ゲスト
(ka0000)
【陶曲】ポルトワールを綺麗に!
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/14 09:00
- 完成日
- 2017/07/28 19:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●いつもの店にて
同盟第一の港湾都市といえばポルトワールをあげる人が多いだろう。
漁港として、商港として、そして何より同盟最大規模にして最強の呼び声高い海軍が基地を構える軍港でもあるのだから、当然といえば当然だ。
同盟軍報道官のメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、基本的には本部のあるヴァリオスにいるのだが、ここポルトワールへ出張する任務も多い。
そして出張の後、時間が許せば必ず立ち寄るのが『金色のカモメ亭』である。
ドアを開けると、いつでも野太い声が出迎えてくれる。
「あ~らご無沙汰ネ、メリンダ。いらっしゃ~い♪」
店主の名はジャン=マリア・オネスティ。三十前のがっしりした体格の男で、派手なフリルのエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしてカラフルなおリボンを結んでいるのが店でのスタイルだ。
「ハァイ、ジャン。景気はどう?」
カウンター席に陣取ってのひとりごはんが、メリンダのいつものスタイルだった。
「そうねえ。やっと多少は、落ち着いてきたところ?」
ジャンが軽く肩をすくめる。
春先から、ポルトワールは陶器人形型の歪虚の襲撃を受けていた。
海軍はハンター達の力を借りて歪虚を撃退し、人々は一応の落ち着きを取り戻しつつある。
歪虚の襲撃が完全になくなったわけではないが、良くも悪くも人々は慣れてきており、商業活動もまた活発になってきているという。
「とはいえ、怖いものは怖いもの。皆、慣れた『フリ』してるんじゃないかと思うワ」
賑やかに歌い騒ぐ人々の姿は、どこか以前と違って見える。
メリンダもそれは感じていた。
いや、人々の様子だけではない。街全体の空気に、何かざらついた感触が混じっている。
「というわけで、ちょっとご近所で話し合ったんだけど。あ、これ、アタシからの奢りネ♪」
「え?」
満面の笑みで飲み物のグラスを滑らせるジャンに、メリンダは全身を緊張させる。
(うわー! 嫌な予感しかしないわー!!)
ジャンはメリンダの表情を無視して、にこやかに話を続ける。
「ホラ、もうすぐ海水浴のシーズンじゃない? 寂しい海水浴なんてつまんないでしょ? だ・か・ら。その前に海岸をお掃除しようってことになったの!」
メリンダは少しだけ肩の力を抜いた。
「それはいいかもしれないわね。……待って。それにどうして私が関係あるの?」
「決まってるじゃなあい♪ 海軍とハンターさんも雇って欲しいのヨ」
待て待て待て。メリンダが目を細める。
「……ご近所のお掃除活動に、軍隊とハンターを要請するとか、あり得ないでしょ?」
「そこがメリンダさんの腕の見せどころじゃないかしらん? ……実はネ」
ジャンが耳打ちする。
「海底に落ちているゴミが怖いって、今あんまり舟を出してもらえないのよ。このままじゃいずれ漁にも影響が出かねないワ」
ジャンが言うには、先の戦いで壊れた船や古いがらくたなど、流れ着いたゴミが浅瀬に溜まっているのだという。
仮にもう一度海からの襲撃があれば、あのゴミすら歪虚に見え、人々はパニックになるだろう。
そのために大掛かりな清掃活動に参加してもらうことで、海を必要以上に怖がる必要はないと思ってもらえたら……。
「……ってストーリーならどうかしら?」
半ば本気のジャンの言葉に、メリンダも唸る。
「……期待はしないでよ?」
それからほどなくして、オフィスに一見能天気な依頼が張り出されたのだった。
『ポルトワールのお掃除クルー大募集! ついでにきれいになった海も楽しんじゃおう!』
同盟第一の港湾都市といえばポルトワールをあげる人が多いだろう。
漁港として、商港として、そして何より同盟最大規模にして最強の呼び声高い海軍が基地を構える軍港でもあるのだから、当然といえば当然だ。
同盟軍報道官のメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、基本的には本部のあるヴァリオスにいるのだが、ここポルトワールへ出張する任務も多い。
そして出張の後、時間が許せば必ず立ち寄るのが『金色のカモメ亭』である。
ドアを開けると、いつでも野太い声が出迎えてくれる。
「あ~らご無沙汰ネ、メリンダ。いらっしゃ~い♪」
店主の名はジャン=マリア・オネスティ。三十前のがっしりした体格の男で、派手なフリルのエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしてカラフルなおリボンを結んでいるのが店でのスタイルだ。
「ハァイ、ジャン。景気はどう?」
カウンター席に陣取ってのひとりごはんが、メリンダのいつものスタイルだった。
「そうねえ。やっと多少は、落ち着いてきたところ?」
ジャンが軽く肩をすくめる。
春先から、ポルトワールは陶器人形型の歪虚の襲撃を受けていた。
海軍はハンター達の力を借りて歪虚を撃退し、人々は一応の落ち着きを取り戻しつつある。
歪虚の襲撃が完全になくなったわけではないが、良くも悪くも人々は慣れてきており、商業活動もまた活発になってきているという。
「とはいえ、怖いものは怖いもの。皆、慣れた『フリ』してるんじゃないかと思うワ」
賑やかに歌い騒ぐ人々の姿は、どこか以前と違って見える。
メリンダもそれは感じていた。
いや、人々の様子だけではない。街全体の空気に、何かざらついた感触が混じっている。
「というわけで、ちょっとご近所で話し合ったんだけど。あ、これ、アタシからの奢りネ♪」
「え?」
満面の笑みで飲み物のグラスを滑らせるジャンに、メリンダは全身を緊張させる。
(うわー! 嫌な予感しかしないわー!!)
ジャンはメリンダの表情を無視して、にこやかに話を続ける。
「ホラ、もうすぐ海水浴のシーズンじゃない? 寂しい海水浴なんてつまんないでしょ? だ・か・ら。その前に海岸をお掃除しようってことになったの!」
メリンダは少しだけ肩の力を抜いた。
「それはいいかもしれないわね。……待って。それにどうして私が関係あるの?」
「決まってるじゃなあい♪ 海軍とハンターさんも雇って欲しいのヨ」
待て待て待て。メリンダが目を細める。
「……ご近所のお掃除活動に、軍隊とハンターを要請するとか、あり得ないでしょ?」
「そこがメリンダさんの腕の見せどころじゃないかしらん? ……実はネ」
ジャンが耳打ちする。
「海底に落ちているゴミが怖いって、今あんまり舟を出してもらえないのよ。このままじゃいずれ漁にも影響が出かねないワ」
ジャンが言うには、先の戦いで壊れた船や古いがらくたなど、流れ着いたゴミが浅瀬に溜まっているのだという。
仮にもう一度海からの襲撃があれば、あのゴミすら歪虚に見え、人々はパニックになるだろう。
そのために大掛かりな清掃活動に参加してもらうことで、海を必要以上に怖がる必要はないと思ってもらえたら……。
「……ってストーリーならどうかしら?」
半ば本気のジャンの言葉に、メリンダも唸る。
「……期待はしないでよ?」
それからほどなくして、オフィスに一見能天気な依頼が張り出されたのだった。
『ポルトワールのお掃除クルー大募集! ついでにきれいになった海も楽しんじゃおう!』
リプレイ本文
●
皆の行いに、大精霊も味方したのか。当日は晴天に恵まれた。
さんさんと輝く太陽、キラキラと光る青い海。
ユウ(ka6891)はほう、とため息を漏らす。
「初めて見た時も驚きましたが、やはり海というのはとてつもなく広いですね」
一見して大人びた容貌だが、ドラグーンの娘にあるのは生きてきた年数相応の経験と好奇心。視界いっぱいに広がる光景に見あきることはない。
杢(ka6890)もまた、海の眺めに興奮気味だ。
「たげでったら海だんず。遠くにお船も見えるだんず、やっほーだんずー」
お餅のように白い頬を赤く染め、沖に見える漁船や海軍の船に向かって思い切り手を振っている。
「あまり焼くと……後が大変、だよ」
ナーザニン(ka6916)は、杢の日焼けを心配しつつも微笑んでいる。
龍園に慣れた身体には、太陽の皮膚を焦がすような日差しも、海の青さも、南国風の木々の緑も、とても新鮮に感じられたのだ。
「綺麗……だね」
ユウと杢はその言葉にうなずいた。
「ええ、この港町に住む人達が安心して暮らせるよう、微力ながらお手伝いしましょう」
「海さキレーになれば、もっと気持ちよくなるだんずー」
綺麗な海、綺麗な街。
その言葉に、ジュード・エアハート(ka0410)はこっそり胸を張る。
故郷を好きになってもらえて、嬉しくないはずがない。
「さて、皆が安心して海に出られるように頑張らなきゃ!」
ヤル気に満ちた笑顔で、用意されたテントの設置に取り掛かる。
エアルドフリス(ka1856)はジュードの手から支柱を受け取り、器用に組み立て始める。
「あらー、こっちお任せしちゃって大丈夫みたいネ!」
調子は柔らかいがいかつい声に振り向くと、レースで彩られた男がにこにこしていた。
「よろしくね、ジャンよ! 一応、ポルトワール住民の連絡役をやってるわ」
「ああ、ちょうど良かった」
エアルドフリスは、ジャンに清掃区域全体の地図がないかと尋ねた。
「テントの用意があるってことは、ここが真ん中辺りだな」
「ええ、そうヨ」
「あの、ここを本部にして、情報の収集と発信に使いたいんです!」
ジュードの説明に、ジャンが地図を提供すると約束する。
海軍の船は既に沖合に展開していた。
一同に挨拶を済ませたメリンダも、小型ボートでそちらへ向かう予定だ。
「それでは皆さん、一生懸命になり過ぎないように休憩も取ってくださいね! いくらハンターさん達でも、倒れてしまいますから」
にっこり営業スマイルでそういうと、ウェットスーツ姿でざぶざぶと海へ入っていく。
その背後から、あいさつが終わるのを待っていたノワ(ka3572)が呼びかけた。
「メリンダさん、こんにちは! 今日はスイムスーツなんですね♪」
「こんにちは、ノワさん! またよろしくお願いしますね」
「はい! あの、私は海軍さんのお手伝いに行きたいです。また大蛸が現れるかもしれませんし!」
うっ。
メリンダの口元がほんのわずかだが引きつる。
以前に大蛸退治ではノワに助けられたが、できればその際のことはもう思い出したくないのが本音。
だが歪虚に対する警戒はもっともだ。
「そうですね、ではこのボートにどうぞ」
「はい! お邪魔します。……っと、その前に!」
なぜかノワはメリンダに向かって二礼二拍手一礼拝。
「あの、それは……」
「噂で聞きましたよ! メリンダさんに向かってこうすると、泳げるようになるそうです!」
――またお友達か?
