ゲスト
(ka0000)
【王臨】王女殿下を護れるのは私達だけだ
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/04/21 07:30
- 完成日
- 2017/05/01 22:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●噛み合わない博士と助手
「ねぇドクター」
「……」
「ドクターって何で裸足なんスかね」
「……」
「健康法ならムダっすよ。歪虚なんだし」
「今回に関しては注意してでも黙らせる必要がある。黙れパダギエ。可及的速やかに、かつ徹底的静かにだ」
「……ウッス」
レッドバック(kz0217)は考えていた。今自分たちが居る古の塔……その最上階に存在しているというアーティファクトの正体についてを。
古の塔についてはいくらか知っていたが、その最上階に何があるのかまでは知らなかった。ゆえにレッドバックは想像する。そこに存在するに相応しいアーティファクトを。研究者ゆえに、自分の考えとそれがどこまで正しかったのかを、実物と対面して確かめたいと思っていた。そして、もし入手できたならば、いかにして使用し、どのような歪虚を生み出すことができるだろうかと……。
一方でレッドバックの助手・兼・護衛・兼・乗り物の蝙蝠型歪虚パダギエは古の塔などどうでもよかった。
退屈だったので話し相手が欲しかったが、話ができそうな相手はレッドバックの部下の中にもいなかったので、黙って歩かなくてはならなかった。
●ハンター達
「止まれ!」
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が、呼び止めた。
古の塔、最上階に続く階段があるフロアに続く通路。ここではヘザーらハンターが防衛にあたっていた。
「……歪虚だと! 歪虚がなぜここに!」
へザーは目を見開いた。速やかに覚醒し、臨戦態勢に入る。
「こうして合まみえるのは初めてだな、人間達」
ハンター達に向けて、レッドバックは言った。
敵意も闘志も感じさせない、理知的な声だった。
「私はレッドバック。
我が主、メフィスト様の命により……古の塔のアーティファクトを頂きに参った」
「メフィストだと!?」
ヘザーの表情が、険しさを増した。
「既に外部から塔への攻撃が行われている、ということだけはお伝えしよう……さて」
レッドバックが促すと、後ろに控えていた歪虚六体が前に出る。
フルフェイスと鎧一式に身を包み、大型の無骨な拳銃を手にしている。鎧の胸部には、赤い菱形を連ねたようなマークがあった。
「現在私が用意できる戦力の中で…………まあ、無難なものを用意した。よければ戦った感想を聞かせて欲しい」
お気に入りの書籍でも紹介するように、レッドバックは言った。
「余裕をかましているつもりか!」
「あー違う違う。ドクターは純粋に歪虚の強さが知りたいだけだから」
憤るヘザーに対してパダギエが割り込むように前にしゃしゃり出て言う。
「ちなみに俺はパダギエっての。以後お見知りおきを頼むぜぇ」
「継続的黙れ」
敵とはいえやっと話ができそうな相手に会えたとばかりにパダギエが喋り始めたが、レッドバックに殴られた上に後ろに引っ張られた。
「…………なんだか妙な奴らだが…………
王女殿下がおわす最上階に行かせるわけにはいかない。
それに、メフィストという歪虚が来ているということは……
正真正銘、王国の危機だ……!」
ヘザーは拳を握りしめ、腰を落とした。
「皆、気合いを入れろ!
王女殿下を護れるのは私達だけだ!
この戦いだけは……絶対に負けられん!」
「用意はできたか。では始めよう」
教師が試験の開始を告げるような神妙さで――場違いでもあった――、レッドバックが戦いの始まりを告げた。
「ねぇドクター」
「……」
「ドクターって何で裸足なんスかね」
「……」
「健康法ならムダっすよ。歪虚なんだし」
「今回に関しては注意してでも黙らせる必要がある。黙れパダギエ。可及的速やかに、かつ徹底的静かにだ」
「……ウッス」
レッドバック(kz0217)は考えていた。今自分たちが居る古の塔……その最上階に存在しているというアーティファクトの正体についてを。
古の塔についてはいくらか知っていたが、その最上階に何があるのかまでは知らなかった。ゆえにレッドバックは想像する。そこに存在するに相応しいアーティファクトを。研究者ゆえに、自分の考えとそれがどこまで正しかったのかを、実物と対面して確かめたいと思っていた。そして、もし入手できたならば、いかにして使用し、どのような歪虚を生み出すことができるだろうかと……。
一方でレッドバックの助手・兼・護衛・兼・乗り物の蝙蝠型歪虚パダギエは古の塔などどうでもよかった。
退屈だったので話し相手が欲しかったが、話ができそうな相手はレッドバックの部下の中にもいなかったので、黙って歩かなくてはならなかった。
●ハンター達
「止まれ!」
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)が、呼び止めた。
古の塔、最上階に続く階段があるフロアに続く通路。ここではヘザーらハンターが防衛にあたっていた。
「……歪虚だと! 歪虚がなぜここに!」
へザーは目を見開いた。速やかに覚醒し、臨戦態勢に入る。
「こうして合まみえるのは初めてだな、人間達」
ハンター達に向けて、レッドバックは言った。
敵意も闘志も感じさせない、理知的な声だった。
「私はレッドバック。
我が主、メフィスト様の命により……古の塔のアーティファクトを頂きに参った」
「メフィストだと!?」
ヘザーの表情が、険しさを増した。
「既に外部から塔への攻撃が行われている、ということだけはお伝えしよう……さて」
レッドバックが促すと、後ろに控えていた歪虚六体が前に出る。
フルフェイスと鎧一式に身を包み、大型の無骨な拳銃を手にしている。鎧の胸部には、赤い菱形を連ねたようなマークがあった。
「現在私が用意できる戦力の中で…………まあ、無難なものを用意した。よければ戦った感想を聞かせて欲しい」
お気に入りの書籍でも紹介するように、レッドバックは言った。
「余裕をかましているつもりか!」
「あー違う違う。ドクターは純粋に歪虚の強さが知りたいだけだから」
憤るヘザーに対してパダギエが割り込むように前にしゃしゃり出て言う。
「ちなみに俺はパダギエっての。以後お見知りおきを頼むぜぇ」
「継続的黙れ」
敵とはいえやっと話ができそうな相手に会えたとばかりにパダギエが喋り始めたが、レッドバックに殴られた上に後ろに引っ張られた。
「…………なんだか妙な奴らだが…………
王女殿下がおわす最上階に行かせるわけにはいかない。
それに、メフィストという歪虚が来ているということは……
正真正銘、王国の危機だ……!」
ヘザーは拳を握りしめ、腰を落とした。
「皆、気合いを入れろ!
