ゲスト
(ka0000)
【転臨】月下の破壊者 ~城塞都市防衛戦~
マスター:坂上テンゼン

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/23 19:00
- 完成日
- 2017/10/30 00:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●名も無き荒野
――月が強く輝く夜だった。
人気の一切無い荒野。ただ寂しく風だけが吹きぬけているこの場所に三つの人影があった。
ぬかずいているのはレッドバック(kz0217)。相手は、主君にして彼女の歪虚としての親とも言うべき存在、メフィストであった。
「メフィスト様。ごきげん麗しゅう……」
「レッドバック、何の用です。
たかが蟻塚一つ潰すのに助けなど要りません。それとも私の考えが解らぬとでも」
「ええ、存じております。決してあなた様の邪魔は致しませんとも」
「ならば何です?」
「戦いの後始末を、私にお任せくださいませ」
「ふっ……美味しい所をかっさらおうという気ですか。貴方らしい」
「ええ。研究がはかどればあなた様の御心に叶うことにも繋がると考えますれば」
「よくもそこまで遠慮も無く言えるものですね……よろしい。好きになさい」
「ありがたき幸せ……」
「数ある私の中でもこの私は破壊に特化している……しかし破壊の後の事は考えていません」
「御意」
メフィストが語った言葉は奇妙な響きではあったが、レッドバックは敢えて気にしなかった。このお方を自分の物差しで図ろうなど、愚かな試みだと思ったからだ。
メフィストは、レッドバックの返事を確認すると、別れも告げず飛び去った。
「我らも行くぞパダギエ」
「俺、完全に空気……」
三つ目の人影がぼやく。
仕方が無かった。
●城塞都市ハルトフォート
――月が強く輝く夜だった。
城塞都市ハルトフォート。イスルダからの王国の守りとして存在するこの都市は、イスルダ攻略戦でのメフィスト出現の報を受け、強い緊迫感に支配されていた。
地理的に考えれば、歪虚の反撃で最初に標的となるのは此処に違いない。
先のベリアルとの戦いでは勝利を収めたものの、今は王国は疲弊している。
人々は悲観的な想いを抱いて、この夜を過ごしていた。
城壁には篝火が焚かれ、守備兵達が警護にあたっていた。この城壁は眠らない。眠るわけにはいかなかった。
ある時――
守備兵の一人が、目を疑った。
信じがたいものが見えたからだ。
腕組みをして外套をはためかせている人影が、月の光を浴びて、夜空に浮かんでいた。
守備兵はすぐさま双眼鏡を覗き込む。
そして声をあげた。
「敵襲ーーーーーーーーーーーーッ!!!」
程なくして、
城壁に巨大な火の玉が炸裂した。
周辺は昼のような明るさになった。
最初にそれを発見した彼は、一瞬にして消し炭となってしまったが、彼がもたらした敵襲の報はすぐさまハルトフォート中に伝わり、すぐにでも戦力が集まるだろう。
しかし、王国にとって守備の要であるハルトフォートといえど、事は簡単に片付きそうにない。
消し炭となってしまった彼は、それの顔を見た。そして、すぐに敵だと解ったから報せたのだ。彼は、それが何者であるかを知っていた。
それが、メフィストであると。
――月が強く輝く夜だった。
人気の一切無い荒野。ただ寂しく風だけが吹きぬけているこの場所に三つの人影があった。
ぬかずいているのはレッドバック(kz0217)。相手は、主君にして彼女の歪虚としての親とも言うべき存在、メフィストであった。
「メフィスト様。ごきげん麗しゅう……」
「レッドバック、何の用です。
たかが蟻塚一つ潰すのに助けなど要りません。それとも私の考えが解らぬとでも」
「ええ、存じております。決してあなた様の邪魔は致しませんとも」
「ならば何です?」
「戦いの後始末を、私にお任せくださいませ」
「ふっ……美味しい所をかっさらおうという気ですか。貴方らしい」
「ええ。研究がはかどればあなた様の御心に叶うことにも繋がると考えますれば」
「よくもそこまで遠慮も無く言えるものですね……よろしい。好きになさい」
「ありがたき幸せ……」
「数ある私の中でもこの私は破壊に特化している……しかし破壊の後の事は考えていません」
「御意」
メフィストが語った言葉は奇妙な響きではあったが、レッドバックは敢えて気にしなかった。このお方を自分の物差しで図ろうなど、愚かな試みだと思ったからだ。
メフィストは、レッドバックの返事を確認すると、別れも告げず飛び去った。
「我らも行くぞパダギエ」
「俺、完全に空気……」
三つ目の人影がぼやく。
仕方が無かった。
●城塞都市ハルトフォート
――月が強く輝く夜だった。
城塞都市ハルトフォート。イスルダからの王国の守りとして存在するこの都市は、イスルダ攻略戦でのメフィスト出現の報を受け、強い緊迫感に支配されていた。
地理的に考えれば、歪虚の反撃で最初に標的となるのは此処に違いない。
先のベリアルとの戦いでは勝利を収めたものの、今は王国は疲弊している。
人々は悲観的な想いを抱いて、この夜を過ごしていた。
城壁には篝火が焚かれ、守備兵達が警護にあたっていた。この城壁は眠らない。眠るわけにはいかなかった。
ある時――
守備兵の一人が、目を疑った。
信じがたいものが見えたからだ。
腕組みをして外套をはためかせている人影が、月の光を浴びて、夜空に浮かんでいた。
守備兵はすぐさま双眼鏡を覗き込む。
そして声をあげた。
「敵襲ーーーーーーーーーーーーッ!!!」
程なくして、
城壁に巨大な火の玉が炸裂した。
周辺は昼のような明るさになった。
最初にそれを発見した彼は、一瞬にして消し炭となってしまったが、彼がもたらした敵襲の報はすぐさまハルトフォート中に伝わり、すぐにでも戦力が集まるだろう。
しかし、王国にとって守備の要であるハルトフォートといえど、事は簡単に片付きそうにない。
消し炭となってしまった彼は、それの顔を見た。そして、すぐに敵だと解ったから報せたのだ。彼は、それが何者であるかを知っていた。
それが、メフィストであると。
リプレイ本文
●抵抗の始まり
メフィストの両掌の火球が精製される。それが齎す光のせいで、さながら昼のように明るい。メフィストの目が赤く暴力的な光を湛え、口元は嗜虐的に歪んだ。そして今まさに第二撃を放たんとした、その瞬間――
城壁から真っ直ぐに飛んだ矢が、メフィストに直撃した。
矢はまるで生きているかのように自ら離れた。そして別の角度から回り込んで再び突進した。
