【選挙】第一回帝国皇帝選出総選挙

マスター:DoLLer

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/16 22:00
完成日
2014/09/27 06:07

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

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ゾンネンシュトラール帝国 皇帝選出総選挙
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騎士議会第一級議題による議決事項として、次期皇帝を選出するための選挙を次の要領で執り行う。

1.選出
 騎士皇 1名

2.候補者名
 立候補期間中に正式に届出をした者の氏名を記載する。

 ・ヴィルヘルミナ・ウランゲル(現騎士皇)
 ・ゼナイド(帝国第十師団長)
 ・ユレイテル・エルフハイム(エルフハイム役人)
 ・クリームヒルト・モンドシャッテ(旧帝国第一王女、現一般人)

3.投票
 (1)有権者資格
   ア、帝国国内に住居する満15歳以上の者(種族は不問)
   イ、ハンター登録を済ませた者の内、代表として投票を希望する者

 (2)投票方法
   無記名文書投票。投票用紙は身分証明の上、発行される所定の用紙に限る。
   投票の際は、候補者名を記入すること。
   判別できる限りは略称も可。
   候補者名以外の名前を記載した場合は無効とする。

 (3)投票場所
   ア、コロッセオ・シングスピラ
   イ、グライシュタット
   ウ、マーフェルス
   エ、カールスラーエ要塞
   オ、北海鎮主府
   カ、サンクト・ケルテンブルク
   キ、ベルトルード
   ク、北アベロワーニュ要塞
   ケ、南アベロワーニュ要塞
   コ、アネリブーベ

4.開票および結果の告示
 (1)開票
   開票は各投票所で開票し、コロッセオ・シングスピラ内で集計を行う。有権者はこの開票に立ち会うことができる。

 (2)当選者および次点者の順位決定
   細則x条規定によるが、当選者と次点者の得票数が同数となった場合は、決選投票を行う。

 (3)開票結果の告示
   開票結果は帝国各都市およびAPV内にて掲示する。

(以下、細則および投票管理にかかる表記云々のため、省略)

以上
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 投票所となるコロッセオ・シングスピラでは、現皇帝のヴィルヘルミナ・ウランゲルとクリームヒルト・モンドシャッテが選挙演説を行っているところだった。
 長いようであっと言うまであった選挙演説も終わろうとしていた時であった。ひと段落して居場所に困っていたクリームヒルトにヴィルヘルミナが声をかける。
「しかし、よく選挙に出てくれる気になったな」
 何気ない一言だった。しかし、革命の英雄である親をもつヴィルヘルミナに対して、クリームヒルトの方はその革命を受けて滅んだ王権が親である。敵愾心を持つわけではないが、返す言葉にも気は使ってしまう。
「出ないと、地方のこと伝えられませんもの。わたしに期待してくれる人もいるから、それを棒に振るわけにはいかないですから」
「その歳でそう思えるとは大したものだな。私が貴様くらいの年齢の時はまだ、自分のやりたい事を優先していたな」
 ヴィルヘルミナは少し懐かしむようにしてそう言ったのをクリームヒルトは少し不思議そうな顔をした。
「やりたい事? わたしは……」
 その語尾は遠くで巻き起こった怒号によってかき消されてしまった。
「仲間を返せ! 選挙には帝国国民なら誰でも参加できるんじゃないのか!!」
「お前たちのやってる選挙は結果ありきの選挙だ!」
「帝国の誇りはどこいった!」
 多くの人間がそう言って、中に押し入ろうとし、それを兵士たちがバリケードを作ってせき止める。地方から選挙に出向いた何も知らない人達は驚き、かといえ、投票所内に入ることもできず、遠巻きに眺めているのが二人の目に映った。
「いったい、どうしたんだ?」
「みんな、どうしたの!?」
 事態の全体を見極めるようにして見下ろすヴィルヘルミナの元を立ってクリームヒルトは駆け下りて群衆の中に交じって行った。小さな彼女の姿はことごとく冷静さを取り戻させ、数度の呼びかけで、あたりの狂乱は収まってしまった。
「クリームヒルト様だ……」
「ひ、姫様! お聞きください。帝国の兵士が私たちの仲間を連れ去って行ったのです。奴らは器物損壊罪だと言っていました。一人や二人じゃありません、何十人もですよ! 奴らは公平なる選挙などやる気はないんですよ! 投票を通して旧帝国に加担する人間をあぶりだして、根絶やしにするつもりなんです」
「今は姫じゃないから。えっと、この選挙中は言論の自由は認められているけど、物を壊したり、人に害を与えることは禁止されているのよ?」
 男の言葉を聞いた後、少し考えてクリームヒルトは話した。彼らが自分に期待してくれる人達であることはそのセリフで理解できたが、そのまま彼らの言葉を鵜呑みにするわけにもいかない。人間は理想の為に危害を及ぼす、幼い時に自分が追われる立場となった革命を目の当たりにした彼女が得た経験だ。
「私たちが詰めかけたこと拍子にゴミ箱一つが倒れただけで器物損壊ですよ! それで私たちは殴られなければならないんですかっ! 何のために?」
 男が指さすところには確かに倒れたゴミ箱があり、その周りには微かに血のような飛沫がついているのが見える。これを気にして問いただしたのはクリームヒルトではなく、ヴィルヘルミナだった。
「それは本当の事か?」
「はっ、器物損壊をしたことには間違いはございませんっ。彼らは壁を壊そうとする、我々に殴りかかるなど、相当に暴れて手が付けられない状態でした。しかし私たちが暴力を振るった事実はございませんっ」
「事実を隠ぺいするつもりか! 帝国の腐敗はやはり中央にその本質があるんだ!!」
 ヴィルヘルミナに敬礼をした兵士の言葉に人々は激昂する。一時的に収まっていた怒号が再び息を吹き返し、あっという間に、周りの空気を塗り替えていく。
「やめ、やめな、……っ」
「止めておけ、こうなると人は耳も目も届かぬ」
 飛び込もうとするクリームヒルトをヴィルヘルミナが止めた。
「届かないってこんなに近くにいるのよ? こんな近くにいる人の憎しみや悲しみを救えないで、何が立候補者よ!」
 あまりの剣幕に頭一つ分ほど背の高いヴィルヘルミナもややのけぞるようにしてその言葉を受け止める。
「慌てるな。しかし、オズワルドの部下が不当な暴力を振るうとも思えん。兵士……だと、そちらが納得しないだろうな。ハンターに依頼しよう。ハンターソサエティを代表して投票権を持った者が近くに来ているはずだ。探して、仲裁に協力してもらうか。暴力沙汰についてはこちらも責任をもって調査にあたろう」
 ヴィルヘルミナは何かを思いついたような顔をして、兵士にその旨を告げたのであった。

