ゲスト
(ka0000)
【闇光】北伐継続中。疲労蓄積編
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/03/08 15:00
- 完成日
- 2016/03/13 23:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●第四浄化キャンプ
サイレンが雪原に響き渡った。
浄化状態維持のため聖なる杭を打っていた兵士は槌を置いて弓を構え、天幕の中で泥のように眠るっていた覚醒者が虚ろな目で起き出し剣と盾だけ持って外に出てくる。
「敵影3、ワイバーンです」
「魔導トラックに火を入れろ!」
「予備弾倉を持って来ました。乗り込みます」
車載機銃による対空射撃が始まり、曳航弾混じりの銃弾が撃ち出された。
名人による長弓より遠くまで飛んでいき、ドラッケンブレスを撃ち出す直前にワイバーンに回避行動を強いる。
「敵旋回、後退していきます!」
飛行能力と長距離ブレスを兼ね備えた大型竜種3体を撃退。
それはロッソ以前ならば地方の歴史に残り国の歴史書に1行なら載るかもしれない偉業ではあったが、この場の覚醒者達にとっては聞き慣れた報告でしかない。
「またかよ」
「畜生、工事のやり直しか」
「げっ、歪虚汚染が十ウンセンチ戻って来てやがる」
愚痴と軽口が止まらない。
対空射撃のたびに駆り出されそのたびに北への進出が遅れて休みも減るのだからとにかくストレスがたまる。
だからといって魔導トラックの護衛を止める訳にはいかない。
飛行竜種が撤退せず突っ込んできたら、遠距離射撃に特化した武器しかないトラックでは一方的にやられてしまう。
私兵団の構成員には私兵団の団長が、少数または個人で飛び入り参加した個人にはまとめ役が声をかけてなだめようとしている。
「済みません遅れ……あぁっ!?」
キャンプの奥から飛び出してきたイコニア・カーナボン(kz0040)が悲痛な声をあげた。
「また逃げてるぅっ!」
腕から力が抜けて、雪で覆われた地面にメイスが頭から突っ込んだ。
「元気そうですな」
無精髭だらけの、黙っていれば凶悪な山賊ににしか見えない男がイコニアの前に立ちふさがった。
すぐにメイスを拾い上げて澄ました表情をするイコニアだが、グラズヘイム王国の有力貴族から私兵団の1つを任された男を誤魔化すことはできない。
「聖職者は聖職者らしく守られてくれませんかね? えぇ、司祭殿?」
「歪虚殲滅は聖堂教会全体の悲願です。心配していただけるのは有り難いですがここで退く訳には……」
男の眉間に強烈な皺が寄る。
「浄化できるあんたが万一死んだらこのルートはここで行き止まりだ。暇なら後方に送る書類でも書いてろ。おいお前等!」
「へい」
「団長、司祭様にあんた呼ばわりはいけませんぜ」
「隣領の団に口実与えてどうすんすか。行きますよ司祭様」
逞しい体を重装甲で覆った男達がイコニアの前後左右を固め、キャンプの中心に運んでいく。
離してー、と久々の年齢相応の声が聞こえるが、なにしろ彼女はこのルートの命綱なので自由に突撃させる訳にはいかない。
「ちっ」
唾を吐きすてる。
遠くに飛ばしたつもりなのに足下から1歩分しか離れていない。
連日の戦闘と指揮で彼も疲労が溜まっているのだ。
北を見る。
白いのに全く清らかさが感じられない雪原が延々と続いている。
その方向に進み続ければカム・ラディ遺跡がある。
今も多くのハンターが出向いて防戦と龍鉱石探索を行い、遺跡の維持と行っているはずだ。
「まずいな」
口の中だけでつぶやく。
ハンターは強いが無敵ではない。
十分な装備や休養が必要だし、CAMなどの兵器抜きでは厳しい敵が現れる可能性だってある。
CAMのような大型兵器は転送できず、今のところ陸路で輸送するしかない。
つまり浄化地帯を伸ばしてキャンプを立て続けて延長し続ける必要が有る訳だが……。
「戦力が足りん」
複数キャンプの防衛、キャンプ間の安全地帯の防衛、拠点の維持に浄化担当神官の護衛をした上で、北にたむろす歪虚の排除。
1つ前のキャンプまでならなんとかなったがもう限界だ。
「ソサエティに依頼か。気に入らん」
好もうが嫌おうが他に手段はない。
彼は作業の再開を命じ、依頼書を書くため割当てられた天幕に戻っていくのだった。
●ハンターオフィス
新たな3Dディスプレイが立ち上がり、辺境からカム・ラディ遺跡までの地図が新たに表示された。
「北伐か」
「いや待てこれ」
地図に重ね合わされる形で依頼の内容が書き込まれる。
浄化領域の北への延長を目的とする、歪虚討伐および浄化キャンプ援護依頼。
報酬は高いが拘束期間と予想される時間からすると決して割の良い依頼ではない。
「浄化キャンプをベースに北に突っ込んで戻ってを繰り返す手もある、か?」
「馬鹿言うなよ。この依頼イニシャライザー無しだぜ? 歪虚汚染地域に突っ込んだら短時間で身動きとれなくなってなぶり殺しだ」
一応、最前線近くのキャンプに浄化担当神官が1人駐在している。