マテリアルによって操作される矢、その威力は空に覇を唱える強欲の龍ですら穿つだろう。メフィストは火球の生成を一瞬止めた。しかしながら流石は上級歪虚、その矢は突き刺さらず、傷一つ与えないままその場で朽ち果てた。
矢を放った八原 篝(ka3104)はすぐさま次の矢を番える。
光の力を帯びた矢だ。一射で足らずとも、有効ではあるはずだった。
メフィストはすぐに体勢を直し、再び火球の生成に入ろうとする。
だが、攻撃はそれで終わりではなかった。
地上ではカーミン・S・フィールズ(ka1559)、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、そして仁川 リア(ka3483)の駆る魔導アーマー「超重螺旋スピニオン」、沙織(ka5977)の駆るCAM「エーデルワイス弐式」、エラの砲戦ゴーレム「七竈」が一斉に攻撃態勢に入っている。それぞれが離れ、多方向からメフィストを射撃する構えだ。
カーミンが矢を放つ。同時に番えた矢二本を一気に撃つダブルシューティング。
続け様に沙織がエーデルワイス弐式の前面に力場を形成し、デルタレイを撃つ。
リアが乗機の右腕に固定されたガトリングガンを発射。
エラは収束されたマテリアルの光をデバイスより放つ。
ついには斬撃までが飛んだ。――ハンスの次元斬だ。
地上からメフィストめがけて一斉に射撃が集中される。最初の一撃で警戒を高めていたメフィストは、これらを避けてみせた。しかし、一つ捌くごとに体勢は崩れていく。
砲弾が直撃し、霞玉を派手に撒き散らした。七竈の撃った炸裂弾が命中したのだ。
夜のハルトフォートに閃光が走る。
それが止むと同時に――
メフィストは高速で飛来するものを認めた。
間一髪で避ける。
それは通り過ぎ、離れてから月明かりの下に雄大な翼を広げた。ワイバーン、戦友に付けられた名は「カートゥル」。そして、剣を携えその背に乗る者の名は、鞍馬 真(ka5819)。
それに目を向けたメフィストはその瞬間――爆炎に包まれた。
別方向より飛来するグリフォン、名は「オーデム」。その背に跨がるヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)が火球を放ったのだ。
一斉に加えられる、ハンター達の猛攻……
しかしながら、爆炎が止んだ時、メフィストは――火球の生成を中断しながらも――傲岸不遜な佇まいで空中に浮かび、人間達を文字通り見下していた。
●地を見下ろすもの
瞬時に巨大な火球が形成された。メフィスト程ともなれば霧散したマテリアルを再収束するなど造作もないことだった。それは無造作に放り投げられる。
城壁に炸裂し、守備兵の何人かが吹き飛んだ。爆音は勿論、離れた所にいても空気の振動を感じる。
「怯むな! 迎撃せよ!」
指揮官の号が飛ぶ。流石はハルトフォート守備兵、打撃を受けながらも迎撃体制を整え、射撃を開始していた。
負傷して動けない兵士の1人にグリフォンが飛来し、前脚で掴んだ。
このグリフォンはカーミンの相棒である。
カーミンは相棒に負傷兵の救護を「お願い」していた。外敵に対しては激しく抵抗するグリフォンだが、彼女の意志を尊重しその通りに行動している。
「た……頼む……」
負傷兵は右腕を力なく動かし、グリフォンの前脚に触れて訴えた。
「俺を奴の所に! 奴に一太刀浴びせてやりたい……頼む!」
震える指で上空のメフィストを指差していた。
だがグリフォンは優しく負傷兵を掴み、城壁の内側にある救護所へと飛んだ。救護所の前で優しく寝かせ、離れる。
「待ってくれ! ……俺を奴の所へ!」
絞り出すような声で負傷兵は訴える。
グリフォンはその声に振り返るが、救護兵が彼の元に来るのを見届けると、飛び去った。
負傷兵は睨みつけるように月を見上げ、
――腕を伸ばした。
救護所には早くも負傷兵が運び始められていた。
そんな中にユグディラが一体いる。
これはハンスの相棒ムジークカッツェである。かれはリュートで怪我人を癒すことを目的としてハンスから派遣されていた。怪我人達を見守るという役割も兼ねて通信機も持たされている。
かれには重体となった兵を戦線復帰させられるだけの能力はなかった。それでも負傷兵達の心の慰めにはなったし、なにより、生死の境をさまよった兵士をこの世に止まらせる助けともなった。
――狙いを定め、
――矢を放つ。
「訓練用の的でも瓦礫でもなんでもいいわ、並べられる?」
カーミンは矢が当たったのかどうか確かめることもせずに傍らの兵士に呼びかける。
「前に敵がいるのに、でありますか?!」
これに対し兵士は戸惑った。急な敵の襲来があっても彼等は訓練通り動けるが、急な提案に応えられる余裕があるものばかりではなかった。
頭上から攻撃してくる敵に対しては屋根が必要となる。あったらあったで此方の攻撃を妨げることにもなる。
それでも一生懸命考えた兵士だったが――
次の瞬間、彼は闇の広がりに飲まれていた。
カーミンは息を飲んだ。彼女のせいではない。
頭上からの魔法攻撃に対応できる術はもとより多くない。一介の守備兵には体を張るくらいしかできないのだ。
だからこそ、攻勢にでるしかない。
沙織のエーデルワイス弐式は城壁から降り、アクティブスラスターを点火して着地、そのまま前進する。
攻撃できる角度は多い方が良い。その位置でミサイルランチャーを掲げる。
無骨な金属塊が月光を反射した。
「こちら沙織、目的ポイントに到達」
「――了解」
エラが無線に短く応じた。
「撃ち方用意!」
「……これより三秒後に射撃を開始」
指揮官の号令を受けエラが告げる。無線機を通じて仲間全員に聞こえるようになっている。
放て、の号令と共に守備兵達が矢を射る。エラも合わせて機導砲を発射、同じくハンター達も対空攻撃を行う。
彼女のお陰で攻撃のタイミングが全員が共有でき、守備兵・ハンター間での連携が可能になった。
それは空で戦う仲間にも有意義だった。
カートゥルに乗った真は対空射撃のタイミングに離れ、止んだ時を見計らって接近し、斬りつける。
ヴィルマは真と対空射撃の僅かな間を埋めるように魔法攻撃を行う。範囲魔法であれば回避も容易ではない。
一斉に飛んでくる矢、砲火、その他遠距離攻撃。そして合間を縫って斬りつけてくる飛行する敵……
さしものメフィストも少しばかり鬱陶しいと感じた。
「よろしい、少々演出が過ぎますが余興と参りましょう」
誰にともなく――或いは全員に――
メフィストは告げた。
「天にあって他を見下ろすは我一人……
遍くものよ我に平伏せ!
