ゲスト
(ka0000)
その遺産、誰のもの?
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/30 07:30
- 完成日
- 2015/11/02 20:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「というわけで、旧帝国の財務大臣だったアウグストの隠し財産を狙いに行きます」
アミィはイーゼルに掲げた黒板の前で、指示棒を振りつつ話し始めた。
「といっても、お金は彼にはございません。銀行とかに預けてあったり、宝飾品などに換金してました。しかーし。ほとんど某堕落者のカールという男が無茶苦茶したせいで、大半が行方不明。かろうじて残ったものも現帝国が押収済み」
「え……」
講義を受けるように椅子に座っていた旧帝国皇女のクリームヒルトは思わず絶句した。
今、困窮する帝国民を救うべく、そしてヴルツァライヒのような過激派集団に囚われることなく活動せんとして立ち上がったクリームヒルトであったが、今一番の問題は資金問題であった。ハンターからの寄付があったものの、ヴルツァライヒを退けて成り代わるにはとてもではないが足りるほどではない。
事実、クリームヒルトの今日の食事は鳥の餌に使っていたアワとヒエ。そうそう活動資金を自分の食事代にあてるのは彼女の心が許さなかった。他方、腹心であるアミィは堂々と高級パンを平らげていたが。
「でも、カールには出所不明お金があって、それを調べる依頼がハンターズオフィスに出てたのは……」
「うーん、あれは偽造手形だって話だから公然の犯罪になるよ。偽札を印刷する姫様も悪くないけどね、にひひ」
アミィがくすくす笑っているのを見て、クリームヒルトはむっとしたが、元々彼女の口と性格の悪さは知っている。その代わり飛びぬけた頭と言葉を持っている。クリームヒルトは嘆息一つで苛立ちを押し流し、問いかけた。
「じゃあどうするの? アテはないってこと?」
「アテはありまーす。アウグストの遺産はお金だけじゃないのよン」
旧帝国内部の腐敗に大きく加担していたというアウグストが政治の金をキレイに使っているわけがない。幼かった皇女クリームヒルトの身柄を引き取ったのもその財力によるものだと言われている。結局、その身から出た暴食の精神に食われて倒されたわけだが。
「アウグストは革命後も投資家として名を馳せてたのよね。色んな場所や人にも投資していたみたいだよ。燃料マテリアルの発掘技術、魔導車の技術開発、傭兵産業、賢者の石モドキを作ったと噂の錬金術師にも投資してたっていうから」
「投資……」
「そう投資って何のためにするのかっていうと、技術ができあがって儲けが出てきた時に優先的にその分け前を貰えることなのよね。まあ簡単に言えば、お金を出すことで完成した技術やらサービスを優先的に自分の物にできるってワケ。もちろんその利益ももらえる。失敗したら大損だけどね」
「じゃあ、投資先から回収するってことなのね? でも手形はもうないわけだし……」
アミィが投資先をあたって資金を回収することは理解したが、クリームヒルトがアウグストの財産を正当に受け取る根拠があるわけではない。
それこそ説得するか、脅すかくらいのことはしなければならないかもしれない。
「でも、アウグストはお姫様と一緒に活動してたでしょ。半分根無し草の隠遁生活。どうやって投資事業進めてたと思うのよ。つまり投資関連事業を任されていた人がいるの。こういうのを……ファイナンシャルプランナーって言います。はい、これリアルブルー用語。要チェック!」
アミィが黒板に「アウグスト」という文字から線を引いて「FP」という人物を書き連ねる。そして「FP」から「開発者」と線をつなげる。
もはやよくわからない。クリームヒルトは首を傾げた。
「ふぁ、ふぁいなるあんさー?」
「ファイナンシャルプランナー! つまり投資にまつわる全てがこの人に集約されているのっ。こいつはアウグストの正体も知ってるし、その成果も全部管理しているってこと」
「……誰か知ってるの?」
「もっちろーん♪ お姫様もご存知よぉ?」
いひひひ、と意地の悪い顔をするアミィを見て、クリームヒルトはピンときた。アミィにもその表情は読み取ったらしく、もう一度意地の悪い、そしてもっと残忍な顔をして言葉を続けた。
「ベント伯。お姫様がアウグストの裏の顔を知る際に、鉱山に閉じ込めて自白をもらった彼だよぉ。今度はその彼から開発目録と証文をもらうのよ。そしたら、その目録にある技術はぜーんぶお姫様のモノ! ヴルツァライヒなんてセコい集団どころか、現帝国にだって出し抜けるかもよ」
ベント伯は旧帝国貴族から革命後は有数の投資家として知られる人物だ。そしてアウグストともつながりがあるとして、クリームヒルトは革命組織ヴルツァライヒを調べる中で彼を見つけ、そして彼の口から、アウグストが悪の権化であることも知った。
しかしベント伯が悪人かと言われればそうではなかった。多少強引な手を使ったことは今でもたまに後悔の念を浮かべるほどに。
