ゲスト
(ka0000)
【闇光】暴氷
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/23 22:00
- 完成日
- 2015/10/28 08:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
北方――
厳寒と汚染によって400年来閉ざされたままの、歪虚の領域。
帝国軍補給部隊の行く手には、かつてこの地に栄えたという北方王国の名残りすらなく、
ひたすらに白く平板な雪原が続くばかりであった。
彼方には暗く淀んだ空と、峻険な山々の影。
歪虚の居城・夢幻城は未だ遠く、攻略部隊の友軍の、背すら見えない。
先の浄化作戦によって切り拓かれた、僅かな非汚染地帯を縫うように、
軸重部隊の車列は何処までも長々と続いている。
前線における物資の消耗は底知らずだ。切り込み隊の覚醒者はいざ知らず、
彼らを支える連合軍は、要補給物資の膨大さに悲鳴を上げつつある。
人類連合軍の試金石となるべき今回の北伐だったが、
緒戦を耐え忍び、遂に敵本拠へ至らんとする今このとき、最大の障害はむしろ寒さであった。
●
気温零下の中で十全に兵を働かせるには、平時を遥かに上回る量の食事が必要だ。
更には汚染の問題によって、一面の雪に囲まれながら、水すら易々とは調達できない。
開戦直後は辺境経由で容易に行えた補給も、
歪虚領域への進軍が本格化するにつれ、輸送距離は長大化した。
軸重隊の兵員も当然食糧を消費するし、彼らの分も防寒具を揃えねばならない。
馬車馬や荷馬が負う荷物の中身は、段々と馬自体の糧秣で占められる割合が増えていく。
食事不要の魔導トラックは雪面に難渋し、
無事走行可能なルートを発見しても、修理や整備には多くの時間が取られた。
そして、かかった時間の分だけ兵士たちは消耗する。
ただ立っているだけでも体力を使う土地なのだ。
刻々と削られていく体力を補うには、食糧、水、夜まともに眠れるように馬車、天幕、寝袋、
調理や照明に使う燃料、凍傷に塗る薬、何ひとつおろそかにできないが、
それらを運ぶには、いずれ補給部隊に補給する部隊が必要な有様となるだろう。
輸送路途上に小基地や貯蔵庫を設置、
ピストン輸送で少しずつ前線を押し上げていくより、現状まともな手はないが、
浄化作戦を経てもなお残る、広大な汚染地帯が問題だった。
人類には進入すら困難な重度汚染地域を、歪虚は難なく移動するのだから、
こちらは限られた場所にしか設営できない基地を、敵は自由に攻撃ができる訳だ。
基地防衛に大部隊を配置したとて、今度はその部隊を食わせる分だけ、輸送物資の嵩が増す。
結果、輸送路は渋滞し、渋滞でかかった時間の分だけ輸送隊は消耗し――
●
「だから、活路はひとつしかない。覚醒者戦力の一挙投入による電撃作戦。
輸送の限界に達して連合軍が餓死や凍死する前に、何とか決着をつけてもらう」
装甲板に囲われた魔導トラックの荷台の中で、銃衛隊長が言った。
「それでも補給は必要だ。行き先に転移門があるなら、あんたらだけ飛ばす手もあろうが、
大昔に滅んじまったこの北方で、そんなもの残ってる訳がない。
主戦力が移動でへばっちまったら元も子もない。
だから、あんたらに必要な分の物資だけでも最優先で、こうして運んでるのさ」
隊長の話し相手は、トラックに同乗するハンターたち。
彼らはハンター6名、銃衛兵10名から成る特別作戦隊で、
2台の改造トラックに分乗しつつ、北伐前線への補給隊の車列に混じっていた。
「だが見ての通り、それでも補給線は伸び伸びだ。
敵は汚染地帯から迂回して、ここぞとばかりに横腹を突きに来る。
いや、来た。2回。1週間前と、3日前に」
そう言って、隊長は革手袋の指を2本、突き出した。
「何人やられたかな……2か月前の『あれ』と併せて……」
指を順々に開いて、数を数えようとするが、
途中で止め、平手でばん、と荷台の装甲の裏を叩いた。
「まぁ、今更そんなことは良い。
『俺たち』は生き残ったんだから、考えるのは、どうやって奴を仕留めるかだ」
改造トラックの装甲は、魔導アーマーから転用されたものだ。
分厚い金属板で、砲弾の直撃にも耐えられる。
「ちゃんと計算してある。錬魔院の調査班に、奴の残していった大砲1本を分析させたんだ。
サンプルは持ち主の歪虚から離れたせいで大分劣化してたが、
それでも威力を推測する役には立った。おまけに、奴が使うのはばら弾だ。
表の装甲には傾斜をつけて、弾を逸らすようにしてある。
間違いなく耐えられる――数発までなら」
●
「奴の手口は、まるでこっちをからかってるみたいだ。
他の補給隊を襲ったときも、すぐに切り上げて汚染地帯に引き返してったそうだ。
俺が考えるに、理由はふたつ」
また、隊長が指2本を立てた。
その動作で、手がかじかんでいないか確かめているようだった。
「ひとつ、奴の本命はハンターだ。補給線を人質に、あんたらが出張って来るのを待ってる。
あのとき、俺たち駐屯部隊を壊滅させながら、いつまでも基地でぐずぐずしていたようにな。
ふたつ、あんたらと戦うのに備えて、手駒の消耗を抑えてる。
だが聞けば、奴の手下に亡霊型の歪虚も加わったって話だそうだ。数は少ないが……」
補給隊右方の雪原から響き渡る、きぃぃん、という甲高い金属音。
隊長以下、車内の兵士たちがすかさず銃をかき寄せる。
車が揺れる。2台のトラックが、右に車列を離れていくようだ。
「それで」
身構えつつ、隊長は続ける。
「俺たちが矢面に立って、他の車を逃がさにゃならん。
こっちにハンターが居ると分かれば、奴も他の獲物は放っておくだろう。
あんたらを負かした後に、ゆっくり料理すりゃ良いんだからな……。
そういうことには、ならない予定だが」
●
敵が現れた。
改造ゾンビ・エルトヌス20体が陣形を保ちながら、雪上を行進してくる。
その周囲に4体の亡霊。風に煽られ、煌めく白い靄となってゆらゆらと揺らぐ。
陣形の中央に、一際背の高い、白銀の鎧のデュラハン。