マイルフィック・サンダー
《天に吼える、悪を成すもの》」
閃光。空が、割れた。
メフィストの掌から三条の雷光が発されたのである。真、エーデルワイス、七竈がその被害を被った。
「くっ……何という威力……
だが、これでやっと……こちらを敵と見なしてくれたか」
熱と感電を受けながらも真は空中で体勢を立て直す。
「この状況で不謹慎かもしれないが……腕が鳴るな、カートゥル」
相方に呼びかける。カートゥルは高い声をあげて応えた。
沙織と七竈も体勢を立て直し、対空射撃の構えに入った。
空気が変わった――
マシン越しでもそれを感じる。
「流石に王国を沈めかけた歪虚というだけはあるよね、だからこそこっちも本気で穿つ!」
リアもそれは同じだ。だからこそ叫んだ。
こういう機械に乗ったからには叫ぶのだ。
魂の叫びを!
「スピニオォォォォォォン!」
グギョァオン! ガシィィン!
機体は応えるように重厚な音を立てて動く。
尾部スタビライザーが降りたのである。
「行くよ必殺! スピニングバラージ!!」
そして安定した状態からガトリングガンを射撃する。勿論一斉射撃のタイミングには合わせている。
回転とともに連続的な音をあげ発射される無数の弾丸がメフィストを穿った。
――着弾はしているようだった。衝撃に振動しているようでもある。しかし相も変わらず空中に浮いているのを見ると、効いているのかどうかは解り辛い。
「ドリルさえ……ドリルさえ使えれば!」
心底、残念そうに口にするリア。
(空が飛べれば、ではなく?)
エラは思う。通信は繋がりっ放しである。
少しでも効果を求めて桜幕符を使う。
だがやはり実力差があるのか、はっきりと効果が現れているようには見えない。
「それでも、撃ち続けるしかない――」
篝は矢をつがえては撃ち続けた。
ハウンドバレット、ダブルシューティング、クイックリロードを併用、猟撃士としての技と力を駆使して攻撃を仕掛ける。
「効いていないはずはない。
落とすまで撃つ――根比べよ」
飛行して斬りつけてくる真とカートゥルはメフィストにとって最も目障りだった。それ故に真は一番、メフィストから狙われた。
これは真自身も望むところであった。城壁や兵士への被害を肩代わりする心算があった。
それでもメフィストは敢えて時々火や闇の魔法で城壁の守備兵達を狙った。挑発的な意味があったのだろう。
真の方も、ただ攻撃されるがままではない。
ワイバーンによる高速飛行、離脱と接近を繰り返し、攻撃のタイミングを読んでのバレルロールで何度かメフィストの雷撃をかわして見せた。滑るように飛行し、上昇、降下、回転と、その動きは千変万化。
さらに騎乗する真もカートゥルと心を一つにし、精神を統一しての刺突でメフィストに打撃を与えていく。
相棒と共に強敵と戦う……真はこの状況に高揚していた。
さらには絶妙のタイミングで援護を行うヴィルマもいる。空中にいるからこそ連携もし易い。
だが、そのまま押し切れるほどに甘い相手ではない。
何度目かの雷撃を喰らい、一瞬カートゥルの翼が止まった。
少しの間落下したものの、何とか持ち直す。しかし飛行の力強さが目に見えて落ちているのが真には解った。
「カートゥル、無理はするな!」
飛べなくなる前に撤退すべきだ。真自体のダメージも相当に蓄積されている。真はカートゥルを撤退させようとする。
「遅い」
「くっ……」
メフィストの射程は長い。逃げ切れる前に敵の術は完成する。
「させぬ!」
ヴィルマが魔杖を振るった。
一瞬の内に白き氷霧が広がりメフィストを包む。さらに敵の魔法にカウンターマジックで合わせる。
しかし。
「無駄です」
ヴィルマの術であってもメフィストの行動を妨げるには至らなかった。
カートゥルはあと一撃喰らえば飛行を維持できるかわからない。
地面に墜落すればただでは済まない……空中戦の恐ろしい所だ。
だが、その時。
メフィストの頭上から飛来したグリフォンが爪による攻撃を行い、メフィストの狙いを狂わせた。
「遅くなってごめん!」
「カーミン君! すまない……」
「さあ! 行って!」
真の前には、グリフォンに騎乗したカーミンの姿があった。
●共有されるもの
言葉を解さない自分ではあるが、彼の気持ちは解る。
自分の住処を脅かす敵を前にしながら、それを排除するだけの力がない。
さぞかし無念であっただろう……。
この翼は、彼の無念をも運ぶだろう。
主もそれを望んでいるはずだ。
自分に名前を付けることを拒むほどに、愛深き主ならば。
今現在も、幾人かの想いを背負って立っているはずだ。
だから自分は飛ぶ。
主と、主の仲間達の外敵を排除するために。
……グリフォンの爪がメフィストを攻める。攻撃が終われば即離れ、カーミンが矢を射る。真に変わって空中へと舞い上がったカーミンとグリフォンのコンビはメフィストに猛攻を加えた。
「我を忘れてもらっては困るな……」
