ゲスト
(ka0000)
【界冥】ノンフィクション
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/30 09:00
- 完成日
- 2017/09/01 06:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
鎌倉クラスタ攻略が開始――各方面から鶴岡八幡宮に向けて進軍が開始される。
メタ・シャングリラは鎌倉海浜公園にて作戦全体の統括を行っていた。
一方、山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)は、地球統一連合軍進軍支援任務を終えて鎌倉クラスタへに向けて移動を開始していた。一緒に支援してくれたハンターのおかげで予定よりも早く移動を開始する事ができた。
「予定なら、ドリスキルがサトゥルヌスへの攻撃を開始した頃か……」
八重樫は事前にドリスキルからサトゥルヌス討伐作戦の内情を知らされていた。
本来であれば八重樫がドリスキルの作戦支援を行うべきであったが、作戦全体の成功を目的とするのであれば鎌倉クラスタ攻略を優先しなければならない。
幸い、何人かのハンターが鎌倉クラスタ攻略に手を貸してくれている。
ドリスキルにもそうしたハンターが手伝ってくれれば良いのだが――。
「……っ! あれは!」
突然、ハンターの一人が足を止めた。
自然と周囲を警戒する八重樫。
他のハンターも周囲を見回して敵の存在を探し始める。
「敵か? だが、ここに敵の情報は……」
そう言い掛けた八重樫の目に飛び込んできたのは、予想外の相手であった。
所属不明と思しき3機のCAM。
歪虚CAMにしては足下はしっかりしている。
しかし、問題はそこではない。そのうちの一体に見覚えがあったのだ。
「ヴァルキリー1だと!?」
八重樫は大声を上げた。上げざるを得なかった。
八重樫は自答する。
自分の目の前にいるあれは『幻』ではないのか?
そうでなければ――ヴァルキリー1がいるはずがない。
「何故だ? 函館で自爆したはずだ!」
体を震わせる八重樫。
無理もない。眼前にいる、ヴァルキリー1は幻ではない。
他のハンターも目撃している以上、集団で幻覚を見ている可能性もある。だが、モニターがヴェルキリー1を認識しているのだから実体のある存在だろう。
だが、異なる面もある。
機体色は暗い蒼から黒を基調としたデザインに変更。
さらに装備も一部異なっているようだ。よく見れば後方の2体は肩に黒光りしたキャノン砲を乗せた別機体のようだ。
「考えられるのは函館の機体をベースに新たに構築した機体か。時間的に考えても量産機といったところ、かな」
ハンターの一人が推測を口にする。
エンドレスは函館で戦闘データの収集に勤しんでいた。このデータを元にすればヴァルキリー1を再構築する事が可能かもしれない。
その事は八重樫もハンターの指摘で気付いていたのだが、あまりにも早すぎる建造だ。
「後ろの二体は中距離専用かな? 肩にキャノンとは分かりやすいね」
ハンターの指摘で奥の二体を見れば、肩にキャノンを乗せた機体が立っている。
そのフォルムは八重樫に思い当たるものがあった。
「ヴァルキリー2。外見は変わっているが、ヴァルキリー1の支援機として開発されていた中距離特化のCAMだ。エンドレスめ、データから作り出してきたか」
「問題はヴァルキリーシリーズだけではありません。遭遇した位置が最悪です」
ハンターの一言で八重樫は周辺地図をモニターへ撃ちしだした。
八重樫達がヴァルキリー1と遭遇した場所は、由比ヶ浜の六地蔵交差点。
この道を東へ進めば下馬の交差点に到着する。
「……! この先にドリスキルがいるのか!」
八重樫は、叫んだ。
この場所はドリスキルがサトゥルヌスを待ち伏せしている地点となっている。このまま行けば、サトゥルヌスとの戦いに望むドリスキルのヨルズから側面で奇襲をかけられる事になる。
――このままヴァルキリー1を進ませる訳にはいかない。
「各機、ヴァルキリー1と敵僚機を倒す。絶対にこの先へ行かせるな!」
八重樫はハンターへ指示を出す。
思わぬ形で再び遭遇した八重樫とヴァルキリー1。
苦々しい顔を見せる八重樫に対して、ヴァルキリー1から突如音声が流れ出す。
『あー、敵かよ。さっさと帰りてぇんだが……仕方ねぇ。相手してやるか』
メタ・シャングリラは鎌倉海浜公園にて作戦全体の統括を行っていた。
一方、山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)は、地球統一連合軍進軍支援任務を終えて鎌倉クラスタへに向けて移動を開始していた。一緒に支援してくれたハンターのおかげで予定よりも早く移動を開始する事ができた。
「予定なら、ドリスキルがサトゥルヌスへの攻撃を開始した頃か……」
八重樫は事前にドリスキルからサトゥルヌス討伐作戦の内情を知らされていた。
本来であれば八重樫がドリスキルの作戦支援を行うべきであったが、作戦全体の成功を目的とするのであれば鎌倉クラスタ攻略を優先しなければならない。
幸い、何人かのハンターが鎌倉クラスタ攻略に手を貸してくれている。
ドリスキルにもそうしたハンターが手伝ってくれれば良いのだが――。
「……っ! あれは!」
突然、ハンターの一人が足を止めた。
自然と周囲を警戒する八重樫。
他のハンターも周囲を見回して敵の存在を探し始める。
「敵か? だが、ここに敵の情報は……」
そう言い掛けた八重樫の目に飛び込んできたのは、予想外の相手であった。
所属不明と思しき3機のCAM。
歪虚CAMにしては足下はしっかりしている。
しかし、問題はそこではない。そのうちの一体に見覚えがあったのだ。
「ヴァルキリー1だと!?」
八重樫は大声を上げた。上げざるを得なかった。
八重樫は自答する。
自分の目の前にいるあれは『幻』ではないのか?
