• 東幕

【東幕】幕引きは誰ぞ

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/01/16 22:00
完成日
2018/01/21 20:40

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●五芒星に煌く
 恵土城への救援へと出発した幕府軍を見送り、立花院 紫草(kz0126)は静かに腰を降ろす。
 本来であれば戦況が悪化する前に動き出すべきだろうが、公家の面子もあるし、其々の武家の思惑や野望もある状況では、このギリギリのタイミングしかなかった。
 紫草がゆっくりもしないうちに、伝令の武者が駆け込んできた。
 警備の者が慌てて引っ掴んだまま、大広間に雪崩れ込む。騒然となる所を紫草は制した。
「騒々しいですね。どうしたのですか」
「憤怒歪虚が集結しつつあるとの事!」
 その言葉に、広間に揃っていた武士達が慌てて立ち上がった。
 同時に、別の伝令も息を切らして広間に飛び込んできた。その者の報告もまた、憤怒歪虚の集結や目撃情報だった。
「これは……」
 武士の一人が集結場所を地図に落とし込み言葉を詰まらせた。
「五芒星」
「あの秘宝に描かれていた術式とやらか?」
「なぜ、歪虚が?」
 口々に武士達が疑問の声を発した。
 憤怒歪虚が秘宝に描かれていた五芒星の各頂点に集まっている様子なのだ。
 明らかに何かの前触れである。それに五芒星は何かの術式という所まで分かっている。このまま、放置という訳にはいかないだろう。
「幕府軍を派遣するしかあるまい」
「だが、先程、恵土城に向かったばっかりだぞ」
「今から軍を編成して間に合うものか」
 戸惑う武士達の動きを見て、紫草は顎に手を当てた。
 明らかに憤怒歪虚が何か企んでいるだろう。だが、その最終的な狙いが何か分からない以上、迂闊に幕府軍を動かせない。
 それに、今すぐ動ける兵力は天ノ都の防衛に当てているのだ。この状況で首都を無防備にできるはずもない。
 紫草はスッと立ち上がった。その動きに武士達の視線が集まる。
「各頂点にはハンター達と各武家の少数精鋭で臨みます。戦力的に苦しいのは、むしろ、敵のはずです」
 憤怒歪虚残党の方が寡兵のはずだ。それが更に分散しているのであれば、恐れる事はない。
「し、しかし、少数精鋭といっても、すぐに出立できる者は……」
 武士の一人が恐る恐る言った。確かに、五ヶ所に派遣できる精鋭は限られている。
 それに、大将軍たる紫草も、天ノ都を空ける訳にはいかない。
 その時だった、何人もの供を引き連れた者が、ズカズカと大広間に入ってきて高らかに宣言した。
「ここで、俺様の出番だな!」
 ドヤ顔で現れたのは、エトファリカの帝であるスメラギ(kz0158)だった。

●二つの戦場
 東方の各地に少数精鋭が向かう。
 紫草も一か所を受け持った。もっとも、紫草自身は天ノ都を離れるつもりはない。
 なので、ハンターと立花院家の武士に任せるつもりなのだ。
「殿……一大事であります」
 部下の報告に紫草はピクリと眉を動かした。
「ヨモツヘグリ跡地での定期的な浄化の為、派遣していた浄化班ですが、既に出発したとの事」
「……分かりました。すぐに彼らを追うように、ハンター達を先行させましょう」
「それと、もう一つ……」
 そう言って、部下は紫草の耳元で小さく告げる。
「未確認の情報ですが、強力な負のマテリアルを発する歪虚が天ノ都より南の荒野に出没したと……」
「その情報を確定するには、どの位掛かりますか?」
「探索を含めれば最低でも3日は……」
 真剣な表情で紫草は思案する。
 そして、横目でチラリと東方の地図を見た。そこに秘宝に描かれていた五芒星を重ねる。
「……呼び出したハンターからも同行させ、武士はそちらに向かわせましょう」
 戦力を二分する事にはなるが――やむを得ない事だ。
 特に、強力な歪虚が出没しているとすれば、そちらに向かった者達は、最悪……の結果になる可能性も高い。

●崩壊の地
 ヨモツヘグリとは、かつて、東方解放戦が行われた時に、山本五郎左衛門が作り出した巨大な生体兵器だ。
 それはハンター達の活躍によって、崩壊。その地は負のマテリアルによって強く汚染されたままだ。
 勿論、幕府としてもその状況を放置していた訳ではない。強い汚染状態のままだと、雑魔が出現する可能性が高いからだ。
 その為、定期的に符術師による浄化が進められていたのだが……。
「もうダメだ……もうダメだ……」
「諦めるな、必ず、救援が来る」
 いつものように定期的な浄化の為に訪れていた符術師や僧侶達は、術の最中に憤怒歪虚の強襲を受けた。
 慌てて、一人が特殊な結界を張った。そのおかげで憤怒歪虚の侵入を防げたが、まったく身動きが取れない状況だ。
 更に、あろうことか、憤怒歪虚は結界の傍に、見た事もない祭壇を持ってきた。
 憤怒祭壇と一人の符術師は名付けた。憤怒歪虚や雑魔が幾体か合わさっている摩訶不思議な祭壇なのだ。
「結界が維持できなくなったら、俺ら……最後だな……」
 一人の僧侶が絶望的な言葉を発する。
 複数人の僧侶で結界を維持する術を行使しているが、もう、そろそろ、マテリアルが枯渇するだろう。

