• 闇光

【闇光】大地を荒らす者よ、還流せよ。

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/22 12:00
完成日
2015/10/25 00:35

みんなの思い出

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オープニング

 草すら生えぬ死の大地に連合軍の大隊が列を成して進んでいく。
 東方を脅かしていた憤怒の歪虚王獄炎を打ち倒した人間達はこの勢いにのり、歪虚に支配されていた北の大地の奪還へと向かっていた。
 王国、帝国、同盟、辺境……そして東方。様々な国の人間達が集まるこの連合軍の規模は有史より初めての大軍勢でもあった。今目の前を進むのは最前線からかなり後方の支援部隊であり、辺境の地域からすぐ北のエリア、いや、元を返せば辺境の一部だった場所を鉄のこすれ合う音、雑多な足音や喋り声を含みそぞろに進んでいる。
「さすがにこの規模だと列が長くなるな……」
 連合軍の補給部隊を率いる長は、遥か先にまで続く軍を見て、小さく呟いた。
 既に先陣は歪虚の出城たる夢幻城に近づいているはずだが、こちらはまだ北荻に入ったばかり。負のマテリアルが支配するこのエリアでは、各国の浄化技術でルートを確保しなければとてもじゃないが進むことはできない。その為進軍ルートは固定され、大軍を送り込むにはどうしても長蛇の列になってしまう。
「もう少し、なんとかならんかね」
「一応、複数にわけての行軍だから、寸断されるということはないと思いますよ」
 輸送隊長の眉間に皺が刻まれるのを見て、補佐は極めて明るい声で答えた。何度か歪虚の攻撃もあったが、勢いに乗った連合軍の反撃によりことごとく打ち倒されていった。雑魔レベルの敵ばかりならず、並の歪虚ですら危なげなく撃破できるその力に補佐官は不安を払拭されるのも仕方のないことであった。
「この辺りも早くマテリアルが満ち溢れる場所になるといいですね」
 そんな台詞と共に凍てついた大地を見渡した補佐官はふと、遠くに人の姿を認めた。
「あれは……辺境の巫女?」
 茶けた丘の上、障害物は何もなく、時折ミゾレの混じる風の中で辺境独特の衣を身に纏う、足まで届くのではないかと思うような豊かな金髪の女が立っていた。木でできた弓と槍を持つ姿。ただ、青黒く染まった肌や、爛れて骨が浮き出た手も。もはや生きたそれだとは思わさせない。アンデッドの類、暴食の歪虚だ。
「銃でも届かない距離だな……」
 長は揺れる馬車から双眼鏡を持って様子を眺めていた。巫女は、キリキリと矢の無い弓を天に番えていたが、ロングボウでもここまで届くことはないはずだ。しかしこちらからとて銃で威嚇できるかどうかという距離だ。攻撃できるほどの間合いではない。
「どうします?」
「浄化エリア外には無暗に出ると被害が出る。できるだけ……」
 次の瞬間、長と補佐官は昏い天が光るのを見て、そのまま帰らぬ人となった。

「天譴(てんけん:天罰)ノ雨 ニ 打チひしガレよ」
 巫女はそのままもう一度、天に弓を放ち、光の雨を連合軍の補給部隊に降らせた。部隊の中核は完膚なきまでに破壊され、食糧や浄化術に使う資材などが木端微塵になって大地に散乱するのを見て、彼女は槍を構えて混乱する連合軍に歩を進める。
「防衛隊、あの巫女の攻撃からを防げ! 残った者達は急ぎ車両を再編成して、北へ!」
 誰かが叫び、兵士と思しき人間がゾロゾロと巫女の元へと走り寄ってくる。その後ろでは天譴の雨の射程から逃れたいくつかの馬車が慌てて合流し始める。
「沈毅知らヌ 衆愚メ」
 兵士達が一斉に巫女の元に殺到した。鉄靴の金属音が大地に響くも、次の瞬間、兵士の足音が濁り、勢いを無くした。
「生命 還流セヨ」
 負のマテリアルの瘴気が濃くなっていた。目眩、立ちくらみ、嘔吐。人によってはそのまま意識まで濁りその場で倒れ伏してしまう者もいるくらいであった。
 そんな兵士達を巫女は優しく撫で、抵抗する者には槍で払いのけていった。一つとて歩みを止めることもなく。風のように。水のように。無尽の兵士の間を通り抜けていく。
 通り抜けられた兵士はもう生きてはいなかった。マテリアルを尽きるまで奪われたのか、ひからびてしまい。あるいは見る影もなく腐り落ちていた。
 補給部隊は大混乱だった。
 兵士が一瞬で葬りさられたその力に。誰にも止められぬその歩みに。
 そして辺境部族の誰かが叫んだその言葉に。
「スィアリ様……北荻に呑まれるより以前に護っていた巫女様だ!」
 大地を護る巫女が今も守るのはこの死せる地。
 生の中に死あり。大いなる流れの元に還流せよ。泡沫の存在よ。

