ゲスト
(ka0000)
貴族の依頼、ピノの話し2
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/23 19:00
- 完成日
- 2017/09/01 00:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
あの日、目を覚ましていれば。
あの日、倒れていなければ。
きっと、2年前の真実を話すことが出来ていただろう。
オフィスで目を覚ましたサーラは横たわったままぼんやりと天井を見上げる。
サーラが赤子をサンルームへ連れてきた時、夫人は確かに剣を取った。
しかし、その切っ先を向けながら手は震えていた。
頬を少し切るくらいで全てを許されるなんて。
愛人からの仕打ちに、まだ体中に痣を残していたサーラにはそれが優しすぎるように思えて、それすら躊躇う夫人の甘さが、ほんの少し癇に障った。
だから、
「……私が、どうぞ、って、あの赤ん坊を差し出したんです。きっと、奥様が躊躇わずに頬を切っていれば、あの子は誤解なんかすることは無かったと思うんです」
差し出した。夫人が目を見開いて、剣を向け直した。
そんな風に扱っては、酷い傷になってしまう。それが分かっても、止めなかった。
サーラの目には、モニカが立ち上がるのが見えた。控えていた他のメイドが慌てるのが見えた。
そして、モニカがサーラを突き飛ばし、赤ん坊を抱えて連れ去った。
「初めて、奥様に叱られました。私が、ちゃんと抱えてなかったからって。その通りです。私は、あの赤ん坊をちゃんと抱えてなかったんです。――でも、私はその時に思わず言い返してしまいました。……奥様が躊躇うからって、言ってしまったんです」
赤ん坊のことは諦めが付いた。
言い方は悪いけれど、所詮は愛人の子、妾腹、跡継ぎにはならない子。
けれど、巻き込んでしまったモニカは違う。目を掛けていたからといって、貴族とは関わりの無い子ども。
家柄に、立場に拘る夫人は、同じように、そこに属さない者への悪い影響を厭う。
サーラの反論に言葉を失い、その場にいたメイド達に、こう、命じた。
「……どうか、あの子を助けて、と」
●
冷えていく身体が誰かに抱き締められている。
何も知らずにいられたら、どれ程幸せだっただろう。
真っ暗な視界。思い出すのは辛いことばかり。
赤ん坊を抱えて逃げ出して、あまりに泣くものだから、幸せそうに乳母車を押した女性を脅して哺乳瓶を奪う。
モニカと赤ん坊の様子に、その行為を咎めるでも無く、彼女は幾らかの紙幣と最寄りの孤児院の場所を書き付けた紙を握らせた。
彼女に問われ、咄嗟に答えたのが、弟のピノ。
以来、モニカは赤ん坊を弟のピノと偽って連れ歩いている。
向かうには屋敷から近すぎた孤児院には行かず、人の目を避ける様に歩き続け、ひどく治安の悪い場所に流れ着く。
ピノを背に括り付け、通りすがりの人を背後から襲って財布を奪うことにも慣れた。
隠れた場所に出たコボルトを蹴り飛ばしたり、棒きれで殴り殺すことにも慣れた。
雨に遭って熱を出したピノを抱いて、朽ちた教会で祈り続けていた夜に、ポケットの中にルビーを見付けた。
ルビーを手放したのは古い質屋だった。
老人が一人で営んでいたが、目は確からしくモニカが差し出したそれを一目で見抜き、訳ありの品かと何度も聞いてきた。
こんな危ない物は勘弁だ、暫く流さずにおいてやるから取りに来い。
そう言って、彼は少なからぬ額の紙幣と、流れた安物だと言ってモニカの着替えを寄越してきた。
「……えっと」
「何だ?」
「……」
「……。ありがとうで良いんだよ。どうした、言葉も忘れたか?」
洗ったり繕ったりする暇も無いのか、汚れて解れているが良い服を着ている。
どこかの、こんな寂れた場所とは縁遠い街に住むお嬢さんだろう。
何があったかは知らない、聞きたくないが達者でな。落ち付いたらこの石ころも取りに来い。
●
「――ありがとう」
肌が色を無くし、浮き上がる血管は青から黒に変わっていく。
痙攣する手が鱗状に皮膚を変質させ、次第にその肌色を濁らせていく。
ありがとう。そう紡いだ唇は呼吸を無くして青黒い。
ゆっくりと瞬いた目に溌剌とした光は無く、天井を暫く眺めてからゆっくりと身体を起こそうとした。
変わっていく自身の手眺め、口角が僅かに上向く。
「ピノ、絶対に、守るからね」
あの日、目を覚ましていれば。
あの日、倒れていなければ。
きっと、2年前の真実を話すことが出来ていただろう。
オフィスで目を覚ましたサーラは横たわったままぼんやりと天井を見上げる。