●憤怒の影
 狐耳のような髪が、ぴょんと立った。
 冷酷そうな表情な美女は、僅かに口元を緩めて微笑む。
 ここまで、計画通りだ。後は、術式が完成すれば、目的も達成できるというもの。
「これで、我ら、憤怒の願いが成就されます。ね、蓬生お兄さん」
「なら、狐卯猾。私は帰りますね」
「まだですよ。見届けて貰わないと」
 そう言って、狐卯猾と呼ばれた美女は蓬生の袖を掴む。
「それに、可愛い“妹”をこんな危険な場所で一人にするつもりですか?」
 何が可愛いだと蓬生は心の中で思った。
 というか、そもそも、兄妹であるかどうかと言われると、正確には違うだろう。
 正確に言うならば、『もともと、一つだった』というべきか。だから、蓬生は、この“妹”が嫌いだった。
「ほら、来ましたよ、蓬生お兄さん。私が術式を完成させるまで、時間稼ぎをお願いします」
「そうなると思いましたよ……」
 二人の歪虚の視界の中、広がる荒野にハンターや武士の姿が見えたからだ。
 だが、その数は少ない。それはそうだ。恐らく、彼らはここに居るのが元憤怒王と知ってきている訳ではないのだろうから。
 それに、術式を維持しながらとなるが、狐卯猾も戦えないという訳ではない。
「今更、人間共が出てきても無意味。王手よ」
 狐卯猾は残忍な表情を浮かべた。



==========解説==========
●目的
憤怒祭壇の破壊。
強力な歪虚と交戦し生き残る。

●二方面作戦
必ず【祭壇】【憤怒】いずれかの行動先を指定して下さい。
未指定や二つ以上指定した場合、報告官の独断と偏見で決めます。

●戦闘条件
【祭壇】【憤怒】共に、戦場は荒野であり、障害物なし。
開始時、50スクエアあるものとします。騎乗あり。

リプレイ本文

●【憤怒】
 視界の先に見えるのは強大な負のマテリアルを発する憤怒の歪虚。
 人の姿をしているが、その雰囲気は、明らかに人では無い。
「微力ながら、全力を尽くさせていただきます」
 ヘルヴェル(ka4784) は番えた矢を放つ。距離は離れているので、確実に当たるという保証は無いが、敵の出方を測るには必要な一射だっただろう。
 狐耳のような髪型の歪虚は、その矢を払い落した。
 同時に迫ってくるハンター達を出迎えるように、両手を広げると、負のマテリアルを周囲に放つ。そこへ、別の歪虚――蓬生――が、やる気の無い様子で立ち塞がった。
「さて、強力な歪虚というと、やはり憤怒王の尾でしょうか?」
 そんな疑問の声を上げたのはヴァルナ=エリゴス(ka2651)だった。
 『九蛇頭尾大黒狐 獄炎』はハンター達に敗れた際に、尾を切り離している。尾だけでも強大な負のマテリアルを持つ歪虚なのだ。
 順当に考えれば、ヴァルナの予想通りというものだ。
 少しばかり複雑な表情を浮かべながら、天竜寺 詩(ka0396)は視界に見える蓬生を見つめる。
「間違いなく、蓬生かな……分体でなければだけど」
 彼女は気になる事があるようで、詩はキョロキョロと周りを見回した。
 だが、周りは荒野が広がっているだけだった。気を取り直して、茨の術を行使する。
 スッと、鳳城 錬介(ka6053)も横に並んだ。
「蓬生は強力無比の歪虚です。きっと、一緒に居る歪虚もまた、強い存在だと思います」
「いずれにせよ、今回は強行偵察……無理は禁物ですね」
 ヴァルナの台詞に詩と錬介は頷いた。
 蓬生は憤怒王にも数えられた存在。討伐する為には準備も戦力も必要だ。
 そして、蓬生の後ろに立つ歪虚からも、強い力を感じる。
「憤怒が東方各地に集まっている状況で、こんな所に強力な歪虚がいるか……」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が魔導バイクを走らせながら言う。
 どう見ても、ただの通りすがりの歪虚――という訳ではなさそうだ。レイオスと並走するアウレール・V・ブラオラント(ka2531)も同様の意見だった。
「全くだ。碌でもない下法準備中なのは明らか」
「目的はなんだろうか」
「どうせ、王の復活か、天ノ都の爆破でも、企んでいるのだろう?」
 歪虚の目的は分からないが、人類にとって碌な事でない事は確実だろう。
 二人の会話を聞きながら、神代 誠一(ka2086)も魔導バイクを走らせて歪虚との距離を一気に詰める。
「東方解放戦もヨモツヘグリ戦も忘れられるわけがない。ここは彼らの犠牲を糧に守った地。帰っていただきます」
 沢山の犠牲の上に、辛うじて掴み取った勝利。
 それを無駄にしない為にも、憤怒残党の企みを粉砕しておきたい所だ。