そうでなければ――ヴァルキリー1がいるはずがない。
「何故だ? 函館で自爆したはずだ!」
体を震わせる八重樫。
無理もない。眼前にいる、ヴァルキリー1は幻ではない。
他のハンターも目撃している以上、集団で幻覚を見ている可能性もある。だが、モニターがヴェルキリー1を認識しているのだから実体のある存在だろう。
だが、異なる面もある。
機体色は暗い蒼から黒を基調としたデザインに変更。
さらに装備も一部異なっているようだ。よく見れば後方の2体は肩に黒光りしたキャノン砲を乗せた別機体のようだ。
「考えられるのは函館の機体をベースに新たに構築した機体か。時間的に考えても量産機といったところ、かな」
ハンターの一人が推測を口にする。
エンドレスは函館で戦闘データの収集に勤しんでいた。このデータを元にすればヴァルキリー1を再構築する事が可能かもしれない。
その事は八重樫もハンターの指摘で気付いていたのだが、あまりにも早すぎる建造だ。
「後ろの二体は中距離専用かな? 肩にキャノンとは分かりやすいね」
ハンターの指摘で奥の二体を見れば、肩にキャノンを乗せた機体が立っている。
そのフォルムは八重樫に思い当たるものがあった。
「ヴァルキリー2。外見は変わっているが、ヴァルキリー1の支援機として開発されていた中距離特化のCAMだ。エンドレスめ、データから作り出してきたか」
「問題はヴァルキリーシリーズだけではありません。遭遇した位置が最悪です」
ハンターの一言で八重樫は周辺地図をモニターへ撃ちしだした。
八重樫達がヴァルキリー1と遭遇した場所は、由比ヶ浜の六地蔵交差点。
この道を東へ進めば下馬の交差点に到着する。
「……! この先にドリスキルがいるのか!」
八重樫は、叫んだ。
この場所はドリスキルがサトゥルヌスを待ち伏せしている地点となっている。このまま行けば、サトゥルヌスとの戦いに望むドリスキルのヨルズから側面で奇襲をかけられる事になる。
――このままヴァルキリー1を進ませる訳にはいかない。
「各機、ヴァルキリー1と敵僚機を倒す。絶対にこの先へ行かせるな!」
八重樫はハンターへ指示を出す。
思わぬ形で再び遭遇した八重樫とヴァルキリー1。
苦々しい顔を見せる八重樫に対して、ヴァルキリー1から突如音声が流れ出す。
『あー、敵かよ。さっさと帰りてぇんだが……仕方ねぇ。相手してやるか』
リプレイ本文
事件は――突然発生する。
突発的に訪れる事で十分な準備を行えない。それは時に大きなリスクを伴う。
それでも、人々は限られた状況の中で事件に対処しなければならない。
「各機、ヴァルキリー1と敵僚機を倒す。絶対にこの先へ行かせるな!」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)は、各機へ指示を出す。
先程まで地球統一連合軍の後方支援をしていたのは幸いだった。ハンターと共に行動していた事で、敵よりも先んじて攻める事が可能となった。
「ハッ! やっぱり出て来たかよ、ヴァルキリーシリーズ! 良いぜ、上等だ。何機来ようが全部叩き潰してやる」
「龍奏の時の……ブラッシュアップ版か。 だが、ブラッシュアップならこっちも……藤堂号、全開っ!」
紫月・海斗(ka0788)のR7エクスシアと藤堂研司(ka0569)のパリスが全速で前に出る。
アクティブスラスターが唸りを上げ、急発進で機体を押し進める。
二人の体に乗り掛かる力――目指す先は、六地蔵交差点の東。
『ああ? なんだ? 血気盛んな奴か? 面倒だな』
量産型ヴァルキリー1から流れ込む通信。
何処か機械的な印象を受ける。
「……ん、パイロット? いや、違うか」
「ああ、ヴァルキリー1はエンドレスによって改造され続けていたんだ。龍奏作戦とは別機体と考えた方がいいぞ。おそらく、その声もエンドレスが作ったAIだ。まったく、せめて可愛い女子で作れってぇんだよ」
研司の呟きに海斗が反応する。
目の前にいるヴァルキリー1のベースは、間違いなく函館クラスタの攻略時に出会った機体だ。あの時は行方不明となっていた田代誠がパイロットとなっていたが、通信の音声を聞く限りでは人間と思えない。
「間に合うか……?」
滑り込むR7エクスシア。
研司の手に汗が滲む。
無理もない、今回の戦いではこの二人が敵の進路を塞ぐ必要があるからだ。
そして、眼前にいるヴァルキリー1には厄介な装備が搭載されている。
「ちっ、思ったよりも早ぇ。気付きやがったか?」
海斗の目に映ったのは、ヴァルキリー1背部にあるブースターの周囲が歪む瞬間だった。
リープテイル――ヴァルキリー1における最大の特徴である高速移動。
この移動を実現しているのが、リープテイルと呼ばれるブースターだ。
これが稼働すればヴァルキリー1は高速移動移動を開始する。位置的に考えても研司と海斗が間に合うかは五分と入ったところか。
「脚自慢は……進化したのはてめぇらだけじゃねぇ! そうだよなぁ、パリスゥッ!!」
研司がここで意地を見せる。
ハイマニューバとしてカスタムされたパリスに対してクローズコンバットを発動。
一気にパリスが加速。
加速する前のヴァルキリー1と肉薄。
次の瞬間、試作CAMブレード「KOJI-LAW」の刀身がヴァルキリー1の進路を塞いだ。
「ここで行き止まりだ」
『おお? なんだよ、倒さなきゃダメか。仕方ねぇなぁ』
パリスを前にヴァルキリー1は呟いた。
面倒臭がるセリフもAIの反応に過ぎない。誰のデータを使っているのかは分からないが、研司はやりにくさを感じてしまう。
「研ちゃん、決めたか。なら、こっちも負けてられねぇ!」
R7エクスシアの海斗も、残る一機のヴァルキリー1へと迫る。
アクティブブラスターで加速。可変機銃「ポレモスSGS」を構えて急接近する。
すれ違い様に剣撃を叩き込もうと試みる。
しかし、ヴァルキリー1も可変機銃「ポレモスSGS」の刃を近距離用ナイフで受け止める。
「おまえ、やっぱり田代のおっさんじゃねぇな?
函館にいたおっさんは、もっと本能的で危機を感知していた。おまえのような機械的な反応はしなかったぜ」
海斗は、確信した。
敵は間違いなくエンドレスが生み出したAI。多少人間臭さはあるが、田代誠がコピーされていない事を直感敵に察知する。
そして、その事実は海斗に思い切った行動を取らせる。
「アウレール! 巻き込んで構わねぇから撃てっ!