予備はいない。
他のルートでも必要なので人材が足りないのだ。
「浄化能力持ちを増やす手段や浄化機械でもあればな」
「あればいいなあれば。仮にあっても俺等の手に届くのに何年かかるんだか」
成功する気がしないと感じてハンター複数がディスプレイから離れる。
数時間ごとに現地の状況が反映され少しつづ安全地帯が北に延びていく。
このままではカム・ラディに届くのは数ヶ月後になりそうだった。
サイレンが雪原に響き渡った。
浄化状態維持のため聖なる杭を打っていた兵士は槌を置いて弓を構え、天幕の中で泥のように眠るっていた覚醒者が虚ろな目で起き出し剣と盾だけ持って外に出てくる。
「敵影3、ワイバーンです」
「魔導トラックに火を入れろ!」
「予備弾倉を持って来ました。乗り込みます」
車載機銃による対空射撃が始まり、曳航弾混じりの銃弾が撃ち出された。
名人による長弓より遠くまで飛んでいき、ドラッケンブレスを撃ち出す直前にワイバーンに回避行動を強いる。
「敵旋回、後退していきます!」
飛行能力と長距離ブレスを兼ね備えた大型竜種3体を撃退。
それはロッソ以前ならば地方の歴史に残り国の歴史書に1行なら載るかもしれない偉業ではあったが、この場の覚醒者達にとっては聞き慣れた報告でしかない。
「またかよ」
「畜生、工事のやり直しか」
「げっ、歪虚汚染が十ウンセンチ戻って来てやがる」
愚痴と軽口が止まらない。
対空射撃のたびに駆り出されそのたびに北への進出が遅れて休みも減るのだからとにかくストレスがたまる。
だからといって魔導トラックの護衛を止める訳にはいかない。
飛行竜種が撤退せず突っ込んできたら、遠距離射撃に特化した武器しかないトラックでは一方的にやられてしまう。
私兵団の構成員には私兵団の団長が、少数または個人で飛び入り参加した個人にはまとめ役が声をかけてなだめようとしている。
「済みません遅れ……あぁっ!?」
キャンプの奥から飛び出してきたイコニア・カーナボン(kz0040)が悲痛な声をあげた。
「また逃げてるぅっ!」
腕から力が抜けて、雪で覆われた地面にメイスが頭から突っ込んだ。
「元気そうですな」
無精髭だらけの、黙っていれば凶悪な山賊ににしか見えない男がイコニアの前に立ちふさがった。
すぐにメイスを拾い上げて澄ました表情をするイコニアだが、グラズヘイム王国の有力貴族から私兵団の1つを任された男を誤魔化すことはできない。
「聖職者は聖職者らしく守られてくれませんかね? えぇ、司祭殿?」
「歪虚殲滅は聖堂教会全体の悲願です。心配していただけるのは有り難いですがここで退く訳には……」
男の眉間に強烈な皺が寄る。
「浄化できるあんたが万一死んだらこのルートはここで行き止まりだ。暇なら後方に送る書類でも書いてろ。おいお前等!」
「へい」
「団長、司祭様にあんた呼ばわりはいけませんぜ」
「隣領の団に口実与えてどうすんすか。行きますよ司祭様」
逞しい体を重装甲で覆った男達がイコニアの前後左右を固め、キャンプの中心に運んでいく。
離してー、と久々の年齢相応の声が聞こえるが、なにしろ彼女はこのルートの命綱なので自由に突撃させる訳にはいかない。
「ちっ」
唾を吐きすてる。
遠くに飛ばしたつもりなのに足下から1歩分しか離れていない。
連日の戦闘と指揮で彼も疲労が溜まっているのだ。
北を見る。
白いのに全く清らかさが感じられない雪原が延々と続いている。
その方向に進み続ければカム・ラディ遺跡がある。
今も多くのハンターが出向いて防戦と龍鉱石探索を行い、遺跡の維持と行っているはずだ。
「まずいな」
口の中だけでつぶやく。
ハンターは強いが無敵ではない。
十分な装備や休養が必要だし、CAMなどの兵器抜きでは厳しい敵が現れる可能性だってある。
CAMのような大型兵器は転送できず、今のところ陸路で輸送するしかない。
つまり浄化地帯を伸ばしてキャンプを立て続けて延長し続ける必要が有る訳だが……。
「戦力が足りん」
複数キャンプの防衛、キャンプ間の安全地帯の防衛、拠点の維持に浄化担当神官の護衛をした上で、北にたむろす歪虚の排除。
1つ前のキャンプまでならなんとかなったがもう限界だ。
「ソサエティに依頼か。気に入らん」
好もうが嫌おうが他に手段はない。
彼は作業の再開を命じ、依頼書を書くため割当てられた天幕に戻っていくのだった。
●ハンターオフィス
新たな3Dディスプレイが立ち上がり、辺境からカム・ラディ遺跡までの地図が新たに表示された。
「北伐か」
「いや待てこれ」
地図に重ね合わされる形で依頼の内容が書き込まれる。
浄化領域の北への延長を目的とする、歪虚討伐および浄化キャンプ援護依頼。
報酬は高いが拘束期間と予想される時間からすると決して割の良い依頼ではない。
「浄化キャンプをベースに北に突っ込んで戻ってを繰り返す手もある、か?」
「馬鹿言うなよ。この依頼イニシャライザー無しだぜ? 歪虚汚染地域に突っ込んだら短時間で身動きとれなくなってなぶり殺しだ」