 後方から射撃を繰り返すヘルヴェルを除くハンター達は各々、魔導バイクや馬で歪虚との距離を詰めた。
 蓬生が丸太のような巨大な棍棒をどこからともなく出現させると、それを掲げる。
「私でも狐卯猾でも、好きな所から掛かって来て下さい」
 どうやら、蓬生の背後の狐耳のような髪型の歪虚の名は、狐卯猾(こうかつ)と呼ぶらしい。
 守る気が無いのかあるのか、イマイチ分かりにくいが、とりあえず、ハンターを迎え撃つようだ。
「私が行きます」
 左右の手に直剣を構えてヴァルナが対峙する。
 その初撃を蓬生は棍棒で受け止めた。ぐっと剣を身体ごと押し込むヴァルナと一歩も引かず、かといって押し返す気も無い様子の蓬生。
「手加減しているつもりですか?」
「面倒なだけですよ」
 圧倒的な力量を感じる。ハンターを侮っている――というよりかは、戦うという行為自体にやる気が無いみたいだ。
 ヴァルナをすぐに援護できる位置で詩は注意深く蓬生の動きを見つめながら、ある事を尋ねる。
「貴方、前に虚博と一緒にいた元憤怒王でしょ? 虚博はどうしたの?」
 詩の質問が意外だったようで、やる気の無い表情を浮かべていた蓬生がパッと視線を向けてきた。
「虚博さんですか……惜しい人でした……」
 振り回していた丸太を止め、惜しむように空を見上げる。
 その間にもヴァルナの攻撃は続くが、まるで、柳の枝のようにスッスと避けて当たらない。詩は嫌な予感がした。
「どういう意味?」
「私の後ろに居る狐卯猾に連れていかれました。姿を見ないという事は――」
 つまり……喰われたのだろう。
「……そっか」
 何処か憎めない歪虚ではあったんだけど……と詩は心の中で続けた。
 狐卯猾という歪虚に訊ねても、きっと、正直に答えるようにも思えない。
 もし、虚博の能力を狐卯猾が取り込んでいたとしたら……多彩な雑魔を創り出す事が出来るのだろうか。
 見れば、仲間のハンター達が狐卯猾へと迫っていた。
「この美人も憤怒歪虚か。髪型に合わせて尻尾を出したらどうだ?」
 レイオスは挑発しながら剣を振るう。
 それを余裕の笑みを浮かべながら狐卯猾は後ろに下がって距離を取った。
 寒気を感じる負のマテリアルを周囲に放つが、特に影響は感じない。
「馬鹿な人間。私は尻尾そのものよ」
「憤怒残党が五芒星を描くよう集まってるんだ。囲った中がどうなるんだ? 花畑にでもしてくれるのか?」
 なおも挑発を仕掛けるが、狐卯猾に通じているようではない。
 憤怒にありながらも、冷静なようだ……いや、怒りを溜め込むタイプかもしれない。
「そうね。死んだ人間共の顔を花に見立てるのはいいかもしれない」
「この澄まし顔の女狐。その沸いた頭で悪巧みが出来るか試してやろう」
 レクイエムを唄っていたアウレールが月影色に輝く長刀を突き出した。
 強度が足りなかったのか、そもそも通じないのか、効果が無いと判断したからだ。
「今日は愉快な人間が多いわね」
「余裕めいていられるのも今だけだ」
 刀先が紙一重で避けられた。しかし、その攻撃は無駄では無かった。
 突如として誠一が狐卯猾が脇から斬りつけたからだ。目の前のハンターに意識を集中していた狐卯猾は避け損ねる。
「名前の響きからして、悪賢い相手なのかもしれません。幾重にも策を用意している可能性があります」
 一撃を入れると間合いを取る誠一の背後から符が幾枚も飛んだ。
 夜桜 奏音(ka5754)が放ったものだ。符は狐卯猾を包んで光り輝く結界を形成した。
「今回は情報収集に徹しましょうかね」
 依頼内容も天ノ都の南に現れた強力な歪虚の情報を持ち帰る事だ。
 ならば、無理をする事はない。符が作り出した結界の中で焼かれる歪虚を見つめながら、次の符を用意する。
「ひとまずは魔法属性の相性の確認といきましょうか」
 そこへ、光の筋が飛んだ。アルマ・A・エインズワース(ka4901)が放った機導術だ。
 立て続けに魔法攻撃を受けた狐卯猾は不機嫌そうな表情でハンター達を見渡す。
「本当に無駄に数だけはいるのね。人間って」
「わぅっ!? 僕、この子やーですーっ!」
 頬を膨らませるアルマ。
 どうも性格的に合わない気がする。
 それは、狐卯猾も同様に感じたようだった。そういう意味では合っているかもしれないが。
「手の内は見せたくないけど、仕方ないわ」
 狐卯猾が両手を広げると、負のマテリアルの波動のようなものが一帯に広がった。
 それらは一陣の風のように駆け抜ける。
「これは……精神汚染ですか!?」
 蓬生と戦っていたヴァルナが声を発した。
 負のマテリアルの波動は、狐卯猾から十数メートル離れた彼女にも届いたからだ。
 体内のマテリアルを意識させて対抗した。
「耐えられない事は無いですが……」
 ヴァルナはグッと歯を食いしばって、腹底から込みあがってくる何かを抑えつけた。
 同時に、これから起こる事にどうすべきかと思案するが、蓬生と戦っている以上、どうしようもない。
 ハンター達に起こった異変は、距離を取っていたヘルヴェルも見えていた。
「怒りを増す術でしょうか」
 馬が一斉に怒り狂いだしたのだ。
 その為、落馬する者、何とか制御しようとする者とその騒ぎに巻き込まれる魔導バイクを駆るハンター。
 中には果敢にも狐卯猾へと殴りかかる者も居る。歪虚が放った負のマテリアルに抵抗しきれなかったようだ。
「有効な属性が判明すれば良かったのですが」
 冷静に観察しながら、ヘルヴェルはマテリアルを込めながら、矢を番えた。
 少しでも狐卯猾の気を引こうと思ったからだ。だが、この状況を狐卯猾が見逃すとは思えない。
 想定した通り、高笑いを続ける狐卯猾は全周を巻き込む炎の竜巻を発生させた。一気に焼かれるハンター達。
「回復魔法を使います!」
 炎に耐えながら、錬介はマテリアルを練る。
 敵の範囲攻撃は強烈だが、ハンター達には回復手段があるのだ。だから、まだ、戦える――そう思っていた。
 掲げた右手から癒しの光が放たれるが、寒気を感じさせていた負のマテリアルが渦巻いた。
「これ……は、まさか、回復力が下がっている」
「そこの鬼、教えてあげるわ。本当の怒りというものはね……冷たいのよ」
 微笑を浮かべているが、狐卯猾の瞳には怒りに満ちていた。
 これが、憤怒――ツォーン――の力というものなのか。
 仲間達は先程の精神汚染による影響で体勢を持ち直していない。このまま、範囲攻撃を許したら、確実に何人か逝けるだろう。
 その時だった。朗々たる歌声が戦場に響き渡る。
「少なくても蓬生と同等か近い実力って事は分かったな」
 龍崎・カズマ(ka0178)がマテリアルを活性化させながら姿を現した。
 彼の唄と踊りは憤怒の精神汚染から仲間達を救う。
「……ふーん。やるじゃない」
「こちらの戦力を低下させてから攻撃という順序は悪くない」
 カズマは立ち直りつつある周囲の状況を見渡しながら、狐卯猾の台詞に応えた。
 この歪虚が使う能力は狡猾そのものであるようだ。
 精神汚染と支援能力の阻害。戦力をダウンさせてからの範囲攻撃。
「正を以て合し、奇を以て勝つ……憤怒の割りに、基本に忠実だな」
「一時的に立て直したとしても、それで、なんとかなると思って?」
 チラっとカズマは視線を蓬生へと向けた。
 アルマが何か蓬生と話していた。きっと、挨拶か何かしているのだろう。そういえば、彼の兄も以前、蓬生と気さくに話している様子だったか。
 とにかく、アルマの何気ない行動は、ハンター達に味方した。蓬生が積極的に攻撃を仕掛けてくる様子がなければ、今が、引き揚げのチャンスだ。
「一度、攻勢に出てからにしましょう」
「その首、そぎ落とす!」
 誠一とアウレールが攻撃に出る。
 その二人に合わせるように奏音の符が再び舞った。先程の結界ではなく、別の符術だ。
「魔法系のようなのでスキルが使えなくなるなら、どう動きますかね」
「その程度の強度で、私を封印しようなど」
 手を一回し、舞っていた符を払いのけたが、無防備な所を誠一の攻撃が入った。
 毒も通じているようだが、顔色一つ変えない所や体勢が崩れない所を見ると、耐久力そのものも高そうだ。
 アウレールの強烈な一撃は狐耳を吹き飛ばした。
「惜しいわね。首を狙っていればいいのに」
「お気に入りだったのだろう」
 直後の事だった。負のマテリアルがアウレールの身体を包み込んで身動きを封じた。
 身体を動かす事が出来なければ、鎧で受け止める事も出来ない。アウレールの身体を狐卯猾が何時の間にか手にしていた直剣が貫く。
「アウレールさん!」
「引き揚げだ!」
 咄嗟に錬介が回復魔法を唱え、カズマがフォローに入った。
 錬介の回復魔法は、やはり、威力が低下している様に見える。
「逃がさないわよ。全員、ここで皆殺しよ」
 残酷な笑みを浮かべて怒りを誘うマテリアルの波動を放出しようとした矢先だった。
 その出鼻をくじくように、マテリアルの光刃が歪虚を切り裂いた。
「控えていた意味があったようだ」
 戦況を観察していた銀 真白(ka4128)が割って入った。
 距離を取っていた為、精神汚染も範囲攻撃からも逃れていたのだ。戦闘の様子は魔導カメラで確りと収めた。
「回復魔法も距離が離れれば正常になるやもしれぬ」
「なるほど。あり得そうですね」
 真白の推測に錬介は頷いた。
 そして、アウレールを誠一と共に抱えると、下がり出す。
「俺は馬を引き揚げさせる」
 カズマが素早い動きで仲間のハンターが乗っていた馬の手綱を引っ張る。
 戦場に置いていけば、歪虚の餌食になるだけだ。
「殿、よろしくお願いします」
 ありったけの符を行使して、奏音が新たな結界を真白を中心に浄龍樹陣を張った。
 移動する事ができない結界であるが、こういう場面では極めて有効だろう。
 マテリアルを活性化させて自己強化をしたレイオスも真白に並んだ。
「オレも殿に残る」
「よろしくお願いする」
 ペコリと軽く会釈すると、真白は蒼機剣を構えた。
 積極的に斬りかかる――と見せかけて、光の刃を形成して飛ばす。
 それを狐卯猾は気にした様子なく避けた。誰かと一緒に同時攻撃したり、あるいは、気を引いたりしなければ、攻撃を当てるのは難しそうだ。
「結界を張っても無駄よ。どこまで耐えられるかしらね」
 複雑な印を描きながら狐卯猾が術を唱える。
 炎球が歪虚の頭上に出現した。ジリジリと下がる真白とレイオスの目の前で、火球はその数を増やす。
 まるで、一つ一つが生き物のように揺らめきながら回転する。
「術を重ねられる!?」
「そんな事も出来るのかよ!」
 真白の疑問にレイオスも驚く。
 通常、魔法には発動タイミングというものが決まっている。それを『ズラ』しているようだ。
 この場に魔術師が居れば、より詳細に推測できたかもしれないが……居ないものはしょうがない。
「離脱だ!」
 その時、カズマの叫び声が響く。
 引き揚げの準備が整ったのだろう。
 殿を務めていた二人のハンターは頷くと、一気に走り出した。逃がさないとばかりに、狐卯猾が火球を放つ。
 たちまち、大爆発――と、その爆炎の中から、真白とレイオスは間一髪、抜け出したのであった。