リプレイ本文

「投票権をダシに歴史的状況を見物に来たんだが……そう易々とは行かん様だな」
 パイプから紫煙をくゆらせながらエアルドフリス(ka1856)は呟いた。見物に来てみれば突然の仕事を任されたのだから、思わずそう漏らすのも仕方のないことだ。
「そんな悠長に構えてないで、さっさと手伝ってくれ。完全に暴徒になる寸前だぞ、こりゃ」
 種々の道具をコロッセオ・シングスピラの観客席へ運ぶとリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)がエアルドフリスに声をかけた。樽だの鉄パイプだので、なかなか重そうである。
「ああ、悪い。後は何があったかな」
 エアルドフリスは入り口に戻ると、ハンターの仲間達が持ち込んだ道具を確認する。バケツ、樽、パイプ、バット、三味線やギターまである。
「ふふふふ、腕がなるわ……、このソウル魅せてあげるわ」
 ジュウベエことJyu=Bee(ka1681)はギターを手にほくそえんでいた。
 やれやれ、どうなることやら、と思ったのは一人ではあるまい。
 道具を一律に揃え、騒いでいるデモ隊を眼下にし、観客席に陣取ったハンター達の姿はさながらオーケストラの楽団の様でもあった。ただし、見た目はかなり壊れているが。むしろ新たなデモ隊とか、過激派とか呼ばれる可能性の方が高いかもしれない。
「準備はいいか?」
「あ、ちょっと待ってくれ。子供たちの整列がまだだから」
 ユリアン(ka1664)は観客席への入り口に移動すると、誰かを呼んだ。それに応えて出てくるのは親同伴3歳から10歳くらいの子供たち。外で兵士とデモ隊の衝突を様子を見守っていた彼らをユリアンが呼びかけたのだ。
「いいか、あのお兄さんの合図で、一斉に鳴らすんだぞ」
「なんかもう、合唱団っぽいな……あー、これで準備完了だな」
 子供たちにユリアンが手筈を教え込む中、用意した樽だの何だのを渡したリカルドはぼそりと呟いた。
「それじゃ、いくぞ。大切なのはタイミングだ」
 兵士に盛んに突っかかるデモ隊。これを止めるには個々に対応していてもキリがない。一瞬でイニシアティヴを奪ってしまわなければならないのだから。
 エアルドフリスは下に待機しているジュード・エアハート(ka0410)と軽く動作だけで合図を交わした。下も準備は整っているようだ。
「1、2……3!」

 空気が派手に震えた。

 レム・K・モメンタム(ka0149)は音の波動が鼓膜だけでなく、皮膚や骨も振るわせているのをしっかり感じていた。そして耳栓持ってくれば良かったとも。
 音の効果は抜群だった。デモ隊の喧騒など一瞬で吹き飛ばし、音の発生源にほど近い場所にいた人間は文字通り『跳ね上がる』ほどだった。拳を突き立てていたものは瞬間的にその手を耳に移動させるし、あまりの驚きにひっくりかえるものまでいた始末だ。デモという好戦的な環境下でなければ何人かは卒倒してたものもいたかもしれない。
騒音はなり終わり、突然の静寂の帳が落ちる中、レムが叫ぼうとした。が、やおら始まる、津軽じょんがらぶしの音色に始まる天竜寺 詩(ka0396)の三味線が響く。
「まぁまぁ、落ち着いて。それでは一曲歌います。津軽じょん……」
 やおら始まる、津軽じょんがらぶしの音色に始まる天竜寺 詩(ka0396)の三味線が響く。
「目的変わってんでしょ!」
 レムはデモ隊に向かって叫びながら、ついでに三味線を弾く天竜寺の脇腹に肘をいれる。
「や、ちゃんとすぐにケンカはやめてー♪ って歌にするつもりでしたよ?」
「ジュウベエちゃんの歌を、ききやがれーー!」
 天竜寺が弁解する横でハードロックな音色を奏でるギターをもって叫ぶジュウベエちゃん。
「あんたも!! 喋らせろ!」
 つい、ツッコミを入れてしまうレム。その僅かなスキにデモ隊の一部が正気を取り戻す。
 デモ隊の空気が変わったことに、ジュウベエちゃんはギターを下ろして不敵な笑みを浮かべた。彼らの敵意のベクトルを変えることに成功したことを感じていたからだ。
「なんなんだお前らは! 選挙を妨害するつもりかっ。この非常識な奴らめっ」
 自分たちのことを棚に上げて妨害だの、非常識だののたまうデモ隊の人間にレムはブチ切れた。
「アンタッ、ら、はぁぁぁぁぁぁぁ――――! ブチ壊しに来たのはどっちなのよォォォォ!! 選挙に来たんじゃないの!」
 あまりの感情の高ぶりで涙がにじみ視界が揺らぐが、そんなこともお構いなしに叫んだレムの気迫にさざめていたデモ隊は完全に押し黙ってしまった。その背後で、天竜寺が奏でる心を穏やかにさせる音ははるか向こう側まで十分に届いている実感があった。
「誰を応援しているかはすぐわかるさ。だが、その本人が目の前にいるんだぜ? この状況じゃどういう影響があるかわかるだろ?」
 バットで盾を打ち鳴らしていた鳴神 真吾(ka2626)は静かにそう言って、後ろにまだ投票できない人達がいることを示唆した。
「話は下にいる奴が決着してくれるだろうからさ、とりあえず道空けてやりな」
 鳴神の静かな声色に、ほんの少しだが、列の端に空白ができた。事態は進展を見せたようだ。
 そんな中で、鳴神が下で待機していた組に手を振った。後はよろしく、と。