こいつ等を通さない事が、俺等の勝利条件だろうがよ!」
海斗の通信を聞いたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、瓦礫に身を隠していた21cm SkK17 ムスペルに向き直る。
「……2人がヴァルキリー1を止めたか。
では、美しさの欠片の無い者達に教育してやるか……大砲っていうのは、こうやって使うものだ。お前等より先にお目にかけよう」
アウレールの指示を受けた21cm SkK17 ムスペルが、炸裂弾で砲撃を開始。
アウレールの狙いはヴァルキリー1だけではない。
六地蔵交差点は南、北、東の大きな道が交わっている。
敵は北から現れて東へ目指して移動中だった。
そして今、海斗と研司が東の道を封鎖。
こうなれば、後続にいる機体は東へは行けない。
六地蔵交差点に滞留する事になる。
アウレールは、この滞留している敵陣に向けて炸裂弾を放ったのだ。
周囲は瓦礫――回避する術は少ない。
「2時方向……炸裂弾は後続機体へ命中を確認」
少し離れた場所であったが、アウレールの肉眼でも敵の周囲に霰玉が撒き散らされた事が見えた。
後続の3機を中心に展開され、一部の霰玉はヴァルキリー1にも命中している。
「無事か?」
「ああ。こっちは問題ねぇ。エクスシアが気張ってくれたおかげだ」
海斗と研司への被害は最小限に抑えられていた。
海斗がマテリアルカーテンを発動させた事で、霰玉の被害から免れる事ができた。
だが、今の砲撃は効果的であったが敵の目を惹く結果にも繋がる。
「それより、後続の連中はご立腹だ。お客様は今にも叫んでそっちへ走り出しそうだぞ」
後続――中距離支援をメインに設計された『ヴァルキリー2』の一部はターゲットをアウレールへ向ける。
交差点で滞留するよりも砲撃を狙うアウレール撃破へ動き始めたようだ。
それでもアウレールに臆する様子は無い。
「すべておいて問題は無い。想定内だ」
トランシーバーを通してアウレールの力強い答えが返ってくる。
六地蔵交差点を巡る戦いは、今まさに始まったばかりである。
●
ヴァルキリー2。
中距離支援を主軸に開発されたヴァルキリーシリーズの2号機。
中距離用マシンガンでヴァルキリー1の支援を行う予定であったが、エンドレスに鹵獲された後に改造。中距離用マシンガンが『中距離用VOIDビームマシンガン』へと改造。
さらに肩にはVOID砲『KZキャノン』を装備。中距離支援から中距離制圧を目的に改修されていた。
そして――彼らの目標が六地蔵交差点の西に布陣するハンター達となっていた。
「各機、手筈通り頼む。ヴァルキリー2を六地蔵交差点へ釘付けにしてくれ」
アウレールの発案により、キルゾーンを『六地蔵交差点』と定めていたハンター達。
その声を受けて、各機は行動を開始する。
最初に動き出したのは、久我・御言(ka4137)であった。
「ほう……キャノン装備とは奇遇だね。なかなか立派なモノをお持ちのようではあるが……こちらにもあるのだよ。黒々としたのがね」
魔導型デュミナスに装備された黒々なモノ――キヅカキャノンが鈍い光を放つ。
砲撃に自信があるのだろう。御言は堂々とした佇まいをデュミナスから放ちながら、ヴァルキリー2を迎撃する。
「!」
ヴァルキリー2も御言の存在に気付いたのだろう。
肩に装着された『KZキャノン』の砲身を御言へと向ける。
その瞬間、御言の顔色が変わる。
「撃ち合い、かね?
良かろう。どちらのキャノンがより強く雄々しく猛々しくあるのか、勝負しようではないか。若気の至りでいきり立ったとしても、もう後には退けぬぞ」
KZキャノンから放たれる浮遊型狂気。
真紅の輝きから放たれた迸りが、御言に真っ直ぐ向かって行く。
「愚か……いや、臆したか。距離が少々足りぬのではないか?
だが、敢えて受けよう。これが『キャノン』だ」
デュミナスのロマンチックな部分に装備されたキヅカキャノン。
黄金のマテリアルが放つ輝きが、周囲を飾り立てる。
同時に撃ち出された砲弾は、正面から浮遊型狂気へと向かっていく。
――衝撃。
それは硬いモノ同士が激突して生まれたものであった。
瞬間、周囲の空気を震えさせる。
「互角。そう思いたければ、思うが良い。そう感じた時が……埋め切れない永遠の『格差だ」
御言のキヅカキャノンは次弾の装填を完了している。
一方、KZキャノンは浮遊型狂気の装填を終えていない。
連射ができない――弾が無限のKZキャノンが抱える最大の問題であった。
「覚えておき給え。
私のキャノンはっ! 連射可能っ!!」
御言の叫びと同時にマルチロックオンでターゲットされたヴェルキリー2。
残りの2機に対してキヅカキャノンの砲弾が放たれる。
未だ六地蔵交差点で戸惑っていた2機に砲弾が命中。
それはアウレールの散弾に続いての攻撃。本来であればヴァルキリー1への支援を行うべき立場なのであろうが、ヴァルキリー2は後続のハンターへと向かって動き出す。
「諸君。私と火線を集中してくれないかね? 無茶振りをする事になるとは思うが」
「無茶振りでも構わない。どの道、やるしかないのだから……。
八重樫、最接近しているヴァルキリー2に火力を集中して欲しい」
「了解だ。確実に一機ずつ潰していく」
ジーナ(ka1643)のバレルは、八重樫のデュミナスと共に行動を開始する。
実は既にアウレールの策を受けて研司と海斗の後を遅れて機体を前に進めていた。ヴァルキリー2への近接対応を念頭に置いた先手である。
「新型……? いや、函館の劣化版か?」
マシンガン「コンステラ」を片手にヴァルキリー2と間合いを狭めるジーナ。
その傍らではアサルトライフルでヴァルキリー2の反撃を封じていく。
ジーナにとっても、他のハンターにとってもヴァルキリー2は初めて遭遇する相手だ。
しかし、函館で戦ったヴァルキリー1にはVOIDキヅカキャノンが装備されていた事もあった。その動きから考えるとヴァルキリー2の動きは陳腐だ。まるで何かに動かされているような反応。
おそらく量産間もない初期型である事から調整が追いついていないのだろう。
「だろうな。しかし、手を抜く理由にはならん。全力で叩くまでだ。
……それが、エンドレスの生み出したものであれば尚更だ」
八重樫が、力強く答える。
その力に八重樫個人が抱えるエンドレスへの因縁がある事を、ジーナは知っていた。
「ああ、遠慮はいらない。すべてをぶつければいい」