王女殿下を護れるのは私達だけだ!
この戦いだけは……絶対に負けられん!」
「用意はできたか。では始めよう」
教師が試験の開始を告げるような神妙さで――場違いでもあった――、レッドバックが戦いの始まりを告げた。
リプレイ本文
●護る者達
「私は信じている……ハンターは歪虚などに負けはしないと!」
ヘザーは願いを込めて、仲間達の顔に視線をめぐらした。
すると、それに答えるように、バリトン(ka5112)の巨躯が一歩踏み出し、「ここは通さん」とばかりに斬龍刀「天墜」を振りかざした。
それに続いてシン(ka4968)が剣を構える。
(がんばって、システィーナ様)
その胸中は最上階でアーティファクトを発動する王女への思いに占められていた。
真白・祐(ka2803)も同じく、王女の下へは行かせまいと力強い動きでデバイスを起動する。
アーサー・ホーガン(ka0471)は敵をねめつけ、品定めをした。
(こいつは、あれだな。自分の世界で完結して、人の話聞かねぇ奴だ)
それが彼のレッドバックへの印象であった。
「ここを死守するしかないですね。さて、覚悟を決めて応戦するとしましょうか」
と、エルバッハ・リオン(ka2434)はいつものように呟く。
意思を確かめるように声に出したのは彼女だけではなかった。
「歪虚の癖に挑戦してくるとはいい度胸ですぅ。殺(や)ってやろうじゃないですかぁ」
攻撃寄りの性格を炸裂させるように星野 ハナ(ka5852)が言った。
「さあ……この塔のアーティファクトが欲しいっていうなら、試練を越えて見せなよ」
続け様に啖呵を切った、セレス・フュラー(ka6276)。”最上階の試練”を仲間と共に乗り越えた彼女が、今度は試練を課す側に回ったという自覚があった。
(こいつぁまた、タイミングの悪い時に引き受けちまったもんだな)
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は思う。
彼は今、まともに戦えぬ程の傷を負っていた。
(だがどんな状態だろうが一度引き受けた以上は最大限の成果を手に入れる、それが傭兵だ)
そう考える。そして傍らに控えるユグディラ、ホープを見た。
(最悪死ぬかもしれんが、頼りにしてんぞ相棒)
「私達がここを死守する! 通れるものなら通ってみろ!」
ヘザーが再び吼えた。仲間達の態度が、この上なく心強かった。
「……」
「ドクター、なんか切り返してやれよ」
「データが取れれば良いのでな」
レッドバックは冷めた態度で配下に攻撃を指示した。
●戦闘開始
ハンター達のうち、接近戦を行う者達は一気に距離を詰めた。剣の届く間合いまで一気に駆ける。
「行くぜ……?」
それより後方で、祐が術式を展開した。デバイスが起動し、眼前に光の三角形が形成される。その頂点から光線が発された。
それらは狙い通りレッドバック、パダギエ、妖魔戦闘員の一体を焼く。
「ぐっ!?」
祐は苦痛に顔を歪めた。攻撃を受けた、というわけではない。まるで、こちらの攻撃と同時にダメージを受けたかのようだった。
「メフィストってことは傲慢か……?
