ゲスト
(ka0000)
【天誓】Miscast
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/24 19:00
- 完成日
- 2017/11/07 23:45
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
その者は復讐者だった。
その者は苛烈だった。
その者は英雄だった。
絶火の騎士 報仇雪恨のネグローリ。
彼のことは上記三言で紹介される。
亜人により一族が襲われているところを、帝国騎士により救い出され、術者としてめきめきと実力をつけ、帝国の勢力拡大に貢献した1人。
特に亜人討伐における彼の働きは苛烈の一言に尽きる。
己がされたことをそのまま仕返すように、赤子1人とて情け容赦なく血祭りに上げた。
戦がないときは皇帝お抱えの術師として政権に関わり、ひとたび戦が始まれば恐ろしい魔術を使う。
外から、内から、最盛期のモンデシャット王朝を支えた英雄の1人。
――だが、その最後は明瞭としない。
伝承によっては旅に出たとも、隠遁したとも伝えられており、それは英雄である彼を“殺したくない”という民衆意識の表れではないかと言われている。
●
ハンター達は帝国を通して絶火の騎士探索依頼を引き受けていた。
「……にしても、フォッカさんはともかく、イズンさんに第六師団のドワーフさん達まで来て頂けるとは思いませんでした」
イズン・コスロヴァ(kz0144)と彼女に続く6人のドワーフ達を見てハンターの1人が声を掛けた。
「最近この辺りでは雑魔化したコボルド達の発見情報が届いているんです。この先にドワーフの里もありますし、話しを聞けたらと思いまして」
「あぁ、なるほど」
先代、ヒルデブラント・ウランゲルが革命を起こしてから15年の月日が流れようとしている。
しかし、旧帝国時代が長すぎたこと、また帝国そのものが亜人を排除することで――またはその人権を踏み躙り服従を迫ることで――拓かれた国である事は周知の事実だ。
とはいえ、長い歴史の中でも徐々にエルフとドワーフとは表向きには友好な関係性を結び、直接的な対立は現在においてはほとんど無い……と、されてはいるが、一部例外も存在する。
「エルフが森に住む亜人であるなら、ドワーフは山岳やその地下に住む亜人です。幸いにしてこの地は彼らが住まうに程よい鉱山地帯でしたから」
特にこの第六師団のあるドワーヴンシュタット州はその名の示す通りドワーフ達が多く住む土地であり、今も州に住む人口の70%以上をドワーフが占める。
エルフに比べ環境の変化に寛容な彼らではあるがそれでも旧帝国に従うのを良しとせず抗い続けた者達もいた。
その一族が住む里の1つがあるのだという。
「コボルド一体一体は大した脅威ではありませんが……コボルドはその繁殖力の強さが最大の脅威です。絶火の騎士も具体的に『誰がどんな形で顕現したのか』まではわからないと伺いました。でしたら、我々に出来る事は皆さんを安全に万全の状態でその地までご案内すること……」
イズンが足を止め、手で一同へ制止の合図を送る。
ドワーフの1人が鼻を鳴らし、漂ってきた臭いに顔をしかめた。
「……血の臭い……?」
「こっちから強い英霊の気配を感じる。多分、絶火の騎士」
フォッカの言葉にイズンが静かに頷いた。
「確かこの先は河原でしたね……行ってみましょう」
一同は神妙な顔つきで頷き、周囲を警戒しながら河原へと急いだ。
●
悲痛なコボルドの断末魔が周囲に響いた。
草木を掻き分け河原に辿り着いたハンター達の目に飛び込んできたのは真っ赤に染まった河原だった。
「な……」
フォッカの足元に転がっているもの。
それがコボルドの肉体の一部だという事に気付いてフォッカの表情が険しさを増す。
その先。
鮮血に染まった河原の中央に白い影が佇んでいた。
全身を覆う白いマント。顔を覆う白いマスク。大きなマテリアル鉱石が埋め込まれたスタッフ。
その何れも一見しただけで上等な……強力な魔力を帯びている事に気付く。
「……おや? 人、かな?」
ゆるりと白い影が動いた。
腰に届きそうな紫の髪が風に揺れ、周囲がこんなにも血に濡れていなければ周囲の景観と相まってさぞかし幻想的に見えただろう。
「……私は、ゾンネンシュトラール帝国第六師団副師団長、イズン・コスロヴァと申します。さぞかし力のある英雄とお見受けいたしますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
この惨状の中においても動揺した素振りを一切見せず、イズンが誰何する。
「私? 私は……そうだね、恐らくネグローリと呼ばれているんじゃないかな。……そう。帝国の。では、何故、後ろに“そんな下等種を従えているのかな?”」
英霊――ネグローリが言葉を発すると同時に親指の腹を中指の先で弾くような仕草をして見せた。
その次の瞬間、イズンの左斜め後ろにいたドワーフの身体がぐにゃりとへしゃげ、四散した。
大量の血が雨のように周囲に降り注ぎ、一輪の赤い花がぽとりと地面に落ちた。
「お、お前……!!!」
「フォッカ殿! 総員、里へ。緊急時に備えよ」
突然の凶行にフォッカが怒りに身を任せそうになるのをイズンは声で制止させ、素早く残り5人のドワーフ達に指示を飛ばす。
