゴブリンを目にした。
「遠くから見ている奴がいるな……」
馬上で双眼鏡を片手にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が呟いた。遠くから伏せて一行を見ているように見える。
近づくと逃げた。同じ事が、何度かあった。
「嫌な予感がする……」
襲撃も散発していた。
「待ちやがれ、です!」
「深追いはダメだ!」
八城雪(ka0146)は逃げるゴブリンを追おうとして、ジュード・エアハート(ka0410)に止められた。
ゴブリンは死ぬまで戦うのではなく、ある程度被害を受けたら逃げるのを繰り返していた。
「スッキリしねえ、です」
「そうだね、けど……」
ただ死にたくないだけなのか、それとも……。
●かれらの選択
一行は山岳地帯を越え、平野に差し掛かった。すでにスフォルツァ領に入っている。
「前方にゴブリンの集団を発見。すごい数だ」
ここで斥候の旭から伝話での報告。
進路的に迂回は不可能。見通しがよく、隠れてやり過ごせない。
撃破しかない。
強敵と考え、ハンター八人が前に出た。
しかし、集団を離れて少し経った頃だった。
にわかに後方が騒ついた。耳をすませば、別方向からも敵が現れたと言っている。
「かれらを守らなくては!」
「しかし、それでは戦力が分散してしまう」
思わず振り返ったアウレールをロニが制する。
すぐに結論は出せなかった。
その時、神楽の伝話が鳴った。
そして告げた。
「気にせず正面の敵を攻撃してください!」
軽装のゴブリンの部隊が集団の左右から迫った。弓に矢をつがえ放ってくる。
しかし、それは大盾によって防がれた。
兵士達が、固まって伏せている避難民達を両側から挟むように、守っていた。
「ハンターが教えてくれた……」
「一人一人は弱くとも」
「力を合わせれば強敵にも打ち勝てると!」
彼らはかつてハンターと共に自領に現れた雑魔と戦った兵士達だ。
そして、ゴブリンに攻撃を仕掛けるものもいた。
「俺達が守るんだ! 行くぞ!」
ギョームが馬を奔らせ、馬上からの剣撃でゴブリンを討つ。それに少数の兵が続いた。
反対側ではジョセファが拳銃を乱射し、次々とゴブリンを撃ち殺していった。近づく敵は、ピエがメイスを振るって叩き潰す。
「――ここは私達にお任せを!」
拳銃を握ってない手の伝話に向かって、ジョセファが叫んだ。
「戦ってくれてるっす」
「行こうぜ」
真っ先に言ったのは旭だった。
「あいつら、結構タフ、です」
続いて雪が言った。
「彼らを信じよう」
そう言ったロニの言葉には、重みがあった。
旭と雪は、かつて兵士達と共に雑魔と戦ったことがあった。
そして、ロニと神楽は、覚醒者三人を直接指導したこともある。
「思い入れがあるのか?」
エアルドフリスが聞く。肯定的な響きだ。
かれらの行動は決まった。
●背水の陣
ゴブリンの集団は横に広がり、包囲するように攻めてきた。
ハンターより多い。一人に対し複数が当たり、それでいて余りある。さらに、両翼にはゴブリンメイジが控えている。
そして中央には、外骨格のように全身を鉱物で覆ったゴブリンがいた。
「てめぇが――ソルデリか!」
接敵と同時に、ナハティガルが槍を繰り出す。
穂先が鉱物を打ち、火花を散らした。
「チッ、硬え!」
構え直したナハティガルは、突如として脇腹に熱い物を感じた。
「何ッ?!」
視界の端に槍を認める。――それは地面から出て、地面へと戻った。
「何だと……こいつじゃなく……奴はすでに地中にッ!」
「ナハティガル! くっ……」
カバーに入ろうとするロニだが、すでに三人に取り囲まれており身動きが取れない。
「グゲガガガ……弱い奴らは見捨てて来たか!」
突如、地面を反響板にするように、声が響いた。
「後ろの奴らはどうなったか……」
「無駄だ」
挑発的な声に、ロニは毅然と返した。戦力を分散させる策だとはもう見抜いた。
「隠れる以外に能が無いのかね? ひとつ魔術対決といこうじゃないか」
エアルドフリスが挑発するように言うが、
「グゲガガガガ……怖いか? 怖いか?
