ゲスト
(ka0000)
【闇光】アイドル大作戦!
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/01/12 09:00
- 完成日
- 2016/01/27 12:17
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●皇帝救出に向けて
「いや~っ、無理だね!!」
スメラギ(kz0158)はそう言って“作戦案”をテーブルに投げ捨てた。
「無理な理由ありすぎて説明するの大変なんだが、あえて説明しなきゃダメか?」
冷や汗を流しながら顔を上げた視線の先にはナサニエル・カロッサ(kz0028)とイェルズ・オイマト(kz0143)の姿が。
サルヴァトーレ・ロッソの会議室。歪虚達が再びロッソ襲撃に集いつつある中、スメラギも作戦協力を要請されたのだが。
「まず、“浄化”ってのは大地の力を借りるんだ。つまり、大地に宿る精霊のな。東方じゃ八百万っつって、どんなモンにも精霊が宿ってるって考え方があるんだが……龍脈つーのは要するに、その土地土地の強い精霊が管理してるワケだ」
例えば東方ならば黒龍。辺境ならば白龍。エクラの神そのものが王国に根付いているかスメラギは知らないが、とにかく帝国には“大精霊”の気配がない。
「それどころか並の精霊の力も感じにくい。単刀直入に言うとこの国の精霊は完全に人間にそっぽ向いてやがる」
「う~ん! 思い当たる原因が多すぎて困りますねぇ!」
「笑い事じゃありませんよナサニエルさん! だから帝国の人はもっと大地と向き合わなきゃダメって言ってるのに! 大体あなたのせいでしょ!?」
イェルズに胸ぐらを捕まれ激しく揺さぶられるナサニエル。スメラギはため息を一つ。
「俺も黒龍の力があった頃はもうちょい色々出来たが今はそれもないし、白龍域の辺境ならともかく帝国領じゃなあ。龍脈が活性化できなくて大規模浄化が使えねぇんだよ」
「帝国に土着の巫女はいないんですか? リムネラ様みたいな」
「……ん? そういやアレはどうなんだ? エルフハイムの……浄化の器だっけか?」
そもそも連中はどうやって浄化を使ってるんだ? 連中も大精霊の力なんて借りられない筈なのだが……。
いや、もしかして高位の精霊となんらかの手段で共存しているのだろうか……?
「とりあえず俺様よりもアレ呼べよ、器ちゃんをよ。俺も陣を敷くには手を貸すぜ。で、それでテオフィルスってのを消滅させるんだろ? やっぱそれ無理な」
「どうしてですか!?」
「お前いちいち暑苦しいな!?」
「俺とダンテさんの目の前でヴィルヘルミナさんは……だから俺、責任感じてて……っ!」
「わかったから下がれ顔が近ぇ! ……強力な浄化術ってのは、攻撃魔法みてぇなモンなんだよ」
本来浄化は時間をかけてゆっくり行うモノだ。だが強力な浄化を一点集中で使えば、それは可視化するほどの正のマテリアル奔流を作る。
「九尾に食らわせた天龍陣みたいにな。生身の人間が食らったら髪の毛一本残さず蒸発するぜ」
「じゃあ、ヴィルヘルミナさんの中にいる歪虚だけを倒す事は出来ないんですか?」
「歪虚は消せるだろうぜ。亡霊型ってのは浄化に弱い筈だからな。だが、憑依している人間だけ守るってのは……」
「いえ、浄化が可能であれば良いのです。陛下を守る事に関しては、我らにお任せを」
ウィンクしたナサニエルがパチンと指を鳴らすと、会議室に立体映像が浮かび上がる。
「こ、こいつは……シ、シス……!?」
「これが我々の秘密兵器です。作戦テーマは“ラブ&ピース”……暴食には決して理解できないこの力で、奴らを出し抜きましょう♪」
「お前らマジか」
顔を赤らめたスメラギの呟きに、ナサニエルは自信満々に頷いた。
●極秘の作戦
ハンターズソサエティの一番奥の部屋に通されたハンター達は、スメラギの様子に目を瞬かせた。
何だか、疲れた顔をしていたので……。
「一体どうしたの? こんな奥まった部屋にわざわざ呼ぶなんて」
「何か深刻な内容なのか?」
「そうだな。深刻って言やぁ深刻だな」
言葉を切るスメラギ。ハンター達に、赤い双眸を向ける。
「いいか。この作戦は選ばれた者達だけにしか伝えねえ。いわば極秘任務だ。ここで聞いた話は絶対漏らすなよ」
その並々ならぬ様子に、ごくりと唾を飲み込むハンター。重々しく頷き、スメラギの言葉を待つ。
「これから、ヴィルヘルミナ救出の為に『歌舞浄化陣』を展開する」
「歌舞浄化陣? 何なの? それ」
「言葉の通り歌と踊りで浄化すんだ。歪虚を」
「……はぁ???」
素っ頓狂な声をあげるハンターにスメラギは頭を掻く。
「歌舞浄化陣は、九尾を封じた天龍陣を簡略化したモンだ。ここは大精霊の力が使えねえから、その分を機導技術で代行……って、まあその辺の話はどうでもいーや。とにかくこの起動装置は『サウンドアンカー』ってんだ。それは覚えておいてくれ」
「はぁ……」
「で、だ。お前ら、マテリアルリンクって知ってるよな?」
「そりゃまあな。お世話になったことあるし」
スメラギの問いに頷くハンター達。
マテリアルリンクの力は「誰かが誰かを想う」事で成立し、しかもある程度「加護の指向性を選択」する事ができるものだ。
単一の存在に対し、複数の人間がリンクを張る事も可能であり、場合によってはたった一人の人間が並外れた力を得る事さえ可能とされている。
今回の『歌舞浄化陣』は「大勢の人間のマテリアルリンクを収束する方法」として「音楽」を採用していている。
収束した大勢の人々の共感と祈りを伝播し、サウンドアンカーによって結界を形成。中央部分に強力なマテリアルリンクを数秒だけ形成。
そのリンクによってヴィルヘルミナの肉体を保護し、憑依しているテオフィルスだけを浄化術で吹き飛ばす……というのが、スメラギの狙いらしい。
「……本当にそんな事が出来るの?」
「俺様の力を持ってすれば出来ねえこたねえよ」
「言い切ったな。……で、その肝心の音楽はどうするんだ?」
「だからお前らを呼んだんだよ。これから、サウンドアンカーを発動させる為のステージを用意する。アイドル化計画って奴だな」
「あー。そういう事……」
「極秘任務っていうから何かと思えばそれかよ!」
「まー。気持ちは分かるぜ。俺も最初聞いた時は何アホ言ってやがるって思ったからな。でも、やるっきゃねえ」
脱力するハンター達に苦笑するスメラギ。ふう、とため息をついて続ける。
「システィーナにも歌と踊りは練習して貰ってるが……あいつだけじゃ足りねえんだ」
サウンドアンカーによってリンクを増幅する為、ステージ上に立った者は夥しい数の祈りの対象となる。
それは肉体的、精神的に多大な負担を発生させる為、同じ人間がずっとステージに立ち続ける訳にはいかないのだ。
「要するに、代わる代わる誰かがステージに立つのね?」
「とすると……ある程度の数の衣装が必要になるな。あとは、演目も沢山の人の共感を得るよう指針を立てないとリンクとして成立しない、か……」
「そーいうこった。物分りが良くて助かるぜ。やることは山程ある。時間もねえ。お前らすぐに始めるぞ!」
響くスメラギの号令。それに応えるように、ハンター達はすぐさま行動を開始した。
「いや~っ、無理だね!!」
スメラギ(kz0158)はそう言って“作戦案”をテーブルに投げ捨てた。
「無理な理由ありすぎて説明するの大変なんだが、あえて説明しなきゃダメか?」
冷や汗を流しながら顔を上げた視線の先にはナサニエル・カロッサ(kz0028)とイェルズ・オイマト(kz0143)の姿が。
サルヴァトーレ・ロッソの会議室。歪虚達が再びロッソ襲撃に集いつつある中、スメラギも作戦協力を要請されたのだが。
「まず、“浄化”ってのは大地の力を借りるんだ。つまり、大地に宿る精霊のな。東方じゃ八百万っつって、どんなモンにも精霊が宿ってるって考え方があるんだが……龍脈つーのは要するに、その土地土地の強い精霊が管理してるワケだ」
例えば東方ならば黒龍。辺境ならば白龍。エクラの神そのものが王国に根付いているかスメラギは知らないが、とにかく帝国には“大精霊”の気配がない。
「それどころか並の精霊の力も感じにくい。単刀直入に言うとこの国の精霊は完全に人間にそっぽ向いてやがる」
「う~ん! 思い当たる原因が多すぎて困りますねぇ!」
「笑い事じゃありませんよナサニエルさん! だから帝国の人はもっと大地と向き合わなきゃダメって言ってるのに! 大体あなたのせいでしょ!?」
イェルズに胸ぐらを捕まれ激しく揺さぶられるナサニエル。スメラギはため息を一つ。
「俺も黒龍の力があった頃はもうちょい色々出来たが今はそれもないし、白龍域の辺境ならともかく帝国領じゃなあ。龍脈が活性化できなくて大規模浄化が使えねぇんだよ」
「帝国に土着の巫女はいないんですか? リムネラ様みたいな」
「……ん? そういやアレはどうなんだ? エルフハイムの……浄化の器だっけか?」
そもそも連中はどうやって浄化を使ってるんだ? 連中も大精霊の力なんて借りられない筈なのだが……。
いや、もしかして高位の精霊となんらかの手段で共存しているのだろうか……?