突然仲間があり得ない死に方をした事に気を動転させていたドワーフ達だが、イズンの冷静な声に辛うじて我を取り戻すとその場から逃げ去るように里へと向かって来た道を戻っていく。
「……どうして、帝国の兵が下等種を庇うのかな?」
「貴方のいた時代とは変わったのですよ、『報仇雪恨のネグローリ』殿」
「ふふっ。なにそれ? 随分と面白い称号が付いたものだね……そう、私はそう呼ばれているの」
軽く肩を揺らして笑ったネグローリは子どものように首を傾げた。
「帝国の者だというのなら、その証拠を見せてよ。そうしたら、話しを聞いてあげよう」
ネグローリは杖を構えて、ハンター達を睥睨する。
「……俺、今、超絶頭に来た。絶対コイツ、ぎゃふんって言わせてやる!」
フォッカの言葉には残念なほどに迫力がなかったが、それでもその手には巨大化した鎚が握られ、その深紅の瞳と赤い髪は燃え盛る炎の幻影に揺れていた。
言葉の通じない亜人など、『人』ですらない。殺さねば。
人類以外の者は全て下等種である。殺さねば。
我が君の理想のために獣は全て駆逐せねばならない。
誰もが安心して健やかに暮らせる理想郷の為になら、私は何度でも喜んで戦場に立とう。
その者は復讐者だった。
その者は苛烈だった。
その者は英雄だった。
絶火の騎士 報仇雪恨のネグローリ。
彼のことは上記三言で紹介される。
亜人により一族が襲われているところを、帝国騎士により救い出され、術者としてめきめきと実力をつけ、帝国の勢力拡大に貢献した1人。
特に亜人討伐における彼の働きは苛烈の一言に尽きる。
己がされたことをそのまま仕返すように、赤子1人とて情け容赦なく血祭りに上げた。
戦がないときは皇帝お抱えの術師として政権に関わり、ひとたび戦が始まれば恐ろしい魔術を使う。
外から、内から、最盛期のモンデシャット王朝を支えた英雄の1人。
――だが、その最後は明瞭としない。
伝承によっては旅に出たとも、隠遁したとも伝えられており、それは英雄である彼を“殺したくない”という民衆意識の表れではないかと言われている。
●
ハンター達は帝国を通して絶火の騎士探索依頼を引き受けていた。
「……にしても、フォッカさんはともかく、イズンさんに第六師団のドワーフさん達まで来て頂けるとは思いませんでした」
イズン・コスロヴァ(kz0144)と彼女に続く6人のドワーフ達を見てハンターの1人が声を掛けた。
「最近この辺りでは雑魔化したコボルド達の発見情報が届いているんです。この先にドワーフの里もありますし、話しを聞けたらと思いまして」
「あぁ、なるほど」
先代、ヒルデブラント・ウランゲルが革命を起こしてから15年の月日が流れようとしている。
しかし、旧帝国時代が長すぎたこと、また帝国そのものが亜人を排除することで――またはその人権を踏み躙り服従を迫ることで――拓かれた国である事は周知の事実だ。
とはいえ、長い歴史の中でも徐々にエルフとドワーフとは表向きには友好な関係性を結び、直接的な対立は現在においてはほとんど無い……と、されてはいるが、一部例外も存在する。
「エルフが森に住む亜人であるなら、ドワーフは山岳やその地下に住む亜人です。幸いにしてこの地は彼らが住まうに程よい鉱山地帯でしたから」
特にこの第六師団のあるドワーヴンシュタット州はその名の示す通りドワーフ達が多く住む土地であり、今も州に住む人口の70%以上をドワーフが占める。
エルフに比べ環境の変化に寛容な彼らではあるがそれでも旧帝国に従うのを良しとせず抗い続けた者達もいた。
その一族が住む里の1つがあるのだという。
「コボルド一体一体は大した脅威ではありませんが……コボルドはその繁殖力の強さが最大の脅威です。絶火の騎士も具体的に『誰がどんな形で顕現したのか』まではわからないと伺いました。でしたら、我々に出来る事は皆さんを安全に万全の状態でその地までご案内すること……」
イズンが足を止め、手で一同へ制止の合図を送る。
ドワーフの1人が鼻を鳴らし、漂ってきた臭いに顔をしかめた。
「……血の臭い……?」
「こっちから強い英霊の気配を感じる。多分、絶火の騎士」
フォッカの言葉にイズンが静かに頷いた。
「確かこの先は河原でしたね……行ってみましょう」
一同は神妙な顔つきで頷き、周囲を警戒しながら河原へと急いだ。
●
悲痛なコボルドの断末魔が周囲に響いた。
草木を掻き分け河原に辿り着いたハンター達の目に飛び込んできたのは真っ赤に染まった河原だった。
「な……」
フォッカの足元に転がっているもの。
それがコボルドの肉体の一部だという事に気付いてフォッカの表情が険しさを増す。
その先。
鮮血に染まった河原の中央に白い影が佇んでいた。
全身を覆う白いマント。顔を覆う白いマスク。大きなマテリアル鉱石が埋め込まれたスタッフ。
その何れも一見しただけで上等な……強力な魔力を帯びている事に気付く。
「……おや? 人、かな?」
ゆるりと白い影が動いた。
腰に届きそうな紫の髪が風に揺れ、周囲がこんなにも血に濡れていなければ周囲の景観と相まってさぞかし幻想的に見えただろう。
「……私は、ゾンネンシュトラール帝国第六師団副師団長、イズン・コスロヴァと申します。さぞかし力のある英雄とお見受けいたしますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