メリンダは一度そいつに説教すべきかと思ったが、それ以前に大事なことに気がついた。
「もしかして、ノワさんは泳げない、とかそんな……」
「でもこれでばっちりですね♪ メリンダさんパワー凄い!」
「……船から、絶対に! 落ちないようにしてくださいね」
メリンダはノワの身体をボートに押し込んだ。
「メリンダさん!」
また呼びとめられた。声の主は赤褌が凛々しい、シバ・ミラージュ(ka2094)である。
「なんでしょうか、シバさん?」
「海軍のほうでブイをお持ちではないですか? 沈んでいるゴミが大物だと、自力では引き上げられないので」
潜水で見つけたゴミにロープをかけ、ブイで目印をつけて、ユニットやボートで引き上げようというのだ。
メリンダは、普段は天然トラブルメーカーで、どこまで本気か分からないシバに、本当の笑顔を向ける。
「もちろん用意します。ゴミを見つけた地点で近くの船に合図を送ってください」
困っている人がいる、そんな時には本気で、そして全力で取り組むのがシバだ。
これまでもそれは一貫していた。
「シバさんも無理のない範囲でお願いしますね!」
手を振るメリンダを乗せて、ボートは沖合へと出ていった。
「もちろんです。さて住民の皆様。我々がいますから歪虚と海を恐れないでく」
どぶん。
言葉の途中で海へ飛び込むシバ。
自分もこんなに無防備に飛びこむのだから、大丈夫だ。そう伝えるべく、海面に片手の親指だけが出ていた。
……シバの意図が伝わるといいのだが。
●
海岸には様々な物が転がっていた。
壊れかけた木箱に割れた酒瓶、タコ壺に朽ちかけた木の枝、ぼろぼろになった網。
そんな普通のゴミでも、岩陰にかたまっていたりすると一般人の参加者たちに不穏な気配が漂う。
清掃活動する人々の中に混ざり、鞍馬 真(ka5819)は手で運べる大きさのゴミを拾い集めていたが、ふと顔を上げてそちらへ近づいて行った。
「何か気になる物でもあったのか」
振り向いたのは、ユキウサギの珠雪を連れた骸香(ka6223)だ。鬼の娘は軽く肩をすくめて見せる。
「奥のほうに、ちょっとね。こいつが見つけたんだけど」
ぐりぐりと撫でまわされ、珠雪は得意そうに跳ねまわる。
「どれだ」
真が覗き込むと、ガラクタの奥に一抱えほどの白っぽい硬そうなものがある。
なるほど、陶製の歪虚に襲われた海岸では、あれはなるべく近寄りたくないものだろう。
真と骸香は住民たちに、手前のゴミを運んでもらうように頼む。
「奥は私たちがなんとかする。心配しなくていい」
真が腰に下げた剣を軽く叩いて笑顔を見せると、住民たちも安心したようだ。
張り切るユキウサギも一緒に頑張り、見えるゴミをどんどん運び去ると、皆を怯えさせていた物の正体が見えた。
「ずいぶんと大きな骨だね」
骸香がぽんぽんと白い塊を叩いた。どうやら流れ着いたクジラの頭の骨らしい。
怖いものではないとわかり、住民たちもすぐに動き始めた。
「驚かせやがって!」
苦笑いしつつロープをかけ、皆で集積場へと運んで行く。
ロキ(ka6872)は水着にラッシュガードを羽織ったラフな格好で、住民たちに混じって活動していた。
武装も置いてきたので、まるで元々ポルトワールの住民だったかのようにも見える。
「嬉しいワ、頑張ってくれてるのネ♪」
ジャンが大きな網を引きずって通りかかる。ロキは駆け寄り、すぐにその端を持った。
「みなさんが元気になるお手伝いをできれば、と思うんです」
「あらありがと! そうネ、最近ちょっと元気がなかったのは、ゴミのせいだけじゃないとは思うし」
ロキは頷く。
海が大好きな人々なのだから、本来ならゴミをそのままにしておくはずがない。ハンター達が一緒に片づけることで、少しでも不安が軽くなれば、本来の活気も戻るだろう。
「また明るい港町で、美味しいお魚をいただきたいものですね♪」
「まっかせて! お掃除が終わったら、皆に御馳走しちゃうわよ!」
「はい、楽しみにしてます!」
ゴミを運び終えたロキは、また砂浜へと戻っていく。
「皆、一生懸命頑張ってくれていますからね。でも頑張り過ぎないように、休憩もとらないと」
砂浜は広く、まだまだ手つかずの場所も多い。
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は近くでお手伝いしている子供に笑いかける。
「ヤァ、海のお掃除カイ? 楽しそうダネ!」
「うん! いっぱいおそうじしてるよ!!」
小さな袋いっぱいに、ガラスの欠片や布切れが入っている。
「そっか、エライね!」
アルヴィンは先に、近くの大人たちに気になる場所がないかを聞いていたのだ。
だが大人と、毎日が冒険の子供たちでは見える場所が違う。だからわざとひそひそ声で子供に話しかけた。
「あのネ、ミンナには内緒なんダヨ。さっきチラっと、気になるナニカが泳いでたんダネ。お魚が隠れソウナ場所、僕に教えてくれないカナ?」
子供たちは顔を見合わせ、ひそひそを返す。
「あのね、ホントはあそこまでいっちゃいけないっていわれてるんだけど、あの岩の下にね、おふねのかざりが沈んでるの」
アルヴィンは子供の頭をなでて悪戯っぽく笑う。
「アリガト! 大丈夫ダヨ、皆カラ教えてもらったって言わないからネ。ソウだ、テントでお水飲んでオイデ! おやつももらえるヨ!」
アルヴィンは嬉しそうに走っていく子供たちを見送り、魔導短伝話で連絡を入れる。
「大きなゴミがありそうなんだヨネ、誰か手伝ってもらってイイかな? ふふっ宝さがしダヨ!」
連絡を受けて、ユリアン(ka1664)は青い魔導トラック、アジュールに向かう。
「隊長は、本部にいると思ってたんだけど……」
ユリアンが隊長と呼ぶのはアルヴィンである。相変わらずの神出鬼没、いつの間にか本部から消えていたのだ。
「でもこのトラックは、帝国のアルゴス戦の後始末でもゴミ回収に使ったし。何だかんだと役に立ってるな」
ユリアンは車体に手を添え、頼もしい相棒を見上げる。
魔導トラックを始め、依頼に便利な道具は色々と出回っている。お陰で効率よく動けるようになった。
運転席に乗り込もうとすると、ルナ・レンフィールド(ka1565)と高瀬 未悠(ka3199)が駆けつける。
「あのっ、お手伝いしてもいいですか……!」
ルナが一生懸命という様子で声を上げると、ユリアンが頷く。
「大きなゴミかもしれないし、手伝ってもらえると助かるよ」
「じゃあルナ、貴女はユリアンの隣に乗っていって」
「えっ、未悠ちゃん!?」
「荷台には荷物があるの」
さりげなく、だが強い調子で未悠はルナを助手席に押し込め、自分は荷台にひらりと飛び乗った。
「あの、おじゃま、します……」
高い座席におっかなびっくり登ろうとするルナに、ユリアンが手を差し出す。
「足元に気をつけて」
「は、はいっ!!」
「未悠さんも。落ちないように気をつけて」
「大丈夫。結構快適よ」
走り出した魔導トラックは、手を振るアルヴィンの傍で停車する。
「やア、お手伝い有難うネ」
「あの岩場の下かな」
ユリアンは子供が教えてくれた岩を器用に登り、沈んだ金物に鉤のついたロープを引っ掛ける。
「これで動いてくれるかな」
ロープの端をアルヴィンとルナ、未悠が思い切り引っ張ると、うまい具合に大人の背丈ほどもあるゴミが引き寄せられてきた。
皆でトラックの荷台に押し上げる。未悠はルナを気遣った。
「ルナ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫! ……船の守り神ね」
金物は、船の先端に飾る女神像だった。
「持ち主は分からないかしら」
未悠は女神が、誰かの大事な船の痕跡だと思ったのだ。
「後でポルトワールの人がいたら聞いてみよう」
ユリアンは再びトラックを走らせる。
●
道元 ガンジ(ka6005)はモフロウを空に放つ。
フクロウに似たふわふわの鳥は、ガンジに自分の見たものを教えてくれる。
「船を借りられたらよかったんだけどな」
だが海を知り尽くした漁師たちが参加しているので、ゴミの位置を教えることができれば回収は簡単だろう。
そこでファミリアアイズで上空からモフロウに探ってもらうのだ。
今回、一緒に来たアスワド・ララ(ka4239)は、誰かにとって大事そうなものはなるべく回収してほしいという。
「商人らしいよなー。ま、後で奢ってもらえるなら俺はなんでもいいんだけど」
そこでガンジが目を凝らす。揺らめく大きな影が海底に見えたのだ。
「あれはちょっと怖いかもな。でもどうするか……」
そのとき、モフロウが泳ぐ人影を見つけた。赤褌も鮮やかな銀髪の美少年、シバである。
「うーん、確かにあの赤褌、見つけやすいな」
大声で呼びかけると、シバが気付いてくれた。近くの海軍の船まで泳いで近付くと、乗り込んで一緒に戻ってくる。
海軍がブイを設置し、後で回収することになった。
シバが海岸に戻ってきて、自分が海底から見つけた、少し変わった装飾品らしきものをガンジに見せた。
「僕には価値が分かりませんが、わかる人に見てもらえるでしょうか」
「うん、わかった。預かっておくよ」
ガンジはアスワドに見てもらうことにした。
杢は浜辺で、トングを使って埋もれたゴミを掘り起こしていた。
「はー、ゴミがいくらでも出てくるだんず。んでも海さキレーになれば、気持ちもすっきりだんず」
縞々の水着姿の杢がしゃがみこんでトングで砂を掘っているところは、ちょっと遊んでいるようにも見えるが、本人はいたって真面目だ。
その証拠に、杢の周りには大量のゴミが掘り起こされて積み上げられている。
しばらく熱心に砂浜を掘り起こしていた杢が、突然手を止めた。
「これは……」
出てきたのは小さなビー玉だった。
「たげキレーじゃー……貰ったらダメだんず? 泥棒さんになっでまうず?」
遊んでいた子供の忘れものだろうか。澄んだ海を凝縮したような、深く美しい色のビー玉である。
ゴミでももらってしまったらダメだろうかと、杢は悩む。
だが悩む杢を、ユウが引っ張った。
「逃げてください! 波がきますよ!!」
ユウにとっては寄せては返す波が珍しく、子供のように過敏な反応だ。
だが実際、時間が経つごとに潮が満ちて来たらしく、波が届く場所はどんどん内陸に近くなっていく。
ユウの呼びかけに、ゴミ拾いに熱中していた人々もそれにようやく気付いたようだ。ひとまず固めたゴミをまとめて、集積場へと運んで行く。
「大丈夫でしたか?」