じゃあ、これがうわさに聞いた『懲罰』ってやつかよ……きっついな!」
祐は懲罰を敵が使う事をすぐさま周知する。
「わかりました。慎重にいきます」
エルバッハが涼やかな声で言って、最後列から呪文を紡ぐ。
ワンドから発された荒ぶる風は、刃となって妖魔の一体を切り裂く。
「……どうやら懲罰は一度に何度も発動しないようですね」
エルバッハは先に佑の攻撃を受けた個体を狙い、自身にダメージがないことを確認する。
一方でハナは符術の間合いに踏み込むために移動していた。
そのハナにいくつも銃口が向けられた。
「えぇ~もしかして『術士を集中攻撃』ですかぁ~?」
口調こそ砕けてはいたが瞬時に状況を判断する。
狙われたからには、凌ぐのみ。
ハナに攻撃してきたのは四体。一体が乱射する。それは動きを止めるための制圧射撃だ。行動の機会を奪われつつも、防御の姿勢をとる。
「どうしましたぁ……四人がかりで……女一人止めるのが精一杯ですかぁ?」
傷つきながら、凶暴に笑う。
攻撃の機会を逸したからといって、遠慮する必要などなかった。
残りの二体はエルバッハと佑に対し制圧射撃を行ったため、二人も攻撃の機会を失った。
一行は散開するという選択をとったので、範囲攻撃を一度に複数が受けることは避けられていた。ただし、その分後衛に向けられる射線を前衛で遮ることができなくなっていた。
「無視とはご挨拶じゃねーか」
アーサーが低い声で言う。前衛はフリーだった。
対峙している敵をハンマーでぶっ叩く。
「痛え。だが……俺の方も備えてる」
懲罰が来るが、計算の内だ。
何であれアーサーには『攻撃』に対して反撃する準備があった。
再びハンマーを妖魔に繰り出す。先程より強力だ。
「さあて、どっちが勝つか……倒れるまで殴り合おうぜ」
戦士の顔つきが、そこにあった。
一方バリトンは距離のある状態からユキウサギの作った紅水晶の中で次元斬を放ち、懲罰の痛手を受けていた。
「視認できずとも使えるのか。機械的に受けた損害を返すといったところか……しかし」
紅水晶の赤い空間から出て、誰にも接近されていない個体に猛進する。
「それだけの能力よな!」
それだけでは、この男は殺せない。
一気に距離を詰める。
相変わらず妖魔は後衛を狙っていた。
袈裟懸けの一撃。
入った。しかし浅い。
懲罰が来る。
――構わない。
「二連之業――」
刀が軌道を変え、再び斬りつける。
下段からの斬り上げが入った。
「一撃に対して一撃、ならば二撃打つまで」
バリトンの業が、冴え渡る。
別の敵に対してはシンが舞うようなステップで翻弄しつつ、距離を詰めていた。
それは仕掛けるのに絶妙な位置取りを可能にする。
「真白くんは動けないか……だが僕だけでも!」
かちりと、鳴くように響く。
低い姿勢から放つ、鞘から放たれた居合いの一撃が、妖魔に入った。
すぐさま懲罰の痛みが来る。
「このくらい……システィーナ様が背負っているものに比べたら!」
自ら護っているものの存在を思い起こし、戦意を奮い立たせる。
本来ならシンの攻撃に祐がデルタレイを被せるはずだったが、祐は制圧射撃を受けて攻撃できない。
――だが、それに続く攻撃は存在した。
「良く吠えた、少年」
それは投具の一撃。
「私達で、王国を護るんだ!」
別の敵の前進を阻んでいるヘザーが、スローイングしたものだった。
「私を忘れてもらっては困るな……
なにも後衛だけが遠距離攻撃ができるわけではない。ここからだって攻撃を集中させることはできる」
そしてすぐに自分が向き合っている敵に向き直り、視線と態度で威圧する。
「さあ、ついて来れる?!」
セレスは残像を纏い、一陣の風のように敵陣を駆け抜けた。
妖魔のうち二体の側を通り抜け、同時に斬っている。その際彼女が『ミゼリアの憎しみ』と名付けたスキルにより、毒を付与するおまけ付きだ。
セレスは妖魔のラインを抜け、その後ろに位置するレッドバックとパダギエに迫った。
レッドバックはセレスを一瞥する。その時には、もう斬られていた。
「うおっ、速え速え。俺まで狙うのかよ」
パダギエは飛膜でセレスの刃を防いでいた。頑丈な作りなのか、傷一つない。だがダメージがないというわけではなかった。
その時、レッドバックは自分に向かって何かが飛んでくるのに気づいた。マテリアルも何もこもっていない物が飛んできたところで避けるのに難はない。
それは酒の瓶だった。少し離れた所の床で割れる。
「何のつもりか知らんが、敢えて試みに乗る必要もないのでな」
レッドバックは飛んできた方を見る。
投げたのはエヴァンスの相棒、ホープだった。近づいてくることに気づかなかったのは流石ユグディラといったところだが、投げるのはわかる。
ホープは構わずに物を投げつける。今度は狙いはレッドバックではなく、パダギエだった。
「おっと、なんだこれ」
パダギエは飛膜のついた腕の先にある指で器用にそれを掴む。トランシーバーだった。
「あー、聞こえるかー」
トランシーバーがエヴァンスの声を届けてきた。
「強くて面白そうなお前に興味が湧いてな、ちょっと俺の話し相手になってくれねぇか?
お前にとっても面白いかもしれんことをたっぷり話してやれるぞ」
「ああ? お喋りしてる場合かよ。お互いに」
パダギエは即答する。
「一つ教えてやるぜ、人間。
心理的駆け引きってのは……魅力的なエサを差し出さないと成り立たねえんだよ」
パダギエはそれきり喋るのをやめた。
そしてレッドバックを庇えるよう身構え直す。
レッドバックはカプセルのような容器を懐から取り出し、少し前の床にぶつけた。
それは割れると、歪虚に支配された土地の空気を濃くしたような黒い粒子がはじけ、広がった。
「うわ、何これ」
セレスはそれを浴び、負のマテリアルであると直感で思い当たる。有害なものではあるが、即座に影響が出るものではなかった。
「なに、歪虚の汚れたマテリアルでも補給しようっての?」
「惜しいな、これは傷の治療だ」
「範囲回復ってわけ?」
レッドバックは性なのかセレスに効果を明かす。当然人間に効き目はないのは言われるまでもなくわかった。
自身とパダギエ、妖魔戦闘員の全員をカバーする範囲までそれは広がる。