『3度参りだ。いい加減いるんだろォ、高級肉どもォ!?』
両手に携えた大砲の一方を掲げ、エルトヌスの頭越しに撃つ。
が、放たれた散弾は距離もあったせいか、
改造トラック前面の装甲に全て弾かれ、車内の人間を傷つけることができない。
2台のトラックは雪原に乗り入れ、敵群に鼻先を向けたところで足を止めた。
『……へェ、ちったァ知恵を出したじゃないか。偉いネー良く頑張りまちたネー』
隊長が言う。
「車にも、俺たちにも遠慮はするな、好きに使い潰してくれ。ろくに仕事もせず帰ったら」
兵士たちが、一斉に魔導銃の撃鉄を下ろす。
「帝国軍人として、今日まで生き伸びてきた甲斐が、まるでなかったことになる。
それじゃ連中と同じで、歩く死人も同然だろう?」
『何やってんだよォ、さっさとかかってこいよオラァ!』
デュラハン――グロル・リッター、"暴氷"のビュクセの耳障りな叫びと共に、車外に轟く砲声。
呼応するかのように、ハンターと10人の兵士たちは一斉に動き出した。
北方――
厳寒と汚染によって400年来閉ざされたままの、歪虚の領域。
帝国軍補給部隊の行く手には、かつてこの地に栄えたという北方王国の名残りすらなく、
ひたすらに白く平板な雪原が続くばかりであった。
彼方には暗く淀んだ空と、峻険な山々の影。
歪虚の居城・夢幻城は未だ遠く、攻略部隊の友軍の、背すら見えない。
先の浄化作戦によって切り拓かれた、僅かな非汚染地帯を縫うように、
軸重部隊の車列は何処までも長々と続いている。
前線における物資の消耗は底知らずだ。切り込み隊の覚醒者はいざ知らず、
彼らを支える連合軍は、要補給物資の膨大さに悲鳴を上げつつある。
人類連合軍の試金石となるべき今回の北伐だったが、
緒戦を耐え忍び、遂に敵本拠へ至らんとする今このとき、最大の障害はむしろ寒さであった。
●
気温零下の中で十全に兵を働かせるには、平時を遥かに上回る量の食事が必要だ。
更には汚染の問題によって、一面の雪に囲まれながら、水すら易々とは調達できない。
開戦直後は辺境経由で容易に行えた補給も、
歪虚領域への進軍が本格化するにつれ、輸送距離は長大化した。
軸重隊の兵員も当然食糧を消費するし、彼らの分も防寒具を揃えねばならない。
馬車馬や荷馬が負う荷物の中身は、段々と馬自体の糧秣で占められる割合が増えていく。
食事不要の魔導トラックは雪面に難渋し、
無事走行可能なルートを発見しても、修理や整備には多くの時間が取られた。
そして、かかった時間の分だけ兵士たちは消耗する。
ただ立っているだけでも体力を使う土地なのだ。
刻々と削られていく体力を補うには、食糧、水、夜まともに眠れるように馬車、天幕、寝袋、
調理や照明に使う燃料、凍傷に塗る薬、何ひとつおろそかにできないが、
それらを運ぶには、いずれ補給部隊に補給する部隊が必要な有様となるだろう。
輸送路途上に小基地や貯蔵庫を設置、
ピストン輸送で少しずつ前線を押し上げていくより、現状まともな手はないが、
浄化作戦を経てもなお残る、広大な汚染地帯が問題だった。
人類には進入すら困難な重度汚染地域を、歪虚は難なく移動するのだから、
こちらは限られた場所にしか設営できない基地を、敵は自由に攻撃ができる訳だ。
基地防衛に大部隊を配置したとて、今度はその部隊を食わせる分だけ、輸送物資の嵩が増す。
結果、輸送路は渋滞し、渋滞でかかった時間の分だけ輸送隊は消耗し――
●
「だから、活路はひとつしかない。覚醒者戦力の一挙投入による電撃作戦。
輸送の限界に達して連合軍が餓死や凍死する前に、何とか決着をつけてもらう」
装甲板に囲われた魔導トラックの荷台の中で、銃衛隊長が言った。
「それでも補給は必要だ。行き先に転移門があるなら、あんたらだけ飛ばす手もあろうが、
大昔に滅んじまったこの北方で、そんなもの残ってる訳がない。
主戦力が移動でへばっちまったら元も子もない。
だから、あんたらに必要な分の物資だけでも最優先で、こうして運んでるのさ」
隊長の話し相手は、トラックに同乗するハンターたち。
彼らはハンター6名、銃衛兵10名から成る特別作戦隊で、
2台の改造トラックに分乗しつつ、北伐前線への補給隊の車列に混じっていた。
「だが見ての通り、それでも補給線は伸び伸びだ。
敵は汚染地帯から迂回して、ここぞとばかりに横腹を突きに来る。
いや、来た。2回。1週間前と、3日前に」
そう言って、隊長は革手袋の指を2本、突き出した。
「何人やられたかな……2か月前の『あれ』と併せて……」
指を順々に開いて、数を数えようとするが、
途中で止め、平手でばん、と荷台の装甲の裏を叩いた。
「まぁ、今更そんなことは良い。
『俺たち』は生き残ったんだから、考えるのは、どうやって奴を仕留めるかだ」
改造トラックの装甲は、魔導アーマーから転用されたものだ。
分厚い金属板で、砲弾の直撃にも耐えられる。
「ちゃんと計算してある。錬魔院の調査班に、奴の残していった大砲1本を分析させたんだ。
サンプルは持ち主の歪虚から離れたせいで大分劣化してたが、
それでも威力を推測する役には立った。おまけに、奴が使うのはばら弾だ。
表の装甲には傾斜をつけて、弾を逸らすようにしてある。
間違いなく耐えられる――数発までなら」
●
「奴の手口は、まるでこっちをからかってるみたいだ。
他の補給隊を襲ったときも、すぐに切り上げて汚染地帯に引き返してったそうだ。
俺が考えるに、理由はふたつ」
また、隊長が指2本を立てた。
その動作で、手がかじかんでいないか確かめているようだった。
「ひとつ、奴の本命はハンターだ。補給線を人質に、あんたらが出張って来るのを待ってる。
あのとき、俺たち駐屯部隊を壊滅させながら、いつまでも基地でぐずぐずしていたようにな。
ふたつ、あんたらと戦うのに備えて、手駒の消耗を抑えてる。
だが聞けば、奴の手下に亡霊型の歪虚も加わったって話だそうだ。数は少ないが……」
補給隊右方の雪原から響き渡る、きぃぃん、という甲高い金属音。
隊長以下、車内の兵士たちがすかさず銃をかき寄せる。
車が揺れる。2台のトラックが、右に車列を離れていくようだ。