リプレイ本文

 とうとうスィアリは飛び込んでいった兵士の波を抜け出てしまった。結局誰一人巫女の足を止めることすら叶わなかった。
「無茶苦茶な存在ですねー。あのスルー力はビックリですね」
「馬鹿抜かすな。とにかく近づけさせねぇ」
 エルディン(ka4144)がバイクに跨り、飄々とそう言ったのに対し、同じようにバイクにエンジンをかけるリュー・グランフェスト(ka2419)は不機嫌そうに言った。トランシーバーから聞こえた声もむかつくし、目の前の清々とするほどに残酷さをみせつけるあの巫女にも。北の大地はとかく心が落ち着かぬ。
「接敵! 敵の効果範囲内に入ったよ」
 緑の眼光鋭くジュード・エアハート(ka0410)が叫んだ。彼の鋭い目と戦いの経験は見えざる間合いを読み取っていた。
 同時にリュカ(ka3828) が弓をつがえ、スィアリに警戒心を目覚めさせる。その一瞬の間を縫うように、エアルドフリス(ka1856)のバイクが宙を駆けた。潰れた車両を踏み台にして、フルスロットルで走ったそれはスィアリの頭を飛び越し、覚醒による雨の飛沫が土埃の代わりにスィアリの足元をいくばくか濡らした。
 そして、風。
「母なる大地よ、見ておくれ」
 エアルドフリスの残した風に乗ってユリアン(ka1664)がスィアリの懐間近に飛び降り、囁くようにして歌った。守護する大地を失った辺境部族の唄。アーシュラ・クリオール(ka0226)の一族でもあるボラ族の唄を。
「父ナル太陽ヨ……」
「!」
 応えた。
 それは間違いない。スィアリは……ボラ族の巫女だ。帝国に移民してきた彼らは偉大な巫女を喪ったと呟いていた。
「豊穣の巫女、スィアリ様がこんなところで何をされていらっしゃるのですかね」
 着地し、車体を横に滑らせてバイクの勢いを殺した背後からエアルドフリスが声をかけると、スィアリはほんの僅かに首を巡らせた。
「是生滅法は流転の礎ゾ 雨の」
「……歪虚に堕ちた人間に言われたくはありませんな。曲解もいいところだ」
 命はいずれ尽きる。死の大地もあるべき姿の一つであり、その中に生き入ることは万物の理に背いているのではないかと言われ、エアルドフリスの渋い顔が更に険しくなった。
「生生流転、生命は巡る。でもそれは、誰かに無理矢理に生を奪われることでは無いわ」
 意識が前から外れた。その瞬間を見逃さずエイル・メヌエット(ka2807)がレクイエムを詠唱した。
「恵みよ、豊穣の光を持て囁きたまえ。荒ぶる魂を鎮めんことを」
 歌い上げるような詠唱と共に、エイルが手を上げた瞬間。ロザリオから羽衣の様な光の漣が広がる。滞る冷気の上を駆け抜け、散りた車両、呻く兵士の上、立ち向かう仲間の胸を突き抜け、スィアリを包み込む。
「いまだっ」
 初めてスィアリの動きがわずかに止まったのを確認するや否や、リューが一気にスロットルを全開にした。途端に巻き起こる駆動音と砂塵。エルディンも同様に走り、ワイヤーで挟み込むようにしてスィアリに向かう。傍に待機していたユリアンはギリギリを見計らって宙返りをし、そしてリューの腕に巻き付けたワイヤーが一気に絞られた。筋肉と皮が悲鳴を上げたがリューはそれでもアクセルを緩めなかった。
 少しでもスィアリを離さなければ、周りのマテリアルを奪って、残った荷馬車も全滅してしまう。
 目論見通り、スィアリの腹部にワイヤーは食い込み、彼女を大きく後退させる。
「急ぎ北へ迎ってください!! 振り返らないでっ」
 引きずり戻したスィアリがいつ戻ってくるかわからない。日紫喜 嘉雅都(ka4222)は未だ興奮する荷馬をなだめたり、負傷者を助けるべく混沌とした補給部隊に一喝を上げた。
「少しでも歩ける人は、早く北へ!」
 壊れた車両の下敷きにになって呻く人間を腕を取って嘉雅都は近くにいた人間にゆだねる。
 負傷者が半数を超えている。荷馬車に乗せてもらえない人間も山ほどいる。死体とて、このままにしておきたくはなかった。
「ちょっとでも持たせてください……!」
 嘉雅都が祈るように、仲間の姿をちらりと見た時、張り詰めたワイヤーが弾く鈍い弦のような音と共に宙を舞っているのがみえた。スィアリが槍によってワイヤーを一閃していた。それと同時に気分の悪さ嘉雅都の胸をよぎる。
 荷馬が悲鳴を上げて嘔吐する。
「形ある物、いつかは失ウ。還流セヨ」
 あれほど重たかったワイヤーが急に力を失ったために、エルディンはバランスを取れなくなり派手に地面の上を滑った。急ぎ立ち上がろうとしても身体がひどく重たるい。
「化け物か……」
 リューこそふらつく視界の中で、二輪を操作するのは危険と判断してすぐさま飛び降りた。ワイヤーによる掻っ攫い戦法が破られた以上、まだいつも通り二本の脚で立っている方が幾分マシだといえた。