「まんずみんな、無事だんず。危なかっただんず」
ナーザニンは辺りを確認し、トランシーバーで本部に連絡を入れた。
「少し……波が近く、なってきた……かも。注意を……お願い」
それから本部へ向かう。
「あちらの、様子を……見てきます。暑さで、具合を悪くしていないか、気になります……から」
本部のテントにはそういう人が運び込まれているだろう。
助けになれるかもと、ナーザニンは考えたのだった。
●
ゴミを入れた大きな袋をさげて、ナーザニンがテントに向かってくる。
沢城 葵(ka3114)はそのけなげな姿を日陰から透かし見た。
「はー、皆暑い中頑張るわねぇ」
ゴミ拾いが大事なのはわかる。ただ、夏の海岸の日差しは暴力的だ。
薄手のパーカーを羽織っているが、念入りに手入れを欠かさないお肌を日焼けさせるなんてとんでもない。
「ま、それでもお仕事だものね。やれることはやるわよ」
葵はテントを見回すナーザニンに声をかけた。
「随分と張り切ってるみたいだけど、皆大丈夫? ちゃんと休憩も取ってるかしら?」
「ええ……こちらは、具合が悪くなった人は……大丈夫、でしょうか」
「今のところ大丈夫よ。色々準備してるからね」
軽くウィンク。
片手で食べやすいおにぎりやサンドイッチ、それに喉ごしの良い冷たいスープ。
水もおしぼりも用意してある。
「何かあったらこっちに連絡が入ると思うんだけど。ま、それはおまかせかしらん?」
そうして意味ありげに視線を投げる。
「怪我しちゃった人や疲れちゃった人は本部で休んでいってねー!」
ジュードは砂浜に散らばる人々に声をかける。
スカートの下には水着を着こんで、いざとなれば海にも入れるように。お供のユグディラのクリムも、大きな青い瞳をくるくるさせて監視をお手伝いしている。
「クリムもお願いね。あ、でもタオルはちゃんとかぶってね」
「にゃい!」
日よけ用の大きなタオルからのぞく、真っ白な毛並みが日差しに輝いている。
ひと回りして、またテントに戻る。
テントの傍らに控える、暗い銀灰色の毛並みのイェジドが良く目立つ。エアルドフリスが連れてきたゲアラハだ。
「ゲアラハもいい子だね。でも無理はしないでね」
ジュードはゲアラハの鼻面をなでてやる。
テントの中では、エアルドフリスが魔導短伝話を片手に、地図に向かっていた。
「……わかった。そっち方面の人では足りてるんだな?」
通話の相手は榊 兵庫(ka0010)だ。
「ああ。大きなゴミはほとんど掘り返した。後は集積場へ運ぶだけだ」
通話しながら、兵庫は周囲を改めて見回す。一般市民にハンター、ぽつぽつと同盟海軍の軍人の姿も見える。
(……そういえば俺も昔、こんな清掃活動に参加したな)
地域への奉仕活動の一環として、軍人が駆り出されるのはリアルブルーもクリムゾンウェストも変わらないようだ。
(軍隊なんてどこでも似たようなものだな)
暫しの間、懐かしさにひたりつつも、仕事は仕事。
「金属などは一度溶かせば、資材として再利用できるかもしれないからな。見極めて分類しておく」
兵庫は本部との通信を終えて、また作業に戻る。
エアルドフリスはピンを刺した地点に、何かを書きこむ。
「じゃあ片付いたらまた連絡を頼む」
通話を終えたのを確認して、ジュードが声をかけた。
「本部周辺も異状はなかったよ」
「そうか。なら良かった」
エアルドフリスは軽く伸びをし、海を眺める。
「ゲアラハは大人しくしているな。動き回ると誰かを踏みつぶしかねん」
それでも目印にはなる。
今回は「ハンター達が全面的に協力してくれている」と見せつけることも大事だと思うのだ。
「陶器の歪虚は……どうにも読めん連中だった。市民の不安が消えんのは尤もだろう」
そこに、頑張り過ぎた住民が運び込まれてきたようだ。
「む、檸檬水でも飲ませるか」
薬師でもあるエアルドフリスはすぐに立ち上がる。だがジュードに足を踏まれて立ち止まった。
「なんだ?」
「綺麗な女の人だね?」
「……あのな」
軽くジュードを小突いたあと、くしゃくしゃと頭を撫で、エアルドフリスは救護に向かった。
「あー、エアハートとエアの隣は熱いわねー」
葵は同じテントの中で、ぱたぱたと顔を扇ぐ。
「お邪魔虫にならないように、呼ばれるまで待機ねー」
などといいつつ、改めて海を眺めた。
浅瀬には人間よりも大きな影がいくつか動き回っていた。
●
影のひとつ、魔導アーマー「プラヴァー」のコクピットで、ジーナ(ka1643)は改めて居住まいを正す。
「速度は控えめに、だな。砂が跳ねては周囲の一般人が困るだろう」
駆動用のローラーは、砂浜の地形をうまく縫って進んでいく。
「思ったよりも小回りが利くな」
実は今回、ジーナにとっては新しく入手したこのプラヴァーの慣らし運転も兼ねている。
砂地の移動、水際の活動、ゴミの掘り起こしとより分け、一般人が近くにいる状況での慎重な操作。
全てが実践におあつらえ向きだ。
「とはいえ、経緯を考慮すれば今後に響くか」
単なるお掃除活動とは違う、いくらかの緊張が漂うのは当然といえば当然だった。
報酬を出してまでハンターを雇うからには、それなりの理由があるのだ。
クレール・ディンセルフ(ka0586)も魔導アーマー「ヘイムダル」に乗り込んだ。
「まわりに注意して、異常があればすぐに知らせますね。皆さん、安心してくださいね!」
レーダーや対空砲などの各種装備が太陽の光を浴びて頼もしく輝いた。
近くの人々にそう呼びかけると、シートに腰を落ち着ける。
「さて頑張ろ、ヤタガラス!」
尻尾状の大型スタビライザーでバランスを取る姿に、リアルブルーの伝承にある太陽の神様を思いだしそう名付けた。
今回は荷台も設置して、清掃活動に従事する。
「ポルトワールには、よくご飯食べに来るからね……汚れた海岸はよろしくない! うん!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、漁師のおじさんから潮の流れについて教わる。
「ありがとネ♪ ゴミが集まりそうなトコロは、おじさんたちのほうが詳しいからネ!」
「こちらこそ助かるよ。おかげでまた安心して漁に出られる」
海を知るからこそ、海を怖れる。ポルトワールの住民たちの不安は深いのだ。
「大好きな同盟の海だからネ! じゃんじゃん拾っテ、ピカピカにするヨ♪ クレールとヤタちゃん、お邪魔しマース!」
パトリシアは双眼鏡を首から下げて、ヤタガラスの肩につかまった。そこでふと、海を見つめる天王寺茜(ka4080)に気付いた。
「と、アカネはどしたの?」
「あっ、えっと! おっきな海だなあって思って!」
LH044コロニーで育った茜は、「本物の海」をあまり知らない。
波の音、吹き寄せる風、潮の香り。そして何よりも、どこまでも青く広がり空と溶け合う海の光景は、何度見ても見あきることがなかった。
「ごめんごめん、お仕事しなきゃね! さってと、皆さーん、割り当てられた場所に移動しまーす」
茜は近くの子供に笑顔を向ける。
「お掃除頑張るのもいいけど、大人の人と離れないようにね?」
ユニットが加わり、大物の片づけははかどるようになる。
ジャック・エルギン(ka1522)がトランシーバーで呼びかけたほうへ向かうと、岸壁の岩場に壊れた船の一部が半ば挟まったままになっていた。
「悪いな。ちょっと動かしてみたが、流石に人力じゃ引っ張り出すのは無理なんでな」
一般人なら近づくのも難しい場所だ。それでも斧で一部を叩き壊し、ロープをかけるところまでは済ませている。
ラグナ・アスティマーレ(ka3038)が波間から顔を出して手を振っていた。
「潜って確認したが、幸い海底に埋もれている部分はない。うまく引けば動くだろう」
泳ぎが得意というよりは、ほとんど水際で生活しているようなラグナである。
船の構造も理解しているので、舳先の部分を見れば、残りの部分の大きさも推測できる。
見えている部分から考えて、折れた舳先だけがここにあると思われた。
「ふむ。だがこのまま強引に引き出すと、途中で壊れるかもしれんな」
ジーナが操るプラヴァーが、ショベルアーム「エヴロスト」を岩場に押し当て、力を込めた。
「やはり実戦前に若干調整は必要か」
魔導アーマーは、ジーナの動きをトレースする。僅かなズレや癖を見極めるのに、今回のような作業は最適だった。
かなり動いた船体を、クレールのヤタガラスといっしょにクレーンを使って引きずり出す。
「転倒注意、っと!」
三本脚が、砂場に踏ん張って耐えた。
波しぶきがあがり、壊れた船の舳先が、ずるずると砂浜に引き揚げられる。
「さすが早いな! っと、運搬も頼めるな? 後の細かいゴミはこっちで回収しておくぜ」
ジャックは辺りを見回し、沖に流れて網を傷つけそうな、とがったゴミなどを慎重に拾い集めていく。
ラグナは潜ったり泳いだり、魚のように自由に動きながら、海底に散らばったゴミを拾っていた。
「これは仕事だ。ああ、仕事だとも」
海を愛する男にとっては、適役としか言いようのない仕事だった。
魔導アーマーが陽光を反射する光景に、暫しの間、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は浜辺から見とれていた。
「あー……いいなー。俺も魔導アーマー乗りてぇなー」
大きなゴミをどんどん掘り当てては運んで行く魔導アーマーは、見るからに頼もしい。
本来なら自分も、愛機を駆ってあの中に加わっていたはずだ。
暫くぼんやりとしていたグリムバルドの袖口を、ユキウサギのギルダスがぐいっと引っ張る。
「……大丈夫。分かってるよギルダス。大人しくしてろって言うんだろ」
ぽんぽんと前肢を優しく叩いて、心配そうに顔を覗き込む相棒に笑いかける。
直前の依頼で大怪我を負ってしまった以上、仕方がないのだ。それは自分でもよく分かっている。
「まぁ少しでも役に立てる場があるなら、何よりさ。ギルダスも迷惑かけるけど、よろしくな」
ユキウサギは任せろというように、その場で大きく跳ねた。
「さて、ゴミが集まるのはあっちか。俺たちも少しでも拾っていこう」
グリムバルドは辺りに散らばるゴミを拾い集め、集積場へ向かった。
●
皆が集めたゴミは、本部のすぐ近くに積み上げられていた。
グリムバルドはその山を見上げて考え込む。
「余り厳格に分けるのは難しいだろうな」
リアルブルー民なら、あるいは同盟内でも工業都市フマーレなら「資源の再利用」という発想は理解できるだろう。