一応、最前線近くのキャンプに浄化担当神官が1人駐在している。
予備はいない。
他のルートでも必要なので人材が足りないのだ。
「浄化能力持ちを増やす手段や浄化機械でもあればな」
「あればいいなあれば。仮にあっても俺等の手に届くのに何年かかるんだか」
成功する気がしないと感じてハンター複数がディスプレイから離れる。
数時間ごとに現地の状況が反映され少しつづ安全地帯が北に延びていく。
このままではカム・ラディに届くのは数ヶ月後になりそうだった。
リプレイ本文
●雪中戦
骨が凍り付き血の流れが止まる。
それは錯覚だ。同時に数分後ならあり得る現実でもあった。
「いやはや、相当に過酷な状況だね」
エアルドフリス(ka1856)は無意識にペンダントに触れていた。
雪原には多数のリザードマンが隠れている。
ワイバーンなどの竜種歪虚が到着してから攻め寄せるつもりなのだろう。
半分にカットされた硬貨を撫でてからハンドルを切る。
タイヤが細かな雪を撥ね除け強靱な車体がエアルドフリスを南へ運ぶ。
この場の歪虚は剣と魔術のみの時代しか知らない。魔導バイクの速度は予想外で追うための手段を1つも持っていなかった。
直線距離で100メートル動いた時点で壮絶な寒さが消える。歪虚汚染地帯を抜けたのだ。
「歪虚ですね! 分かりました今すぐっ」
トランシーバー越しに報告を受け、曇りの無い笑顔で駆け出そうとするイコニア・カーナボン(kz0040)。行く手を塞ぐ形でバイクを止めたエアルドフリス。
「人には役割ってもんがある。聡明なお嬢さんにはお解りと思うが」
バイクから降り、目の高さをあわせて穏やかに指摘する。
はいとうなずく少女の顔が、主に羞恥でほんのり赤くなっていた。
「北西よりワイバーンらしきもの3接近中。射撃の準備を始めてくれ」
柊 真司(ka0705)が空を見つめながらトランシーバーに語りかける。
数十メートル後方にいた魔導トラックの荷台で、運転席から操作される大型機関銃が北西方向を指向した。
北西の空に浮かぶ黒点に、小さいけれどまばゆい光がうまれる。
その光は急速に広がって真司とトラックの中間地点に着弾。表面の雪を吹き飛ばし分厚い氷の層を溶かし、深さ数メートルの穴を大地に穿った。
「あっ」
後退中だったイコニアが躓いてこけた。
宙で体を捻って穴への転落を回避はしたものの頭から雪原にぶつかってしまう。
後方の大型機関銃が大量の弾をはき出す。
曳光弾による光の線3つはワイバーンに掠りもせず、しかし残る1つが一瞬だけ胸部を横切り鱗と火花を散らした。
「このまま行けるか?」
『無理っす。命中率はこちらが上でも奴らの方が威力も装甲も高くてっ、て来たぁっ!?』
トランシーバーが運転手の言葉と悲鳴を伝えてくる。
ワイバーンの回避のための動きに怒りが混じり、最初は銃弾に当たった1体が、数秒の後に残り2体が速度最優先で魔導トラックに向かい加速する。
「イコニア、浄化を」
真司はどこまでも冷静に指示を出す。
「ふぁい」
頭を雪に埋めたまま、手首を器用にまわしてメイスを振るう。
形の無い風が吹き抜ける。百年単位でこびりついていた負のマテリアルが直径数十メートルの範囲で完全に消滅した。
「セリス、出番だ。俺は」
機関銃を斜め上方へ向け引き金を引く。
連続して5発の銃弾が発射される。銃を構えた腕はびくともしない。
宙に5つの火花が散って、胸の鱗を砕かれたワイバーンが悲鳴をあげた。
トラック一台が急進しイコニアのすぐ側で急停止する。
そして、荷台から大きな鉄の塊が雪原に飛び降りた。
「イコニア君、無理はしちゃだめよー」
雪原が揺れ少女司祭の体が少し跳ねてころりと横向きになる。
セリス・アルマーズ(ka1079)が重いのでは無い。大型盾と鎧のが重すぎるのだ。
「地上からも歪虚が向かってきてるから注意するのよー」
軽く言って右腕を空に向ける。
ひたすら威力を追求した大口径ライフルだ。どう考えても片手で扱う武器では無いのに扱う手つきにつたなさは無い。
「というわけで空飛ぶ蜥蜴ども、あっつあつの弾をご馳走してあげる!」
轟音が響いて無傷の1体の腹に小さな穴が開く。
竜種は悲鳴をあげながら大きく口を開いて急降下。
トラックを潰すのは諦めてセリスを狙い、2メートルの距離まで迫った。
真司が魔導機械を起点に3つの光を伸ばす。全長8メートル越えの巨大な的が貫かれる。
「あ、ありがと」
予想より近い距離に気づいて返事が遅れる。
そうしている間にも、雪原を滑るようにリザードマンが近づいていた。
最も遠くの個体は弓を構え、厚い鎧に身を固めたリザードマンは着実に、短槍1本のみを装備した軽装歪虚は一直線にセリス達に近づく。
最も近い1つはセリスの最低射程の内側にまで入り込んでいた。
「舐められたものね。360度全距離私の間合いよ!」
面で広がるセイクリッドフラッシュは回避が困難であり、速さに反比例して脆い軽装リザードマン達が焼かれて倒れた。
「まったく……」
頭上の竜種からの炎を躱し術で応戦しつつ真司が内心愚痴る。
