ゲスト
(ka0000)
【闇光】撤退戦生還要請
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/25 19:00
- 完成日
- 2015/12/03 03:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
夢を見ていた。
料理が下手な嫁さんだったが、煮っ転がした芋だけは抜群に美味いのだ。
熱々の芋を口に放り込み、ほふほふと弄んでから冷たい麦酒を流し込む。
余ったら次の日には、パンに挟んで食べるとまた美味いんだ。
嫁は、帝国ではそれなりに名の知れた、名門武家の長女だったそうだ。
いつものノリで、たまたま歓楽街を歩いていた女に声をかけたのだが、
次に自分がキスをしていたのは、その武家の長女の頬ではなく硬い地面だった。
情けない事に、それが惚れたキッカケだった。
自分だって、夜の街ではそれなりに名の知れた情報屋……のつもりだった。
今まで商売仲間だった違法な野良『事務所』(帝国のある歓楽街ではマフィア紛いの奴らをこう呼んでいる)
を帝国師団に次々と売り飛ばし、
身を粉にして仲間から仕事を融通してもらい(地下でもらったある爺さんの仕事は、金にはなったが次顔見た時ぶん殴ってやろうと思う)
中々口の堅い同業者は毎晩『お姉ちゃんのつく店』に連れて行って、
何とか情報を集めた。会うためじゃない、落とすために必要な情報をすべてだ。
一瞥すらされなかった、でも、もう一度会ってみたかったんだ。
それからは出入りする業者になり、見張りを丸めこんで、毎日声をかけ誘い続けた。
思い出すのも恥ずかしい、三流舞台の脚本みたいなアプローチばかりだったな。
自分に会うためにそこまでする奴がいるとして、逆の立場ならどうだ? 悪いが、俺なら気味が悪いね。
だが、覚えてすらいなかったのが幸いしてか、次第に仲良くなっていった。
自分で言うが、人当たりと愛嬌だけは自信があったんだ。
おかげで両親にも気に入られて、武家の長女を小汚い世界の男のところへ嫁に出すのも、
紆余曲折あって、許してもらえた。
(これはマジで奇跡に近い! いや、奇跡だった!)
そんな俺の宝物は、今、俺の腕の中でボロボロになっている。
文字通り、ボロボロなんだ。
何度となく愛を囁いた耳、吸い込まれた目、口づけた唇こそ綺麗に残っているが、
だが、それだけだ―――
追いかけて、追いかけて死にもの狂いで手に入れた俺の宝物。
まだだ、まだ追いかけられる。二度と離さないと、誓ったんだ。
男が『口に収めた』銃口は、飛んできたナイフによって弾かれた。
「準備ができた! 敵の攻撃が緩いうちに撤退するぞ!」
帝国第九師団(救援部隊)の副師団長、リベルト・アンスリウムが、
呆けた男の肩を揺らして叫んだ。
現在、第九師団は前線に残された戦士達の撤退支援に参加していた。
必要な者は手当をし、魔導アーマーや戦力を投入して敵の前線を抑えつつ惨禍を凌ぐ戦いだ。
「戦えないならコンテナに乗れ! これ以上もたねぇぞ!」
突如湧き出たスケルトンに対し、長剣を振るうリベルト。
防がれた剣の下に潜りこむように突進、肩で突き飛ばすと、宙に浮いたスケルトンの背骨を左手から放ったクロスボウの矢で砕いた。
「あんたらが……あんたらが召集しなければ嫁はこんな負け戦には立たなかったんだ……」
「その家紋……知ってるぜ。無理強いはしなかったはずだが、なんて言える立場じゃないが……」
肩で息をするリベルトに、殴りかかる男。
全体重を乗せたふらふらの拳を胸で受け止め、なお肩を掴むリベルト。
「ここで死んでどうなるんだ! 嫁さんだってそんなもん望んじゃいないだろう!」
「うるせぇ!! そんなのお前にわかってたまるか! 嫁だけじゃなくて、嫁の死まで俺から奪う気か!!」
「確かにあんたの嫁さんは残念だった……だがお前は生きてるんだろうが! そんな大事なもんがあるなら、生きて掴んでてやれってんだよ!」
首根っこを掴み、半ば突き飛ばすようにコンテナへ運ぶリベルト。
剣戟や魔法、怒号の飛び交う中、その空間だけ切り取ったかのように、厳かに残りの遺体を袋に詰め、別のコンテナへと運ぶリベルト。
「そっちは、こっちよりも酷いか? ユウ……」
戦場の彼方を見やり、魔導アーマーの駆動音を合図に、リベルトは自軍の方へと駆け出していった。
夢を見ていた。
料理が下手な嫁さんだったが、煮っ転がした芋だけは抜群に美味いのだ。
熱々の芋を口に放り込み、ほふほふと弄んでから冷たい麦酒を流し込む。
余ったら次の日には、パンに挟んで食べるとまた美味いんだ。
嫁は、帝国ではそれなりに名の知れた、名門武家の長女だったそうだ。
いつものノリで、たまたま歓楽街を歩いていた女に声をかけたのだが、
次に自分がキスをしていたのは、その武家の長女の頬ではなく硬い地面だった。
情けない事に、それが惚れたキッカケだった。
自分だって、夜の街ではそれなりに名の知れた情報屋……のつもりだった。
今まで商売仲間だった違法な野良『事務所』(帝国のある歓楽街ではマフィア紛いの奴らをこう呼んでいる)
を帝国師団に次々と売り飛ばし、
身を粉にして仲間から仕事を融通してもらい(地下でもらったある爺さんの仕事は、金にはなったが次顔見た時ぶん殴ってやろうと思う)
中々口の堅い同業者は毎晩『お姉ちゃんのつく店』に連れて行って、
何とか情報を集めた。会うためじゃない、落とすために必要な情報をすべてだ。
一瞥すらされなかった、でも、もう一度会ってみたかったんだ。
それからは出入りする業者になり、見張りを丸めこんで、毎日声をかけ誘い続けた。
思い出すのも恥ずかしい、三流舞台の脚本みたいなアプローチばかりだったな。
自分に会うためにそこまでする奴がいるとして、逆の立場ならどうだ? 悪いが、俺なら気味が悪いね。
だが、覚えてすらいなかったのが幸いしてか、次第に仲良くなっていった。
自分で言うが、人当たりと愛嬌だけは自信があったんだ。
おかげで両親にも気に入られて、武家の長女を小汚い世界の男のところへ嫁に出すのも、
紆余曲折あって、許してもらえた。
(これはマジで奇跡に近い! いや、奇跡だった!)