霧の魔女ヴィルマは箒ならぬオーデムに跨がり、自由な角度から魔法攻撃を仕掛けていく。
「派手さなら我も負けておらぬ。存分にその身で味わうがよい」
ファイアボール、アイスボルト、氷霧……魔術師としての力を尽くし、メフィストに打撃を与えていく。
「……とはいえ、見せつけてくれる!」
破壊力という意味ではすでに我が身で何度か味わっている。負けるつもりはさらさらなかったが。
激戦が続く一方で、ハンター達のうち何人かはメフィスト以外の敵の存在に注意していた。
篝はメフィスト襲来の報を聞くや否や、現場指揮官に不審者が戦場に紛れ込んでいないか確認するよう進言していた。
それもあって、守備兵の一人が不審な――所属不明の存在に気づくことができた。
「何奴ーーーッ!」
それに反応したのはハンスだった。ハンスは城壁の上から次元斬でメフィストを攻撃していたが、彼の研ぎ澄まされた神経は激戦の中にあってもその声を聞きわけることができた。
ハンスは風のように直行した。
――そこには、確かに不審な人物がいた。
闇に溶けるような黒い衣服。背中から見ることができれば、浮かび上がるように赤い菱形の模様が目に入るだろう。
「裸足のレッドバック……」
ハンスが口にしたものが、そのものの名であった。
傍には負傷した兵士が倒れている。
「裸足の理由は、それですか」
レッドバックは靴をはいていなかった。
城壁の外側に両手足をつけ、張り付いていたのである。
「私とて伊達や酔狂だけでレッドバックと名乗っているわけではない」
レッドバックとはもともと蜘蛛の一種の名前である。この歪虚は蜘蛛のように両手足から糸を出し、壁に張り付いていたのだ。
「もっとも、創意工夫による後天的なものだがね」
「何をしたのです?」
「何かをする前に君らが邪魔したのだろう?」
返答し終えるまでにハンスが次元斬を放った。
レッドバックは手足を開いて落ちることで、次元斬の範囲から逃れる。
そして夜の闇の中へと落ちて行った。
……地面に達する前に何かが飛んできて、レッドバックを掴んだ。
「メフィスト様にバレては殺されるのでね。これで失礼するよ」
下の方から大声でそう言ってくるのが聞こえた。
「メフィストが勝つ前提で行動していますね……」
残されたハンスは一人ごつ。すぐさま逃げ去った理由として思いつくものはそれだ。
「ハンター殿、彼は私が!」
レッドバックを発見した兵士がハンスに言った。負傷兵のことだ。
「頼みましたよ」
ハンスは兵士に後を託すと、通信機に向けて言った。
「ムジークカッツェ、これから負傷兵が運び込まれます。注意して下さい、レッドバックが接触していた可能性があります」
「ニャ」
無線機の向こうで、ムジークカッツェが短く鳴いた。
城壁の外側で何かが飛来してきたのを感知した沙織だったが、すぐ飛び去ったので追うのは止めた。
――それどころではない。
メフィストから何度も何度も雷が発され、城壁や空で戦う仲間に落ちている光景が沙織の場所からよく見えた。
まるで嵐だ。
荒れ狂う自然現象のような敵に、どう立ち向かえというのか。
(こういう時は……)
軍人出身である沙織は知っていた。
大きな力を得るためには、多くの人数が集まって協力し合う他無い。
混沌を撒き散らす敵を相手に……
自分達は秩序立てられてあるべきなのだと。
(そうだ……私達は団結している)
(ならば勝てる!)
「皆さん、聞こえますか。辛いときこそ、基本に忠実に。訓練通りやればいいのです。その代わり、徹底してやってください。敵は集団ではありません。だから勝てます!」
「……だそうよ」
守備兵に無線は伝わっていないので、代わりにエラが周辺の守備兵に対して大声で伝えた。どう聞いても兵士に向けたメッセージだったからだ。
「「「はいッ!」」」
周辺の守備兵が返答する。
「撃ち方用意ッ! …………撃てーッ!」
指揮官が対空射撃のタイミングを告げる。
その時地上から紫の光柱が伸び、メフィストを飲み込んだ。
エーデルワイス弐式のマテリアルライフルである。
その天を貫くような威容は、城壁で戦う者達に勇気を与えた。
(そう、私達は通信手段を共有している。
それはお互いの能力を信頼しているからだ)
エラは思う。今ここにいるハンター達の中には連絡を通じ合って損になる人材などいない。
(援軍の存在を危惧したが未だに何も来ていない。となれば……この敵はたった一人で私達全員を倒せるつもりだったのだ)
(私達が、ただ数が多いだけ……であったならば、なるほど全滅させられたかもしれないな)
(だが私達は幾度も協力しあって歪虚の侵略を退けてきた。
私達は連携するということを知っている。
それが、歪虚同士でいがみ合っている者に……
どうして負けるだろう?)
「……負けるはずはない!」
その時、リアは叫んだ。
「なぜならメフィスト! 君は倒すべき敵だからだ!
ハンターは倒すと決めた敵は必ず倒す!