姿が見えぬ俺が怖いか! グ、グゲゲ、グゲガガガガガガ!」
耳障りな笑い声が、地中から響いただけだった。
「俺こそが”大地の禍”ソルデリだ……もっとも貴様らは姿も見ぬままに死ぬことになるがな!」
声に呼応するようにゴブリン達が襲いかかる。
同時に、いつ来るかわからない地中からの攻撃にも警戒しなければならなかった。
「相手が多数ならば……!」
ロニが法具を手に念じると、光の波動が奔り、周りのゴブリンを焼いた。
だが、その時死角から飛んだ石礫が、背に突き刺さった。
「ぐっ……!」
地中からの攻撃。
ロニは苦痛に耐えながらも周囲を見渡す。
誰もが敵の攻撃に晒されていた。
「回復せねば……」
ロニはヒーリングスフィアの詠唱を準備する。
「このままでは拙い」
アウレールは、左手に持っていた物を、背後の地面へと叩き付けた。
瞬時に火の柱が上がる。手製の火炎瓶だ。
「地表が燃えている所には潜れまい!」
槍で敵をいなしつつ、背中に燃え移らないギリギリの所に立つ。仲間達もそれに呼応して動く。
「いいのか?! 少しでも退けば火達磨だぞ」
地面からまた耳障りな声が響いた。
だがアウレールは毅然と言った。
「アウレール・フォン・ブラオラントの名に懸けて、ここより後には一歩として退かぬ!
かかって来るがいい! 亜人ども!」
凛とした声が、空気をも引き締めた。
炎を背にした八人の戦士達は一歩も退かずに、敵を迎え撃つ。
迫り来るゴブリン。
そして不意に地面から、槍が飛び出す。
「背後じゃなきゃ見えるんだ!」
旭の、鋭敏化された聴覚と視覚が――
地上のゴブリンと絶妙な連携で打ち込まれた地中からの一撃を、避けさせた。
「確かに意表を突かれた。だが……それも最初だけだぜ!」
そして、超感覚は見えざる敵の位置をも割り出していた。
旭の戦槍が、地面を穿つ。
「――捉えたぜ」
獲物を狙う猛禽の目。
槍を引き抜けば、穂先は、血に濡れている。
だが、すぐに敵の感覚が遠のいた。
「深く潜りやがったな!」
地面を憎憎しげに睨む。
「チマチマやってたんじゃダメっす!」
「一斉に攻撃する、です」
神楽が仕込み杖を振るってゴブリンを屠った。また、雪のハンマーもゴブリンの一人の頭蓋を打ち砕いている。
「まずは雑魚を倒すんだ!」
ジュードが拳銃の引き金を引くと、ゴブリンの顔面で火が弾けた。
「好き放題やりやがって……見てな!」
ナハティガルが槍を腰溜めに構え、周囲のゴブリン数人を一度に薙ぎ倒す。
「耐えてくれ、皆!」
ロニのヒーリングスフィアが、一度に全員の傷を癒す。
個々の実力ではゴブリンなどに引けは取らない。確実に数を減らす。
しかし、それでも地中からの攻撃は脅威だった。
さらには後列からゴブリンメイジが魔法の矢を撃ってくる。
「ソレ、鬱陶しいんだよね!」
ジュードが跳躍した。
眼前のゴブリンの肩に足をかけ、さらに跳躍。中空で身を翻し、拳銃を向ける。
空中で続け様に響く銃声。着地と同時に、ゴブリンメイジが倒れた。
「大地の禍が相手でも、空を引き裂く射手の名は伊達じゃない」
立ち上がると共に、射手は次の標的を求める。
そして、一方では頭上に旋回する鉄槌が威を誇った。
「もう――お終い、です?」
所々を返り血に染めた雪の周囲には、ゴブリンが死屍累々となって積み重なっていた。
石突が地面を強打する。その威容に、ゴブリンは戦慄した。
「あんたのお陰で楽に動けるようになった。礼を言う」
「礼を言われる筋合いはねー、です」
エアルドフリスが飄々と言って雪に並ぶ。そして、剣をゴブリンメイジに向けた。ジュードが跳んだのとは逆方向だ。
「お礼にいい物を見せてやろう」
剣から雷光が迸った。
光が爆ぜ、空間を紫に彩る。
炸裂する雷光が一度に数人を焼いた。
「どうだ?」
「派手、です」
その時。
雪の近くで、殺した筈のゴブリンの骸が跳躍した。
反射的に雪はハンマーの柄で払い落とす。
それで隙が出来た腹部を――
地面から突き出た槍が、貫いた。
「ぐぁぁ……!」
雪は、苦悶の声を上げながらも踏み止まった。
「出たな!」
旭が感覚を研ぎ澄まし、目標の動きを追う。
(集中しろ……集中しろ旭!)