ビームマシンガンからシールド「ウムアルメン」で身を護りながら、八重樫と弾丸を集中させる。
一点に集中される弾丸は、ヴァルキリー2への反撃を与えない。
「真のキャノン、その味を堪能してくれ給え。これは私からの選別だ」
再び火を噴くのは御言のデュミナスが構えるキヅカキャノン。
黒光りする砲身が、ヴァルキリー2に向けて放たれる。
黄金のマテリアルが炸裂した後、砲弾がヴァルキリー2の胸部へと突き刺さる。
同時に後方へと倒れ込むヴァルキリー2。
地面へ倒れ込み、その機体が動き出す事はなかった。
「まずは一機。残りは4機か」
八重樫の一言に、ハンター達は希望を見出す。
所詮は量産機。大量に現れれば別であるが、数が少なければ倒せない相手ではない。
問題は――ヴァルキリー1を押さえ込む研司と海斗が何処まで時間を稼げるかである。
●
「下馬へ行かせる訳にはいかない。とにかく分散されないように銃撃で惹き付けて味方の火線へ引っ張っていかないと……」
箍崎 来流未(ka2219)は、残るヴァルキリー2の目を引き続けていた。
一人単身ヴェルキリー2へ近づき、反撃するデコイとして立ち回る。
ビームマシンガンにはサイドステップ及びバックステップで回避。
KZキャノンには射線に乗らないように注意しながら、動き続ける。
味方の火線へ引き続ける事を念頭におき、魔導拳銃「イフリータ」で反撃を続ける。
来流未のおかげで他のハンターは一機ずつヴァルキリー2を相手にする事ができた。
だが――。
それは無謀な試みとも言えた。
何故なら、来流未はCAMや魔導アーマーにも乗らず、単身生身でヴァルキリー2と対峙していたからだ。
『危険だ、下がれ』
八重樫も来流未と通信する事ができれば、下がらせていただろう。
しかし、来流未はトランシーバーなどの通信機器を持っていない。
デュミナス内にいる八重樫とやり取りする事もままならない。
飛来する浮遊型狂気を回避する。
だが、浮遊型狂気は来流未の間近を通過する。
来流未にも分かっている。戦場で回避し続けるのは、終わらないダンスと同じ。
止まれば、そこで死が訪れる。
緊張感の中で来流未は舞い続ける他無い。
「それでも退けない。これで、仲間が助かるのなら……っ!」
既に来流未の疲労はピークに近づいていた。
先程、視界の中で仲間が火力を集中していたヴァルキリー2が倒れた。
おそらく一機を倒したのだろう。残る2機に仲間が攻撃を仕掛ければ、来流未に降り注ぐ弾丸の量も減る。
そう――思考していた。
そして、それが来流未の緊張感を解してしまう。
「……えっ!」
一瞬、浮遊型狂気の回避に遅れる。
塊が目の前を通り抜ける。同時に震える空気。
それは来流未の足を鈍らせるには十分過だった。
――しまった。
そう思った次の瞬間、来流未の体に突き刺さる浮遊型狂気。
浮遊型狂気は撃ち出された勢いのまま、来流未の体を後方へ吹き飛ばす。
瓦礫の山へ吹き飛ばされ、体を激しく打ち付ける。
「……うっ」
起き上がろうとするが、来流未の体に激しい痛みが走る。
戦場から少し離れた場所に飛ばされた来流未。
ぼやける視界の中で来流未が見た光景は、残るヴァルキリー2へ襲い掛かる仲間達の姿だった。
「これで、いい。敵の数が減れば……きっと、勝て……」
そこで来流未の意識は途絶える。
自分の働きが、決して無駄では無いと確信して――。
●
ハンターの尽力で、敵機は六地蔵交差点へ封じ込められていた。
だが、これは一時であっても『膠着状態』と見る事もできる。
ハンターからすれば時間の経過はリスクの増大。
ここは、大きな一手を打って戦況を一変させる必要がある。
そう考えたのだろうが、再び動き出したのはアウレールであった。
「指定ポイントに敵機集結を確認。
次弾、装填……撃てっ!」
戦況を変えたのはアウレールの21cm SkK17 ムスペルが放った火炎弾であった。
数発の炸裂弾を発射した後に、弾着修正指示。
そして距離を計算に入れた後、敵の真ん中に火炎弾を放り込んだのだ。
砲弾に込められた刻令術により周囲に火炎が発生。ヴァルキリー2への炎の手が伸びていく。
突然現れた炎にヴァルキリー2は、眼前の敵への対処に遅れる。
「八重樫、チャンスだ。一気に叩き込む」
「分かった。こちらも前に出る」
ジーナと八重樫が、炎に包まれるヴァルキリー2へ一気に間合いを詰める。
同時に御言も眼前に迫るヴァルキリー2へ反撃を試みる。
「その無礼な態度、我慢ならないな。出直すといい」
御言の魔導型デュミナスから放たれたエレクトリックショック。
電撃がヴァルキリー2へ襲い掛かり、ヴァルキリー2の体を痺れさせる。
ヴァルキリー2が地面に倒れる頃には、ジーナと八重樫の前に居た敵も地面で鉄塊と化していた。
「火炎弾のおかげで敵を浮き足立たせる事ができたか」
八重樫は、足下に転がるヴァルキリー2の残骸を前に呟いた。
戦況を読んで後方から砲撃支援したアウレールに賞賛の言葉を贈りたかったのだろう。
だが、当のアウレールは未だ戦いの手を緩めない。
「まだだ、ヴァルキリー1が残ってる。待たせたな、二人とも」
アウレールは、21cm SkK17 ムスペルへ前進指示を出す。
そう、まだ戦いは終わっていない。
研司と海斗が足止めしていたヴァルキリー1の存在が残っている。
2人はアウレール達がヴァルキリー2を攻撃している間、ヴァルキリー1の足止めに努めていた。単身で撃破できれば良いのだが、接近戦に特化した機体相手だ。油断をすれば近接用ナイフで自機を貫かれる恐れもある。さらに道沿いには瓦礫の山が積み上げられている事から、接近に持ち込まれると距離を取る事も簡単ではない。
その為、2人は絶妙な間合いで敵を相対していた。
「待ってたぜ。もうAIとのダンスも飽きてきたところだ」
「AIってぇのはこんなにしつこいのか? もう相手は勘弁してぇ」
短時間ではあったが、双方精神的な疲労は大きい。
その事が分かっているからこそ、アウレールは早急に2人の元へ急ぐ必要があった。
「頼む。2人の救援を」
「分かってる……いつまでも同じ手が通用すると思うなよ」
2人の救援に向かったのはジーナだった。
温存していた[SW]ハンドガン「トリニティ」で、海斗に迫るヴァルキリー1の背後からグレネード弾を叩き込む。
一瞬の間を置いて炸裂するグレネード弾。
ヴァルキリー1の背中へ炸裂した後、機体を前方へと突き押した。
『うおぉ? マジかよ……』
大きくバランスを崩すヴァルキリー1。