また危なっかしい戦い方しやがって、イコニアが変な影響受けたらどうすんだよ、と。
彼の懸念は当たっている。イコニアは倒れたまま、きらきらした目を人間サイズCAMに向けていた。
●空陸の歪虚
ワイバーンがはばたく。
魔導トラック、正確にはその荷台に搭載された機銃への攻撃を諦め、他の2体を真司達への生け贄に差し出し高度を上げて逃げようとした。
「均衡の裡に理よ路を変えよ。天から降りて地を奔り天に還るもの」
エアルドフリスを中心に高密度のマテリアルが集まる。
契約精霊の存在感が増す。覚醒時に湿る程度だった水分が実体化し雨滴となりさらに集まり水弾と化す。
「恩恵と等しき災禍を齎せ」
水弾が消える。
上昇中のワイバーンが下から巨大な拳で殴られたかのように上に飛び、すぐに勢いが衰え自由落下していった。
「カイジュー映画に生身に登場した気分デスヨ」
ヒズミ・クロフォード(ka4246)は肩をすくめホルスターから拳銃を抜く。
リザードマン隊の動きが止まっている。
彼等には無敵に見えていた、絶命直前の状態で落ちてくる竜種を呆然と見上げている。
「ここは通行止めデス」
拳銃の割には大威力の銃を両手で構えて連射する。
命を奪うためではなく足止めを目的とした威嚇射撃だ。
リザードマンにとり見慣れぬ武器であり被害も皆無。侮ってまずはヒズミを仕留めようとするが、仕留めるため動き出した時点で勝敗は決まっていた。
動けない。
牽制射撃を回避したものも牽制に引っかからなかったものもいる。
しかし半数は動けず部隊として行動は極めて困難だ。
ヒズミは後退しながら射撃を継続。
今度は確実に当てて射程内の弓兵を片づけ、腰に固定したトランシーバー経由で方向に指示を出す。
「ドライバーさン、一旦後退しテ」
高速飛行するワイバーンのせいで戦場が当初予想より広がっている。
1台のトラックが全力後退。残る3台もブレスを警戒して回避行動をとりながら後退と射撃を交互に行う。
トラックに視線を向け射撃して指示を出しまた射撃するのを繰り返すとバイクに乗っても速度は出し辛い。
無事な槍リザードマンと回復した重装リザードマンが左右から迫る。大柄の歪虚が両手を広げて組み付こうとし、槍持ちが短く持った槍で喉に狙いを定めた。
「対策無しな訳ナイデスヨ」
一歩横に跳んで組み付きを回避。
槍が胸を掠めるが防弾ベストに当たって有効打にならない。
「ホラ」
槍歪虚まで十数センチに迫って至近距離からの射撃を決行。
歪虚は低く呻いて槍を取り落とした。
「そっちは南東じゃ有りマセン!」
トラックの位置に気づいて悲鳴をあげるが目の前の歪虚を無視も出来ない。
立ち上がる途中だったイコニアから正のマテリアルが噴出する。
未浄化地帯に突っ込もうとしたトラックの侵攻方向に達して負のマテリアルを押し流し、運転手が気絶以上の重篤な状況になるのを防ぐ。
『浄化能力者カ!』
自身の血でまみれたワイバーンが吠えた。
重要部位に多数の弾を撃ち込まれながら大きく口を開け、わずかに残った力を集めて全力で打ち出した。
イコニアの表情が固まる。炎の濁流が近づいてくる。
避けられない。マテリアルが抜けた直後の体は思うように動かないし掠めただけで枯れた藁のように燃え上がるのは確実。
奥歯がみしりと鳴り視界全てを炎が覆った。
「……熱くない」
「イコニアさん下がって。複数方向から攻められたら防ぎきれません」
カイン・マッコール(ka5336)が、巨大な両手剣を盾の如く掲げて炎を受け止めていた。
「だいっ」
口から出かけた大丈夫ですかという言葉を途中で飲み込む。
「この場はお願いします」
カインは兜の下で微かにほほえむ。
彼を気遣って時間を無駄に使うより自力で逃げて彼の負担を軽減しようとしている。実に戦いやすい。
それに、感謝する気配は感じられたので思ったより快適だ。
『アノ女ヲ殺』
ワイバーンが潰され命令が途切れる。
残存リザードマンの動きが変わりイコニアに向かい始める。
「鎧があるから、簡単に即死はしません、だから僕の持てる力のすべてを使って奴らを殺して貴女を守るだけです」
走る少女司祭の背後を固め、殺到する歪虚をひたすら防ぎ続けた。
●3日目の夜
リーラ・ウルズアイ(ka4343)が到着したときには既に日が暮れていた。
歩哨の兵士と挨拶を交わしてキャンプの中心へ向かう。
馬が牽く借り物のリヤカーには薪や水、新鮮な食材がみっちり詰め込まれている。
中心に近づくと聞き一定のリズムで何かを打つ音が聞こえてきた。
汁と何かをすする音も多数……おそらく10以上。
「野菜は置いておくわね」
小規模浄化拠点の中心中の中心にはバルドゥル(ka5417)がいた。
調理台の上で生地を捏ねて打って打って、軽く撫でて満足げにうなずいた。
「助かった」
実感が凄まじく籠もっている。
初日に大量に持ち込んだはずの生鮮食品が1食で無くなった。やりくしてももう限界だ。
「私の方も足りなくなってたしね。じゃ、頑張って」
軽く手を振って去るリーラと入れ替わりに、目に異様な光を浮かべた野郎共が現れた。