サーラが赤子をサンルームへ連れてきた時、夫人は確かに剣を取った。
しかし、その切っ先を向けながら手は震えていた。
頬を少し切るくらいで全てを許されるなんて。
愛人からの仕打ちに、まだ体中に痣を残していたサーラにはそれが優しすぎるように思えて、それすら躊躇う夫人の甘さが、ほんの少し癇に障った。
だから、
「……私が、どうぞ、って、あの赤ん坊を差し出したんです。きっと、奥様が躊躇わずに頬を切っていれば、あの子は誤解なんかすることは無かったと思うんです」
差し出した。夫人が目を見開いて、剣を向け直した。
そんな風に扱っては、酷い傷になってしまう。それが分かっても、止めなかった。
サーラの目には、モニカが立ち上がるのが見えた。控えていた他のメイドが慌てるのが見えた。
そして、モニカがサーラを突き飛ばし、赤ん坊を抱えて連れ去った。
「初めて、奥様に叱られました。私が、ちゃんと抱えてなかったからって。その通りです。私は、あの赤ん坊をちゃんと抱えてなかったんです。――でも、私はその時に思わず言い返してしまいました。……奥様が躊躇うからって、言ってしまったんです」
赤ん坊のことは諦めが付いた。
言い方は悪いけれど、所詮は愛人の子、妾腹、跡継ぎにはならない子。
けれど、巻き込んでしまったモニカは違う。目を掛けていたからといって、貴族とは関わりの無い子ども。
家柄に、立場に拘る夫人は、同じように、そこに属さない者への悪い影響を厭う。
サーラの反論に言葉を失い、その場にいたメイド達に、こう、命じた。
「……どうか、あの子を助けて、と」
●
冷えていく身体が誰かに抱き締められている。
何も知らずにいられたら、どれ程幸せだっただろう。
真っ暗な視界。思い出すのは辛いことばかり。
赤ん坊を抱えて逃げ出して、あまりに泣くものだから、幸せそうに乳母車を押した女性を脅して哺乳瓶を奪う。
モニカと赤ん坊の様子に、その行為を咎めるでも無く、彼女は幾らかの紙幣と最寄りの孤児院の場所を書き付けた紙を握らせた。
彼女に問われ、咄嗟に答えたのが、弟のピノ。
以来、モニカは赤ん坊を弟のピノと偽って連れ歩いている。
向かうには屋敷から近すぎた孤児院には行かず、人の目を避ける様に歩き続け、ひどく治安の悪い場所に流れ着く。
ピノを背に括り付け、通りすがりの人を背後から襲って財布を奪うことにも慣れた。
隠れた場所に出たコボルトを蹴り飛ばしたり、棒きれで殴り殺すことにも慣れた。
雨に遭って熱を出したピノを抱いて、朽ちた教会で祈り続けていた夜に、ポケットの中にルビーを見付けた。
ルビーを手放したのは古い質屋だった。
老人が一人で営んでいたが、目は確からしくモニカが差し出したそれを一目で見抜き、訳ありの品かと何度も聞いてきた。
こんな危ない物は勘弁だ、暫く流さずにおいてやるから取りに来い。
そう言って、彼は少なからぬ額の紙幣と、流れた安物だと言ってモニカの着替えを寄越してきた。
「……えっと」
「何だ?」
「……」
「……。ありがとうで良いんだよ。どうした、言葉も忘れたか?」
洗ったり繕ったりする暇も無いのか、汚れて解れているが良い服を着ている。
どこかの、こんな寂れた場所とは縁遠い街に住むお嬢さんだろう。
何があったかは知らない、聞きたくないが達者でな。落ち付いたらこの石ころも取りに来い。
●
「――ありがとう」
肌が色を無くし、浮き上がる血管は青から黒に変わっていく。
痙攣する手が鱗状に皮膚を変質させ、次第にその肌色を濁らせていく。
ありがとう。そう紡いだ唇は呼吸を無くして青黒い。
ゆっくりと瞬いた目に溌剌とした光は無く、天井を暫く眺めてからゆっくりと身体を起こそうとした。
変わっていく自身の手眺め、口角が僅かに上向く。
「ピノ、絶対に、守るからね」
リプレイ本文
●
扉に手を掛ける、開くまでも無く香る錆。
静かに開けた店の床には、座り込んだ星野 ハナ(ka5852)の膝に寝かされたモニカの亡骸、その手を掬い取って握るリアリュール(ka2003)。
2人の衣服まで染めていた黒い血飛沫は、ほんの僅かな空気の揺らぎに、塵が舞うように揺らいで、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が店内へ踏み込むと隅に吹き溜まりを作りやがて、消えた。
木の色を取り戻す床、壁に飛び散った血は依然赤く、その瞬間まで彼女が人間だったと覗わせた。
迂回する手間さえ惜しんで多くない商品が飾るように納められた硝子ケースを飛び越え、マリィア・バルデス(ka5848)はカウンターの内側へ。