そんな俺の宝物は、今、俺の腕の中でボロボロになっている。
文字通り、ボロボロなんだ。
何度となく愛を囁いた耳、吸い込まれた目、口づけた唇こそ綺麗に残っているが、
だが、それだけだ―――
追いかけて、追いかけて死にもの狂いで手に入れた俺の宝物。
まだだ、まだ追いかけられる。二度と離さないと、誓ったんだ。
男が『口に収めた』銃口は、飛んできたナイフによって弾かれた。
「準備ができた! 敵の攻撃が緩いうちに撤退するぞ!」
帝国第九師団(救援部隊)の副師団長、リベルト・アンスリウムが、
呆けた男の肩を揺らして叫んだ。
現在、第九師団は前線に残された戦士達の撤退支援に参加していた。
必要な者は手当をし、魔導アーマーや戦力を投入して敵の前線を抑えつつ惨禍を凌ぐ戦いだ。
「戦えないならコンテナに乗れ! これ以上もたねぇぞ!」
突如湧き出たスケルトンに対し、長剣を振るうリベルト。
防がれた剣の下に潜りこむように突進、肩で突き飛ばすと、宙に浮いたスケルトンの背骨を左手から放ったクロスボウの矢で砕いた。
「あんたらが……あんたらが召集しなければ嫁はこんな負け戦には立たなかったんだ……」
「その家紋……知ってるぜ。無理強いはしなかったはずだが、なんて言える立場じゃないが……」
肩で息をするリベルトに、殴りかかる男。
全体重を乗せたふらふらの拳を胸で受け止め、なお肩を掴むリベルト。
「ここで死んでどうなるんだ! 嫁さんだってそんなもん望んじゃいないだろう!」
「うるせぇ!! そんなのお前にわかってたまるか! 嫁だけじゃなくて、嫁の死まで俺から奪う気か!!」
「確かにあんたの嫁さんは残念だった……だがお前は生きてるんだろうが! そんな大事なもんがあるなら、生きて掴んでてやれってんだよ!」
首根っこを掴み、半ば突き飛ばすようにコンテナへ運ぶリベルト。
剣戟や魔法、怒号の飛び交う中、その空間だけ切り取ったかのように、厳かに残りの遺体を袋に詰め、別のコンテナへと運ぶリベルト。
「そっちは、こっちよりも酷いか? ユウ……」
戦場の彼方を見やり、魔導アーマーの駆動音を合図に、リベルトは自軍の方へと駆け出していった。
リプレイ本文
◆
「みんなで帰りましょう。待つ人のもとへ」
エイル・メヌエットは声にならない声で呻く怪我人の手を取っていた。
薄暗いコンテナ内に集められた怪我人は、歳は同じぐらいで女性もいたが男性の方が多かった。
当然、限られた物資で医療行為を行おうとすれば、優先順位も出てくる。
「……俺はこれで、頼む」
男が差し出したのは、自分が使っていたナイフと、着火器具。
焼灼止血は言わば外傷の取引、だが、強く懇願するように見る男に、エイルはそれ以上何も言わなかった。
「そろそろ動き出すみたいですよ」
エイルのコンテナに、ユリアンが顔を出す。
彼は遺体、遺品の回収に努めていたおかげで、
前回の作戦で取りこぼしていた分をほぼ回収できたようだ。
何か手伝う事は、と聞くよりも前に、使用中の医療具や動かしてはまずい患者の固定に急ぐ。
ずず、と地面を激しく小刻みに揺らす音と共に、ユリアンは固定具の紐を握っていた手に力を籠める。
「……帰ろう」
小さく差し込む通気口の小さな光に目を細め、望むように呟いた。
◆
『そろそろ落ち着いたようだね、今のウチに逃げるよ』
遺体、遺品を乗せた魔導アーマーのエンジンをフル回転させて、
師団長のユウが各機へ無線を飛ばす。
敵の剣戟こそ落ち着いてはいないが、少なくとも見える範囲での敵は払われていた。
『ソウソウ、お家に帰るマデが遠足って、ブルーでも言うのダッテ』
『そうなんだー、帰るまで遠足だなんて、楽しみの延長戦みたいでブルーはいいねー』
アーマー間の通信でまた不思議なテンションのやりとりを広げるユウとアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
『帰りを待つ誰かがイルなら、ちゃんと連れて帰るヨ』
自身のアーマーが引く、負傷者を積んだコンテナを振り返っていう。
帰らないヒトを待つだけの、待ち惚けの寂しさを、今もマダ、覚えてイルからネ……
という言葉は、敵の攻撃に対応した為無線には入らなかった。
既に後方からは、生者を追いかけるスケルトンの群れが逃すまいと弓を乱射し始めていた。
「いのちだって無条件じゃないんだ……死んで堪るか!」
弓の射程から離れるように、メル・アイザックス(ka0520)がアクセルを思いきり踏み込む。
自機はコンテナ輸送機の防御力をアップさせるために盾を交換し、鉄球を2つ所持している。