「お気持ちは解りますが落ち着いて!一般市民の方にまで被害がでますよ」
 階上からの指示を受けたジュードは開口一番そう告げた。
「帝国のことを思うならその一票で示そうよ。せっかく一人一人の意見が直接伝わる制度になったんだよ。力で示したら意味がないんだよ」
 続いてルア・パーシアーナ(ka0355)がデモ隊の説得にあたっていた。しかし、一時は不意を打たれて落ち着いたかに見えたデモ隊も心に抱く熱意が冷めたわけではない。ルアが言葉を続けるうちにもどんどん目つきが剣呑になっていく。
「力を示しているのはどっちだ? 国民に選ばせるとかのたまいながら、自分たちが意図していない人間に対する投票を防ごうとしているのはそっちじゃないか!」
「そーっす、そーっす! ふざけるなーっす!」
 野次が飛ぶと、次々と同意を示す声が上がった。
「大人しくしてりゃ投票できるよう兵士どもに手は出させねえ。ただし、これ以上騒ぐんだったら保障はできないぞ」
 ヴィルナ・モンロー(ka1955)が声を張り上げる。ヴィルナの周りにいた人々は本当か? と訝しむ声を上げていたが、大人数すべてに声は届かない。ましてや、声の大きさでいうならデモ隊の方が大きい。冷静さを取り戻しかけた民衆もすぐに熱狂の中に再び取り込まれていく。
「結局、俺たちを抑え込みたいだけじゃないのか!?」
 見つけた。あれがサクラ、ね。
 アナスタシア・B・ボードレール(ka0125)はすぅっと目を細めて、一人の男に目を付けた。先ほどから誰よりも早くハンターの声に反応して叫んでいる。それも厄介な方向に。アナスタシアの見る限り、指揮官が一人、それに同調する者が数人離れて配置。後はガヤと言ったところだろうか。配置からしても単なる押しかけ集団ではないことは間違いない。
「どこに詰めればいい?」
 ザレム・アズール(ka0878)がアナスタシアに声をかける。指導者を対処しなければ、はっきりいってこの論争にケリはつかないと判断していたのはザレムも同じだった。
「最前列から3列目、中央にいる方でしょう。黒いシャツの……」
 アナスタシアが男の特徴を伝えている時だった。その男と一瞬目が合う。
 感づかれた。
 男は人ごみにまぎれるようにして姿を消してしまう。そうそう間抜けではないようだ。だが、その姿はしっかり確認できたザレムはアナスタシアの元を離れるとあっと言う間にデモ隊の中に紛れ込む。
「とりあえず、群衆を分割させないとな……交通整理、行くぞ」
「ええーっ、もう投票なんてどうでもいいじゃないですかぁ、帰りましょうよ、ねぇ」
 回れ右して帰ろうとするシュネー・シュヴァルツ(ka0352)にカグラ・シュヴァルツ(ka0105)と猫実 慧(ka0393)が回り込む。
「着いた瞬間に逃げようとする君も大概です。猫の餌を一人で買いに行きますか?」
「ああっ、ひどい、猫の餌にするとか、違った、猫を餌にするとか、卑怯です」
 なんとも悲壮な顔をするシュネーに、上泉 澪(ka0518)が声をかけた。
「ちょうどいいところに。一般人の投票できるよう整理をお願いします。今は一般人を端によってもらってますが、これをデモ隊の真ん中を割くように進んでもらいます」
「はぃ……え!?」
 ということは、恐ろしいデモ隊が背中と目の前のどちらにもいるわけで。その整理をするということは必然的にすごく危ない位置にいなくてはならないわけで。シュネーは今にも泣きだしそうになった。人間嫌いなのに人前に出ないといけない、しかもぎゅうぎゅう詰め、しかも怖そう。ああ、なんていう三重苦。
「まあ選挙に来ているだけなんだから。……まったく、ここにいる人間は何を求めて騒いでいるんだろうね」
 カグラは猫実と二人で、シュネーを挟み込むようにして列の切っ先に割り進んで行った。
「なんでこんな……俺らを分断させるつもりか」
「やっぱり無能な兵士じゃ取り締まるのは無理ってことだな」
 騒ぎの先頭に立った褐色の男は食って掛かるようにして三船・啓司(ka0732)に詰め寄った。見た目はデモ隊の人間そのものだが、三船はすぐにテオバルト・グリム(ka1824)であることを見抜いた。
「ああ、手を焼いているのは事実だな。兵士も仕事が終われば普通の人間だ。ここに兵士が集まっているのは君たちを妨害するつもりで来ているんじゃないんだ」
「そーっす、そーっす……、ん? なんか相手もなんか話の分かるヤツがいるっすね?」
 先ほどから野次を飛ばしていた神楽(ka2032)が小首を傾げる。威勢のいい彼がテンションを落とすと、一部のデモ隊も何事かと野次を飛ばすのを少し収めた。
「デモの中に新たな意見が出てきているようだ。すまない、ここで少し話し合いをさせてもらっていいだろうか?」
 ザレムがデモ隊から一歩歩み出て、三船を先頭とする兵士達に頭を下げる。その丁寧な姿勢に毒気を抜かれたのは兵士よりもデモ隊の方だった。
「ああ、話をするのは別に構わないが、ここでは邪魔になる。やるなら外で……」
「あーあ、杓子定規ってやつだねー、くだらねぇ」
 キー=フェイス(ka0791)は兵士の後ろでぼそっと呟く。
「なんだと!?」
 兵士が振り向いた瞬間にキーは兵士の足を軽く引っ掛けた。派手にバランスを崩した兵士はなぜかそこに置かれてあったゴミ箱を蹴り倒す結果となってしまった。
「あーあー、派手にヘコませちゃって。器物破損だな? 捕まえないとなー」
「話を大きくしてどうする。……まあ見ての通りだ。人間誰にだって間違いはある。リアルブルーでも選挙に慣れてない国でよくあることだな」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はキーを取り巻く大捕り物を背中にして、不安がる一般市民に向けて、ついでにデモ隊にもちくりとクギを刺すように言葉を選んで話をすすめる。
「こんな選挙自体おかしいってんだろー! やらせじゃねーか」
「今ので兵士もデモ隊から注意を逸らしているし、デモ隊ももう少し時間を稼いでくれるといいのですが……」
 衝突する接点が互いに失われていることを感じながらルカ(ka0962)は整理に努めていた。ザレムが説得している側は少し落ち着きを取り戻しているが、隊を分けたこちら側はまだまだ予断を許さない感じだ。