●【祭壇】
 今、東方の地があるのは、黒龍と龍脈の力が大きい。
 枯れているとはいえ、龍脈の跡は大事である。五芒星術式が龍脈に沿って展開されているかどうか知る由は無いが、この東方の大地に広がった龍脈が、今回の騒ぎで汚染される可能性は十分高いだろう。
「龍脈を悪いことに使ってはいけません。悪だくみさんは、阻止するのです!」
 力強く宣言したのはエステル・ソル(ka3983)だった。
 錬金杖を空高く掲げて意識を高める。
 視線の先には、憤怒歪虚が寄り集まって形成された不気味な祭壇。そして、祭壇へ供されるような浄化班の結界が今にも消えそうに弱々しい光を放っていた。
 憤怒歪虚の数も多い。ハンター達の存在に気が付いた様子だ。
 双眼鏡で確りと状況を観測しながら、クレール・ディンセルフ(ka0586)は怒りの声を上げた。
「祭壇……包囲……好き放題やって! 怒ってるのは、こっちだ!」
 浄化班は幕府から派遣されているという。
 負のマテリアルによって汚染された大地を、人類の手に取り戻す為に。
「浄化班は全員守り、祭壇は跡形もなくブッ壊す!」
 それが、ハンター達に課せられた依頼内容でもある。
 リラ(ka5679)と歩夢(ka5975)の二人もエステルの傍で、大魔法を見守っている。
 この戦い、その初撃が肝心要なのだ。歪虚や雑魔によるいらぬ妨害を警戒する意味はあるだろう。
「エステル! 思いっきりにだよ!」
「他のハンター達との通信状況も問題ない」
 二人の台詞にエステルは詠唱を続けながら頷いて答える。
 隣ではクレールが観測した内容を細かく伝えてくれていた。これなら浄化班を巻き込まないで、大魔法が使えるはず。
「……岩をも浚う激流よりも強く、何処までも翔る疾風よりも高く……」
 流暢に、まるで唄のように流れるエステルの魔法詠唱。
 ただの魔法ではないのは誰もが理解できた。高い集中力と魔力を有する者のみが扱える、マギステルの最大にして最強の範囲魔法だ。
「……果てる事なき空に、遍く降り注ぐ太陽の光よ、軌跡と成りて星を導け……メテオスウォーム!」
 幾つかの燃え盛る火球が見事な放物線を描き、憤怒祭壇と周辺に降り注いだ。
 それで消滅する雑魔も居れば、爆発を器用に避ける歪虚も居る。
「凄いよ、これが魔法……」
 広範囲に広がる爆発を見つめて、リラが驚きの声をあげた。
 こればっかりは、幾ら拳で叩いても真似出来ない。
「生き残りの歪虚のうち、幾つかがこちらに向かってくるか」
 メテオスウォームの影響を確認しながら、歩夢は戦場に場違いな雰囲気のソリに乗った。
 特別なソリだ。式符はあっという間に憤怒歪虚に壊されるので、空に上がり、敵の動きを確認するつもりである。