防御力はもちろん、丸出しのコクピットにいる自分を守る術も落ちている。
且つ殿という難しい立ち位置の為、敵の射程は避ける事は必然事項だった。
「激戦真っ只中からの撤退戦。後ろに怪我人多数、そしてメルちゃん……さあて、どうするよ、岩井崎 旭」
敵の攻撃を後方に確認し、先を軍馬で行く岩井崎 旭(ka0234)は葛藤していた。
「んなもん、カッコよく戦って、道を作るっきゃねぇよなぁ!!」
いや、結論はシンプルだった。
守り、蹴散らし、逃げる。それだけだ。
最悪メルだけでも脱出させようと言う彼の優しさは、そのまま強さへと変わる。
他人より少しだけ遠くが見やすい鋭敏な視覚で、先方の敵の動きを見極め退路を先導する。
遠距離からの攻撃は来ないが、このままでは少なからずの交戦は避けられなさそうだ。
「ここを全力で突破する、立ち止まらず進め!」
旭の連絡を受け、ミリア・コーネリウス(ka1287)が檄を飛ばす。
ミリアはユウに『コンテナ持ちのアーマーの進軍速度を落とさせないために、前面に火力を集中』させる案を進言していた。
前面の敵を撃破しつつ後方の敵は迎撃するにとどめれば進軍速度は落ちないかつ囲まれる危険性が減る、
と読んでいた。
その案をユウは承諾する。事実――正解だった。
先頭が危なくなれば後方が視認し追いつけば良いが、
後方が危なくなった際、先頭が戻ることは容易ではなく、実際、進むほど安全が得られる撤退戦において、
彼らの最善の選択肢は、進むこと。戻る、留まるというのは非常にリスキーだった。。
前方に現れたスケルトンの群れに対し、グレートソードを体の後ろへ振りかぶる。
地面につけた剣先が、くんっ、軌道を描きと敵の壁をなぞれば、
暴風の如くスケルトン達を薙ぎ払っていく。
「……『開花』」
コンテナに随伴していたアニス・エリダヌス(ka2491)が、
近づく敵へ向けて差し出すように手を伸ばす。
その先から、光りの花弁のようなものがさら、さらと少しずつ広がり、
一気に光がスケルトン達を飲みこんでいく。優しい光に包まれたようだが、
華のような輝きは、骨を少しずつ確実に塵へと還していった。
「……御魂まで、必ずや連れて帰ります」
目の前の骨が風に運ばれていくのを見届けてから、
コンテナを、そして自分達が歩んできた戦場を遠く見渡してからぽつりと言った。
「この骨の壁を抜ければまたしばらく走れそうだな、押し切るぞ」
熱源探知モードで空を、双眼鏡で地上を確認し、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が言う。
アクセルを少し離し、エンジンブレーキで制動したレティクルを骨の群れに合わせ、トリガー。
伸びきった鉄球がスケルトン達へ穴を開けると、伸ばし切ったままでハンドルを操作し、
土ぼこりを上げてアーマーを横に動かす。アーマーがスケルトン達に近づいたところで思いきりブレーキを踏みハンドルを逆にねじ切る。
慣性で地面を滑る鉄球が、更に広範囲のスケルトンを薙ぎ払っていった。
魔導アーマーに乗れるのは男の子の夢……という想いを出さずに飲みこんでいた叢雲 伊織(ka5091)は、
アウレールのアーマー操作に目を奪われ、奮い直すように顔を振る。
「さ、撤退戦は古来より男を上げるのには絶好の機会ですし、ボクもここで頑張って姉さんに褒めて貰わないとね。」
アウレールとは逆サイドのスケルトン軍へと進み、鉄球を操作するレバーを右へ左へ、
重心を持って行かれないように同時にハンドルも制御しながら鉄球を振り回していく。
敵の接近に気付くと急ぎ逆の手でレバーをガチャガチャと動かし、
近づいてきた骨の剣や槍、斧はアーマーサイズの盾で受け止める。
そのままアクセルを踏みつけ、盾とアーマーの勢いで轢き砕いていった。
「歪虚 許すまじ」
親友である殿のメル機が数本の矢を掠めるのを確認すると、セリス・アルマーズ(ka1079)が振り向き少し足を止める。
射程に敵を収めて、勢いよく指を離すと、短弓の威力を乗せた矢は敵の頭蓋骨を破砕する。
「だけど 今は 皆を 安全な場所へと連れて返るのが 優先よ」
残る敵も残れば仕留める事が出来るだろう。
だが今は、先を行く味方の下へと足を戻していった。
安息への道のりは、まだまだ長かった。
◆
敵の中心部へ飛び込んで救護対象を確保したため、
帰りの道のりは離れる程に猛攻は収まりつつあった。
とはいえ、元々が激しく敵も追いかけてくるため、命の危険から逃れるには程々遠い。
――追い風を祈ってる――