「短期決戦は不可能と思ってもらおう」
レッドバックは淡々と事実をありのままに告げる。
妖魔戦闘員は再び三体が制圧射撃で後衛を行動不能にさせ、残り三体がハナを撃つという行動をとった。
不気味なまでに連携が取れていた。
●攻勢に出るハンター達
「ふっ……いつまでもやられっぱなしじゃありませんよぉ」
ハナの傷がまた増えた。口調はいつも通りだが地獄のように低い。
「グデちゃん、リクエスト!」
「ニャー」
仕方ねぇな終わったら美味いもん食わせろよというようにユグディラが鳴いた。
アーサーとバリトンのユキウサギが護衛しており、準備は万端だ。
ハンドベルを奏でてリズムを取る。
歌われる曲は……『猫たちの挽歌』。
郷愁を誘うメロディ……。
歪虚達の攻撃が止まった。
「今ですぅ!」
「成る程……攻め時というわけじゃな」
真っ先に応えたのはバリトン。
大きく振りかぶり、斬撃を繰り出す。
斬るのは敵ではない。空間それ自体。
そこに存在するものごと、空間を斬る剣。
「これぞ次元斬の真骨頂」
ただ離れた敵を斬る業ではない。一度に複数の敵を斬る事が可能な、対集団の業である。
今回のような敵が相手であれば、人数分の懲罰がバリトンに襲いかかることになるが……。
「懲罰を封じたか」
レッドバックが一人ごちる。
猫たちの挽歌は聞くものの攻撃を封じるスキルである。それが自動発動するリアクションスキルであろうと同じ事だ。
「なんてスキルだ……はぁ……これじゃやりたい放題じゃねえか!」
パダギエが抗議するが、曲に感動しながらなので迫力に欠けた。
「ほらほら、あたしをフリーにしてていいの?!」
セレスは再び残像を纏い、アサルトディスタンスで縦横無尽に駆ける。
止める者は誰もいない。懲罰が止まったことによりさらに自由さを増した。
まさに自由なる風――
そして、触れる者に傷と毒を齎す恐怖の風だ。
再び敵陣を抜け、今度は味方の中へと戻る。
「よし」
アーサーは一旦向き合っている敵から少し離れ、銃を抜き撃つ。狙いは――レッドバック。
「危ねぇ!」
パダギエが庇って撃たれた。
今度はそのパダギエにヘザーの投具が突き刺さる。
「ってぇ! なんか俺大人気なんですけど」
「それで終わりじゃ……ありませんよぉ?」
禍々しいオーラ。
正面には自由になったハナの凶悪な笑みが見えた。
その手から複数の符が放たれる。
「殲滅、殲滅ですぅ!」
それらは空中で規則正しい並び方をすると、それぞれから光が迸った――五色光符陣。
パダギエとレッドバックを含む複数の歪虚を焼いた。
「なるほど、動けるならここでじっとしている道理もありませんね」
エルバッハが呟く。ハナと同じく彼女も動いていた。
呪文を紡ぎ、踊るようにワンドを舞わす。
緋色の光が弾けた。灼熱の火球だ。
それは敵陣に降り注ぎ焔の華を咲かす。
「……五分咲き、というところですか」
「俺も行くぜ……!」
同じく動けるようになった祐がデルタレイを発動する。
「早い所、ご退場願おうか……!」
狙いは妖魔戦闘員。
完全な正三角形から発した光が、三体の歪虚を貫いた。
「くっ、なんだって俺にまでこう攻撃が向かってくるのか」
「違う。将を射ようとするならまず馬を射よ、だ。奴等の狙いは指揮官である私だろう」
パダギエとレッドバックは猛攻を凌ぎつつも範囲回復を止めない。
「んっ……案外しぶといですねえ」
ハナはポーションをあおり、空き瓶を投げ捨てた。完全に目が据わっている。
ユキウサギ二人もハナの護衛についた。護るのはかれらの得意とするところだ。雪水晶の効果でハナの損害は減らされている。
「もう一度、行けます」
挽歌はまだ続いている。エルバッハは再びファイアーボールを撃った。
さらにはバリトンが次元斬を、祐がデルタレイを撃つ。
セレスもアサルトディスタンスで駆け抜けた。
ハナの五色光符陣も言うまでもなく猛威を振るった。
対・多数のスキルを複数備えたハンター達の編成。それは集団戦を行う歪虚に大打撃を与えるに至る。
●命を削り合う攻防
――が、挽歌はやがて止んだ。
このスキルの弱点は使用回数が少ないことだ。
妖魔戦闘員達は再び懲罰を使い始め、制圧射撃で術士のスキルを制限する。
一撃必殺の技は持たない代わりに、確実に痛手を与え、敵の得意技を封じる戦法。
そこからは、まさに命の削り合いであった。
「いいねえ、望む所だ」
アーサーはそんな状況下にあって不敵に笑う。
だが、拮抗状態は長くは続かなかった。
まず、懲罰の使用回数が切れた。
これによりハンター側の受けるダメージは相当に減った。
次に制圧射撃の使用回数が切れた。
後衛がフリーになったことにより、勢いはハンター側に一気に傾いた。
ハンター達がそれまで立っていられたのは戦略が功を奏したからだ。威力を抑えた攻撃で懲罰を誘う、散開して範囲攻撃の被害を減らす等の成果が出ていた。
「『風花のように散りゆくのみ』
――なんてね」
セレスは背後で斬られて消えゆく歪虚に言葉を送る。
セレスの脳裏には芸術的なポーズをとったゴーレム・シルフの姿が思い起こされていた。
妖魔戦闘員は一人、また一人と倒れていった。
ここでハンター達の狙いはパダギエへと移る。
「さぁ~……今すぐあの世に送ってあげますからねぇ~!」
「あの符術士は何だ! バーバリアンか!」
ハナは執拗に五色光符陣でパダギエを狙う。効果的な対応策も迎撃手段も持っていないパダギエは手詰まりだった。
「ドクター! ドクターストップしてくれ」
「それは要請するものじゃないな」
レッドバックの姿が、一瞬消えた。
かと思うと、唐突に煙が広がり、レッドバックとパダギエの姿を隠す。
「まだメフィスト様がおられるのだ。
私達が無理をして戦力を減らすは失策……
さらばだ、人間達」
姿こそ見えなかったが、レッドバックとパダギエが捨て台詞を残して撤退したのがわかった。
「さあ、あと少しだ!」
シンが叫ぶ。
すでに疲労は相当なものだったが、士気はむしろ高揚していた。
「よーうニンゲーン! 生きてるかー!」
エヴァンスの無線機から出し抜けに声が聞こえた。離脱したパダギエの声だ。
「なあなあ面白い話って何だったん?