ベビーベッドに寝かされた赤子は手足をばたつかせ、姉の名前を泣き叫ぶ。
伸ばされた腕を小さな四肢で叩いて蹴って拒む幼く無力な抵抗を、容易く抑え込んで片腕に抱く。
Gacrux(ka2726)の静かな跫音が2人に一歩二歩と近付いてそれを見下ろす。
手にした大型の得物を一瞥し天井を仰いだ瞳を縁取る漆黒、瞼を伏せれば刷いた青の紋様が鮮やかに。
これ程の力を得ても。
白銀に輝く盾から覗く銃身、銃口。マテリアルを操り、どれ程小さな的さえ撃ち抜く技術。
救えないのか。噛み締めた奥歯が鳴る。得物を抱える手が震える。
リアリュールの手の中で、少女の手はその形を変えていく。
爪が黒ずみ、指が膨らみ、肌を黒くくすませながら鱗状に硬化していく。
もう戻らないと知りながら、その手を撫でる。
「何をしてあげればよかったのかな」
微かに笑った顔に、嘗ての面影が蘇る。弟と暮らしていた時の笑顔も、祖父と慕った人を亡くして泣き濡れていた顔も。
「モニカちゃん……モニカちゃんっ」
星野の声が聞こえていないのか、動きはひどく緩慢で、抱えていなければずり落ちてしまいそうな程、その体には力が入っていない。
こんなにも貴女を気にかけ心配し悲しんでくれるヒト達がいるのに。
ユウ(ka6891)が星野の傍らに佇み必死に声を掛ける2人を見た。
名前しか知らない少女の変貌に、柄に手を伸ばしては離し、握り締める手を見下ろして首を横に振る。
見届けよう。ゆっくりと指を解き、それまでの時を親しくしていた仲間に譲ろうと一歩下がる。
カウンター内、店内ともカーテンは閉め切られている。カウンターから続く工房へのドアは施錠され、カーテン越しの僅かな光りが指す店内は薄暗い。
店へ向く目を気にするマリィアの腕で赤子は変わらず藻掻いている。
しかし、落とさぬ為に腕に力を僅かにでも込めれば折れてしまいそうな程、その小さな身体は柔らかく、脆い。
閉ざしたドアを背に、思考が定まる。
店内に満ちた負の気配、眼前には救護の余地の無い対象。軋む心を覆う冷静な思考が事後処理に動く。
アウレールはドアの歪んだカーテンを閉め直し、微かに零れた光りを遮ると店内へ進んでいく。
今し方討ったばかりの歪虚の最期が蘇る。
風に溶けて消えた、人ならざるモノの死。それは何も残らない。
だが、彼女はまだ間に合う。人として、人のまま、死を迎えることが出来る。
剣を携え、指輪を握り。光の消えた清廉な青の双眸を、モニカに死を与えるべく据えた。
傍へと歩めば陽炎の揺らめきにカーテンの柄も、店のささやかな家具の形も滲む。
「私達にして欲しい事ある?」
リアリュールが変質していく手を取って尋ねる。
追い詰めてしまったけれど、皆、彼女を助けたかったと。
どんなに力を得ても、この手ではピノを傷付けてしまう。
天井をぼうっと見上げた虚ろな顔を覗き込んで表情を読み取りながら呼び掛けた。
「ピノ、もう絶対に、誰にも。だれにも、私が守るから、誰にも」
触らせない。
咆哮のような声が響き、リアリュールの手の中で、その黒ずんだ手は人らしからぬ硬さと歪な凹凸を浮かび上がらせて膨張し鋭い爪を無造作に揺らした。
その様子を見た星野の濡れた蒼い目が見開く。
符を握り締め、無風の屋内で髪をふわり、ふわりと水に揺蕩わせるように揺らして。
その変質と、既に命を失ったはずの少女の身動ぎに一瞬過ぎった思考は果たして、何だったのだろうか。
「モニカちゃん……」
もう一度話せるかも知れない。
その希望の意味の自覚を避けて、冷たい身体を抱く。
「ピノ、ピノ。守るから、だれも、はんたーも、みんな、こわい? ピノ」
どこに、いるの。星野にそう届いた声は、既に生前の彼女の物とは変わっていた。
擦り切れて、平坦で、感情の無い音。
ユウは黒い手と爪の身動ぎに、仲間と彼女の最後の時間を守るため奇襲への警戒を強めた。
聞き取れなかった音を気に掛けて揺れる心を抑える。
純白の角を側頭から伸ばし、迷いを拭い去れない黒い瞳を震わせながら彼女を見下ろす。
店の内外を警戒し、仲間の様子を見守っていたガクルックスも、彼女を見下ろして深く息を吐く。鞘に納めた短剣を手に、まだ人の形を保っている彼女の醜く変質していく手を焦燥を感じながら見続けた。
●
未だ戻らぬ父の幻影をいつまで見続けるのだろう。
父を見送った幼き日を思い出し、まだ人の形を残す雑魔の傍らに膝を突いた。
指輪を介するマテリアルの輝きがアウレールを覆う。
この子が帰らなければ、この子を待つ人は。
「モニカッ! 貴女にナイフを渡した歪虚は誰ッ!」