アルヴィンの脳裏を掠めたような気がした祈りの言葉、マテリアルに導かれるように視線を向ければ、
――恙無く役目を果たせるよう、精霊の加護を祈るよ――
もう少しこっちだ、とでもいうかのように風が右からアルヴィンの頬を撫でる。
顔を向けた先では、先ほどまで骸のように見えた骨が、カラカラと音を立てて異形の殺意と化していた。
「側面カラ来るカラ、防御固メルヨ」
「俺に任せろ!!」
アルヴィンの警戒に、旭が移動を始める。
弓や剣を構えて迫るスケルトン達を見て、思わず口角が緩む。
旭が構えているのは、3mはある巨大な両手斧。
「セリス!」
「いつでもどうぞー」
頼れる軍馬の鐙を踏み込めば、主人の意図を汲みその脚力で高く飛び上がる。
そこから更に跳躍し、頼れる仲間の光の加護をその斧に受け取る。
「わらわら集まりやがって!力づくでも――押し通るぜッ!!」
剛腕で振られる巨斧は光の嵐となり、スケルトンの壁を蒲公英の種子が如く吹き飛ばしていく。
だが運良く逃れた骸達が、弓を構えて旭の着地を狙う。
「傷の一つも……許さないッ!」
逃れたのは良い運ではなかったようだ。
ざく、ざく、とメルの何条にも及ぶ光の光線が、
旭を襲うスケルトンの骨を貫いていった。
「コンテナ担当さん回復はいかが?」
セリスが手甲で敵の槍を逸らし、その反動で、体の横に引いた手をそのまま突き出しスケルトンの顎を砕く。
「アプローチは激シイケド、マダマダいけルよ」
降り注ぐ矢に対し、屋根にするように盾を構えるアルヴィン。
その隙に下から登ってこようとしたスケルトンには、運転席から乗り出して銃を一発、お帰り願った。
「うん、厄介だけどこのままのペースを保てれば……」
後は継戦の問題――そう思っていた矢先に、目の前の地面が音を立てて盛り上がる。
土と泥と骨の雨を降らせるほどに高く出てきたのは、
手と足を獣のように地に伸ばし、シェルターのようにそびえ立つ龍型の巨大な骸だった。
「ペース乱されちゃったねー。敵もまだ多いし、困っちゃうなぁ」
揺れる地面に合わせアクセルとハンドルを微操作するユウ。コンテナに少しでも振動を行かせない為だ。
進むか、戻るか――判断が迫られるハンター達の耳に届く声。
「宵闇よ、彼の英霊を星塚に祀りたまえ」
清らかなれどその言の葉は邪なる者を鎮める力ある響き。
目の前の亡者が動かなくなってもしばらく歌は続く。慰霊の念と、友を、家族を、恋人を失った生者への思いにまで届くように。
アニスのレクイエムに合わせるように、アルヴィンも声を合わせて鎮魂歌を紡いだ。
「これならいけます……!」
龍型に対し盾を上に向け、隙間から威嚇射撃を放つ伊織。
足止めされた骨達の中、辛うじて、龍型まで進軍するためのラインが見えた。
その道を、ミリアが止まらず突き進む。
埋めるように群がる骨達の壁に向かって、大弩のように引き絞った手を、大地を割る勢いで踏み込んだ足と共に放つ。
神速と名付けられた両手剣による弩級の突きは、スケルトンの存在すら許さず、
進路上の龍型の足に大きなヒビを入れる。
ここまで来て、アウレールのアーマーは既におかしな音を立て、煙すら上がって来ていた。
彼は早めに見切りをつけ、コンテナからバイクを取り出そうとする。
移動中のコンテナを開け、開いた一面が地面を擦る。
そこに足を乗せた瞬間、アウレールの背中に槍が迫る。
が、アニスが咄嗟にワンドで掬い上げるように穂先を逸らす。
そのまま叩き下ろされた槍を頭上で受け止め、横にいなし、
ワンドを槍の柄に滑らせて、その勢いで敵の小手を払う。
武器を落とした隙に、もう一度慰霊の歌を静かに零せば、
その隙にアウレールがバイクで飛び出し、アニスの前のスケルトンを踏み砕いていった。
伊織はアーマーで盾の辺が短い方を持ち、
龍型への進路を作るべく、扇ぎ払うように盾で多くのスケルトンを巻き込み攻撃していく。
纏められた敵へとミリアが地面を蹴って駆け出す。
ヒーリングファクターで傷を癒しながら接近、マテリアルの残滓を靡かせながら跳躍。
大きく口を開こうとした龍型の上顎、鼻先を推し戻すように叩き斬った。
静かに息を吐き、力の籠った今にも暴れださんとする弦を抑える伊織。
一瞬の隙、射線に捉えたそのヒビの入った鼻先へ、マテリアルの加護を乗せた矢が突き立つ。
ヒビは一瞬で蜘蛛の巣のように広がり、そして、上顎の半分ほどをボロボロと砕いていった。
「それなら……こうだッ!」
メルは後方の火力強化の為に鉄球をアーマーの両の手に構えていたが、
鎖に結ばれた鉄球を振り回したおかげで、とうとう絡まって戻せなくなってしまった。