「スィアリさん! いや、前族長さま」
 アーシュラはディファレンスエンジンを大きく振りかぶって真正面から飛びかかった。エンジンからは放電し、電流が渦巻く。
「痺れて!」
 強烈な炸裂音が響き、スィアリの身体に電流を叩きこんだ。それは確かに効力があったようで、スィアリは身体を引きつらせ硬直する。
「今だよっ」
 アーシュラは抜け去ったマテリアルをエンジンに充填させながら、後ろを振り返った。
「う、ぐ……」
 だが、ほぼ全滅であった。近くにいる仲間はほぼ立つだけでもやっとの有様。武器を構えてもスィアリにダメージを与えるなどとてもではないが無理そうであった。皆マテリアルを奪われ、覚醒した姿も薄らぐほどに。
「風の香がすル。だが、鉄の嫌な臭いも、ナ」
 回復するのはスィアリの方が早かった。幾分かくぐもった声が明瞭になっていることに気付いてアーシュラは目を見開いた。
 この人はまだ完全じゃない。マテリアルを吸って、変化する……。
 その変化を見つめていたアーシュラの腹に、いつの間にやらスィアリの槍が薙ぎ払っていた。音もなく、流れるように。
「文明は毒。社会は致死の病ゾ」
 槍を大地に突き刺し皆の前でスィアリは天に向かって弓を構えた。その瞬間を見計らって春日 啓一(ka1621)が盾を構えて鋭く突っ込む。
「えれェ言い様だな。そんなんだから腐るんじゃねぇか? 姉さんの言葉こそ、心毒だ」
 そのまま体当たりする。補給部隊の車両は一つは駄目になったが、残りの3両は必死に北に合流しているのだ。これを邪魔させるわけにはいかない。
 これ以上傷つくことはさせない。人間の底力、つながりってものを見くびられては困る!
「おおおおおっっ!!!」
 底から突き上げるような啓一のタックルが決まり、スィアリを吹き飛ばす。
 それでも大地より突き出る手はまだ弓を離していない。
「その腕、もらったよ」
 ジュードの大弓が冷気を帯び、青白い光が生み出される。その光を貫くようにして矢が青き霜を軌跡としてエイル、リュー、ユリアン、そして春日の頬をそれぞれかすめて、そしてスィアリの弓取る腕を貫くと、一瞬でボロボロのその腕は凍り付き、氷のチップとしてキラキラと輝く。
「やっ……」
 誰の歓声だったか。
 それは真上に伸びた光の矢で、止められた。天譴の雨だ。
「退避だ! ジュード!!」
 エアルドフリスが叫んだ。矢は啓一のタックルで大きく軌道がずれ、それはもう補給部隊には向いていない。
 これ以上、失ってたまるか!
「均衡の裡に理よ路を変えよ。天から降りて地を奔り天に還るもの、恩恵と等しき災禍を齎せ!」
 曇天に消えた光を追いかけるようにエアルドフリスの紡いだ雨が空へと消え、遥か上空で虹の波紋が弾けた。雨と烈光が時雨のように降り落ちる。集中が切れて吐息を漏らすジュードの上にも。
「ジュードくん!!」
 エイルが叫んだ。が、分け隔てのない雨は濡れた髪で見上げるジュードの上に降り注いだ。
「許せぬ想いはいかばかりだろう。この雨には悲憤が感じられる。口惜しさと、それでも尚、という気持ちが」
 ジュードに覆いかぶさるようにしたリュカが囁いた。髪が大樹の枝のように身体に巻き付いた姿で。天譴の雨の代わりに、彼女の血がぽたぽたと垂れ落ちる。
「リュカさん!」
「あれは一歩違えた、私の姿かもしれない……自分の危うさを気づかせてくれるよ」
 そんな彼女の横に墜落したイヌワシの姿もあった。焼け落ちた四神護符も。彼女は身を呈して天譴の雨を全て防いだのだ。自己再生にマテリアルを動かそうとするも生命力の方が先に底をついたためか、どうにもならない。
 リュカは微笑んで、そのままジュードの膝元に倒れ伏した。ジュードの目の前に焼けただれた背中が、そして彼女の挺身により天譴の雨の効果範囲を無事走りぬける補給部隊の車両も見える。
「しっかりして。リュカさん、貴女は違う。生きて……みんなを守る大樹なのよ」
 エイルはヒールを懸命にかけた。優しい光の中で、リュカが僅かに身じろぎするのを確認してエイルは生きている確信を胸に全力でヒールを唱える。
 こんなところで死なせたら、それこそ違えた道を同じくしてしまう。誰も失わせたくない。何も無に還らせたりしない。
 エイルの胸に愛する人、愛らしいあの子の顔が浮かんでは消える。
「お願い、みんな。この人を助けてあげて……」
「死してなお、この地を守ろうとすることには敬意を評する。だがな……」
 リューは激憤した。
 なによりも守り切れなかった自分に。
「ごめん、よろしく頼む、ね?」
 アーシュラが運動強化を。