「そこか!」
振り下ろされる槍。しかし――
「駄目か! 浅い!」
「そのまま……!」
旭が声に顔を上げると、エアルドフリスが剣を向けていた。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す……疾れ!」
凛とした声が呪文を紡いだ。
一陣の旋風が巻き起こり、旭が貫いている地面を抉った。
凄まじい土煙が過ぎ去ると……
一人のゴブリンが抉れた地面の中に横たわっていた。
「ハッ!?」
驚愕の表情を浮かべる――”大地の禍”ソルデリ。
「こいつの出番だ!」
ジュードがそれに反応し、腰から拳銃を抜いた。
その銃の名は、『エア・スティーラー』。その特性は――
着弾と共に空気が爆ぜ、周りの地面ごと吹き飛ばす――地とは相反する風の属性!
「今だ!」
「その首級、貰い受ける!」
アウレールとナハティガルが、並んで駆ける。
地面に尻餅をついた形になったソルデリの脇腹を、左右からそれぞれの槍が貫いた。
「グゲェ!」
体が震え、奇声が上がる。
……だが、その時ソルデリは地面への潜行を開始していた。
「行かせねぇっすよ!」
神楽が銃の引き金を引く。ソルデリの頭が大きく仰け反った。
片目が打ち抜かれていた。
しかし……それでも潜行は止まらない。
やがて、ソルデリは地中へと完全に沈んだ。
「逃げられた……」
旭が呟く。
後にはゴブリンの死体だけが残された。
●終結、そして
傷を負ったギョームがピエから治療を受けていた。
覚醒者だから一番傷を負わなきゃいけない、とギョームは語る。
ハンター達が駆けつけたときには、避難民に襲い掛かったゴブリンはすべて駆逐されていた。
即座に周辺の哨戒が行われたが、脅威は見当たらなかった。
最低限の時間で傷の手当等を済ませ、一行は再び出発した。
道中、神楽とジョセファはこんな話をした。
「お兄さんが家督を継いだそうっすね!」
ええ、と返すと神楽はオメ~っす! と軽いノリで祝福する。
「んで、その当主様は今回の件に決定権はあったんすか?」
「いえ、お兄様はお母様が絶対正しいと信じているので」
「なら要注意っす。マハさんは立派だけど気配り足りねーから今に味方に脚を掬われるっす」
「気配り……確かに」
ジョセファは誰よりも知っている。
「正しいだけじゃ人はついてこねーっす」
「……ほんと、気が回りますわね……」
一見三下のこの小男が、なんと周りを見ていることか。
以後、ゴブリンに襲われることは無く、無事スフォルツァの館の前まで辿り着いた。
ヒューバート子爵が自ら一行を出迎えた。
避難民たちはハンターに礼を言うもの、別れを惜しむもの、それぞれのやり方で感謝を示し、誘導に従って移動していった。
全てが終わってから、ナハティガルは一人考えていた。
「奴ら……一箇所に戦力を集中させてきたのか?