カウンター越しに呼び掛けるマリィアの声がアウレールの思考を遮った。
冷え切った黒い手が持ち上がり、爪が何かを伝えるかのように床を引っ掻く。
それは、少女にあるまじき力で床板を裂いて、捲れ上がった木片が掠めた腕が血を流す。
滴る赤い雫は黒くその色を変え、見る間に傷口は塞がって数滴の赤い染みだけを残す。
黒い、血液のようだったそれは、この店を開けた時に広がっていた黒い染みと同じように、細かな粒子となって舞うように消えた。
「……まだ間に合う。モニカは帰せる」
彼女の小さな傷から零れた血の染みを。
見下ろして呟く。
変質は進んでしまっている。しかし。
モニカは、まだ、死を迎えることが出来る。彼女を待つ人に、まだ人であるうちに命を終えたと伝えられる。
リアリュールと星野が変わらず呼び掛けるが、答える言葉は無い。
吠えるような、呻くような声で喚き、稀に「ピノ」と聞き取れる音が混ざるが、その間隔は次第に開いていく。
星野は床を叩くように動いた腕を抱き締めるように庇って。
リアリュールは広がっていく手の異質な感触に唇を噛み、肩越しに振り返りマリィアの抱いたピノを見上げた。
醜く変質を遂げてしまう前に最期を。眺めたモニカの姿を記憶に留め、ガクルックスが近付く。
「おやすみ……」
短剣の鞘を落とし銀色の切っ先を向ける。
その刃を遮ってユウの腕が伸ばされた。
「申し訳ありません。私は……このまま完全に変異させるべきだと思います」
同士討ちで血を流すような真似はしないと、ガクルックスは剣を留める。
ユウの視線が対峙するガクルックスと、振り返る亡骸の間で迷いに揺れる。
「私たちがどうしてあげるのが正しい選択かは分かりません。……ただ、これはモニカさんが生前に選んだことです」
それを見届けることを選びたい。
ユウは銀の刃を見据えて静かに告げた。
変質は手首を越え硬化した上腕を鱗が覆う。星野の身体を跳ね除けようとする程に藻掻いて、関節が尖り、腕は前肢の様相を帯び始める。
脚も同じように膝の近くまで黒い鱗に覆われ、爪と足に破かれた靴が足首に引っ掛かっている。
面差しはまだ少女のそれ。だが、これ以上は保てない。
アウレールが剣を抜くと、マリィアの銃声が鳴り響き、弾丸が刀身を掠めて床に落ちる。
「やめろッ! モニカの遺体を見られる訳にはいかない!」
僅かに逸れた切っ先は、避ける意志を持つならば逃れられただろうが、呻きながら変質を続ける限りの肢体にその動きは無い。
雑魔になりかけた亡骸が騒ぎを起こせば、彼女が守ろうとしたピノが生涯苦しむことになりかねない。
赤子を片腕に、カウンターの向こうから片手で抜き撃った金の拳銃、二連の銃口がアウレールの剣に据えられて動かない。
アウレールの剣も据え直した切っ先が心臓が有るはずの場所へ向く。
歪虚は人から肉体も魂も、死さえも奪う。彼女の人の命を救う為、選んだ。
「正しさを問う争いじゃない」
しかし、アウレールの選択を叶えるには、その身体は今に限界に達してしまう。
前腕が膨れ、五指を震わせ。変質は既に肘を越え、上腕へ鱗を広げて肩に迫る。
銃声が外へ漏れることを気にして留めた剣は、次は違わずにその身体を突くだろう。
この場の状況を伏せたいと願うマリィアも同様に、自身の立てた音で人を集めてしまう危険性に一旦は銃を下ろし、手早く装填だけを終える。
対峙するハンター達の様子に、話しは終えたのだろうとリアリュールがナイフを握る。
星野の膝から引き寄せようと身体へ手を掛けると、星野が縋る様にそれを拒んだ。
「叔父様が探しているのではないの?……モニカちゃんのままで」
「止めてくださいぃ、まだモニカちゃんなんですぅ」
星野がモニカだと言い続けて庇う身体は、纏っていた衣服さえ黒ずませ、腕の膨張と硬い鱗に裂かれて袖が破れる。骨の砕ける音を立てながら人の形を忘れる肩が丸みを無くし、腕の形や格好を獣のそれに変える。
仰向けに転がされた犬が起き上がろうと藻掻く仕草で、その雑魔は星野の腕から逃れようと、鋭い爪を持つ前脚で床を叩き、犬歯が伸びて口角の裂けた口で咆哮を上げた。
●
怯むように振り返ったユウが雑魔を見詰める。
「もう、痛みや苦しみを無くして、安心して眠らせてあげたいですねえ」
ガクルックスがユウを避ける様に動く。まだ。と咄嗟に伸ばす手が、ブラウンを濁らせた眼球が爆ぜるようにつぶれる光景に留まる。眼窩には黒い負の気配だけが立ちこめていた。
頬の白さに、まだ変質の届かない丸みを帯びた輪郭に、少女らしいほっそりとした体幹に。彼女がどちらか、判断が付かなくなる。