この惨状の中においても動揺した素振りを一切見せず、イズンが誰何する。
「私? 私は……そうだね、恐らくネグローリと呼ばれているんじゃないかな。……そう。帝国の。では、何故、後ろに“そんな下等種を従えているのかな?”」
英霊――ネグローリが言葉を発すると同時に親指の腹を中指の先で弾くような仕草をして見せた。
その次の瞬間、イズンの左斜め後ろにいたドワーフの身体がぐにゃりとへしゃげ、四散した。
大量の血が雨のように周囲に降り注ぎ、一輪の赤い花がぽとりと地面に落ちた。
「お、お前……!!!」
「フォッカ殿! 総員、里へ。緊急時に備えよ」
突然の凶行にフォッカが怒りに身を任せそうになるのをイズンは声で制止させ、素早く残り5人のドワーフ達に指示を飛ばす。
突然仲間があり得ない死に方をした事に気を動転させていたドワーフ達だが、イズンの冷静な声に辛うじて我を取り戻すとその場から逃げ去るように里へと向かって来た道を戻っていく。
「……どうして、帝国の兵が下等種を庇うのかな?」
「貴方のいた時代とは変わったのですよ、『報仇雪恨のネグローリ』殿」
「ふふっ。なにそれ? 随分と面白い称号が付いたものだね……そう、私はそう呼ばれているの」
軽く肩を揺らして笑ったネグローリは子どものように首を傾げた。
「帝国の者だというのなら、その証拠を見せてよ。そうしたら、話しを聞いてあげよう」
ネグローリは杖を構えて、ハンター達を睥睨する。
「……俺、今、超絶頭に来た。絶対コイツ、ぎゃふんって言わせてやる!」
フォッカの言葉には残念なほどに迫力がなかったが、それでもその手には巨大化した鎚が握られ、その深紅の瞳と赤い髪は燃え盛る炎の幻影に揺れていた。
言葉の通じない亜人など、『人』ですらない。殺さねば。
人類以外の者は全て下等種である。殺さねば。
我が君の理想のために獣は全て駆逐せねばならない。
誰もが安心して健やかに暮らせる理想郷の為になら、私は何度でも喜んで戦場に立とう。
リプレイ本文
●
生温い血の臭いが風に巻き上げられフェリア(ka2870)は思わず片眼を眇めた。
今、ヒトの形から肉塊へと変わったのは、寡黙なドワーフ戦士だった。
イズン・コスロヴァ(kz0144)が連れてきた第六師団の兵士達は全員がドワーフの一般兵で、名前は知らない。道中会話を交わした訳でも無い。ただ黙々とフェリア達の後を付いて山を登っていた。
血溜まりの中に落ちた花を見る。
血を吸ったように赤い八重咲きの花。当然、こんなモノを彼が身につけていたとは思えない。
「今、貴方がした事は“ヒト殺し”だ」
低い、驚くほど低い声が金目(ka6190)の唇から溢れ、怒りに金色の瞳が強い光を放つ。
「金目さん……」
普段の温厚な金目を知っている分、ユリアン(ka1664)には彼の怒りを新鮮な驚きと共に受け止めた。
「金目殿」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が静かな声音と共に金目の胸元を手のひらで抑え、前に出た。
「私はアウレール・V・ブラオラント。『どうして、帝国の兵がドワーフを庇うのか』と問うたか? それは“我々は『人類の守護者』だからだ”」
絶火槍「クルヴェナル」の石突きを鳴らし、高瀬 未悠(ka3199)も一歩前に出る。
(私の怒りと帝国の平和は秤にかけるまでもない)
『帝国の者の証』として。その胸には今までの戦績から贈られた勲章が鈍い光を放った。
その重みはいついかなる時も泰然として見せる想い人の姿を、その立ち居振る舞いを未悠に思い出させる。
「帝国の生まれじゃなくても、これまで帝国を守る為に体をはって来たんだ。人類を守るべく最前線で戦ってきた矜恃はボクにもある」
未悠と同じ勲章を親指で指し示しながらエリオ・アスコリ(ka5928)が真っ直ぐにネグローリという英霊を見据えた。
「アンタとの違いは、守るべき人類と戦友になる存在が増えただけだ」
その言葉を聞いたネグローリはケラケラと笑い始めた。
「それが、君たちの“帝国の者である証拠”かい?」
「我が名はフェリア。フェリア・シュベールト・アウレオス。皇帝の剣なり」
手にした杖を掲げ見せる。
「この杖は『ネグローリ』。あなたの名を冠しています」
一度言葉を切り、フェリアは努めて静かに息を吸う。
「皇帝の御意志に従い力を振るうが我が誇り。皇帝の命に応じ協力してくれた友人を侮辱し、命を奪う狼藉、何者だろうと許せるものではありませんよ」
「狼藉? 私が行っていることは“正義の代行”。全ての亜人を駆逐し、人類だけの楽園を作る。……あぁ、それとも、私が知らない間に亜人の隷属化が進んだのかな?」
金目の目の前が怒りで赤く染まるのと同時に、目の前で炎の幻影が上がった。
「フォッカ殿」
「離して!」
イズンに肩を押さえられ騒ぐ炎の精霊を見て、金目の赤く燃え盛るような怒りは、蒼白い高温を宿した冷静なモノへと変化し、金目の鳩尾辺りをジリジリと焼いていく。
血溜まりに浮かぶ赤い花を見、敵意を込めた視線で英霊を見据え、聖盾「コギト」を構え前に出る。
(うん、金目さんが怒るのは間違ってない)
ユリアンは彼の怒りを凪いだ心で受け止め、英霊を見つめる。
仮面の下の表情は窺い知れない。