そう言えばメフィスト様に土下座したハンターいるだろ! 知ってるか? 俺あいつの話聞きたい!」
先程とは打って変わって話に食いつく。もっともエヴァンスは気を逸らそうと無線機を渡したに過ぎないので、今更食いついてきても無意味だったのだが……。
このパダギエの通信が何の影響を及ぼすかと言えば、何の影響もないのであった。
歪虚は不利を覆せず、しかし不気味なまでに銃を撃ち続ける。
「楽にしてあげましょう」
エルバッハのウインドスラッシュが一体を切り裂き――
「コイツでトドメだぜ!」
祐のデルタレイが貫いた。
「貴様も、逝くがいい……」
さらに残る一体の首を、バリトンが刎ねた。
首が転がった音が、戦いの終わりの合図となった。
●そして静寂が場を支配した
「お前ら派手さに欠けるんだよ」
アーサーがハンマーを床に立てて言った。レッドバックが『無難』と評したのもその辺りが原因かもしれない。
「この程度で私達に勝とうとするとか大笑いですぅ~!」
遠くに呼びかけるようにハナが言う。相手はすでにこの場にいないというのに、徹底的な殺意が込められていた。
「結局、居るだけになっちまったか」
エヴァンスは仲間にすまなそうに告げた。死を覚悟していた分、この結果は善かったと言えば善かったのだが。
「でもさ、もし扉を敵が通りそうになったら身体を張ってでも止めてくれたでしょ?」
セレスが言った。
エヴァンスが重体となった原因である函館湾の戦いでは、セレスの姉もいた。
姉が無事帰ってきたのは、エヴァンスがその時に敵の攻撃を引きつけてくれたお陰とも言えた。そういう人物であることは、あの場で起こった事を知っていればわかる。
「戦いはこれで終わりじゃない。
まだメフィストがいる……」
ヘザーは一行の顔を見渡し、険しい表情のまま言った。
「皆、まだ戦えるな。
エヴァンスも悪いがまだ付き合ってもらうぞ」
「システィーナ嬢ちゃんにはまだまだ頑張ってもらわねばならんからのう」
戦闘が終わったからか、やや穏やかになった口調でバリトンが言った。
「ベリアルと戦っとる孫たちとかのためにもな」
そして付け足す。王女の行いはベリアルと戦う者達にも力を与えるもので、間違いなく王国を護るための、具体的な行動である。
「システィーナ様にしか、できないことなんですよね……」
シンが言った。『未来の王』と宣言する資格すら、彼女以外には持ち得ない。
「あの王女様は、自分の意志でやると言った。大丈夫さ、きっと」
祐が真っ直ぐな意志を感じさせる口調で言った。
「王女様、私達、別の戦場の皆さん、ベリアル、メフィスト……多くの要素が絡まってきましたね」
エルバッハは思案する。この戦いにはあまりにも多くのものが関わっている。視野を広げれば、グラズヘイム王国の民すべてに関係のあることだ。
「あっさり片づく事じゃない。一つずつ、私達にできることをしよう」
ヘザーがそう言って、今の台詞は月並みすぎたなと照れる。
「できることがあるだけ、幸せなんだろう。私達は」
一行は休憩に入った。次なる戦いのために――
「私は信じている……ハンターは歪虚などに負けはしないと!」
ヘザーは願いを込めて、仲間達の顔に視線をめぐらした。
すると、それに答えるように、バリトン(ka5112)の巨躯が一歩踏み出し、「ここは通さん」とばかりに斬龍刀「天墜」を振りかざした。
それに続いてシン(ka4968)が剣を構える。
(がんばって、システィーナ様)
その胸中は最上階でアーティファクトを発動する王女への思いに占められていた。
真白・祐(ka2803)も同じく、王女の下へは行かせまいと力強い動きでデバイスを起動する。
アーサー・ホーガン(ka0471)は敵をねめつけ、品定めをした。
(こいつは、あれだな。自分の世界で完結して、人の話聞かねぇ奴だ)
それが彼のレッドバックへの印象であった。
「ここを死守するしかないですね。さて、覚悟を決めて応戦するとしましょうか」
と、エルバッハ・リオン(ka2434)はいつものように呟く。
意思を確かめるように声に出したのは彼女だけではなかった。
「歪虚の癖に挑戦してくるとはいい度胸ですぅ。殺(や)ってやろうじゃないですかぁ」
攻撃寄りの性格を炸裂させるように星野 ハナ(ka5852)が言った。
「さあ……この塔のアーティファクトが欲しいっていうなら、試練を越えて見せなよ」
続け様に啖呵を切った、セレス・フュラー(ka6276)。”最上階の試練”を仲間と共に乗り越えた彼女が、今度は試練を課す側に回ったという自覚があった。
(こいつぁまた、タイミングの悪い時に引き受けちまったもんだな)
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は思う。
彼は今、まともに戦えぬ程の傷を負っていた。
(だがどんな状態だろうが一度引き受けた以上は最大限の成果を手に入れる、それが傭兵だ)
そう考える。そして傍らに控えるユグディラ、ホープを見た。
(最悪死ぬかもしれんが、頼りにしてんぞ相棒)
「私達がここを死守する! 通れるものなら通ってみろ!」
ヘザーが再び吼えた。仲間達の態度が、この上なく心強かった。
「……」
「ドクター、なんか切り返してやれよ」
「データが取れれば良いのでな」
レッドバックは冷めた態度で配下に攻撃を指示した。
●戦闘開始
ハンター達のうち、接近戦を行う者達は一気に距離を詰めた。剣の届く間合いまで一気に駆ける。
「行くぜ……?」
それより後方で、祐が術式を展開した。デバイスが起動し、眼前に光の三角形が形成される。その頂点から光線が発された。
それらは狙い通りレッドバック、パダギエ、妖魔戦闘員の一体を焼く。
「ぐっ!?」
祐は苦痛に顔を歪めた。攻撃を受けた、というわけではない。まるで、こちらの攻撃と同時にダメージを受けたかのようだった。
「メフィストってことは傲慢か……?