マリィアはカーテン越しの光の微かな動きを頼りに、マテリアルを込める瞳で外の気配を探りながら、再び銃を構える。
仲間への攻撃は避けたいが、雑魔をモニカだったと分かる形で残し、ピノの未来を傷付けるのなら、それさえ辞さない。
腕の中の小さな温もりが泣きじゃくって姉を呼ぶ声に耳が酷く痛んだ。
ドアに近付く気配は無い。マリィアの様子からも、窓の外にも表が騒ぎ出した様子が無いと察せられる。
雑魔が呻いた。
アウレールは歯を噛み剣を引き上げる。
マリィアの銃声もこの一瞬だけは無視して。
互いに彼女のことを、彼女が愛した人達の安らぎを願い武器を取る。諍いの必要など無く、ほんの少し言葉を交わす時間が有れば、分かり合うことだって出来ただろう。
肩の布を裂いて甲殻が肩を覆う。獣の前脚は爪を床板に突き立てて踏み締める。
暗い眼窩に淀んだ負のマテリアルに感情は無く、こちらを敵だと見据えてくる。
その時間は既に無くなっていた。
動き始める雑魔をリアリュールのナイフからもアウレールの剣からも庇い、星野は符を握り締める。
ナイフを立てると雑魔に施された加護と、星野が咄嗟に掴んだ符の抵抗を感じる。
接戦には慣れない手ではそれを砕ききって、雑魔の身体までは届かない。
更に庇おうとする星野の目をユウの目が捉えた。
思考が雑魔の保護に向ききっていたところへ掛けられる魅了は逃れがたく、振り解くまでに長い隙を作った。
刻まれた金の文字が仄暗い室内でも仄かな煌めきを帯びて読み取れる緋色の剣。
その鋭い切っ先が雑魔の胸を貫いた。
剣を抜くと黒い血飛沫が辺りを濡らす。汚れた顔をリアリュールが拭い、目の無い眼窩に瞼を被せる。
カウンターを迂回して戻ったマリィアは雑魔の顔へ銃を向けた。
「モニカだと分かるのは、ピノにとって良くないの」
銃口が僅かに震えた。
躊躇いの間にも、雑魔の身体は崩れていく。手から腕へ、腕から肩へ。
アウレールが危惧していた通り、崩れた部位は黒い土塊と、灰となって、床を漂う内に消えて行く。
顔は残ったと手を伸ばした瞬間に、声を上げる間すら無く、マリィアが引き金を引く必要も無い程に歪んで、割れて、微かな錆の臭いに死を感じさせながら、それは衣服の一辺すら残さずに溶ける様に、消えた。
●
先に外へ出たユウは周囲の様子を覗ってからドアを静かに開けてハンター達へ声を掛ける。
外は静かで、今なら人目に触れずに脱出が叶いそうだ。
リアリュールが探したピノの生活用品は、この状況が想定されていたかのようにベビーベッドの傍らに纏められていた。
ガクルックスも、せめてモニカの顔を忘れないようにと写真を探すが、店内には1枚も見付からなかった。工房や生活空間を探す時間は無い。
マリィアの腕から赤子を奪い取った星野が、暴れる腕を押さえ付けるように抱えて医者へ走る。
オフィスでの保護を検討していたハンター達と、合流した職員がその後を追って、到着する前に呼び止めた。
「ピノくんはモニカちゃんの弟ですぅ! 友人の弟だから私が面倒みますよぅ!」
錯乱した様子を前に、職員は静かに認められませんと答えた。
「……エドガーさんと後日お話することはできますか?」
「ええ、彼の生存だけでも知らせなければ――あと、出来ればオフィスでの保護を」
大事を取って医者に預けたと伝えて欲しいと告げる。
リアリュールとガクルックスの質問に頷いた職員は、エドガーは先日からの使用人の失踪、歪虚化と、連れ戻されたメイドから伝えられた真相により精神的に参っていると言う。
落ち付いた頃に面会を、と。そして、彼はハンターに対して良い感情を抱いていないと言った。
「期待が大きすぎたのでしょうね……その子をオフィスで保護する準備は出来ていますのでご安心下さい。彼から、その子と女の子がいるはずだと聞いてきたのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
リアリュールから受け取る荷物を馬車の荷台へ積みながら、何も知らない職員は尋ねた。
扉に手を掛ける、開くまでも無く香る錆。
静かに開けた店の床には、座り込んだ星野 ハナ(ka5852)の膝に寝かされたモニカの亡骸、その手を掬い取って握るリアリュール(ka2003)。
2人の衣服まで染めていた黒い血飛沫は、ほんの僅かな空気の揺らぎに、塵が舞うように揺らいで、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が店内へ踏み込むと隅に吹き溜まりを作りやがて、消えた。
木の色を取り戻す床、壁に飛び散った血は依然赤く、その瞬間まで彼女が人間だったと覗わせた。