この瞬間を、海斗が逃すはずはない。
「いつかのお返し、だ。まあ、おまえは覚えてないだろうがな。
知りたかったら、『エンドレスのママ』に聞きやがれ」
海斗の構えた[SW]試作波動銃「アマテラス」は、マテリアルビームを発射。
ヴァルキリー1の背後にあった瓦礫をまとめて吹き飛ばす。
自爆する事すら許さない攻撃で、ヴァルキリー1は一気にダメージを増加。
ビームの射出が終わる頃には、ヴァルキリー1も糸の切れた人形のようにその場へと倒れ込んだ。
一方、残るヴァルキリー1には御言の魔導型デュミナスが照準を合わせていた。
「笑顔を見せ給え。それが……君の最後の笑顔だ」
御言は研司が離れた事を確認した後、[SW]量産型対VOIDミサイルを叩き込む。
発射されたミサイルが放物線を描きながらヴァルキリー1へと突き刺さり――爆発。
巨大な爆発が周囲の瓦礫を巻き込みながら、地上に大きな花を開く。
「確か、剣機系歪虚はしばしば自爆を狙っていたな。ならば、この敵が自爆しないとも限らない。最後まで手を抜かないのは……ある種の礼儀だ」
アウレールは21cm SkK17 ムスペルへ新たな指示を下す。
装填していたキャニスター弾が、68ポンド試作ゴーレム砲の砲身より飛び出した。
前方に降り注ぐ霰玉。ヴァルキリー1の全身に降り注ぎ、機体を貫いていく。
『くぅぅ、やってくれるねぇ。こりゃ、おじさんちょっとヤバいかな?』
「言ったろ、新型ぁ!! 旧型の底力を見せてやるって!
教えてやれ! パリィィスッ!!」
ヴァルキリー1の言葉を無視して、最高潮のテンションで叫ぶ研司。
無理もない、今までヴァルキリー2と戦う時間を稼ぐ為に牽制射撃。時に背後を向ける場合には威嚇射撃でヴァルキリー1の目を惹き続けていた。
それは研司にとって持久戦――我慢を強いられている戦いだった。
だが、それももうここで終わりだ。
仲間と合流した以上、我慢する必要は無い。
何より、アウレールの言う通り自爆に巻き込まれる気は、研司には一切なかった。
「行けぇぇぇぇぇ!!!」
距離を保って放たれる研司砲。
放たれた弾丸はヴァルキリー1の機体を砕き、その場へと倒れさせた。
研司の手に伝わる感触。
肩は呼吸で大きく揺れている。
「見事だ。これで下馬の迎撃作戦にも影響は無いだろう」
八重樫の一言で、ハンター達は胸を撫で下ろす。
この戦いは鎌倉クラスタ攻略から見れば小さな勝利かもしれない。
だが、この勝利は間違いなく連合軍の勝利に貢献しているはずだ。
●
『こちらエンドレス。量産型ヴァルキリーシリーズ、沈黙。敵戦力が大きく上回っていた模様』
『戦略と機体設計の再検討が必要』
『新たに六地蔵で採取した戦闘データを元に計画の一部を修正』
『修正……承認。以後、ヴァルキリーシリーズは本格的な量産体制へ移行する』
『計画修正。量産開始まで待機中……』
突発的に訪れる事で十分な準備を行えない。それは時に大きなリスクを伴う。
それでも、人々は限られた状況の中で事件に対処しなければならない。
「各機、ヴァルキリー1と敵僚機を倒す。絶対にこの先へ行かせるな!」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)は、各機へ指示を出す。
先程まで地球統一連合軍の後方支援をしていたのは幸いだった。ハンターと共に行動していた事で、敵よりも先んじて攻める事が可能となった。
「ハッ! やっぱり出て来たかよ、ヴァルキリーシリーズ! 良いぜ、上等だ。何機来ようが全部叩き潰してやる」
「龍奏の時の……ブラッシュアップ版か。 だが、ブラッシュアップならこっちも……藤堂号、全開っ!」
紫月・海斗(ka0788)のR7エクスシアと藤堂研司(ka0569)のパリスが全速で前に出る。
アクティブスラスターが唸りを上げ、急発進で機体を押し進める。
二人の体に乗り掛かる力――目指す先は、六地蔵交差点の東。
『ああ? なんだ? 血気盛んな奴か? 面倒だな』
量産型ヴァルキリー1から流れ込む通信。
何処か機械的な印象を受ける。
「……ん、パイロット? いや、違うか」
「ああ、ヴァルキリー1はエンドレスによって改造され続けていたんだ。龍奏作戦とは別機体と考えた方がいいぞ。おそらく、その声もエンドレスが作ったAIだ。まったく、せめて可愛い女子で作れってぇんだよ」
研司の呟きに海斗が反応する。
目の前にいるヴァルキリー1のベースは、間違いなく函館クラスタの攻略時に出会った機体だ。あの時は行方不明となっていた田代誠がパイロットとなっていたが、通信の音声を聞く限りでは人間と思えない。
「間に合うか……?」
滑り込むR7エクスシア。
研司の手に汗が滲む。
無理もない、今回の戦いではこの二人が敵の進路を塞ぐ必要があるからだ。
そして、眼前にいるヴァルキリー1には厄介な装備が搭載されている。
「ちっ、思ったよりも早ぇ。気付きやがったか?」
海斗の目に映ったのは、ヴァルキリー1背部にあるブースターの周囲が歪む瞬間だった。
リープテイル――ヴァルキリー1における最大の特徴である高速移動。
この移動を実現しているのが、リープテイルと呼ばれるブースターだ。
これが稼働すればヴァルキリー1は高速移動移動を開始する。位置的に考えても研司と海斗が間に合うかは五分と入ったところか。
「脚自慢は……進化したのはてめぇらだけじゃねぇ! そうだよなぁ、パリスゥッ!!」
研司がここで意地を見せる。
ハイマニューバとしてカスタムされたパリスに対してクローズコンバットを発動。
一気にパリスが加速。
加速する前のヴァルキリー1と肉薄。
次の瞬間、試作CAMブレード「KOJI-LAW」の刀身がヴァルキリー1の進路を塞いだ。
「ここで行き止まりだ」
『おお? なんだよ、倒さなきゃダメか。仕方ねぇなぁ』
パリスを前にヴァルキリー1は呟いた。
面倒臭がるセリフもAIの反応に過ぎない。誰のデータを使っているのかは分からないが、研司はやりにくさを感じてしまう。
「研ちゃん、決めたか。なら、こっちも負けてられねぇ!」
R7エクスシアの海斗も、残る一機のヴァルキリー1へと迫る。
アクティブブラスターで加速。可変機銃「ポレモスSGS」を構えて急接近する。
すれ違い様に剣撃を叩き込もうと試みる。
しかし、ヴァルキリー1も可変機銃「ポレモスSGS」の刃を近距離用ナイフで受け止める。
「おまえ、やっぱり田代のおっさんじゃねぇな?