だが、それでもあきらめず、エンジンの馬力をフルに使い、
合わさり二倍の重さとなった鉄球を、龍型の前足にフルスイング。
達磨落しのように急に支えを無くした龍型は、大きな音を立てて肩から地面に倒れこむ。
「めるるん無理しちゃダメだよ」
重くこそなった鉄球だが自由に使える物でもない。
元に戻そうとするうちにメルに迫りくる敵との間に、セリスが立つ。
振り下ろされた剣を籠手で受け止め、もう片方の手で敵の柄を掬い上げる。
空いた肋骨へ、剣の圧力を無くした隙に拳を打ち下ろした。
傷ついたメルへヒーリングスフィアを施している隙に敵の斧が胴を狙い迫る。
セリスは肩でぶつかるよう盾を構えて刃に立ち向かい、衝撃と同時に体を捻り裏拳を繰り出して敵の頭蓋骨ごと頬骨を砕いた。
旭も気を使っていたが、回復をさせる手段が無いので自身が壁となりメルを守っていた。
二人、特に殿のメルがここまで倒れなかったのは、セリスが気にかけて都度助太刀に行く等配慮していたおかげでもあった。
「さっすがメルちゃんだぜ……ッと!」
龍型の体制を崩したメルを見て、ここぞと旭は前に躍り出るが、
まるで龍を守るかのように矢を放ってきたのは、スケルトンの隊列(というには統率など無いに等しいが)
斧の平面で自身と、愛馬を守るようにバラバラと降る矢を弾く。
構え直すと、馬の横に刃を降ろして振り上げ、頭上高く構えた斧を、
「邪魔するだけ無駄だって、思い知りやがれッ!」
振り子の要領で刃に勢いをつけ、地面もろとも叩き上げる。
狂気を纏ったブランコのようにスケルトンを襲った巨斧は、
抵抗など出来るはずもなく、爆ぜるように吹き飛んでいった。
(眠い、意識が飛びそうだ――眠って堪るか、死んで堪るか)
メルの鉄球攻撃で崩れた龍の前足に前輪を乗せ、そのまま骨の坂を駆けるアウレール。
(声が聞こえる、父様が呼んでいるのか……違う、そうじゃない。何人もの「ボク」が「父様」を呼んでいる)
夢か現か、どうにかハンドルを握りながら、彼は意識を向ける。
肩を登り切ったところで、バイクが宙へと浮く。狙うは、龍型の脊髄部。
「帰らなきゃ、帰さなきゃ、今度こそ――誰も泣かない、世界の為に」
体重を落とし、戦槍ボロフグイを構える。短い槍は、確実に、近距離で。
バイクのスピードと落下の勢いを乗せた槍を、抉りこむように突き立てると、龍型は悲鳴のような雄叫びを上げ、
脊髄から広がる罅に耐え切れず、その首を地面へと落とした。
◆
『そろそろ着くよー。「歓迎」の準備よろしく』
『おう、機影を確認。お前ら! ありったけ撃ちこめ!』
アーマーの通信から聞こえてきた副師団長の声と共に、
ハンター達後方側面に向かって、魔法や銃が一斉に放たれる。
コンテナ及びハンター達を追いかけてきた残党は、哀れ跡形もなく戦場から消えていった。
ユウ達最後の救護対象を確保し、師団は完全な撤退を開始した。
生き抜いた者、命を落とした者、違いはあれど当初の目的通りひとまずは『全員』で帰還出来たようだった。
「みんなで帰りましょう。待つ人のもとへ」
エイル・メヌエットは声にならない声で呻く怪我人の手を取っていた。
薄暗いコンテナ内に集められた怪我人は、歳は同じぐらいで女性もいたが男性の方が多かった。
当然、限られた物資で医療行為を行おうとすれば、優先順位も出てくる。
「……俺はこれで、頼む」
男が差し出したのは、自分が使っていたナイフと、着火器具。
焼灼止血は言わば外傷の取引、だが、強く懇願するように見る男に、エイルはそれ以上何も言わなかった。
「そろそろ動き出すみたいですよ」
エイルのコンテナに、ユリアンが顔を出す。
彼は遺体、遺品の回収に努めていたおかげで、
前回の作戦で取りこぼしていた分をほぼ回収できたようだ。
何か手伝う事は、と聞くよりも前に、使用中の医療具や動かしてはまずい患者の固定に急ぐ。
ずず、と地面を激しく小刻みに揺らす音と共に、ユリアンは固定具の紐を握っていた手に力を籠める。
「……帰ろう」
小さく差し込む通気口の小さな光に目を細め、望むように呟いた。
◆
『そろそろ落ち着いたようだね、今のウチに逃げるよ』
遺体、遺品を乗せた魔導アーマーのエンジンをフル回転させて、
師団長のユウが各機へ無線を飛ばす。
敵の剣戟こそ落ち着いてはいないが、少なくとも見える範囲での敵は払われていた。
『ソウソウ、お家に帰るマデが遠足って、ブルーでも言うのダッテ』
『そうなんだー、帰るまで遠足だなんて、楽しみの延長戦みたいでブルーはいいねー』