例外なんてないッ!」
昔は敵を逃がしたこともあったけれど、その敵も追い続けて探し出し、ついには決着をつけたリアである。
「絆の力が、君達を駆逐する……!」
「なんか乱暴な理論だけど……おおむね同感よ! 状況がこんなだし」
篝は矢をつがえた。何度目になるだろう。
十分な矢玉を準備しつつもそろそろ在庫を気にしなければならないだろうか。
そんなことよりも……
「そろそろ落ちなさいっての!」
その双眸は鬼火のように光っていた。
篝の想いが通じたのか――
メフィストは突如として空中で動きを止めた。
「それで終わり?」
「――ならば夜の闇に溶け落ちよ。それが似合いじゃてのう」
カーミンとヴィルマは、一斉に攻撃した。
破魔の矢が、氷の矢がメフィストの体を貫いた。
メフィストは二人の方を見ていない。消滅の兆候も示さない。
その代わり、地獄を思わせる紅蓮に全身が染まった。
「! いかん! 城壁から避難せよ!」
ヴィルマは無線機に告げる。
メフィストは、二人に目もくれず城壁へと飛んだ。
「させるかあああああ!」
「間に合って!」
リアがガトリングを乱射し、沙織がマテリアルライフルを発射する。
「添え物にしかならないとは思いますが……!」
「これが最後の一射よ、どうとでもなって!」
ハンス、篝も渾身の矢をメフィストに向けて撃つ。
「特攻とは……! しかし!」
エラは機導砲でありったけのマテリアルを込めて放つ。同時に七竈にも砲弾を発射させる。
一瞬に強大なエネルギーがぶつかり合う。
マテリアルを限界までその身に蓄えたメフィストは……
その器が衝撃に耐えられず、
空中にて、爆発四散した。
もはや夜であることを忘れるくらい明るかったハルトフォート上空で、今夜最も明るい光が広がった。
●史上、最も明るい夜を越えて
「まったく最後に憤怒の真似事とは……」
ハンスは虚空に向けて呟く。
たった今までメフィストがそこにいたのだ。
今は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。空は何事もなかったかのように月が浮かんでいるだけで、後は闇夜が広がっていた。
「一瞬の美学も、やりすぎると傍迷惑ですね」
なおムジークカッツェからの連絡はなかった。運び込まれた負傷兵も今は何事もなく治療を受けている。
ハンター達は戦いの後も、休まずに都市内の警戒に当たった。メフィストの侵攻の間に、都市内に何か工作されたことを危惧したからだ……。
「――でも、何もなかったと」
探し終わったころには完全に夜が明けていた。
ハンター達は負傷の重い真を除き、守備兵の何人かも交えて、兵舎に集まっていた。
「住人が歪虚化したり小型の歪虚が潜み込んだり盗聴器や爆発物の類が仕掛けられたりもしていないなんて」
篝は一息でまくしたててから突っ伏した。
「……はい。しかし、そもそもそれは意味があるのでしょうか」
守備兵が遠慮がちに問う。
「何でよ。単騎で突っ込んで来たところで城塞都市を完全に潰すなんて出来ないでしょう普通」
「いえ、そんな回りくどい事をしたところで混乱するだけです。順序が逆ではないかと」
「内部から混乱させるのなら攻撃する前にしていると?」
「はい」
エラの問いに守備兵は応える。
「では街一つ吹き飛ばせる爆弾が仕掛けられた場合は?」
「その場合は、メフィストが来る理由がありません」
「仕掛ける隙を作るための陽動ということはありえんのかの」
今度はヴィルマが問う。
「こうやって警戒されてる時点で陽動の意味がないと思いますが……
自分なら、音もなく忍び込んで、誰も気づかない内に起爆させる」
「ハルトフォートに? 侵入できるのかの?」
「自分がメフィストだったらという意味です」
「それじゃメフィストはわざわざ時間をかけて抵抗をすべて叩き伏せて勝利しようって考えだったの?」
篝は再び突っ伏した。
これには肯定するものはいなかった。
「……傲慢ですね」
ただ、沙織が言い表した。
「傲慢っていうか」
篝が首だけを沙織に向けて応える。
傲慢っていうか……この後に続けられる言葉は色々とあるだろう。
「でも、出来る可能性はあったんじゃないかな」
この発言はリアだ。
確かに、エラの的確な指示と、それを実行するハンター達の賢明さがなければ。
ハンター達が注意を惹いている間、休みなく攻撃し続けた守備兵達の奮戦がなければ。
真とカートゥルの猛攻がなければ。
ハルトフォートの戦力は、全滅していたかもしれない。
「――或いは、この戦い自体が」
ハンスが重々しく言う。まるでこれから言うことが外れであってほしいというように。
「何かの布石……であるのかもしれませんね」
ハルトフォートの被害は軽くはない。
それでも、戦いは続いていく――
メフィストの両掌の火球が精製される。それが齎す光のせいで、さながら昼のように明るい。メフィストの目が赤く暴力的な光を湛え、口元は嗜虐的に歪んだ。そして今まさに第二撃を放たんとした、その瞬間――
城壁から真っ直ぐに飛んだ矢が、メフィストに直撃した。
矢はまるで生きているかのように自ら離れた。そして別の角度から回り込んで再び突進した。
マテリアルによって操作される矢、その威力は空に覇を唱える強欲の龍ですら穿つだろう。メフィストは火球の生成を一瞬止めた。しかしながら流石は上級歪虚、その矢は突き刺さらず、傷一つ与えないままその場で朽ち果てた。
矢を放った八原 篝(ka3104)はすぐさま次の矢を番える。
光の力を帯びた矢だ。一射で足らずとも、有効ではあるはずだった。
メフィストはすぐに体勢を直し、再び火球の生成に入ろうとする。
だが、攻撃はそれで終わりではなかった。
地上ではカーミン・S・フィールズ(ka1559)、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、そして仁川 リア(ka3483)の駆る魔導アーマー「超重螺旋スピニオン」、沙織(ka5977)の駆るCAM「エーデルワイス弐式」、エラの砲戦ゴーレム「七竈」が一斉に攻撃態勢に入っている。それぞれが離れ、多方向からメフィストを射撃する構えだ。
カーミンが矢を放つ。同時に番えた矢二本を一気に撃つダブルシューティング。
続け様に沙織がエーデルワイス弐式の前面に力場を形成し、デルタレイを撃つ。
リアが乗機の右腕に固定されたガトリングガンを発射。
エラは収束されたマテリアルの光をデバイスより放つ。
ついには斬撃までが飛んだ。――ハンスの次元斬だ。
地上からメフィストめがけて一斉に射撃が集中される。最初の一撃で警戒を高めていたメフィストは、これらを避けてみせた。しかし、一つ捌くごとに体勢は崩れていく。