「この選挙は結局茶番じゃないのか、俺たちはいつになったら投票できるんだっ」
「そやそや、投票しにきたんやからな。でも、選挙がなんでこんなことになってるんや? ってか、選挙ってどないするもんなん?」
 デモ隊の後ろからひょっこりと顔を出した風花・メイフィールド(ka2848)が声を上げ、人波をかき分けて前に進み出る。その問いかけにレイス(ka1541)が謡うようにして答える。
「選挙とは単に代表者を選ぶ為のものでは無く、この国の信の置き場を問いそれに応えるものである」
「信ってなんだ。誰が良民で、誰が反乱分子だと見つけ出すことか!?」
「我々にも諸卿らにも疾しい事は何も無い。正しく彼等と同じものを望んでいると胸を張る為に」
 朗々と響くレイスの声色は会場の隅々までよく届く。そしてその手に挙げられた何の変哲もない投票用紙を見て、風花はくるりと後ろを振り返って大声で言った。
「よーわからんかったけど、これ自分の名前書かんでええみたいやで。全員の意見がきちんと伝わるようになっとるやん!」
 デモ隊の大勢はその言葉に懐疑的だったが、重ねるようにしてデモ隊に混じっていた神凪 宗(ka0499)がその投票用紙を見る。
「本当だな。俺たちの投票で姫様が皇帝になれるんじゃないか? これだけ人数がいるんだぜ? だけど、これ以上ハンターともやりあったら俺たちの票がが全部パーになるかもしれない」
「そーっすね、ハンターは一般人の困っていることも助けてくれることたくさんあったっす! ハンターの心証まで悪くするとまずいかもしれないっす」
 神凪と神楽のやりとりに一部の人間は顔を見合わせた。どうしたものか、と思案する顔だった。
 そんな様子をじっと観察していた音桐 奏(ka2951)は見逃さなかった。彼らは盲目的に現体制を批判するためだけに来ているわけではなさそうだ。目の前に自分たちの支持する人間がいて、その彼女の顔に泥を塗るようなマネであっても、彼らは目的がある。そしてサクラであるデモに混じったハンターの意見が飛び交うことに困惑をしている。まるでそんな筋書だったか? と確認するような様子だ。
「兵士との距離をもう少し開けさせましょう。張り合わないように伝えてください。民衆がこれ以上押し込んでこないようには私達でやると伝えてください」
 音桐の依頼にマッシュ・アクラシス(ka0771)が応えた。
 が、マッシュは兵士の方に振り返って少し渋い顔をした。先刻のキーによるごみ箱横転騒ぎでハンターに対する目つきが少々怖くなっている。それでも行動に出てこない分だけ、この兵士達の士気はかなり高いのだろうが。
「この状況を仲裁せよとは陛下も酷なことを仰る……もう少し離れていただけないでしょうか。整理も私共が協力しますので、よろしくお願いいたします」
「ここで、上手くまとまれば、帝国はより強固な一枚岩になれるかもしれない。逆に失敗すれば同胞を殺しあうことにもなりかねない。一歩引いてくれないだろか」
 シャーリーン・クリオール(ka0184)がマッシュの横に立ち一緒に依頼すると、兵士は困ったような顔をして監督する兵長に助けを求めた。その要請に応えてやって来た兵長はいかにも真面目そうな人間だった。アティ(ka2729)はすぐさま、それが以前深棲の歪虚との戦いで同行した兵長であることに気付いた。
「引けというが、できるのか? 言い方は悪いが『あんな』でも我々が守る国民でもあるんだ」
「ご理解があるようで助かります。初めは小さな火種でも、風が煽ればあっという間に広がるものです」
 兵長の言葉に神代 誠一(ka2086)は軽く胸を撫で下ろしてそう言った。確かにデモ隊相手にまともに取り合うようなそぶりは見せていないが、やはり人間。挑発されて激昂する兵士がやりあっていたのだろうか。イライラとした感じは受けるものの、決して無暗にデモを鎮圧しようというつもりはないようだ。
 それでもデモ隊と諍いを続けた憤まんやる方ない兵士は少なからずいる。そこでセレン・コウヅキ(ka0153)は兵士たちの前に立ち、高らかに言葉をかけた。
「皆さんは何故軍人になりました? 理由は様々でしょう……しかし誰かを守りたいと軍人になった方は少なくないのでは?
 秩序と規律を守り、いかなる時も理性を持って事に当たり、帝国と国民を守る、それが帝国軍人では?」
 セレンの言葉に兵士達に冷静さを呼び戻されるのを感じていた。兵士達は非常に士気が高い。この調子なら兵士は言葉の暴力にも耐え、無益な戦いに新たな火種を残すことなくこの場を収めることができるだろう。
「どうか信用ください!」
 兵に触れるほど近くに寄ったジュードの真っ直ぐで純粋な瞳がキラキラと輝く。これで完璧だ。
 兵士に見えないところで親指をぐっと立てて、互いの健闘を祝うハンター達。
「はい、下がって。ほらほら、そちらも下がって」
 フワ ハヤテ(ka0004)は笑顔で兵士とデモ隊の間をぐいっと広げていく。
「畜生、なにしやがる、俺らを……」
「ははは、こんなひ弱なエルフを殴り飛ばすのが君たちの正義かな?」
 それに抵抗するデモ隊も少なからずいたが、フワのおどけた様子に毒気を抜かれる。少しずつだが、闘争のイニシアティヴはハンター達が握りつつあるようだった。
「ほら、武器も下げて。そんな危ない物を振りかざして『話し合い』はないでしょう? 盾だけにしときなさい。帝国の兵士は全員盾持っているって話でしょ」
 坂斎 しずる(ka2868)が兵士に顔を近づけ、そのまま視線を外さず、槍持つ兵士の手をぐいと下ろした。甘い坂斎の吐息を感じて、少したじろいだのか兵士はそのまま槍を下ろした。
 少しずつ落ち着くその間に、アティがデモ隊、兵士の間を関係なく走り回る。
「怪我してる人はいませんか? ほら、隠しちゃダメじゃない! 化膿したらどうするのっ!?」
 デモ隊の騒乱の中で、痛みで動きが鈍っている様子の男を見つけてアティは素早く駆け寄った。
「そんな大した傷じゃ……それに怪我した証拠をあいつら兵士に見せつけてやらねーと。悪いのはあいつらだってことを……」
「どっちが悪いとかそういうこと言っている場合じゃないでしょ! 人あっての政治だし、人あっての選挙じゃない?」