函館にいたおっさんは、もっと本能的で危機を感知していた。おまえのような機械的な反応はしなかったぜ」
海斗は、確信した。
敵は間違いなくエンドレスが生み出したAI。多少人間臭さはあるが、田代誠がコピーされていない事を直感敵に察知する。
そして、その事実は海斗に思い切った行動を取らせる。
「アウレール! 巻き込んで構わねぇから撃てっ!
こいつ等を通さない事が、俺等の勝利条件だろうがよ!」
海斗の通信を聞いたアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、瓦礫に身を隠していた21cm SkK17 ムスペルに向き直る。
「……2人がヴァルキリー1を止めたか。
では、美しさの欠片の無い者達に教育してやるか……大砲っていうのは、こうやって使うものだ。お前等より先にお目にかけよう」
アウレールの指示を受けた21cm SkK17 ムスペルが、炸裂弾で砲撃を開始。
アウレールの狙いはヴァルキリー1だけではない。
六地蔵交差点は南、北、東の大きな道が交わっている。
敵は北から現れて東へ目指して移動中だった。
そして今、海斗と研司が東の道を封鎖。
こうなれば、後続にいる機体は東へは行けない。
六地蔵交差点に滞留する事になる。
アウレールは、この滞留している敵陣に向けて炸裂弾を放ったのだ。
周囲は瓦礫――回避する術は少ない。
「2時方向……炸裂弾は後続機体へ命中を確認」
少し離れた場所であったが、アウレールの肉眼でも敵の周囲に霰玉が撒き散らされた事が見えた。
後続の3機を中心に展開され、一部の霰玉はヴァルキリー1にも命中している。
「無事か?」
「ああ。こっちは問題ねぇ。エクスシアが気張ってくれたおかげだ」
海斗と研司への被害は最小限に抑えられていた。
海斗がマテリアルカーテンを発動させた事で、霰玉の被害から免れる事ができた。
だが、今の砲撃は効果的であったが敵の目を惹く結果にも繋がる。
「それより、後続の連中はご立腹だ。お客様は今にも叫んでそっちへ走り出しそうだぞ」
後続――中距離支援をメインに設計された『ヴァルキリー2』の一部はターゲットをアウレールへ向ける。
交差点で滞留するよりも砲撃を狙うアウレール撃破へ動き始めたようだ。
それでもアウレールに臆する様子は無い。
「すべておいて問題は無い。想定内だ」
トランシーバーを通してアウレールの力強い答えが返ってくる。
六地蔵交差点を巡る戦いは、今まさに始まったばかりである。
●
ヴァルキリー2。
中距離支援を主軸に開発されたヴァルキリーシリーズの2号機。
中距離用マシンガンでヴァルキリー1の支援を行う予定であったが、エンドレスに鹵獲された後に改造。中距離用マシンガンが『中距離用VOIDビームマシンガン』へと改造。
さらに肩にはVOID砲『KZキャノン』を装備。中距離支援から中距離制圧を目的に改修されていた。
そして――彼らの目標が六地蔵交差点の西に布陣するハンター達となっていた。
「各機、手筈通り頼む。ヴァルキリー2を六地蔵交差点へ釘付けにしてくれ」
アウレールの発案により、キルゾーンを『六地蔵交差点』と定めていたハンター達。
その声を受けて、各機は行動を開始する。
最初に動き出したのは、久我・御言(ka4137)であった。
「ほう……キャノン装備とは奇遇だね。なかなか立派なモノをお持ちのようではあるが……こちらにもあるのだよ。黒々としたのがね」
魔導型デュミナスに装備された黒々なモノ――キヅカキャノンが鈍い光を放つ。
砲撃に自信があるのだろう。御言は堂々とした佇まいをデュミナスから放ちながら、ヴァルキリー2を迎撃する。
「!」
ヴァルキリー2も御言の存在に気付いたのだろう。
肩に装着された『KZキャノン』の砲身を御言へと向ける。
その瞬間、御言の顔色が変わる。
「撃ち合い、かね?
良かろう。どちらのキャノンがより強く雄々しく猛々しくあるのか、勝負しようではないか。若気の至りでいきり立ったとしても、もう後には退けぬぞ」
KZキャノンから放たれる浮遊型狂気。
真紅の輝きから放たれた迸りが、御言に真っ直ぐ向かって行く。
「愚か……いや、臆したか。距離が少々足りぬのではないか?