どんぶり状のうつわを抱え、壊れた機械の如くおかわりという単語を繰り返している。
「汁モノの鍋3つ食い尽くしてまだ食うか」
新しく作り始めてはいるが出汁を取っている最中だ。
「そこの蓋を開けろ」
粉で白くなった指で示す。
相変わらずの兵士達がのろのろ動いて地面に埋まった鉄蓋を開ける。
すると濃厚な焼きたてパンと弾ける脂の香りが爆発的に押し寄せた。
穴を掘り、穴全体に小石を敷き詰め、熾火とパン生地や食材を配し一気に焼き上げる、バルドゥルの知る伝統的な料理法だ。
「指揮官だろう。惚けてないで不満のないよう分配しろ」
「……はっ!?」
一際体格のよい男がようやく正気に戻った。
バルドゥルに深く頭を下げた後、周囲の覚醒者を怒鳴りつけ列を作らせ自分は生唾を飲み込み熱いパンと肉を切り分けにかかる。
「気力は回復したか」
魚で取った出汁は彼としては及第点。
リーラが補充してくれた野菜を短時間で火が通るサイズに切り、打った生地を同じく小さくちぎって鍋に入れていく。
濃厚なスープに多数のすいとんが浮かび、男達の腹から一斉に音が鳴った。
そんな癒やし空間から20メートル北では緊迫した空気が満ちていた。
「この前は、申し訳ありませんでした、あれは後ろから来られたので反応しただけで、聞かれた時は条件反射で答えてしまったので、傷つけるつもりはなかったんです。」
深く頭を下げたカインの前で、イコニアは困り顔だ。
「大丈夫です。謝罪は受け取ります。頭を上げてください」
冷や汗が酷い。
前回の戦場での出来事は不幸な事故だ。戦場に長期間イコニアが汚れるのは当然でカインはうっかり事実を指摘しただけなのだから。
「イコニアさんは、綺麗な方だと僕は思ってます。……失礼しましたっ」
顔を伏せたま外へ駆けていくカイン、目を丸くして見送るイコニア。
今私青春っぽい……と密かに感動する彼女の耳に、彼女自身のものではない黄色い声が届いた。
「司祭様、案外手が早いのです」
「わたしも狙ってたのにぃ」
女性の用のテントから、聖堂戦士団の女性陣が顔だけ出していた。
一瞬狼狽したイコニアだがすぐに違和感に気づく。
顔だけだ。まるで首から下には何もつけていないような気配がある。
「失礼します」
司祭という立場上無視も出来ないと判断。テントに近づき慌てる女性陣を無視して中に入った。
「あら」
ルシェン・グライシス(ka5745)と目が合う。
ローブは大胆にはだけられ、妖艶な体を隠す白のチャイナドレスがランプの光に照らされている。
手にあるのはシャッフル途中のトランプ。
温かそうな絨毯の上にはグラスが置かれていた。
「見学していく?」
ルシェンは悠然とカードを配る。
受け取るのは先ほどの女性陣と2人の少年、全員下着のみで健康的な肌をさらしている。
「事情を聞くべきでしょうか」
イコニアは出来れば見なかったことにしたいと目で語る。
「こんな窮屈な場所で己の欲望も満たされないんじゃストレスが溜まるのは当然よ、だからほんの一時でも楽しまないとね」
ルシェンは容赦なく事実を口にする。
ご覧の通りのものを賭けてのレクリエーション続行中だった。
「イコニアさんにはまだ早いわね」
新しい瓶を開けて聖堂戦士団女性陣のグラスに注ぐ。
アルコールで暖まった複数の若い体が、アルコール以外の理由で甘い香りを放っていた。
「ほんの一夜でも貴方達の欲望を満たしてあげるわ、勿論快楽もを満たしてあげても良くてよ?」
一同の目を覗き込み、最後にイコニアへ悪戯っぽい目配せする。
「ご、ごゆっくり」
白い顔を真っ赤に染めて、少女司祭は何もかもを見なかったことにして退散していった。
●最終日
7日目。浄化とそれに伴う戦闘を終えたハンター達が戻ってくると、男以外が風呂に引っ張り込まれた。
「せっかくお風呂沸かして待ってたんだからとっとと入って汚れを落としてきなさい!」
リーラは奪った服を綺麗に畳んで籠に入れる。
イコニアは湯船に向かい、透き通るお湯が湯船を満たしているのを見て驚愕した。
泥水同然を覚悟していたのに透明だ。
「工夫するに決まっているでしょ?」
リーラは火に薪を足しながら排水溝から繋がったポリタンクを見た。
目視すれば正気が削られるものが詰まっているはずだ。
「後2回は焚けるね」
新しいポリタンクに取り替え、異臭のする方に軽くマテリアルを浸透させる。
水が持つ本来の性質が呼び覚まされて、異臭は消え美しい水だけが残された。
「ふわー」
「とけるー」
「一杯欲しいわね」
上から司祭、シスター、エルフ聖導士である。
適温なお湯で心身が癒されているようで非常に色っぽい。
リーラは薪を2本足して更衣スペースに向かい、脱衣し荷物を持って湯船に入る。
「お風呂上りは冷えたお酒よね」
どうよと複数種類の瓶を見せる。
「でも未成年者はダメよ」
一番目を輝かせていた司祭が肩を落とす。セリスが何故か落ち着かない様子で紅茶がいいと言い、真司がいるはずの方向に湯で火照った顔を向けた。
骨が凍り付き血の流れが止まる。