だが港町のポルトワールで、そこまで意識が徹底しているかどうかわからない。
「で、思ったんだが。まずは『まだ使えるもの・使えないもの・よく分からないもの』で分けてみないか?」
それが済んでから、わかる者が『使えないもの』を分類する。よく分からないものは……最終的に処分することになるだろう。
アスワドは集積場でゴミをチェックしていた。
「物理的に出船を妨げるゴミは、ほぼなくなったようですね」
魔導アーマーの運用のおかげもあり、目に見えるような大きなゴミはほぼ取り除かれた。
その他のゴミも住民たちの不安が消えたおかげで、かなり綺麗になっている。
後は集めたゴミの問題だ。
「さて、これがはたして全てゴミなのか、ということですね」
グリムバルドの分類でいうと「良く分からない」や「まだ使える」ものである。
持ち主が見れば明らかに分かりそうな、船の部品や店の看板、装飾用の壺などもあった。
アスワドは結局、ジャンを呼ぶことにした。
「というわけで、住民の皆さんに確認していただきたいのですが」
「そうねえ。じゃあ1週間ほどここに並べておいて、取りに来なかったものは処分ネ」
それ以外の物は陸軍に頼んで、埋めてもらうことになるだろう。
「ほんっと助かったワ! 夕暮れまであんまり時間はないけど、ちょっと遊んでってちょうだい。お礼のバーベキューも用意するわよ!」
「ばーべきゅー!!!」
ガンジが鋭く反応すると、ジャンが嬉しそうに笑う。
「あるわよ~。バ・ラ・ズ・シ♪」
ハンター達の足跡は、こうしてひとつずつ、このポルトワールの住民の記憶に残っていくのだ。
●
綺麗になった海は平和そのものだった。
ハンター達の他にも、あちこちにボートを出したり、ぷかぷか浮かんだりしている人がいる。
「ずっとこんな平和な海であればいいんですけど」
メリンダは思わず呟いた。
ポルトワールだけでなく、全ての都市が、人々が笑っていられる場所であってほしい。
それは心からの願いだった。
「メリンダさん」
ふと気付くと、シバがすぐ傍にいた。
「シバさんもお疲れ様でした。お陰で、こんなにも綺麗な海になりましたよ」
「海は綺麗になりましたね。でも……メリンダさんはもっと綺麗ですよ」
こういうことを真面目な顔で言ってのけるシバだが、メリンダには少しずつ分かってきた。
こちらの反応を待つ目に、悪戯小僧の光が見える。
まあ多少は、何かしら思うところもあるのかもしれないが、ここは大人の威厳を保たなければならない。
というわけでにっこり笑って見せる。
「光栄ですね! じゃあもうちょっと綺麗にするのに付き合って下さいね」
「顔をですか」
「海をです!!」
メリンダはシバの腕を掴んで、ゴミの集積場へと向かった。
集積場では、まだ作業を続けている者もいる。
「陸軍のトラックに積み込むところまでは手伝おう」
ジーナは軽く食事を取った後、すぐにまたプラヴァーに乗り込んだ。
ようやく操作の勘が掴めてきたように思う。忘れないうちに、自分の物にしておきたい。
「いいんですか? ではお願いします」
メリンダが、陸軍の班長にトラックを回すように伝えた。その荷台に、ジーナは次々とゴミを乗せていく。
ナーザニンは再利用できないゴミを入れた袋を、トラックに積み上げた。
「資源になる、ゴミは……後で、リスト化したら……分かり易いかな……」
「そうだな。場合によってはその方が便利だろう」
兵庫も同盟軍に混じって、ゴミを運んでいる。
(こうしていると昔に戻ったような気持ちになるな)
戦友たちの顔が過った気がして、兵庫は強く首を振る。
振り向けば、やや傾いた太陽の光に、笑うように波が輝いていた。ナーザニンはその景色に見とれている。
「綺麗な……海……」
「お疲れではないですか?」
メリンダが尋ねると、ナーザニンは小首を傾げた。
「僕には……何もかもが、とても新鮮で……だからこそ、こういう活動は素敵だな……って、思う……」
「そうですか。……機会があったら、今度はゆっくり遊びに来てくださいね。また違う物が見えると思いますよ」
「メリンダ、ちょっといいか」
ジャックが軽く手を上げていた。
「あら、今日はお疲れさまでした! 少しは休息してくださいね」
「ああ。後で少し休ませてもらう。それよりも……」
ジャックはメリンダに、岸壁の様子を伝える。船を寄せる場所なのだから、もう一度底を浚っておく方がいいだろうと。
「そうですね、警備隊に伝えます。色々と有難うございます」
ハンター達は常に戦いに身を置くものが多い。おのずと見えてくる物も違う。こういうとき、指摘は有難かった。
メリンダと別れたジャックは、運び込まれたクジラの骨を見つめているユウに気付いた。
「珍しいか」
「これが海にすむ動物の骨なのですか? 大きいのですね!」
「これで頭だけだな。だいたいこれぐらいってところか」
ジャックが笑いながら、砂に簡単な骨の絵を描いた。
「すごい! いつか泳いでいるところを見てみたいです」
外の世界の広がりに、ユウはまた目を輝かせるのだった。
ジュードは大きなトレイを手に、砂浜に座りこむ一同の間を縫って歩く。
「みんなお疲れ様! 冷たいお茶や果物をどうぞ」
「日焼けが痛い? ちょっと待ってろ」
エアルドフリスは、首筋を真っ赤にした住民に特製の化粧水を含ませた布を当ててやる。
「エアさん、後で泳ぐ?」
ジュードがこっそりたずねると、エアルドフリスは眉間にしわを寄せた。
「……海遊びの用意を忘れていた」
何か異変があったらすぐに対応できるようにと、装備を整えてきていたのだ。
ちょっと残念そうなジュードに、小さく笑う。
「なに、夏はまだこれからだ。また改めて、準備を整えて遊びに来よう」
綺麗になった、お前さんの故郷にな。
そう呟くエアルドフリスの背中に、トンと当たるものがある。ゲアラハの鼻先だった。
「……泳ぎたいのか? 他のやつを巻き込まないようにするんだぞ」
熱い中、大人しく座っていたイェジドは、嬉しそうに海へと走っていった。
母なる海。豊饒の海。
ラグナは波に身体を預け、たゆたう。
このまま溶けていってしまいそうなほど、穏やかな気分だった。
(そうだ。ポルトワールの海は、本当は怖いものじゃないんだ)
身を翻し、深く潜る。まだ少し舞い上がった砂で濁った場所もあるが、銀色の魚が空を飛ぶように泳いでいく。
不意に拡声器の声が響いた。
『ちょっとそこの人ー!! 大丈夫ー!?』
海岸のテントで、双眼鏡を片手にグリムバルドが叫んでいる。
自分が海に入ることができなかった分、海を監視していたらしい。みれば、ユキウサギが猛ダッシュでこっちへ向かってくる。
(ユキウサギって泳げるんだろうか?)
そう思ったラグナの目の前で、沈んでいく少女がひとり。ノワである。
『その子、助けてあげて!!』
グリムバルドに手を振って応じ、ラグナは相手に手を貸して浅瀬に立たせてやる。
「……大丈夫?」
「ぷはあ! ありがとうございます、お手数をおかけしました!!」
ノワはふかぶかとお辞儀する。そして果敢にも、また波に身体を預けた。
「もしかして泳げないのかな?」
「いえっ、泳げるはずなんです! おまじないもしました! そもそも人間というのは、浮力で……ぼごご」
などと言いながら沈んでいくノワ。
「あー、そんなに力を入れてたら浮かばないよ。こうして……」
ラグナはノワに、浮き方から丁寧に教えることにした。
「楽しそうでよかったぜ」
グリムバルドはほっとして、また双眼鏡を覗き込む。
何かあっても助けに行くことはできないが、離れているからこそ見える物もあるだろう。
グリムバルドの隣では、真がひっくり返っていた。
「大丈夫か?」
「暑いのは、苦手だ……」
ゴミを片づけ、住民のケアに走り回り、終わった頃にはどっと疲れが出たようだ。
「あー、お疲れ。水はしっかり取ってるか?」
「大丈夫、大丈夫。しっかし、皆元気だな」
目を細めて波打ち際を見ると、骸香の周りでユキウサギの珠雪が飛び跳ねている。掃除を頑張ったので褒めてほしいのだ。
「頑張ったのはわかったって! 落ち着かねぇなぁ」
頭をなでてやると余計にはしゃいで、飛びついてきて、そのまま骸香は砂浜にひっくり返ってしまった。
「あーもう、危ないじゃないか!」
とはいえ、怒る気にもなれない。
「砂を落とすよ。海まで競争!」
立ち上がって、海へ向かって走っていく。
その先では、茜が大声でパトリシアを呼んでいる。
作業の時に来ていたシャツは脱いで、トラ柄のビキニ姿でくつろいでいる。
「パティ! こっち見て!!」
「なになに、お魚カナ? カニさんカナ?」
顔を寄せたパトリシアに、茜が手ですくった水を浴びせた。
「ぶは!?」
「あははは、引っかかった♪」
「うおおお負けないヨ!!」
ばしゃばしゃと海面を叩いてしぶきを上げるパトリシア。
「パティさん、茜さん! 花火ー! 花火しましょう!!」
クレールがぶんぶんと手を振りながら走ってくる。
「花火! やりたい!!」
「パチパチ花火、夜じゃなくテモ、キラキラキレイね!」
昼用のおもちゃ花火に盛大に火をつけ、歓声を上げる。周りの人にも渡し、皆で大騒ぎとなった。
その楽しげな様子を少し離れた海から見やり、ユリアンが微笑む。
「あんなに賑やかだと、見てるだけで楽しくなるよね。……あ、深いところ、怖くない?」
ユリアンは、バナナボートにつかまるルナと未悠を気遣う。
「大丈夫、です。あ、ありがとう、ございます……!」
ルナは水着の裾を気にしながら、ユリアンが押すバナナボートにしがみつく。
作業を終えて着替えたときはなんだか気恥ずかしかったが、今はもっと気になってしまう乙女心。
「ルナ、ちゃんとつかまってるのよ。でないと、落ち……って、きゃああ!?」
言い終えないうちに大きな波が来て、揺れるバナナボートから未悠が転げ落ちてしまった。
「未悠ちゃん!?」
「あーあ、結局びしょ濡れ! ふふっ、でも気持ちいいわね!」
すいと水を掻き、未悠はボートを離れる。
「ちょっと泳ぐわ。先にいってて!」
ルナに片目をつぶって見せて、未悠はとぷんと潜ってしまった。
「未悠ちゃん……!」
ルナはどうしていいのか分からず、おろおろ。ユリアンは少し考えて、ボートを岸へと戻すことにした。
「何かあったらすぐに助けに来るから、心配しないで」
「あっ、はいっ!」
ルナは赤くなる頬を、バナナボートに伏せた。
浜辺のテントでは、バーベキューの準備が整っていた。
簡易コンロに置かれた網の上で、魚介類がじゅうじゅうと音を立てる。