「怖がるな。姉さんの槍はこっちが引き受けてやるから!」
 啓一が盾を構えなおす。
「止めてみせる。思いっきりやってくれ」
 ユリアンは鞭から幾度も風を生み出しながら。
「神よ、我らに力を与えたまえ、歪虚に立ち向かう者に光あれ」
 エルディンの祈りと共にリューの武器が白く輝く。
 リューは走り出した。防御をかなぐり捨てて。
「恵みよ、豊穣の光を持て囁きたまえ。荒ぶる魂を鎮めんことを」
 もう一度、エイルのレクイエムがスィアリの身体を包み込む。と、同時にユリアンの鞭から身体を束縛する暴風が巻き起こる。
「紋章剣、天槍(グングニル)!」
 リューの一撃が、スィアリの胸に深く突き刺さった。そのまま内臓をえぐり、光の力で身を焼き焦がす。
「もうここまでだ」
「……いずこに終端があらんヤ」
 完全な一撃だった。回避すら許さず、狙いも確実に喉元を貫き脊髄を砕いた。
 それでも、目蓋が半分溶けてなくなったスィアリの瞳は物静かにリューを見下していた。力を決した一撃ですらスィアリには苦痛すら与えられていない。
「天槍持ちし者、貪欲に呑まレ、朽ち果てヌ。コレ必定」
 スィアリの中から意識さえはぎ取るような腐敗の臭いが立ち込める。掲げられた力が、託された思いが、ことごとく吸われていく。
「取り込むつもりですか……!」
 エルディンは目の前にいるリューの姿が急速に「崩れて」いくのを目の当たりにして絶句した。
 肉が、皮膚が腐り落ちていく。その腐汁が彼女の肌に触れるごとにあの長く美しい髪がますます鮮やかになっていく。
「させるかっ」
 啓一が飛びかかり、拳の一撃を叩きこみそのまま組み付いた。見知った顔が変貌していく姿に啓一はもう無我夢中だった。まともなダメージを与えられなくとも、とにかく殴り続けた。
 絶望に支配されかかっていたかもしれない。死を目の前にして、生の絶叫が突き動かしていたのかもしれない。自分が腐る可能性も考えなくもなかったが、逡巡している暇などない。
 その背中でジュードが撤退の合図の矢を放ったことも気づかないくらいに。
「リューさん、よくやってくれた」
 その隙を狙い、ユリアンが一気に踏み込み、啓一とリューを抱え上げるとスィアリの腐乱した臭いを打ち払うような柔らかな風を身に纏い、一気に戦線離脱する。
 しかし、問題はその後だった。バイクもマテリアルを抜き去られ、ほぼ使い物にならない。スィアリは組み敷かれているものの、恐らく一瞬の事だ。弓こそ腕ごと壊したものの生命還流を使われれば後は兵士の二の舞だ。
「せやぁぁぁぁ!!!」
 鞭打つ音と同時に馬が駆ける音が、ユリアンの耳に届いた。
「!!」
 荷馬車が猛然と一台走りこんでくる。御者は、嘉雅都だ。ユリアンと入れ替わりざまにスィアリに向かって突撃する。
「おおっと、これはまさに神の助け。悲しき巫女よ、忌まわしき歪虚よ、眠りたまえ。神よ、彼女に安らぎを与えたまえ」
 エルディンは覚醒によって生まれた翼を広げると起き上がろうとするスィアリにレクイエムをかぶせた。その一瞬後に、荷馬車が巫女を踏み潰す。
「なんで戻って来た!」
「補給物資は空にしてきたよ。まだ積み込むものがたくさんありますからね!」
 憤るエアルドフリスに嘉雅都は笑った。
「急がないと、車輪が壊されてしまうのではやく! バイクも積みこめますから!!」
 荷馬車の車輪の下でスィアリが蠢く。だが、四神護符をわざわざ貼り付けているのだ。スィアリの攻撃を受けてもほんの僅かなら、持つはずだ。
 それに了解した仲間達はすぐさまバイクを積み込み、負傷した仲間を放り込む。
「ごめん、ちょっとの間、がんばってね……」
 切り裂かれて痛む腹を押さえながら、アーシュラは荷馬に運動強化をかけると、ディファレンスエンジンを起動させた。
「行くよっ!!」
  嘉雅都が再び鞭を入れた。勢いよく駆け始める荷馬車はそれでも少し動きが悪くなっていた。車輪が少し傷んだのだろう。
 ゆるりと立ち上がるスィアリからの姿はすぐ小さくなっていく。
「死者は去り、此岸に立ち戻る日まで果てを巡るもの。逆流も停滞も許されん。還るのは貴女の方だ」
 エアルドフリスはこちらを見るスィアリに向かって蒼炎箭の詠唱を始めた。
 真っ青な炎が、幾重にも重なり、スィアリとの間に爆炎の壁を作り上げた。
「……引き離せた、かい?」
 爆轟の煙の中を見るエアルドフリスに、横になっていたリュカが小さく問いかけた。
「ああ、だが、決着はつけられなかった」
 スィアリの一言がエアルドフリスにはひっかかっていた。
 文明は毒、社会は病。
 狂える血は人の料簡をも歪めるのか。それとも自分の中の血も同じことを言うのか。