それは錯覚だ。同時に数分後ならあり得る現実でもあった。
「いやはや、相当に過酷な状況だね」
エアルドフリス(ka1856)は無意識にペンダントに触れていた。
雪原には多数のリザードマンが隠れている。
ワイバーンなどの竜種歪虚が到着してから攻め寄せるつもりなのだろう。
半分にカットされた硬貨を撫でてからハンドルを切る。
タイヤが細かな雪を撥ね除け強靱な車体がエアルドフリスを南へ運ぶ。
この場の歪虚は剣と魔術のみの時代しか知らない。魔導バイクの速度は予想外で追うための手段を1つも持っていなかった。
直線距離で100メートル動いた時点で壮絶な寒さが消える。歪虚汚染地帯を抜けたのだ。
「歪虚ですね! 分かりました今すぐっ」
トランシーバー越しに報告を受け、曇りの無い笑顔で駆け出そうとするイコニア・カーナボン(kz0040)。行く手を塞ぐ形でバイクを止めたエアルドフリス。
「人には役割ってもんがある。聡明なお嬢さんにはお解りと思うが」
バイクから降り、目の高さをあわせて穏やかに指摘する。
はいとうなずく少女の顔が、主に羞恥でほんのり赤くなっていた。
「北西よりワイバーンらしきもの3接近中。射撃の準備を始めてくれ」
柊 真司(ka0705)が空を見つめながらトランシーバーに語りかける。
数十メートル後方にいた魔導トラックの荷台で、運転席から操作される大型機関銃が北西方向を指向した。
北西の空に浮かぶ黒点に、小さいけれどまばゆい光がうまれる。
その光は急速に広がって真司とトラックの中間地点に着弾。表面の雪を吹き飛ばし分厚い氷の層を溶かし、深さ数メートルの穴を大地に穿った。
「あっ」
後退中だったイコニアが躓いてこけた。
宙で体を捻って穴への転落を回避はしたものの頭から雪原にぶつかってしまう。
後方の大型機関銃が大量の弾をはき出す。
曳光弾による光の線3つはワイバーンに掠りもせず、しかし残る1つが一瞬だけ胸部を横切り鱗と火花を散らした。
「このまま行けるか?」
『無理っす。命中率はこちらが上でも奴らの方が威力も装甲も高くてっ、て来たぁっ!?』
トランシーバーが運転手の言葉と悲鳴を伝えてくる。
ワイバーンの回避のための動きに怒りが混じり、最初は銃弾に当たった1体が、数秒の後に残り2体が速度最優先で魔導トラックに向かい加速する。
「イコニア、浄化を」
真司はどこまでも冷静に指示を出す。
「ふぁい」
頭を雪に埋めたまま、手首を器用にまわしてメイスを振るう。
形の無い風が吹き抜ける。百年単位でこびりついていた負のマテリアルが直径数十メートルの範囲で完全に消滅した。
「セリス、出番だ。俺は」
機関銃を斜め上方へ向け引き金を引く。
連続して5発の銃弾が発射される。銃を構えた腕はびくともしない。
宙に5つの火花が散って、胸の鱗を砕かれたワイバーンが悲鳴をあげた。
トラック一台が急進しイコニアのすぐ側で急停止する。
そして、荷台から大きな鉄の塊が雪原に飛び降りた。
「イコニア君、無理はしちゃだめよー」
雪原が揺れ少女司祭の体が少し跳ねてころりと横向きになる。
セリス・アルマーズ(ka1079)が重いのでは無い。大型盾と鎧のが重すぎるのだ。
「地上からも歪虚が向かってきてるから注意するのよー」
軽く言って右腕を空に向ける。
ひたすら威力を追求した大口径ライフルだ。どう考えても片手で扱う武器では無いのに扱う手つきにつたなさは無い。
「というわけで空飛ぶ蜥蜴ども、あっつあつの弾をご馳走してあげる!」
轟音が響いて無傷の1体の腹に小さな穴が開く。
竜種は悲鳴をあげながら大きく口を開いて急降下。
トラックを潰すのは諦めてセリスを狙い、2メートルの距離まで迫った。
真司が魔導機械を起点に3つの光を伸ばす。全長8メートル越えの巨大な的が貫かれる。
「あ、ありがと」
予想より近い距離に気づいて返事が遅れる。
そうしている間にも、雪原を滑るようにリザードマンが近づいていた。
最も遠くの個体は弓を構え、厚い鎧に身を固めたリザードマンは着実に、短槍1本のみを装備した軽装歪虚は一直線にセリス達に近づく。
最も近い1つはセリスの最低射程の内側にまで入り込んでいた。
「舐められたものね。360度全距離私の間合いよ!」
面で広がるセイクリッドフラッシュは回避が困難であり、速さに反比例して脆い軽装リザードマン達が焼かれて倒れた。
「まったく……」
頭上の竜種からの炎を躱し術で応戦しつつ真司が内心愚痴る。
また危なっかしい戦い方しやがって、イコニアが変な影響受けたらどうすんだよ、と。
彼の懸念は当たっている。イコニアは倒れたまま、きらきらした目を人間サイズCAMに向けていた。
●空陸の歪虚
ワイバーンがはばたく。
魔導トラック、正確にはその荷台に搭載された機銃への攻撃を諦め、他の2体を真司達への生け贄に差し出し高度を上げて逃げようとした。
「均衡の裡に理よ路を変えよ。天から降りて地を奔り天に還るもの」
エアルドフリスを中心に高密度のマテリアルが集まる。
契約精霊の存在感が増す。覚醒時に湿る程度だった水分が実体化し雨滴となりさらに集まり水弾と化す。