「それで」
身構えつつ、隊長は続ける。
「俺たちが矢面に立って、他の車を逃がさにゃならん。
こっちにハンターが居ると分かれば、奴も他の獲物は放っておくだろう。
あんたらを負かした後に、ゆっくり料理すりゃ良いんだからな……。
そういうことには、ならない予定だが」
●
敵が現れた。
改造ゾンビ・エルトヌス20体が陣形を保ちながら、雪上を行進してくる。
その周囲に4体の亡霊。風に煽られ、煌めく白い靄となってゆらゆらと揺らぐ。
陣形の中央に、一際背の高い、白銀の鎧のデュラハン。
『3度参りだ。いい加減いるんだろォ、高級肉どもォ!?』
両手に携えた大砲の一方を掲げ、エルトヌスの頭越しに撃つ。
が、放たれた散弾は距離もあったせいか、
改造トラック前面の装甲に全て弾かれ、車内の人間を傷つけることができない。
2台のトラックは雪原に乗り入れ、敵群に鼻先を向けたところで足を止めた。
『……へェ、ちったァ知恵を出したじゃないか。偉いネー良く頑張りまちたネー』
隊長が言う。
「車にも、俺たちにも遠慮はするな、好きに使い潰してくれ。ろくに仕事もせず帰ったら」
兵士たちが、一斉に魔導銃の撃鉄を下ろす。
「帝国軍人として、今日まで生き伸びてきた甲斐が、まるでなかったことになる。
それじゃ連中と同じで、歩く死人も同然だろう?」
『何やってんだよォ、さっさとかかってこいよオラァ!』
デュラハン――グロル・リッター、"暴氷"のビュクセの耳障りな叫びと共に、車外に轟く砲声。
呼応するかのように、ハンターと10人の兵士たちは一斉に動き出した。
リプレイ本文
●
戦闘は、至って静かに始まった。
縦に並んだトラック2台へ、降車した8名の兵士が随伴する。
迎え撃つ構えの敵部隊。双方、未だ射程外――
風切り音と共に飛来した2本の矢が、敵隊列右端のゾンビを射抜く。
込められた光の魔法が体組織を破裂させ、標的は腐汁を吹いてくずおれた。
『ちッ』
ビュクセが振り返れば、遠方、騎馬で接近中のナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の姿。
ナナセは馬上で背をまっすぐ伸ばしたまま、長弓に矢を2本まとめてつがえた。
右の赤い瞳で狙い定め、引き絞る。束ねた矢羽根が指から滑り出ると、
魔法の煌めきを放ちつつ、矢は2体目のゾンビへ飛んだ。
(被害は最小、戦果は最大。このまま切り崩せれば)
命中を確認したナナセは、尖った犬歯を剥き、白い息を吐く。
ビュクセが咄嗟に大筒を放つも、弾はナナセへ届く前に力を失ってしまう。
地面に転がった散弾を、歩を進める騎馬の蹄が踏みしだく。
●
『そういう作戦かい――前進!』
敵が一斉に動き始める。するとナナセの狙撃に併せ、
斜めに進んで横腹を見せた後方1台の銃眼より、新たな矢が飛ぶ。
車内で弓を構えていた、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の射撃。
「向かって隊列右、ウルヴァナ殿が左へ気を惹いている内に」
「了解」
アウレールの狙いをなぞるようにして、マッシュ・アクラシス(ka0771)も弓を射る。
「氷使い、か。"氷"を持つ身としては、ちょっと拘ってみたくなりますね」
後方車両の運転席、フィルメリア・クリスティア(ka3380)が呟く。
「氷?」
助手席の兵が尋ねるも、前を睨んだまま答えない。
ハンドルを握り絞め、ペダルを柔らかく踏み、
前方1台とペースを合わせつつ、じりじりと車を進めた。
「作戦とはいえ、些か手持無沙汰じゃのう」
アウレールらと共に荷台へ詰めていたバリトン(ka5112)、そして、
「前回の二の舞は御免だ、辛抱するさ」
答えるアーサー・ホーガン(ka0471)。彼と、マッシュを見やってバリトンが言う。
「先日は、孫娘が世話になったようじゃな?」
「孫」
射撃を続けながら、マッシュはへぇ、と感嘆の声を漏らす。
「奴さんにも後でたっぷり挨拶せねばのう。え?」
立てかけられた2振りの大剣を、バリトンが手の甲で軽く叩いた。
1本は自身の用意、もう1本はアーサーの愛刀だ。
大地の魔力を封じた剣――"暴氷"への切り札。
●
ビュクセは大筒を交互に乱射するが、依然届かず。
人間側は慎重に距離を開けたまま、執拗にゾンビを撃ち続ける。
『離れたトコからチマチマと。生肉らしい、じめついたやり方だなァ!?』
アウレールが苦笑する。
「貴様こそ、剣機の盾で守られた砲手だろうに。
だが良いぞ、奴は焦れてきた。作戦が有効な証拠だ」
射手3名、特に猟撃士たるナナセの攻撃は、着実に敵の数を減らしていった。
「問題は、我々の機動力の低さを見抜かれたときだな」
マッシュが矢をつがえながら、
「剣機を残して迂回、補給部隊を追跡される危険がありますねぇ。
敵大将がそのまま主力ですから、アレをどうにかしないと決め手がありませんよ」
「今、その決め手をお膳立てしてるところだ。後はタイミング次第……」
ゾンビは前衛の穴を補うべく移動、陣形がV字に変形し始めた。そして、
『調子に乗り過ぎだぜ』
ビュクセも唐突に歩を速め、前衛の壁へ割り込んだ。
いつの間にか縮まっていた距離、ぎりぎり大筒が届くと見て砲撃する。
散弾は、遂にトラック前方1台をまともに捉える。
貫通こそ免れたが、車体に埋まった弾丸が霜を張って、装甲を侵食していく。
マッシュがお返しとばかりにゾンビを射抜いて、
「これで6体目、ですが……」
「まだだ」
まだ早い。アウレールとマッシュの判断で、2両揃って後退する。
一方のビュクセはここぞとばかりにゾンビの背をどやし、急き立てた。
2両の運転手は、間合いの調節に神経を使った。
(近過ぎれば砲の餌食、遠過ぎれば突撃の機会がない。バランスが大事)
北方の寒気に、フィルメリアの手足もかじかみ始めた。
運転の合間、まめに手首、足首を回して血の巡りを促す。
いっそ、この身が本当に氷なら、あるいは炎であったなら、凍えることなどなかろうに。
(『生肉』か。それなら"暴氷"、アンタは単なる鉄の塊でなく、本当に氷だとでも言うの?