 浄化班を保護する為に一斉に前線へと飛び出るハンター達の背中を追いかけながら、鹿東 悠(ka0725)が呟く。
「状況は聞いていましたが、思いの外、追い詰められていますね」
「なんとか追いつけそうじゃんか」
 ジェスター・ルース=レイス(ka7050)が応えながら日本刀を構える。
 真っ先に先行している仲間達は浄化班の保護が目的だ。迎撃に出てくる敵を無視しても浄化班に辿り着くつもりだろう。
 という事は、先行組の支援の為にも、迎撃に出てきた敵を足止めする事は意味はあるはず。
 二人が標的を定めた時、紅蓮の炎が憤怒歪虚を包み込んだ。蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が放った魔法だ。
「憤怒……か……おんし等以上の怒りを以て、灰燼と為してやろうてのう?」
 なおも続けて魔法を唱えた。
「轟く雷、穿つは我が怨敵……一閃の想いに貫かれ、己が矮小さを識れ」
 銀色の短剣がマテリアルの光と共に輝く。
 刹那、雷鳴が響き渡り、雷が敵を貫いた。
 その援護を受けて、突貫する悠のハルバートの一撃が憤怒歪虚を粉砕する。
「さて、さっさと要救助者を確保して、悪趣味な祭壇を始末しますか」
 別の歪虚もジェスターが薙ぎ払う。
「これで、オレらを無視できないって分かったかよ!」
 初動の勢いはハンター達にあるようだ。あとはこの勢いが保持できれば……。