「恩恵と等しき災禍を齎せ」
水弾が消える。
上昇中のワイバーンが下から巨大な拳で殴られたかのように上に飛び、すぐに勢いが衰え自由落下していった。
「カイジュー映画に生身に登場した気分デスヨ」
ヒズミ・クロフォード(ka4246)は肩をすくめホルスターから拳銃を抜く。
リザードマン隊の動きが止まっている。
彼等には無敵に見えていた、絶命直前の状態で落ちてくる竜種を呆然と見上げている。
「ここは通行止めデス」
拳銃の割には大威力の銃を両手で構えて連射する。
命を奪うためではなく足止めを目的とした威嚇射撃だ。
リザードマンにとり見慣れぬ武器であり被害も皆無。侮ってまずはヒズミを仕留めようとするが、仕留めるため動き出した時点で勝敗は決まっていた。
動けない。
牽制射撃を回避したものも牽制に引っかからなかったものもいる。
しかし半数は動けず部隊として行動は極めて困難だ。
ヒズミは後退しながら射撃を継続。
今度は確実に当てて射程内の弓兵を片づけ、腰に固定したトランシーバー経由で方向に指示を出す。
「ドライバーさン、一旦後退しテ」
高速飛行するワイバーンのせいで戦場が当初予想より広がっている。
1台のトラックが全力後退。残る3台もブレスを警戒して回避行動をとりながら後退と射撃を交互に行う。
トラックに視線を向け射撃して指示を出しまた射撃するのを繰り返すとバイクに乗っても速度は出し辛い。
無事な槍リザードマンと回復した重装リザードマンが左右から迫る。大柄の歪虚が両手を広げて組み付こうとし、槍持ちが短く持った槍で喉に狙いを定めた。
「対策無しな訳ナイデスヨ」
一歩横に跳んで組み付きを回避。
槍が胸を掠めるが防弾ベストに当たって有効打にならない。
「ホラ」
槍歪虚まで十数センチに迫って至近距離からの射撃を決行。
歪虚は低く呻いて槍を取り落とした。
「そっちは南東じゃ有りマセン!」
トラックの位置に気づいて悲鳴をあげるが目の前の歪虚を無視も出来ない。
立ち上がる途中だったイコニアから正のマテリアルが噴出する。
未浄化地帯に突っ込もうとしたトラックの侵攻方向に達して負のマテリアルを押し流し、運転手が気絶以上の重篤な状況になるのを防ぐ。
『浄化能力者カ!』
自身の血でまみれたワイバーンが吠えた。
重要部位に多数の弾を撃ち込まれながら大きく口を開け、わずかに残った力を集めて全力で打ち出した。
イコニアの表情が固まる。炎の濁流が近づいてくる。
避けられない。マテリアルが抜けた直後の体は思うように動かないし掠めただけで枯れた藁のように燃え上がるのは確実。
奥歯がみしりと鳴り視界全てを炎が覆った。
「……熱くない」
「イコニアさん下がって。複数方向から攻められたら防ぎきれません」
カイン・マッコール(ka5336)が、巨大な両手剣を盾の如く掲げて炎を受け止めていた。
「だいっ」
口から出かけた大丈夫ですかという言葉を途中で飲み込む。
「この場はお願いします」
カインは兜の下で微かにほほえむ。
彼を気遣って時間を無駄に使うより自力で逃げて彼の負担を軽減しようとしている。実に戦いやすい。
それに、感謝する気配は感じられたので思ったより快適だ。
『アノ女ヲ殺』
ワイバーンが潰され命令が途切れる。
残存リザードマンの動きが変わりイコニアに向かい始める。
「鎧があるから、簡単に即死はしません、だから僕の持てる力のすべてを使って奴らを殺して貴女を守るだけです」
走る少女司祭の背後を固め、殺到する歪虚をひたすら防ぎ続けた。
●3日目の夜
リーラ・ウルズアイ(ka4343)が到着したときには既に日が暮れていた。
歩哨の兵士と挨拶を交わしてキャンプの中心へ向かう。
馬が牽く借り物のリヤカーには薪や水、新鮮な食材がみっちり詰め込まれている。
中心に近づくと聞き一定のリズムで何かを打つ音が聞こえてきた。
汁と何かをすする音も多数……おそらく10以上。
「野菜は置いておくわね」
小規模浄化拠点の中心中の中心にはバルドゥル(ka5417)がいた。
調理台の上で生地を捏ねて打って打って、軽く撫でて満足げにうなずいた。
「助かった」
実感が凄まじく籠もっている。
初日に大量に持ち込んだはずの生鮮食品が1食で無くなった。やりくしてももう限界だ。
「私の方も足りなくなってたしね。じゃ、頑張って」
軽く手を振って去るリーラと入れ替わりに、目に異様な光を浮かべた野郎共が現れた。
どんぶり状のうつわを抱え、壊れた機械の如くおかわりという単語を繰り返している。
「汁モノの鍋3つ食い尽くしてまだ食うか」
新しく作り始めてはいるが出汁を取っている最中だ。
「そこの蓋を開けろ」
粉で白くなった指で示す。
相変わらずの兵士達がのろのろ動いて地面に埋まった鉄蓋を開ける。
すると濃厚な焼きたてパンと弾ける脂の香りが爆発的に押し寄せた。
穴を掘り、穴全体に小石を敷き詰め、熾火とパン生地や食材を配し一気に焼き上げる、バルドゥルの知る伝統的な料理法だ。