アーマー間の通信でまた不思議なテンションのやりとりを広げるユウとアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
『帰りを待つ誰かがイルなら、ちゃんと連れて帰るヨ』
自身のアーマーが引く、負傷者を積んだコンテナを振り返っていう。
帰らないヒトを待つだけの、待ち惚けの寂しさを、今もマダ、覚えてイルからネ……
という言葉は、敵の攻撃に対応した為無線には入らなかった。
既に後方からは、生者を追いかけるスケルトンの群れが逃すまいと弓を乱射し始めていた。
「いのちだって無条件じゃないんだ……死んで堪るか!」
弓の射程から離れるように、メル・アイザックス(ka0520)がアクセルを思いきり踏み込む。
自機はコンテナ輸送機の防御力をアップさせるために盾を交換し、鉄球を2つ所持している。
防御力はもちろん、丸出しのコクピットにいる自分を守る術も落ちている。
且つ殿という難しい立ち位置の為、敵の射程は避ける事は必然事項だった。
「激戦真っ只中からの撤退戦。後ろに怪我人多数、そしてメルちゃん……さあて、どうするよ、岩井崎 旭」
敵の攻撃を後方に確認し、先を軍馬で行く岩井崎 旭(ka0234)は葛藤していた。
「んなもん、カッコよく戦って、道を作るっきゃねぇよなぁ!!」
いや、結論はシンプルだった。
守り、蹴散らし、逃げる。それだけだ。
最悪メルだけでも脱出させようと言う彼の優しさは、そのまま強さへと変わる。
他人より少しだけ遠くが見やすい鋭敏な視覚で、先方の敵の動きを見極め退路を先導する。
遠距離からの攻撃は来ないが、このままでは少なからずの交戦は避けられなさそうだ。
「ここを全力で突破する、立ち止まらず進め!」
旭の連絡を受け、ミリア・コーネリウス(ka1287)が檄を飛ばす。
ミリアはユウに『コンテナ持ちのアーマーの進軍速度を落とさせないために、前面に火力を集中』させる案を進言していた。
前面の敵を撃破しつつ後方の敵は迎撃するにとどめれば進軍速度は落ちないかつ囲まれる危険性が減る、
と読んでいた。
その案をユウは承諾する。事実――正解だった。
先頭が危なくなれば後方が視認し追いつけば良いが、
後方が危なくなった際、先頭が戻ることは容易ではなく、実際、進むほど安全が得られる撤退戦において、
彼らの最善の選択肢は、進むこと。戻る、留まるというのは非常にリスキーだった。。
前方に現れたスケルトンの群れに対し、グレートソードを体の後ろへ振りかぶる。
地面につけた剣先が、くんっ、軌道を描きと敵の壁をなぞれば、
暴風の如くスケルトン達を薙ぎ払っていく。
「……『開花』」
コンテナに随伴していたアニス・エリダヌス(ka2491)が、
近づく敵へ向けて差し出すように手を伸ばす。
その先から、光りの花弁のようなものがさら、さらと少しずつ広がり、
一気に光がスケルトン達を飲みこんでいく。優しい光に包まれたようだが、
華のような輝きは、骨を少しずつ確実に塵へと還していった。
「……御魂まで、必ずや連れて帰ります」
目の前の骨が風に運ばれていくのを見届けてから、
コンテナを、そして自分達が歩んできた戦場を遠く見渡してからぽつりと言った。
「この骨の壁を抜ければまたしばらく走れそうだな、押し切るぞ」
熱源探知モードで空を、双眼鏡で地上を確認し、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が言う。
アクセルを少し離し、エンジンブレーキで制動したレティクルを骨の群れに合わせ、トリガー。
伸びきった鉄球がスケルトン達へ穴を開けると、伸ばし切ったままでハンドルを操作し、
土ぼこりを上げてアーマーを横に動かす。アーマーがスケルトン達に近づいたところで思いきりブレーキを踏みハンドルを逆にねじ切る。
慣性で地面を滑る鉄球が、更に広範囲のスケルトンを薙ぎ払っていった。
魔導アーマーに乗れるのは男の子の夢……という想いを出さずに飲みこんでいた叢雲 伊織(ka5091)は、
アウレールのアーマー操作に目を奪われ、奮い直すように顔を振る。
「さ、撤退戦は古来より男を上げるのには絶好の機会ですし、ボクもここで頑張って姉さんに褒めて貰わないとね。」
アウレールとは逆サイドのスケルトン軍へと進み、鉄球を操作するレバーを右へ左へ、
重心を持って行かれないように同時にハンドルも制御しながら鉄球を振り回していく。
敵の接近に気付くと急ぎ逆の手でレバーをガチャガチャと動かし、
近づいてきた骨の剣や槍、斧はアーマーサイズの盾で受け止める。
そのままアクセルを踏みつけ、盾とアーマーの勢いで轢き砕いていった。