じゃあ、これがうわさに聞いた『懲罰』ってやつかよ……きっついな!」
祐は懲罰を敵が使う事をすぐさま周知する。
「わかりました。慎重にいきます」
エルバッハが涼やかな声で言って、最後列から呪文を紡ぐ。
ワンドから発された荒ぶる風は、刃となって妖魔の一体を切り裂く。
「……どうやら懲罰は一度に何度も発動しないようですね」
エルバッハは先に佑の攻撃を受けた個体を狙い、自身にダメージがないことを確認する。
一方でハナは符術の間合いに踏み込むために移動していた。
そのハナにいくつも銃口が向けられた。
「えぇ~もしかして『術士を集中攻撃』ですかぁ~?」
口調こそ砕けてはいたが瞬時に状況を判断する。
狙われたからには、凌ぐのみ。
ハナに攻撃してきたのは四体。一体が乱射する。それは動きを止めるための制圧射撃だ。行動の機会を奪われつつも、防御の姿勢をとる。
「どうしましたぁ……四人がかりで……女一人止めるのが精一杯ですかぁ?」
傷つきながら、凶暴に笑う。
攻撃の機会を逸したからといって、遠慮する必要などなかった。
残りの二体はエルバッハと佑に対し制圧射撃を行ったため、二人も攻撃の機会を失った。
一行は散開するという選択をとったので、範囲攻撃を一度に複数が受けることは避けられていた。ただし、その分後衛に向けられる射線を前衛で遮ることができなくなっていた。
「無視とはご挨拶じゃねーか」
アーサーが低い声で言う。前衛はフリーだった。
対峙している敵をハンマーでぶっ叩く。
「痛え。だが……俺の方も備えてる」
懲罰が来るが、計算の内だ。
何であれアーサーには『攻撃』に対して反撃する準備があった。
再びハンマーを妖魔に繰り出す。先程より強力だ。
「さあて、どっちが勝つか……倒れるまで殴り合おうぜ」
戦士の顔つきが、そこにあった。
一方バリトンは距離のある状態からユキウサギの作った紅水晶の中で次元斬を放ち、懲罰の痛手を受けていた。
「視認できずとも使えるのか。機械的に受けた損害を返すといったところか……しかし」
紅水晶の赤い空間から出て、誰にも接近されていない個体に猛進する。
「それだけの能力よな!」
それだけでは、この男は殺せない。
一気に距離を詰める。
相変わらず妖魔は後衛を狙っていた。
袈裟懸けの一撃。
入った。しかし浅い。
懲罰が来る。
――構わない。
「二連之業――」
刀が軌道を変え、再び斬りつける。
下段からの斬り上げが入った。
「一撃に対して一撃、ならば二撃打つまで」
バリトンの業が、冴え渡る。
別の敵に対してはシンが舞うようなステップで翻弄しつつ、距離を詰めていた。
それは仕掛けるのに絶妙な位置取りを可能にする。
「真白くんは動けないか……だが僕だけでも!」
かちりと、鳴くように響く。
低い姿勢から放つ、鞘から放たれた居合いの一撃が、妖魔に入った。
すぐさま懲罰の痛みが来る。
「このくらい……システィーナ様が背負っているものに比べたら!」
自ら護っているものの存在を思い起こし、戦意を奮い立たせる。
本来ならシンの攻撃に祐がデルタレイを被せるはずだったが、祐は制圧射撃を受けて攻撃できない。
――だが、それに続く攻撃は存在した。
「良く吠えた、少年」
それは投具の一撃。
「私達で、王国を護るんだ!」
別の敵の前進を阻んでいるヘザーが、スローイングしたものだった。
「私を忘れてもらっては困るな……
なにも後衛だけが遠距離攻撃ができるわけではない。ここからだって攻撃を集中させることはできる」
そしてすぐに自分が向き合っている敵に向き直り、視線と態度で威圧する。
「さあ、ついて来れる?!」
セレスは残像を纏い、一陣の風のように敵陣を駆け抜けた。
妖魔のうち二体の側を通り抜け、同時に斬っている。その際彼女が『ミゼリアの憎しみ』と名付けたスキルにより、毒を付与するおまけ付きだ。
セレスは妖魔のラインを抜け、その後ろに位置するレッドバックとパダギエに迫った。
レッドバックはセレスを一瞥する。その時には、もう斬られていた。
「うおっ、速え速え。俺まで狙うのかよ」
パダギエは飛膜でセレスの刃を防いでいた。頑丈な作りなのか、傷一つない。だがダメージがないというわけではなかった。
その時、レッドバックは自分に向かって何かが飛んでくるのに気づいた。マテリアルも何もこもっていない物が飛んできたところで避けるのに難はない。
それは酒の瓶だった。少し離れた所の床で割れる。
「何のつもりか知らんが、敢えて試みに乗る必要もないのでな」
レッドバックは飛んできた方を見る。
投げたのはエヴァンスの相棒、ホープだった。近づいてくることに気づかなかったのは流石ユグディラといったところだが、投げるのはわかる。
ホープは構わずに物を投げつける。今度は狙いはレッドバックではなく、パダギエだった。
「おっと、なんだこれ」
パダギエは飛膜のついた腕の先にある指で器用にそれを掴む。トランシーバーだった。
「あー、聞こえるかー」
トランシーバーがエヴァンスの声を届けてきた。
「強くて面白そうなお前に興味が湧いてな、ちょっと俺の話し相手になってくれねぇか?