道中何度か襲われたのはこちらの実力を測るためで……ずっと張り付いて仕掛けるタイミングを計っていたのか……」
まるで狩人のようだ、とナハティガルは思う。
明確な殺意があり、それをゴブリン全員が共有していた。
これは、何を意味するのか。
「指導者的な存在が、いる……」
ジュードはこれまでのゴブリン絡みの事件の頻発から、そう考えるに至っていた。
もはや亜人は単なる群れではない。一つの勢力だ。
ソルデリを捕えて尋問する心算だったが、それは叶わなかった。
「次があれば……!」
雪も今後のことに思いを巡らしていた。
「ゴブリンでも、集団を練兵して組織したら、脅威、です。
それをやろうとしてるヤツがいるなら、早いとこ潰さねーと、です」
北部亜人地帯にはおびただしい数のゴブリンが生息する。
それが本気になって人類に牙を向けば、どれほどの脅威となるか。
問題は、ゴブリンを束ねているのが何者なのか、ということだった。
「北で亜人の大移動もあったと言うし、何が起きてるのやら……」
エアルドフリス(ka1856)は、遥か北を眺めて言った。
連なる山脈の天辺を、雲が覆っていた。
出発前。『光輝なる盾』も交え、打ち合わせが行われた。
エアルドフリスらハンターの面々はペース配分や護衛の人員の割り振り、休息場所の確認に余念が無い。
しかし、この件の背景で起こっている事については不透明で、対処の目処が立たなかった。
そして準備を終え、出発した。
ハンターは先遣隊・斥候・後方警戒を分担し、光輝なる盾は避難民の護衛をすることが決まった。
街道を往く。
亜人の数は、平時と比べずっと多かった。
出くわしたゴブリンは積極的に駆除した。
「何か元気……だな」
ナハティガル・ハーレイ(ka0023)は葉巻の煙を吐きながら言った。
先日戦った、クラベルに操られたゴブリンと比較しての言葉だった。
あの時のゴブリンは酷く疲弊していたが、今日見たものは万全でずっと凶暴だ。
「どういうことだ……?」
やがてオルフセン男爵領に入り、避難民と合流した。
ハンターの発案で避難民全てに敷物が配られた。地面からの襲撃を警戒しての事だったが、「どこでも寝られる」と好評だった。
避難民にとって、危険な街道を旅するのは不安な事だった。
そこで道中、光輝なる盾の団員で聖職者のピエは、説いた。
「恐れることはありません。皆様は光に導かれ旅立つのだから、必ず護られます。……」
かつてピエを指導したこともあるロニ・カルディス(ka0551)が、群集の最前列で見守っていた。
「あの子にそんな事を……」
「お嬢は子爵家にかけて安全を約束してやるっす!」
少し後の事、神楽(ka2032)が光輝なる盾のジョセファに言った。
実はピエに説教するよう促したのは神楽である。
その神楽は今、子供に纏わりつかれていた。
「兄ちゃん、アメくれよー」
「おくれー」
「次の休憩まで頑張ったらやるっす!」
「今くれよー」
ピエの説教も飴も避難民の士気を気にしてのことだった。特に子供は足手纏いになりうる。
「小さくて小回りが利いて知恵が回って、まるでおサルさんですわね」
リアルブルーでそう呼ばれた偉人が居た事を知ってか知らずか、ジョセファは言った。
「基本は密集形態ですな。戦力を一点に集中することにより……」
「逆に敵が集中してきたら?」
「そういう場合はですな……」
岩井崎 旭(ka0234)は光輝なる盾の熟練兵に、集団戦闘での動き方について教えを請うていた。
考え方の根底はハンターとそう変わらない。それもその筈で、彼らはハンターから教授されたのだ。それが、今も生きていた。
斥候は、特に帰路で何度もゴブリンを目にした。
「遠くから見ている奴がいるな……」
馬上で双眼鏡を片手にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が呟いた。遠くから伏せて一行を見ているように見える。