全身を覆うようなマントのお陰でその手元もよく見ることが出来ない。
得体の知れない術を使う。それでも『英雄譚』のお陰で対策が出来ない訳では無い。
「俺は帝国に縁あるもの。この国の人の笑顔も嘆きも何度も見て来たよ。エルフハイムにも関わった事がある。人もエルフも、辛抱強い人達だったと思う」
警戒は怠らない。
だが、証の示し方は一つではなく、今語る言葉も証の一つと信じている。
「貴方が生きた物語に歪虚はいただろうか? 今、世界は国と国、ヒトと亜人では無く、生ける者と歪虚との戦いになっている」
英霊は動かない。
アウレールはユリアンの言葉を引き継ぐように話しかける。
「未だ強大な歪虚の脅威と国力の疲弊。戦費の増大、数度の本土決戦、人的資源の消耗。最早「一人」で戦い続ける力は残っていない。種はおろか世界さえ超えて団結する時代、帝国はいち早くその手本を示した」
アウレールの胸中を過ぎるのは【神森】の顛末。
積み上げた無理解と憎悪が国を滅ぼしかけたあの事件。三百年に及ぶ呪いを解決したのは『対話』だった。
「共存の社会にあって、今や民衆は亜人征討など望まない」
アウレールの言葉にゆるりと英霊の首が傾いだ。さらりと紫の髪が風に揺れる。
「なら、“何故私が英霊となって此処にいるんだろうねぇ?”」
――それは、アウレールが問おうと思っていた言葉だった。
「君たちが、帝国の民が“望んだ姿”。それが私なのではないのかな?」
「あなたの力は必要だわ」
未悠の言葉に「ほう」と英霊は面白そうに見返す。
「変わってしまったものもあるけれど、全てを懸けて大切なものを守る志は失われてはいないわ。この世界を守る為に一緒に戦いましょう」
「世界を守る。あぁ、その為に私も我が君も戦い続けた。歪虚がいたか、だと? いたさ、当然だ。あれらは太古の昔より全ての生きとし生けるものの敵。害悪そのもの。だが、それ以上に亜人はダメだ。誰もが安心して健やかに暮らせる理想郷の建国の為にアイツらをまず駆逐しなければ」
「何故そこまで……」
英霊が放つマテリアルの圧に未悠は思わず柄を掴む手に力を込めた。
●
絶火の騎士 報仇雪恨のネグローリ。
報仇雪恨とは仇討ちをして恨みを晴らすことの意。
どれほど長い年月、亜人を屠ってきたのか。それでもなお消えぬ怒りを抱く程何をされたのか。
目の前で“殺人”が起こった。その衝撃からかそこに思い至れるほどの余裕がハンター達には無かった。
「っ!」
フェリアが咄嗟に杖を構えると、光の線が弾けて消えた。
「干渉魔法か、やるね」
楽しげな声にアウレールは奥歯を鳴らす。
――結局、戦うしか無いのか。
アウレールが騎乗し、聖剣「カル・マ・ヘトン」を抜き構えると、英霊は仮面の下で目を細める。
「懐かしい剣だ」
その声音が驚くほど優しさに満ちていてアウレールは目を瞬かせる。
「『人を愛し守護せよ』。亜人を狩り、領土を拡張する時代はもう終わった。価値観は変わったんだ」
「その価値観が変わったという世界で、どうして私は“私のまま”ここにいるのだ!?」
アウレールの剣筋は杖で捌き逸らされる。
羽根の幻影を散らし、その羽根を運ぶ風のように一気に距離を詰めたユリアンがすれ違い様に斬り付けるが、その一撃も杖が弾き届かない。
金目は盾を、未悠は絶火槍を構えエリオと共に慎重に距離を詰め、フェリアは雷撃で貫かんとするのをユリアンの鞭が補助し、英霊の動きを止める。
しかし、轟雷を受けても英霊の白いマントには焦げ1つない。
フォッカが鎚を構え距離を詰め、イズンが撃った銃弾が英霊の胴を貫くが、それにも動じた様子は見られない。
英霊の杖が光ったのを見て、フェリアが再び干渉を試みる。
「そう何度も邪魔はさせなよ」
フェリアの干渉を突き破り光の鞭がアウレール、ユリアンへと襲いかかるが、アウレールはこれを見事受けきり、ユリアンは上体を反らしそのままブリッジするようにバック転することで避けきった。
嗜虐性を含んだ笑い声が英霊から漏れる。
「……そうこなくっちゃね」
「ネグローリ……!」
未悠の見えざる手が英霊を掴みその場に縫い留め、素早い連撃を未悠が打ち込み、連携してエリオが青龍翔咬波を放つ。
スケッギョルドの両刃とフォッカの鎚が追従するが、英霊はしゃがみ込んでその攻撃を避け、イズンの銃弾が再び胴を狙うが、これは杖に遮られてダメージにならない。
剣戟の音が河原に響く。
どちらかといえば防戦に寄ったスキル構成であった事や、縁のある人々の祈りが様々な形でハンター達を助けた事もあり、致命的な傷を負う者はまだいない。
だが、決定打を与える事も出来ないまま徒に時間だけが過ぎ、疲労の色が見え始める。
「……流石は“英霊”か」
忌々しそうに呟いたエリオの横で金目は自分の抱く怒りと静かに向き合っていた。
そして、はたと気付いた。
(この怒りこそがネグローリを形作るものではないのか)
“同胞”を殺された怒り。尊厳を踏み躙られた怒り。
「貴方が抱く“亜人”に対しての怒り。それが、今、僕が“貴方”に抱く怒りだ」
金目の言葉に英霊は動きを止めた。
「先ほど貴方は言った。『どうして私は“私のまま”ここにいるのか』と。僕は英雄譚には詳しくないけれど、貴方はまだ、仇討ちを終えていない、恨みを雪ぐことも出来ていない“ネグローリ”なんですね」
終焉を語られない英霊。彼が、彼女が救われた幸福な結末はあったのだろうか?