お前にとっても面白いかもしれんことをたっぷり話してやれるぞ」
「ああ? お喋りしてる場合かよ。お互いに」
パダギエは即答する。
「一つ教えてやるぜ、人間。
心理的駆け引きってのは……魅力的なエサを差し出さないと成り立たねえんだよ」
パダギエはそれきり喋るのをやめた。
そしてレッドバックを庇えるよう身構え直す。
レッドバックはカプセルのような容器を懐から取り出し、少し前の床にぶつけた。
それは割れると、歪虚に支配された土地の空気を濃くしたような黒い粒子がはじけ、広がった。
「うわ、何これ」
セレスはそれを浴び、負のマテリアルであると直感で思い当たる。有害なものではあるが、即座に影響が出るものではなかった。
「なに、歪虚の汚れたマテリアルでも補給しようっての?」
「惜しいな、これは傷の治療だ」
「範囲回復ってわけ?」
レッドバックは性なのかセレスに効果を明かす。当然人間に効き目はないのは言われるまでもなくわかった。
自身とパダギエ、妖魔戦闘員の全員をカバーする範囲までそれは広がる。
「短期決戦は不可能と思ってもらおう」
レッドバックは淡々と事実をありのままに告げる。
妖魔戦闘員は再び三体が制圧射撃で後衛を行動不能にさせ、残り三体がハナを撃つという行動をとった。
不気味なまでに連携が取れていた。
●攻勢に出るハンター達
「ふっ……いつまでもやられっぱなしじゃありませんよぉ」
ハナの傷がまた増えた。口調はいつも通りだが地獄のように低い。
「グデちゃん、リクエスト!」
「ニャー」
仕方ねぇな終わったら美味いもん食わせろよというようにユグディラが鳴いた。
アーサーとバリトンのユキウサギが護衛しており、準備は万端だ。
ハンドベルを奏でてリズムを取る。
歌われる曲は……『猫たちの挽歌』。
郷愁を誘うメロディ……。
歪虚達の攻撃が止まった。
「今ですぅ!」
「成る程……攻め時というわけじゃな」
真っ先に応えたのはバリトン。
大きく振りかぶり、斬撃を繰り出す。
斬るのは敵ではない。空間それ自体。
そこに存在するものごと、空間を斬る剣。
「これぞ次元斬の真骨頂」
ただ離れた敵を斬る業ではない。一度に複数の敵を斬る事が可能な、対集団の業である。
今回のような敵が相手であれば、人数分の懲罰がバリトンに襲いかかることになるが……。
「懲罰を封じたか」
レッドバックが一人ごちる。
猫たちの挽歌は聞くものの攻撃を封じるスキルである。それが自動発動するリアクションスキルであろうと同じ事だ。
「なんてスキルだ……はぁ……これじゃやりたい放題じゃねえか!」
パダギエが抗議するが、曲に感動しながらなので迫力に欠けた。
「ほらほら、あたしをフリーにしてていいの?!」
セレスは再び残像を纏い、アサルトディスタンスで縦横無尽に駆ける。
止める者は誰もいない。懲罰が止まったことによりさらに自由さを増した。
まさに自由なる風――
そして、触れる者に傷と毒を齎す恐怖の風だ。
再び敵陣を抜け、今度は味方の中へと戻る。
「よし」
アーサーは一旦向き合っている敵から少し離れ、銃を抜き撃つ。狙いは――レッドバック。
「危ねぇ!」
パダギエが庇って撃たれた。
今度はそのパダギエにヘザーの投具が突き刺さる。
「ってぇ! なんか俺大人気なんですけど」
「それで終わりじゃ……ありませんよぉ?」
禍々しいオーラ。
正面には自由になったハナの凶悪な笑みが見えた。
その手から複数の符が放たれる。
「殲滅、殲滅ですぅ!」
それらは空中で規則正しい並び方をすると、それぞれから光が迸った――五色光符陣。
パダギエとレッドバックを含む複数の歪虚を焼いた。
「なるほど、動けるならここでじっとしている道理もありませんね」
エルバッハが呟く。ハナと同じく彼女も動いていた。
呪文を紡ぎ、踊るようにワンドを舞わす。
緋色の光が弾けた。灼熱の火球だ。
それは敵陣に降り注ぎ焔の華を咲かす。
「……五分咲き、というところですか」
「俺も行くぜ……!」
同じく動けるようになった祐がデルタレイを発動する。
「早い所、ご退場願おうか……!」
狙いは妖魔戦闘員。
完全な正三角形から発した光が、三体の歪虚を貫いた。
「くっ、なんだって俺にまでこう攻撃が向かってくるのか」
「違う。将を射ようとするならまず馬を射よ、だ。奴等の狙いは指揮官である私だろう」
パダギエとレッドバックは猛攻を凌ぎつつも範囲回復を止めない。
「んっ……案外しぶといですねえ」
ハナはポーションをあおり、空き瓶を投げ捨てた。完全に目が据わっている。
ユキウサギ二人もハナの護衛についた。護るのはかれらの得意とするところだ。雪水晶の効果でハナの損害は減らされている。
「もう一度、行けます」
挽歌はまだ続いている。エルバッハは再びファイアーボールを撃った。
さらにはバリトンが次元斬を、祐がデルタレイを撃つ。
セレスもアサルトディスタンスで駆け抜けた。
ハナの五色光符陣も言うまでもなく猛威を振るった。
対・多数のスキルを複数備えたハンター達の編成。それは集団戦を行う歪虚に大打撃を与えるに至る。
●命を削り合う攻防
――が、挽歌はやがて止んだ。
このスキルの弱点は使用回数が少ないことだ。
妖魔戦闘員達は再び懲罰を使い始め、制圧射撃で術士のスキルを制限する。
一撃必殺の技は持たない代わりに、確実に痛手を与え、敵の得意技を封じる戦法。
そこからは、まさに命の削り合いであった。