「どうしてあんな無茶したの? 目的が果たせなくなるばかりか、大怪我するところだったのよ? 荷馬車で突撃って……もうみんな危ないことばかりするんだから」
 嘉雅都に対してエイルは眉を顰めつつ、負傷者の手当てを行っていた。最近激戦が続くせいか、無茶をする人が増えている気がする。そして、自分も。
 苦笑いする嘉雅都の代わりに応えたのは、エイルが手当てしていた兵士の一人だった。
「リュカさんや日紫喜さんのこと、怒らないでやってくだせぇ。あの人からいたから救えた命もあったし、指揮してくれたからこんな被害で済んだんですわ。だから、日紫喜さんの仲間を捨てるなんてできなかったから、荷物おいて引き返しましょうって提案したの、俺達なんス」
 破砕した木片で目をやられた兵士はそれでも嬉しそうにエイルに微笑みかけた。
 命とはとかく危ういものだ。苦難の末に生まれた命でも、ともすれば簡単に死へと転落してしまう。
 だが、仲間がいることで、手を取り合える。いずれ死すとは分かっていても、絶望せずに前に向かっていける。
 それでも尚、祈りにも似たその言葉がエイルの頭をかすめていった。

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MVP一覧

  • 不撓の森人
    リュカka3828

  • 日紫喜 嘉雅都ka4222

重体一覧

  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェストka2419
  • 不撓の森人
    リュカka3828

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 不撓の森人
    リュカ(ka3828
    エルフ|27才|女性|霊闘士
  • はぷにんぐ神父
    エルディン(ka4144
    人間(紅)|28才|男性|聖導士

  • 日紫喜 嘉雅都(ka4222
    人間(蒼)|17才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
春日 啓一(ka1621
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/10/22 01:51:20
アイコン 質問卓
ジュード・エアハート(ka0410
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/20 18:04:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/17 12:04:50