「とりあえず俺様よりもアレ呼べよ、器ちゃんをよ。俺も陣を敷くには手を貸すぜ。で、それでテオフィルスってのを消滅させるんだろ? やっぱそれ無理な」
「どうしてですか!?」
「お前いちいち暑苦しいな!?」
「俺とダンテさんの目の前でヴィルヘルミナさんは……だから俺、責任感じてて……っ!」
「わかったから下がれ顔が近ぇ! ……強力な浄化術ってのは、攻撃魔法みてぇなモンなんだよ」
本来浄化は時間をかけてゆっくり行うモノだ。だが強力な浄化を一点集中で使えば、それは可視化するほどの正のマテリアル奔流を作る。
「九尾に食らわせた天龍陣みたいにな。生身の人間が食らったら髪の毛一本残さず蒸発するぜ」
「じゃあ、ヴィルヘルミナさんの中にいる歪虚だけを倒す事は出来ないんですか?」
「歪虚は消せるだろうぜ。亡霊型ってのは浄化に弱い筈だからな。だが、憑依している人間だけ守るってのは……」
「いえ、浄化が可能であれば良いのです。陛下を守る事に関しては、我らにお任せを」
ウィンクしたナサニエルがパチンと指を鳴らすと、会議室に立体映像が浮かび上がる。
「こ、こいつは……シ、シス……!?」
「これが我々の秘密兵器です。作戦テーマは“ラブ&ピース”……暴食には決して理解できないこの力で、奴らを出し抜きましょう♪」
「お前らマジか」
顔を赤らめたスメラギの呟きに、ナサニエルは自信満々に頷いた。
●極秘の作戦
ハンターズソサエティの一番奥の部屋に通されたハンター達は、スメラギの様子に目を瞬かせた。
何だか、疲れた顔をしていたので……。
「一体どうしたの? こんな奥まった部屋にわざわざ呼ぶなんて」
「何か深刻な内容なのか?」
「そうだな。深刻って言やぁ深刻だな」
言葉を切るスメラギ。ハンター達に、赤い双眸を向ける。
「いいか。この作戦は選ばれた者達だけにしか伝えねえ。いわば極秘任務だ。ここで聞いた話は絶対漏らすなよ」
その並々ならぬ様子に、ごくりと唾を飲み込むハンター。重々しく頷き、スメラギの言葉を待つ。
「これから、ヴィルヘルミナ救出の為に『歌舞浄化陣』を展開する」
「歌舞浄化陣? 何なの? それ」
「言葉の通り歌と踊りで浄化すんだ。歪虚を」
「……はぁ???」
素っ頓狂な声をあげるハンターにスメラギは頭を掻く。
「歌舞浄化陣は、九尾を封じた天龍陣を簡略化したモンだ。ここは大精霊の力が使えねえから、その分を機導技術で代行……って、まあその辺の話はどうでもいーや。とにかくこの起動装置は『サウンドアンカー』ってんだ。それは覚えておいてくれ」
「はぁ……」
「で、だ。お前ら、マテリアルリンクって知ってるよな?」
「そりゃまあな。お世話になったことあるし」
スメラギの問いに頷くハンター達。
マテリアルリンクの力は「誰かが誰かを想う」事で成立し、しかもある程度「加護の指向性を選択」する事ができるものだ。
単一の存在に対し、複数の人間がリンクを張る事も可能であり、場合によってはたった一人の人間が並外れた力を得る事さえ可能とされている。
今回の『歌舞浄化陣』は「大勢の人間のマテリアルリンクを収束する方法」として「音楽」を採用していている。
収束した大勢の人々の共感と祈りを伝播し、サウンドアンカーによって結界を形成。中央部分に強力なマテリアルリンクを数秒だけ形成。
そのリンクによってヴィルヘルミナの肉体を保護し、憑依しているテオフィルスだけを浄化術で吹き飛ばす……というのが、スメラギの狙いらしい。
「……本当にそんな事が出来るの?」
「俺様の力を持ってすれば出来ねえこたねえよ」
「言い切ったな。……で、その肝心の音楽はどうするんだ?」
「だからお前らを呼んだんだよ。これから、サウンドアンカーを発動させる為のステージを用意する。アイドル化計画って奴だな」
「あー。そういう事……」
「極秘任務っていうから何かと思えばそれかよ!」
「まー。気持ちは分かるぜ。俺も最初聞いた時は何アホ言ってやがるって思ったからな。でも、やるっきゃねえ」
脱力するハンター達に苦笑するスメラギ。ふう、とため息をついて続ける。
「システィーナにも歌と踊りは練習して貰ってるが……あいつだけじゃ足りねえんだ」
サウンドアンカーによってリンクを増幅する為、ステージ上に立った者は夥しい数の祈りの対象となる。
それは肉体的、精神的に多大な負担を発生させる為、同じ人間がずっとステージに立ち続ける訳にはいかないのだ。
「要するに、代わる代わる誰かがステージに立つのね?」
「とすると……ある程度の数の衣装が必要になるな。あとは、演目も沢山の人の共感を得るよう指針を立てないとリンクとして成立しない、か……」
「そーいうこった。物分りが良くて助かるぜ。やることは山程ある。時間もねえ。お前らすぐに始めるぞ!」
響くスメラギの号令。それに応えるように、ハンター達はすぐさま行動を開始した。
リプレイ本文
聞こえてくるハンター達の声と、ガタゴトと荷物を運びこむ音。
サルヴァトーレ・ロッソよりやや南東に位置する場所で、歌舞浄化陣を生成する為のステージ作成が急ピッチで進められていた。
「えーと……戦場があっちになるから、舞台の向きはこちら向きだね」
「そうじゃな。ここが観客席になるとすると……上手がこちら側か」
「そうなると、舞台の導線としては向こうからこちらに動くのがいいね」
「うむ。おお、そうじゃ。念のため、上手下手、両方に無線機を用意して貰えるかの。できれば、戦場にも舞台の様子を逐次報告して貰いたいのじゃ」
「うん。分かった。大道具さん達に伝えておくね」
「宜しく頼むぞ。あと必要なものはじゃな……」
観客席側に立ち、舞台の位置を確認する紅薔薇(ka4766)とルナ・レンフィールド(ka1565)。
舞台は水物。そして、戦況なども当日になってみなければ分からない。
状況によっては、演目を早めたり長くしたりする必要も出てくるだろう。
余裕を持って設定しなければ……。
てきぱきと必要なものをピックアップしていく。
「ちょっとごめんねー! そこ開けて貰えるー?」
「大道具が通るぞー!!」
2人がかりで大きな薄い木の板を運び込むクレール(ka0586)とリュー・グランフェスト(ka2419)。その後ろをアニス・エリダヌス(ka2491)が大きな植木鉢を持って歩いていて……。
そこにすっとイーディス・ノースハイド(ka2106)が手を差し出す。
「手伝おう」
「え、すみません。いいんですか?」
「ああ。本当はシスティーナ王女の護衛に来たんだけど……行き違いになってしまったようでね。折角だから手伝わせて貰うよ。……綺麗な花だね」
「ありがとうございます。これ、私が育てたんですよ」
「へえ。すごいね。立派なものだ」
寄せ植えされた花に目を細めるイーディス。どれも生き生きとして愛らしく、大切に育てられていることが分かる。
恥ずかしそうに微笑んでいたアニスは、弾かれたように彼女を見る。
「あ! イーディスさんは王女様のことご存知なんですよね? だったら、王女様が映えるような配置を一緒に考えて貰えませんか?」
「え? 私でいいのかい?」
「はい。スメラギ様にもお伺いしたんですけど、沢山の意見があった方が良いものになると思いますし」
「そうかい? そういうことなら引き受けようか」
「ありがとうございます」
請け負うイーディスに笑顔を返すアニス。
ステージを飾るには、この花の量では全然足りない。
2人は一旦植木鉢を置くと、更に花を運ぶ為に引き返す。
「こうですね、どばーんと! ばばーんと!! 舞台装置を兼ねた衣装ってどうかなって思ったんですけどね……」
「そうね。アイデアとしては面白いと思うんだけど……」
しょんぼりとしながら布を運ぶルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)をまあまあ、と宥める高瀬 未悠(ka3199)。
どうやら、ルンルンは故郷にいた大スターの衣装を再現しようと思ったらしいのだが、それがあまりにも大掛かりであった為、時間的にも材料的にも厳しく、実現不可能と判断されたらしい。
元々一から準備する時間はなく、既製品の衣装を加工していく突貫工事だ。
どんな出演者にも対応できるよう、サイズもありとあらゆるものを用意しなければならない。
本当に時間との戦いであるため、こういう判断が下るのも仕方がないと言える。
「ルンルンさんの仰る『らすぼす』というのがどういうものなのか判りませんけれど……この衣装でも、それに近づけることは出来るのではありませんか?」
「そうですね……! 出来る限りインパクトがあるものにすればいいですよね!」
「ああ。どういった感じなのか教えて貰えれば手伝おう」
音羽 美沙樹(ka4757)の励ましに頷くルンルン。続いた銀 真白(ka4128)の声に頷く。
「じゃあ、元気を取り戻したところで衣装作り始めましょっか!」