「指揮官だろう。惚けてないで不満のないよう分配しろ」
「……はっ!?」
一際体格のよい男がようやく正気に戻った。
バルドゥルに深く頭を下げた後、周囲の覚醒者を怒鳴りつけ列を作らせ自分は生唾を飲み込み熱いパンと肉を切り分けにかかる。
「気力は回復したか」
魚で取った出汁は彼としては及第点。
リーラが補充してくれた野菜を短時間で火が通るサイズに切り、打った生地を同じく小さくちぎって鍋に入れていく。
濃厚なスープに多数のすいとんが浮かび、男達の腹から一斉に音が鳴った。
そんな癒やし空間から20メートル北では緊迫した空気が満ちていた。
「この前は、申し訳ありませんでした、あれは後ろから来られたので反応しただけで、聞かれた時は条件反射で答えてしまったので、傷つけるつもりはなかったんです。」
深く頭を下げたカインの前で、イコニアは困り顔だ。
「大丈夫です。謝罪は受け取ります。頭を上げてください」
冷や汗が酷い。
前回の戦場での出来事は不幸な事故だ。戦場に長期間イコニアが汚れるのは当然でカインはうっかり事実を指摘しただけなのだから。
「イコニアさんは、綺麗な方だと僕は思ってます。……失礼しましたっ」
顔を伏せたま外へ駆けていくカイン、目を丸くして見送るイコニア。
今私青春っぽい……と密かに感動する彼女の耳に、彼女自身のものではない黄色い声が届いた。
「司祭様、案外手が早いのです」
「わたしも狙ってたのにぃ」
女性の用のテントから、聖堂戦士団の女性陣が顔だけ出していた。
一瞬狼狽したイコニアだがすぐに違和感に気づく。
顔だけだ。まるで首から下には何もつけていないような気配がある。
「失礼します」
司祭という立場上無視も出来ないと判断。テントに近づき慌てる女性陣を無視して中に入った。
「あら」
ルシェン・グライシス(ka5745)と目が合う。
ローブは大胆にはだけられ、妖艶な体を隠す白のチャイナドレスがランプの光に照らされている。
手にあるのはシャッフル途中のトランプ。
温かそうな絨毯の上にはグラスが置かれていた。
「見学していく?」
ルシェンは悠然とカードを配る。
受け取るのは先ほどの女性陣と2人の少年、全員下着のみで健康的な肌をさらしている。
「事情を聞くべきでしょうか」
イコニアは出来れば見なかったことにしたいと目で語る。
「こんな窮屈な場所で己の欲望も満たされないんじゃストレスが溜まるのは当然よ、だからほんの一時でも楽しまないとね」
ルシェンは容赦なく事実を口にする。
ご覧の通りのものを賭けてのレクリエーション続行中だった。
「イコニアさんにはまだ早いわね」
新しい瓶を開けて聖堂戦士団女性陣のグラスに注ぐ。
アルコールで暖まった複数の若い体が、アルコール以外の理由で甘い香りを放っていた。
「ほんの一夜でも貴方達の欲望を満たしてあげるわ、勿論快楽もを満たしてあげても良くてよ?」
一同の目を覗き込み、最後にイコニアへ悪戯っぽい目配せする。
「ご、ごゆっくり」
白い顔を真っ赤に染めて、少女司祭は何もかもを見なかったことにして退散していった。
●最終日
7日目。浄化とそれに伴う戦闘を終えたハンター達が戻ってくると、男以外が風呂に引っ張り込まれた。
「せっかくお風呂沸かして待ってたんだからとっとと入って汚れを落としてきなさい!」
リーラは奪った服を綺麗に畳んで籠に入れる。
イコニアは湯船に向かい、透き通るお湯が湯船を満たしているのを見て驚愕した。
泥水同然を覚悟していたのに透明だ。
「工夫するに決まっているでしょ?」
リーラは火に薪を足しながら排水溝から繋がったポリタンクを見た。
目視すれば正気が削られるものが詰まっているはずだ。
「後2回は焚けるね」
新しいポリタンクに取り替え、異臭のする方に軽くマテリアルを浸透させる。
水が持つ本来の性質が呼び覚まされて、異臭は消え美しい水だけが残された。
「ふわー」
「とけるー」
「一杯欲しいわね」
上から司祭、シスター、エルフ聖導士である。
適温なお湯で心身が癒されているようで非常に色っぽい。
リーラは薪を2本足して更衣スペースに向かい、脱衣し荷物を持って湯船に入る。
「お風呂上りは冷えたお酒よね」
どうよと複数種類の瓶を見せる。
「でも未成年者はダメよ」
一番目を輝かせていた司祭が肩を落とす。セリスが何故か落ち着かない様子で紅茶がいいと言い、真司がいるはずの方向に湯で火照った顔を向けた。
依頼結果
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/03/08 08:42:49 |
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イコニア嬢に質問 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/03/07 09:02:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/03 01:57:06 |