「いいねえ、望む所だ」
アーサーはそんな状況下にあって不敵に笑う。
だが、拮抗状態は長くは続かなかった。
まず、懲罰の使用回数が切れた。
これによりハンター側の受けるダメージは相当に減った。
次に制圧射撃の使用回数が切れた。
後衛がフリーになったことにより、勢いはハンター側に一気に傾いた。
ハンター達がそれまで立っていられたのは戦略が功を奏したからだ。威力を抑えた攻撃で懲罰を誘う、散開して範囲攻撃の被害を減らす等の成果が出ていた。
「『風花のように散りゆくのみ』
――なんてね」
セレスは背後で斬られて消えゆく歪虚に言葉を送る。
セレスの脳裏には芸術的なポーズをとったゴーレム・シルフの姿が思い起こされていた。
妖魔戦闘員は一人、また一人と倒れていった。
ここでハンター達の狙いはパダギエへと移る。
「さぁ~……今すぐあの世に送ってあげますからねぇ~!」
「あの符術士は何だ! バーバリアンか!」
ハナは執拗に五色光符陣でパダギエを狙う。効果的な対応策も迎撃手段も持っていないパダギエは手詰まりだった。
「ドクター! ドクターストップしてくれ」
「それは要請するものじゃないな」
レッドバックの姿が、一瞬消えた。
かと思うと、唐突に煙が広がり、レッドバックとパダギエの姿を隠す。
「まだメフィスト様がおられるのだ。
私達が無理をして戦力を減らすは失策……
さらばだ、人間達」
姿こそ見えなかったが、レッドバックとパダギエが捨て台詞を残して撤退したのがわかった。
「さあ、あと少しだ!」
シンが叫ぶ。
すでに疲労は相当なものだったが、士気はむしろ高揚していた。
「よーうニンゲーン! 生きてるかー!」
エヴァンスの無線機から出し抜けに声が聞こえた。離脱したパダギエの声だ。
「なあなあ面白い話って何だったん?
そう言えばメフィスト様に土下座したハンターいるだろ! 知ってるか? 俺あいつの話聞きたい!」
先程とは打って変わって話に食いつく。もっともエヴァンスは気を逸らそうと無線機を渡したに過ぎないので、今更食いついてきても無意味だったのだが……。
このパダギエの通信が何の影響を及ぼすかと言えば、何の影響もないのであった。
歪虚は不利を覆せず、しかし不気味なまでに銃を撃ち続ける。
「楽にしてあげましょう」
エルバッハのウインドスラッシュが一体を切り裂き――
「コイツでトドメだぜ!」
祐のデルタレイが貫いた。
「貴様も、逝くがいい……」
さらに残る一体の首を、バリトンが刎ねた。
首が転がった音が、戦いの終わりの合図となった。
●そして静寂が場を支配した
「お前ら派手さに欠けるんだよ」
アーサーがハンマーを床に立てて言った。レッドバックが『無難』と評したのもその辺りが原因かもしれない。
「この程度で私達に勝とうとするとか大笑いですぅ~!」
遠くに呼びかけるようにハナが言う。相手はすでにこの場にいないというのに、徹底的な殺意が込められていた。
「結局、居るだけになっちまったか」
エヴァンスは仲間にすまなそうに告げた。死を覚悟していた分、この結果は善かったと言えば善かったのだが。
「でもさ、もし扉を敵が通りそうになったら身体を張ってでも止めてくれたでしょ?」
セレスが言った。
エヴァンスが重体となった原因である函館湾の戦いでは、セレスの姉もいた。
姉が無事帰ってきたのは、エヴァンスがその時に敵の攻撃を引きつけてくれたお陰とも言えた。そういう人物であることは、あの場で起こった事を知っていればわかる。
「戦いはこれで終わりじゃない。
まだメフィストがいる……」
ヘザーは一行の顔を見渡し、険しい表情のまま言った。
「皆、まだ戦えるな。
エヴァンスも悪いがまだ付き合ってもらうぞ」
「システィーナ嬢ちゃんにはまだまだ頑張ってもらわねばならんからのう」
戦闘が終わったからか、やや穏やかになった口調でバリトンが言った。
「ベリアルと戦っとる孫たちとかのためにもな」
そして付け足す。王女の行いはベリアルと戦う者達にも力を与えるもので、間違いなく王国を護るための、具体的な行動である。
「システィーナ様にしか、できないことなんですよね……」
シンが言った。『未来の王』と宣言する資格すら、彼女以外には持ち得ない。
「あの王女様は、自分の意志でやると言った。大丈夫さ、きっと」
祐が真っ直ぐな意志を感じさせる口調で言った。
「王女様、私達、別の戦場の皆さん、ベリアル、メフィスト……多くの要素が絡まってきましたね」
エルバッハは思案する。この戦いにはあまりにも多くのものが関わっている。視野を広げれば、グラズヘイム王国の民すべてに関係のあることだ。
「あっさり片づく事じゃない。一つずつ、私達にできることをしよう」
ヘザーがそう言って、今の台詞は月並みすぎたなと照れる。
「できることがあるだけ、幸せなんだろう。私達は」
一行は休憩に入った。次なる戦いのために――
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最終発言 2017/04/16 07:31:29 |
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相談卓 通りすがりのSさん(ka6276) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/04/21 02:03:53 |