近づくと逃げた。同じ事が、何度かあった。
「嫌な予感がする……」
襲撃も散発していた。
「待ちやがれ、です!」
「深追いはダメだ!」
八城雪(ka0146)は逃げるゴブリンを追おうとして、ジュード・エアハート(ka0410)に止められた。
ゴブリンは死ぬまで戦うのではなく、ある程度被害を受けたら逃げるのを繰り返していた。
「スッキリしねえ、です」
「そうだね、けど……」
ただ死にたくないだけなのか、それとも……。
●かれらの選択
一行は山岳地帯を越え、平野に差し掛かった。すでにスフォルツァ領に入っている。
「前方にゴブリンの集団を発見。すごい数だ」
ここで斥候の旭から伝話での報告。
進路的に迂回は不可能。見通しがよく、隠れてやり過ごせない。
撃破しかない。
強敵と考え、ハンター八人が前に出た。
しかし、集団を離れて少し経った頃だった。
にわかに後方が騒ついた。耳をすませば、別方向からも敵が現れたと言っている。
「かれらを守らなくては!」
「しかし、それでは戦力が分散してしまう」
思わず振り返ったアウレールをロニが制する。
すぐに結論は出せなかった。
その時、神楽の伝話が鳴った。
そして告げた。
「気にせず正面の敵を攻撃してください!」
軽装のゴブリンの部隊が集団の左右から迫った。弓に矢をつがえ放ってくる。
しかし、それは大盾によって防がれた。
兵士達が、固まって伏せている避難民達を両側から挟むように、守っていた。
「ハンターが教えてくれた……」
「一人一人は弱くとも」
「力を合わせれば強敵にも打ち勝てると!」
彼らはかつてハンターと共に自領に現れた雑魔と戦った兵士達だ。
そして、ゴブリンに攻撃を仕掛けるものもいた。
「俺達が守るんだ! 行くぞ!」
ギョームが馬を奔らせ、馬上からの剣撃でゴブリンを討つ。それに少数の兵が続いた。
反対側ではジョセファが拳銃を乱射し、次々とゴブリンを撃ち殺していった。近づく敵は、ピエがメイスを振るって叩き潰す。
「――ここは私達にお任せを!」
拳銃を握ってない手の伝話に向かって、ジョセファが叫んだ。
「戦ってくれてるっす」
「行こうぜ」
真っ先に言ったのは旭だった。
「あいつら、結構タフ、です」
続いて雪が言った。
「彼らを信じよう」
そう言ったロニの言葉には、重みがあった。
旭と雪は、かつて兵士達と共に雑魔と戦ったことがあった。
そして、ロニと神楽は、覚醒者三人を直接指導したこともある。
「思い入れがあるのか?」
エアルドフリスが聞く。肯定的な響きだ。
かれらの行動は決まった。
●背水の陣
ゴブリンの集団は横に広がり、包囲するように攻めてきた。
ハンターより多い。一人に対し複数が当たり、それでいて余りある。さらに、両翼にはゴブリンメイジが控えている。
そして中央には、外骨格のように全身を鉱物で覆ったゴブリンがいた。
「てめぇが――ソルデリか!」
接敵と同時に、ナハティガルが槍を繰り出す。
穂先が鉱物を打ち、火花を散らした。
「チッ、硬え!」
構え直したナハティガルは、突如として脇腹に熱い物を感じた。
「何ッ?!」
視界の端に槍を認める。――それは地面から出て、地面へと戻った。
「何だと……こいつじゃなく……奴はすでに地中にッ!」
「ナハティガル! くっ……」
カバーに入ろうとするロニだが、すでに三人に取り囲まれており身動きが取れない。
「グゲガガガ……弱い奴らは見捨てて来たか!」
突如、地面を反響板にするように、声が響いた。
「後ろの奴らはどうなったか……」
「無駄だ」
挑発的な声に、ロニは毅然と返した。戦力を分散させる策だとはもう見抜いた。
「隠れる以外に能が無いのかね? ひとつ魔術対決といこうじゃないか」
エアルドフリスが挑発するように言うが、
「グゲガガガガ……怖いか? 怖いか?