あぁ。と未悠も思い至る。
“英霊”と呼ばれ、イズンとのやり取りがどことなく他人事のようだったこと。
なまじ力を得ただけに、その怒りは自分自身へも向けられていたのだろう。
『どうして同胞を助けることが出来なかったのか』『自分にもっと力があれば』――
それは、亜人を憎み、自身を呪う怨嗟となる。
そしてその怨嗟の行き着く先は……想像に難くない。
「今この国を脅かしているのは亜人ではなく歪虚よ。人類の共通の敵。強いては、世界の敵よ」
未悠は【闇光】【哀像】そして自分が今まで関わってきた戦いについて語りながら槍を振るう。
既にワイルドラッシュもファントムハンドも使い終えた。
執拗に杖を狙った為か、攻撃そのものを受け躱されることも多かったのが痛い。
エリオはイズンとタイミングを合わせ、前へと出る。
そして、ついに仮面の上から英霊の横っ面にその拳を沈めた。
「ドワーフやエルフ、コボルト達だって今や大切な同胞だ」
自らの脚で森を出た2人のエルフの少女達。
南方大陸で見た光景。
「人類は変わった。それにあわせて望みもまた変わった。人類に仇なすのはいまや亜人に非ず、だよ」
顔面を殴られた英雄はその衝撃によろめく。
「アンタが英霊でも帝国の民を、土地を荒らすなら戦う。退くつもりは無い!」
想いを拳に乗せて、構えを取る。
「平等を謳うつもりは無いけれど、彼らは協力しあえる友人です」
フェリアは様々な依頼で、種族を越えて手を取り合い、困難を乗り越えてきた。
ハンター仲間にもエルフやドワーフ、リアルブルー出身者も多い。
常識の違う相手と分かっていても、“友人”を殺し続けるというのならば許せる相手ではない。
これまでの感触で風属性は相性が悪いことも分かっていたが、混戦となり近接攻撃をする仲間がいる中でファイアーボールは使えない。
最後のライトニングボルトを放ちつつフェリアは毅然とした瞳を向ける。
「今はヒトも亜人も共に戦い、世界は揺れて大きな岐路に立っている……だから呼ばれたんじゃないかな? 新しい物語のために」
亜人への怒りも自分への怒りも全て背負ったままの“ネグローリ”にやり直すチャンスを与えるために。
「新しい物語、だと? 都合の良いことだ」
「……そうかもしれないね」
ユリアンは素早く剣で斬り付けては距離を取ると小さく笑った。
『~だったら』『~こうしていれば』迷うことばかりで、自分の力の無さに虚無感を覚え思い悩む日々。
アウレールのように『自分は人類の守護者だ』などと胸を張れる自信はまだない。
それでも、足掻いている。諦められず、手を伸ばしもがいている。風が止んだ『あの日』からずっと。
「より良い未来を目指して足掻き、変わり続けるのが人だ」
アウレールのきっぱりとした声に、ユリアンは思わず自分の事を言われたのかと目を見開く。
「人とは種の名前ではない、在り方だ。理性と感情を携えて、天涯の夢を追い続ける求道者の名だ」
アウレールは馬上から剣の切っ先を英霊へ向ける。
「ヒトもそれ以外も、明日への想いは同じ。それでもなお過去に殉じると言うなら」
朗々とした声が静かな河原に響く。
「問おう、誰も泣かない世界の為に、今再びこの剣の銘の下に集うか。
それとも此処で『人類の敵』として討たれるか!」
●
「ふふ……あはははははは」
突如笑い始めたネグローリに、一同は唖然としながらも一歩引いて動向を窺う。
「……まさかまたその言葉を聞けるとは思わなかった」
ひとしきり笑った後、英霊はアウレールへと視線を合わせた。
「我が君も『誰も泣かない世界』を欲していたよ。その為には、ヒト以外全てを切り捨てるしか無かった。でもそれに胸を痛めるような優しい方だった……君はそれが叶うと想っているの?」
「成してみせる」
アウレールの言葉を受け止め、英霊は周囲を見回す。
傷付いた8人を見、白い手袋に包まれた己の手に視線を移した。
「そうか、世界は変わったのか」
その声は優しく柔らかい。
「貴方の力が必要なの。この世界を守る為に一緒に戦いましょう」
未悠が手を差し出すとそれを見て英霊は首を横に振る。
「戦う者がそう簡単に利き手を他人に晒すものじゃないよ」
「一緒に来てくれるのかしら?」
フェリアの問いにネグローリは頷いた。
「ただし。1つ、私にはやらねばならないことがある」
「やらねばならないこと?」
オウム返しに問うエリオ。
「私がいるということは、あの女も英霊……いや、邪霊と言った方がいいのかな……? とにかく、良くない者も顕現している可能性が高い」
「……あの女……『寵姫 ローゼマリー』ですか」
イズンの指摘に英霊は頷く。
寵姫 ローゼマリー。
『皇帝を誘惑した淫女』
『帝国を堕落させた魔女』
英雄譚の中で、優秀でありながらも孤独を抱える皇帝に言葉巧みに取り入り、帝国を内部から腐敗させようとした魔性の女、悪役の1人として描かれる。