未悠の言葉に頷く3人。用意された資材、持ち寄った材料を猛然と広げ始める。
「ふむふむ。なるほどな! よし分かった! そういうことならこれまで幾万のアーティスト共をトップスターへと導いてきたこのデスドクロ様が力になってやろうじゃねぇか!」
「へー! デスドクロさんってすごいプロデューサーさんなんだね!」
「まあな!! デスドクロ様に不可能はねぇのよ!!」
笑顔の雪継・紅葉(ka5188)にグハハハハ! と豪快に笑うデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。
この男の言うことがどこまで本当か分からないが、アーティストを手がけたことがあるのは本当らしい。
これは期待できそうである。
「アイドル大作戦かー。何だか面白そうだよねー」
「もう。紅葉ったら。真面目な作戦なのよ?」
「分かってるよ。でも、色んな知らないものが見られるって嬉しいよね。それにね、真夕も一緒だし」
「それは私も……って。い、今は曲目とかを考えることに集中しよう! ね?」
「はーい」
変わらない調子の紅葉にアワアワと慌てる七夜・真夕(ka3977)。
その間も、仲間達の熱の入った会議は続き、書記を務めるルナが必死に話し合いの内容を認めている。
「……という訳で、観客に配るパンフレットや、チラシを用意しようかなって思うんだ」
「歌の前に、少しでも奏者に興味を持って貰えた方が良いかなって、さっきジャックさんと話しててね」
仲間を見渡しながら言うジャック・ベイリー(ka3409)に真剣なまなざしを向けるルスティロ・イストワール(ka0252)。それに頷きながら、ジャックが続ける。
「僕もそうだけど……こういう『ライブ』って、リアルブルーの人達や帝国の一部では浸透してるし人気もあるみたいだけど、こういう観客も一体になるようなコンサートに慣れ親しんでいる観客ばかりではないと思うんだよ」
そして、今回メインを担当するシスティーナはグラズヘイム王国の王女であるが、その人となりを詳しく知っている人は少ないかもしれない。
システィーナだけでなく、出演する歌い手や奏者の詳細や、演目の見所が紹介できれば、きっと観客も舞台全体を想像しやすくなる……。
そう続けた彼に、八島 陽(ka1442)もふむ、と考え込む。
「歌詞を書いてあらかじめ配布しておけば、観客も参加しやすいし、感情移入しやすくなるよね」
「そうそう。観客に自然に参加して貰おうと思ったら、やっぱりそういうの必要だと思うんだよ」
頷くルスティロ。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は青い双眸をジャックとルスティロに向ける。
「プログラム作成は私もやろうかと思っていた。渡りに船だ。では、パンフレットの作成と……出演者のインタビューなども任せていいか?」
「もちろん。ボクたちが責任持って編集するよ」
「うん、任せて!」
胸を叩いて請け負う2人。善は急げと、出演者にインタビューに走る。
「じゃあ、次は曲目だね。構成はどうしようかな……」
「俺様はバックダンサーをまとめて面倒みる。曲を決めてくんな! バシッと決めてやるぜぇ!」
小首を傾げて考えこむルナの横でグハハハハ! と笑うデスドクロ。
己が全てを仕切っても構わないのだが、それでは成功確実すぎてつまらないし、こちらの世界の為にもならない。
大帝たるもの、己の力の出しどころをきちんと弁えているのである。
「そうだね……。最初と最後の曲は、女王様に担当して戴こうかと思うんだけどどうかな」
「異存ない。最初はゆっくりめの曲で、意識を引きこむ感じにするといいと思うが。最終演目は合唱できる曲がいいな。全員一丸になりやすい」
「そうだね。踊りも最初は穏やかで、徐々にステップを強めにして行って、全身を使う感じにしていくと盛り上がるかも」
「うんうん。基本は明るめの勇気を鼓舞する曲にするとして、流れはそんな感じがいいのかな……」
陽とアウレール、紅葉の言葉に頷く総員。必死に筆を動かしながら呟くルナに、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)が小首を傾げながら、そうね……と切り出す。
「曲は……ルナちゃんが言ったみたいな戦意を高める勇ましいイメージの曲の他に、心が沸き立つような元気な雰囲気の曲、ちょっとドキっとするような曲……色んな歌があっていいと思うのよね」
「うん。何ていうのかな、祈りの雰囲気も盛り込みたいよね。今回の儀式の肝って祈りに似てるんじゃないかなって思うの。自分の力の及ばない部分で、どうにかしたい願いを何かに託す……みたいな」
「さっきジャックちゃんも言ってたけど、『あいどる』っていうのに慣れてない人もいるでしょう? アタシとしては、少しノスタルジックで、郷里や残してきた大切な人、辛い時の心の支えになる思い出……そんなものを胸に去来させたくなる曲も入れたらいいんじゃないかなって。そうね……例えばこんな感じ?」
真夕の談に頷きつつ大きく息を吸い込むルキハ。
その身体から発する声は低いけれど、流れる水ように澄んだ声で……。
優しくて……寂しさの中に、どこか懐かしさを感じる響きにその場にいた皆が聞き惚れ、紅葉は曲に合わせて自然と身体が動いている。
「すごい……! 素敵ですね……!」
「うふふ。ありがと」
目を輝かせるエステル・クレティエ(ka3783)に笑顔を返すルキハ。
ルナも満面の笑顔で彼に迫る。
「今の歌はルキハさんのオリジナルの曲なの?」
「ええ。まあネ。ちょっとアタシの部族のリズム入ってるけど」
「今の曲も舞台に組み込みたいんだけどいいかなっ!?」
「えっ? ええ、いいけど……歌詞はどうするの?」
「それは今から皆で考えればいいと思います」
「そお? じゃ、皆が分かるように楽譜に起こさないとダメね。ちょっと待ってネ」
エステルとルナにばちん、と色っぽいウィンクを返すルキハ。
ルナに紙とペンを渡されて、さらさらと音を書き記して行く。
「一曲決まったとして……舞台の組み立ては他の出演者の演目も見ないことにはな」
「とりあえず方針だけ決めておこうよ。そうすれば、あとは出揃った演目を並び替えるだけでいけるし」
「そうだな。あとはどんな曲を入れるか……」
「んー。メリハリっていうのかな。全体を通して、色々な曲が入れられるといいのかなぁ」
詳細に書かれたまとめに目を通しながら言う陽に頷くアウレール。首を捻るルナに、陽が思い出したように顔を上げる。
「そうだ! デスドクロさん。客席にサクラを紛れ込ませたいんだ。協力してくれないか?」
「ほう。客席からも歌って踊って盛り上げるんだな?」
「そう。突然歌えっていわれても難しいけど、他の人が歌ってれば釣られるでしょ。サクラの教育も頼んでいいかな?」
「よし、俺様に任せておけ! 教え込んでみせよう! 完璧にな!」
胸を張って請け負うデスドクロにありがとう、と笑顔を返す陽。
どうやら、進行の方は何とかなりそうで――。
「どんな歌詞がいいかしら……」
「そうねぇ。人類の結束を込めて、辺境部族や、リアルブルーの言葉を歌詞に取り入れて、一つの歌にする、とかネ」
「あ、それ素敵! 踊りも、観客の人たちが分かりやすいようにできたらいいよね」
「そうだね。身体を左右に振るのを基本にするとして、そこから何か入れたらいいかな」
うーんと考え込む真夕に楽譜を渡しながら言うルキハ。続いた紅葉の言葉に、真夕も頷いて……おずおずとエステルが挙手をする。
「あの。ちょっと思ったんですけど、振り一つ一つに意味を持たせてみたらどうでしょう?」
「ん? それってどういう感じ?」
「例えば、『日が昇り』という歌詞だったら、手を上から下に挙げて、『光輝く』という歌詞の時は手をひらひらさせる……という感じでしょうか」
「あ、なるほど。歌詞と踊りを連動させるのね!」
「そうです。少し辺境の舞踊に通じるものがありますけど……」
「あら。それならアタシもお手伝いできそうネ」
「じゃあ、早速歌詞を考えながら踊ってみましょうか!」
エステルの明るい声に頷く3人。
どんな歌詞にして、どんな振り付けにするか……仲良く一緒に歌いながら、身体を動かして決めて行く。
「よし! 一つできたよ!」
「お疲れ様です。次行きましょう!」
汗を拭う未悠を労う美沙樹。
黙々と裁縫を続けている衣装製作班の面々。
色々と話し合った結果、システィーナの衣装に合わせ、白を基調に淡い差し色をつけた衣装にすることになった。 女性は白のシフォンドレスをベースにして清楚な雰囲気に。男性は白のスーツやマントをベースに、王子や貴族のような雰囲気を出した。
「見てください! このゴージャスなファー! これでこそザ・王族! ラスボスですよ!!」