「焼けたわよお! どんどん食べちゃってネ!!」
ジャンの腹の底に響く声が、みんなを呼びよせる。
葵は目深にかぶったフードに日傘まで借りて、それでもみんなの世話を焼いていた。
「はいはい、こっちにおにぎりもサンドイッチもあるわよ。バーベキューのお供にもどうぞ!」
「ねえ、それ美味しそう! 後でアタシにも分けてもらえる?」
汗をぬぐいながら、ジャンが葵に頼みこんだ。他の人が作ったサンドイッチは、どんなものか気になるようだ。
「もちろんよー。後で一緒に食べましょうね。……日陰で」
葵はどうしても肌を焼きたくないらしい。
ロキは珍しそうに焼き網を覗き込む。
「とってもいいにおいがしますね」
「見てるだけじゃもったいないわよ。召し上がれ」
葵はロキを呼び、お皿を渡した。
「ありがとうございます! 実はちょっと楽しみにしていたんです」
「じゃあどんどん食べちゃって! まだまだあるわよ」
「はい、いただきます」
塩を効かせて焼いた貝や魚を頬張ると、疲れも吹き飛ぶようだ。
それをどこか満足そうに見る葵の背後から、アルヴィンが顔を出す。
「サテサテ、そーいう君はチャーントお水も飲んでるカナ?」
「きゃっ、びっくりした! ええ、我慢は美容に悪いもの。ケアはバッチリよ」
「うん、それナラ大丈夫だネ♪ ところで、僕もご一緒シテいいカイ?」
こんな風にいつもふわふわしているようでいて、仲間の様子をいつも気にかけているのがアルヴィンという人物だった。
アスワドは約束通り、ガンジの好きな物を奢ることにした。
「何か他に欲しいものはありますか。ああ、あちらに出店までありますね」
目ざとい商売人が、ちゃっかりと屋台を出していたのだ。
「食べる! あと魚もいいけど肉! 肉がいい!」
「はいはい、あるかどうか聞いてきますね」
例えアスワドの財布が空になっても、ガンジは目いっぱい働いてくれたのだから何でも食べさせてやりたい。
何より、美味しそうに食べ物を頬張るガンジは、見ているほうまで幸せになるようないい顔をしているのだ。
そのアスワドの袖を引っ張る者がいる。見ると、真っ白いお餅のような頬を少し赤く染めた杢だった。
「どうしました?」
「まんず、くわしそうな人だんず、教えてほしいだんず」
杢は、掌に乗せたビー玉をもらってしまっていいのか、まだ迷っていたのだ。アスワドがゴミを分類していた時から、様子をうかがっていたらしい。
アスワドは少し考え込むようなふりをする。実際、ビー玉ひとつ誰も文句は言わないだろう。
「そうですね、名前を書くところもありません。だったら私の物です、といってくる人もいないでしょう。頑張った記念に貰ってしまいましょう」
「いいだんずか!」
杢の顔がぱっと明るくなった。
形のあるもの、形のないもの。
それぞれに小さなお土産を、ポルトワールの海は分けてくれた。
願わくば、この海の平穏が一日でも長く続きますように。
一番星に願いをかけて、一同は帰路につくのだった。
<了>
皆の行いに、大精霊も味方したのか。当日は晴天に恵まれた。
さんさんと輝く太陽、キラキラと光る青い海。
ユウ(ka6891)はほう、とため息を漏らす。
「初めて見た時も驚きましたが、やはり海というのはとてつもなく広いですね」
一見して大人びた容貌だが、ドラグーンの娘にあるのは生きてきた年数相応の経験と好奇心。視界いっぱいに広がる光景に見あきることはない。
杢(ka6890)もまた、海の眺めに興奮気味だ。
「たげでったら海だんず。遠くにお船も見えるだんず、やっほーだんずー」
お餅のように白い頬を赤く染め、沖に見える漁船や海軍の船に向かって思い切り手を振っている。
「あまり焼くと……後が大変、だよ」
ナーザニン(ka6916)は、杢の日焼けを心配しつつも微笑んでいる。
龍園に慣れた身体には、太陽の皮膚を焦がすような日差しも、海の青さも、南国風の木々の緑も、とても新鮮に感じられたのだ。
「綺麗……だね」
ユウと杢はその言葉にうなずいた。
「ええ、この港町に住む人達が安心して暮らせるよう、微力ながらお手伝いしましょう」
「海さキレーになれば、もっと気持ちよくなるだんずー」
綺麗な海、綺麗な街。
その言葉に、ジュード・エアハート(ka0410)はこっそり胸を張る。
故郷を好きになってもらえて、嬉しくないはずがない。
「さて、皆が安心して海に出られるように頑張らなきゃ!」
ヤル気に満ちた笑顔で、用意されたテントの設置に取り掛かる。
エアルドフリス(ka1856)はジュードの手から支柱を受け取り、器用に組み立て始める。
「あらー、こっちお任せしちゃって大丈夫みたいネ!」
調子は柔らかいがいかつい声に振り向くと、レースで彩られた男がにこにこしていた。
「よろしくね、ジャンよ! 一応、ポルトワール住民の連絡役をやってるわ」
「ああ、ちょうど良かった」
エアルドフリスは、ジャンに清掃区域全体の地図がないかと尋ねた。
「テントの用意があるってことは、ここが真ん中辺りだな」
「ええ、そうヨ」
「あの、ここを本部にして、情報の収集と発信に使いたいんです!」
ジュードの説明に、ジャンが地図を提供すると約束する。
海軍の船は既に沖合に展開していた。
一同に挨拶を済ませたメリンダも、小型ボートでそちらへ向かう予定だ。
「それでは皆さん、一生懸命になり過ぎないように休憩も取ってくださいね! いくらハンターさん達でも、倒れてしまいますから」
にっこり営業スマイルでそういうと、ウェットスーツ姿でざぶざぶと海へ入っていく。
その背後から、あいさつが終わるのを待っていたノワ(ka3572)が呼びかけた。
「メリンダさん、こんにちは! 今日はスイムスーツなんですね♪」
「こんにちは、ノワさん! またよろしくお願いしますね」
「はい! あの、私は海軍さんのお手伝いに行きたいです。また大蛸が現れるかもしれませんし!」
うっ。
メリンダの口元がほんのわずかだが引きつる。
以前に大蛸退治ではノワに助けられたが、できればその際のことはもう思い出したくないのが本音。
だが歪虚に対する警戒はもっともだ。
「そうですね、ではこのボートにどうぞ」
「はい! お邪魔します。……っと、その前に!」
なぜかノワはメリンダに向かって二礼二拍手一礼拝。
「あの、それは……」
「噂で聞きましたよ! メリンダさんに向かってこうすると、泳げるようになるそうです!」
――またお友達か?
メリンダは一度そいつに説教すべきかと思ったが、それ以前に大事なことに気がついた。
「もしかして、ノワさんは泳げない、とかそんな……」
「でもこれでばっちりですね♪ メリンダさんパワー凄い!」
「……船から、絶対に! 落ちないようにしてくださいね」
メリンダはノワの身体をボートに押し込んだ。
「メリンダさん!」
また呼びとめられた。声の主は赤褌が凛々しい、シバ・ミラージュ(ka2094)である。
「なんでしょうか、シバさん?」
「海軍のほうでブイをお持ちではないですか? 沈んでいるゴミが大物だと、自力では引き上げられないので」
潜水で見つけたゴミにロープをかけ、ブイで目印をつけて、ユニットやボートで引き上げようというのだ。
メリンダは、普段は天然トラブルメーカーで、どこまで本気か分からないシバに、本当の笑顔を向ける。
「もちろん用意します。ゴミを見つけた地点で近くの船に合図を送ってください」
困っている人がいる、そんな時には本気で、そして全力で取り組むのがシバだ。
これまでもそれは一貫していた。
「シバさんも無理のない範囲でお願いしますね!」
手を振るメリンダを乗せて、ボートは沖合へと出ていった。
「もちろんです。さて住民の皆様。我々がいますから歪虚と海を恐れないでく」
どぶん。
言葉の途中で海へ飛び込むシバ。
自分もこんなに無防備に飛びこむのだから、大丈夫だ。そう伝えるべく、海面に片手の親指だけが出ていた。
……シバの意図が伝わるといいのだが。
●
海岸には様々な物が転がっていた。
壊れかけた木箱に割れた酒瓶、タコ壺に朽ちかけた木の枝、ぼろぼろになった網。
そんな普通のゴミでも、岩陰にかたまっていたりすると一般人の参加者たちに不穏な気配が漂う。
清掃活動する人々の中に混ざり、鞍馬 真(ka5819)は手で運べる大きさのゴミを拾い集めていたが、ふと顔を上げてそちらへ近づいて行った。
「何か気になる物でもあったのか」
振り向いたのは、ユキウサギの珠雪を連れた骸香(ka6223)だ。鬼の娘は軽く肩をすくめて見せる。
「奥のほうに、ちょっとね。こいつが見つけたんだけど」
ぐりぐりと撫でまわされ、珠雪は得意そうに跳ねまわる。
「どれだ」
真が覗き込むと、ガラクタの奥に一抱えほどの白っぽい硬そうなものがある。
なるほど、陶製の歪虚に襲われた海岸では、あれはなるべく近寄りたくないものだろう。
真と骸香は住民たちに、手前のゴミを運んでもらうように頼む。
「奥は私たちがなんとかする。心配しなくていい」
真が腰に下げた剣を軽く叩いて笑顔を見せると、住民たちも安心したようだ。
張り切るユキウサギも一緒に頑張り、見えるゴミをどんどん運び去ると、皆を怯えさせていた物の正体が見えた。
「ずいぶんと大きな骨だね」
骸香がぽんぽんと白い塊を叩いた。どうやら流れ着いたクジラの頭の骨らしい。
怖いものではないとわかり、住民たちもすぐに動き始めた。
「驚かせやがって!」
苦笑いしつつロープをかけ、皆で集積場へと運んで行く。
ロキ(ka6872)は水着にラッシュガードを羽織ったラフな格好で、住民たちに混じって活動していた。
武装も置いてきたので、まるで元々ポルトワールの住民だったかのようにも見える。
「嬉しいワ、頑張ってくれてるのネ♪」
ジャンが大きな網を引きずって通りかかる。ロキは駆け寄り、すぐにその端を持った。
「みなさんが元気になるお手伝いをできれば、と思うんです」
「あらありがと! そうネ、最近ちょっと元気がなかったのは、ゴミのせいだけじゃないとは思うし」
ロキは頷く。
海が大好きな人々なのだから、本来ならゴミをそのままにしておくはずがない。ハンター達が一緒に片づけることで、少しでも不安が軽くなれば、本来の活気も戻るだろう。
「また明るい港町で、美味しいお魚をいただきたいものですね♪」
「まっかせて! お掃除が終わったら、皆に御馳走しちゃうわよ!」
「はい、楽しみにしてます!」
ゴミを運び終えたロキは、また砂浜へと戻っていく。