「でも、ベント伯はそうしたら……どうなるの」
「もちろん、元手がなくなるわけだから仕事無くなるね。今の生活ができるのもその財産管理料からだろうから良くて貧乏生活。悪いと一家離散? 投資事業全部回収するから、まあ信頼もなくすだろうね。ンフフ。夜道で刺されるかも! 共倒れになった開発者から刺されるベント伯。ああ、社会派ミステリーの王道パターンだわ」
黒板にあるもの全てに全部バッテンを付けながら、アミィはとても楽しそうだった。
「そんな!」
「いい? お姫様。世の中を変えるってのはね。誰かを犠牲にすることよ。誰も犠牲にしない変革なんてただの夢。これくらいできないと、後先思いやられるよ」
アミィはそう言うと、指示棒でテーブルに置いた鍵をひっかけるとクリームヒルト膝元に落とした。
「悩むでしょ。だからあたしね。ちゃんとベント伯に説明して、技術目録渡さなければ帝国司法課に身柄を売るよと言ってあげたのよ」
形状から見て倉庫の鍵だ。つまりベント伯は持っていけ、と言ったのだろう。
だが、自分の命を放り出してまで、クリームヒルトに尽くすとはとても思えない。積み上げてきた信頼がある。投資家としての誇りもある。家族もいる。そんな彼が全部捨ててアミィにカギを託すなど、考えられる理由は1つしかない。
きっと鍵を開いた向こう側でベント伯は待ち受けている。命を賭して。
「最低ね」
クリームヒルトは睨みつけてそう言った。
「義理と人情の狭間で、人間はいかに狂い、そして壊れるか壊すかを選択するの。ああ、悲劇ってサイコー!」
アミィの望むような結果には絶対させてやらない。
クリームヒルトは悦に入るアミィを前にして、密かにハンターへの依頼を考えながら鍵を握り締めた。
アミィはイーゼルに掲げた黒板の前で、指示棒を振りつつ話し始めた。
「といっても、お金は彼にはございません。銀行とかに預けてあったり、宝飾品などに換金してました。しかーし。ほとんど某堕落者のカールという男が無茶苦茶したせいで、大半が行方不明。かろうじて残ったものも現帝国が押収済み」
「え……」
講義を受けるように椅子に座っていた旧帝国皇女のクリームヒルトは思わず絶句した。
今、困窮する帝国民を救うべく、そしてヴルツァライヒのような過激派集団に囚われることなく活動せんとして立ち上がったクリームヒルトであったが、今一番の問題は資金問題であった。ハンターからの寄付があったものの、ヴルツァライヒを退けて成り代わるにはとてもではないが足りるほどではない。
事実、クリームヒルトの今日の食事は鳥の餌に使っていたアワとヒエ。そうそう活動資金を自分の食事代にあてるのは彼女の心が許さなかった。他方、腹心であるアミィは堂々と高級パンを平らげていたが。
「でも、カールには出所不明お金があって、それを調べる依頼がハンターズオフィスに出てたのは……」
「うーん、あれは偽造手形だって話だから公然の犯罪になるよ。偽札を印刷する姫様も悪くないけどね、にひひ」
アミィがくすくす笑っているのを見て、クリームヒルトはむっとしたが、元々彼女の口と性格の悪さは知っている。その代わり飛びぬけた頭と言葉を持っている。クリームヒルトは嘆息一つで苛立ちを押し流し、問いかけた。
「じゃあどうするの? アテはないってこと?」
「アテはありまーす。アウグストの遺産はお金だけじゃないのよン」
旧帝国内部の腐敗に大きく加担していたというアウグストが政治の金をキレイに使っているわけがない。幼かった皇女クリームヒルトの身柄を引き取ったのもその財力によるものだと言われている。結局、その身から出た暴食の精神に食われて倒されたわけだが。
「アウグストは革命後も投資家として名を馳せてたのよね。色んな場所や人にも投資していたみたいだよ。燃料マテリアルの発掘技術、魔導車の技術開発、傭兵産業、賢者の石モドキを作ったと噂の錬金術師にも投資してたっていうから」
「投資……」
「そう投資って何のためにするのかっていうと、技術ができあがって儲けが出てきた時に優先的にその分け前を貰えることなのよね。まあ簡単に言えば、お金を出すことで完成した技術やらサービスを優先的に自分の物にできるってワケ。もちろんその利益ももらえる。失敗したら大損だけどね」
「じゃあ、投資先から回収するってことなのね? でも手形はもうないわけだし……」
アミィが投資先をあたって資金を回収することは理解したが、クリームヒルトがアウグストの財産を正当に受け取る根拠があるわけではない。
それこそ説得するか、脅すかくらいのことはしなければならないかもしれない。
「でも、アウグストはお姫様と一緒に活動してたでしょ。半分根無し草の隠遁生活。どうやって投資事業進めてたと思うのよ。つまり投資関連事業を任されていた人がいるの。こういうのを……ファイナンシャルプランナーって言います。はい、これリアルブルー用語。要チェック!」
アミィが黒板に「アウグスト」という文字から線を引いて「FP」という人物を書き連ねる。そして「FP」から「開発者」と線をつなげる。
もはやよくわからない。クリームヒルトは首を傾げた。