「そうか。これがらすぼす、というものなのか……」
白の上着に淡い青のファーを縫い付けて胸を張るルンルンに、ふむふむと頷く真白。
未悠はくすくすと笑いながら淡いピンクの花のモチーフをドレスに縫い付ける。
このモチーフはアニスが用意してくれたものだ。未悠と美沙樹が用意したカラーストーンや良く磨き上げたコインがとても良く映える。
美沙樹は白いレースの生地をマントに仕立て、前側の裾を差し色と同じ色のリボンで留められるようにし、舞うとふんわりとたなびくように仕立てる。
シフォンのドレスと白いレースが重なり合って、まるで妖精のような雰囲気に仕上がった。
「なかなかの出来になりましたね」
「本当。急ごしらえには見えないわね!」
満足気に微笑む美沙樹にに頷く未悠。ルンルンは完成した衣装を手にくるくると回る。
「この男性用衣装の名前はキバヤシにしましょう!」
「……その名前に何か意味があるのか?」
「ラスボスの名前ですよ?」
「らすぼすって人間だったんですか……」
「ラスボスはラスボスです!」
ルンルンの返答に小首を傾げる真白と美沙樹。
同じリアルブルー出身の未悠は、ルンルンの言わんとしているものを知ってはいたけれど……どう説明したらよいのか分からず、あはは……と乾いた笑みを返した。
「……この辺りか?」
「もうちょい右だな」
「ここでしょうか……?」
「うん! そこに貼ってくれ」
リューの指示の通りに舞台に目印をつけていくアニスとイーディス。
大道具作成班はルナや紅薔薇、真夕やエステル達の意見を受けて舞台を作成していた。
舞台は複数の出演者が並べるよう横に長く、両端は幕で区切り、出演者や大道具の入替をする為に奥に向かう楕円スロープを作成した。
背景には幕を張り、演目に合わせて装飾した幕を何枚も重ね合わせ、演目の推移に従って変えられるように準備。
一瞬で切り替わる背景は、盛り上げに一役買うはずである。
そして、観客の死角には大きな歌詞カードとステップ表を設置。
床にもステップを分かりやすくする為の目印を打ち、混乱を避ける工夫を盛り込み、スポットライトも自然光を取り入れたり、帝国から貸し出されたものを置いたりと多少のトラブルが起きても大丈夫なように備え……そして、舞台の周囲は、アニスとイーディスがせっせと運び込んだ色とりどりの花で飾られ、とても華やかになっていた。
「すごい! お花綺麗!!」
「こういうのがあると印象変わるもんだな!」
「ありがとうございます。クレールさんとリューさんの舞台もすごい立派ですよ」
「本当、良くここまで作り上げたな」
目を輝かせて喜ぶクレールとリューに、頬を染めるアニス。
続いたイーディスの言葉に、クレールがぽりぽりと頬を掻く。
「んー。音響にも注意したつもりだけど、実際やってみてどうなるか、かなぁ」
「そうだな。本当は電光掲示板があれば面白かったんだが……」
「ちょっと時間が足りませんでしたね」
「でも、立派な舞台だと思うぞ。ここで歌う女王陛下はさぞ美しかろう」
「うふふ。ありがと。……あとは、ちゃんと動くかどうか試さないとね」
「こんなに立派ですし、大丈夫そうですけどね……」
「そうだな。実際使わないと不具合は分からないものだからな」
「それじゃ、皆にリハーサルして貰うよう声をかけてくるとしようか」
「わたしも皆さんをお呼びして来ますね」
仲間達のところへ向かうイーディスとアニスに頼むね、と声をかけたクレール。
リューと共に舞台を微調整しに戻る。
「それじゃ、スメラギ様は歌舞浄化陣にそういった思いを込められたんだね」
「そりゃそうだ。元々こいつはヴィルヘルミナの身体を守る為に用意したもんだ。まー、無茶いいやがると思ったけどやるっきゃねえからなぁ」
「なるほど……。参考にするね」
ジャックとルスティロの質問に淡々と答えるスメラギ。
2人は順番に出演者にインタビューして回っていた。
そして、ルスティロは思い出したように一枚の紙をスメラギに差し出す。
「スメラギさん、はいこれ」
「あ? 何だよ」
「アンケート用紙だよ。これをシスティーナ様にも記入して貰いたいから、渡して貰えないかな」
「……何で俺が?」
「今ここにいない以上、とりあえずスメラギさんに頼むしかないからね! 頼んだよ!」
「スメラギ様とシスティーナ様はこれでよし、と……。じゃあ、黒の夢さんもインタビューしていいかな」
「勿論なのな! 何でも聞いて欲しいのな!」
バシバシと肩を叩かれ、思わず頷いたスメラギ。
ジャックの要請に、黒の夢(ka0187)は豊かな胸を張りながら笑顔で請け負い……そこに、アシェ-ル(ka2983)が小走りで戻ってくる。
「スメラギ様。紅薔薇さんに依頼されていた通信機が届きましたよ」
「おう。それはクレール達んとこ持ってってやってくれ」
「分かりました。あと、ルナさん達から演目のリストが届きましたのでご確認お願いします」
「へいへい」
スメラギに書面を渡すアシェール。
彼女は、スメラギの負担を減らせるよう、彼を通さなくて良い事案などは率先して対応し、秘書の如き働きを見せていた。
「スーちゃん!」
「どわぁっ!? 何だ急に! 抱きつくんじゃねーよ!」
「もー。スーちゃんったら恥ずかしがりやさんなのな」
「お前が気安くくっつき過ぎなんだっつーの!!」
後ろからに黒の夢に抱きしめられてアワアワと慌てるスメラギ。
猛然と言い返してくる彼に、黒の夢はころころと笑う。
スメラギは年齢の割にしっかりしているけれど、どうも女性に慣れていないような気がする。
天の都で引きこもっていた上に、男性にばかり囲まれて生活していたからかもしれない。
うんうん、と一人で納得する黒の夢。ジャックに穏やかな金色の瞳を向ける。
「……では、黒の夢さんは歌で人々に『愛』を伝えたい、ということだね?」
「そうなのな。愛を伝えるには先ず己が知るべし! スーちゃん今日から我輩とお勉強ねっ♪」
「ハァ!? 何でそーなるんだよ!」
「うゅ……。スーちゃんは我輩とじゃドキドキしないー……?」
「そうじゃねーよ。気安く抱きつくなっつってんだよ」
「大丈夫なのな! 我輩の胸にはらぶが詰まってるのな!!」
「何がどう大丈夫なのか俺様には全然わかんねーよ!!!」
変わらぬ調子の彼女にがるるると吼えるスメラギ。
何だか大変そうだなーと、ジャックが同情のまなざしを向ける中に真白がお茶を持ってやってきた。
「皆、お疲れ様だ。これを飲んで一息入れて戴こうかと思ってお持ちした」
「わあ! すみません! ありがとうございます! スメラギ様、折角ですから休憩しましょう!」
「別に俺様疲れてねーぞ?」
「でも、ずーっと働きっぱなしじゃないですか。これから作戦も控えていらっしゃいます。ここで体調を崩す訳にはいきませんからね。きちんと休憩挟みましょう!」
「アシェールの言う通りじゃ。休むのも仕事のうちじゃよ」
きっぱりと断じるアシェールに頷く紅薔薇。
2人にテキパキと書面を取り上げられて、代わりにティーカップを渡される。
「……わざわざ悪ィな。別に気ィ使って貰わなくたっていーんだぜ」
「気遣いというのともまた違うかのう。東方人としてスメラギ様の御身を思い、全力で協力するのは当然のことゆえ」
「ええ。若いながら立派な志の帝の為にも、浮草ながら出来る事は協力戴く所存」
「そうです! わたくしもスメラギ様のお役に立ちたいです!」
「……だから、それが気ィ使ってるって言うんだろうがよ」
「皆スーちゃんが大好きってことなのな」
「これも愛の形だね」
真顔で言う紅薔薇と真白と、元気いっぱいに主張するアシェールに、赤面しつつお茶をすするスメラギ。
うんうん、と頷く黒の夢とジャックに、彼はぷいっと顔を横に向けた。
「……という訳でだ。ほい、スメラギ。お前はこれな」
「いやいやいや。何で俺様がこんな衣装着るんだよ。明らかにおかしいだろ!」
紫月・海斗(ka0788)から、ほいよ、と衣装を渡され慌てるスメラギ。
それに、米本 剛(ka0320)と柊 真司(ka0705)が首を傾げる。
「え? スメラギさんも自分達と一緒にリハーサルされるんでしょう?」
「うん。俺もそう聞いてる」
「ハァ!? そんなん初耳だぞ!?」
「衣装がどんな出来上がりなのか、壇上に立っているところを確認したいの」
「是非協力をお願いいたしますわ」
未悠と美沙樹に畳みかけられて言葉を失くすスメラギ。
そんな彼の肩を、海斗がばしばしと叩く。
「まー、細かいことは気にすんな! 今からオメェもリハーサル限定ユニット『漢祭』の一員な! ほら、分かったら着替えてこい!」
「スメラギ様、お着替え手伝いましょうか?」
「どわあああ! 一人で着替えられるっつーの入ってくんな!!」
海斗に押し出されて渋々着替えに向かった彼は、秘書を通り越して母鳥のようになっているアシェールを慌てて追い出す。