迂回する手間さえ惜しんで多くない商品が飾るように納められた硝子ケースを飛び越え、マリィア・バルデス(ka5848)はカウンターの内側へ。
ベビーベッドに寝かされた赤子は手足をばたつかせ、姉の名前を泣き叫ぶ。
伸ばされた腕を小さな四肢で叩いて蹴って拒む幼く無力な抵抗を、容易く抑え込んで片腕に抱く。
Gacrux(ka2726)の静かな跫音が2人に一歩二歩と近付いてそれを見下ろす。
手にした大型の得物を一瞥し天井を仰いだ瞳を縁取る漆黒、瞼を伏せれば刷いた青の紋様が鮮やかに。
これ程の力を得ても。
白銀に輝く盾から覗く銃身、銃口。マテリアルを操り、どれ程小さな的さえ撃ち抜く技術。
救えないのか。噛み締めた奥歯が鳴る。得物を抱える手が震える。
リアリュールの手の中で、少女の手はその形を変えていく。
爪が黒ずみ、指が膨らみ、肌を黒くくすませながら鱗状に硬化していく。
もう戻らないと知りながら、その手を撫でる。
「何をしてあげればよかったのかな」
微かに笑った顔に、嘗ての面影が蘇る。弟と暮らしていた時の笑顔も、祖父と慕った人を亡くして泣き濡れていた顔も。
「モニカちゃん……モニカちゃんっ」
星野の声が聞こえていないのか、動きはひどく緩慢で、抱えていなければずり落ちてしまいそうな程、その体には力が入っていない。
こんなにも貴女を気にかけ心配し悲しんでくれるヒト達がいるのに。
ユウ(ka6891)が星野の傍らに佇み必死に声を掛ける2人を見た。
名前しか知らない少女の変貌に、柄に手を伸ばしては離し、握り締める手を見下ろして首を横に振る。
見届けよう。ゆっくりと指を解き、それまでの時を親しくしていた仲間に譲ろうと一歩下がる。
カウンター内、店内ともカーテンは閉め切られている。カウンターから続く工房へのドアは施錠され、カーテン越しの僅かな光りが指す店内は薄暗い。
店へ向く目を気にするマリィアの腕で赤子は変わらず藻掻いている。
しかし、落とさぬ為に腕に力を僅かにでも込めれば折れてしまいそうな程、その小さな身体は柔らかく、脆い。
閉ざしたドアを背に、思考が定まる。
店内に満ちた負の気配、眼前には救護の余地の無い対象。軋む心を覆う冷静な思考が事後処理に動く。
アウレールはドアの歪んだカーテンを閉め直し、微かに零れた光りを遮ると店内へ進んでいく。
今し方討ったばかりの歪虚の最期が蘇る。
風に溶けて消えた、人ならざるモノの死。それは何も残らない。
だが、彼女はまだ間に合う。人として、人のまま、死を迎えることが出来る。
剣を携え、指輪を握り。光の消えた清廉な青の双眸を、モニカに死を与えるべく据えた。
傍へと歩めば陽炎の揺らめきにカーテンの柄も、店のささやかな家具の形も滲む。
「私達にして欲しい事ある?」
リアリュールが変質していく手を取って尋ねる。
追い詰めてしまったけれど、皆、彼女を助けたかったと。
どんなに力を得ても、この手ではピノを傷付けてしまう。
天井をぼうっと見上げた虚ろな顔を覗き込んで表情を読み取りながら呼び掛けた。
「ピノ、もう絶対に、誰にも。だれにも、私が守るから、誰にも」
触らせない。
咆哮のような声が響き、リアリュールの手の中で、その黒ずんだ手は人らしからぬ硬さと歪な凹凸を浮かび上がらせて膨張し鋭い爪を無造作に揺らした。
その様子を見た星野の濡れた蒼い目が見開く。
符を握り締め、無風の屋内で髪をふわり、ふわりと水に揺蕩わせるように揺らして。
その変質と、既に命を失ったはずの少女の身動ぎに一瞬過ぎった思考は果たして、何だったのだろうか。
「モニカちゃん……」
もう一度話せるかも知れない。
その希望の意味の自覚を避けて、冷たい身体を抱く。
「ピノ、ピノ。守るから、だれも、はんたーも、みんな、こわい? ピノ」
どこに、いるの。星野にそう届いた声は、既に生前の彼女の物とは変わっていた。
擦り切れて、平坦で、感情の無い音。
ユウは黒い手と爪の身動ぎに、仲間と彼女の最後の時間を守るため奇襲への警戒を強めた。
聞き取れなかった音を気に掛けて揺れる心を抑える。
純白の角を側頭から伸ばし、迷いを拭い去れない黒い瞳を震わせながら彼女を見下ろす。
店の内外を警戒し、仲間の様子を見守っていたガクルックスも、彼女を見下ろして深く息を吐く。鞘に納めた短剣を手に、まだ人の形を保っている彼女の醜く変質していく手を焦燥を感じながら見続けた。
●
未だ戻らぬ父の幻影をいつまで見続けるのだろう。
父を見送った幼き日を思い出し、まだ人の形を残す雑魔の傍らに膝を突いた。
指輪を介するマテリアルの輝きがアウレールを覆う。