「たぁすけにきたぞー!!!」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)の声が辺り一面に広がる。
 巨大な斧を振り回しながら迫ってくる様子に、浄化班の者達の表情がパッと明るくなった。
 逆に取り囲んでいる憤怒歪虚共は新たな脅威の出現に気が付いたようだ。
 彼女の狙いはそこにあった。自分達が現れたという事実を敵を知らせ、浄化班から意識を逸らせればいいからだ。
「憤怒王を倒したのはもう随分前だってのに……いつまでこの世界に居座る気だ!」
 幾体かの歪虚や雑魔が牙を向けた。
 ボルディアの言葉が通じているのか分からないが、憤怒らしく怒っているようにも見える。あるいは威嚇しているつもりか。
 勿論、そんなもので彼女の勢いが止まる訳ではない。目の前を立ち塞がった憤怒に斧を振り下ろした。
「もう、テメェ等の舞台はとっくに終わってンだよ!」
 轟音と共に憤怒が吹き消し飛ぶ。
 突出したのはボルディアだけではない。不動シオン(ka5395)と鞍馬 真(ka5819)も同様だ。
「そんなつまらない儀式はやめて、私を楽しませろ」
「間に合えば良い、じゃないな。間に合わせるんだ…!」
 馬に乗りながら銃撃を繰り返すシオン。
 その合間に、僅かに先に出た真が魔導剣を突き出した。
 マテリアルの刃が一直線に伸びると、直線上に居た歪虚を貫いていく。
 敵の間を縫うように突破していたユリアン(ka1664)が、浄化班まで真っ直ぐに開いた道を見逃すはずがない。
 まるで、疾風のように戦場を駆け抜けると、一気に浄化班へと辿り着いた。
「行こう。全員で、帰ろう」
 華麗な動きで馬から降りると、精霊刀を構えつつ、回復薬を浄化班へと渡す。
 そこへ通信機から仲間の声が入ってきた。
「通信! 皆さん、メテオ行きます!」
「これで道を作ります」
 クレールの声と共に、エステルの二発目となるメテオスウォームが放たれた。
 仲間を巻き込まないように配慮されてはいるが、ハンター達の勢いを保つ押しの一撃。
 浄化班の退路を塞ぐ憤怒歪虚を爆発が包んだ。
 そこへ、時音 ざくろ(ka1250)が全身からマテリアルの輝きを発しながら躍り出る。
「ヨモツヘグリ跡に集結する歪虚の囲みを破り、浄化班を救出して祭壇を壊す冒険だよ!」
 五芒星術式とやらも気になるが、今は何よりも、危機に陥ってる浄化班の人達を救う事が大事だ。
 周囲から迫る歪虚や雑魔の攻撃を物ともせず、ざくろは機導術と盾を駆使して敵の攻撃を引き付ける。
「着装マテリアルアーマー! 超機導パワーオン! 弾け飛べ!!」
 迂闊にもざくろに攻撃した憤怒は機導術を受けて吹き飛んだ。
 浄化班の脱出には絶好のチャンスだ。
 アリア・セリウス(ka6424)が魔導剣と双龍剣の刀身を揃えて掲げた。太陽の光を眩く反射する。
「道を切り拓くのは、元より私の願い……」
 実力の違いも分からず襲い掛かってくる雑魔を一閃して切り伏せる、アリア。
 憤怒歪虚に囲まれながらも救助が来ると信じ、ひたすら待っていた彼らに、応える瞬間は今この時だ。
「命を救う為、想いを繋げる為の、明日への継承の祈りを、戦の裡で示す為……喪わせはしない」
 二刀の剣舞の直後、マテリアルの刃が神秘的な月光を放ちながら、憤怒を切り裂いた。
 ハンター達が切り開いた退路を通って蜜鈴が駆け抜ける。退路は出来たが、まだ安心はできない。数は敵の方が多いし、遠距離攻撃もしてくるだろうから。
「保証はせぬ……が、案ずるな、必ず生きて帰れると我等を信じよ。それが力と成る」
 暖かい光の粒子が浄化班を包み込むと、彼らを癒していく。
 幾人か怪我をしているようだが、ハンター達の回復薬と、浄化班に駆け付けた羊谷 めい(ka0669)の回復魔法でなんとかなりそうだ。
「祭壇の方もお気をつけてです」
 心配そうに仲間に告げる。
 憤怒祭壇は健在だ。幾つかの動物が合わさったような形容の憤怒歪虚が、更に寄り集まって形作っている祭壇は不気味そのもの。
 幸いな事に、祭壇からの攻撃で、まだハンター達はダメージを受けていないが、油断は禁物だろう。
 いつでも支援できるように、めいはマテリアルを高めつつ、自身も含め孤立しないように気を配る。こうした戦場ではお互いの連携が重要となる。
「防衛線の維持に全力を尽くしたいと思います」
「周りの掃討をする。今暫く耐えろ!!」
 めいの宣言に呼応するように、悠が浄化班を狙う憤怒をハルバートで引っ掻き倒した。
 ざくろも機導術の炎で敵を寄せ付けない。群れ成す雑魔を一掃する。
「唸れ熱線、拡散ヒートレイ!」
 ハンター達の攻勢に憤怒歪虚や雑魔が怯みだした瞬間、めいがキッとした表情で、退路を塞ごうとする動きをみせた憤怒の群れに対して魔法を行使した。
「……星々の煌きを支える穏やかなる漆黒の空よ、刃となりて、私達に仇なす悪しき者に戒めよ!」
 渇いた音と共に闇刃が憤怒を幾体も貫くと、そのまま空間に縛りつける。
 敵を倒すというより、敵の移動を封じ込める為だ。
 身動きが敵わなくなった敵にユリアンとアリアが斬りかかった。
「開け…っ」
「幻月斬閃――憤炎を祓う二つの刃を」
 ユリアンが残像を残しつつ駆けながら切り伏せ、アリアが圧倒的な攻撃力で斬り倒してしく。
 二人のハンターの攻撃によって、あっと言う間に消え去る歪虚や雑魔。
 浄化班の符術師や僧侶達は、ハンター達を魔法で支援しつつ待避を開始した。
 そんな彼らを迎えるようにリラが拳を構えながら周囲を警戒する。敵の脅威を仲間達が徹底的に排除したといっても最後の最後まで気を抜けないからだ。
「怪我した人が居たらいって下さいね!」
 元気な声で浄化班の人達に言いながら、身動きが取れないまま蠢いている憤怒雑魔にトドメを差す。
 一先ず、これで目的の一つは達成しただろう。後は――憤怒祭壇だけだ。
 リラはその方向に視線を向けた。今まさに、ハンター達の総攻撃が始まろうとしていた。
「私如きの攻撃、真っ正面から喰らって倒れるようでは面白くないぞ!」
 憤怒祭壇から放たれた光線を避けつつ、シオンが妖刀を振るう。
 幾つかの歪虚が合わさって出来ているというだけあって、憤怒祭壇は回避行動がとれないようだ。
 光線や炎で反撃を試みてくるが周囲をハンターに囲まれている状況では、ハンター達の攻勢を抑える事はできない。
 まるで、サンドバックのように、ひたすらハンターからの攻撃を受け続けている。
「もっと、私を翻弄してみろ!」
「これなら、攻撃を繰り返せば壊せそうじゃん」
 刀先を素早く切り返しながら、ジェスターがそう言った。
 ハンター達が一撃を入れる度に、大きく削れていく憤怒祭壇。
 解せないのは、祭壇そのものだ。儀式という割には祭壇周りが何もない。それとも、これから作るつもりだったのだろうか。
「浄化班は無事に脱出しました。後は一気に叩き壊してしまいましょう」
 とりあえず、謎解きは後からだ。今は持てる全てのスキルを全開にして真も祭壇破壊に加わった。
 ハンター達の猛攻に、ガクンと大きく崩れかける憤怒祭壇。そろそろ限界だろう。
 憤怒祭壇の反撃を気にした様子無く身体で受け止めながら、ボルディアがトドメとばかりに大斧を振り上げた。
 頭上で斧をぐるぐると回しながらマテリアルの炎を身に纏う。
「粉々に消え伏せやがれぇぇ!!」
 その強烈な一撃を受け、大音響と共に、憤怒祭壇が弾け飛んだ。