「皆、一生懸命頑張ってくれていますからね。でも頑張り過ぎないように、休憩もとらないと」
砂浜は広く、まだまだ手つかずの場所も多い。
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は近くでお手伝いしている子供に笑いかける。
「ヤァ、海のお掃除カイ? 楽しそうダネ!」
「うん! いっぱいおそうじしてるよ!!」
小さな袋いっぱいに、ガラスの欠片や布切れが入っている。
「そっか、エライね!」
アルヴィンは先に、近くの大人たちに気になる場所がないかを聞いていたのだ。
だが大人と、毎日が冒険の子供たちでは見える場所が違う。だからわざとひそひそ声で子供に話しかけた。
「あのネ、ミンナには内緒なんダヨ。さっきチラっと、気になるナニカが泳いでたんダネ。お魚が隠れソウナ場所、僕に教えてくれないカナ?」
子供たちは顔を見合わせ、ひそひそを返す。
「あのね、ホントはあそこまでいっちゃいけないっていわれてるんだけど、あの岩の下にね、おふねのかざりが沈んでるの」
アルヴィンは子供の頭をなでて悪戯っぽく笑う。
「アリガト! 大丈夫ダヨ、皆カラ教えてもらったって言わないからネ。ソウだ、テントでお水飲んでオイデ! おやつももらえるヨ!」
アルヴィンは嬉しそうに走っていく子供たちを見送り、魔導短伝話で連絡を入れる。
「大きなゴミがありそうなんだヨネ、誰か手伝ってもらってイイかな? ふふっ宝さがしダヨ!」
連絡を受けて、ユリアン(ka1664)は青い魔導トラック、アジュールに向かう。
「隊長は、本部にいると思ってたんだけど……」
ユリアンが隊長と呼ぶのはアルヴィンである。相変わらずの神出鬼没、いつの間にか本部から消えていたのだ。
「でもこのトラックは、帝国のアルゴス戦の後始末でもゴミ回収に使ったし。何だかんだと役に立ってるな」
ユリアンは車体に手を添え、頼もしい相棒を見上げる。
魔導トラックを始め、依頼に便利な道具は色々と出回っている。お陰で効率よく動けるようになった。
運転席に乗り込もうとすると、ルナ・レンフィールド(ka1565)と高瀬 未悠(ka3199)が駆けつける。
「あのっ、お手伝いしてもいいですか……!」
ルナが一生懸命という様子で声を上げると、ユリアンが頷く。
「大きなゴミかもしれないし、手伝ってもらえると助かるよ」
「じゃあルナ、貴女はユリアンの隣に乗っていって」
「えっ、未悠ちゃん!?」
「荷台には荷物があるの」
さりげなく、だが強い調子で未悠はルナを助手席に押し込め、自分は荷台にひらりと飛び乗った。
「あの、おじゃま、します……」
高い座席におっかなびっくり登ろうとするルナに、ユリアンが手を差し出す。
「足元に気をつけて」
「は、はいっ!!」
「未悠さんも。落ちないように気をつけて」
「大丈夫。結構快適よ」
走り出した魔導トラックは、手を振るアルヴィンの傍で停車する。
「やア、お手伝い有難うネ」
「あの岩場の下かな」
ユリアンは子供が教えてくれた岩を器用に登り、沈んだ金物に鉤のついたロープを引っ掛ける。
「これで動いてくれるかな」
ロープの端をアルヴィンとルナ、未悠が思い切り引っ張ると、うまい具合に大人の背丈ほどもあるゴミが引き寄せられてきた。
皆でトラックの荷台に押し上げる。未悠はルナを気遣った。
「ルナ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫! ……船の守り神ね」
金物は、船の先端に飾る女神像だった。
「持ち主は分からないかしら」
未悠は女神が、誰かの大事な船の痕跡だと思ったのだ。
「後でポルトワールの人がいたら聞いてみよう」
ユリアンは再びトラックを走らせる。
●
道元 ガンジ(ka6005)はモフロウを空に放つ。
フクロウに似たふわふわの鳥は、ガンジに自分の見たものを教えてくれる。
「船を借りられたらよかったんだけどな」
だが海を知り尽くした漁師たちが参加しているので、ゴミの位置を教えることができれば回収は簡単だろう。
そこでファミリアアイズで上空からモフロウに探ってもらうのだ。
今回、一緒に来たアスワド・ララ(ka4239)は、誰かにとって大事そうなものはなるべく回収してほしいという。
「商人らしいよなー。ま、後で奢ってもらえるなら俺はなんでもいいんだけど」
そこでガンジが目を凝らす。揺らめく大きな影が海底に見えたのだ。
「あれはちょっと怖いかもな。でもどうするか……」
そのとき、モフロウが泳ぐ人影を見つけた。赤褌も鮮やかな銀髪の美少年、シバである。
「うーん、確かにあの赤褌、見つけやすいな」
大声で呼びかけると、シバが気付いてくれた。近くの海軍の船まで泳いで近付くと、乗り込んで一緒に戻ってくる。
海軍がブイを設置し、後で回収することになった。
シバが海岸に戻ってきて、自分が海底から見つけた、少し変わった装飾品らしきものをガンジに見せた。
「僕には価値が分かりませんが、わかる人に見てもらえるでしょうか」
「うん、わかった。預かっておくよ」
ガンジはアスワドに見てもらうことにした。
杢は浜辺で、トングを使って埋もれたゴミを掘り起こしていた。
「はー、ゴミがいくらでも出てくるだんず。んでも海さキレーになれば、気持ちもすっきりだんず」
縞々の水着姿の杢がしゃがみこんでトングで砂を掘っているところは、ちょっと遊んでいるようにも見えるが、本人はいたって真面目だ。
その証拠に、杢の周りには大量のゴミが掘り起こされて積み上げられている。
しばらく熱心に砂浜を掘り起こしていた杢が、突然手を止めた。
「これは……」
出てきたのは小さなビー玉だった。
「たげキレーじゃー……貰ったらダメだんず? 泥棒さんになっでまうず?」
遊んでいた子供の忘れものだろうか。澄んだ海を凝縮したような、深く美しい色のビー玉である。
ゴミでももらってしまったらダメだろうかと、杢は悩む。
だが悩む杢を、ユウが引っ張った。
「逃げてください! 波がきますよ!!」
ユウにとっては寄せては返す波が珍しく、子供のように過敏な反応だ。
だが実際、時間が経つごとに潮が満ちて来たらしく、波が届く場所はどんどん内陸に近くなっていく。
ユウの呼びかけに、ゴミ拾いに熱中していた人々もそれにようやく気付いたようだ。ひとまず固めたゴミをまとめて、集積場へと運んで行く。
「大丈夫でしたか?」
「まんずみんな、無事だんず。危なかっただんず」
ナーザニンは辺りを確認し、トランシーバーで本部に連絡を入れた。
「少し……波が近く、なってきた……かも。注意を……お願い」
それから本部へ向かう。
「あちらの、様子を……見てきます。暑さで、具合を悪くしていないか、気になります……から」
本部のテントにはそういう人が運び込まれているだろう。
助けになれるかもと、ナーザニンは考えたのだった。
●
ゴミを入れた大きな袋をさげて、ナーザニンがテントに向かってくる。
沢城 葵(ka3114)はそのけなげな姿を日陰から透かし見た。
「はー、皆暑い中頑張るわねぇ」
ゴミ拾いが大事なのはわかる。ただ、夏の海岸の日差しは暴力的だ。
薄手のパーカーを羽織っているが、念入りに手入れを欠かさないお肌を日焼けさせるなんてとんでもない。
「ま、それでもお仕事だものね。やれることはやるわよ」
葵はテントを見回すナーザニンに声をかけた。
「随分と張り切ってるみたいだけど、皆大丈夫? ちゃんと休憩も取ってるかしら?」
「ええ……こちらは、具合が悪くなった人は……大丈夫、でしょうか」
「今のところ大丈夫よ。色々準備してるからね」
軽くウィンク。
片手で食べやすいおにぎりやサンドイッチ、それに喉ごしの良い冷たいスープ。
水もおしぼりも用意してある。
「何かあったらこっちに連絡が入ると思うんだけど。ま、それはおまかせかしらん?」
そうして意味ありげに視線を投げる。
「怪我しちゃった人や疲れちゃった人は本部で休んでいってねー!」
ジュードは砂浜に散らばる人々に声をかける。
スカートの下には水着を着こんで、いざとなれば海にも入れるように。お供のユグディラのクリムも、大きな青い瞳をくるくるさせて監視をお手伝いしている。
「クリムもお願いね。あ、でもタオルはちゃんとかぶってね」
「にゃい!」
日よけ用の大きなタオルからのぞく、真っ白な毛並みが日差しに輝いている。
ひと回りして、またテントに戻る。
テントの傍らに控える、暗い銀灰色の毛並みのイェジドが良く目立つ。エアルドフリスが連れてきたゲアラハだ。
「ゲアラハもいい子だね。でも無理はしないでね」
ジュードはゲアラハの鼻面をなでてやる。
テントの中では、エアルドフリスが魔導短伝話を片手に、地図に向かっていた。
「……わかった。そっち方面の人では足りてるんだな?」
通話の相手は榊 兵庫(ka0010)だ。
「ああ。大きなゴミはほとんど掘り返した。後は集積場へ運ぶだけだ」
通話しながら、兵庫は周囲を改めて見回す。一般市民にハンター、ぽつぽつと同盟海軍の軍人の姿も見える。
(……そういえば俺も昔、こんな清掃活動に参加したな)
地域への奉仕活動の一環として、軍人が駆り出されるのはリアルブルーもクリムゾンウェストも変わらないようだ。
(軍隊なんてどこでも似たようなものだな)
暫しの間、懐かしさにひたりつつも、仕事は仕事。
「金属などは一度溶かせば、資材として再利用できるかもしれないからな。見極めて分類しておく」
兵庫は本部との通信を終えて、また作業に戻る。
エアルドフリスはピンを刺した地点に、何かを書きこむ。
「じゃあ片付いたらまた連絡を頼む」
通話を終えたのを確認して、ジュードが声をかけた。
「本部周辺も異状はなかったよ」
「そうか。なら良かった」
エアルドフリスは軽く伸びをし、海を眺める。
「ゲアラハは大人しくしているな。動き回ると誰かを踏みつぶしかねん」
それでも目印にはなる。
今回は「ハンター達が全面的に協力してくれている」と見せつけることも大事だと思うのだ。
「陶器の歪虚は……どうにも読めん連中だった。市民の不安が消えんのは尤もだろう」
そこに、頑張り過ぎた住民が運び込まれてきたようだ。
「む、檸檬水でも飲ませるか」
薬師でもあるエアルドフリスはすぐに立ち上がる。だがジュードに足を踏まれて立ち止まった。
「なんだ?」
「綺麗な女の人だね?」
「……あのな」
軽くジュードを小突いたあと、くしゃくしゃと頭を撫で、エアルドフリスは救護に向かった。