 アティはぴしゃりと言うと、デモに参加していた男が隠していた傷口を確認した。それほどひどい傷ではないが、それなりに出血はしている。単に押されたのどうの、という感じではなさそうだ。
 男の抵抗も気にせず服をまくるアティは懐にダガーが入っているのを見つけた。鞘の入り口が血で汚れている。
「自分で切ったの?」
「いや、その、あついらと押したりなんかしている拍子に、抜けちまって……、あ、あいつらが武器で脅してくるからさっ」
 バツの悪そうな顔をする男はなんとか自分のメンツを保とうと必死に言い訳するが、それもアティがお構いなしに傷口に触れると悲鳴にすり替わった。
「そんなこと言ってて大人として恥ずかしくない? 自分たちの未来をかけた大切な瞬間だったのはわかるわよ」
 アティは叱りつけると、癒しの力を傷口に注ぎ込む。
「でも、それであなた自身が怪我したら……あなたが未来を見られなくなったら、意味ないじゃない」
「なっ……」
 何かしら言い返そうとしていた男に不意に水を湛えたコップが差し出される。サトコ・ロロブリジーダ(ka2475)がにこりと微笑む。
「大きな声出したし、まずは一息つきましょう。無理しないで?」
「あ、うん……」
 無垢な微笑みに完全に毒気を抜かれて、おずおずと男はコップを手に取ると水を飲みほした。そんな男の様子をサトコはまじまじと見つめる。
「もう一杯、いりますか?」
「あ、いや、もう大丈夫……なんか落ち着いちまった」
 男はサトコのまっすぐなまなざしに照れたような困ったような顔をして、そのまま外に出て行ってしまった。サトコのマジカルスマイル恐るべし。男を見送るサトコは一瞬、計画成功を示す歪んだ微笑みを浮かべるが、それもすぐに打ち消してまた周りのオーバーヒートをして疲れている人を目当てに水を配り歩いていく。
「だいぶん、落ち着いてきましたね。これなら話しあいで決着をつけられるかもしれません」
 状況を整理していた澪がぽそり、と呟いた。先ほどまでは目の血走っていた人間や、何か言葉を発する度に食って掛かる人間もそれなりにいたが、今はまだゴタゴタとはしているが、少し落ち着いた雰囲気を感じることができていた。一般人の投票も恐る恐るではあるが、ちゃんと進行しているようだ。
「まったく。投票なのかデモなのかはっきりしてほしいものです。後は……落ちた火勢を消し止めるもう一手が欲しいところですね」
 澪が周りを見回すと、ナハティガル・ハーレイ(ka0023)がその視線に気づき、軽く手を挙げる。
「この場合、白黒付けても納まらんだろうよ。必要なのは真相究明じゃなく、熱狂してるデモ隊の頭を冷やす事だ。その為には……」
 ナハティガルは素早く群衆の真っただ中に飛び込もうとしていたクリームヒルトを探し出す。人ごみはすごいが先ほどからずっと目を付けていたのでそれほど探すのに苦労はしない。クリームヒルトは大勢のデモ隊に囲まれて守られているのか、責め立てられているのかよくわからない状況だった。その中でも決してあきらめずに言葉を尽くすクリームヒルトにナハティガルはその腕を引いた。
「姫。この場を納められんのはアンタしか居無ぇ、その意味、やるやるべき事……わかってるな?」
「もちろんです」
 ナハティガルは少し驚いた。
 先ほど、デモ隊が騒ぎを起こす前までは壇上でうまくもない演説をしていた様子とはまったく違った。短い時間の中で彼女は成長している。少女然とした姿に、どこか凛々しさを感じる。
「姫様になにをするっ。ハンターごときが触れていい存在じゃないぞ」
「静まりなさい!」
 フェリア(ka2870)の喝が飛んだ。同時に翼の幻影が大きく開いた。覚醒の証拠だ。クリームヒルトを取り返そうという動きはそれでぴたりとやんだ。
「誰が代表に相応しいかを決める場所で騒乱し暴力を用いる事は、己が言葉を、信じる代表を汚す事と心得なさい!」
 フェリアが叱咤している様子をヴィルヘルミナはなかなか興味深げにそれを見つめていた。その視線に気づき、フェリアとヴィルヘルミナの視線が一瞬ぶつかる。
「ほう、なかなか言ってくれる……。あれはアウレオスのところの娘か」
「そんな呑気な感想を述べてる場合ですか。またデモ隊が活気づく前に投票を終えてしまわないといけません。遺恨の残らぬようにしなければ、この騒乱は未来にまで尾を引くことでしょう」
 アクセル・ランパード(ka0448)は面白そうに見物するヴィルヘルミナにそう告げた。
「ふむ、何か考えがあるようだな?」
「誇り高き帝国がよもや不正をするなどと疑われたままなのは恥ずべき事、そうではございませんか? 逮捕者にも投票を認めるべきだと存じます」
 ヴィルヘルミナの問いかけに応えたのはヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)だった。
「今、デモ隊は落ち着きをみています。残っている問題は逮捕者が投票できずにいて、それが操作だと言われないことだと思います。これをデモ隊の代表者とここを管轄している兵長にも伝えましょう」
「元よりそのつもりだったが……伝えておこう。オズワルドはどこだ?」
「オズワルド師団長は城の警備です」
 そういえば声をかけて出てこなかったっけ。ヴィルヘルミナはふと『いつもの通りの』外出だったことを思い出したようだった。
「そうか、逮捕した者にも、もちろん選挙権はある。投票できるようにしておこう」
「陛下、寛大な処置に感謝をいたします」
 ヴィンフリーデは敬礼すると、去っていくヴィルヘルミナの後ろ姿を見送った。その姿は孤高だ。
「人類の守護者とは寂しいものね。そしてそれを預かる人間も……」
 いつかその背中を預けられるような、そんな強さを持ちたい。ヴィンフリーデはそう思う。
 一方、クリームヒルトはフェリアの諫言の隙に壇上へと向かっていた。それをデモ隊はハンターが惑わしたかといきり立っている状態だった。
「話させたくないのかしら? なんと騒々しく、なんと愚かな……」
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)は首をかしげる。どうもこのデモ隊の行動論理が理解できない。メトロノームは姫の動きに歩調をあわせ、道を開ける手伝いをする。
 感謝の言葉を述べるクリームヒルトにメトロノームは問いかけた。