「ふぁ、ふぁいなるあんさー?」
「ファイナンシャルプランナー! つまり投資にまつわる全てがこの人に集約されているのっ。こいつはアウグストの正体も知ってるし、その成果も全部管理しているってこと」
「……誰か知ってるの?」
「もっちろーん♪ お姫様もご存知よぉ?」
いひひひ、と意地の悪い顔をするアミィを見て、クリームヒルトはピンときた。アミィにもその表情は読み取ったらしく、もう一度意地の悪い、そしてもっと残忍な顔をして言葉を続けた。
「ベント伯。お姫様がアウグストの裏の顔を知る際に、鉱山に閉じ込めて自白をもらった彼だよぉ。今度はその彼から開発目録と証文をもらうのよ。そしたら、その目録にある技術はぜーんぶお姫様のモノ! ヴルツァライヒなんてセコい集団どころか、現帝国にだって出し抜けるかもよ」
ベント伯は旧帝国貴族から革命後は有数の投資家として知られる人物だ。そしてアウグストともつながりがあるとして、クリームヒルトは革命組織ヴルツァライヒを調べる中で彼を見つけ、そして彼の口から、アウグストが悪の権化であることも知った。
しかしベント伯が悪人かと言われればそうではなかった。多少強引な手を使ったことは今でもたまに後悔の念を浮かべるほどに。
「でも、ベント伯はそうしたら……どうなるの」
「もちろん、元手がなくなるわけだから仕事無くなるね。今の生活ができるのもその財産管理料からだろうから良くて貧乏生活。悪いと一家離散? 投資事業全部回収するから、まあ信頼もなくすだろうね。ンフフ。夜道で刺されるかも! 共倒れになった開発者から刺されるベント伯。ああ、社会派ミステリーの王道パターンだわ」
黒板にあるもの全てに全部バッテンを付けながら、アミィはとても楽しそうだった。
「そんな!」
「いい? お姫様。世の中を変えるってのはね。誰かを犠牲にすることよ。誰も犠牲にしない変革なんてただの夢。これくらいできないと、後先思いやられるよ」
アミィはそう言うと、指示棒でテーブルに置いた鍵をひっかけるとクリームヒルト膝元に落とした。
「悩むでしょ。だからあたしね。ちゃんとベント伯に説明して、技術目録渡さなければ帝国司法課に身柄を売るよと言ってあげたのよ」
形状から見て倉庫の鍵だ。つまりベント伯は持っていけ、と言ったのだろう。
だが、自分の命を放り出してまで、クリームヒルトに尽くすとはとても思えない。積み上げてきた信頼がある。投資家としての誇りもある。家族もいる。そんな彼が全部捨ててアミィにカギを託すなど、考えられる理由は1つしかない。
きっと鍵を開いた向こう側でベント伯は待ち受けている。命を賭して。
「最低ね」
クリームヒルトは睨みつけてそう言った。
「義理と人情の狭間で、人間はいかに狂い、そして壊れるか壊すかを選択するの。ああ、悲劇ってサイコー!」
アミィの望むような結果には絶対させてやらない。
クリームヒルトは悦に入るアミィを前にして、密かにハンターへの依頼を考えながら鍵を握り締めた。
リプレイ本文
草野原。秋の冷たい風が頭の上を駆けていく。
「俺、LH044で守備隊の兵士やってたんすよ。そこのよく行ってたエリアにここ、よく似てるんすよね」
ヘルメットを横に置いて、流れていく糸くずの雲を眺めて、無限 馨(ka0544)はアミィにそう漏らした後、同じように寝そべるアミィの横顔を見た。その横顔はどこかつまらなそうで、どこか寂しそうだった。
「アミィのことも聞かせて貰えないすか……?」
「……過去は捨てたの」
淋しそうな顔がさらに曇って雨模様になりそうだ。無限は思わず彼女から目を離せなくなった。
「それは……嘘っすね?」
「てへぺろ」
案の定舌を出してかわいこぶるアミィに無限はため息をついた。
「まあ、いいっすよ。んで、今回のことはどこまで本当っすかね? ベント伯となんか交渉してるっすね?」
「を、勘が鋭いねー。全部ペテンにかけるなんてしないよ。まあお姫様がどこまでやれるかは見ものだと思うよ」
にやりと笑うアミィに無限は心底驚いた顔をした。
「とっくに狼少年扱いされてるって気づいてなかったんすか?」
その言葉にアミィのニヤリ顔は引きつった。こんなことを続けてまだ薬にも毒にもなれるとか思い込んでいたらしい。アミィは起き上がると同時に無限を踏みつけ、そのままバイクに飛び乗った。
「腹立つ! 帰る!!」
「ぐふぉ……ふふふ。でも鍵がなけりゃ動かないっすよー」
むきー! と飛びかかるアミィをいなし、無限は原っぱで鬼ごっこを続ける。
●
場所は戻って、ベント伯の倉庫。凝った彫刻の刻まれた石扉がゆっくりと開くと同時に、神楽(ka2032)がそっとクリームヒルトの前に立ち、彼女に微笑んだ。
「危ないからここで待機っす。大人か子供か、捻てるか真っ直ぐかの違いはあるっすが全員根はお人好しの善人だから大丈夫っすよ」
「神楽さん……、ありがとう」
クリームヒルトの嬉しそうな顔を見て、揚々とする神楽の横をアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が笑顔で通り抜けた。