砲弾が直撃し、霞玉を派手に撒き散らした。七竈の撃った炸裂弾が命中したのだ。
夜のハルトフォートに閃光が走る。
それが止むと同時に――
メフィストは高速で飛来するものを認めた。
間一髪で避ける。
それは通り過ぎ、離れてから月明かりの下に雄大な翼を広げた。ワイバーン、戦友に付けられた名は「カートゥル」。そして、剣を携えその背に乗る者の名は、鞍馬 真(ka5819)。
それに目を向けたメフィストはその瞬間――爆炎に包まれた。
別方向より飛来するグリフォン、名は「オーデム」。その背に跨がるヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)が火球を放ったのだ。
一斉に加えられる、ハンター達の猛攻……
しかしながら、爆炎が止んだ時、メフィストは――火球の生成を中断しながらも――傲岸不遜な佇まいで空中に浮かび、人間達を文字通り見下していた。
●地を見下ろすもの
瞬時に巨大な火球が形成された。メフィスト程ともなれば霧散したマテリアルを再収束するなど造作もないことだった。それは無造作に放り投げられる。
城壁に炸裂し、守備兵の何人かが吹き飛んだ。爆音は勿論、離れた所にいても空気の振動を感じる。
「怯むな! 迎撃せよ!」
指揮官の号が飛ぶ。流石はハルトフォート守備兵、打撃を受けながらも迎撃体制を整え、射撃を開始していた。
負傷して動けない兵士の1人にグリフォンが飛来し、前脚で掴んだ。
このグリフォンはカーミンの相棒である。
カーミンは相棒に負傷兵の救護を「お願い」していた。外敵に対しては激しく抵抗するグリフォンだが、彼女の意志を尊重しその通りに行動している。
「た……頼む……」
負傷兵は右腕を力なく動かし、グリフォンの前脚に触れて訴えた。
「俺を奴の所に! 奴に一太刀浴びせてやりたい……頼む!」
震える指で上空のメフィストを指差していた。
だがグリフォンは優しく負傷兵を掴み、城壁の内側にある救護所へと飛んだ。救護所の前で優しく寝かせ、離れる。
「待ってくれ! ……俺を奴の所へ!」
絞り出すような声で負傷兵は訴える。
グリフォンはその声に振り返るが、救護兵が彼の元に来るのを見届けると、飛び去った。
負傷兵は睨みつけるように月を見上げ、
――腕を伸ばした。
救護所には早くも負傷兵が運び始められていた。
そんな中にユグディラが一体いる。
これはハンスの相棒ムジークカッツェである。かれはリュートで怪我人を癒すことを目的としてハンスから派遣されていた。怪我人達を見守るという役割も兼ねて通信機も持たされている。
かれには重体となった兵を戦線復帰させられるだけの能力はなかった。それでも負傷兵達の心の慰めにはなったし、なにより、生死の境をさまよった兵士をこの世に止まらせる助けともなった。
――狙いを定め、
――矢を放つ。
「訓練用の的でも瓦礫でもなんでもいいわ、並べられる?」
カーミンは矢が当たったのかどうか確かめることもせずに傍らの兵士に呼びかける。
「前に敵がいるのに、でありますか?!」
これに対し兵士は戸惑った。急な敵の襲来があっても彼等は訓練通り動けるが、急な提案に応えられる余裕があるものばかりではなかった。
頭上から攻撃してくる敵に対しては屋根が必要となる。あったらあったで此方の攻撃を妨げることにもなる。
それでも一生懸命考えた兵士だったが――
次の瞬間、彼は闇の広がりに飲まれていた。
カーミンは息を飲んだ。彼女のせいではない。
頭上からの魔法攻撃に対応できる術はもとより多くない。一介の守備兵には体を張るくらいしかできないのだ。
だからこそ、攻勢にでるしかない。
沙織のエーデルワイス弐式は城壁から降り、アクティブスラスターを点火して着地、そのまま前進する。
攻撃できる角度は多い方が良い。その位置でミサイルランチャーを掲げる。
無骨な金属塊が月光を反射した。
「こちら沙織、目的ポイントに到達」
「――了解」
エラが無線に短く応じた。
「撃ち方用意!」
「……これより三秒後に射撃を開始」
指揮官の号令を受けエラが告げる。無線機を通じて仲間全員に聞こえるようになっている。
放て、の号令と共に守備兵達が矢を射る。エラも合わせて機導砲を発射、同じくハンター達も対空攻撃を行う。
彼女のお陰で攻撃のタイミングが全員が共有でき、守備兵・ハンター間での連携が可能になった。
それは空で戦う仲間にも有意義だった。
カートゥルに乗った真は対空射撃のタイミングに離れ、止んだ時を見計らって接近し、斬りつける。
ヴィルマは真と対空射撃の僅かな間を埋めるように魔法攻撃を行う。範囲魔法であれば回避も容易ではない。
一斉に飛んでくる矢、砲火、その他遠距離攻撃。そして合間を縫って斬りつけてくる飛行する敵……
さしものメフィストも少しばかり鬱陶しいと感じた。
「よろしい、少々演出が過ぎますが余興と参りましょう」
誰にともなく――或いは全員に――
メフィストは告げた。
「天にあって他を見下ろすは我一人……
遍くものよ我に平伏せ!
マイルフィック・サンダー
《天に吼える、悪を成すもの》」
閃光。空が、割れた。
メフィストの掌から三条の雷光が発されたのである。真、エーデルワイス、七竈がその被害を被った。
「くっ……何という威力……
だが、これでやっと……こちらを敵と見なしてくれたか」
熱と感電を受けながらも真は空中で体勢を立て直す。
「この状況で不謹慎かもしれないが……腕が鳴るな、カートゥル」
相方に呼びかける。カートゥルは高い声をあげて応えた。
沙織と七竈も体勢を立て直し、対空射撃の構えに入った。
空気が変わった――
マシン越しでもそれを感じる。
「流石に王国を沈めかけた歪虚というだけはあるよね、だからこそこっちも本気で穿つ!」
リアもそれは同じだ。だからこそ叫んだ。
こういう機械に乗ったからには叫ぶのだ。
魂の叫びを!
「スピニオォォォォォォン!」
グギョァオン! ガシィィン!
機体は応えるように重厚な音を立てて動く。
尾部スタビライザーが降りたのである。
「行くよ必殺! スピニングバラージ!!」
そして安定した状態からガトリングガンを射撃する。勿論一斉射撃のタイミングには合わせている。
回転とともに連続的な音をあげ発射される無数の弾丸がメフィストを穿った。
――着弾はしているようだった。衝撃に振動しているようでもある。しかし相も変わらず空中に浮いているのを見ると、効いているのかどうかは解り辛い。
「ドリルさえ……ドリルさえ使えれば!」
心底、残念そうに口にするリア。
(空が飛べれば、ではなく?)