これからそいつを、確かめてみようじゃない)
●
ゾンビの8体目を倒したところで、もう1度砲撃された。
車体がへしゃげ、霜が装甲を覆っていく。マッシュが、
「前の車がじき限界ですよ。ご決断を」
「兵士諸君! 死ぬには良い日だ、そうだなッ!?」
トラック背後の兵士へ、アウレールが檄を飛ばした。
全速前進するトラック、内1台は途中で脇に逸れ、銃衛兵の盾となる。もう一方は、
「突っ込め!」
アーサーが怒鳴った。フィルメリアが亡霊2体の接近を知らせると、
荷台後部から屋根へ上がったアーサーとバリトンに続き、アウレールとマッシュが飛び降りた。
フィルメリアも兵士に運転を任せ車外へ出ると、
突撃敢行中のトラックより無防備と見たか、亡霊が早速彼らに襲いかかった。
敵は霊体を光の触腕に分裂させ、アウレールとフィルメリアを囲う。
触腕の檻の中に風が起こり、かまいたちが皮膚を切り裂く。アウレールが叫ぶ。
「銃衛兵!」
亡霊の核に当たる小さな光球は、ふたりの頭上で円を描いて飛び回っていた。
その片方を、銃衛兵の斉射が見事撃ち抜いてみせる。
アウレールを襲った亡霊は瞬く間に消滅し、残るはフィルメリア。
マッシュが核の軌道を見切り、サーベルで打ち落とした。
車の屋根上のアーサーとバリトンは、それぞれ手裏剣と拳銃で眼下のゾンビを牽制、
車両がいよいよ敵前衛の壁に肉薄すると、
「往くぞ!」
「応ッ」
息を合わせ、壁の向こう側へ跳躍した。
『待ち兼ねたッ』
エルトヌスの後ろで構えていたビュクセ。左右の手で大筒を振りかざし、
アーサーとバリトンを空中で叩き落とそうとする。
(止めなくちゃ!)
ナナセが、弓につがえていた2本の矢を瞬時に撃ち分ける。
敵の両手首に命中させ、打撃を制止すると、
バリトンが背中の大剣を抜きつつ、ビュクセに身体ごとぶつかった
思わず上体を逸らすビュクセ。バリトンはその胸を蹴って後ろへ飛ぶと、素早く斜めに走る。
追撃を試みるビュクセだが、
「こっちが留守だぜ」
アーサーが背後から脚を切りつけ、注意を逸らした。
フィルメリアが機導術の火炎放射で、ゾンビの群れを焼いた。
業火に巻かれて動きの鈍った隙、アウレールが戦槍を手に突進、
ゾンビ1体を行きがけの駄賃に串刺ししつつ壁の向こうへ。残る剣機は10体ほどか、
「まとめて掃除させてもらう!」
フィルメリアのガントレットの指先から、再び炎が噴出する。
と、彼女の視界の端から、飛び込んでくる亡霊の影。
ジェットブーツで後退するが、相手の速度が僅かに勝る。捕まった。
銃衛兵の斉射がすぐさま核を破壊し、
「動けますか? 無理はなさらず」
マッシュがフィルメリアを抱き起す。
亡霊に2度拘束されたフィルメリアの全身は、かまいたちで傷だらけだ。
彼女が答えるより早く、今度はマッシュが敵中へ駆け込んでいく。
●
「貴様の言うところの高級肉だが、老いぼれですまんな。
じゃが、まあ、肉は腐りかけが美味いから安心しろ」
言うが早いか、バリトンの姿が雪を散らして消える。
回り込まれた。振り返ろうと捻ったビュクセの腰を、大剣が打つ。
「ほんとに熟成し過ぎてて、貴様、死ぬかも知れんがな!」
踏み込み、回り込み、電光石火の打ち込み。
『下す腹などあるかッ』
「1度掻っ捌いて、確かめてみたら良いぜ」
バリトンと交互に、アーサーの突進。
こちらも得物の重量を生かした斬撃で、ビュクセの鎧の各部を叩き割る。
反撃は剣の峰で受け、どうにか跳ね返してみせた。
バリトンとアーサーが扱う大剣・エッケザックスには、大地の魔力が封じられている。
対するビュクセがまとうのは水の魔法。属性同士の衝突に、斬撃の威力も増す。
「核さえ見えりゃ……」
バリトンを狙った敵の大筒を、横合いからアーサーが打って落とす。
「鎧の裂け目から、霊体の光を探せ!」
ハンター側の攻撃シフトに、アウレールが加わった。
臆さず飛び込み、割れた鎧の中へ槍を突き立てると、
『おおッ』
ビュクセは身をよじりつつ全身の関節を駆動、乱舞を始めた。
巻き込まれたアウレールは敢えて間合いに留まり、盾で敵の動作を抑えつける。
すかさずバリトンが踏み込んだ。
「『ひ弱な年寄』相手に、力任せで大人げないのう」
打ち下ろされた大筒を、刀身いっぱいを使って受け流す。2撃目、
「ま、少しは付き合ってやらんこともない」
真っ向から受け止めた。大筒の鉤に剣の鍔を引っかけ、力で押し戻す。
バリトンが武器を、アウレールが身体の動きを封じたところで、アーサーが躍りかかる。