「大層立派な盾じゃないか。だが、大砲の弾は人間を吹き飛ばす。合いびき肉にならないようにな」
そしてアウレールは堂々と倉庫の奥へと堂々と歩み始める。
「砲火ァ!!!」
奥からそんな声が聞こえたかと思うと同時に、アウレールの姿が紅蓮の爆発で掻き消えた。
「ちっ、早まることをするからだ。円環の裡に万物は巡る。理の護り手にして旅人たる月、我が言霊を御身が雫と為し給え」
裂光の前に影と消えるアウレールにエアルドフリス(ka1856)は舌うち一つすると円環成就弐の詠唱を放ち、怨嗟の炎に燃えるベント伯とメルツェーデスの頭上に青白い霧の中に浮かぶ月を創り出した。弱弱しかったその光景だが一瞬三月兎が視界によぎると現実と見紛うばかりの姿を生み出し、途端に砲弾の雨が弱めた。
「月の担い手の仕事に、月を創る者。夜が好きな連中だなぁ」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)はぽそりとそう言った。かくいう自分も夜空を舞う紅い血の蝙蝠の精霊と共にある。
安寧の為に、陽の元を歩けぬ仕事をする。月の生業に自分も染まっているのかも知れない。
「メルツェーデス、起きろ!」
しかし砲火が弱まったのも一瞬。ベント伯は魔法の眠りに耐えきると、倒れ伏したメルツェーデスを起こし再度攻撃を始めた。しかし、その前にアウレールはもうかなり前まで進んでいた。
「ははは、盛大なお出迎え痛み入ります。今日は一つお話に参りまして」
最後の抵抗とばかりに同時に携行大砲による小爆発が続き、そのままアサルトライフルの猛烈な連射音が倉庫内にワンワンと響く。
「お気を確かに。見ての通り私は丸腰です。戦うつもりはございません」
しかし、一斉砲撃を真正面から受けて立つアウレールは営業スマイルそのままに正面からそれを全て受け止めてみせた。
「……強大な力をちらつかせながら呑みこんでゆく。あいつは幼き征服者(コンキスタドール)だねぇ」
正面から受けて立つというアウレールのやり方にヒースは思わずボソリ、と呟いた。
アウレールは壊れた兵器のようだ。ヒースは波紋を浮かべて歩く覚醒したアウレールの背中を目を細めて見つめた。
「あっ、クリームヒルト様、流れ弾に注意っす!」
一方、神楽はそのままクリームヒルトを抱きしめて身体を低くする。言葉は格好好いがなんかドサクサ紛れに抱き付いているような気がしなくもない。
「この調子だと制圧は一瞬だと思うよぉ。さっさと進まないと話がいつまで経っても終わらないんだ。そういうのは後にしてくれ」
ヒースは横目で神楽を一瞥すると、さっさとアウレールの後を進んでいく。
そしてヒースの予測通り、あっという間に弾幕を破り、アウレールは顔をすこしばかり煤けさせたくらいでベント伯の乗り込む魔導アーマーの前に立って、改めて少年らしい、否、美辞麗句を好む貴族の笑顔を作った。
「今、倉庫をぐるりと見回しましたが佳い品です、金さえ出せば手に入る代物ではありませんね。まるで閣下のお人柄を見込んで自ら身を委ねたようだ」
つまり、あの爆撃の雨の中でもアウレールは周りの美術品を眺めるほど余裕があったことを示す。
「……あれで、生きてる、だと?」
魔導アーマーの中から、恐れおののく男の声が聞こえた。ベント伯だ。すでに真っ青になり、冷や汗で顔を濡らしていた。
自分たちの力では何一つ勝てないことを悟ったのだろうか。アウレールが二の句を継ぐ前に、ベント伯は、アーマーの中で拳銃を引き抜いた。
「メルツェーデス……すまない」
「本当、最っ低! 死んでも恨み続けてやる!!」
もう逃げ場はない。そんな顔であった。メルツェーデスも観念してデリンジャーを引き抜く。
それをこめかみに当てて……。
「メルさん、早まったらダメだよ」
不意に羽のようなものが天井から舞い落ちたかと思うと、新緑の風が吹きすさび、魔導アーマー操縦席のサイドガラスが粉々に砕いた。それと同時に現れたユリアン(ka1664)はバケツを使って自ら命を絶とうとする彼らの頭に水を振りまく。デリンジャーもびしょぬれになり、彼らは何事かとしばし呆然としていた。
「な、なにするの……って、あああああ、ユリアン!!」
「やあ、久しぶり。縁ってのは不思議だね。切れたと思ってもまたつながるものなんだ。でも、命が切れたら本当にそこで終わるんだ」
クリームヒルトのこととは全く違うところで知己となった間柄がこんな形で再開するとは。メルは驚きのあまり口をパクパクさせているところにユリアンはにっこり笑ってそう挨拶した。ユリアンはずっとメルが近くにいることを知ってはいたが、それはおくびにも出さない。
「助けに来たとはいえないんだけど、力になりに来たよ。終わらせないためにもね」
「どう考えても終わらせに来たんでしょ! 預けられた物を整理もせずに取り上げられたら、たくさんの人間が死ぬのよ。あたし達も投資先も。お姫様ってのは人の屍の上に立ってエラいフリしたいワケ!? っていうかあんた反政府組織の手先になって何してんのよ!」
強烈な剣幕でまくしたてるメルにシアーシャ(ka2507) は胸に手を当てて心のこもった声で返した。