「よし! 皆の者! リハーサルを開始するぞ! 配置につけーーー!! いいか! お前らは主役を彩るための存在だ! 目立ちすぎるな! だが手は抜くな!」
デスドクロの号令に、バタバタと移動を開始するバックダンサーやサクラ達。
主役にはなりえない、だが、舞台の構成には大切な存在だ。
アクロバティックな動きも盛り込んだし、流麗な舞踊を取り入れた。デスドクロの厳しい練習についてきた者達だ、きっと最大限に魅せてくれるはず……。
「それじゃ、まずはエステルちゃん達、お願いね」
ルナの声に応え、エステルとルキハ、真夕と紅葉が壇上に立つ。
「それじゃあ、決めた通りにお願いしますね!」
「はーい☆ いい? みんな。歌は、上手下手じゃないわ、ハートなのよん♪」
「自分を信じて、大きな声だしていこう!」
「おー! 頑張ろう!」
壇上から響くエステルとルキハの歌声。
真夕と紅葉が曲に合わせて踊りだす。
歌詞に合わせて、彼女達とバックダンサー、そしてサクラたちが決められた動きを見せる。
簡単ながら、大きな振り。それはとても明るく、楽しいもので……。
見ていた者達も、自然とリズムを取り、繰り返すメロディーを口ずさむ。
童心に帰り、歌と振りとで全身で祈りを表現していく。
「ん。音響は大丈夫そうだね」
「立ち位置の目印はもうちょっと微調整が要りそうだな」
ステージを観客席から眺めて確認をするクレールとリュー。
彼らが作成した舞台は完成度が高いものであったが、そこはそれ、妥協を許さないらしい。
「スメラギ様、良くお似合いじゃぞ」
「さすが王族様です! キバヤシが良く似合ってるのです!」
「キバヤシって何だよ」
「その衣装の名前です」
うんうんと頷く黒薔薇。嬉しそうに言うルンルンに絶句したスメラギ。
何故『キバヤシ』という名なのか知りたいような知りたくないような……そんな微妙な顔をしている。
「我輩用の衣装なのな! ねー。スーちゃんこれどう?」
「どうって殆ど脱げてるじゃねーか!」
「んお? 裸じゃないのな。ちゃんと着てるのな。でもちょっと寒いのなー」
「だからくっついてくんじゃねーって!!」
黒の夢の衣装は、彼女の肉体の美しさを神秘的に、かつ最大限に引き出すものだったが、何しろ露出が高くて……。
直視できないのかひたすら目をそらしているスメラギに、アシェールがくすくすと笑う。
「我輩、これから歌うのな。ちゃんとサウンドアンカーが呼応するか、確認して欲しいのな」
「確かに、それだけはスメラギ様じゃないと確認できませんね。お手伝いしますので、宜しくお願いします」
「おう」
2人の声に頷くスメラギ。
黒の夢は舞台に立つと、それまでのほえほえした様子は全くなくなった。
穏やかだが、真摯な表情で――舞台全てを使って舞い、地を震わすほどの大きく豊かな声で歌う。
それはまるで、地上に舞い降りた天女のようで――。
その姿に、アウレールと未悠が目を細める。
「ほう。見事なものだな……」
「ステージに立つ人達は心で人々を守り戦うのね。戦うしか能のない私には眩し過ぎるわ……」
「あがり症のボクは舞台に立つなんてことできないけど……少しは役に立てたかな」
「皆の尽力があって、こうしてステージが出来上がったのよ? 役に立ってるに決まってるじゃない」
「この中に役立たずなど一人も折らぬ。皆素晴らしい働きじゃった」
ぽつりと呟くジャックに、笑顔を向けるルナ。紅薔薇もうんうんと頷く。
ルナと紅薔薇は全てを通して見て、取り決め、仕切ったからこそ分かる。
この舞台は誰か一人が欠けても成しえなかった。
この短時間で、ここまでの完成度を出したこと事態が奇跡に近い。
「妾は歌う方には参加できんがのう。当日は戦場に立ち、必ずヴィルヘルミナ殿を取り戻すのじゃ」
「ああ。その為に皆が協力した。未悠もジャックも……皆、すごく頑張っていた。私が保証しよう」
「……そうかな」
「うん。ありがと」
紅薔薇とアウレールの言葉に頷く未悠とジャック。
そして、サウンドアンカーがきちんと呼応したことを確認したスメラギとアシェールだったが……黒の夢がこちらに向かって投げキッスしたのが見えて、再び目線を反らした彼に、アシェールは苦笑する。
「よーし。いいか。打楽器は剛、管楽器は真司、弦楽器は俺で、歌と踊りはスメラギな」
「何で俺様が歌なんだよ。お前らがやりゃあいーじゃねーか」
「何いってやがる。監修してるオメェ自身に歌って踊れば細けぇ改善点が見つかるかもしれねぇだろうが。つーか、好きなんだろこーいうの?」
「いや、嫌いじゃねぇけどよ……」
「そーか。んじゃオメェも楽しみやがれ。……剛も真司も準備はいいか?」
「ええ。準備万端ですよ!」
「おう。いつでも来い!」
「よっしゃ。他の準備してる連中もコレ聴いてテンション上げて行こーじゃねーの!」
スメラギの頭をくしゃくしゃと撫でる海斗に、親指を上げて応える剛と真司。
突然始めようとする海斗に、スメラギが狼狽して3人を見る。
「ちょっと待て! 何歌うか聞いてねえぞ!」
「そんなんテメェで考えろ! 即興でいけんだろ!?」
「無茶言うな!!」
「リハーサルとは言え……緊張しますね」
「リハーサルってもこっちにとっては本番だ。気合! 入れて! 行くぜ!」
口ではそんなことを言っているがノリノリの剛。真司の叫びと共に、彼は和太鼓を思い切り叩いて……。
良く見ると剛は和太鼓に、着物と草履。真司は横笛、海斗は三味線と、全てスメラギに馴染みのある楽器で……。
彼はその懐かしい音に、故郷の歌を乗せる。
「おっ。スメラギさん、歌お上手ですね……!」
「これは俺たちも負けてられないな! 剛、全力で行くぞ!」
「承知!」
真司の声にニヤリと笑った剛。
開始早々からテンションの高い2人に、海斗も合わせて三味線をかき鳴らす。
漢の真髄、ここにあり! と魂が叫ぶような楽曲。
その力強さに、舞台を見る者達のボルテージも上がって行き……元々歌が好きなルスティロはたまらず踊りだし、ルンルンも『忍法☆歌合戦』とか言いながらくるくると回っている。
舞台の出来を確認する為、最後まで冷静でいようと努めていたクレールとリューまでもが手拍子を始め、それに続く陽と美沙樹。アニスとイーディスも、楽しげに舞台を見つめて――。
リハーサルだと言うのに、本番さながらの盛り上がりを見せる舞台。
ハンター達は、己の持ちうる全てを歌と踊りにぶつけ……。
――この作戦の舞台、そして進行、構成を持ってして、サウンドアンカーは最大限の効果を発揮し、皇帝ヴィルヘルミナ救出へ大きな貢献をすることとなる。
サルヴァトーレ・ロッソよりやや南東に位置する場所で、歌舞浄化陣を生成する為のステージ作成が急ピッチで進められていた。
「えーと……戦場があっちになるから、舞台の向きはこちら向きだね」
「そうじゃな。ここが観客席になるとすると……上手がこちら側か」
「そうなると、舞台の導線としては向こうからこちらに動くのがいいね」
「うむ。おお、そうじゃ。念のため、上手下手、両方に無線機を用意して貰えるかの。できれば、戦場にも舞台の様子を逐次報告して貰いたいのじゃ」
「うん。分かった。大道具さん達に伝えておくね」
「宜しく頼むぞ。あと必要なものはじゃな……」
観客席側に立ち、舞台の位置を確認する紅薔薇(ka4766)とルナ・レンフィールド(ka1565)。
舞台は水物。そして、戦況なども当日になってみなければ分からない。
状況によっては、演目を早めたり長くしたりする必要も出てくるだろう。
余裕を持って設定しなければ……。
てきぱきと必要なものをピックアップしていく。
「ちょっとごめんねー! そこ開けて貰えるー?」
「大道具が通るぞー!!」
2人がかりで大きな薄い木の板を運び込むクレール(ka0586)とリュー・グランフェスト(ka2419)。その後ろをアニス・エリダヌス(ka2491)が大きな植木鉢を持って歩いていて……。
そこにすっとイーディス・ノースハイド(ka2106)が手を差し出す。
「手伝おう」
「え、すみません。いいんですか?」
「ああ。本当はシスティーナ王女の護衛に来たんだけど……行き違いになってしまったようでね。折角だから手伝わせて貰うよ。……綺麗な花だね」
「ありがとうございます。これ、私が育てたんですよ」
「へえ。すごいね。立派なものだ」
寄せ植えされた花に目を細めるイーディス。どれも生き生きとして愛らしく、大切に育てられていることが分かる。
恥ずかしそうに微笑んでいたアニスは、弾かれたように彼女を見る。
「あ! イーディスさんは王女様のことご存知なんですよね? だったら、王女様が映えるような配置を一緒に考えて貰えませんか?」
「え? 私でいいのかい?」
「はい。スメラギ様にもお伺いしたんですけど、沢山の意見があった方が良いものになると思いますし」
「そうかい? そういうことなら引き受けようか」