「居合わせない仲間の分、きっちり意趣返しさせてもらおうじゃねぇか!」
その背後から、忍び寄る白い影があった。亡霊型、最後の1体。
咄嗟に振り向き身構えるも、流れ込む風が、大剣をすり抜けて両腕を切り刻んだ。
「ぐあっ……」
銃衛兵の射撃が、アーサーの頭上高くに浮遊する核をすぐさま破壊。
しかし受けた傷は深く、その場に膝を着いてしまう。
攻めが切れた一瞬、ビュクセはアウレールを弾き飛ばすと、バリトンの排除に注力した。
歪んだ鎧が軋みを上げるも、なお変幻自在の軌道で乱撃を叩き込む。
ぎりぎりで受け流していくバリトン、
(これと真っ向打ち合ったか。あの娘も成長したもんじゃのう)
敵の背後でアウレールが起き上がるのを見、再度鍔迫り合いでの制止を試みる。
(嬉しんどる場合でもない)
とうとう力負けし、押し返される。
追い討ちを半身でかわし、その勢いを生かして1回転、逆袈裟に切り上げた。
『きぃッ』
敵の蹴り技。バリトンは、左肘でその足首を止める。
「足癖の悪い小娘じゃ」
ビュクセは右脚を蹴り上げた格好のまま、腰部から上を激しく回転させる。
荒ぶる風車のように打ち下ろされる大筒を、片手打ちで受けるが、
(全く、老いとは――)
体力の限界が来た。最後の1撃を辛うじて弾くと、足を抑えていた左腕の力を緩めた。
ビュクセの蹴りが、老兵の巨躯を雪の上へ転がす。
●
『後はキミだけだねェ。どうする坊ちゃん?』
アウレールを見下ろすビュクセの鎧は、歪みや亀裂だらけだ。
しかし、まだ霊体を捉えられていない。要のバリトンとアーサーは戦線離脱した。
「生身と一緒に、両の眼も捨てたか」
だがアウレールは、悠然と突きの構えを取る。
「私はまだひとりではない。貴様は違う」
3本の矢が、ビュクセの兜に突き立った。内2本はナナセ、そしてもう1本は、
「ようやく掃除が終わりまして――彼女のお蔭で」
離れた間合いから、弓を敵大将へ向けるマッシュ。
その隣、まだガントレットに炎の残滓を残したフィルメリア。
ふたりと銃衛兵が、エルトヌスを全滅させていた。
「健在のハンター4人と帝国軍精鋭10人、アンタを溶かすには充分ね」
フィルメリアが言うと、
「ハンター、5人だ」
自己治癒を終えたアーサーが、
「"フロント・ガード"、"不屈の盾"と呼ばれた俺が、あれしきで倒れると思うかい」
血だらけの腕で、しかし力強く剣を振るう。
「ラインアウトだ。ボールを投げろよ」
●
戦いは、アーサーの渾身の突撃で再開された。
激しく入り乱れる前衛3人。その合間を縫ってマッシュと、後方のナナセが矢を射った。
(弱ってる筈。けど、腐っても――じゃない、錆びても敵は高位歪虚)
ビュクセは哄笑とも、悲鳴とも取れない叫びを上げて乱舞する。
(被害を出さずに、倒せるでしょうか)
フィルメリアのガントレットが、ビュクセの胴を打つ。
ジェットブーツで加速しての貫手だったが、
(硬い!)
負傷が堪えたか、鎧の割れ目へ捻じ込むにも僅かに力が足りない。
敵はガントレットから発動する電撃にも止まらず、むしろ速度を増しつつあった。
何度目かの飛び込みを打ち落とされた。胸に重い打撃を受け、フィルメリアが倒れる。
次に倒れたのはアーサーだった。
ばらばらに動く敵の関節へ目を配りながら、アウレールが作った隙で剣を叩き込む。
その1撃で胸甲が割れ、隠れていた核が見えた。
一旦飛び退くと、今度は乱舞を続ける敵の膝へ、剣を構えたままタックルを仕掛けた。
跳ね飛ばされるも、アウレールが連携して敵胸部を突く。
槍を大筒で弾かれると、再びアーサーの出番、
『肉がッ』
ビュクセが大筒を暴発させた。散弾はアーサーの頭上を越していくが、
耳を聾する砲音のショックで、突進のタイミングがずらされた。
ビュクセは大筒を持ったまま両腕を畳み、アーサーにベアハッグを仕掛ける。
アウレールが救い出そうとするも、拘束が硬く振り解けない。
が、やおらビュクセはアーサーを放り出した。
彼が寸前で握った手裏剣を拳ごと、胸の裂け目へ押し込んだ為だった。
●
ビュクセと対峙するアウレール。
互いに鎧はへこみ、ひび割れ、無残な有様だが、
「撃て!」
彼の号令を受け、銃衛兵の斉射がビュクセの前面を叩く。
何発かは霊体に達し、無視できないダメージを与えた筈だ。
止めとばかりに突きかかるアウレールだったが、
乱舞を止め、守りに徹したビュクセに退けられてしまう。
火花を散らしながら鎧を変形させるビュクセ。
グロル・リッター特有の動物形態。屈伸のような姿勢から鎧の各部を展開、
(ウサギ……か?)