この子が帰らなければ、この子を待つ人は。
「モニカッ! 貴女にナイフを渡した歪虚は誰ッ!」
カウンター越しに呼び掛けるマリィアの声がアウレールの思考を遮った。
冷え切った黒い手が持ち上がり、爪が何かを伝えるかのように床を引っ掻く。
それは、少女にあるまじき力で床板を裂いて、捲れ上がった木片が掠めた腕が血を流す。
滴る赤い雫は黒くその色を変え、見る間に傷口は塞がって数滴の赤い染みだけを残す。
黒い、血液のようだったそれは、この店を開けた時に広がっていた黒い染みと同じように、細かな粒子となって舞うように消えた。
「……まだ間に合う。モニカは帰せる」
彼女の小さな傷から零れた血の染みを。
見下ろして呟く。
変質は進んでしまっている。しかし。
モニカは、まだ、死を迎えることが出来る。彼女を待つ人に、まだ人であるうちに命を終えたと伝えられる。
リアリュールと星野が変わらず呼び掛けるが、答える言葉は無い。
吠えるような、呻くような声で喚き、稀に「ピノ」と聞き取れる音が混ざるが、その間隔は次第に開いていく。
星野は床を叩くように動いた腕を抱き締めるように庇って。
リアリュールは広がっていく手の異質な感触に唇を噛み、肩越しに振り返りマリィアの抱いたピノを見上げた。
醜く変質を遂げてしまう前に最期を。眺めたモニカの姿を記憶に留め、ガクルックスが近付く。
「おやすみ……」
短剣の鞘を落とし銀色の切っ先を向ける。
その刃を遮ってユウの腕が伸ばされた。
「申し訳ありません。私は……このまま完全に変異させるべきだと思います」
同士討ちで血を流すような真似はしないと、ガクルックスは剣を留める。
ユウの視線が対峙するガクルックスと、振り返る亡骸の間で迷いに揺れる。
「私たちがどうしてあげるのが正しい選択かは分かりません。……ただ、これはモニカさんが生前に選んだことです」
それを見届けることを選びたい。
ユウは銀の刃を見据えて静かに告げた。
変質は手首を越え硬化した上腕を鱗が覆う。星野の身体を跳ね除けようとする程に藻掻いて、関節が尖り、腕は前肢の様相を帯び始める。
脚も同じように膝の近くまで黒い鱗に覆われ、爪と足に破かれた靴が足首に引っ掛かっている。
面差しはまだ少女のそれ。だが、これ以上は保てない。
アウレールが剣を抜くと、マリィアの銃声が鳴り響き、弾丸が刀身を掠めて床に落ちる。
「やめろッ! モニカの遺体を見られる訳にはいかない!」
僅かに逸れた切っ先は、避ける意志を持つならば逃れられただろうが、呻きながら変質を続ける限りの肢体にその動きは無い。
雑魔になりかけた亡骸が騒ぎを起こせば、彼女が守ろうとしたピノが生涯苦しむことになりかねない。
赤子を片腕に、カウンターの向こうから片手で抜き撃った金の拳銃、二連の銃口がアウレールの剣に据えられて動かない。
アウレールの剣も据え直した切っ先が心臓が有るはずの場所へ向く。
歪虚は人から肉体も魂も、死さえも奪う。彼女の人の命を救う為、選んだ。
「正しさを問う争いじゃない」
しかし、アウレールの選択を叶えるには、その身体は今に限界に達してしまう。
前腕が膨れ、五指を震わせ。変質は既に肘を越え、上腕へ鱗を広げて肩に迫る。
銃声が外へ漏れることを気にして留めた剣は、次は違わずにその身体を突くだろう。
この場の状況を伏せたいと願うマリィアも同様に、自身の立てた音で人を集めてしまう危険性に一旦は銃を下ろし、手早く装填だけを終える。
対峙するハンター達の様子に、話しは終えたのだろうとリアリュールがナイフを握る。
星野の膝から引き寄せようと身体へ手を掛けると、星野が縋る様にそれを拒んだ。
「叔父様が探しているのではないの?……モニカちゃんのままで」
「止めてくださいぃ、まだモニカちゃんなんですぅ」
星野がモニカだと言い続けて庇う身体は、纏っていた衣服さえ黒ずませ、腕の膨張と硬い鱗に裂かれて袖が破れる。骨の砕ける音を立てながら人の形を忘れる肩が丸みを無くし、腕の形や格好を獣のそれに変える。
仰向けに転がされた犬が起き上がろうと藻掻く仕草で、その雑魔は星野の腕から逃れようと、鋭い爪を持つ前脚で床を叩き、犬歯が伸びて口角の裂けた口で咆哮を上げた。
●
怯むように振り返ったユウが雑魔を見詰める。
「もう、痛みや苦しみを無くして、安心して眠らせてあげたいですねえ」
ガクルックスがユウを避ける様に動く。まだ。と咄嗟に伸ばす手が、ブラウンを濁らせた眼球が爆ぜるようにつぶれる光景に留まる。眼窩には黒い負の気配だけが立ちこめていた。