「ありがとうございます」
請け負うイーディスに笑顔を返すアニス。
ステージを飾るには、この花の量では全然足りない。
2人は一旦植木鉢を置くと、更に花を運ぶ為に引き返す。
「こうですね、どばーんと! ばばーんと!! 舞台装置を兼ねた衣装ってどうかなって思ったんですけどね……」
「そうね。アイデアとしては面白いと思うんだけど……」
しょんぼりとしながら布を運ぶルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)をまあまあ、と宥める高瀬 未悠(ka3199)。
どうやら、ルンルンは故郷にいた大スターの衣装を再現しようと思ったらしいのだが、それがあまりにも大掛かりであった為、時間的にも材料的にも厳しく、実現不可能と判断されたらしい。
元々一から準備する時間はなく、既製品の衣装を加工していく突貫工事だ。
どんな出演者にも対応できるよう、サイズもありとあらゆるものを用意しなければならない。
本当に時間との戦いであるため、こういう判断が下るのも仕方がないと言える。
「ルンルンさんの仰る『らすぼす』というのがどういうものなのか判りませんけれど……この衣装でも、それに近づけることは出来るのではありませんか?」
「そうですね……! 出来る限りインパクトがあるものにすればいいですよね!」
「ああ。どういった感じなのか教えて貰えれば手伝おう」
音羽 美沙樹(ka4757)の励ましに頷くルンルン。続いた銀 真白(ka4128)の声に頷く。
「じゃあ、元気を取り戻したところで衣装作り始めましょっか!」
未悠の言葉に頷く3人。用意された資材、持ち寄った材料を猛然と広げ始める。
「ふむふむ。なるほどな! よし分かった! そういうことならこれまで幾万のアーティスト共をトップスターへと導いてきたこのデスドクロ様が力になってやろうじゃねぇか!」
「へー! デスドクロさんってすごいプロデューサーさんなんだね!」
「まあな!! デスドクロ様に不可能はねぇのよ!!」
笑顔の雪継・紅葉(ka5188)にグハハハハ! と豪快に笑うデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。
この男の言うことがどこまで本当か分からないが、アーティストを手がけたことがあるのは本当らしい。
これは期待できそうである。
「アイドル大作戦かー。何だか面白そうだよねー」
「もう。紅葉ったら。真面目な作戦なのよ?」
「分かってるよ。でも、色んな知らないものが見られるって嬉しいよね。それにね、真夕も一緒だし」
「それは私も……って。い、今は曲目とかを考えることに集中しよう! ね?」
「はーい」
変わらない調子の紅葉にアワアワと慌てる七夜・真夕(ka3977)。
その間も、仲間達の熱の入った会議は続き、書記を務めるルナが必死に話し合いの内容を認めている。
「……という訳で、観客に配るパンフレットや、チラシを用意しようかなって思うんだ」
「歌の前に、少しでも奏者に興味を持って貰えた方が良いかなって、さっきジャックさんと話しててね」
仲間を見渡しながら言うジャック・ベイリー(ka3409)に真剣なまなざしを向けるルスティロ・イストワール(ka0252)。それに頷きながら、ジャックが続ける。
「僕もそうだけど……こういう『ライブ』って、リアルブルーの人達や帝国の一部では浸透してるし人気もあるみたいだけど、こういう観客も一体になるようなコンサートに慣れ親しんでいる観客ばかりではないと思うんだよ」
そして、今回メインを担当するシスティーナはグラズヘイム王国の王女であるが、その人となりを詳しく知っている人は少ないかもしれない。
システィーナだけでなく、出演する歌い手や奏者の詳細や、演目の見所が紹介できれば、きっと観客も舞台全体を想像しやすくなる……。
そう続けた彼に、八島 陽(ka1442)もふむ、と考え込む。
「歌詞を書いてあらかじめ配布しておけば、観客も参加しやすいし、感情移入しやすくなるよね」
「そうそう。観客に自然に参加して貰おうと思ったら、やっぱりそういうの必要だと思うんだよ」
頷くルスティロ。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)は青い双眸をジャックとルスティロに向ける。
「プログラム作成は私もやろうかと思っていた。渡りに船だ。では、パンフレットの作成と……出演者のインタビューなども任せていいか?」
「もちろん。ボクたちが責任持って編集するよ」
「うん、任せて!」
胸を叩いて請け負う2人。善は急げと、出演者にインタビューに走る。
「じゃあ、次は曲目だね。構成はどうしようかな……」
「俺様はバックダンサーをまとめて面倒みる。曲を決めてくんな! バシッと決めてやるぜぇ!」
小首を傾げて考えこむルナの横でグハハハハ! と笑うデスドクロ。
己が全てを仕切っても構わないのだが、それでは成功確実すぎてつまらないし、こちらの世界の為にもならない。
大帝たるもの、己の力の出しどころをきちんと弁えているのである。
「そうだね……。最初と最後の曲は、女王様に担当して戴こうかと思うんだけどどうかな」
「異存ない。最初はゆっくりめの曲で、意識を引きこむ感じにするといいと思うが。最終演目は合唱できる曲がいいな。全員一丸になりやすい」
「そうだね。踊りも最初は穏やかで、徐々にステップを強めにして行って、全身を使う感じにしていくと盛り上がるかも」
「うんうん。基本は明るめの勇気を鼓舞する曲にするとして、流れはそんな感じがいいのかな……」
陽とアウレール、紅葉の言葉に頷く総員。必死に筆を動かしながら呟くルナに、ルキハ・ラスティネイル(ka2633)が小首を傾げながら、そうね……と切り出す。
「曲は……ルナちゃんが言ったみたいな戦意を高める勇ましいイメージの曲の他に、心が沸き立つような元気な雰囲気の曲、ちょっとドキっとするような曲……色んな歌があっていいと思うのよね」
「うん。何ていうのかな、祈りの雰囲気も盛り込みたいよね。今回の儀式の肝って祈りに似てるんじゃないかなって思うの。自分の力の及ばない部分で、どうにかしたい願いを何かに託す……みたいな」
「さっきジャックちゃんも言ってたけど、『あいどる』っていうのに慣れてない人もいるでしょう? アタシとしては、少しノスタルジックで、郷里や残してきた大切な人、辛い時の心の支えになる思い出……そんなものを胸に去来させたくなる曲も入れたらいいんじゃないかなって。そうね……例えばこんな感じ?」
真夕の談に頷きつつ大きく息を吸い込むルキハ。
その身体から発する声は低いけれど、流れる水ように澄んだ声で……。
優しくて……寂しさの中に、どこか懐かしさを感じる響きにその場にいた皆が聞き惚れ、紅葉は曲に合わせて自然と身体が動いている。
「すごい……! 素敵ですね……!」
「うふふ。ありがと」
目を輝かせるエステル・クレティエ(ka3783)に笑顔を返すルキハ。
ルナも満面の笑顔で彼に迫る。
「今の歌はルキハさんのオリジナルの曲なの?」
「ええ。まあネ。ちょっとアタシの部族のリズム入ってるけど」
「今の曲も舞台に組み込みたいんだけどいいかなっ!?」
「えっ? ええ、いいけど……歌詞はどうするの?」
「それは今から皆で考えればいいと思います」
「そお? じゃ、皆が分かるように楽譜に起こさないとダメね。ちょっと待ってネ」
エステルとルナにばちん、と色っぽいウィンクを返すルキハ。
ルナに紙とペンを渡されて、さらさらと音を書き記して行く。
「一曲決まったとして……舞台の組み立ては他の出演者の演目も見ないことにはな」
「とりあえず方針だけ決めておこうよ。そうすれば、あとは出揃った演目を並び替えるだけでいけるし」
「そうだな。あとはどんな曲を入れるか……」
「んー。メリハリっていうのかな。全体を通して、色々な曲が入れられるといいのかなぁ」
詳細に書かれたまとめに目を通しながら言う陽に頷くアウレール。首を捻るルナに、陽が思い出したように顔を上げる。
「そうだ! デスドクロさん。客席にサクラを紛れ込ませたいんだ。協力してくれないか?」
「ほう。客席からも歌って踊って盛り上げるんだな?」
「そう。突然歌えっていわれても難しいけど、他の人が歌ってれば釣られるでしょ。サクラの教育も頼んでいいかな?」
「よし、俺様に任せておけ! 教え込んでみせよう! 完璧にな!」
胸を張って請け負うデスドクロにありがとう、と笑顔を返す陽。
どうやら、進行の方は何とかなりそうで――。
「どんな歌詞がいいかしら……」
「そうねぇ。人類の結束を込めて、辺境部族や、リアルブルーの言葉を歌詞に取り入れて、一つの歌にする、とかネ」
「あ、それ素敵! 踊りも、観客の人たちが分かりやすいようにできたらいいよね」