だが、敢えて受けよう。これが『キャノン』だ」
デュミナスのロマンチックな部分に装備されたキヅカキャノン。
黄金のマテリアルが放つ輝きが、周囲を飾り立てる。
同時に撃ち出された砲弾は、正面から浮遊型狂気へと向かっていく。
――衝撃。
それは硬いモノ同士が激突して生まれたものであった。
瞬間、周囲の空気を震えさせる。
「互角。そう思いたければ、思うが良い。そう感じた時が……埋め切れない永遠の『格差だ」
御言のキヅカキャノンは次弾の装填を完了している。
一方、KZキャノンは浮遊型狂気の装填を終えていない。
連射ができない――弾が無限のKZキャノンが抱える最大の問題であった。
「覚えておき給え。
私のキャノンはっ! 連射可能っ!!」
御言の叫びと同時にマルチロックオンでターゲットされたヴェルキリー2。
残りの2機に対してキヅカキャノンの砲弾が放たれる。
未だ六地蔵交差点で戸惑っていた2機に砲弾が命中。
それはアウレールの散弾に続いての攻撃。本来であればヴァルキリー1への支援を行うべき立場なのであろうが、ヴァルキリー2は後続のハンターへと向かって動き出す。
「諸君。私と火線を集中してくれないかね? 無茶振りをする事になるとは思うが」
「無茶振りでも構わない。どの道、やるしかないのだから……。
八重樫、最接近しているヴァルキリー2に火力を集中して欲しい」
「了解だ。確実に一機ずつ潰していく」
ジーナ(ka1643)のバレルは、八重樫のデュミナスと共に行動を開始する。
実は既にアウレールの策を受けて研司と海斗の後を遅れて機体を前に進めていた。ヴァルキリー2への近接対応を念頭に置いた先手である。
「新型……? いや、函館の劣化版か?」
マシンガン「コンステラ」を片手にヴァルキリー2と間合いを狭めるジーナ。
その傍らではアサルトライフルでヴァルキリー2の反撃を封じていく。
ジーナにとっても、他のハンターにとってもヴァルキリー2は初めて遭遇する相手だ。
しかし、函館で戦ったヴァルキリー1にはVOIDキヅカキャノンが装備されていた事もあった。その動きから考えるとヴァルキリー2の動きは陳腐だ。まるで何かに動かされているような反応。
おそらく量産間もない初期型である事から調整が追いついていないのだろう。
「だろうな。しかし、手を抜く理由にはならん。全力で叩くまでだ。
……それが、エンドレスの生み出したものであれば尚更だ」
八重樫が、力強く答える。
その力に八重樫個人が抱えるエンドレスへの因縁がある事を、ジーナは知っていた。
「ああ、遠慮はいらない。すべてをぶつければいい」
ビームマシンガンからシールド「ウムアルメン」で身を護りながら、八重樫と弾丸を集中させる。
一点に集中される弾丸は、ヴァルキリー2への反撃を与えない。
「真のキャノン、その味を堪能してくれ給え。これは私からの選別だ」
再び火を噴くのは御言のデュミナスが構えるキヅカキャノン。
黒光りする砲身が、ヴァルキリー2に向けて放たれる。
黄金のマテリアルが炸裂した後、砲弾がヴァルキリー2の胸部へと突き刺さる。
同時に後方へと倒れ込むヴァルキリー2。
地面へ倒れ込み、その機体が動き出す事はなかった。
「まずは一機。残りは4機か」
八重樫の一言に、ハンター達は希望を見出す。
所詮は量産機。大量に現れれば別であるが、数が少なければ倒せない相手ではない。
問題は――ヴァルキリー1を押さえ込む研司と海斗が何処まで時間を稼げるかである。
●
「下馬へ行かせる訳にはいかない。とにかく分散されないように銃撃で惹き付けて味方の火線へ引っ張っていかないと……」
箍崎 来流未(ka2219)は、残るヴァルキリー2の目を引き続けていた。
一人単身ヴェルキリー2へ近づき、反撃するデコイとして立ち回る。
ビームマシンガンにはサイドステップ及びバックステップで回避。
KZキャノンには射線に乗らないように注意しながら、動き続ける。
味方の火線へ引き続ける事を念頭におき、魔導拳銃「イフリータ」で反撃を続ける。
来流未のおかげで他のハンターは一機ずつヴァルキリー2を相手にする事ができた。
だが――。
それは無謀な試みとも言えた。
何故なら、来流未はCAMや魔導アーマーにも乗らず、単身生身でヴァルキリー2と対峙していたからだ。
『危険だ、下がれ』
八重樫も来流未と通信する事ができれば、下がらせていただろう。
しかし、来流未はトランシーバーなどの通信機器を持っていない。
デュミナス内にいる八重樫とやり取りする事もままならない。
飛来する浮遊型狂気を回避する。
だが、浮遊型狂気は来流未の間近を通過する。
来流未にも分かっている。戦場で回避し続けるのは、終わらないダンスと同じ。
止まれば、そこで死が訪れる。
緊張感の中で来流未は舞い続ける他無い。
「それでも退けない。これで、仲間が助かるのなら……っ!」
既に来流未の疲労はピークに近づいていた。
先程、視界の中で仲間が火力を集中していたヴァルキリー2が倒れた。
おそらく一機を倒したのだろう。残る2機に仲間が攻撃を仕掛ければ、来流未に降り注ぐ弾丸の量も減る。
そう――思考していた。
そして、それが来流未の緊張感を解してしまう。
「……えっ!」
一瞬、浮遊型狂気の回避に遅れる。
塊が目の前を通り抜ける。同時に震える空気。
それは来流未の足を鈍らせるには十分過だった。
――しまった。
そう思った次の瞬間、来流未の体に突き刺さる浮遊型狂気。
浮遊型狂気は撃ち出された勢いのまま、来流未の体を後方へ吹き飛ばす。
瓦礫の山へ吹き飛ばされ、体を激しく打ち付ける。
「……うっ」
起き上がろうとするが、来流未の体に激しい痛みが走る。
戦場から少し離れた場所に飛ばされた来流未。
ぼやける視界の中で来流未が見た光景は、残るヴァルキリー2へ襲い掛かる仲間達の姿だった。
「これで、いい。敵の数が減れば……きっと、勝て……」
そこで来流未の意識は途絶える。
自分の働きが、決して無駄では無いと確信して――。
●
ハンターの尽力で、敵機は六地蔵交差点へ封じ込められていた。
だが、これは一時であっても『膠着状態』と見る事もできる。
ハンターからすれば時間の経過はリスクの増大。
ここは、大きな一手を打って戦況を一変させる必要がある。