英雄譚の中では賢妻であり献身的な皇后の愛により皇帝が我を取り戻し、ネグローリの手により本性をばらされ極刑に処されるというのが一般的なストーリーとなっている。
亜人殺しで有名なネグローリが唯一手を掛けたヒトであることで有名ではあるが、それ以外としては英雄譚の中では数少ないお色気シーンがある為、様々な派生を生み、改編され語り継がれている物語の一つである。
「あれが我が君と接触する前に殺さなければ」
「……そう言って逃げるのか」
フォッカが炎を宿した瞳で睨め付ける。
ドワーフを1人殺した。それは許されざる事実だ。
「フォッカさん」
金目もまたそれを許した訳では無い。許せるはずも無い。
だが、この怒りと哀しみを越えた先に次へと繋がるのならば。
そして精霊がこんなにも死んだドワーフのことを想ってくれるだけで、少し救われる気がした。
「場所は分かるのですか?」
「あぁ、恐らく“あそこ”だ」
英霊は北東を見る。一同もまた釣られて北東の空を見上げた。
秋晴れの空はただただ眩しく。輝かしい一方で陰影は暗くなる。
その暗喩のように思えて仕方が無かった。
生温い血の臭いが風に巻き上げられフェリア(ka2870)は思わず片眼を眇めた。
今、ヒトの形から肉塊へと変わったのは、寡黙なドワーフ戦士だった。
イズン・コスロヴァ(kz0144)が連れてきた第六師団の兵士達は全員がドワーフの一般兵で、名前は知らない。道中会話を交わした訳でも無い。ただ黙々とフェリア達の後を付いて山を登っていた。
血溜まりの中に落ちた花を見る。
血を吸ったように赤い八重咲きの花。当然、こんなモノを彼が身につけていたとは思えない。
「今、貴方がした事は“ヒト殺し”だ」
低い、驚くほど低い声が金目(ka6190)の唇から溢れ、怒りに金色の瞳が強い光を放つ。
「金目さん……」
普段の温厚な金目を知っている分、ユリアン(ka1664)には彼の怒りを新鮮な驚きと共に受け止めた。
「金目殿」
アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が静かな声音と共に金目の胸元を手のひらで抑え、前に出た。
「私はアウレール・V・ブラオラント。『どうして、帝国の兵がドワーフを庇うのか』と問うたか? それは“我々は『人類の守護者』だからだ”」
絶火槍「クルヴェナル」の石突きを鳴らし、高瀬 未悠(ka3199)も一歩前に出る。
(私の怒りと帝国の平和は秤にかけるまでもない)
『帝国の者の証』として。その胸には今までの戦績から贈られた勲章が鈍い光を放った。
その重みはいついかなる時も泰然として見せる想い人の姿を、その立ち居振る舞いを未悠に思い出させる。
「帝国の生まれじゃなくても、これまで帝国を守る為に体をはって来たんだ。人類を守るべく最前線で戦ってきた矜恃はボクにもある」
未悠と同じ勲章を親指で指し示しながらエリオ・アスコリ(ka5928)が真っ直ぐにネグローリという英霊を見据えた。
「アンタとの違いは、守るべき人類と戦友になる存在が増えただけだ」
その言葉を聞いたネグローリはケラケラと笑い始めた。
「それが、君たちの“帝国の者である証拠”かい?」
「我が名はフェリア。フェリア・シュベールト・アウレオス。皇帝の剣なり」
手にした杖を掲げ見せる。
「この杖は『ネグローリ』。あなたの名を冠しています」
一度言葉を切り、フェリアは努めて静かに息を吸う。
「皇帝の御意志に従い力を振るうが我が誇り。皇帝の命に応じ協力してくれた友人を侮辱し、命を奪う狼藉、何者だろうと許せるものではありませんよ」
「狼藉? 私が行っていることは“正義の代行”。全ての亜人を駆逐し、人類だけの楽園を作る。……あぁ、それとも、私が知らない間に亜人の隷属化が進んだのかな?」
金目の目の前が怒りで赤く染まるのと同時に、目の前で炎の幻影が上がった。
「フォッカ殿」
「離して!」
イズンに肩を押さえられ騒ぐ炎の精霊を見て、金目の赤く燃え盛るような怒りは、蒼白い高温を宿した冷静なモノへと変化し、金目の鳩尾辺りをジリジリと焼いていく。
血溜まりに浮かぶ赤い花を見、敵意を込めた視線で英霊を見据え、聖盾「コギト」を構え前に出る。
(うん、金目さんが怒るのは間違ってない)
ユリアンは彼の怒りを凪いだ心で受け止め、英霊を見つめる。
仮面の下の表情は窺い知れない。
全身を覆うようなマントのお陰でその手元もよく見ることが出来ない。
得体の知れない術を使う。それでも『英雄譚』のお陰で対策が出来ない訳では無い。
「俺は帝国に縁あるもの。この国の人の笑顔も嘆きも何度も見て来たよ。エルフハイムにも関わった事がある。人もエルフも、辛抱強い人達だったと思う」
警戒は怠らない。
だが、証の示し方は一つではなく、今語る言葉も証の一つと信じている。