「あー、エアハートとエアの隣は熱いわねー」
葵は同じテントの中で、ぱたぱたと顔を扇ぐ。
「お邪魔虫にならないように、呼ばれるまで待機ねー」
などといいつつ、改めて海を眺めた。
浅瀬には人間よりも大きな影がいくつか動き回っていた。
●
影のひとつ、魔導アーマー「プラヴァー」のコクピットで、ジーナ(ka1643)は改めて居住まいを正す。
「速度は控えめに、だな。砂が跳ねては周囲の一般人が困るだろう」
駆動用のローラーは、砂浜の地形をうまく縫って進んでいく。
「思ったよりも小回りが利くな」
実は今回、ジーナにとっては新しく入手したこのプラヴァーの慣らし運転も兼ねている。
砂地の移動、水際の活動、ゴミの掘り起こしとより分け、一般人が近くにいる状況での慎重な操作。
全てが実践におあつらえ向きだ。
「とはいえ、経緯を考慮すれば今後に響くか」
単なるお掃除活動とは違う、いくらかの緊張が漂うのは当然といえば当然だった。
報酬を出してまでハンターを雇うからには、それなりの理由があるのだ。
クレール・ディンセルフ(ka0586)も魔導アーマー「ヘイムダル」に乗り込んだ。
「まわりに注意して、異常があればすぐに知らせますね。皆さん、安心してくださいね!」
レーダーや対空砲などの各種装備が太陽の光を浴びて頼もしく輝いた。
近くの人々にそう呼びかけると、シートに腰を落ち着ける。
「さて頑張ろ、ヤタガラス!」
尻尾状の大型スタビライザーでバランスを取る姿に、リアルブルーの伝承にある太陽の神様を思いだしそう名付けた。
今回は荷台も設置して、清掃活動に従事する。
「ポルトワールには、よくご飯食べに来るからね……汚れた海岸はよろしくない! うん!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)は、漁師のおじさんから潮の流れについて教わる。
「ありがとネ♪ ゴミが集まりそうなトコロは、おじさんたちのほうが詳しいからネ!」
「こちらこそ助かるよ。おかげでまた安心して漁に出られる」
海を知るからこそ、海を怖れる。ポルトワールの住民たちの不安は深いのだ。
「大好きな同盟の海だからネ! じゃんじゃん拾っテ、ピカピカにするヨ♪ クレールとヤタちゃん、お邪魔しマース!」
パトリシアは双眼鏡を首から下げて、ヤタガラスの肩につかまった。そこでふと、海を見つめる天王寺茜(ka4080)に気付いた。
「と、アカネはどしたの?」
「あっ、えっと! おっきな海だなあって思って!」
LH044コロニーで育った茜は、「本物の海」をあまり知らない。
波の音、吹き寄せる風、潮の香り。そして何よりも、どこまでも青く広がり空と溶け合う海の光景は、何度見ても見あきることがなかった。
「ごめんごめん、お仕事しなきゃね! さってと、皆さーん、割り当てられた場所に移動しまーす」
茜は近くの子供に笑顔を向ける。
「お掃除頑張るのもいいけど、大人の人と離れないようにね?」
ユニットが加わり、大物の片づけははかどるようになる。
ジャック・エルギン(ka1522)がトランシーバーで呼びかけたほうへ向かうと、岸壁の岩場に壊れた船の一部が半ば挟まったままになっていた。
「悪いな。ちょっと動かしてみたが、流石に人力じゃ引っ張り出すのは無理なんでな」
一般人なら近づくのも難しい場所だ。それでも斧で一部を叩き壊し、ロープをかけるところまでは済ませている。
ラグナ・アスティマーレ(ka3038)が波間から顔を出して手を振っていた。
「潜って確認したが、幸い海底に埋もれている部分はない。うまく引けば動くだろう」
泳ぎが得意というよりは、ほとんど水際で生活しているようなラグナである。
船の構造も理解しているので、舳先の部分を見れば、残りの部分の大きさも推測できる。
見えている部分から考えて、折れた舳先だけがここにあると思われた。
「ふむ。だがこのまま強引に引き出すと、途中で壊れるかもしれんな」
ジーナが操るプラヴァーが、ショベルアーム「エヴロスト」を岩場に押し当て、力を込めた。
「やはり実戦前に若干調整は必要か」
魔導アーマーは、ジーナの動きをトレースする。僅かなズレや癖を見極めるのに、今回のような作業は最適だった。
かなり動いた船体を、クレールのヤタガラスといっしょにクレーンを使って引きずり出す。
「転倒注意、っと!」
三本脚が、砂場に踏ん張って耐えた。
波しぶきがあがり、壊れた船の舳先が、ずるずると砂浜に引き揚げられる。
「さすが早いな! っと、運搬も頼めるな? 後の細かいゴミはこっちで回収しておくぜ」
ジャックは辺りを見回し、沖に流れて網を傷つけそうな、とがったゴミなどを慎重に拾い集めていく。
ラグナは潜ったり泳いだり、魚のように自由に動きながら、海底に散らばったゴミを拾っていた。
「これは仕事だ。ああ、仕事だとも」
海を愛する男にとっては、適役としか言いようのない仕事だった。
魔導アーマーが陽光を反射する光景に、暫しの間、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は浜辺から見とれていた。
「あー……いいなー。俺も魔導アーマー乗りてぇなー」
大きなゴミをどんどん掘り当てては運んで行く魔導アーマーは、見るからに頼もしい。
本来なら自分も、愛機を駆ってあの中に加わっていたはずだ。
暫くぼんやりとしていたグリムバルドの袖口を、ユキウサギのギルダスがぐいっと引っ張る。
「……大丈夫。分かってるよギルダス。大人しくしてろって言うんだろ」
ぽんぽんと前肢を優しく叩いて、心配そうに顔を覗き込む相棒に笑いかける。
直前の依頼で大怪我を負ってしまった以上、仕方がないのだ。それは自分でもよく分かっている。
「まぁ少しでも役に立てる場があるなら、何よりさ。ギルダスも迷惑かけるけど、よろしくな」
ユキウサギは任せろというように、その場で大きく跳ねた。
「さて、ゴミが集まるのはあっちか。俺たちも少しでも拾っていこう」
グリムバルドは辺りに散らばるゴミを拾い集め、集積場へ向かった。
●
皆が集めたゴミは、本部のすぐ近くに積み上げられていた。
グリムバルドはその山を見上げて考え込む。
「余り厳格に分けるのは難しいだろうな」
リアルブルー民なら、あるいは同盟内でも工業都市フマーレなら「資源の再利用」という発想は理解できるだろう。
だが港町のポルトワールで、そこまで意識が徹底しているかどうかわからない。
「で、思ったんだが。まずは『まだ使えるもの・使えないもの・よく分からないもの』で分けてみないか?」
それが済んでから、わかる者が『使えないもの』を分類する。よく分からないものは……最終的に処分することになるだろう。
アスワドは集積場でゴミをチェックしていた。
「物理的に出船を妨げるゴミは、ほぼなくなったようですね」
魔導アーマーの運用のおかげもあり、目に見えるような大きなゴミはほぼ取り除かれた。
その他のゴミも住民たちの不安が消えたおかげで、かなり綺麗になっている。
後は集めたゴミの問題だ。
「さて、これがはたして全てゴミなのか、ということですね」
グリムバルドの分類でいうと「良く分からない」や「まだ使える」ものである。
持ち主が見れば明らかに分かりそうな、船の部品や店の看板、装飾用の壺などもあった。
アスワドは結局、ジャンを呼ぶことにした。
「というわけで、住民の皆さんに確認していただきたいのですが」
「そうねえ。じゃあ1週間ほどここに並べておいて、取りに来なかったものは処分ネ」
それ以外の物は陸軍に頼んで、埋めてもらうことになるだろう。
「ほんっと助かったワ! 夕暮れまであんまり時間はないけど、ちょっと遊んでってちょうだい。お礼のバーベキューも用意するわよ!」
「ばーべきゅー!!!」
ガンジが鋭く反応すると、ジャンが嬉しそうに笑う。
「あるわよ~。バ・ラ・ズ・シ♪」
ハンター達の足跡は、こうしてひとつずつ、このポルトワールの住民の記憶に残っていくのだ。
●
綺麗になった海は平和そのものだった。
ハンター達の他にも、あちこちにボートを出したり、ぷかぷか浮かんだりしている人がいる。
「ずっとこんな平和な海であればいいんですけど」
メリンダは思わず呟いた。
ポルトワールだけでなく、全ての都市が、人々が笑っていられる場所であってほしい。
それは心からの願いだった。
「メリンダさん」
ふと気付くと、シバがすぐ傍にいた。
「シバさんもお疲れ様でした。お陰で、こんなにも綺麗な海になりましたよ」
「海は綺麗になりましたね。でも……メリンダさんはもっと綺麗ですよ」
こういうことを真面目な顔で言ってのけるシバだが、メリンダには少しずつ分かってきた。
こちらの反応を待つ目に、悪戯小僧の光が見える。
まあ多少は、何かしら思うところもあるのかもしれないが、ここは大人の威厳を保たなければならない。
というわけでにっこり笑って見せる。
「光栄ですね! じゃあもうちょっと綺麗にするのに付き合って下さいね」
「顔をですか」
「海をです!!」
メリンダはシバの腕を掴んで、ゴミの集積場へと向かった。
集積場では、まだ作業を続けている者もいる。
「陸軍のトラックに積み込むところまでは手伝おう」
ジーナは軽く食事を取った後、すぐにまたプラヴァーに乗り込んだ。
ようやく操作の勘が掴めてきたように思う。忘れないうちに、自分の物にしておきたい。
「いいんですか? ではお願いします」
メリンダが、陸軍の班長にトラックを回すように伝えた。その荷台に、ジーナは次々とゴミを乗せていく。
ナーザニンは再利用できないゴミを入れた袋を、トラックに積み上げた。
「資源になる、ゴミは……後で、リスト化したら……分かり易いかな……」
「そうだな。場合によってはその方が便利だろう」
兵庫も同盟軍に混じって、ゴミを運んでいる。
(こうしていると昔に戻ったような気持ちになるな)
戦友たちの顔が過った気がして、兵庫は強く首を振る。
振り向けば、やや傾いた太陽の光に、笑うように波が輝いていた。ナーザニンはその景色に見とれている。
「綺麗な……海……」
「お疲れではないですか?」
メリンダが尋ねると、ナーザニンは小首を傾げた。
「僕には……何もかもが、とても新鮮で……だからこそ、こういう活動は素敵だな……って、思う……」
「そうですか。……機会があったら、今度はゆっくり遊びに来てくださいね。また違う物が見えると思いますよ」