そう考えたのだろうが、再び動き出したのはアウレールであった。
「指定ポイントに敵機集結を確認。
次弾、装填……撃てっ!」
戦況を変えたのはアウレールの21cm SkK17 ムスペルが放った火炎弾であった。
数発の炸裂弾を発射した後に、弾着修正指示。
そして距離を計算に入れた後、敵の真ん中に火炎弾を放り込んだのだ。
砲弾に込められた刻令術により周囲に火炎が発生。ヴァルキリー2への炎の手が伸びていく。
突然現れた炎にヴァルキリー2は、眼前の敵への対処に遅れる。
「八重樫、チャンスだ。一気に叩き込む」
「分かった。こちらも前に出る」
ジーナと八重樫が、炎に包まれるヴァルキリー2へ一気に間合いを詰める。
同時に御言も眼前に迫るヴァルキリー2へ反撃を試みる。
「その無礼な態度、我慢ならないな。出直すといい」
御言の魔導型デュミナスから放たれたエレクトリックショック。
電撃がヴァルキリー2へ襲い掛かり、ヴァルキリー2の体を痺れさせる。
ヴァルキリー2が地面に倒れる頃には、ジーナと八重樫の前に居た敵も地面で鉄塊と化していた。
「火炎弾のおかげで敵を浮き足立たせる事ができたか」
八重樫は、足下に転がるヴァルキリー2の残骸を前に呟いた。
戦況を読んで後方から砲撃支援したアウレールに賞賛の言葉を贈りたかったのだろう。
だが、当のアウレールは未だ戦いの手を緩めない。
「まだだ、ヴァルキリー1が残ってる。待たせたな、二人とも」
アウレールは、21cm SkK17 ムスペルへ前進指示を出す。
そう、まだ戦いは終わっていない。
研司と海斗が足止めしていたヴァルキリー1の存在が残っている。
2人はアウレール達がヴァルキリー2を攻撃している間、ヴァルキリー1の足止めに努めていた。単身で撃破できれば良いのだが、接近戦に特化した機体相手だ。油断をすれば近接用ナイフで自機を貫かれる恐れもある。さらに道沿いには瓦礫の山が積み上げられている事から、接近に持ち込まれると距離を取る事も簡単ではない。
その為、2人は絶妙な間合いで敵を相対していた。
「待ってたぜ。もうAIとのダンスも飽きてきたところだ」
「AIってぇのはこんなにしつこいのか? もう相手は勘弁してぇ」
短時間ではあったが、双方精神的な疲労は大きい。
その事が分かっているからこそ、アウレールは早急に2人の元へ急ぐ必要があった。
「頼む。2人の救援を」
「分かってる……いつまでも同じ手が通用すると思うなよ」
2人の救援に向かったのはジーナだった。
温存していた[SW]ハンドガン「トリニティ」で、海斗に迫るヴァルキリー1の背後からグレネード弾を叩き込む。
一瞬の間を置いて炸裂するグレネード弾。
ヴァルキリー1の背中へ炸裂した後、機体を前方へと突き押した。
『うおぉ? マジかよ……』
大きくバランスを崩すヴァルキリー1。
この瞬間を、海斗が逃すはずはない。
「いつかのお返し、だ。まあ、おまえは覚えてないだろうがな。
知りたかったら、『エンドレスのママ』に聞きやがれ」
海斗の構えた[SW]試作波動銃「アマテラス」は、マテリアルビームを発射。
ヴァルキリー1の背後にあった瓦礫をまとめて吹き飛ばす。
自爆する事すら許さない攻撃で、ヴァルキリー1は一気にダメージを増加。
ビームの射出が終わる頃には、ヴァルキリー1も糸の切れた人形のようにその場へと倒れ込んだ。
一方、残るヴァルキリー1には御言の魔導型デュミナスが照準を合わせていた。
「笑顔を見せ給え。それが……君の最後の笑顔だ」
御言は研司が離れた事を確認した後、[SW]量産型対VOIDミサイルを叩き込む。
発射されたミサイルが放物線を描きながらヴァルキリー1へと突き刺さり――爆発。
巨大な爆発が周囲の瓦礫を巻き込みながら、地上に大きな花を開く。
「確か、剣機系歪虚はしばしば自爆を狙っていたな。ならば、この敵が自爆しないとも限らない。最後まで手を抜かないのは……ある種の礼儀だ」
アウレールは21cm SkK17 ムスペルへ新たな指示を下す。
装填していたキャニスター弾が、68ポンド試作ゴーレム砲の砲身より飛び出した。
前方に降り注ぐ霰玉。ヴァルキリー1の全身に降り注ぎ、機体を貫いていく。
『くぅぅ、やってくれるねぇ。こりゃ、おじさんちょっとヤバいかな?』
「言ったろ、新型ぁ!! 旧型の底力を見せてやるって!
教えてやれ! パリィィスッ!!」
ヴァルキリー1の言葉を無視して、最高潮のテンションで叫ぶ研司。
無理もない、今までヴァルキリー2と戦う時間を稼ぐ為に牽制射撃。時に背後を向ける場合には威嚇射撃でヴァルキリー1の目を惹き続けていた。
それは研司にとって持久戦――我慢を強いられている戦いだった。
だが、それももうここで終わりだ。
仲間と合流した以上、我慢する必要は無い。
何より、アウレールの言う通り自爆に巻き込まれる気は、研司には一切なかった。
「行けぇぇぇぇぇ!!!」
距離を保って放たれる研司砲。
放たれた弾丸はヴァルキリー1の機体を砕き、その場へと倒れさせた。
研司の手に伝わる感触。
肩は呼吸で大きく揺れている。
「見事だ。これで下馬の迎撃作戦にも影響は無いだろう」
八重樫の一言で、ハンター達は胸を撫で下ろす。
この戦いは鎌倉クラスタ攻略から見れば小さな勝利かもしれない。
だが、この勝利は間違いなく連合軍の勝利に貢献しているはずだ。
●
『こちらエンドレス。量産型ヴァルキリーシリーズ、沈黙。敵戦力が大きく上回っていた模様』
『戦略と機体設計の再検討が必要』
『新たに六地蔵で採取した戦闘データを元に計画の一部を修正』
『修正……承認。以後、ヴァルキリーシリーズは本格的な量産体制へ移行する』
『計画修正。量産開始まで待機中……』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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対ヴァルキリー相談卓! 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/08/30 00:58:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/25 22:47:46 |