「歪虚 許すまじ」
親友である殿のメル機が数本の矢を掠めるのを確認すると、セリス・アルマーズ(ka1079)が振り向き少し足を止める。
射程に敵を収めて、勢いよく指を離すと、短弓の威力を乗せた矢は敵の頭蓋骨を破砕する。
「だけど 今は 皆を 安全な場所へと連れて返るのが 優先よ」
残る敵も残れば仕留める事が出来るだろう。
だが今は、先を行く味方の下へと足を戻していった。
安息への道のりは、まだまだ長かった。
◆
敵の中心部へ飛び込んで救護対象を確保したため、
帰りの道のりは離れる程に猛攻は収まりつつあった。
とはいえ、元々が激しく敵も追いかけてくるため、命の危険から逃れるには程々遠い。
――追い風を祈ってる――
アルヴィンの脳裏を掠めたような気がした祈りの言葉、マテリアルに導かれるように視線を向ければ、
――恙無く役目を果たせるよう、精霊の加護を祈るよ――
もう少しこっちだ、とでもいうかのように風が右からアルヴィンの頬を撫でる。
顔を向けた先では、先ほどまで骸のように見えた骨が、カラカラと音を立てて異形の殺意と化していた。
「側面カラ来るカラ、防御固メルヨ」
「俺に任せろ!!」
アルヴィンの警戒に、旭が移動を始める。
弓や剣を構えて迫るスケルトン達を見て、思わず口角が緩む。
旭が構えているのは、3mはある巨大な両手斧。
「セリス!」
「いつでもどうぞー」
頼れる軍馬の鐙を踏み込めば、主人の意図を汲みその脚力で高く飛び上がる。
そこから更に跳躍し、頼れる仲間の光の加護をその斧に受け取る。
「わらわら集まりやがって!力づくでも――押し通るぜッ!!」
剛腕で振られる巨斧は光の嵐となり、スケルトンの壁を蒲公英の種子が如く吹き飛ばしていく。
だが運良く逃れた骸達が、弓を構えて旭の着地を狙う。
「傷の一つも……許さないッ!」
逃れたのは良い運ではなかったようだ。
ざく、ざく、とメルの何条にも及ぶ光の光線が、
旭を襲うスケルトンの骨を貫いていった。
「コンテナ担当さん回復はいかが?」
セリスが手甲で敵の槍を逸らし、その反動で、体の横に引いた手をそのまま突き出しスケルトンの顎を砕く。
「アプローチは激シイケド、マダマダいけルよ」
降り注ぐ矢に対し、屋根にするように盾を構えるアルヴィン。
その隙に下から登ってこようとしたスケルトンには、運転席から乗り出して銃を一発、お帰り願った。
「うん、厄介だけどこのままのペースを保てれば……」
後は継戦の問題――そう思っていた矢先に、目の前の地面が音を立てて盛り上がる。
土と泥と骨の雨を降らせるほどに高く出てきたのは、
手と足を獣のように地に伸ばし、シェルターのようにそびえ立つ龍型の巨大な骸だった。
「ペース乱されちゃったねー。敵もまだ多いし、困っちゃうなぁ」
揺れる地面に合わせアクセルとハンドルを微操作するユウ。コンテナに少しでも振動を行かせない為だ。
進むか、戻るか――判断が迫られるハンター達の耳に届く声。
「宵闇よ、彼の英霊を星塚に祀りたまえ」
清らかなれどその言の葉は邪なる者を鎮める力ある響き。
目の前の亡者が動かなくなってもしばらく歌は続く。慰霊の念と、友を、家族を、恋人を失った生者への思いにまで届くように。
アニスのレクイエムに合わせるように、アルヴィンも声を合わせて鎮魂歌を紡いだ。
「これならいけます……!」
龍型に対し盾を上に向け、隙間から威嚇射撃を放つ伊織。
足止めされた骨達の中、辛うじて、龍型まで進軍するためのラインが見えた。
その道を、ミリアが止まらず突き進む。
埋めるように群がる骨達の壁に向かって、大弩のように引き絞った手を、大地を割る勢いで踏み込んだ足と共に放つ。
神速と名付けられた両手剣による弩級の突きは、スケルトンの存在すら許さず、
進路上の龍型の足に大きなヒビを入れる。
ここまで来て、アウレールのアーマーは既におかしな音を立て、煙すら上がって来ていた。
彼は早めに見切りをつけ、コンテナからバイクを取り出そうとする。
移動中のコンテナを開け、開いた一面が地面を擦る。
そこに足を乗せた瞬間、アウレールの背中に槍が迫る。
が、アニスが咄嗟にワンドで掬い上げるように穂先を逸らす。
そのまま叩き下ろされた槍を頭上で受け止め、横にいなし、
ワンドを槍の柄に滑らせて、その勢いで敵の小手を払う。
武器を落とした隙に、もう一度慰霊の歌を静かに零せば、
その隙にアウレールがバイクで飛び出し、アニスの前のスケルトンを踏み砕いていった。
伊織はアーマーで盾の辺が短い方を持ち、