兜から伸びた羽根飾りを耳に見立てた、巨大なウサギと化した。
それから、アウレールの目前で砲を炸裂させたかと思うと、
反動を生かしての跳躍で、ビュクセはあっという間に雪原の彼方へ逃げていく。
追跡にかかるマッシュと銃衛兵、ナナセの騎馬。
バリトンが剣を支えに立ち上がり、彼らを止めた。
「この先は汚染地帯。わしらは特別の防護もなく、傷を負っとる。
わしはすんででかわしたから良いものの」
倒れたままのフィルメリアとアーサーを指して、
「ふたりは手当てが必要じゃ」
「惜しい、戦いでしたね」
ナナセが、敵の逃げ去った方向を見て言った。
アウレールは深々と息を吐くも、やがて肩をすぼめ、
「死ぬには良い日だ……が、今日じゃなかった。
撃退は果たした。剣機や亡霊抜きなら充分倒せる相手だとも分かった。
奴も今回でそれを知った。手駒を失ったまま、うかつに現れはしない筈だ。
ひとまず、北伐補給線への妨害は防げるだろう」
「じゃが、いずれ残った首も獲る」
バリトンの深く、強い声がその場に響いた。
彼らが守った補給部隊の車列は、滞りなく予定地へと向かう。
北狄本拠、夢幻城の前線へと――
戦闘は、至って静かに始まった。
縦に並んだトラック2台へ、降車した8名の兵士が随伴する。
迎え撃つ構えの敵部隊。双方、未だ射程外――
風切り音と共に飛来した2本の矢が、敵隊列右端のゾンビを射抜く。
込められた光の魔法が体組織を破裂させ、標的は腐汁を吹いてくずおれた。
『ちッ』
ビュクセが振り返れば、遠方、騎馬で接近中のナナセ・ウルヴァナ(ka5497)の姿。
ナナセは馬上で背をまっすぐ伸ばしたまま、長弓に矢を2本まとめてつがえた。
右の赤い瞳で狙い定め、引き絞る。束ねた矢羽根が指から滑り出ると、
魔法の煌めきを放ちつつ、矢は2体目のゾンビへ飛んだ。
(被害は最小、戦果は最大。このまま切り崩せれば)
命中を確認したナナセは、尖った犬歯を剥き、白い息を吐く。
ビュクセが咄嗟に大筒を放つも、弾はナナセへ届く前に力を失ってしまう。
地面に転がった散弾を、歩を進める騎馬の蹄が踏みしだく。
●
『そういう作戦かい――前進!』
敵が一斉に動き始める。するとナナセの狙撃に併せ、
斜めに進んで横腹を見せた後方1台の銃眼より、新たな矢が飛ぶ。
車内で弓を構えていた、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)の射撃。
「向かって隊列右、ウルヴァナ殿が左へ気を惹いている内に」
「了解」
アウレールの狙いをなぞるようにして、マッシュ・アクラシス(ka0771)も弓を射る。
「氷使い、か。"氷"を持つ身としては、ちょっと拘ってみたくなりますね」
後方車両の運転席、フィルメリア・クリスティア(ka3380)が呟く。
「氷?」
助手席の兵が尋ねるも、前を睨んだまま答えない。
ハンドルを握り絞め、ペダルを柔らかく踏み、
前方1台とペースを合わせつつ、じりじりと車を進めた。
「作戦とはいえ、些か手持無沙汰じゃのう」
アウレールらと共に荷台へ詰めていたバリトン(ka5112)、そして、
「前回の二の舞は御免だ、辛抱するさ」
答えるアーサー・ホーガン(ka0471)。彼と、マッシュを見やってバリトンが言う。
「先日は、孫娘が世話になったようじゃな?」
「孫」
射撃を続けながら、マッシュはへぇ、と感嘆の声を漏らす。
「奴さんにも後でたっぷり挨拶せねばのう。え?」
立てかけられた2振りの大剣を、バリトンが手の甲で軽く叩いた。
1本は自身の用意、もう1本はアーサーの愛刀だ。
大地の魔力を封じた剣――"暴氷"への切り札。
●
ビュクセは大筒を交互に乱射するが、依然届かず。
人間側は慎重に距離を開けたまま、執拗にゾンビを撃ち続ける。
『離れたトコからチマチマと。生肉らしい、じめついたやり方だなァ!?』
アウレールが苦笑する。
「貴様こそ、剣機の盾で守られた砲手だろうに。
だが良いぞ、奴は焦れてきた。作戦が有効な証拠だ」
射手3名、特に猟撃士たるナナセの攻撃は、着実に敵の数を減らしていった。
「問題は、我々の機動力の低さを見抜かれたときだな」
マッシュが矢をつがえながら、
「剣機を残して迂回、補給部隊を追跡される危険がありますねぇ。
敵大将がそのまま主力ですから、アレをどうにかしないと決め手がありませんよ」
「今、その決め手をお膳立てしてるところだ。後はタイミング次第……」
ゾンビは前衛の穴を補うべく移動、陣形がV字に変形し始めた。そして、
『調子に乗り過ぎだぜ』
ビュクセも唐突に歩を速め、前衛の壁へ割り込んだ。
いつの間にか縮まっていた距離、ぎりぎり大筒が届くと見て砲撃する。
散弾は、遂にトラック前方1台をまともに捉える。
貫通こそ免れたが、車体に埋まった弾丸が霜を張って、装甲を侵食していく。
マッシュがお返しとばかりにゾンビを射抜いて、
「これで6体目、ですが……」
「まだだ」
まだ早い。アウレールとマッシュの判断で、2両揃って後退する。
一方のビュクセはここぞとばかりにゾンビの背をどやし、急き立てた。
2両の運転手は、間合いの調節に神経を使った。
(近過ぎれば砲の餌食、遠過ぎれば突撃の機会がない。バランスが大事)
北方の寒気に、フィルメリアの手足もかじかみ始めた。
運転の合間、まめに手首、足首を回して血の巡りを促す。
いっそ、この身が本当に氷なら、あるいは炎であったなら、凍えることなどなかろうに。
(『生肉』か。それなら"暴氷"、アンタは単なる鉄の塊でなく、本当に氷だとでも言うの?