「あのね。アミィさんの言ったことは本当じゃないの。やろうと思ったらこんな回りくどいことしなかったはずだから! きっとね、アミィさん意地悪な人だけど、ベント伯とも手を取り合ってもらえるようにわざとこんなことしんたじゃないかなって」
「わざと……?」
そういえばそうだ。普通にクリームヒルトが投資目録にあるものを使わせてほしいといっても、力の無い彼女には依頼する形であり、ベント伯はそれを自分の都合の良いように調整して分け与えるだろう。下手をすればその関係を悪用して彼女を支配したり、逆に帝国に売り飛ばすことも可能になる。しかしアミィの脅しはその関係をハナから粉々にした。
ベント伯達だけでなく、仲間達もシアーシャの言葉にしばし沈黙する中でクリームヒルトが歩み出た。
「反政府はそうかもしれないけど、困っているたくさんの人を助けたいと思っているの」
必死に訴えかけるシアーシャの言葉にベント伯とメルツェーデスはしばし聞き入った。
が、さらりとエアルドフリスが前に立ち、シアーシャの誠意を覆い隠した。
シアーシャの一言で間違いなく彼らの心は揺れ動いた。ならばここからは説得ではなく、交渉だ。
「力を求めているのは確かです。そして過去の清算としての支払いも求めておりますよ。伯爵殿」
「貴様……あの鉱山の時の……クロウ・クルアッハ(ケルトの血の雨を降らせる神、転じて疫病神・死神)め!」
エアルドフリスの顔を見て悟ったベント伯は吐き捨てるようにしてそう言ったがエアルドフリスは慇懃無礼な笑顔で返すだけだった。
「ぷー、言葉だけ格好いいっす! 頭そうとう腐っていい香りしてっすね!!」
ひとしきり笑う神楽の背後でメルツェーデスの横に立つユリアンも冷顔を浮かべた。
「投資にかける目先は鋭くても見抜けなかったんだよね。引き際も見誤った。でもかつての目利きは高く評価してるんだ。だからこうして話しさせてもらっているんだけど。もう人を見る眼も曇っちゃった?」
メルツェーデスはもごもごと口を動かしたが音羽 美沙樹(ka4757)はそれをそっと手で覆い隠した。
「ごめんなさいませ。決して悪いようにはいたしませんわ。あたしに流れる風を共にする仲間を助けて下さった御礼、いたしておりませんもの」
「風の仲間……あんたまさかボ」
叫びそうになったメルツェーデスの口を押さえ、彼女の持っていたソードも叩き落として美沙樹はウィンクした。
それと入れ替わるように、ヒース、そして神楽とクリームヒルトが暗闇の中を静々と歩み、ベント伯の前に立った。
「アミィは勝手な行動をするやつでね。すまなかった。ここにある資産は必要ない。そこの目録と証文さえ回収できればそれでいい。身柄や家族の保証は必ずするし悪いようにはしないよぉ」
ヒースの言葉にしばし沈黙が下りる。
「まあ7割くらい差し出してもらえれば、危険には晒しませんよ」
エアルドフリスの言葉に返ってきたのは、大砲のロックオンの装置音だった。
「!」
覚醒者には傷もつけられない、当たりもしない。
だが、「間近」で「停止した」「非覚醒者」の 目標なら簡単に吹き飛ばせる。
「血迷ったか、ベント伯!!」
アーマーに乗り込んで一撃を加えるか。魔法を使うか。
それでも引き金を引く方が断然早い。
爆撃が視界を紅蓮に染めた瞬間、神楽がそれをかばった。
「アミィに吹き込まれたかぁ? クリームヒルトが説得に来るときは逆転のチャンスだからねぇ」
同時に操縦席の窓のフレームに手をかけたヒースが滑りこむようにして、ベント伯を蹴り飛ばした。
「目には目をですわ。お話を聞いてもらえなくて残念ですわ」
反対側で待ち受けた美沙樹はアーマーから落ちて来たベント伯に剣の柄を食らわせるとそのまま剣を引き抜いて、腰のサーベルをつなぐベルトを叩ききった。
これでベント伯は間違いなく全てを失った。
そしてそれは彼の望みのようであった。ベント伯は観念したように物静かに床に転がっていた。
「……どうして、どうして」
涙するシアーシャの横をクリームヒルトは無表情ですり抜け、そしてベント伯のシャツをぐいと引き寄せ、神楽の懐から引き抜いたナイフを掲げた。
「死にたいのならそうして差し上げます。ベント伯」
ずど。
誰が止める前にもそれは地面に突き刺さった。ベント伯の頭の横をかすめて。
「あなたの命はいただきました。以後、貴方の物は何一つないと思いなさい。命も家族も財産も全て私の物です。自殺などという勝手は許しません。全力で尽くしなさい」
クリームヒルトの顔は今までのどれよりも冷たく、そして優しかった。
全てを燃やし尽くしたベント伯はそれを断らなかった。
●
「うふふ、それにしてもメルツェーデスさんが無事でよかったですわ。金髪の彼女も心配しておりましたのよ。ボラ族ももらったお金使い切ったから早く帰って来てくれないかと仰ってましたもの」
美沙樹はメルにそう話し、彼女が派手にスープに突っ伏す中、アミィと手をつなぎ無限が姿を現す。
豪華な食事とそれを囲む一同を見て嬉しそうに言った。
「無事解決したんすね!」
と同時にアミィは顔をしかめた。