「姫は何故、選挙に出ようと思ったのですか? 誰かに推挙されて? それとも何か思うところがあって?」
「帝国の軍事力はご存知ですよね。多分、王国や同盟と比しても一線を画すと思います。ではその力はどこに支えられていると思います? 強大な錬金術? 常識を覆す覚醒者の力? 唯一無比の軍才と指導力? いいえ、地道に働く人間です。今ここにいるデモ隊のほとんどは普通に働いている人なんですよ。だけど、利に聡い人間だけが得をする。一芸に優れた人間のみ引き立てられる。成果主義っていうのかもしれない。それはそれで凄いことなんですけど、涙を飲む人が多すぎる……」
 メトロノームは少しばかり目を細めた。良いか悪いかは別として、クリームヒルトは帝国の構造を自分なりに把握しているようだ。
「そう、それならお進みなさい。あなたの言葉を待っている人がいます。それをしっかりお伝えなさい」
「ありがとうございますっ」
 メトロノームはその場で立ち止まり、クリームヒルトを見送ると追いすがるデモ隊と対峙した。一人では止めるのは少々厳しいがやるしかあるまい。ある種の覚悟をした彼女の後ろ、壇上からエステル・L・V・W(ka0548)の声が響いた。
「控えなさい下郎共! 貴様達が彼女の臣ならば、血の報いではなく心を伝える志によって再び立たれた御姫様の意志を踏みにじり何とします!」
 可愛い容姿からは想像もつかない威圧感に満ちたセリフにデモ隊どころかハンター達も何事かと目を疑う。そんな視線を気にするでもなく、エステルは壇上を飛び下りてこちらに向かうクリームヒルトを迎えに走る。
「あそこで見栄切ったのに降りちゃうんだ」
 ルアはエステルの勢いに押されたデモ隊の一部の前に立って行動を制限させる。その後ろでは敷島 吹雪(ka1358)が苛烈な一部のデモ隊とそれ以外の人間を切り分ける。デモ隊の中でも一番熱心な人間を孤立させれば自然とクールダウンはされるはずだ。
「流血沙汰は禍根になりかねないであります。クリームヒルト殿は皆を収める一言をお願いするであります」
「よろしくお願いします!」
 クリームヒルトに追いすがるデモ隊の手をエステルが振り払う。それがエステルがクリームヒルトとすれ違う一瞬だった。視線だけが言葉の代わりに交錯する。そこには普段のエステルには見られない憂いに満ちた瞳があった。
 革命によって帝国を追われたのはエステルも同じ。歩んだ道は違うし、目指す道も違う。本来ならばこんな対等な場所で視線を交わすこともなかったはずだ。
 短い沈黙の時間が過ぎ、二人はすれ違った。
 矢面に立ったエステルはデモ隊と正面衝突するくらいの勢いで突き進み、びしぃっと指を突き立てた。
「聖なる場を乱し汚す行為は天魔外道の行い、許されるまじ! さあ拳を下ろしなさい! 一歩下がりなさい! 声を潜めなさい!」
「え、エステル、それは言い過ぎじゃ」
 その後ろで追いすがるデモ隊をなだめすかそうとするケイジ・フィーリ(ka1199)が引きつった顔になる。
「何言ってるの! 後よろしく!」
「ええーーっ!?」
 怒りの視線が一斉に集まる中、ケイジはしどろもどろと言った感じでなんとか場を収めようと言葉を紡ぎ出す。
「エステルの今の発言も帝国の事を思ってのことなんだ、わかってやってください」
「なんだと、言ってくれる!」
「わーっ、ごめんなさいっ!!」
 デモ隊が一斉にケイジに殺到する。ルアやエステルがケイジの名前を呼ぶ中、彼は一斉の突撃を受けてどれが彼の姿かわからなくなってしまう。
「だ、大丈夫かしら。ごめんなさい、ハンターさん」
「彼は大丈夫です。どうぞこちらへ」
 壇上へと続く階段に控えていた摩耶(ka0362)がクリームヒルトを向かいいれると、すぐさま、人にもみくちゃにされて乱れた衣装や髪を手直しする。
「本当は紅茶で一服していただきたいところですが、今は時を急ぎます。お願いできますでしょうか」
「ありがとう、摩耶さん。やってみます」
 摩耶の言葉にクリームヒルトは力強く頷いた。
 以前に羊飼いの依頼で出会った時とはすっかり別人だ、摩耶は素直にそう思った。
「夢見るアリスの演説が始まるみたいだねぇ。ほら、少しは静かにしてくれないかな? 口を開くたびに立場が悪くなるよ。君たちも、そして壇上の彼女も」
 南條 真水(ka2377)が詰めかけるデモ隊に冷ややかな言葉をかけるとほんのわずかに言葉が抑えられる。
 その隙間を縫うようにして、クリームヒルトの言葉が響いた。
「今は争う時ではありませんっ」
 強く、澄んだ、ソプラノの声。
「声を上げて、戦って、血を流して。それじゃ昔の革命と何一つ変わらないじゃない。皆さんの力にまた何も言えない人が出てきたら、けっきょく一部の人だけが栄える社会になるじゃない! 皆さんが私に希望を持ってくれているのは嬉しい。それに応えたいと思うの。だから、不安がらないで。私は生き続ける限り、帝国の皆さんが幸せになれる道を探し続ける。くじけない。ううん、くじけても何度でも立って見せるわ。夜が終わるたびに上る太陽みたいに」
 不安がる。デモ隊が?
 ルスティロ・イストワール(ka0252)はデモ隊が完全に動きを止めたのを見て、なるほど、彼女はよく人を見ていると感心した。デモ隊は選挙が今回限りで終わることを危惧しているのだ。もしくはクリームヒルトが期待に応えられずに後ろを向いてしまう事を。
「ご自身の、周りの恐怖はどこに向いているかお分かりになりますか?」
 ルカが小さく、近くにいたデモ隊に問いかけた。
 デモ隊の男は俯いていた。一人ではない、先ほどまで怒声を張り上げ、会場も何もかもめちゃくちゃにするしか仕方のないような連中がそろいもそろって同じようになっていた。そしてクリームヒルトの名前を呼ぶ者が、二人、三人と現れると会場は大拍手に満ち溢れた。
「すごい威力ね。あれだけの大勢を説き伏せるなんて」
 宇都宮 祥子(ka1678)はすっかり大人しくなった人々を見てそう呟いた。ヴィルヘルミナに比べると戦闘能力もなければ采配も劣って見える。だが、彼女が壇上まで駆け上がるまでの経緯を思い出すと、本当に多くの人が何とはなしに助けの手を差し伸べるのだ。支配するより、和する方面には向いているのかもしれない。
「彼女が帝国の長になれば、辺境への政策も変わるのかしらね」