頬の白さに、まだ変質の届かない丸みを帯びた輪郭に、少女らしいほっそりとした体幹に。彼女がどちらか、判断が付かなくなる。
マリィアはカーテン越しの光の微かな動きを頼りに、マテリアルを込める瞳で外の気配を探りながら、再び銃を構える。
仲間への攻撃は避けたいが、雑魔をモニカだったと分かる形で残し、ピノの未来を傷付けるのなら、それさえ辞さない。
腕の中の小さな温もりが泣きじゃくって姉を呼ぶ声に耳が酷く痛んだ。
ドアに近付く気配は無い。マリィアの様子からも、窓の外にも表が騒ぎ出した様子が無いと察せられる。
雑魔が呻いた。
アウレールは歯を噛み剣を引き上げる。
マリィアの銃声もこの一瞬だけは無視して。
互いに彼女のことを、彼女が愛した人達の安らぎを願い武器を取る。諍いの必要など無く、ほんの少し言葉を交わす時間が有れば、分かり合うことだって出来ただろう。
肩の布を裂いて甲殻が肩を覆う。獣の前脚は爪を床板に突き立てて踏み締める。
暗い眼窩に淀んだ負のマテリアルに感情は無く、こちらを敵だと見据えてくる。
その時間は既に無くなっていた。
動き始める雑魔をリアリュールのナイフからもアウレールの剣からも庇い、星野は符を握り締める。
ナイフを立てると雑魔に施された加護と、星野が咄嗟に掴んだ符の抵抗を感じる。
接戦には慣れない手ではそれを砕ききって、雑魔の身体までは届かない。
更に庇おうとする星野の目をユウの目が捉えた。
思考が雑魔の保護に向ききっていたところへ掛けられる魅了は逃れがたく、振り解くまでに長い隙を作った。
刻まれた金の文字が仄暗い室内でも仄かな煌めきを帯びて読み取れる緋色の剣。
その鋭い切っ先が雑魔の胸を貫いた。
剣を抜くと黒い血飛沫が辺りを濡らす。汚れた顔をリアリュールが拭い、目の無い眼窩に瞼を被せる。
カウンターを迂回して戻ったマリィアは雑魔の顔へ銃を向けた。
「モニカだと分かるのは、ピノにとって良くないの」
銃口が僅かに震えた。
躊躇いの間にも、雑魔の身体は崩れていく。手から腕へ、腕から肩へ。
アウレールが危惧していた通り、崩れた部位は黒い土塊と、灰となって、床を漂う内に消えて行く。
顔は残ったと手を伸ばした瞬間に、声を上げる間すら無く、マリィアが引き金を引く必要も無い程に歪んで、割れて、微かな錆の臭いに死を感じさせながら、それは衣服の一辺すら残さずに溶ける様に、消えた。
●
先に外へ出たユウは周囲の様子を覗ってからドアを静かに開けてハンター達へ声を掛ける。
外は静かで、今なら人目に触れずに脱出が叶いそうだ。
リアリュールが探したピノの生活用品は、この状況が想定されていたかのようにベビーベッドの傍らに纏められていた。
ガクルックスも、せめてモニカの顔を忘れないようにと写真を探すが、店内には1枚も見付からなかった。工房や生活空間を探す時間は無い。
マリィアの腕から赤子を奪い取った星野が、暴れる腕を押さえ付けるように抱えて医者へ走る。
オフィスでの保護を検討していたハンター達と、合流した職員がその後を追って、到着する前に呼び止めた。
「ピノくんはモニカちゃんの弟ですぅ! 友人の弟だから私が面倒みますよぅ!」
錯乱した様子を前に、職員は静かに認められませんと答えた。
「……エドガーさんと後日お話することはできますか?」
「ええ、彼の生存だけでも知らせなければ――あと、出来ればオフィスでの保護を」
大事を取って医者に預けたと伝えて欲しいと告げる。
リアリュールとガクルックスの質問に頷いた職員は、エドガーは先日からの使用人の失踪、歪虚化と、連れ戻されたメイドから伝えられた真相により精神的に参っていると言う。
落ち付いた頃に面会を、と。そして、彼はハンターに対して良い感情を抱いていないと言った。
「期待が大きすぎたのでしょうね……その子をオフィスで保護する準備は出来ていますのでご安心下さい。彼から、その子と女の子がいるはずだと聞いてきたのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
リアリュールから受け取る荷物を馬車の荷台へ積みながら、何も知らない職員は尋ねた。
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相談卓 アウレール・V・ブラオラント(ka2531) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/08/23 01:26:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/17 23:22:07 |