龍型への進路を作るべく、扇ぎ払うように盾で多くのスケルトンを巻き込み攻撃していく。
纏められた敵へとミリアが地面を蹴って駆け出す。
ヒーリングファクターで傷を癒しながら接近、マテリアルの残滓を靡かせながら跳躍。
大きく口を開こうとした龍型の上顎、鼻先を推し戻すように叩き斬った。
静かに息を吐き、力の籠った今にも暴れださんとする弦を抑える伊織。
一瞬の隙、射線に捉えたそのヒビの入った鼻先へ、マテリアルの加護を乗せた矢が突き立つ。
ヒビは一瞬で蜘蛛の巣のように広がり、そして、上顎の半分ほどをボロボロと砕いていった。
「それなら……こうだッ!」
メルは後方の火力強化の為に鉄球をアーマーの両の手に構えていたが、
鎖に結ばれた鉄球を振り回したおかげで、とうとう絡まって戻せなくなってしまった。
だが、それでもあきらめず、エンジンの馬力をフルに使い、
合わさり二倍の重さとなった鉄球を、龍型の前足にフルスイング。
達磨落しのように急に支えを無くした龍型は、大きな音を立てて肩から地面に倒れこむ。
「めるるん無理しちゃダメだよ」
重くこそなった鉄球だが自由に使える物でもない。
元に戻そうとするうちにメルに迫りくる敵との間に、セリスが立つ。
振り下ろされた剣を籠手で受け止め、もう片方の手で敵の柄を掬い上げる。
空いた肋骨へ、剣の圧力を無くした隙に拳を打ち下ろした。
傷ついたメルへヒーリングスフィアを施している隙に敵の斧が胴を狙い迫る。
セリスは肩でぶつかるよう盾を構えて刃に立ち向かい、衝撃と同時に体を捻り裏拳を繰り出して敵の頭蓋骨ごと頬骨を砕いた。
旭も気を使っていたが、回復をさせる手段が無いので自身が壁となりメルを守っていた。
二人、特に殿のメルがここまで倒れなかったのは、セリスが気にかけて都度助太刀に行く等配慮していたおかげでもあった。
「さっすがメルちゃんだぜ……ッと!」
龍型の体制を崩したメルを見て、ここぞと旭は前に躍り出るが、
まるで龍を守るかのように矢を放ってきたのは、スケルトンの隊列(というには統率など無いに等しいが)
斧の平面で自身と、愛馬を守るようにバラバラと降る矢を弾く。
構え直すと、馬の横に刃を降ろして振り上げ、頭上高く構えた斧を、
「邪魔するだけ無駄だって、思い知りやがれッ!」
振り子の要領で刃に勢いをつけ、地面もろとも叩き上げる。
狂気を纏ったブランコのようにスケルトンを襲った巨斧は、
抵抗など出来るはずもなく、爆ぜるように吹き飛んでいった。
(眠い、意識が飛びそうだ――眠って堪るか、死んで堪るか)
メルの鉄球攻撃で崩れた龍の前足に前輪を乗せ、そのまま骨の坂を駆けるアウレール。
(声が聞こえる、父様が呼んでいるのか……違う、そうじゃない。何人もの「ボク」が「父様」を呼んでいる)
夢か現か、どうにかハンドルを握りながら、彼は意識を向ける。
肩を登り切ったところで、バイクが宙へと浮く。狙うは、龍型の脊髄部。
「帰らなきゃ、帰さなきゃ、今度こそ――誰も泣かない、世界の為に」
体重を落とし、戦槍ボロフグイを構える。短い槍は、確実に、近距離で。
バイクのスピードと落下の勢いを乗せた槍を、抉りこむように突き立てると、龍型は悲鳴のような雄叫びを上げ、
脊髄から広がる罅に耐え切れず、その首を地面へと落とした。
◆
『そろそろ着くよー。「歓迎」の準備よろしく』
『おう、機影を確認。お前ら! ありったけ撃ちこめ!』
アーマーの通信から聞こえてきた副師団長の声と共に、
ハンター達後方側面に向かって、魔法や銃が一斉に放たれる。
コンテナ及びハンター達を追いかけてきた残党は、哀れ跡形もなく戦場から消えていった。
ユウ達最後の救護対象を確保し、師団は完全な撤退を開始した。
生き抜いた者、命を落とした者、違いはあれど当初の目的通りひとまずは『全員』で帰還出来たようだった。
依頼結果
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦会議室 ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/25 12:44:13 |
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教えてユウさん質問卓 ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/24 00:38:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/24 22:20:26 |