「貴方が生きた物語に歪虚はいただろうか? 今、世界は国と国、ヒトと亜人では無く、生ける者と歪虚との戦いになっている」
英霊は動かない。
アウレールはユリアンの言葉を引き継ぐように話しかける。
「未だ強大な歪虚の脅威と国力の疲弊。戦費の増大、数度の本土決戦、人的資源の消耗。最早「一人」で戦い続ける力は残っていない。種はおろか世界さえ超えて団結する時代、帝国はいち早くその手本を示した」
アウレールの胸中を過ぎるのは【神森】の顛末。
積み上げた無理解と憎悪が国を滅ぼしかけたあの事件。三百年に及ぶ呪いを解決したのは『対話』だった。
「共存の社会にあって、今や民衆は亜人征討など望まない」
アウレールの言葉にゆるりと英霊の首が傾いだ。さらりと紫の髪が風に揺れる。
「なら、“何故私が英霊となって此処にいるんだろうねぇ?”」
――それは、アウレールが問おうと思っていた言葉だった。
「君たちが、帝国の民が“望んだ姿”。それが私なのではないのかな?」
「あなたの力は必要だわ」
未悠の言葉に「ほう」と英霊は面白そうに見返す。
「変わってしまったものもあるけれど、全てを懸けて大切なものを守る志は失われてはいないわ。この世界を守る為に一緒に戦いましょう」
「世界を守る。あぁ、その為に私も我が君も戦い続けた。歪虚がいたか、だと? いたさ、当然だ。あれらは太古の昔より全ての生きとし生けるものの敵。害悪そのもの。だが、それ以上に亜人はダメだ。誰もが安心して健やかに暮らせる理想郷の建国の為にアイツらをまず駆逐しなければ」
「何故そこまで……」
英霊が放つマテリアルの圧に未悠は思わず柄を掴む手に力を込めた。
●
絶火の騎士 報仇雪恨のネグローリ。
報仇雪恨とは仇討ちをして恨みを晴らすことの意。
どれほど長い年月、亜人を屠ってきたのか。それでもなお消えぬ怒りを抱く程何をされたのか。
目の前で“殺人”が起こった。その衝撃からかそこに思い至れるほどの余裕がハンター達には無かった。
「っ!」
フェリアが咄嗟に杖を構えると、光の線が弾けて消えた。
「干渉魔法か、やるね」
楽しげな声にアウレールは奥歯を鳴らす。
――結局、戦うしか無いのか。
アウレールが騎乗し、聖剣「カル・マ・ヘトン」を抜き構えると、英霊は仮面の下で目を細める。
「懐かしい剣だ」
その声音が驚くほど優しさに満ちていてアウレールは目を瞬かせる。
「『人を愛し守護せよ』。亜人を狩り、領土を拡張する時代はもう終わった。価値観は変わったんだ」
「その価値観が変わったという世界で、どうして私は“私のまま”ここにいるのだ!?」
アウレールの剣筋は杖で捌き逸らされる。
羽根の幻影を散らし、その羽根を運ぶ風のように一気に距離を詰めたユリアンがすれ違い様に斬り付けるが、その一撃も杖が弾き届かない。
金目は盾を、未悠は絶火槍を構えエリオと共に慎重に距離を詰め、フェリアは雷撃で貫かんとするのをユリアンの鞭が補助し、英霊の動きを止める。
しかし、轟雷を受けても英霊の白いマントには焦げ1つない。
フォッカが鎚を構え距離を詰め、イズンが撃った銃弾が英霊の胴を貫くが、それにも動じた様子は見られない。
英霊の杖が光ったのを見て、フェリアが再び干渉を試みる。
「そう何度も邪魔はさせなよ」
フェリアの干渉を突き破り光の鞭がアウレール、ユリアンへと襲いかかるが、アウレールはこれを見事受けきり、ユリアンは上体を反らしそのままブリッジするようにバック転することで避けきった。
嗜虐性を含んだ笑い声が英霊から漏れる。
「……そうこなくっちゃね」
「ネグローリ……!」
未悠の見えざる手が英霊を掴みその場に縫い留め、素早い連撃を未悠が打ち込み、連携してエリオが青龍翔咬波を放つ。
スケッギョルドの両刃とフォッカの鎚が追従するが、英霊はしゃがみ込んでその攻撃を避け、イズンの銃弾が再び胴を狙うが、これは杖に遮られてダメージにならない。
剣戟の音が河原に響く。
どちらかといえば防戦に寄ったスキル構成であった事や、縁のある人々の祈りが様々な形でハンター達を助けた事もあり、致命的な傷を負う者はまだいない。
だが、決定打を与える事も出来ないまま徒に時間だけが過ぎ、疲労の色が見え始める。
「……流石は“英霊”か」
忌々しそうに呟いたエリオの横で金目は自分の抱く怒りと静かに向き合っていた。
そして、はたと気付いた。
(この怒りこそがネグローリを形作るものではないのか)
“同胞”を殺された怒り。尊厳を踏み躙られた怒り。
「貴方が抱く“亜人”に対しての怒り。それが、今、僕が“貴方”に抱く怒りだ」
金目の言葉に英霊は動きを止めた。
「先ほど貴方は言った。『どうして私は“私のまま”ここにいるのか』と。僕は英雄譚には詳しくないけれど、貴方はまだ、仇討ちを終えていない、恨みを雪ぐことも出来ていない“ネグローリ”なんですね」
終焉を語られない英霊。彼が、彼女が救われた幸福な結末はあったのだろうか?