「まずもって、ゴミ箱は倒れたままにしないっ」
 まだ一部の不機嫌そうな顔をするデモ隊に向かって、オキクルミ(ka1947)はびしぃっと指さした。
「なんだよ……ちぇっ」
「ほら、その顔、態度。ゴミ箱倒したときに『ごめんなさい』って言って直せばそれで済んでいたんだよ?」
 にっこり笑いかけるクルミにしぶしぶと言った感じで男はゴミ箱を立てなおす。
「でもよ、本当にこの選挙、意味があるのか? ハンターだって結局は国に雇われて収拾に来たんだろ?」
 そう愚痴るのはデモ隊の幹部ではなく、純粋な一般人の方だった。選挙自体に疑念を持っているのはなにも旧帝国派の人間ばかりというわけでもないようだ。その言葉にルスティロはくすりと微笑んだ。
「先に投票にいかせてもらったよ。僕は普段は辺境にいるんだけどね。同じエルフのユレイテルさんに投票した。こんな僕でも投票できたんだ。この一票は確実にこの国の為になっているんだよ」
「私はクリームヒルト嬢に投票した。辺境への政策は少し弱みに付け込んだ侵略とも思えるもの」
「私はヴィルね。政策とかより彼女の意志にかけて、ね」
 宇都宮、レムと次々に投票の感想をもらす。ハンター達の本当に自由に、自分たちの思う所に投票しているのだとわかると投票に来ていた人々の不安も少し薄らいだようだ。