「そうだね。身体を左右に振るのを基本にするとして、そこから何か入れたらいいかな」
うーんと考え込む真夕に楽譜を渡しながら言うルキハ。続いた紅葉の言葉に、真夕も頷いて……おずおずとエステルが挙手をする。
「あの。ちょっと思ったんですけど、振り一つ一つに意味を持たせてみたらどうでしょう?」
「ん? それってどういう感じ?」
「例えば、『日が昇り』という歌詞だったら、手を上から下に挙げて、『光輝く』という歌詞の時は手をひらひらさせる……という感じでしょうか」
「あ、なるほど。歌詞と踊りを連動させるのね!」
「そうです。少し辺境の舞踊に通じるものがありますけど……」
「あら。それならアタシもお手伝いできそうネ」
「じゃあ、早速歌詞を考えながら踊ってみましょうか!」
エステルの明るい声に頷く3人。
どんな歌詞にして、どんな振り付けにするか……仲良く一緒に歌いながら、身体を動かして決めて行く。
「よし! 一つできたよ!」
「お疲れ様です。次行きましょう!」
汗を拭う未悠を労う美沙樹。
黙々と裁縫を続けている衣装製作班の面々。
色々と話し合った結果、システィーナの衣装に合わせ、白を基調に淡い差し色をつけた衣装にすることになった。 女性は白のシフォンドレスをベースにして清楚な雰囲気に。男性は白のスーツやマントをベースに、王子や貴族のような雰囲気を出した。
「見てください! このゴージャスなファー! これでこそザ・王族! ラスボスですよ!!」
「そうか。これがらすぼす、というものなのか……」
白の上着に淡い青のファーを縫い付けて胸を張るルンルンに、ふむふむと頷く真白。
未悠はくすくすと笑いながら淡いピンクの花のモチーフをドレスに縫い付ける。
このモチーフはアニスが用意してくれたものだ。未悠と美沙樹が用意したカラーストーンや良く磨き上げたコインがとても良く映える。
美沙樹は白いレースの生地をマントに仕立て、前側の裾を差し色と同じ色のリボンで留められるようにし、舞うとふんわりとたなびくように仕立てる。
シフォンのドレスと白いレースが重なり合って、まるで妖精のような雰囲気に仕上がった。
「なかなかの出来になりましたね」
「本当。急ごしらえには見えないわね!」
満足気に微笑む美沙樹にに頷く未悠。ルンルンは完成した衣装を手にくるくると回る。
「この男性用衣装の名前はキバヤシにしましょう!」
「……その名前に何か意味があるのか?」
「ラスボスの名前ですよ?」
「らすぼすって人間だったんですか……」
「ラスボスはラスボスです!」
ルンルンの返答に小首を傾げる真白と美沙樹。
同じリアルブルー出身の未悠は、ルンルンの言わんとしているものを知ってはいたけれど……どう説明したらよいのか分からず、あはは……と乾いた笑みを返した。
「……この辺りか?」
「もうちょい右だな」
「ここでしょうか……?」
「うん! そこに貼ってくれ」
リューの指示の通りに舞台に目印をつけていくアニスとイーディス。
大道具作成班はルナや紅薔薇、真夕やエステル達の意見を受けて舞台を作成していた。
舞台は複数の出演者が並べるよう横に長く、両端は幕で区切り、出演者や大道具の入替をする為に奥に向かう楕円スロープを作成した。
背景には幕を張り、演目に合わせて装飾した幕を何枚も重ね合わせ、演目の推移に従って変えられるように準備。
一瞬で切り替わる背景は、盛り上げに一役買うはずである。
そして、観客の死角には大きな歌詞カードとステップ表を設置。
床にもステップを分かりやすくする為の目印を打ち、混乱を避ける工夫を盛り込み、スポットライトも自然光を取り入れたり、帝国から貸し出されたものを置いたりと多少のトラブルが起きても大丈夫なように備え……そして、舞台の周囲は、アニスとイーディスがせっせと運び込んだ色とりどりの花で飾られ、とても華やかになっていた。
「すごい! お花綺麗!!」
「こういうのがあると印象変わるもんだな!」
「ありがとうございます。クレールさんとリューさんの舞台もすごい立派ですよ」
「本当、良くここまで作り上げたな」
目を輝かせて喜ぶクレールとリューに、頬を染めるアニス。
続いたイーディスの言葉に、クレールがぽりぽりと頬を掻く。
「んー。音響にも注意したつもりだけど、実際やってみてどうなるか、かなぁ」
「そうだな。本当は電光掲示板があれば面白かったんだが……」
「ちょっと時間が足りませんでしたね」
「でも、立派な舞台だと思うぞ。ここで歌う女王陛下はさぞ美しかろう」
「うふふ。ありがと。……あとは、ちゃんと動くかどうか試さないとね」
「こんなに立派ですし、大丈夫そうですけどね……」
「そうだな。実際使わないと不具合は分からないものだからな」
「それじゃ、皆にリハーサルして貰うよう声をかけてくるとしようか」
「わたしも皆さんをお呼びして来ますね」
仲間達のところへ向かうイーディスとアニスに頼むね、と声をかけたクレール。
リューと共に舞台を微調整しに戻る。
「それじゃ、スメラギ様は歌舞浄化陣にそういった思いを込められたんだね」
「そりゃそうだ。元々こいつはヴィルヘルミナの身体を守る為に用意したもんだ。まー、無茶いいやがると思ったけどやるっきゃねえからなぁ」
「なるほど……。参考にするね」
ジャックとルスティロの質問に淡々と答えるスメラギ。
2人は順番に出演者にインタビューして回っていた。
そして、ルスティロは思い出したように一枚の紙をスメラギに差し出す。
「スメラギさん、はいこれ」
「あ? 何だよ」
「アンケート用紙だよ。これをシスティーナ様にも記入して貰いたいから、渡して貰えないかな」
「……何で俺が?」
「今ここにいない以上、とりあえずスメラギさんに頼むしかないからね! 頼んだよ!」
「スメラギ様とシスティーナ様はこれでよし、と……。じゃあ、黒の夢さんもインタビューしていいかな」
「勿論なのな! 何でも聞いて欲しいのな!」
バシバシと肩を叩かれ、思わず頷いたスメラギ。
ジャックの要請に、黒の夢(ka0187)は豊かな胸を張りながら笑顔で請け負い……そこに、アシェ-ル(ka2983)が小走りで戻ってくる。
「スメラギ様。紅薔薇さんに依頼されていた通信機が届きましたよ」
「おう。それはクレール達んとこ持ってってやってくれ」
「分かりました。あと、ルナさん達から演目のリストが届きましたのでご確認お願いします」
「へいへい」
スメラギに書面を渡すアシェール。
彼女は、スメラギの負担を減らせるよう、彼を通さなくて良い事案などは率先して対応し、秘書の如き働きを見せていた。
「スーちゃん!」
「どわぁっ!? 何だ急に! 抱きつくんじゃねーよ!」
「もー。スーちゃんったら恥ずかしがりやさんなのな」
「お前が気安くくっつき過ぎなんだっつーの!!」
後ろからに黒の夢に抱きしめられてアワアワと慌てるスメラギ。
猛然と言い返してくる彼に、黒の夢はころころと笑う。
スメラギは年齢の割にしっかりしているけれど、どうも女性に慣れていないような気がする。
天の都で引きこもっていた上に、男性にばかり囲まれて生活していたからかもしれない。
うんうん、と一人で納得する黒の夢。ジャックに穏やかな金色の瞳を向ける。
「……では、黒の夢さんは歌で人々に『愛』を伝えたい、ということだね?」
「そうなのな。愛を伝えるには先ず己が知るべし! スーちゃん今日から我輩とお勉強ねっ♪」
「ハァ!? 何でそーなるんだよ!」
「うゅ……。スーちゃんは我輩とじゃドキドキしないー……?」
「そうじゃねーよ。気安く抱きつくなっつってんだよ」
「大丈夫なのな! 我輩の胸にはらぶが詰まってるのな!!」
「何がどう大丈夫なのか俺様には全然わかんねーよ!!!」
変わらぬ調子の彼女にがるるると吼えるスメラギ。
何だか大変そうだなーと、ジャックが同情のまなざしを向ける中に真白がお茶を持ってやってきた。
「皆、お疲れ様だ。これを飲んで一息入れて戴こうかと思ってお持ちした」
「わあ! すみません! ありがとうございます! スメラギ様、折角ですから休憩しましょう!」
「別に俺様疲れてねーぞ?」
「でも、ずーっと働きっぱなしじゃないですか。これから作戦も控えていらっしゃいます。ここで体調を崩す訳にはいきませんからね。きちんと休憩挟みましょう!」
「アシェールの言う通りじゃ。休むのも仕事のうちじゃよ」
きっぱりと断じるアシェールに頷く紅薔薇。
2人にテキパキと書面を取り上げられて、代わりにティーカップを渡される。
「……わざわざ悪ィな。別に気ィ使って貰わなくたっていーんだぜ」
「気遣いというのともまた違うかのう。東方人としてスメラギ様の御身を思い、全力で協力するのは当然のことゆえ」
「ええ。若いながら立派な志の帝の為にも、浮草ながら出来る事は協力戴く所存」