あぁ。と未悠も思い至る。
“英霊”と呼ばれ、イズンとのやり取りがどことなく他人事のようだったこと。
なまじ力を得ただけに、その怒りは自分自身へも向けられていたのだろう。
『どうして同胞を助けることが出来なかったのか』『自分にもっと力があれば』――
それは、亜人を憎み、自身を呪う怨嗟となる。
そしてその怨嗟の行き着く先は……想像に難くない。
「今この国を脅かしているのは亜人ではなく歪虚よ。人類の共通の敵。強いては、世界の敵よ」
未悠は【闇光】【哀像】そして自分が今まで関わってきた戦いについて語りながら槍を振るう。
既にワイルドラッシュもファントムハンドも使い終えた。
執拗に杖を狙った為か、攻撃そのものを受け躱されることも多かったのが痛い。
エリオはイズンとタイミングを合わせ、前へと出る。
そして、ついに仮面の上から英霊の横っ面にその拳を沈めた。
「ドワーフやエルフ、コボルト達だって今や大切な同胞だ」
自らの脚で森を出た2人のエルフの少女達。
南方大陸で見た光景。
「人類は変わった。それにあわせて望みもまた変わった。人類に仇なすのはいまや亜人に非ず、だよ」
顔面を殴られた英雄はその衝撃によろめく。
「アンタが英霊でも帝国の民を、土地を荒らすなら戦う。退くつもりは無い!」
想いを拳に乗せて、構えを取る。
「平等を謳うつもりは無いけれど、彼らは協力しあえる友人です」
フェリアは様々な依頼で、種族を越えて手を取り合い、困難を乗り越えてきた。
ハンター仲間にもエルフやドワーフ、リアルブルー出身者も多い。
常識の違う相手と分かっていても、“友人”を殺し続けるというのならば許せる相手ではない。
これまでの感触で風属性は相性が悪いことも分かっていたが、混戦となり近接攻撃をする仲間がいる中でファイアーボールは使えない。
最後のライトニングボルトを放ちつつフェリアは毅然とした瞳を向ける。
「今はヒトも亜人も共に戦い、世界は揺れて大きな岐路に立っている……だから呼ばれたんじゃないかな? 新しい物語のために」
亜人への怒りも自分への怒りも全て背負ったままの“ネグローリ”にやり直すチャンスを与えるために。
「新しい物語、だと? 都合の良いことだ」
「……そうかもしれないね」
ユリアンは素早く剣で斬り付けては距離を取ると小さく笑った。
『~だったら』『~こうしていれば』迷うことばかりで、自分の力の無さに虚無感を覚え思い悩む日々。
アウレールのように『自分は人類の守護者だ』などと胸を張れる自信はまだない。
それでも、足掻いている。諦められず、手を伸ばしもがいている。風が止んだ『あの日』からずっと。
「より良い未来を目指して足掻き、変わり続けるのが人だ」
アウレールのきっぱりとした声に、ユリアンは思わず自分の事を言われたのかと目を見開く。
「人とは種の名前ではない、在り方だ。理性と感情を携えて、天涯の夢を追い続ける求道者の名だ」
アウレールは馬上から剣の切っ先を英霊へ向ける。
「ヒトもそれ以外も、明日への想いは同じ。それでもなお過去に殉じると言うなら」
朗々とした声が静かな河原に響く。
「問おう、誰も泣かない世界の為に、今再びこの剣の銘の下に集うか。
それとも此処で『人類の敵』として討たれるか!」
●
「ふふ……あはははははは」
突如笑い始めたネグローリに、一同は唖然としながらも一歩引いて動向を窺う。
「……まさかまたその言葉を聞けるとは思わなかった」
ひとしきり笑った後、英霊はアウレールへと視線を合わせた。
「我が君も『誰も泣かない世界』を欲していたよ。その為には、ヒト以外全てを切り捨てるしか無かった。でもそれに胸を痛めるような優しい方だった……君はそれが叶うと想っているの?」
「成してみせる」
アウレールの言葉を受け止め、英霊は周囲を見回す。
傷付いた8人を見、白い手袋に包まれた己の手に視線を移した。
「そうか、世界は変わったのか」
その声は優しく柔らかい。
「貴方の力が必要なの。この世界を守る為に一緒に戦いましょう」
未悠が手を差し出すとそれを見て英霊は首を横に振る。
「戦う者がそう簡単に利き手を他人に晒すものじゃないよ」
「一緒に来てくれるのかしら?」
フェリアの問いにネグローリは頷いた。
「ただし。1つ、私にはやらねばならないことがある」
「やらねばならないこと?」
オウム返しに問うエリオ。
「私がいるということは、あの女も英霊……いや、邪霊と言った方がいいのかな……? とにかく、良くない者も顕現している可能性が高い」
「……あの女……『寵姫 ローゼマリー』ですか」
イズンの指摘に英霊は頷く。
寵姫 ローゼマリー。
『皇帝を誘惑した淫女』
『帝国を堕落させた魔女』
英雄譚の中で、優秀でありながらも孤独を抱える皇帝に言葉巧みに取り入り、帝国を内部から腐敗させようとした魔性の女、悪役の1人として描かれる。
英雄譚の中では賢妻であり献身的な皇后の愛により皇帝が我を取り戻し、ネグローリの手により本性をばらされ極刑に処されるというのが一般的なストーリーとなっている。
亜人殺しで有名なネグローリが唯一手を掛けたヒトであることで有名ではあるが、それ以外としては英雄譚の中では数少ないお色気シーンがある為、様々な派生を生み、改編され語り継がれている物語の一つである。
「あれが我が君と接触する前に殺さなければ」
「……そう言って逃げるのか」
フォッカが炎を宿した瞳で睨め付ける。
ドワーフを1人殺した。それは許されざる事実だ。
「フォッカさん」
金目もまたそれを許した訳では無い。許せるはずも無い。
だが、この怒りと哀しみを越えた先に次へと繋がるのならば。
そして精霊がこんなにも死んだドワーフのことを想ってくれるだけで、少し救われる気がした。
「場所は分かるのですか?」
「あぁ、恐らく“あそこ”だ」
英霊は北東を見る。一同もまた釣られて北東の空を見上げた。
秋晴れの空はただただ眩しく。輝かしい一方で陰影は暗くなる。
その暗喩のように思えて仕方が無かった。
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アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/20 20:51:55 |
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質問卓 ユリアン・クレティエ(ka1664) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/23 00:54:45 |
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相談卓 エリオ・アスコリ(ka5928) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2017/10/24 18:38:07 |