「ちょっと、なんでこんな大団円になってるワケ!? こうなりゃぁ」
「おっとぉ、性悪女に抱き付きたくなる持病がァ」
そんなアミィに包帯姿の神楽がむぎゅーっと抱きしめる。クリームヒルトより断然、スタイルがいいのが触感でわかる。
「はなせー!?」
「ちょ、ちょっと、アミィ!」
パンを幸せそうにちぎって食べていたクリームヒルトだがそを見て真っ赤になって立ち上がった。
「あらー、姫様。美味しいお食事いただけたようでなにより。あたしも心のお食事を」
「却下!!」
そんなやりとりを他のメンバーは苦笑いを浮かべる中、ヒースはベント伯に問いかけた。
「よく軍門にくだる気になったもんだねぇ。お前も、月の光に魅入られたかぁ?」
「死の闇に囚われていたな。どこかで。鉱山での一件からずっと苛まされた。だがシアーシャの言葉とクリームヒルト様がもたらした光で、憑き物が落ちたんだろうな。この老骨でももう一度何かできるなら、クリームヒルト様に託そう。君たちがそう思わせてくれたのは間違いない」
分厚い目録をまとめた書物でアミィをひっぱたくクリームヒルトの姿を見て、ベント伯は微笑んだ。
「俺、LH044で守備隊の兵士やってたんすよ。そこのよく行ってたエリアにここ、よく似てるんすよね」
ヘルメットを横に置いて、流れていく糸くずの雲を眺めて、無限 馨(ka0544)はアミィにそう漏らした後、同じように寝そべるアミィの横顔を見た。その横顔はどこかつまらなそうで、どこか寂しそうだった。
「アミィのことも聞かせて貰えないすか……?」
「……過去は捨てたの」
淋しそうな顔がさらに曇って雨模様になりそうだ。無限は思わず彼女から目を離せなくなった。
「それは……嘘っすね?」
「てへぺろ」
案の定舌を出してかわいこぶるアミィに無限はため息をついた。
「まあ、いいっすよ。んで、今回のことはどこまで本当っすかね? ベント伯となんか交渉してるっすね?」
「を、勘が鋭いねー。全部ペテンにかけるなんてしないよ。まあお姫様がどこまでやれるかは見ものだと思うよ」
にやりと笑うアミィに無限は心底驚いた顔をした。
「とっくに狼少年扱いされてるって気づいてなかったんすか?」
その言葉にアミィのニヤリ顔は引きつった。こんなことを続けてまだ薬にも毒にもなれるとか思い込んでいたらしい。アミィは起き上がると同時に無限を踏みつけ、そのままバイクに飛び乗った。
「腹立つ! 帰る!!」
「ぐふぉ……ふふふ。でも鍵がなけりゃ動かないっすよー」
むきー! と飛びかかるアミィをいなし、無限は原っぱで鬼ごっこを続ける。
●
場所は戻って、ベント伯の倉庫。凝った彫刻の刻まれた石扉がゆっくりと開くと同時に、神楽(ka2032)がそっとクリームヒルトの前に立ち、彼女に微笑んだ。
「危ないからここで待機っす。大人か子供か、捻てるか真っ直ぐかの違いはあるっすが全員根はお人好しの善人だから大丈夫っすよ」
「神楽さん……、ありがとう」
クリームヒルトの嬉しそうな顔を見て、揚々とする神楽の横をアウレール・V・ブラオラント(ka2531)が笑顔で通り抜けた。
「大層立派な盾じゃないか。だが、大砲の弾は人間を吹き飛ばす。合いびき肉にならないようにな」
そしてアウレールは堂々と倉庫の奥へと堂々と歩み始める。
「砲火ァ!!!」
奥からそんな声が聞こえたかと思うと同時に、アウレールの姿が紅蓮の爆発で掻き消えた。
「ちっ、早まることをするからだ。円環の裡に万物は巡る。理の護り手にして旅人たる月、我が言霊を御身が雫と為し給え」
裂光の前に影と消えるアウレールにエアルドフリス(ka1856)は舌うち一つすると円環成就弐の詠唱を放ち、怨嗟の炎に燃えるベント伯とメルツェーデスの頭上に青白い霧の中に浮かぶ月を創り出した。弱弱しかったその光景だが一瞬三月兎が視界によぎると現実と見紛うばかりの姿を生み出し、途端に砲弾の雨が弱めた。
「月の担い手の仕事に、月を創る者。夜が好きな連中だなぁ」
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)はぽそりとそう言った。かくいう自分も夜空を舞う紅い血の蝙蝠の精霊と共にある。
安寧の為に、陽の元を歩けぬ仕事をする。月の生業に自分も染まっているのかも知れない。
「メルツェーデス、起きろ!」
しかし砲火が弱まったのも一瞬。ベント伯は魔法の眠りに耐えきると、倒れ伏したメルツェーデスを起こし再度攻撃を始めた。しかし、その前にアウレールはもうかなり前まで進んでいた。
「ははは、盛大なお出迎え痛み入ります。今日は一つお話に参りまして」
最後の抵抗とばかりに同時に携行大砲による小爆発が続き、そのままアサルトライフルの猛烈な連射音が倉庫内にワンワンと響く。
「お気を確かに。見ての通り私は丸腰です。戦うつもりはございません」
しかし、一斉砲撃を真正面から受けて立つアウレールは営業スマイルそのままに正面からそれを全て受け止めてみせた。
「……強大な力をちらつかせながら呑みこんでゆく。あいつは幼き征服者(コンキスタドール)だねぇ」
正面から受けて立つというアウレールのやり方にヒースは思わずボソリ、と呟いた。