「そうです! わたくしもスメラギ様のお役に立ちたいです!」
「……だから、それが気ィ使ってるって言うんだろうがよ」
「皆スーちゃんが大好きってことなのな」
「これも愛の形だね」
真顔で言う紅薔薇と真白と、元気いっぱいに主張するアシェールに、赤面しつつお茶をすするスメラギ。
うんうん、と頷く黒の夢とジャックに、彼はぷいっと顔を横に向けた。
「……という訳でだ。ほい、スメラギ。お前はこれな」
「いやいやいや。何で俺様がこんな衣装着るんだよ。明らかにおかしいだろ!」
紫月・海斗(ka0788)から、ほいよ、と衣装を渡され慌てるスメラギ。
それに、米本 剛(ka0320)と柊 真司(ka0705)が首を傾げる。
「え? スメラギさんも自分達と一緒にリハーサルされるんでしょう?」
「うん。俺もそう聞いてる」
「ハァ!? そんなん初耳だぞ!?」
「衣装がどんな出来上がりなのか、壇上に立っているところを確認したいの」
「是非協力をお願いいたしますわ」
未悠と美沙樹に畳みかけられて言葉を失くすスメラギ。
そんな彼の肩を、海斗がばしばしと叩く。
「まー、細かいことは気にすんな! 今からオメェもリハーサル限定ユニット『漢祭』の一員な! ほら、分かったら着替えてこい!」
「スメラギ様、お着替え手伝いましょうか?」
「どわあああ! 一人で着替えられるっつーの入ってくんな!!」
海斗に押し出されて渋々着替えに向かった彼は、秘書を通り越して母鳥のようになっているアシェールを慌てて追い出す。
「よし! 皆の者! リハーサルを開始するぞ! 配置につけーーー!! いいか! お前らは主役を彩るための存在だ! 目立ちすぎるな! だが手は抜くな!」
デスドクロの号令に、バタバタと移動を開始するバックダンサーやサクラ達。
主役にはなりえない、だが、舞台の構成には大切な存在だ。
アクロバティックな動きも盛り込んだし、流麗な舞踊を取り入れた。デスドクロの厳しい練習についてきた者達だ、きっと最大限に魅せてくれるはず……。
「それじゃ、まずはエステルちゃん達、お願いね」
ルナの声に応え、エステルとルキハ、真夕と紅葉が壇上に立つ。
「それじゃあ、決めた通りにお願いしますね!」
「はーい☆ いい? みんな。歌は、上手下手じゃないわ、ハートなのよん♪」
「自分を信じて、大きな声だしていこう!」
「おー! 頑張ろう!」
壇上から響くエステルとルキハの歌声。
真夕と紅葉が曲に合わせて踊りだす。
歌詞に合わせて、彼女達とバックダンサー、そしてサクラたちが決められた動きを見せる。
簡単ながら、大きな振り。それはとても明るく、楽しいもので……。
見ていた者達も、自然とリズムを取り、繰り返すメロディーを口ずさむ。
童心に帰り、歌と振りとで全身で祈りを表現していく。
「ん。音響は大丈夫そうだね」
「立ち位置の目印はもうちょっと微調整が要りそうだな」
ステージを観客席から眺めて確認をするクレールとリュー。
彼らが作成した舞台は完成度が高いものであったが、そこはそれ、妥協を許さないらしい。
「スメラギ様、良くお似合いじゃぞ」
「さすが王族様です! キバヤシが良く似合ってるのです!」
「キバヤシって何だよ」
「その衣装の名前です」
うんうんと頷く黒薔薇。嬉しそうに言うルンルンに絶句したスメラギ。
何故『キバヤシ』という名なのか知りたいような知りたくないような……そんな微妙な顔をしている。
「我輩用の衣装なのな! ねー。スーちゃんこれどう?」
「どうって殆ど脱げてるじゃねーか!」
「んお? 裸じゃないのな。ちゃんと着てるのな。でもちょっと寒いのなー」
「だからくっついてくんじゃねーって!!」
黒の夢の衣装は、彼女の肉体の美しさを神秘的に、かつ最大限に引き出すものだったが、何しろ露出が高くて……。
直視できないのかひたすら目をそらしているスメラギに、アシェールがくすくすと笑う。
「我輩、これから歌うのな。ちゃんとサウンドアンカーが呼応するか、確認して欲しいのな」
「確かに、それだけはスメラギ様じゃないと確認できませんね。お手伝いしますので、宜しくお願いします」
「おう」
2人の声に頷くスメラギ。
黒の夢は舞台に立つと、それまでのほえほえした様子は全くなくなった。
穏やかだが、真摯な表情で――舞台全てを使って舞い、地を震わすほどの大きく豊かな声で歌う。
それはまるで、地上に舞い降りた天女のようで――。
その姿に、アウレールと未悠が目を細める。
「ほう。見事なものだな……」
「ステージに立つ人達は心で人々を守り戦うのね。戦うしか能のない私には眩し過ぎるわ……」
「あがり症のボクは舞台に立つなんてことできないけど……少しは役に立てたかな」
「皆の尽力があって、こうしてステージが出来上がったのよ? 役に立ってるに決まってるじゃない」
「この中に役立たずなど一人も折らぬ。皆素晴らしい働きじゃった」
ぽつりと呟くジャックに、笑顔を向けるルナ。紅薔薇もうんうんと頷く。
ルナと紅薔薇は全てを通して見て、取り決め、仕切ったからこそ分かる。
この舞台は誰か一人が欠けても成しえなかった。
この短時間で、ここまでの完成度を出したこと事態が奇跡に近い。
「妾は歌う方には参加できんがのう。当日は戦場に立ち、必ずヴィルヘルミナ殿を取り戻すのじゃ」
「ああ。その為に皆が協力した。未悠もジャックも……皆、すごく頑張っていた。私が保証しよう」
「……そうかな」
「うん。ありがと」
紅薔薇とアウレールの言葉に頷く未悠とジャック。
そして、サウンドアンカーがきちんと呼応したことを確認したスメラギとアシェールだったが……黒の夢がこちらに向かって投げキッスしたのが見えて、再び目線を反らした彼に、アシェールは苦笑する。
「よーし。いいか。打楽器は剛、管楽器は真司、弦楽器は俺で、歌と踊りはスメラギな」
「何で俺様が歌なんだよ。お前らがやりゃあいーじゃねーか」
「何いってやがる。監修してるオメェ自身に歌って踊れば細けぇ改善点が見つかるかもしれねぇだろうが。つーか、好きなんだろこーいうの?」
「いや、嫌いじゃねぇけどよ……」
「そーか。んじゃオメェも楽しみやがれ。……剛も真司も準備はいいか?」
「ええ。準備万端ですよ!」
「おう。いつでも来い!」
「よっしゃ。他の準備してる連中もコレ聴いてテンション上げて行こーじゃねーの!」
スメラギの頭をくしゃくしゃと撫でる海斗に、親指を上げて応える剛と真司。
突然始めようとする海斗に、スメラギが狼狽して3人を見る。
「ちょっと待て! 何歌うか聞いてねえぞ!」
「そんなんテメェで考えろ! 即興でいけんだろ!?」
「無茶言うな!!」
「リハーサルとは言え……緊張しますね」
「リハーサルってもこっちにとっては本番だ。気合! 入れて! 行くぜ!」
口ではそんなことを言っているがノリノリの剛。真司の叫びと共に、彼は和太鼓を思い切り叩いて……。
良く見ると剛は和太鼓に、着物と草履。真司は横笛、海斗は三味線と、全てスメラギに馴染みのある楽器で……。
彼はその懐かしい音に、故郷の歌を乗せる。
「おっ。スメラギさん、歌お上手ですね……!」
「これは俺たちも負けてられないな! 剛、全力で行くぞ!」
「承知!」
真司の声にニヤリと笑った剛。
開始早々からテンションの高い2人に、海斗も合わせて三味線をかき鳴らす。
漢の真髄、ここにあり! と魂が叫ぶような楽曲。
その力強さに、舞台を見る者達のボルテージも上がって行き……元々歌が好きなルスティロはたまらず踊りだし、ルンルンも『忍法☆歌合戦』とか言いながらくるくると回っている。
舞台の出来を確認する為、最後まで冷静でいようと努めていたクレールとリューまでもが手拍子を始め、それに続く陽と美沙樹。アニスとイーディスも、楽しげに舞台を見つめて――。
リハーサルだと言うのに、本番さながらの盛り上がりを見せる舞台。
ハンター達は、己の持ちうる全てを歌と踊りにぶつけ……。
――この作戦の舞台、そして進行、構成を持ってして、サウンドアンカーは最大限の効果を発揮し、皇帝ヴィルヘルミナ救出へ大きな貢献をすることとなる。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談しましょ 七夜・真夕(ka3977) 人間(リアルブルー)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/01/12 00:44:06 |
|
![]() |
質問卓 未悠(ka3199) 人間(リアルブルー)|21才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/01/11 23:19:53 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/12 02:32:55 |