姿が見えぬ俺が怖いか! グ、グゲゲ、グゲガガガガガガ!」
耳障りな笑い声が、地中から響いただけだった。
「俺こそが”大地の禍”ソルデリだ……もっとも貴様らは姿も見ぬままに死ぬことになるがな!」
声に呼応するようにゴブリン達が襲いかかる。
同時に、いつ来るかわからない地中からの攻撃にも警戒しなければならなかった。
「相手が多数ならば……!」
ロニが法具を手に念じると、光の波動が奔り、周りのゴブリンを焼いた。
だが、その時死角から飛んだ石礫が、背に突き刺さった。
「ぐっ……!」
地中からの攻撃。
ロニは苦痛に耐えながらも周囲を見渡す。
誰もが敵の攻撃に晒されていた。
「回復せねば……」
ロニはヒーリングスフィアの詠唱を準備する。
「このままでは拙い」
アウレールは、左手に持っていた物を、背後の地面へと叩き付けた。
瞬時に火の柱が上がる。手製の火炎瓶だ。
「地表が燃えている所には潜れまい!」
槍で敵をいなしつつ、背中に燃え移らないギリギリの所に立つ。仲間達もそれに呼応して動く。
「いいのか?! 少しでも退けば火達磨だぞ」
地面からまた耳障りな声が響いた。
だがアウレールは毅然と言った。
「アウレール・フォン・ブラオラントの名に懸けて、ここより後には一歩として退かぬ!
かかって来るがいい! 亜人ども!」
凛とした声が、空気をも引き締めた。
炎を背にした八人の戦士達は一歩も退かずに、敵を迎え撃つ。
迫り来るゴブリン。
そして不意に地面から、槍が飛び出す。
「背後じゃなきゃ見えるんだ!」
旭の、鋭敏化された聴覚と視覚が――
地上のゴブリンと絶妙な連携で打ち込まれた地中からの一撃を、避けさせた。
「確かに意表を突かれた。だが……それも最初だけだぜ!」
そして、超感覚は見えざる敵の位置をも割り出していた。
旭の戦槍が、地面を穿つ。
「――捉えたぜ」
獲物を狙う猛禽の目。
槍を引き抜けば、穂先は、血に濡れている。
だが、すぐに敵の感覚が遠のいた。
「深く潜りやがったな!」
地面を憎憎しげに睨む。
「チマチマやってたんじゃダメっす!」
「一斉に攻撃する、です」
神楽が仕込み杖を振るってゴブリンを屠った。また、雪のハンマーもゴブリンの一人の頭蓋を打ち砕いている。
「まずは雑魚を倒すんだ!」
ジュードが拳銃の引き金を引くと、ゴブリンの顔面で火が弾けた。
「好き放題やりやがって……見てな!」
ナハティガルが槍を腰溜めに構え、周囲のゴブリン数人を一度に薙ぎ倒す。
「耐えてくれ、皆!」
ロニのヒーリングスフィアが、一度に全員の傷を癒す。
個々の実力ではゴブリンなどに引けは取らない。確実に数を減らす。
しかし、それでも地中からの攻撃は脅威だった。
さらには後列からゴブリンメイジが魔法の矢を撃ってくる。
「ソレ、鬱陶しいんだよね!」
ジュードが跳躍した。
眼前のゴブリンの肩に足をかけ、さらに跳躍。中空で身を翻し、拳銃を向ける。
空中で続け様に響く銃声。着地と同時に、ゴブリンメイジが倒れた。
「大地の禍が相手でも、空を引き裂く射手の名は伊達じゃない」
立ち上がると共に、射手は次の標的を求める。
そして、一方では頭上に旋回する鉄槌が威を誇った。
「もう――お終い、です?」
所々を返り血に染めた雪の周囲には、ゴブリンが死屍累々となって積み重なっていた。
石突が地面を強打する。その威容に、ゴブリンは戦慄した。
「あんたのお陰で楽に動けるようになった。礼を言う」
「礼を言われる筋合いはねー、です」
エアルドフリスが飄々と言って雪に並ぶ。そして、剣をゴブリンメイジに向けた。ジュードが跳んだのとは逆方向だ。
「お礼にいい物を見せてやろう」
剣から雷光が迸った。
光が爆ぜ、空間を紫に彩る。
炸裂する雷光が一度に数人を焼いた。
「どうだ?」
「派手、です」
その時。
雪の近くで、殺した筈のゴブリンの骸が跳躍した。
反射的に雪はハンマーの柄で払い落とす。
それで隙が出来た腹部を――
地面から突き出た槍が、貫いた。
「ぐぁぁ……!」
雪は、苦悶の声を上げながらも踏み止まった。
「出たな!」
旭が感覚を研ぎ澄まし、目標の動きを追う。
(集中しろ……集中しろ旭!)