アウレールは壊れた兵器のようだ。ヒースは波紋を浮かべて歩く覚醒したアウレールの背中を目を細めて見つめた。
「あっ、クリームヒルト様、流れ弾に注意っす!」
一方、神楽はそのままクリームヒルトを抱きしめて身体を低くする。言葉は格好好いがなんかドサクサ紛れに抱き付いているような気がしなくもない。
「この調子だと制圧は一瞬だと思うよぉ。さっさと進まないと話がいつまで経っても終わらないんだ。そういうのは後にしてくれ」
ヒースは横目で神楽を一瞥すると、さっさとアウレールの後を進んでいく。
そしてヒースの予測通り、あっという間に弾幕を破り、アウレールは顔をすこしばかり煤けさせたくらいでベント伯の乗り込む魔導アーマーの前に立って、改めて少年らしい、否、美辞麗句を好む貴族の笑顔を作った。
「今、倉庫をぐるりと見回しましたが佳い品です、金さえ出せば手に入る代物ではありませんね。まるで閣下のお人柄を見込んで自ら身を委ねたようだ」
つまり、あの爆撃の雨の中でもアウレールは周りの美術品を眺めるほど余裕があったことを示す。
「……あれで、生きてる、だと?」
魔導アーマーの中から、恐れおののく男の声が聞こえた。ベント伯だ。すでに真っ青になり、冷や汗で顔を濡らしていた。
自分たちの力では何一つ勝てないことを悟ったのだろうか。アウレールが二の句を継ぐ前に、ベント伯は、アーマーの中で拳銃を引き抜いた。
「メルツェーデス……すまない」
「本当、最っ低! 死んでも恨み続けてやる!!」
もう逃げ場はない。そんな顔であった。メルツェーデスも観念してデリンジャーを引き抜く。
それをこめかみに当てて……。
「メルさん、早まったらダメだよ」
不意に羽のようなものが天井から舞い落ちたかと思うと、新緑の風が吹きすさび、魔導アーマー操縦席のサイドガラスが粉々に砕いた。それと同時に現れたユリアン(ka1664)はバケツを使って自ら命を絶とうとする彼らの頭に水を振りまく。デリンジャーもびしょぬれになり、彼らは何事かとしばし呆然としていた。
「な、なにするの……って、あああああ、ユリアン!!」
「やあ、久しぶり。縁ってのは不思議だね。切れたと思ってもまたつながるものなんだ。でも、命が切れたら本当にそこで終わるんだ」
クリームヒルトのこととは全く違うところで知己となった間柄がこんな形で再開するとは。メルは驚きのあまり口をパクパクさせているところにユリアンはにっこり笑ってそう挨拶した。ユリアンはずっとメルが近くにいることを知ってはいたが、それはおくびにも出さない。
「助けに来たとはいえないんだけど、力になりに来たよ。終わらせないためにもね」
「どう考えても終わらせに来たんでしょ! 預けられた物を整理もせずに取り上げられたら、たくさんの人間が死ぬのよ。あたし達も投資先も。お姫様ってのは人の屍の上に立ってエラいフリしたいワケ!? っていうかあんた反政府組織の手先になって何してんのよ!」
強烈な剣幕でまくしたてるメルにシアーシャ(ka2507) は胸に手を当てて心のこもった声で返した。
「あのね。アミィさんの言ったことは本当じゃないの。やろうと思ったらこんな回りくどいことしなかったはずだから! きっとね、アミィさん意地悪な人だけど、ベント伯とも手を取り合ってもらえるようにわざとこんなことしんたじゃないかなって」
「わざと……?」
そういえばそうだ。普通にクリームヒルトが投資目録にあるものを使わせてほしいといっても、力の無い彼女には依頼する形であり、ベント伯はそれを自分の都合の良いように調整して分け与えるだろう。下手をすればその関係を悪用して彼女を支配したり、逆に帝国に売り飛ばすことも可能になる。しかしアミィの脅しはその関係をハナから粉々にした。
ベント伯達だけでなく、仲間達もシアーシャの言葉にしばし沈黙する中でクリームヒルトが歩み出た。
「反政府はそうかもしれないけど、困っているたくさんの人を助けたいと思っているの」
必死に訴えかけるシアーシャの言葉にベント伯とメルツェーデスはしばし聞き入った。
が、さらりとエアルドフリスが前に立ち、シアーシャの誠意を覆い隠した。
シアーシャの一言で間違いなく彼らの心は揺れ動いた。ならばここからは説得ではなく、交渉だ。
「力を求めているのは確かです。そして過去の清算としての支払いも求めておりますよ。伯爵殿」
「貴様……あの鉱山の時の……クロウ・クルアッハ(ケルトの血の雨を降らせる神、転じて疫病神・死神)め!」
エアルドフリスの顔を見て悟ったベント伯は吐き捨てるようにしてそう言ったがエアルドフリスは慇懃無礼な笑顔で返すだけだった。
「ぷー、言葉だけ格好いいっす! 頭そうとう腐っていい香りしてっすね!!」
ひとしきり笑う神楽の背後でメルツェーデスの横に立つユリアンも冷顔を浮かべた。
「投資にかける目先は鋭くても見抜けなかったんだよね。引き際も見誤った。でもかつての目利きは高く評価してるんだ。だからこうして話しさせてもらっているんだけど。もう人を見る眼も曇っちゃった?」