エラは思う。通信は繋がりっ放しである。
少しでも効果を求めて桜幕符を使う。
だがやはり実力差があるのか、はっきりと効果が現れているようには見えない。
「それでも、撃ち続けるしかない――」
篝は矢をつがえては撃ち続けた。
ハウンドバレット、ダブルシューティング、クイックリロードを併用、猟撃士としての技と力を駆使して攻撃を仕掛ける。
「効いていないはずはない。
落とすまで撃つ――根比べよ」
飛行して斬りつけてくる真とカートゥルはメフィストにとって最も目障りだった。それ故に真は一番、メフィストから狙われた。
これは真自身も望むところであった。城壁や兵士への被害を肩代わりする心算があった。
それでもメフィストは敢えて時々火や闇の魔法で城壁の守備兵達を狙った。挑発的な意味があったのだろう。
真の方も、ただ攻撃されるがままではない。
ワイバーンによる高速飛行、離脱と接近を繰り返し、攻撃のタイミングを読んでのバレルロールで何度かメフィストの雷撃をかわして見せた。滑るように飛行し、上昇、降下、回転と、その動きは千変万化。
さらに騎乗する真もカートゥルと心を一つにし、精神を統一しての刺突でメフィストに打撃を与えていく。
相棒と共に強敵と戦う……真はこの状況に高揚していた。
さらには絶妙のタイミングで援護を行うヴィルマもいる。空中にいるからこそ連携もし易い。
だが、そのまま押し切れるほどに甘い相手ではない。
何度目かの雷撃を喰らい、一瞬カートゥルの翼が止まった。
少しの間落下したものの、何とか持ち直す。しかし飛行の力強さが目に見えて落ちているのが真には解った。
「カートゥル、無理はするな!」
飛べなくなる前に撤退すべきだ。真自体のダメージも相当に蓄積されている。真はカートゥルを撤退させようとする。
「遅い」
「くっ……」
メフィストの射程は長い。逃げ切れる前に敵の術は完成する。
「させぬ!」
ヴィルマが魔杖を振るった。
一瞬の内に白き氷霧が広がりメフィストを包む。さらに敵の魔法にカウンターマジックで合わせる。
しかし。
「無駄です」
ヴィルマの術であってもメフィストの行動を妨げるには至らなかった。
カートゥルはあと一撃喰らえば飛行を維持できるかわからない。
地面に墜落すればただでは済まない……空中戦の恐ろしい所だ。
だが、その時。
メフィストの頭上から飛来したグリフォンが爪による攻撃を行い、メフィストの狙いを狂わせた。
「遅くなってごめん!」
「カーミン君! すまない……」
「さあ! 行って!」
真の前には、グリフォンに騎乗したカーミンの姿があった。
●共有されるもの
言葉を解さない自分ではあるが、彼の気持ちは解る。
自分の住処を脅かす敵を前にしながら、それを排除するだけの力がない。
さぞかし無念であっただろう……。
この翼は、彼の無念をも運ぶだろう。
主もそれを望んでいるはずだ。
自分に名前を付けることを拒むほどに、愛深き主ならば。
今現在も、幾人かの想いを背負って立っているはずだ。
だから自分は飛ぶ。
主と、主の仲間達の外敵を排除するために。
……グリフォンの爪がメフィストを攻める。攻撃が終われば即離れ、カーミンが矢を射る。真に変わって空中へと舞い上がったカーミンとグリフォンのコンビはメフィストに猛攻を加えた。
「我を忘れてもらっては困るな……」
霧の魔女ヴィルマは箒ならぬオーデムに跨がり、自由な角度から魔法攻撃を仕掛けていく。
「派手さなら我も負けておらぬ。存分にその身で味わうがよい」
ファイアボール、アイスボルト、氷霧……魔術師としての力を尽くし、メフィストに打撃を与えていく。
「……とはいえ、見せつけてくれる!」
破壊力という意味ではすでに我が身で何度か味わっている。負けるつもりはさらさらなかったが。
激戦が続く一方で、ハンター達のうち何人かはメフィスト以外の敵の存在に注意していた。
篝はメフィスト襲来の報を聞くや否や、現場指揮官に不審者が戦場に紛れ込んでいないか確認するよう進言していた。
それもあって、守備兵の一人が不審な――所属不明の存在に気づくことができた。
「何奴ーーーッ!」
それに反応したのはハンスだった。ハンスは城壁の上から次元斬でメフィストを攻撃していたが、彼の研ぎ澄まされた神経は激戦の中にあってもその声を聞きわけることができた。
ハンスは風のように直行した。
――そこには、確かに不審な人物がいた。
闇に溶けるような黒い衣服。背中から見ることができれば、浮かび上がるように赤い菱形の模様が目に入るだろう。
「裸足のレッドバック……」
ハンスが口にしたものが、そのものの名であった。
傍には負傷した兵士が倒れている。
「裸足の理由は、それですか」
レッドバックは靴をはいていなかった。
城壁の外側に両手足をつけ、張り付いていたのである。
「私とて伊達や酔狂だけでレッドバックと名乗っているわけではない」
レッドバックとはもともと蜘蛛の一種の名前である。この歪虚は蜘蛛のように両手足から糸を出し、壁に張り付いていたのだ。
「もっとも、創意工夫による後天的なものだがね」
「何をしたのです?」
「何かをする前に君らが邪魔したのだろう?」
返答し終えるまでにハンスが次元斬を放った。
レッドバックは手足を開いて落ちることで、次元斬の範囲から逃れる。
そして夜の闇の中へと落ちて行った。
……地面に達する前に何かが飛んできて、レッドバックを掴んだ。
「メフィスト様にバレては殺されるのでね。これで失礼するよ」
下の方から大声でそう言ってくるのが聞こえた。
「メフィストが勝つ前提で行動していますね……」
残されたハンスは一人ごつ。すぐさま逃げ去った理由として思いつくものはそれだ。
「ハンター殿、彼は私が!」
レッドバックを発見した兵士がハンスに言った。負傷兵のことだ。
「頼みましたよ」
ハンスは兵士に後を託すと、通信機に向けて言った。
「ムジークカッツェ、これから負傷兵が運び込まれます。注意して下さい、レッドバックが接触していた可能性があります」
「ニャ」
無線機の向こうで、ムジークカッツェが短く鳴いた。
城壁の外側で何かが飛来してきたのを感知した沙織だったが、すぐ飛び去ったので追うのは止めた。
――それどころではない。
メフィストから何度も何度も雷が発され、城壁や空で戦う仲間に落ちている光景が沙織の場所からよく見えた。
まるで嵐だ。
荒れ狂う自然現象のような敵に、どう立ち向かえというのか。
(こういう時は……)
軍人出身である沙織は知っていた。
大きな力を得るためには、多くの人数が集まって協力し合う他無い。
混沌を撒き散らす敵を相手に……
自分達は秩序立てられてあるべきなのだと。
(そうだ……私達は団結している)
(ならば勝てる!)