「メリンダ、ちょっといいか」
ジャックが軽く手を上げていた。
「あら、今日はお疲れさまでした! 少しは休息してくださいね」
「ああ。後で少し休ませてもらう。それよりも……」
ジャックはメリンダに、岸壁の様子を伝える。船を寄せる場所なのだから、もう一度底を浚っておく方がいいだろうと。
「そうですね、警備隊に伝えます。色々と有難うございます」
ハンター達は常に戦いに身を置くものが多い。おのずと見えてくる物も違う。こういうとき、指摘は有難かった。
メリンダと別れたジャックは、運び込まれたクジラの骨を見つめているユウに気付いた。
「珍しいか」
「これが海にすむ動物の骨なのですか? 大きいのですね!」
「これで頭だけだな。だいたいこれぐらいってところか」
ジャックが笑いながら、砂に簡単な骨の絵を描いた。
「すごい! いつか泳いでいるところを見てみたいです」
外の世界の広がりに、ユウはまた目を輝かせるのだった。
ジュードは大きなトレイを手に、砂浜に座りこむ一同の間を縫って歩く。
「みんなお疲れ様! 冷たいお茶や果物をどうぞ」
「日焼けが痛い? ちょっと待ってろ」
エアルドフリスは、首筋を真っ赤にした住民に特製の化粧水を含ませた布を当ててやる。
「エアさん、後で泳ぐ?」
ジュードがこっそりたずねると、エアルドフリスは眉間にしわを寄せた。
「……海遊びの用意を忘れていた」
何か異変があったらすぐに対応できるようにと、装備を整えてきていたのだ。
ちょっと残念そうなジュードに、小さく笑う。
「なに、夏はまだこれからだ。また改めて、準備を整えて遊びに来よう」
綺麗になった、お前さんの故郷にな。
そう呟くエアルドフリスの背中に、トンと当たるものがある。ゲアラハの鼻先だった。
「……泳ぎたいのか? 他のやつを巻き込まないようにするんだぞ」
熱い中、大人しく座っていたイェジドは、嬉しそうに海へと走っていった。
母なる海。豊饒の海。
ラグナは波に身体を預け、たゆたう。
このまま溶けていってしまいそうなほど、穏やかな気分だった。
(そうだ。ポルトワールの海は、本当は怖いものじゃないんだ)
身を翻し、深く潜る。まだ少し舞い上がった砂で濁った場所もあるが、銀色の魚が空を飛ぶように泳いでいく。
不意に拡声器の声が響いた。
『ちょっとそこの人ー!! 大丈夫ー!?』
海岸のテントで、双眼鏡を片手にグリムバルドが叫んでいる。
自分が海に入ることができなかった分、海を監視していたらしい。みれば、ユキウサギが猛ダッシュでこっちへ向かってくる。
(ユキウサギって泳げるんだろうか?)
そう思ったラグナの目の前で、沈んでいく少女がひとり。ノワである。
『その子、助けてあげて!!』
グリムバルドに手を振って応じ、ラグナは相手に手を貸して浅瀬に立たせてやる。
「……大丈夫?」
「ぷはあ! ありがとうございます、お手数をおかけしました!!」
ノワはふかぶかとお辞儀する。そして果敢にも、また波に身体を預けた。
「もしかして泳げないのかな?」
「いえっ、泳げるはずなんです! おまじないもしました! そもそも人間というのは、浮力で……ぼごご」
などと言いながら沈んでいくノワ。
「あー、そんなに力を入れてたら浮かばないよ。こうして……」
ラグナはノワに、浮き方から丁寧に教えることにした。
「楽しそうでよかったぜ」
グリムバルドはほっとして、また双眼鏡を覗き込む。
何かあっても助けに行くことはできないが、離れているからこそ見える物もあるだろう。
グリムバルドの隣では、真がひっくり返っていた。
「大丈夫か?」
「暑いのは、苦手だ……」
ゴミを片づけ、住民のケアに走り回り、終わった頃にはどっと疲れが出たようだ。
「あー、お疲れ。水はしっかり取ってるか?」
「大丈夫、大丈夫。しっかし、皆元気だな」
目を細めて波打ち際を見ると、骸香の周りでユキウサギの珠雪が飛び跳ねている。掃除を頑張ったので褒めてほしいのだ。
「頑張ったのはわかったって! 落ち着かねぇなぁ」
頭をなでてやると余計にはしゃいで、飛びついてきて、そのまま骸香は砂浜にひっくり返ってしまった。
「あーもう、危ないじゃないか!」
とはいえ、怒る気にもなれない。
「砂を落とすよ。海まで競争!」
立ち上がって、海へ向かって走っていく。
その先では、茜が大声でパトリシアを呼んでいる。
作業の時に来ていたシャツは脱いで、トラ柄のビキニ姿でくつろいでいる。
「パティ! こっち見て!!」
「なになに、お魚カナ? カニさんカナ?」
顔を寄せたパトリシアに、茜が手ですくった水を浴びせた。
「ぶは!?」
「あははは、引っかかった♪」
「うおおお負けないヨ!!」
ばしゃばしゃと海面を叩いてしぶきを上げるパトリシア。
「パティさん、茜さん! 花火ー! 花火しましょう!!」
クレールがぶんぶんと手を振りながら走ってくる。
「花火! やりたい!!」
「パチパチ花火、夜じゃなくテモ、キラキラキレイね!」
昼用のおもちゃ花火に盛大に火をつけ、歓声を上げる。周りの人にも渡し、皆で大騒ぎとなった。
その楽しげな様子を少し離れた海から見やり、ユリアンが微笑む。
「あんなに賑やかだと、見てるだけで楽しくなるよね。……あ、深いところ、怖くない?」
ユリアンは、バナナボートにつかまるルナと未悠を気遣う。
「大丈夫、です。あ、ありがとう、ございます……!」
ルナは水着の裾を気にしながら、ユリアンが押すバナナボートにしがみつく。
作業を終えて着替えたときはなんだか気恥ずかしかったが、今はもっと気になってしまう乙女心。
「ルナ、ちゃんとつかまってるのよ。でないと、落ち……って、きゃああ!?」
言い終えないうちに大きな波が来て、揺れるバナナボートから未悠が転げ落ちてしまった。
「未悠ちゃん!?」
「あーあ、結局びしょ濡れ! ふふっ、でも気持ちいいわね!」
すいと水を掻き、未悠はボートを離れる。
「ちょっと泳ぐわ。先にいってて!」
ルナに片目をつぶって見せて、未悠はとぷんと潜ってしまった。
「未悠ちゃん……!」
ルナはどうしていいのか分からず、おろおろ。ユリアンは少し考えて、ボートを岸へと戻すことにした。
「何かあったらすぐに助けに来るから、心配しないで」
「あっ、はいっ!」
ルナは赤くなる頬を、バナナボートに伏せた。
浜辺のテントでは、バーベキューの準備が整っていた。
簡易コンロに置かれた網の上で、魚介類がじゅうじゅうと音を立てる。
「焼けたわよお! どんどん食べちゃってネ!!」
ジャンの腹の底に響く声が、みんなを呼びよせる。
葵は目深にかぶったフードに日傘まで借りて、それでもみんなの世話を焼いていた。
「はいはい、こっちにおにぎりもサンドイッチもあるわよ。バーベキューのお供にもどうぞ!」
「ねえ、それ美味しそう! 後でアタシにも分けてもらえる?」
汗をぬぐいながら、ジャンが葵に頼みこんだ。他の人が作ったサンドイッチは、どんなものか気になるようだ。
「もちろんよー。後で一緒に食べましょうね。……日陰で」
葵はどうしても肌を焼きたくないらしい。
ロキは珍しそうに焼き網を覗き込む。
「とってもいいにおいがしますね」
「見てるだけじゃもったいないわよ。召し上がれ」
葵はロキを呼び、お皿を渡した。
「ありがとうございます! 実はちょっと楽しみにしていたんです」
「じゃあどんどん食べちゃって! まだまだあるわよ」
「はい、いただきます」
塩を効かせて焼いた貝や魚を頬張ると、疲れも吹き飛ぶようだ。
それをどこか満足そうに見る葵の背後から、アルヴィンが顔を出す。
「サテサテ、そーいう君はチャーントお水も飲んでるカナ?」
「きゃっ、びっくりした! ええ、我慢は美容に悪いもの。ケアはバッチリよ」
「うん、それナラ大丈夫だネ♪ ところで、僕もご一緒シテいいカイ?」
こんな風にいつもふわふわしているようでいて、仲間の様子をいつも気にかけているのがアルヴィンという人物だった。
アスワドは約束通り、ガンジの好きな物を奢ることにした。
「何か他に欲しいものはありますか。ああ、あちらに出店までありますね」
目ざとい商売人が、ちゃっかりと屋台を出していたのだ。
「食べる! あと魚もいいけど肉! 肉がいい!」
「はいはい、あるかどうか聞いてきますね」
例えアスワドの財布が空になっても、ガンジは目いっぱい働いてくれたのだから何でも食べさせてやりたい。
何より、美味しそうに食べ物を頬張るガンジは、見ているほうまで幸せになるようないい顔をしているのだ。
そのアスワドの袖を引っ張る者がいる。見ると、真っ白いお餅のような頬を少し赤く染めた杢だった。
「どうしました?」
「まんず、くわしそうな人だんず、教えてほしいだんず」
杢は、掌に乗せたビー玉をもらってしまっていいのか、まだ迷っていたのだ。アスワドがゴミを分類していた時から、様子をうかがっていたらしい。
アスワドは少し考え込むようなふりをする。実際、ビー玉ひとつ誰も文句は言わないだろう。
「そうですね、名前を書くところもありません。だったら私の物です、といってくる人もいないでしょう。頑張った記念に貰ってしまいましょう」
「いいだんずか!」
杢の顔がぱっと明るくなった。
形のあるもの、形のないもの。
それぞれに小さなお土産を、ポルトワールの海は分けてくれた。
願わくば、この海の平穏が一日でも長く続きますように。
一番星に願いをかけて、一同は帰路につくのだった。
<了>
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 19人 |
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質問です ノワ(ka3572) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/07/11 07:48:16 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/13 22:12:20 |
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![]() |
相談しましょ♪ パトリシア=K=ポラリス(ka5996) 人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/07/14 03:22:42 |