これからそいつを、確かめてみようじゃない)
●
ゾンビの8体目を倒したところで、もう1度砲撃された。
車体がへしゃげ、霜が装甲を覆っていく。マッシュが、
「前の車がじき限界ですよ。ご決断を」
「兵士諸君! 死ぬには良い日だ、そうだなッ!?」
トラック背後の兵士へ、アウレールが檄を飛ばした。
全速前進するトラック、内1台は途中で脇に逸れ、銃衛兵の盾となる。もう一方は、
「突っ込め!」
アーサーが怒鳴った。フィルメリアが亡霊2体の接近を知らせると、
荷台後部から屋根へ上がったアーサーとバリトンに続き、アウレールとマッシュが飛び降りた。
フィルメリアも兵士に運転を任せ車外へ出ると、
突撃敢行中のトラックより無防備と見たか、亡霊が早速彼らに襲いかかった。
敵は霊体を光の触腕に分裂させ、アウレールとフィルメリアを囲う。
触腕の檻の中に風が起こり、かまいたちが皮膚を切り裂く。アウレールが叫ぶ。
「銃衛兵!」
亡霊の核に当たる小さな光球は、ふたりの頭上で円を描いて飛び回っていた。
その片方を、銃衛兵の斉射が見事撃ち抜いてみせる。
アウレールを襲った亡霊は瞬く間に消滅し、残るはフィルメリア。
マッシュが核の軌道を見切り、サーベルで打ち落とした。
車の屋根上のアーサーとバリトンは、それぞれ手裏剣と拳銃で眼下のゾンビを牽制、
車両がいよいよ敵前衛の壁に肉薄すると、
「往くぞ!」
「応ッ」
息を合わせ、壁の向こう側へ跳躍した。
『待ち兼ねたッ』
エルトヌスの後ろで構えていたビュクセ。左右の手で大筒を振りかざし、
アーサーとバリトンを空中で叩き落とそうとする。
(止めなくちゃ!)
ナナセが、弓につがえていた2本の矢を瞬時に撃ち分ける。
敵の両手首に命中させ、打撃を制止すると、
バリトンが背中の大剣を抜きつつ、ビュクセに身体ごとぶつかった
思わず上体を逸らすビュクセ。バリトンはその胸を蹴って後ろへ飛ぶと、素早く斜めに走る。
追撃を試みるビュクセだが、
「こっちが留守だぜ」
アーサーが背後から脚を切りつけ、注意を逸らした。
フィルメリアが機導術の火炎放射で、ゾンビの群れを焼いた。
業火に巻かれて動きの鈍った隙、アウレールが戦槍を手に突進、
ゾンビ1体を行きがけの駄賃に串刺ししつつ壁の向こうへ。残る剣機は10体ほどか、
「まとめて掃除させてもらう!」
フィルメリアのガントレットの指先から、再び炎が噴出する。
と、彼女の視界の端から、飛び込んでくる亡霊の影。
ジェットブーツで後退するが、相手の速度が僅かに勝る。捕まった。
銃衛兵の斉射がすぐさま核を破壊し、
「動けますか? 無理はなさらず」
マッシュがフィルメリアを抱き起す。
亡霊に2度拘束されたフィルメリアの全身は、かまいたちで傷だらけだ。
彼女が答えるより早く、今度はマッシュが敵中へ駆け込んでいく。
●
「貴様の言うところの高級肉だが、老いぼれですまんな。
じゃが、まあ、肉は腐りかけが美味いから安心しろ」
言うが早いか、バリトンの姿が雪を散らして消える。
回り込まれた。振り返ろうと捻ったビュクセの腰を、大剣が打つ。
「ほんとに熟成し過ぎてて、貴様、死ぬかも知れんがな!」
踏み込み、回り込み、電光石火の打ち込み。
『下す腹などあるかッ』
「1度掻っ捌いて、確かめてみたら良いぜ」
バリトンと交互に、アーサーの突進。
こちらも得物の重量を生かした斬撃で、ビュクセの鎧の各部を叩き割る。
反撃は剣の峰で受け、どうにか跳ね返してみせた。
バリトンとアーサーが扱う大剣・エッケザックスには、大地の魔力が封じられている。
対するビュクセがまとうのは水の魔法。属性同士の衝突に、斬撃の威力も増す。
「核さえ見えりゃ……」
バリトンを狙った敵の大筒を、横合いからアーサーが打って落とす。
「鎧の裂け目から、霊体の光を探せ!」
ハンター側の攻撃シフトに、アウレールが加わった。
臆さず飛び込み、割れた鎧の中へ槍を突き立てると、
『おおッ』
ビュクセは身をよじりつつ全身の関節を駆動、乱舞を始めた。
巻き込まれたアウレールは敢えて間合いに留まり、盾で敵の動作を抑えつける。
すかさずバリトンが踏み込んだ。
「『ひ弱な年寄』相手に、力任せで大人げないのう」
打ち下ろされた大筒を、刀身いっぱいを使って受け流す。2撃目、
「ま、少しは付き合ってやらんこともない」
真っ向から受け止めた。大筒の鉤に剣の鍔を引っかけ、力で押し戻す。
バリトンが武器を、アウレールが身体の動きを封じたところで、アーサーが躍りかかる。
「居合わせない仲間の分、きっちり意趣返しさせてもらおうじゃねぇか!」
その背後から、忍び寄る白い影があった。亡霊型、最後の1体。
咄嗟に振り向き身構えるも、流れ込む風が、大剣をすり抜けて両腕を切り刻んだ。
「ぐあっ……」
銃衛兵の射撃が、アーサーの頭上高くに浮遊する核をすぐさま破壊。
しかし受けた傷は深く、その場に膝を着いてしまう。
攻めが切れた一瞬、ビュクセはアウレールを弾き飛ばすと、バリトンの排除に注力した。
歪んだ鎧が軋みを上げるも、なお変幻自在の軌道で乱撃を叩き込む。
ぎりぎりで受け流していくバリトン、
(これと真っ向打ち合ったか。あの娘も成長したもんじゃのう)
敵の背後でアウレールが起き上がるのを見、再度鍔迫り合いでの制止を試みる。
(嬉しんどる場合でもない)
とうとう力負けし、押し返される。