「皆さん、聞こえますか。辛いときこそ、基本に忠実に。訓練通りやればいいのです。その代わり、徹底してやってください。敵は集団ではありません。だから勝てます!」
「……だそうよ」
守備兵に無線は伝わっていないので、代わりにエラが周辺の守備兵に対して大声で伝えた。どう聞いても兵士に向けたメッセージだったからだ。
「「「はいッ!」」」
周辺の守備兵が返答する。
「撃ち方用意ッ! …………撃てーッ!」
指揮官が対空射撃のタイミングを告げる。
その時地上から紫の光柱が伸び、メフィストを飲み込んだ。
エーデルワイス弐式のマテリアルライフルである。
その天を貫くような威容は、城壁で戦う者達に勇気を与えた。
(そう、私達は通信手段を共有している。
それはお互いの能力を信頼しているからだ)
エラは思う。今ここにいるハンター達の中には連絡を通じ合って損になる人材などいない。
(援軍の存在を危惧したが未だに何も来ていない。となれば……この敵はたった一人で私達全員を倒せるつもりだったのだ)
(私達が、ただ数が多いだけ……であったならば、なるほど全滅させられたかもしれないな)
(だが私達は幾度も協力しあって歪虚の侵略を退けてきた。
私達は連携するということを知っている。
それが、歪虚同士でいがみ合っている者に……
どうして負けるだろう?)
「……負けるはずはない!」
その時、リアは叫んだ。
「なぜならメフィスト! 君は倒すべき敵だからだ!
ハンターは倒すと決めた敵は必ず倒す!
例外なんてないッ!」
昔は敵を逃がしたこともあったけれど、その敵も追い続けて探し出し、ついには決着をつけたリアである。
「絆の力が、君達を駆逐する……!」
「なんか乱暴な理論だけど……おおむね同感よ! 状況がこんなだし」
篝は矢をつがえた。何度目になるだろう。
十分な矢玉を準備しつつもそろそろ在庫を気にしなければならないだろうか。
そんなことよりも……
「そろそろ落ちなさいっての!」
その双眸は鬼火のように光っていた。
篝の想いが通じたのか――
メフィストは突如として空中で動きを止めた。
「それで終わり?」
「――ならば夜の闇に溶け落ちよ。それが似合いじゃてのう」
カーミンとヴィルマは、一斉に攻撃した。
破魔の矢が、氷の矢がメフィストの体を貫いた。
メフィストは二人の方を見ていない。消滅の兆候も示さない。
その代わり、地獄を思わせる紅蓮に全身が染まった。
「! いかん! 城壁から避難せよ!」
ヴィルマは無線機に告げる。
メフィストは、二人に目もくれず城壁へと飛んだ。
「させるかあああああ!」
「間に合って!」
リアがガトリングを乱射し、沙織がマテリアルライフルを発射する。
「添え物にしかならないとは思いますが……!」
「これが最後の一射よ、どうとでもなって!」
ハンス、篝も渾身の矢をメフィストに向けて撃つ。
「特攻とは……! しかし!」
エラは機導砲でありったけのマテリアルを込めて放つ。同時に七竈にも砲弾を発射させる。
一瞬に強大なエネルギーがぶつかり合う。
マテリアルを限界までその身に蓄えたメフィストは……
その器が衝撃に耐えられず、
空中にて、爆発四散した。
もはや夜であることを忘れるくらい明るかったハルトフォート上空で、今夜最も明るい光が広がった。
●史上、最も明るい夜を越えて
「まったく最後に憤怒の真似事とは……」
ハンスは虚空に向けて呟く。
たった今までメフィストがそこにいたのだ。
今は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。空は何事もなかったかのように月が浮かんでいるだけで、後は闇夜が広がっていた。
「一瞬の美学も、やりすぎると傍迷惑ですね」
なおムジークカッツェからの連絡はなかった。運び込まれた負傷兵も今は何事もなく治療を受けている。
ハンター達は戦いの後も、休まずに都市内の警戒に当たった。メフィストの侵攻の間に、都市内に何か工作されたことを危惧したからだ……。
「――でも、何もなかったと」
探し終わったころには完全に夜が明けていた。
ハンター達は負傷の重い真を除き、守備兵の何人かも交えて、兵舎に集まっていた。
「住人が歪虚化したり小型の歪虚が潜み込んだり盗聴器や爆発物の類が仕掛けられたりもしていないなんて」
篝は一息でまくしたててから突っ伏した。
「……はい。しかし、そもそもそれは意味があるのでしょうか」
守備兵が遠慮がちに問う。
「何でよ。単騎で突っ込んで来たところで城塞都市を完全に潰すなんて出来ないでしょう普通」
「いえ、そんな回りくどい事をしたところで混乱するだけです。順序が逆ではないかと」
「内部から混乱させるのなら攻撃する前にしていると?」
「はい」
エラの問いに守備兵は応える。
「では街一つ吹き飛ばせる爆弾が仕掛けられた場合は?」
「その場合は、メフィストが来る理由がありません」
「仕掛ける隙を作るための陽動ということはありえんのかの」
今度はヴィルマが問う。
「こうやって警戒されてる時点で陽動の意味がないと思いますが……
自分なら、音もなく忍び込んで、誰も気づかない内に起爆させる」
「ハルトフォートに? 侵入できるのかの?」
「自分がメフィストだったらという意味です」
「それじゃメフィストはわざわざ時間をかけて抵抗をすべて叩き伏せて勝利しようって考えだったの?」
篝は再び突っ伏した。
これには肯定するものはいなかった。
「……傲慢ですね」
ただ、沙織が言い表した。
「傲慢っていうか」
篝が首だけを沙織に向けて応える。
傲慢っていうか……この後に続けられる言葉は色々とあるだろう。
「でも、出来る可能性はあったんじゃないかな」
この発言はリアだ。
確かに、エラの的確な指示と、それを実行するハンター達の賢明さがなければ。
ハンター達が注意を惹いている間、休みなく攻撃し続けた守備兵達の奮戦がなければ。
真とカートゥルの猛攻がなければ。
ハルトフォートの戦力は、全滅していたかもしれない。
「――或いは、この戦い自体が」
ハンスが重々しく言う。まるでこれから言うことが外れであってほしいというように。
「何かの布石……であるのかもしれませんね」
ハルトフォートの被害は軽くはない。
それでも、戦いは続いていく――
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/21 09:33:13 |
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相談卓 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/23 15:22:58 |