 直後、周囲に噴き出る負のマテリアル。
 元々汚染された一帯ではあるが、更なる浄化が必要になるだろう。
「浄化班が無事だったから、そのうち浄化されるかな」
 そんな事を言いつつ、クレールは、ふと思い浮かんだ事が気になった。
 作戦は成功した。祭壇は破壊できたが、祭壇自体の意味は分からなかった。
「何か気になる事がおありですか?」
 エステルの言葉にクレールは頷いた。
 ハンターとして……というよりかは、鍛冶師として、物を作る者として、引っ掛かっている事があった。
「祭壇って意味があるから祭壇だと思うんだ。それって何だったのかなって、ね」
 五芒星術式が結局、何だったのか、戦場に出てきても分からなかった。
 もし、祭壇が術式を成立する為に必要なものだったら……魔法的な施しが祭壇にあってもいいようなもの……。
 だが、憤怒祭壇自体に魔法的な物は、少なくともクレールには感じられなかった。
「憤怒歪虚が寄り集まっているから、核も無いという話みたいです」
 疑問の表情を浮かべるクレールに通りがかったユリアンが会話に入ってきた。
 浄化班の符術師の話によると、憤怒祭壇自体はいわば、歪虚の集合体のようなもの……らしい。
「憤怒――ツォーン――自体が動物あるいは植物の集合体のような形状を取る歪虚群ですね」
 ハルバートの汚れを拭き取りながら悠が静かに言った。
 つまり、憤怒祭壇は歪虚そのものともいえるだろう。
 戦闘が物足りなかった様子のシオンが淡々とした表情で祭壇があった場所を見つめる。
「寄り集まって、逆に弱くなってるんじゃ、話にならないな」
「動かない標的じゃ、まるで、壊してくれっていってるようなもんだしな」
 云々とボルディアがシオンの言葉に同意しながら言う。
 あれなら、別個に存在していた方が、まだ戦力となっていただろう。憤怒祭壇は終始、散発的な反撃してしてこなかった。
 歪虚側は浄化班を逃さないのか、それとも、祭壇を守るのか、ハンターを攻撃するべきなのか、統率に掛けていた様子も見られた。
「実は壊して欲しかったとかだったりして」
 リラの何気ない言葉に、真が真剣な表情を浮かべる。
 彼女の言葉は意外と核心に近いかもしれないと思ったからだ。
「もし、そうだとしたら、守っていた憤怒歪虚や雑魔の動きとは違いますね」
 壊すつもりなら戦力を温存する戦術を取るだろうし、そもそも、ハンターに祭壇を壊させる意味も分からない。
「……真の目的が別にあって、ここに居た歪虚はそれを知らなかった可能性もあるって事か……」
 ざくろが首を傾げながら呟いた。歪虚らしいといえば、それも歪虚らしいが。
 ヒューとジェスターが口笛を鳴らす。もし、これが陰謀だったとしたら、何か途轍もない事が起こりそうだ。
「欺くのは味方からっていうしな」
「穏やかではないのぅ」
 長い桃色の髪を細い指で巻きながら蜜鈴がそんな感想を口にする。
 作戦は成功したというのに、ハンター達の胸に危機感が去来していた。
「急いで戻りましょう。きっと、これで終わりという事はないはずです」
 アリアの台詞に一行は頷いた。
 これだけの規模で憤怒残党が動いたのだから、このままで終わるとは思えないからだ。