メルツェーデスはもごもごと口を動かしたが音羽 美沙樹(ka4757)はそれをそっと手で覆い隠した。
「ごめんなさいませ。決して悪いようにはいたしませんわ。あたしに流れる風を共にする仲間を助けて下さった御礼、いたしておりませんもの」
「風の仲間……あんたまさかボ」
叫びそうになったメルツェーデスの口を押さえ、彼女の持っていたソードも叩き落として美沙樹はウィンクした。
それと入れ替わるように、ヒース、そして神楽とクリームヒルトが暗闇の中を静々と歩み、ベント伯の前に立った。
「アミィは勝手な行動をするやつでね。すまなかった。ここにある資産は必要ない。そこの目録と証文さえ回収できればそれでいい。身柄や家族の保証は必ずするし悪いようにはしないよぉ」
ヒースの言葉にしばし沈黙が下りる。
「まあ7割くらい差し出してもらえれば、危険には晒しませんよ」
エアルドフリスの言葉に返ってきたのは、大砲のロックオンの装置音だった。
「!」
覚醒者には傷もつけられない、当たりもしない。
だが、「間近」で「停止した」「非覚醒者」の 目標なら簡単に吹き飛ばせる。
「血迷ったか、ベント伯!!」
アーマーに乗り込んで一撃を加えるか。魔法を使うか。
それでも引き金を引く方が断然早い。
爆撃が視界を紅蓮に染めた瞬間、神楽がそれをかばった。
「アミィに吹き込まれたかぁ? クリームヒルトが説得に来るときは逆転のチャンスだからねぇ」
同時に操縦席の窓のフレームに手をかけたヒースが滑りこむようにして、ベント伯を蹴り飛ばした。
「目には目をですわ。お話を聞いてもらえなくて残念ですわ」
反対側で待ち受けた美沙樹はアーマーから落ちて来たベント伯に剣の柄を食らわせるとそのまま剣を引き抜いて、腰のサーベルをつなぐベルトを叩ききった。
これでベント伯は間違いなく全てを失った。
そしてそれは彼の望みのようであった。ベント伯は観念したように物静かに床に転がっていた。
「……どうして、どうして」
涙するシアーシャの横をクリームヒルトは無表情ですり抜け、そしてベント伯のシャツをぐいと引き寄せ、神楽の懐から引き抜いたナイフを掲げた。
「死にたいのならそうして差し上げます。ベント伯」
ずど。
誰が止める前にもそれは地面に突き刺さった。ベント伯の頭の横をかすめて。
「あなたの命はいただきました。以後、貴方の物は何一つないと思いなさい。命も家族も財産も全て私の物です。自殺などという勝手は許しません。全力で尽くしなさい」
クリームヒルトの顔は今までのどれよりも冷たく、そして優しかった。
全てを燃やし尽くしたベント伯はそれを断らなかった。
●
「うふふ、それにしてもメルツェーデスさんが無事でよかったですわ。金髪の彼女も心配しておりましたのよ。ボラ族ももらったお金使い切ったから早く帰って来てくれないかと仰ってましたもの」
美沙樹はメルにそう話し、彼女が派手にスープに突っ伏す中、アミィと手をつなぎ無限が姿を現す。
豪華な食事とそれを囲む一同を見て嬉しそうに言った。
「無事解決したんすね!」
と同時にアミィは顔をしかめた。
「ちょっと、なんでこんな大団円になってるワケ!? こうなりゃぁ」
「おっとぉ、性悪女に抱き付きたくなる持病がァ」
そんなアミィに包帯姿の神楽がむぎゅーっと抱きしめる。クリームヒルトより断然、スタイルがいいのが触感でわかる。
「はなせー!?」
「ちょ、ちょっと、アミィ!」
パンを幸せそうにちぎって食べていたクリームヒルトだがそを見て真っ赤になって立ち上がった。
「あらー、姫様。美味しいお食事いただけたようでなにより。あたしも心のお食事を」
「却下!!」
そんなやりとりを他のメンバーは苦笑いを浮かべる中、ヒースはベント伯に問いかけた。
「よく軍門にくだる気になったもんだねぇ。お前も、月の光に魅入られたかぁ?」
「死の闇に囚われていたな。どこかで。鉱山での一件からずっと苛まされた。だがシアーシャの言葉とクリームヒルト様がもたらした光で、憑き物が落ちたんだろうな。この老骨でももう一度何かできるなら、クリームヒルト様に託そう。君たちがそう思わせてくれたのは間違いない」
分厚い目録をまとめた書物でアミィをひっぱたくクリームヒルトの姿を見て、ベント伯は微笑んだ。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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遺産回収委員会【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/11/03 00:55:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/25 21:10:14 |
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質問卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/30 00:51:09 |