「投票の結果はもうしばらくかかるでしょう、本当にお疲れ様でした」
 摩耶はそう言うと、選挙候補者の二人にそっと紅茶を差し出した。そんな摩耶にヴィルヘルミナは笑いかける。
「ありがとう。真実は掴めたか?」
 その言葉に摩耶は少し考え込んだ。答えは十分知ることはできたが、はて、それをここで公言してもいいものやら。
 少しの間が生まれる。その隙間に、外で人々の心がこれ以上荒まないようにとチョココ(ka2449)の歌声が響いていた。

「みんな 希望を求めているの。
 明日も 明後日も
 だから 絶望しないために
 叫ぶの ずっとよ

 願いは聞き入れてくれるのよ 上に立つあの人は
 素晴らしい人だから
 みんなに知らせてあげたいの 上に立つあの人は
 素晴らしい人だから」

 摩耶はチョココの歌にはにかんだ微笑みを浮かべてヴィルヘルミナに返した。
「そうですね、知ることができたのは人の性というものでしょうか……結果が楽しみですね」
「そうだな」
 微笑むヴィルヘルミナの横顔に強い風が吹き付けた。爽やかな秋には似つかわしくない切り裂くような鋭い風が。
 その突如、兵士が一人部屋に飛び込んできた。
「陛下っ! 『剣機』が現れたとの知らせが!!」

 選挙の結果が開かれる間もなく帝国は動乱を迎え始めていた。

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参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイ(ka0023
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人

  • カグラ・シュヴァルツ(ka0105
    人間(蒼)|23才|男性|猟撃士
  • ピュアアルケミーピュア蒼
    アナスタシア・B・ボードレール(ka0125
    人間(紅)|14才|女性|機導師
  • 運命の反逆者
    レム・K・モメンタム(ka0149
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 蒼の意志
    セレン・コウヅキ(ka0153
    人間(蒼)|20才|女性|猟撃士
  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワール(ka0252
    エルフ|20才|男性|霊闘士
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • Theory Craft
    ルア・パーシアーナ(ka0355
    人間(紅)|16才|女性|疾影士
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 光の水晶
    摩耶(ka0362
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 求道者
    猫実 慧(ka0393
    人間(蒼)|23才|男性|機導師
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 救世の貴公子
    アクセル・ランパード(ka0448
    人間(紅)|18才|男性|聖導士

  • 神凪 宗(ka0499
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 闇裂きの銃弾
    三船・啓司(ka0732
    人間(蒼)|23才|男性|猟撃士
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人

  • キー=フェイス(ka0791
    人間(蒼)|25才|男性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 鉄の決意
    ケイジ・フィーリ(ka1199
    人間(蒼)|15才|男性|機導師
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師

  • 敷島 吹雪(ka1358
    人間(蒼)|15才|女性|猟撃士
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 山猫団を保護した者
    宇都宮 祥子(ka1678
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • Beeの一族
    Jyu=Bee(ka1681
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士
  • 紫暗の刃
    ヴィルナ・モンロー(ka1955
    エルフ|23才|女性|闘狩人
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 金の旗
    ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207
    人間(紅)|14才|女性|闘狩人
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • ライブラリアン
    サトコ・ロロブリジーダ(ka2475
    人間(紅)|11才|女性|魔術師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 戦うメイドさん
    プルミエ・サージ(ka2596
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士
  • ヒーローを目指す者
    鳴神 真吾(ka2626
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • エクラの御使い
    アティ(ka2729
    人間(紅)|15才|女性|聖導士

  • 風花・メイフィールド(ka2848
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士
  • シャープシューター
    坂斎 しずる(ka2868
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 志の黒
    音桐 奏(ka2951
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士

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レム・K・モメンタム(ka0149
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/09/16 20:30:32
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/16 01:38:26