「そこか!」
振り下ろされる槍。しかし――
「駄目か! 浅い!」
「そのまま……!」
旭が声に顔を上げると、エアルドフリスが剣を向けていた。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す……疾れ!」
凛とした声が呪文を紡いだ。
一陣の旋風が巻き起こり、旭が貫いている地面を抉った。
凄まじい土煙が過ぎ去ると……
一人のゴブリンが抉れた地面の中に横たわっていた。
「ハッ!?」
驚愕の表情を浮かべる――”大地の禍”ソルデリ。
「こいつの出番だ!」
ジュードがそれに反応し、腰から拳銃を抜いた。
その銃の名は、『エア・スティーラー』。その特性は――
着弾と共に空気が爆ぜ、周りの地面ごと吹き飛ばす――地とは相反する風の属性!
「今だ!」
「その首級、貰い受ける!」
アウレールとナハティガルが、並んで駆ける。
地面に尻餅をついた形になったソルデリの脇腹を、左右からそれぞれの槍が貫いた。
「グゲェ!」
体が震え、奇声が上がる。
……だが、その時ソルデリは地面への潜行を開始していた。
「行かせねぇっすよ!」
神楽が銃の引き金を引く。ソルデリの頭が大きく仰け反った。
片目が打ち抜かれていた。
しかし……それでも潜行は止まらない。
やがて、ソルデリは地中へと完全に沈んだ。
「逃げられた……」
旭が呟く。
後にはゴブリンの死体だけが残された。
●終結、そして
傷を負ったギョームがピエから治療を受けていた。
覚醒者だから一番傷を負わなきゃいけない、とギョームは語る。
ハンター達が駆けつけたときには、避難民に襲い掛かったゴブリンはすべて駆逐されていた。
即座に周辺の哨戒が行われたが、脅威は見当たらなかった。
最低限の時間で傷の手当等を済ませ、一行は再び出発した。
道中、神楽とジョセファはこんな話をした。
「お兄さんが家督を継いだそうっすね!」
ええ、と返すと神楽はオメ~っす! と軽いノリで祝福する。
「んで、その当主様は今回の件に決定権はあったんすか?」
「いえ、お兄様はお母様が絶対正しいと信じているので」
「なら要注意っす。マハさんは立派だけど気配り足りねーから今に味方に脚を掬われるっす」
「気配り……確かに」
ジョセファは誰よりも知っている。
「正しいだけじゃ人はついてこねーっす」
「……ほんと、気が回りますわね……」
一見三下のこの小男が、なんと周りを見ていることか。
以後、ゴブリンに襲われることは無く、無事スフォルツァの館の前まで辿り着いた。
ヒューバート子爵が自ら一行を出迎えた。
避難民たちはハンターに礼を言うもの、別れを惜しむもの、それぞれのやり方で感謝を示し、誘導に従って移動していった。
全てが終わってから、ナハティガルは一人考えていた。
「奴ら……一箇所に戦力を集中させてきたのか?
道中何度か襲われたのはこちらの実力を測るためで……ずっと張り付いて仕掛けるタイミングを計っていたのか……」
まるで狩人のようだ、とナハティガルは思う。
明確な殺意があり、それをゴブリン全員が共有していた。
これは、何を意味するのか。
「指導者的な存在が、いる……」
ジュードはこれまでのゴブリン絡みの事件の頻発から、そう考えるに至っていた。
もはや亜人は単なる群れではない。一つの勢力だ。
ソルデリを捕えて尋問する心算だったが、それは叶わなかった。
「次があれば……!」
雪も今後のことに思いを巡らしていた。
「ゴブリンでも、集団を練兵して組織したら、脅威、です。
それをやろうとしてるヤツがいるなら、早いとこ潰さねーと、です」
北部亜人地帯にはおびただしい数のゴブリンが生息する。
それが本気になって人類に牙を向けば、どれほどの脅威となるか。
問題は、ゴブリンを束ねているのが何者なのか、ということだった。
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避難民護送計画【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/11 06:16:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/06 17:39:24 |