追い討ちを半身でかわし、その勢いを生かして1回転、逆袈裟に切り上げた。
『きぃッ』
敵の蹴り技。バリトンは、左肘でその足首を止める。
「足癖の悪い小娘じゃ」
ビュクセは右脚を蹴り上げた格好のまま、腰部から上を激しく回転させる。
荒ぶる風車のように打ち下ろされる大筒を、片手打ちで受けるが、
(全く、老いとは――)
体力の限界が来た。最後の1撃を辛うじて弾くと、足を抑えていた左腕の力を緩めた。
ビュクセの蹴りが、老兵の巨躯を雪の上へ転がす。
●
『後はキミだけだねェ。どうする坊ちゃん?』
アウレールを見下ろすビュクセの鎧は、歪みや亀裂だらけだ。
しかし、まだ霊体を捉えられていない。要のバリトンとアーサーは戦線離脱した。
「生身と一緒に、両の眼も捨てたか」
だがアウレールは、悠然と突きの構えを取る。
「私はまだひとりではない。貴様は違う」
3本の矢が、ビュクセの兜に突き立った。内2本はナナセ、そしてもう1本は、
「ようやく掃除が終わりまして――彼女のお蔭で」
離れた間合いから、弓を敵大将へ向けるマッシュ。
その隣、まだガントレットに炎の残滓を残したフィルメリア。
ふたりと銃衛兵が、エルトヌスを全滅させていた。
「健在のハンター4人と帝国軍精鋭10人、アンタを溶かすには充分ね」
フィルメリアが言うと、
「ハンター、5人だ」
自己治癒を終えたアーサーが、
「"フロント・ガード"、"不屈の盾"と呼ばれた俺が、あれしきで倒れると思うかい」
血だらけの腕で、しかし力強く剣を振るう。
「ラインアウトだ。ボールを投げろよ」
●
戦いは、アーサーの渾身の突撃で再開された。
激しく入り乱れる前衛3人。その合間を縫ってマッシュと、後方のナナセが矢を射った。
(弱ってる筈。けど、腐っても――じゃない、錆びても敵は高位歪虚)
ビュクセは哄笑とも、悲鳴とも取れない叫びを上げて乱舞する。
(被害を出さずに、倒せるでしょうか)
フィルメリアのガントレットが、ビュクセの胴を打つ。
ジェットブーツで加速しての貫手だったが、
(硬い!)
負傷が堪えたか、鎧の割れ目へ捻じ込むにも僅かに力が足りない。
敵はガントレットから発動する電撃にも止まらず、むしろ速度を増しつつあった。
何度目かの飛び込みを打ち落とされた。胸に重い打撃を受け、フィルメリアが倒れる。
次に倒れたのはアーサーだった。
ばらばらに動く敵の関節へ目を配りながら、アウレールが作った隙で剣を叩き込む。
その1撃で胸甲が割れ、隠れていた核が見えた。
一旦飛び退くと、今度は乱舞を続ける敵の膝へ、剣を構えたままタックルを仕掛けた。
跳ね飛ばされるも、アウレールが連携して敵胸部を突く。
槍を大筒で弾かれると、再びアーサーの出番、
『肉がッ』
ビュクセが大筒を暴発させた。散弾はアーサーの頭上を越していくが、
耳を聾する砲音のショックで、突進のタイミングがずらされた。
ビュクセは大筒を持ったまま両腕を畳み、アーサーにベアハッグを仕掛ける。
アウレールが救い出そうとするも、拘束が硬く振り解けない。
が、やおらビュクセはアーサーを放り出した。
彼が寸前で握った手裏剣を拳ごと、胸の裂け目へ押し込んだ為だった。
●
ビュクセと対峙するアウレール。
互いに鎧はへこみ、ひび割れ、無残な有様だが、
「撃て!」
彼の号令を受け、銃衛兵の斉射がビュクセの前面を叩く。
何発かは霊体に達し、無視できないダメージを与えた筈だ。
止めとばかりに突きかかるアウレールだったが、
乱舞を止め、守りに徹したビュクセに退けられてしまう。
火花を散らしながら鎧を変形させるビュクセ。
グロル・リッター特有の動物形態。屈伸のような姿勢から鎧の各部を展開、
(ウサギ……か?)
兜から伸びた羽根飾りを耳に見立てた、巨大なウサギと化した。
それから、アウレールの目前で砲を炸裂させたかと思うと、
反動を生かしての跳躍で、ビュクセはあっという間に雪原の彼方へ逃げていく。
追跡にかかるマッシュと銃衛兵、ナナセの騎馬。
バリトンが剣を支えに立ち上がり、彼らを止めた。
「この先は汚染地帯。わしらは特別の防護もなく、傷を負っとる。
わしはすんででかわしたから良いものの」
倒れたままのフィルメリアとアーサーを指して、
「ふたりは手当てが必要じゃ」
「惜しい、戦いでしたね」
ナナセが、敵の逃げ去った方向を見て言った。
アウレールは深々と息を吐くも、やがて肩をすぼめ、
「死ぬには良い日だ……が、今日じゃなかった。
撃退は果たした。剣機や亡霊抜きなら充分倒せる相手だとも分かった。
奴も今回でそれを知った。手駒を失ったまま、うかつに現れはしない筈だ。
ひとまず、北伐補給線への妨害は防げるだろう」
「じゃが、いずれ残った首も獲る」
バリトンの深く、強い声がその場に響いた。
彼らが守った補給部隊の車列は、滞りなく予定地へと向かう。
北狄本拠、夢幻城の前線へと――
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 マッシュ・アクラシス(ka0771) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/10/23 19:44:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/18 13:11:18 |