 ソリの力で空を飛んでいた歩夢は敵の動きを逐一、仲間に連絡していた。
 効率的な殲滅が出来ていたのはその情報も役に立っていたが、歩夢は別の事にも気が付いた。
「……なんだ? 負のマテリアルか?」
 仲間達が倒した歪虚や雑魔。それらが倒された際、残滓のようなものが消え飛ぶのだが、霞となって消える以外に、遠くに飛翔していくのが見えたからだ。
 方角は天ノ都――その先まで分からないが。
「光……負のマテリアルが放っているのか!?」
 彼が驚くも無理もない。祭壇を頂点として負のマテリアルが線となって大地に伸びていたのだ。
 空に上がらなければ見る事は出来なかっただろう。
「そうか、これが五芒星術式……という事か」
 歩夢は天ノ都の方角を不安そうに見つめたのであった。


 ハンター達は、憤怒祭壇の破壊と浄化班の救出を成し遂げた。
 また、天ノ都の南方に現れた強力な歪虚とも接触。貴重な情報を持ち帰ったのだった。


 おしまい。

依頼結果

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MVP一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 真実を照らし出す光
    歩夢ka5975
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介ka6053
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウスka6424

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • Braveheart
    ジェスター・ルース=レイス(ka7050
    ドラグーン|14才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談の場
鹿東 悠(ka0725
人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/01/13 22:22:11
アイコン 【憤怒】
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/01/16 21:23:23
アイコン 【祭壇】
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/01/16 00:46:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/14 12:07:21